説明

車両およびその制御方法並びに制動装置

【課題】制動時に電動機による制動力と機械ブレーキによる制動力との協調がスムーズに行なわれるようにしてトルクショックが生じないようにする。
【解決手段】制動時には、バッテリの入力制限WinとブレーキペダルポジションBPとに基づいて下限制限Tm2min,Tm3minを設定し(S190)、設定した下限制限Tm2min,Tm3minによってモータMG2,MG3から出力する回生トルクを制限する(S220)。これにより、車速が小さくなったときにモータMG2,MG3から出力する回生トルクの急変に対して油圧ブレーキの追従ができないことによる過剰な制動力の出力やトルクショックを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両およびその制御方法並びに制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両としては、前輪を駆動可能な前輪用モータMGfと、後輪を駆動可能な後輪用モータMGrと、この二つのモータMGf,MGrと電力のやりとりが可能なバッテリとを備え、制動力が要求されたときには、バッテリの充電制限値の範囲内で二つのモータMGf、MGrを駆動するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、制動時には、まず、駆動頻度が低い後輪用モータMGrの回生用のトルク指令をバッテリの充電制限値の範囲内で設定し、その後、設定した後輪用モータMGrのトルク指令とバッテリの充電制限値とを用いた制限下で前輪用モータMGfの回生用のトルク指令を設定して、前輪用モータMGfと後輪用モータMGrとを回生制御する。これにより、駆動頻度が高い前輪用モータMGfの発熱を抑制している。
【特許文献1】特開2002−345105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の車両のような電動車両では、制動力を作用させるものとしては駆動用のモータだけでなく、通常は、油圧駆動の機械ブレーキを搭載しており、モータを回生制御することによって作用させることができる制動力では不足するときには機械ブレーキを作動させて所望の制動力が得られるようになっている。そして、停車するときにトルクショックが生じるのを抑制するために停車する前にモータによる制動力を機械ブレーキによる制動力に置き換えている。このとき、上述した車両のように、バッテリの充電制限値だけでモータのトルク指令を設定すると、低車速ではモータの回転数が小さいためにモータから大きな回生トルクが出力されるようモータが制御される一方、油圧駆動にある程度時間を要することから、モータによる制動力と機械ブレーキによる制動力との協調をスムーズに行なうことができず、トルクショックが生じる場合がある。この現象は、バッテリの充電制限が厳しいときに顕著に生じる。
【0004】
本発明の車両およびその制御方法並びに制動装置は、制動時にトルクショックが生じないようにすることを目的の一つとする。また、本発明の車両およびその制御方法並びに制動装置は、電動機による制動力と機械ブレーキによる制動力との協調がスムーズに行なわれるようにすることを目的の一つとする。さらに、本発明の車両およびその制御方法並びに制動装置は、制動時により多くの運動エネルギを電力に回生することによるエネルギ効率の向上を図ることを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両およびその制御方法並びに制動装置は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の車両は、
油圧作動により制動力を付与する制動力付与手段と、
回生トルクを出力可能な少なくとも一つの電動機と、
前記電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段と、
前記電動機の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記蓄電手段の状態に基づいて該蓄電手段を充電する際の許容最大電力としての入力制限を設定する入力制限設定手段と、
車両に要求された制動要求を検出する制動要求検出手段と、
前記検出された制動要求と前記設定された入力制限とに基づいて前記電動機から出力する回生トルクの下限値としての下限回生トルクを設定する下限回生トルク設定手段と、
前記検出された電動機の回転数に基づく該電動機の定格トルクと前記設定された入力制限と前記設定された下限回生トルクの範囲内で前記電動機から回生トルクが出力されると共に前記検出された制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御する制動制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明の車両では、車両に要求された制動要求と蓄電手段の状態に基づいて設定された蓄電手段を充電する際の許容最大電力としての入力制限とに基づいて電動機から出力する回生トルクの下限値としての下限回生トルクを設定し、電動機の回転数に基づく電動機の定格トルクと蓄電手段の入力制限と下限回生トルクとの範囲内で電動機から回生トルクが出力されると共に制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう電動機と制動力付与手段とを制御する。これにより、電動機からの回生トルクを蓄電手段の入力制限と制動要求とに基づいて設定される下限回生トルクに制限することができ、電動機の回転数が小さくなったときでも下限回生トルクを超える小さな(絶対値としては大きな)回生トルクが電動機から出力されるのを抑止することができる。この結果、電動機の回転数が小さくなったときでも電動機による制動力と制動力付与手段による制動力との協調をスムーズに行なうことができ、電動機による制動力と制動力付与手段による制動力との協調をスムーズに行なうことができないことによって生じるトルクショックを抑制することができる。もとより、電動機による回生トルクの出力により車両の運動エネルギを電力に回生するから、車両のエネルギ効率を向上させることができる。ここで、制動要求としては、操作者のブレーキペダルの操作量やこれに関連する物理量、例えば踏力やブレーキ圧,ブレーキの作用による車両の減速度などを用いることができる。なお、下限回生トルクは、回生時のトルクを負の値としている。
【0008】
こうした本発明の車両において、前記下限回生トルク設定手段は前記設定された入力制限の絶対値が小さいほど絶対値が小さくなる傾向に下限回生トルクを設定する手段であるものとすることもできるし、前記下限回生トルク設定手段は前記検出された制動要求が大きいほど絶対値が小さくなる傾向に下限回生トルクを設定する手段であるものとすることもできる。このように下限回生トルクを設定することにより、蓄電手段の入力制限や制動要求に応じて電動機の回生トルクを設定することができる。
【0009】
また、本発明の車両において、前記制動制御手段は、前記電動機の定格トルクと前記設定された入力制限と前記設定された下限回生トルクとの範囲内で最も大きな(絶対値としては小さな)回生トルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を制御すると共に前記検出された制動要求に応じた駆動力と前記電動機から出力される回生トルクによる制動力との差分の制動力が前記制動力付与手段から付与されるよう該制動力付与手段を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、車両の運動エネルギのより多くを電力として回生することができる。
【0010】
さらに、本発明の車両において、前記制動制御手段は、前記回転数検出手段により検出された回転数が所定回転数以上のときには前記電動機の定格トルクと前記設定された入力制限に基づく入力制限トルクと前記設定された下限回生トルクとの範囲内で前記電動機から回生トルクが出力されると共に前記検出された制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御し、前記回転数検出手段により検出された回転数が前記所定回転数未満のときには前記電動機から回生トルクが出力されず前記検出された制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、電動機が停止する際に生じ得るトルクショックを抑制することができる。
【0011】
また、本発明の車両において、前記電動機は、異なる車軸に接続された複数の電動機であるものとすることもできる。この場合、前記下限回生トルク設定手段は前記複数の電動機毎に下限回生トルクを設定する手段であり、前記制動制御手段は前記複数の電動機毎の定格トルクと前記設定された入力制限と前記複数の電動機毎に設定された下限回生トルクとの範囲内で前記複数の電動機から各々回生トルクが出力されるよう制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、各電動機からの回生トルクを蓄電手段の入力制限と制動要求とに基づいて設定される下限回生トルクと各電動機の定格トルクに制限することができ、各電動機の回転数が小さくなったときでも各電動機から大きな回生トルクが出力されるのを抑止することができる。この結果、各電動機による制動力と制動力付与手段による制動力との協調をスムーズに行なうことができ、いずれかの電動機による制動力と制動力付与手段による制動力との協調をスムーズに行なうことができないことによって生じるトルクショックを抑制することができる。
【0012】
本発明の制動装置は、
移動体に制動力を作用させる制動装置であって、
油圧作動により制動力を付与する制動力付与手段と、
回生トルクを出力可能な少なくとも一つの電動機と、
前記電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段と、
前記電動機の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記蓄電手段の状態に基づいて該蓄電手段を充電する際の許容最大電力としての入力制限を設定する入力制限設定手段と、
移動体に要求された制動要求を検出する制動要求検出手段と、
前記検出された制動要求と前記設定された入力制限とに基づいて前記電動機から出力する回生トルクの下限値としての下限回生トルクを設定する下限回生トルク設定手段と、
前記検出された電動機の回転数に基づく該電動機の定格トルクと前記設定された入力制限と前記設定された下限回生トルクとの範囲内で前記電動機から回生トルクが出力されると共に前記検出された制動要求に応じた制動力が移動体に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御する制動制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0013】
この本発明の制動装置では、移動体に要求された制動要求と蓄電手段の状態に基づいて設定された蓄電手段を充電する際の許容最大電力としての入力制限とに基づいて電動機から出力する回生トルクの下限値としての下限回生トルクを設定し、電動機の回転数に基づく電動機の定格トルクと蓄電手段の入力制限と下限回生トルクの範囲内で電動機から回生トルクが出力されると共に制動要求に応じた制動力が移動体に作用するよう電動機と制動力付与手段とを制御する。これにより、電動機からの回生トルクを蓄電手段の入力制限と制動要求とに基づいて設定される下限回生トルクに制限することができ、電動機の回転数が小さくなったときでも下限回生トルクを超える小さな(絶対値としては大きな)回生トルクが電動機から出力されるのを抑止することができる。この結果、電動機の回転数が小さくなったときでも電動機による制動力と制動力付与手段による制動力との協調をスムーズに行なうことができ、電動機による制動力と制動力付与手段による制動力との協調をスムーズに行なうことができないことによって生じるトルクショックを抑制することができる。もとより、電動機による回生トルクの出力により車両の運動エネルギを電力に回生するから、移動体のエネルギ効率を向上させることができる。なお、下限回生トルクは、回生時のトルクを負の値としている。
【0014】
本発明の車両の制御方法は、
油圧作動により制動力を付与する制動力付与手段と、回生トルクを出力可能な少なくとも一つの電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段と、を備える車両の制御方法であって、
車両に要求された制動要求と前記蓄電手段を充電する際の許容最大電力としての入力制限とに基づいて前記電動機から出力する回生トルクの下限値としての下限回生トルクを設定すると共に前記電動機の回転数に基づく該電動機の定格トルクと前記入力制限と前記設定した下限回生トルクとの範囲内で前記電動機から回生トルクが出力されると共に前記制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御する、
ことを特徴とする。
【0015】
この車両の制御方法では、車両に要求された制動要求と蓄電手段を充電する際の許容最大電力としての入力制限とに基づいて電動機から出力する回生トルクの下限値としての下限回生トルクを設定し、電動機の回転数に基づく電動機の定格トルクと入力制限と下限回生トルクとの範囲内で電動機から回生トルクが出力されると共に制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう電動機と制動力付与手段とを制御する。これにより、電動機からの回生トルクを蓄電手段の入力制限と制動要求とに基づいて設定される下限回生トルクに制限することができ、電動機の回転数が小さくなったときでも下限回生トルクを超える小さな(絶対値としては大きな)回生トルクが電動機から出力されるのを抑止することができる。この結果、電動機の回転数が小さくなったときでも電動機による制動力と制動力付与手段による制動力との協調をスムーズに行なうことができ、電動機による制動力と制動力付与手段による制動力との協調をスムーズに行なうことができないことによって生じるトルクショックを抑制することができる。もとより、電動機による回生トルクの出力により車両の運動エネルギを電力に回生するから、車両のエネルギ効率を向上させることができる。ここで、制動要求としては、操作者のブレーキペダルの踏み込み量やこれに関連する物理量、例えば踏力やブレーキ圧,ブレーキの作用による車両の減速度などを用いることができる。なお、下限回生トルクは、回生時のトルクを負の値としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続されると共にギヤ機構60,デファレンシャルギヤ61を介して前輪62a,62bに接続された減速ギヤ35と、減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、デファレンシャルギヤ63を介して後輪64a,64bに接続されたモータMG3と、車両の駆動系全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0018】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0019】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32には駆動軸としてのリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ61を介して、最終的には前輪62a,62bに出力される。
【0020】
モータMG1,MG2,MG3は、いずれも発電機として駆動できると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42,43を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42,43とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42,43が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2,MG3のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2,MG3のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2,MG3により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2,MG3は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2,MG3の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ44,45,46からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2,MG3に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42,43へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2,MG3を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2,MG3の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0021】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度などが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0022】
前輪62a,62bおよび後輪64a,64bの各車輪には、ブレーキアクチュエータ68からの油圧により作動する油圧ブレーキが取り付けられている。ブレーキアクチュエータ68からの油圧の調節は、ブレーキECU69による駆動制御により行なわれている。このブレーキECU69には、車輪速センサ69aにより検出される前輪62a,62bの車輪速Vfl,Vfr,後輪64a,64bの車輪速Vrl,Vrrが図示しない入力ポートを介して入力されており、ブレーキECU69からはブレーキアクチュエータ68への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、ブレーキECU69は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりブレーキアクチュエータ68を駆動制御すると共に必要に応じてブレーキアクチュエータ68の状態や前輪62a,62bおよび後輪64a,64bの状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0023】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52,ブレーキECU69と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52,ブレーキECU69と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0024】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力により走行するように、エンジン22とモータMG1,MG2,MG3とが運転制御される。エンジン22とモータMG1,MG2,MG3の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2およびモータMG3のいずれか又は両方とによってトルク変換されて出力されるようモータMG1とモータMG2とモータMG3とを駆動制御するトルク変換運転モードや、要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2およびモータMG3のいずれか又は両方とによるトルク変換を伴って要求動力が出力されるようモータMG1とモータMG2とモータMG3とを駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2およびモータMG3のいずれか又は両方から要求動力に見合う動力がに出力されるよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0025】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれたときの制動時の動作について説明する。図2は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される制動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、8msec毎)に繰り返し実行される。
【0026】
制動時制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、ブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBPや車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2,MG3の回転数Nm1,Nm2,Nm3,バッテリ50の入出力制限Win,Wout,後輪要求分配比Drなどのデータを入力する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2,MG3の回転数Nm1,Nm2,Nm3は、回転位置検出センサ44,45,46により検出される回転位置に基づいて各々演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。また、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサにより検出されたバッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の残容量(SOC)に基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。図3に電池温度Tbと入出力制限Win,Woutとの関係の一例を示し、図4にバッテリ50の残容量(SOC)と入出力制限Win,Woutの補正係数との関係の一例を示す。後輪要求分配比Drは、前輪62a,62b側に出力するトルクと後輪64a,64b側に出力するトルクとの和に対する後輪64a,64b側に出力するトルクの割合を要求するものとして図示しない後輪要求分配比設定処理により設定されたものをブレーキECU69から通信により入力するものとした。なお、実施例の後輪要求分配比設定処理では、後輪要求分配比Drは、車速Vや後述する図2のステップS110で設定される要求制動トルクT*(駆動時には要求駆動トルク),車輪速センサ69aからの車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrr等に基づいてスリップが発生しているか否か、発進時あるいは急加速時か否か、減速走行時か否かを判定し、いずれでもないと判定したときには値0を、スリップが発生していると判定したときにはスリップ時用の値を、発進時あるいは急加速時と判定したときには発進・急加速時用の値を、減速走行時と判定したときには減速走行時用の値を、それぞれ設定することにより行なわれる。減速走行時用の後輪要求分配比DrとしてはモータMG2とモータMG3とによる回生制御により減速走行する際により多くの電気エネルギを取り出すことができるように例えば0.5や0.4などを用いることができる。
【0027】
続いて、入力したブレーキペダルポジションBPと車速Vとに基づいて車両全体に要求される要求制動トルクT*を設定する処理を行なう(ステップS110)。要求制動トルクT*は、実施例では、ブレーキペダルポジションBPと車速Vと要求トルクT*との関係を予め求めて要求制動トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、ブレーキペダルポジションBPと車速Vとが与えられるとマップから対応する要求制動トルクT*を導出することにより設定するものとした。要求制動トルク設定用マップの一例を図5に示す。
【0028】
そして、ステップS100で入力した後輪要求分配比Drに対して次式(1)によりなまし処理を施したものを後輪実行分配比Dr*に設定すると共に(ステップS120)、値1から後輪要求分配比Drを減じた前輪要求分配比(=1−Dr)に対して式(1)と同一の時定数を定めた次式(2)によりなまし処理を施したものを前輪実行分配比Df*に設定する(ステップS130)。このように、後輪要求分配比Drの変化に対してなまし処理を施して後輪実行分配比Dr*(前輪実行分配比Df*)を設定することにより、後輪要求分配比Drが急変しても後輪実行分配比Dr*(前輪実行分配比Df*)が急変するのを抑制することができる。ここで、前輪62a,62b側へのトルクの出力応答性と後輪64a,64b側へのトルクの出力応答性が完全に一致するものとすれば、後輪実行分配比Dr*(前輪実行分配比Df*)が急変したとしても車両には要求トルクT*を出力することができるが、エンジン22やモータMG1,MG2,MG3の各出力応答性を考慮すれば、実際には、前輪62a,62b側へのトルクの出力応答性と後輪64a,64b側への出力応答性との間にはズレがあるから、後輪実行分配比Dr*(前輪実行分配比Df*)を急変させると、車両にショックが生じる場合がある。このことを考慮して後輪要求分配比Drの変化に対してなまし処理を施して後輪実行分配比Dr*(前輪実行分配比Df*)設定しているのである。ここで、式(1)および式(2)中の「k」は、時定数であり、値0〜値1の範囲で定められる。したがって、前輪実行分配比Df*は値1から後輪実行分配比Dr*を減じたものとして計算することもできる。
【0029】
Dr*=k・前回Dr*+(1-k)・Dr …(1)
Df*=k・前回Df*+(1-k)・(1-Dr) …(2)
【0030】
こうして後輪実行分配比Dr*と前輪実行分配比Df*とを設定すると、設定した後輪実行分配比Dr*と前輪実行分配比Df*とにそれぞれ要求制動トルクT*を乗じて後輪トルクTr*と前輪トルクTf*とを設定し(ステップS140)、エンジン22の目標回転数Ne*に車速Vに応じた回転数を設定すると共にエンジン22の目標トルクTe*に値0を設定し(ステップS150)、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定する(ステップS160)。ここで、エンジン22の目標回転数Ne*として車速Vに応じた回転数を設定するのは、アクセルペダル83が踏み込まれたときに迅速にエンジン22から必要なパワーを出力するためである。なお、車速Vに応じた回転数としては、車速Vが大きいほど大きな回転数を用いることができる。
【0031】
次に、車速VをモータMG2やモータMG3の回生制御を終了するための閾値Vrefと比較する(ステップS170)。閾値Vrefとしては5km/hや10km/hなどを用いることができる。
【0032】
車速Vが閾値Vref以上のときには、モータMG2の回転数Nm2に基づいてこの回転数Nm2のときにモータMG2から出力可能な回生トルクの最大値(回生時の符号を負とすれば最小値)としてのモータMG2の定格回生トルクTm2limを導出すると共にモータMG3の回転数Nm3に基づいてこの回転数Nm3のときにモータMG3の定格回生トルクTm3limを導出する(ステップS180)。定格回生トルクTm2lim,Tm3limの導出は、実施例では、モータMG2,MG3の回転数Nm2,Nm3とモータMG2,MG3の定格回生トルクTm2lim,Tm3limとの関係を予め定格回生トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、モータMG2,MG3の回転数Nm2,Nm3が与えられるとマップから対応する定格回生トルクTm2lim,Tm3limを導出することにより行なうものとした。モータの定格回生トルクの一例を図6に示す。
【0033】
続いて、バッテリ50の入力制限WinとブレーキペダルポジションBPとに基づいてモータMG2,MG3から出力してもよいトルクの下限値として下限制限Tm2min,Tm3minを設定すると共に(ステップS190)、バッテリ50の入力制限Winに基づいて入力制限WinによるモータMG2,MG3のトルクの制限(入力制限トルク)Tm2Win,Tm3Winを設定する(ステップS200,S210)。下限制限Tm2min,Tm3minは、実施例では、入力制限WinとブレーキペダルポジションBPと下限制限Tm2min,Tm3minとの関係を予め定めて下限制限設定用マップとしてROM74に記憶しておき、入力制限WinとブレーキペダルポジションBPとが与えられるとマップから対応する下限制限Tm2min,Tm3minを導出することにより設定するものとした。入力制限Winと下限制限Tmin(Tm2min,Tm3min)との関係の一例を図7に示し、ブレーキペダルポジションBPと下限制限Tmin(Tm2min,Tm3min)との関係の一例を図8に示す。実施例では、図7に示すように、入力制限Winの絶対値が大きくなるほど(値としては小さくなるほど)、下限制限Tminの絶対値が大きくなるように(値として小さくなるように)、下限制限Tminが設定され、図8に示すように、ブレーキペダルポジションBPが大きくなるほど下限制限Tminの絶対値が大きくなるように(値として小さくなるように)、下限制限Tminが設定される。入力制限トルクTm2Win,Tm3Winは、モータMG2,MG3の回生側の定格値などにより効率よくモータMG2,MG3により電力を回生する分配比kmによってバッテリ50の入力制限Winを分配してモータ入力制限Win2,Win3を計算し(ステップS200)、計算したモータ入力制限Win2,Win3をモータMG2,MG3の回転数Nm2,Nm3で除したもの(ステップS210)、として設定することができる。
【0034】
次に、前輪トルクTf*を前輪62a,62bに対するモータMG2の回転数の比としてのギヤ比G2で除した値と定格回生トルクTm2limと下限制限Tm2minと入力制限トルクTm2Winとのうち最も大きな値(絶対値としては小さな値)をモータMG2のトルク指令Tm2*として設定すると共に後輪トルクTr*を後輪64a,64bに対するモータMG3の回転数の比としてのギヤ比G3で除した値と定格回生トルクTm3limと下限制限Tm3minと入力制限トルクTm3Winのうち最も大きな値(絶対値としては小さな値)をモータMG3のトルク指令Tm3*として設定し(ステップS220)、前輪トルクTf*からモータMG2のトルク指令Tm2*にギヤ比G2を乗じたものを減じた値として油圧ブレーキにより前輪62a,62bに作用させるべきトルクとしてのブレーキトルク指令Tbf*を設定すると共に後輪トルクTr*からモータMG3のトルク指令Tm3*にギヤ比G3を乗じたものを減じた値として油圧ブレーキにより前輪64a,64bに作用させるべきトルクとしてのブレーキトルク指令Tbr*を設定する(ステップS230)。そして、目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、トルク指令Tm1*,Tm2*,Tm3*についてはモータECU40に、ブレーキトルク指令Tbf*,Tbr*についてはブレーキECU69にそれぞれ送信して(ステップS280)、本ルーチンを終了する。目標回転数Ne*と値0の目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*で自立運転するようエンジン22における吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などの制御を行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*,Tm3*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*のトルク(即ち値0)がモータMG1から出力されると共にトルク指令Tm2*のトルクがモータMG2から出力され、トルク指令Tm3*のトルクがモータMG3から出力されるようインバータ41,42,43のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。ブレーキトルク指令Tbf*,Tbr*を受信したブレーキECU69は、前輪62a,62bにブレーキトルク指令Tbf*に相当する制動力が作用すると共に前輪64a,64bにブレーキトルク指令Tbr*に相当する制動力が作用するようブレーキアクチュエータ68を制御する。これにより、モータMG2とモータMG3とを回生制御することよる制動力と油圧ブレーキによる制動力とによって要求制動トルクT*に相当する制動力を前輪62a,62bや後輪64a,64bに作用させることができる。
【0035】
ステップS170で車速Vが閾値Vref未満であると判定されると、モータMG2とモータMG3とを回生制御することによる制動力のすべてを油圧ブレーキによる制動力に置き換える制動トルク置換処理が終了しているか否かを判定し(ステップS240)、制動トルク置換処理が終了していないときには、制動トルク置換処理を実行し(ステップS250)、制動トルク置換処理により設定されるトルク指令Tm2*,Tm3*やブレーキトルク指令Tbf*,Tbr*を含めて設定値をエンジンECU24やモータECU40,ブレーキECU69に送信して(ステップS280)、本ルーチンを終了する。ここで、制動トルク置換処理は、実施例では、モータMG2のトルク指令Tm2*とモータMG3のトルク指令Tm3*を値0に近づくよう徐々に増加し、その分だけブレーキトルク指令Tbf*,Tbr*を減少させる(絶対値としては増加させる)ことにより行なわれる。この制動トルク置換処理は、本発明の中核をなさないので、これ以上の詳細な説明は省略する。こうした制御により、モータMG2とモータMG3とを回生制御することによる制動力のすべてを油圧ブレーキによる制動力に置き換えている最中でもモータMG2とモータMG3とを回生制御することよる制動力と油圧ブレーキによる制動力とによって要求制動トルクT*に相当する制動力を前輪62a,62bや後輪64a,64bに作用させることができる。
【0036】
ステップS240で制動トルク置換処理が終了している判定されると、モータMG2のトルク指令Tm2*とモータMG3のトルク指令Tm3*とに値0を設定し(ステップS260)、前輪トルクTf*を前輪62a,62bのブレーキトルク指令Tbf*に設定すると共に後輪トルクTr*を後輪64a,64bのブレーキトルク指令Tbr*に設定し(ステップS270)、設定値をエンジンECU24やモータECU40,ブレーキECU69に送信して(ステップS280)、本ルーチンを終了する。これにより油圧ブレーキによる制動力によって要求制動トルクT*に相当する制動力を前輪62a,62bや後輪64a,64bに作用させることができると共に停車時にトルクショックが生じるのを抑制することができる。
【0037】
いま、バッテリ50の入力制限Winの絶対値が小さく(値としては大きく)、ブレーキペダル85が比較的大きく踏み込まれたときを考える。このときのモータMG2の回転数Nm2とトルク指令Tm2*とブレーキトルク指令Tbf*との関係の一例を図9に示す。図中、実線がトルク指令Tm2*を示し、前輪トルクTf*をギヤ比G2で除した値とトルク指令Tm2*との差分が前輪62a,62bのブレーキトルク指令Tbf*を示す。バッテリ50の入力制限Winの絶対値が小さい状態では、モータMG2,MG3の下限制限Tm2min,Tm3minは比較的大きく(絶対値としては小さく)設定される。車速Vが大きく、モータMG2,MG3の回転数Nm2,Nm3が大きいときには、下限制限Tm2min,Tm3minよりも入力制限トルクTm2Win,Tm3Win(図中、Win2=一定の曲線上の対応ポイント)の方が大きく(絶対値としては小さく)設定されるから、この入力制限トルクTm2Win,Tm3Winがトルク指令Tm2*,Tm3*に設定され、モータMG2,MG3が駆動制御される。車速Vが小さくなると、モータMG2,MG3の回転数Nm2,Nm3も小さくなり、これに応じて入力制限トルクTm2Win,Tm3Winも小さく(絶対値としては大きく)設定されるようになる。このため、入力制限トルクTm2Win,Tm3Winと下限制限Tm2min,Tm3minとのうち大きい方(絶対値としては小さい方)がトルク指令Tm2*,Tm3*に設定され、モータMG2,MG3が駆動制御される。車速Vが小さくなって閾値Vrefに至ると(図中、Vref・G2の回転数)、制動トルク置換処理が実行されてモータMG2,MG3による制動力は油圧ブレーキによる制動力に置き換えられる。一方、下限制限Tm2min,Tm3minによるトルク制限のない比較例を考えると、車速Vが小さくなって閾値Vrefに至るまでモータ入力制限Win2,Win3が一定の曲線上のポイントとしての入力制限トルクTm2Win,Tm3Winがトルク指令Tm2*,Tm3*に設定されて、モータMG2,MG3が駆動制御される。車速Vが閾値Vrefに至る近傍の状態では、車速Vの変化に対して入力制限トルクTm2Win,Tm3Winが急激に小さく(絶対値としては大きく)なるため、トルク指令Tm2*,Tm3*も急激に小さくなり、その一方で、ブレーキトルク指令Tbf*,Tbr*は急激に大きく(絶対値としては小さく)なる。モータMG2,MG3の制御は、インバータ42,43のスイッチング素子のスイッチング制御によって行なわれるから、トルク指令Tm2*,Tm3*が急激な変化に十分に追従することができるが、油圧ブレーキの制御は、ブレーキアクチュエータ68の図示しないソレノイドへの電流デューティ比を変化させることによるコントロールバルブのバルブ操作とこのバルブ操作によってなされる作動オイルの流出入により行なわれるから、ブレーキトルク指令Tbf*,Tbr*が急激に変化すると、その変化に追従することができない場合が生じる。この場合、過剰な制動力が車両に付与されることになり、トルクショックを生じさせる。また、比較例では、車速Vが閾値Vrefに至って制動トルク置換処理が実行されると、置き換えるべきモータMG2,MG3による制動力(トルク指令Tm2*,Tm3*)が大きいため、ブレーキトルク指令Tbf*,Tbr*の変化を大きくする必要が生じ、これにより、一時的に要求制動トルクT*に応じた制動力から外れた制動力が車両に作用する場合が生じてしまう。このため、予期しない制動力が車両に作用することによる違和感を運転者に与えてしまう。実施例では、こうした不都合を回避するために、バッテリ50の入力制限WinとブレーキペダルポジションBPとに基づいて下限制限Tm2min,Tm3minを設定し、この下限制限Tm2min,Tm3minによってモータMG2,MG3から出力する回生トルクを制限しているのである。即ち、車速Vの変化に対する入力制限トルクTm2Win,Tm3Winの変化の程度が油圧ブレーキの制御によっても十分に追従できる程度に下限制限Tm2min,Tm3minを設定し、この下限制限Tm2min,Tm3minによってモータMG2,MG3から出力する回生トルクを制限することにより、油圧ブレーキの制御が追従できないことによる過剰な制動力の出力やこれによるトルクショック,停車前の制動トルク置換処理の際に生じ得る予期しない制動力の出力を抑制するのである。
【0038】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、制動時には、バッテリ50の入力制限WinとブレーキペダルポジションBPとに基づいて下限制限Tm2min,Tm3minを設定し、設定した下限制限Tm2min,Tm3minによってモータMG2,MG3から出力する回生トルクを制限することにより、車速Vが小さくなったときに生じる不都合、例えば、油圧ブレーキの制御が追従できないことによる過剰な制動力の出力される不都合やこれによるトルクショックが生じる不都合,停車前の制動トルク置換処理の際に生じ得る予期しない制動力の出力の不都合などを抑制することができる。この結果、モータMG2,MG3による制動力の付与と油圧ブレーキによる制動力の付与の協調をスムーズに行なうことができる。また、制動時に、より多くの車両の運動エネルギを電力に回生することができ、これにより車両のエネルギ効率の向上を図ることができる。
【0039】
実施例のハイブリッド自動車20では、制動時には、バッテリ50の入力制限WinとブレーキペダルポジションBPとに基づいて下限制限Tm2min,Tm3minを設定するものとしたが、ブレーキペダルポジションBPに代えて、運転者のブレーキペダル85の踏み込みの際の踏力や、図示しないブレーキマスタシリンダの圧力(ブレーキ圧)などを用いて下限制限Tm2min,Tm3minを設定するものとしてもよい。また、車両の減速度を用いて下限制限Tm2min,Tm3minを設定するものとしてもよい。
【0040】
実施例のハイブリッド自動車20では、車速Vが小さくなって閾値Vrefに至ったときには、制動トルク置換処理によりモータMG2,MG3による制動力を油圧ブレーキによる制動力に置き換えるものとしたが、こうした置き換えは行なわないものとしても構わない。
【0041】
実施例のハイブリッド自動車20では、制動時には、前輪実行分配比Df*と後輪実行分配比Dr*とによって要求制動トルクT*を前輪62a,62bと後輪64a,64bとに作用させる制動力を分配し、前輪トルクTf*に対してはモータMG2から回生トルクを出力し、後輪トルクTr*に対してはモータMG3から回生トルクを出力するものとしたが、前輪トルクTf*に対してはモータMG2から回生トルクを出力するが後輪トルクTr*に対してはモータMG3からは回生トルクを出力しないものとしたり、逆に、前輪トルクTf*に対してはモータMG2からは回生トルクを出力しないが後輪トルクTr*に対してはモータMG3から回生トルクを出力するものとしてもよい。この場合、回生トルクを出力するモータに対して入力制限トルクと下限トルクとを設定して制御すればよい。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20では、なまし処理を用いて後輪実行分配比Dr*(前輪実行分配比Df*)を設定するものとしたが、レート処理などの他の緩変化処理を用いて後輪実行分配比Dr*(前輪実行分配比Df*)を設定するものとしてもよい。
【0043】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22と動力分配統合機構30とモータMG1,MG2とを前輪62a,62b側に接続し、モータMG3を後輪64a,64b側に接続したが、エンジン22と動力分配統合機構30とモータMG1,MG2とを後輪64a,64b側に接続し、モータMG3を前輪62a,62b側に接続するものとしてもよい。
【0044】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力を動力分配統合機構30を介して前輪62a,62b側に出力するものとしたが、図10の変形例のハイブリッド自動車120に示すように、エンジン22のクランクシャフト26に接続されたインナーロータ132と前輪62a,62bに連結された駆動軸に接続されたアウターロータ134とを有し、電磁的な作用により電力と動力の入出力を伴ってエンジン22の動力の一部を前輪62a,62b側に出力する対ロータ電動機130を備えるものとしてもよい。
【0045】
この他、前輪側に動力を出力可能な電動機と後輪側に動力を出力可能な電動機とを備える他の如何なるタイプの自動車にも適用可能である。例えば、前輪側に動力を出力するエンジンと後輪側に動力を出力するモータとを備えるハイブリッド自動車に適用するものとしてもよいし、図11に例示するように、前輪62a,62b側に接続された発電可能なモータ230と、後輪64a,64b側に接続された発電可能なモータ240とを備える電気自動車220に適用するものとしてもよい。また、前輪側に動力を出力可能な電動機だけを備えるタイプの自動車としてもよいし、後輪側に動力を出力可能な電動機だけを備えるタイプの自動車としてもよい。これらの場合、前輪や後輪の車輪毎に電動機を備えるものとしても構わない。
【0046】
実施例では、本発明の一実施例としてハイブリッド自動車として説明したが、自動車以外の車両に適用するものとしてもよいし、車両以外の移動体に適用するものとしてもよい。また、こうした移動体に制動力を作用させる制動装置の形態としてもよいし、車両や制動装置の制御方法の形態としても構わない。
【0047】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、車両や制動装置の製造産業などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される制動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】バッテリ50における電池温度Tbと入出力制限Win,Woutとの関係の一例を示す説明図である。
【図4】バッテリ50の残容量(SOC)と入出力制限Win,Woutの補正係数との関係の一例を示す説明図である。
【図5】要求制動トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】モータの定格回生トルクの一例を示す説明図である。
【図7】入力制限Winと下限制限Tmin(Tm2min,Tm3min)との関係の一例を示す説明図である。
【図8】ブレーキペダルポジションBPと下限制限Tmin(Tm2min,Tm3min)との関係の一例を示す説明図である。
【図9】バッテリ50の入力制限Winの絶対値が小さくブレーキペダル85が比較的大きく踏み込まれたときのモータMG2の回転数Nm2とトルク指令Tm2*とブレーキトルク指令Tbf*との関係の一例を示す説明図である。
【図10】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図11】変形例の電気自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
【0050】
20,120 ハイブリッド自動車、220 電気自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42,43 インバータ、44,45,46 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 ギヤ機構、61,63 デファレンシャルギヤ、62a,62b 前輪、64a,64b 後輪、68 ブレーキアクチュエータ、69 ブレーキECU、69a 車輪速センサ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、130 対ロータ電動機、132 インナーロータ 134 アウターロータ、230,240 モータ、MG1,MG2,MG3 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧作動により制動力を付与する制動力付与手段と、
回生トルクを出力可能な少なくとも一つの電動機と、
前記電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段と、
前記電動機の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記蓄電手段の状態に基づいて該蓄電手段を充電する際の許容最大電力としての入力制限を設定する入力制限設定手段と、
車両に要求された制動要求を検出する制動要求検出手段と、
前記検出された制動要求と前記設定された入力制限とに基づいて前記電動機から出力する回生トルクの下限値としての下限回生トルクを設定する下限回生トルク設定手段と、
前記検出された電動機の回転数に基づく該電動機の定格トルクと前記設定された入力制限と前記設定された下限回生トルクとの範囲内で前記電動機から回生トルクが出力されると共に前記検出された制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御する制動制御手段と、
を備える車両。
【請求項2】
前記下限回生トルク設定手段は、前記設定された入力制限の絶対値が小さいほど絶対値が小さくなる傾向に下限回生トルクを設定する手段である請求項1記載の車両。
【請求項3】
前記下限回生トルク設定手段は、前記検出された制動要求が大きいほど絶対値が小さくなる傾向に下限回生トルクを設定する手段である請求項1または2記載の車両。
【請求項4】
前記制動制御手段は、前記電動機の定格トルクと前記設定された下限回生トルクの範囲内で最も大きな回生トルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を制御すると共に前記検出された制動要求に応じた駆動力と前記電動機から出力される回生トルクによる制動力との差分の制動力が前記制動力付与手段から付与されるよう該制動力付与手段を制御する手段である請求項1ないし3いずれか記載の車両。
【請求項5】
前記制動制御手段は、前記回転数検出手段により検出された回転数が所定回転数以上のときには前記電動機の定格トルクと前記設定された入力制限に基づく入力制限トルクと前記設定された下限回生トルクとの範囲内で前記電動機から回生トルクが出力されると共に前記検出された制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御し、前記回転数検出手段により検出された回転数が前記所定回転数未満のときには前記電動機から回生トルクが出力されず前記検出された制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御する手段である請求項1ないし4いずれか記載の車両。
【請求項6】
前記電動機は、異なる車軸に接続された複数の電動機である請求項1ないし5いずれか記載の車両。
【請求項7】
請求項6記載の車両であって、
前記下限回生トルク設定手段は、前記複数の電動機毎に下限回生トルクを設定する手段であり、
前記制動制御手段は、前記複数の電動機毎の定格トルクと前記設定された入力制限と前記複数の電動機毎に設定された下限回生トルクとの範囲内で前記複数の電動機から各々回生トルクが出力されるよう制御する手段である
車両。
【請求項8】
前記制動要求検出手段は、操作者のブレーキペダルの操作に関連する物理量を検出する手段である請求項1ないし7いずれか記載の車両。
【請求項9】
移動体に制動力を作用させる制動装置であって、
油圧作動により制動力を付与する制動力付与手段と、
回生トルクを出力可能な少なくとも一つの電動機と、
前記電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段と、
前記電動機の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記蓄電手段の状態に基づいて該蓄電手段を充電する際の許容最大電力としての入力制限を設定する入力制限設定手段と、
移動体に要求された制動要求を検出する制動要求検出手段と、
前記検出された制動要求と前記設定された入力制限とに基づいて前記電動機から出力する回生トルクの下限値としての下限回生トルクを設定する下限回生トルク設定手段と、
前記検出された電動機の回転数に基づく該電動機の定格トルクと前記設定された入力制限と前記設定された下限回生トルクとの範囲内で前記電動機から回生トルクが出力されると共に前記検出された制動要求に応じた制動力が移動体に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御する制動制御手段と、
を備える制動装置。
【請求項10】
油圧作動により制動力を付与する制動力付与手段と、回生トルクを出力可能な少なくとも一つの電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段と、を備える車両の制御方法であって、
車両に要求された制動要求と前記蓄電手段を充電する際の許容最大電力としての入力制限とに基づいて前記電動機から出力する回生トルクの下限値としての下限回生トルクを設定すると共に前記電動機の回転数に基づく該電動機の定格トルクと前記入力制限と前記設定した下限回生トルクとの範囲内で前記電動機から回生トルクが出力されると共に前記制動要求に応じた制動力が車両に作用するよう前記電動機と前記制動力付与手段とを制御する、
ことを特徴とする車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−203793(P2007−203793A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22457(P2006−22457)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】