説明

車両のサスペンション装置

【課題】単一の伸縮アクチュエータによりバネ下振動とバネ上振動の両者を効果的に抑制する。
【解決手段】車輪側に連結された係合部材20と、車輪側の係合部材20に対して相対的に上下方向に移動可能に係合され且つ車体側に連結された係合部材18とを有し、車輪側の係合部材20に対して車体側の係合部材18が相対的に上下方向に移動することにより全体として伸縮する伸縮アクチュエータ16と、車輪側および車体側の係合部材18,20のうち一方の係合部材18を駆動する駆動手段14と、駆動手段14に制御信号を送信することにより、伸縮アクチュエータ16の動作を制御する制御部50とを設け、制御信号を、伸縮アクチュエータ16を伸縮させるための低周波成分に、車輪側係合部材20と車体側係合部材18との間の摩擦抵抗を変化させるための高周波成分が重畳されてなる信号で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御信号に基づき伸縮する伸縮アクチュエータを備えた車両のサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両のサスペンション装置は、振動を吸収するスプリングと、スプリングの振動を減衰させるショックアブソーバとを有する。ショックアブソーバとして種々の伸縮アクチュエータを使用する技術が提案されており、例えば、特許文献1の技術では、ショックアブソーバとして、ボールねじとボールねじナットからなる伸縮アクチュエータが使用されている。かかる伸縮アクチュエータは、モータにより回転駆動されるボールねじが、ボールねじナットに対して螺進または螺退することにより、全体として伸縮するように構成されている。
【0003】
ところで、ショックアブソーバとして伸縮アクチュエータを使用するサスペンション装置に関して、車体の振動を積極的に抑制するように構成された所謂アクティブサスペンションが知られている。
【0004】
アクティブサスペンションの技術は大きく2つに分けられ、車体の振動を打ち消すように伸縮アクチュエータを伸縮させることで、車体の振動をより積極的に抑制する技術と、伸縮アクチュエータの減衰特性を適宜変化させることで、主として車輪から車体に伝わる振動を抑制する技術とが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−117209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記2つのアクティブサスペンションの技術のうち、前者の技術によれば、比較的低周波(1Hz程度)である車体側の振動(所謂バネ上の振動)については、効果的に振動を抑制することができるが、比較的高周波(10Hz程度)である車輪側の振動(所謂バネ下の振動)については、伸縮アクチュエータの伸縮動作が追従できず、効果的に振動を抑制することができない。
【0007】
一方、後者の技術によれば、伸縮アクチュエータの減衰特性が適宜調整されるため、比較的高周波のバネ下振動を効果的に抑制できるが、比較的低周波のバネ上振動を抑制する機能は有さない。
【0008】
また、バネ下振動とバネ上振動の両者を効果的に抑制するために、それぞれに対応する伸縮アクチュエータを個別に設けることも考えられるが、その場合、部材点数が増加して、コストの高騰を招いてしまう。
【0009】
そこで、本発明は、単一の伸縮アクチュエータによりバネ下振動とバネ上振動の両者を効果的に抑制することができる車両のサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願の第1の発明に係る車両のサスペンション装置は、
車輪側に連結された係合部材と、該車輪側の係合部材に対して相対的に上下方向に移動可能に係合され且つ車体側に連結された係合部材とを有し、前記車輪側の係合部材に対して前記車体側の係合部材が相対的に上下方向に移動することにより全体として伸縮する伸縮アクチュエータと、
前記車輪側および車体側の係合部材のうち一方の係合部材を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段に制御信号を送信することにより、前記伸縮アクチュエータの動作を制御する制御部と、を備えた車両のサスペンション装置であって、
前記制御信号は、前記伸縮アクチュエータを伸縮させるための低周波成分に、前記車輪側係合部材と前記車体側係合部材との間の摩擦抵抗を変化させるための高周波成分が重畳されてなる信号であることを特徴とする。
【0011】
本願の第2の発明に係る車両のサスペンション装置は、第1の発明において、
前記伸縮アクチュエータと、前記駆動手段と、車体の上下動を検出する車体上下動検出手段とが車輪毎に対応して設けられ、
前記制御部は、各車輪に関して、前記車体上下動検出手段により車体の上昇が検出され且つ前記伸縮アクチュエータが伸長しているとき、前記高周波成分の振幅を低減し、前記車体上下動検出手段により車体の上昇が検出され且つ前記伸縮アクチュエータが収縮しているとき、前記高周波成分の振幅を増大させ、前記車体上下動検出手段により車体の下降が検出され且つ前記伸縮アクチュエータが伸長しているとき、前記高周波成分の振幅を増大させ、前記車体上下動検出手段により車体の下降が検出され且つ前記伸縮アクチュエータが収縮しているとき、前記高周波成分の振幅を低減することを特徴とする。
【0012】
なお、本明細書において、「高周波成分の振幅を増大させる」ことには、「高周波成分の供給を開始する」ことを含むものとし、「高周波成分の振幅を低減させる」ことには、「高周波成分の供給を停止する」ことを含むものとする。
【0013】
本願の第3の発明に係る車両のサスペンション装置は、第1又は第2の発明において、
前記車両は、車輪の振動又は前記伸縮アクチュエータよりも車輪側の部分の振動を検出する車輪振動検出手段を備え、
前記制御部は、前記車輪振動検出手段により検出された振動の振幅が増大したとき、前記高周波成分の振幅を増大させ、前記車輪振動検出手段により検出された振動の振幅が減少したとき、前記高周波成分の振幅を低減させることを特徴とする。
【0014】
本願の第4の発明に係る車両のサスペンション装置は、第3の発明において、
前記車輪振動検出手段は、車輪に設けられた加速度センサにより検知された加速度に基づき振動を検出するか、又は、車体に設けられた複数の加速度センサにより検知された加速度に基づき測定された車体の挙動と前記伸縮アクチュエータの伸縮量とから求められる車輪の挙動に基づき振動を検出することを特徴とする。
【0015】
本願の第5の発明に係る車両のサスペンション装置は、第1〜第4の発明において、
前記車両は、車両旋回時のロールの発生を予測するロール予測手段、車両旋回時のロールの発生を検出するロール検出手段、又は、車両が所定の走行状態にあるか否かを検出する走行状態検出手段の少なくともいずれか1つを備え、
前記制御部は、前記ロール予測手段による予測、前記ロール検出手段による検出、又は、前記走行状態検出手段による検出の少なくともいずれか1つに応じて、車輪の接地力を変化させるように前記高周波成分の振幅を変化させることを特徴とする。
【0016】
本願の第6の発明に係る車両のサスペンション装置は、第5の発明において、
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記制御部は、前記ロール予測手段による予測または前記ロール検出手段による検出の少なくとも一方に応じて、乗り心地を向上させるための乗り心地向上制御として、全ての車輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減することを特徴とする。
【0017】
本願の第7の発明に係る車両のサスペンション装置は、第5又は第6の発明において、
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記制御部は、前記ロール予測手段による予測または前記ロール検出手段による検出の少なくとも一方に応じて、車両の旋回性を向上させるための旋回性向上制御として、車両の旋回軌道の径方向外側の前輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の前輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減し、前記径方向外側の後輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減させ、前記径方向内側の後輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大することを特徴とする。
【0018】
本願の第8の発明に係る車両のサスペンション装置は、第5〜第7の発明において、
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記制御部は、前記走行状態検出手段による検出に応じて、操縦安定性を向上させるための操縦安定性向上制御として、車両の旋回軌道の径方向外側の前輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減し、前記径方向内側の前輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向外側の後輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の後輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減することを特徴とする。
【0019】
本願の第9の発明に係る車両のサスペンション装置は、第5の発明において、
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記車両は、複数の運転モードの中からユーザが選択した運転モードを検出する運転モード検出手段、または車両が所定の走行状態にあるか否かを検出する走行状態検出手段の少なくとも一方を備え、
前記制御部は、
前記運転モード検出手段による検出または前記走行状態検出手段による検出の少なくとも一方に基づいて、
全ての車輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減する乗り心地向上制御と、
車両の旋回軌道の径方向外側の前輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の前輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減し、前記径方向外側の後輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の後輪について接地直を低減するように前記高周波成分の振幅を低減する旋回性向上制御と、
車両の旋回軌道の径方向外側の前輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減し、前記径方向内側の前輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向外側の後輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の後輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減する操縦安定性向上制御との中から、いずれか1つの制御を選択することを特徴とする。
【0020】
本願の第10の発明に係る車両のサスペンション装置は、第1〜第9の発明において、
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記車両は、ピッチングの発生を予測するピッチング予測手段を備え、
前記制御部は、前記ピッチング予測手段によりピッチングの発生が予測されたとき、全ての車輪について前記高周波成分の振幅を低減することを特徴とする。
【0021】
本願の第11の発明に係る車両のサスペンション装置は、第1〜第10の発明において、
前記駆動手段は、前記伸縮アクチュエータを伸縮させるように一方の前記係合部材を回転駆動する電気モータであることを特徴とする。
【0022】
本願の第12の発明に係る車両のサスペンション装置は、第11の発明において、
前記電気モータのトルクを検出するトルク検出手段を備え、
前記制御部は、前記トルク検出手段により検出されるトルクの定常成分の絶対値に応じて、前記高周波成分の振幅を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本願の第1の発明によれば、車輪側の係合部材と車体側の係合部材とからなる伸縮アクチュエータに送られる制御信号が、伸縮アクチュエータを伸縮させるための低周波成分に、車輪側及び車体側の係合部材間の摩擦抵抗を変化させるための高周波成分を重畳させて構成されるため、制御信号の低周波成分の振幅を制御することにより、比較的低周波である車体の振動(バネ上振動)を効果的に抑制することができ、制御信号の高周波成分の振幅を制御することにより、係合部材間の摩擦抵抗の変化に伴って伸縮アクチュエータの減衰特性が制御され、比較的高周波である車輪から車体に伝達される振動(バネ下振動)を効果的に抑制できる。すなわち、単一のアクチュエータにより、バネ上振動とバネ下振動の両者を有効に抑制することができる。
【0024】
本願の第2の発明によれば、各車輪について、伸縮アクチュエータの制御信号の高周波成分の振幅が、車体の上下動と伸縮アクチュエータの伸縮動作に応じて増減されるため、各伸縮アクチュエータの減衰特性を、車体挙動に応じて適宜調整することができる。そのため、制御信号の低周波信号の振幅も適宜制御することにより、あらゆる車体挙動に対応して、バネ下の振動とバネ上の振動の両者を効果的に抑制できる。
【0025】
本願の第3の発明によれば、車輪振動検出手段によりバネ下振動の振幅の増大が検出されたとき、制御信号の高周波成分の振幅を増大させることで、伸縮アクチュエータの係合部材間の摩擦抵抗を小さくすることができ、車輪振動検出手段によりバネ下の振動の振幅の減少が検出されたとき、制御信号の高周波成分の振幅を低減させることで、係合部材間の摩擦抵抗を大きくすることができる。このように、バネ下振動の振幅に応じて係合部材間の摩擦抵抗を調整することで、伸縮アクチュエータの減衰特性が適宜調整されて、バネ下振動を効果的に抑制することができる。
【0026】
本願の第4の発明によれば、車輪振動検出手段は、車輪の加速度センサにより検知された加速度に基づくか、又は車体の加速度センサにより検知された加速度と伸縮アクチュエータの伸縮量とから求められる車輪の挙動に基づいて、バネ下振動を簡易に検出することができる。
【0027】
本願の第5の発明によれば、ロール予測手段による予測、ロール検出手段による検出、又は走行状態検出手段による検出の少なくともいずれか1つに応じて、制御信号の高周波成分の振幅が変化し、これにより伸縮アクチュエータの係合部材間の摩擦抵抗の大きさが変化して、これに伴って車輪の接地力が変化する。そのため、車両のロール発生状況又は車両の走行状態に応じて、車輪の接地力を適切に制御することが可能である。
【0028】
本願の第6の発明によれば、ロール予測手段による予測又はロール検出手段による検出の少なくとも一方に応じて、全ての車輪について制御信号の高周波成分の振幅が低減されることで伸縮アクチュエータの係合部材間の摩擦抵抗が増大し、これにより全車輪の接地力が増大するため、乗員の乗り心地が向上する。
【0029】
本願の第7の発明によれば、ロール予測手段による予測又はロール検出手段による検出の少なくとも一方に応じて、車輪毎に制御信号の高周波成分の振幅が変化することで、伸縮アクチュエータ毎に係合部材間の摩擦抵抗の大きさが変化し、これにより車輪の接地力が車輪毎に低減または増大するため、車両の旋回性が向上する。
【0030】
本願の第8の発明によれば、走行状態検出手段による検出に応じて、車輪毎に制御信号の高周波成分の振幅が変化することで、伸縮アクチュエータ毎に係合部材間の摩擦抵抗の大きさが変化し、これにより車輪の接地力が車輪毎に増大または低減するため、操縦安定性が向上する。
【0031】
本願の第9の発明によれば、運転モード検出手段による検出、又は走行状態検出手段による検出の少なくとも一方に応じて、上記の乗り心地向上制御、旋回性向上制御または操縦性安定性向上制御の中から、ユーザの選択または走行状態に応じた最適な制御を選択することができる。
【0032】
本願の第10の発明によれば、車両の発進時、停止時、加速時または減速時等、ピッチングの発生が予測されるとき、全ての車輪について制御信号の高周波成分の振幅が低減されるため、全ての伸縮アクチュエータについて、係合部材間の摩擦抵抗の増大により挙動抵抗を増大させることができ、これによりピッチングを効果的に抑制することができる。
【0033】
本願の第11の発明によれば、伸縮アクチュエータを駆動する駆動手段が電気モータであるため、制御信号により電気モータの回転を制御することで、伸縮アクチュエータの伸縮動作を簡易に制御することができる。
【0034】
本願の第12の発明によれば、伸縮アクチュエータの伸縮状態の変化に伴い電気モータのトルクが変化しても、このトルクの定常成分の絶対値に応じて、制御信号の高周波成分の振幅が変化するため、制御信号の高周波成分による振動抑制効果を、伸縮アクチュエータの伸縮状態に関わらず常に安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
図1は、本発明の一実施形態に係るサスペンション装置を搭載した自動車1の概略構成図である。図1に示すように、自動車1は、車体2と、電磁サスペンション10を介して車体2に連結された複数の車輪4とを備えている。サスペンション10は、車輪4毎に設けられている。サスペンション10は、振動を吸収するコイルスプリング12と、コイルスプリング12の振動を減衰させるショックアブソーバとしての伸縮アクチュエータ16と、伸縮アクチュエータ16を駆動する駆動手段としての電気モータ14とを有する。
【0037】
図2を参照しながら、サスペンション10の具体的な構成について説明する。なお、以下の説明に際して、「バネ上」及び「バネ下」という用語を用いるが、「バネ上」とは、スプリング12により重量が支持される部分、すなわちスプリング12及びアクチュエータ16よりも車体2側の部分を指し、「バネ下」とは、スプリング12により重量が支持されない部分、すなわちスプリング12及びアクチュエータ16よりも車輪4側の部分を指すものとする。
【0038】
サスペンション10は、車体側取付け部材28を有する。車体側取付け部材28は、例えばボルト30を用いて車体2に固定されている。車体側取付け部材28の上部にはモータ14が取り付けられている。
【0039】
本実施形態において、伸縮アクチュエータ16は、車体側係合部材としてのボールねじ18と、車輪側係合部材としてのボールねじナット20とを有する。ボールねじ18は、モータ14の図示しない出力軸に対して一体に連なるか又はカップリングを介して連結されており、モータ14により回転駆動されるようにしてある。ボールねじナット20の内周面には、螺旋状のボール通路が形成されている。ボールねじナット20のボール通路内には、複数のボール22が循環するように設けられており、ボールねじ18は、ボールねじナット20に対してボール22を介して螺合している。ボールねじ18は、モータ14により回転駆動されると、ボールねじナット20に対して相対的に上下方向に移動し、これにより、アクチュエータ16が全体として伸縮する。ボールねじ18とボールねじナット20とは、ボール22を介することによって摩擦抵抗が小さい状態で互いに係合されているため、回転運動と直進運動が相互に効率的に変換される。
【0040】
なお、本実施形態では、ボールねじ18がモータ14により駆動されるようにしてあるが、ボールねじナット20がモータ14により駆動されるようにしてもよい。
【0041】
ボールねじナット20の下端部には、上下方向に延びる円筒部材24が連結されており、円筒部材24は、ボールねじ18の下端部を収容可能となっている。円筒部材24の下端には、車幅方向に延びる略円筒状の車輪側取付け部材26が連結されている。車輪側取付け部材26は、車輪4に連結されて車幅方向に延びるシャフト40に外嵌されており、これにより、サスペンション10が車輪4側に連結されるようにしてある。
【0042】
スプリング12は、伸縮アクチュエータ16の外周を囲むようにして上下方向に伸縮可能に設けられている。スプリング12の上端は、車体側取付け部材28の下部に取り付けられた上側スプリング支持部材32に固定されており、スプリング12の下端は、円筒部材24の外周面に取り付けられた下側スプリング支持部材34に固定されている。
【0043】
サスペンション10の動作は、自動車1の任意の位置に設けられた制御部50により制御される。
【0044】
図3に示すように、制御部50は、各車輪4に対応するサスペンション10、具体的にはサスペンション10のモータ14に電気的に接続されており、制御部50から出力された制御信号がモータ14へ送られるようにしてある。制御部50からモータに制御信号が送られると、制御信号に基づきモータ14が駆動されてサスペンション10が作動する。
【0045】
また、制御部50には、自動車1の所定位置に設けられた各種センサ等の機器が接続され、それらの機器から送られる信号が制御部50に入力されるようにしてある。具体的には、例えば、車輪4の上方の車体部分における上下方向の加速度を検知する車体加速度センサ80と、車体2の所定位置における車両前後方向の加速度を検知する車体加速度センサ82と、車輪4における上下方向の加速度を検知する車輪加速度センサ84と、車両の旋回方向の角速度を検知するヨーレートセンサ86と、操舵角を検知する操舵角センサ88と、車両の走行速度を検知する車速センサ90と、路面の摩擦係数を検知する路面μセンサ92と、複数の運転モードの間でユーザにより切替操作される運転モードスイッチ94と、サスペンション10のモータ14に流れる電流を検知するための電流センサ96等が、制御部50に接続されている。車体加速度センサ80は車輪4毎に設けられている。各車体加速度センサ80は、車輪4の上方の車体部分に設けられ、車体2の上下動を検出する車体上下動検出手段として機能する。運転モードスイッチ94は、本実施形態において、旋回時の乗り心地を向上させるためのコンフォートモードと、旋回性を向上させるためのスポーティモードとの間で切替え可能となっている。電流センサ96はサスペンション10毎に対応して設けられている。なお、制御部50には、必ずしも上記のセンサ等の機器を全て接続する必要はなく、また、上記以外の種々の機器を制御部50に接続するようにしてもよい。
【0046】
制御部50は、センサ等の各種機器からの信号に基づき、車両の種々の状態を検出および予測するように構成されている。具体的に、制御部50は、車体2の挙動(ロール、ダイブ、又はスクウォット等)を検出する車体挙動検出部60と、バネ下の振動の振幅を検出するバネ下振動検出部(請求項の車輪振動検出手段に相当する。)62と、車両のロールの発生を予測するロール予測部64と、車両のロールの発生を検出するロール検出部66と、車両の走行状態(発進、停止、加速、減速または高速カーブ等)を検出する走行状態検出部68と、複数の運転モード(コンフォートモード及びスポーティモード)の中からユーザが選択した運転モードを検出する運転モード検出部70と、ピッチング(スクウォット又はダイブ)の発生を予測するピッチング予測部72とを備えている。また、制御部50は、電流センサ96からの信号に基づきモータ14のトルクを検出するトルク検出部58を備えている。
【0047】
さらに、制御部50は、サスペンション制御部52を備えている。サスペンション制御部52は、車体挙動検出部60、バネ下振動検出部62、ロール予測部64、ロール検出部66、走行状態検出部68、運転モード検出部70、ピッチング予測部72及びトルク検出部58における検出及び/又は予測に基づき、サスペンション10の動作を制御するように構成されている。
【0048】
サスペンション制御部52からサスペンション10に送られる制御信号は、図4に示すように、伸縮アクチュエータ16を伸縮させるための低周波成分Vに、伸縮アクチュエータ16のボールねじ18とボールねじナット20との間の摩擦抵抗を変化させるための高周波成分(ディザ信号)Vが重畳されてなる信号である。
【0049】
低周波成分Vは、好ましくない車体挙動(ロール、ダイブ又はスクウォット等)が修正されるように各サスペンション10の伸縮アクチュエータ16を伸縮させる作用を有し、低周波成分Vの作用によりバネ上振動が効果的に抑制される。
【0050】
高周波成分Vは、ボールねじ18とボールねじナット20との間の摩擦抵抗を低減する作用を有し、高周波成分Vの振幅が大きいほどボールねじ18とボールねじナット20との間の摩擦抵抗は小さくなる。また、ボールねじ18とボールねじナット20との間の摩擦抵抗の大きさによって、アクチュエータ16の伸縮性が変化し、これによりアクチュエータ16の減衰力が変化する。そのため、高周波成分Vの振幅を適宜変化させることで、アクチュエータ16の減衰力を制御することができ、これにより、車輪4から車体2に伝達される振動、すなわちバネ下振動を効果的に抑制することができる。よって、制御信号の低周波成分Vと高周波成分Vを状況に応じて適宜調整することで、バネ上振動とバネ下振動の双方を効果的に抑制することができる。なお、図4において、低周波成分Vは直線状に図示されているが、実際の低周波成分Vは正弦波等の波形を示す。一方、高周波成分Vの波形は、例えば正弦波とされるが、ランダム波であってもよい。
【0051】
サスペンション制御部52は、4つのサスペンション10を個別に制御する。サスペンション制御部52は、低周波成分Vの振幅を算出する低周波成分算出部54と、高周波成分Vの振幅を算出する高周波成分算出部56とを備えており、低周波成分算出部54と高周波成分算出部56とにより、低周波成分Vの振幅と高周波成分Vの振幅とが個別に決定されるようにしてある。
【0052】
〔1.低周波成分Vの振幅〕
低周波成分Vの振幅は、従来のフルアクティブサスペンションのアクチュエータに送信される制御信号と同様に算出される。すなわち、低周波成分Vの振幅は、車体挙動検出部60において検出された車体挙動の情報に基づき、好ましくない車体挙動(ロール、ダイブ又はスクウォット等)が常に修正されるように各サスペンション10の伸縮アクチュエータ16が伸縮する大きさとなるように適宜制御され、これにより、バネ上振動が効果的に抑制される。
【0053】
〔2.高周波成分Vの振幅〕
高周波成分Vの振幅は、所定の複数タイプの制御の中から状況に応じて選択されるいずれかのタイプの制御により算出される。本実施形態において、高周波成分Vの振幅は、後述の制御タイプA〜制御タイプEのいずれか1つのタイプの制御により算出された後、後述の制御タイプFの制御により補正される。高周波成分Vの振幅が大きいときほど、ボールねじ18とボールねじナット20との間の摩擦抵抗が小さくなり、これによりアクチュエータ16が伸縮しやすくなって、アクチュエータ16の減衰力が小さくなる。一方、高周波成分Vの振幅が小さいときほど、ボールねじ18とボールねじナット20との間の摩擦抵抗が大きくなり、これによりアクチュエータ16が伸縮し難くなって、アクチュエータ16の減衰力が大きくなる。したがって、高周波成分Vの振幅を状況に応じて適切に制御して、伸縮アクチュエータ16の減衰力を適宜調整することにより、バネ下振動を効果的に抑制することができる。具体的に、高周波成分Vの振幅を算出するための制御タイプA〜Fの制御は、次のように行われる。
【0054】
〈制御タイプA〉
制御タイプAの制御は、通常の走行状態(発進、停止、加速、減速、旋回走行、又は低摩擦の路面走行等の特別な走行状態を除く走行状態)のときに行われる制御であり、サスペンション10毎に個別に行われる。制御タイプAの制御においては、車体2の挙動と伸縮アクチュエータ16の伸縮状況とに応じて高周波成分Vの振幅が増減される。具体的には、表1に示すように、サスペンション10に対応する車体部分の上昇が車体挙動検出部60により検出され、且つ、アクチュエータ16が伸長しているときは、高周波成分Vの振幅が低減されるか又は高周波成分Vの供給が停止され、サスペンション10に対応する車体部分の上昇が車体挙動検出部60により検出され、且つ、アクチュエータ16が収縮しているときは、高周波成分Vの振幅が増大されるか又は高周波成分Vの供給が開始され、サスペンション10に対応する車体部分の下降が車体挙動検出部60により検出され、且つ、アクチュエータ16が伸長しているときは、高周波成分Vの振幅が低減されるか又は高周波成分Vの供給が停止され、サスペンション10に対応する車体部分の下降が車体挙動検出部60により検出され、且つ、アクチュエータ16が収縮しているときは、高周波成分Vの振幅が増大されるか又は高周波成分Vの供給が開始される。このようにして高周波成分Vの振幅を制御することにより、通常の走行時におけるバネ下振動を効果的に抑制できる。
【表1】

【0055】
ただし、制御タイプAの制御としては、上記構成以外にも種々の構成が考えられる。例えば、バネ下振動検出部62によるバネ下振動の振幅の検出に基づき、バネ下振動の振幅の大きさに応じて、高周波成分Vの振幅を制御することが考えられる。この場合、バネ下振動の振幅が増大すると高周波成分Vの振幅を増大させ、バネ下振動の振幅が減少すると高周波成分Vの振幅を低減するように制御することで、バネ下振動を効果的に抑制できる。なお、この場合において、バネ下振動検出部62は、車体挙動検出部60により検出される車体挙動とアクチュエータ16の伸縮量とから算出されるホイール挙動に基づくか、又は車輪加速度センサ84の検出信号に基づいて、バネ下振動を検出できる。
【0056】
〈制御タイプB〉
制御タイプBの制御は、旋回時にロールを極力抑制して乗り心地を向上させるために行われる制御であり、制御タイプBの制御が行われると、全てのサスペンション10について、高周波成分Vの供給が停止されるか、又は高周波成分Vの振幅が低減される。これにより、全てのサスペンション10の挙動抵抗が増大し、旋回時のロール発生を効果的に抑制できる。本実施形態において、制御タイプBの制御は、ロールの発生がロール予測部64により予測されるか又はロール検出部66により検出されたときにおいて、コンフォートモードが選択されていることが運転モード検出部70により検出されたときに行われる。ロール検出部66は、種々の情報に基づきロールの発生を検出することができるが、具体的には、例えば、車体加速度センサ80の検出信号に基づき算出される車体ロール角が所定値を超えたこと、又は、4つのアクチュエータ16の伸縮量に基づき算出される車体ロール角が所定値を超えたことにより、ロールの発生を検出することが可能である。また、ロール予測部64は、種々の情報に基づきロールの発生を予測することができるが、具体的には、例えば、ヨーレートセンサ86により検知されたヨーレートが所定値を超えたこと、又は、操舵角センサ88により検知された操舵角が所定値を超えたことにより、ロールの発生を予測することが可能である。
【0057】
〈制御タイプC〉
制御タイプCの制御は、旋回性を向上させるために行われる制御である。本実施形態において、制御タイプCの制御は、上記と同様にロールの発生が予測または検出されたときにおいて、スポーティモードが選択されていることが運転モード検出部70により検出されたときに行われる。制御タイプCの制御において、高周波成分Vの振幅は、表2に示すようにサスペンション10毎に増大または低減するように制御される。具体的に、旋回軌道の径方向外側の前輪部分、及び旋回軌道の径方向内側の後輪部分のサスペンション10については、高周波成分Vの振幅が増大されるか、又は高周波成分Vの供給が開始され、旋回軌道の径方向内側の前輪部分、及び旋回軌道の径方向外側の後輪部分のサスペンション10については、高周波成分Vの振幅が低減されるか、又は高周波成分Vの供給が停止される。
【表2】

【0058】
図5は、制御タイプCの制御を行うことによる各車輪4の接地力の変化の様子を示す模式図である。なお、図5は、図面の上側を向いて走行する車両が図面の左側へ旋回する状態を示している。また、図5において各車輪4を囲むように図示された円の大きさは、車輪4の接地力の大きさを示している。
【0059】
図5に示すように、右側(旋回軌道の径方向外側)の前輪、及び左側(旋回軌道の径方向内側)の後輪については、制御タイプCの制御による高周波成分Vの振幅の増大に伴いアクチュエータ16の挙動抵抗が小さくなり、これにより車輪4の接地力が減少する。一方、左側(旋回軌道の径方向内側)の前輪、及び右側(旋回軌道の径方向外側)の後輪については、制御タイプCの制御による高周波成分Vの振幅の低減に伴いアクチュエータ16の挙動抵抗が大きくなり、これにより車輪4の接地力が増大する。接地力の増大量および低減量がいずれもUとなるように制御すると、左側前輪の接地力はW1から(W1+U)に増大し、右側前輪の接地力はW2から(W2−U)に減少する。同様に、左側後輪の接地力はW3から(W3−U)に減少し、右側後輪の接地力はW4から(W4+U)に増大する。
【0060】
このようにして各車輪4の接地力の大きさが変化すると、図6及び図7に示すように、各車輪4に旋回方向(左方向)に作用する横力の大きさが変化する。前輪の横力の変化に関しては、図6に示すように、内輪に作用する横力が、接地力の増大に伴い増大し、外輪に作用する横力が、接地力の減少に伴い減少する。内輪の横力の増大量F1は、外輪の横力の減少量F2よりも大きいため、前輪に作用する横力は全体としては増大する。一方、後輪については、図7に示すように、内輪に作用する横力が、接地力の減少に伴い減少し、外輪に作用する横力が、接地力の増大に伴い増大する。内輪の横力の減少量F3は、外輪の横力の増大量F4よりも大きいため、後輪に作用する横力は全体として減少する。このように、前輪に作用する横力が増大し、後輪に作用する横力が減少することにより、車両全体の旋回性が向上する。
【0061】
〈制御タイプD〉
制御タイプDの制御は、操縦安定性を向上させるために行われる制御である。すなわち、制御タイプDの制御は、車両が容易に旋回しないようにする制御であり、各車輪4の接地力を、制御タイプCの制御とは逆に変化させるものである。制御タイプDの制御は、走行状態検出部68により、操縦が不安定になりやすい所定の走行状態であることが検出されたときに行われる。例えば、走行状態検出部68は、車速センサ90と操舵角センサ88の検出信号に基づき高速走行でカーブに入ったことを検出したとき、又は、路面μセンサ92により検知された路面の摩擦係数若しくは他のセンサによる検知信号に基づき算出された路面の摩擦係数が所定値よりも低いとき、所定の走行状態であることを検出する。ただし、本発明において、制御タイプDの制御は、制御タイプBおよびCの制御と同様、ロールの発生が予測又は検出されたときにおいてユーザが所定の運転モードを選択している場合に行われるようにしてもよい。
【0062】
制御タイプDの制御において、高周波成分Vの振幅は、表3に示すようにサスペンション10毎に増大または低減するように制御される。具体的に、旋回軌道の径方向外側の前輪部分、及び旋回軌道の径方向内側の後輪部分のサスペンション10については、高周波成分Vの振幅が低減されるか、又は高周波成分Vの供給が停止され、旋回軌道の径方向内側の前輪部分、及び旋回軌道の径方向外側の後輪部分のサスペンション10については、高周波成分Vの振幅が増大されるか、又は高周波成分Vの供給が開始される。
【表3】

【0063】
図8は、制御タイプDの制御を行うことによる各車輪4の接地力の変化の様子を示す模式図である。なお、図8は、図5と同様、図面の上側を向いて走行する車両が図面の左側へ旋回する状態を示している。また、図8において各車輪4を囲むように図示された円の大きさは、車輪4の接地力の大きさを示している。
【0064】
図8に示すように、右側(旋回軌道の径方向外側)の前輪、及び左側(旋回軌道の径方向内側)の後輪については、制御タイプDの制御による高周波成分Vの振幅の低減に伴いアクチュエータ16の挙動抵抗が大きくなり、これにより車輪4の接地力が増大する。一方、左側(旋回軌道の径方向内側)の前輪、及び右側(旋回軌道の径方向外側)の後輪については、制御タイプDの制御による高周波成分Vの振幅の増大に伴いアクチュエータ16の挙動抵抗が小さくなり、これにより車輪4の接地力が減少する。接地力の増大量および低減量がいずれもUとなるように制御すると、左側前輪の接地力はW1から(W1−U)に減少し、右側前輪の接地力はW2から(W2+U)に増大する。同様に、左側後輪の接地力はW3から(W3+U)に増大し、右側後輪の接地力はW4から(W4−U)に減少する。このようにして各車輪4の接地力の大きさが変化すると、図9及び図10に示すように、各車輪4に旋回方向(左方向)に作用する横力の大きさが変化する。前輪の横力の変化に関しては、図9に示すように、内輪に作用する横力が、接地力の減少に伴い減少し、外輪に作用する横力が、接地力の増大に伴い増大する。内輪の横力の減少量F1は、外輪の横力の増大量F2よりも大きいため、前輪に作用する横力は全体としては減少する。一方、後輪については、図10に示すように、内輪に作用する横力が、接地力の増大に伴い増大し、外輪に作用する横力が、接地力の減少に伴い減少する。内輪の横力の増大量F3は、外輪の横力の減少量F4よりも大きいため、後輪に作用する横力は全体として増大する。このように、前輪に作用する横力が減少し、後輪に作用する横力が増大することにより、車両全体の旋回性が低下し、これにより操縦安定性が向上する。
【0065】
〈制御タイプE〉
制御タイプEの制御は、発進時、停止時、加速時、又は減速時等にピッチング(スクウォット及びダイブ)を効果的に抑制するために行われる制御である。制御タイプEの制御においては、全てのサスペンション10について高周波成分Vの供給が停止されるか又は高周波成分Vの振幅が低減され、これにより、アクチュエータ16の挙動抵抗が増大して、ピッチングが一層効果的に抑制される。制御タイプEの制御は、ピッチング予測部72によりピッチングの発生が予測されたときに行われる。ピッチング予測部72は、種々の情報に基づきピッチングの発生を予測することができるが、例えば、複数の車体加速度センサ80の検出信号又は4つのアクチュエータ16の伸縮量に基づき算出される車体ピッチ角が所定値を超えたとき、車体加速度センサ82により検知された前後方向の加速度が所定値を超えたとき、或いは、スロットル開度センサ又はブレーキ踏力センサ等の種々のセンサの検出信号に基づき推定される前後方向の加速度が所定値を超えたとき等に、ピッチングの発生を予測することができる。
【0066】
〈制御タイプF〉
制御タイプFの制御は、アクチュエータ16の伸縮状態の変化に伴うアクチュエータ16の挙動抵抗の変化に対応して、上述の制御タイプA〜Eのいずれかの制御により算出された高周波成分Vの振幅を補正する制御である。具体的に説明すると、例えば車高調整を行った場合などにアクチュエータ16の伸縮状態が一定に維持されるようにアクチュエータ16を継続的に作動させる必要があるが、その場合、ボールねじ18とボールねじナット20との接触力が増大する分だけそれらの部材18,20間の摩擦抵抗、すなわちアクチュエータ16の挙動抵抗が増大する。そのようにアクチュエータ16の挙動抵抗が変化してもバネ下振動を効果的に抑制するためには、上述のように算出された高周波成分Vの振幅を補正する必要がある。アクチュエータ16の挙動抵抗が変化すると、これに応じてモータ14のトルクが変化するため、制御タイプFの制御では、トルク検出部58により検出されるモータ14のトルクの定常成分の絶対値に応じて、高周波成分Vの振幅を変化させる。具体的に、モータ14のトルクの定常成分の絶対値が所定値よりも大きいときは、高周波成分Vの振幅が大きくなるように補正し、モータ14のトルクの定常成分の絶対値が所定値よりも小さいときは、高周波成分Vの振幅が小さくなるように補正する。これにより、高周波成分Vによる振動抑制効果を、伸縮アクチュエータの伸縮状態に関わらず常に安定して得ることができる。
【0067】
〔3.制御信号を決定する処理の流れ〕
図11を参照しながら、サスペンション10に送る制御信号を決定する処理の流れの一例について説明する。
【0068】
図11に示すように、まずステップS1の信号入力処理において、各種センサ等の機器から送られる信号が制御部50に入力される。
【0069】
次のステップS2では、ステップS1で入力された情報に基づき、車体挙動検出部60において車体の挙動が検出される。
【0070】
次のステップS3では、ステップS2で検出された車体挙動の情報に基づき、低周波成分算出部54において、制御信号の低周波成分Vの振幅が算出される。
【0071】
続くステップS4では、ピッチング予測部64においてピッチングの発生が予測されるか否かが判断される。ステップS4において、ピッチングの発生が予測されるとステップS5に進み、ピッチングの発生が予測されなければステップS6に進む。
【0072】
ステップS5では、高周波成分算出部56において制御タイプEの制御が行われ、これにより、上述のようにピッチングが効果的に抑制されるように高周波成分Vの振幅が算出されて、ステップS13に進む。
【0073】
ステップS6では、走行状態検出部68において高速カーブ走行又は低摩擦路面の走行のいずれかに該当するか否かが判断される。ステップS6において、上記いずれかの走行状態に該当すると判断されるとステップS7に進み、いずれの走行状態にも該当しないと判断されるとステップS8に進む。
【0074】
ステップS7では、高周波成分算出部56において制御タイプDの制御が行われ、これにより、上述のように操縦安定性が向上するように高周波成分Vの振幅が算出されて、ステップS13に進む。
【0075】
ステップS8では、ロール予測部64におけるロール発生の予測、又はロール検出部66におけるロール発生の検出のいずれかがあったか否かが判断される。ロール発生の予測又は検出があったと判断されるとステップS9に進み、ロール発生の予測と検出のいずれもないと判断されるとステップS12に進む。
【0076】
ステップS9では、コンフォートモードが選択されていることが運転モード検出部70において検出されたか否かが判断される。ステップS9において、コンフォートモードの選択が検出されたと判断されるとステップS10に進み、コンフォートモードの選択が検出されなかった、すなわちスポーティモードの選択が検出されたと判断されるとステップS11に進む。
【0077】
ステップS10では、高周波成分算出部56において制御タイプBの制御が行われ、これにより、上述のように旋回時の乗り心地が向上するように高周波成分Vの振幅が算出されて、ステップS13に進む。
【0078】
ステップS11では、高周波成分算出部56において制御タイプCの制御が行われ、これにより、上述のように旋回性が向上するように高周波成分Vの振幅が算出されて、ステップS13に進む。
【0079】
ステップS12では、高周波成分算出部56において制御タイプAの制御が行われ、これにより、上述のように通常走行時のバネ下振動が効果的に抑制されるように高周波成分Vの振幅が算出されて、ステップS13に進む。
【0080】
ステップS13では、高周波成分算出部56において制御タイプFの制御が行われ、これにより、制御タイプA〜Eのいずれかの制御により算出された高周波成分Vの振幅が、上述のようにアクチュエータ16の伸縮状態に対応するように補正され、この補正後の高周波成分VをステップS3の低周波成分Vに重畳してなる信号が、サスペンション10に送信される制御信号として決定される。
【0081】
以上の流れによる制御は、車両の走行中に繰り返し行われ、これにより、各サスペンション10は、常にバネ下振動とバネ上振動の両者を効果的に抑制するように作動する。
【0082】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0083】
例えば、上述の実施形態においては、車体側係合部材としてボールねじ18を使用し、車輪側係合部材としてボールねじナット20を使用する構成について説明したが、本発明においては、車体側係合部材としてボールねじナット20を使用し、車輪側係合部材としてボールねじ18を使用してもよい。
【0084】
また、上述の実施形態においては、伸縮アクチュエータ16を、ボールねじ18とボールねじナット20とで構成する場合について説明したが、本発明においては、相対的に上下方向に移動可能に係合された車体側および車輪側の係合部材を備えた伸縮アクチュエータであれば、種々の伸縮アクチュエータを用いることができ、例えば、リニアモータを用いたアクチュエータ、又は、従来から知られている油圧若しくは空気圧を用いたアクチュエータを使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施形態に係るサスペンション装置を搭載した自動車の概略構成図である。
【図2】サスペンションを示す断面図である。
【図3】サスペンション装置の制御システムを示すブロック図である。
【図4】制御信号の構成を示すグラフである。
【図5】制御タイプCの制御による接地力の変化を示す模式図である。
【図6】図5に示す状態において前輪の接地力と横力の関係を示すグラフである。
【図7】図5に示す状態において後輪の接地力と横力の関係を示すグラフである。
【図8】制御タイプDの制御による接地力の変化を示す模式図である。
【図9】図8に示す状態において前輪の接地力と横力の関係を示すグラフである。
【図10】図8に示す状態において後輪の接地力と横力の関係を示すグラフである。
【図11】制御信号を決定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0086】
1:自動車、2:車体、4:車輪、10:サスペンション、12:コイルスプリング、14:電気モータ(駆動手段)、16:伸縮アクチュエータ、18:ボールねじ(車体側係合部材)、20:ボールねじナット(車輪側係合部材)、22:ボール、50:制御部、52:サスペンション制御部、54:低周波成分算出部、56:高周波成分算出部、60:車体挙動検出部、62:バネ下振動検出部、64:ロール予測部、66:ロール検出部、68:走行状態検出部、70:運転モード検出部、72:ピッチング予測部、80:車体加速度センサ(上下方向)、82:車体加速度センサ(前後方向)、84:車輪加速度センサ、86:ヨーレートセンサ、88:操舵角センサ、90:車速センサ、92:路面μセンサ、94:運転モードスイッチ、96:電流センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪側に連結された係合部材と、該車輪側の係合部材に対して相対的に上下方向に移動可能に係合され且つ車体側に連結された係合部材とを有し、前記車輪側の係合部材に対して前記車体側の係合部材が相対的に上下方向に移動することにより全体として伸縮する伸縮アクチュエータと、
前記車輪側および車体側の係合部材のうち一方の係合部材を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段に制御信号を送信することにより、前記伸縮アクチュエータの動作を制御する制御部と、を備えた車両のサスペンション装置であって、
前記制御信号は、前記伸縮アクチュエータを伸縮させるための低周波成分に、前記車輪側係合部材と前記車体側係合部材との間の摩擦抵抗を変化させるための高周波成分が重畳されてなる信号であることを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項2】
前記伸縮アクチュエータと、前記駆動手段と、車体の上下動を検出する車体上下動検出手段とが車輪毎に対応して設けられ、
前記制御部は、各車輪に関して、前記車体上下動検出手段により車体の上昇が検出され且つ前記伸縮アクチュエータが伸長しているとき、前記高周波成分の振幅を低減し、前記車体上下動検出手段により車体の上昇が検出され且つ前記伸縮アクチュエータが収縮しているとき、前記高周波成分の振幅を増大させ、前記車体上下動検出手段により車体の下降が検出され且つ前記伸縮アクチュエータが伸長しているとき、前記高周波成分の振幅を増大させ、前記車体上下動検出手段により車体の下降が検出され且つ前記伸縮アクチュエータが収縮しているとき、前記高周波成分の振幅を低減することを特徴とする請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項3】
前記車両は、車輪の振動又は前記伸縮アクチュエータよりも車輪側の部分の振動を検出する車輪振動検出手段を備え、
前記制御部は、前記車輪振動検出手段により検出された振動の振幅が増大したとき、前記高周波成分の振幅を増大させ、前記車輪振動検出手段により検出された振動の振幅が減少したとき、前記高周波成分の振幅を低減させることを特徴とする請求項1または2に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項4】
前記車輪振動検出手段は、車輪に設けられた加速度センサにより検知された加速度に基づき振動を検出するか、又は、車体に設けられた複数の加速度センサにより検知された加速度に基づき測定された車体の挙動と前記伸縮アクチュエータの伸縮量とから求められる車輪の挙動に基づき振動を検出することを特徴とする請求項3に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項5】
前記車両は、車両旋回時のロールの発生を予測するロール予測手段、車両旋回時のロールの発生を検出するロール検出手段、又は、車両が所定の走行状態にあるか否かを検出する走行状態検出手段の少なくともいずれか1つを備え、
前記制御部は、前記ロール予測手段による予測、前記ロール検出手段による検出、又は、前記走行状態検出手段による検出の少なくともいずれか1つに応じて、車輪の接地力を変化させるように前記高周波成分の振幅を変化させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両のサスペンション装置。
【請求項6】
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記制御部は、前記ロール予測手段による予測または前記ロール検出手段による検出の少なくとも一方に応じて、乗り心地を向上させるための乗り心地向上制御として、全ての車輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減することを特徴とする請求項5に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項7】
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記制御部は、前記ロール予測手段による予測または前記ロール検出手段による検出の少なくとも一方に応じて、車両の旋回性を向上させるための旋回性向上制御として、車両の旋回軌道の径方向外側の前輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の前輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減し、前記径方向外側の後輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減させ、前記径方向内側の後輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大することを特徴とする請求項5または6に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項8】
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記制御部は、前記走行状態検出手段による検出に応じて、操縦安定性を向上させるための操縦安定性向上制御として、車両の旋回軌道の径方向外側の前輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減し、前記径方向内側の前輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向外側の後輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の後輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の車両のサスペンション装置。
【請求項9】
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記車両は、複数の運転モードの中からユーザが選択した運転モードを検出する運転モード検出手段、または車両が所定の走行状態にあるか否かを検出する走行状態検出手段の少なくとも一方を備え、
前記制御部は、
前記運転モード検出手段による検出または前記走行状態検出手段による検出の少なくとも一方に基づいて、
全ての車輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減する乗り心地向上制御と、
車両の旋回軌道の径方向外側の前輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の前輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減し、前記径方向外側の後輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の後輪について接地直を低減するように前記高周波成分の振幅を低減する旋回性向上制御と、
車両の旋回軌道の径方向外側の前輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減し、前記径方向内側の前輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向外側の後輪について接地力を低減するように前記高周波成分の振幅を増大させ、前記径方向内側の後輪について接地力を増大させるように前記高周波成分の振幅を低減する操縦安定性向上制御との中から、いずれか1つの制御を選択することを特徴とする請求項5に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項10】
前記伸縮アクチュエータと前記駆動手段とが車輪毎に設けられ、
前記車両は、ピッチングの発生を予測するピッチング予測手段を備え、
前記制御部は、前記ピッチング予測手段によりピッチングの発生が予測されたとき、全ての車輪について前記高周波成分の振幅を低減することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の車両のサスペンション装置。
【請求項11】
前記駆動手段は、前記伸縮アクチュエータを伸縮させるように一方の前記係合部材を回転駆動する電気モータであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の車両のサスペンション装置。
【請求項12】
前記電気モータのトルクを検出するトルク検出手段を備え、
前記制御部は、前記トルク検出手段により検出されるトルクの定常成分の絶対値に応じて、前記高周波成分の振幅を変化させることを特徴とする請求項11に記載の車両のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−241726(P2009−241726A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90245(P2008−90245)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】