説明

車両の制御装置

【課題】ステアリングシフトスイッチの操作により車両制御モードが非協調モードに切り換えられている状態において、変速比の低い変速段が選択されているときに、急加速要求がなされた場合であっても、運転者の意図に沿った加速を行うことのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置40は、シフトレバー81が協調モードに対応するシフト位置に操作されている状態であっても、ステアリングシフトスイッチ91が操作された場合には車両制御モードを非協調モードに切り替える。電子制御装置40は、ステアリングシフトスイッチ91が操作されたことに基づいて車両制御モードが非協調モードに切り替えられているときに、アクセルペダル60の操作量が所定量以上である旨の判定がなされた場合には、ステアリングシフトスイッチ91の操作に基づく車両制御モードの切り替えを無効化して車両制御モードを協調モードに復帰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は無段変速機を備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の駆動力が無段変速機を介して駆動輪に伝達される車両にあっては、車速の変化に伴って変速比を連続的に変更することにより、効率のよい機関運転領域において内燃機関を運転させつつ、車両を走行させることができる。具体的には、アクセル操作量等、運転者の加減速要求の大きさと相関を有するパラメータと、現在の車速とに基づいて要求駆動力を算出し、この要求駆動力を発生させることのできる機関回転速度の最小値、換言すれば燃料消費率が最も小さくなる機関回転速度を目標回転速度として設定する。そして、機関回転速度をこの目標回転速度に維持しながら車両を走行させるべく、内燃機関の吸入空気量を制御するとともに、変速比を連続的に変更し、内燃機関と無段変速機とを協調制御する。尚、アクセルペダルの操作量及び車速に基づいて算出される要求駆動力は、その時点におけるアクセルペダルの操作量と車速とに基づいて逐次算出される値であるため、その値はアクセル操作量の変化及び車速の変化に伴って常に変化する。そのため、直接こうした値に基づいて内燃機関の吸入空気量及び無段変速機の変速比を変更するようにした場合には、要求駆動力の変化に伴ってスロットル開度及び変速比が頻繁に変更され、機関運転状態及び車両の走行状態が不安定なものとなるおそれがある。そこで、こうした協調制御をする場合にあっては、算出される要求駆動力に徐変処理を施すことにより、実際に目標回転速度の算出において参照する値として要求駆動力の変化速度を制限した目標駆動力の値を算出し、この目標駆動力に基づいて目標回転速度を算出している。
【0003】
無段変速機を備える車両にあっては、こうした協調制御を実行することにより、効率のよい機関運転領域にて内燃機関を運転させながら任意の駆動力を車輪に伝達することができるようになり、効率的でショックのない滑らかな車両走行を実現することができる。
【0004】
また、特許文献1には、上記のようにアクセル操作量と車速とに基づいて自動的に変速比を変更する協調モードに加えて、手動変速機を搭載した車両のように運転者が変速操作を行うことのできる、いわゆる非協調モードを備えた車両の制御装置が記載されている。この非協調モードは、異なる変速比に対応して予め設定された複数の変速段のうち、運転者の選択した変速段に対応する変速比に無段変速機の変速比を保持することにより、アクセル操作量の変化に対応して機関回転速度が変化するスポーティーな走行を行うことができるようにしたものである。こうした非協調モードにあっては、手動変速機を搭載した車両と同様に、アクセル操作量に比例して、アクセル操作量が大きいときほど目標スロットル開度が大きな値に設定される。そして、この目標スロットル開度に実際のスロットル開度を一致させるようにスロットルバルブの開度を制御する。
【0005】
このように車両制御モードを協調モードと非協調モードとの間で変更可能な車両にあっては、車両制御モードを切り替える切替手段として、シフト位置に対応して協調モードと非協調モードとを切り替えるシフトレバーに加えて、ステアリングホイールに設けられたステアリングシフトスイッチを備えるものがある。こうした車両にあっては、シフトレバーが協調モードに対応するシフト位置に操作されている場合であっても、ステアリングシフトスイッチを操作することにより、協調モードから非協調モードに車両制御モードを一時的に変更することができるようにしたものがある。こうした車両では、運転者はステアリングホイールから手を離すことなく、車両制御モードを変更することができ、例えば、ステアリングシフトスイッチによりダウンシフト操作、即ち無段変速機の変速比の大きい変速段に変更しつつ、アクセル操作量を増大させることにより、一時的に機関回転速度を上昇させて加速感のあるスポーティーな車両走行を実現することができるようになる。
【特許文献1】特開平8‐82354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、こうしたステアリングシフトスイッチを備えた車両にあっては、車両の加速を意図して運転者がアクセル操作量を増大させた場合であっても、ステアリングシフトスイッチの操作に基づいて無段変速機の変速段が比較的変速比の小さい変速段に設定されたままの場合には、機関回転速度が速やかに上昇せず十分な駆動力が得られないため、運転者の意図するような加速状態を実現することができないこととなる。
【0007】
この発明は、上記実状に鑑みてなされたものでありその目的は、ステアリングシフトスイッチの操作により車両制御モードが非協調モードに切り換えられている状態において、変速比の低い変速段が選択されているときに、急加速要求がなされた場合であっても、運転者の意図に沿った加速を行うことのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の駆動力が無段変速機を介して駆動輪に伝達される車両の制御モードとして、車速とアクセル操作量とに基づいて車両の要求駆動力を算出し、同要求駆動力の値に徐変処理を施した目標駆動力に基づいて前記内燃機関の吸入空気量調量機構の目標操作量と無段変速機の目標変速比とを設定して前記内燃機関及び前記無段変速機を制御する協調モードと、予め設定された複数の変速段のうち、運転者の選択した前記変速段に対応する変速比に前記無段変速機の変速比を保持するとともに、アクセル操作量に対応した前記吸入空気量調量機構の目標操作量を設定して前記内燃機関及び前記無段変速機を各別に制御する非協調モードとを有し、前記協調モードと前記非協調モードとの間で車両制御モードを切り替える切替手段として、同車両制御モードを前記協調モードとするシフト位置と前記非協調モードとするシフト位置とを含む複数の位置にシフト位置を切り替え可能なシフトレバーと、ステアリングホイールに設けられて前記無段変速機の変速段を選択するステアリングシフトスイッチとを備え、前記シフトレバーが前記協調モードに対応するシフト位置に操作されている状態であっても、前記ステアリングシフトスイッチが操作された場合には車両制御モードを前記非協調モードに切り替える車両の制御装置において、前記ステアリングシフトスイッチが操作されたことに基づいて車両制御モードが前記非協調モードに切り替えられているときに、アクセル操作量が所定量以上である旨の判定がなされた場合には、前記ステアリングシフトスイッチの操作に基づく車両制御モードの切り替えを無効化して同車両制御モードを前記協調モードに復帰させることをその要旨とする。
【0009】
同構成によれば、アクセル操作量が所定量以上である旨の判定がなされ、運転者の加速要求が大きいことが推定される場合には、車両制御モードを非協調モードから協調モードに自動復帰させる。これにより、無段変速機の変速比が自動的に変更されてアクセル操作量に見合った要求駆動力を発生することができるようになり、ステアリングシフトスイッチの操作により車両制御モードが非協調モードに切り換えられている状態において、変速比の小さい変速段が選択されているときに急加速要求がなされた場合であっても、運転者の意図に沿った加速を実現することができるようになる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の制御装置において、車両制御モードを前記非協調モードから前記協調モードに復帰させるに際し、要求駆動力にかかる前記徐変処理をその復帰時を起点として開始することをその要旨とする。
【0011】
車両制御モードを切り替える切替手段として、上記請求項1に記載の発明のように、シフトレバーに加えて、ステアリングシフトスイッチを備える車両にあっては、シフトレバーが協調モードに対応するシフト位置に操作されている状態においてステアリングシフトスイッチが操作されることにより非協調モードに移行した場合には、非協調モードに切り替えられている間も要求駆動力の値に徐変処理を実行して目標駆動力を演算し続け、非協調モードから協調モードに切り替えられたときには、それまでの演算によって求められた目標駆動力の値に基づいて内燃機関の機関出力及び無段変速機の変速比を制御することができるようにしたものもある。
【0012】
このように要求駆動力の値に徐変処理を施すことによって算出される目標駆動力の値は、非協調モードにおいてアクセル操作量に応じて変化する実際の駆動力よりも遅れて変化する。そのため、非協調モードにおいてアクセルペダルが急速に踏み込まれ、アクセル操作量が所定量以上である旨が判定されて車両制御モードが非協調モードから協調モードへと復帰した場合には、非協調モードにおいてアクセル操作量の変化に伴って急速に増大した吸入空気量が、上記のように遅れて立ち上がる目標駆動力の値に基づいて制御されるようになる。その結果、切り替え直後にあっては、実際の吸入空気量調量機構の操作量と目標駆動力に基づいて設定される目標操作量との間に大きな乖離が生じ、吸入空気量が急激に減少されるようになる。その結果、切り替えに伴って機関出力が急激に低下してショックが発生するおそれがある。また、特に上記請求項1に記載の発明によるように、アクセル操作量が所定量以上である旨判定されることに基づいて自動的に協調モードへの復帰が行われる場合には、運転者によるシフトレバーの操作やステアリングシフトスイッチの操作を伴わずに非協調モードから協調モードへの切り替えが実行されるため、運転者の予期しないタイミングにおいて車両制御モードの切り替えが実行され、切り替えに伴うショックが運転者に違和感を与えやすい。
【0013】
そこで、上記請求項2に記載の発明では、車両制御モードを非協調モードから協調モードに復帰させるに際し、要求駆動力にかかる徐変処理をその復帰時を起点として開始するようにしている。これにより、切り替え時までは徐変処理が実行されないため、アクセル操作量の変化に対して高い応答性を有して要求駆動力が立ち上がり、徐変処理はこの立ち上がった要求駆動力の値に対して実行されるようになる。その結果、上記のような目標駆動力の値の立ち上がり遅れに伴うショックの発生を抑制することができるようになる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置であって、前記吸入空気量調量機構として、吸気通路にスロットルバルブを備え、前記目標操作量として、目標スロットル開度を設定することをその要旨とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置であって、前記吸入空気量調量機構として、前記内燃機関の吸気バルブの最大リフト量及びリフト期間を変更するリフト量変更機構を備えることをその要旨とする。
【0016】
具体的には、吸入空気量調量機構として、請求項3に記載の発明によるように、吸気通路にスロットルバルブを備え、その開度を調節することにより吸入空気量を調量するといった構成を採用することができる。
【0017】
また、請求項4に記載の発明によるように、吸入空気量調量機構として、内燃機関の吸気バルブの最大リフト量及びリフト期間を変更するリフト量変更機構を備え、その目標操作量を変更することにより吸気バルブの最大リフト量及びリフト期間を変更して吸入空気量を調量するといった構成を採用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明にかかる車両の制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
図1に示されるように、内燃機関10には、燃焼室に空気を導入する吸気通路13が接続されている。吸気通路13には、吸入空気量GAを調量する吸入空気量調量機構として、スロットルバルブ14が設けられている。このスロットルバルブ14は電動モータにてその開度が制御される。
【0019】
内燃機関10では、こうしてスロットルバルブ14によって調量される吸入空気に対してその量に応じた燃料が燃料噴射弁から噴射される。そして、空気と燃料の混合気が燃焼室で燃焼されることにより、クランクシャフト12が回転し、駆動力が得られる。
【0020】
内燃機関10のクランクシャフト12は、トルクコンバータ20、遊星歯車機構22を介して無段変速機30の入力軸32に接続されている。そして、無段変速機30の出力軸34は図示しないディファレンシャルギア等を介して最終的に車輪に接続されている。尚、遊星歯車機構22は、クランクシャフト12の回転方向に対する入力軸32の回転方向を正転・反転方向に切り替えるものである。即ち、遊星歯車機構22により車両の前進・後退が切り替えられる。
【0021】
図1に示されるように無段変速機30の入力軸32には、入力軸32と一体回転する第1プーリ30aが接続されている。一方、出力軸34には、出力軸34と一体回転する第2プーリ30bが接続されている。そして、これら第1プーリ30a及び第2プーリ30bには、ベルト30cが巻き掛けられている。これにより、クランクシャフト12を通じて入力軸32に入力された内燃機関10の駆動力は、ベルト30cを介して出力軸34に伝達され、最終的に車輪に伝達される。
【0022】
ここで、第1プーリ30aの溝幅Win及び第2プーリ30bの溝幅Woutは、油圧制御回路50を通じて各プーリ30a,30bに供給される油圧を制御することにより変更できるようになっている。これにより、無段変速機30にあっては、第1プーリ30a及び第2プーリ30bの溝幅Win,Woutをそれぞれ変更することによって各プーリ30a,30bに対するベルト30cの巻き掛け半径を変更し、入力軸32の回転速度Ninに対する出力軸34の回転速度Noutの比(Nin/Nout)、即ち変速比Rを無段階、且つ連続的に変更することができる。尚、この変速比Rの制御は車両制御を統括的に行う電子制御装置40によって実行される。
【0023】
電子制御装置40には、車両の走行状態を検出する各種センサとして、運転者によって操作されるアクセルペダル60の操作量であるアクセル操作量ACCPを検出するアクセルポジションセンサ70、車速SPDを検出する車速センサ71、機関回転速度NEを検出するクランク角センサ72、スロットルバルブ14の開度であるスロットル開度TAを検出するスロットル開度センサ73、無段変速機30の入力軸32の回転速度である入力回転速度Ninを検出する回転速度センサ74等が接続されている。
【0024】
電子制御装置40は、これら各種センサの検出信号を取り込み、各種演算を行って内燃機関10の機関運転状態を制御するとともに、油圧制御回路50の駆動制御を通じて無段変速機30の変速比Rを制御する。
【0025】
本実施形態にかかる車両にあっては、内燃機関10の機関運転状態及び無段変速機30の変速比Rを制御する車両制御モードとして、内燃機関10及び無段変速機30を協調制御し、変速比Rを連続的に変更する協調モードと、予め設定された複数の変速段のうち運転者の選択した変速段に対応する変速比Rに無段変速機30の変速比Rを保持するとともに、アクセル操作量ACCPに対応して内燃機関10を制御する非協調モードとを有している。そして、これら協調モードと非協調モードとを任意に切り替えることができるようになっている。尚、本実施形態の車両にあっては、非協調モードにおいて選択可能な変速段として、「1速」、「2速」、「3速」、「4速」、「5速」、「6速」、「7速」の7つの変速段が設定されており、これら各変速段には、「1速」から「7速」まで順に変速比Rが小さくなるようにそれぞれ異なる変速比Rが割り振られている。協調モード及び非協調モードにおける車両制御の詳しい態様については図3及び図4を参照して後述する。
【0026】
図1に示されるように本実施形態の車両は、運転者の操作によって車両制御モードを協調モードと非協調モードとの間で切り替える切替手段として、運転席に設けられたフロアシフト装置80のシフトレバー81と、ステアリングホイール90に設けられたステアリングシフトスイッチ91とを備えている。
【0027】
図1に示されるようにステアリングシフトスイッチ91は、ステアリングホイール90の右側に設けられたシフトアップパドル91aと、ステアリングホイール90の左側に設けられたシフトダウンパドル91bとにより構成されている。そして、シフトアップパドル91aが操作された場合にはシフトアップ信号SHUを、シフトダウンパドル91bが操作された場合にはシフトダウン信号SHDを出力する。
【0028】
一方、図2に示されるようにフロアシフト装置80は、シフトレバー81と、シフトレバー81を案内するシフトゲート82とを備えている。尚、図2は、フロアシフト装置80のシフトゲートパターンを示す模式図である。
【0029】
図2に示されるようにシフトゲート82には、シフトレバー81の操作位置として、パーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)の各ポジションが順に配置され、更に前進走行用の操作位置としてドライブ(D)及びマニュアル(M)の2つのポジションが横方向に並んで配置されている。また、シフトゲート82のマニュアル・ポジション(M)の前後には、シフトアップ(+)、シフトダウン(−)のポジションが配置されている。尚、シフトアップ(+)、シフトダウン(−)の各ポジションでは、運転者がシフトレバー81から手を離すと、即ちシフトレバー81への操作力の印加を解除すると、シフトレバー81がスプリングの反発力で自動的にマニュアル・ポジション(M)に移動するようなっている。
【0030】
また、フロアシフト装置80には、シフトレバー81の操作位置を検出するために以下のような各種スイッチが設けられている。
シフトレバーポジションスイッチSW1は、パーキング・ポジション(P)、リバース・ポジション(R)、ニュートラル・ポジション(N)、及び前進走行用のポジション(ドライブ・ポジション(D)又はマニュアル・ポジション(M))のいずれの位置にシフトレバー81が操作されているかを検出し、シフトポジション信号を出力する。
【0031】
選択モード検出スイッチSW2は、ドライブ・ポジション(D)からマニュアル・ポジション(M)へのシフトレバー81の操作、及びマニュアル・ポジション(M)からドライブ・ポジション(D)へのシフトレバー81の操作を検出し、選択モード信号を出力する。
【0032】
シフトアップスイッチSW3は、マニュアル・ポジション(M)からシフトアップ・ポジション(+)へのシフトレバー81の操作を検出し、シフトアップ信号SHUを出力する。
【0033】
シフトダウンスイッチSW4は、マニュアル・ポジション(M)からシフトダウン・ポジション(−)へのシフトレバー81の操作を検出し、シフトダウン信号SHDを出力する。
【0034】
フロアシフト装置80及びステアリングシフトスイッチ91は、電子制御装置40に接続されており、これらステアリングシフトスイッチ91及びフロアシフト装置80から出力されるシフト信号は、電子制御装置40に取り込まれる。そして、電子制御装置40は、このシフト信号に基づいて車両制御モードを協調モードと非協調モードとの間で切り替える。
【0035】
以下、図3を参照して協調モードにおける内燃機関10及び無段変速機30の制御態様を詳しく説明する。尚、図3は協調モードによる車両制御の概要を示すブロック図である。
【0036】
図3に示されるように協調モードでは、まず、アクセル操作量ACCP及び車速SPDに基づいて運転者が要求している要求駆動力Fdが算出される。そして、この要求駆動力Fdに対してその変化速度を制限する徐変処理を実施する。具体的には下式(1)に示されるように、過去に設定された設定値を考慮して現在の設定値を算出する、いわゆるなまし処理を実行し、目標駆動力Fpを算出する。
【0037】
Fp(i)←{(n−1)Fp(i−1)+Fd(i)}/n …(1)
n:2以上の整数
Fp(i−1):前回の演算周期に設定された目標駆動力
即ち、前回の演算周期において設定された目標駆動力Fp(i−1)に対して「(n−1)/n」、現在の演算周期において算出された要求駆動力Fd(i)に対して「1/n」をそれぞれ乗じて重み付けを行い、それらの加算値を現在の目標駆動力Fp(i)として算出するようにしている。尚、車両制御モードが協調モードに切り替えられた直後であり、前回の目標駆動力Fpが設定されていない場合には、前回の演算周期において算出された要求駆動力Fd(i−1)の値を代用して、現在の目標駆動力Fp(i)を算出する。
【0038】
アクセル操作量ACCP及び車速SPDに基づいて算出される要求駆動力Fdは、その時点におけるアクセル操作量ACCPと車速SPDとに基づいて逐次算出される値であるため、その値はアクセル操作量ACCPの変化及び車速SPDの変化に伴って常に変化する。そのため、直接こうした値に基づいて内燃機関10の機関出力及び無段変速機30の変速比Rを変更するようにした場合には、要求駆動力Fdの変化に伴ってスロットル開度TA及び変速比Rが頻繁に変更され、機関運転状態及び車両の走行状態が不安定なものとなるおそれがある。そのため、協調モードにあっては、上記のように算出される要求駆動力Fdに徐変処理を施すことにより、実際に演算処理において参照する値として要求駆動力Fdの変化速度を制限した目標駆動力Fpの値を算出し、この目標駆動力Fpに基づいて演算処理を実行している。
【0039】
尚、上記係数nは、このなまし処理による目標駆動力Fpのなまし度合を設定するものであり、適宜変更することができる。具体的には、この係数nを大きくするほど、なまし度合が大きくなる。即ち、要求駆動力Fdの変化に対して目標駆動力Fpがよりゆっくりと変化するようになる。
【0040】
こうして目標駆動力Fpを算出すると、この目標駆動力Fpに基づいて無段変速機30の変速比Rを変更する変速制御、及び内燃機関10の機関出力を変更する出力制御が行われる。
【0041】
変速制御では、この要求駆動力Fdを発生させることのできる機関回転速度NEの最小値、換言すれば要求駆動力Fdを発生させる上で燃料消費率が最も小さくなる機関回転速度NEの値に基づいて第1プーリ30aの目標入力回転速度Ninpを設定する。尚、要求駆動力Fdを発生させる上で燃料消費率が最も小さくなる機関回転速度NEの値は、内燃機関10の特性に基づいて予め実験等の結果に基づいて作成された演算マップを参照して算出される。
【0042】
次に、目標入力回転速度Ninpに基づいて無段変速機30の制御量を算出し、その制御量に基づいて無段変速機30の変速比Rを変更する。ここでは、回転速度センサ74によって検出される入力軸32の入力回転速度Ninと目標入力回転速度Ninpとを一致させるように、第1プーリ30a及び第2プーリ30bの各溝幅Win,Woutを調整する。
【0043】
一方、出力制御では、上述のように要求駆動力Fdに徐変処理を施すことにより算出された目標駆動力Fpと、第1プーリ30aの実際の回転速度、即ち入力回転速度Ninに基づいて目標出力トルクTpを算出する。この目標出力トルクTpは、次式(2)に基づいて算出される。
【0044】
Tp=(Fp×K)/Nin …(2)
Tp:目標出力トルク[N・m]
Fp:目標駆動力[kW]
Nin:入力回転速度[rpm]
K:定数=9549.3
そして、目標出力トルクTpに基づいて目標スロットル開度TApを算出し、この目標スロットル開度TApに上記スロットル開度センサ73によって検出されるスロットル開度TAを一致させるようにスロットルバルブ14の開度を調整する。このようにスロットルバルブ14の開度を調整することにより、目標出力トルクTpに応じた量の空気が燃焼室に導入されるとともに、吸入空気量GAに応じた燃料が燃料噴射弁から噴射され、内燃機関10の出力トルクが目標出力トルクTpに近づくようになる。
【0045】
このように協調モードでは、アクセル操作量ACCPと車速SPDとに基づいて要求駆動力Fdを算出し、この要求駆動力Fdに徐変処理を施した目標駆動力Fpを算出する。そして、この目標駆動力Fpを発生させる上で最も効率のよい機関運転状態において内燃機関10を運転させるように変速比Rを連続的に変更することにより、内燃機関10と無段変速機30とを協調制御する。こうした協調制御を実行することにより、効率のよい機関運転領域にて内燃機関10を運転させながら任意の駆動力を車輪に伝達することができるようになり、効率的でショックのない滑らかな車両走行を実現することができる。
【0046】
次に、図4を参照して、上述したように無段変速機30の変速比Rを運転者の選択した変速段に対応する変速比Rに保持するとともに、アクセル操作量ACCPに基づいて内燃機関10を制御する非協調モードによる車両制御態様について詳しく説明する。尚、図4は、非協調モードによる車両制御の概要を示すブロック図である。
【0047】
図4に示されるように非協調モードでは、変速制御はフロアシフト装置80及びステアリングシフトスイッチ91から電子制御装置40に入力されるシフトアップ信号SHU及びシフトダウン信号SHDに基づいて行われる。具体的には、電子制御装置40は、フロアシフト装置80又はステアリングシフトスイッチ91からシフトアップ信号SHUが入力されると変速段を一段昇段させる。これにより、例えば「3速」に変速段が設定されているときに、シフトアップ信号SHUが入力されると、変速段が「4速」に変更される。一方、電子制御装置40は、シフトダウン信号SHDが入力されると、変速段を一段降段させる。これにより、例えば変速段が「3速」に設定されているときに、シフトダウン信号SHDが入力されると、変速段が「2速」に変更される。
【0048】
こうして変速段が変更されると電子制御装置40は、設定された変速段に対応する変速比Rとなるように無段変速機30の制御量を算出し、その制御量に基づいて無段変速機30の変速比Rを変更する。
【0049】
一方、出力制御は、図1に示されるようにアクセル操作量ACCPに基づいて行われる。具体的にはアクセルポジションセンサ70によって検出されるアクセル操作量ACCPに比例する目標スロットル開度TApを算出する。即ち非協調モードでは、アクセル操作量ACCPが大きいときほど目標スロットル開度TApが大きな値に設定される。そして、この目標スロットル開度TApを上記スロットル開度センサ73によって検出されるスロットル開度TAに一致させるようにスロットルバルブ14の開度を調整する。このようにスロットルバルブ14の開度を調整することにより、アクセル操作量ACCPに応じた量の空気が燃焼室に導入されるとともに、吸入空気量GAに応じた燃料が燃料噴射弁から噴射され、内燃機関10の出力トルクがアクセル操作量ACCPに対応した出力トルクに調整されるようになる。尚、本実施形態の車両にあっては、非協調モードにあっても上記協調モードと同様にアクセル操作量ACCP及び車速SPDに基づいて要求駆動力Fdを算出している。しかし、非協調モードにあっては、この要求駆動力Fdに基づく制御を実行していないため、この値に対する徐変処理は実行していない。
【0050】
このように非協調モードにあっては、無段変速機30の変速比Rを運転者の選択した変速段に対応する変速比Rに保持するとともに、アクセル操作量ACCPに対応した目標スロットル開度TApを設定し、実際のスロットル開度TAをこの目標スロットル開度TApに一致させるようにスロットルバルブ14の開度を制御する。これにより、アクセル操作量ACCPの変化に対して俊敏に出力トルクが変化するとともに、車速SPDの変化に伴って機関回転速度NEが変化するスポーティーな車両走行を実現することができる。
【0051】
本実施形態の車両にあっては、基本的にシフトレバー81の操作位置に基づいて車両制御モードを上記協調モードと非協調モードとの間で切り替える。具体的には、シフトレバー81がドライブ・ポジション(D)に操作されているときには、無段変速機30の変速比Rを連続的に変更する協調モードによって車両制御を実行し、シフトレバー81がマニュアル・ポジション(M)に操作されているときには、無段変速機30の変速比Rを運転者が選択した変速段に対応した変速比Rに保持する非協調モードによって車両制御を実行する。
【0052】
また、本実施形態の車両にあっては、シフトレバー81がドライブ・ポジション(D)に操作されている場合であっても、ステアリングシフトスイッチ91を操作することにより、車両制御モードを協調モードから非協調モードに一時的に変更することができるようにしている。これにより、運転者はステアリングホイール90から手を離すことなく、車両制御モードを変更することができ、例えば、シフトダウンパドル91bによりダウンシフト操作、即ち無段変速機30の変速段を変速比Rの大きい変速段に変更しつつ、アクセル操作量ACCPを増大させることにより、一時的に機関回転速度NEを上昇させて加速感のあるスポーティーな車両走行を実現することができるようになる。
【0053】
ところで、シフトレバー81がドライブ・ポジション(D)に操作されている状態において、ステアリングシフトスイッチ91の操作により車両制御モードが非協調モードに切り替えられている場合には、車両の加速を意図して運転者がアクセル操作量ACCPを増大させた場合であっても、無段変速機30の変速段が比較的変速比Rの小さい変速段に設定されたままの場合には、機関回転速度NEが速やかに上昇せず十分な駆動力が得られない。その結果、運転者の意図するような加速状態を実現することができない場合がある。
【0054】
そこで、本実施形態の車両にあっては、ステアリングシフトスイッチ91が操作されたことに基づいて車両制御モードが非協調モードに切り替えられているときには、所定の条件においてステアリングシフトスイッチ91の操作に基づく車両制御モードの切り替えを無効化して車両制御モードを前記協調モードに自動的に復帰させるようにしている。
【0055】
以下、図5を参照して、この自動復帰にかかる処理について詳しく説明する。尚、図5は、車両制御モードの自動復帰にかかる一連の処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、シフトレバー81がドライブ・ポジション(D)に操作されている状態において、ステアリングシフトスイッチ91が操作されたことにより、一時的に車両制御モードが非協調モードに変更されているときに電子制御装置40によって繰り返し実行される。
【0056】
ステアリングシフトスイッチ91の操作により、車両制御モードが非協調モードに変更され、この処理が開始されると、まずステップS100において、車速SPDが変速段毎に設定された所定車速SPDn未満であるか否かを判定する。この所定車速SPDnは、例えば、「6速」であれば、50km/h、「5速」であれば40km/h、「4速」であれば30km/hというように「7速」から「1速」まで次第にその値が小さくなるように変速段毎に設定されている。即ち、具体的には、変速段が「5速」に設定されている場合にはステップS100において、現在の車速SPDが50km/h未満であるか否かが判定される。
【0057】
ステップS100において、車速SPDが所定車速SPDn未満である旨判定された場合(ステップS100:YES)には、ステップS110へと進み、アクセル操作量ACCPが所定量ACCPst以上であるか否かを判定する。この所定量ACCPstは、アクセル操作量ACCPがこの所定量ACCPst以上であることに基づいて、現在選択されている変速段に対応する変速比Rのままでは運転者の意図する加速を実現することができない旨を推定する閾値として、予め行う実験等の結果に基づいて設定される値である。
【0058】
ステップS110において、アクセル操作量ACCPが所定量ACCPst以上である旨判定された場合(ステップS110:YES)、即ち現在選択されている変速段に対応する変速比Rのままでは、運転者の意図する加速を実現することができない旨の推定がなされた場合には、ステップS120へと進む。
【0059】
ステップS120では、ステアリングシフトスイッチ91の操作により非協調モードに切り替えられた車両制御モードを協調モードに復帰させる。これにより、車両制御モードは非協調モードから協調モードに切り替えられる。そして、車両制御モードが非協調モードから協調モードに切り替えられると、その時点から要求駆動力Fdの値に対する徐変処理、即ち上述したなまし処理が開始され、このなまし処理を通じて算出された目標駆動力Fpの値に基づいて変速制御及び出力制御が実行される。こうして車両制御モードが協調モードに復帰すると、この処理は終了される。
【0060】
一方、ステップS100において、車速SPDが所定車速SPDn以上である旨判定された場合(ステップS100:NO)、またはステップS110において、アクセル操作量ACCPが所定量ACCPst未満である旨判定された場合(ステップS110:NO)には、現在選択されている変速段に対応する変速比Rのままであっても、運転者の要求に近い加速を実現することができるため、そのまま非協調モードによる車両制御を継続してこの処理を一旦終了する。
【0061】
以下、このように車両制御モードを協調モードに自動復帰させた場合の作用について図6を参照して説明する。尚、図6は、本実施形態にかかる車両制御モードの自動復帰と、目標スロットル開度TAp及び車両の加速度Gの変化と関係を示すタイミングチャートである。
【0062】
図6に示されるように、時刻t1以前にあっては、ステアリングシフトスイッチ91の操作により車両制御モードが非協調モードに切り替えられており、変速段が「6速」に設定されている。
【0063】
時刻t1において、車両を急加速させるべく、運転者がアクセルペダル60を踏み込み始めると、これに伴ってアクセル操作量ACCPの値が増大し始める。上述したように非協調モードにあっては、アクセル操作量ACCPの値に比例して目標スロットル開度TApがより大きな値に設定されるため、これに伴って目標スロットル開度TApが増大し、実際のスロットル開度TAが増大されるようになる。尚、これと同時に図6に破線で示されるように電子制御装置40において算出される要求駆動力Fdの値も増大する。
【0064】
しかしながら、時刻t1〜2にあっては、車速SPDが小さい上、変速段が「6速」に設定されているため、機関回転速度NEが小さい。そのため、スロットル開度TAが増大されても出力が増大しにくく、車速SPDはなかなか上昇しない。
【0065】
そして、時刻t2において、車速SPDが所定車速SPDn未満であり、且つアクセル操作量ACCPが所定量ACCPst以上である旨の判定がなされると、現在選択されている変速段に対応する変速比Rでは、運転者の要求する加速を実現することができない旨の推定がなされ、車両制御モードが協調モードに切り替えられる。
【0066】
そして、時刻t2において算出される要求駆動力Fdの値に対する徐変処理を開始して、図6に実線で示されるように目標駆動力Fpの値を算出し、この目標駆動力Fpの値に基づいて出力制御及び変速制御が実行されるようになる。
【0067】
これにより時刻t2以降にあっては、変速比Rが目標駆動力Fpの値に基づいて自動的に変更されるようになり、図6に示されるように変速比Rが増大される。また、目標スロットル開度TApについても目標駆動力Fpの値に基づいて設定されるようになり、切り替え直後の目標スロットル開度TApの値は図6に示されるようにTAp2に設定される。
【0068】
このように時刻t2において、車両制御モードが協調モードに切り替えられると、アクセル操作量ACCP及び車速SPDに基づいて算出される目標駆動力Fpの値に応じて変速比Rが適切に変更されるようになるため、車速SPDが速やかに上昇するようになる。
【0069】
ところで、車両制御モードを切り替える切替手段として、本実施形態と同様にシフトレバー81に加えて、ステアリングシフトスイッチ91を備える車両にあっては、シフトレバー81がドライブ・ポジション(D)に操作されている状態においてステアリングシフトスイッチ91が操作されることにより非協調モードに移行した場合には、非協調モードに切り替えられている間も要求駆動力Fdの値に徐変処理を実行して目標駆動力Fpを演算し続け、非協調モードから協調モードに切り替えられたときには、それまでの演算に求められた目標駆動力Fpの値に基づいて出力制御及び変速制御を制御することができるようにしたものもある。
【0070】
図6に一点鎖線で示されるように、このように要求駆動力Fdの値に徐変処理を施すことによって算出される目標駆動力Fpの値は、非協調モードにおいてアクセル操作量ACCPに応じて変化する要求駆動力Fd(図6に破線で示される要求駆動力Fd)よりも遅れて変化する。そのため、時刻t1おいてアクセルペダル60が急速に踏み込まれ、時刻t2においてアクセル操作量ACCPが所定量ACCPst以上である旨が判定されて車両制御モードが非協調モードから協調モードへと復帰した場合には、非協調モードにおいてアクセル操作量ACCPの変化に伴って急速に増大した吸入空気量GAが、上記のように遅れて立ち上がる目標駆動力Fp(図6におけるFp3)の値に基づいて制御されるようになる。
【0071】
その結果、切り替え直後にあっては、実際のスロットル開度TAと目標駆動力Fp3に基づいて設定される目標スロットル開度TAp3との間に大きな乖離が生じ、吸入空気量GAが急激に減少されるようになる。その結果、切り替えに伴って機関出力が急激に低下して図6に一点鎖線で示されるように加速度Gが落ち込むようになり、ショックが発生するおそれがある。
【0072】
また、特に上記実施形態のように、アクセル操作量ACCPが所定量ACCPst以上である旨判定されることに基づいて自動的に協調モードへの復帰が行われる場合には、運転者によるシフトレバー81の操作やステアリングシフトスイッチ91の操作を伴わずに非協調モードから協調モードへの切り替えが実行されるため、運転者の予期しないタイミングにおいて車両制御モードの切り替えが実行され、切り替えに伴うショックが運転者に違和感を与えやすい。
【0073】
これに対して、本実形態の車両にあっては、時刻t2において車両制御モードが協調モードに切り替えられるのに際して、切り替え時までは徐変処理を実行せずに切り替え時点から要求駆動力Fdの値に対する徐変処理を開始するようにしている。そのため、図6に示されるように時刻t2までアクセル操作量ACCPの変化に対して高い応答性を有して要求駆動力Fdが立ち上がり、徐変処理はこの立ち上がった要求駆動力Fdに対して実行されるようになる。そのため、図6に示されるように時刻t2において設定される目標駆動力Fp2に基づいて算出される目標スロットル開度TAp2の値は、上記TAp3の値よりも切り替え直前の目標スロットル開度TAp1に近い値となる。その結果、機関出力の低下を抑制し、図6に実線で示されるように加速度Gが落ち込むことなく変化するようになる。
【0074】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)アクセル操作量ACCPが所定量ACCPst以上である旨の判定がなされ、運転者の加速要求が大きいことが推定される場合には、車両制御モードを非協調モードから協調モードに自動復帰させる。これにより、無段変速機30の変速比Rが自動的に変更されてアクセル操作量ACCPに見合った要求駆動力Fdを発生することができるようになり、ステアリングシフトスイッチ91の操作により車両制御モードが非協調モードに切り換えられている状態において変速比Rの小さい変速段が選択されているときに急加速要求がなされた場合であっても、運転者の意図に沿った加速を実現することができるようになる。
【0075】
(2)上記実施形態では、車両制御モードを非協調モードから協調モードに復帰させるに際し、要求駆動力Fdにかかる徐変処理をその復帰時を起点として開始するようにしている。これにより、切り替え時までは徐変処理が実行されないため、アクセル操作量ACCPの変化に対して高い応答性を有して要求駆動力Fdが立ち上がり、徐変処理はこの立ち上がった要求駆動力Fdの値に対して実行されるようになる。その結果、要求駆動力Fdを徐変処理することにより算出される目標駆動力Fpの値の立ち上がり遅れに伴うショックの発生を抑制することができるようになる。
【0076】
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・少なくとも車両制御モードを非協調モードから協調モードに自動復帰させるに際し、要求駆動力Fdにかかる徐変処理をその復帰時を起点として開始するようにしていればよい。即ち、上記のようにアクセル操作量ACCPが所定量ACCPst以上であることに基づいて車両制御モードが協調モードに自動復帰されるときに限らず、車両制御モードを非協調モードから協調モードに切り替えるに際して、要求駆動力Fdにかかる徐変処理をその切り替え時を起点として開始するようにしてもよい。
【0077】
・上記実施形態では、ステアリングシフトスイッチ91としてステアリングホイール90の右側にシフトアップパドル91a、ステアリングホイール90の左側にシフトダウンパドル91bを備える構成を示したが、この構成はステアリングシフトスイッチ91の構成の一例であり、適宜変更することができる。その他のステアリングシフトスイッチ91の構成としては、例えば、ステアリングホイール90の運転者に対向する位置にシフトアップボタンを設け、これに対してステアリングホイール90の裏側にシフトダウンボタンを設けるといった構成を採用することもできる。
【0078】
・尚、上記実施形態では、徐変処理として要求駆動力Fdの値に、過去に設定された設定値を考慮して現在の設定値を算出する、いわゆるなまし処理を実行する例を示したが、この徐変処理の具体的な方法については、適宜変更することができる。例えば、こうしたなまし処理に替えて、要求駆動力Fdの変化速度に上限を設けることにより目標駆動力Fpを算出するといった構成を採用することもできる。
【0079】
・尚、上記実施形態では、内燃機関10の吸入空気量GAを調量する吸入空気量調量機構として吸気通路13にスロットルバルブ14を設け、同スロットルバルブ14の開度を調整することにより吸入空気量GAを調量する構成を示した。これに対して、吸入空気量調量機構は適宜変更することができる。例えば、吸気バルブの最大リフト量及びリフト期間の少なくとも一方を変更するリフト量変更機構を設け、スロットルバルブ14に替えて、リフト量変更機構を通じて吸入空気量GAを調量する内燃機関を搭載した車両にこの発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】この発明の一実施形態にかかる車両の制御装置とその制御対象である内燃機関及び駆動系の概略構成を示す模式図。
【図2】同実施形態にかかるフロアシフト装置のシフトゲートパターンを示す模式図。
【図3】同実施形態にかかる協調モードによる車両制御の概要を示すブロック図。
【図4】同実施形態にかかる非協調モードによる車両制御の概要を示すブロック図。
【図5】同実施形態の車両制御モードの自動復帰にかかる一連の処理の流れを示すフローチャート。
【図6】同実施形態にかかる車両制御モードの切り替えと目標スロットル開度及び車両の加速度の変化と関係を示すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0081】
10…内燃機関、12…クランクシャフト、13…吸気通路、14…スロットルバルブ、20…トルクコンバータ、22…遊星歯車機構、30…無段変速機、40…電子制御装置、50…油圧制御回路、60…アクセルペダル、70…アクセルポジションセンサ、71…車速センサ、72…クランク角センサ、73…スロットル開度センサ、74…回転速度センサ、80…フロアシフト装置、81…シフトレバー、82…シフトゲート、90…ステアリングホイール、91…ステアリングシフトスイッチ、91a…シフトアップパドル、91b…シフトダウンパドル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の駆動力が無段変速機を介して駆動輪に伝達される車両の制御モードとして、車速とアクセル操作量とに基づいて車両の要求駆動力を算出し、同要求駆動力の値に徐変処理を施した目標駆動力に基づいて前記内燃機関の吸入空気量調量機構の目標操作量と無段変速機の目標変速比とを設定して前記内燃機関及び前記無段変速機を制御する協調モードと、予め設定された複数の変速段のうち、運転者の選択した前記変速段に対応する変速比に前記無段変速機の変速比を保持するとともに、アクセル操作量に対応した前記吸入空気量調量機構の目標操作量を設定して前記内燃機関及び前記無段変速機を各別に制御する非協調モードとを有し、
前記協調モードと前記非協調モードとの間で車両制御モードを切り替える切替手段として、同車両制御モードを前記協調モードとするシフト位置と前記非協調モードとするシフト位置とを含む複数の位置にシフト位置を切り替え可能なシフトレバーと、ステアリングホイールに設けられて前記無段変速機の変速段を選択するステアリングシフトスイッチとを備え、前記シフトレバーが前記協調モードに対応するシフト位置に操作されている状態であっても、前記ステアリングシフトスイッチが操作された場合には車両制御モードを前記非協調モードに切り替える車両の制御装置において、
前記ステアリングシフトスイッチが操作されたことに基づいて車両制御モードが前記非協調モードに切り替えられているときに、アクセル操作量が所定量以上である旨の判定がなされた場合には、前記ステアリングシフトスイッチの操作に基づく車両制御モードの切り替えを無効化して同車両制御モードを前記協調モードに復帰させる
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
車両制御モードを前記非協調モードから前記協調モードに復帰させるに際し、要求駆動力にかかる前記徐変処理をその復帰時を起点として開始する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
前記吸入空気量調量機構として、吸気通路にスロットルバルブを備え、
前記目標操作量として、目標スロットル開度を設定する
請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記吸入空気量調量機構として、前記内燃機関の吸気バルブの最大リフト量及びリフト期間を変更するリフト量変更機構を備える
請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−296618(P2008−296618A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141900(P2007−141900)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】