説明

車両の走行制御装置

【課題】旋回補助制御よって旋回内輪の前後力が低減されることに起因して運転者が走行阻害感の如き不満を感じる虞れを低減する。
【解決手段】旋回内輪の前後力を低減することにより旋回外輪に比して旋回内輪の前後力が小さくなるよう車輪の前後力を制御する旋回補助制御を行う車両の走行制御装置。車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性が高いときには該困難性が低いときに比して旋回内輪の前後力の低減が開始され難くし、また旋回内輪の前後力の低減量を小さくする。上記困難性は車輪の駆動力による車輪の移動に対する抵抗及び車輪から路面への駆動力の伝達のし難さの少なくとも一方を含み、例えば車両の実際の加速度と運転者の駆動操作量に基づく車両の規範加速度との偏差に基づいて判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に係り、更に詳細には旋回外輪に比して旋回内輪の前後力が小さくなるよう車輪の前後力を制御する旋回補助制御を行う走行制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
旋回補助制御、例えば旋回内側後輪に制動力を付与することにより車両の旋回性能を向上させる制御は既に知られている。旋回補助制御の一例が例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−49020号公報
【発明の概要】
【0004】
〔発明が解決しようとする課題〕
旋回補助制御に於いては例えば旋回内側後輪に制動力を付与することによって旋回内輪の前後力を低減することにより車両に旋回補助方向のヨーモーメントが付与される。そのため旋回補助制御が行われると、車両全体の駆動力が低減される。
【0005】
特にオフロード走行時の如く走行路面が軟らかい場合には、制動力が付与された旋回内輪が路面にめり込み易く、また旋回内輪以外の車輪の駆動力が路面に伝わり難い。そのため運転者が望む通りに車両を走行させることができないことに起因して運転者が走行阻害感の如き不満を感じることがある。
【0006】
本発明は、旋回補助制御によって旋回内輪の前後力が低減される場合に於ける上述の問題に着目してなされたものである。そして本発明の主要な課題は、旋回補助制御に起因して運転者が走行阻害感の如き不満を感じる虞れを低減することである。
【0007】
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、本発明によれば、旋回内輪の前後力を低減することにより旋回外輪に比して旋回内輪の前後力が小さくなるよう車輪の前後力を制御する旋回補助制御を行う車両の走行制御装置に於いて、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性が高いときには前記困難性が低いときに比して前記旋回内輪の前後力の低減量を小さくすることを特徴とする車両の走行制御装置によって達成される。
【0008】
上記の構成によれば、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性が高いときには該困難性が低いときに比して旋回内輪の前後力の低減量が小さくされる。よって旋回内輪の前後力の低減量が小さくされる量に相当する量にて旋回内輪の制動スリップが低減されると共に車両全体の駆動力の低下量が低減される。従って走行路面が軟らかい場合にも旋回内輪が路面にめり込み難くなり、車両全体の駆動力が増大されるので、運転者が望む通りに車両を走行させることができないことに起因して運転者が走行阻害感の如き不満を感じる虞れを低減することができる。
【0009】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記旋回内輪の前後力の低減が開始される際の前記困難性が高いときには前記困難性が低いときに比して前記旋回内輪の前後力の低減が開始され難くするよう構成される(請求項2の構成)。
【0010】
上記の構成によれば、上記困難性が高いときには上記困難性が低いときに比して旋回内輪の前後力の低減が開始され難くされる。従って上記困難性が低いときに於ける車両の旋回性能の向上を図りつつ、上記困難性が高いときに旋回補助制御により旋回内輪の前後力が低減されることに起因して運転者が走行阻害感の如き不満を感じる虞れを低減することができる。
【0011】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値を演算し、前記旋回内輪の前後力の低減が実行されている状況に於ける前記指標値が修正判定基準値以上であるときには、前記指標値が高いほど小さくなるよう前記旋回内輪の前後力の低減量を小さくするよう構成される(請求項3の構成)。
【0012】
上記の構成によれば、旋回内輪の前後力の低減が実行されている状況に於ける困難性の指標値が修正判定基準値以上であるときには、困難性の指標値が高いほど小さくなるよう旋回内輪の前後力の低減量が小さくされる。従って困難性の指標値に応じて旋回内輪の前後力の低減量を小さくすることができる。
【0013】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、前記指標値が前記修正判定基準値よりも大きい終了判定基準値以上であるときには、前記旋回内輪の前後力の低減を終了するよう構成される(請求項4の構成)。
【0014】
上記の構成によれば、困難性の指標値が修正判定基準値よりも大きい終了判定基準値以上であるときには、旋回内輪の前後力の低減が終了される。従って困難性の指標値が非常に高いときには、旋回補助制御による旋回内輪の前後力の低減を終了させて運転者が走行阻害感の如き不満を感じる虞れを効果的に低減することができる。
【0015】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値を演算し、前記旋回内輪の前後力の低減が開始される際の前記指標値が開始修正基準値以上であるときには、前記旋回内輪の前後力の低減の開始基準値を高くするよう構成される(請求項5の構成)。
【0016】
上記の構成によれば、旋回内輪の前後力の低減が開始される際の困難性の指標値が開始修正基準値以上であるときには、旋回内輪の前後力の低減の開始基準値が高くされる。従って困難性の前記指標値が非常に高いときには、旋回内輪の前後力の低減が開始されにくくなるので、旋回補助制御により旋回内輪の前後力が低減されることに起因して運転者が走行阻害感の如き不満を感じる虞れを低減することができる。
【0017】
また本発明によれば、上記請求項5の構成に於いて、前記指標値が前記開始修正基準値よりも大きい開始判定基準値以上であるときには、前記旋回内輪の前後力の低減の開始を禁止するよう構成される(請求項6の構成)。
【0018】
上記の構成によれば、困難性の指標値が開始修正基準値よりも大きい開始判定基準値以上であるときには、旋回内輪の前後力の低減が開始されることを阻止することができる。
【0019】
また本発明によれば、上記請求項1乃至6の構成に於いて、車両は乗員による路面状況の判定に基づいて乗員により操作されるスイッチを有し、前記スイッチの操作位置に応じて車両の最適な運転設定を表示する運転支援装置を含み、前記走行制御装置は前記スイッチの操作位置に基づいて前記困難性を判定するよう構成される(請求項7の構成)。
【0020】
上記の構成によれば、運転支援装置のスイッチの操作位置に基づいて困難性が判定されるので、乗員による路面状況の判定に基づいて旋回内輪の前後力の低減量を小さくすることができる。
【0021】
また本発明によれば、上記請求項1乃至6の構成に於いて、前記困難性は車輪の駆動力による車輪の移動に対する抵抗及び車輪から路面への駆動力の伝達のし難さの少なくとも一方を含むよう構成される(請求項8の構成)。
【0022】
上記の構成によれば、上記困難性は車輪の駆動力による車輪の移動に対する抵抗及び車輪から路面への駆動力の伝達のし難さの少なくとも一方を含むので、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性を効果的に判定することができる。
【0023】
尚本願に於いて、車輪の「前後力」は車両の進行方向を正とする制駆動力である。そして前後力の低減は車両の進行方向の前後力の大きさを小さくすることのみならず、車両の進行方向の前後力を発生している車輪に車両の進行方向とは逆方向の前後力を付加することを含むものである。
【0024】
また本願に於いて、「旋回内側後輪」は車両の進行方向に対し後ろ側にある旋回内輪を意味する。よって「旋回内側後輪」の「後輪」は車両が前進するときには車両の後輪であるが、車両が後進するときには車両の前輪である。
【0025】
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至8の構成に於いて、旋回補助制御は旋回内輪に制動力を付与することにより車両に旋回補助方向のヨーモーメントを付与する制御であるよう構成される。
【0026】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記の構成に於いて、旋回内輪は旋回内側後輪であるよう構成される。
【0027】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の構成に於いて、運転者の駆動操作量に基づいて車両の規範加速度が演算され、車両の実際の加速度と車両の規範加速度との偏差が加速度の偏差として演算され、加速度の偏差に基づいて車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値が演算されるよう構成される。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記の構成に於いて、車両の規範加速度は運転者の駆動操作量及び車両の前後方向の傾斜角に基づいて演算されるよう構成される。
【0029】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至8の構成に於いて、旋回内輪の目標スリップ率が演算され、旋回内輪のスリップ率が目標スリップ率にるよう制御される。
【0030】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記の構成に於いて、目標スリップ率が困難性の指標値に基づいて補正されるよう構成される。
【0031】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記の構成に於いて、目標スリップ率が運転支援装置のスイッチの操作位置に基づいて補正されるよう構成される。
【0032】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至8の構成に於いて、車両はオフロード車であるよう構成される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】四輪駆動車に適用された本発明による車両の走行制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第一の実施形態に於ける旋回補助制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図3】第一の実施形態に於ける旋回補助制御の許可判定のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図4】第一の実施形態に於ける旋回補助制御のための制動圧制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図5】アクセル開度Accと車両の傾斜角φと車両の規範加速度Gdtとの間の関係を示すグラフである。
【図6】加速度の偏差ΔGdvと車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値Ddvとの間の関係を示すグラフである。
【図7】困難性の指標値Ddvと補正係数Kdvとの間の関係を示すグラフである。
【図8】四輪駆動車に適用された本発明による車両の走行制御装置の第二の実施形態を示す概略構成図である。
【図9】第二の実施形態に於ける旋回補助制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図10】第二の実施形態に於ける旋回補助制御のための制動圧制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい幾つかの実施形態について詳細に説明する。
【0035】
第一の実施形態
図1は四輪駆動車に適用された本発明による車両の走行制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【0036】
図1に於いて、100は車両102に搭載された走行制御装置を全体的に示している。また10はエンジンを示しており、エンジン10の駆動力はトルクコンバータ12及びトランスミッション14を介して出力軸16へ伝達される。出力軸16の駆動力は駆動状態を切替えるトランスファー18により前輪用駆動軸20若しくは後輪用駆動軸22へ伝達される。エンジン10の出力は運転者により操作されるアクセルペダル23の踏み込み量等に応じてエンジン制御装置24により制御される。
【0037】
またトランスファー18は駆動状態を4WD状態と2WD状態とに切替えるアクチュエータを含み、該アクチュエータは運転者により操作される選択スイッチ(SW)26に応答して4WD制御装置28により制御される。選択スイッチ26はH4位置、H2位置、N位置、L4位置に切替えられるようになっている。
【0038】
選択スイッチ26がH4位置にあるときには、トランスファー18は出力軸16の駆動力を前輪用駆動軸20及び後輪用駆動軸22へ伝達する4WD位置に設定される。これに対し選択スイッチ26がH2位置にあるときには、トランスファー18は出力軸16の駆動力を後輪用駆動軸22のみへ伝達する2WD位置に設定される。選択スイッチ26がN位置にあるときには、トランスファー18は出力軸16の駆動力を前輪用駆動軸20及び後輪用駆動軸22の何れにも伝達しない位置に設定される。更に選択スイッチ26がL4位置にあるときには、トランスファー18はH4位置の場合よりも低車速高トルク用の駆動力として出力軸16の駆動力を前輪用駆動軸20及び後輪用駆動軸22へ伝達する4WD位置に設定される。
【0039】
図1に示されている如く、4WD制御装置28は選択スイッチ26より入力される指令信号に基づきトランスファー18に対する4WD制御装置28の指令位置が2WD位置及び4WD位置の何れであるかを示す信号をエンジン制御装置24へ出力する。エンジン制御装置24は4WD制御装置28の指令位置に応じてエンジン10の出力を制御する。
【0040】
前輪用駆動軸20の駆動力は前輪ディファレンシャル30により左前輪車軸32L及び右前輪車軸32Rへ伝達され、これにより左右の前輪34FL及び34FRが回転駆動される。同様に後輪用駆動軸22の駆動力は後輪ディファレンシャル36により左後輪車軸38L及び右後輪車軸38Rへ伝達され、これにより左右の後輪40RL及び40RRが回転駆動される。
【0041】
左右の前輪34FL、34FR及び左右の後輪40RL、40RRの制動力は制動装置42の油圧回路44により対応するホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RRの制動圧が制御されることによって制御される。図には示されていないが、油圧回路44はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含んでいる。各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル47の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ48により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く走行制御用電子制御装置50により制御される。
【0042】
電子制御装置50には車輪速度センサ52FL、52FR、52RL、52RRより左右前輪及び左右後輪の車輪速度Vi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力される。また電子制御装置50には車速センサ54より車速Vを示す信号が入力され、操舵角センサ56より操舵角θを示す信号が入力される。尚操舵角センサ56は車両の左旋回方向を正として操舵角を検出する。
【0043】
また電子制御装置50には前後加速度センサ58より車両の前後加速度Gxを示す信号が入力され、また傾斜角センサ60より車両の前後方向の傾斜角φを示す信号が入力される。尚前後加速度センサ58は車両の加速方向を正として車両の前後加速度Gxを検出し、傾斜角センサ60は車両の登り傾斜を正として車両の傾斜角φを検出する。
【0044】
更に電子制御装置50には選択スイッチ26よりトランスファー18が何れの位置にあるかを示す信号が入力され、また車両の乗員により操作される旋回補助スイッチ62より旋回補助スイッチがオンか否かを示す信号が入力される。
【0045】
またエンジン制御装置24にはアクセルペダル23に設けられた図1には示されていないアクセル開度センサよりアクセル開度Accを示す信号が入力される。尚エンジン制御装置24、4WD制御装置28、電子制御装置50は実際には例えばCPU、ROM、RAM、入出力装置を含む一つのマイクロコンピュータ及び駆動回路にて構成されていてよい。
【0046】
後に詳細に説明する如く、電子制御装置50は旋回補助スイッチ62がオンであるときには、旋回補助制御による制御力の付与を実行すべきか否かを判定する。そして電子制御装置50は実行すべきと判定したときには、旋回内側後輪の目標制動スリップ率Sbrintを演算する。更に電子制御装置50は旋回内側後輪の制動スリップ率が目標制動スリップ率Sbrintになるよう旋回内側後輪に制動力を付与し、これにより車両に旋回を補助するヨーモーメントを付与する。
【0047】
また電子制御装置50は旋回補助制御による制御力の付与を実行していないときには、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値Ddvを演算する。そして電子制御装置50は指標値Ddvが基準値Ddvs(正の定数)以下であるときには旋回補助制御による制御力の付与を許可するが、指標値Ddvが基準値Ddvsよりも大きいときには旋回補助制御による制御力の付与を禁止する。
【0048】
また電子制御装置50は旋回補助制御による制御力の付与を実行しているときにも、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値Ddvを演算する。そして電子制御装置50は指標値Ddvが0であるときには目標制動スリップ率Sbrintを低減補正しないが、指標値Ddvが正の値であるときには目標制動スリップ率Sbrintを低減補正し、これにより旋回内側後輪に付与される制動力を低減する。
【0049】
また電子制御装置50は車両が駆動状態にあるときには、トラクション制御の制御対象車輪について駆動スリップ率Sdri(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。そして電子制御装置50は駆動スリップ率が過大な車輪があるときには、当該車輪に駆動スリップ率に応じた制動力を付与し、これにより過大な駆動スリップを低減するトラクション制御を行う。尚旋回内側後輪についてはトラクション制御よりも旋回補助制御による制御力の付与が優先して実行される。
【0050】
更に電子制御装置50は図には示されていないヨーレートセンサ等により検出される車両の状態量に基づいて車両がオーバーステア状態又はアンダーステア状態にあるか否か、即ち車両運動制御による制御力の付与が必要であるか否かを判定する。そして電子制御装置50は制御力の付与が必要であると判定したときには、車両運動制御の制御対象車輪に制動力を付与して車両の旋回運動を安定化させるオーバーステア抑制制御又はアンダーステア抑制制御を行う。
【0051】
特にオーバーステア抑制制御に於いては、少なくとも旋回外側前輪に制動力が付与されることにより、車両に旋回抑制方向のヨーモーメントが付与されると共に車両が減速される。またアンダーステア抑制制御に於いては、少なくとも左右後輪に制動力が付与され、旋回内側後輪の制動力が旋回外側後輪の制動力よりも高くされることにより、車両が減速されると共に車両に旋回促進方向のヨーモーメントが付与される。
【0052】
次に図2に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態に於ける旋回補助制御のルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0053】
まずステップ50に於いては旋回補助制御による制動力の付与、即ち旋回内側後輪に対する制動力の付与が行われているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ500へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ100へ進む。
【0054】
ステップ100に於いては図3に示されたフローチャートに従って旋回補助制御による制動力の付与の許可条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御は一旦終了され、肯定判別が行われたときには制御はステップ300へ進む。
【0055】
ステップ300に於いては旋回補助制御による制動力の付与の開始可条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御は一旦終了され、肯定判別が行われたときには制御はステップ400へ進む。
【0056】
この場合(a1)操舵角θの絶対値が基準値θtas以上である、及び(a2)アクセルペダル23が踏み込まれている、の二つの条件が成立しているときに開始条件が成立していると判定されてよい。尚基準値θtasは正の定数であってもよいが、車速Vが低いときには車速Vが高いときに比して大きい値になるよう、車速Vに応じて可変設定されてもよい。
【0057】
ステップ400に於いては操舵角θの絶対値が大きいときには操舵角θの絶対値が小さいときに比して大きい値になるよう、操舵角θの絶対値に基づいて旋回内側後輪の目標増圧勾配ΔPbrintが演算される。尚目標増圧勾配がΔPbrintは車速Vが低いときには車速Vが高いときに比して大きい値になるよう、車速Vにも応じて可変設定されてもよい。
【0058】
ステップ450に於いては旋回内側後輪の増圧勾配が目標増圧勾配ΔPbrintになるよう、旋回内側後輪の制動圧が制御され、これにより旋回内側後輪に対する制動力の付与が開始される。
【0059】
ステップ500に於いては旋回補助制御による制動力の付与の終了条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ700へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ550へ進む。
【0060】
この場合下記の何れかの条件が成立しているときに旋回補助制御による制動力の付与の終了条件が成立していると判定されてよい。
(b1)操舵角θの絶対値が制御終了の基準値θtae(正の定数)以下になった。
(b2)旋回補助スイッチ62がオフ位置に切替えられた。
(b3)車両運動制御による制動力の付与が必要になった。
(b4)旋回補助制御による制動力の制御を正常に実行できなくなった。
(b5)車両運動制御を正常に実行できなくなった。
【0061】
ステップ550に於いては旋回内側後輪の制動圧が低減され、これにより旋回内側後輪に対する制動力の付与が終了される。
【0062】
ステップ700に於いては旋回内側後輪の制動圧が図4に示されたフローチャートに従って制御され、これにより旋回補助制御による旋回内側後輪に対する制動力の付与が実行される。
【0063】
次に図3に示されたフローチャートを参照してステップ100に於ける旋回補助制御による制動力付与の許可条件成立判定のサブルーチンについて説明する。
【0064】
ステップ110に於いてはアクセル開度Accに基づいて図5に示されたグラフに対応するマップより車両の規範加速度Gdtが演算される。図5に示されている如く、規範加速度Gdtはアクセル開度Accが大きいほど大きくなるよう演算される。また規範加速度Gdtは車両の傾斜角φが正の値で大きさが大きいほど小さくなり、車両の傾斜角φが負の値で大きさが大きいほど大きくなるよう演算される。
【0065】
ステップ120に於いては車両の実際の加速度Gxと車両の規範加速度Gdtとの偏差(Gx−Gdt)が加速度の偏差ΔGdvとして演算される。
【0066】
ステップ130に於いては加速度の偏差ΔGdvに基づいて図6に示されたグラフに対応するマップより車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値Ddvが演算される。図6に示されている如く、困難性の指標値Ddvは加速度の偏差ΔGdvが負の値で大きさが大きいほど大きくなるよう演算され、加速度の偏差ΔGdvが負の基準値以上であるときには0に設定される。
【0067】
ステップ140に於いては困難性の指標値Ddvが制御開始判定の基準値Ddvs以下であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには旋回補助制御による制動力の付与の開始可条件が成立していない旨の判定が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ150へ進む。
【0068】
ステップ150に於いては他の許可条件が成立しているか否かの判定が行われる。そして否定判別が行われたときには旋回補助制御による制動力の付与の許可条件が成立していない旨の判定が行われ、肯定判別が行われたときには許可条件が成立している旨の判定が行われる。
【0069】
この場合以下の全ての条件が成立しているときに他の許可条件が成立していると判定されてよい。
(c1)センサ及び制動装置42が正常で、車両運動制御を正常に実行可能である。
(c2)選択スイッチ26がL4位置に設定されている。
(c3)旋回補助スイッチ58がオン位置に設定されている。
(c4)車両運動制御による制動力の付与が実行されていない。
【0070】
次に図4に示されたフローチャートを参照してステップ700に於ける旋回補助制御による旋回内側後輪の制動力の制御のサブルーチンについて説明する。
【0071】
ステップ710乃至730はそれぞれ上述のステップ110乃至130と同様に実行され、これにより車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値Ddvが演算される。
【0072】
ステップ740に於いては操舵角θの絶対値が大きいときには操舵角θの絶対値が小さいときに比して大きい値になるよう、操舵角θの絶対値に基づいて旋回内側後輪の目標制動スリップ率Sbrintが演算される。尚目標制動スリップ率Sbrintは車速Vが低いときには車速Vが高いときに比して大きい値になるよう、車速Vにも応じて可変設定されてもよい。
【0073】
ステップ750に於いては困難性の指標値Ddvが0であるか否かの判別、即ち困難性の指標値Ddvに基づく目標制動スリップ率Sbrintの補正が不要であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ770へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ760へ進む。
【0074】
ステップ760に於いては困難性の指標値Ddvが正の値で大きいほど目標制動スリップ率Sbrintが小さくなるよう、困難性の指標値Ddvに基づいて目標制動スリップ率Sbrintが低減補正される。例えば図7に示されている如く、困難性の指標値Ddvが大きいほど小さくなるよう1以下の正の補正係数Kdvが演算され、目標制動スリップ率Sbrintがそれに補正係数Kdvを乗算することによって低減補正される。
【0075】
ステップ770に於いては旋回内側後輪を除く三つの車輪の車輪速度うち最も低い車輪速度を基準車輪速度として、旋回内側後輪の制動スリップ率Sbrinが演算される。また旋回内側後輪の制動スリップ率Sbrinが目標制動スリップ率Sbrint以上になったか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ780へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ790へ進む。
【0076】
ステップ780に於いては旋回内側後輪の制動圧の増大が停止され、これにより旋回内側後輪の制動力の増大が停止される。これに対しステップ790に於いては旋回内側後輪の制動圧の増大が継続され、これにより旋回内側後輪の制動力の増大が継続される。
【0077】
かくして第一の実施形態によれば、旋回補助制御を開始すべき状況になると、ステップ50、100、300に於いてそれぞれ否定判別、肯定判別、肯定判別が行われる。そしてステップ400及び450に於いて旋回内側後輪に対する制動力の付与が開始され、ステップ500に於いて肯定判別が行われるまで旋回内側後輪の制動スリップ率Sbrinが目標制動スリップ率Sbrintになるよう制御される。
【0078】
よって左右後輪の制動力差による旋回補助方向のヨーモーメントが車両に付与され、これにより車両の旋回が補助される。従って旋回補助制御による制動力の付与が行われない場合に比して車両の旋回性が向上される。
【0079】
また第一の実施形態によれば、旋回補助制御による制動力の付与が行われているときには、ステップ710乃至730に於いて車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値Ddvが演算される。そして指標値Ddvが正の値であるときには、目標制動スリップ率Sbrintは指標値Ddvが大きいほど小さくなるよう低減補正される。
【0080】
よって第一の実施形態によれば、旋回補助制御による制動力の付与が行われている状況に於いて、車両が砂地に差し掛かった場合の如く、困難性の指標値Ddvが正の値で大きさが大きくなると、それに応じて目標制動スリップ率Sbrintが低減される。従って旋回内側後輪に対し高い制動力の付与が継続されることに起因して車両全体の駆動力が不足し、これに起因して運転者が走行阻害感を覚える虞れを低減することができる。
【0081】
特に第一の実施形態によれば、目標制動スリップ率Sbrintは指標値Ddvが大きいほど小さくなるよう低減補正されるので、指標値Ddvの大きさが変化しても目標制動スリップ率Sbrintが急激に変化しない。よって目標制動スリップ率Sbrintの急激な変化に伴う旋回内側後輪の制動力の急激な変動や車両全体の駆動力の急激な変動を防止することができる。
【0082】
また車両全体の駆動力が回復すると、運転者の駆動操作量が低減されるので、加速度の偏差ΔGdvの大きさも減少し、これにより、困難性の指標値Ddvの大きさが小さくなる。よって車両全体の駆動力の回復の程度に応じて目標制動スリップ率Sbrintの低減補正量を低減することができる。
【0083】
また第一の実施形態によれば、旋回補助制御による制動力の付与が行われていないときには、ステップ110乃至130に於いて車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値Ddvが演算される。そして指標値Ddvが正の値であるときには、他の許可条件が成立しているか否かに関係なく、旋回補助制御による制動力の付与の許可条件が成立していないと判定され、旋回補助制御による制動力の付与が禁止される。
【0084】
よって第一の実施形態によれば、車両が砂地等を走行している状況に於いて操舵角の大きさが大きくなり、旋回補助制御による制動力の付与が必要になっても、困難性の指標値Ddvが正の値で大きさが大きいと、旋回補助制御による制動力の付与は開始されない。従って旋回内側後輪に対し高い制動力の付与が開始されることに起因して車両全体の駆動力が不足し、これに起因して運転者が走行阻害感を覚える虞れを低減することができる。
【0085】
また第一の実施形態によれば、困難性の指標値Ddvを演算するための車両の規範加速度Gdtは、アクセル開度Accが大きいほど大きくなるよう演算されるだけでなく、車両の傾斜角φも考慮して演算される。よって車両の傾斜角φに応じて車両の規範加速度Gdtを適正に演算し、これにより車両の傾斜角φの符号や大小に関係なく困難性の指標値Ddvを適正に演算することができる。
【0086】
第二の実施形態
図8は四輪駆動車に適用された本発明による車両の走行制御装置の第二の実施形態を示す概略構成図である。
【0087】
尚図8に於いて、図1に示された部材に対応する部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
【0088】
この第二の実施形態に於いては、図8に示されている如く、車両102には運転支援装置64が設けられている。運転支援装置64は運転者の路面状況の判定に基づいて選択スイッチ66によりモードが選択されると、運転者に運転操作をアドバイスする運転支援情報をモニター68に表示する。また運転支援装置64は選択されたモードに応じてトラクション制御を最適に実行する。
【0089】
特に選択スイッチ66は「MUD & SAND」、「LOOSE ROCK」、「MOGUL」、「ROCK」の四つのモードを選択し得るようになっている。「MUD
& SAND」は路面が泥しょう地、砂場、深雪路など滑り易い路面である場合に選択される。「LOOSE ROCK」は路面ががれき路、ブッシュなど土と石が混じった滑り易い路面である場合に選択される。「MOGUL」は路面が段差、溝、傾斜、坂など凹凸の激しい路面である場合に選択される。「ROCK」は路面が岩場など岩石の多い路面である場合に選択される。
【0090】
尚この種の運転支援装置は例えば「テレインセレクト」なる商品名にて既に一部の市販のオフロード車に搭載されている。
【0091】
この第二の実施形態に於いても、電子制御装置50は旋回補助スイッチ62がオンであるときには、旋回補助制御による制御力の付与を実行すべきか否かを判定する。そして電子制御装置50は実行すべきと判定したときには、旋回内側後輪の目標制動スリップ率Sbrintを演算する。更に電子制御装置50は旋回内側後輪の制動スリップ率が目標制動スリップ率Sbrintになるよう旋回内側後輪に制動力を付与し、これにより車両に旋回を補助するヨーモーメントを付与する。
【0092】
また電子制御装置50は旋回補助制御による制御力の付与を実行していないときには、運転支援装置64の選択スイッチ66により選択されたモードが「MUD
& SAND」であるか否かを判定する。そして電子制御装置50は選択されたモードが「MUD & SAND」以外であるときには旋回補助制御による制御力の付与を許可するが、選択されモードが「MUD
& SAND」であるときには旋回補助制御による制御力の付与を禁止する。
【0093】
また電子制御装置50は旋回補助制御による制御力の付与を実行しているときにも、選択スイッチ66により選択されたモードが「MUD
& SAND」であるか否かを判定する。そして電子制御装置50は選択されたモードが「MUD & SAND」であるときには旋回補助制御による制御力の付与を終了する。これに対し選択されたモードが「MUD
& SAND」以外であるときには、電子制御装置50は目標制動スリップ率Sbrintをモードに応じて低減補正し、これにより旋回内側後輪に付与される制動力を低減する。
【0094】
図9は第二の実施形態に於ける旋回補助制御のルーチンを示すフローチャート、図10は第二の実施形態に於ける旋回補助制御のための制動圧制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
【0095】
尚図9及び図10に於いて、図2及び図4に示されたステップに対応するステップにはそれぞれ図2及び図4に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
【0096】
図9に示されている如く、この第二の実施形態に於いては、ステップ50に於いて否定判別が行われたときには制御はステップ200へ進む。そしてステップ200に於いては前述のc1〜c4の全てが成立しているか否かの判別により、旋回補助制御の許可条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御は一旦終了され、肯定判別が行われたときには制御はステップ250へ進む。
【0097】
ステップ250に於いては選択スイッチ66により選択されたモードが「MUD & SAND」であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御は一旦終了され、否定判別が行われたときには制御はステップ300へ進む。
【0098】
またステップ500に於いて否定判別が行われたときには制御はステップ600へ進む。そしてステップ600に於いてはステップ250の場合と同様に選択スイッチ66により選択されたモードが「MUD
& SAND」であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ550へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ800へ進む。
【0099】
ステップ800に於いては旋回内側後輪の制動圧が図10に示されたフローチャートに従って制御され、これにより旋回補助制御による旋回内側後輪に対する制動力の付与が実行される。
【0100】
図10に示された旋回内側後輪の制動圧制御ルーチンのステップ810に於いては、第一の実施形態に於けるステップ740の場合と同様に、旋回内側後輪の目標制動スリップ率Sbrintが演算される。即ち操舵角θの絶対値が大きいときには操舵角θの絶対値が小さいときに比して大きい値になるよう、操舵角θの絶対値に基づいて旋回内側後輪の目標制動スリップ率Sbrintが演算される。尚この実施形態に於いても、目標制動スリップ率Sbrintは車速Vが低いときには車速Vが高いときに比して大きい値になるよう、車速Vにも応じて可変設定されてもよい。
【0101】
ステップ820に於いては選択スイッチ66により選択されたモードに応じて補正係数Ksbが1よりも小さい正の値に設定される。例えば補正係数Ksbは選択されたモードが「LOOSE ROCK」、「MOGUL」、「ROCK」であるときにそれぞれ0.3、0.5、0.7に設定される。
【0102】
ステップ830に於いては目標制動スリップ率Sbrintがそれに補正係数Ksbを乗算することによって低減補正され、しかる後第一の実施形態に於けるステップ770乃至790の場合と同様にステップ840乃至860が実行される。
【0103】
かくして第二の実施形態によれば、旋回補助制御を開始すべき状況になると、ステップ50、200、250、300に於いてそれぞれ否定判別、肯定判別、否定判別、肯定判別が行われる。そしてステップ400及び450に於いて旋回内側後輪に対する制動力の付与が開始され、ステップ500又は600に於いて肯定判別が行われるまで旋回内側後輪の制動スリップ率Sbrinが目標制動スリップ率Sbrintになるよう制御される。
【0104】
よって第一の実施形態の場合と同様に、左右後輪の制動力差による旋回補助方向のヨーモーメントが車両に付与され、これにより車両の旋回が補助される。従って旋回補助制御による制動力の付与が行われない場合に比して車両の旋回性が向上される。
【0105】
また第二の実施形態によれば、ステップ500に於いて否定判別が行われても、ステップ600に於いて肯定判別が行われると、ステップ550に於いて旋回内側後輪の制動圧が低減され、これにより旋回内側後輪に対する制動力の付与が終了される。
【0106】
よって第二の実施形態によれば、旋回補助制御による制動力の付与が行われている状況に於いて、車両が砂地に差し掛かった場合の如く、「LOOSE
ROCK」のモードが選択されると、旋回内側後輪に対する制動力の付与を終了させることができる。従って車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性が非常に高い状況に於いて、旋回内側後輪に対し高い制動力の付与が継続されることに起因して車両全体の駆動力が不足し、これに起因して運転者が走行阻害感を覚える虞れを低減することができる。
【0107】
また第二の実施形態によれば、旋回補助制御による制動力の付与が行われているときには、ステップ820及び830に於いて選択スイッチ66により選択されたモードに応じて補正係数Ksbが1よりも小さい正の値に設定される。換言すれば補正係数Ksbが車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性に応じて設定される。そして困難性が高いほど小さくなるよう目標制動スリップ率Sbrintが低減補正される。
【0108】
よって第二の実施形態によれば、旋回補助制御による制動力の付与が行われている状況に於いて、車両ががれき路等に差し掛かったような場合には、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性に応じて目標制動スリップ率Sbrintを低減することができる。従って車両を駆動することの困難性が増大したにも拘らず旋回内側後輪に対し高い制動力の付与が継続されることに起因して車両全体の駆動力が不足し、これに起因して運転者が走行阻害感を覚える虞れを低減することができる。
【0109】
また第二の実施形態によれば、旋回補助制御による制動力の付与が行われていないときには、ステップ200に於いて肯定判別が行われても、「LOOSE
ROCK」のモードが選択されているときには、旋回補助制御による制動力の付与が禁止される。
【0110】
よって第二の実施形態によれば、砂地等を走行している状況に於いて操舵角の大きさが大きくなり、旋回補助制御による制動力の付与が必要になっても、「LOOSE
ROCK」のモードが選択されていれば、旋回補助制御による制動力の付与は開始されない。従って旋回内側後輪に対し高い制動力の付与が開始されることに起因して車両全体の駆動力が不足し、これに起因して運転者が走行阻害感を覚える虞れを低減することができる。
【0111】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0112】
例えば上述の各実施形態に於いては、旋回補助制御は旋回内側後輪の制動スリップ率が目標制動スリップ率になるまで制動力を付与するようになっている。しかし旋回内側後輪の制動力が目標制動力になるよう、制動スリップ量又は制動圧が目標値になるまで制動力が付与されるよう修正されてもよい。
【0113】
また上述の各実施形態に於いては、操舵角θの絶対値に基づいて旋回内側後輪の目標増圧勾配ΔPbrintが演算されることにより、目標増圧勾配が操舵角θの絶対値に応じて可変設定されるようになっているが、目標増圧勾配は一定であってもよい。
【0114】
また上述の第一の実施形態に於いては、アクセル開度Accに基づいて車両の規範加速度Gdtが演算され、車両の実際の加速度Gxと車両の規範加速度Gdtとの偏差が加速度の偏差ΔGdvとして演算される。そして加速度の偏差ΔGdvに基づいて車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値Ddvが演算される。しかし困難性の指標値Ddvは車輪の駆動力による車輪の移動に対する抵抗及び車輪から路面への駆動力の伝達のし難さの少なくとも一方を含み、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性を示す限り他の要領にて演算されてもよい。例えば実際の車速変化率とアクセル開度Accに基づく車両の規範車速変化率との偏差に基づいて演算されてもよい。
【0115】
また上述の第一の実施形態に於いては、車両の規範加速度Gdtの演算に際し車両の傾斜角φが考慮されるようになっているが、車両の傾斜角φが考慮されることなく車両の規範加速度Gdtが演算されるよう修正されてもよい。また車両の積載荷重が高いほど車両の規範加速度Gdtが低くなるよう、規範加速度Gdtの演算に際し車両の積載荷重が考慮されてもよい。
【0116】
また上述の第一の実施形態に於いては、旋回補助制御による制動力の付与についての通常の開始可条件(ステップ150)に加えて、ステップ110乃至140により困難性の指標値Ddvの大きさが追加の開始可条件として判定されるようになっている。しかしこれらのステップが省略されてもよい。
【0117】
同様に上述の第二の実施形態に於いては、旋回補助制御による制動力の付与についての通常の開始可条件(ステップ200)に加えて、ステップ250が追加の開始可条件として判定されるようになっている。しかしこのステップ250が省略されてもよい。
【0118】
また上述の各実施形態に於いては、車輪の前後力の低減は車輪に制動力を付与することによって行われるようになっているが、車輪が駆動輪である場合には、駆動力を低減したり、駆動力を低減すると共に制動力を付与することによって行われてもよい。
【0119】
また上述の各実施形態に於いては、旋回補助制御は旋回内側後輪に制動力を付与するようになっているが、旋回内側前輪に制動力を付与するようになっていてもよい。また一つの旋回内輪に制動力を付与すると共に旋回外輪に駆動力を付与するようになっていてもよい。
【0120】
また上述の各実施形態に於いては、車両は四輪駆動車であるが、第一の実施形態の走行制御装置は後輪駆動車や前輪駆動車に適用されてもよい。
【0121】
また上述の各実施形態に於いては、車両運動制御としてオーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御が行われるようになっているが、これらの制御が行われなくてもよい。
【符号の説明】
【0122】
10…エンジン、18…トランスファー、24…エンジン制御装置、26…選択スイッチ、28…4WD制御装置、30…前輪ディファレンシャル、36…後輪ディファレンシャル、42…制動装置、50…走行制御用電子制御装置、52FL〜52RR…車輪速度センサ、54…車速センサ、56…操舵角センサ、58…前後加速度センサ、60…傾斜角センサ、62…旋回補助スイッチ、64…運転支援装置、66…選択スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回内輪の前後力を低減することにより旋回外輪に比して旋回内輪の前後力が小さくなるよう車輪の前後力を制御する旋回補助制御を行う車両の走行制御装置に於いて、車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性が高いときには前記困難性が低いときに比して前記旋回内輪の前後力の低減量を小さくすることを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記旋回内輪の前後力の低減が開始される際の前記困難性が高いときには前記困難性が低いときに比して前記旋回内輪の前後力の低減が開始され難くすることを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値を演算し、前記旋回内輪の前後力の低減が実行されている状況に於ける前記指標値が修正判定基準値以上であるときには、前記指標値が高いほど小さくなるよう前記旋回内輪の前後力の低減量を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記指標値が前記修正判定基準値よりも大きい終了判定基準値以上であるときには、前記旋回内輪の前後力の低減を終了することを特徴とする請求項3に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
車輪の駆動力により車両を駆動することの困難性の指標値を演算し、前記旋回内輪の前後力の低減が開始される際の前記指標値が開始修正基準値以上であるときには、前記旋回内輪の前後力の低減の開始基準値を高くすることを特徴とする請求項2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記指標値が前記開始修正基準値よりも大きい開始判定基準値以上であるときには、前記旋回内輪の前後力の低減の開始を禁止することを特徴とする請求項5に記載の車両の走行制御装置。
【請求項7】
車両は乗員による路面状況の判定に基づいて乗員により操作されるスイッチを有し、前記スイッチの操作位置に応じて車両の最適な運転設定を表示する運転支援装置を含み、前記走行制御装置は前記スイッチの操作位置に基づいて前記困難性を判定することを特徴とする請求項1乃至6に記載の車両の走行制御装置。
【請求項8】
前記困難性は車輪の駆動力による車輪の移動に対する抵抗及び車輪から路面への駆動力の伝達のし難さの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1乃至6に記載の車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−76472(P2012−76472A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220493(P2010−220493)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】