説明

車両制御装置

【課題】 複数の車両走行モードにおいて燃費・静粛性・ドライバビリティを共存させる。
【解決手段】 変速制御ECU17とエンジン制御ECU42とを別個に有するシステムにおいて、走行モードに応じて変速制御ECU17の変速マップ45を切り替えて変速特性を選択する。変速マップ45は無段変速機1の変速比を制御するために目標エンジン回転数を出力する。モータドライバ46は、目標エンジン回転数と実回転数に基づいてモータ7を駆動して変速比を変化させる。変速マップの切り替えに応答して、エンジン制御ECU42内の複数の点火時期マップ48および複数の燃料噴射時間マップ49の双方から走行モードに対応してマップを一つずつ選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関し、特に、燃料噴射制御および点火制御を行うエンジン制御ECUと、変速機制御を行う駆動系制御ECUとを協調させて動作させる車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと変速機とを協調させて制御する協調制御装置であって、吸気切替弁やトルクコンバータ等、エンジンの可変機構の作動と変速機の作動とによって生じる車両のショックを抑制する装置が知られている(特開2001−39183号公報参照)。前記可変機構は、変速初期、変速中期、変速後期等、変速の種類に基づいて変速中の状態が制御される。
【0003】
また、特開2003−239774号公報には、変速制御が正常に実行されなくなったときに、吸気弁や排気弁の作動特性を制御することにより、車両の駆動力や運転性を確保することができるエンジン制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開2001−39183号公報
【特許文献2】特開2003−239774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載された制御装置では、変速制御とエンジン制御とに一定の関連をもたせているが、変速機の変速モードに関連して燃料噴射制御や点火制御を行うものではない。例えば、マニュアル変速モード並びに複数の自動変速モードから一つを選択して走行できる自動二輪車が考えられる。このような車両に搭載されているエンジン制御装置は、変速モード毎の燃費や静粛性の向上等の観点から変速モード毎に変速制御装置と関連して動作できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、駆動系制御ECUとエンジン制御ECUとが別体である車両制御装置において、変速モードに応じた最適な燃料噴射および点火を行うことができる車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を帰結するための本発明は、エンジンを制御するエンジン制御ECUと、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する無段変速機を制御する駆動系制御ECUとを有する車両制御装置において、複数の走行モードにそれぞれ対応して前記エンジン制御ECU内に設けられた前記制御マップのうち、前記駆動系制御ECUに設定された走行モード情報に対応するものを選択し、選択された制御マップから検索した制御情報に従ってエンジン制御ECUを制御するように構成した点に第1の特徴がある。
【0007】
また、本発明は、エンジンを制御するエンジン制御ECUと、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する無段変速機を制御する駆動系制御ECUとを有する車両制御装置において、前記エンジン制御ECUおよび前記駆動系制御ECUがそれぞれ複数の車両走行モードに適合する複数の制御パラメータ出力手段を有し、選択された車両走行モードに応じて、前記エンジン制御ECUに設けられた複数の制御パラメータ出力手段および前記駆動系制御ECUに設けられた複数の制御パラメータ出力手段の双方から制御パラメータ出力手段を選択する手段を具備した点に第2の特徴がある。
【0008】
また、本発明は、エンジンを制御するエンジン制御ECUと、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する無段変速機を制御する駆動系制御ECUとを有する車両制御装置において、前記無段変速機の変速比を調節するアクチュエータと、車両の走行モードを選択するモードスイッチとを備え、かつ、前記駆動系ECUが、走行モードに応じた目標エンジン回転数を出力する目標エンジン回転数出力手段と、エンジンの実回転数を目標エンジン回転数に収斂させるように前記アクチュエータに駆動指示を供給するドライバとを有する一方、前記エンジン制御ECUが、車両の走行モードに応じた点火時期を出力する複数の点火時期出力手段と、車両の走行モードに応じた燃料噴射時間を出力する複数の噴射時間出力手段と、前記点火時期に従って点火プラグに駆動信号を供給する点火ドライバと、前記燃料噴射時間に従って燃料噴射弁に駆動信号を供給する噴射弁ドライバとを有している点に第3の特徴がある。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の特徴を有する本発明によれば、エンジン駆動制御ECUに走行モードが設定されたならば、エンジン制御ECU内に設けられた制御マップのうち、走行モードに対応するものが選択されてエンジン制御ECUの制御に使用される。
【0010】
また、第2,第3の特徴によれば、エンジン制御ECUや駆動系制御ECUにそれぞれ設けられた複数の制御パラメータ出力手段から走行モードに応じたものが選択される。これによって、エンジン制御ECUと駆動系制御ECUとが走行モードを基準に協調して制御される。したがって、無段変速機の変速モードに応じた適当な燃料噴射や点火時期等を含むエンジン制御が行われ、燃費、静粛性、ドライバビリティ等、走行モードに応じた性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図2は本発明の一実施形態に係る無段変速機制御装置のシステム構成図である。無段変速機1は、例えば、スクータの駆動源であるエンジン(図示しない)のクランク軸つまり出力軸2に連結される。駆動プーリ3は固定プーリ片31と出力軸2に対してその軸方向に摺動自在に設けられる可動プーリ片32とからなる。可動プーリ片32のハブの外周にはベアリング4を介してスライダ5が支持される。スライダ5の外周には歯車51が形成され、この歯車51は、4個の歯車61,62,63,64からなる減速機6の最終段歯車64と噛み合い、減速機6の第1段目歯車61は、モータ7の出力歯車71と噛み合う。スライダ5の内周に形成された雌ねじはケース8に固定された筒体9の外周に形成された雄ねじと螺合している。
【0012】
モータ7の回転によりスライダ5が回動せられると、スライダ5の雌ねじは筒体9の雄ねじの周りに回動し、ねじの軸方向への送り作用により出力軸2の軸方向にスライダ5が移動される。このスライダ5の移動により、駆動プーリ3の固定プーリ片31と可動プーリ片32との間隔が変化する。
【0013】
無段変速機1の受動プーリ10は受動軸11に支持される。受動プーリ10は可動プーリ片101と固定プーリ片102とからなり、いずれも受動軸11に対して回動自在である。さらに可動プーリ片101は受動軸11に対して軸方向に摺動自在でもあり、コイルばね103によって固定プーリ片102寄りに付勢されている。受動軸11には、遠心クラッチ12が設けられ、このクラッチ12を介して可動プーリ片101は受動軸11に結合される。受動軸11は歯車13を含む減速機を介してスクータの駆動軸に結合される。駆動プーリ3および受動プーリ10には、Vベルト14が掛けられる。
【0014】
駆動プーリ3の可動プーリ片32のリセット位置を検出する位置センサ15が可動プーリ片32の外周に近接して設けられる。また、受動プーリ11の回転数を検出する受動プーリ回転数センサ16が受動プーリ10と共に回転する磁性体(図示しない)に対向して配置される。
【0015】
無段変速機1の制御装置として、モータ7を駆動する駆動系制御ECUとしての変速機制御ECU17が設けられる。変速機制御ECU17はマイクロコンピュータを含み、バッテリ18から電源の供給を受ける。
【0016】
スクータには、走行モードを選択するためのモードスイッチ19が設けられる。走行モードに応じて、変速特性がマニュアルモードおよび複数のオートモードから選択される。チェンジスイッチ20は変速段を上げる方向または下げる方向に切り替えるチェンジ信号CHを出力する。マニュアルモードとオートモードとの切り替えに使用する、チェンジスイッチ20はマニュアルモードで有効となり、チェンジ信号CHに従って変速段が選択される。マニュアルモードでは、変速段毎に所定のプーリレシオを設定するようにモータ7が駆動される。プーリレシオは駆動プーリ3の回転数N0に対する受動プーリ10の回転数N1(N1/N0)とする。スロットルセンサ21は、図示しないエンジンのスロットル弁開度を検出して開度情報THを出力する。エンジン回転数センサ22はエンジンの出力軸に連結される図示しない発電機(ACG)の回転子に設けられるリラクタを検出してACGの回転数つまりエンジン回転数Neを出力する。
【0017】
走行モードについて述べる。走行モードは複数設定されており、走行モード毎に別個の変速特性が対応する。本実施形態では、マニュアルモード、並びに二つのオートモードとしてスポーツ走行モードと低燃費走行モードを設定している。
【0018】
マニュアルモードでは複数の変速比が設定されている。そして、この複数の変速比のいずれかをチェンジスイッチ18で指示し、変速比をこれに固定して走行できるように設定されている。
【0019】
スポーツ走行モードでは低燃費走行モードと比べて高めのエンジン回転数で力強い走りが可能にしており、低燃費走行モードではスポーツ走行モードと比べて低いエンジン回転数で、低燃費および静粛性を得るための走りを実現するように設定している。
【0020】
図4に低燃費走行モードの変速特性の一例を示し、図5にスポーツ走行モードの変速特性の一例を示す。
【0021】
図3は、本発明の一実施形態である燃料噴射制御装置の全体構成図であり、エンジン100の燃焼室23には、吸気ポート24および排気ポート25が開口し、各ポート24,25には吸気弁26および排気弁27がそれぞれ設けられるとともに、点火コイル28aおよび点火プラグ29bが設けられる。
【0022】
吸気ポート24に通じる吸気通路29には、その開度THに応じて吸入空気量を調節するスロットル30およびスロットル開度を検出するスロットルセンサ21が設けられ、その下流側に吸入負圧PBを検知する負圧センサ33および燃料噴射弁34が配置されている。吸気通路29の終端にはエアクリーナ35が設けられている。エアクリーナ35内にはエアフィルタ36および吸気(大気)温度TAを検知する吸気温度センサ37が設けられ、このエアフィルタ36を通じて吸気通路29へ外気が取り込まれる。
【0023】
エンジン100のピストン38にコンロッド39を介して連結されたクランク軸2に連結されるACGの回転子(アウタロータ)40の外周に設けられるリラクタを検出してエンジン回転数Neを出力するエンジン回転数センサ22が配置される。さらに、前記無段変速機1の受動側プーリ10の側面に車速Vを代表する出力を発生する受動プーリ回転数センサ16が設けられる。エンジン100の周りに形成されたウォータジャケットには、エンジン温度を代表する冷却水温度TWを検出する水温センサ41が設けられる。
【0024】
エンジン制御ECU42は、燃料噴射制御部43および点火制御部44を含む。燃料噴射制御部43は、エンジン回転数Neやスロットル開度THを含む複数のパラメータに基づいて燃料噴射量を決定し、噴射信号Toutを出力する。噴射信号Toutは燃料噴射量に応じたパルス幅を有するパルス信号であり、燃料噴射弁34は、このパルス幅に相当する時間だけ開弁されて燃料を噴射する。噴射信号Toutの算出部は、入力される各種パラメータに応じて噴射時間Toutを出力する噴射時間マップで構成できる。噴射時間マップは走行モード毎に準備される。
【0025】
点火制御部44は、点火コイル28aへ供給する点火信号の出力タイミング(点火タイミング)を決定する。点火タイミングの算出部は、固定的に設定される点火タイミングの設定部とエンジン100の運転状態を代表する冷却水温度TW等のパラメータに基づいて点火タイミングを進角・遅角補正部とからなり、進角・遅角補正部は入力されるパラメータに応じて点火タイミング信号を出力する点火時期マップで構成できる。点火時期マップは走行モード毎に準備される。
【0026】
図1は、本実施形態の要部機能ブロック図である。モードスイッチ19によって走行モードを選択すると、変速機制御ECU17ではその選択された走行モードに対応する変速マップが選択される。選択し得る走行モードの種類がn個の場合を想定しており、変速マップ45もナンバー(1)からナンバー(n)まで設定されている。変速マップ45は、スロットル開度THと車速Vとによって目標エンジン回転数Netgtを出力し、モータドライバ46は、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数Netgtになるようにモータ7を駆動して無段変速機1の変速比を制御する。
【0027】
エンジン制御マップ制御部47は、モードスイッチ19の切り替えによって走行モードを検出し、走行モードに応じた選択信号を出力する。
【0028】
エンジン制御ECU42には、走行モードの数に対応して点火時期マップ48と噴射時間マップ49とがそれぞれn個設けられる。エンジン制御マップ選択部47から出力される選択信号により、走行モードに応じた点火時期マップ48および噴射時間マップ49がそれぞれ選択される。
【0029】
点火時期マップ48および噴射時間マップ49は、スロットル開度THやエンジン水温TW、吸気温TA、車速V、負圧PB等に応じて最適な点火時期と燃料噴射時間を出力する。点火ドライバ50は、点火時期マップ48から出力された点火時期に点火コイル28aが付勢され、点火プラグ28bに点火される。噴射弁ドライバ52は、噴射時間マップ49から出力された噴射時間Toutの間、燃料噴射弁34を駆動して燃料を噴射させる。
【0030】
なお、本実施形態では、目標エンジン回転数を出力する手段をマップとしたが、このマップに代え、スロットル開度THと車速Vとに基づいて、演算で目標エンジン回転数を算出する演算手段を設ける場合にも本発明を適用できる。この場合は、選択された走行モードに応じて演算式を切り替えたり、演算式に使用される係数を切り替えたりすることで走行モード毎の変速特性を変えることができる。また、マップ検索に使用されるスロットル開度THや車速Vを走行モード毎に予定の補正値で補正するようにしてもよい。同様に、点火時期や噴射時間の出力用マップも、演算式で代替することができる。
【0031】
また、本実施形態では、駆動系制御ECUの変速マップを決定し、その後に、その変速マップに応じて、エンジン制御ECUの点火時期マップや噴射時期マップを切り替えるようにしたが、先にエンジン制御ECU側のマップを選択し、その後に駆動系制御ECUの変速マップを協調して選択するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両制御装置の要部機能を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両制御装置を適用する無駄変速機を含むシステムシステム概要図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両制御装置を適用するエンジンを含むシステムブロック図である。
【図4】低燃費走行モードの変速特性の一例を示す図である。
【図5】スポーツ走行モードの変速特性の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1…無段変速機、 2…クランク軸、 7…モータ、 16…受動軸回転数センサ、 17…変速機制御ECU(駆動系制御ECU)、 19…モードスイッチ、 21…スロットルセンサ、 22…エンジン回転数センサ、 28a…点火コイル、 34…燃料噴射弁、 42…エンジン制御ECU、 45…変速マップ、 48…点火時期マップ、 49…噴射時間マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを制御するエンジン制御ECUと、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する無段変速機を制御する駆動系制御ECUとを有する車両制御装置において、
複数の走行モードにそれぞれ対応して前記エンジン制御ECU内に設けられた制御マップと、
前記制御マップのうち、前記駆動系制御ECUに設定された走行モード情報に対応するものを選択する手段とを具備し、
前記エンジン制御ECUが、前記選択された制御マップから検索した制御情報に従って制御されることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
エンジンを制御するエンジン制御ECUと、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する無段変速機を制御する駆動系制御ECUとを有する車両制御装置において、
前記エンジン制御ECUおよび前記駆動系制御ECUがそれぞれ複数の車両走行モードに適合する複数の制御パラメータ出力手段を有し、
選択された車両走行モードに応じて、前記エンジン制御ECUに設けられた複数の制御パラメータ出力手段および前記駆動系制御ECUに設けられた複数の制御パラメータ出力手段の双方から制御パラメータ出力手段を選択する手段を具備したことを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
エンジンを制御するエンジン制御ECUと、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する無段変速機を制御する駆動系制御ECUとを有する車両制御装置において、
前記無段変速機の変速比を調節するアクチュエータと、
車両の走行モードを選択するモードスイッチとを備え、
かつ、前記駆動系ECUが、走行モードに応じた目標エンジン回転数を出力する目標エンジン回転数出力手段と、エンジンの実回転数を目標エンジン回転数に収斂させるように前記アクチュエータに駆動指示を供給するドライバとを有する一方、
前記エンジン制御ECUが、車両の走行モードに応じた点火時期を出力する複数の点火時期出力手段と、車両の走行モードに応じた燃料噴射時間を出力する複数の噴射時間出力手段と、前記点火時期に従って点火プラグに駆動信号を供給する点火ドライバと、前記燃料噴射時間に従って燃料噴射弁に駆動信号を供給する噴射弁ドライバとを有していることを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−22255(P2007−22255A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205496(P2005−205496)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】