説明

車両

【課題】車室内の騒音レベルを維持しつつ、より高い走行性能を発揮することのできる車両を提供する。
【解決手段】ANC作動時には、エンジンから生じる騒音量および振動量の少なくとも一方の制限をANC非作動時に比較して緩和した動作特性が使用される。より詳細には、ANC作動時のマップでは、より高い燃費率を実現できるように、所定の負荷率KLを発生するために許容されるエンジン回転数NEがANC非作動時のマップに比較してより低い範囲を含むように規定される。ANCの作動時には、より燃費率の高い動作特性に切替えられて、エンジンが制御される。このANC作動時の動作特性に従えば、車室内に侵入する騒音も大きくなり得るが、ANCの作動によって、運転者が感じる騒音量はANC非作動時と同程度に維持もしくは抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関を搭載した車両に関し、特にアクティブノイズキャンセラーを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内に侵入するエンジンやタイヤなどからの騒音成分を低減し、快適な車室内空間を実現するために、アクティブノイズキャンセラー(Active Noise Chancellor:以下、単に「ANC」とも称す)を備えた車両が提案されている。ANCは、マイクなどで集音された車室内音の音声信号から騒音成分を抽出し、当該抽出した騒音成分の逆位相信号に基づいて騒音成分を相殺するような音を発生することで、積極的(アクティブ)に騒音を低減するための装置である。
【0003】
たとえば、特開平06−118969号公報(特許文献1)には、エンジンの回転又は振動に同期した基準信号を検出する手段と、車室内に設けたスピーカと、車室内騒音を検出するマイクとを備えた車室内騒音の低減装置が開示されている。
【特許文献1】特開平06−118969号公報
【特許文献2】特開平07−293221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなANCを作動させることで、車室内の騒音を抑制することができるが、見方を変えれば、ANCを作動させることで、車室内の騒音レベルをANC非作動時と同レベルに維持しつつ、騒音源に対する騒音量の制限を緩和することができる。すなわち、ANC作動時には、エンジンなどから発生する振動や騒音が増大したとしても、運転者が感じる影響は少ない。しかしながら、上述の特開平06−118969号公報(特許文献1)に開示される車室内騒音の低減装置は、騒音源であるエンジンの状態に応じてANCの適応性をいかに高めるかということを目的としており、エンジンの作動状態を調整するという観点は開示されていない。
【0005】
一般的に、エンジンの動作特性は、発生トルク量や燃費率などが最適化されるように決定されるが、同時に車室内のNV(Noise Vibration)特性なども考慮される。そのため、車室内での良好なNV特性を維持するために、発生トルク量や燃費率などの観点において最適な動作特性が制限されることがあるという問題があった。
【0006】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、車室内の騒音レベルを維持しつつ、より高い走行性能を発揮することのできる車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のある局面に従う車両は、内燃機関を搭載し、車室内音の騒音成分を相殺するような音を発生するための騒音低減手段と、運転者の選択操作に応じて、騒音低減手段の作動と非作動とを切替えるための切替手段と、運転者の運転操作に応じて、内燃機関の作動を制御するための制御手段とを備える。そして、制御手段は、騒音低減手段の作動および非作動に応じて、内燃機関の動作特性を変更するように構成される。
【0008】
この発明によれば、内燃機関は、騒音低減手段の作動および非作動に応じて切替えられる動作特性に従って制御される。騒音低減手段の作動時において、内燃機関に起因する騒
音発生についての制限が騒音低減手段による騒音低減効果に相当する分だけ緩和できるので、より高い自由度で動作特性を決定することができる。これにより、騒音量や騒音の原因となる振動量とトレードオフの関係にある燃費率を向上させた動作特性を採用できる。よって、車室内の騒音レベルを維持しつつ、より高い走行性能を発揮することができる。
【0009】
好ましくは、制御手段は、騒音低減手段の作動時において、内燃機関から生じる騒音量および振動量の少なくとも一方についての制限を騒音低減手段の非作動時の場合に比較して緩和した緩和動作特性に従って内燃機関を作動させる。
【0010】
さらに好ましくは、緩和動作特性は、所定の負荷率を発生するために許容する回転数の範囲を、騒音低減手段が非作動時の場合に比較してより低い範囲を含むように規定される。
【0011】
また好ましくは、内燃機関は、筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と、吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段とを含む。そして、制御手段は、騒音低減手段の作動および非作動に応じて、第1の燃料噴射手段と第2の燃料噴射手段との分担比率を変更する。
【0012】
さらに好ましくは、制御手段は、騒音低減手段の作動時において、第1の燃料噴射手段の分担比率を騒音低減手段が非作動時の場合に比較して高くする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、車室内の騒音レベルを維持しつつ、より高い走行性能を発揮することのできる車両を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0015】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に従う車両100の模式図である。
【0016】
図1を参照して、車両100は、アクティブノイズキャンセラー(Active Noise Canceller:以下、単に「ANC」とも称す)を備える。そして、ANCは、車両100に搭載されたエンジン4の運転などによって車室空間内に侵入する騒音を低減するように作動する。具体的には、ANC部30と、マイク部32と、スピーカ部38とがANC機能を実現する。ANC部30は、マイク部32から与えられる車室内音の音声信号から騒音成分を抽出した上で、当該騒音成分の逆位相波形に基づいて、スピーカ部38から当該騒音成分を相殺するような音を発生する。車室内の運転者などは、騒音成分およびスピーカ部38から発生された音の両方を聞くことになるので、運転者などによって感じられる騒音は低減される。
【0017】
より詳細には、ANC部30は、信号処理部34およびアンプ部36を含む。そして、信号処理部34は、スピーカ部38からの音声信号のうち帯域フィルタなどを用いて、所定の騒音成分(たとえば、低周波数領域の成分)を抽出し、当該抽出した成分と逆位相となる音声信号を生成する。このとき、特性フィルタなどを用いた適応処理を実行し、車室内空間の伝達特性などに応じた信号補正がさらに行なわれてもよい。アンプ部36は、信号処理部34で信号処理された音声信号を増幅し、スピーカ部38を駆動するための増幅信号を生成する。
【0018】
マイク部32は、運転者に近接した車室内空間の適切な場所に配置され、車室内空間で発生する騒音を集音して、音声信号を出力する。スピーカ部38についても同様に、運転者に近接した車室内空間の適切な場所に配置され、ANC部30からの増幅信号に応じた音を出力する。なお、マイク部32およびスピーカ部38は、音のループ経路が形成されないように、所定の位置関係を保って配置される。
【0019】
図2は、本発明の実施の形態1に従う車両100の概略構成図である。
図2を参照して、車両100は、エンジン4と、トルクコンバータ6と、自動変速機8と、ディファレンシャルギヤ10と、駆動輪12と、燃料噴射装置14と、制御装置2とを含む。
【0020】
エンジン4は、ガソリンや軽油などの燃料の燃焼により車両駆動力を発生し、当該駆動力により駆動輪12を回転させるように構成された内燃機関であり、その出力軸はトルクコンバータ6と連結される。エンジン4によって発生された回転駆動力は、トルクコンバータ6によって、その回転数およびトルクが所望の値に変化させられた後、自動変速機8へ伝達される。
【0021】
自動変速機8では、制御装置2からの選択ギヤ段指令に応じた1つのギヤ段を介して、トルクコンバータ6からの車両駆動力がディファレンシャルギヤ10へ伝達される。ディファレンシャルギヤ10は、自動変速機8からの車両駆動力を駆動輪12へ伝達するとともに、車両100の走行に伴って生じる駆動輪12間の回転数差を吸収する。
【0022】
燃料噴射装置14は、エンジン4の筒内などに気化状の燃料を噴射するための装置であって、制御装置2からのスロットル開度指令に応じて燃料噴射量を制御可能に構成される。
【0023】
車両100は、さらに、ブレーキペダル20と、アクセルペダル22と、シフトレバー24とを含む。そして、制御装置2は、運転者によるブレーキペダル20の踏込み状態(ブレーキペダル状態)、アクセルペダル22の踏込み量(アクセルペダル開度)およびシフトレバー24のシフトポジション、ならびにエンジン4のエンジン回転数NEなどに応じて、燃料噴射装置14へ与えるスロットル開度を決定する。すなわち、制御装置2は、運転者の運転操作に応じて、エンジン4の作動を制御する。具体的には、制御装置2は、エンジン回転数NEと許容される負荷率KLの上限値との対応関係としてマップ形式で規定された動作特性を格納する動作特性格納部2Aを含む。そして、制御装置2は、動作特性格納部2Aに格納されたマップを参照して、エンジン4に要求される負荷率KLに対応するエンジン回転数NEを超過しないように、必要なスロットル開度を決定する。
【0024】
また、車両100は、ANC部30の作動(オン)と非作動(オフ)とを切替えるためのANC操作部26を含む。具体的には、ANC操作部26は、押圧といった運転者の選択操作に応じて、ANC ONまたはANC OFFを交互に発する。そして、ANC部30は、ANC操作部26からのANC ON/OFFに応答して、作動と非作動とを交互に切替えられる。
【0025】
特に、本実施の形態1では、制御装置2がANC部30の作動および非作動に応じて、エンジン4の動作特性を変更する。一例として、動作特性格納部2Aには、ANC部30の作動および非作動に対応付けて2種類のマップが格納され、ANC部30の作動状態に応じていずれか一方が選択される。
【0026】
図3は、本発明の実施の形態1に従う動作特性格納部2Aに格納される動作特性の一例である。
【0027】
図3を参照して、動作特性格納部2Aには、ANC作動時に使用されるマップ(ANC作動時)と、ANC非作動時に使用されるマップ(ANC非作動時)とが格納される。ここで、ANC非作動時のマップに規定された動作特性が「緩和動作特性」に相当する。いずれのマップについても、エンジン回転数NEと許容される負荷率KLの上限値との関係が規定される。ここで、負荷率KLは、エンジン4が実際に発生する出力を定格出力(kW)に対する百分率で示したものである。
【0028】
一般的に、エンジン4は、低回転数領域ほど発生可能な出力が小さくなるので、エンジン回転数NEが低くなるにつれて、許容される負荷率KLがより低くなるように動作特性が規定される。なお、同一の負荷率KLであれば、エンジン回転数NEが低いほど消費燃料を抑制できるので、マップに規定される動作特性が紙面上側にあるほど燃費率が向上し、紙面下側になるほど燃費率が低下することになる。
【0029】
ここで、出力は、エンジン回転数にトルク量を乗じたものに相当するので、エンジン回転数NEが同一であれば、負荷率KLが高くなるほど、エンジン4が発生するトルク量は大きくなる。エンジン4が発生するトルク量が大きくなるにつれて、トルク変動量も大きくなる。これにより、車両100の車体を含む系全体にトルク変動による振動が与えられることになり、部分的に共振が生じ得る。そして、この部分的な共振によって生じる騒音が車室内にこもり音として侵入するようになる。
【0030】
以上のように、燃費率の観点からは、動作特性は可能な限り紙面上側に設定されることが望ましいが、車室内空間の静粛化の観点からは、動作特性を過剰に紙面上側に設定することはできない。そこで、このように互いに相反する要求を満足するように、実験的に動作特性が決定される。
【0031】
ANC部30を備える車両100では、ANCの作動時および非作動時におけるそれぞれの耐騒音性、すなわちエンジン4から生じる騒音量および振動量の制限が異なる。そのため、それぞれの場合において、車室内空間を略同一の快適性に保つことのできる動作特性も異なってくる。そこで、本実施の形態1では、ANCの作動時および非作動時の場合に分けてエンジン4の動作特性が規定される。
【0032】
すなわち、ANC作動時には、エンジン4から生じる騒音量および振動量の少なくとも一方の制限をANC非作動時に比較して緩和した動作特性が使用される。より詳細には、ANC作動時のマップでは、より高い燃費率を実現できるように、所定の負荷率KLを発生するために許容されるエンジン回転数NEがANC非作動時のマップに比較してより低い範囲を含むように規定される。
【0033】
図3に示すように、一例として負荷率KL(a)を発生可能なエンジン回転数NEについて見ると、ANC非作動時のマップではエンジン回転数NE(a)であったものが、ANC作動時のマップではエンジン回転数NE(b)まで低減している。すなわち、このエンジン回転数NE(a)からNE(b)までの低減が燃費率の向上に寄与する。
【0034】
このように、本実施の形態1では、ANCの作動時には、より燃費率の高い動作特性に切替えられてエンジン4が制御される。このとき、エンジン4におけるトルク変動が相対的に大きくなり、車室内に侵入する騒音も大きくなり得るが、ANCの作動によって、運転者が感じる騒音量はANC非作動時と同程度に維持もしくは抑制される。なお、ANC非作動時のマップ(動作特性)は、ANCによる騒音低減効果を超えないような範囲内において、エンジン4から生じる騒音量および振動量の少なくとも一方についての制限が緩和された上で実験的に決定される。
【0035】
図4は、本実施の形態1に従うエンジン制御に係る処理手順を示すフローチャートである。
【0036】
図4を参照して、制御装置2は、ANC部30の作動状態を取得する(ステップS100)。そして、制御装置2は、ANC部30が作動状態であるか否かを判断する(ステップS102)。
【0037】
ANC部30が作動状態である場合(ステップS102においてYESの場合)には、制御装置2は、動作特性格納部2Aに格納されたANC作動時用のマップを選択する(ステップS104)。一方、ANC部30が作動状態でない場合(ステップS102においてNOの場合)には、制御装置2は、動作特性格納部2Aに格納されたANC非作動時用のマップを選択する(ステップS106)。
【0038】
エンジン4の動作特性を選択後、制御装置2は、運転者の運転操作に応じて、選択したマップに基づいてスロットル開度を決定し、エンジン4を制御する(ステップS108)。そして、処理は最初のステップに戻される。
【0039】
本実施の形態1では、エンジン4が「内燃機関」に相当し、ANC部30、マイク部32およびスピーカ部38が「騒音低減手段」を実現し、「切替手段」を実現し、ANC操作部26が「切替手段」を実現し、制御装置2が「制御手段」を実現する。
【0040】
本発明の実施の形態1によれば、エンジン4は、ANCの作動および非作動に応じて切替えられる動作特性に従って制御される。ANCの作動時において、エンジン4に起因する騒音発生についての制限がANCの作動による騒音低減効果に相当分だけ緩和できるので、より高い自由度で動作特性を決定することができる。したがって、負荷率KLを発生するために許容されるエンジン回転数NEをANCの非作動時に比較してより低くした動作特性を採用することで、燃費率を向上させることができる。一方、この燃費率の向上に伴って、エンジン4から車室内に侵入する騒音量が増大したとしても、ANCの作動によって運転者に対する騒音レベルは維持もしくは抑制される。よって、車室内の騒音レベルを維持しつつ、より高い走行性能を発揮することができる。
【0041】
[実施の形態2]
上述の実施の形態1では、ANCの作動状態に応じてエンジン4の動作特性、具体的にはエンジン回転数NEと負荷率KLとを対応付けた動作特性を切替える構成について説明したが、特定のエンジンに対しては、エンジンの噴き分け比率についての動作特性を切替えるようにしてもよい。
【0042】
図5は、本発明の実施の形態2に従うエンジン4#の要部を示す概略図である。
図5を参照して、エンジン4#の気筒112の各々に対して、筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ110と、吸気ポートまたは/および吸気通路内に向けて燃料を噴射するための吸気通路噴射用インジェクタ120とがそれぞれ設けられている。これらインジェクタ110,120は、制御装置2#(図2)の制御信号(図示しない)に基づいてそれぞれ制御される。
【0043】
インテークマニホールド220の燃焼室側には吸気バルブ122が設けられており、その吸気バルブ122の上流側に吸気通路噴射用インジェクタ120が配置されている。吸気通路噴射用インジェクタ120は、吸気通路であるインテークマニホールド220の内壁に向けて燃料を噴射する。
【0044】
ピストン123の頂部には、筒内噴射用インジェクタ110に対向する位置に緩やかな曲線から形成されるくぼみが設けられている。このくぼみに向けて筒内噴射用インジェクタ110から燃料が噴射される。このとき、筒内噴射用インジェクタ110に対向するピストン123の頂部は角部を有しないので、筒内噴射用インジェクタ110から噴射された燃料により形成された噴霧が角部により分裂されることがない。
【0045】
筒内の頂部には、燃料を燃焼させるための点火プラグ119が設けられ、筒内の上部には、吸気バルブ122と対抗する位置に燃焼後の排気ガスを放出するための排気バルブ121が設けられる。
【0046】
本実施の形態2に従う制御装置2#は、上述の動作特性格納部2Aに加えて、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120との噴き分け比率(以下、「DI比率」とも称す)が規定された動作特性格納部2Bを含む。
【0047】
図6は、本発明の実施の形態2に従う動作特性格納部2Bに格納される動作特性の一例である。
【0048】
図6を参照して、動作特性格納部2Bには、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120との噴き分け比率が規定された動作特性がマップ形式で格納されている。このマップでは、負荷率KLと対応するDI比率との対応関係が規定されており、負荷率KLを縦軸にして、筒内噴射用インジェクタ110の分担比率がDI比率として百分率で示されている。
【0049】
ここで、「DI比率=100%」の場合には、筒内噴射用インジェクタ110からのみ燃料噴射が行なわれ、「DI比率=100%」の場合には、吸気通路噴射用インジェクタ120からのみ燃料噴射が行なわれる。そして、「0%<DI比率<100%」の場合には、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120とで燃料噴射が分担して行なわれることを意味する。このようにDI比率を可変にすることにより、概略的には、筒内噴射用インジェクタ110は、出力性能の上昇に寄与し、吸気通路噴射用インジェクタ120は、混合気の均一性に寄与する。
【0050】
たとえば、負荷率がKL(1)以下、もしくは負荷率がKL(2)以上の領域では、「DI比率=100%」に設定されて、出力性能の向上が優先される。一方、負荷率がKL(1)からKL(2)の範囲では、トルク変動を抑制するために、「0%<DI比率<100%」に設定されて、吸気通路噴射用インジェクタ120からの燃料噴射量を生じさせることで混合気の均質性を確保する。
【0051】
さらに、ANC作動時には、ANC非作動時に比較して、よりDI比率が高められる。すなわち、ANC作動時には、エンジン4#でのトルク変動についての制限が緩和されるので、吸気通路噴射用インジェクタ120からの噴射量を相対的に減少させる一方で、筒内噴射用インジェクタ110からの噴射量を相対的に増大させることができる。すなわち、吸気通路噴射用インジェクタ120からの噴射量の減少に伴って、混合気に対する均質化作用が低下するが、筒内噴射用インジェクタ110からの噴射量の増大によって、エンジン4#の燃費率を向上させることができる。
【0052】
本実施の形態2では、エンジン4#が「内燃機関」に相当し、筒内噴射用インジェクタ110が「第1の燃料噴射手段」に相当し、吸気通路噴射用インジェクタ120が「第2の燃料噴射手段」に相当する。
【0053】
本発明の実施の形態2によれば、筒内噴射用インジェクタ110および吸気通路噴射用
インジェクタ120を備えるエンジン4#に対して、ANCの作動および非作動に応じて切替えられるマップに従ってDI比率が制御される。ANCの作動時において、エンジン4#のトルク変動に起因する騒音発生についての制限がANCの作動による騒音低減効果に相当分だけ緩和できるので、筒内噴射用インジェクタ110の分担比率を高めることで、燃費率を向上させることができる。一方、筒内噴射用インジェクタ110の分担比率の増加に伴って、混合気に対する均質化作用が相対的に低下し、車室内に侵入する騒音量が増大し得るが、ANCの作動によって運転者に対する騒音レベルは維持もしくは抑制される。よって、車室内の騒音レベルを維持しつつ、より高い走行性能を発揮することができる。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1に従う車両の模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1に従う車両の概略構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1に従う動作特性格納部に格納される動作特性の一例である。
【図4】本実施の形態1に従うエンジン制御に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態2に従うエンジンの要部を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態2に従う動作特性格納部に格納される動作特性の一例である。
【符号の説明】
【0056】
2,2# 制御装置、2A,2B 動作特性格納部、4,4# エンジン、6 トルクコンバータ、8 自動変速機、10 ディファレンシャルギヤ、12 駆動輪、14 燃料噴射装置、20 ブレーキペダル、22 アクセルペダル、24 シフトレバー、26
ANC操作部、30 ANC部、32 マイク部、34 信号処理部、36 アンプ部、38 スピーカ部、100 車両、110 筒内噴射用インジェクタ、112 気筒、119 点火プラグ、120 吸気通路噴射用インジェクタ、121 排気バルブ、122 吸気バルブ、123 ピストン、220 インテークマニホールド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を搭載した車両であって、
車室内音の騒音成分を相殺するような音を発生するための騒音低減手段と、
運転者の選択操作に応じて、前記騒音低減手段の作動と非作動とを切替えるための切替手段と、
運転者の運転操作に応じて、前記内燃機関の作動を制御するための制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記騒音低減手段の作動および非作動に応じて、前記内燃機関の動作特性を変更するように構成される、車両。
【請求項2】
前記制御手段は、前記騒音低減手段の作動時において、前記内燃機関から生じる騒音量および振動量の少なくとも一方についての制限を前記騒音低減手段の非作動時の場合に比較して緩和した緩和動作特性に従って前記内燃機関を作動させる、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記緩和動作特性は、所定の負荷率を発生するために許容する回転数の範囲を、前記騒音低減手段が非作動時の場合に比較してより低い範囲を含むように規定される、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記内燃機関は、
筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と、
吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段とを含み、
前記制御手段は、前記騒音低減手段の作動および非作動に応じて、前記第1の燃料噴射手段と第2の燃料噴射手段との分担比率を変更する、請求項1に記載の車両。
【請求項5】
前記制御手段は、前記騒音低減手段の作動時において、前記第1の燃料噴射手段の分担比率を前記騒音低減手段が非作動時の場合に比較して高くする、請求項4に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−157100(P2008−157100A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346443(P2006−346443)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】