説明

酸化物系ナノ構造物の製造方法

【課題】形成しようとする酸化物系ナノ構造物と同じ組成を持つナノ核を利用してナノ構造物を成長させる酸化物系ナノ構造物の製造方法を提供する。
【解決手段】M(Mは、遷移金属元素または半金属元素)を含む有機物前駆体が有機溶媒に溶解されている混合溶液を基板の表面にコーティングするステップと、混合溶液がコーティングされた基板を熱処理して、基板上にMxOy(xは1〜3の整数、yは1〜6の整数)組成を持つナノ核を形成するステップと、Mを含む反応前駆体をナノ核に供給しつつナノ核を成長させて、MxOy(xは1〜3の整数、yは1〜6の整数)組成を持つナノ構造物を形成するステップと、ナノ構造物を熱処理するステップと、を含む酸化物系ナノ構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物系ナノ構造物の製造方法に係り、特に遷移金属または半金属元素の酸化物からなるナノ構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属または非金属元素を含む酸化物系ナノ構造物は、FET(Field Effect Transistor)、SET(Single Electron Transistor)、フォトダイオード、生化学センサー、論理回路のようなナノ電子素子分野で潜在的な応用可能性を持っていて、多様な技術分野でその特性及び製造方法が研究されている。
【0003】
従来技術による酸化物系ナノ構造物の形成方法では、まず、スパッタリングまたは熱蒸着方法により基板上にAu、Ag、Pd、Ptのような貴金属元素を蒸着してナノレベルの貴金属薄膜を形成した後、これを熱処理して前記基板上に貴金属粒子または貴金属集合体を形成した。その後、前記貴金属粒子または貴金属集合体を核として、その上に酸化物系ナノ構造物を物理的方法または化学的方法により成長させた。
【0004】
前記のような従来技術による酸化物系ナノ構造物の形成方法は、工程が非常に複雑なだけでなく大面積の基板を必要とし、したがって、酸化物系ナノ構造物の成長のための大型成長装備を必要とした。また、核の役割を行う貴金属ナノ粒子をまず生成させた後、その上に所望の材料である酸化物系ナノ構造物を成長させる複雑な工程を経るので、結果として得られた酸化物系ナノ構造物内に貴金属元素が不純物として残っているようになり、かつ貴金属を使用せねばならないために生産コストが高くなるという問題があった。したがって、量産に限界があった。
【0005】
そして、核として作用する貴金属ナノ粒子または集合体とその上に成長する酸化物系ナノ構造物とが異なる構成成分からなってこれら間の接合が不完全であり、結果物として得られたナノ構造物へのドーパント注入が容易でなかった。特に、ナノ構造物を構成する材料自体は優秀な電気的特性を持つにもかかわらず、核として使われる貴金属元素の面指数(plane index)によって成長速度、サイズ、形態などを調節することが非常に難しいため、酸化物系ナノ構造物の組成、形状及びサイズが不均一になって安定した特性を持つナノ構造物を製作し難かった。したがって、従来技術による酸化物系ナノ構造物は不安定した電気的特性を提供して、集積化した高速電子回路に適用するのに限界がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の従来技術での問題点を解決するためのものであり、不純物を含んでいない酸化物系ナノ構造物を成長させることによって、均一な組成を持つナノ構造物を比較的低コストで再現性よく形成でき、小型化及び集積化した電子素子に適用し適した安定した電気的特性を提供できる酸化物系ナノ構造物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明による酸化物系ナノ構造物の製造方法では、M(Mは、遷移金属元素または半金属元素)を含む有機物前駆体が有機溶媒に溶解されている混合溶液を基板の表面にコーティングする。前記混合溶液がコーティングされた基板を熱処理して、前記基板上にMxOy(xは1〜3の整数、yは1〜6の整数)組成を持つナノ核を形成する。前記Mを含む反応前駆体を前記ナノ核に供給しつつ前記ナノ核を成長させて、MxOy(xは1〜3の整数、yは1〜6の整数)組成を持つナノ構造物を形成する。前記ナノ構造物を熱処理する。
【0008】
前記混合溶液は、前記有機物前駆体及びアルコール系有機溶媒が1:1〜1:5000の体積比で混合されたものである。
【0009】
前記混合溶液を基板の表面にコーティングするステップは、ディッピング、スピンコーティング、またはスプレイ方式により行われる。
【0010】
前記混合溶液がコーティングされた基板を熱処理するステップは、50〜500℃の温度下で1秒〜1時間行われる。
【0011】
前記ナノ構造物を形成するステップでは、前記ナノ核を成長させるためにスパッタリング、熱CVD(thermal Chemical Vapor Deposition)、MOCVD(Metal−Organic CVD)、VSLE(Vapor Liquid Solid Epitaxial)、PLD(Pulsed Laser Deposition)またはゾルゲル工程を利用する。
【0012】
前記ナノ構造物を熱処理するステップは、100〜1200℃の温度下で1分〜24時間行われる。
【0013】
本発明の方法により形成されたナノ構造物は、ナノワイヤー、ナノロッド、ナノウォールの形状を持つ。
【発明の効果】
【0014】
本発明による酸化物系ナノ構造物の製造方法では、酸化物系ナノ構造物を成長させるための核として形成しようとする酸化物系ナノ構造物と同じ組成を持つナノ核を利用し、前記ナノ核は湿式の化学的方法により形成される。したがって、本発明による方法により得られる酸化物系ナノ構造物は、ナノ核から前記ナノ核と同じ組成を持つナノ構造物を成長させて得られるので、ナノ構造物内に成分の異なる不純物を全く含まない。したがって、ナノ構造物形成のための工程が単純化され、従来技術に比べてコストダウンすることができる。また、均一な組成比を持つナノ構造物を再現性よく形成することによって結晶品位を向上させることができ、得られたナノ構造物をドーピングする時にドーピング元素注入のための制御が容易である。しがたって、本発明による方法により形成された酸化物系ナノ構造物を小型化及び集積化した電子回路に適用する時に均一な接合製作ができ、安定した電気的特性及び光学的特性を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の望ましい実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の望ましい実施形態による酸化物系ナノ構造物の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0017】
図1を参照すれば、ステップ10で、M(Mは、遷移金属元素または半金属元素)を含む有機物前駆体が有機溶媒に溶解されている混合溶液を基板の表面にコーティングする。
【0018】
このために、まずMを含む有機物前駆体と有機溶媒との混合溶液を備える。前記混合溶液は、前記有機物前駆体及びアルコール系有機溶媒が約1:1〜1:5000の体積比で混合されてなりうる。
【0019】
前記有機物前駆体は、例えば、M(CH3COO)・2H2Oからなりうる。ここで、前記Mは、例えば、Ti、V、Cr、Zn、Y、Zr及びNbからなる群で選択されるいずれか一つの遷移金属元素、またはSi、Ge及びAsからなる群で選択されるいずれか一つの半金属元素からなりうる。
【0020】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノールなどのアルコール系有機溶媒からなりうる。
【0021】
前記混合溶液を基板にコーティングするために、例えば、ディッピング、スピンコーティング、またはスプレイ方式を利用できる。ここで、前記基板は、例えば、Al23、石英、Si、GaN、またはガラスからなりうる。
【0022】
前記混合溶液を基板にコーティングするためにディッピング方式を利用する場合、例えば、次のような工程を行える。まず、Mが含まれている有機物前駆体、例えば、M(CH3COO)・2H2Oがメタノール、エタノール、IPA(IsoPropyl Alcohol)のようなアルコール系有機溶媒に1:1〜1:5000の体積比で希釈された混合溶液を常温で約1分〜24時間攪拌させる。その後、攪拌された混合溶液内に基板を約1秒〜1時間ディッピングして、前記基板上に前記混合溶液を均一にコーティングさせる。その後、前記基板を前記混合溶液から取り出す。前記ディッピング時間などを調節して前記基板上にコーティングされた混合溶液からなる薄膜の厚さを約1〜1000nmにすることができる。
【0023】
他の方法として、前記混合溶液を基板にコーティングするためにスピンコーティング方法を利用する場合、例えば、基板を約100〜10000rpmで回転させつつピペットを利用して前記基板上に前記混合溶液を約0.01〜100mlの量で滴下して、前記基板上に前記混合溶液からなる薄膜を形成できる。
【0024】
さらに他の方法として、前記混合溶液を基板にコーティングするためにスプレイ方式を利用する場合、例えば、適切なスプレイ装備を利用して前記混合溶液を前記基板上に薄く塗布できる。
【0025】
前記説明では、Mが含まれている有機物前駆体としてM(CH3COO)・2H2Oのみ例示され、前記有機溶媒としてアルコール系有機溶媒のみ例示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、前記有機物前駆体としてM(CH3COO)2・H2O、M(CH3COO)2、M(CH32、M(C252、M(C5722などを使用してもよい。また、前記有機溶媒として非アルコール系有機溶媒を使用してもよい。
【0026】
ステップ20で、前記混合溶液がコーティングされた基板を熱処理して前記基板上にMxOy(xは1〜3の整数、yは1〜6の整数)組成を持つナノ核を形成する。
【0027】
前記ナノ核形成のための熱処理は、例えば、ホットプレート、ファーネス、真空チャンバなどを利用して行われうる。前記熱処理は、約50〜500℃の温度下で約1秒〜1時間行われうる。前記熱処理により前記基板にコーティングされた混合溶液から有機溶媒が揮発されつつ、前記基板上には前記混合溶液内に溶解されていた遷移金属または半金属元素で構成される一定サイズの酸化物ナノ核が複数形成される。前記ナノ核は約数nmないし数十nmのサイズを持つことができる。
【0028】
例えば、前記有機物前駆体としてZn(CH3COO)2・2H2Oを使用した場合、前記基板上にはZnOからなるナノ核が形成される。
【0029】
ステップ30で、前記ナノ核を成長させてMxOy(xは1〜3の整数、yは1〜6の整数)組成を持つナノ構造物を所望のサイズに形成する。
【0030】
前記ナノ核を成長させるために、例えば、スパッタリング、熱CVD、MOCVD、VSLE、PLD、ゾルゲル工程のような物理化学的方法を利用できる。
【0031】
前記ナノ核を成長させる間に前記ナノ核成長のためのソース物質として、前記Mを含む反応前駆体を前記ナノ核に供給できる。例えば、前記ナノ核を成長させるためにMOCVD工程を利用する場合、Mソース物質としてZn(CH32を、そして、Oソース物質としてO2ガスを各々前記基板上に供給できる。この時、キャリアガスとしてArを利用できる。
【0032】
前記ナノ核の成長により形成されたナノ構造物は、例えば、ナノワイヤー、ナノロッド、ナノウォールなど多様な形状を持つことができる。
【0033】
ステップ40で、前記ナノ構造物を熱処理する。
【0034】
前記ナノ構造物の熱処理は、例えば、ホットプレート、ファーネス、真空チャンバなどを利用して行われうる。前記ナノ構造物の熱処理は、約100〜1200℃の温度下で約1分〜24時間行われうる。前記ナノ構造物の熱処理温度は、ステップ20を参照して説明した基板の熱処理温度より高く設定される。また、前記ナノ構造物の熱処理時間は、ステップ20を参照して説明した基板の熱処理時間より長く設定される。しかし、これは必ず必須なものではなく、ステップ40での熱処理の目的が達成されるかぎりその逆の場合も可能である。前記ナノ構造物の熱処理は大気中で、または酸素含有雰囲気が維持される真空チャンバ内で行われうる。
【0035】
前記ナノ構造物の熱処理により前記ナノ構造物内での酸素欠乏が補償されて均一な組成を持つ酸化物系ナノ構造物を得ることができ、前記ナノ構造物の結晶性が向上して格子構造がよく合う(lattice−matched)ナノ構造物が得られることによって結晶品位を向上させることができる。このように、結晶性の優秀なナノ構造物は、ダイオードまたは光素子の構成要素として採用される時に素子の電気的特性及び光学的特性を向上させることができる。
【0036】
以上、本発明を望ましい実施形態を挙げて詳細に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想及び範囲内で当業者によっていろいろ変形及び変更ができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明による方法によって製造された酸化物系ナノ構造物は、FET、SET、フォトダイオード、生化学センサー、論理回路のようなナノ電子素子、太陽電池、またはディスプレイ分野など広範囲な分野に広範囲に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の望ましい実施形態による酸化物系ナノ構造物の製造方法を説明するためのフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
M(Mは、遷移金属元素または半金属元素)を含む有機物前駆体が有機溶媒に溶解されている混合溶液を基板の表面にコーティングするステップと、
前記混合溶液がコーティングされた基板を熱処理して、前記基板上にMxOy(xは1〜3の整数、yは1〜6の整数)組成を持つナノ核を形成するステップと、
前記Mを含む反応前駆体を前記ナノ核に供給しつつ前記ナノ核を成長させて、MxOy(xは1〜3の整数、yは1〜6の整数)組成を持つナノ構造物を形成するステップと、
前記ナノ構造物を熱処理するステップと、を含むことを特徴とする酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項2】
前記Mは、Ti、V、Cr、Zn、Y、Zr及びNbからなる群から選択されるいずれか一つの遷移金属元素であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項3】
前記Mは、Si、Ge及びAsからなる群で選択されるいずれか一つの半金属元素であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項4】
前記混合溶液は、M(CH3COO)・2H2O組成の有機物前駆体とアルコール系有機溶媒との混合物からなることを特徴とする請求項1に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項5】
前記混合溶液は、前記有機物前駆体及びアルコール系有機溶媒が1:1〜1:5000の体積比で混合されたものであることを特徴とする請求項4に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項6】
前記混合溶液を基板の表面にコーティングするステップは、ディッピング、スピンコーティング、またはスプレイ方式により行われることを特徴とする請求項1に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項7】
前記混合溶液がコーティングされた基板を熱処理するステップは、50〜500℃の温度下で行われることを特徴とする請求項1に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項8】
前記混合溶液がコーティングされた基板を熱処理するステップは、1秒〜1時間行われることを特徴とする請求項7に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項9】
前記ナノ構造物を形成するステップでは、前記ナノ核を成長させるためにスパッタリング、熱CVD、MOCVD、VSLE、PLDまたはゾルゲル工程を利用することを特徴とする請求項1に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項10】
前記ナノ構造物を熱処理するステップは、100〜1200℃の温度下で行われることを特徴とする請求項1に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項11】
前記ナノ構造物を熱処理するステップは、1分〜24時間行われることを特徴とする請求項10に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項12】
前記ナノ構造物は、ナノワイヤー、ナノロッド、ナノウォールの形状を持つことを特徴とする請求項1に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。
【請求項13】
前記基板は、Al23、石英、Si、GaN、またはガラスからなることを特徴とする請求項1に記載の酸化物系ナノ構造物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−143771(P2008−143771A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251730(P2007−251730)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(596180076)韓國電子通信研究院 (733)
【氏名又は名称原語表記】Electronics and Telecommunications Research Institute
【住所又は居所原語表記】161 Kajong−dong, Yusong−gu, Taejon korea
【Fターム(参考)】