説明

酸化物誘電層の形成方法及びその形成方法で得られた酸化物誘電層を備えたキャパシタ層形成材

【課題】ゾル−ゲル法を用いて誘電層を形成し、その誘電層がエッチング液による損傷を受けにくく、且つ、高い電気容量等の誘電特性に優れた酸化物誘電層の形成方法を提供する。
【解決手段】ゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成方法において、以下の(a)〜(c)の工程を備えることを特徴とする酸化物誘電層の形成方法等を採用する。(a)工程:所望の酸化物誘電層を製造するゾル−ゲル溶液調製のための溶液調製工程。(b)工程:前記ゾル−ゲル溶液を金属基材の表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で乾燥し、酸素含有雰囲気中で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返し、1単位工程と1単位工程との間に任意に550℃〜1000℃の不活性ガス置換等の予備焼成処理を設けて膜厚調整を行う塗工工程。(c)工程:最終的に550℃〜1000℃の不活性ガス置換等の焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、キャパシタ層形成材及びそのキャパシタ層形成材の製造方法並びにそのキャパシタ層形成材を用いて得られる内蔵キャパシタ層を備えたプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
本件発明に言うキャパシタ層形成材は、上部電極形成に用いる第1導電層と下部電極形成に用いる第2導電層との間に誘電層を備える構成を持つものである。そして、当該第1導電層と第2導電層とは、エッチング加工等によりキャパシタ回路を形成するように加工され、特許文献1に開示されているように、プリント配線板等の電子材料を構成する材料として用いられるのが一般的である。
【0003】
そして、前記誘電層は、絶縁性を有し、一定量の電荷を蓄積するためのものである。このような誘電層の形成方法には、種々の方法が採用されているが、化学的気相反応法(CVD法)、スパッタリング蒸着法、ゾル−ゲル法を用いるのが一般的である。例えば、特許文献2には、化学的気相反応法を用いるものとして、下地上に400℃より低い温度で非晶質状SrTiO系薄膜を堆積する工程と、該非晶質状SrTiO系薄膜をレーザアニールまたはラピッドサーマルアニール処理して結晶化させ、SrTiO系薄膜を得る工程とを含む製造方法が開示されている。この方法は、高い誘電率を有するSrTiO系薄膜を得ることを目的としている。
【0004】
次に、特許文献3には、スパッタリング蒸着法を用いたものとして、基板上の任意の層に下部電極、高誘電率の誘電体、上部電極が積層された薄膜キャパシタにおいて、該高誘電率の誘電体が結晶粒と結晶粒界からなる多結晶であって、複数の原子価を取りうる金属イオンを不純物として含有し、該結晶粒内部よりも該結晶粒界近傍に高濃度の該不純物を含有していることを特徴とする薄膜キャパシタが開示され、その複数の原子価を取りうる金属イオンとしてMnイオンが好適であることが開示されている。この方法で得られた薄膜キャパシタは、長期信頼性が高く絶縁破壊に至る時間が長いとある。
【0005】
更に、特許文献4には、ゾル−ゲル法を用いたものとして、基板表面に水酸化処理を施した後、該基板上に、金属アルコキシドを原料とする酸化物誘電体薄膜を形成する酸化物誘電体薄膜の製造方法が開示されている。ここで、薄膜として形成できる酸化物誘電体は、誘電特性を有する金属酸化物であって、例えば、LiNbO、Li、PbZrTiO、BaTiO、SrTiO、PbLaZrTiO、LiTaO、ZnO、Ta等を用いるとある。この方法で得られた酸化物誘電体薄膜は、配向性に優れ、結晶性の良好な酸化物誘電体薄膜とある。
【0006】
ゾル−ゲル法を用いた誘電層の形成は、化学的気相反応法(CVD法)若しくはスパッタリング蒸着法を用いた誘電層の形成に比べ、真空プロセスを用いることも不要で、誘電層を広い面積の基板上に形成することも容易であるという利点がある。しかも、誘電層の構成成分を理論的比率にすることが容易で、且つ、極めて薄い誘電層が得られるため、大容量のキャパシタ層を形成する材料としての期待がかけられている。
【0007】
また、特許文献5に開示のPZT薄膜の製造方法は、基板上にPbTiO(PT)を主成分とするバッファ層を形成した後、前記PbTiOを主成分とするバッファ層が有機熱分解前される前にPZTを主成分とする薄膜材料を塗布し、両層を一括して有機熱分解した後に430〜500℃で結晶化熱処理を行う工程を有することを特徴とするものが開示されている。そして、ここで言うバッファ層は、低温で結晶化するに際して、PTとPZTとが結晶構造や格子定数が近いという特性を生かしてPZT成膜時のPZT結晶化のためのエネルギーを低減する効果を期待したものである。確かに、ゾルーゲル法による誘電層の製造は、一般的に見て高温焼成による結晶化を要求されるため、種々の問題が生ずる可能性が高く、低温焼成法としては有効なものである。
【0008】
【特許文献1】特表2002−539634号公報
【特許文献2】特開平06−140385号公報
【特許文献3】特開2001−358303号公報
【特許文献4】特開平07−294862号公報
【特許文献5】特許第3427795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ゾル−ゲル法を用いた誘電層は、その薄さ故に膜厚の不均一及び酸化物粒子の粒子間の間隙の存在により、キャパシタを形成した際の上部電極と下部電極との短絡に起因してリーク電流が大きくなる場合があり、生産歩留りが低いという問題がある。特に、キャパシタとしての電気容量を高容量化するため、電極面積を広くしようとしたときには、短絡現象の起こる不良品の発生が顕著となる。
【0010】
一般的にキャパシタ回路は、余剰の電気を蓄電する等して電子・電気機器の省電力化等を可能にしてきたものであるから、可能な限り大きな電気容量を持つことが基本的な品質として求められる。キャパシタの容量(C)は、C=εε(A/d)の式(εは真空の誘電率)から計算される。特に、最近の電子、電気機器の軽薄短小化の流れから、プリント配線板にも同様の要求が行われることになり、一定のプリント配線板等の基板面積の中で、キャパシタ電極の表面積(A)を広く採っても、キャパシタ回路の高容量化を必要とする場合がある。
【0011】
また、一般的なキャパシタ回路の形成を行う場合には、下部電極を形成するための金属箔等の基板上にゾルーゲル法で誘電層を成膜した後、当該誘電層の上にスパッタリング法等により上部電極となる銅層を成膜し、ウェットエッチング法により所定のキャパシタ回路になるようにパターニングする。ところが、ウェットエッチングを行う際のエッチング液が誘電層内部に侵入し、基板である金属箔上にまで到達する。このような現象が起こると、基板の溶出が起こり、誘電層までもが除去されてしまう。このような誘電層へのエッチング液の浸透が起こると、誘電損失の上昇を招き、見かけ容量密度の増大など電気特性に悪影響を与える。また、基板の溶出、誘電層の損傷などは、上部電極と下部電極(基板)との短絡を起こし、キャパシタ回路の生産歩留りが低下する。特に、埋め込み受動部品用のキャパシタ箔を製造する場合は、製品コストの上昇を招かないように、安価な卑金属箔を下部電極の構成材として用いることが好ましく、上部電極のパターニングには従来どおりウェットエッチング可能であり、且つ、特性の劣化が起きないことが望ましい。
【0012】
更に、特許文献5に開示のような低温焼成法で誘電層としてのPZT薄膜を得ようとするとPZTの結晶化を促進するバッファ層を必須とするため、製造工程が複雑化して、製造コスト及び製造条件の管理が複雑化して、トータル製造コストを上昇させることになり好ましくない。しかも、特許文献5に開示の手法で得られる誘電層は、バッファ層が存在することにより誘電層としてのトータル厚さも厚くなり、且つ、誘電体としての品質の乏しいPTを用いているために、高容量の誘電層が得られ難いという欠点がある。
【0013】
以上のことから、市場では、製造コストメリットに優れたゾル−ゲル法を用いて誘電層を形成し、その誘電層がエッチング液による損傷を受けにくく、且つ、高い電気容量を備えるものとなることが望まれてきた。そして、同時にその誘電層の形成方法は、生産歩留りが高いものであることが求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本件発明者等は、鋭意ゾル−ゲル法で形成した誘電層の酸化物結晶粒を、従来にないレベルに微細化したり、むしろ結晶粒界が少ない粗大粒を得る等の手法を試みていくなかで、以下の発明に想到した。
【0015】
本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法: 本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法は、ゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を備えることを特徴とする。
【0016】
(a)所望の酸化物誘電層を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程。
(b)前記ゾル−ゲル溶液を金属基材の表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に任意に550℃〜1000℃の不活性ガス置換又は真空中での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行う塗工工程。
(c)そして、最終的に550℃〜1000℃の不活性ガス置換又は真空中での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。
【0017】
そして、本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法で用いる前記ゾル−ゲル溶液は、酸化物誘電層として(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜又はBiZrO膜を形成するものであることが好ましい。
【0018】
更に、本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法で用いる前記ゾル−ゲル溶液は、マンガン、ケイ素、ニッケル、アルミニウム、ランタン、ニオブ、マグネシウム、スズから選ばれる一種又は二種以上を合計0.01mol%〜5.00mol%含有する酸化物誘電層を形成するものであることが好ましい。
【0019】
本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法で得る前記誘電層は、厚さが20nm〜2μmとするものであることが好ましい。
【0020】
本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法で用いる前記金属基材は、厚さが1μm〜100μmであるニッケル箔、ニッケル合金箔、ニッケル層を表層に備える複合箔、ニッケル合金層を表層に備える複合箔のいずれかであることが好ましい。
【0021】
そして、前記金属基材はニッケル合金箔又はニッケル合金層を表層に備える複合箔のニッケル合金層は、ニッケル−リン合金よりなるものであることが好ましい。
【0022】
本件発明に係るキャパシタ層形成材: 本件発明に係るキャパシタ層形成材は、上部電極形成に用いる第1導電層と下部電極形成に用いる第2導電層との間に誘電層を備えるキャパシタ層形成材において、当該誘電層を上述の製造方法のいずれかに記載の酸化物誘電層の形成方法により得られたものであることが好ましい。
【0023】
本件発明に係るプリント配線板: そして、上記本件発明に係るキャパシタ層形成材を用いることで、高品質の内蔵キャパシタ層を備えたことを特徴とするプリント配線板を得ることが出来る。
【発明の効果】
【0024】
本件発明に係るゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成方法は、歩留まり良く、高品質の酸化物誘電層の形成が可能である。この本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法によって得られる誘電層は、リーク電流を小さくし、エッチング液による損傷を受けにくいという特性を持ち、特にエッチング法によるキャパシタ回路形成に好適なものとなる。そして、本件発明に係るゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成方法を用いて誘電層を形成したキャパシタ層形成材は、プリント配線板のキャパシタ層の形成に好適であり、高い電気容量、低い誘電損失を示すキャパシタ回路の製造を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法>
本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法は、ゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を備えることを特徴とする。以下、工程ごとに説明する。
【0026】
最初に、本件発明の特徴を容易に理解出来るように、本件発明者等が従来から行っていたゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成に関して簡単に説明する。従来の誘電層として用いるために酸化物誘電層の形成は、(I)〜(III)の工程を経るのが通常である。
【0027】
(I)所望の酸化物誘電層を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程。(II)前記ゾル−ゲル溶液を基材表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃×30秒〜10分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で450℃〜550℃×5分〜30分の条件で熱分解を行う工程を複数回繰り返し膜厚調整を行う塗工工程。そして、この(II)の工程を、複数回繰り返し、所望の膜厚とする調整を行う。(III)次に、最終的焼成として550℃〜800℃×5分〜60分の不活性ガス置換雰囲気又は真空中での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。以上の工程を経て、酸化物誘電層を形成していた。
【0028】
以上のことから分かるように、従来のゾル−ゲル法を用いた酸化物誘電層の形成は、焼成を行うのが最終段階における1回のみである。これに対して、本件発明では、1単位工程の途中に1回以上の予備焼成を設けて、酸化物誘電層を製造するのである。
【0029】
(a)工程: この工程は、所望の酸化物誘電層を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程である。この工程に関して、特段の制限はなく、市販の調製剤を使用しても、自らが配合しても構わない。結果として、所望の前記酸化物誘電層として、(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜又はBiZrO膜のいずれか得ることが出来ればよいのである。ここで、(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜において、x=0の場合にはBaTiO組成を意味し、x=1の場合にはSrTiO組成を意味するものとなる。そして、この中間組成として、(Ba0.7 Sr0.3)TiO等が存在する。
【0030】
更に、誘電層のリーク電流が発生するメカニズムを考えるに、ゾル−ゲル法で形成した酸化物誘電層とした場合のリーク電流は、酸化物誘電層の結晶粒界及び格子欠陥を経由して流れる可能性の高いことが判明してきた。即ち、酸化物誘電層の組織が微細で、結晶粒界が多く、結晶内の内部欠陥密度が高い程、リーク電流は大きくなる。この点の解決策に関しては後述するが、酸化物誘電層の組成によっては、リーク電流を小さくして、誘電層としての品質を向上させることが可能である。
【0031】
即ち、上記酸化物誘電層の結晶粒界及び粒内にマンガン、ケイ素、ニッケル、アルミニウム、ランタン、ニオブ、マグネシウム、スズから選ばれる一種又は二種以上を含ませることが好ましい。これらの成分は、誘電層の内部では酸化物として存在していると考えられ、ゾル−ゲル法で得られた酸化物誘電層の結晶粒界に偏析させることを一義とし、リーク電流の流路を遮断するために用いるのである。従って、これらの成分を「リーク防止成分」と称する。このリーク防止成分の中でも、マンガンを用いることが好ましい。このマンガンは、ゾル−ゲル法で得られた酸化物誘電層の結晶粒界に偏析させる事が容易だからである。このとき当該酸化物誘電層に含ませるリーク防止成分量は0.01mol%〜5.00mol%とすることが好ましい。ここで、2種以上の成分を用いる場合には、その合計成分量がリーク防止成分量となる。当該リーク防止成分量が0.01mol%未満の場合には、ゾル−ゲル法で得られた酸化物誘電層の結晶粒界へのリーク防止成分の偏析が不十分であり、良好なリーク電流の減少効果が得られない。一方、当該リーク防止成分量が5.00mol%を超える場合には、ゾル−ゲル法で得られた酸化物誘電層の結晶粒界へのリーク防止成分の偏析が過剰になり、誘電層が脆く靱性が失われ、エッチング法で上部電極形状等を加工する際のエッチング液シャワー等により誘電層破壊が起こる等の不具合が生じやすくなるのである。また、リーク防止成分量が過剰となると、以下に述べる製造方法での酸化物結晶組織の成長が抑制される傾向もある。従って、リーク防止成分を、上述の範囲で含む組成を採用することで、キャパシタとしての電気容量を大幅に上昇させ、リーク電流をより小さくして長寿命化を達成するのである。なお、より好ましくは、当該酸化物誘電層に含ませるリーク防止成分量は0.25mol%〜1.50mol%である。より確実に酸化物誘電層の品質を確保するためである。なお、酸化物誘電層とは、ペロブスカイト構造を持つ誘電膜のことであり、この酸化物誘電層に酸化マンガン成分等が含まれているとの明示の無き限り、酸化マンガンを含まない。
【0032】
また、マンガンを初めとするリーク防止成分が酸化物結晶格子内に置換配置する場合も想定される。一般に酸化物誘電層は、低酸素分圧下での結晶化により酸素欠損を生じる。このためチタンの価数が4価から3価に還元され、この価数の異なるチタン原子間の電子ホッピングにより絶縁性が低下するとされる。しかし、適切な量のリーク防止成分が、酸化物結晶内に置換固溶した場合、2価ないし3価の原子価配置をとり、酸素欠損を補償することができ、チタンの還元が起こらず絶縁性を向上させる効果が期待できる。
【0033】
そして、本件発明に係る方法で形成する酸化物誘電層は、厚さが20nm〜2μmであることが好ましい。この誘電層の厚さが薄いほど電気容量が向上するため、より薄いほど好ましいのである。しかし、誘電層の厚さが20nm未満となると、例え誘電層の上記マンガン、ケイ素等の添加を行ったとしても、リーク電流を小さくする効果がなくなり、絶縁破壊が早期に起こるため長寿命化が出来ない。これに対し、誘電層が厚いと絶縁信頼性が増すため、電気容量とのバランスによっては、誘電層は厚くて構わない。しかし、ゾル−ゲル法で誘電層を形成する場合、工業的生産性を考慮すれば2μm程度が現実的であり、更に市場要求を含めて考えると1μm程度が上限と思われる。なお、後述する酸化物誘電層の結晶組織のサイズを考慮すると、50nm以上の厚さとすることが、より好ましい。
【0034】
(b)工程: この工程は、前記ゾル−ゲル溶液を金属基材の表面に塗工し(以下の説明上、「塗工」と称する。)、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃で乾燥し(以下の説明上、「乾燥」と称する。)、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃で熱分解を行う(以下の説明上、「熱分解」と称する。)一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に少なくとも1回以上の550℃〜1000℃の不活性ガス置換又は真空中での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行う塗工工程である。
【0035】
即ち、この工程では、塗工→乾燥→熱分解の連続した一連の工程を1単位工程と称している。そして、従来の方法では、単にこの1単位工程を複数回繰り返して、最終的に焼成していた。これに対し、本件発明では、1単位工程を複数回繰り返す途中に、少なくとも1回以上の予備焼成工程を設けるのである。従って、例えば6回の1単位工程を繰り返し行う場合で考えると、1回の予備焼成工程を設けるとすれば1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)→1単位工程(3回目)→1単位工程(4回目)→1単位工程(5回目)→1単位工程(6回目)のプロセスを採用する等である。そして、2回の焼成工程を設けるとすれば、1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)→1単位工程(3回目)→予備焼成工程→1単位工程(4回目)→1単位工程(5回目)→1単位工程(6回目)のプロセスを採用する等である。更に、全ての1単位工程間に焼成工程を設けるとすれば、1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)→予備焼成工程→1単位工程(3回目)→予備焼成工程→1単位工程(4回目)→予備焼成工程→1単位工程(5回目)→予備焼成工程→1単位工程(6回目)のプロセスを採用することになる。
【0036】
従来のゾル−ゲル法で得られた酸化物誘電層の結晶状態は、微細な結晶粒が存在し、結晶粒内に多数のボイドが確認出来る。これはゾル−ゲル液に含まれる有機成分が、焼成時に蒸発気散するためであると考えられる。このような状態で、ウェットエッチングを行うと、エッチング液が誘電層に浸透しやすい。従って、上部電極をエッチングによりパターニングするとき、誘電層を透過したエッチング液により基板(下部電極の構成材)が浸食され、その浸食部位の誘電層が欠落し、消失する。これに対して、この(b)工程を採用することにより、酸化物誘電層の組織が、膜密度が高く緻密で、結晶粒内の構造欠陥の少ない状態になる。従って、上述のように上部電極をウェットエッチング法でパターニングしても、誘電層に対するエッチング液の浸透が起こりにくい為、上部電極をエッチングによりパターニングした後の誘電層が露出する予定の部位に誘電膜が確実に観察され、基板(下部電極の構成材)のエッチング溶出が防止出来る。この結果、リーク電流は小さく、高容量の誘電層を備えるキャパシタ回路が得られる。ここで言う誘電層に対するエッチング液の浸透を最も効果的に防止するのは、6回の1単位工程を繰り返し行う場合で考えると、予備焼成工程を可能な限り早期に実施することが好ましい。従って、1単位工程(1回目)→予備焼成工程→1単位工程(2回目)で行うことが理想的である。この予備焼成工程を1回のみ行う場合で考えると1単位工程(5回目)→予備焼成工程→1単位工程(6回目)のように、最終焼成に近づくほど予備焼成工程の持つ意味が最終焼成と変わらなくなり、予備焼成工程を設ける効果が弱まる。
【0037】
そして、酸化物誘電層の結晶組織は、可能な限り大きな粒径を持つことが好ましい。粒径を可能な限り大きくできれば、リーク経路となる結晶粒界の存在比率を減少させることが出来るからである。本件発明者等の研究によれば、結晶粒径に限定して言えば、当該誘電層の粗大化結晶組織が厚さ方向及び平面方向に成長し、且つ、粒径(長径)が50nm〜300nmの酸化物結晶組織を含むものとした場合に、リーク電流が少なくなり、且つ高電気容量の誘電層となり、更に長期使用に耐える長寿命化が達成出来る事が判明した。ここで言う粒径とは、誘電層の断面を、集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で1000000倍で観察したときの観察像から直接観察した粗大粒の長径を測定した結晶粒の大きさであり、厳密な意味での粒径とは言えないが、粗大化した結晶粒の存在を明確にする為の指標としては何ら問題はない。観察された粒径(長径)が50nm未満のものしか存在しない場合には、従来のゾル−ゲル法で得られた酸化物誘電層と比較して、リーク電流の減少も、電気容量の増加も顕著とならない。一方、誘電層を構成する酸化物結晶組織の粒径(長径)が300nmを超えるレベルの結晶粒を得るためには、極めて特殊な製造条件を適用しなければならず、実質的な工業的規模での生産が不可能な範囲である。
【0038】
ここで、1単位工程の塗工に関して述べる。ゾル−ゲル溶液を金属基材の表面に塗工する際の塗工手段に関しては、特に限定を要さない。しかしながら、膜厚の均一性及びゾル−ゲル溶液の特質等を考慮する限り、スピンコータを用いることが好ましい。
【0039】
そして、ここで言う金属基材には、ニッケル層、ニッケル合金層、ニッケル層を表層に備える複合箔、ニッケル合金層を表層に備える複合箔のいずれかを用いることが好ましい。これらを好ましく使用出来るのは、(1)金属箔としての入手が可能で、その箔状態のままで、その表面にゾル−ゲル法による誘電層の形成が可能である。(2)ゾル−ゲル法で誘電層を形成するときに負荷される過酷な熱履歴に対しての耐酸化性、抗軟化特性が優れている。(3)ニッケル合金組成を変化させることで、一定レベルで誘電層との密着性が制御出来る。(4)エッチング法により下部電極形状を形成するときにファインなキャパシタ回路の形成が可能となる。
【0040】
ここで言うニッケル層又はニッケル合金層は、主に金属箔を用いることを意図している。従って、ニッケル層とは、所謂純度が99.0%(その他、不可避不純物)以上の純ニッケル箔で形成される事が好ましく、最も好ましくは99.9%以上である。ニッケル箔の純度が上昇するほど、ニッケル箔と誘電層との密着安定性が向上するのである。そして、ニッケル合金層とは、例えばニッケル−リン合金を用いて形成される層である。ここで言うニッケル−リン合金のリン含有量は0.1wt%〜11wt%である事が好ましい。ニッケル−リン合金層のリン成分は、キャパシタ層形成材の製造及び通常のプリント配線板の製造プロセスにおいて高温負荷されることがあれば、誘電層の内部に拡散し、誘電層との密着性を劣化させ、誘電率にも変化を与えていると考えられる。しかしながら、適正なリン含有量を備えたニッケル−リン合金層は、キャパシタとしての電気特性を向上させる。リン含有量が0.1wt%未満の場合には、純ニッケルを用いた場合と変わらないものとなり、合金化することの意義が失われるのである。これに対し、リン含有量が11wt%を超えると、誘電層の界面にリンが偏析し、誘電層との密着性が劣化し、剥離しやすいものとなる。従って、リン含有量は、0.1wt%〜11wt%の範囲が好ましい。そして、誘電層とのより安定した密着性を確保するためには、リン含有量が0.2wt%〜3wt%の範囲であれば工程に一定のバラツキがあっても安定した品質のキャパシタ回路の形成が可能となる。なお、最適な範囲を敢えて指摘するならば、リン含有量が0.25wt%〜1wt%で最も良好な誘電層との密着性を確保し、同時に良好な誘電率をも確保出来るのである。なお、本件発明におけるリン含有量は、[P成分重量]/[Ni成分重量]×100(wt%)として換算した値である。
【0041】
そして、本発明における金属基材には、ニッケル箔およびニッケル合金箔の他、ニッケル層を表層に備える複合箔、ニッケル合金層を表層に備える複合箔を用いることも可能である。即ち、金属箔の最表層に、これらニッケル若しくはニッケル合金層を備えた複合箔の如きものも含む概念として記述している。例えば、金属基材を構成する材料として、銅箔の表面にニッケル層若しくはニッケル合金層を備えた複合箔を用いることもできる。また、このニッケル層又はニッケル合金層は、箔の片面若しくは両面に設けてもよい。
【0042】
このような物性を備える限り、フッ素樹脂基板、液晶ポリマー等を基板材料としたプリント配線板の製造プロセスで用いられる300℃〜400℃の高温加工プロセスを経ても強度の劣化は殆ど無い。結果として、この金属箔や複合箔を金属基材として用い、その表面に誘電層を形成しても金属基材の品質劣化も殆ど無いことになる。なお、本件発明に言うニッケル箔及びニッケル合金箔の結晶組織は、結晶粒が可能な限り細かく強度を向上させたものであることが好ましい。更に具体的に言えば、圧延ニッケル箔が引張り強さの点で好ましく、電解ニッケル箔の場合には平均結晶粒径0.5μm以下のレベルに微細化され、機械的強度の高い物性を備えることが好ましいのである。
【0043】
そして、金属基材の厚みはトータル1μm〜100μmであることが好ましい。上記厚みが1μm未満では、キャパシタ回路を形成したときの電極としての信頼性に著しく欠け、その表面へ誘電層を形成する事が極めて困難となる。一方、100μmを超える厚みとすることには、実用上の要求が殆どない。また、第2導電層の厚さを10μm以下とする場合には、ハンドリングが困難となる。そこで、第2導電層を構成する金属箔が、接合界面を介して、キャリア箔と張り合わせられたキャリア箔付金属箔を用いることが好ましい。キャリア箔は、本件発明に言うキャパシタ層形成材に加工して以降の段階で除去すれば良い。また、ここで言うニッケル層を表層に備える複合箔又はニッケル合金層を表層に備える複合箔の場合には、そのニッケル層又はニッケル合金層は、双方の複合箔のトータル厚さが1μm〜100μmであることを前提とすると、0.1μm〜3μmとすることが好ましい。ニッケル層又はニッケル合金層の厚さが0.1μm未満の場合には、ゾル−ゲル法で誘電層を形成するときに負荷される過酷な熱履歴に対しての耐酸化性を得ることが出来ない。一方、ニッケル層又はニッケル合金層の厚さが3μmを超える場合には、コスト的に見て通常のニッケル箔又はニッケル合金箔を用いる場合と大差無くなるからである。
【0044】
以上に述べてきた金属基材のそれぞれの製造方法に関しては、特段の限定はない、通常考え得る全ての方法を採用することが可能である。例示的に示すと、ニッケル箔又はニッケル合金箔は、電解法若しくは圧延法で製造したものを用いることが可能である。これらの製造方法に関して、特に限定はない。特に、圧延法は、インゴットの成分を冶金的プロセスで調整し、それを適当な焼鈍作業を行いつつ圧延ロールで箔状へと加工するものであり、ニッケル合金箔の製造には有利であり、従来からの手法を採用すれば足りるのである。更に、ニッケル層を表層に備える複合箔又はニッケル合金層を表層に備える複合箔の場合には、銅箔等の金属箔の表面に、以下に言う電解法、スパッタリング蒸着法、化学気相反応法等でニッケル層又はニッケル合金層を形成する事が出来る。
【0045】
例えば、電解法の場合には、その電解液、電解条件等により析出する金属組織が異なり、結果として物理的強度にも影響を与える。しかしながら、ニッケル箔又はニッケル層を形成する場合は、ニッケルメッキ液として知られる溶液を広く使用することが可能である。例えば、(i)硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が5〜30g/l、液温20〜50℃、pH2〜4、電流密度0.3〜10A/dmの条件、(ii)硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が5〜30g/l、ピロリン酸カリウム50〜500g/l、液温20〜50℃、pH8〜11、電流密度0.3〜10A/dmの条件、(iii)硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が10〜70g/l、ホウ酸20〜60g/l、液温20〜50℃、pH2〜4、電流密度1〜50A/dmの条件、その他一般のワット浴の条件とする等である。
【0046】
そして、ニッケル−リン合金箔又はニッケル−リン合金層を電解で製造する場合には、リン酸系溶液を電解液として用いる。この場合、(i)硫酸ニッケル濃度120g/l〜180g/l、塩化ニッケル濃度35g/l〜55g/l、HPO濃度3g/l〜5g/l、HPO濃度2g/l〜4g/l、液温70℃〜95℃、pH0.5〜1.5、電流密度5A/dm〜50A/dmの条件、(ii)硫酸ニッケル濃度が180g/l〜280g/l、塩化ニッケル濃度30g/l〜50g/l、HBO濃度16g/l〜25g/l、HPO濃度1g/l〜5g/l、液温45℃〜65℃、電流密度5A/dm〜50A/dmの条件等を採用するのである。また、市販の無電解メッキ液を用いて、無電解法にてニッケル−リン合金層を形成する事も可能であるが製膜速度の点で工業的生産性を満足しない。
【0047】
次に、1単位工程の乾燥に関して述べる。ゾル−ゲル溶液の塗工が完了すると、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃で乾燥する。このとき乾燥温度が120℃未満となると、工業的に求められる時間内での乾燥が不十分となり、後の熱分解後の誘電層表面に粗れが生じる場合が多くなる。一方、乾燥温度を250℃を超えるものとすると、乾燥状態が不均一に成りやすく、その結果、後の熱分解反応が不均一になり得られる誘電層の場所的な品質バラツキを生じやすくなる。そして、この乾燥における時間は、30秒〜10分の範囲を採用することが好ましい。上記温度範囲の上限値である250℃を採用しても、乾燥時間が30秒未満の場合には十分な乾燥状態が得られない。また、上記温度範囲の下限値である120℃を採用しても10分を超える乾燥時間とすると、後の熱分解反応が不均一になり得られる誘電層の場所的な品質バラツキを生じやすくなる。この乾燥及び後述する熱分解を行うときには、酸素含有雰囲気で行う。即ち、還元雰囲気で行うと有機物の分解が促進されないからである。
【0048】
本件発明に係る製造方法において乾燥で120℃〜250℃及び熱分解で270℃〜390℃という低温条件を採用することで、もう一つの大きな効果を得ることが出来る。図5に透過電子顕微鏡観察像を示しているが、ここで下部電極4と誘電層1との界面に、異相5(図5の下部電極4と誘電層1との界面にあるコントラストの異なる層)が確認される。この異相は乾燥温度及び熱分解温度を高くすると発生しやすい傾向にあり、この異相が発生すると、誘電層と下部電極との密着性が損なわれ且つ誘電特性が劣化する傾向がある。この異相は酸化ニッケル、その他の複合金属酸化物等であると推測しているが詳細は不明である。これに対し、乾燥に上記低温乾燥及び低温熱分解の条件を採用すると、安定して図6の透過電子顕微鏡観察像のように、異相のない界面を形成することができ、誘電層1と下部電極4との安定した密着性及び良好な誘電特性が得られるのである。
【0049】
更に、1単位工程の熱分解に関して述べる。上記乾燥が終了すると、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃の温度で熱分解を行う。ここで、採用した熱分解温度が極めて特徴的である。従来の熱分解温度には450℃〜550℃の温度範囲が採用されてきた。これに対し、本件発明に係る製造方法では、金属基材の余分な酸化を防止するため270℃〜390℃という低温域での熱分解温度を採用しているのである。ここで熱分解温度を270℃未満とすると、いかに長時間の加熱を続けても良好な熱分解が起こりにくく、生産性に欠けると共に、良好なキャパシタ特性が得られない。一方、誘電層は、金属基材の表面上に形成するものであり、390℃を超える加熱を行うと、誘電層と金属基材との界面に於いて、金属基材の表面の酸化が顕著に見られるようになる。しかしながら、大量生産を行う上での工程のバラツキと品質の安全性を考慮すると、それ以下の温度である370℃程度を上限とする事が好ましい。そして、加熱時間は、採用する分解温度とゾル−ゲル溶液の性状によって決められるものであるが、5分〜30分の加熱温度範囲を採用することが望ましい。上記温度範囲を採用することを前提として、5分未満の加熱では十分な熱分解が行えない。また、加熱時間が30分を超えると、上記温度範囲でも金属基材表面の酸化が進行するのである。
【0050】
そして、上述した1単位工程と1単位工程との間に設ける予備焼成工程は、550℃〜1000℃の不活性ガス置換又は真空中での焼成処理を行う。この条件は、以下に述べる(c)工程とほぼ同様であるため、その説明で数値の臨界的意義等を述べることとする。なお、この予備焼成工程における焼成時間は、2分〜60分の時間を採用することが好ましい。この焼成時間に関しても後述する。
【0051】
(c)工程: この工程は、最終的に550℃〜1000℃の不活性ガス置換又は真空中での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程である。この焼成工程が所謂本焼成工程であり、この焼成を経て、最終的な誘電層となる。この焼成工程では、金属基材の酸化劣化を防止するため、不活性ガス置換雰囲気又は真空中で加熱を行う。このときの加熱温度には、550℃〜1000℃の条件を採用する。この温度条件未満の加熱では、工業的に求められる焼成時間内での焼成が困難であり、金属基材との密着性に優れ、適正な緻密さと適度な粒度の結晶組織を備える誘電層が得られないのである。そして、この温度条件を超える過剰の加熱温度を採用すると、誘電層の劣化及び基材の物理的強度の劣化が進行し、キャパシタ特性である高い電気容量及び長寿命化が図れなくなる。なお、この焼成温度での焼成時間としては5分〜60分とすることが好ましい。上記焼成温度の上限温度(1000℃)を採用しても、5分未満の焼成時間では、十分な焼成が行えず、電気容量の大きな良好な誘電層が得られない。一方、60分を超える未満の焼成時間では、上記焼成温度の下限温度(550℃)を採用しても、電気容量の大きな良好な誘電層が得られず、誘電層が脆化しやすくなる。
【0052】
以上のような方法で製造した誘電層は、金属基材の表面に直接誘電層が形成されており、金属基材と誘電層との間にバッファ層が存在しない。従って、製造工程が複雑化する事もなくトータル製造コストの上昇はなく、しかも、バッファ層が存在しないため誘電層としてのトータル厚さも薄く高容量の誘電層が得られ易いという利点がある。
【0053】
<本件発明に係るキャパシタ層形成材>
本件発明に係るキャパシタ層形成材は、上部電極形成に用いる第1導電層と下部電極形成に用いる第2導電層との間に誘電層を備えるキャパシタ層形成材において、当該誘電層を上述の製造方法のいずれかに記載の酸化物誘電層の形成方法により得られたものであることが好ましい。即ち、金属基材に前記下部電極形成に用いる第2導電層となる金属箔等を用いて、その表面に上述の誘電層の形成方法によって酸化物誘電層を形成する。そして、得られた誘電層の上に第1導電層を形成し、キャパシタ層形成材とするのである。ここで誘電層の上に第1導電層を形成する方法としては、金属箔を用いて張り合わせる方法、メッキ法で導電層を形成する方法、スパッタリング蒸着等の方法を採用することが可能である。
【0054】
<本件発明に係るキャパシタ層形成材を用いたプリント配線板>
そして、上記本件発明に係るキャパシタ層形成材を用いることで、高品質の内蔵キャパシタ層を備えたことを特徴とするプリント配線板を得ることが出来る。
【0055】
本件発明に係るキャパシタ層形成材は、多層プリント配線板の内蔵キャパシタ層の形成に好適に用いることが出来る。当該キャパシタ層形成材の第1導電層と第2導電層をキャパシタ回路形状にエッチング法で形成し、多層プリント配線板の構成材料として用いるのである。また、第2導電層に上述のニッケル又はニッケル合金を用いることで、誘電層との密着性に優れた下部電極を形成することが可能となり、当該下部電極は耐熱性に優れた素材であるため、300℃〜400℃の範囲の熱間プレス加工を複数回経ても、酸化劣化も起こらず、物性変化も起こしにくいものである。この本件発明に係るキャパシタ層形成材を用いての内蔵キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造方法に関して、特段の限定はなく、あらゆる方法を採用する事が可能となる。
【0056】
ここでプリント配線板を製造する際に製造方法の一例を示す。例えば、図7(a)に示すキャパシタ層形成材11の片面の第1導電層12を整面し、その両面にドライフィルムを張り合わせて、エッチングレジスト層21を形成する。そして、その第1導電層の表面のエッチングレジスト層に、上部電極を形成するためのエッチングパターンを露光し、現像する。そして、塩化銅エッチング液でエッチングして、図7(b)に示すように上部電極15を形成する。
【0057】
そして、上部電極15の形成後にエッチングレジストを回路表面に残留させた状態で、回路部以外の領域の露出した誘電層の除去を行う。このときの誘電層の除去方法は、ウエットブラスト処理を用いる事が好ましい。このウエットブラスト処理が終了すると、エッチングレジストの剥離を行い、水洗し、乾燥し、図7(c)に示す状態とする。
【0058】
上記誘電層除去の終了したキャパシタ層形成材は、露出した誘電層を除去して、深くなった上部電極間ギャップを埋設する必要がある。そこで、図8(d)に示すように、キャパシタ層形成材の表面に絶縁層及び導電層を設けるため、銅箔16の片面に80μm程度の厚さの半硬化樹脂層17を備えた樹脂層付銅箔18を重ね合わせて、180℃×60分の加熱条件下で熱間プレス成形し、外層に銅箔層16と絶縁層17’と張り合わせて、図8(e)に示す状態とする。そして、図8(e)に示す外層の第2導電層14をエッチング加工し、下部電極19とし、図8(f)に示す状態とする。
【0059】
次に、外層に位置する銅箔層16にレーザー加工法による穴明けを行い、銅メッキを行うことにより銅メッキ層24を設け、ビアホール23を形成し、エッチング加工して図9(g)の状態とする。そして、図9(h)に示すように、樹脂層付銅箔18を重ね合わせて、180℃×60分の加熱条件下で熱間プレス成形し、外層に銅箔層16と絶縁層17とを張り合わせ、図10(i)に示す状態とする。
【0060】
そして、図10(i)に示す外層の銅箔層16にレーザー加工法による穴明けを行い、銅メッキを行うことにより銅メッキ層24を設け、ビアホール23を形成し、エッチング加工して図10(j)の状態とする。このときのエッチング方法及びビアホール形成等に関しても、定法を採用する事が出来る。以上のようにして、内蔵キャパシタ回路を備えるプリント配線板10を製造できる。なお、ここで明記しておくが、本件発明に係るプリント配線板の製造は、上記製造方法に限定して解釈されるものではなく、あらゆる製造方法を採用することが可能である。以下、実施例を説明する。
【実施例1】
【0061】
この実施例では、金属基材(下部電極形成層)であるニッケル箔の表面に、上記酸化物誘電層を形成し、更に当該誘電層の表面に上部電極形成層を設けキャパシタ層形成材を製造した。そして、このキャパシタ層形成材を用いてエッチング法でキャパシタ回路を形成し、各種誘電特性の評価を行った。
【0062】
<金属基材(下部電極形成層)の製造>
ここでは、圧延法で製造した50μm厚さのニッケル箔を使用した。なお、圧延法で製造したニッケル箔の厚さはゲージ厚さとして示したものである。このニッケル箔が、キャパシタ層形成材となったときの第2導電層を構成することになる。
【0063】
<誘電層の形成>
当該ニッケル箔の表面にゾル−ゲル法を用いて誘電層を形成した。ゾル−ゲル法で誘電層を形成する前のニッケル箔は、前処理として、250℃×15分の加熱を行い、紫外線の1分間照射を行い、表面の清浄化を図った。
【0064】
(a)工程: この溶液調製工程では、ゾル−ゲル法に用いるゾル−ゲル溶液を調製した。ここでは、三菱マテリアル株式会社製の商品名 BST薄膜形成剤 7wt%BSTを用いて、Ba0.7Sr0.3TiOの組成の酸化物誘電層を得られるように調製した。
【0065】
(b)工程: この工程では、前記ゾル−ゲル溶液を金属基材の表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で150℃×2分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で330℃×15分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とした。そして、この1単位工程を6回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に少なくとも1回以上の650℃×15分の不活性ガス置換での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行った。そして、複数の試料として、試料1−1〜試料1−8を得た。
【0066】
試料1−1及び試料1−2に対しては、1回目の1単位工程と2回目の1単位工程との間に1回の予備焼成工程を設けたものである。
試料1−3に対しては、2回目の1単位工程と3回目の1単位工程との間に1回の予備焼成工程を設けたものである。
試料1−4に対しては、3回目の1単位工程と4回目の1単位工程との間に1回の予備焼成工程を設けたものである。
試料1−5に対しては、4回目の1単位工程と5回目の1単位工程との間に1回の予備焼成工程を設けたものである。
試料1−6に対しては、1回目の1単位工程と2回目の1単位工程との間及び3回目の1単位工程と4回目の1単位工程との間の計2回の予備焼成工程を設けたものである。
そして、試料1−7及び試料1−8に対しては、1回目の1単位工程から6回目の1単位工程との間の各工程間に計5回の予備焼成工程を設けたものである。
【0067】
(c)工程: そして、上記試料1−1、試料1−3、試料1−4、試料1−5、試料1−6、試料1−7の各試料を650℃×15分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成した。また、試料1−2及び試料1−8の試料は700℃×30分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成した。
【0068】
<上部電極の形成>
以上のようにして、各試料に形成した誘電層の上に、スパッタリング蒸着法により2μm厚さの銅層を第1導電層として形成し、誘電層の両面に第1導電層と第2導電層とを備える8種のキャパシタ層形成材とした。
【0069】
<キャパシタ回路の形成>
前記各キャパシタ形成材の第1導電層の表面にエッチングレジスト層を設け、上部電極形状を形成するための、エッチングパターンを露光し、現像した。その後、塩化銅系銅エッチング液で第1導電層をエッチングして、エッチングレジスト剥離を行うことで、上部電極面積が1mm×1mmサイズと上部電極面積が4mm×4mmサイズの各100個のキャパシタ回路を形成した。
【0070】
<誘電特性の評価>
生産歩留り: キャパシタ回路の形成後に、各試料の100個のキャパシタ回路に、所定の電圧を負荷して、層間耐電圧測定を行い、上部電極と下部電極との間でのショート現象の見られない割合をみた。その結果、1mm×1mmサイズのキャパシタ回路の生産歩留りは80%〜100%であり、4mm×4mmサイズのキャパシタ回路の生産歩留りは10%〜83%であった。
【0071】
電気容量密度: 初期の平均容量密度は1330nF/cm〜1920nF/cmと非常に高い電気容量を示した。
【0072】
誘電損失: キャパシタ回路の誘電損失を測定すると、2.2%〜16%の範囲であった。
【0073】
エッチング後の誘電層の残留: キャパシタ回路を形成した後の回路間ギャップに誘電層が残留しているか否かを調べた。この残留の有無を調べるにあたっては、金属顕微鏡で回路間を見ることにより行う。誘電層が残留している場合には、虹色の干渉色が観察出来る。この結果、試料1−1〜試料1−8のいずれの場合も誘電層の残留が確認出来た。
【0074】
誘電層の結晶化レベル: 誘電層の表面をX線回折法(CuKα)で測定し、テトラゴナル構造で指数づけした(101)面のピークの半値幅を測定することで、結晶化レベルの指標とした。その結果、0.268deg.〜0.299deg.の値となった。この結果から見れば、 当該(101)面のピークの半値幅が、0.3deg.以下であれば、実用上問題の無い結晶化が出来ていると考えられる。以下の、実施例2においても、誘電層の形成までは同じプロセスを採用している。従って、この(101)面のピークの半値幅の値は同じとなる事を明記しておく。
【0075】
透過型電子顕微鏡による誘電層の観察: 試料1−1及び試料1−6のキャパシタ層形成材の断面を、集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で観察した。この観察像を図1及び図2に示す。この試料1−1の断面である図1から明らかなように、上部電極3と下部電極4との間の誘電層1中で、1単位工程を終了した後に予備焼成を行った第1層目2は、他の層と明瞭に区分して観察される。そして、試料1−6の断面である図2は、3層(第1層目2,第2層目2’,第3層目2’’)に分かれているように観察される。
【0076】
以上のように、試料1−1の断面像(図1)では第1層目2が他の層と明瞭に区分して観察される。これに対し、試料1−6の断面像(図2)では、3層に分かれているように見えるものの、その結晶粒子は試料1−1に比べて柱状的な成長を行っているように見え、3層の区分は明瞭とはいえない。しかし、本件発明者等は、リーク電流を効果的に防止する等の種々の観点から考えて、誘電層内には極力ボイドのような欠陥が存在しに方がよいと考える。このように考えれば、層状になっている部分には、ボイド等の欠陥が多く含まれる部分と考えられ、出来る限り層が明瞭に確認できない方が良い。ここで、図3に示す試料1−7の断面を見るに、試料1−6の断面像(図2)と比べても、さらに結晶粒子の柱状的な成長が認められ、予備焼成ごとの不連続性がほとんど見られない。即ち、これらの試料の調整条件から判断すると、試料1−1および1−6についても最終の結晶化温度を高く、時間を長めに設定することで、層間の連続性を膜厚方向にも均一な誘電層の形成が出来ると考えられる。
【0077】
以上に述べてきた各特性は、後述する比較例1と対比可能なように表1に纏めて掲載した。
【実施例2】
【0078】
この実施例では、金属基材(下部電極形成層)であるニッケル箔の表面に、上記酸化物誘電層を形成し、更に当該誘電層の表面に、マスク法で上部電極を形成しキャパシタ回路とし、各種誘電特性の評価を行った。
【0079】
<金属基材(下部電極形成層)の製造>
ここでは、実施例1と同じ、圧延法で製造した50μm厚さのニッケル箔を使用した。このニッケル箔が、キャパシタ層回路を形成したときの下部電極を構成することになる。
【0080】
<誘電層の形成>
当該ニッケル箔の表面に実施例1と同様のゾルーゲル法及びゾル−ゲル液を用いて誘電層を形成した。従って、実施例1の場合と同様の誘電層が得られているはずであり、ここでの重複した説明は省略する。そして、複数の試料として、試料2−1〜試料2−8を得た。
【0081】
試料2−1及び試料2−2に対しては、1回目の1単位工程と2回目の1単位工程との間に1回の予備焼成工程を設けたものである。
試料2−3に対しては、2回目の1単位工程と3回目の1単位工程との間に1回の予備焼成工程を設けたものである。
試料2−4に対しては、3回目の1単位工程と4回目の1単位工程との間に1回の予備焼成工程を設けたものである。
試料2−5に対しては、4回目の1単位工程と5回目の1単位工程との間に1回の予備焼成工程を設けたものである。
試料2−6に対しては、1回目の1単位工程と2回目の1単位工程との間及び3回目の1単位工程と4回目の1単位工程との間の計2回の予備焼成工程を設けたものである。
そして、試料2−7及び試料2−8に対しては、1回目の1単位工程から6回目の1単位工程との間の各工程間に計5回の予備焼成工程を設けたものである。
【0082】
(c)工程: そして、上記試料2−1、試料2−3、試料2−4、試料2−5、試料2−6、試料2−7の各試料を650℃×15分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成した。また、試料2−2及び試料2−8の試料は700℃×30分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成した。
【0083】
<キャパシタ回路の形成>
以上のようにして、各試料に形成した誘電層の上に、上部電極を形成する位置を上部電極形状に開口した蒸着用メタルマスクを配して、スパッタリング蒸着法により2μm厚さの銅層を上部電極として形成し、キャパシタ回路を形成した。このとき、上部電極面積が1mm×1mmサイズと上部電極面積が4mm×4mmサイズの各100個のキャパシタ回路を形成した。
【0084】
<誘電特性の評価>
生産歩留り: キャパシタ回路の形成後に、各試料の100個のキャパシタ回路に、所定の電圧を負荷して、層間耐電圧測定を行い、上部電極と下部電極との間でのショート現象の見られない割合をみた。その結果、1mm×1mmサイズのキャパシタ回路の生産歩留りは60%〜100%であり、4mm×4mmサイズのキャパシタ回路の生産歩留りは10%〜70%であった。
【0085】
電気容量密度: 初期の平均容量密度は1040nF/cm〜1710nF/cmと非常に高い電気容量を示した。
【0086】
誘電損失: キャパシタ回路の誘電損失を測定すると、2.8%〜7.5%の範囲であった。
【0087】
誘電層の結晶化レベル: 実施例1と同様であるため、記載を省略する。
【0088】
以上に述べてきた各特性の内、電気特性に関しては、ヒュ−レッドパッカード社製 4261A LCRメータ(1kHz、1V)で測定し、後述する比較例2と対比可能なように表2に纏めて掲載した。
【比較例】
【0089】
[比較例1]
この比較例1では、実施例1と同様の製造フローを採用しているが、(b)工程、(c)工程が異なる。従って、異なる工程に関してのみ説明する。
【0090】
(b)工程: この工程では、前記ゾル−ゲル溶液を金属基材であるニッケル箔の表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で150℃×2分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で330℃×15分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とした。そして、この1単位工程を6回繰り返し、膜厚調整を行った。そして、3つの試料を得た。
【0091】
(c)工程: そして、上記試料の一つは650℃×15分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成し試料3−1とした。また、上記試料の一つは650℃×30分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成し試料3−2とした。更に、上記試料の一つは700℃×60分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成し試料3−3とした。以下、実施例1と同様に、エッチング法を用いてキャパシタ回路を製造した。
【0092】
<誘電特性の評価>
生産歩留り: 実施例1と同様にしてキャパシタ回路を形成した後に、各試料の100個のキャパシタ回路に、所定の電圧を負荷して、層間耐電圧測定を行い、上部電極と下部電極との間でのショート現象の見られない割合をみた。その結果、1mm×1mmサイズのキャパシタ回路の生産歩留りは25%〜80%であり、4mm×4mmサイズのキャパシタ回路の生産歩留りは0%であった。
【0093】
電気容量密度: 初期の平均容量密度は1715nF/cm〜2090nF/cmと非常に高い電気容量を示した。
【0094】
誘電損失: キャパシタ回路の誘電損失を測定すると、20%を超えていた。
【0095】
エッチング後の誘電層の残留: 実施例1と同様に評価した結果、試料3−1〜試料3−3のいずれの場合も誘電層は残留していなかった。
【0096】
誘電層の結晶化レベル: 実施例1と同様に、誘電層のテトラゴナル構造で指数づけした(101)面のピークの半値幅を測定することで、結晶化レベルの指標とした。その結果、0.337deg.〜0.683deg.の値となった。以下の、比較例2においても、誘電層の形成までは同じプロセスを採用している。従って、この(101)面のピークの半値幅の値は同じとなる事を明記しておく。
【0097】
透過型電子顕微鏡による誘電層の観察: 試料3−1のキャパシタ層形成材の断面を、実施例1と同様に集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で観察した。この観察像を図4に示す。この試料3−1の断面である図4から明らかなように、誘電層1は、結晶粒径が50nm以下であり、極めて細かな結晶で構成されているように観察出来る。
【0098】
以上に述べてきた各特性は、上記実施例1と対比可能なように表1に纏めて掲載した。
【0099】
【表1】

【0100】
[比較例2]
この比較例2では、実施例2と同様の製造フローを採用しているが、(b)工程、(c)工程が異なる。従って、異なる工程に関してのみ説明する。
【0101】
(b)工程: この工程では、前記ゾル−ゲル溶液を金属基材であるニッケル箔の表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で150℃×2分の条件で乾燥し、酸素含有雰囲気中で330℃×15分の条件で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とした。そして、この1単位工程を6回繰り返し、膜厚調整を行った。そして、3つの試料を得た。
【0102】
(c)工程: そして、上記試料の一つは650℃×15分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成し試料4−1とした。また、上記試料の一つは650℃×30分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成し試料4−2とした。更に、上記試料の一つは700℃×60分の不活性ガス置換雰囲気(窒素置換雰囲気)で焼成処理を行い、金属基材であるニッケル箔の表面に誘電層を形成し試料4−3とした。以下、実施例2と同様にマスク法を用いてキャパシタ回路を製造した。
【0103】
<誘電特性の評価>
生産歩留り: キャパシタ回路の形成後に、各試料の100個のキャパシタ回路に、所定の電圧を負荷して、層間耐電圧測定を行い、上部電極と下部電極との間でのショート現象の見られない割合をみた。その結果、1mm×1mmサイズのキャパシタ回路の生産歩留りは50%〜90%であり、4mm×4mmサイズのキャパシタ回路の生産歩留りは0%〜20%であった。
【0104】
電気容量密度: 初期の平均容量密度は1010nF/cm〜1240nF/cmと非常に高い電気容量を示した。
【0105】
誘電損失: キャパシタ回路の誘電損失を測定すると、5%〜8%の範囲であった。
【0106】
誘電層の結晶化レベル: 比較例1と同様であるため、記載を省略する。
【0107】
以上に述べてきた各特性は、上記実施例2と対比可能なように表2に纏めて掲載した。
【0108】
【表2】

【0109】
<実施例と比較例との対比>
以下、実施例と比較例との対比を行うにあたり、上記実施例及び比較例は、キャパシタ形状の形成にエッチング法とマスク法との両者を用いた理由に関して、述べておく。本件発明に係る製造方法の予備焼成の本質的な効果は、エッチング時にエッチング液が膜中を通過し基板にダメージを与えるから、この現象による誘電層自体の損傷(具体的には誘電層がなくなってしまうこと)を防ぐことができるという点にある。この現象のみの評価を行うのであれば、エッチング法で作成したキャパシタの評価結果だけで足りると考える。
【0110】
しかし、敢えてマスク法によるキャパシタ形成を行い、その評価結果を示したのは、エッチング法では評価の信頼性の損なわれる容量密度に関して、予備焼成プロセスを採用して得られたキャパシタ回路の優位性を示すためである。即ち、エッチング法では誘電層の損傷により誘電損失が大きく、リーク電流が大きくなる傾向にある。係る場合の容量密度は、真の容量密度とは考え難く、エッチングを行わないマスク法で得られたキャパシタの方が真の誘電特性を示すと考えられる。
【0111】
実施例1と比較例1との対比: 実施例1と比較例1とは、エッチング法を用いてキャパシタ回路を形成したときの評価結果である。この表1から明らかなように、電気容量密度のみを見ると比較例1(試料3−1〜試料3−3)の方が、実施例1(試料1−1〜試料1−8)に比べて高くなっている。しかしながら、誘電損失を見るに、比較例1(試料3−1〜試料3−3)の誘電損失は20%を超えており、キャパシタとしての安定性に欠ける事が分かる。これに対し、実施例1(試料1−1〜試料1−8)の誘電損失は、16%以下であり、一定のレベルでの高容量化を達成し、且つ、キャパシタとしての品質安定性に優れていることが明らかである。
【0112】
そして、キャパシタ回路をエッチング法で形成した後の、生産歩留りを見るに、実施例1(試料1−1〜試料1−8)の方が、比較例1(試料3−1〜試料3−3)と比べて高く、製造安定性にも優れていることが理解出来る。更に、誘電層の結晶化レベルを対比すると、実施例1(試料1−1〜試料1−8)の半値幅の方が、比較例1(試料3−1〜試料3−3)の半値幅よりも小さくなっており、シャープな回折ピークが得られていることが分かる。これは、結晶化レベルが向上し、誘電層を構成する酸化物誘電層が緻密で膜密度が高くなっており、構造欠陥の少なくなっていることの裏付けと言える。試料3−1〜試料3−3の場合のように、焼成を最後に行い、いかに焼成時間を長くとっても、試料1−1〜試料1−8に施したような予備焼成工程を設けない限り、結晶性の向上は図れない。
【0113】
次に、透過型電子顕微鏡による誘電層の観察から明らかになるように、実施例1の試料1−1及び試料1−3のキャパシタ層形成材の誘電層は、結晶が大きく緻密であるため、リーク電流の流路が少なくなり、エッチング液の浸透性も低くなる。これに対し、比較例1の試料3−1の場合、極めて細かな結晶で構成され、結晶が緻密でなく構造欠陥が多数存在するため、リーク電流の流路も多くなり、エッチング液の浸透性も高くなる。
【0114】
更に、エッチング液の誘電層に対する浸透性に関しては、キャパシタ回路を形成した後の回路間ギャップに誘電層が残留しているか否かを調べた結果、実施例1の試料1−1〜試料1−8のいずれの場合も誘電層の残留が確認出来た。これに対して、比較例1の試料3−1〜試料3−3のいずれの場合も誘電層は残留していなかった。このことは、透過電子顕微鏡の観察像から行った仮説を裏付けるものとなる。
【0115】
実施例2と比較例2との対比: 実施例2と比較例2とは、マスク法を用いてキャパシタ回路を形成したときの評価結果である。この表2から明らかなように、電気容量密度を見ても、比較例2(試料4−1〜試料4−3)の方が、実施例2(試料2−1〜試料2−8)に比べて、相対的に低くなっている。一方、誘電損失を見ると、比較例2(試料4−1〜試料4−3)の誘電損失と実施例2(試料2−1〜試料2−8)の誘電損失は、同等のレベルと言える。しかしながら、電気容量密度と誘電損失とのバランスを考えれば、実施例2の方が、一定のレベルでの高容量化を達成し、且つ、キャパシタとしての品質安定性に優れていることが明らかである。
【0116】
上記内容を、より厳密且つ具体的に説明すると、予備焼成を1回行ったもので、予備焼成を1単位工程(1回目)と1単位工程(2回目)との間で行ったものについては、容量密度において、明らかに比較例2のいずれの試料と比べても優れていると言える。これに対し、焼成のタイミングを2層目、3層目、4層目に持ってくることで、誘電損失は変化しないが、容量密度の比較例との差が明瞭でなくなる。言い換えれば、複数回の1単位工程の繰り返しの中で、予備焼成のタイミングが遅くなるにつれ、容量密度が低下する傾向があるように思われる。即ち、予備焼成1回という条件で比較すれば、上記データは成膜サイクルの初期で予備焼成を行ったほうが、電気特性を改善する効果に優れ好ましいと判断できる。これに対し、予備焼成のタイミングを遅くした場合に容量密度が小さくなることは、焼成のタイミングが遅くなるにつれて、誘電膜の厚さに対する焼成条件が比較例2に近づいていくと考えられる。
【0117】
そして、キャパシタ回路をマスク法で形成した後の生産歩留りを見るに、実施例2(試料2−1〜試料2−8)の方が、比較例2(試料4−1〜試料4−3)と比べて高く、製造安定性にも優れていることが理解出来る。更に、誘電層の結晶化レベルを対比すると、実施例2(試料2−1〜試料2−2)の半値幅の方が、比較例2(試料4−1〜試料4−3)の半値幅よりも小さくなっており、シャープな回折ピークが得られていることが分かる。これは、結晶化レベルが向上し、誘電層を構成する酸化物誘電層が緻密で膜密度が高くなっており、構造欠陥の少なくなっていることの裏付けと言える。試料4−1〜試料4−3のように焼成を最後に行った場合、いかに焼成時間を長くとっても、試料2−1〜試料2−8に施したような予備焼成工程を設けない限り、結晶性の向上は図れない。
【0118】
実施例2及び比較例2は、マスク法でキャパシタ回路を形成した場合であり、係る場合のデータの全体を見るに、誘電損失が予備焼成の有無に依らず同程度であるとすれば、予備焼成有りのほうが結晶性に優れ、すなわち容量密度が大きい(マスク法ではエッチング法と異なり、半値幅と同じ傾向を容量密度も示す。即ち半値幅が小さくなるほど、容量密度が大きくなる。)。また、予備焼成無しの700℃×60分よりも、予備焼成で650℃×15分+650℃×15分の方がトータル熱量は小さいが、結晶性及び容量密度は後者のほうが良いと思われる。
【0119】
エッチング法とマスク法の対比: 最後に、上述の実施例等で使用したエッチング法とマスク法の対比を行っておく。エッチング法でキャパシタ回路を形成した場合、実施例1と比べ、比較例1ではエッチング液によるダメージにより誘電損失の著しい上昇および生産歩留りの低下を招いていることが判る。マスク法でキャパシタ回路を形成した場合、比較例2でも誘電損失の上昇は起こらない。しかし、容量密度および生産歩留りについては、実施例2のほうが優れていることがわかる。このようにエッチング法とマスク法とにより形成したキャパシタ回路の評価結果を比較することにより、本発明に係る誘電層がエッチングダメージを低減することのみならず誘電層自体の品質を向上させる効果があるということが明らかとなる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本件発明に係るゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成方法は、歩留まり良く、高品質の酸化物誘電層の形成が可能であり、市場に高品質の誘電層を持つ種々の電子材料を供給することを可能とする。また、本件発明に係るゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成方法は、過大な設備投資の不要なゾル−ゲル法を用いての酸化物誘電層の製造を可能とする。従って、安価で且つ高品質の電子及び電気製品を市場に供給することができる。そして、この本件発明に係る酸化物誘電層の形成方法で得られる誘電層は、エッチング液による損傷を受けにくいという特性を持ち、特にエッチング法によるキャパシタ回路形成に好適なものとなる。即ち、そして、本件発明に係るゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成方法を用いて誘電層を形成したキャパシタ層形成材は、プリント配線板のキャパシタ層の形成に好適であり、高い電気容量、低い誘電損失を示すキャパシタ回路の製造を可能とする。従って、このキャパシタ層形成材を用いて得られるプリント配線板等は、電子及び電気製品の省電力化に資するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本件発明に係るゾル−ゲル法で酸化物誘電層を形成したキャパシタ層形成材の断面を、集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で観察したときの観察像である。
【図2】本件発明に係るゾル−ゲル法で酸化物誘電層を形成したキャパシタ層形成材の断面を、集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で観察したときの観察像である。
【図3】本件発明に係るゾル−ゲル法で酸化物誘電層を形成したキャパシタ層形成材の断面を、集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で観察したときの観察像である。
【図4】キャパシタ層形成材の断面を、集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で観察したときの観察像である(従来例)。
【図5】キャパシタ層形成材の第2導電層と誘電層との界面部を集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で観察したときの観察像である。
【図6】キャパシタ層形成材の第2導電層と誘電層との界面部を集束イオンビーム加工し、透過型電子顕微鏡で観察したときの観察像である。
【図7】本件発明に係るキャパシタ層形成材を用いた内蔵キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造フローを表す模式図である。
【図8】本件発明に係るキャパシタ層形成材を用いた内蔵キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造フローを表す模式図である。
【図9】本件発明に係るキャパシタ層形成材を用いた内蔵キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造フローを表す模式図である。
【図10】本件発明に係るキャパシタ層形成材を用いた内蔵キャパシタ回路を備えるプリント配線板の製造フローを表す模式図である。
【符号の説明】
【0122】
1,13 誘電層
2 第1層
3,15 上部電極
4,19 下部電極
5 異相
10 プリント配線板
11 キャパシタ層形成材
12 第1導電層
14 第2導電層
16 銅箔層
17 半硬化樹脂層
17’ 絶縁層
18 樹脂付銅箔
21 エッチングレジスト層
22 外層回路
23 ビアホール
24 銅メッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾル−ゲル法による酸化物誘電層の形成方法において、
以下の(a)〜(c)の工程を備えることを特徴とする酸化物誘電層の形成方法。
(a)所望の酸化物誘電層を製造するためのゾル−ゲル溶液を調製するための溶液調製工程。
(b)前記ゾル−ゲル溶液を金属基材の表面に塗工し、酸素含有雰囲気中で120℃〜250℃で乾燥し、酸素含有雰囲気中で270℃〜390℃で熱分解を行う一連の工程を1単位工程とし、この1単位工程を複数回繰り返すにあたり、1単位工程と1単位工程との間に任意に550℃〜1000℃の不活性ガス置換又は真空中での予備焼成処理を設けて膜厚調整を行う塗工工程。
(c)そして、最終的に550℃〜1000℃の不活性ガス置換又は真空中での焼成処理を行い誘電層とする焼成工程。
【請求項2】
前記ゾル−ゲル溶液は、酸化物誘電層として(Ba1−x Sr)TiO(0≦x≦1)膜又はBiZrO膜を形成するものである請求項1に記載の酸化物誘電層の形成方法。
【請求項3】
前記ゾル−ゲル溶液は、マンガン、ケイ素、ニッケル、アルミニウム、ランタン、ニオブ、マグネシウム、スズから選ばれる一種又は二種以上を0.01mol%〜5.00mol%含有する酸化物誘電層を形成するものである請求項1又は請求項2に記載の酸化物誘電層の形成方法。
【請求項4】
前記誘電層は、厚さが20nm〜2μmとするものである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の酸化物誘電層の形成方法。
【請求項5】
前記金属基材は、厚さが1μm〜100μmであるニッケル箔、ニッケル合金箔、ニッケル層を表層に備える複合箔、ニッケル合金層を表層に備える複合箔のいずれかである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の酸化物誘電層の形成方法。
【請求項6】
前記ニッケル合金箔又はニッケル合金層を表層に備える複合箔のニッケル合金層は、ニッケル−リン合金よりなるものである請求項5に記載の酸化物誘電層の形成方法。
【請求項7】
上部電極形成に用いる第1導電層と下部電極形成に用いる第2導電層との間に誘電層を備えるキャパシタ層形成材において、
当該誘電層は、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の酸化物誘電層の形成方法により得られたものであることを特徴としたキャパシタ層形成材。
【請求項8】
請求項7に記載のキャパシタ層形成材を用いて得られる内蔵キャパシタ層を備えたことを特徴とするプリント配線板。

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−328531(P2006−328531A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124684(P2006−124684)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】