説明

閉じ込め磁界により得られる荷電粒子欠乏プラズマによる薄膜堆積

磁界が存在する中でのプラズマ堆積プロセスにより薄膜を形成する方法。前駆体が、堆積チャンバに配送され、活性化され、プラズマを形成する。プラズマは、磁界が在る時に開始され得るか、又は、開始後に磁界に曝され得る。プラズマは、前駆体から誘導されるイオン種と中性種とを含む。磁界は、プラズマを操作して、イオン種の濃度の低減と中性種の濃度の増加に影響を与える。続いて、薄膜材料は、その結果得られる中性種濃縮堆積媒体から形成される。本方法により、欠陥濃度が低い薄膜材料を形成することができる。一実施形態では、薄膜材料は、光起電力材料であり、欠陥の抑制により、光起電力効率が高められることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間プラズマを利用した薄膜材料の堆積に関する。更に具体的には、本発明は、磁気的に制御された中間プラズマを利用した薄膜の堆積に関する。最も具体的には、本発明は、プラズマの磁気的操作により得られる荷電粒子欠乏堆積媒体から光起電力材料の堆積に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の欠乏及び環境の影響についての関心は、代わりのエネルギー源の開発への強い関心を促している。バッテリー、燃料電池、水素製造及び格納、バイオマス、風力、海草、及び太陽エネルギー等の分野において、著しい投資がなされている、社会が、経済面で競合性があり、環境に優しい方法で、エネルギーを生成し、格納する新たな方法を展開することを模索している。最終的な目的は、化石燃料への社会の依存度を最小限にし、それを、地球温暖化ガス生成を最小限にする経済面で競合性のある方法で行うことである。
【0003】
専門家は、地球温暖化の厳しい結果を回避するために、CO2を550ppm以下に維持することが必要であると結論付けている。世界のエネルギー利用の現在の計画に基づいて、この目標に適合するためには、世界は、2050年に17TWの無炭素エネルギーを、2100年に33TWの無炭素エネルギーを必要とすることになる。利用可能な無炭素供給源からの期待されるエネルギー供給に基づいて、太陽光エネルギーは、温暖化ガスの排出を削減するのに最も実行可能な解決策と考えられている。
【0004】
しかしながら、太陽光エネルギーが化石燃料と費用面で競合性があるようにならなければ、社会は、化石燃料への依存度を減らす動機に欠け、地球温暖化に十分に取り組むのに必要な規模で、太陽光エネルギーを採用するのを差し控える。結果として、現在の製造努力は、光起電力材料及び製品により生成されるエネルギーの単価(費用/キロワット・時)を削減することに目指している。
【0005】
光起電力製品からのエネルギーの単価を低減させる一般的な戦略は、(1)工程費用を削減し、(2)光起電力効率を向上させることである。工程費用を削減する努力は、低費用な光起電力材料を特定し、工程速度を増すことを目指している。結晶シリコンは、バルク形態でのその広い利用性のために、現時点で主要な光起電力材料である。しかしながら、結晶シリコンは、間接ギャップ材料であるために、太陽光エネルギーの吸収が弱い結果として、結晶シリコンから作製される光起電力モジュールは、厚く、硬く、軽量で薄い製品にしづらい。
【0006】
太陽光スペクトルの吸収がより強い材料は、光起電力製品のために活発に開発されている。代表的な材料として、Cds、CdSe、CdTe、ZnTe、CIGS(Cu−In−Ga−Se及び関連合金)、有機材料(有機染料を含む)、及びTiO2が挙げられる。これらの材料は、その太陽光吸収効率により薄膜で光起電動作が可能であり、従って、デバイスを製造するのに必要な材料の嵩が削減されるので、材料費を削減する見通しを与える。非晶シリコン(及びそれらの水素付加及び/又はフッ素付加形態)は、軽量、効率的、及び曲げやすい薄膜光起電力製品のための別の関心のある光起電力材料である。
【0007】
工程速度及び処理能力を増す取り組みとして、(1)光起電力デバイスを製造するのに利用される異なる材料及び層の固有の堆積速度を増すこと、(2)バッチ処理の代わりに、連続した製造工程を採用することが挙げられる。S.R.オフシンスキーは、非晶、ナノ結晶、マイクロ結晶、多結晶又は複合材料に基づく薄膜柔軟性大型太陽光パネルを製造するのに必要とされる自動化連続製造技術を開拓した。
【0008】
光起電力製品からのエネルギー単価を低減させる第2の一般的な取り組みは、光起電力効率を改善することである。上述のように、光起電力効率は、有効な光起電力材料を選択することにより改善することができる。効率も、光起電力製品の設計により改善することができる。効率は、光起電力材料の特性(吸収効率、量子効率、キャリア寿命時間、及びキャリア移動度)ばかりでなく、周辺デバイスの構造にも依存する。光生成された電荷担体は、光起電力材料から効率的に抽出され、外部付加に電力を与える光起電力製品の外部接触子へ配送される必要がある。能率を最大限にするために必要なことは、可能性のある最高の部分の光生成された担体を回収し、外部接触子への光生成された担体の輸送に関連するエネルギーの損失を最小限にすることである。従って、光起電力電流と電圧の両方を最大限にすることが望ましい。
【0009】
現在のプラズマ堆積光起電力材料の1つの問題は、堆積直後の状態で高濃度の固有の欠陥が存在することである。固有の欠陥として、光起電力材料のバンドギャップ内に電子状態を生成する構造欠陥が挙げられる。中間ギャップ状態は、吸収された太陽光により生成される自由キャリアの濃度を減損させる非発光再結合中心として働くことにより太陽光変換効率を損ねる。従って、光起電力材料により配送される外部電流は、削減される。
【0010】
非晶性のシリコン基盤光起電力材料の堆積速度が増すにつれて固有の欠陥の濃度が増加することが観察された。光起電力効率を改善するために、従来技術では、プラズマ堆積速度を低下させることが必要であった。堆積速度を低くすることにより、堆積直後の材料中での欠陥の形成が抑制される、又は、形成された直後の欠陥がより均整のとれた結合構造に平衡することを可能にする十分な時間が与えられることが考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術において、真性欠陥に関連する再結合プロセスのために光起電力効率を損なわずに、高い堆積速度で薄膜光起電力材料を調製する方法が必要とされる。高い光起電力効率を得るのに必要とされる低い堆積速度では、従来のプラズマ堆積プロセスの経済面での競合性が限定される。光起電力材料、特に、いずれかの結晶性又は非晶性形態のシリコン含有材料を、品質を損なわずに高い堆積速度で作製する新たな堆積プロセスを開発することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、薄膜材料をプラズマ堆積する方法及び装置を提供する。一実施形態では、本発明は、光起電力効率を向上させつつ、高い堆積速度で光起電力材料をプラズマ堆積することを目指す。本発明は、従来技術の堆積プロセスに利用されるプラズマが、洗練されておらず、光起電力効率に有害なイオン種を含むと認識する。本発明では、1つ以上の前駆体から形成されるプラズマが磁界で操作され、堆積直後の状態で欠陥濃度の低い薄膜又は光起電力材料の形成を更に促す堆積媒体を与える。
【0013】
本発明では、プラズマは、1つ以上の堆積前駆体から形成され、その組成は、堆積表面の近くの成長種の分布が最適化された堆積媒体を与えるように制御される。プラズマの特性は、イオン種の濃度を減らし、中性種の濃度を増やすように設定される磁界により制御される。中性種は、電荷中性分子と電荷中性フリーラジカルとを含む。一実施形態では、磁界は、イオン種に対するプラズマ中の中性種の濃度を増加させる。別の実施形態では、磁界は、イオン種に対するプラズマ中の励起状態の中性種の濃度を増加させる。中性種でのプラズマの濃縮は、イオン種の存在を低減させ、イオン種と薄膜材料との間の有害な相互作用を回避することにより堆積直後の薄膜材料の形成を促す。
【0014】
一実施形態では、方法は、プラズマ供給源チャンバからプラズマを形成するために設置されたプラズマ供給源チャンバへ1つ以上の堆積前駆体を配送することと、その結果得られるプラズマを磁界で操作して、中性種又は励起された状態の中性種で濃縮された堆積媒体を形成することと、濃縮された堆積媒体をプラズマ供給源チャンバから排出することと、排出された濃縮堆積媒体から、プラズマ供給源チャンバの外に位置する基板上に薄膜材料を堆積することとを含む。中性種濃縮堆積媒体は、荷電粒子欠乏堆積媒体と見なされ得る。プラズマ供給源チャンバは、プラズマ生成プロセスに寄与し得る及び/又はプラズマ供給源チャンバに存在する際に荷電粒子欠乏堆積媒体に付属し得る、1つ以上の背景ガスも含み得る。
【0015】
別の実施形態では、プラズマの磁気操作は、基板の近くに起こる。この実施形態では、基板は、プラズマを形成するために設置された堆積装置内に位置する。その装置は、プラズマを形成するためのカソード及びアノードを含む。堆積装置は、装置のプラズマ領域又は雰囲気へ1つ以上の堆積前駆体、背景ガス、エネルギー伝送ガス等を配送するための1つ以上の注入点を含む。一実施形態では、基板は、アノードとして働く。別の実施形態では、基板は、アノードと電気的に連通又は物理的に接触している。堆積前駆体は、堆積装置内に注入され、アノードとカソードとの間の電界の印加でプラズマに変換される。次に、プラズマは、磁界で操作されて、中性種が濃縮され、荷電粒子が欠乏した堆積媒体を形成する。一実施形態では、荷電粒子欠乏堆積媒体は、基板のすぐ近くに形成され、別の実施形態では、荷電粒子欠乏媒体は、基板から離れて形成され、基板に向けられる。次に、薄膜材料は、基板上に堆積される。装置は、所望の場合、追加の層又は材料を同時に堆積するための1つ以上の追加の堆積チャンバを含み得る。一実施形態では、堆積装置により、連続した網状基材の上に薄膜材料を形成することができる。
【0016】
一実施形態では、プラズマの磁気操作は、プラズマの空間寸法を制約することを含む。空間寸法の制約は、特定の空間領域にプラズマを閉じ込めること、又は、プラズマ領域の形状を制御することを含み得る。一実施形態では、磁界を利用して、1つ以上の位置でプラズマを圧縮し、それにより、プラズマの間の平均間隔が減少する。減少した分離距離は、荷電又はイオン種の消滅又は欠乏を促し、中性種又は励起状態の中性種でプラズマを濃縮し易くして、堆積媒体を形成する。
【0017】
磁界は、(時間又は空間が)永続するもの又は変化するものであり得る。一実施形態では、磁界強度は、空間的に不均一である。磁界強度は、堆積装置内で基板の方向に、又は、プラズマ供給源チャンバ内で中性種濃縮又は荷電粒子欠乏堆積媒体の排出の方向に徐々に増し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】プラズマ堆積プロセス内でシランから形成され得る、選択されたイオン種及び中性種を示す。
【図2】プラズマ上の磁気の影響の概略図である。
【図3】プラズマ上の不均一磁界の影響の概略図である。
【図4】プラズマ上の不均一磁界の影響の概略図である。
【図5】マイクロ波プラズマから中性種濃縮堆積媒体を生成する遠隔供給源の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、プラズマの状態が、堆積直後の薄膜材料の構造的及び電子的性質を最適化するように設計されている、プラズマ堆積プロセスに注目する。一実施形態では、薄膜材料は、光起電力材料である。本発明は、堆積直後の光起電力材料の性能を低下させる従来のプラズマ堆積プロセスで利用される、プラズマ中に存在する条件を矯正するように設計される。
【0020】
プラズマ堆積プロセスでは、プラズマは、通常、最初に、堆積チャンバのプラズマ開始領域へ1つ以上の前駆体を配送することにより形成される。前駆体は、別個に又は混合された流れとして配送され得る。キャリアガス又は背景ガスも存在し得る。プラズマ開始領域は、カソードとアノードとの間に位置し、プラズマは、アノードとカソードとの間に高強度の電界を印加することにより形成される。プラズマが拡がる領域は、プラズマ領域と呼ばれ得る。プラズマは、DC又はAC電界で維持され得る。AC電界は、マイクロ波周波数(例えば、2.45GHz)、無線周波数(例えば、13.58MHz)、UHF周波数又はVHF周波数で印加され得る。
【0021】
従来のプロセスで形成されるプラズマは、定常状態で随時動作の平衡条件で、無作為で無秩序の分布の種を含む。種は、原料物質(例えば、前駆体又は搬送ガス)の分子、並びに、準安定の中間種の分布を含み得る。準安定種は、前駆体又は搬送ガス分子の元素及び断片から誘導されるイオン、イオンラジカル及び中性ラジカルを含む。準安定種は、基底状態、1つ以上の励起状態、又はそれらの組み合わせで存在し得る。
【0022】
実例として、非晶シリコンのプラズマ堆積は、プラズマチャンバへ分子性前駆体のシラン(SiH)を配送することにより起こる。図1は、シランが活性化され、プラズマを形成する際に存在し得る潜在的に準安定な種を示す。シランプラズマ内に存在する準安定中間体は、様々なイオン、ラジカル及び分子種を含む。ラジカルは、中性又は荷電されたものであり得る。中性ラジカルは、SiH、SiH、SiH、及びHを含む。種は、電子的基底状態又は電子的励起状態(アスタリスクで表記される(例えば、SiHは、電子的励起状態の中性ラジカルである))であり得る。従来のシランプラズマ内に選択された種を形成するための数密度及び励起エネルギーが、以下に列挙されている。
種 型 エネルギー(eV) 数密度(cm−3
SiHx 基底状態のイオン又はイオンラジカル >13.6 〜10
Si 励起状態の中性ラジカル 10.53 〜10
Si 基底状態の中性ラジカル 10.36 〜10−10
SiH 励起状態の中性ラジカル 10.33 〜10
SiHx 基底状態のイオン又はイオンラジカル 〜10 〜10
SiH 基底状態の中性ラジカル 9.47 〜10−10
SiH 基底状態の中性ラジカル 9.47 〜10
SiH 基底状態の中性ラジカル 8.75 〜1012
SiH 分子 0 〜1015
【0023】
従来のプラズマ堆積プロセスの制限の1つは、プラズマ内の異なる種の識別及び存在量を適切に制御することができないことである。プラズマ内に存在する幾つかの種は、意図された薄膜材料の堆積に必須又は有益であり、他の種は、有害であるので、プラズマの特性を制御する必要がある。薄膜特性への特定種の有害な影響の起源は、性質が化学的又は物理的なものである。シランからのシリコン堆積の場合、例えば、中性ラジカルSiHは、堆積直後の材料との結合が、非発光プロセスを通じて太陽光効率を低下させる二水素化物欠陥を生成するので、有害なものと考えられる。二水素化物欠陥は、中性SiHラジカルの化学安定性及び化学構造の結果である。
【0024】
種の分布を変える有害な化学的相互作用も、プラズマ内に起こり得る。非晶シリコンの堆積では、例えば、中性ラジカルSiHが、最も好ましい堆積種であると考えられる。従って、堆積前にSiHを他の種に変換させる化学的相互作用は、望ましない。そのような有害な化学的相互作用の実例として、高エネルギー水素欠乏プラズマ種(例えば、中性又はイオン化状態のSi又はSiH)とSiHとの間に起こる水素引き抜き反応が挙げられる。水素引き抜き反応は、好ましいSiH堆積種の濃度を減損させ、そのSiH堆積種をSiH堆積種に変換させるので、特に有害である。
【0025】
プラズマ種と堆積薄膜との間の物理的相互作用も、薄膜の性能又は特性を低下させ得る。最も問題となる物理的相互作用は、膜成長中に、プラズマ種と薄膜との間に起こる衝突である。衝突により、堆積直後の薄膜材料中に、損傷(例えば、結合破壊、原子の排出)が生じ、構造的及び電子的欠陥(例えば、ダングリングボンド、不規則な整合又は構造)が形成さえることになる。本明細書の上に示されるように、欠陥の存在は、光生成荷電キャリアの濃度を減損させる役割をする非発光崩壊経路を与えて、光起電力効率を低下させる。
【0026】
イオン化プラズマ種は、特に、堆積直後の薄膜と衝突すると思われ、なぜなら、クーロン相互作用が、プラズマを開始するのに必要とされる堆積システム内に帯電電極が存在するために生じる。基板(及び堆積直後の薄膜)は、通常、電極の1つ(普通、アノード)と電気的に連通しているので、プラズマから、反対に帯電された種を引きつけるように働く電荷を蓄積する。強いクーロン相互作用は、誘引されたプラズマイオン種に高い運動エネルギーを与え、堆積直後の薄膜とイオン化プラズマ種が、特に活発に衝突することになる。
【0027】
プラズマ相中の種の間の、又は、プラズマ種と堆積直後の薄膜との間の有害な化学的及び物理的相互作用を回避するために、プラズマ中の種の組成及び分布を制御することが望ましい。ある程度の制御が、従来技術で、温度、圧力、前駆体濃度、前駆体の種類、流速、及びプラズマの電子温度等のプロセスパラメータを変えることにより利用され得るが、(特に、高い堆積速度での)薄膜材料の光起電力効率を向上させるために、より高度な制御が必要とされている。プラズマを形成する現在の方法は、プラズマ状態の粗い制御のみを与え、特定の堆積のためにプラズマ条件を最適化するのを試みる、繰り返しの経験に依存する取り組みを強める傾向にある。理想的には、プラズマ中に存在する種を、有害な種を排除しつつ、高質の薄膜材料の形成を促す種のみに制限することが望ましいであろう。
【0028】
本発明では、プラズマ内の種の分布の制御は、磁界とプラズマの相互作用により達成される。磁界を利用して、プラズマ中のイオン種の濃度を低減し、大量の中性種を得る。従来のプラズマは、磁界で操作され、荷電又はイオン種に対する(基底又は励起状態の)中性種の存在を促進又は維持する。操作されたプラズマは、中性種が濃縮され、本明細書で、中性種濃縮堆積媒体と呼ばれ得る。操作されたプラズマは、その上、荷電粒子(イオン又は電子)が減損し、本明細書で、荷電粒子欠乏堆積媒体と呼ばれ得る。中性種濃縮堆積媒体又は荷電粒子欠乏堆積媒体で薄膜材料を堆積することにより、欠陥の低減が観察され、薄膜特性がより良くなる。一実施形態では、本中性種濃縮堆積媒体又は荷電粒子欠乏堆積媒体から堆積される薄膜材料は、光起電力材料である。
【0029】
磁界を利用して、プラズマ中の種とプラズマの空間的境界との間で起こる相互作用に影響を与え得る。プラズマ領域の空間的拡がりを圧縮することにより、磁界は、プラズマに悪影響を及ぼす成分イオン、ラジカル、及び分子間の平均間隔を低減する。低減された間隔は、プラズマの成分種の平均自由工程を短くし、種間の相互作用の尤度を増す。本発明は、磁界が、プラズマ中の中性又は無電荷種よりもプラズマ中のイオン化又は荷電種に、大きな影響を与えると認識している。結果として、プラズマの全帯電状態(例えば、荷電状態の種の分量として計測される)は、磁界に左右され得る。
【0030】
本発明の一態様では、磁界は、閉じ込められた体積のイオン種間の相互作用が増強される、プラズマの体積を閉じ込めるように印加される。プラズマ中の最も強い相互作用は対の荷電種間にあるので、プラズマの体積を閉じ込めた後に発生する相互作用が高められることで、好ましくは、衝突により荷電又はイオン種が中性種に変換される正味の効果により、イオン種又は荷電種が排除又は減損されることになる。
【0031】
本発明に従ってプラズマを操作するのに利用される磁界は、時間に持続的又は断続的(例えば、脈動される又は振動する)であってもよい。磁界の方向は、プラズマ領域に対するあらゆる角度であってもよい。一般には、プラズマ領域が、カソードとアノードとの間に拡がり、本明細書では、2つの電極の中心を繋ぐ方向が、軸方向と呼ばれ得る。本明細書では、軸方向に印加される磁界が、軸方向磁界と呼ばれ得る。その磁界は、軸方向に交わる方向に、又は、軸方向に対して任意の角度に印加されてもよい。
【0032】
理論に拘束されることを望まずに、本発明者は、一実施形態において、磁気誘導回路又はプラズマ内の種の旋回により、プラズマを閉じ込め、濃縮し、中性種濃縮堆積媒体を形成することを補助することを提案する。磁界により荷電粒子の運動を誘導することができ、正及び負の粒子の正味の軸又は長手方向の運動を同じ向きに整列することができることは、知られている。静止状態で均一な磁界中の電子は、例えば、ローレンツ力のために円運動で移動する。円運動は、均一な軸方向の運動と、又は、その磁界に垂直な均一な運動と重ねられ得る。本発明の一実施形態では、磁界は、プラズマ中での種の円又は螺旋運動を誘導するように印加される。そのような運動は、本明細書で、旋回、旋回運動、旋回流等、又は、横運動と呼ばれてもよく、一実施形態では、軸方向に磁界を印加することにより誘導され得る。反対に帯電された粒子の旋回又は横運動は、反対方向に起こる(例えば、時計回り対反時計回りの横方向回転又は螺旋運動)のに対し、反対に帯電された粒子の軸又は長手方向の運動は、同じ方向に起こる。
【0033】
その旋回運動により、プラズマ中の荷電種と非荷電(中性)種が分離され得ると考えられる。磁界強度の方向及び分布に応じて、分離は、電極間の間隔を定める方向に対して、軸方向及び/又は半径方向に起こり得る。荷電種が分離されることになるにつれて、荷電種間の平均間隔が減少し、荷電種間の相互作用は、より頻繁になる。結果として、荷電種の中性種への変換が促され、プラズマは、中性種濃縮状態又は荷電種欠乏状態に向かって進む。分離により、中性種は濃縮されやすくもなり得るが、相互の中性種の衝突エネルギーが、あまりに低く、中性種の荷電種への適切な変換に影響を与えないと考えられる。旋回運動は、プラズマ体積の閉じ込め又は低減も伴い得る。
【0034】
一実施形態では、プラズマ内の種の運動により誘導される、中性種に対するイオン種又は荷電種の分離により、イオン種又は荷電種で濃縮されるプラズマ内の領域が形成され、前記領域が、中性種で濃縮されるプラズマ内の領域から空間的に取り除かれることになる。一実施形態では、プラズマは、長手方向(例えば、プラズマを形成するのに利用される一方の電極から、プラズマを形成するのに利用される他方の電極へ延びる軸方向)に移動する。磁界は、横方向の円状の流れ又は螺旋状の流れを誘導し、その横方向の流れで、荷電粒子は、プラズマの外部境界から離れてプラズマの内部に向かうように分離される。この実施形態では、中性種は、磁界により(例えば、流れにより)単に二次的に影響を受け、中性種の正味の濃縮は、プラズマの外部境界に向かうことになる。一般に、種の分離が、部分的であって、完全ではなく、そのために、イオン種と中性種のある程度の混合が残ると予想される。
【0035】
本発明のために考察される磁界強度は、数百〜数千ガウスの範囲である。従来技術で周知のように、荷電粒子への磁界の影響の大きさは、荷電粒子の質量に依存する。より軽い粒子の運動は、より弱い磁界で誘導され得るのに対し、より重い粒子の運動を誘導するためには、より強い磁界が必要とされる。プラズマ内の荷電粒子は、最も軽い種であり、比較的弱い磁界により影響されやすい電子を含む。原子から成る正イオン及び負イオンは、電子よりも嵩があり、より強い磁界を必要とする。
【0036】
一実施形態では、荷電粒子欠乏堆積媒体を形成するためにプラズマを操作するのに利用される磁界強度は、250ガウスよりも大きい。第2の実施形態では、荷電粒子欠乏堆積媒体を形成するためにプラズマを操作するのに利用される磁界強度は、500ガウスよりも大きい。第3の実施形態では、荷電粒子欠乏堆積媒体を形成するためにプラズマを操作するのに利用される磁界強度は、750ガウスよりも大きい。第4の実施形態では、荷電粒子欠乏堆積媒体を形成するためにプラズマを操作するのに利用される磁界強度は、1000ガウスよりも大きい。第5の実施形態では、荷電粒子欠乏堆積媒体を形成するためにプラズマを操作するのに利用される磁界強度は、2000ガウスよりも大きい。第6の実施形態では、荷電粒子欠乏堆積媒体を形成するためにプラズマを操作するのに利用される磁界強度は、3000ガウスよりも大きい。本発明による磁界は、磁化材料、ソレノイド、又は電流ループにより生成され得る。
【0037】
本明細書の上に示されるように、プラズマは、無線周波数又はマイクロ波周波数等の交流周波数で設定され得る。一実施形態では、磁界強度は、プラズマ周波数に匹敵する周波数を有するプラズマ内の1つ以上の荷電種の円運動又は螺旋運動を誘導する。約875ガウスの強度を有する軸方向磁界は、例えば、マイクロ波範囲(2.45GHz)の周波数を有するプラズマ内の電子にECR(電子サイクロトロン共鳴)条件を誘導する。ECR条件では、電子の旋回又はサイクロトロン運動の周波数は、プラズマ周波数と共鳴し、この条件では、プラズマから電子へのエネルギー結合が、特に、効率的であり、電子温度は、都合良く制御される。イオン種に対して、類似のICR(イオンサイクロトロン共鳴)条件が、イオン質量により必要とされるより高い磁界強度で得られ得る。
【0038】
図2は、前駆ガスから形成されるプラズマ内の種の分布への磁界の影響を示す。図2の上部は、磁界がない場合のプラズマの概略図を示す。プラズマ10は、電極20と電極30との間に注入された前駆ガスに電界を印加することにより形成される。前駆ガスの注入点と堆積チャンバの外部境界は、図示されていない。その前駆ガスは入力速度で注入されるので、形成されるプラズマは、運動状態にある。この考察のために、プラズマ10が、図2〜4内で、電極20から電極30への方向に正味の軸方向運動(即ち、左から右への運動)を有すると仮定する。プラズマ10は、荷電種(記号「+」及び「−」で示され、それぞれ、電子とイオンとも含み得る、正に及び負に帯電された種を意味する)と、中性種(「o」示される)とを含む。存在する特定の種は、前駆体に依存する。サリンの場合、図1に、最も一般的な正の種、負の種、及び中性種が列挙される。
【0039】
図2の下部は、プラズマへの磁界の閉じ込め効果25を示す。プラズマ10は、閉じ込め磁界25により圧縮(閉じ込め)され、電極20と電極30との間に荷電粒子欠乏プラズマ15を形成する。荷電粒子欠乏プラズマ15は、荷電種(電子及びイオン)と、中性種とを含み、磁界25は、中性種の濃度を増し、閉じ込められていないプラズマ10に対する荷電種の濃度を減らしている。上述のように、閉じ込められていないプラズマ10は、電極20から電極30への正味の軸方向運動を含む。荷電粒子欠乏プラズマ15も、電極20から電極30への正味の軸方向運動を含む。しかしながら、磁界が存在するために、荷電粒子欠乏プラズマ15は、横方向円又は螺旋運動も含み、同様に、プラズマ体積の内部に向かう残りの荷電種の正味の分離も含む。荷電粒子欠乏プラズマは、本明細書で、荷電粒子欠乏堆積媒体、中性種濃縮堆積媒体、又は、中性種濃縮プラズマとも呼ばれ得る。
【0040】
磁界25の強度を変えることで、荷電種の欠乏の程度と、荷電種に対する中性種の比を制御することができる。一実施形態では、磁界25の存在下での荷電種に対する中性種の比は、10の割合であるか、又は、磁界25がない場合の(通常のプラズマ開始条件での)荷電種に対する中性種の比によりも大きい。別の実施形態では、磁界25の存在下での荷電種に対する中性種の比は、100の割合であるか、又は、磁界25がない場合の(通常のプラズマ開始条件での)荷電種に対する中性種比よりも大きい。別の実施形態では、磁界25の存在下での荷電種に対する中性種の比は、1000の割合であるか、又は、磁界25がない場合の(通常のプラズマ開始条件での)荷電種に対する中性種比よりも大きい。
【0041】
荷電種に対する中性種の比は、抽象的な用語でも表記され得る。一実施形態では、磁気的に操作されたプラズマ中の荷電種に対する中性種の比は、10:1以上である。別の実施形態では、磁気的に操作されたプラズマ中の荷電種に対する中性種の比は、10:1以上である。別の実施形態では、磁気的に操作されたプラズマ中の荷電種に対する中性種の比は、10:1以上である。
【0042】
図2は、プラズマ10又は荷電粒子欠乏プラズマ15から薄膜材料が堆積される、基板40も示す。図2から明らかなように、基板40に隣接する種(又は、基板40上に堆積される、発生する薄膜材料)の分布は、プラズマ10中と、荷電粒子欠乏プラズマ15とでは異なる。具体的に、プラズマ10は、基板40上に堆積される薄膜材料の近くに、荷電粒子欠乏プラズマ15によりも大きな割合の荷電種を含む。結果として、磁界25がない場合に堆積される薄膜は、荷電種により、磁界25の存在下で堆積される薄膜よりも大きな程度で影響を受ける。上述のように、荷電種により、発生する薄膜材料との衝突は、中性種よりも活発になり、材料は、結合開裂により、更に損傷し易くなり、ダングリングボンドが形成されるか、又は、薄膜材料から物質が排出される。発生する薄膜材料と荷電種の相互作用によっても、電子的欠陥の濃度が高くなる。
【0043】
荷電粒子欠乏堆積媒体(荷電粒子欠乏プラズマ15等)から形成される薄膜材料は、荷電種との相互作用をあまり受けず、損傷の程度がより少ない。結果として、荷電粒子欠乏堆積媒体から生成される薄膜材料は、あまり欠陥を含まず、ダングリングボンドがより少なく、結合構造が、より規則的である。荷電粒子欠乏堆積媒体から形成される薄膜光起電力材料の実施形態では、より高い光起電力効率が期待される。
【0044】
図2に示される磁界25は、磁界強度が均一である実施形態である。均一な磁界は、印加された磁界強度が一定のものである。本明細書の上に示されるように、均一な磁界の強度を利用して、プラズマが占有する体積と、中性種とイオン種(荷電種)との相対比とを制御することができる。他の実施形態では、不均一な磁界を印加して、プラズマ領域形状を変えてもよい。不均一な磁気は、磁界強度が一定ではないものであり、少なくとも1つの空間方向に変化する。均一な磁界強度は、一般に、プラズマ領域形状の対称的な変化を誘導すると予想され得るのに対し、不均一な磁界を利用して、プラズマ領域の形状の非対称な変化が誘導され得る。不均一な磁界の方向及び性質に応じて、軸方向、横方向、又は任意の方向に非対称性を誘導してもよい。
【0045】
図3は、プラズマ領域への不均一磁界の影響の一実施形態を示す。プラズマ50は、電極20と電極30との間に位置し、不均一磁界45によりにより形成される。不均一磁界45の閉じ込め力は、電極20と電極30との間の空間の中心部分で最大であり、どちらの電極にも向かう方向に減少する。プラズマ50への不均一磁界45の影響は、磁界強度で変化する。プラズマ50の閉じ込めは、弱い磁界を受ける領域よりも、強い磁界を受ける領域で大きい。不均一磁界45の強度は、中心領域で最大であるので、プラズマ50は、その領域で最も閉じ込められる。狭締点55は、プラズマ50が最も閉じ込められる部分を表し、荷電種の消滅が最大であることが予想される部分に対応する。消滅後、プラズマは、狭締点55を通過し、電極30の方向に続く。狭締点55から下流のプラズマの部分は、荷電粒子が欠乏し、薄膜材料を形成するのにより好ましい堆積媒体を与える。図2に関連して考察されるように、電極20から電極30への方向の軸運動に加えて、プラズマ50は、流れのための横方向の円又は螺旋運動を含む。
【0046】
図4は、不均一磁界の代わりの説明上の実施形態を示す。図4では、磁界65の強度又は閉じ込め効果は、基板40に近づくにつれて徐々に増加する。磁界65の結果、電極20と電極30との間に形成されるプラズマ60の形状は、基板40の近傍で尖鋭になる。プラズマ60が尖鋭になるにつれて、プラズマは、より閉じ込められることになり、種間の相互作用が、より大きな周波数で起こり、中性種濃縮又は荷電粒子欠乏堆積媒体への進行が生じる。基板40に隣接するプラズマ60の領域は、荷電粒子が最も欠乏し、高質の薄膜材料を形成するのに好ましい堆積媒体を与える。
【0047】
幾つかの実施形態では、電極、プラズマ領域、基板、及び、磁界でのプラズマの操作は、共通の堆積装置又はチャンバ内で起こる。一実施形態では、プラズマの磁気的操作により得られる荷電粒子欠乏堆積媒体は、カソードとアノードとの間の領域に位置し、アノードは、基板又はその基板が、アノードと電気的に連通している場合に機能する。図2〜4に示される実施形態は、例えば、荷電粒子欠乏堆積媒体から薄膜材料の堆積を行うチャンバ内に囲まれてもよい。チャンバは、1つ以上の前駆体を提供するための配送ラインを備えてもよい。1つ以上の不活性又は背景ガス(例えば、Ar、N2、H2、He、Xe、又はKr)も、チャンバに与えられても、チャンバ内に滞留してもよい。チャンバは、磁界を与える内部磁石を含んでもよい。または、磁界が、チャンバの外部に形成されても、本発明に従ってプラズマを操作するためのチャンバ内に延長されてもよい。
【0048】
他の実施形態では、プラズマが、基板から離れて形成され、基板から離れて磁界で操作され、荷電粒子欠乏堆積媒体を形成し、その媒体は、続いて、基板に向けられる。そのような実施形態は、本発明で、遠隔供給源の実施形態と呼ばれ得る。遠隔供給源の実施形態では、プラズマは、分離チャンバ内に、又は、基板から離れた堆積装置内の領域内に形成される。プラズマの磁気的操作は、基板から離れて起こり、その結果得られる荷電粒子欠乏堆積媒体又は中性種濃縮堆積媒体は、配送装置(ノズル又は開口部等)を介して基板に輸送される。荷電粒子欠乏堆積媒体又は中性種濃縮堆積媒体が生成される、分離チャンバ又は領域は、本明細書で、遠隔供給源と呼ばれ得る。遠隔供給源は、通常、チャンバ内に又は堆積装置の内に位置する基板と一体化されるか、又は、その基板と物質的に連通している。
【0049】
図5は、マイクロ波プラズマから荷電粒子欠乏堆積媒体を生成する遠隔供給源の説明上の実施形態を示す。遠隔供給源100は、導波路115に沿って、マイクロ波帯域120を通って移動するマイクロ波110を生成するマイクロ波生成器105を含む。マイクロ波110は、プラズマチャンバ125内に入る。前駆体は、吸入口130を通じて、プラズマチャンバ125内に導入され、プラズマ140が形成される。プラズマチャンバ125は、プラズマの開始に寄与し且つ種をプラズマに与え得る、背景ガスも含み得る。プラズマチャンバ125は、複数の前駆体を配送するための複数の吸入口も含んでもよい。異なる前駆体は、気体又は蒸気の共通の吸入流れに混合されてもよい。図5に示される実施形態では、軸方向磁界150は、プラズマ140を横切るように印加される。軸方向磁界150の強度は、マイクロ波帯域120からの距離を増やすことで増加する。
【0050】
磁界150は、本明細書の上に記載されるように、プラズマ140に影響を与えて、堆積媒体160を形成し、その堆積媒体は、ノズル170に存在し、基板180に突き当たり、薄膜材料を形成する。プラズマ140が受ける磁界強度は、ノズル170に近づくにつれて増加するので、ノズル170の近傍では、中性種の相対比が増加し、荷電粒子の相対比が減少する。従って、堆積媒体160は、中性種が濃縮され、荷電種が欠乏し、高質の薄膜材料を生成する供給源として用いられる。本明細書の上に示されるように、図5実施形態の軸方向磁界は、プラズマ中の種の螺旋又は旋回軌跡を誘導するように設定され得る。ノズル170に向かう方向に強度が増す軸方向磁界を与えることにより、螺旋又は旋回軌跡の半径方向の範囲は、ノズル170に近づくにつれて圧縮され得、従って、堆積媒体160の中性種濃縮又は荷電粒子消滅の程度は、増強され得る。
【0051】
一実施形態では、ノズルは、基本的に、磁気鏡、短いソレノイド、又は、そのソレノイドよりも大きな同軸方向の磁界を有する出力口付近の電流ループであってもよい。短いソレノイド又は電流ループは、その中心軸の所与の角度(ソレノイド磁界とループ磁界の比の平方根の逆サイン)内で移動する荷電粒子がその中心軸を通過するので、基本的にノズルとして働く。磁気鏡は、実際に、磁界の力線を挟み込む。
【0052】
一実施形態では、プラズマは、存在する磁界の存在下で開始され、操作されて、活性後に中性種濃縮堆積媒体又は荷電粒子欠乏堆積媒体を形成する。別の実施形態では、プラズマは、開始され、活性後に、磁界に曝され、操作されて、中性種濃縮堆積媒体又は荷電粒子欠乏堆積媒体を形成する。
【0053】
本発明の原理は、一般に、気相前駆体、蒸発液体前駆体、及び昇華固相前駆体に拡張される。気相又は蒸気相形態の前駆体は、プラズマ活性領域に配送され、その結果得られるプラズマは、本明細書の上に記載されるように、磁界で操作され、中性種濃縮堆積媒体又は荷電粒子欠乏堆積媒体を形成する。説明上の前駆体として、水素化物、有機金属化合物、又は有機配位子を有する半導性元素の化合物が挙げられる。有機金属化合物と、有機配位子を有する化合物として、アルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、ニトロ、アミノ、アミド、及び関連化合物が挙げられる。気相又は蒸気相形態の前駆体は、別個に又は混合流として配送されてもよく、任意選択で、搬送ガスと共に、プラズマ領域に導かれてもよい。
【0054】
一実施形態では、前駆体は、光起電力薄膜材料の原料物質である。光起電力原料物質として、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、及びゲルマン(GeH)及び等の分子堆積前駆体が挙げられる。光起電力原料物質として、SiF、GeF等のフッ化シリコン及びゲルマニウム化合物、シランのフッ化形態(SiFH、Si、SiFH)、ゲルマニウムのフッ化形態(GeFH、Ge、GeFH)も挙げられる。光起電力材料を堆積する際のフッ化物の利点は、S.R.オフシンスキーにより十分に記載されている。特に、S.R.オフシンスキーは、フッ化物を含むことで、シリコン、ゲルマニウム及び薄膜材料の他の成分規則的な整合が促され、ダングリングボンド及び他の欠陥を不動態化するように作用し、適切な量では、シリコン及びゲルマニウムのナノ結晶相、中間範囲の大きさの相、又はマイクロ結晶相の形成を促すように作用することを示している。フッ化物は、前駆体化合物の配位子として、又はその配位子内に含まれ、プラズマ活性領域に配送され得る。代わりに、F又はHF等のフッ化物源は、中性種濃縮堆積媒体の生成に寄与する1つ以上の他の源と共に配送され得る。(更なる情報は、米国特許第5,103,284号(SiH及びSiFからのナノ結晶性シリコンの形成)、第4,605,941号(フッ化物存在下で調製された非晶シリコン中の欠陥状態の実質的な削減を示す)、及び第4,829,312号(非晶及びナノ結晶シリコンを堆積するための幾つかのフッ化物系前駆体を示す)を参照すること)
【0055】
本発明に従う原料物質として、ドープ物質を薄膜材料に配送する前駆体も挙げられる。ドープ源は、n型又はp型の伝導性を与える元素を薄膜に与える。代表的なドープ物質源として、NH、N、AsH、PH、PH、SF、BF、B、BH、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0056】
搬送ガスも、本堆積プロセス内に含まれてもよい。搬送ガスは、堆積された薄膜組成物に元素を与えない、前駆体又は他の原料物質を希釈するのに一般に利用されるガスである。搬送ガスは、プラズマ開始プロセス中に活性化されてもよく、種をプラズマに与えてもよい。本発明に従う代表的な搬送ガスとして、ネオン(Ne)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、又はそれらの組み合わせが挙げられる。幾つかの薄膜化合物に対して、水素(H)又は窒素(N)は、搬送ガスとして機能し得る。好ましい実施形態では、搬送ガスは、堆積に利用される前駆体又は他の原料物質に対して、化学的に不活性である。
【0057】
本発明は、一般に、薄膜材料を形成するのに後に利用される中性種濃縮堆積媒体又は荷電粒子欠乏堆積媒体を形成するためにプラズマを操作する方法及び装置を提供する。磁界でのプラズマの操作により、他は同一条件又はほぼ同一条件で、磁界がない場合のプラズマの状態に関連する少なくとも1つの中性種の濃度(例えば、数密度)が増すことになる。一実施形態では、シリコン含有前駆体が利用され、磁界により、中性SiH種の濃度が増す。中性SiH種は、基底又は励起電子状態であり得る。別の実施形態では、ゲルマニウム含有前駆体が利用され、磁界により、中性GeH種の濃度が増す。中性GeH種は、基底又は励起電子状態であり得る。別の実施形態では、フッ化シリコン含有前駆体が利用され、磁界により、中性SiF種の濃度が増す。中性SiF種は、基底又は励起電子状態であり得る。別の実施形態では、フッ素含有前駆体が利用され、磁界により、中性F種の濃度が増す。中性F種は、基底又は励起電子状態であり得る。
【0058】
代わりに、磁界でのプラズマの操作により、他は同一条件又はほぼ同一条件で、磁界がない場合のプラズマの状態に関連する少なくとも1つの荷電種の濃度(例えば、数密度)が減少することになる。一実施形態では、シリコン含有前駆体が利用され、磁界により、荷電SiH種の濃度が減る。
【0059】
2つ以上の前駆体(又は、前駆体及びドープ源、又は前駆体及び搬送ガス等)が用いられる一実施形態では、磁界により、前駆体のうちの少なくとも1つから誘導される少なくとも1つの中性種の濃度が増加し、前駆体のうちの少なくとも1つから誘導される少なくとも1つの荷電種の濃度が減少する。
【0060】
本発明は、更に、多層デバイス構造の堆積に拡張される。本発明に従って、第1薄膜材料が形成されてもよく、次に、本発明に従って形成される第2薄膜材料が、その上に形成される。多層デバイスとして、組成及び/又はバンドギャップが異なる複数の層を有する連繋セル又は複数の(例えば、3つの)接合セル等の光起電力装置が挙げられる。実施形態として、シリコン層及びゲルマニウム層、シリコン層及びSiGe層、ゲルマニウム層及びSiGe層、又は、SiとGeの割合が異なる2つ以上のSiGe層を有する多層デバイスが挙げられる。
【0061】
一実施形態では、薄膜材料は、単一ではない結晶マイクロ構造と、中間ギャップ欠陥濃度が1×1016cm未満である、シリコン系光起電力材料である。より好ましくは、単一ではない結晶マイクロ構造は、中間ギャップ欠陥濃度が1×1015cm未満である。最も好ましくは、単一ではない結晶マイクロ構造は、中間ギャップ欠陥濃度が5×1014cm未満である。単一ではない結晶材料は、ナノ結晶材料又はマイクロ結晶材料であってもよく、真性材料又はp型又はn型元素がドープされた材料であってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜材料を形成する方法であって、
1つ以上の前駆体を与えることと、
プラズマを形成するために前記前駆体を活性化することであって、前記プラズマは、複数の種を含み、前記複数の種は、1つ以上の荷電種と1つ以上の中性種とを有する、ことと、
磁界で前記プラズマを操作することであって、前記プラズマの前記操作により、前記プラズマ内の前記荷電種の濃度が減少し、荷電粒子欠乏堆積媒体を形成する、ことと、
前記荷電粒子欠乏堆積媒体から薄膜材料を形成することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記1つ以上の前駆体が、シリコン又はゲルマニウムを含む前駆体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上の前駆体が、SiH、Si2、アルキル置換シラン、GeH、Ge、アルキル置換ゲルマニウム、SiF、SiH、GeFのフッ化形態、及び、GeHのフッ化形態から成る群から選択される前駆体を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記磁界での前記プラズマの前記操作により、前記中性SiH種の濃度が増加する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上の前駆体が、シリコンを含む前駆体と、ゲルマニウムを含む前駆体とを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の前駆体が、SiHとGeHとを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記薄膜材料の欠陥濃度が、1×1016cm-未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記薄膜材料の欠陥濃度が、1×1015cm-未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の前駆体が、フッ素又は水素を含む前駆体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記磁界での前記プラズマの前記操作により、中性F種の濃度が増加する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の前駆体が、ドープ元素を含む前駆体を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記ドープ前駆体が、硼素又は燐を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記前駆体を活性化することが、
第1電極を与えることと、
第2電極を与えることと、
前記磁界が、前記第1電極から前記第2電極へ延びる方向と整列されることと、
前記第1電極と前記第2電極との間に電界を与えることであって、前記電界は、プラズマ活性領域を定め、前記前駆体からの前記プラズマは、前記活性領域を形成する、ことと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記磁界の強度が、前記第1電極から前記第2電極へ延びる前記方向に沿って均一である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記磁界の強度が、前記第1電極から前記第2電極へ延びる前記方向に、第1距離にわたり単調に増加する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記磁界の強度が、前記第1電極から前記第2電極へ延びる前記方向に、第1距離にわたり単調に減少する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記薄膜の前記形成が、前記プラズマ活性領域の外部で生じる、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記磁界で前記プラズマを前記操作することが、前記プラズマの体積を低減することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記磁界で前記プラズマを前記操作することにより、前記プラズマ内の前記中性種の濃度が増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記磁界で前記プラズマを前記操作することにより、前記プラズマの、又は、前記プラズマ内の旋回運動が誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記旋回運動が、螺旋運動を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記旋回運動により、前記プラズマ内の前記荷電種が濃縮された領域と、前記中性種が濃縮された領域とが形成される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記旋回運動により、前記荷電種間の平均空間間隔が減少する、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記磁界で前記プラズマを前記操作することにより、負の荷電種と正の荷電種の再結合が誘導され、前記再結合が、前記荷電種の前記減少に寄与する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記磁界が、時間的に変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記磁界の強度が、少なくとも250ガウスである、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記磁界の強度が、少なくとも500ガウスである、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記磁界の強度が、少なくとも1000ガウスである、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記プラズマが、無線周波数又はマイクロ波周波数に設定される、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記磁界が、前記プラズマ内に電子サイクロトロン条件を設定する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記磁界が、前記イオン種のうちの少なくとも1つに対して、前記プラズマ内にイオンサイクロトロン条件を設定する、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記活性化が、吐出口を備えたチャンバ内で生じ、前記プラズマが、前記チャンバ内に形成され、前記荷電粒子欠乏堆積媒体を形成するために前記磁界で前記操作することが、前記チャンバ内で生じ、前記荷電粒子欠乏堆積媒体が、前記吐出口を通じて前記チャンに出て、前記出た荷電粒子欠乏堆積媒体が、前記チャンバの外部に位置する基板に突き当たり、前記薄膜材料を形成する、前記請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記吐出口がノズルを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
電位が、前記ノズルに印加され、前記電位が、前記前駆体の活性化を補助して、前記プラズマを形成する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記吐出口が磁気鏡である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記前駆体の前記活性化が、前記磁界の存在下で生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記薄膜材料が、光起電力材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
第2前駆体を更に含み、前記第2前駆体が、前記薄膜材料の形成後に与えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項39】
前記第2前駆体から第2薄膜材料を形成することを更に含み、前記第2薄膜材料が、前記薄膜材料上に形成される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記プラズマから、前記荷電粒子欠乏堆積媒体を分離することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項41】
前記荷電種に対する前記中性種の数密度が、10:1よりも大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
前記荷電種に対する前記中性種の数密度が、10:1よりも大きい、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−525015(P2012−525015A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507457(P2012−507457)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/032333
【国際公開番号】WO2010/124271
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511056600)オブシンスキー イノベーション,エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】