電動パワーステアリング装置
【課題】モータロックを防止することにより、システムの安定的な停止が図れ、安全な電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】
マイコン17は、短絡異常検出フラグがオンの場合には、短絡異常判定検出中と判断して、積算判定を実行する。そして、マイコン17は、短絡異常確定フラグがオンの場合には、通電不良発生相以外の二相を通電相とするアシスト力を発生中に、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡異常確定となったと判断して、アシスト力の発生を停止する。
【解決手段】
マイコン17は、短絡異常検出フラグがオンの場合には、短絡異常判定検出中と判断して、積算判定を実行する。そして、マイコン17は、短絡異常確定フラグがオンの場合には、通電不良発生相以外の二相を通電相とするアシスト力を発生中に、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡異常確定となったと判断して、アシスト力の発生を停止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)等に用いられるモータ制御装置の多くには、電力供給線の断線や駆動回路の接点故障等によって、モータの何れかの相(U,V,W相の何れか)に通電不良が生じた場合に、異常の発生を検出可能な異常検出手段が設けられている。そして、異常の発生を検出した場合には、速やかにモータ制御を停止して、フェールセーフを図る構成が一般的となっている。
【0003】
ところが、EPSにおいては、こうしたモータ制御の停止に伴い、そのステアリング特性が大きく変化する。即ち、運転者が的確なステアリング操作を行なうためには、より大きな操舵力が要求されることになる。この点を踏まえ、従来、上記のように通電不良相の発生を検出した場合であっても、通電不良発生相以外の二相を通電相として、モータ制御を継続する電動パワーステアリング装置がある(例えば、特許文献1)。そして、これにより、操舵系に対するアシスト力の付与を継続して、フェールセーフに伴う運転者の負担の増大を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-211909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、通電不良発生相以外の二相を通電相として、モータ制御を継続する電動パワーステアリング装置においては、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となることがある。そして、短絡状態となっている二相に電流が流れた場合には、モータがロックしてしまう虞があった。この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、確実に異常を検出し、システムの停止を図り、安全な電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、三相ブラシレスモータ(12)を駆動源として操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置(10)と、前記三相ブラシレスモータ(12)に流れる実電流を検出する電流検出手段(18u、18v、18w)と、車両の速度を検出する車速検出手段(15)と、操舵トルクを検出するトルク検出手段(16)と、前記操舵トルクに対応した前記アシスト力を発生させるべく前記操舵力補助装置(10)の作動を制御する制御手段(17)と、前記三相ブラシレスモータ(12)の何れかの相に通電不良が発生した場合に、通電不良相の発生を判定可能な異常判定手段(17)を備え、前記制御手段(17)は、前記異常判定手段(17)より前記通電不良が検出された場合には、通電不良発生相以外の二相を通電相とする前記アシスト力を発生させる電動パワーステアリング装置(1)において、前記異常判定手段(17)は、前記通電不良発生相以外の二相を通電相とする前記アシスト力を発生中に、通電不良発生相が、前記通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となることを判定する短絡判定手段(17)を備えるとともに、前記短絡判定手段(17)が、短絡状態と判定した場合には、前記制御手段(17)は、前記アシスト力の発生を停止すること、を要旨とする。
【0008】
本発明によれば、通電不良発生相以外の二相を通電相とするアシスト力を発生中に、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となったと判定した場合には、アシスト力の発生を停止することとした。
その結果、簡素な構成にて確実に異常を検出し、モータロックを防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、モータロックを防止することにより、システムの安定的な停止が図れ、安全な電動パワーステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の電動パワーステアリング装置の構成説明図。
【図2】本発明の実施形態の電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図。
【図3】本発明の実施形態の駆動回路に関する詳細図。
【図4】本発明の実施形態の通常制御時のPWM制御および電流検出の態様を示すタイミングチャート。
【図5】本発明の実施形態の正常な二相駆動時における通電不良相以外の残る二相の電流波形と二相駆動状態図。
【図6】本発明の実施形態の通電不良相以外の残る二相と通電不良相との短絡異常時における三相電流波形とモータ電磁ロック状態図。
【図7】本発明の実施形態のEPS制御のメイン処理手順を示すフローチャート。
【図8】本発明の実施形態のモータX相通電不良判定および制御モード選択処理手順を示すフローチャート。
【図9】本発明の実施形態のモータX相通電不良相検出の処理手順を示すフローチャート。
【図10】本発明の実施形態の短絡異常判定の処理手順を示すフローチャート。
【図11】本発明の実施形態の短絡異常判定の前提条件の処理手順を示すフローチャート。
【図12】本発明の実施形態の短絡異常判定の処理手順を示すフローチャート。
【図13】本発明の実施形態の短絡異常確定の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をコラム型の電動パワーステアリング装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。
【0012】
尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0013】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0014】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、ブラシレスDCモータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、モータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0015】
一方、ECU11には、トルクセンサ14、車速センサ15およびモータ回転角センサ22が接続されている。そして、ECU11は、これら各センサの出力信号に基づいて、操舵トルクτ、車速V、及びモータ回転角θを検出する。
【0016】
詳述すると、本実施形態では、コラムシャフト3aの途中、詳しくは、上記EPSアクチュエータ10を構成する減速機構13よりもステアリング2側にトーションバー16が設けられている。そして、本実施形態のトルクセンサ14は、このトーションバー16の捩れに基づいて、ステアリングシャフト3を介して伝達される操舵トルクτを検出可能なセンサ信号Sa,Sbを出力するセンサ素子14a、14bを備えて構成されている。
【0017】
尚、このようなトルクセンサは、例えば、トーションバー16の捩れに基づき磁束変化が生ずるセンサコア(図示略)の外周に、二つの磁気検出素子(本実施形態ではホールIC)を上記各センサ素子14a、14bとして配置することにより形成することが可能である。
【0018】
即ち、回転軸であるステアリングシャフト3に対するトルク入力によりトーションバー16が捩れることで、その各センサ素子14a、14bを通過する磁束が変化する。
そして、本実施形態のトルクセンサ14は、その磁束変化に伴い変動する各センサ素子14a、14bの出力電圧を、それぞれセンサ信号Sa,SbとしてECU11に出力する構成となっている。
【0019】
そして、ECU11は、これら検出される各状態量に基づいて目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力をEPSアクチュエータ10に発生させるべく、その駆動源であるモータ12への駆動電力の供給を通じて、該EPSアクチュエータ10の作動、即ち、操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている。
【0020】
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン17と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12に駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
【0021】
先ず、駆動回路18について、図3を用いて説明する。本実施形態の駆動回路18は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(アーム)として、各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータであり、マイコン17の出力するモータ制御信号は、駆動回路18を構成する各スイッチング素子のオンduty比を規定するものとなっている。
【0022】
そして、モータ制御信号が各スイッチング素子のゲート端子に印加され、同モータ制御信号に応答して各スイッチング素子がオン/オフすることにより、車載電源Vbの直流電圧が三相(U,V,W)の駆動電力に変換されて、モータ12に供給されるようになっている。
【0023】
詳述すると、駆動回路18は、モータ12の相数に対応する複数(2×3個)のパワーMOSFET(以下、単にFET)により構成されており、具体的には、FET21a、21dの直列回路、FET21b、21eの直列回路、FET21c、21fの直列回路を並列接続することにより、構成されている。
【0024】
そして、FET21a、21dの接続点22uは、モータ12のU相コイルに接続され、FET21b、21eの接続点22vは、モータ12のV相コイルに接続され、FET21c、21fの接続点22wは、モータ12のW相コイルに接続されている。
【0025】
マイコン17から出力されるモータ制御信号は、各FET21a〜FET21fのゲート端子に印加される。そして、このモータ制御信号に応答して、各FET21a〜FET21fがオン/オフすることにより、車載電源Vbから供給される直流電圧が三相(U、V、W)の駆動電力に変換され、モータ12に供給されるようになっている。
【0026】
更に、駆動回路18は、FET21a、21dの直列回路、FET21b、21eの直列回路、FET21c、21fの直列回路にそれぞれ流れる各相電流値Iu、Iv、Iwを検出するための電流センサ18u、18v、18wを有している。そして、マイコン17は、上記各車両状態量、並びにこれら電流センサ18u、18v、18w、およびモータ回転角センサ22の出力信号に基づき、検出されたモータ12の各相電流値Iu、Iv、Iw、およびモータ回転角θに基づいて、駆動回路18に出力するモータ制御信号を生成する。
【0027】
次に、上記各相電流センサ18u、18v、18wが、各相電流値Iu、Iv、Iwを検出する方法を、図4を用いて説明する。
本実施形態のモータ制御装置は、三角波δ((図4)(A)参照)を搬送波とした周知のPWM制御を実行することにより、そのモータ制御を実行する。また、モータの各相電流値Iu、Iv、Iwを検出するための各相電流センサ18u、18v、18wについては、各スイッチングアームの低電位側(接地側)に設ける構成が一般的となっている(図3参照)。そして、モータ12の各相電流値Iu、Iv、Iwは、その三角波δに基づくタイミングで周期的に取得される各相電流センサ18u、18v、18wの出力値に基づいて検出される。
【0028】
詳述すれば、各相の基準信号(duty指令値Dx:x=U,V,W)が三角波δよりも上にある場合には、各相スイッチングアームにおける上段側のスイッチング素子がオン、および下段側のスイッチング素子がオフとなる(図4(B)(C))。そして、duty指令値Dxが三角波δよりも下にある場合には、各相スイッチングアームにおける上段側のスイッチング素子がオフ、および下段側のスイッチング素子がオンとなる(図4(B)(C))。
【0029】
また、各相電流センサ18u、18v、18wの出力値は、三角波δが谷となるタイミングP(図4(A))、および山となるタイミングQ(図4(A))で周期的に取得される。そして、各相電流値(Ix)は、各相スイッチングアームにおける上段側のスイッチング素子が全てオンとなる、タイミングPで取得される各電流センサの出力値をオフセット電流値(Ixo)として取得する。そして、下段側のスイッチング素子が全てオンとなる、タイミングQで取得される各電流センサの出力値(Ixr)を取得する。
【0030】
そして、図2のモータ制御信号生成部24で使用される各相電流値Ixは、タイミングQで取得された各電流センサの出力値(Ixr)から、タイミングPで取得されたオフセット電流値(Ixo)を減算することで算出される(Ix=Ixr−Ixo)。本実施形態では、三角波δが谷となるタイミングPで検出するオフセット電流値(Ixo)を「谷読み電流値」といい、三角波δが山となるタイミングQで検出する電流値(Ixr)を「山読み電流値」という。
【0031】
次に、マイコン17によるモータ制御信号の生成について、図2に基づいて詳述する。マイコン17は、操舵系に付与するアシスト力、即ち、モータトルクの制御目標値として電流指令値を演算する電流指令値演算手段としての電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値に基づいて、モータ制御信号を生成するモータ制御信号生成手段としてのモータ制御信号生成部24とを備えている。
【0032】
電流指令値演算部23は、上記トルクセンサ14および車速センサ15により検出された、操舵トルクτおよび車速Vに基づいて、d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*を演算し、モータ制御信号生成部24に出力する。
【0033】
一方、モータ制御信号生成部24には、電流指令値演算部23により算出された、これらd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*とともに、各電流センサ18u、18v、18wにより検出された各相電流値Iu、Iv、Iwおよびモータ回転角センサ24により検出されたモータ回転角θが入力される。
【0034】
そして、モータ制御信号生成部24は、これら各相電流値Iu、Iv、Iwおよびモータ回転角θに基づいて、d/q座標系における電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を生成する。
【0035】
即ち、モータ制御信号生成部24において、各相電流値Iu、Iv、Iwは、モータ回転角θとともに3相/2相変換部25に入力され、同3相/2相変換部25により、d/q座標系のd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqに変換される。また、電流指令値演算部23の出力するq軸電流指令値Iq*は、上記q軸電流値Iqとともに減算器26qに入力され、d軸電流指令値Id*は、上記d軸電流値Idとともに減算器26dに入力される。
【0036】
そして、これら減算器26d、26qにおいて演算されたd軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqは、それぞれ対応するF/B制御部27d、27qに入力される。そして、これら各F/B制御部27d、27qにおいて、電流指令値演算部23が出力するd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*に実電流であるd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqを追従させるためのフィードバック制御が行われる。
【0037】
具体的には、F/B制御部27d、27qは、入力されたd軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqに所定のF/Bゲイン(PIゲイン)を乗ずることにより、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を演算する。そして、各F/B制御部27d、27qにより演算されたこれらd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*は、モータ回転角θとともに2相/3相変換部28に入力され、同2相/3相変換部28において、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換される。
【0038】
2相/3相変換部28において演算された各電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、PWM変換部30に入力され、同PWM変換部30において、該各電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するduty指令値αu,αv,αwが生成される。
【0039】
そして、モータ制御信号生成部24は、これら各duty指令値αu,αv,αwに示されるオンduty比を有するモータ制御信号を生成し、マイコン17は、そのモータ制御信号を、駆動回路18を構成する各スイッチング素子(のゲート端子)に出力することにより、同駆動回路18の作動、即ち、モータ12への駆動電力の供給を制御する。
【0040】
次に、本実施形態のECUにおける異常発生時の制御態様について説明する。
図2に示すように、本実施形態のECU11では、マイコン17には、EPS1に何らかの異常が生じた場合に、該異常の態様を特定するための異常判定部31が設けられている。そして、マイコン17は、この異常判定部31により判定された異常の態様に応じて、モータ12の制御モードを変更する。
【0041】
詳述すると、異常判定部31には、EPSアクチュエータ10の機械的構成の異常を検出するための異常信号Strが入力されるようになっており、同異常判定部31は、この入力される異常信号Strに基づいて、EPS1における機械系統の異常を検出する。また、異常判定部31には、モータ12の各相電流値Iu、Iv、Iwおよびモータ回転角速度ω、並びに各相のduty指令値αu,αv,αw等が入力される。尚、モータ回転角速度ωは、モータ回転角θを微分器32で微分演算することによって生成される。
【0042】
そして、異常判定部31は、これら各状態量に基づいて、トルクセンサ14の異常およびモータ12への電力供給系統における異常、具体的には、過電流の発生、或いは、動力線(モータコイルを含む)の断線や、駆動回路18の接点不良等に起因する通電不良相の発生等を検出する。
【0043】
例えば、通電不良相発生の検出は、X相(X=U,V,W)の相電流値Ixが相電流所定値Ith以下(|Ix|≦Ith)、且つモータ回転角速度ωが断線判定の対象範囲内(|ω|≦ω0)である場合に、該相に対応するduty指令値αxが取り得る下限値近傍の所定値(αLo)または上限値近傍の所定値(αHi)の範囲内(αLo≦αx≦αHi)にない状態が継続するか否かにより行なわれる。
【0044】
尚、この場合において、上記相電流値Ixの閾値となる相電流所定値Ithは「0」近傍の値に設定され、モータ回転角速度の所定値ω0は、モータの基底速度(最高回転数)に相当する値よりも小さな値に設定される。そして、duty指令値αxに関するduty指令値閾値(αLo、αHi)は、それぞれ通常制御においてduty指令値αxが取り得る下限値よりも大きな値および上限値よりも小さな値に設定されている。
【0045】
更に、本実施形態では、マイコン17は、この異常判定部31における異常判定の結果に基づいて、モータ12の制御モードを切り替える。具体的には、異常判定部31は、上記のような通電不良検出を含む異常判定の結果を異常検出信号Stmとして出力し、モータ制御信号生成部24は、その入力される異常検出信号Stmに応じたモータ制御信号の生成を実行する。これにより、マイコン17におけるモータ12の制御モードが切り替えられるようになっている。
【0046】
さらに詳述すると、本実施形態のマイコン17は、通常時の制御モードである「通常制御モード」、およびモータ12の駆動を停止すべき異常が発生している場合の制御モードである「アシスト停止モード」、並びにモータ12の各相の何れかに通電不良が生じた場合の制御モードである「二相駆動モード」と、大別して3つの制御モードを有している。
【0047】
そして、異常判定部31の出力する異常検出信号Stmが「通常制御モード」に対応するものである場合には、電流指令演算部23およびモータ制御信号生成部24は、上記のような通常時のd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*の演算、およびモータ制御信号の生成を実行する。
【0048】
一方、異常判定部31の出力する異常検出信号Stmが「アシスト停止モード」である場合には、電流指令演算部23およびモータ制御信号生成部24は、モータ12の駆動を停止すべく、d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*の演算、およびモータ制御信号の生成を実行する。
【0049】
尚、「アシスト停止モード」が選択される場合としては、機械系統の異常やトルクセンサ14に異常が発生した場合のほか、電力供給系統における異常発生時については、過電流が生じた場合等が挙げられる。
【0050】
また、「アシスト停止モード」には、直ちにモータ12の駆動を停止する場合のほか、モータ12の出力を徐々に低減する、即ち、アシスト力を徐々に低減した後に、停止させる場合があり、この場合、モータ制御信号生成部24は、その出力するq軸電流指令値Iq*の値(絶対値)を徐々に低減する。そして、マイコン17は、モータ12の停止後、駆動回路18を構成する各スイッチング素子を開状態とし、図示しない電源リレーを開放する構成となっている。
【0051】
また、「二相駆動モード」に対応する異常検出信号Stmには、通電不良発生相を特定する情報が含まれている。そして、異常判定部31の出力する異常検出信号Stmがこの「二相駆動モード」に対応するものである場合、モータ制御信号生成部24は、当該通電不良発生相以外の二相を通電相とするモータ制御信号の生成を実行する。
【0052】
次に、「二相駆動モード」について、図5を用いて説明する。図5の(A)では、横軸はモータの電気角[°]を、縦軸は通電不良相以外の残る二相に流す電流指令値[A]を表している。そして、破線はU相電流(L1)を、実線はV相電流(L2)の二相駆動制御電流波形を表している(W相は通電不良相)。尚、W相が通電不良相であり、通電不良相以外のU相電流、V相電流の二相駆動制御電流波形を得るためには、図2の電流指令値演算部23において、Ix=Iq*/(√(2)×cosθ)の演算を実行する必要がある。
【0053】
図5の(B)は、上記W相が通電不良相であり、通電不良相以外のU相電流、V相電流の二相駆動制御状態での、モータに発生する磁界の概念図を表している。通電不良相であるW相は磁極を発生していない。通電不良相以外のU相電流、V相電流の二相で磁極を発生させ、モータのロータを吸引し、回転を生じさせている。
【0054】
更に、本実施形態では、マイコン17は、制御モード選択時に「二相駆動モード」を選択した後、通電不良相が通電不良相以外の残る二相のうちのどちらかの相と短絡した場合には、短絡異常を検出するための短絡異常判定手段(異常判定部31に含まれる)を構成している。そして、通電不良相が通電不良相以外の残る二相のうちのどちらかの相と短絡し、短絡した二相に所定以上の電流値I0(例えば、10A)が流れた場合には、モータがロックする虞があるので、制御モードを「二相駆動モード」から「アシスト停止モード」に切り替え、モータ12へのアシスト力付与を停止する。
【0055】
図6の(A)は、図5の(A)と同じく、破線はU相電流(L1)、細い実線はV相電流(L2)の二相駆動制御電流波形を表している。しかし、通電不良相であるW相として、正常時には電流が流れないはずのW相に、太い実線のW相電流(L3)が流れている。尚、本実施形態では、通電不良相であるW相と、通電不良相以外の一相であるV相が短絡したとして記載してある。
【0056】
すると、図6の(A)のモータ電気角0°〜180°の間では、W相電流が流れないのに対して、モータ電気角180°〜360°の間では、U相電流に対して、V相およびW相電流が重畳して流れる。図6の(B)は、上記通電不良相であるW相と、通電不良相以外の一相であるV相が短絡した三相駆動制御状態でのモータに発生する磁界の概念図を表している。通電不良相であるはずのW相も通電しているため、磁極が発生している。U相電流の回転力が、V相電流およびW相電流の回転力と釣り合っているため、モータがロック状態となる。
【0057】
上記のように、モータがロック状態になると、例えば、急操舵状態が必要なときなどは危険な状態となるため、直ちにシステムを停止しなければならない。
本実施形態では、三相のうちの一相が通電不良相となっても、通電不良相以外の残る二相によってアシスト制御を継続できる。しかし、通電不良相以外の残る二相のうちの一相が、該通電不良相と短絡した場合には、モータがロック状態になるため、その状態を正確に検出し、システムの安定的な停止を図り、安全な電動パワーステアリング装置を構成している。
【0058】
次に、本実施形態のマイコン17によるEPS制御のメインルーチンの処理手順を、図7に示すフローチャートで説明する。
マイコン17は、IG(イグニッションスイッチ)がオンしているか否かを判定する(ステップS101)。そして、IGがオンしている場合(ステップS101:YES)には、ステップS102に移行する。一方、IGがオンしていない場合(ステップS101:NO)には、ステップS101に戻り、IGがオンするまで、この処理を繰り返す。
【0059】
次に、ステップS102では、EPS制御を開始する。そして、ステップS103に移行する。ステップS103では、モータ各相の通電不良判定を行い、制御モードを選択する。制御モードを選択し終えた後は、ステップS104に移行して、短絡異常判定を行う。短絡異常判定をし終えた後は、ステップS105に移行して、IGがオフしているか否かを判定する。そして、IGがオフしている場合(ステップS105:YES)には、この処理を終える。また、IGがオフしていない場合(ステップS105:NO)には、ステップS103に戻り、ステップS103からステップS105を繰り返す。
【0060】
次に、本実施形態のマイコン17によるモータX相通電不良判定および制御モード選択サブルーチンの処理手順を、図8に示すフローチャートで説明する。
マイコン17は、モータのU相通電不良判定を行う(ステップS201)。次に、マイコン17は、モータのV相通電不良判定を行う(ステップS202)。更に、マイコン17は、モータのW相通電不良判定を行う(ステップS203)。
【0061】
各相通電不良判定において、通電不良がある場合にはモータのX相通電不良フラグFLGX(X=U,V,W)に「1」が書き込まれる。例えば、モータのU相通電不良の場合には、モータのU相通電不良フラグFLGUに「1」が書き込まれ、モータのU相が通電不良でない場合には、FLGUに「0」が書き込まれる。
【0062】
次に、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の1つが「1」か否かを判定する(ステップS204)。そして、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の1つが「1」でない場合(ステップS204:NO)には、FLGX(X=U,V,W)の2つ以上が「1」か否かを判定する(ステップS205)。
【0063】
そして、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の2つ以上が「1」でない場合(ステップS205:NO)には、FLGX(X=U,V,W)のすべてが「0」か否かを判定する(ステップS206)。そして、FLGX(X=U,V,W)のすべてが「0」の場合(ステップS206:YES)には、「通常制御モード」を選択し、制御モードフラグMODに「1」を書き込み(ステップS207)、処理を終える。
【0064】
一方、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)のすべてが「0」でない場合(ステップS206:NO)には、通電不良フラグ判定の異常として「アシスト停止モード」を選択し、制御モードフラグMODに「0」を書き込み(ステップS208)、処理を終える。また、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の2つ以上が「1」の場合(ステップS205:YES)には、「アシスト停止モード」を選択し、制御モードフラグMODに「0」を書き込み(ステップS208)、処理を終える。
【0065】
更に、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の1つが「1」の場合(ステップS204:YES)には、「二相駆動モード(所定式でIq*演算)」を選択し、制御モードフラグMODに「2」を書き込み(ステップS209)、処理を終える。
【0066】
次に、本実施形態のマイコン17によるモータX相通電不良判定の処理手順を、図9に示すフローチャートで説明する。マイコン17は、検出される相電流値Ix(の絶対値)が所定値Ith以下であるか否かを判定する(ステップS301)。そして、マイコン17は、検出される相電流値Ixが相電流所定値Ith以下である場合(|Ix|≦Ith、ステップS301:YES)には、続いてモータ回転角速度ω(の絶対値)がモータ回転角速度の所定値ω0以下であるか否かを判定する(ステップS302)。
【0067】
そして、マイコン17は、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω0以下である場合(|ω|≦ω0、ステップS302:YES)には、duty指令値αxが上記の所定範囲(αLo≦αx≦αHi)内にあるか否かを判定する(ステップS303)。そして、マイコン17は、duty指令値αxが上記の所定範囲内にない場合(ステップS303:NO)には、モータのX相に通電不良が生じていると判定し、モータのX相通電不良フラグFLGXに「1」を書き込み(X相通電不良、FLGX=「1」、ステップS304)、処理を終える。
【0068】
そして、マイコン17は、検出される相電流値Ixが相電流所定値Ithよりも大きい場合(|Ix|>Ith、ステップS301:NO)、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω0よりも大きい場合(|ω|>ω0、ステップS302:NO)、またはduty指令値αxが上記の所定範囲内にある場合(αLo≦αx≦αHi、ステップS303:YES)には、モータのX相に通電不良が生じていないと判定し、モータのX相通電不良フラグFLGXに「0」を書き込み(X相正常、FLGX=「0」、ステップS305)、処理を終える。
【0069】
次に、本実施形態のマイコン17による短絡異常判定の処理手順を、図10に示すフローチャートで説明する。マイコン17は、短絡異常判定のための前提条件を判定する(ステップS401)。そして、マイコン17は、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0が「1」か否かを判定する(FLGJ0=「1」、ステップS402)。
【0070】
そして、マイコン17は、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0が「1」の場合(FLGJ0=「1」、ステップS402:YES)には、短絡異常判定のための前提条件がそろったと判断して、短絡異常判定を実行する(ステップS403)。
【0071】
次に、マイコン17は、短絡異常検出フラグFLGJ1が「1」(異常検出中)か否かを判定する(FLGJ1=「1」、ステップS404)。そして、マイコン17は、短絡異常検出フラグFLGJ1が「1」の場合(FLGJ1=「1」、ステップS404:YES)には、短絡異常判定検出中と判断して、積算判定を実行する(ステップS405)。
【0072】
次に、マイコン17は、短絡異常確定フラグFLGJ2が「1」(異常確定)か否かを判定する(FLGJ2=「1」、ステップS406)。そして、マイコン17は、短絡異常確定フラグFLGJ2が「1」の場合(FLGJ2=「1」、ステップS406:YES)には、短絡異常確定と判断して、「アシスト停止モード」を選択し、制御モードフラグMODに「0」を書き込み(ステップS407)、処理を終える。
【0073】
更に、マイコン17は、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0が「1」でない場合(FLGJ0=「0」、ステップS402:NO)、短絡異常検出フラグFLGJ1が「1」でない場合(FLGJ1=「0」、ステップS404:NO)、および短絡異常確定フラグFLGJ2が「1」でない場合(FLGJ2=「0」、ステップS406:NO)には、何も処理をしないで終わる。
【0074】
次に、本実施形態のマイコン17による短絡異常判定の前提条件の処理手順を、図11に示すフローチャートで説明する。マイコン17は、バッテリ電圧Vbが所定電圧V0(例えば、7.5V)以上か否かを判定する(Vb≧V0、ステップS501)。そして、マイコン17は、バッテリ電圧Vbが所定電圧V0以上の場合(Vb≧V0、ステップS501:YES)には、イニシャルチェックが正常に完了しているか否かを判定する(ステップS502)。そして、マイコン17は、イニシャルチェックが正常に完了している場合(ステップS502:YES)には、ステップS503に移行する。ここで、イニシャルチェックが正常とは、マイコン17の電源投入時に、マイコン17に内蔵の全記憶領域(ROM,RAM)をチェックした結果、正常であることを表している。
【0075】
マイコン17は、半導体素子の異常を検出するフラグFLGAISCが「0」か否かを判定する(FLGAISC=「0」、ステップS503)。そして、マイコン17は、半導体素子の異常を検出するフラグFLGAISCが「0」の場合(FLGAISC=「0」、ステップS503:YES)では、制御モードフラグMODが「2」(「二相駆動モード(所定式でIq*演算)」)か否かを判定する(MOD=「2」、ステップS504)。
【0076】
そして、マイコン17は、制御モードフラグMODが「2」の場合(MOD=「2」、ステップS504:YES)には、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0に「1」を書き込み(FLGJ0=「1」、ステップS505)、処理を終える。
【0077】
一方、マイコン17は、バッテリ電圧Vbが所定電圧V0未満の場合(Vb<V0、ステップS501:NO)、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω0未満の場合(ω<ω0、ステップS502:NO)、半導体素子の異常を検出するフラグFLGAISCが「1」の場合(FLGAISC=「1」、ステップS503:NO)、および制御モードフラグMODが「2」でない場合(ステップS504:NO)には、短絡異常判定のための前提条件が不成立と判断して、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0に「0」を書き込む(FLGJ0=「0」、ステップS506)。
【0078】
そして、マイコン17は、短絡異常検出フラグFLGJ1に「0」を書き込み(ステップS507)、短絡異常確定用積算カウンタkをリセットする(k=0、
ステップS508)。そして、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrもリセット(Tr=0、ステップS509)して、処理を終わる。
【0079】
次に、本実施形態のマイコン17による短絡異常判定の処理手順を、図12に示すフローチャートで説明する。マイコン17は、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω1(例えば、500rpm)以下か否かを判定する(ω≦ω1、ステップS601)。そして、マイコン17は、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω1以下の場合(ω≦ω1、ステップS601:YES)には、モータのU相通電不良フラグFLGUが「1」か否かを判定する(ステップS602)。
【0080】
そして、マイコン17は、モータのU相通電不良フラグFLGUが「1」の場合(FLGU=「1」、ステップS602:YES)には、U相山読み電流値(の絶対値、|Iuu|)が所定電流値I0(例えば、10A)以上か否かを判定する(|Iuu|≧I0、ステップS603)。
【0081】
そして、マイコン17は、U相山読み電流値(の絶対値、|Iuu|)が所定電流値I0以上の場合(|Iuu|≧I0、ステップS603:YES)には、短絡異常検出フラグFLGJ1に「1」を書き込む(ステップS604)。そして、マイコン17は、短絡異常確定用積算カウンタkをインクリメント(k=k+1、ステップS605)して、処理を終わる。
【0082】
一方、マイコン17は、U相山読み電流値(の絶対値、|Iuu|)が所定電流値I0未満の場合(|Iuu|<I0、ステップS603:NO)には、U相谷読み電流値(の絶対値、|Iul|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Iul|≧I0、ステップS606)。
【0083】
そして、マイコン17は、U相谷読み電流値(の絶対値、|Iul|)が所定電流値I0以上の場合(|Iul|≧I0、ステップS606:YES)には、ステップS604に移行する。そして、マイコン17は、U相谷読み電流値(の絶対値、|Iul|)が所定電流値I0未満の場合(|Iul|<I0、ステップS606:NO)には、処理を終わる。
【0084】
更に、マイコン17は、モータのU相通電不良フラグFLGUが「1」でない場合(FLGU=「0」、ステップS602:NO)には、モータのV相通電不良フラグFLGVが「1」か否かを判定する(ステップS607)。そして、マイコン17は、モータのV相通電不良フラグFLGVが「1」の場合(FLGV=「1」、ステップS607:YES)には、V相山読み電流値(の絶対値、|Ivu|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Ivu|≧I0、ステップS608)。
【0085】
そして、マイコン17は、そして、マイコン17は、V相山読み電流値(の絶対値、|Ivu|)が所定電流値I0以上の場合(|Ivu|≧I0、ステップS608:YES)には、ステップS604に移行する。一方、マイコン17は、V相山読み電流値(の絶対値、|Ivu|)が所定電流値I0未満の場合(|Ivu|<I0、ステップS608:NO)には、V相谷読み電流値(の絶対値、|Ivl|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Ivl|≧I0、ステップS609)。
【0086】
そして、マイコン17は、V相谷読み電流値(の絶対値、|Ivl|)が所定電流値I0以上の場合(|Ivl|≧I0、ステップS609:YES)には、ステップS604に移行する。そして、マイコン17は、V相谷読み電流値(の絶対値、|Ivl|)が所定電流値I0未満の場合(|Ivl|<I0、ステップS609:NO)には、処理を終わる。
【0087】
更に、マイコン17は、モータのV相通電不良フラグFLGVが「1」でない場合(FLGV=「0」、ステップS607:NO)には、モータのW相通電不良フラグFLGWが「1」か否かを判定する(ステップS610)。そして、マイコン17は、モータのW相通電不良フラグFLGWが「1」の場合(FLGW=「1」、ステップS610:YES)には、W相山読み電流値(の絶対値、|Iwu|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Iwu|≧I0、ステップS611)。
【0088】
そして、マイコン17は、W相山読み電流値(の絶対値、|Iwu|)が所定電流値I0以上の場合(|Iwu|≧I0、ステップS611:YES)には、ステップS604に移行する。一方、マイコン17は、W相山読み電流値(の絶対値、|Iwu|)が所定電流値I0未満の場合(|Iwu|<I0、ステップS611:NO)には、W相谷読み電流値(の絶対値、|Iwl|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Iwl|≧I0、ステップS612)。
【0089】
そして、マイコン17は、W相谷読み電流値(の絶対値、|Iwl|)が所定電流値I0以上の場合(|Iwl|≧I0、ステップS612:YES)には、ステップS604に移行する。そして、マイコン17は、W相谷読み電流値(の絶対値、|Iwl|)が所定電流値I0未満の場合(|Iwl|<I0、ステップS612:NO)には、処理を終わる。
【0090】
また、マイコン17は、モータのW相通電不良フラグFLGWが「1」でない場合(FLGW=「0」、ステップS610:NO)、およびモータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω1より大きい場合(ω>ω1、ステップS601:NO)には、処理を終わる。
【0091】
次に、本実施形態のマイコン17による短絡異常確定の処理手順を、図13に示すフローチャートで説明する。まず、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrをインクリメントする(Tr=Tr+1、ステップS701)。そして、マイコン17は、短絡異常確定用積算カウンタkが所定値ks以上か否かを判定する(k≧ks、ステップS702)。
【0092】
そして、マイコン17は、短絡異常確定用積算カウンタkが所定値ks以上の場合(k≧ks、ステップS702:YES)には、短絡異常確定フラグFLGJ2に「1」を書き込み(ステップS703)、処理を終える。
【0093】
次に、マイコン17は、短絡異常確定用積算カウンタkが所定値ks未満の場合(k<ks、ステップS702:NO)には、短絡異常確定用タイマTrが所定値Trs以上か否かを判定する(Tr≧Trs、ステップS704)。そして、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrが所定値Trs以上の場合(Tr≧Trs、ステップS704:YES)には、短絡異常確定用積算カウンタkをリセットする(k=0、ステップS705)。
【0094】
更に、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrをリセットする(Tr=0、ステップS706)。そして、マイコン17は、短絡異常確定フラグFLGJ2に「0」を書き込み(ステップS707)、処理を終える。一方、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrが所定値Trs未満の場合(Tr<Trs、ステップS704:NO)には、処理を終える。
【0095】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
本発明によれば、マイコン17は、通電不良発生相以外の二相を通電相とするアシスト力を発生中に、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となったと判定した場合には、アシスト力の発生を停止することとした。
その結果、簡素な構成にて確実に異常を検出し、モータロックを確実に防止することにより、システムの安定的な停止が図れ、安全な電動パワーステアリング装置を提供できる。
【0096】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明を、コラム型のEPSに具体化したが、本発明は、ピニオン型やラックアシスト型のEPSに適用してもよい。
【0097】
・上記実施形態では、短絡異常確定のために、短絡異常確定用積算カウンタと、短絡異常確定用タイマを用いたが、これらを用いなくて、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となったと判定した場合には、直ちに、アシスト力の発生を停止するとしてもよい。
【0098】
・上記実施形態では、本発明を、コラム型のEPSに具体化したが、本発明は、単にモータ制御装置にのみ使用しても勿論よい。
【符号の説明】
【0099】
1:電動パワーステアリング装置(EPS)、2:ステアリング、
3:ステアリングシャフト、3a:コラムシャフト、
3b:インターミディエイトシャフト、3c:ピニオンシャフト、
4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、6:タイロッド、7:転舵輪、
10:EPSアクチュエータ(操舵力補助装置)、11:ECU、12:モータ、
13:減速機構、14:トルクセンサ、14a、14b:センサ素子、
15:車速センサ、16:トーションバー、17:マイコン、18:駆動回路、
18u、18v、18w:電流センサ(電流検出手段)、
21a、21b、21c、21d、21e、21f:FET(パワーMOSFET)、
22u、22v、22w:接続点、23:電流指令値演算部、
24:モータ制御信号生成部、25:3相/2相変換部、26d、26q:減算器、
27d、27q:F/B制御部、28:2相/3相変換部、30:PWM変換部、
31:異常判定部、32:微分器、
τ:操舵トルク、Sa,Sb:センサ信号、V:車速、θ:モータ回転角、
ω:モータ回転角速度、ω0、ω1:モータ回転角速度の所定値、
Iu、Iv、Iw:各相電流値、I0:所定電流値、
Ixo:オフセット電流値、Ixr:各電流センサの出力値、
Id*:d軸電流指令値、Iq*:q軸電流指令値、
Id:d軸電流値、Iq:q軸電流値、
ΔId:d軸電流偏差、ΔIq:q軸電流偏差、
Ith:相電流所定値、
Iuu:U相山読み電流値、Iul:U相谷読み電流値、
Ivu:V相山読み電流値、Ivl:V相谷読み電流値、
Iwu:W相山読み電流値、Iwl:W相谷読み電流値、
Vd*:d軸電圧指令値、Vq*:q軸電圧指令値、
Vu*,Vv*,Vw*:電圧指令値、
αu,αv,αw:duty指令値、αLo、αHi :duty指令値閾値、
Vb:車載電源、V0:所定電圧、δ:三角波(搬送波)、
Dx(x=U,V,W):duty指令値、
P:三角波δが谷となるタイミング、Q:三角波δが山となるタイミング、
Str:異常信号、Stm:異常検出信号、
IG:イグニッションスイッチ、
FLGX(X=U,V,W):モータのX相通電不良フラグ、
FLGU:モータのU相通電不良フラグ、
FLGV:モータのV相通電不良フラグ、
FLGW:モータのW相通電不良フラグ、
MOD:制御モードフラグ、
FLGJ0:短絡異常判定のための前提条件判定フラグ、
FLGJ1:短絡異常検出フラグ、
FLGJ2:短絡異常確定フラグ、
FLGAISC:半導体素子の異常を検出するフラグ、
k:短絡異常確定用積算カウンタ、ks:所定値、
Tr:短絡異常確定用タイマ、Trs:所定値
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)等に用いられるモータ制御装置の多くには、電力供給線の断線や駆動回路の接点故障等によって、モータの何れかの相(U,V,W相の何れか)に通電不良が生じた場合に、異常の発生を検出可能な異常検出手段が設けられている。そして、異常の発生を検出した場合には、速やかにモータ制御を停止して、フェールセーフを図る構成が一般的となっている。
【0003】
ところが、EPSにおいては、こうしたモータ制御の停止に伴い、そのステアリング特性が大きく変化する。即ち、運転者が的確なステアリング操作を行なうためには、より大きな操舵力が要求されることになる。この点を踏まえ、従来、上記のように通電不良相の発生を検出した場合であっても、通電不良発生相以外の二相を通電相として、モータ制御を継続する電動パワーステアリング装置がある(例えば、特許文献1)。そして、これにより、操舵系に対するアシスト力の付与を継続して、フェールセーフに伴う運転者の負担の増大を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-211909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、通電不良発生相以外の二相を通電相として、モータ制御を継続する電動パワーステアリング装置においては、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となることがある。そして、短絡状態となっている二相に電流が流れた場合には、モータがロックしてしまう虞があった。この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、確実に異常を検出し、システムの停止を図り、安全な電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、三相ブラシレスモータ(12)を駆動源として操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置(10)と、前記三相ブラシレスモータ(12)に流れる実電流を検出する電流検出手段(18u、18v、18w)と、車両の速度を検出する車速検出手段(15)と、操舵トルクを検出するトルク検出手段(16)と、前記操舵トルクに対応した前記アシスト力を発生させるべく前記操舵力補助装置(10)の作動を制御する制御手段(17)と、前記三相ブラシレスモータ(12)の何れかの相に通電不良が発生した場合に、通電不良相の発生を判定可能な異常判定手段(17)を備え、前記制御手段(17)は、前記異常判定手段(17)より前記通電不良が検出された場合には、通電不良発生相以外の二相を通電相とする前記アシスト力を発生させる電動パワーステアリング装置(1)において、前記異常判定手段(17)は、前記通電不良発生相以外の二相を通電相とする前記アシスト力を発生中に、通電不良発生相が、前記通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となることを判定する短絡判定手段(17)を備えるとともに、前記短絡判定手段(17)が、短絡状態と判定した場合には、前記制御手段(17)は、前記アシスト力の発生を停止すること、を要旨とする。
【0008】
本発明によれば、通電不良発生相以外の二相を通電相とするアシスト力を発生中に、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となったと判定した場合には、アシスト力の発生を停止することとした。
その結果、簡素な構成にて確実に異常を検出し、モータロックを防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、モータロックを防止することにより、システムの安定的な停止が図れ、安全な電動パワーステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の電動パワーステアリング装置の構成説明図。
【図2】本発明の実施形態の電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図。
【図3】本発明の実施形態の駆動回路に関する詳細図。
【図4】本発明の実施形態の通常制御時のPWM制御および電流検出の態様を示すタイミングチャート。
【図5】本発明の実施形態の正常な二相駆動時における通電不良相以外の残る二相の電流波形と二相駆動状態図。
【図6】本発明の実施形態の通電不良相以外の残る二相と通電不良相との短絡異常時における三相電流波形とモータ電磁ロック状態図。
【図7】本発明の実施形態のEPS制御のメイン処理手順を示すフローチャート。
【図8】本発明の実施形態のモータX相通電不良判定および制御モード選択処理手順を示すフローチャート。
【図9】本発明の実施形態のモータX相通電不良相検出の処理手順を示すフローチャート。
【図10】本発明の実施形態の短絡異常判定の処理手順を示すフローチャート。
【図11】本発明の実施形態の短絡異常判定の前提条件の処理手順を示すフローチャート。
【図12】本発明の実施形態の短絡異常判定の処理手順を示すフローチャート。
【図13】本発明の実施形態の短絡異常確定の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をコラム型の電動パワーステアリング装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。
【0012】
尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0013】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0014】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、ブラシレスDCモータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、モータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0015】
一方、ECU11には、トルクセンサ14、車速センサ15およびモータ回転角センサ22が接続されている。そして、ECU11は、これら各センサの出力信号に基づいて、操舵トルクτ、車速V、及びモータ回転角θを検出する。
【0016】
詳述すると、本実施形態では、コラムシャフト3aの途中、詳しくは、上記EPSアクチュエータ10を構成する減速機構13よりもステアリング2側にトーションバー16が設けられている。そして、本実施形態のトルクセンサ14は、このトーションバー16の捩れに基づいて、ステアリングシャフト3を介して伝達される操舵トルクτを検出可能なセンサ信号Sa,Sbを出力するセンサ素子14a、14bを備えて構成されている。
【0017】
尚、このようなトルクセンサは、例えば、トーションバー16の捩れに基づき磁束変化が生ずるセンサコア(図示略)の外周に、二つの磁気検出素子(本実施形態ではホールIC)を上記各センサ素子14a、14bとして配置することにより形成することが可能である。
【0018】
即ち、回転軸であるステアリングシャフト3に対するトルク入力によりトーションバー16が捩れることで、その各センサ素子14a、14bを通過する磁束が変化する。
そして、本実施形態のトルクセンサ14は、その磁束変化に伴い変動する各センサ素子14a、14bの出力電圧を、それぞれセンサ信号Sa,SbとしてECU11に出力する構成となっている。
【0019】
そして、ECU11は、これら検出される各状態量に基づいて目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力をEPSアクチュエータ10に発生させるべく、その駆動源であるモータ12への駆動電力の供給を通じて、該EPSアクチュエータ10の作動、即ち、操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている。
【0020】
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン17と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12に駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
【0021】
先ず、駆動回路18について、図3を用いて説明する。本実施形態の駆動回路18は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(アーム)として、各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータであり、マイコン17の出力するモータ制御信号は、駆動回路18を構成する各スイッチング素子のオンduty比を規定するものとなっている。
【0022】
そして、モータ制御信号が各スイッチング素子のゲート端子に印加され、同モータ制御信号に応答して各スイッチング素子がオン/オフすることにより、車載電源Vbの直流電圧が三相(U,V,W)の駆動電力に変換されて、モータ12に供給されるようになっている。
【0023】
詳述すると、駆動回路18は、モータ12の相数に対応する複数(2×3個)のパワーMOSFET(以下、単にFET)により構成されており、具体的には、FET21a、21dの直列回路、FET21b、21eの直列回路、FET21c、21fの直列回路を並列接続することにより、構成されている。
【0024】
そして、FET21a、21dの接続点22uは、モータ12のU相コイルに接続され、FET21b、21eの接続点22vは、モータ12のV相コイルに接続され、FET21c、21fの接続点22wは、モータ12のW相コイルに接続されている。
【0025】
マイコン17から出力されるモータ制御信号は、各FET21a〜FET21fのゲート端子に印加される。そして、このモータ制御信号に応答して、各FET21a〜FET21fがオン/オフすることにより、車載電源Vbから供給される直流電圧が三相(U、V、W)の駆動電力に変換され、モータ12に供給されるようになっている。
【0026】
更に、駆動回路18は、FET21a、21dの直列回路、FET21b、21eの直列回路、FET21c、21fの直列回路にそれぞれ流れる各相電流値Iu、Iv、Iwを検出するための電流センサ18u、18v、18wを有している。そして、マイコン17は、上記各車両状態量、並びにこれら電流センサ18u、18v、18w、およびモータ回転角センサ22の出力信号に基づき、検出されたモータ12の各相電流値Iu、Iv、Iw、およびモータ回転角θに基づいて、駆動回路18に出力するモータ制御信号を生成する。
【0027】
次に、上記各相電流センサ18u、18v、18wが、各相電流値Iu、Iv、Iwを検出する方法を、図4を用いて説明する。
本実施形態のモータ制御装置は、三角波δ((図4)(A)参照)を搬送波とした周知のPWM制御を実行することにより、そのモータ制御を実行する。また、モータの各相電流値Iu、Iv、Iwを検出するための各相電流センサ18u、18v、18wについては、各スイッチングアームの低電位側(接地側)に設ける構成が一般的となっている(図3参照)。そして、モータ12の各相電流値Iu、Iv、Iwは、その三角波δに基づくタイミングで周期的に取得される各相電流センサ18u、18v、18wの出力値に基づいて検出される。
【0028】
詳述すれば、各相の基準信号(duty指令値Dx:x=U,V,W)が三角波δよりも上にある場合には、各相スイッチングアームにおける上段側のスイッチング素子がオン、および下段側のスイッチング素子がオフとなる(図4(B)(C))。そして、duty指令値Dxが三角波δよりも下にある場合には、各相スイッチングアームにおける上段側のスイッチング素子がオフ、および下段側のスイッチング素子がオンとなる(図4(B)(C))。
【0029】
また、各相電流センサ18u、18v、18wの出力値は、三角波δが谷となるタイミングP(図4(A))、および山となるタイミングQ(図4(A))で周期的に取得される。そして、各相電流値(Ix)は、各相スイッチングアームにおける上段側のスイッチング素子が全てオンとなる、タイミングPで取得される各電流センサの出力値をオフセット電流値(Ixo)として取得する。そして、下段側のスイッチング素子が全てオンとなる、タイミングQで取得される各電流センサの出力値(Ixr)を取得する。
【0030】
そして、図2のモータ制御信号生成部24で使用される各相電流値Ixは、タイミングQで取得された各電流センサの出力値(Ixr)から、タイミングPで取得されたオフセット電流値(Ixo)を減算することで算出される(Ix=Ixr−Ixo)。本実施形態では、三角波δが谷となるタイミングPで検出するオフセット電流値(Ixo)を「谷読み電流値」といい、三角波δが山となるタイミングQで検出する電流値(Ixr)を「山読み電流値」という。
【0031】
次に、マイコン17によるモータ制御信号の生成について、図2に基づいて詳述する。マイコン17は、操舵系に付与するアシスト力、即ち、モータトルクの制御目標値として電流指令値を演算する電流指令値演算手段としての電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値に基づいて、モータ制御信号を生成するモータ制御信号生成手段としてのモータ制御信号生成部24とを備えている。
【0032】
電流指令値演算部23は、上記トルクセンサ14および車速センサ15により検出された、操舵トルクτおよび車速Vに基づいて、d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*を演算し、モータ制御信号生成部24に出力する。
【0033】
一方、モータ制御信号生成部24には、電流指令値演算部23により算出された、これらd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*とともに、各電流センサ18u、18v、18wにより検出された各相電流値Iu、Iv、Iwおよびモータ回転角センサ24により検出されたモータ回転角θが入力される。
【0034】
そして、モータ制御信号生成部24は、これら各相電流値Iu、Iv、Iwおよびモータ回転角θに基づいて、d/q座標系における電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を生成する。
【0035】
即ち、モータ制御信号生成部24において、各相電流値Iu、Iv、Iwは、モータ回転角θとともに3相/2相変換部25に入力され、同3相/2相変換部25により、d/q座標系のd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqに変換される。また、電流指令値演算部23の出力するq軸電流指令値Iq*は、上記q軸電流値Iqとともに減算器26qに入力され、d軸電流指令値Id*は、上記d軸電流値Idとともに減算器26dに入力される。
【0036】
そして、これら減算器26d、26qにおいて演算されたd軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqは、それぞれ対応するF/B制御部27d、27qに入力される。そして、これら各F/B制御部27d、27qにおいて、電流指令値演算部23が出力するd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*に実電流であるd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqを追従させるためのフィードバック制御が行われる。
【0037】
具体的には、F/B制御部27d、27qは、入力されたd軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqに所定のF/Bゲイン(PIゲイン)を乗ずることにより、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を演算する。そして、各F/B制御部27d、27qにより演算されたこれらd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*は、モータ回転角θとともに2相/3相変換部28に入力され、同2相/3相変換部28において、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換される。
【0038】
2相/3相変換部28において演算された各電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、PWM変換部30に入力され、同PWM変換部30において、該各電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するduty指令値αu,αv,αwが生成される。
【0039】
そして、モータ制御信号生成部24は、これら各duty指令値αu,αv,αwに示されるオンduty比を有するモータ制御信号を生成し、マイコン17は、そのモータ制御信号を、駆動回路18を構成する各スイッチング素子(のゲート端子)に出力することにより、同駆動回路18の作動、即ち、モータ12への駆動電力の供給を制御する。
【0040】
次に、本実施形態のECUにおける異常発生時の制御態様について説明する。
図2に示すように、本実施形態のECU11では、マイコン17には、EPS1に何らかの異常が生じた場合に、該異常の態様を特定するための異常判定部31が設けられている。そして、マイコン17は、この異常判定部31により判定された異常の態様に応じて、モータ12の制御モードを変更する。
【0041】
詳述すると、異常判定部31には、EPSアクチュエータ10の機械的構成の異常を検出するための異常信号Strが入力されるようになっており、同異常判定部31は、この入力される異常信号Strに基づいて、EPS1における機械系統の異常を検出する。また、異常判定部31には、モータ12の各相電流値Iu、Iv、Iwおよびモータ回転角速度ω、並びに各相のduty指令値αu,αv,αw等が入力される。尚、モータ回転角速度ωは、モータ回転角θを微分器32で微分演算することによって生成される。
【0042】
そして、異常判定部31は、これら各状態量に基づいて、トルクセンサ14の異常およびモータ12への電力供給系統における異常、具体的には、過電流の発生、或いは、動力線(モータコイルを含む)の断線や、駆動回路18の接点不良等に起因する通電不良相の発生等を検出する。
【0043】
例えば、通電不良相発生の検出は、X相(X=U,V,W)の相電流値Ixが相電流所定値Ith以下(|Ix|≦Ith)、且つモータ回転角速度ωが断線判定の対象範囲内(|ω|≦ω0)である場合に、該相に対応するduty指令値αxが取り得る下限値近傍の所定値(αLo)または上限値近傍の所定値(αHi)の範囲内(αLo≦αx≦αHi)にない状態が継続するか否かにより行なわれる。
【0044】
尚、この場合において、上記相電流値Ixの閾値となる相電流所定値Ithは「0」近傍の値に設定され、モータ回転角速度の所定値ω0は、モータの基底速度(最高回転数)に相当する値よりも小さな値に設定される。そして、duty指令値αxに関するduty指令値閾値(αLo、αHi)は、それぞれ通常制御においてduty指令値αxが取り得る下限値よりも大きな値および上限値よりも小さな値に設定されている。
【0045】
更に、本実施形態では、マイコン17は、この異常判定部31における異常判定の結果に基づいて、モータ12の制御モードを切り替える。具体的には、異常判定部31は、上記のような通電不良検出を含む異常判定の結果を異常検出信号Stmとして出力し、モータ制御信号生成部24は、その入力される異常検出信号Stmに応じたモータ制御信号の生成を実行する。これにより、マイコン17におけるモータ12の制御モードが切り替えられるようになっている。
【0046】
さらに詳述すると、本実施形態のマイコン17は、通常時の制御モードである「通常制御モード」、およびモータ12の駆動を停止すべき異常が発生している場合の制御モードである「アシスト停止モード」、並びにモータ12の各相の何れかに通電不良が生じた場合の制御モードである「二相駆動モード」と、大別して3つの制御モードを有している。
【0047】
そして、異常判定部31の出力する異常検出信号Stmが「通常制御モード」に対応するものである場合には、電流指令演算部23およびモータ制御信号生成部24は、上記のような通常時のd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*の演算、およびモータ制御信号の生成を実行する。
【0048】
一方、異常判定部31の出力する異常検出信号Stmが「アシスト停止モード」である場合には、電流指令演算部23およびモータ制御信号生成部24は、モータ12の駆動を停止すべく、d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*の演算、およびモータ制御信号の生成を実行する。
【0049】
尚、「アシスト停止モード」が選択される場合としては、機械系統の異常やトルクセンサ14に異常が発生した場合のほか、電力供給系統における異常発生時については、過電流が生じた場合等が挙げられる。
【0050】
また、「アシスト停止モード」には、直ちにモータ12の駆動を停止する場合のほか、モータ12の出力を徐々に低減する、即ち、アシスト力を徐々に低減した後に、停止させる場合があり、この場合、モータ制御信号生成部24は、その出力するq軸電流指令値Iq*の値(絶対値)を徐々に低減する。そして、マイコン17は、モータ12の停止後、駆動回路18を構成する各スイッチング素子を開状態とし、図示しない電源リレーを開放する構成となっている。
【0051】
また、「二相駆動モード」に対応する異常検出信号Stmには、通電不良発生相を特定する情報が含まれている。そして、異常判定部31の出力する異常検出信号Stmがこの「二相駆動モード」に対応するものである場合、モータ制御信号生成部24は、当該通電不良発生相以外の二相を通電相とするモータ制御信号の生成を実行する。
【0052】
次に、「二相駆動モード」について、図5を用いて説明する。図5の(A)では、横軸はモータの電気角[°]を、縦軸は通電不良相以外の残る二相に流す電流指令値[A]を表している。そして、破線はU相電流(L1)を、実線はV相電流(L2)の二相駆動制御電流波形を表している(W相は通電不良相)。尚、W相が通電不良相であり、通電不良相以外のU相電流、V相電流の二相駆動制御電流波形を得るためには、図2の電流指令値演算部23において、Ix=Iq*/(√(2)×cosθ)の演算を実行する必要がある。
【0053】
図5の(B)は、上記W相が通電不良相であり、通電不良相以外のU相電流、V相電流の二相駆動制御状態での、モータに発生する磁界の概念図を表している。通電不良相であるW相は磁極を発生していない。通電不良相以外のU相電流、V相電流の二相で磁極を発生させ、モータのロータを吸引し、回転を生じさせている。
【0054】
更に、本実施形態では、マイコン17は、制御モード選択時に「二相駆動モード」を選択した後、通電不良相が通電不良相以外の残る二相のうちのどちらかの相と短絡した場合には、短絡異常を検出するための短絡異常判定手段(異常判定部31に含まれる)を構成している。そして、通電不良相が通電不良相以外の残る二相のうちのどちらかの相と短絡し、短絡した二相に所定以上の電流値I0(例えば、10A)が流れた場合には、モータがロックする虞があるので、制御モードを「二相駆動モード」から「アシスト停止モード」に切り替え、モータ12へのアシスト力付与を停止する。
【0055】
図6の(A)は、図5の(A)と同じく、破線はU相電流(L1)、細い実線はV相電流(L2)の二相駆動制御電流波形を表している。しかし、通電不良相であるW相として、正常時には電流が流れないはずのW相に、太い実線のW相電流(L3)が流れている。尚、本実施形態では、通電不良相であるW相と、通電不良相以外の一相であるV相が短絡したとして記載してある。
【0056】
すると、図6の(A)のモータ電気角0°〜180°の間では、W相電流が流れないのに対して、モータ電気角180°〜360°の間では、U相電流に対して、V相およびW相電流が重畳して流れる。図6の(B)は、上記通電不良相であるW相と、通電不良相以外の一相であるV相が短絡した三相駆動制御状態でのモータに発生する磁界の概念図を表している。通電不良相であるはずのW相も通電しているため、磁極が発生している。U相電流の回転力が、V相電流およびW相電流の回転力と釣り合っているため、モータがロック状態となる。
【0057】
上記のように、モータがロック状態になると、例えば、急操舵状態が必要なときなどは危険な状態となるため、直ちにシステムを停止しなければならない。
本実施形態では、三相のうちの一相が通電不良相となっても、通電不良相以外の残る二相によってアシスト制御を継続できる。しかし、通電不良相以外の残る二相のうちの一相が、該通電不良相と短絡した場合には、モータがロック状態になるため、その状態を正確に検出し、システムの安定的な停止を図り、安全な電動パワーステアリング装置を構成している。
【0058】
次に、本実施形態のマイコン17によるEPS制御のメインルーチンの処理手順を、図7に示すフローチャートで説明する。
マイコン17は、IG(イグニッションスイッチ)がオンしているか否かを判定する(ステップS101)。そして、IGがオンしている場合(ステップS101:YES)には、ステップS102に移行する。一方、IGがオンしていない場合(ステップS101:NO)には、ステップS101に戻り、IGがオンするまで、この処理を繰り返す。
【0059】
次に、ステップS102では、EPS制御を開始する。そして、ステップS103に移行する。ステップS103では、モータ各相の通電不良判定を行い、制御モードを選択する。制御モードを選択し終えた後は、ステップS104に移行して、短絡異常判定を行う。短絡異常判定をし終えた後は、ステップS105に移行して、IGがオフしているか否かを判定する。そして、IGがオフしている場合(ステップS105:YES)には、この処理を終える。また、IGがオフしていない場合(ステップS105:NO)には、ステップS103に戻り、ステップS103からステップS105を繰り返す。
【0060】
次に、本実施形態のマイコン17によるモータX相通電不良判定および制御モード選択サブルーチンの処理手順を、図8に示すフローチャートで説明する。
マイコン17は、モータのU相通電不良判定を行う(ステップS201)。次に、マイコン17は、モータのV相通電不良判定を行う(ステップS202)。更に、マイコン17は、モータのW相通電不良判定を行う(ステップS203)。
【0061】
各相通電不良判定において、通電不良がある場合にはモータのX相通電不良フラグFLGX(X=U,V,W)に「1」が書き込まれる。例えば、モータのU相通電不良の場合には、モータのU相通電不良フラグFLGUに「1」が書き込まれ、モータのU相が通電不良でない場合には、FLGUに「0」が書き込まれる。
【0062】
次に、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の1つが「1」か否かを判定する(ステップS204)。そして、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の1つが「1」でない場合(ステップS204:NO)には、FLGX(X=U,V,W)の2つ以上が「1」か否かを判定する(ステップS205)。
【0063】
そして、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の2つ以上が「1」でない場合(ステップS205:NO)には、FLGX(X=U,V,W)のすべてが「0」か否かを判定する(ステップS206)。そして、FLGX(X=U,V,W)のすべてが「0」の場合(ステップS206:YES)には、「通常制御モード」を選択し、制御モードフラグMODに「1」を書き込み(ステップS207)、処理を終える。
【0064】
一方、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)のすべてが「0」でない場合(ステップS206:NO)には、通電不良フラグ判定の異常として「アシスト停止モード」を選択し、制御モードフラグMODに「0」を書き込み(ステップS208)、処理を終える。また、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の2つ以上が「1」の場合(ステップS205:YES)には、「アシスト停止モード」を選択し、制御モードフラグMODに「0」を書き込み(ステップS208)、処理を終える。
【0065】
更に、マイコン17は、FLGX(X=U,V,W)の1つが「1」の場合(ステップS204:YES)には、「二相駆動モード(所定式でIq*演算)」を選択し、制御モードフラグMODに「2」を書き込み(ステップS209)、処理を終える。
【0066】
次に、本実施形態のマイコン17によるモータX相通電不良判定の処理手順を、図9に示すフローチャートで説明する。マイコン17は、検出される相電流値Ix(の絶対値)が所定値Ith以下であるか否かを判定する(ステップS301)。そして、マイコン17は、検出される相電流値Ixが相電流所定値Ith以下である場合(|Ix|≦Ith、ステップS301:YES)には、続いてモータ回転角速度ω(の絶対値)がモータ回転角速度の所定値ω0以下であるか否かを判定する(ステップS302)。
【0067】
そして、マイコン17は、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω0以下である場合(|ω|≦ω0、ステップS302:YES)には、duty指令値αxが上記の所定範囲(αLo≦αx≦αHi)内にあるか否かを判定する(ステップS303)。そして、マイコン17は、duty指令値αxが上記の所定範囲内にない場合(ステップS303:NO)には、モータのX相に通電不良が生じていると判定し、モータのX相通電不良フラグFLGXに「1」を書き込み(X相通電不良、FLGX=「1」、ステップS304)、処理を終える。
【0068】
そして、マイコン17は、検出される相電流値Ixが相電流所定値Ithよりも大きい場合(|Ix|>Ith、ステップS301:NO)、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω0よりも大きい場合(|ω|>ω0、ステップS302:NO)、またはduty指令値αxが上記の所定範囲内にある場合(αLo≦αx≦αHi、ステップS303:YES)には、モータのX相に通電不良が生じていないと判定し、モータのX相通電不良フラグFLGXに「0」を書き込み(X相正常、FLGX=「0」、ステップS305)、処理を終える。
【0069】
次に、本実施形態のマイコン17による短絡異常判定の処理手順を、図10に示すフローチャートで説明する。マイコン17は、短絡異常判定のための前提条件を判定する(ステップS401)。そして、マイコン17は、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0が「1」か否かを判定する(FLGJ0=「1」、ステップS402)。
【0070】
そして、マイコン17は、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0が「1」の場合(FLGJ0=「1」、ステップS402:YES)には、短絡異常判定のための前提条件がそろったと判断して、短絡異常判定を実行する(ステップS403)。
【0071】
次に、マイコン17は、短絡異常検出フラグFLGJ1が「1」(異常検出中)か否かを判定する(FLGJ1=「1」、ステップS404)。そして、マイコン17は、短絡異常検出フラグFLGJ1が「1」の場合(FLGJ1=「1」、ステップS404:YES)には、短絡異常判定検出中と判断して、積算判定を実行する(ステップS405)。
【0072】
次に、マイコン17は、短絡異常確定フラグFLGJ2が「1」(異常確定)か否かを判定する(FLGJ2=「1」、ステップS406)。そして、マイコン17は、短絡異常確定フラグFLGJ2が「1」の場合(FLGJ2=「1」、ステップS406:YES)には、短絡異常確定と判断して、「アシスト停止モード」を選択し、制御モードフラグMODに「0」を書き込み(ステップS407)、処理を終える。
【0073】
更に、マイコン17は、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0が「1」でない場合(FLGJ0=「0」、ステップS402:NO)、短絡異常検出フラグFLGJ1が「1」でない場合(FLGJ1=「0」、ステップS404:NO)、および短絡異常確定フラグFLGJ2が「1」でない場合(FLGJ2=「0」、ステップS406:NO)には、何も処理をしないで終わる。
【0074】
次に、本実施形態のマイコン17による短絡異常判定の前提条件の処理手順を、図11に示すフローチャートで説明する。マイコン17は、バッテリ電圧Vbが所定電圧V0(例えば、7.5V)以上か否かを判定する(Vb≧V0、ステップS501)。そして、マイコン17は、バッテリ電圧Vbが所定電圧V0以上の場合(Vb≧V0、ステップS501:YES)には、イニシャルチェックが正常に完了しているか否かを判定する(ステップS502)。そして、マイコン17は、イニシャルチェックが正常に完了している場合(ステップS502:YES)には、ステップS503に移行する。ここで、イニシャルチェックが正常とは、マイコン17の電源投入時に、マイコン17に内蔵の全記憶領域(ROM,RAM)をチェックした結果、正常であることを表している。
【0075】
マイコン17は、半導体素子の異常を検出するフラグFLGAISCが「0」か否かを判定する(FLGAISC=「0」、ステップS503)。そして、マイコン17は、半導体素子の異常を検出するフラグFLGAISCが「0」の場合(FLGAISC=「0」、ステップS503:YES)では、制御モードフラグMODが「2」(「二相駆動モード(所定式でIq*演算)」)か否かを判定する(MOD=「2」、ステップS504)。
【0076】
そして、マイコン17は、制御モードフラグMODが「2」の場合(MOD=「2」、ステップS504:YES)には、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0に「1」を書き込み(FLGJ0=「1」、ステップS505)、処理を終える。
【0077】
一方、マイコン17は、バッテリ電圧Vbが所定電圧V0未満の場合(Vb<V0、ステップS501:NO)、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω0未満の場合(ω<ω0、ステップS502:NO)、半導体素子の異常を検出するフラグFLGAISCが「1」の場合(FLGAISC=「1」、ステップS503:NO)、および制御モードフラグMODが「2」でない場合(ステップS504:NO)には、短絡異常判定のための前提条件が不成立と判断して、短絡異常判定のための前提条件判定フラグFLGJ0に「0」を書き込む(FLGJ0=「0」、ステップS506)。
【0078】
そして、マイコン17は、短絡異常検出フラグFLGJ1に「0」を書き込み(ステップS507)、短絡異常確定用積算カウンタkをリセットする(k=0、
ステップS508)。そして、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrもリセット(Tr=0、ステップS509)して、処理を終わる。
【0079】
次に、本実施形態のマイコン17による短絡異常判定の処理手順を、図12に示すフローチャートで説明する。マイコン17は、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω1(例えば、500rpm)以下か否かを判定する(ω≦ω1、ステップS601)。そして、マイコン17は、モータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω1以下の場合(ω≦ω1、ステップS601:YES)には、モータのU相通電不良フラグFLGUが「1」か否かを判定する(ステップS602)。
【0080】
そして、マイコン17は、モータのU相通電不良フラグFLGUが「1」の場合(FLGU=「1」、ステップS602:YES)には、U相山読み電流値(の絶対値、|Iuu|)が所定電流値I0(例えば、10A)以上か否かを判定する(|Iuu|≧I0、ステップS603)。
【0081】
そして、マイコン17は、U相山読み電流値(の絶対値、|Iuu|)が所定電流値I0以上の場合(|Iuu|≧I0、ステップS603:YES)には、短絡異常検出フラグFLGJ1に「1」を書き込む(ステップS604)。そして、マイコン17は、短絡異常確定用積算カウンタkをインクリメント(k=k+1、ステップS605)して、処理を終わる。
【0082】
一方、マイコン17は、U相山読み電流値(の絶対値、|Iuu|)が所定電流値I0未満の場合(|Iuu|<I0、ステップS603:NO)には、U相谷読み電流値(の絶対値、|Iul|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Iul|≧I0、ステップS606)。
【0083】
そして、マイコン17は、U相谷読み電流値(の絶対値、|Iul|)が所定電流値I0以上の場合(|Iul|≧I0、ステップS606:YES)には、ステップS604に移行する。そして、マイコン17は、U相谷読み電流値(の絶対値、|Iul|)が所定電流値I0未満の場合(|Iul|<I0、ステップS606:NO)には、処理を終わる。
【0084】
更に、マイコン17は、モータのU相通電不良フラグFLGUが「1」でない場合(FLGU=「0」、ステップS602:NO)には、モータのV相通電不良フラグFLGVが「1」か否かを判定する(ステップS607)。そして、マイコン17は、モータのV相通電不良フラグFLGVが「1」の場合(FLGV=「1」、ステップS607:YES)には、V相山読み電流値(の絶対値、|Ivu|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Ivu|≧I0、ステップS608)。
【0085】
そして、マイコン17は、そして、マイコン17は、V相山読み電流値(の絶対値、|Ivu|)が所定電流値I0以上の場合(|Ivu|≧I0、ステップS608:YES)には、ステップS604に移行する。一方、マイコン17は、V相山読み電流値(の絶対値、|Ivu|)が所定電流値I0未満の場合(|Ivu|<I0、ステップS608:NO)には、V相谷読み電流値(の絶対値、|Ivl|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Ivl|≧I0、ステップS609)。
【0086】
そして、マイコン17は、V相谷読み電流値(の絶対値、|Ivl|)が所定電流値I0以上の場合(|Ivl|≧I0、ステップS609:YES)には、ステップS604に移行する。そして、マイコン17は、V相谷読み電流値(の絶対値、|Ivl|)が所定電流値I0未満の場合(|Ivl|<I0、ステップS609:NO)には、処理を終わる。
【0087】
更に、マイコン17は、モータのV相通電不良フラグFLGVが「1」でない場合(FLGV=「0」、ステップS607:NO)には、モータのW相通電不良フラグFLGWが「1」か否かを判定する(ステップS610)。そして、マイコン17は、モータのW相通電不良フラグFLGWが「1」の場合(FLGW=「1」、ステップS610:YES)には、W相山読み電流値(の絶対値、|Iwu|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Iwu|≧I0、ステップS611)。
【0088】
そして、マイコン17は、W相山読み電流値(の絶対値、|Iwu|)が所定電流値I0以上の場合(|Iwu|≧I0、ステップS611:YES)には、ステップS604に移行する。一方、マイコン17は、W相山読み電流値(の絶対値、|Iwu|)が所定電流値I0未満の場合(|Iwu|<I0、ステップS611:NO)には、W相谷読み電流値(の絶対値、|Iwl|)が所定電流値I0以上か否かを判定する(|Iwl|≧I0、ステップS612)。
【0089】
そして、マイコン17は、W相谷読み電流値(の絶対値、|Iwl|)が所定電流値I0以上の場合(|Iwl|≧I0、ステップS612:YES)には、ステップS604に移行する。そして、マイコン17は、W相谷読み電流値(の絶対値、|Iwl|)が所定電流値I0未満の場合(|Iwl|<I0、ステップS612:NO)には、処理を終わる。
【0090】
また、マイコン17は、モータのW相通電不良フラグFLGWが「1」でない場合(FLGW=「0」、ステップS610:NO)、およびモータ回転角速度ωがモータ回転角速度の所定値ω1より大きい場合(ω>ω1、ステップS601:NO)には、処理を終わる。
【0091】
次に、本実施形態のマイコン17による短絡異常確定の処理手順を、図13に示すフローチャートで説明する。まず、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrをインクリメントする(Tr=Tr+1、ステップS701)。そして、マイコン17は、短絡異常確定用積算カウンタkが所定値ks以上か否かを判定する(k≧ks、ステップS702)。
【0092】
そして、マイコン17は、短絡異常確定用積算カウンタkが所定値ks以上の場合(k≧ks、ステップS702:YES)には、短絡異常確定フラグFLGJ2に「1」を書き込み(ステップS703)、処理を終える。
【0093】
次に、マイコン17は、短絡異常確定用積算カウンタkが所定値ks未満の場合(k<ks、ステップS702:NO)には、短絡異常確定用タイマTrが所定値Trs以上か否かを判定する(Tr≧Trs、ステップS704)。そして、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrが所定値Trs以上の場合(Tr≧Trs、ステップS704:YES)には、短絡異常確定用積算カウンタkをリセットする(k=0、ステップS705)。
【0094】
更に、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrをリセットする(Tr=0、ステップS706)。そして、マイコン17は、短絡異常確定フラグFLGJ2に「0」を書き込み(ステップS707)、処理を終える。一方、マイコン17は、短絡異常確定用タイマTrが所定値Trs未満の場合(Tr<Trs、ステップS704:NO)には、処理を終える。
【0095】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
本発明によれば、マイコン17は、通電不良発生相以外の二相を通電相とするアシスト力を発生中に、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となったと判定した場合には、アシスト力の発生を停止することとした。
その結果、簡素な構成にて確実に異常を検出し、モータロックを確実に防止することにより、システムの安定的な停止が図れ、安全な電動パワーステアリング装置を提供できる。
【0096】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明を、コラム型のEPSに具体化したが、本発明は、ピニオン型やラックアシスト型のEPSに適用してもよい。
【0097】
・上記実施形態では、短絡異常確定のために、短絡異常確定用積算カウンタと、短絡異常確定用タイマを用いたが、これらを用いなくて、通電不良発生相が、通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となったと判定した場合には、直ちに、アシスト力の発生を停止するとしてもよい。
【0098】
・上記実施形態では、本発明を、コラム型のEPSに具体化したが、本発明は、単にモータ制御装置にのみ使用しても勿論よい。
【符号の説明】
【0099】
1:電動パワーステアリング装置(EPS)、2:ステアリング、
3:ステアリングシャフト、3a:コラムシャフト、
3b:インターミディエイトシャフト、3c:ピニオンシャフト、
4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、6:タイロッド、7:転舵輪、
10:EPSアクチュエータ(操舵力補助装置)、11:ECU、12:モータ、
13:減速機構、14:トルクセンサ、14a、14b:センサ素子、
15:車速センサ、16:トーションバー、17:マイコン、18:駆動回路、
18u、18v、18w:電流センサ(電流検出手段)、
21a、21b、21c、21d、21e、21f:FET(パワーMOSFET)、
22u、22v、22w:接続点、23:電流指令値演算部、
24:モータ制御信号生成部、25:3相/2相変換部、26d、26q:減算器、
27d、27q:F/B制御部、28:2相/3相変換部、30:PWM変換部、
31:異常判定部、32:微分器、
τ:操舵トルク、Sa,Sb:センサ信号、V:車速、θ:モータ回転角、
ω:モータ回転角速度、ω0、ω1:モータ回転角速度の所定値、
Iu、Iv、Iw:各相電流値、I0:所定電流値、
Ixo:オフセット電流値、Ixr:各電流センサの出力値、
Id*:d軸電流指令値、Iq*:q軸電流指令値、
Id:d軸電流値、Iq:q軸電流値、
ΔId:d軸電流偏差、ΔIq:q軸電流偏差、
Ith:相電流所定値、
Iuu:U相山読み電流値、Iul:U相谷読み電流値、
Ivu:V相山読み電流値、Ivl:V相谷読み電流値、
Iwu:W相山読み電流値、Iwl:W相谷読み電流値、
Vd*:d軸電圧指令値、Vq*:q軸電圧指令値、
Vu*,Vv*,Vw*:電圧指令値、
αu,αv,αw:duty指令値、αLo、αHi :duty指令値閾値、
Vb:車載電源、V0:所定電圧、δ:三角波(搬送波)、
Dx(x=U,V,W):duty指令値、
P:三角波δが谷となるタイミング、Q:三角波δが山となるタイミング、
Str:異常信号、Stm:異常検出信号、
IG:イグニッションスイッチ、
FLGX(X=U,V,W):モータのX相通電不良フラグ、
FLGU:モータのU相通電不良フラグ、
FLGV:モータのV相通電不良フラグ、
FLGW:モータのW相通電不良フラグ、
MOD:制御モードフラグ、
FLGJ0:短絡異常判定のための前提条件判定フラグ、
FLGJ1:短絡異常検出フラグ、
FLGJ2:短絡異常確定フラグ、
FLGAISC:半導体素子の異常を検出するフラグ、
k:短絡異常確定用積算カウンタ、ks:所定値、
Tr:短絡異常確定用タイマ、Trs:所定値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相ブラシレスモータを駆動源として操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、
前記三相ブラシレスモータに流れる実電流を検出する電流検出手段と、
車両の速度を検出する車速検出手段と、
操舵トルクを検出するトルク検出手段と、
前記操舵トルクに対応した前記アシスト力を発生させるべく前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段と、
前記三相ブラシレスモータの何れかの相に通電不良が発生した場合に、通電不良相の発生を判定可能な異常判定手段を備え、
前記制御手段は、前記異常判定手段より前記通電不良が検出された場合には、通電不良発生相以外の二相を通電相とする前記アシスト力を発生させる電動パワーステアリング装置において、
前記異常判定手段は、前記通電不良発生相以外の二相を通電相とする前記アシスト力を発生中に、通電不良発生相が、前記通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となることを判定する短絡判定手段を備えるとともに、
前記短絡判定手段が、短絡状態と判定した場合には、前記制御手段は、前記アシスト力の発生を停止すること、
を特徴とした電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
三相ブラシレスモータを駆動源として操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、
前記三相ブラシレスモータに流れる実電流を検出する電流検出手段と、
車両の速度を検出する車速検出手段と、
操舵トルクを検出するトルク検出手段と、
前記操舵トルクに対応した前記アシスト力を発生させるべく前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段と、
前記三相ブラシレスモータの何れかの相に通電不良が発生した場合に、通電不良相の発生を判定可能な異常判定手段を備え、
前記制御手段は、前記異常判定手段より前記通電不良が検出された場合には、通電不良発生相以外の二相を通電相とする前記アシスト力を発生させる電動パワーステアリング装置において、
前記異常判定手段は、前記通電不良発生相以外の二相を通電相とする前記アシスト力を発生中に、通電不良発生相が、前記通電不良発生相以外の二相のうちの一相と短絡状態となることを判定する短絡判定手段を備えるとともに、
前記短絡判定手段が、短絡状態と判定した場合には、前記制御手段は、前記アシスト力の発生を停止すること、
を特徴とした電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−62893(P2013−62893A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197805(P2011−197805)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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