説明

電動駆動ユニット

【課題】 高効率でコンパクトな電動駆動ユニットを提供すること。
【解決手段】 電動機と無段変速機構とを接続したユニットを構成し、無段変速機構の変速比を所定の変速比とした場合に、要求トルクに応じて決まる第2の要求トルクが電動機の定格範囲内の時は、無段変速機構の変速比を所定の変速比に固定するとともに、第2の要求トルクを達成するよう電動機を制御し、定格範囲外のときは無段変速機構の変速比を変更するとともに、電動機を制御して駆動対象の要求トルクを達成することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を備えた駆動装置等として搭載される電動駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、電動機と無段変速機を組み合わせた駆動装置が開示されている。この装置は、インバータと電動機の最大効率曲線から得られた目標モータ回転数で走行し、無段変速機によって変速比を制御することで運転者の意図に応じた駆動状態を達成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−176419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の装置にあっては、電動機の効率を意識するあまり、常時、無段変速機側で変速比制御を行うため下記に示す課題がある。まず、無段変速機としてはベルト式やトロイダル式といった種々の構成が知られているが、これら既存の無段変速機の効率は概ね90%程度と常時噛み合いによる減速機構に比べて効率が低い。変速比を広範囲で変更する場合には、ある程度のギヤ比幅((最低の減速比)/(最高の減速比):以下、レシオカバレッジと記載する。)が必要となるが、無段変速機の場合、レシオカバレッジが5以上になると、効率が更に悪化する。また、レシオカバレッジを小さくすると効率は高まるものの電動機が大型化するため、いずれであっても車両搭載性の悪化を招く。
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、高効率でコンパクトな電動駆動ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、電動機と無段変速機構とを接続したユニットを構成し、無段変速機構の変速比を所定の変速比とした場合に、要求トルクに応じて決まる第2の要求トルクが電動機の所定の範囲内の時は無段変速機構の変速比を所定の変速比に固定するとともに、電動機が第2の要求トルクを達成するよう制御し、所定の範囲外のときは、無段変速機構の変速比を変更するとともに、電動機を制御して要求トルクを達成することとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、高効率でコンパクトな電動駆動ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の電動駆動ユニットを搭載した電気自動車の構成を表す概略図である。
【図2】実施例1の電動駆動ユニットの特定要素のみを表現した斜視図である。
【図3】実施例1の駆動力制御処理を表すフローチャートである。
【図4】実施例1の要求トルクマップである。
【図5】実施例1の電動機回転数と電動機トルク及びインバータ出力電圧の関係を表すマップである。
【図6】比較例1,2及び実施例1の体格及び効率の関係を表す概略図である。
【図7】実施例2のKRGの寸法関係を表す概略図である。
【図8】実施例3の電動駆動ユニットを搭載したハイブリッド自動車の構成を表す概略図である。
【図9】実施例4の電動駆動ユニットを搭載したハイブリッド自動車の構成を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0008】
図1は実施例1の電動駆動ユニットを搭載した電気自動車の構成を表す概略図である。実施例1の電動駆動ユニットは、ハウジング1内に収装された電動機2と、コーンリング型無段変速機(以下、KRGと記載する。)4と、を有する。KRG4の出力軸48から出力された駆動力は、出力ギヤ49と噛み合うデファレンシャル機構5を介して駆動輪6に伝達される。また、電動駆動ユニットには、走行状態を制御するコントローラ100と、電源であるバッテリ300と、電動機2に駆動電流を出力するインバータ200とを有する。尚、説明の都合上、図1の紙面左右方向であって右から左に向かう方向をx軸正方向、図1の紙面上下方向であって下から上に向かう方向をy軸正方向、図1の紙面垂直方向であって裏から表に向かう方向をz軸正方向と定義する。
【0009】
コントローラ100には、運転者のアクセルペダル操作量APOを検出するAPOセンサ101のAPO信号と、車速VSPを検出する車速センサ102の車速信号が入力され、この入力されたセンサ信号に基づいて電動機2の駆動状態を制御する電動機制御手段と、KRG4の変速状態を制御する変速機構制御手段、そして、KRG4の変速比を1に固定した状態で電動機2が定格範囲内で要求されるトルクと回転数を出力可能か否かを判断する判断手段とを有する。尚、制御の詳細については後述する。
【0010】
電動機2は、コイルが巻回されハウジング1内周に固定されたステータ2aと、永久磁石が複数埋設されたロータ2bと、ロータ2bに接続された電動機出力軸2cと、を有する。この電動機2は、定格範囲内においてトルクと回転数の組み合わせを自由に達成できる定トルクモータである。定格範囲とは、電動機2を安定して連続運転可能な出力限界範囲をいう。図5は実施例1の電動機回転数と電動機トルク及びインバータ出力電圧の関係を表すマップである。実施例1の電動機2は、図5の斜線領域に示すように、定格トルクTmax=100Nm、定格回転数Nmax=10000rpmで規定される領域が定格範囲で駆動され、定格トルクTmaxの状態で定格回転数Nmaxで電動機2を回転させると、電動機2は定格出力を出力する。この出力まで自由に出力状態を制御しうる。インバータ200の最大出力(最大電圧)はTmax、かつNmaxの状態のときに出力され、これ以下の出力範囲内で制御される。言い換えると、インバータ200は100Nm,10000rpmの出力電圧に対応する構成でよく、出力軸トルクに要求されるトルクや回転数に対応する容量よりも小さな容量の構成でよい。
【0011】
KRG4は、電動機出力軸2cに接続されると共に同軸上に軸支され、このx軸方向の軸線に対し所定の傾斜角(以下、コーン角と記載する。図7参照)の円錐形状外周面を有するインプットコーン43と、インプットコーン43の軸線と平行なx軸方向の軸線上に配置され、インプットコーン43と同一のコーン角の円錐形状外周面を有するアウトプットコーン44と、を有する。尚、インプットコーン43の最大半径(もしくは最小半径)とアウトプットコーン44の最大半径(もしくは最小半径)とは、コーン角が同じであれば、同一でも異なるものであっても自由に組み合わせることができる。
【0012】
アウトプットコーン44の内部には、ローディング機構50が内蔵されている。ローディング機構50は、アウトプットコーン44と一体に回転し軸方向端面にカム面を有するコーン側カム部材45と、出力軸48と一体に回転し軸方向端面にカム面を有する出力軸側カム部材47と、コーン側カム部材45と出力軸側カム部材47との間に初期付勢力を付与するスプリング46とを有する。両カム面の間にはボールが配置され、両部材の相対回動量に応じてx軸方向に伸びようとする力、すなわちローディング力が発生する。
【0013】
インプットコーン43とアウトプットコーン44との間には、円環状であって円環内周面側とインプットコーン43とが接触し、円環外周面とアウトプットコーン44とが接触する変速リング42が配置されている。変速リング42は変速アクチュエータ41により円環に沿って回転自在に支持されている。変速アクチュエータ41は、変速リング42を円環状の複数箇所において摺動自在に支持し、変速リング42の法線ベクトルを規定する支持部材41dを有する。また、支持部材41dは移動軸41cに沿って移動可能に構成されている。この移動軸41cは、インプットコーン43の中心軸とアウトプットコーン44の中心軸を含む平面内において、コーン角方向(以下、変速方向と記載する。)と平行に延在されている。また、変速方向及びz軸方向の両方に垂直な回動軸方向を中心として移動軸41cを回動させる回動部材41bと、回動部材41bの回動位置を制御する回動アクチュエータ41aと、を有する。
【0014】
図2は実施例1の電動駆動ユニットの特定要素のみを表現した斜視図である。変速リング42は、変速比が一定の場合、変速リング42の法線ベクトルのz軸方向成分は0であり、変速方向と平行な所定のx軸方向成分とy軸方向成分とを有する。インプットコーン43が回転すると、インプットコーン43表面と変速リング42内周面との間の摩擦伝達によって変速リング42を駆動する。このとき、変速リング42円環外周面とアウトプットコーン44表面の間の摩擦伝達によってアウトプットコーン44を駆動する。このように、変速比は、変速リング42の位置がx軸正方向側であるほどLow側となり、x軸負方向側であるほどHigh側となる。実施例1のKRG4は、コーン43,44のx軸方向略中間部分において変速比が1となるように設定されている。x軸方向中間部分はKRG4のトルク伝達効率が最も高まる位置である。
【0015】
また、出力軸48のトルクが増大すると、出力軸48からx軸負方向側にアウトプットコーン44を押し付ける力が作用し、変速リング42がインプットコーン43との間に押し付けられる。このように、トルクに応じてインプットコーン43と変速リング42とアウトプットコーン44との間のローディング力が設定されるため、滑りを抑制した効率的な摩擦伝達が行われる。
【0016】
変速指令が出力されると、回動アクチュエータ41aによって回動部材41bが回動軸を中心に所定量回動される。すると、変速リング42と両コーン43,44との接触部分に大きな速度差が生じ、この速度差によって変速リング42を変速方向に移動させる力が作用する。この移動量によってx軸方向位置が変更され、変速比を無段階に変更する。変速終了時には回動アクチュエータ41aを回動させて変速リングの法線ベクトルのz方向成分が0となるように制御して変速を終了する。
【0017】
(駆動力制御について)
次に、コントローラ100内で実行される駆動力制御内容について説明する。図3は実施例1の駆動力制御処理を表すフローチャートである。尚、初期状態において、KRG4の変速比は1に設定されている。
ステップS1では、要求トルクFdを算出する。図4は実施例1の要求トルクマップである。要求トルクFdは運転者のアクセルペダル開度APOに応じて設定された複数の特性(連続的に設定してもよい)から構成され、現在の車速VSPとアクセルペダル開度APOから要求トルクFdを決定する。
【0018】
ステップS2では、コントローラ100内の判断手段が、KRG4の変速比が1と仮定して、車速VSPに対応する電動機回転数Nd及び電動機要求トルクTdを算出し、(Nd,Td)が定格範囲内か否かを算出する。実施例1の場合、Ndが10000rpm以下か否か、Tdが100Nm以下か否かを判断する。そして、定格範囲内のときはステップS3へ進み、それ以外のときはステップS4に進む。
【0019】
ステップS3では、電動機目標制御量Fmとして(Nd,Td)を設定すると共に、KRG4の目標変速比G*=1に設定する。そして、ステップS11において電動機2が目標制御量となるように電動機制御手段が電動機2の制御を実行し、ステップS12においてKRG4の変速比制御を実行する。
【0020】
ステップS4では、判断手段が電動機回転数Ndが最大回転数Nmaxよりも大きいか否かを判断し、大きいときは図5の定格範囲外のA領域にあると判断してステップS5に進み、それ以外のとき、すなわち電動機要求トルクTdが大きく、図5の定格範囲外のB領域にあるときはステップS8に進む。ちなみに、定格範囲と、A領域と、B領域以外の領域の要求はインバータ200の出力限界特性から基本的に達成できないことは言うまでもない。
【0021】
ステップS5では、(Nd,Td)の等出力線とNmaxが交差するポイントにおける電動機トルクTmを検索する。尚、電動機トルクTmは、電動機要求トルクTdよりも高い値になることは言うまでもない。
ステップS6では、電動機目標制御量Fmとして(Nmax,Tm)を設定する。
ステップS7では、目標変速比G*=(Nmax/Nd)に設定する。
【0022】
ステップS8では、(Nd,Td)の等出力線とTmaxが交差するポイントにおける電動機回転数Nmを検索する。尚、電動機回転数Nmは、電動機要求回転数Ndよりも高い値になることは言うまでもない。
ステップS9では、電動機目標制御量Fmとして(Nm,Tmax)を設定する。
ステップS10では、目標変速比G*=(Nm/Nd)に設定する。
【0023】
ステップS11では、設定された電動機目標制御量Fmに基づいて電動機2が目標制御量となるように制御を実行する。
ステップS12では、設定された目標変速比G*に基づいて、変速制御手段がKRG4の変速比制御を実行する。
【0024】
次に作用について説明する。一般の車両(例えば1tから1.5tクラス)に要求される動力性能に関し、変速機を備えることなく電動機のみで達成しようとすると、極めて高出力な電動機を搭載する必要がある。これは、電動機自体の大型化、インバータの大型化を招き、車両搭載は困難である。次に、変速機を搭載すれば変速機自体の構成は増えるものの、電動機の小型化及びインバータの小型化を図ることができ、車両搭載性は向上する。ここで、二つの選択肢を検討しうる。一つは、電動機の構成を中型とし、無段変速機が狭いレシオカバレッジを持つ構成とするもの、これを以下、比較例1と記載する。もう一つは、電動機の構成を小さくし、無段変速機が広いレシオカバレッジを持つ構成とするもの、これを以下、比較例2と記載する。
【0025】
図6は、比較例1,2及び実施例1の体格及び効率の関係を表す概略図である。左側の縦軸は電動駆動ユニットの動力伝達効率を、右側の縦軸は電動駆動ユニットの体格(占有容積)の逆数を表す。体格の逆数が大きいほど搭載性がよく、体格の逆数が小さいほど搭載性が悪化する。無段変速機の一般的な特性として、レシオカバレッジを大きくすると、効率が低下するという特性がある。実施例1のKRG4の場合、レシオカバレッジを広げるには軸方向寸法を長くする、もしくはコーン角を大きくすることが考えられるが、いずれも効率の低下を招く(図7参照)。また、電動機の出力範囲を広げるには、電動機自身の体格の増大に加え、インバータの体格が増大する。
【0026】
比較例1の場合、無段変速機のレシオカバレッジが小さいため、効率は高いが変速比が小さい分を補うために電動機及びインバータの体格を大きくしなければならず、体格が非常に大きくなる。比較例2の場合、無段変速機のレシオカバレッジが大きいため、電動機及びインバータの体格は小さくなるが、無段変速機の体格を大きくしなければならない。また、レシオカバレッジを広くすると伝達効率も低下することから、この低下分を補うためには電動機及びインバータを大きめにする必要がある。
【0027】
これに対し、実施例1では、電動機2の定格範囲ではKRG4の変速比を最も効率の高い「1」に固定、言い換えると定格範囲では変速せず一定変速比とし、定格範囲を超えた要求があった場合のみ増速や減速を行う。よって、無段変速機のレシオカバレッジを狭くすることができ、伝達効率の低下を抑制することができる。また、伝達効率の低下が低いため、電動機2が低下分を補う必要が無く、電動機及びインバータ自体の体格の大型化を抑制することができるものである。
【0028】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)電動機2と、電動機2に電力を供給するインバータ200と、電動機2と駆動対象である駆動輪6との間に配置された無段変速機構であるKRG4と、インバータ200を制御して電動機2を定格範囲内(所定のトルク範囲内かつ所定の回転数の範囲内)で制御する電動機制御手段(ステップS11)と、KRG4の変速比を制御する変速制御手段(ステップS12)とを備え、KRG4の変速比を所定の変速比(=1)とした場合に決まる第2の要求トルク(電動機要求トルクTd)が電動機2の定格範囲内であり、且つ、駆動対象の回転数に応じて決まる第2の回転数(電動機回転数Nd)が電動機2の定格範囲内であるか否かを判断する判断手段(ステップS2)を有し、判断手段が定格範囲内にあると判断した場合には、変速制御手段がKRG4の変速比を所定の一定変速比(=1)に固定するとともに、電動機制御手段が第2の要求トルク(電動機要求トルクTd)を達成するように電動機2を制御し、判断手段が定格範囲外であると判断した場合には、変速制御手段がKRG4の変速比を変更するとともに、電動機制御手段が電動機2を制御して要求トルクFdを達成することとした。よって、電動駆動ユニットの小型化を図ることができる。
【0029】
(2)ステップS2,S4,S5,S6,S11及びS12(電動機制御手段)は、駆動対象の回転数を所定の一定変速比(=1)で換算した電動機回転数Ndが定格範囲外のときは、電動機回転数を最大回転数Nmaxとし、要求トルクFdの属する等出力線上であって最大回転数Nmaxに対応する電動機トルクTmに制御し、ステップS7,S12(変速制御手段)は、最大回転数Nmaxを増速して駆動対象の回転数を達成する、言い換えると、目標変速比G*=(Nmax/Nd)に制御する。これにより、変速比の変化量を最小とすることができ、駆動効率の低下を抑制することができる。
【0030】
(3)ステップS2,S4,S8,S9,S11及びS12(電動機制御手段)は、要求トルクFdが定格範囲外のときは、電動機トルクを最大トルクTmaxとし、要求トルクFdの属する等出力線上であって最大トルクTmaxに対応する電動機回転数Nmに制御し、ステップS10,S12(変速制御手段)は、最大トルクTmaxに対応する電動機回転数Nmを減速して駆動対象の回転数を達成する、言い換えると、目標変速比G*=(Nm/Nd)に制御する。これにより、変速比の変化量を最小とすることができ、駆動効率の低下を抑制することができる。
【実施例2】
【0031】
次に実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。実施例1では、KRG4のレシオカバレッジを小さくするにあたり、軸方向寸法を短くして効率を上げつつ小型化した。言い換えると、伝達効率の低下する領域を使用しない構成とした。これに対し、実施例2では、軸方向寸法の短縮ではなく、コーン角を小さくすることで高効率化を達成し、電動機2及びインバータ200の小型化を図るものである。
【0032】
尚、KRG4が変速によって生じる増減速に伴う負荷が小さいため、ローディング力を抑制することもできる。この場合、ローディングカムのカム面の傾斜を大きくすることができ、それに伴って更なる伝達効率の向上が見込める。
【0033】
図7は実施例2のKRGの寸法関係を表す概略図である。図7に示すように、インプットコーン43にあっては最小半径a1と最大半径a2及び軸方向長さLによって形状が規定され、アウトプットコーン44にあっては最小半径b1と最大半径b2及び軸方向長さLによって形状が規定される。ここで、(a2−a1)/L=(b2−b1)/L=tanαとなる(α=コーン角)。各コーンを互いに近接するように軸方向に押し付けあう力、すなわちローディング力Fと、伝達可能トルクに相関のある垂直抗力N(摩擦力はN×摩擦係数μで表される。)との関係は、N=F/sinαと表される。短い軸方向長さLで必要なレシオカバレッジを確保するには、コーン角αを大きくする必要がある。しかし、コーン角αが大きいと、変速リング42内での回転数差が大きくなり、スピンロスを招くことから伝達効率が下がる。そこで、実施例2では、軸方向寸法の短縮化より、コーン角αを小さくすることで伝達効率の低下を抑制できる。
【実施例3】
【0034】
次に実施例3について説明する。図8は実施例3の電動駆動ユニットを搭載した電気自動車の構成を表す概略図である。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。実施例2では、実施例1の構成に加え、アウトプットコーン44と出力軸48との間に減速機60を備えたものである。アウトプットコーン44の端部にはサンギヤ61が形成され、ハウジング1にはリングギヤ63が固定され、サンギヤ61とリングギヤ63との両ギヤに噛み合うピニオンを支持するピニオンキャリヤ62が備えられ、ピニオンキャリヤ62と出力軸48とが接続されている。これにより、インプットコーン43とアウトプットコーン44によって減速された回転を更に減速して出力軸48に伝達できるため、終減速比に制限があったとしても、より大きな減速比を得ることができる。また、小さな外形で大きな減速比が得られ、アウトプットコーン44と同軸上に配置することで、車両搭載性を向上することができる。
【実施例4】
【0035】
次に実施例4について説明する。図9は実施例4の電動駆動ユニットを搭載したハイブリッド自動車の構成を表す概略図である。実施例1,2はいずれも電動機のみを駆動源として走行する電気自動車を示した。これに対し、実施例4はエンジンENGを備えたハイブリッド車両である点が異なる。エンジンENGは、電動機2とクラッチ70を介して断接可能に接続されている。コントローラ100は、走行状態に基づいてエンジンENGの作動状態、クラッチ70の断接状態を制御し、最適な効率で走行するよう設定される。尚、エンジンENGは一方方向にのみ回転可能であるため、電動機2とKRG4との間には前後進切換機構3が設けられている。この前後進切換機構3は遊星歯車機構と前進クラッチ及び後進ブレーキから構成された周知のものであるため、説明を省略する。
このように構成されたハイブリッド自動車において、電動機2のみの駆動力で走行するEVモード走行の場合には、実施例1と同様の制御を行うことにより、KRG4の変速比の変化量を小さくして、駆動効率の低下を抑制することができる。
【0036】
以上、実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限られず、適宜他の構成を取ることができる。例えば、実施例1ではコーンリング型無段変速機を採用した例を示したが、ベルト式無段変速機や、トロイダル式無段変速機を適用してもよい。尚、コーンリング型無段変速機は部品点数が少なく、オイルポンプ等を必要としないため、コスト的に非常に有利である。
また、車両駆動装置に適用した例を示したが、車両に限らず、電動機を駆動源として作動する要素に対しても同様に適用可能である。
また、実施例1では定格範囲内で固定する変速比を最も効率が高い「1」に設定したが、インプットコーンとアウトプットコーンの半径比を考慮して、機械的構成に最もバランスよく負荷が作用する変速比がある場合には、「1」に限らず、他の最も効率が高い変速比に固定すればよい。ただし、A領域やB領域に対応する必要があることから、固定される変速比の両側にある程度の変速レンジを確保できる位置を選択すべき点に留意する。
また、実施例1では、固定する変速比を「1」に設定したため、車両として要求される要求トルクと電動機2のトルクをそのまま比較したが、変速比が「1」以外で固定される場合には、変速比に応じて定格の範囲内であるか否かを判定する必要がある。
また、実施例1では、定格回転数内で、且つ、定格トルク内での運転が、電動機2の効率が高いため、この領域内で運転する場合に、変速比を固定する制御を行ったが、定格トルクや定格回転数より大きい側でも効率が良い運転領域がある場合には、定格値より大きい値を境界として領域を設定することもできる。逆に、定格トルクや定格回転数であっても、電動機の効率が変速比を変化させる効率より落ちる場合には、定格値より小さい値を境界として領域を設定するようにしてもよい。
また、実施例1では、所定の変速比が1であるため、要求トルクFdが電動機2の定格トルクの範囲内であるか否かを判断したが、所定の変速比が1以外の場合には、その変速比(他の減速機構も含めた変速比)に応じて、要求トルクFdが第2の要求トルクに変換され、判断手段は、この変換された第2の要求トルクが定格範囲内にあるか否かを判断することとなる。
【符号の説明】
【0037】
1 ハウジング
2 電動機
3 前後進切換機構
4 コーンリング型無段変速機
5 デファレンシャル機構
6 駆動輪(駆動対象)
41 変速アクチュエータ
41a 回動アクチュエータ
41b 回動部材
41c 移動軸
41d 支持部材
42 変速リング
43 インプットコーン
44 アウトプットコーン
50 ローディング機構
60 減速機
100 コントローラ
200 インバータ
300 バッテリ
ENG エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
電源から供給される電力を該電動機に供給するインバータと、
前記電動機と駆動対象との間に配置された無段変速機構と、
前記インバータを制御して、前記電動機を制御する電動機制御手段と、
前記無段変速機構の変速比を制御する変速制御手段とを備え、
前記電動機制御手段が前記電動機を、前記変速制御手段が前記無段変速機構をそれぞれ制御して要求トルクを達成する電動駆動ユニットにおいて、
前記無段変速機構の変速比を所定の変速比とした場合、前記要求トルクに応じて決まる第2の要求トルクが前記電動機の所定のトルクの範囲内であり、且つ、前記駆動対象の回転数に応じて決まる第2の回転数が前記電動機の所定の回転数の範囲内であるか否かを判断する判断手段を有し、
前記判断手段が前記範囲内であると判断した場合には、前記変速制御手段が前記無段変速機構の変速比を前記所定の変速比に固定するとともに、前記電動機制御手段が前記第2の要求トルクを達成するよう前記電動機を制御し、
前記判断手段が前記範囲外であると判断した場合には、前記変速制御手段が前記無段変速機構の変速比を変更するとともに、前記電動機制御手段が前記電動機を制御して前記要求トルクを達成することを特徴とする電動駆動ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の電動駆動ユニットにおいて、
前記電動機制御手段は、前記無段変速機構の変速比を所定の変速比とした場合に、前記駆動対象の回転数に応じて決まる前記電動機の回転数が前記範囲外のときは、前記電動機の回転数を前記所定の回転数に制御し、前記第2の要求トルクの属する等出力線上であって前記所定の回転数に対応するトルクに前記電動機を制御し、
前記変速制御手段は、前記所定の回転数を増速して前記駆動対象の回転数を達成する変速比に前記無段変速機構を制御することを特徴とする電動駆動ユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動駆動ユニットにおいて、
前記電動機制御手段は、前記無段変速機構の変速比を所定の変速比とした場合に、前記要求トルクに応じて決まる前記電動機の要求トルクが前記範囲外のときは、前記電動機のトルクを前記所定のトルクに制御し、前記第2の要求トルクの属する等出力線上であって前記所定のトルクに対応する回転数に前記電動機を制御し、
前記変速制御手段は、前記電動機の回転数を減速して前記要求トルクを達成する変速比に前記無段変速機構を制御することを特徴とする電動駆動ユニット。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか一つに記載の電動駆動ユニットにおいて、
前記所定の変速比は、前記無段変速機の伝達効率が最も高くなる変速比であることを特徴とする電動駆動ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−73573(P2011−73573A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227099(P2009−227099)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】