説明

駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ

【課題】ブレーキディスクやブレーキパッドの熱膨縮が生じても安定した駐車ブレーキの制動力を確保して車両の実質的な静止状態の維持ができる駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキを提供する。
【解決手段】駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ100は、常用ブレーキを使用して走行中の車両を制動停止させた場合、ブレーキパッド14はディスクロータ18に押圧されて発熱して膨張する。この状態でPKBを動作させると、ディスクロータ18やブレーキパッド14が冷えて収縮した場合、押圧力が低下する場合がある。そこで、駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ100は収縮が生じる場合、形状変形部材78aまたは形状変形部材78bを形状変形させてブレーキパッド14の裏金14bに対し押圧力を追加付与して制動力の低下を回避させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ、特に駐車ブレーキ使用時の制動力の維持性能を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に備えられたブレーキ装置の一つとして、ディスクブレーキがある。このディスクブレーキは、主として走行中の車両を制動するための制動力を発生させる常用ブレーキと、主として駐車中の車両の静止状態を維持するための制動力を発生させる駐車ブレーキがある。ディスクブレーキは、キャリパの内側にディスクロータを挟んだ状態で一対のブレーキパッドが配設されている。ブレーキパッドはブレーキシリンダに対してブレーキフルードが供給されたときにディスクロータに向かって押圧させる制動力を発生する。常用ブレーキは、運転者のブレーキペダルの操作や車両の走行を安定化させるための制御装置からの指令によりブレーキフルードの供排が制御され主として走行中の制動力を発生させる。一方、駐車ブレーキ(以下、PKBという場合もある)の使用時には、運転者がPKBハンドルやPKBペダルなどのPKB操作部材を操作することによりPKBワイヤを巻き上げて機械的にブレーキシリンダを駆動してブレーキパッドをブレーキロータに押圧して、主として駐車中の制動力を発生させる。
【0003】
ところで、車両に備えられたブレーキ装置においては、運転者のブレーキ操作の負担を軽減させる技術や、発生する制動力にばらつきが生じする場合の対策技術が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−198080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
常用ブレーキは、高速回転しているディスクロータにブレーキパッドを押圧して制動力を発生させるので制動時に摩擦熱が発生し、ディスクロータやブレーキパッドは高温になる。その結果、ディスクロータやブレーキパッドは熱膨張し、車両停車後もその状態はしばらくの間継続する。このとき膨張現象は主としてブレーキパッドがディスクロータを挟持する方向である厚み方向に生じる。運転者が通常駐車する場合、常用ブレーキを用いて車両を停車させた後直ちに駐車ブレーキを操作する。つまり、熱膨張した状態のブレーキロータを膨張した状態のブレーキパッドで押圧することになる。そして、時間の経過と共にブレーキロータやブレーキパッドは冷えて収縮して元の厚みに戻る。このとき、ブレーキロータに対するブレーキパッドの位置は熱膨張しているときと同じなので、押圧力が低下して制動力が当初予定していた値より低下する場合がある。たとえば特許文献1に記載された技術は、制動力が低下して車両が動き出したことを検出した場合にブレーキ液圧を増加させるので、発生した現象に対する後追い対策になる。その結果、車両利用者の中には違和感を抱く者もある。また、車両駐車中で無人であるにも拘わらず液圧ポンプが駆動する。つまり、無人の車両から液圧ポンプの動作音が聞こえ、周囲に対して違和感を与えてしまう場合がある。また、駐車中に油圧回路のバルブが動作し続けることになるので、通常より長い寿命のバルブを用いる必要が生じたり電力を消費し続けるなど問題が生じる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブレーキディスクやブレーキパッドの熱膨縮が生じても安定した駐車ブレーキの制動力を確保して車両の実質的な静止状態の維持ができる駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキは、車輪とともに回転するディスクロータと、前記ディスクロータの摩擦摺動面に押圧されて前記ディスクロータを制動させるブレーキパッドと、常用ブレーキと駐車ブレーキの少なくとも一方の作動時に前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに向かって移動させて前記ディスクロータを押圧する押圧手段と、前記駐車ブレーキの作動時に前記ディスクロータと前記ブレーキパッドの少なくとも一方の膨縮変化に応じて変化した前記ディスクロータとブレーキパッド間の押圧状態を検出する状態検出手段と、検出された前記押圧状態が所定状態を満たさない場合に前記押圧手段に圧力を追加付与する圧力追加手段と、を含むことを特徴とする。
【0007】
常用ブレーキを動作させた場合、制動操作開始時の速度によるがブレーキロータやブレーキパッドは数百℃に達することがある。そのためブレーキロータやブレーキパッドは熱膨張し、その膨張状態はしばらく継続される。この状態で駐車ブレーキを動作させた場合、膨張した状態でブレーキロータとブレーキパッドとの押圧が行われ、駐車時の制動力が確保される。そして、時間の経過と共にブレーキロータやブレーキパッドの温度が下がり収縮が生じるとブレーキロータとブレーキパッドとの押圧状態が緩み、駐車時の制動力は低下する方向に変化しようとする。そこで、状態検出手段は駐車ブレーキの動作中の押圧状態を検出し、押圧状態に変化が生じて所定状態を満たさなくなると直ちに、圧力追加手段を制御し押圧手段により圧力の追加付与が行われるように制御する。
【0008】
この態様によれば、ディスクロータやブレーキパッドの膨縮変化に伴う駐車ブレーキの制動力の変化を迅速に検出し押圧状態が所定状態になるように維持し、制動力の低下が実質的に生じないようにすることができる。その結果、運転者に駐車時の制動力の変化を意識させることなく違和感を与えることがない。
【0009】
また、上記態様において、前記圧力追加手段は、外部からの入力信号により形状操作可能な形状変形部材の発生する圧力により前記押圧手段に圧力を追加付与してもよい。形状変形部材は、バイメタルや磁歪素子などを利用することがでる。形状変形部材を変形させて追加圧力を得る場合、液圧ポンプなどのように駆動音が発生することがないので、制御時に周囲に違和感を与えることなく駐車ブレーキの制動力維持ができる。また、消費電力も少ない。
【0010】
また、上記態様において、前記形状変形部材は、前記ディスクロータの回転中心を挟み前記ディスクロータの回転方向の入口側と出口側に配置され、前記圧力追加手段は前記ディスクロータの回転方向に応じて入口側となる形状変形部材を形状変形させるようにしてもよい。例えば、車両が坂路で駐車していた場合、ディスクロータやブレーキパッドの収縮現象が生じるとディスクロータが坂路下り方向に回転する力を受ける。圧力追加手段がディスクロータが回転しようとする回転方向の入口側に配置された形状変形部材を形状変形させると、ブレーキパッドが回転方向に巻き込まれるような姿勢になる。つまり、ブレーキパッドがディスクロータが坂路下り方向に回転する方向の力により斜めにディスクロータを押圧する力、すなわち自己サーボ力が生じる。その結果、大きな制動力を僅かな形状変形部材の変形で容易に発生させることができる。なお、この場合、ディスクロータやブレーキパッドの収縮現象と共に自己サーボ力を伴う圧力追加が実行されて制動力の増加が可能になるので、ディスクロータの実質的な回転はないものと見なせる。
【0011】
また、上記態様において、前記状態検出手段は、前記ディスクロータの厚みを検出する厚み検出手段を含んで構成されてもよい。ディスクロータは常用ブレーキを使用するたびに摩耗し厚みが薄くなる。したがって、状態検出手段は、厚み検出手段で常用ブレーキが使用される前の冷えた状態のディスクロータの厚みに関する情報と常用ブレーキが使用された後の発熱した状態の厚みに関する情報との比較を行い、ディスクロータの厚み変化に関する情報を求め押圧状態を検出する。この態様によれば、ディスクロータの摩耗状態に左右されることなく、押圧状態の変化を取得できて圧力追加手段による適切な圧力の追加付与ができる。
【0012】
また、上記態様において、前記状態検出手段は、前記ディスクロータまたは前記ブレーキパッドの少なくとも一方の温度を検出する温度検出手段を含んで構成されてもよい。ディスクロータやブレーキパッドは常用ブレーキを使用するたびに摩耗し厚みが薄くなる。したがって、状態検出手段は温度検出手段で常用ブレーキが使用される前の冷えた状態のディスクロータの温度と常用ブレーキが使用された後の発熱した状態の温度との比較を行い、ディスクロータの温度変化に基づく膨張量または収縮量を検出して押圧状態を検出する。この態様によれば、ディスクロータの摩耗状態に左右されることなく、押圧状態の変化を取得できて圧力追加手段による適切な圧力の追加付与ができる。
【0013】
また、上記態様において、前記状態検出手段は、前記ディスクロータと前記ブレーキパッドの間の面圧を検出する圧力検出手段を含んで構成されてもよい。ディスクロータとブレーキパッドとの間の面圧を測定することにより摩耗状態に左右されることなく、追加すべき押圧力の値を取得することができる。なお、ディスクロータやブレーキパッドは常用ブレーキの使用により摩耗するため、面圧検出手段はディスクロータまたはブレーキパッドのいずれか一方の内部に埋め込み配置されることが望ましい。この場合、接触面の面圧は推定値となる。
【0014】
また、上記態様において、前記圧力追加手段は、前記状態検出手段が前記押圧状態が所定状態を満たさない旨を検出した場合、駐車ブレーキの操作力を増加する旨を車両搭乗者に通知する通知手段を含んで構成されてもよい。この態様によれば、ディスクロータやブレーキパッドの膨縮により制動力が低下することが予想される場合、車両駐車時に予め制動力が通常より多めになるように駐車ブレーキを操作させることができるので、駐車中の制動力の必要値を維持できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキによれば、常用ブレーキの使用によりブレーキディスクやブレーキパッドの熱膨縮が生じても安定した駐車ブレーキの制動力を確保して運転者は周囲に違和感を与えることなく車両の実質的な静止状態の維持ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0017】
本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキは、駐車ブレーキ動作時の制動力の安定化ができる。駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキにおいて、常用ブレーキを使用して走行中の車両を制動停止させた場合、ブレーキパッドはディスクロータに押圧されて両者は発熱して膨張する。この状態で駐車ブレーキを動作させると、ディスクロータやブレーキパッドが冷えて収縮した場合、押圧力が低下する場合がある。本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキは、この押圧状態の変化を検出または推定して押圧力を追加付与して制動力の低下を回避する。
【0018】
図1は、本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ100を構成する浮動型のキャリパ10を上方から見た場合の一部破断部分を含む上面図である。本実施形態のキャリパ10は、大別してキャリパ10自身を図示しない車体側に固定するための支持部材として機能するマウンティング12と、ディスクロータに押圧され制動力を発生するブレーキパッド14、15と、ブレーキパッド14を駆動するシリンダ部16とを含んで構成されている。キャリパ10は、シリンダ部16の内部にピストン20を有する。また、キャリパ10はシリンダ部16から伸び出してディスクロータ18を間に挟んでピストン20と対向する爪部22とを有している。爪部22は、アウタ側のブレーキパッド15を押圧駆動する。シリンダ部16と爪部22との間には、車輪と同軸で車輪と共に回転するディスクロータ18を挟んで、ブレーキパッド14、15が対向して配設されている。ブレーキパッド14、15のディスクロータ18に対向する側には、それぞれ摩擦材14a、15aが固定され、ブレーキパッド14、15のディスクロータ18に対向していない側には、それぞれ裏金14b、15bが貼着されている。ディスクロータ18のインナ側の裏金14bおよびディスクロータ18のアウタ側の裏金15bは、マウンティング12によりディスクロータ18の軸方向に摺動可能に支持されている。
【0019】
ディスクロータ18のインナ側の裏金14bの背部には、上述したシリンダ部16のピストン20が配設されている。ピストン20が作動してインナ側の裏金14bを押すと、ブレーキパッド14がディスクロータ18のインナ側(図1に示す矢印S1方向)に押圧される。また、ディスクロータ18のアウタ側裏金14bの背部には、キャリパ10の爪部22が配置されている。この爪部22が移動してアウタ側の裏金15bを押すと、アウタ側のブレーキパッド15がディスクロータ18のアウタ側(図1に示す矢印S2方向)に押圧される。
【0020】
マウンティング12は、内部に互いに平行なガイド孔24が形成された一対のアーム部26を備えている。キャリパ10は、シリンダ部16からディスクロータ18の周方向に延在する一対のキャリパアーム28を備えている。このキャリパアーム28には、スライドピン30をキャリパアーム28にボルト締結するための、互いに平行なピンボルト孔32が形成されている。これにより、ディスクロータ18の軸方向に向けて、スライドピン30がそれぞれピンボルト34にて固定される。スライドピン30のガイド孔24に嵌挿される部分の長さは、ガイド孔24の深さよりも大きくされている。そして、スライドピン30は、ガイド孔24に所定の間隙を有して摺動自在に嵌挿される。これにより、キャリパ10は、スライドピン30とガイド孔24の摺動によりディスクロータ18の軸方向に摺動可能な状態でマウンティング12に支持される。
【0021】
スライドピン30の基部と、アーム部26のガイド孔24の開口端の間には、ゴム等の可撓性部材で作成された筒状のピンブーツ(ダストブーツともいう)36が取り付けられている。ガイド孔24の開口端部内周面には環状溝38が形成されており、この環状溝38内に、ピンブーツ36の一端の取付部40が固定されている。また、スライドピン30の基部の外周にも環状溝42が形成されており、この環状溝42内にピンブーツ36の他端の取付部44が嵌合されている。ガイド孔24側の取付部40とスライドピン30側の取付部44とを連結する蛇腹状の環状連結部46は、両取付部40、44に比して薄肉であり、スライドピン30の摺動変位に追従して伸縮するようになっている。この環状連結部46によって、スライドピン30とガイド孔24の摺動面が被覆され、摺動面に塵や埃等の異物が侵入するのを防止している。
【0022】
マウンティング12には、凹状のトルク受け部(不図示)が形成されている。また、裏金14bの両側面には突部が形成されている。この突部がマウンティング12に設けられたトルク受け部に嵌め合わされることで、ブレーキ制動中にブレーキパッド14がディスクロータ18に引き摺られた場合でも、ブレーキパッド14をディスクロータ18に対向する位置に留めておくことができる。なお、アウタ側の裏金15bも同様に突起を有し、マウンティング12の凹状のトルク受け部に嵌め合わされ同様に機能する。
【0023】
また、図1に示すように、シリンダ部16の穴51に配置されたピストン20の背面側には、ブレーキフルードを供給するフルード供給管52が接続され、制動要求時に高圧のブレーキフルードが供給される。ピストン20の先端には、ディスクロータ18の摩擦摺動面18aと略平行な押圧面20aが形成され、ブレーキフルードが供給されるとインナ側の裏金14bを押圧し矢印S1方向に移動させる。そして、裏金14bに固定された摩擦材14aがディスクロータ18の摩擦摺動面18aに押圧されると、ピストン20の摺動が停止する。ピストン20の摺動が停止した後も、ブレーキフルードが穴51に流入すれば、穴51内の液圧がさらに上昇する。そして、穴51内の液圧の上昇に伴い、シリンダ部16全体が矢印S2方向にスライドする。シリンダ部16の先端に形成された爪部22には、ディスクロータ18の摩擦摺動面18aと略平行な押圧面22aが形成され、アウタ側の裏金15bを押圧できるように構成されている。つまり、シリンダ部16が矢印S2方向へスライドすると、アウタ側の裏金15bを介して摩擦材15aをディスクロータ18の摩擦摺動面18aに押圧する。その結果、ディスクロータ18を一対の摩擦材14a、15aが押圧挟持する状態となり、ディスクロータ18を効率的に制動させることが可能となる。
【0024】
ところで、本実施形態のキャリパ10は、駐車ブレーキ(PKB)として動作する機能を有している。ディスクブレーキを常用ブレーキとして利用する場合、前述したようにフルード供給管52からブレーキフルードを供給してピストン20を駆動する。一方、ディスクブレーキをPKBとして利用する場合には、たとえば、PKBハンドルやPKBペダルを操作する。その結果、シリンダ部16の背面側に配置されたPKBユニット54に接続されたPKBワイヤ56が引かれてPKBユニット54内のカムが回転して、プッシュロッド58を前進させる。このプッシュロッド58の前進により、ピストン20を矢印S1方向に移動させ、ブレーキパッド14をディスクロータ18に押圧させる。また、シリンダ部16は、ピストン20がブレーキフルードにより駆動したときと同様に、矢印S2方向にスライドして、ブレーキパッド15がディスクロータ18に押圧される。その結果、ディスクロータ18をブレーキパッド14、15で挟持してディスクロータ18の静止状態を維持する静止力を発生する。このようなPKB一体型のキャリパをビルトインディスクブレーキという場合もある。
【0025】
前述したように、常用ブレーキを使用する場合、車輪と共に高速で回転するディスクロータ18に一対のブレーキパッド14を押圧することによって制動停止させている。その結果、常用ブレーキ使用時には、ブレーキパッド14やディスクロータ18には摩擦熱が発生し数百℃の高温になる場合があり、ブレーキパッド14やディスクロータ18は熱膨張する。通常、運転者はPKBを使用する場合、常用ブレーキの使用後直ちに操作する。つまり、熱膨張した状態のブレーキパッド14やディスクロータ18が押圧状態に制御され駐車時の制動力を発生させている。しかし、駐車状態のブレーキパッド14やディスクロータ18は時間の経過と共に冷えて周囲温度へ近づく。その結果、ブレーキパッド14やディスクロータ18は膨張状態から収縮し周囲温度に応じた厚みに戻る。このとき、PKBワイヤ56の操作量は変化しないので、プッシュロッド58を介した押圧面20aの位置は変化しないので、ディスクロータ18を押圧することにより発生している制動力は低下する。ブレーキパッド14やディスクロータ18の熱膨縮量は通常数十μmなので駐車車両が動き出すことは無いが当初期待している駐車時の制動力が駐車中に変化することになり現象的には好ましくない。そこで、本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ100では、このような状況のときに駐車時の制動力を所定の制動力に維持するような制御を行う。
【0026】
図2は、本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ100のPKBの制御を行うPKBECU70を中心として機能ブロック図である。PKBECU70は、状態検出手段として機能する押圧状態取得部72と圧力追加手段として機能する押圧追加制御部74を含む。押圧状態取得部72は厚み検出手段として機能する距離センサ76等により検出される測定値に基づきディスクロータ18に対するブレーキパッド14の押圧状態を取得する。距離センサ76は、図1に示すように摩擦材14aを支持する裏金14bにディスクロータ18と対面するように配置される。距離センサ76はレーザや渦電流を用いたセンサで構成することができる。距離センサ76は熱膨張時のディスクロータ18とブレーキパッド14間の距離と冷えはじめてからの両者間の距離を測定する。押圧状態取得部72は冷えはじめてからの検出距離の変化を押圧状態(押圧力)の変化として取得する。押圧状態取得部72は、常用ブレーキの使用後にPKBが使用されたとき、つまりディスクロータ18が熱膨張しているときの検出距離Aを基準値とする。その後駐車中に冷えた場合、主としてディスクロータ18が膨張状態から収縮する。その結果、距離センサ76は収縮分だけ遠い位置に摩擦摺動面18aを検出する。つまり、押圧状態取得部72は検出距離A+αを取得する。この+αが押圧状態の変化量となる。したがって、押圧追加制御部74は変化量α分だけブレーキパッド14がディスクロータ18に向かって前進するように押圧力を追加する制御を行う。
【0027】
本実施形態の場合、図1に示すように、ブレーキパッド14に押圧力を追加するためにピストン20と裏金14bとの間に形状変形部材78(78a、78b)を配置している。形状変形部材78は、例えば温度制御により形状変形するバイメタルや磁場を与えることにより形状変形する磁歪素子などを用いることができる。形状変形部材78がバイメタルの場合、押圧追加制御部74はヒータ等で構成される第1アクチュエータ80a、第2アクチュエータ80bを制御して、バイメタルを湾曲させて裏金14b(ブレーキパッド14)を押圧する押圧力を発生させる。バイメタルの湾曲量は温度制御できるので、押圧追加制御部74は変化量αの大きさに応じて第1アクチュエータ80a、第2アクチュエータ80bを温度制御することにより所望の押圧力の追加制御ができる。なお、ブレーキパッド14とディスクロータ18の接触部分は常用ブレーキの使用時に数百℃になるが、形状変形部材78であるバイメタルが配置される裏金14bとピストン20の間の配置部分はそれほど高温にならない。したがって、形状変形部材78としてバイメタルを使用する場合、バイメタルの変形開始温度が前述した配置部分の平均的な温度を上回る温度であるような特性のものを選択することが望ましい。
【0028】
また、形状変形部材78が磁歪素子で構成される場合、第1アクチュエータ80a、第2アクチュエータ80bは磁界発生装置で構成することが可能であり、必要とされる形状変形部材78の変形量に応じた強さの磁界を発生させることになる。
【0029】
このように、形状変形部材78は、ヒータや磁界発生装置などを含む動作音を伴わないアクチュエータで動作可能であり、形状変形部材78の変形制御中に無人の車両から周囲に動作音を出してしまうなどの違和感を与えることがない。また、制御に使用する電力は極微量であり、電力消費の観点からも有利である。また、常用ブレーキの油圧回路のバルブを制御することなく押圧力の増加を行うので、油圧回路のバルブは従来通りの寿命のものが利用可能であり、部品コストの上昇を抑制できる。
【0030】
ところで、本実施形態の場合、形状変形部材78はディスクロータ18の回転中心を挟み当該ディスクロータ18の回転方向の入口側と出口側に配置されている。ここで、図1中矢印F方向に車両が進むようにディスクロータ18が回転しようとする場合、形状変形部材78aの配置された側が入口側となり、形状変形部材78bの配置された側が出口側となる。また、車両が逆方向に進むようにディスクロータ18が回転しようとする場合、形状変形部材78bの配置された側が入口側となり、形状変形部材78aの配置された側が出口側となる。例えば、車両が坂路でフロント側を坂下に向けて駐車していた場合、ディスクロータ18やブレーキパッド14の収縮現象が生じるとディスクロータ18が坂路下り方向に回転する力を受ける。このとき、形状変形部材78aのみを湾曲変形させて押圧力を発生させる。つまり、押圧追加制御部74がディスクロータ18が回転しようとする回転方向の入口側に配置された形状変形部材78aを形状変形させる。その結果、ブレーキパッド14が回転方向に巻き込まれるような姿勢になる。つまり、ブレーキパッド14がディスクロータ18が坂路下り方向に回転する方向の力により斜めにディスクロータ18を押圧する力、すなわち自己サーボ力が生じる。その結果、小さな追加押圧力でも大きな制動力を容易に発生させることができる。なお、この場合、ディスクロータ18やブレーキパッド14の収縮現象と共に自己サーボ力を伴う圧力追加が行われて制動力の増加が可能になるので、ディスクロータ18の実質的な回転はないものと見なせる。
【0031】
一方、車両が坂路でリア側を坂下に向けて駐車していた場合、ディスクロータ18やブレーキパッド14の収縮現象が生じるとディスクロータ18がフロント側を坂下に向けて駐車した場合と逆向きに回転する力を受ける。このとき、形状変形部材78bのみを湾曲変形させて押圧力を発生させる。つまり、押圧追加制御部74がディスクロータ18が回転しようとする回転方向の入口側に配置された形状変形部材78bを形状変形させる。その結果、ブレーキパッド14が回転方向に巻き込まれるような姿勢になる。つまり、ブレーキパッド14がディスクロータ18が坂路下り方向に回転する方向の力により斜めにディスクロータ18を押圧する力、すなわち自己サーボ力が生じる。
【0032】
なお、押圧追加制御部74には、車両が駐車されたときの車両の姿勢、つまり実質的な平坦路に駐車されたのか、平坦路の場合より強い制動力を必要とする坂路に駐車されたのかを検出するために傾斜センサ82からの情報が提供されるようになっている。傾斜センサ82は、例えば、重力の方向を検出するもの、例えば、振り子のようなものを有しこの振り子の角度を検出することで勾配を検出するものが利用できる。また、ジャイロ機構を利用したものや封入液面のレベルの変化を電気的に検出するものなどが利用できる。また、傾斜センサ82は車両のフロント側が坂下に向いているか坂上に向いているかも併せて検出することができる。
【0033】
図3は本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ100の駐車ブレーキの追加押圧力制御の手順を説明するフローチャートである。
【0034】
PKBECU70の押圧追加制御部74は、イグニッションスイッチオン中にPKBがon操作された場合(S100のY)、傾斜センサ82からの情報に基づき、駐車中の路面が実質的な平坦路か平坦路における制動力より強い制動力が要求される坂路(例えば2°以上)か否か判定する。押圧追加制御部74が坂路に駐車中であると判定した場合(S102のY)、押圧状態取得部72は距離センサ76から提供される検出距離の変化に基づいてディスクロータ18に対するブレーキパッド14の押圧状態を取得する。つまり、ディスクロータ18に対するブレーキパッド14の距離(ギャップ)が変化したか否かを取得する(S104)。そして、押圧追加制御部74は押圧状態取得部72が取得した押圧状態に基づき、押圧力が不足しているか否か判断する。具体的には、PKBがonされたときの距離センサ76の検出値を基準の検出距離Aとした場合、ディスクロータ18が冷えて収縮した場合、検出距離はその収縮分広がり検出距離A+αとなり、押圧力が実質的に低下して制動力が不足する虞がある(S106のY)。この場合、押圧追加制御部74は傾斜センサ82から入力される傾斜情報に基づき、車両のフロント側が坂下に向いているか坂上に向いているかを判断する。つまり、坂路に駐車中の車両のディスクロータ18がどちらに回る力を受けているかを判定する。車両のフロント側が坂下を向いている場合(S108のY)、図1において形状変形部材78a側が回転方向の入口側になる。したがって、押圧追加制御部74はリア側に配置された形状変形部材78aを変形させる第1アクチュエータ80aを制御して、収縮した+α分がゼロになるまで形状変形部材78aを湾曲させる(S110)。一方、S108において、フロント側が坂下を向いていない場合、つまり坂上を向いている場合(S108のN)、図1において形状変形部材78b側が回転方向の入口側になる。したがって、押圧追加制御部74はフロント側に配置された形状変形部材78bを変形させる第2アクチュエータ80bを制御して、収縮した+α分がゼロになるまで形状変形部材78bを湾曲させる(S112)。前述したように、ディスクロータ18が回転しようとする方向に応じて、形状変形部材78aまたは形状変形部材78bを駆動して圧力追加を実行することにより、自己サーボ効果が生じて、形状変形部材78の少ない変形量で所望の大きな押圧力の追加が実行できる。その後、押圧追加制御部74は、PKBがoffされたか否か確認し、offされない場合(S114のN)、S104に移行して押圧状態の取得を行い、S104以降の処理を繰り返す。その結果、さらに収縮が進行した場合に、押圧力の追加制御が行われて坂路で車両を駐車停止させるのに十分な制動力を維持することができる。
【0035】
なお、S114において、PKBがoffされた場合(S114のY)、車両の走行が再開されることになるので、このフローを終了する。また、S106において、制動力の不足が認められない場合(S106のN)、S114に移行し、PKBがoffされるまで収縮による押圧力不足が発生するか否かを監視するために、S104以降の処理を繰り返し行う。また、S102において現在車両を駐車している路面が実質的な平坦路である場合(S102のN)、また、S100においてPKBがonされていない場合(S100のN)、いずれも図3のフローを終了する。
【0036】
上述した実施形態では、ディスクロータ18に対するブレーキパッド14の押圧状態を距離センサ76の検出値に基づいて取得する例を説明したが、他のセンサを用いても同様に押圧状態を取得できる。図4は、他の種類のセンサを用いた場合のセンサ配置場所を示している。なお、図4は便宜上複数種類のセンサを同じ図面に図示している。また、図4に対応するセンサなどを図1では破線で図示している。押圧状態を取得するセンサとしては、例えば、温度センサ84を用いることができる。温度センサ84は例えばディスクロータ18の内部に埋め込み配置できる。埋め込む深さは、ディスクロータ18が摩耗した場合にも表面に温度センサ84が露出したい程度にすることが望ましい。ディスクロータ18の内部に温度センサ84を埋め込み配置する場合、温度センサ84の信号線は、例えばディスクロータ18の回転中心部分を通して引き出して車両側に配置されるPKBECU70側に接続することができる。温度センサ84により押圧状態を取得する場合、現在のPKB温度、すなわち熱膨張しているときのディスクロータ18の温度と周囲温度との差に基づき、ディスクロータ18が冷えたときの収縮量を算出する。この場合、押圧状態取得部72は図5のような「PKB(ディスクロータ18)温度と周囲温度の差」と「収縮量」の関係を示すマップを保持する。そのため、温度センサ84を利用する場合、押圧状態取得部72は、周囲温度を測定する周囲温度センサ86からの情報も取得する。周囲温度センサ86は、ブレーキパッド14やディスクロータ18の発熱や車両のエンジンなどによる発熱の影響を受けない位置であり、かつブレーキパッド14やディスクロータ18の近傍位置であることが望ましい。前述したマップによって示される収縮量は形状変形部材78の変形により追加する押圧量に等しい。したがって取得した収縮量に応じて押圧追加制御部74が第1アクチュエータ80aまたは第2アクチュエータ80bを制御して形状変形部材78aまたは形状変形部材78bを変形させて追加の押圧力を発生させることができて、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0037】
図5に示すマップは、「PKB温度と周囲温度の差」毎に「収縮量」をアナログ的に対応付けた例である。一方、図6に示すマップは、「PKB温度と周囲温度の差」を所定範囲毎のグループa〜eに分けると共に、グループa〜eに対応するように収縮量を所定範囲毎のグループA〜Eに分けている。そして、「PKB温度と周囲温度の差」としてグループaが選択された場合、「収縮量」としてグループAを選択するデジタル的な対応付けを行ったマップの例である。デジタル的に処理する場合アナログ的に処理する場合に比べデータ量の削減が可能になり処理の高速化にも寄与できる。
【0038】
押圧状態を取得する他のセンサとしては図4に示すように圧力センサ88を用いることもできる。圧力センサ88の場合、ブレーキパッド14の内部に埋め込み配置することができる。圧力センサ88の場合もブレーキパッド14の摩耗により検出面が露出しないように十分な深さに埋め込まれる。なお、圧力センサ88の場合は前述したようにブレーキパッド14とディスクロータ18の接触面部分に直接配置できないので面圧を直接測定することができない。したがって、圧力センサ88の検出値は埋め込み深さに基づき補正された推定値として取得される。圧力センサ88を用いる場合は、距離センサ76を用いた場合と同様に、PKBがonしたときの面圧を検出値Bとすると、冷え始めて収縮が開始されてからの面圧は検出値B−βとなる。押圧追加制御部74は押圧追加制御を実行する場合、面圧減少分であるβがキャンセルされるように第1アクチュエータ80aまたは第2アクチュエータ80bを制御して対応する形状変形部材78aまたは形状変形部材78bを変形させる。そして、必要な追加押圧力を得ることにより上述した実施例と同様な効果を得ることができる。
【0039】
ところで、常用ブレーキを使用してその直後に駐車ブレーキを使用する場合、ブレーキパッド14やディスクロータ18が熱膨張し、その後時間の経過と共に収縮してPKBをonしたときの制動力より減少することは事前に予想できる。そこで、押圧追加制御部74はPKBをonしたときに制動力を予め強めに発生するように運転者に通知する警報処理を行うこともできる。図2に破線で示すように、押圧状態取得部72には、PKBをonするときに操作する操作部材、例えばPKBハンドルやPKBペダルなどに配置されて、その操作量を検出するPKBセンサ90が接続されている。また。押圧追加制御部74には、PKBをさらに強く操作することを報知するメッセージを表示するディスプレイ92や警報音や音声メッセージを出力するスピーカ94を介して運転者の注意を喚起する処理を行う警報処理部96が接続されている。
【0040】
また、押圧追加制御部74には、車両が坂路に駐車されたときに坂路によって車両が坂下側にどのくらいの力で引かれるか、つまりPKB必要入力値がどの程度必要となるかを算出するために、傾斜センサ82に加え車両重量センサ98から駐車時の車両重量の情報が提供されるようになっている。つまり、図7(a)に示すように、車両が坂路に駐車される場合、坂路角度θと車両重量mに応じて車両が坂下側に受ける力F=msinθは変化する。その結果、力FよりPKBの操作で要求される制動力が駐車状態によって変化する。つまり、実際にPKBセンサ90で検出されたPKBの操作量に基づく制動力(PKB入力値)からディスクロータ18の収縮により発生する制動力の減少値を減算した値が、坂路駐車時のPKB必要制動力(しきい値)より大きいことが要求される。そこで、押圧追加制御部74は、PKB入力値により発生する制動力がPKB必要制動力(しきい値)未満の場合、運転者にPKBの追加操作を要求する。
【0041】
図7(b)は、坂路駐車した場合にディスクロータ18を回転させるように作用する力FとPKBに求められるPKB必要制動力(しきい値)の関係を示すマップである。図7(b)に示すように、力FとPKB必要制動力は右上がりの直線で示すようにアナログ的に対応させてもよいし、力Fをa〜eのようなグループに分け、それに対応するPKB必要制動力をA〜Eのグループから選択するようにデジタル的に対応させてもよい。
【0042】
図8は、坂路駐車時にディスクロータ18の収縮が生じた場合に運転者にさらに強いPKB入力値を要求する制御を説明するフローチャートである。
【0043】
PKBECU70の押圧追加制御部74は、イグニッションスイッチオン中にPKBがon操作された場合(S200のY)、傾斜センサ82からの情報に基づき、駐車中の路面が実質的な平坦路か平坦路における制動力より強い制動力が要求される坂路か否か判定する。押圧追加制御部74が坂路に駐車中であると判定した場合(S202のY)、押圧状態取得部72はPKBセンサ90から提供されるPKB操作量に基づき現在のPKB入力値(制動力)を取得する(S204)。なお、この場合、押圧状態取得部72はPKBセンサ90の検出値とその操作によって通常発生できるPKBの制動力を対応付けたマップを有し現在発生している制動力を算出する。続いて、押圧状態取得部72は例えば温度センサ84から提供されるディスクロータ18の加熱時の温度情報と周囲温度センサ86から取得される周囲温度の温度情報を取得する(S206)。そして、ディスクロータ18が周囲温度まで冷えたときに発生する制動力の減少値を取得する(S208)。この場合、加熱状態のディスクロータ18の温度と周囲温度の差と制動力の減少値を関連付けたマップを準備しておき、減少値を取得することができる。このときのマップは、例えば図5や図6に示すマップと類似しており、横軸が「PKB(ディスクロータ18)温度と周囲温度の差」となり、縦軸が「制動力の減少値」になる。
【0044】
押圧追加制御部74は押圧状態取得部72から提供されるPKB入力値と制動力の減少値及び傾斜センサ82と車両重量センサ98から提供される情報に基づくPKB必要制動力(しきい値)を用いて比較を行う。もし(PKB入力値)−(減少値)≧(しきい値)ではない場合(S210のN)、つまり、ディスクロータ18の収縮を考慮して坂路駐車を行う場合、PKBにより発生する制動力を増加した方が好ましい。そこで、押圧追加制御部74は警報処理部96に警報処理を実行する旨の指令を出し、ディスプレイ92やスピーカ94を介して運転者にPKBハンドルまたはPKBペダルをさらに強く操作することを要求する(S212)。運転者が操作するPKBハンドルまたはPKBペダルは、通常操作余裕が残された状態で使用されるので、本実施形態のように追加操作が要求されても違和感無く追加操作できると共に、追加の制動力を容易に得ることができる。警報処理部96はPKBセンサ90が追加で操作されるまで警報を出力し続ける(S214のN)。S214においてPKBの追加操作が確認された場合(S214のY)、PKBECU70は、PKBがoff操作されていない場合(S216のN)、S204に移行する。そして、S204以降の処理を繰り返し行い、PKBの入力値がディスクロータ18の収縮を考慮しつつ坂路駐車に好ましい値になるまで増加されるように制御する。また、S216においてPKBがoff操作された場合(S216のY)、つまり運転者が走行可能状態に移行させた場合、このフローを終了する。
【0045】
また、S210において、(PKB入力値)−(減少値)≧(しきい値)になった場合(S210のY)、S212〜S216の処理をスキップして、このフローを終了する。また、S202において現在車両を駐車している路面が実質的な平坦路である場合(S202のN)、また、S200においてPKBがonされていない場合(S200のN)、いずれも図8のフローを終了する。
【0046】
なお、図8の例では、PKBの制動力を追加した方が好ましいと判断された場合、運転者に働きかけて押圧力の追加を実行したが、図3のフローチャートで説明したように、自動的に押圧追加制御を実行してもよい。図9は図8におけるS212、S214と置き換え可能な部分フローチャートである。
【0047】
本実施形態では、PKBの制動力追加を運転者が行うか自動で行うかを切換スイッチなどにより選択できるようにしている。図8のS210で、(PKB入力値)−(減少値)≧(しきい値)ではない場合(S210のN)で、PKBの制動力追加が自動モードが選択されていない場合には(S300のN)、図8の例と同様に警報処理を実行し(S302)、警報処理部96はPKBセンサ90が追加で操作されるまで警報を出力し続ける(S304のN)。S304においてPKBの追加操作が確認された場合(S304のY)、図8の216以降の処理を実行する。一方、S300において自動モードが選択されている場合(S300のY)、押圧追加制御部74は傾斜センサ82から入力される傾斜情報に基づき、車両のフロント側が坂下に向いているか坂上に向いているかを判断する。つまり、坂路に駐車中の車両のディスクロータ18がどちらに回る力を受けているかを判定する。車両のフロント側が坂下を向いている場合(S306のY)、図1において形状変形部材78a側が回転方向の入口側になる。したがって、押圧追加制御部74はリア側に配置された形状変形部材78aを変形させる第1アクチュエータ80aを制御して、形状変形部材78aを湾曲させて(S308)、図8におけるS216以降の処理を行う。一方、S306において、フロント側が坂下を向いていない場合、つまり坂上を向いている場合(S306のN)、図1において形状変形部材78b側が回転方向の入口側になる。したがって、押圧追加制御部74はフロント側に配置された形状変形部材78bを変形させる第2アクチュエータ80bを制御して、形状変形部材78bを湾曲させて(S310)、図8におけるS216以降の処理を行う。なお、S216でPKBのon状態が継続されS204に移行した場合、形状変形部材78aの変形により発生する制動力の増加分をPKB入力値の増加分に変換し、新たなPKB入力値として利用する。
【0048】
このように、坂路駐車時の制動力追加処理を運転者の操作に託すか自動で実行するか選択させることにより、運転者による車両カスタマイズ性を向上しつつ、適切な坂路駐車を実現できる。
【0049】
本実施形態においては、常用ブレーキ使用時の熱膨張がブレーキパッド14側よりディスクロータ18側に顕著に現れる傾向が強いので、温度センサ84をディスクロータ18に配置する例を示したが、ブレーキパッド14側に配置しても同様の制御が可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0050】
また、本実施形態では、車両が坂路に駐車されているか否かの検出を傾斜センサ82を用いる例を説明したが、駐車中の車両がブレーキパッド14やディスクロータ18の膨縮に起因する現象により数mm動くことを許容できる場合、傾斜センサ82の代わりに車輪速センサを用いて、坂路であることや車両のフロントが坂下に向いているか否かなどを検出してもよい。なお、車輪速センサを用いる場合でも、車輪の回転の開始と共に、本実施形態の制動力の追加制御が実行されるので、車両の移動は、最初の数mmにとどまり、実質的に静止状態が維持されていると見なされて安全上問題はない。
【0051】
また、本実施形態では、形状変形部材78の一例としてバイメタルと磁歪素子を示したが、同様の制御が可能な部材であれば、適宜変更可能であり同様な効果を得ることができる。また、本実施形態では、2つの形状変形部材78a、78bを配置して選択的に制御することにより自己サーボ効果を期待する例を示したが、形状変形部材78は一つでもよい。この場合、自己サーボ効果は期待できないが、本実施形態と同様に押圧力の追加制御ができる。この場合、部品点数の削減や制御の簡略化に寄与できる。また、形状変形部材78を3個以上設け、より詳細な押圧力制御を行ってもよい。
【0052】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキを構成する浮動型のキャリパの上方から見た場合の一部破断部分を含む上面図である。
【図2】本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキの駐車ブレーキの制御を行うPKBECUを中心として機能ブロック図である。
【図3】本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキの駐車ブレーキの追加押圧力制御の手順を説明するフローチャートである。
【図4】本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキにおいて、ディスクロータに対するブレーキパッドの押圧状態を取得するための他の種類のセンサの配置場所を説明する説明図である。
【図5】本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキにおいて、「PKB(ディスクロータ)温度と周囲温度の差」と「収縮量」の関係を示すマップを説明する説明図である。
【図6】本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキにおいて、「PKB(ディスクロータ)温度と周囲温度の差」と「収縮量」の関係を示す他のマップを説明する説明図である。
【図7】本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキにおいて、坂路駐車した場合にディスクロータを回転させるように作用する力FとPKBに求められるPKB必要制動力(しきい値)の関係を説明する説明図である。
【図8】本実施形態の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキにおいて、坂路駐車時にディスクロータの収縮が生じた場合に運転者にさらに強いPKB入力値を要求する制御を説明するフローチャートである。
【図9】図8におけるS212、S214と置き換え可能な部分フローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
10 キャリパ、 14,15 ブレーキパッド、 14a,15a 摩擦材、 14b,15b 裏金、 16 シリンダ部、 20 ピストン、 18 ディスクロータ、 54 PKBユニット、 56 PKBワイヤ、 70 PKBECU、 72 押圧状態取得部、 74 押圧追加制御部、 76 距離センサ、 78 形状変形部材、 80a 第1アクチュエータ、 80b 第2アクチュエータ、 82 傾斜センサ、 84 温度センサ、 86 周囲温度センサ、 88 圧力センサ、 90 PKBセンサ、 92 ディスプレイ、 94 スピーカ、 96 警報処理部、 98 車両重量センサ、100 駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪とともに回転するディスクロータと、
前記ディスクロータの摩擦摺動面に押圧されて前記ディスクロータを制動させるブレーキパッドと、
常用ブレーキと駐車ブレーキの少なくとも一方の作動時に前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに向かって移動させて前記ディスクロータを押圧する押圧手段と、
前記駐車ブレーキの作動時に前記ディスクロータと前記ブレーキパッドの少なくとも一方の膨縮変化に応じて変化した前記ディスクロータとブレーキパッド間の押圧状態を検出する状態検出手段と、
検出された前記押圧状態が所定状態を満たさない場合に前記押圧手段に圧力を追加付与する圧力追加手段と、
を含むことを特徴とする駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記圧力追加手段は、外部からの入力信号により形状操作可能な形状変形部材の発生する圧力により前記押圧手段に圧力を追加付与することを特徴とする請求項1記載の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記形状変形部材は、前記ディスクロータの回転中心を挟み前記ディスクロータの回転方向の入口側と出口側に配置され、前記圧力追加手段は前記ディスクロータの回転方向に応じて入口側となる形状変形部材を形状変形させることを特徴とする請求項2記載の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記状態検出手段は、前記ディスクロータの厚みを検出する厚み検出手段を含んで構成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記状態検出手段は、前記ディスクロータまたは前記ブレーキパッドの少なくとも一方の温度を検出する温度検出手段を含んで構成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ。
【請求項6】
前記状態検出手段は、前記ディスクロータと前記ブレーキパッドの間の面圧を検出する圧力検出手段を含んで構成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ。
【請求項7】
前記圧力追加手段は、前記状態検出手段が前記押圧状態が所定状態を満たさない旨を検出した場合、駐車ブレーキの操作力を増加する旨を車両搭乗者に通知する通知手段を含んで構成されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の駐車ブレーキ内蔵ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−149256(P2009−149256A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330885(P2007−330885)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】