説明

高導電性と高透明性を併有する有機薄膜とその製造法ならびにそれらを用いて形成された有機デバイス。

【課題】本発明は、高導電性と高透明性を併有する有機薄膜とその製造法、ならびにそれらを用いて製造される有機デバイスを提供する。
【解決手段】先ず、導電性高分子とこの導電性高分子材料の溶解性を高めるための絶縁性の高分子材料からなるドーパントとを溶媒に溶解し、導電性を高めるために1次粒子を分割して粒径の小さく揃った溶液を基板の表面に供給すると共に、当該基板を回転させ、前記基板の表面に1次コロイド粒子の単層又は数層からなる塗布膜を形成する。続いて前記基板を加熱して前記塗布膜中の溶媒を除去し、高導電性と高透明性を併有する有機薄膜を形成する。また前記溶液を基板の中心部に供給する前に、当該溶液に対して基板の漏れ性を高めるためにプリウエット液を基板の表面に塗布してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高導電性と高透明性を併有する有機薄膜とその製造法、この薄膜ならびにその成膜法を用いて製造される有機デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機透明電極材料の応用が期待されている製品は,安価でフレキシブルな透明電極,例えばフレキシブルなディスプレイ,フレキシブルな有機トランジスタ電極,フレキシブルな有機電界発光素子(有機EL素子)、タッチパネルなどがある。このような有機電極材料として精力的に検討されている導電性高分子材料である。上記の有機デバイスの中、一般に、有機EL素子は、陽極と陰極との間に有機発光材料からなる有機発光層を有し、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが前記有機発光層内で再結合し、励起したエネルギーが光として放出される素子である。この有機電界発光素子は、発光効率を上げるために、有機発光層と各電極との間に種々の有機薄膜層が設けられている。具体的には、陽極と有機発光層との間にはホール(正孔)注入層が設けられており、これにより陽極と有機発光層との接触抵抗を下げ、陽極から有機発光層への正孔の輸送を容易にしている。
【0003】
このホール注入層の形成方法としては真空蒸着法や塗布法が挙げられるが、真空蒸着法ではエネルギーコスト及び材料コストが高く、成膜に長い時間を要するため、近年では塗布法、具体的にはスピンコート法による成膜が広く行われている。この塗布法においてホール注入層の形成材料としては、一般的に導電性高分子材料であるPEDOT(ポリ(3,4−(エチレンジオキシ)チオフェン)とこの導電性高分子材料の溶解性を高めるための絶縁性の高分子材料であるドーパントであるPSS(ポリスチレンスルホン酸)とを水に溶解した溶液が用いられる。
【0004】
この塗布法によってホール注入層が形成されるまでを簡単に述べると、先ず、基板の表面に前記溶液を供給すると共に、当該基板を回転させ、その遠心力により前記溶液を展伸させて塗布膜を形成する。続いてこの塗布膜に対して加熱処理を行い、塗布膜中の溶媒を除去することでPEDOTとPSSとからなるコロイド粒子の層が何層も重なったホール注入層が形成される。
【0005】
しかしこのホール注入層は、PEDOTとPSSとからなるコロイド粒子の積層数が大きいと次のような不具合が生じる。つまり膜表面、層界面で平滑でなくなり、電気抵抗が増加するという不具合がある。
【0006】
また加熱によって塗布膜中の溶媒を除去する際に、熱によって膜を形成する材料が影響を受け、膜の特性が劣化してしまうといった問題もある。
一方、特許文献1には、上述した塗布膜中の溶媒を加熱に拠らないで確実に除去する手法として、塗布膜内に超臨界流体を浸透させて、当該膜から超臨海流体を除去することにより塗布膜中の溶媒を超臨界流体と共に除去する手法が開示されているが、超臨界流体を用いるため装置が大掛かりとなり、また装置コストが高いため塗布膜中の溶媒を除去する手法としてはあまり得策ではない。従って装置コストを考えると基板の表面に前記溶液を塗布して塗布膜を形成した後、塗布膜中の溶媒を除去する手法としては、まだ加熱による手法に頼る必要がある。一方、従来、PEDOT/PSSから作製した膜は数μm以上の厚い膜厚では高導電性化(数百S/cm)が可能であるが可視光の透過率は0%である。一方、数十nmの薄膜では既存のITOに匹敵する透過率(90%以上)に達するが導電性は1S/cm以下と極めて低い。このように既存の技術では、高導電性と高透明性を併有するまでに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−285592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機薄膜を粒径の小さく揃った1次コロイド粒子の単層又は数層の膜により形成することができ、いわば膜厚の限界まで薄膜化且つ高導電化することのできる有機薄膜の形成方法を提供することにある。また他の目的は、1次コロイド粒子の単層又は数層からなる有機薄膜を備えた有機デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法において、導電性高分子材料とこの導電性高分子材料の溶解性を高めるための絶縁性の高分子材料からなるドーパントとを溶媒に溶解し、導電性を高めるために1次粒子を分割して粒径の小さく揃った溶液を基板の表面に供給すると共に、当該基板を回転させ、その遠心力により溶液を伸展させてコロイド粒子の凝集体を基板の外に飛散させ、前記基板の表面に1次コロイド粒子の単層からなる塗布膜を形成する工程と、前記基板を加熱して前記塗布膜中の溶媒を除去し、有機薄膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
高導電性と高透明性を併有する上記有機薄膜の形成方法において、導電性を高めるために1次粒子を分割して粒径の小さく揃った前記溶液を基板の中心部に供給する前に、当該溶液に対して基板の表面の漏れ性を高めるためにプリウエット液を供給すると共に、当該基板を回転させて前記プリウエット液を基板の表面に塗布する工程を行うことが好ましい。また前記基板を加熱する工程は、減圧雰囲気下で行われることが好ましい。
【0011】
また高導電性と高透明性を併有する前記導電性高分子材料としては例えばポリチオフェンが用いられ、ドーパントとしては例えばポリスチレンスルホン酸が用いられる。この場合、前記基板の回転数は例えば3000rpm以上であることが好ましい。
【0012】
さらに高導電性と高透明性を併有する前記有機薄膜は、有機デバイスの一部を構成する。前記有機デバイスにおいて前記有機薄膜は例えば有機電界発光素子のホール注入層、タッチパネルの透明電極あるいは有機トランジスタのチャンネル部または電極として用いられる。なお、有機トランジスタにおいてチャンネル部と電極との両方、あるいはどちらか一方に前記有機薄膜を用いることも本発明の権利範囲に含まれる。
【0013】
本発明では、遠心分離によるPEDOT/PSSコロイド粒子の分割とスピンコートおよび溶媒効果を利用して高導電性と高透過率を併有したPEDOT/PSS有機薄膜の製造に至った。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スピンコート法により基板の表面に導電性高分子材料とこの導電性高分子材料の溶解性を高めるための絶縁性の高分子材料からなるドーパントとを溶媒に溶解し、導電性を高めるために1次粒子を分割して粒径の小さく揃った溶液を塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜に対して加熱して有機薄膜を形成するにあたり、前記基板を高速に回転させることで発生する大きな遠心力によって前記溶液中に含まれるコロイド粒子の凝集体を基板の外に飛散させているので、有機薄膜を1次コロイド粒子の単層膜により形成することができ、いわば膜厚の限界まで薄膜化且つ高導電化することができる。従ってこの有機薄膜は有機デバイスの薄型化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の有機薄膜の形成方法を実施するための塗布装置の一例を示す構成図である。
【図2】PEDOT/PSSコロイド粒子を示す模式図である。
【図3】PSSとPEDOTとの共重合体の分子構造を示す図である。
【図4】PEDOT/PSS溶液中のコロイド粒子の粒径分布を表す説明図である。
【図5】本説明の実施の形態に係る有機電界発光素子の構図を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るタッチパネルの構図を示す概略断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る有機トランジスタの構図を示す概略断面図である。
【図8】PEDOT/PSS薄膜(EGなし)。
【図9】PEDOT/PSS薄膜(EG3%)。
【図10】導電率に対する遠心分離効果。
【図11】表面粗さに対する遠心分離効果。
【図12】導電率に対する溶媒効果。
【図13】導電率に対する溶媒効果。
【図14】透過率に対する溶媒効果。
【図15】表面粗さに対する溶媒効果。
【図16】本発明の薄膜と市販のITOガラスとの比較。
【発明を実施するための形態】
【0016】
先ず、本発明の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法を実施するための塗布装置及び減圧乾燥装置について説明する。図1は塗布装置1であり、図1に示すように上部側が開口するカップ体10内に、基板例えば直径が200mm(8インチサイズ)のシリコンウエハ(以下、「ウエハ」という。)Wを水平に吸着保持するための基板保持部であるバキュームチャック11が設けられている。前記バキュームチャック11は軸部12を介して駆動部13により回転及び昇降できるように構成されている。前記カップ体10の底部側には廃液口14及び排気口15が夫々設けられており、前記廃液口14からカップ体10内の廃液が排出されると共に、前記排気口15からカップ体10内の気体が排気されるようになっている。
【0017】
また前記塗布装置1は、図1に示すようにバキュームチャック11に載置されたウエハWの表面に導電性高分子材料であるPEDOT(ポリ(3,4−(エチレンジオキシン))チオフェン)とこの導電性高分子材料の溶解性を高めるための絶縁性の高分子材料からなるドーパントであるPSS(ポリスチレンスルホン酸)とを水に溶解し、1次粒子を分割して粒径の小さく揃った溶液を供給(塗布)するための塗布液供給ノズル20と、ウエハWの表面にプリウエット液である界面活性剤例えばエチレングリコールや溶剤等を供給(塗布)するためのプリウエット用ノズル30とを備えている。このプリウエット液Sは、前記溶液に対してウエハWの表面の漏れ性を高めるために用いられる。
【0018】
図1に示すように前記塗布液供給ノズル20には塗布液供給管24の一端側が接続されており、前記塗布液供給管24の他端側は、上述した導電性高分子材料であるPEDOTとドーパントであるPSSとを水に溶解し、導電性を高めるために1次粒子を分割して粒径の小さく揃った溶液(以下、PEDOT/PSS溶液という。)が貯留されている塗布液タンク25に挿入されている。前記塗布液供給管24にはバルブV1,V2及びポンプP1が介設されている。また図1に示すように前記プリウエット用ノズル30にはプリウエット用管34の一端側が接続されており、前記プリウエット用管34の他端側は上述したプリウエット液Sが貯留されているプリウエット液タンク35に挿入されている。前記プリウエット用管34にはバルブV3,V4及びポンプP2が介設されている。
【0019】
前記塗布液タンク25に貯留されているPEDOT/PSS溶液について説明する。なお、このPEDOT/PSS溶液としては、例えばH.C.Starck社製の「BAYTRON」(登録商標)等があげられる。このPEDOT/PSS溶液中には図2のイメージ図に示すように長い帯状のポリスチレンスルホン酸(PSS)に複数のポリチオフェン(PEDOT)が合体したコロイド粒子(以下、PEDOT/PSSコロイド粒子という。)5が多数含まれている。このPEDOT/PSSコロイド粒子5の構造式を図3に示す。図3に示すようにPSSの−SO−O−基にPEDOTのプラスの電荷を帯びたSが結合することでPEDOT/PSSコロイド粒子5が形成される。ここでPEDOT/PSS溶液について動的光散乱法(Dynamic Light Scattering)を用いて当該溶液中のコロイド粒子の粒径分布を測定したところ図4に示すように当該溶液にはPEDOT/PSSコロイド粒子(1次コロイド粒子)5と、当該1次コロイド粒子5の凝集体とが含まれていることが分かっている。遠心分離により該当凝集体を除きまた該当1次粒子の粒径が小さく揃うことができる。
【0020】
続いて本発明の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法について説明する。先ず、直径が200mmのウエハWが塗布装置2のバキュームチャック11に吸着され、その後バキュームチャック11は所定の位置まで降下される。そしてプリウエット用ノズル30が移動機構によりカップ体10内のウエハWの中央部に案内される。そしてウエハWを回転させて、ウエハWが所定の回転速度例えば3000rpmに達した後、プリウエット用ノズル30から所定量のプリウエット液SがウエハW表面の中心部に供給される。ウエハWの表面中心部に供給されたプリウエット液Sは、遠心力によりウエハWの中心部から周縁部に向かって広がり、そして周縁部に達したプリウエット液Sは外方に向かって飛散することになる。こうして塗布液Rに対して漏れ性の高いウエハW表面が形成される。
【0021】
しかる後、ウエハWが回転している状態でプリウエット用ノズル30から塗布液供給用ノズル20への入れ替えが行われる。そしてウエハWの回転速度が3000rpmにある状態で、前記塗布液供給ノズル20から所定量例えば9mlの塗布液RがウエハWの表面中心部に供給される。なお、この例では塗布液供給ノズル20はウエハWの表面の中心部だけに塗布液Rを供給しているが、塗布液供給ノズル20をスイングさせて塗布液Rの供給位置をウエハWの中心部とウエハWの中心から偏心した位置との間で移動させながら塗布液RをウエハWの表面に供給してもよい。このように塗布液供給ノズル20をスイングさせながら塗布液Rを供給することで、ウエハW表面における塗布液Rの面内均一性が向上する。ウエハWの表面中心部に供給された塗布液Rは、遠心力によりウエハWの中心部から周縁部に向かって広がり、そして周縁部に達した塗布液Rは外方に向かって飛散することになる。この飛散する塗布液Rの中には、1次コロイド粒子5は殆ど含まれていない。即ち、粒径の小さく揃った1次コロイド粒子5はウエハW表面に留まることになる。そしてウエハWの表面中心部に所定量の塗布液Rを塗布してから3000rpmの速度でウエハWを所定の時間例えば60秒間回転させた後、ウエハWの回転速度を減速させてウエハWを停止させる。ここで実施例でも述べるように、スピン回転数3000rpmによってウエハWの表面に形成された塗布膜の膜厚は44mmである。図5から1次コロイド粒子5は粒径が30〜60nmであることから、この膜厚44nmは1次コロイド粒子5の直径に相当しており、1次コロイド粒子5がウエハW表面において互いに接触する程度に密に且つほぼ同じ高さで並ぶことによって塗布膜が形成されると考えられる。即ち、上述したスピンコート法によりウエハWの表面に1次コロイド粒子5の単層からなる塗布膜が形成される。
【0022】
ウエハWの表面に塗布膜を形成した後、真空ポンプにより所定の圧力例えば10−1Pa(約10−3torr)まで減圧し、次いでウエハWにより所定の温度例えば160℃で加熱する。この減圧乾燥における加熱時間は、上述したようにウエハWを高い速度で回転させることによって単層からなる塗布膜が形成されていることから、従来の減圧乾燥における加熱時間よりも短い時間例えば1分である。この加熱により塗布膜中の溶媒蒸発し、高導電性と高透明性を併有する有機薄膜が得られる。
【0023】
上述の実施形態によれば、スピンコート法によりウエハWの表面に、導電性を高めるために1次粒子を分割して粒径の小さく揃ったPEDOT/PSS溶液を塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜に対して加熱して有機薄膜を形成するにあたり、8インチサイズのウエハWを3000rpmという高い速度で回転させることで、前記溶液中に含まれる粒径が300〜600nmからなる1次コロイド粒子5の凝集体が飛散してウエハWの表面から除去される程度の遠心力が作用するので、有機薄膜を粒径が30〜60nm、この例では44nmからなる1次コロイド粒子5の単層膜により形成することができ、いわば膜厚の限界まで薄膜化することができる。従ってこの高導電性と高透明性を併有する有機薄膜は後術する有機電界発光素子及びタッチパネル並びに有機トランジスタの薄型化に寄与する。
【0024】
また塗布膜を形成した後の加熱処理では、塗布膜が単層であることに起因して加熱時間を短縮できるため、有機薄膜に対する熱による悪影響が抑えられるため、熱によって高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の特性が劣化するといったおそれがない。
【0025】
上述の実施形態では、塗布膜を形成した後の加熱処理を減圧雰囲気下で行っているが、大気雰囲気下で加熱処理を行ってもよい。また上述の実施形態では、基板として直径が200mmのシリコンウエハWを用いるが、対角線の長さが例えば200mmのガラス基板を用いても、当該ガラス基板に対して上述と同様にしてスピンコーティング及び加熱を行うことによって粒径が30〜60nmからなる1次コロイド粒子5の単層又は数層の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜を形成することができる。
【0026】
次に上述した有機薄膜の形成方法により形成された有機薄膜を有する有機電界発光素子について説明する。図5は本発明の実施形態に係る有機電界発光素子9の一例である。図5中の90は透明なガラス基板であり、このガラス基板90の上には、酸化インジウムスズ(ITO)からなる陽極91と、上述したようにスピンコーティング及び加熱により形成した有機薄膜であるホール(正孔)注入層92と、有機発光材料からなる有機発光層93と、酸化インジウムスズ(ITO)からなる陰極94とがこの順に下から積層されている。前記ホール注入層92は、陽極91と有機発光層93との接触抵抗を下げ、陽極91から有機発光層93への正孔の輸送を容易にするためのものである。そしてこの有機電界発光素子9は陽極91と陰極94との間に所定の電圧を印加することで、陽極91から注入された正孔と陰極94から注入された電子とが前記有機発光層93内で再結合し、励起したエネルギーが光として前記ガラス基板90側から放出されるようになっている。
【0027】
この有機電界発光素子9は、ホール注入層92を上述した形成方法によって形成しているため、つまりこのホール注入層92は1次コロイド粒子5の単層からなるため、有機電界発光素子9を薄型にすることができる。また陽極90とホール注入層92との密着性の向上も期待できる。なお、この例では陽極91及び陰極94としてはスパッタリングにより形成した酸化インジウムスズが用いられているが、上述したようにスピンコーティング及び加熱により形成した高導電性と高透明性を併有する有機薄膜を陽極91及び陰極94に用いてもよい。
【0028】
次に上述した有機薄膜の形成方法により形成された有機薄膜を有するタッチパネルについて説明する。図6は本発明の実施形態に係るタッチパネルの一例である。図6中の100は上部透明基板であり、この上部透明基板100の下面には上述したようにスピンコーティング及び加熱により形成した高導電性と高透明性を併有する有機薄膜である上部透明電極層101が形成されている。また図6中の102は下部透明基板であり、この下部透明基板102の上面には上述と同様にして形成した有機薄膜である下部透明電極層103が形成されており、この下部透明電極層103の上面には絶縁性のドットスペーサ104が設けられている。そして前記上部透明電極層101と前記下部透明電極層103とを対向させた状態で前記上部透明基板100と前記下部透明基板102とをシール部材105を介して貼り合わせることでタッチパネル106が形成される。このタッチパネル106は、上部透明基板100の表面を指等で押圧することで上部透明基板100が撓み、上部透明電極層101が下部透明電極層103に電気的に接触するようになっている。
【0029】
このタッチパネル106は、上部透明電極層101及び下部透明電極層103を上述した形成方法によって形成しているため、つまり上部透明電極層101及び下部透明電極層103は1次コロイド粒子5の単層又は数層からなるため、タッチパネルを薄型にすることができると共に、高い透明性が得られる。また上部(下部)透明基板100,102と上部(下部)透明電極層101,103との密着性の向上も期待できる。
【0030】
次に上述した有機薄膜の形成方法により形成された有機薄膜を有する有機トランジスタについて説明する。図7は本発明の実施形態に係る有機トランジスタ125の一例である。図7中の120はシリコンからなるゲート電極であり、このゲート電極120の上にはシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜121が形成されている。前記ゲート絶縁膜121の上にはソース電極122とドレイン電極123とが所定の間隔をあけて形成されている。このソース電極122及びドレイン電極123は例えば金(Au)からなる。また前記ゲート絶縁膜121の上には上述したようにスピンコーティング及び過熱により形成した、高導電性と高透明性を併有する有機薄膜124が前記ソース電極122及び前記ドレイン電極123を覆うようにして形成されている。そしてソース電極122は接地した状態で、ソース電極122とドレイン電極123との間に電圧E1を印加すると共に、ゲート電極120とソース電極122との間に電圧E2を印加することで、ソース電極122とドレイン電極123との間に形成されている、高導電性と高透明性を併有する有機薄膜124が導通してドレイン電極123とソース電極122との間に電流が流れるようになっている。またソース電極122とゲート電極120との間に印加する電圧E2を制御することで、ドレイン電極123とソース電極122との間に流れる電流を制御している。つまり高導電性と高透明性を併有する前記有機薄膜124はトランジスタのチャンネル部として用いられることになる。
【0031】
この有機トランジスタ125は、トランジスタのチャンネル部を上述した形成方法によって形成しているため、このチャンネル部は1次コロイド粒子5の単層から形成され、有機トランジスタ125を薄型にすることができる。なお、この例ではソース電極122及びドレイン電極123としてはスパッタリングにより形成した金が用いられているが、上述したようにスピンコーティング及び加熱により形成した有機薄膜をソース電極122及びドレイン電極123に用いてもよい。またゲート電極120についても上述と同様にして形成した高導電性と高透明性を併有する有機薄膜を用いてもよい。
【実施例1】
【0032】
PEDOT/PSS (PH500) 原溶液を5000rpmで遠心分離し、上澄み液を取って凍結乾燥を行った。凍結乾燥で得られた粉末を脱イオン水に2%添加し超音波処理を行った。図1に示す塗布装置1により、再分散PEDOT/PSS溶液を用いてSiO2/Si基板に3000rpmでスピンコートを行った。その後、160℃で1時間真空乾燥を行った。また、上記の再分散液にエチレングリコール(EG)を3%添加し同様にスピンコートを行った。EGなし(図8)またはEG3%(図9)の添加後作製した薄膜はSTEMで膜厚を測定した。その結果、EGなしとEG3%のいずれの場合にも膜厚が93 nmであった。
【実施例2】
【0033】
PEDOT/PSS (PH500) 原溶液を4000〜5000rpmで遠心分離し、上澄み液を取って凍結乾燥を行った。凍結乾燥で得られた粉末を脱イオン水に2%添加し超音波処理を行った。図1に示す塗布装置1により、再分散PEDOT/PSS溶液にエチレングリコール(EG)を3%添加しSiO2/Si基板に3000rpmでスピンコートを行った。その後、160℃で1時間真空乾燥を行った。得られた薄膜はその電導度を4探針法で測定し、AFMで表面粗さを測定した。その結果、電導度は遠心分離回転数が大きくなるほど向上し(図10)、表面粗さは小さくなった(図11)。
【実施例3】
【0034】
PEDOT/PSS (PH500) 原溶液または5000rpmで遠心分離した上澄み液を取って凍結乾燥を行った。凍結乾燥で得られた粉末を脱イオン水に2%添加し超音波処理を行った。再分散PEDOT/PSS溶液にエチレングリコール(EG)を1~7%添加し、SiO2/Si基板上に3000rpmでスピンコートを行った。その後、160℃で1時間真空乾燥を行った。得られた薄膜の電導度は4探針法で測定した。その結果、分割なしではEG3%で電導度の最大値291 S/cmが得られた(図12)のに対して、5000 rpmで分割したものではEG7%で最大値443 S/cmが得られた(図13)。
【実施例4】
【0035】
PEDOT/PSS (PH500) 原溶液を5000rpmで遠心分離し、上澄み液を取って凍結乾燥を行った。凍結乾燥で得られた粉末を脱イオン水に2%添加し超音波処理を行った。再分散PEDOT/PSS溶液にエチレングリコール(EG)を1~7%添加しSiO2/Si基板または石英ガラス上に3000rpmでスピンコートを行った。その後、160℃で1時間真空乾燥を行った。石英ガラス上に作製した薄膜の透過率はUV-Vis-NIR分光器で測定し、SiO2/Si基板上に作製した薄膜はAFMで表面粗さを測定した。その結果、透過率はEG添加によってわずかに向上し、EG7%では透過率89%を示した(図14)。一方、表面粗さはばらつきがあるものEGの添加によって増加傾向にあった(図15)。
【実施例5】
【0036】
PEDOT/PSS (PH500) 原溶液を5000rpmで遠心分離し、上澄み液を取って凍結乾燥を行った。凍結乾燥で得られた粉末を脱イオン水に2%添加し超音波処理を行った。再分散PEDOT/PSS溶液にエチレングリコール(EG)を7%添加し石英ガラス上に3000rpmでスピンコートを行った。その後、160℃で1時間真空乾燥を行った。作製した薄膜の視覚透明性を市販のITOガラスと共にデジタルカメラで撮影した(図16)。透明性はITO並みであり、シート抵抗(443 S/cmと93 nmで換算したもの)はITOの10分の1程度まで近づいた。
【比較例】
【0037】
PEDOT/PSS (PH500) 原溶液を分離せず凍結乾燥を行った。凍結乾燥で得られた粉末を脱イオン水に2%添加し超音波処理を行った。再分散PEDOT/PSS溶液を用いてSiO2/Si基板に3000rpmでスピンコートを行った。その後、160℃で1時間真空乾燥を行った。また、上記の再分散液にエチレングリコール(EG)を3%添加し同様にスピンコートを行った。EGなしまたはEG3%の添加後作製した薄膜は電導度を測定した。その結果、EGなしとEG3%のいずれの場合でそれぞれ0.55 S/cmと86.7 S/cmであった。
【符号の説明】
【0038】
R 塗布液
S プリウエット液
W ウエハ
1 塗布装置
20 塗布液供給ノズル
30 プリウエット用ノズル
4 減圧乾燥装置
5 PEDOT/PSS
6 塗布膜
61 有機薄膜
9 有機電界発光素子
90 ガラス基板
91 陽極
92 ホール注入層
93 有機発光層
94 陰極
100 上部透明基板
101 上部透明電極層
102 下部透明基板
103 下部透明電極層
104 ドットスペーサ
105 シール部材
106 タッチパネル
120 ゲート電極
121 ゲート絶縁膜
122 ソース電極
123 ドレイン電極
124 有機薄膜
125 有機トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子微粒子の分割による狭い粒径分布化とその分割した微粒子を用いて作製した有機薄膜ならびにその製造法。
【請求項2】
請求項1の分割した微粒子分散液に極性有機溶媒を添加し作製した高導電性・高透明性有機薄膜ならびにその製造法。
【請求項3】
請求項1の分割した微粒子分散液に極性有機溶媒を添加し作製した高導電性・高透明性PEDOT/PSS薄膜ならびにその製造法。
【請求項4】
請求項3の製造法で作製した、膜厚が16〜100 nmで、電導度が1〜443 S/cmで、透過率が80〜95%のPEDOT/PSS薄膜ならびにその製造法。
【請求項5】
前記導電性高分子材料を溶媒に溶解した溶液を基板の表面に供給すると共に、当該基板を回転させ、その遠心力により溶液を展伸させてコロイド粒子の凝集体を基板の外に飛散させ、前記基板の表面に1次コロイド粒子の単層又は数層からなる塗布膜を形成する工程と、前記基板を加熱して前記塗布膜中の溶媒を除去し、有機薄膜を形成する工程とを含むことを特徴とする、高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法。
【請求項6】
前記溶液を基板の中心部に供給する前に、当該溶液に対して基板の表面の漏れ性を高めるためにプリウエット液を供給すると共に、当該基板を回転させて前記プリウエット液を基板の表面に塗布する工程を行うことを特徴とする請求項5に記載の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法。
【請求項7】
前記基板を加熱する工程は、減圧雰囲気下で行われることを特徴とする請求項4に記載の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法。
【請求項8】
前記基板の回転数は3000rpm以上であることを特徴とする請求項4に記載の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法。
【請求項9】
前記有機薄膜は、有機デバイスの一部を構成することを特徴とする請求項4に記載の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法。
【請求項10】
前記有機薄膜は、タッチパネルの透明電極であることを特徴とする請求項4に記載の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法。
【請求項11】
前記有機薄膜は、有機トランジスタのチャンネル部または電極であることを特徴とする請求項4に記載の高導電性と高透明性を併有する有機薄膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−205685(P2010−205685A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52777(P2009−52777)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度地域イノベーション創出総合支援事業「シーズ発掘試験」に関する委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】