説明

CDR回路

【課題】入力データに対する瞬時応答特性を備えかつジッタが大きな入力データが入力された時にも安定的な動作が可能でかつ出力ジッタを低減可能な小型低消費電力のCDR回路を提供する。
【解決手段】CDR回路は、入力データ4が遷移したときにパルスを出力するゲーティング回路10と、ゲーティング回路10の出力パルスのタイミングに合うように出力クロックの位相を調整するVCO11と、VCO11の出力クロックのタイミングに合うように再生クロック7の位相を調整するVCO13と、入力データ4のデータ識別を再生クロック7に基づいて行うフリップフロップ3と、ゲーティング回路10の出力端子とVCO11の入力端子との間に設けられたバッファ増幅器16と、VCO11の出力端子とVCO13の入力端子との間に設けられたバッファ増幅器17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力データに対して位相同期したクロックを再生し、このクロックにより入力データのリタイミングを行うCDR回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FTTH(Fiber To The Home)を実現する手段として開発が進められているPON(Passive Optical Network)方式等では、バーストデータを扱う必要がある。これらのシステムにおいては、局側で非同期に受信するバーストデータに対して瞬時に位相同期を確立してクロックを抽出し、このクロックに同期してデータをリタイミングするCDR(Clock Data Recovery)回路が必須である。この種の回路は、例えば非特許文献1において参照できる。
【0003】
図7はこのような用途に用いられるCDR回路の構成例を示している。メインVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)20の入力端子20aに入力データ4が入力されると、メインVCO20は、当該入力データ4のタイミング、つまり電圧値偏移点をトリガとしてその発振位相が入力データ4の位相と合うように調整される。位相を調整された発振信号は、入力データ4との位相が合った再生クロック7としてメインVCO20から出力される。再生クロック7は、フリップフロップ(以下、F/Fとする)3のクロック端子3bに入力され、F/F3のデータ入力端子3aに入力される入力データ4のリタイミングに使用される。これにより、F/F3の出力端子3cから再生データ6が出力される。
【0004】
一方、メインVCO20と同一構成のサブVCO12が周波数比較器2と共にPLL(Phase-Locked Loop)を形成している。このサブVCO12は、入力データ4のデータレートと等しい周波数の参照クロック5またはその周波数の整数分の1の周波数の参照クロック5と同じ周波数で発振している。周波数比較器2は、サブVCO12の出力端子12cから出力され入力端子2bに入力される信号の周波数と入力端子2aに入力される参照クロック5の周波数とを比較し、サブVCO12の出力信号の周波数が参照クロック5の周波数より高ければ、サブVCO12の発振周波数を下げるように制御する制御信号8を出力し、サブVCO12の出力信号の周波数が参照クロック5の周波数より低ければ、サブVCO12の発振周波数を上げるように制御する制御信号8を出力する。周波数比較器2の出力端子2cから出力される制御信号8は、サブVCO12の周波数制御端子12bに供給されると同時に、メインVCO20の周波数制御端子20bにも供給される。これにより、サブVCO12の出力端子12cから出力される信号の周波数とメインVCO20の出力端子20cから出力される再生クロック7の周波数とが同じになるように制御される。
【0005】
図7に示した従来構成によれば、入力データ4のデータレートとメインVCO20から出力される再生クロック7の周波数とは常に一致しているので、入力データ4が入力された時にはメインVCO20は位相だけ合わせれば良く、瞬時に入力データ4との同期を確立することが可能である。
しかしながら、図7に示した構成では、この瞬時応答特性と引き換えに出力波形品質が入力波形品質に大きく依存することになってしまう。つまり、入力データのジッタが大きい場合には、出力データのジッタも大きくなってしまうという問題点がある。
【0006】
このような問題点を緩和できる手段として、非特許文献2において図8のような回路構成が提案されている。図8に示したCDR回路の構成は、図7に示したメインVCO20を2つのVCO11,13の直列構成に変えて、VCO11の前にゲーティング回路10を追加し、さらにVCO11とVCO13との間にバッファ増幅器15を追加した構成となっている。
【0007】
ゲーティング回路10は、排他的論理和(XOR)ゲートや論理積(AND)ゲートなどで構成され、入力端子10aに入力される入力データ4が「0」から「1」に立ち上がったときに立ち下がり、例えばT/2(Tは入力データ4の周期)後に立ち上がるパルスを出力する。ゲーティング回路10の出力パルスは、出力端子10cから出力され、VCO11の入力端子11aに入力される。
【0008】
VCO11は、図7に示したメインVCO20と同様に、周波数制御端子11bに制御信号8が供給されることにより、参照クロック5と等しい周波数のクロックを出力する。このクロックの位相は、ゲーティング回路10の出力パルスにより制御される。すなわち、VCO11は、ゲーティング回路10の出力パルスが「0」のときはリセットされ「0」を出力し、ゲーティング回路10の出力パルスが「1」になった途端に発振を始め、ゲーティング回路10の出力パルスが「1」の間は発振を続ける。こうして、VCO11においては、出力クロックの位相が入力データ4の位相と合うように調整される。
【0009】
VCO13は、VCO11と同様に、周波数制御端子13bに制御信号8が供給されることにより、参照クロック5と等しい周波数のクロックを出力する。VCO11の出力端子11cから出力されたクロックがバッファ増幅器15を介してVCO13の入力端子13aに入力されるため、VCO13から出力される再生クロック7の位相は、VCO11の出力クロックの位相と合うように(すなわち、入力データ4の位相と合うように)調整されるが、VCO11の影響が小さいことから、VCO11の出力クロックの位相に瞬時に追従することはない。したがって、入力データ4にジッタが存在する場合でも、このジッタの影響を受け難くなるので、再生クロック7のジッタを低減することができる。さらに、VCO11とVCO13との間に、駆動力の弱いバッファ増幅器15が挿入されているため、再生クロック7の位相に与えるVCO11の影響がより小さくなっている。
【0010】
その他の構成は、図7に示したCDR回路と同じである。図8に示した構成では、ジッタが大きな入力データ4が入力された場合においても、VCO13がクロック周波数近傍のみの周波数の信号を選択的に増幅する機能を有していることと、バッファ増幅器15の利得を適当に設定することによりジッタの影響を低減できることから、入力データ4との位相同期を確保した上で再生クロック7のジッタをある程度低減することができる。その理由は、バッファ増幅器15の利得を低減するに従い、VCO13の自走発振スペクトラム成分が支配的になっていき、入力データ4のジッタの影響を低減できるようになるためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Y.Ota,et al.,“High-speed,burst mode,packet-capable optical receiver and instantaneous clock recovery for optical bus operation”,J.Lightwave Technol.,vol.12,no.2,p.325-331,Feb.1994
【非特許文献2】J.Terada,et al.,“Jitter-reduction and pulse-width-distortion compensation circuits for a 10Gb/s burst-mode CDR circuit”,in 2009 IEEE International Solid-State Circuits Conference Digest,p.104-106,Feb.2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図8に示した構成では、図7に示した構成と比較して入力データのジッタの影響を低減することができる。ただし、図8に示した構成では、ジッタを低減するためには、バッファ増幅器15の結合度を弱めることが必要となる一方、安定的に位相同期を確保するためには、ある程度の結合度は必要になってしまうというトレードオフが生じる問題点がある。つまり、1つのバッファ増幅器15のみを適用した構成においては、電源電圧変動や温度変動下において安定な位相同期を確保した上で、ジッタの大幅な低減を行うことができないという問題点があった。
【0013】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決し、入力データに対する瞬時応答特性を備えかつジッタが大きな入力データが入力された時にも安定的な動作が可能でかつ出力ジッタを低減可能な小型低消費電力のCDR回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のCDR回路は、入力データが遷移したときにパルスを出力するゲーティング回路と、このゲーティング回路の出力パルスのタイミングに合うように再生クロックの位相を調整することにより、前記入力データとタイミングの合った再生クロックを出力する第1の電圧制御発振器と、前記入力データのデータ識別を前記再生クロックに基づいて行うデータ識別回路と、前記ゲーティング回路の出力端子と前記第1の電圧制御発振器の入力端子との間に設けられた、m個(mは正の整数)の第2の電圧制御発振器と、前記ゲーティング回路の出力端子と前記m個の第2の電圧制御発振器のうち初段の電圧制御発振器の入力端子との間に設けられた、第1のバッファ増幅器または第1の減衰器と、前記m個の第2の電圧制御発振器のうち1個の電圧制御発振器の後段に設けられた、第2のバッファ増幅器または第2の減衰器とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明のCDR回路の1構成例において、前記mは2以上である。
また、本発明のCDR回路の1構成例は、さらに、第3のバッファ増幅器または第3の減衰器を備え、前記mは2以上であり、前記第3のバッファ増幅器または第3の減衰器は、前記第2のバッファ増幅器または第2の減衰器がその後段に接続された前記第2の電圧制御発振器とは異なる前記第2の電圧制御発振器の後段に設けられることを特徴とするものである。
また、本発明のCDR回路の1構成例は、さらに、第3のバッファ増幅器または第3の減衰器を備え、前記mは3以上であり、前記第3のバッファ増幅器または第3の減衰器は、前記第2のバッファ増幅器または第2の減衰器がその後段に接続された前記第2の電圧制御発振器とは異なる前記第2の電圧制御発振器の後段に設けられることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のCDR回路の1構成例は、さらに、第3の電圧制御発振器と、参照クロックと前記第3の電圧制御発振器の出力信号とを比較して周波数制御信号を前記第3の電圧制御発振器に供給する周波数比較器とを備え、前記周波数比較器は、前記周波数制御信号を、前記第1の電圧制御発振器と前記m個の第2の電圧制御発振器のうち少なくとも1つにも供給することを特徴とするものである。
また、本発明のCDR回路の1構成例は、さらに、前記第3の電圧制御発振器の出力信号を1/n(nは正の整数)に分周する分周器を備え、前記周波数比較器は、所望のデータレート周波数の1/nの周波数の前記参照クロックと前記分周器の出力とを比較して前記周波数制御信号を出力することを特徴とするものである。
また、本発明のCDR回路の1構成例において、前記バッファ増幅器または減衰器のうち少なくとも1つは、可変利得増幅器または可変減衰器である。
また、本発明のCDR回路の1構成例は、前記電圧制御発振器を全て同一構成としたことを特徴とするものである。
また、本発明のCDR回路の1構成例において、前記電圧制御発振器は、ゲーティッド電圧制御発振器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入力データが遷移したときにパルスを出力するゲーティング回路と、ゲーティング回路の出力パルスのタイミングに合うように再生クロックの位相を調整することにより、入力データとタイミングの合った再生クロックを出力する第1の電圧制御発振器と、入力データのデータ識別を再生クロックに基づいて行うデータ識別回路とを設け、さらに、ゲーティング回路の出力端子と第1の電圧制御発振器の入力端子との間に、m個(mは正の整数)の第2の電圧制御発振器を設け、ゲーティング回路の出力端子とm個の第2の電圧制御発振器のうち初段の電圧制御発振器の入力端子との間に、第1のバッファ増幅器または第1の減衰器を設け、m個の第2の電圧制御発振器のうち1個の電圧制御発振器の後段に、第2のバッファ増幅器または第2の減衰器を設けることにより、ジッタの多い入力データが入力された場合でも、再生クロックのジッタを低減可能な高安定かつ位相同期確立時間の短いCDR回路を実現することができる。その結果、本発明では、CDR回路を用いるPONシステムのデータ転送効率の向上およびダイナミックレンジの向上に寄与することができる。
【0017】
また、本発明では、mを2以上とすることにより、再生クロックのジッタをより一層低減することが可能になる。
【0018】
また、本発明では、第3のバッファ増幅器または第3の減衰器を設け、mを2以上とすることにより、再生クロックのジッタをより一層低減することが可能になる。
【0019】
また、本発明では、第3のバッファ増幅器または第3の減衰器を設け、mを3以上とすることにより、再生クロックのジッタをより一層低減することが可能になる。
【0020】
また、本発明では、第3の電圧制御発振器と周波数比較器とを用いて、周波数制御信号を、第1の電圧制御発振器とm個の第2の電圧制御発振器のうち少なくとも1つに供給する構成において、第3の電圧制御発振器の出力信号を1/nに分周する分周器を設けることにより、周波数比較器に要求される動作速度を緩和できるため、周波数比較器の消費電力を削減することができ、その結果としてCDR回路の消費電力を削減することができる。
【0021】
また、本発明では、バッファ増幅器または減衰器のうち少なくとも1つを、可変利得増幅器または可変減衰器とすることにより、入力データの位相情報に対するCDR回路の応答時間とジッタの抑圧度とを個別に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るCDR回路におけるVCOの構成の1例を示す回路図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図である。
【図7】従来のCDR回路の構成を示すブロック図である。
【図8】従来の別のCDR回路の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図である。本実施の形態のCDR回路は、周波数比較器2と、F/F3と、ゲーティング回路10と、VCO11,12,13と、バッファ増幅器16,17とから構成される。図8に示した従来のCDR回路との相違は、ゲーティング回路10の出力端子10cとVCO11の入力端子11aとの間にもバッファ増幅器16を設けたことである。
【0024】
ゲーティング回路10は、入力データ4が「0」から「1」に遷移したときに、例えば幅がT/2(Tは入力データ4の周期)のパルスを出力する。あるいは、ゲーティング回路10は、入力データ4が「1」から「0」に遷移したときにパルスを出力してもよい。こうして、ゲーティング回路10は、入力データ4のエッジを検出し、エッジパルスを生成する。ゲーティング回路10の出力パルスは、バッファ増幅器16の入力端子に入力される。
【0025】
VCO11の出力クロックの位相は、ゲーティング回路10からバッファ増幅器16を介して入力されるパルスにより制御される。すなわち、VCO11は、バッファ増幅器16から例えば値が「0」のパルスが出力されたときはリセットされ「0」を出力し、パルスの出力が終了してバッファ増幅器16の出力が「1」になった途端に発振を始め、バッファ増幅器16の出力が「1」の間は発振を続ける。こうして、VCO11においては、出力クロックの位相が入力データ4の位相と合うように調整される。
【0026】
VCO11の出力クロックは、出力端子11cから出力され、バッファ増幅器17を介してVCO13の入力端子13aに入力される。したがって、VCO13から出力される再生クロック7の位相は、VCO11の出力クロックの位相と合うように(すなわち、入力データ4の位相と合うように)調整される。ここで、図8に示した従来例と同様に、バッファ増幅器17を設けることにより、VCO13に入力されるクロックのジッタを低減することができるようになっている。なお、バッファ増幅器17としては、好ましくはその駆動力がVCO13の最終段のバッファ(後述する図2の例ではインバータ132)の駆動力よりも弱いものを用いればよい。
【0027】
データ識別回路となるF/F3は、入力データ4を再生クロック7の所定のタイミング(例えば再生クロック7の立ち上がり)でリタイミングして、再生データ6を出力する。
一方、VCO12と周波数比較器2とは、周波数制御回路を構成しており、入力データ4のデータレートと等しい周波数の参照クロック5と同じ周波数で発振している。
【0028】
周波数比較器2の出力端子2cから出力される制御信号8は、VCO12の周波数制御端子12bに供給されると同時に、VCO11,13の周波数制御端子11b,13bにも供給される。VCO11、VCO13およびVCO12は同じ回路構成であるため、同一の制御信号8が供給されると同一の周波数で発振する。したがって、VCO12の発振周波数と再生クロック7の周波数とが同じになるように制御される。このようなVCO11,12,13は、好ましくは非特許文献2に開示されたゲーティッドVCOで構成される。VCO11,12,13は、例えば多段の可変遅延インバータで構成される通常のリング発振回路中に、発振開始のタイミングを制御できるゲート回路を備えて構成される。
【0029】
図2はVCO11,13の構成の1例を示す回路図である。VCO11は、一方の入力端子がVCO11の入力端子11aに接続され、他方の入力端子にVCO11の出力が入力されるNAND110と、NAND110の出力を入力とするインバータ111と、インバータ111の出力を入力とし、出力端子がVCO11の出力端子11cに接続されたインバータ112と、一端がインバータ111の出力端子およびインバータ112の入力端子に接続され、容量制御端子(図示せず)がVCO11の周波数制御端子11bに接続された可変容量113とから構成される。
【0030】
VCO13は、一方の入力端子がプルアップされ、他方の入力端子がVCO13の入力端子13aおよび出力端子13cに接続されたNAND130と、NAND130の出力を入力とするインバータ131と、インバータ131の出力を入力とし、出力端子がVCO13の出力端子13cに接続されたインバータ132と、一端がインバータ131の出力端子およびインバータ132の入力端子に接続され、容量制御端子(図示せず)がVCO13の周波数制御端子13bに接続された可変容量133とから構成される。VCO13は、このようにNAND130の入力の一方にVCO11から出力されるクロックとVCO13自身の再生クロックが同時に入力されるように構成される。さらにNAND130からこの合成された信号が常時VCO13のコア(図2ではインバータ131とインバータ132)に入力されるように構成されている。この構成により、VCO13からはVCO11の出力クロックに同期した再生クロック7、つまり入力データ4の位相と同期した再生クロック7が出力される。
【0031】
VCO12もVCO11,13と同じ回路構成で実現できる。ただし、VCO12の場合、入力段のNANDの一方の入力端子がプルアップされ、NANDの他方の入力端子にはVCO12の出力クロックのみが入力されるようにしておけばよい。
【0032】
図8に示した従来のCDR回路のように1個のバッファ増幅器15を用いる場合には、バッファ増幅器15の駆動力がVCO13の最終段のバッファ(図2の例ではインバータ132)の駆動力よりも弱めれば弱めるほどジッタを低減することができる。しかし、バッファ増幅器15の動作が電源電圧変動や環境温度変動などの外乱の影響を受けて不安定になることがあるので、電源電圧変動や環境温度変動があった場合でも安定的に位相同期を確保しようとすると、バッファ増幅器15の駆動力をある程度以上に保たなければならない。その理由は、ジッタを抑圧するためにバッファ増幅器15の駆動力を弱めすぎると、VCO13がフリーラン状態になり、入力データの位相情報がVCO13に伝達されないためである。
【0033】
これに対して、本実施の形態では、ジッタの多い入力データ4が入力された場合、ゲーティング回路10から出力されるエッジパルスには従来例と同様にほぼそのままジッタが残ってしまうが、バッファ増幅器16を設けることにより、VCO11へのジッタ伝達を低減することが可能になる。なお、バッファ増幅器16としては、好ましくはその駆動力がVCO11の最終段のバッファ(図2の例ではインバータ112)の駆動力よりも弱いものを用いればよい。したがって、VCO11に入力される時点でエッジパルスのジッタを低減することが可能になるので、バッファ増幅器17の効果と合わせて図8に示した従来のCDR回路と比較して、VCO13から出力される再生クロック7のジッタを大幅に低減することが可能になる。ここで、バッファ増幅器16,17のそれぞれの駆動力をバッファ増幅器15の駆動力の2倍程度にした場合、つまり、それぞれの減衰量をバッファ増幅器15の半分程度にした場合でも、図8に示した従来のCDR回路とほぼ同等のジッタ抑圧効果を期待できる。このように、バッファ増幅器16,17の駆動力を増加させることができるため、電源電圧変動や環境温度変動があった場合でも、安定的に位相同期を確保できるマージンを増大させた上で、ジッタを低減することが可能になる。
【0034】
なお、後述する第2の実施の形態のように、バッファ増幅器16を減衰器に置き換えてもよい。受動素子で構成できる減衰器は、消費電力がゼロでかつ非常に小型に構成できるという利点がある。また、減衰器は減衰量を高精度に設定できるとともにバッファ増幅器と比較して高歩留まりであり、電源電圧や環境温度に対する減衰量の変動も小さいため、CDR回路の一層の高安定動作を実現することができる。
【0035】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図3は本発明の第2の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、第1の実施の形態の変形例であり、ゲーティング回路10とVCO11との間のバッファ増幅器16を減衰器30に置き換えたものである。
【0036】
本実施の形態では、減衰器30として、抵抗素子などの受動素子を用いている。受動素子で構成できる減衰器30は、消費電力がゼロでかつ非常に小型に構成できるという利点がある。また、減衰器30は減衰量を高精度に設定できるとともにバッファ増幅器と比較して高歩留まりであり、電源電圧や環境温度に対する減衰量の変動も小さいため、CDR回路の一層の高安定動作を実現することができる。
【0037】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図4は本発明の第3の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図であり、図1、図3と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、第1の実施の形態の別の変形例であり、ゲーティング回路10とVCO11との間のバッファ増幅器16を減衰器30に置き換えると共に、VCO11とVCO13との間のバッファ増幅器17を減衰器31に置き換えたものである。これにより、本実施の形態では、第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0038】
なお、第2、第3の実施の形態に例示した減衰器30,31は、例えば可変抵抗素子などからなる可変減衰器であっても構わない。この場合、可変減衰器の減衰量を調整することにより、入力データ4の位相情報に対するCDR回路の応答時間とジッタの抑圧度とを個別に調整することができる。
【0039】
また、第1〜第3の実施の形態において、後述する第4の実施の形態と同様に、VCO12の出力信号を1/n(nは正の整数)に分周する分周器を設け、この分周器の出力を周波数比較器2の入力端子2bに入力する構成とし、入力データ4のデータレートの1/nの周波数の参照クロック5を使用するようにしてもよい。この場合、周波数比較器2に要求される動作速度を緩和できるため、周波数比較器2の消費電力を削減することができ、結果としてCDR回路の消費電力を削減することができる。
【0040】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図5は本発明の第4の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図であり、図1、図3、図4と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、第1の実施の形態のCDR回路において、バッファ増幅器16を取り除いた上で、VCO11とVCO13との間にVCO14を設け、VCO11の出力端子11cとVCO14の入力端子14aとの間に減衰器32を設け、VCO14の出力端子14cとVCO13の入力端子13aとの間に減衰器33を設け、さらにVCO12の出力端子12cと周波数比較器2の入力端子2bとの間に分周器25を設けたものである。
【0041】
本実施の形態では、2個の減衰器32,33を用いる構成なので、減衰器32,33のそれぞれの減衰量をバッファ増幅器15の減衰量の1/2程度にした場合でも、図8に示した従来のCDR回路とほぼ同等のジッタ抑圧効果を期待できる。このように、バッファ増幅器15と比較して減衰器32,33の減衰量を1/2程度に減らすことは、電源電圧変動や環境温度変動があった場合でも、安定的に位相同期を確保できるマージンを増大させることができることを意味する。
【0042】
また、本実施の形態では、VCO12の出力信号を1/nに分周する分周器25を設け、この分周器25の出力を周波数比較器2の入力端子2bに入力する構成とし、入力データ4のデータレートの1/nの周波数の参照クロック5を使用する構成となっている。これにより、周波数比較器2に要求される動作速度を緩和できるため、周波数比較器2の消費電力を削減することができ、結果としてCDR回路の消費電力を削減することができる。
【0043】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。図6は本発明の第5の実施の形態に係るCDR回路の構成を示すブロック図であり、図1、図3、図4、図5と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、第1の実施の形態のCDR回路においてVCO11とVCO13との間にVCO14を設け、VCO11の出力端子11cとVCO14の入力端子14aとの間に減衰器32を設け、VCO14の出力端子14cとVCO13の入力端子13aとの間に減衰器33を設け、さらにVCO12の出力端子12cと周波数比較器2の入力端子2bとの間に分周器25を設けたものである。
【0044】
本実施の形態では、1個のバッファ増幅器16と2個の減衰器32,33を用いる構成なので、バッファ増幅器16および減衰器32,33のそれぞれの減衰量をバッファ増幅器15の減衰量の1/3程度にした場合でも、図8に示した従来のCDR回路とほぼ同等のジッタ抑圧効果を期待できる。このように、バッファ増幅器15と比較してバッファ増幅器16および減衰器32,33の減衰量を1/3程度に減らすことは、電源電圧変動や環境温度変動があった場合でも、安定的に位相同期を確保できるマージンを増大させることができることを意味する。
【0045】
また、本実施の形態では、VCO12の出力信号を1/nに分周する分周器25を設け、この分周器25の出力を周波数比較器2の入力端子2bに入力する構成とし、入力データ4のデータレートの1/nの周波数の参照クロック5を使用する構成となっている。これにより、周波数比較器2に要求される動作速度を緩和できるため、周波数比較器2の消費電力を削減することができ、結果としてCDR回路の消費電力を削減することができる。
【0046】
なお、減衰器32,33の一方または両方をバッファ増幅器に置き換え、バッファ増幅器16を減衰器に置き換えた構成であっても構わない。
また、第1〜第5の実施の形態に例示した減衰器、バッファ増幅器は、それぞれ可変減衰器、可変利得増幅器であっても構わない。
また、第5の実施の形態に限定されず、さらにバッファ増幅器または減衰器とVCOとを縦続接続した構成であっても構わない。また、バッファ増幅器あるいは減衰器の一部を除去した構成であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、入力データに対して位相同期したクロックを再生し、このクロックにより入力データのリタイミングを行う技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
2…周波数比較器、3…フリップフロップ、4…入力データ、5…参照クロック、6…再生データ、7…再生クロック、8…制御信号、10…ゲーティング回路、11,12,13,14…VCO、16,17…バッファ増幅器、25…分周器、30,31,32,33…減衰器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力データが遷移したときにパルスを出力するゲーティング回路と、
このゲーティング回路の出力パルスのタイミングに合うように再生クロックの位相を調整することにより、前記入力データとタイミングの合った再生クロックを出力する第1の電圧制御発振器と、
前記入力データのデータ識別を前記再生クロックに基づいて行うデータ識別回路と、
前記ゲーティング回路の出力端子と前記第1の電圧制御発振器の入力端子との間に設けられた、m個(mは正の整数)の第2の電圧制御発振器と、
前記ゲーティング回路の出力端子と前記m個の第2の電圧制御発振器のうち初段の電圧制御発振器の入力端子との間に設けられた、第1のバッファ増幅器または第1の減衰器と、
前記m個の第2の電圧制御発振器のうち1個の電圧制御発振器の後段に設けられた、第2のバッファ増幅器または第2の減衰器とを備えることを特徴とするCDR回路。
【請求項2】
請求項1に記載のCDR回路において、
前記mは2以上であることを特徴とするCDR回路。
【請求項3】
請求項2に記載のCDR回路において、
さらに、第3のバッファ増幅器または第3の減衰器を備え、
前記第3のバッファ増幅器または第3の減衰器は、前記第2のバッファ増幅器または第2の減衰器がその後段に接続された前記第2の電圧制御発振器とは異なる前記第2の電圧制御発振器の後段に設けられることを特徴とするCDR回路。
【請求項4】
請求項2に記載のCDR回路において、
さらに、第3のバッファ増幅器または第3の減衰器を備え、
前記mは3以上であり、前記第3のバッファ増幅器または第3の減衰器は、前記第2のバッファ増幅器または第2の減衰器がその後段に接続された前記第2の電圧制御発振器とは異なる前記第2の電圧制御発振器の後段に設けられることを特徴とするCDR回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のCDR回路において、
さらに、第3の電圧制御発振器と、
参照クロックと前記第3の電圧制御発振器の出力信号とを比較して周波数制御信号を前記第3の電圧制御発振器に供給する周波数比較器とを備え、
前記周波数比較器は、前記周波数制御信号を、前記第1の電圧制御発振器と前記m個の第2の電圧制御発振器のうち少なくとも1つにも供給することを特徴とするCDR回路。
【請求項6】
請求項5に記載のCDR回路において、
さらに、前記第3の電圧制御発振器の出力信号を1/n(nは正の整数)に分周する分周器を備え、
前記周波数比較器は、所望のデータレート周波数の1/nの周波数の前記参照クロックと前記分周器の出力とを比較して前記周波数制御信号を出力することを特徴とするCDR回路。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のCDR回路において、
前記バッファ増幅器または減衰器のうち少なくとも1つは、可変利得増幅器または可変減衰器であることを特徴とするCDR回路。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のCDR回路において、
前記電圧制御発振器を全て同一構成としたことを特徴とするCDR回路。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のCDR回路において、
前記電圧制御発振器は、ゲーティッド電圧制御発振器であることを特徴とするCDR回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−155563(P2011−155563A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16508(P2010−16508)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】