説明

X線撮像装置

【課題】X線イメージングにおける解像度を改善する技術を提供すること。
【解決手段】X線撮像装置1は、スピン固定層11と、非磁性中間層12と、スピンフリー層13とが積層されたスピン注入磁化反転素子6を画素として備え、2次元アレイ上に設けられた複数の画素と、上部電極9と、下部電極8とを有して、スピンフリー層13側から単色円偏光X線ビームを受光する受光画素部2と、磁化反転させるスピン注入磁化反転素子6を選択すると共に、受光画素部2の受光面に亘って画素を走査する画素選択手段と、上部電極9および下部電極8を介してスピン注入磁化反転素子6に流れる電流の方向とその大きさを制御して、スピンフリー層13にスピン注入することで、スピンフリー層13の磁化方向を反転させる磁化反転電流注入手段と、選択されたスピン注入磁化反転素子6がX線を吸収することによって発生する電流の値を検出する信号電流検出処理部4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮像装置に関し、特に、画素として磁化反転素子を備えたX線撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のX線イメージング法は、1)フィルムによる感光、2)光電変換膜における光励起キャリアの生成、3)輝尽性蛍光体のX線による励起と読み出し光による発光の利用(イメージングプレート:IP)の3つの方法に大別できる。なお、X線検出手段として、感光性フィルム、イメージングプレート、複数の光電変換素子で構成されるX線検出センサのいずれかを備えるX線画像撮影装置が、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
1)の方法であるフィルムでは、X線に感度をもつ銀塩結晶粒を塗布した膜の感光作用を利用する方法でこれまで最も多用されてきている。フィルムには、現像プロセスが必要であるので、このX線イメージング法では、動的な観察はできないし、特に医療においては多量のX線フィルムデータの保存が必要になる。
【0004】
2)の方法では、X線CCD(あるいはCMOS)、X線撮像管、X線フラットパネルディテクタなどが実用化されている。X線CCDやX線撮像管は、シリコンフォトダイオードでX線を直接吸収させて通常の可視光CCDと同様の機構で動作させる方式と、X線を一旦可視光に変換してからシリコンフォトダイオードや可視光撮像管の光電変換膜に可視光像を入射させる方式がある。このうち、CCDでは、ゲート絶縁膜や界面近傍にX線が入射して雑音を発生しないようにX線遮蔽を施すなどの工夫が必要である。
【0005】
また、X線撮像管では、光電変換膜に酸化鉛(PbO)を用いるものと、非晶質セレン(Se)を用いるものとがある。通常の可視光の撮像管ではフェースプレートにガラス板を用いるのに対して、X線用ではX線に透過なベリリウム(Be)のフェースプレートを用いる。X線撮像管の基本動作は、可視光用撮像管と同じであるが、SeでもX線エネルギーによっては吸収が充分ではないので、光電変換膜はできるだけ厚い方が高感度である。
【0006】
また、X線フラットパネルディテクタは、ガラス板面上に撮像管の光電変換膜としての非晶質Seから成る各画素と、画素信号の読み出し用として画素毎に設けたシリコンTFT(Thin Film Transistor)とを備えた構造である。X線フラットパネルディテクタによるX線イメージング法は、非晶質Se撮像管の電子銃による読み出しをTFTアレイで行うもので固体における画素選択機構と撮像管光電変換機能を合わせたようなものである。
【0007】
3)の方法のイメージングプレート(IP)では、輝尽性蛍光体が、ある波長範囲の光(X線など)を受けると電子をFセンターに捕獲し、次に、第1の波長より長い波長の光(市販の装置ではHe−Neレーザ633[nm]の光)で輝尽性蛍光体を刺激すると、捕獲された電子が伝導体に励起され正孔と再結合し、特定の波長で発光するという現象を利用する。ここで、輝尽性発光体としては、例えばBaFBr:Eu2+(蛍光体)などがある。この材料を用いると、ほぼ可視光領域の光刺激により、390[nm]付近で発光する。また、大画面にできるという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−73706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の種々のX線イメージング法にはそれぞれ長所および短所があるので、使用目的によって選択される。ここで、先ほどの3つのイメージング法を説明の都合上、便宜的に2つのグループに分ける。まず、第1のグループとして、前記の2)の方法で例示した従来のX線CCD(あるいはCMOS)やX線撮像管の短所は、イメージングの視野が精々1インチ(=25.4[mm])φ程度に限られることである。しかし、これらについては、以下の長所がある。すなわち、解像度は、直接撮像するX線CCDでは2〜3[μm]、一旦可視光に変換するタイプでは10数[μm]程度、X線撮像管では〜10[μm]程度である。また、感度については、X線撮像管では、内部量子効率が1以上になる高感度化が達成されている。X線CCDでも量子効率は1に近づいている。さらに、CCDも撮像管も可視光用の応用であるので、テレビレートでのイメージングができる特長がある。
【0010】
一方、第2のグループとして、前記の1)の方法で例示したX線フィルム、前記の3)の方法で例示したIP、前記の2)の方法で例示したX線フラットパネルディテクタの長所は、イメージングの視野が、十数インチ程度にまで大きくとることができるという点である。しかし、これらについては、以下の短所がある。すなわち、解像限界は、現状では50[μm]程度であり、CCDや撮像管などの撮像素子に比べるとかなり低い。また、X線フィルムでは現像プロセスが必要である。また、IPでは、第2の読み出し光で画面を走査して発光させるので、テレビレートの時間解像度は得られない。ただし、IPの感度は、従来から使用されてきたX線フィルムと比較すると2桁程度高い。また、X線フィルムでは計測可能強度範囲がおおよそ3桁程度であるが、IPは5桁の範囲で線量と比例している。
【0011】
以上のような相補的な特性から、現状では、第1のグループのX線CCDやX線撮像管は、結晶欠陥や固体の構造解析など主として科学計測用に用いられている場合が多い。
また、第2のグループとしてのX線フィルム、IP、X線フラットパネルディテクタなどは主として大画面性のために医療用に用いられる場合が多い。
【0012】
また、第1および第2のグループのように単純に区分できない方法として、X線像を大画面の蛍光体膜で可視光に変換し、そこで得られる大画面の可視光像を可視光用の撮像管や固体撮像素子で再撮像して両者の特性を合体した方法も開発されている。
【0013】
しかし、例えば乳がんのX線画像検診などにおいては、極力微細な石灰化領域を検出することが治癒率改善に必須であり、前記したイメージング法は解像度の点でいずれも不充分である。また構造解析などの科学計測のX線イメージングでもサブミクロンの解像度が要望されている。
【0014】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、X線イメージングにおける解像度を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記目的を達成するために創案されたものであり、まず、請求項1に記載のX線撮像装置は、磁化方向が固定された磁化固定強磁性層と、磁化方向が反転可能な磁化反転強磁性層と、前記磁化固定強磁性層と磁化反転強磁性層との中間に配置された非磁性中間層とを含む3層以上が積層された磁化反転素子を画素として備え、前記画素に磁化反転強磁性層側から入射する単色円偏光X線ビームを撮影するX線撮像装置であって、受光画素部と、素子選択走査手段と、電流制御手段と、電流検出手段とを備えることとした。
【0016】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、受光画素部に、2次元アレイ状に設けられた前記複数の磁化反転素子と、前記磁化反転素子のX線入射側に配置された上部電極と、前記磁化反転素子のX線入射方向の反対側に配置された下部電極とを有して前記単色円偏光X線ビームを受光する。そして、X線撮像装置は、素子選択走査手段によって、前記磁化反転素子に対応した上部電極および下部電極の組み合わせを選択することにより、前記選択された組み合わせの上部電極および下部電極に挟まれて配置された磁化反転素子を、磁化方向を反転させる磁化反転素子として選択すると共に、前記受光画素部の受光面に亘って前記複数の磁化反転素子を走査する。そして、X線撮像装置は、電流制御手段によって、前記選択された磁化反転素子に対応した上部電極および下部電極を介して当該磁化反転素子に対して電流源から流す電流の方向とその大きさを制御して、当該磁化反転素子の磁化固定強磁性層から磁化反転強磁性層へスピン偏極電子を注入することで、前記磁化反転強磁性層の磁化方向を反転させる。つまり、受光画素部に設けられた磁化反転素子は、スピン注入磁化反転素子であって、電流制御手段が制御する電流は、磁化を反転させる電流、すなわち、スピン注入電流である。ここで、スピン注入電流は、パルス電流でも直流電流でもよい。そして、X線撮像装置は、電流検出手段によって、前記選択された磁化反転素子がX線を吸収することによって発生する電流の値を検出する。このように、スピン注入によって磁化反転素子を磁化反転させる構造とすることによって、X線イメージングにおける解像度を改善することができる。
【0017】
また、前記目的を達成するために、請求項2に記載のX線撮像装置は、磁化方向が反転可能な磁化反転強磁性層を含む1層以上が積層された磁化反転素子を画素として備え、前記画素に磁化反転強磁性層側から入射する単色円偏光X線ビームを撮影するX線撮像装置であって、受光画素部と、素子選択走査手段と、磁場制御手段と、電流検出手段とを備えることとした。
【0018】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、受光画素部に、2次元アレイ状に設けられた前記複数の磁化反転素子と、前記2次元アレイの行方向に設けられた複数の磁化反転素子から上部絶縁層を介してX線入射側に配置されて各行に沿って行毎に設けられた複数の上部電極と、前記行方向に直交する列方向に設けられた複数の磁化反転素子から下部絶縁層を介してX線入射方向と反対側に配置されて各列に沿って列毎に設けられた複数の下部電極とを有して前記単色円偏光X線ビームを受光する。そして、X線撮像装置は、素子選択走査手段によって、前記上部電極と前記下部電極との組み合わせを選択することにより、前記選択された上部電極と下部電極とが対向して交差する領域にある磁化反転素子を、磁化方向を反転させる磁化反転素子として選択すると共に、前記受光画素部の受光面に亘って前記複数の磁化反転素子を走査する。そして、X線撮像装置は、磁場制御手段によって、前記選択された磁化反転素子を挟んで交差する上部電極および下部電極に対して電流源から流す電流の方向とその大きさをそれぞれ制御することで、前記選択された磁化反転素子に加える磁場の方向とその大きさを制御して、当該磁化反転素子の磁化反転強磁性層の磁化方向を反転させる。つまり、受光画素部に設けられた磁化反転素子は、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)のように、外部磁場により磁化反転する素子であって、磁場制御手段が制御する電流は、外部磁場を誘導する電流、すなわち、磁場反転電流である。この磁場反転電流により誘導された外部磁場により、磁化反転強磁性層の磁化方向が反転する。ここで、磁場反転電流は、パルス電流でも直流電流でもよい。そして、X線撮像装置は、前記選択された磁化反転素子がX線を吸収することによって発生する電流の値を検出する。このように、電流に誘導される磁場によって磁化反転素子を磁化反転させる構造とすることによって、X線イメージングにおける解像度を改善することができる。
【0019】
請求項1または請求項2に記載のX線撮像装置では、偏光X線が、磁化反転素子の磁化反転強磁性層の構成原子の内殻電子を励起する際、磁化方向と入射X線の偏光極性の相違によってX線吸収率が異なることを利用して、所定の磁化反転強磁性層のみ磁化方向を反転させて、反転前後のドレイン電流差を検出することにより所定の画素のみの入射X線吸収強度を得ることができる。また、X線吸収率の相違は、磁化反転強磁性層を構成する原子の内殻電子の励起において、入射偏光X線の極性、磁化反転強磁性層の磁化方向、および内殻電子が励起される原子に依存して、電気双極子遷移の遷移則と3d空準位状態で決まる。ここで、磁化反転する磁化反転素子を順次選択することは、通常の可視光用の固体撮像素子の画素走査に対応する。
【0020】
また、請求項3に記載のX線撮像装置は、請求項1に記載のX線撮像装置において、前記上部電極が、それぞれが前記2次元アレイの行方向の電極線として設けられ、前記下部電極が、それぞれが前記2次元アレイの列方向の電極線として設けられていることとした。
【0021】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、素子選択走査手段が、相互に直交配置された行方向の電極と列方向の電極との間に電圧を印加することで、磁化方向を反転させることができる。
【0022】
また、請求項4に記載のX線撮像装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のX線撮像装置において、前記受光画素部の上部電極が、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、銅(Cu)、グラファイト(C)およびダイアモンド(C)から構成される群から選択された少なくとも1つの材料から形成されていることとした。
【0023】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、X線の透過性が高いアルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、銅(Cu)、グラファイト(C)およびダイアモンド(C)から構成される群から選択された少なくとも1つの材料で上部電極が形成されているので、受光画素部に入射するX線が、上部電極にほとんど吸収されることなく、磁化反転素子に入射することが可能となる。
【0024】
また、請求項5に記載のX線撮像装置は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のX線撮像装置において、前記受光画素部には、前記複数の磁化反転素子間を電気的かつ磁気的に絶縁する絶縁部材が介挿されていることとした。
【0025】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、受光画素部において、隣り合う磁化反転素子が相互に電気的かつ磁気的に絶縁されているので、各磁化反転素子を独立に磁化反転させることができる。ここで、磁化反転した磁化反転素子に入射する単色円偏光X線ビームの吸収率と、磁化反転していない磁化反転素子に入射する単色円偏光X線ビームの吸収率とは異なる。つまり、磁化反転素子の組み合わせとして、互いに異なる吸収率で単色円偏光X線を吸収する組み合わせを選択することができる。
【0026】
また、請求項6に記載のX線撮像装置は、請求項2または請求項3に記載のX線撮像装置において、前記素子選択走査手段が、前記下部電極と前記電流源との間の導通状態と、電気的切断状態との2状態を切り替える下部電極選択部と、前記上部電極の接地状態と、前記上部電極と前記電流源との間の導通状態と、電気的切断状態との3状態を切り替える上部電極選択部とを備え、前記磁化反転素子がX線を吸収する際には、前記上部電極および下部電極をそれぞれ電気的切断状態に切り替え、前記電流検出手段が電流の値を検出する際には、前記選択された磁化反転素子の上部電極を接地状態に切り替え、前記電流検出手段が、前記選択された磁化反転素子がX線を吸収する際に外部に放出した負電荷に対応して内部に蓄積された正電荷を中和するドレイン電流の値を検出することとした。
【0027】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、X線の吸収時には、二次電子やオージェ電子等の負電荷を放出するときに磁化反転素子の磁化反転強磁性層に生じる正電荷を、当該磁化反転強磁性層に蓄積保持することができる。また、選択された磁化反転素子の上部電極を接地した状態に切り替えたときには、内部に蓄積された正電荷を中和するドレイン電流を検出することができる。したがって、磁化反転素子を高速に選択走査すれば、画素信号電流を高速で読み出すことが可能になる。
【0028】
また、請求項7に記載のX線撮像装置は、請求項6に記載のX線撮像装置において、記憶手段と、差分信号検出手段とをさらに備えることとした。
【0029】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、記憶手段に、前記素子選択走査手段で選択された磁化反転素子の磁化反転前後に前記電流検出手段によってそれぞれ検出された電流値を記憶する。そして、X線撮像装置は、差分信号検出手段によって、前記選択された磁化反転素子の磁化反転前後にそれぞれ記憶された電流値の差分を映像信号として検出する。ここで、記憶された電流値の差分は、磁化反転強磁性層の磁化反転前の磁化方向と単色円偏光X線ビームの入射方向とが成す角度で決まる第1のX線吸収率と、当該磁化反転強磁性層の磁化反転後の磁化方向と単色円偏光X線ビームの入射方向とが成す角度で決まる第2のX線吸収率との差分に対応する。そのため、電流検出手段が当該画素におけるX線吸収量を検出することは、記憶された電流値の差分を映像信号として検出することに対応する。また、X線撮像装置は、上部電極の電極列と下部電極の電極列とが直交配置されているので、このX線吸収率差を用いることにより、選択された磁化反転素子に対応して検出されるX線吸収量において、選択された磁化反転素子以外の領域からの影響を取り除くことができる。つまり、当該画素において検出した映像信号は、当該画素以外におけるX線吸収の影響を排除したX線吸収率を反映した映像信号となる。
【0030】
また、請求項8に記載のX線撮像装置は、請求項7に記載のX線撮像装置において、前記単色円偏光X線ビームを前記受光画素部の近傍に導くビームラインを有した入射X線制御手段をさらに備え、前記入射X線制御手段が、放射光源と、二結晶モノクロメータと、移相器と、波長選択手段と、極性選択手段とをさらに備えることとした。
【0031】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、放射光源によって、直線偏光X線ビームを放射する。そして、X線撮像装置は、二結晶モノクロメータによって、前記ビームラインにおいて、前記放射された直線偏光X線ビームから所定のエネルギーを有する単色直線偏光X線ビームを形成する。そして、X線撮像装置は、移相器によって、前記ビームラインにおいて、前記単色直線偏光X線ビームから、所定の円偏光の極性を有する前記単色円偏光X線ビームを形成する。そして、X線撮像装置は、波長選択手段によって、前記所定のエネルギーに対応したX線の波長を選択して設定する。そして、X線撮像装置は、極性選択手段によって、所定のX線の回折角度に対応した円偏光の極性を選択して設定する。そして、この波長選択手段は、前記所定のエネルギーを、前記磁化反転素子の磁化反転強磁性層の材料の構成原子の内殻電子束縛エネルギーに設定することした。これによれば、偏光X線ビームのエネルギーを、磁化反転素子の磁化反転強磁性層の材料の構成原子の内殻電子束縛エネルギーに選んだので、磁化反転強磁性層の磁化反転前後のX線吸収率差を大きくとることができる。
【0032】
また、請求項9に記載のX線撮像装置は、請求項8に記載のX線撮像装置において、前記極性選択手段が、前記素子選択走査手段で選択された磁化反転素子の磁化反転強磁性層の磁化反転前に、前記所定のX線の回折角度として、当該選択された磁化反転強磁性層の磁化方向と前記単色円偏光X線ビームの入射方向とが成す角度を設定することとした。
【0033】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、入射X線制御手段の極性選択手段によって、磁化反転強磁性層の磁化反転前に、回折角度として、磁化反転強磁性層の磁化方向と単色円偏光X線ビームの入射方向とが成す角度を設定する。X線の円偏光の選択した一方の極性においては、磁化反転強磁性層の磁化反転前後の磁化方向がX線の入射方向と成す角度で、X線吸収率の差が決まる。ここで、他方の極性を選択した際には、回折角度として、一方の極性で設定された角度において符号を反転した同じ大きさの角度を設定することもできる。つまり、磁化反転素子の磁化反転強磁性層の磁化反転前後のX線の極性を回折角度の符号を変更して可変できる。そのため、磁化反転強磁性層の磁化反転前後のX線吸収率差を大きくとるための極性と磁化反転との組み合わせを柔軟に設定することができる。
【0034】
また、請求項10に記載のX線撮像装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のX線撮像装置において、前記受光画素部の上部電極が、前記磁化反転強磁性層の表面の一部を露出させるように設けられていることとした。
【0035】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、受光画素部の上部電極に、磁化反転強磁性層の表面の露出部分を設けたことにより、入射X線の吸収効率と、オージェ電子等の二次電子の放出効率とを向上させると共に、X線が電極に入射することで電極に生成される正電荷による雑音を低減できる。
【0036】
また、請求項11に記載のX線撮像装置は、請求項3に記載のX線撮像装置であって、前記受光画素部において、前記上部電極が、前記磁化反転強磁性層の表面の一部を露出させるように設けられ、かつ、前記上部電極と前記磁化反転素子との間に絶縁層を備えることとした。
【0037】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、受光画素部の上部電極に、磁化反転強磁性層の表面の露出部分を設けたことにより、入射X線の吸収効率と、オージェ電子等の二次電子の放出効率とを向上させると共に、X線が電極に入射することで電極に生成される正電荷による雑音を低減できる。また、X線の吸収量を見積もるための電流の検出において、上部電極に繋がる全ての磁化反転素子に蓄積される正電荷の寄与を極力抑えることができる。
【0038】
また、請求項12に記載のX線撮像装置は、請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載のX線撮像装置であって、前記素子選択走査手段が、前記受光画素部の受光面において隣接した複数の磁化反転素子により連結される領域を1まとめに選択し、前記電流制御手段が、前記選択された複数の磁化反転素子の磁化反転強磁性層の磁化方向を同時に反転させ、前記電流検出手段が、前記同時に反転させる複数の磁化反転素子がX線を吸収することによって発生するそれぞれの電流の合計値を前記連結される領域の1まとめの信号電流として検出することとした。
【0039】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、複数の磁化反転素子により連結される領域を1まとめに同時に走査すると、磁化反転素子を1つずつ走査するときと比べて1フレームの走査時間を短縮することができるので、高速に走査を行うことができる。
【0040】
また、請求項13に記載のX線撮像装置は、請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載のX線撮像装置であって、前記X線撮像装置の構成のうち少なくとも前記受光画素部が容器に密閉され、前記容器が、前記受光画素部の受光面に対応した位置に、前記単色円偏光X線ビームを透過する窓を備え、前記容器が真空環境とされているか、または、前記容器に所定のガスが充満していることとした。
【0041】
かかる構成によれば、X線撮像装置は、少なくとも受光画素部が窓付きの容器に密閉され、容器が真空環境とされているか、または、容器に所定のガスが充満しているので、X線がスピンフリー層に入射する際に、オージェ電子や二次電子の放出を容易にすることができる。したがって、選択された磁化反転素子がX線を吸収することによって発生する電流の値を検出し易くなる。そのため、磁化反転前後のX線吸収率差を検出し易くなる。
【0042】
ここで、窓はX線透過率の高いベリリウムなどから構成されることが好ましい。また、容器にガスを充填する場合には、X線吸収率の低いヘリウムなどの気体であることが好ましい。また、例えば、軟X線撮像の場合には、少なくともX線撮像装置の受光画素部が容器に密閉される。これにより、軟X線が大気中の酸素や窒素による吸収で大きく減衰することを防止できる。なお、軟X線撮像の場合には、X線の光路および被写体も、真空の密閉環境か、または、所定のガスが充満した密閉環境に置かれる。さらに、例えば、硬X線撮像の場合には、X線撮像装置は受光画素部だけを容器に密閉すれば良い。硬X線撮像の場合には、単色円偏光X線ビームを形成後には、受光画素部以外のX線撮像装置の各部を大気中に暴露することができる。
【発明の効果】
【0043】
請求項1に記載の発明によれば、X線撮像装置は、スピン注入により磁化反転素子の磁化反転強磁性層の磁化方向を反転させて、反転前後のドレイン電流差を検出することにより所定の画素のみの入射X線吸収強度を得ることができる。このように、スピン注入によって磁化反転素子を磁化反転させる構造とすることによって、X線イメージングにおける解像度を改善することができる。
【0044】
請求項2に記載の発明によれば、X線撮像装置は、電流により発生させる磁場により磁化反転素子の磁化反転強磁性層の磁化方向を反転させて、反転前後のドレイン電流差を検出することにより所定の画素のみの入射X線吸収強度を得ることができる。このように、電流磁場によって磁化反転素子を磁化反転させる構造とすることによって、X線イメージングにおける解像度を改善することができる。
【0045】
請求項3に記載の発明によれば、X線撮像装置は、素子選択走査手段によって、相互に直交配置された行方向の電極と列方向の電極との間に電圧を印加することで、磁化方向を高速に反転させることができる。
請求項4に記載の発明によれば、X線撮像装置は、受光画素部に入射するX線が、上部電極にほとんど吸収されることなく、磁化反転素子に入射することが可能となる。
請求項5に記載の発明によれば、X線撮像装置は、各磁化反転素子を独立に磁化反転させることができるので、選択された磁化反転素子が吸収したフォトン数を見積もることができる。
【0046】
請求項6に記載の発明によれば、X線撮像装置は、磁化反転素子のX線吸収時と、ドレイン電流検出時に配線を切り替えることで、磁化反転素子が吸収したフォトン数を見積もることができる。
請求項7に記載の発明によれば、X線撮像装置は、磁化反転素子の磁化反転前後にドレイン電流を検出するので、検出した電流は、当該画素のX線吸収率を反映した映像信号となる。
【0047】
請求項8に記載の発明によれば、X線撮像装置は、入射する偏光X線ビームのエネルギーを、磁化反転強磁性層の材料の構成原子の内殻電子束縛エネルギーに選んだので、X線検出感度が向上する。
請求項9に記載の発明によれば、X線撮像装置は、磁化反転前後のX線吸収率差を大きくとるので、X線検出感度が向上する。
請求項10または請求項11に記載の発明によれば、X線撮像装置は、上部電極に露出部分があるので、X線検出感度が向上する。
請求項12に記載の発明によれば、X線撮像装置は、高速に走査を行うことができる。
請求項13に記載の発明によれば、X線撮像装置は、磁化反転素子がX線を吸収することによって発生する電流の値を検出し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のX線撮像装置の構成を模式的に示す概念図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るX線撮像装置の受光画素部の上面を模式的に示す概念図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るX線撮像装置が備える入射X線制御手段を模式的に示す概念図である。
【図4】図3に示したX線撮像装置の受光画素部の断面を模式的に示す概念図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るX線撮像装置によるX線検出原理を示す図であって、(a)はX線照射時、(b)は、X線検出時をそれぞれ示している。
【図6】本発明の第1実施形態に係るX線撮像装置において選択した画素から画素信号を検出する原理を示す図であって、(a)は磁化反転前、(b)は、磁化反転後をそれぞれ示している。
【図7】本発明の第1実施形態に係るX線撮像装置の駆動タイミングの一例を示す図であって、(a)は画素配列、(b)は磁化反転パルス、(c)はドレイン検出パルスをそれぞれ示している。
【図8】本発明の第2実施形態に係るX線撮像装置の受光画素部を模式的に示す概念図であって、(a)は上面図、(b)は下部電極の長手方向の直線上における断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係るX線撮像装置の受光画素部を模式的に示す概念図であって、(a)は上面図、(b)は下部電極の長手方向の直線上における断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係るX線撮像装置の受光画素部の断面を模式的に示す概念図である。
【図11】本発明の第5実施形態に係るX線撮像装置の受光画素部の断面を模式的に示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図面を参照して本発明のX線撮像装置を実施するための形態(以下「実施形態」という)について詳細に説明する。以下では、まず、本発明のX線撮像装置の概要を説明し、次に、第1〜第6実施形態に係るX線撮像装置を順次説明することとする。
【0050】
[X線撮像装置の概要]
図1に示すX線撮像装置1は、スピン注入型の磁化反転素子(以下、スピン注入磁化反転素子という)を画素として備え、画素に入射する画像情報を有するX線ビームを撮影するものであり、受光画素部2と、画素選択走査機構3と、信号電流検出処理部4とを備えている。なお、図1では、受光画素部2の入射面を上に向けた状態の断面を示した。
【0051】
受光画素部2は、X線ビームを受光するものであり、基板5と、スピン注入磁化反転素子6と、絶縁部材7と、下部電極8と、上部電極9とを備えている。スピン注入磁化反転素子6は、基板5側から、下部電極8を介して、スピン固定層11と、非磁性中間層12と、スピンフリー層13とをこの順番に備えて断面柱状に形成されている。ここでは、上部電極9が、スピン注入磁化反転素子6のX線入射側に配置され、下部電極8が、その反対側に配置されているものとした。つまり、X線ビームは、上部電極9を介してスピンフリー層13側から入射する。
【0052】
スピン固定層(磁化固定強磁性層)11は、磁化方向が固定された強磁性層である。ここでは、一例として、スピン固定層11の磁化方向は、予め上向きに揃えられているものとした。スピンフリー層(磁化反転強磁性層)13は、磁化方向が反転可能な強磁性層である。ここでは、一例として、スピンフリー層13の磁化方向が上向きのものと、下向きのものとを示した。なお、スピン注入磁化反転素子6は、これら3層以外にスピン固定層11の磁化の固定強化のために他の層を備えていてもよい。
【0053】
この例では、スピン注入磁化反転素子6は、紙面に沿った水平方向に8個設けられているが、その個数はこの限りではない。また、スピン注入磁化反転素子6は、紙面に垂直な方向にも同様に並べられているものとする。つまり、画素としてのスピン注入磁化反転素子6は、2次元アレイ状に設けられている。また、スピン注入磁化反転素子6間には、隣り合ったスピン注入磁化反転素子6間を電気的かつ磁気的に絶縁するための絶縁部材7が介挿されている。
【0054】
ここでは、上部電極9は、それぞれが2次元アレイの行方向の電極線として設けられている。つまり、2次元アレイの行方向に設けられた複数のスピン注入磁化反転素子6の上部電極9は、1つの電極線を形成している。
同様に、下部電極8は、それぞれが2次元アレイの列方向の電極線として設けられている。つまり、2次元アレイの列方向に設けられた複数のスピン注入磁化反転素子6の下部電極8は、1つの電極線を形成している。
図1では、紙面に垂直な方向を2次元アレイの行方向、紙面に沿った水平方向を2次元アレイの列方向とした。なお、上部電極9および下部電極8は、スピン注入磁化反転素子6毎に個別に設けることも可能である。
【0055】
画素選択走査機構3は、受光画素部2の受光面に亘って画素を走査するものである。画素選択走査機構3は、スピン注入磁化反転素子6のスピンフリー層13の磁化方向を反転させる個別の画素も選択する。
【0056】
信号電流検出処理部4は、選択された画素がX線を吸収することによって発生する電流の値を検出するものである。この信号電流検出処理部4は、スピン注入磁化反転素子6のスピンフリー層13のX線吸収量を、選択された画素で発生する電流の値として検出し、出力映像信号を得る。つまり、図1に示すX線撮像装置1は、スピン注入磁化反転素子6を、撮像素子における画素と見做し、X線光子がスピンフリー層13に吸収される際に起こるスピンフリー層13の電気的変化を、映像信号として検出する。
【0057】
(第1実施形態)
ここでは、“X線撮像装置の各部の詳細”、“X線検出基本原理”、“画素選択原理”、動作としての“画素走査と磁化反転の関係の具体例”の各章について説明する。
[X線撮像装置の各部の詳細]
X線撮像装置1の受光画素部2と、画素選択走査機構3と、信号電流検出処理部4の詳細について説明する。以下、画素選択走査機構3、信号電流検出処理部4、後記する入射X線制御手段100および受光画素部2の順序で説明する。
【0058】
画素選択走査機構3と、信号電流検出処理部4の構成例を図2に示す。ここでは、上面から視た受光画素部2を示す。説明の都合上、図2では、受光画素部2は、一例として、3本の下部電極8、3本の上部電極9、3×3の9個の画素20a〜20iを有しているものとしたが、電極や画素の個数はこの限りではない。なお、図2では、上下方向をアレイの行方向、左右方向をアレイの列方向として表示した。また、画素を特に区別しない場合、画素20と表記する。
【0059】
[画素選択走査機構]
画素選択走査機構(素子選択走査手段)3は、図2に示すように、下部電極選択部31と、上部電極選択部32と、磁化反転電流注入手段33と、画素選択手段34とを備えている。
【0060】
下部電極選択部31は、下部電極8とスピン注入電流の電流源との間の導通状態と、電気的切断状態との2状態を切り替えるものである。
本実施形態では、下部電極選択部31は、画素選択手段34からの指令信号でオン/オフを切り替えるスイッチSW1〜SW3を備えている。
スイッチSW1は、画素20a,20d,20gと、磁化反転電流注入手段33との間のオン/オフを切り替えるものである。
スイッチSW2は、画素20b,20e,20hと、磁化反転電流注入手段33との間のオン/オフを切り替えるものである。
スイッチSW3は、画素20c,20f,20iと、磁化反転電流注入手段33との間のオン/オフを切り替えるものである。
【0061】
上部電極選択部32は、上部電極9の接地状態と、上部電極9とスピン注入電流の電流源との間の導通状態と、電気的切断状態との3状態を切り替えるものである。
本実施形態では、上部電極選択部32は、画素選択手段34からの指令信号でオン/オフを切り替えるスイッチSW4〜SW6を備えている。
スイッチSW4は、画素20a,20b,20cと、磁化反転電流注入手段33との間の導通(ON1)、信号電流検出処理部4の画素信号検出手段41との導通(ON2:接地)、オフの3状態を切り替えるものである。
スイッチSW5は、画素20d,20e,20fと、磁化反転電流注入手段33との間の導通(ON1)、画素信号検出手段41との導通(ON2:接地)、オフの3状態を切り替えるものである。
スイッチSW6は、画素20g,20h,20iと、磁化反転電流注入手段33との間の導通(ON1)、画素信号検出手段41との導通(ON2:接地)、オフの3状態を切り替えるものである。
【0062】
つまり、下部電極選択部31のスイッチSW1〜SW3のいずれかと、上部電極選択部32のスイッチSW4〜SW6のいずれかとの組み合わせである9つの組み合わせに対応して、9つの画素20のいずれか(いずれかのスピン注入磁化反転素子6)が選択されることとなる。なお、スイッチは電極や画素の個数に応じて必要な個数だけ設けられる。
【0063】
磁化反転電流注入手段(電流制御手段)33は、電流源を有し、この電流源から、選択された画素(スピン注入磁化反転素子6)に対応した上部電極9および下部電極8を介してスピン注入磁化反転素子6に流れる電流(スピン注入電流)の方向とその大きさを制御して、スピン注入磁化反転素子6のスピン固定層11からスピンフリー層13へスピン偏極電子を注入することで、スピンフリー層13の磁化方向を反転させるものである。すなわち、磁化反転電流注入手段33は、スピン注入磁化反転素子6に磁化反転スピン電流(スピン注入電流)を注入するものである。本実施形態では、磁化反転スピン電流は、パルス電流(磁化反転パルス)であるものとする。なお、パルス電流の代わりに直流電流を用いてもよい。
【0064】
画素選択手段34は、画素に対応した上部電極9および下部電極8の組み合わせを選択することにより、選択された組み合わせの上部電極9および下部電極8に挟まれて配置されたスピン注入磁化反転素子6を、スピンフリー層13の磁化方向を反転させる素子として選択すると共に、受光画素部2の受光面に亘って画素を走査するものである。なお、スピンフリー層13の磁化方向を反転させることを、スピン注入磁化反転素子6を磁化反転させるともいう。
【0065】
本実施形態では、画素選択手段34は、スピン注入磁化反転素子6がX線を吸収する際には、上部電極9および下部電極8をそれぞれ接地させないように保持することとした。また、画素選択手段34は、信号電流検出処理部4で電流の値を検出する際には、選択された画素(スピン注入磁化反転素子6)の上部電極9を接地させるように切り替えることとした。
【0066】
[信号電流検出処理部]
信号電流検出処理部4は、図2に示すように、画素信号検出手段41と、フレームメモリ42と、差分信号検出手段43とを備えている。
画素信号検出手段(電流検出手段)41は、選択されたスピン注入磁化反転素子6がX線を吸収する際に外部に放出した負電荷に対応して内部に蓄積された正電荷を中和するドレイン電流の値を検出するものである。すなわち、画素信号検出手段41は、ドレイン電流を画素電流として検出する。
【0067】
本実施形態では、画素信号検出手段41は、選択されたスピン注入磁化反転素子6の上部電極9を接地することで、そのスピンフリー層13を接地して電界を加える。そのための画素信号検出手段41の構成は、X線磁気円二色性(XMCD:X-ray Magnetic Circular Dichroism)を測定する公知の機器を用いることができる。なお、X線磁気円二色性(XMCD)とは、磁性体のX線吸収確率が円偏光X線の極性に応じて異なることである。
【0068】
フレームメモリ(記憶手段)42は、選択されたスピン注入磁化反転素子6で検出された電流値を記憶するものである。本実施形態では、フレームメモリ42は、選択されたスピン注入磁化反転素子6の磁化反転前後にそれぞれ検出された電流値を記憶することとした。
【0069】
差分信号検出手段43は、選択されたスピン注入磁化反転素子6の磁化反転前後にそれぞれ記憶された電流値の差分を映像信号として検出するものである。この差分信号検出手段43で検出された映像信号は、例えば、液晶ディスプレイ等の表示装置Dに表示される。
【0070】
なお、フレームメモリ42および差分信号検出手段43、あるいは、画素選択手段34は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えた一般的なパーソナルコンピュータ、および、HDD(Hard Disk Drive)に記憶されRAMに展開されるプログラムにより実現することができる。
【0071】
[入射X線制御手段]
本発明のX線撮像装置は、図2に例示した構成で使用できることは勿論であるが、以下では、受光画素部2に入射するX線ビームを制御する構成も備えるものとして説明する。図3に示すX線撮像装置1は、このような構成として、入射X線制御手段100を備えている。
【0072】
X線撮像装置1の入射X線制御手段100は、受光画素部2に入射する入射X線(X線ビーム)のエネルギーを制御すると共に、入射X線の偏光を制御するものである。この入射X線制御手段100は、例えば、市販の卓上型放射光源や、超小型電子蓄積リングを有した産業用小型X線源と、数m程度のビームラインと、ミラー等の光学系とを用いて構築することができる。
【0073】
なお、X線撮像装置1が入射X線制御手段100を備えない場合には、放射光施設を、入射X線制御手段100として利用することができる。ここで、放射光施設とは、例えば、大型放射光施設(SPring-8)や高エネルギー加速器研究機構のPhoton Factory(PF)を示す。入射X線制御手段100に含まれる1つ1つの構成は、放射光施設の設備と同様なものなので、以下では簡単に説明する。
【0074】
入射X線制御手段100は、図3に示すように、シンクロトロン放射光源101と、ビームライン102と、二結晶モノクロメータ103と、移相器104と、波長選択機構105と、極性選択機構106とを備えている。
【0075】
シンクロトロン放射光源(結晶シンクロトロン放射光源)101は、直線偏光白色X線ビームB1を放射するものである。
ビームライン102は、単色円偏光X線ビームB3を被写体Oの近傍に導く。
二結晶モノクロメータ103は、ビームライン102において、放射された直線偏光白色X線ビームB1から所定のエネルギーを有する単色直線偏光X線ビームB2を形成するものである。二結晶モノクロメータ103は、例えば2枚のSi結晶で構成される。
移相器(Phase retarder)104は、ビームライン102において、単色直線偏光X線ビームB2から、所定の円偏光の極性を有する単色円偏光X線ビームB3を形成するものである。この移相器104では、入射角を調節することにより、入射する単色直線偏光X線ビームB2の位相を90度遅らせるか、早めるかで円偏光の極性の正負(右回りか左回り)を決定する。
【0076】
図3では、単色円偏光X線ビームB3が、被写体Oを透過したX線ビームB4として受光画素部2に入射するものとして表した。被写体Oは特に限定されず、また、X線撮像装置1の用途も特に限定されるものではない。例えば、物体表面の構造や、界面の構造を調べる際に利用したり、物体の内部映像を取得するために利用したりすることが可能である。ここで、受光画素部2に入射するX線ビームB4は、図3に示すような被写体Oを透過したX線ビームに限定されず、被写体Oで回折したX線ビームや、被写体Oで反射したX線ビームであってもよい。また、被写体Oがない状態で、移相器104で形成された単色円偏光X線ビームB3を受光画素部2に入射してもよい。このように被写体Oがない場合には、ビームライン102は単色円偏光X線ビームB3を受光画素部2の近傍に導き、X線撮像装置1は、X線ビーム(光源)を撮像することとなる。以下では、被写体Oの有無に関わらず、様々なケースで受光画素部2に入射するX線ビームをすべてX線ビームB4と表記する。
【0077】
波長選択機構(波長選択手段)105は、所定のX線エネルギーに対応したX線の波長を選択して二結晶モノクロメータ103に設定するものである。
本実施形態のX線撮像装置1では、この所定のX線エネルギーを、スピン注入磁化反転素子6のスピンフリー層13の材料の構成原子の内殻電子束縛エネルギーに設定した。
【0078】
極性選択機構(極性選択手段)106は、所定のX線の回折角度に対応した円偏光の極性を選択して移相器104に設定するものである。
本実施形態のX線撮像装置1では、極性選択機構106は、受光画素部2において画素選択手段34で選択された画素のスピンフリー層13の磁化反転前(例えば、図1において下向きの磁化方向(矢印)を有するとする)に、所定のX線の回折角度として、当該選択されたスピンフリー層13の磁化方向と単色円偏光X線ビームB4の入射方向とが成す角度を設定することとした。例えば、磁化方向と入射方向とが平行となるように設定することができる。ここで、スピンフリー層13の磁化反転を行うと(図1において上向きの磁化方向(矢印)を有する)、磁化反転前に設定された前記角度において当該選択されたスピンフリー層13の磁化方向と単色円偏光X線ビームB4の入射方向とは反平行になる。すなわち、極性選択機構106において、所定のX線の回折角度で所定の極性を選択しておけば、スピン注入磁化反転素子6の反転前後で、X線吸収率の大きな差を得ることができる。
【0079】
本実施形態では、極性選択機構106で選択した円偏光の一方の極性を有した単色円偏光X線ビームB4を画素(スピン注入磁化反転素子6)に照射し、そのスピンフリー層13の磁化方向を反転しないときと、反転したときとで、X線吸収率差を得る。これは、X線の入射方向と磁化方向が平行か反平行かが幾何学的には最も大きな磁気円二色性を与えるからである。逆に、磁化方向を一定にしておいて、極性選択機構106側で円偏光の極性を交互に変化させることも考えられる。しかし、この場合には、以下の不都合がある。すなわち、第1に、極性選択機構106の極性の変換には1秒程度の時間がかかるため、実時間撮像には不充分である。第2に、この方式では画素を選択しにくい。
【0080】
図3では、受光画素部2の入射面を左に向けた状態の断面を概念的に示した。また、図3では、図2に示した下部電極選択部31および上部電極選択部32を省略した。この受光画素部2に配設されたスピン注入磁化反転素子6の断面を図4に示した。なお、図4では、受光画素部2のスピン注入磁化反転素子6は、紙面に沿った垂直方向に18個設けられているが、その個数はこの限りではない。
【0081】
図3に示すように、受光画素部2は、基板5上に、磁化反転素子アレイ21と、XY電極アレイ22とを備えている。
磁化反転素子アレイ(画素群)21は、画素としての複数のスピン注入磁化反転素子6を、互いに直交するX軸方向およびY軸方向に沿ってマトリックス状に配設し、絶縁部材7を介設したものである。この磁化反転素子アレイ21によって、X線ビームB4の空間強度分布をX線画像として検出する。
【0082】
XY電極アレイ22は、磁化反転素子アレイ21を間に挟む下部電極アレイ22Xおよび上部電極アレイ22Yを備えている。
下部電極アレイ22Xは、アレイの列方向(X軸方向:図3および図4では紙面に垂直な方向)に延設された複数の下部電極8である。
上部電極アレイ22Yは、アレイの行方向(Y軸方向:図3および図4では紙面に沿った垂直方向)に延設された複数の上部電極9である。
【0083】
受光画素部2がこのように構成されているので、図2に示した画素選択手段34によって、所定のX軸方向の電極線(下部電極8)と、Y軸方向の電極線(上部電極9)とを選ぶことにより、それらの交叉により挟まれたスピン注入磁化反転素子6の磁化反転を磁化反転電流注入手段33(図2参照)によって行うことができる。
【0084】
[受光画素部]
次に、受光画素部2の詳細について図4を参照して説明する。
基板5としては、例えば、シリコン(Si)、酸化シリコン(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、ガラス等が用いられる。また、絶縁部材7は、例えば、SiO2等から構成される。
【0085】
<スピン固定層>
スピン固定層11は、強磁性材料からなり、磁化方向が固定されている層である。強磁性材料としては、金属系ハーフメタルなどスピン分極率の高い材料を用いることが好ましい。例えば、Co2MnAl、Co2MnSi、Co2Cr0.6Fe0.4Al、CoFe、CoFeB、TbFeCo、MnSbなどの大きなスピン偏極率を有する材料が挙げられる。また、酸化物系ハーフメタルとしては、La0.7Sr0.3MnO3、Sr2Fe(W0.4Mo0.6)O6、Sr2FeReO6、CrO2、Fe34などが挙げられる。これらの中でも、強磁性材料として、スピン分極率が高いことが好ましい。さらに、スピン固定層11は、これらの材料の組成の異なる層やIrMnなどのスピン固着層と組み合わせた2〜3層構造であってもよい。このスピン固定層11の膜厚は、数〜数十[nm]程度である。このスピン固定層11は、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法やスパッタ法などによって、下部電極8の上に形成される。
【0086】
<非磁性中間層>
非磁性中間層12は、例えば、Cu等で形成することができる。この非磁性中間層12の膜厚は、偏極スピン電子がトンネルできる厚さ(2〜3[nm])とすることが好ましい。この非磁性中間層12は、MBE法やスパッタ法などによって、スピン固定層11の上に形成することができる。
【0087】
<スピンフリー層>
スピンフリー層13は、強磁性材料から構成され、偏極スピン電子の注入により磁化方向が反転して、反転した場合と反転しない場合とで入射偏光X線の吸収率差を与える層である。強磁性材料は、X線ビームが受光画素部2に対して垂直に入射する場合を想定して、このスピンフリー層13の磁化方向は図1に示すように画素受光面に垂直となるような材料とすることが望ましい。例えば、GdFe、FePt、PtCoなどが挙げられる。スピン注入磁化反転に要する電流を低減できる点では、低飽和磁化および低ダンピング定数でスピン歳差運動の緩和時間が大きく、スピン流が大きくなるような特性を持つ材料が好ましい。このスピンフリー層13の膜厚は、典型的には、数[nm]〜数十[nm]程度である。このスピンフリー層13は、非磁性中間層12の上にMBE法やスパッタ法などによって形成することができる。
【0088】
後記するように、X線撮像装置1においては、磁化反転によるスピンフリー層13のX線吸収率の変調振幅が大きいことが高感度撮像に望ましい。スピンフリー層13のX線吸収率は、入射X線制御手段100によって入射X線のエネルギーと円偏光の極性が決まれば、単色円偏光X線ビームB4の磁化反転素子アレイ21に対する入射方向とスピンフリー層13の磁化の方向との相対角度、スピンフリー層13の厚さと構成元素、などに左右される。X線のエネルギーを、スピンフリー層13を構成する強磁性材料元素の磁気円二色性(MCD)を示す内殻励起エネルギーに相当するように選び、そのスピンフリー層13の磁化の方向が、X線入射方向と平行か反平行になるようにするとX線に対する吸収係数の比が最も大きくなるので、最も大きい強度変調振幅が得られる。
【0089】
このような高感度撮像の観点から、図4に示すスピンフリー層13に適した材料として、FeNi、PtCoなどの強磁性体が挙げられる。このうちのFeNiの磁気円二色性を示す内殻励起エネルギー(L2準位)は、Fe:0.721[keV],Ni:0.871[keV]であるので、撮像に用いるX線のエネルギーとして0.871[keV]を選ぶことにより、FeとNiの両元素の磁化反転に対する最大の吸収率比を利用することができる。すなわち、FeNiは、軟X線撮像装置用のスピンフリー層13の典型的材料と言える。ここで、0.871[keV]は、軟X線のエネルギー領域である。
【0090】
一方、PtCoの磁気円二色性を示す内殻励起エネルギー(L2準位)は、Pt:13.3[keV],Co:0.793[keV]であるので、X線のエネルギーとして13.3[keV]に選ぶことにより、主としてPtの磁化反転に対応する吸収率比を利用することができる。すなわち、PtCoは、硬X線撮像装置用のスピンフリー層13の典型的材料と言える。ここで、13.3[keV]は、硬X線のエネルギー領域である。なお、本実施形態では、一例として、PtCoをスピンフリー層13の材料として用いることとする。
【0091】
<下部電極>
下部電極8は、上部電極9と共に、スピンフリー層13に偏極スピン電子を注入するためのスピン注入用電極を構成する。図4に示すように、磁化反転電流注入手段33によって、下部電極8と上部電極9との間に、下部電極8を負に、上部電極9(透明)を正にするように電圧を印加することによって、スピンフリー層13にスピン偏極電子が注入される。また、スピン注入による磁化反転後、正負逆方向に電圧を印加すれば、スピンフリー層13の磁化方向はスピン注入前の状態に戻る。
【0092】
この下部電極8は、基板5の上に、TaやCrなどの金属材料をスパッタ法などで堆積し、リソグラフィー法などで所望のサイズの電極母線に加工して形成することができる。
また、基板5としてSiやMgOを用いる場合には、電極材料をエピタキシャル成長させて形成することもできる。
【0093】
<上部電極>
上部電極9は、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、銅(Cu)、グラファイト(C)およびダイアモンド(C)から構成される群から選択された少なくとも1つの材料から形成されている。これらの材料は、X線の透過性が高い。すなわち、X線吸収率が小さい材料である。このように入射X線に対して吸収率の小さい材料を用いて上部電極9を形成したので、X線ビームB4は、上部電極9に吸収されずに透過して、スピンフリー層13に効率よく入射する。特に、ベリリウムはX線透過性に優れ、従来、X線源、ビームライン、検出器用の窓として用いられているので好ましい。
【0094】
[X線検出基本原理]
第1実施形態のX線撮像装置1によるX線検出基本原理について図5を参照して説明する。図5では、上部電極9を左側、下部電極8を右側にそれぞれ配置した断面のスピン注入磁化反転素子としての画素20d,20e,20fをスイッチSW1〜SW3と共に示している。すなわち、図5においては、画素20d,20e,20fの左側からX線ビーム(単色円偏光X線ビーム)B4が入射する。ここで、画素20d,20e,20fと、スイッチSW1〜SW3との対応関係は、図2の平面視の概念図に一致している。
【0095】
図5(a)に示すように、下部電極8側の各スイッチSW1〜SW3は、オフ状態となっている。また、図示は省略しているが、上部電極9側の各スイッチ(SW4〜SW6)もオフ状態となっている。つまり、各画素20d,20e,20fにおいて、上部電極9および下部電極8は接地されていない。また、各画素20d,20e,20fにおいて、スピン固定層11の磁化方向は、予め上向き(図5では左向き)に揃えられて固定されているものとした。また、スピンフリー層13の磁化方向が下向き(図5では右向き)に予め揃えられていて反転可能であるものとした。この図5では、右向きがX線の偏光極性に対して吸収率が大きくなる方向であるものとする。なお、スピンフリー層13の磁化方向はこの限りではない。また、図5(a)では、一例として、画素20eが選択されるものとする。
【0096】
このような前提で、図5において左側からX線ビーム(単色円偏光X線ビーム)B4が、下向き(図5では右向き)に磁化されたスピンフリー層13に入射する。スピンフリー層13が、この層を構成する元素の内殻電子束縛エネルギー以上のエネルギーを有するX線光子を吸収すると、その吸収に対応して、負電荷である二次電子501、オージェ電子502、蛍光X線503等を放出する。ここでは、上部電極9と下部電極8が接地されていないものとしたので、外部に放出された電子(負電荷)に対応して、スピンフリー層13には正電荷504が蓄積される。なお、電子放出の脱出深さから、非磁性中間層12やスピン固定層11での正電荷504の蓄積はほとんどないと考えられる。また、図5(a)では、一例として、画素20eに正電荷504が蓄積された状態を示した。
【0097】
次に、選択された画素20eの電流を検出するために、図2に示す画素選択手段34は上部電極選択部32のSW5に対して、画素20eと画素信号検出手段41との導通(ON2:接地)を指示する。すると、図5(b)のように、スピンフリー層13を接地して、これに電界を加え、画素20eの上部電極9が接地される。この接地されたY軸方向の電極線(上部電極9)を通して、画素20eのスピンフリー層13に蓄積された正電荷504を中和するようにドレイン電流IDが流れ、信号電流が画素信号として得られる。このドレイン電流IDは、画素20eのスピンフリー層13が吸収するX線光子に比例すると考えられるので、X線光子の吸収量を、画素信号として検出することができる。
【0098】
ところが、Y軸方向の電極線(上部電極9)を通して得られるドレイン電流IDは、選択した走査(アドレス)中の画素20eのスピンフリー層13で生成される正電荷504を中和する電流だけを含むものではない。この画素20eに繋がる上部電極9自身に生成される正電荷を中和する電流や、この上部電極9に接続される列(2次元アレイの列)全部の画素(ここでは画素20d,20f)に蓄積されている正電荷をそれぞれ中和する電流も含まれる。したがって、得られたドレイン電流IDは、前記した正電荷を中和する電流がすべて加わった総電流として検出される。そのため、得られたドレイン電流IDのうち、走査中の画素20eのみのドレイン電流IDへの寄与を見積もる必要がある。
【0099】
このため、本実施形態では、ドレイン電流検出に際し、走査中の画素20eのスピンフリー層13のX線吸収率だけに変調を加えて、その結果生ずるドレイン電流の変調成分のみを検出することとした。これにより、得られたドレイン電流IDのうち、走査中の画素20e以外からのドレイン電流への寄与を除去して、走査中の画素20eのみのドレイン電流IDへの寄与を見積もることができる。
【0100】
一般に、円偏光X線が入射する磁性体の磁化方向と、入射する円偏光X線の極性と、円偏光X線の入射方向と、磁性体において内殻電子を励起する元素とによって、磁性体のX線吸収率が変わる。
本実施形態のX線撮像装置1で用いるスピンフリー層13の材料である強磁性体の単色円偏光X線の吸収率は、入射する円偏光X線の極性(偏光軸が右回りか左まわりか)と入射方向が決まれば、強磁性体の磁化方向とX線入射方向の相対角度によって変わる。X線吸収率の変化量は、強磁性体の磁化方向がX線の入射方向に対して平行なときのX線吸収率と、反平行なときのX線吸収率との差分をとったときに、最も大きくなる。本実施形態では、X線吸収率の変調方法として、このようにX線磁気円二色性を応用した。
【0101】
例えば、図5においては、X線ビーム(単色円偏光X線ビーム)B4がY軸方向の電極線(上部電極9)を通してスピンフリー層13の表面から垂直に入射する(図5において左側から入射する)。このため、スピンフリー層13の磁化方向がX線ビームB4の入射方向(図5において右向き)に平行(図5において右向き)なときに吸収するX線量と、反平行(図5において左向き)なときに吸収するX線量との差分が最も大きいX線吸収率差を示すことになる。
【0102】
従って、本実施形態では、図5に示す例で走査中の画素20eのドレイン電流検出にあたり、画素20eのスピンフリー層13の磁化方向(画素20eの磁化方向)がX線の入射方向に平行な場合と反平行な場合のドレイン電流をそれぞれ測定し、それぞれの測定値の差を、ドレイン電流の差として検出する。このときに検出したドレイン電流の差は、走査中の画素20eのX線吸収係数変化に基づくものである。そのため、検出したドレイン電流の差においては、画素20eに繋がる上部電極9や、この上部電極9に接続される他の画素20d,20fから流れる電流はキャンセルされる。これは、画素20eに繋がる上部電極9や、この上部電極9に接続される他の画素20d,20fからドレイン電流への寄与分の電流は、画素20eの磁化方向が平行な場合も反平行な場合もそれぞれのドレイン電流へ含まれるけれども、画素20eの磁化方向が平行な場合も反平行な場合も同じだからである。したがって、それぞれのドレイン電流の差分をとれば、走査中の画素20eのX線吸収に比例した映像信号が得られる。第1実施形態のX線撮像装置1では、磁化方向反転によるX線の吸収率の変調を、個々のスピン注入磁化反転素子6毎のスピン注入磁化反転で行うこととした。
【0103】
[画素選択原理]
第1実施形態に係るX線撮像装置1による画素選択原理について図6を参照して説明する。図6(a)および図6(b)は、図5(b)で示した状態と同様な状態を示している。ただし、スイッチSW2がオン状態である点と、各画素20d,20e,20fからドレイン電流が流れている点が図5(b)と異なる。また、図6(a)は第1フレーム、図6(b)は第2フレームをそれぞれ示している。ここでは、一例として、画素20eを選択することとする。
【0104】
第1フレームには、次の3つの段階の処理がある。
(1−1)まず、受光画素部2の全画素(図6では画素20d,20e,20f)のスピンフリー層13をX線入射方向と同じ向き(X線の吸収率が大きくなる方向)に磁化する。
(1−2)そして、各スイッチSW1〜SW3,SW4〜SW6をオフ状態とした上で、受光画素部2にX線ビームB4を照射する(図5(a)参照)。このとき、全画素のスピンフリー層13は、X線を吸収し、これに伴って正電荷504を蓄積する。
(1−3)さらに、上部電極9側のスイッチSW5をオン状態(ON2:接地)に切り替え、画素20eの上部電極9を接地する。そして、画素信号検出手段41は、画素20eの上部電極9およびこの上部電極9に繋がる各画素(図6では画素20d,20e,20f)から流れるドレイン電流ID1を検出する。この検出されたドレイン電流ID1は、第1フレームのドレイン電流としてフレームメモリ42(図2参照)に記憶される。
【0105】
次の第2フレームには、次の3つの段階の処理がある。
(2−1)画素20eのスピンフリー層13の磁化方向を逆向きに反転するために、まず、図6(b)に示すように、スイッチSW2をオン状態とする。さらに、スイッチSW5は、画素20d,20e,20fと、磁化反転電流注入手段33との間の導通(ON1)状態に切り替えられる。これで、下部電極8と上部電極9との交差する領域の画素20eが選択される。そして、図2に示す磁化反転電流注入手段33によって、下部電極8と上部電極9との間に、下部電極8を負に、上部電極9を正にするように電圧を印加することによって、スピンフリー層13にスピン偏極電子が注入される。画素20eのスピンフリー層13の磁化方向が反転したことを、図6(b)において符号601で示す。
【0106】
(2−2)そして、第1フレームと同様に、各スイッチSW1〜SW3,SW4〜SW6をオフ状態とした上で、受光画素部2にX線ビームB4を照射する。ただし、画素20eのスピンフリー層13の磁化方向が反転しているので、第1フレームのときと比較して、X線の偏光極性に対してX線の吸収が小さくなっている。つまり、第2フレームにて画素20eに蓄積される正電荷504の量は、第1フレームにて画素20eに蓄積される正電荷504の量よりも少ない。言い換えると、第2フレームでは、画素20eに蓄積される正電荷504の量が、画素20d,20fに蓄積される正電荷504の量よりも減少する。
【0107】
(2−3)さらに、第1フレームと同様に、上部電極9側のスイッチSW5をオン状態(ON2:接地)に切り替え、画素20eの上部電極9を接地する。そして、画素信号検出手段41は、このとき流れるドレイン電流ID2を検出し、第2フレームのドレイン電流としてフレームメモリ42(図2参照)に格納する。ただし、画素20eのスピンフリー層13の磁化方向が反転しているので、ドレイン電流ID2の値はドレイン電流ID1の値よりも小さい。
【0108】
ここで、ドレイン電流ID1とドレイン電流ID2との差は、上部電極9や他の画素20d,20fにそれぞれ蓄積される正電荷504の寄与を相殺できて画素20eのスピンフリー層13に蓄積された正電荷504にのみ対応したものとなる。すなわち、この電流差は、画素20eに吸収されたX線のフォトン数に比例するので、選択した画素20eに対応した出力映像信号が得られる。
【0109】
なお、第2フレームの後の第3フレームで、画素20eに対して、正負逆方向に電圧を印加すれば、スピンフリー層13の磁化方向はスピン注入前の状態に戻る。このことを図6(a)においてスイッチSW2のオン状態で表した。
【0110】
[画素走査と磁化反転の関係の具体例]
第1実施形態に係るX線撮像装置1において、画素20(スピン注入磁化反転素子6)走査と磁化反転との関係の具体例について図7を参照して説明する。図7(a)、図7(b)および図7(c)は、全体で、画素20(スピン注入磁化反転素子6)走査と磁化反転との関係を示すタイミングチャートになっている。まず、個別の図面を参照して説明する。
【0111】
図7(a)は、上面から視た受光画素部2の画素ブロックを時系列で表したものである示す。この画素ブロックは、2×2の4画素(20a,20d,20b,20e)から成る。画素20a,20d,20b,20eの配列は、図2の平面視の概念図に一致している。図7(a)に示す時間t03は、図7(c)に示す第1フレームに対応している。図7(a)に示す時間t13,t23,t33,t43は、図7(c)に示す第2フレームに対応している。図7(a)に示す時間t53,t63,t73,t83は、図7(c)に示す第3フレームに対応している。
【0112】
以下では、各画素を識別するために次の画素番号(またはアドレス番号)を用いる。画素20aの画素番号を“1”、画素20dの画素番号を“2”、画素20bの画素番号を“3”、画素20eの画素番号を“4”とする。そして、図7(a)において各画素を示す矩形の内部に画素番号を記載した。さらに、その画素番号に正負の符号を付した。ここで、(−)符号は、磁化方向が入射X線の吸収の大きい方向であることを示し、(+)符号は、磁化方向が入射X線の吸収の小さい方向であることを示すものと仮定した。
【0113】
図7(b)は、図4に示す磁化反転電流注入手段33がXY電極アレイ22を通して画素20(スピン注入磁化反転素子6)に与える磁化反転パルス(磁化反転スピン電流)のタイミングチャートを示す。図7(b)に示す時間t12,t22,t32,t42は、図7(a)に示す時間t13,t23,t33,t43のそれぞれの直前を示し、図7(c)に示す第2フレームに対応している。図7(b)に示す時間t52,t62,t72,t82は、図7(a)に示す時間t53,t63,t73,t83のそれぞれの直前を示し、図7(c)に示す第3フレームに対応している。
【0114】
図7(b)において、第2フレームの時間t12,t22,t32,t42の各パルスの上方の負号付きの数字は、磁化方向を反転させるスピン注入磁化反転素子6の画素番号および反転後の磁化方向が入射X線の吸収の大きい方向であることを示す。
また、図7(b)において、第3フレームの時間t52,t62,t72,t82の各パルスの下方の正符号付きの数字は、磁化方向を反転させるスピン注入磁化反転素子6の画素番号および反転後の磁化方向が入射X線の吸収の小さい方向であることを示す。
【0115】
なお、磁化方向が入射X線の吸収の大きい方向である場合、スピン注入磁化反転素子6に対して、例えば、下部電極8を正に、上部電極9を負にするように電圧を印加し、磁化反転パルスのピーク値が正であるものとした。一方、磁化方向が入射X線の吸収の小さい方向である場合、スピン注入磁化反転素子6に対して、例えば、下部電極8を負に、上部電極9を正にするように電圧を印加し、磁化反転パルスのピーク値が負であるものとした。
【0116】
図7(c)は、図2に示す画素選択手段34が上部電極選択部32のスイッチSW4〜SW6に与えるドレイン電流検出パルスのタイミングチャートを示す。このドレイン電流検出パルスは、選択された画素20(スピン注入磁化反転素子6)の上部電極9を選択する上部電極選択部32(図2参照)のスイッチSW4〜SW6に対して、XY電極アレイ22を通して、画素20と画素信号検出手段41との導通状態(ON2:接地)に切り替える指示として、上部電極選択部32のスイッチSW4〜SW6に与えるものである。図7(c)に示す時間t11,t21,t31,t41は、図7(b)に示す時間t12,t22,t32,t42のそれぞれの直前を示し、第2フレームに対応している。図7(c)に示す時間t51,t61,t71,t81は、図7(b)に示す時間t52,t62,t72,t82のそれぞれの直前を示し、第3フレームに対応している。なお、図7(c)において、各パルスの上方の符号付きの数字の意味は、図7(b)に示す符号付きの数字と同じである。
【0117】
続いて、各フレームの各パルス毎の処理を、時系列にしたがって、図7(c)、図7(b)、図7(a)の順番で参照しながら説明する。
<前提>
前提として、図7(c)に示す第2フレームの時間t11以前の第1フレームの最後では、図7(a)に示す時間t03において、画素ブロックの全画素の磁化方向が入射X線の吸収の大きい方向であるものとする。つまり、この例では、全画素が(+)極性になっている時点から処理を開始する。
【0118】
<第2フレーム>
第2フレームでは、第1フレームの期間に画素ブロックに蓄積された全正電荷を、画素ごとに順次読み出す。具体的には、時間t11のパルス期間では、(+)極性である画素番号“1”の画素20a(以下、この状態を単に「+1」と表記する)の画素信号だけを読みとる。また、時間t21のパルス期間では、(+)極性である画素番号“2”の画素20d(以下、この状態を単に「+2」と表記する)の画素信号だけを読みとる。また、時間t31のパルス期間では、(+)極性である画素番号“3”の画素20b(以下、この状態を単に「+3」と表記する)の画素信号だけを読みとる。さらに、時間t41のパルス期間では、(+)極性である画素番号“4”の画素20e(以下、この状態を単に「+4」と表記する)の画素信号だけを読みとる。このような動作を行うために、より詳細には、次のように処理を行う。
【0119】
≪画素番号“1”≫
第2フレームのスタートである時間t11では、第1フレームの期間に蓄積された「+1」の画素信号を読みとるために、図2に示す画素選択手段34が、「+1」に対応したドレイン電流検出パルスを、図2に示すスイッチSW4に印加する。すると、スイッチSW4がON2(接地)の状態となって、画素番号“1”の画素20aの上部電極9が接地される。したがって、画素信号検出手段41が、第1フレームの期間に蓄積された「+1」の画素信号を検出し、フレームメモリ42に格納する。なお、画素(スピンフリー層)に蓄積されていた画素信号を読み出すと、画素に蓄積されていた正電荷はリセットされる。
【0120】
時間t11の直後、図7(b)に示す時間t12において、磁化反転電流注入手段33は、画素番号“1”の画素20aを、(−)極性(以下、この状態を単に「−1」と表記する)にするための磁化反転パルスを画素20a(スピン注入磁化反転素子6)に印加する。
これにより、時間t12の直後、図7(a)に示す時間t13において、画素ブロックのうち、画素番号“1”の画素20aだけ、磁化が反転した「−1」の状態に変換される。
【0121】
≪画素番号“2”≫
図7(c)に示す時間t21では、第1フレームの期間に蓄積された「+2」の画素信号を読みとるために、図2に示す画素選択手段34が、「+2」に対応したドレイン電流検出パルスを、図2に示すスイッチSW5に印加する。すると、スイッチSW5がON2(接地)の状態となって、画素番号“2”の画素20dの上部電極9が接地される。したがって、画素信号検出手段41が、第1フレームの期間に蓄積された「+2」の画素信号を検出し、フレームメモリ42に格納する。
【0122】
時間t21の直後、図7(b)に示す時間t22において、磁化反転電流注入手段33は、画素番号“2”の画素20dを、(−)極性(以下、この状態を単に「−2」と表記する)にするための磁化反転パルスを画素20d(スピン注入磁化反転素子6)に印加する。
【0123】
これにより、時間t22の直後、図7(a)に示す時間t23において、画素ブロックのうち、画素番号“2”の画素20dも磁化が反転した「−2」の状態に変換される。同様に、画素番号“3”の画素20bについても処理され、図7(a)に示す時間t33において、画素ブロックのうち、画素番号“3”の画素20bも磁化が反転した「−3」の状態に変換される。また、同様に、画素番号“4”の画素20eについても処理され、図7(a)に示す時間t43において、画素ブロックのうち、画素番号“4”の画素20eも磁化が反転した「−4」の状態に変換される。これにより、第2フレームの処理がすべて終了したときには、画素ブロックの全画素の磁化方向が入射X線の吸収の小さい方向となる。つまり、この例では、全画素が(−)極性になっている時点から第3フレームの処理を開始することとなる。
【0124】
<第3フレーム>
≪画素番号“1”≫
第3フレームのスタートである時間t51では、第2フレームの期間に蓄積された「−1」の画素信号を読みとるために、図2に示す画素選択手段34が、「−1」に対応したドレイン電流検出パルスを、図2に示すスイッチSW4に印加する。すると、スイッチSW4がON2(接地)の状態となって、画素番号“1”の画素20aの上部電極9が接地される。したがって、画素信号検出手段41が、第2フレームの期間に蓄積された「−1」の画素信号を検出し、フレームメモリ42に格納する。そして、この際に、図2に示す差分信号検出手段43が、フレームメモリ42に既に蓄積されている第1フレームの期間に蓄積された「+1」の画素信号と、第2フレームの期間に蓄積された「−1」の画素信号との差分を検出し、画素番号“1”の画素20aの映像信号を得る。
【0125】
時間t51の直後、図7(b)に示す時間t52において、磁化反転電流注入手段33は、画素番号“1”の画素20aを、「+1」にするための磁化反転パルスを画素20a(スピン注入磁化反転素子6)に印加する。これにより、時間t52の直後、図7(a)に示す時間t53において、画素ブロックのうち、画素番号“1”の画素20aだけ、磁化方向が反転して「+1」の状態に戻される。
【0126】
≪画素番号“2”≫
図7(c)に示す時間t61では、第2フレームの期間に蓄積された「−2」の画素信号を読みとるために、図2に示す画素選択手段34が、「−2」に対応したドレイン電流検出パルスを、図2に示すスイッチSW5に印加する。すると、スイッチSW5がON2(接地)の状態となって、画素番号“2”の画素20dの上部電極9が接地される。したがって、画素信号検出手段41が、第2フレームの期間に蓄積された「−2」の画素信号を検出し、フレームメモリ42に格納する。そして、この際に、図2に示す差分信号検出手段43が、フレームメモリ42に既に蓄積されている第1フレームの期間に蓄積された「+2」の画素信号と、第2フレームの期間に蓄積された「−2」の画素信号との差分を検出し、画素番号“2”の画素20dの映像信号を得る。
【0127】
時間t61の直後、図7(b)に示す時間t62において、磁化反転電流注入手段33は、画素番号“2”の画素20dを、「+2」にするための磁化反転パルスを画素20d(スピン注入磁化反転素子6)に印加する。これにより、時間t62の直後、図7(a)に示す時間t63において、画素ブロックのうち、画素番号“2”の画素20dも磁化が反転し、「+2」の状態に戻される。同様に、画素番号“3”の画素20bについても処理される。また、画素番号“4”の画素20eについても同様に処理され、図7(a)に示す時間t83において、画素ブロックのうち、画素番号“4”の画素20eも磁化方向が「+4」の状態に戻される。これにより、第3フレームの処理がすべて終了したときには、画素ブロックの全画素の磁化方向は、図7(a)に示す時間t03時点の画素ブロックの状態に戻る。
【0128】
ここで、検出されたドレイン電流差として、「+1」と「−1」との差、「+2」と「−2」の差、というように順にドレイン電流差を求めてゆけば、直前のフレームに各画素20(スピン注入磁化反転素子6)に蓄積された正電荷量、すなわち対応する各画素20のX線吸収量を見積もることができる。
【0129】
これにより、X線撮像装置1は、X線ビームが形成する画像(強度の濃淡分布など)を2次元的に、ほぼリアルタイムで検出することができる。なお、磁化反転は、数ナノ秒で実現できる。NTSC方式の伝送フレーム数は、30フレーム/秒であり、1フレームの期間は33[ms]である。X線撮像装置1によれば、この33[ms]の間に、数十フレームをとることが可能である。一方、CCD撮像素子では、現状では、最も高精細な素子で画素サイズは1.3×1.3[μm2]程度で、サブミクロンサイズは実現できておらず、しかも、このような高速駆動をすることができない。例えば、通常、CCDで行われる高速度撮影は、精々6倍速程度である。さらなる高速化においては、電荷転送用CCDをメモリとして活用して、このメモリにフレーム毎の画素信号を蓄積する方式がある。この方式において、撮影スピードと撮影時間はこのメモリの数で決まるが、電荷転送用CCDの連続的な使用はできない。そのため、実時間撮像はできない。
【0130】
ここで、ドレイン電流検出パルスを、「−1」、「−2」、「−3」、「−4」、「+1」、「+2」、「+3」、「+4」の各画素信号に対応して、この順番に画素を走査して各スイッチに印加するものとして説明したが、走査順はこれに限定されるものではなく、ランダムに走査してもよい。
【0131】
第1実施形態のX線撮像装置1によれば、画素選択と走査、および、画素におけるX線吸収を、それぞれ、スピン注入磁化反転素子6の選択と磁化反転によって行うので、走査画素の解像度を任意に可変できる。そのため、微細加工技術の限界までの解像度を実現することができる。この微細加工として、例えば電子ビームリングラフィーなどを用いれば、画素ピッチとして数ナノメートルまで達成できる可能性がある。
また、X線撮像装置1において、感度は、画素が吸収するX線フォトンの積分、すなわち画素走査の時間によって調節できる。また、受光画素部2の画面サイズは、所定のニーズに対応して可変できる。
また、X線撮像装置1は、高速駆動ができるので、フレームレートを大きくすることによって低残像でダイナミックレンジを大きくとることができる。
さらに、X線撮像装置1は、2次元フォトンカウンターとしても機能する。
【0132】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態のX線撮像装置1において、画素選択走査機構(素子選択走査手段)3は、受光画素部2の1つのスピン注入磁化反転素子6を1つの画素として選択するものとしたが、受光画素部2の受光面において隣接した複数のスピン注入磁化反転素子6により連結される領域を1まとめに選択することも可能である。この場合、磁化反転電流注入手段33は、選択された複数のスピン注入磁化反転素子6のスピンフリー層13の磁化方向を同時に反転させる。また、画素信号検出手段41は、これら同時に反転させる複数のスピン注入磁化反転素子6がX線を吸収することによって発生するそれぞれの電流の合計値を連結される領域の1まとめの信号電流として検出する。
【0133】
例えば、図7(a)に示した画素ブロックを纏めて1つの画素としてドレイン電流を検出すれば、解像度は図7(a)の1/2に低下するが、感度はおよそ4倍増大できる。ここで、複数のスピン注入磁化反転素子6により連結される領域(纏めた1つの画素)は、当初の画素の2×2の領域に限定されるものではなく、例えば、一般式でM×N(M,Nは整数、M=Nも含む)で表すことができる領域でもよい。
【0134】
また、この連結される領域(纏めた1つの画素)は、必ずしも矩形である必要もない。さらに、受光面において、この連結される領域(纏めた1つの画素)を同じ単位で繰り返す必要もない。このように、ドレイン電流を検出すべき画素サイズを任意に選ぶことにより、検出するX線画像精細度を画面上で局部的に可変することができる。つまり、この場合、局所的ズームなどに利用することができる。また、前記した電子ビームリングラフィーなどの微細加工技術の進展により、ナノメートルオーダーの超高精細画素や超多画素となっても、上記のように、X線画像の空間周波数分布に応じて画素の纏め方を任意に設定できるとすれば、フレームメモリ42の大容量化を抑制したり、差分信号検出手段43の演算処理などの負担を抑制したりすることができる。
【0135】
また、このように、複数のスピン注入磁化反転素子6を1つの画素として同時に走査すると、1フレームの走査時間を短縮できるので、高速に走査を行うことができる。
【0136】
(第2実施形態)
第2実施形態のX線撮像装置は、受光画素部の電極の構造が異なる点を除いて、第1実施形態のX線撮像装置1と同様なので、同じ構成には同じ符号を付して説明を適宜省略する。図8(a)および図8(b)に示す受光画素部2Aは、上部電極9が、スピンフリー層13の表面の一部を露出させるように設けられている。ところで、第1実施形態では、図1および図2に示す上部電極9(Y軸方向の電極線)は、スピン注入磁化反転素子6のスピンフリー層13の表面全体を覆うように設けていた。一方、第2実施形態では、図8に示す上部電極9は、スピンフリー層13の両端の縁のみに堆積し、スピンフリー層13を表面に極力露出させたものである。なお、第2実施形態において、上部電極9は、スピンフリー層13表面の一部のみを覆っていればよく、上部電極9が覆う領域は、図8に示す範囲に限定されるものではない。
【0137】
受光画素部2Aにおいてスピンフリー層13の表面を露出させる構成としたことにより、X線ビームが受光画素部2Aに入射するときに、スピンフリー層13へのX線吸収が増加し、スピンフリー層13からの二次電子501やオージェ電子502の放出を容易にすることができる。ところで、第1実施形態のX線撮像装置1では、スピンフリー層13にX線が吸収されることにより二次電子501やオージェ電子502などが放出される結果としてスピンフリー層13に蓄積される正電荷504を中和する電流を検出してX線の吸収量を見積もるという原理を用いている。これは、第2実施形態でも同様である。したがって、第2実施形態のX線撮像装置は、受光画素部2Aのような電極構造としたことにより、感度が向上する。
【0138】
また、第1実施形態では、スピンフリー層13の材料の一例としてPtCoを挙げたので、13.3[keV]の硬X線を用いることで、エネルギーの高いX線ビームがAlやBe製の上部電極9に吸収されずに透過できるものとして説明した。一方、図8(a)および図8(b)に示す受光画素部2Aは、上部電極9が、スピンフリー層13の表面の一部を露出させるように設けられているので、AlやBe製の上部電極9自体を透過できないような相対的にエネルギーの低いX線ビームを用いたとしても、このX線ビームは露出部分からスピンフリー層13に入射できる。したがって、スピンフリー層13をFeNiなどの材料で形成し、0.781[keV]などの軟X線を用いるX線撮像が可能となる。
【0139】
(第3実施形態)
第3実施形態のX線撮像装置は、受光画素部においてスピン注入磁化反転素子と電極との間を絶縁した点を除いて、第2実施形態のX線撮像装置と同様なものである。図9(a)および図9(b)に示す受光画素部2Bは、上部電極9が、スピンフリー層13の表面の一部を露出させるように設けられ、かつ、上部電極9とスピンフリー層13との間に上部絶縁層15を備えている。また、下部電極8とスピン固定層11との間に下部絶縁層14を備えている。なお、平面図である図8(a)と図9(a)は同じものである。
【0140】
下部絶縁層14および上部絶縁層15の厚さは、1フレームの期間に、ドレイン電流を検出しようとする画素の電極に隣接する画素に蓄積される正電荷を中和する電流が、検出しようとするドレイン電流に流れ込まない程度に薄く、また、スピン注入のための電圧の大幅な増大を招かない程度に薄く設定することが望ましい。
【0141】
第3実施形態のX線撮像装置は、受光画素部2Bにおいて、上部電極9とスピンフリー層13との間に薄い上部絶縁層15を設けたので、ドレイン電流の検出において、上部電極9(Y軸方向の電極線)に繋がる全ての画素(スピン注入磁化反転素子6)に蓄積される正電荷の寄与を極力抑えることができる。
【0142】
したがって、第3実施形態のX線撮像装置は、受光画素部2Bのような電極構造としたことにより、第2実施形態よりもさらに感度が向上する。使用目的において感度が充分である場合、ドレイン電流の変調成分のみを検出する構成とすることなく、図5(b)に示した簡易な方法でドレイン電流を検出するようにしてもよい。なお、下部電極8とスピン固定層11との間にも薄い下部絶縁層14を設けたが、下部絶縁層14を備えない構成としてもよい。
【0143】
(第4実施形態)
第4実施形態のX線撮像装置は、受光画素部の磁化反転素子を磁化反転させる手段としてスピン注入ではなく外部磁場を用いたものである。したがって、図1に示したX線撮像装置1と同様な構成には同じ符号を付して説明を適宜省略する。図10に示すX線撮像装置1Cは、受光画素部2Cと、画素選択走査機構3Cとを備えている。このX線撮像装置1Cは、信号電流検出処理部4(図1参照)も備えているが、図10では、画素信号検出手段41だけ表示した。また、画素選択走査機構3Cは、下部電極選択部31と、上部電極選択部32と、画素選択手段34とを備えているが、図10では、磁場発生用電流供給手段33Cだけを表示した。
【0144】
受光画素部2Cには、下部電極8と上部電極9との間に、画素としてスピンフリー強磁性層(磁化反転素子)16が断面柱状に形成されている。これは、図1に示したスピン注入磁化反転素子6のスピンフリー層13と同様なものである。ここでは、一例として、スピンフリー強磁性層16の磁化方向が上向きのものと、下向きのものとを示した。また、この例では、スピンフリー強磁性層16は、紙面に沿った水平方向に5個設けられているが、その個数はこの限りではない。また、スピンフリー強磁性層16は、紙面に垂直な方向にも同様に並べられているものとする。つまり、画素としてのスピンフリー強磁性層16は、2次元アレイ状に設けられている。
【0145】
上部電極9は、スピンフリー強磁性層16の2次元アレイの各行に沿って行毎に設けられている。また、下部電極8は、スピンフリー強磁性層16の2次元アレイの各列に沿って列毎に設けられている。なお、スピンフリー強磁性層16以外にスピン固定層11の磁化の固定強化のために他の層を備えていてもよい。また、隣り合ったスピンフリー強磁性層16間を電気的かつ磁気的に絶縁するための絶縁部材を介挿してもよい。
【0146】
画素選択走査機構3Cは、上部電極9と下部電極8との組み合わせを選択することにより、選択された上部電極9と下部電極8とが対向して交差する領域にあるスピンフリー強磁性層16を、磁化方向を反転させる磁化反転素子として選択すると共に、受光画素部2Cの受光面に亘って複数の画素を走査するものである。
この画素選択走査機構3Cは、既に製品化された磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の公知技術として、ワード線とビット線に電流を流し、発生した磁場によって、選択したフリー層(記録層)の磁化を反転する技術を用いたものである。つまり、受光画素部2Cの上部電極9と下部電極8は、MRAMにおけるワード線とビット線の役割を果たしている。このため、受光画素部2Cにおいて、スピンフリー強磁性層16と下部電極8との間には下部絶縁層14が設けられている。また、スピンフリー強磁性層16と上部電極9との間には上部絶縁層15が設けられている。
【0147】
第4実施形態のX線撮像装置1Cは、第1ないし第3実施形態のX線撮像装置とは磁化反転の原理が異なるので、図10に示す下部絶縁層14および上部絶縁層15は必須の構成である。また、下部絶縁層14および上部絶縁層15の膜厚を設定する際には、スピン注入電圧を考慮する必要はなく、ドレイン電流の検出に適した膜厚とすればよい。下部絶縁層14および上部絶縁層15の膜厚は、例えば、1〜2[nm]とすることができる。なお、磁化反転の原理は異なるが、磁場発生用電流供給手段33Cと画素選択機構34との関係は、図1に示した磁化反転電流注入手段33と画素選択機構34との関係と同様であって、磁場発生用電流供給手段33Cは、図1に示した磁化反転電流注入手段33と同様に電流源を有しているので、同様な符号を付した。
【0148】
画素選択走査機構3Cの磁場発生用電流供給手段(磁場制御手段)33Cは、選択された画素(スピンフリー強磁性層16)を挟んで交差する上部電極9および下部電極8に対して電流源から流す電流(磁場反転電流IINV)の方向とその大きさを制御することで、選択されたスピンフリー強磁性層16に加える磁場の方向とその大きさを制御して、スピンフリー強磁性層16の磁化方向を反転させるものである。第4実施形態では、磁場反転電流IINVは、パルス電流であるものとする。なお、パルス電流の代わりに直流電流を用いてもよい。また、図10では、磁場発生用電流供給手段33Cは、図10において左端の上部電極9の紙面に垂直な方向の両端部に接続されている状態を示しているが、選択された画素に対応して他の上部電極9に対しても同様に接続される。
【0149】
画素信号検出手段41は、選択されたスピンフリー強磁性層16がX線を吸収することによって発生する電流の値を検出する。なお、図10では、画素信号検出手段41は、図10において右端の上部電極9に接続されている状態を示しているが、選択された画素に対応して他の上部電極9に対しても同様に接続される。
【0150】
(第5実施形態)
図11に示すように、第5実施形態のX線撮像装置1Dは、第1実施形態に係るX線撮像装置1の受光画素部2を真空容器51に密閉したものである。したがって、同様な構成には同じ符号を付して説明を適宜省略する。第5実施形態では、第1実施形態と同様に、一例としてPtCoを材料としてスピンフリー層13を形成した。また、これに対応して、13.3[keV]の硬X線による画像を検出する。このように、硬X線撮像の場合には、単色円偏光X線ビームB4(図3参照)を形成した後に、X線撮像装置1Dの真空容器51の外部の構成を大気中に暴露できる。
【0151】
真空容器51は、受光画素部2の受光面に対応した位置に、X線ビームを透過するX線透過窓52を備えている。このX線透過窓52は、例えば、ベリリウム等のX線吸収率が小さい材料で形成されている。これにより、X線がスピンフリー層13に損失少なく入射できる。また、真空容器51内は、真空環境とされている。さらに密閉前に、およそ108[Pa]程度以上の超高真空環境下で、希ガスによるスパッタリングなどでスピンフリー層13の表面を洗浄しておくことが好ましい。なお、スピンフリー層13表面からオージェ電子や二次電子が放出されやすいように、真空容器51は接地電位に対して正電位となるように保持されている。この理由により、X線透過窓52はベリリウムなどの伝導体材料で作製し、X線透過窓52とスピンフリー層13との間の距離は短い方が好ましい。
【0152】
第5実施形態のX線撮像装置1DによるX線検出基本原理も、第1実施形態と同様であり、X線がスピンフリー層13に入射する際には、二次電子501やオージェ電子502が放出される。第5実施形態では、このときの二次電子501やオージェ電子502の放出を容易にするために、受光画素部2を密閉した真空容器51内を真空環境とした。
【0153】
(第5実施形態の変形例)
第5実施形態のX線撮像装置1Dにおいて、真空容器51内を真空環境としたが、真空とすることなく、受光画素部2のみ、ヘリウム等のX線吸収の小さいガスで充満した容器に設置してもよい。図示は省略するが、このように構成しても、X線がスピンフリー層13に入射する際に二次電子501やオージェ電子502の放出を容易にすることができる。
【0154】
(第6実施形態)
第6実施形態のX線撮像装置は、一例としてFeNiを材料としてスピンフリー層13を形成した点を除いて、図11に示したX線撮像装置1Dと同様な構成である。したがって、同様な構成には同じ符号を付して図面および説明を適宜省略し、第6実施形態のX線撮像装置を形式的にX線撮像装置1Eと呼ぶ。X線撮像装置1Eでは、FeNiに対応して、0.781[keV]の軟X線による画像を検出する。軟X線撮像の場合には、X線撮像装置1Eの受光画素部2を真空容器51にて真空環境とするだけではなく、X線の光路(ビームライン102:図3参照)や被写体O(図3参照)も真空環境下に設置する。このようにすることで、軟X線が大気中の酸素や窒素による吸収で大きく減衰することを防止することができる。また、X線撮像装置1の受光画素部2を真空環境に設置したので、X線がスピンフリー層13に入射する際に二次電子501やオージェ電子502の放出を容易にすることができる。なお、軟X線撮像を行うX線撮像装置1Eでは、少なくとも受光画素部2が真空環境下に設置される必要がある。この構成の変形例として、X線撮像装置1Eの画素選択機構3または信号電流検出処理部4、あるいはX線撮像装置1Eの全体を真空環境下に設置するようにしてもよい。
【0155】
また、X線撮像装置1Eにおいて、真空容器51を真空環境としたが、真空とすることなく、X線撮像装置1Eの少なくとも受光画素部2を、ヘリウム等のX線吸収の小さいガスで充満した容器に設置してもよい。なお、この場合、被写体O(図3参照)も、環境の空気をヘリウム等のX線吸収の小さいガスで置換した環境に設置してもよい。このように構成しても、X線がスピンフリー層13に入射する際に二次電子501やオージェ電子502の放出を容易にすることができる。
【0156】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その趣旨を変えない範囲でさまざまに実施することができる。例えば、本発明のX線撮像装置は、被写体のX線透過強度分布を様々な角度から検出しようとする場合にも利用できる。本発明のX線撮像装置をCT(Computed Tomography)用の2次元X線検出器として用いた場合、高分解能特性の効果がある。
【符号の説明】
【0157】
1,1C,1D X線撮像装置
2(2A,2B,2C) 受光画素部
3,3C 画素選択走査機構(素子選択走査手段)
4 信号電流検出処理部
5 基板
6 スピン注入磁化反転素子
7 絶縁部材
8 下部電極
9 上部電極
11 スピン固定層(磁化固定強磁性層)
12 非磁性中間層
13 スピンフリー層(磁化反転強磁性層)
14 下部絶縁層
15 上部絶縁層
16 スピンフリー強磁性層(磁化反転素子)
20(20a〜20i) 画素
21 磁化反転素子アレイ(画素群)
22 XY電極アレイ
22X 下部電極アレイ
22Y 上部電極アレイ
31 下部電極選択部
32 上部電極選択部
33 磁化反転電流注入手段(電流制御手段)
33C 磁場発生用電流供給手段(磁場制御手段)
34 画素選択手段
41 画素信号検出手段(電流検出手段)
42 フレームメモリ(記憶手段)
43 差分信号検出手段
100 入射X線制御手段
101 シンクロトロン放射光源
102 ビームライン
103 二結晶モノクロメータ
105 波長選択機構(波長選択手段)
104 移相器
106 極性選択機構(極性選択手段)
SW1〜SW3,SW4〜SW6 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が固定された磁化固定強磁性層と、磁化方向が反転可能な磁化反転強磁性層と、前記磁化固定強磁性層と磁化反転強磁性層との中間に配置された非磁性中間層とを含む3層以上が積層された磁化反転素子を画素として備え、前記画素に磁化反転強磁性層側から入射する単色円偏光X線ビームを撮影するX線撮像装置であって、
2次元アレイ状に設けられた前記複数の磁化反転素子と、前記磁化反転素子のX線入射側に配置された上部電極と、前記磁化反転素子のX線入射方向の反対側に配置された下部電極とを有して前記単色円偏光X線ビームを受光する受光画素部と、
前記磁化反転素子に対応した上部電極および下部電極の組み合わせを選択することにより、前記選択された組み合わせの上部電極および下部電極に挟まれて配置された磁化反転素子を、磁化方向を反転させる磁化反転素子として選択すると共に、前記受光画素部の受光面に亘って前記複数の磁化反転素子を走査する素子選択走査手段と、
前記選択された磁化反転素子に対応した上部電極および下部電極を介して当該磁化反転素子に対して電流源から流す電流の方向とその大きさを制御して、当該磁化反転素子の磁化固定強磁性層から磁化反転強磁性層へスピン偏極電子を注入することで、前記磁化反転強磁性層の磁化方向を反転させる電流制御手段と、
前記選択された磁化反転素子がX線を吸収することによって発生する電流の値を検出する電流検出手段と、
を備えることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
磁化方向が反転可能な磁化反転強磁性層を含む1層以上が積層された磁化反転素子を画素として備え、前記画素に磁化反転強磁性層側から入射する単色円偏光X線ビームを撮影するX線撮像装置であって、
2次元アレイ状に設けられた前記複数の磁化反転素子と、前記2次元アレイの行方向に設けられた複数の磁化反転素子から上部絶縁層を介してX線入射側に配置されて各行に沿って行毎に設けられた複数の上部電極と、前記行方向に直交する列方向に設けられた複数の磁化反転素子から下部絶縁層を介してX線入射方向と反対側に配置されて各列に沿って列毎に設けられた複数の下部電極とを有して前記単色円偏光X線ビームを受光する受光画素部と、
前記上部電極と前記下部電極との組み合わせを選択することにより、前記選択された上部電極と下部電極とが対向して交差する領域にある磁化反転素子を、磁化方向を反転させる磁化反転素子として選択すると共に、前記受光画素部の受光面に亘って前記複数の磁化反転素子を走査する素子選択走査手段と、
前記選択された磁化反転素子を挟んで交差する上部電極および下部電極に対して電流源から流す電流の方向とその大きさをそれぞれ制御することで、前記選択された磁化反転素子に加える磁場の方向とその大きさを制御して、当該磁化反転素子の磁化反転強磁性層の磁化方向を反転させる磁場制御手段と、
前記選択された磁化反転素子がX線を吸収することによって発生する電流の値を検出する電流検出手段と、
を備えることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項3】
前記上部電極は、それぞれが前記2次元アレイの行方向の電極線として設けられ、
前記下部電極は、それぞれが前記2次元アレイの列方向の電極線として設けられていることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
前記受光画素部の上部電極は、
アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、銅(Cu)、グラファイト(C)およびダイアモンド(C)から構成される群から選択された少なくとも1つの材料から形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のX線撮像装置。
【請求項5】
前記受光画素部には、前記複数の磁化反転素子間を電気的かつ磁気的に絶縁する絶縁部材が介挿されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のX線撮像装置。
【請求項6】
前記素子選択走査手段は、
前記下部電極と前記電流源との間の導通状態と、電気的切断状態との2状態を切り替える下部電極選択部と、
前記上部電極の接地状態と、前記上部電極と前記電流源との間の導通状態と、電気的切断状態との3状態を切り替える上部電極選択部とを備え、
前記磁化反転素子がX線を吸収する際には、前記上部電極および下部電極をそれぞれ電気的切断状態に切り替え、
前記電流検出手段が電流の値を検出する際には、前記選択された磁化反転素子の上部電極を接地状態に切り替え、
前記電流検出手段は、
前記選択された磁化反転素子がX線を吸収する際に外部に放出した負電荷に対応して内部に蓄積された正電荷を中和するドレイン電流の値を検出することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のX線撮像装置。
【請求項7】
前記素子選択走査手段で選択された磁化反転素子の磁化反転前後に前記電流検出手段によってそれぞれ検出された電流値を記憶する記憶手段と、
前記選択された磁化反転素子の磁化反転前後にそれぞれ記憶された電流値の差分を映像信号として検出する差分信号検出手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載のX線撮像装置。
【請求項8】
前記単色円偏光X線ビームを前記受光画素部の近傍に導くビームラインを有した入射X線制御手段をさらに備え、
前記入射X線制御手段は、
直線偏光X線ビームを放射する放射光源と、
前記ビームラインにおいて、前記放射された直線偏光X線ビームから所定のエネルギーを有する単色直線偏光X線ビームを形成する二結晶モノクロメータと、
前記ビームラインにおいて、前記単色直線偏光X線ビームから、所定の円偏光の極性を有する前記単色円偏光X線ビームを形成する移相器と、
前記所定のエネルギーに対応したX線の波長を選択して設定する波長選択手段と、
所定のX線の回折角度に対応した円偏光の極性を選択して設定する極性選択手段とを備え、
前記波長選択手段は、前記所定のエネルギーを、前記磁化反転素子の磁化反転強磁性層の材料の構成原子の内殻電子束縛エネルギーに設定したことを特徴とする請求項7に記載のX線撮像装置。
【請求項9】
前記極性選択手段は、
前記素子選択走査手段で選択された磁化反転素子の磁化反転強磁性層の磁化反転前に、前記所定のX線の回折角度として、当該選択された磁化反転強磁性層の磁化方向と前記単色円偏光X線ビームの入射方向とが成す角度を設定することを特徴とする請求項8に記載のX線撮像装置。
【請求項10】
前記受光画素部の上部電極は、前記磁化反転強磁性層の表面の一部を露出させるように設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のX線撮像装置。
【請求項11】
前記受光画素部において、
前記上部電極は、前記磁化反転強磁性層の表面の一部を露出させるように設けられ、かつ、前記上部電極と前記磁化反転素子との間に絶縁層を備えることを特徴とする請求項3に記載のX線撮像装置。
【請求項12】
前記素子選択走査手段は、前記受光画素部の受光面において隣接した複数の磁化反転素子により連結される領域を1まとめに選択し、
前記電流制御手段は、前記選択された複数の磁化反転素子の磁化反転強磁性層の磁化方向を同時に反転させ、
前記電流検出手段は、前記同時に反転させる複数の磁化反転素子がX線を吸収することによって発生するそれぞれの電流の合計値を前記連結される領域の1まとめの信号電流として検出することを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載のX線撮像装置。
【請求項13】
前記X線撮像装置の構成のうち少なくとも前記受光画素部が容器に密閉され、
前記容器は、前記受光画素部の受光面に対応した位置に、前記単色円偏光X線ビームを透過する窓を備え、
前記容器が真空環境とされているか、または、前記容器に所定のガスが充満していることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載のX線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−278682(P2010−278682A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128290(P2009−128290)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】