説明

イオン電流密度計測方法、イオン電流密度計測装置及びプラズマ処理装置並びに記録媒体及びプログラム

【課題】プラズマ処理において被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を、イオン電流計測器に頼ることなく、プローブ計測器を利用して、プラズマ密度や電子温度と併せて計測できるイオン電流密度計測方法及び装置を提供する。
【解決手段】静電プローブ法により真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求め、それにより得られた該プラズマ密度n及びプラズマ電位Teに基づいて、被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出し、算出されるイオン電流密度が、被処理物品へ目的とする処理を施すためのイオン照射量を示すイオン電流密度へ向かうようにプラズマ密度を調整すべくプラズマ生成装置を制御するプラズマ処理方法及び装置。該方法を実施するためのプログラム及びそれを記録した記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマを用いて被処理物品に膜形成、イオン注入、エッチング、表面清浄化処理等の処理を実施するにあたり、所望の目的とする処理を施すために、被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を計測する方法及び装置、さらにはプラズマ処理装置に関し、さらに、該方法の実施に用いるプログラム及びそれを記録した記録媒体にも関係している。
【背景技術】
【0002】
プラズマを応用した膜形成(成膜)、イオン注入、エッチング、表面清浄化処理等の処理においては、所望の目的とする処理を施すために、プラズマの密度及び電子温度等のプラズマパラメータや被処理物品へのイオンの照射量などの制御が重要であり、そのためにはこれらのモニタリングが不可欠である。
【0003】
プラズマ密度や電子温度の計測方法には一般的に光学的方法と静電プローブ法があるが、全イオン密度を計測する場合は後者の方が簡易的であると考えられる。
図3はプラズマ処理装置A1において、プラズマパラメータを静電プローブ法の一つであるシングルプローブ法を用いて計測している例を示している。
【0004】
真空チャンバ1内に設置したフィラメント3にはフィラメント電源4が接続されており、電源(本例では出力可変電源)4にてフィラメント3に電流を流すことによってフィラメント3を高温に加熱すると、フィラメント3の表面から熱電子が放出し、フィラメント3の片端とチャンバ1の間に、フィラメント3の片端が負電位になるように、放電電源5によって電圧を印加することでフィラメント3から放出した熱電子が加速される。
【0005】
このとき、チャンバ1内を図示省略の排気装置にてプラズマ生成圧に排気減圧しつつチャンバ1内へ図示省略のガス供給装置からガス、例えばアルゴンガスを導入すると、加速された熱電子が該ガスに衝突し、電子衝撃型のイオン化によりプラズマ2が形成される。 フィラメント3、フィラメント電源4及び放電電源5等はプラズマ生成装置Pを構成している。
【0006】
チャンバ1内の被処理物品ホルダ6に、予め配置しておいた被処理物品、例えばアルゴンガスイオンで表面を清浄化したい基材Sにバイアス電源10から負電圧を印加すると、プラズマ2中のアルゴンイオンが基材Sに向かって加速照射され、基材S表面の清浄化が行われる。
【0007】
この時、表面の清浄化が行われる程度については、アルゴンイオン照射量に比例し、またアルゴンイオンのエネルギにも依存すると考えられる。アルゴンイオンのエネルギについてはバイアス電源10の電圧で制御、モニタリングできるが、アルゴンイオン照射量については、別途モニタリングする必要がある。
【0008】
図3に示す例では、チャンバ1にシングルプローブ計測器8が設置されており、これによりプラズマパラメータであるプラズマ2のプラズマ密度及び電子温度を計測することができる。
【0009】
シングルプローブ計測器8は、先端(プローブ部分)81が金属などの導電性材料で形成されており、先端プローブ81に出力可変電源82から電圧を印加できるものであり、それ自体広く知られているものである。
【0010】
シングルプローブ計測器8によるプラズマパラメータの計測にあたっては電源82から先端プローブ81に電圧を印加し、このときプローブ81に流れる電流を電流計83で計測する。
【0011】
それ自体既に知られていることであるから詳細説明は省略するが、このとき得られた電圧一電流特性からプラズマ密度と電子温度、プラズマ電位などを求めることができる。
プローブ計測器によるプラズマパララメータの計測については、例えば、平成3年8月5日株式会社アイピーシー発行、河合良信編著「最新プラズマ発生技術」の「付録1.プローブ計測法」に記載されている。
【0012】
基材Sに照射されるイオン量のモニタリングは、基材Sに流れる電流、すなわちバイアス電源10に流れる電流を計測すればよいように思われるが、実際には、基材表面からの2次電子放出や、基材表面処理の進展にともなう基材表面状態の変化による2次電子放出係数の変化などにより、電源10に流れる電流の正確な計測はできない。
【0013】
したがって、基材Sに照射されるイオン量のモニタリングには、別途2次電子放出を抑制する構造を持った電流計測器が必要になってくる。このような電流計測器の一般的なものとして、イオン計測電極の前面にサプレッサ電極を配置し、これに負電圧を印加することによって、該イオン計測電極から放出される2次電子を再度イオン計測電極に押し返すことによって、正確なイオン電流を計測することができるものを挙げることができる。
【0014】
このように、プラズマパラメータであるプラズマ密度及び電子温度の計測のほか、被処理物品への正確なイオン照射量の計測も実施するには、プローブ計測器とイオン電流計測器の両方が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】平成3年8月5日株式会社アイピーシー発行、河合良信編著「最新プラズマ発生技術」の「付録1.プローブ計測法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、それら両方をチャンバ1内に設置するにはそのための設置スペースが必要となり、それだけチャンバサイズが大型化してプラズマ処理装置の設置面積が増えたり、プラズマ処理装置が高価になる。
【0017】
そこで本発明は、プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理において該被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を、イオン電流計測器に頼ることなく、プローブ計測器を利用して、プラズマ密度や電子温度と併せて計測でき、プラズマ密度や電子温度の計測と併せてイオン電流密度の計測も行える割りには安価に済むイオン電流密度計測方法を提供することを第1の課題とする。
【0018】
また本発明は、プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理において該被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を、イオン電流計測器に頼ることなく、プローブ計測器を利用して、プラズマ密度や電子温度と併せて計測でき、プラズマ密度や電子温度の計測と併せてイオン電流密度の計測も行える割りには簡素化された安価なイオン電流密度計測装置を提供することを第2の課題とする。
【0019】
さらに本発明は、プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理装置であって、プラズマ処理における被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を、イオン電流計測器に頼ることなく、プローブ計測器を利用して、プラズマ密度や電子温度と併せて計測でき、プラズマ密度や電子温度の計測と併せてイオン電流密度を計測できる割りには大型化することなく、それだけ安価に済むプラズマ処理装置を提供することを第3の課題とする。
【0020】
さらに本発明は、本発明に係るイオン電流密度計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能の記録媒体及びプログラムを提供することを第4及び第5の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は前記第1の課題を解決するため、
プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理において該被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を計測する方法であり、
プローブ計測器を用いて静電プローブ法により該真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求めること、
イオン電流密度算出部に、前記得られたプラズマ密度n及び電子温度Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出させること
を含むイオン電流密度計測方法を提供する。
【0022】
本発明は前記第2の課題を解決するため、
プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理において該被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を計測する装置であり、
静電プローブ法により該真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求めるためのプローブ計測器と、
前記プローブ計測器を用いて求められる前記プラズマ密度n及び電子温度Teを入力することができ、入力される該プラズマ密度n及び電子温度Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出するイオン電流密度算出部と を含むイオン電流密度計測装置を提供する。
【0023】
前記イオン電流密度算出部は前記プローブ計測器を用いて求められる前記プラズマ密度n及び電子温度Teを入力するデータ入力部を備えることができる。
いずれにしても、本発明に係るイオン電流計測方法及び装置において、前記静電プローブ法は、シングルプローブ法、ダブルプローブ法及びトリプルプローブ法から選ばれた静電ブローブ法とすることができる。
【0024】
本発明に係るイオン電流密度計測装置において、プローブ計測器を用いて得られる真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求めるにあたっては、ユーザーがこれをコンピュータ等を適宜利用して行い、得られたプラズマ密度n及び電子温度Teをイオン電流密度算出部に入力してイオン電流密度を算出させてもよい。
【0025】
しかし、プラズマ密度n及び電子温度Teの計測部を設けておき、該計測部で、イオン電流密度計測にあたり、前記プローブ計測器を用いて前記真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求めてもよい。
そして、前記イオン電流密度算出部が、そのようにして得られたプラズマ密度n及び電子温度Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、前記式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)を用いて算出させるようにしてもよい。
【0026】
いずれにしても、イオン電流密度算出部或いはプラズマ密度n及び電子温度Teの計測部としては、本発明に係るイオン電流密度計測装置専用のものとして設けられていてもよいし、例えば外部のコンピュータを利用するものであってもよい。イオン電流密度計測装置専用のものの場合もコンピュータを利用したものとすることができる。
【0027】
本発明に係るイオン電流密度計測方法及び装置によると、被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を、イオン電流計測器に頼ることなく、プローブ計測器を利用して、プラズマ密度や電子温度と併せて計測でき、プラズマ密度や電子温度の計測と併せてイオン電流密度の計測も行える割りには安価にそれらを計測することができる。
【0028】
本発明は前記第3の課題を解決するため、
プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理装置であって、本発明に係るイオン電流密度計測装置を含んでいるプラズマ処理装置を提供する。
【0029】
本発明に係るプラズマ処理装置では、プラズマ処理における被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を、イオン電流計測器に頼ることなく、プローブ計測器を利用して、プラズマ密度や電子温度と併せて計測でき、プラズマ密度や電子温度の計測と併せてイオン電流密度を計測できる割りには大型化することなく、それだけ安価に提供できる。
【0030】
本発明に係るプラズマ処理装置は、前記イオン電流密度算出部で算出されるイオン電流密度が、前記被処理物品へ目的とする処理を施すためのイオン照射量を示すイオン電流密度へ向かうようにプラズマ密度nを調整すべく前記プラズマ生成装置を制御する制御部を含んでいてもよい。
【0031】
いずれにしても、本発明に係るプラズマ処理装置において前記被処理物品にプラズマのもとで施す処理としては、該被処理物品への膜形成、該被処理物品のエッチング、該被処理物品へのイオン注入、該被処理物品表面の清浄化処理から選ばれた1又は2以上の処理を例示できる。
【0032】
また本発明は前記第4の課題を解決するため、
本発明に係るイオン電流計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録した記録媒体であって、
プローブ計測器を用いて静電プローブ法により該真空チャンバ内プラズマの密度n及び電子温度Te求めるステップ及び
得られた前記プラズマ密度n及びプラズマ電位Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
【0033】
本発明はまた前記第5の課題を解決するため、本発明に係るイオン電流計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
プローブ計測器を用いて静電プローブ法により該真空チャンバ内プラズマの密度n及び電子温度Te求めるステップ及び
得られた前記プラズマ密度n及びプラズマ電位Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムも提供する。
【0034】
本発明に係るプログラムや本発明に係る記録媒体に記録されたプログラムには、さらに、前記式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)で算出されるイオン電流密度が、前記被処理物品へ目的とする処理を施すためのイオン照射量を示すイオン電流密度へ向かうようにプラズマ密度を調整すべく前記プラズマ生成装置を制御するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように本発明によると、プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理において該被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を、イオン電流計測器に頼ることなく、プローブ計測器を利用して、プラズマ密度や電子温度と併せて計測でき、プラズマ密度や電子温度の計測と併せてイオン電流密度の計測も行える割りには安価に済むイオン電流密度計測方法を提供することができる。
【0036】
また本発明によると、プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理において該被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を、イオン電流計測器に頼ることなく、プローブ計測器を利用して、プラズマ密度や電子温度と併せて計測でき、プラズマ密度や電子温度の計測と併せてイオン電流密度の計測も行える割りには簡素化された安価なイオン電流密度計測装置を提供することができる。
【0037】
さらに本発明によると、プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理装置であって、プラズマ処理における被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を、イオン電流計測器に頼ることなく、プローブ計測器を利用して、プラズマ密度や電子温度と併せて計測でき、プラズマ密度や電子温度の計測と併せてイオン電流密度を計測できる割りには大型化することなく、それだけ安価に済むプラズマ処理装置を提供することができる。
【0038】
また本発明によると、本発明に係るイオン電流密度計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラム及び該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能の記録媒体を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るプラズマ処理装置の1例を示す図である。
【図2】被処理物品(基材)とプラズマとの間に形成されるシースを示す図である。
【図3】プラズマ処理装置においてプローブ計測器によるプラズマパラメータの計測を行っている例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るイオン電流密度計測装置の1例Bを備えたプラズマ処理装置の1例Aを示している。
図1に示すプラズマ処理装置Aは、図3に示すプラズマ処理装置A1におけるプラズマ発生装置Pやプローブ計測器8と同じプラズマ発生装置P及びシングルプローブ計測器8を備えている。真空チャンバ1、被処理物品Sのホルダ6及びそれへバイアス電圧を印加する電源10も装置A1のものと同じであり、図示を省略したチャンバ1へのガス供給装置やチャンバ1からの排気装置も備えている。
【0041】
プラズマ発生装置Pはフィラメント3、出力可変のフィラメント電源4及び放電電源5を備えており、電源4からフィラメント3に電流を流してフィラメント3を加熱し、その表面から熱電子を放出させる一方、放電電源5から電圧を印加することで熱電子を加速してチャンバ1内の減圧状態のガス(例えばアルゴンガス)に衝突させ、電子衝撃型のイオン化によりプラズマ2を形成することができる。
【0042】
ホルダ6上の被処理物品、例えばアルゴンガスイオンで表面を清浄化したい基材Sにバイアス電源10から負電圧を印加することで、プラズマ2中のアルゴンイオンを基材Sに向かって加速照射して、基材S表面の清浄化を行うことができる。
【0043】
既述のとおり、表面の清浄化が行われる程度については、アルゴンイオン照射量に比例する。そこで、このプラズマ処理装置Aでは、プローブ計測器8を利用して、イオン照射量を示すイオン電流密度を計測する。
【0044】
図1に示す例では、チャンバ1にシングルプローブ計測器8が設置されており、これによりプラズマパラメータであるプラズマ2のプラズマ密度及び電子温度を計測することができる。プローブ計測器8はインターフェース7を介してコンピュータPCから指示されて動作する。
【0045】
プローブ計測器8、インターフエース7及びパーソナルコンピュータPC等はイオン電流密度計測装置Bを構成している。
【0046】
コンピュータPCには、記録媒体Mからつぎのプログラムを予め読み込ませてある。
プローブ計測器を用いて静電プローブ法により該真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求めるステップ及び
得られた前記プラズマ密度n及びプラズマ電位Teに基づいて、被処理物品Sへのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出するステップを
コンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0047】
コンピュータPCには、さらに記録媒体Mからつぎのプログラムも予め読み込ませてある。すなわち、
前記式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)で算出されるイオン電流密度が、被処理物品Sへ目的とする処理を施すためのイオン照射量を示す予め定めてコンピュータPCに記憶させてあるイオン電流密度へ向かうようにプラズマ密度を調整すべくプラズマ生成装置Pにおけるプィラメント電源4の出力を制御するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0048】
シングルプローブ計測器8は、パーソナルコンピュータPCからインターフェース7を介して電圧出力指示がなされると、出力可変電源82から先端プローブ81に電圧を印加し、このときプローブ81に流れる電流を電流計83で検出する。このときの電流−電圧特性はコンピュータPCに入力され、コンピュータPCは該電圧−電流特性からそれ自体すでに知られている、そして予めコンピュータPCに記録媒体Mから格納してある計算手順でプラズマ密度と電子温度、プラズマ電位などを求めることができる。
【0049】
また、コンピュータPCは、このようにして得られたプラズマ密度nと電子温度Teに基づいて、イオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)を用いて算出する。
【0050】
かくして得られるイオン電流密度Jは、コンピュータPCに予め記憶させてある、所望の目的とする処理を実施するための参照イオン電流密度と比較され、プローブ計測器8を用いて求められるプラズマ密度n及び電子温度Teに基づいて算出されるイオン電流密度Jが参照イオン電流密度に向かうように、フィラメント電源4の出力がコンピュータPCの指示のもとに調整される。算出されるイオン電流密度が大きすぎるときは、電源4の出力を小さくしてプラズマ密度を低下させ、算出されるイオン電流密度が小さすぎるときは、電源4の出力を大きくしてプラズマ密度nを大きくする。
【0051】
次にイオン電流密度が式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)を用いて算出できることについて説明する。
【0052】
本例では、プラズマ2中に臨む位置に配置されている基材Sに電源10から負電圧が印加されるが、この負電圧印加によりプラズマ2と基材Sとの間に、図2に示すようにシースshが形成される。このイオンシース領域における空間電荷制限電流密度J1 は次のようなChild-Langmuirの式(1) で与えられる。
【0053】
【数1】

ここで、ε0 は真空中の誘電率、qはイオンの電荷量、Mはイオンの質量、Vはシース電圧、rはシース幅である。
なお、この例では説明を簡単にするためイオン種は1種類としている。イオン種が複数種類のときについては後述する。
【0054】
一方、シース端でのイオン飽和電流密度はJ2 は、Bohmの条件より次式(2) で与えられる。
【0055】
【数2】

ここでnはプラズマ密度、kはボルツマン定数、Teは電子温度である。
【0056】
1 =J2 =Jとおくと、式(1) 及び式(2) より次式(3) が得られる。
【数3】

【0057】
定常状態或いは定常状態とみなせるときは、式(3) において、dr/dt=0とおくと次式(4) が得られる。
【数4】

【0058】
またイオン電流密度Jは式(2) より次式(5) のようになる。
【数5】

【0059】
基材S表面の清浄化を行う場合、汚染物や酸化膜の薄層のみをイオン照射によって除去することは困難なので、通常はこれらを含めて基材S表面を一定の厚さでエッチングすることになる。イオンの基材へのスパッタ率を例えば5とする。ここでスパッタ率とは、イオン1個がスパッタする基材構成原子数と定義し、説明を簡略化するために、基材Sは1種類の元素のみから構成されているものとする。
【0060】
基材の密度をρs 、基材構成原子の質量をm、エッチングレートをRとすると、前記式(5) を用いて次式(6) が成立する。
【数6】

【0061】
式(6) より、エッチングレートRはプラズマ密度nと電子温度Teの0.5乗の積に比例することがわかる。したがって、例えば図1に示したようなシングルプローブ計測器8を用いて常時プラズマ密度と電子温度を計測しておけば、計測時におけるエッチングレートが算出でき、エッチング量を見積もることができる。よって、所定量の厚さをエッチングする場合、仮にエッチングレートが変化したような場合でも、そのときのエッチングレートを算出し、正確な厚さのエッチングが可能となるのである。
【0062】
何らかの原因でプラズマ密度が高くなり、イオン照射量の増加とともに基材Sの温度が上昇しすぎて不具合をおこす場合があるが、この場合でも、常時プラズマ密度を計測しているので、プラズマ密度を所定の密度に下げるように制御すればこのような問題は防止することができる。
【0063】
なお、プラズマ密度と電子温度のモニタリングはシングルプローブ法のみならず、ダブルプローブ法やトリプルプローブ法でも可能である。プラズマ電位が変動するようなプラズマの場合、シングルプローブ法では計測値に誤差がでる場合があり、例えば基材Sをエッチングするときには、エッチング量の誤差が大きくなる可能性がある。その場合はダブルプローブ法を用いればこのような問題は解消される。
【0064】
プラズマの時間的揺らぎが大きく、プラズマ密度や電子温度が時間的に変動するような場合は、トリプルプローブ法を用いて極短時間での瞬時測定を常時実施すれば問題は解消できる。
【0065】
基材構成元素が2種類以上の場合でも、基材構成原子の質量mを基材構成原子の平均質量で換算すれば式(6) と同じ関係式が成り立つと考えられ、上述したようにエッチング量のモニタリングが可能となる。
【0066】
イオン種が2種類以上の場合は式(6) の代わりに次式(7) が成り立つ。
【数7】

【0067】
式(7) において、添字i はイオン種を表している。プローブ法で計測されるプラズマ密度nは次式(8) で表すことができる。
【数8】

【0068】
したがって式(8) から個々のni は決定できないが、事前に質量分析などの方法によって計測しておくことは可能である。そこで、次式のような関係式(9) が得られたものとする。
【数9】

【0069】
ここで、式(8) 及び式(9) より、次の関係式(10)が満足される。
【数10】

【0070】
式(9) におけるαi は、プラズマ密度nの関数とも考えられるが、プラズマ密度が大きく変わらない範囲内では一定とみなすことができる。すると、式(9) を式(7) に代入することにより、次式(11)が得られる。
【数11】

【0071】
したがって、式(11)より、プローブ法においてプラズマ密度と電子温度を計測すれば、エッチング量のモニタリングをすることができるのである。
【0072】
基材表面にイオン注入を実施する場合も、その注入レートは式(5) で与えられるイオン電流密度に比例するものと考えられるので、プローブ法においてプラズマ密度と電子温度を計測すれば、イオン注入量のモニタリングをすることができる。
【0073】
例えば、イオン種は一種類で、1原子分子イオンとし、全てイオン注入されるものとすると、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの個数をドーズレートRdoseとすれば、前記式(5) を用いて次式(12)が成り立つ。
【数12】

【0074】
また、基材表面に膜形成する場合は、イオンのみが膜形成に寄与する場合は上述した場合と同様に、プローブ法においてプラズマ密度と電子温度を計測すれば、成膜時の膜厚をモニタリングすることができる。
【0075】
膜形成にイオンだけでなく、ラジカルのような中性粒子が関与する場合は、その割合が問題となるが、この場合も事前に何らかの計測方法を用いてその割合を計測しておくことは可能である。プラズマ密度が変化した場合、その割合も変化する可能性はあるが、プラズマ密度が大きく変化しない範囲内であれば、おおよその割合は一定であるものとみなすことができ、したがって、この場合も上述した場合と同様に、プローブ法においてプラズマ密度と電子温度を計測すれば、成膜のときの膜厚のモニタリングをすることが可能である。
【0076】
例えば、イオン種は一種類で、1原子分子イオンとし、全て膜になるものとし、またイオン以外は膜形成に寄与しないとすると、膜密度をρf (単位体積あたりの質量)、単位時間、単位面積あたりに形成される膜の厚さを成膜レートRdepoとすれば、前記式(5) をを用いて次式(13)が成り立つ。
【0077】
【数13】

【0078】
前記コンピュータPCには、式(11)、式(12)、式(13)のうち少なくとも一つを用いてエッチング量R、ドーズレートRdose、成膜レートRdepoのうち少なくとも一つを算出するプログラムを記録媒体M等から予め格納しておいてもよい。
なお、コンピュータPCで得られる所望ファクタはコンピュータPCのディスプレイに表示させることができるし、図示省略のプリンタにプリント出力させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明はプラズマを用いる膜形成、イオン注入、エッチング等の処理において、プローブ計測器を利用して、被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を計測することに利用できる。
【符号の説明】
【0080】
A、A1 プラズマ処理装置
2 プラズマ
P プラズマ発生装置
3 フィラメント
4 プィラメント電源
5 放電電源
6 ホルダ
S 被処理物品(図示例では被処理基材)
B イオン電流密度計測装置
7 インターフエース
8 プローブ計測器
81 先端プローブ
82 プローブ電源
83 電流計
PC パーソナルコンピュータ
M 記録媒体
10 バイアス電源
sh シース
r シース幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理において該被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を計測する方法であり、
プローブ計測器を用いて静電プローブ法により該真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求めること、
イオン電流密度算出部に、前記得られたプラズマ密度n及び電子温度Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出させること
を含むことを特徴とするイオン電流密度計測方法。
【請求項2】
前記静電プローブ法は、シングルプローブ法、ダブルプローブ法及びトリプルプローブ法から選ばれた静電ブローブ法である請求項1記載のイオン電流密度計測方法。
【請求項3】
プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理において該被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度を計測する装置であり、
静電プローブ法により該真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求めるためのプローブ計測器と、
前記プローブ計測器を用いて求められる前記プラズマ密度n及び電子温度Teを入力することができ、入力される該プラズマ密度n及び電子温度Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出するイオン電流密度算出部と を含むことを特徴とするイオン電流密度計測装置。
【請求項4】
前記プローブ計測器は、シングルプローブ法、ダブルプローブ法及びトリプルプローブ法から選ばれた静電ブローブ法により前記真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求めるための計測器である請求項3記載のイオン電流密度計測装置。
【請求項5】
プラズマ密度及び電子温度の計測部を含んでおり、該プラズマ密度及び電子温度の計測部は、イオン電流密度計測にあたり、前記プローブ計測器を用いて前記真空チャンバ内プラズマ密度n及び電子温度Teを求め、
前記イオン電流密度算出部は、該プラズマの密度n及び電子温度Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、前記式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)を用いて算出させる請求項3又は4記載のイオン電流密度計測装置。
【請求項6】
プラズマ生成装置を用いて真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該真空チャンバ内に配置した被処理物品に該プラズマのもとで目的とする処理を施すプラズマ処理装置であり、請求項3、4又は5記載のイオン電流密度計測装置を含んでいることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記イオン電流密度算出部で算出されるイオン電流密度が、前記被処理物品へ目的とする処理を施すためのイオン照射量を示すイオン電流密度へ向かうようにプラズマ密度nを調整すべく前記プラズマ生成装置を制御する制御部を含んでいる請求項6記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記被処理物品にプラズマのもとで施す処理は、該被処理物品への膜形成、該被処理物品のエッチング、該被処理物品へのイオン注入、該被処理物品表面の清浄化処理から選ばれた1又は2以上の処理である請求項6又は7記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項1又は2記載のイオン電流計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、
プローブ計測器を用いて静電プローブ法により該真空チャンバ内プラズマの密度n及び電子温度Te求めるステップ及び
得られた前記プラズマ密度n及びプラズマ電位Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項10】
さらに、前記式で算出されるイオン電流密度が、前記被処理物品へ目的とする処理を施すためのイオン照射量を示すイオン電流密度へ向かうようにプラズマ密度を調整すべく前記プラズマ生成装置を制御するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムを記録した請求項9記載の記録媒体。
【請求項11】
請求項1又は2記載のイオン電流計測方法を実施する手順の少なくとも一部をコンピュータに実行させるためのプログラムであり、
プローブ計測器を用いて静電プローブ法により該真空チャンバ内プラズマの密度n及び電子温度Te求めるステップ及び
得られた前記プラズマ密度n及びプラズマ電位Teに基づいて、前記被処理物品へのイオン照射量を示すイオン電流密度Jを、
式J=nq〔√(k・Te/M)〕・exp(−1/2)(該式においてqはイオン電荷量、kはボルツマン定数、Mはイオン質量)を用いて算出するステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
さらに、前記式で算出されるイオン電流密度が、前記被処理物品へ目的とする処理を施すためのイオン照射量を示すイオン電流密度へ向かうようにプラズマ密度を調整すべく前記プラズマ生成装置を制御するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムを含む請求項11記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−210715(P2011−210715A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49870(P2011−49870)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】