説明

シリコンウェーハの製造方法

【課題】注入したイオンの拡散を抑制しつつ、効果的に効率的よく注入ダメージを除去することができるシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶からなる基板1上にイオン注入処理をおこなう注入工程と、塩化水素ガスを含む雰囲気で熱処理することにより、イオン注入された前記基板1上のイオン注入によるダメージをエッチング除去するダメージ除去工程とを備え、前記ダメージ除去工程におけるエッチング除去量が、前記基板1の深さ方向に対する注入されたイオンのガウス分布の最大濃度深さRpの5〜120%の厚みであるシリコンウェーハの製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの製造方法に関し、特に、短時間の熱処理によって注入したイオンの拡散を抑制しつつ、イオン注入によるダメージを効果的に除去できるシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコン基板に不純物を拡散する方法として、イオン注入を用いた方法が広く行われている。しかしながら、イオン注入を用いた方法では、イオンを注入することによるシリコン基板表面付近のシリコン原子へのダメージが発生する可能性があり、このダメージにより、イオン注入後のシリコン基板上にエピタキシャル層を気相成長させた場合に、エピ成長に伴って、結晶欠陥がエピタキシャル層の表面まで伸びてしまい、この結果ウェーハ表面においてシリコン結晶欠陥の検出可能性があるという問題があった。
この問題を解決するために、従来から、シリコン基板へのイオン注入後に、イオン注入によるダメージを除去するための熱処理をウェーハにおこなう方法も広くおこなわれてきた。また、第1エピタキシャル層の表面にイオン注入用マスクを形成してイオン注入した後、第2エピタキシャル層を気相成長させるのに先立って結晶性回復ならびにキャリアの活性化のための熱処理を水素雰囲気中でおこなう技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−139399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、シリコン基板へのイオン注入後に、イオン注入によるダメージを除去するための熱処理をおこなう方法では、熱処理によって、注入したイオンがシリコン基板中に拡散してしまい所望のデバイス特性が得られなくなるという問題があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、注入したイオンの拡散を抑制しつつ、効果的に効率的よく注入ダメージを除去することができるシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のシリコンウェーハの製造方法は、シリコン単結晶からなる基板上にイオン注入処理をおこなう注入工程と、
空孔注入効果を有するエッチングガス雰囲気で熱処理することによりイオン注入された前記基板上のイオン注入によるダメージを除去するために、基板表面をエッチングするダメージ除去工程と、
エピタキシャル成長によりエピタキシャル層を成膜するエピ工程と、を備えることを特徴とする。
上述したシリコンウェーハの製造方法においては、前記ダメージ除去工程におけるエッチング除去量が、前記基板に注入されたイオンの前記基板深さ方向分布における最大濃度位置となる深さRpに対して5〜120%の厚みとされることが好ましい。
上述したシリコンウェーハの製造方法においては、前記ダメージ除去工程における前記エッチングガス雰囲気が塩化水素ガスを含むものとされ、該塩化水素ガスの濃度が、1〜50%である方法とすることができる。
また、上述したシリコンウェーハの製造方法においては、前記ダメージ除去工程における処理時間が、30〜120秒である方法とすることができる。
上述したシリコンウェーハの製造方法においては、前記ダメージ除去工程における処理温度が、1000〜1210℃である方法とすることができる。
また、上述したシリコンウェーハの製造方法においては、前記注入工程の前に、イオン注入によるダメージから前記基板を保護する保護酸化膜を形成する保護膜形成工程を有する方法とすることができる。
【0006】
本発明のシリコンウェーハの製造方法によれば、空孔注入効果を有するエッチングガス雰囲気で熱処理することによって、イオン注入された前記基板上のイオン注入によるダメージを基板表面をエッチングすることで、基板のシリコンと同時にダメージも除去するダメージ除去工程を備えているので、エッチング除去によるダメージを含む基板表面領域除去に起因するダメージ除去効果に加え、空孔注入効果を有するエッチングガスにより基板の表面近傍を構成するシリコン単結晶中の空格子点(空孔)が増加して熱処理中のシリコン原子の再配置が促進されることに起因するダメージの除去効果をも得ることができる。
したがって、本発明のシリコンウェーハの製造方法は、熱処理によるダメージの除去効果が非常に優れている。このため、本発明のダメージ除去有工程後にエピ工程をおこなうことにより、欠陥のないエピタキシャルウェーハを得ることが可能となる。しかも、本発明のダメージ除去有工程とエピ工程とを同一のエピ成長炉内でおこなうこと、つまり、エピ成長炉に被処理基板をセットした状態で、エピ成長炉にエピタキシャル成長ガスを供給する前に本発明のエッチングガスを供給することのみにより、本発明のダメージ除去有工程後に連続してエピ工程をおこなうことが可能であり、これにより、極めて短い作業時間で低コストに高品質のエピタキシャルウェーハを得ることが可能となる。
【0007】
このように、本発明の製造方法では、熱処理によるダメージの除去効果が非常に優れているので、ダメージ除去工程におけるエッチング除去量を非常に少なくしても、イオン注入によるダメージを十分に除去できる。具体的には、ダメージ除去工程におけるエッチング除去量を、前記基板の深さ方向に対する注入されたイオンのガウス分布の最大濃度深さRpの5%〜120%の厚みとすることができ、好ましくは10〜100%、より好ましくは30〜50%、さらに好ましくは30〜40%の厚みとすることができる。エッチング除去量が上記最大濃度深さRpの5〜30〜50%程度と少ない場合には、エッチングガスとして塩化水素ガスを採用することが好ましく、この場合、例えば、窒素ガス中で熱処理することによりイオン注入によるダメージを除去する場合と比較して、熱処理時間を短くすることができるので、注入したイオンの拡散が少なくて済む。このため、基板中に所望のイオンの量でイオン注入された高品質なシリコンウェーハを実現できる。
【0008】
このように、本発明のシリコンウェーハの製造方法によれば、基板中に所望のイオンの量でイオン注入されたものであって、しかも、製造されたシリコンウェーハ上にエピタキシャル層を成長させた場合に検出される結晶欠陥の原因となるイオン注入によるダメージの非常に少ない高品質なシリコンウェーハが得られる。よって、本発明によって製造されたシリコンウェーハを用いて製造されたデバイスは、所望のデバイス特性を有する高品質なものとなる。
【0009】
本発明において、ダメージ除去工程におけるエッチング除去量が、最大濃度深さRpの5%未満である場合、イオン注入によるダメージを十分に除去できない。また、エッチング除去量が、多くなるのに伴ってダメージの除去効果は向上するが、熱処理時間や、エッチング除去により除去されるイオンの量が増大し、ドーパントとなるイオン量が減少する。そして、ダメージ除去工程におけるエッチング除去量が、最大濃度深さRpの120%を越える場合、熱処理後に残留するイオンの量が少なくなりすぎ、イオン注入処理をおこなったことによる効果を得にくくなる。また、エッチング除去量が最大濃度深さRpの120%を越える場合、熱処理時間を長くしなければならなくなり、注入したイオンの拡散を十分に抑制できなくなる恐れが生じる。
ここで、イオン注入したイオン(不純物)濃度は、基板厚さ(深さ)方向を横軸、イオン濃度を縦軸に取った場合、ガウス分布にしたがって分布することになる。したがって、最大濃度位置Rpは、ガウス分布の頂点が来る位置(深さ)となり、これは、イオン注入のエネルギーによって規定されるものである。
【0010】
また、上述したシリコンウェーハの製造方法において、エッチングガスとして塩化水素ガスを含む雰囲気中における前記塩化水素ガスの濃度を1〜50%とすることで、注入したイオンの拡散を抑制しつつダメージを除去することが可能となり、ダメージ除去工程におけるエッチング除去量を精度よく制御できる。塩化水素ガスを含む雰囲気中における前記塩化水素ガスの濃度が1%未満であると、エッチング速度が遅くなることによってエッチング除去量が不足して、イオン注入によるダメージを十分に除去できない可能性があるため好ましくない。また、エッチング速度が遅くなることによって熱処理時間を長くしなければならなくなり、処理時間が長くなることで不純物が拡散して所望の不純物濃度が維持できない可能性があり注入したイオンの拡散を十分に抑制できなくなる恐れが生じるため好ましくない。塩化水素ガスを含む雰囲気中における前記塩化水素ガスの濃度が50%を超えると、エッチング速度が速すぎてエッチング除去量の制御がしづらくなり、熱処理後に残留するイオンの量が所望の量にならない恐れが生じるとともに、基板表面が粗くなってしまう可能性と、これにともないエピ工程中にエピタキシャル層で結晶欠陥が派生する可能性があり好ましくない。
【0011】
また、上述したシリコンウェーハの製造方法において、熱処理の時間を30〜120秒とすることで、注入したイオンの拡散を抑制しつつ、ダメージ除去工程におけるエッチング除去量を精度よく制御できる。
熱処理の時間を30秒未満とした場合、エッチング除去量が不十分となり、イオン注入によるダメージを十分に除去できない恐れが生じる。また、熱処理の時間が120秒を超える場合、不純物が拡散してしまうことに加え、熱処理後に残留するイオンの量が少なくなりイオン注入処理をおこなったことによる効果が得られなくなる恐れがある。
【0012】
また、上述したシリコンウェーハの製造方法において、熱処理の温度を1000〜1210℃とすることで、注入したイオンの拡散を抑制しつつ、ダメージ除去工程におけるエッチング除去量を精度よく制御できる。
熱処理の温度を1000℃未満とした場合、エッチング速度が遅くなることによって、エッチング除去量が不足して、イオン注入によるダメージを十分に除去できない恐れが生じるため好ましくない。また、エッチング速度が遅くなることによって熱処理時間を長くしなければならなくなり、注入したイオンの拡散を十分に抑制できなくなる恐れが生じる。また、1210℃を越える熱処理の温度とした場合、熱処理中に基板を指示する部分付近にスリップが発生して基板表面までスリップが伸張して表面まで達する可能性があるとともに、スリップによって基板あるいはウェーハ強度が低下してしまう可能性があり好ましくない。
さらに、1220℃を越える温度とすることはスリップ発生、強度低下が著しくさらに好ましくなく、1250℃以上で熱処理することはない。
【0013】
また、上述したシリコンウェーハの製造方法において、注入工程の前に、イオン注入によるダメージから前記基板を保護する保護酸化膜を形成することで、イオン注入によるダメージを低減することができ、上記のダメージ除去効果に加えて、より一層イオン注入によるダメージの少ない高品質なシリコンウェーハが得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、注入したイオンの拡散を抑制しつつ、短時間で効果的に注入ダメージを除去することができるので、基板中に所望のイオンの量でイオン注入され、しかも、イオン注入によるダメージの非常に少ない高品質なシリコンウェーハを短い作業時間で低コストに得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0016】
「第1実施形態」
図1は、本発明のシリコンウェーハの製造方法の一例を説明するための工程断面図である。
本実施形態では、まず、保護膜形成工程として、図1(a)に示すように、熱処理炉内にシリコン単結晶からスライス、面取り、研削、エッチング、研磨等を経た基板1を設置し、熱処理炉内において基板1を熱酸化することにより、図1(b)に示すように、基板1の表裏面および側面全面上に保護酸化膜2を形成する。保護酸化膜2は、後述するようにイオン注入におけるダメージ削減効果を呈することが可能な厚さとされ、例えば、膜厚1〜3μm程度とすることができる。
ここで、保鼓膜形成工程は、バッチ式の炉などによっておこなうことができ、形成する保護酸化膜2の厚さにより、処理温度、処理時間を設定することができるが、例えば、1〜3μm程度の保護酸化膜を形成する場合には、大気中、1100°〜1210°程度1〜5時間の処理条件でおこなうことができる。
【0017】
次いで、注入工程として、イオンビーム発生装置を備えたイオン注入装置内において、図1(c)に示すように、保護酸化膜2上から基板1にイオン注入処理をおこない、基板1表面付近に拡散層3を形成する。この注入工程においてイオン注入される元素としては、例えば、形成される基板種類に対応して、p型基板の場合は、ボロンなどを、n型基板の場合は、砒素やリン、アンチモンなどを挙げることができる。
このときの、イオン注入のエネルギー、イオン注入量は、最終的に製造されるシリコンウェーハとして、どの程度の不純物濃度が、どの程度の深さに分布するものを製造するかによって規定される。
【0018】
その後、保護膜除去工程として、図1(d)に示すように、フッ酸などで酸化シリコンを除去するウェットエッチングをおこない、基板1の表裏面および側面全面上の保護酸化膜2を全て除去して拡散層3を露出させる。ここで、フッ酸濃度、処理時間等の処理条件は、酸化膜を完全に除去することが可能であれば、適宜設定することができ、処理時間が冗長にならず、表面荒れ発生など、その他の好ましくない現象が発生しない範囲で適宜おこなうことができる。
なお、後工程であるエピ工程におけるオートドープ防止として、基板1における表面側にある酸化膜だけを除去し、裏面側と側面側は除去しないことも可能である。
【0019】
なお、保護酸化膜2が膜厚0.5μ以下と薄い場合には、保護膜除去工程として、エピ成長炉においてこの処理をおこなうことも可能である。この場合には、エピ成長炉内で、次のダメージ除去工程の前に、水素ガス中による熱処理いわゆる水素ベーク等によりおこなう自然酸化膜除去と同様にすることができる。
この場合には、エピ成長炉内において上記のガス雰囲気となるようにガスを供給して、1100°〜1210°程度5〜100分の処理条件でおこなうことができる。処理条件としては、酸化膜の膜厚等に依存し、酸化膜を完全に除去することが可能であれば、この条件には限るものではなく、処理時間が冗長にならず、スリップ発生など、その他の好ましくない現象が発生しない範囲で適宜おこなうことができる。この場合、エピ成長炉内における処理だけで一連の工程をおこなうことができるので、作業時間を短縮することができる。
【0020】
次いで、ダメージ除去工程として、図1(e)に示すように、エピ成長炉内において、空孔注入効果を有するエッチングガスである塩化水素ガスを含む雰囲気で熱処理することにより、イオン注入された基板1上のイオン注入によるダメージを除去する。
ダメージ除去工程においては、基板1表面から後述する深さ範囲とされる領域をエッチングすることによって、ダメージを含んだ基板表面領域が除去されることによるダメージ除去を直接的におこなうとともに、エッチングガスを空孔注入効果のあるガスとしたことによって、基板1の表面近傍を構成するシリコン単結晶中の空格子点(空孔)が増加して熱処理中にシリコン原子の再配置が促進されることによって、基板1表面から後述する深さ範囲までダメージを除去し、結果的に、エピタキシャル層を成長させた際に、エピタキシャル層表面に結晶欠陥がない状態にまでダメージを除去することが可能となる。
【0021】
本実施形態において、ダメージ除去工程でのエッチング取り代(除去量)、つまり、基板1厚さの深さ(厚さ)方向の減少量は、基板1の深さ方向に対する注入されたイオンのガウス分布の最大濃度深さRpの5〜120%、好ましくは10〜100%、より好ましくは30〜50%、さらに好ましくは30〜40%の厚みとなるように設定される。エッチング除去量の制御は、塩化水素ガスを含む雰囲気中における塩化水素ガスの濃度や、熱処理の時間、熱処理の温度を適宜調整することによっておこなうことができる。
塩化水素ガスを含む雰囲気中における前記塩化水素ガスの濃度は1〜50%とされることが望ましく、熱処理の時間は30〜120秒とされることが望ましく、熱処理の温度は1000〜1210℃とされることが望ましい。
なお、ダメージ除去工程でのエッチングガスを含む雰囲気は、酸素ガスをパージしたものとされ、塩化水素ガスの他に、例えば、水素ガスおよび/または不活性ガスを1〜50%含むものとされることができる。
【0022】
これにより、基板中に所望のイオン濃度・分布でイオン注入され、しかも、イオン注入によるダメージの除去されたシリコン基板1Aが得られる。
【0023】
その後、エピ成長炉内において、エッチングガスの供給を停止し、シラン系などのエピタキシャル層成膜ガスを供給することにより、図1(f)に示すように、エピ成長工程として、得られたシリコン基板1A上に所定のエピタキシャル層4を成長させ、図1(g)に示すように、裏面及び側面の熱酸化膜2を除去することにより、エピタキシャル層4を備えたシリコンウェーハWを得ることができる。本実施形態においては、イオン注入によるダメージが非常に少ないシリコン基板1A上にエピタキシャル層4を成長させるので、エピタキシャル層4を成長させた場合に検出される結晶欠陥が非常に少ないシリコンウェーハを得ることが可能となる。
【0024】
なお、本発明は上述した例に限定されるものではなく、例えば、上述した実施形態においては、保護酸化膜2を設けてから注入工程をおこなったが、保護酸化膜2を設けなくてもよい。保護酸化膜2を設けない場合でも、本発明においては、ダメージ除去工程において十分にイオン注入によるダメージを除去することが可能となる。また、保護酸化膜2を設けない場合、製造工程を簡略化することができるとともに、熱処理の回数を少なくすることができる。
【0025】
「第2実施形態」
第2実施形態においては、上述した第1実施形態と異なる部分のみ説明し、重複する説明を省略する。上述した第1実施形態では、基板1の表面全面に拡散層3を形成する製造方法について説明したが、第2実施形態においては基板1の表面の一部に選択的に拡散層3を形成する製造方法について説明する。
【0026】
図2は、本発明のシリコンウェーハの製造方法の他の例を説明するための工程断面図である。
本実施形態では、まず、図2(a)に示すように、シリコン単結晶からなる基板1を用意し、次いで、図2(b)に示すように、基板1表面上の全面にCVD法などにより二酸化珪素からなる酸化膜5を形成し、図2(c)に示すように、フォトリソグラフー法を用いて酸化膜5をパターニングして基板1の表面の一部を露出させる。
次いで、保護膜形成工程として、図2(d)に示すように、露出されている部分の基板1上に熱酸化膜からなる保護酸化膜2を形成し、図2(e)に示すように、第1実施形態と同様にして注入工程をおこなう。続いて、図2(f)に示すように、保護膜除去工程として、フッ酸などのエッチング液を用いて、保護酸化膜2および酸化膜5をエッチング除去する。その後、図2(g)に示すように、第1実施形態と同様にしてダメージ除去工程をおこなう。
【0027】
これにより、基板中の一部分の領域に所望のイオン分布・濃度で部分的にイオン注入され、しかも、イオン注入によるダメージの除去されたシリコン基板1A‘が得られる。
その後、図2(h)に示すように、第1実施形態と同様にしてエピ成長工程をおこなうことにより、エピタキシャル層4を備えたシリコンウェーハW‘を得ることができる。
本実施形態においては、イオン注入によるダメージが非常に少ないシリコン基板1A‘上にエピタキシャル層4を成長させるので、エピタキシャル層4を成長させた場合に検出される結晶欠陥が非常に少ないシリコンウェーハW’を得ることが可能となる。
【0028】
また、本発明において製造されたイオン注入されたシリコンウェーハは、シリコンウェーハ上にエピタキシャル層を成長させた場合に検出される結晶欠陥が非常に少なく、好ましいものであるが、シリコンウェーハ上にエピタキシャル層を成長させない場合、すなわち、シリコンウェーハ製造工程途中としてのダメージ除去工程をおこなう場合ではなく、シリコンウェーハ製造の最終工程としてダメージ除去工程をおこなう場合にも適応することができる。
【0029】
「実験例1〜実験例2」
以下に示す方法でエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
まず、エピ成長炉内にシリコン単結晶からなる基板1を設置し、基板1上に注入エネルギー70keV、注入量1×1015atoms/cmでボロンをイオン注入する処理をおこない、拡散層3を形成した(注入工程)。そして、イオン注入された基板1の深さ方向に対する注入されたイオンのガウス分布を調べた。その結果を図3に示す。図3に示すように、基板1の深さ方向に対する注入されたイオンのガウス分布の最大濃度深さRpは0.3μmであった。
【0030】
次いで、表1に示す濃度の塩化水素ガスを含む水素雰囲気、表1に示す熱処理温度、処理時間で熱処理することにより、イオン注入された基板1上のイオン注入によるダメージをエッチング除去した(ダメージ除去工程)。
【0031】
そして、ダメージ除去工程におけるエッチング除去量を表1に示す。なお、ここでのエッチング除去量は、エッチング前後におけるエピタキシャル膜の膜厚変化(減少量)をFT−IR(フーリエ変換赤外分光分析装置)により測定することにより求めた。
また、ダメージ除去工程の熱処理後に残留する注入イオンの量を表1に示す。なお、ここでの注入イオンの量は、イオン注入時におけるイオン電流を測定することにより、あらかじめ求めた注入量に換算することで求めた。
【0032】
ダメージ除去工程後、得られたシリコンウェーハ上に、エピ成長炉内において、以下に示すエピタキシャル条件でエピタキシャル層4を成長させることにより、エピタキシャルシリコンウェーハを得た。そして、得られたエピタキシャルシリコンウェーハの表面の結晶欠陥のうち、0.13μm以上の大きさのものを、ウェーハ表面にレーザー光を照射してその散乱光強度によってウェーハ表面の状態を観測するレーザー散乱計によって検出した。
その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
「従来例」
以下に示す方法でエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
まず、実験例1と同様の基板1に、実験例1と同様にして注入工程をおこなった。その後、表1に示すように塩化水素ガスを含まない水素雰囲気で、実験例1と同様の熱処理温度、処理時間で熱処理をおこない、実験例1と同様にして熱処理におけるエッチング除去量と、熱処理後に残留する注入イオンの量とを求めた。その結果を表1に示す。
熱処理後、得られたシリコンウェーハ上に、実験例1と同様にしてエピタキシャル層を成長させることにより、エピタキシャルシリコンウェーハを得た。そして、得られたエピタキシャルシリコンウェーハの表面の結晶欠陥数を実験例1と同様にして検出した。その結果を表1に示す。
【0035】
表1に示すように、ダメージ除去工程におけるエッチング除去量が最大濃度深さRpの5〜120%である実験例1〜実験例2では、結晶欠陥数が塩化水素ガスを含まない雰囲気で熱処理をおこなった従来例と比較して非常に少なくなっている。具体的には、欠陥数が従来例では1254個であるのに対し、実施例1では20個、実施例2では7個と非常に少ない結果となった。
また、エッチング除去量がRpの43%である実験例1では、熱処理後に残留する注入イオンの量は98%であり、ダメージ除去工程によって除去される注入イオンの量が非常に少ないことが確認できた。また、エッチング除去量がRpの117%である実験例2では、熱処理後に残留する注入イオンの量は23%であった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明のシリコンウェーハの製造方法の一例を説明するための工程断面図である。
【図2】図2は、本発明のシリコンウェーハの製造方法の他の例を説明するための工程断面図である。
【図3】図3は、イオン注入された基板の深さ方向に対する注入されたイオンのガウス分布を示したグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1…基板、2…保護酸化膜、3…拡散層、4…エピタキシャル層、5…酸化膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶からなる基板上にイオン注入処理をおこなう注入工程と、
空孔注入効果を有するエッチングガス雰囲気で熱処理することによりイオン注入された前記基板上のイオン注入によるダメージを除去するために、基板表面をエッチングするダメージ除去工程と、
エピタキシャル成長によりエピタキシャル層を成膜するエピ工程と、を備えることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記ダメージ除去工程におけるエッチング除去量が、前記基板に注入されたイオンの前記基板深さ方向分布における最大濃度位置となる深さRpに対して5〜120%の厚みとされることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記ダメージ除去工程における前記エッチングガス雰囲気が塩化水素ガスを含むものとされ、該塩化水素ガスの濃度が、1〜50%であることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記ダメージ除去工程における処理時間が、30〜120秒であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記ダメージ除去工程における処理温度が、1000〜1210℃であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記注入工程の前に、イオン注入によるダメージから前記基板を保護する保護酸化膜を形成する保護膜形成工程を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のシリコンウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−107905(P2009−107905A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284064(P2007−284064)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】