説明

シリコンエピタキシャルウエーハ製造システム及びシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法

【課題】一定量のシリコン原料ガスをシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に供給できるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム及びシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法を提供する。
【解決手段】原料混合ガス集中供給装置1で生成した原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定する複数の濃度値測定装置18a,18bと、前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を各シリコンエピタキシャル成長装置11,12,13にデジタル信号で伝達する伝達手段17と、前記濃度値若しくは前記補正値に基づいて、各シリコンエピタキシャル成長装置11,12,13内の反応室11c,12c,13cに供給する前記原料混合ガスの量を随時補正する流量制御装置14,15,16と、を具備するシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンエピタキシャルウエーハ製造システム及びシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンエピタキシャルウエーハは、半導体素子を製造する観点から見ると、基板とは異なる抵抗率を有する電気的活性層を形成することができるので、半導体素子を設計する際の自由度が大きく、また結晶欠陥の原因となる酸素や炭素の濃度が低い高純度の単結晶薄膜を任意の厚さに形成できる等の利点が多いため、高耐圧半導体素子や集積回路素子、固体撮像素子(CCD<Charge−Coupled Device>、CIS<CMOS Image Sensor>)等で製品に実用化されている。
【0003】
一般的なエピタキシャル層の形成方法として、例えばCVD法(Chemical Vapor Deposition method)が用いられており、以下の主な4種類のシリコン原料ガスを水素ガスで希釈した原料混合ガスが使用されている。すなわち水素還元法では、シリコン原料ガスとしてSiCl、SiHClが使用され、熱分解法では、シリコン原料ガスとしてSiHCl、SiHが使用される。
【0004】
通常、シリコンエピタキシャル成長装置は一定濃度の原料混合ガスが供給されることを前提に設計されているため、シリコンエピタキシャル成長装置に供給される原料混合ガスに濃度変動があれば膜厚変動に直結し、気相成長させたエピタキシャル層の特性、特に抵抗値に大きく影響する。そのため、エピタキシャル膜の膜厚を一定にするためには、シリコンエピタキシャル成長装置に供給される原料混合ガスの濃度を一定にすることが極めて重要である。
【0005】
最もよく使用される原料混合ガスである水素−トリクロロシラン混合ガスは、原料混合ガス供給装置内の気化器で加温した液体のトリクロロシランに水素ガスをバブリングしてトリクロロシランを気化させ一旦過剰な濃度の水素−トリクロロシラン混合ガスを作り、次にトリクロロシラン集中供給装置内のコンデンサー(凝縮器)で一定温度に冷却することにより過剰分を液化回収することにより生成される。
【0006】
このようにして生成された水素−トリクロロシラン混合ガスはシリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給される。この原料混合ガス供給装置は、小型の原料混合ガス供給装置をシリコンエピタキシャル成長装置毎に設ける個別供給方式と、大型の原料混合ガス供給装置から複数のシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に分配する集中供給方式がある。シリコンエピタキシャル成長装置に供給される原料混合ガスの濃度の安定性が高いのは集中供給方式である。
【0007】
生成される原料混合ガスの濃度は原料混合ガス供給装置内のコンデンサーの温度によって決まるので、通常フィードバック制御などを用いて可能な限りコンデンサーの冷却水温度が一定になるよう注意が払われるが、どの様なシステムにも何らかの外乱があり、例えば昼夜の気温の変動などにより影響を受けるため、完全に一定濃度の原料混合ガスを供給し続けることは困難である。そのため、集中供給方式であってもわずかな原料ガスの濃度変動は避けられず、結果として気相成長されるエピタキシャル層の膜厚変動を招き、シリコンエピタキシャルウエーハの特性、特に抵抗値に大きく影響を与えることが問題となっていた。これに対して、原料混合ガスに濃度変動があっても膜厚変動しないように原料混合ガスを供給できるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム及びシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法の開発が望まれていた。
【0008】
この問題を解決する方法として、シリコンエピタキシャル成長装置が供給された原料混合ガスの濃度に応じて原料ガスの使用量を調整する方法が知られている(引用文献1)。この方法では、理想的な濃度の水素−トリクロロシラン混合ガスを想定して作製されたプロセスプログラムを用いる。この方法は、各エピタキシャル工程を実行する前に、実際に供給装置内で生成した水素−トリクロロシラン混合ガス中の実際のトリクロロシランの濃度を測定し、その測定値により前記プログラムに修正を加えることで、供給されるトリクロロシランの量を最適化する方法である。しかしながら、この方法ではエピタキシャル工程前に修正を行うため、プロセスプログラムを実行中にトリクロロシランの濃度が変動した場合には、変動後のトリクロロシランの濃度には対応できない。そのため、プロセスプログラムの実行中にトリクロロシランの濃度が変動した場合には、膜厚変動が起きてしまうという問題があった。実際、供給装置内のコンデンサーの温度は外気温に少なからず影響を受けるため、トリクロロシランの濃度は一日の中で絶えず変化しており、プロセスプログラムの実行中にトリクロロシランの濃度は変動しうる。従って、このような方法では前記問題の根本的解決には至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−193014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、エピタキシャル工程プログラムを実行中であっても、濃度値測定装置が測定するシリコン原料ガスの濃度値、又は濃度値から計算される補正値に基づいてシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に供給される原料混合ガスの量を随時補正し、一定量のシリコン原料ガスをシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に供給できるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム及びシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、
少なくとも、複数のシリコンエピタキシャル成長装置と、該各シリコンエピタキシャル成長装置に水素ガスで希釈されたシリコン原料ガスからなる原料混合ガスを供給する原料混合ガス集中供給装置とを具備するシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムであって、
前記原料混合ガス集中供給装置で生成した前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定する濃度値測定装置と、
前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を前記各シリコンエピタキシャル成長装置にデジタル信号で伝達する伝達手段と、
前記濃度値若しくは前記補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給する前記原料混合ガスの量を随時補正する流量制御装置とを具備するものであることを特徴とするシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムを提供する。
【0012】
このように、複数のシリコンエピタキシャル成長装置と、原料混合ガス集中供給装置とを具備するシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムであって、前記原料混合ガス集中供給装置で生成した前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定する濃度値測定装置と、前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を前記各シリコンエピタキシャル成長装置にデジタル信号で伝達する伝達手段と、前記濃度値若しくは前記補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給する前記原料混合ガスの量を随時補正する前記流量制御装置とを具備するシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムであれば、エピタキシャル成長工程中であっても濃度値測定装置が常時測定するシリコン原料ガスの濃度値、又は濃度値から計算される補正値に基づいてシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に供給される原料混合ガスの量を随時補正し、一定量のシリコン原料ガスをシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に供給できるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムを提供することができる。
【0013】
また、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムは前記濃度値測定装置を複数備えるものであることが好ましい。
【0014】
このように、濃度値測定装置を複数備えるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムであれば、一の濃度値測定装置が故障した際にも他の濃度値測定装置が正常に動作するため、より信頼性の高いシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムとなる。また、一の濃度値測定装置が故障した際には、故障した濃度値測定装置と正常に動作する他の濃度値測定装置では測定値が異なるため、測定値に差が生じれば故障が発生したことがすぐにわかるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムとなる。
【0015】
さらに、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムに備えられた前記複数の濃度値測定装置は、異なる測定原理に基づく濃度値測定装置を有するものであることが好ましい。
【0016】
このように、互いに異なる測定原理に基づく濃度値測定装置を備えるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムであれば、全ての濃度値測定装置が同じ原因で故障することを防ぐことができ、また複数の測定原理で測定された濃度値は信頼性の高いものとなる。また、一の濃度値測定装置が故障した際には、故障した濃度値測定装置と正常に動作する他の濃度値測定装置では測定値が異なるため、測定値に差が生じれば故障が発生したことがすぐにわかるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムとなる。
【0017】
また、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムは、前記濃度値又は前記補正値を、自動で又は手動で記録媒体に記録する記録装置を具備するものであることが好ましい。
【0018】
このように、前記濃度値又は前記補正値を、自動で又は手動で記録媒体に記録する記録装置を具備するシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムであれば、システムの障害などに備えることができる。
【0019】
さらに、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムは、前記流量制御装置により補正された前記原料混合ガスの供給量と、該補正前の前記原料混合ガスの供給量を、自動で又は手動で記録媒体に記録する記録装置を具備するものであることが好ましい。
【0020】
このように、前記流量制御装置により補正された原料混合ガスの供給量と、該補正前の原料混合ガスの供給量を、自動で又は手動で記録媒体に記録する記録装置を具備するシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムであれば、システムの障害などに備えることができる。
【0021】
また、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムは、前記シリコン原料ガスがトリクロロシランであることが好ましい。
【0022】
このように、シリコン原料ガスがトリクロロシランであれば、製造されるエピタキシャル膜の膜厚がより変動しにくいシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムとなる。
【0023】
また、上記目的を達成するために、本発明では、
複数のシリコンエピタキシャル成長装置と、該各シリコンエピタキシャル成長装置に水素ガスで希釈されたシリコン原料ガスからなる原料混合ガスを供給する原料混合ガス集中供給装置とを用いたシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記原料混合ガス集中供給装置で生成した前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を濃度値測定装置を用いて常時測定しつつ、
前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を伝達手段を用いて前記各シリコンエピタキシャル成長装置にデジタル信号で伝達し、
前記濃度値若しくは前記補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給する前記原料混合ガスの量を流量制御装置を用いて随時補正することを特徴とするシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法を提供する。
【0024】
このように、複数のシリコンエピタキシャル成長装置と、該各シリコンエピタキシャル成長装置に水素ガスで希釈されたシリコン原料ガスからなる原料混合ガスを供給する原料混合ガス集中供給装置とを用いたシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であって、前記原料混合ガス集中供給装置で生成した前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を濃度値測定装置を用いて常時測定しつつ、前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を伝達手段を用いて前記各シリコンエピタキシャル成長装置にデジタル信号で伝達し、前記濃度値若しくは前記補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給する前記原料混合ガスの量を流量制御装置を用いて随時補正することを特徴とするシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であれば、エピタキシャル成長工程中であっても濃度値測定装置が常時測定するシリコン原料ガスの濃度値、又は濃度値から計算される補正値に基づいてシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に供給される原料混合ガスの量を随時補正し、一定量のシリコン原料ガスをシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に供給できるシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法を提供することができる。
【0025】
また、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法では、前記濃度値測定装置を複数用いて前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定することが好ましい。
【0026】
このように、濃度値測定装置を複数用いて前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定するシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であれば、一の濃度値測定装置が故障した際にも他の濃度値測定装置が正常に動作するため、より信頼性の高いシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法となる。また、一の濃度値測定装置が故障した際には、故障した濃度値測定装置と正常に動作する他の濃度値測定装置では測定値が異なるため、測定値に差が生じれば故障が発生したことがすぐにわかるシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法となる。
【0027】
さらに、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法では、前記複数ある濃度値測定装置を用いて、異なる測定原理に基づき前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定することが好ましい。
【0028】
このように、複数ある濃度値測定装置を用いて、異なる測定原理に基づき前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定するシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であれば、全ての濃度値測定装置が同じ原因で故障することを防ぐことができ、また複数の測定原理で測定された濃度値は信頼性の高いものとなる。また、一の濃度値測定装置が故障した際には、故障した濃度値測定装置と正常に動作する他の濃度値測定装置では測定値が異なるため、測定値に差が生じれば故障が発生したことがすぐにわかるシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法となる。
【0029】
また、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法では、前記濃度値又は前記補正値を、記録装置を用いて自動で又は手動で記録媒体に記録することが好ましい。
【0030】
このように、前記濃度値又は前記補正値を、自動で又は手動で記録媒体に記録する記録装置を具備するシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であれば、システムの障害などに備えることができる。
【0031】
さらに、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法では、前記流量制御装置により補正された前記原料混合ガスの供給量と、該補正前の前記原料混合ガスの供給量を、記録装置を用いて自動で又は手動で記録媒体に記録することが好ましい。
【0032】
このように、前記流量制御装置により補正された原料混合ガスの供給量と、該補正前の原料混合ガスの供給量を、自動で又は手動で記録媒体に記録する記録装置を具備するシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であれば、システムの障害などに備えることができる。
【0033】
また、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法では、前記シリコン原料ガスとしてトリクロロシランを用いることが好ましい。
【0034】
このように、シリコン原料ガスとしてトリクロロシランを用いれば、製造されるエピタキシャル膜の膜厚がより変動しにくいシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法となる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように本発明によれば、エピタキシャル工程のプロセスプログラムを実行中に、常時濃度値測定装置の測定する原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値、又は濃度値から計算される補正値に基づいてシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に供給される原料混合ガスの量が随時補正されるので、常にシリコン原料ガスの濃度変化の影響が抑制された原料混合ガスをシリコンエピタキシャル成長装置の反応室に供給でき、品質の信頼性の高いエピタキシャルウエーハを得ることができるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム及びシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムの一実施形態を示す概念図である。
【図2】従来のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムを示す概念図である。
【図3】実施例1及び比較例1で用いた原料混合ガス中のトリクロロシランの一日の濃度値の変化を、縦軸を濃度値として横軸を時間として示した図である。
【図4】実施例1で用いた本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムにより製造したエピタキシャル膜の膜厚推移を、縦軸を膜厚の長期間における平均値を1としたときの相対値とし、横軸を時間として示した図である。
【図5】比較例1で用いた従来のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムにより製造したエピタキシャル膜の膜厚推移を、縦軸を膜厚の長期間における平均値を1としたときの相対値とし、横軸を時間として示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述のように、原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度に濃度変動があっても製造されるエピタキシャル膜の膜厚が変動しないように一定の原料混合ガスを供給できるシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム及びシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法の開発が望まれていた。
【0038】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、
原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度に濃度変動があっても製造されるエピタキシャル膜の膜厚が変動しないように一定の原料混合ガスを供給するためには、まず濃度値測定装置により原料混合ガス集中供給装置で生成した水素ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定して濃度変動を検出することが必要であること、さらに濃度変動をデジタル信号で伝達し、検出された濃度変動に応じて、前記シリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給する原料混合ガスの量を必要に応じて随時補正する前記流量制御装置が必要であることを見出して本発明に到達した。以下詳細に説明していく。
【0039】
本発明は、
少なくとも、複数のシリコンエピタキシャル成長装置と、該各シリコンエピタキシャル成長装置に水素ガスで希釈されたシリコン原料ガスからなる原料混合ガスを供給する原料混合ガス集中供給装置とを具備するシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムであって、
前記原料混合ガス集中供給装置で生成した前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定する濃度値測定装置と、
前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を前記各シリコンエピタキシャル成長装置にデジタル信号で伝達する伝達手段と、
前記濃度値若しくは前記補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給する前記原料混合ガスの量を随時補正する前記流量制御装置とを具備するものであることを特徴とするシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムである。
【0040】
図2には、従来のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム20の概略図が示されている。従来のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム20では原料混合ガス集中供給装置1から送られる原料混合ガスがライン2とマスフローコントローラ21b、22b、23bを介して各シリコンエピタキシャル成長装置21、22、23の反応室21c、22c、23cへ供給される。原料混合ガスを供給するマスフローコントローラ21b、22b、23bは、エピタキシャル成長工程プログラムの進行度に従って流すべき標準濃度の原料混合ガスの供給量を指令する制御部21a、22a、23aにより制御される。従って、エピタキシャル工程のプロセスプログラムを実行中に原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度変動が生じた場合に対応できる機構がない。そのため、エピタキシャル工程のプロセスプログラムを実行中に原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度変動が生じた場合には、反応室21c、22c、23cへ供給されるシリコン原料ガスの量に過不足が生じることとなり、引いては気相成長されるエピタキシャル層の膜厚変動を招き、シリコンエピタキシャルウエーハの特性、特に抵抗値に大きく影響を与える。
【0041】
一方で、図1には、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム10の一実施形態の概略図が示されている。本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム10では原料混合ガス集中供給装置1から送られる原料混合ガスがライン2とマスフローコントローラ11b、12b、13bを介して各シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13の反応室11c、12c、13cへ供給される前に、原料混合ガスを供給するマスフローコントローラ11b、12b、13bは流量制御装置14、15、16により制御される。流量制御装置14、15、16は、伝達手段17を介して濃度値測定装置18a、18bで得られた原料混合ガス集中供給装置1で生成した原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値又は補正値の情報を常時得ることができる。従って、エピタキシャル工程のプロセスプログラムを実行中に原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度が変動した場合であっても、シリコン原料ガスの濃度変動に応じて実際に流すべき原料混合ガスの供給量を随時補正することができる。そのため、エピタキシャル工程のプロセスプログラムを実行中に原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度変動が生じた場合であっても、反応室11c、12c、13cへ供給されるシリコン原料ガスの量を標準値付近で一定に保つことができ、気相成長されるエピタキシャル層の膜厚変動を防ぎ、シリコンエピタキシャルウエーハの特性、特に抵抗値を一定に保つことができる。以下本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムを構成する各装置及び手段について説明する。
【0042】
濃度値測定装置
本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム10は濃度値測定装置18a、18bを具備する。濃度値測定装置18a、18bは前記原料混合ガス集中供給装置1で生成した原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定する装置である。濃度値測定装置18a、18bは原料混合ガス集中供給装置1の出口に設置することができる。濃度値測定装置18a、18bは、濃度値測定装置18a、18b自身の故障を検知できるように複数設置するのが好ましい。つまり、故障した濃度値測定装置は他の正常な濃度値測定装置と異なる濃度値を示すので、このように濃度値測定装置18a、18bが複数あれば、各濃度値測定装置18a、18bの測定値を比較することで故障している濃度値測定装置を特定することができる。また、このように濃度値測定装置18a、18bが複数あれば、一の濃度値測定装置が故障したとしても他の濃度値測定装置が正常な濃度値を与えるのでシステム全体の冗長性が担保される。
【0043】
さらに、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム10は互いに測定原理の異なる濃度値測定装置18a、18bを有することが好ましい。このように、各々の濃度値測定装置18a、18bの測定原理が異なれば濃度値測定装置18a、18bが同じ原因で故障することを防ぐことができる。また、異なる測定原理で測定することで測定値の信頼性を担保することができる。異なる測定原理とは、例えば、熱伝導率に基づく濃度値測定装置、音速に基づく濃度値測定装置などが例示される。
【0044】
伝達手段
本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムは伝達手段17を具備する。前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を前記各シリコンエピタキシャル成長装置にデジタル信号で伝達する伝達手段17は、濃度値測定装置18a、18bから濃度値を受け取るための入力ユニット17a、入力ユニット17aが受けたデジタルデータをシリコンエピタキシャル成長装置11、12、13へ伝達する通信ユニット17bを具備する。さらに、伝達手段17はCPUを有することができる。
【0045】
入力ユニット17aのCPUでは、例えば2つの濃度値測定装置18a、18bから受けた電圧をそれぞれ濃度値に換算したのち、2つの濃度値に一定以上の差がなければ両方の測定値が等しいと判断し、標準濃度との比較により「補正値」を算出することができる。ここで「標準濃度」とは、シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13の反応室11c、12c、13cに供給したいシリコン原料ガスの濃度である。この際、シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13のマスフローコントローラ(MFC:Mass Flow Controller)11b、12b、13bのコンバージョンファクターの変化も考慮して算出する。濃度値と算出した補正値は通信ユニット17bを介してシリコンエピタキシャル成長装置11、12、13側に伝達される。
【0046】
また、もし前記2つの濃度値に一定以上の差がある場合はいずれかの濃度値測定装置18a、18bが故障していると伝達手段17のCPUが判断し、管理者に自動で知らせる仕組みとすることができる。
【0047】
前記補正値はシリコンエピタキシャル成長装置11、12、13内の反応室11c、12c、13cに供給する原料混合ガスの量を補正するための値であり、前記濃度値測定装置18a、18bにより測定された原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値に基づいて計算される値である。例えば、補正値は以下の算出式で算出される。下記算出式で「標準シリコン原料ガスの濃度値」とは、シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13の反応室11c、12c、13cに供給したいシリコン原料ガスの濃度値である。また、「測定したシリコン原料ガスの濃度値」とは、濃度値測定装置18a、18bにより測定されたシリコン原料ガスの濃度値である。また、下記算出式でコンバージョンファクターとは、マスフローコントローラ−11b、12b、13bのガスの種類による流量表示の変化を表した数値であり、通常マスフローコントローラ−11b、12b、13bは窒素(N)又はアルゴン(Ar)のコンバージョンファクターを1として校正される。
補正値=(測定したシリコン原料ガスの濃度値×測定したシリコン原料ガスの濃度値でのコンバージョンファクター)/(標準シリコン原料ガスの濃度値×標準シリコン原料ガスの濃度値でのコンバージョンファクター)
【0048】
前記伝達手段17としては、組み立て式PLC(Power Line Communication)を利用することが好ましい。PLCとは電力線を通信回線として利用する技術である。建物には電気配線が張り巡らされているため、PLCを用いることで新たにケーブルなどを敷設することなく構内通信網を構築することができる。組み立て式PLCを利用する場合、通信ユニット17bは建物に張り巡らされている電気配線となる。組み立て式PLCには様々な機能を持ったユニットが用意されているので、濃度値測定装置18a、18bの出力方法に合わせて入力ユニット17aを選定することができる。例えば、前記熱伝導率に基づく濃度値測定装置、前記音速に基づく濃度値測定装置等が測定結果を電圧で出力する場合には、組み立て式PLCを具備する伝達手段17はこの出力方法に合わせた入力ユニット17aを有することができる。また、組み立て式PLCにはデジタル化された前記濃度値又は前記補正値の伝達方法についても様々なプロトコルが用意されており、通信ユニット17bを介して伝達する前記濃度値又は前記補正値のプロトコルも接続されるシリコンエピタキシャル成長装置11、12、13の台数や堅牢性などから選択すると良い。また、入力ユニット17aに入力された前記濃度値そのものを伝達するのではなく、PLC内のCPUで必要な演算を施し、前記「補正値」に変換してから伝達することもできる。
【0049】
流量制御装置
本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム10は流量制御装置14、15、16を具備する。流量制御装置14、15、16は、エピタキシャル成長工程プログラムの進行度に従って流すべき標準濃度の原料混合ガスの供給量を指令する制御部11a、12a、13aと、制御部11a、12a、13aから指令された流すべき標準濃度の原料混合ガスの供給量と伝達手段17により伝達された前記濃度値又は前記「補正値」に基づいて修正された実際に流すべき原料混合ガスの供給量をマスフローコントローラ11b、12b、13bに随時指令する修正部11d、12d、13dとを具備する。
【0050】
前記修正部11d、12d、13dは例えばPLCとすることができ、CPUを具備することができる。修正部11d、12d、13dのCPUでは、伝達手段17の通信ユニット17bから受信した濃度値又は補正値と、制御部11a、12a、13aから受信した流すべき標準濃度の原料混合ガスの供給量に基づいて実際にシリコンエピタキシャル成長装置11、12、13の反応室11c、12c、13c内に流すべき原料混合ガスの供給量を算出することができる。算出法としては、例えば下記式が挙げられる。このように計算された実際に流すべき原料混合ガスの供給量を流量制御装置14、15、16のアナログ出力ユニットからマスフローコントローラ11b、12b、13bに出力することで原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度に応じた流量補正を実現することができる。
実際に流すべき原料混合ガスの供給量=流すべき標準濃度の原料混合ガスの供給量×補正値
【0051】
記録装置
本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムは記録装置19a、19bを具備することができる。記録装置19aは、自動で又は手動で、前記濃度値又は前記補正値を記録することができることが好ましい。また、記録装置19bは、自動で又は手動で前記流すべき標準濃度の原料混合ガスの供給量、及び前記計算された実際に流すべき原料混合ガスの供給量を記録することができることが好ましい。これによりシステム障害等の場合であっても各データが失われることを回避できる。記録媒体としては例えば、フラッシュメモリなどが挙げられる。記録方法は、自動で又は手動でおこなうことができ、例えば自動で5分ごとに記録するよう設定することができ、又濃度値、補正値、流すべき標準濃度の原料混合ガスの供給量、及び計算された実際に流すべき原料混合ガスの供給量がある閾値を下回った時に自動で記録するよう設定することもできる。
【0052】
前記記録装置19a、19bは、例えば入力ユニット17aや修正部11d、12d、13dに設置することができる。
【0053】
シリコン原料ガス
前記シリコン原料ガスは一般的なエピタキシャル層の形成方法に用いられるシリコン原料ガスであればよく、SiCl、SiHCl、SiHCl、SiH等が例示され、特にトリクロロシランであることが好ましい。シリコン原料ガスがトリクロロシランであれば、製造されるエピタキシャル膜の膜厚がより変動しにくいシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムとなる。
【0054】
また、本発明は、
複数のシリコンエピタキシャル成長装置と、該各シリコンエピタキシャル成長装置に水素ガスで希釈されたシリコン原料ガスからなる原料混合ガスを供給する原料混合ガス集中供給装置とを用いたシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記原料混合ガス集中供給装置で生成した前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を濃度値測定装置を用いて常時測定しつつ、
前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を伝達手段を用いて前記各シリコンエピタキシャル成長装置にデジタル信号で伝達し、
前記濃度値若しくは前記補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給する前記原料混合ガスの量を流量制御装置を用いて随時補正することを特徴とするシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法を提供する。
【0055】
上記で説明した各装置を用いて、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法の一実施態様について説明する。ただし、本発明はこれに限られるものではない。
【0056】
以下に説明する本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法を前述の概略図1を用いて説明する。まず、原料混合ガス集中供給装置1の原料混合ガス排出口に濃度値測定装置18a、18bとして測定原理の異なる2種類の濃度センサーを取り付ける(濃度センサー1、2)。1台は熱伝導率に基づく濃度値測定装置であり、もう1台は音速に基づく濃度値測定装置とする。原料混合ガス集中供給装置1で生成した前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を濃度値測定装置18a、18bを用いて常時測定しつつ、どちらも測定結果を電圧で出力するので、入力ユニット17aであるPLC(入力ユニット17a)のCPUユニットにアナログ入力ユニットを取り付け、このPLC(入力ユニット17a)に2種類の濃度値測定装置18a、18bからの出力電圧をデジタルデータとして取り込む。
【0057】
前記PLC(入力ユニット17a)では2種類の濃度値測定装置からの出力電圧をそれぞれ濃度値に換算したのち、2つの濃度値に一定以上の差がなければ両方の測定値が等しいと判断し、下記式により「補正値」を算出する。この際、シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13のマスフローコントローラ11b、12b、13bのコンバージョンファクターの変化も考慮して計算する。濃度値、又は濃度値から計算された補正値を伝達手段17を用いて前記各シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13にデジタル信号で伝達するように、算出した濃度値と補正値は通信ユニット17bを介して流量制御装置14、15、16のPLC(修正部11d、12d、13d)に伝送する。これと共に、PLC(入力ユニット17a)に接続したフラッシュメモリ(記録装置19a)に自動で5分ごとに記録するようにする。また、2つの測定値に一定以上の差がある場合はいずれかの濃度センサー1、2が故障していると判断し、管理者に自動で知らせる仕組みとする。
補正値=(測定したシリコン原料ガスの濃度値×測定したシリコン原料ガスの濃度値のコンバージョンファクター)/(標準シリコン原料ガスの濃度値×標準シリコン原料ガスの濃度値のコンバージョンファクター)
【0058】
前記シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13側のPLC(修正部11d、12d、13d)は、濃度センサー1、2側のPLC(入力ユニット17a)から送られてきた濃度値と補正値を受信するとともに、流量制御装置14、15、16の制御部11a、12a、13aから送られる標準濃度の原料混合ガスの供給量を電圧値として受信するようにする。濃度値と補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13内の反応室11c、12c、13cに供給する前記原料混合ガスの量を流量制御装置14、15、16を用いて随時補正するように、この電圧値に補正値を掛けた値(実際に流すべき原料混合ガスの供給量)をPLC(修正部11d、12d、13d)のアナログ出力ユニットからマスフローコントローラ11b、12b、13bに随時出力する。これにより、原料混合ガス集中供給装置1で生成された原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度に応じた供給量を随時補正することを実現する。
【0059】
また、前記濃度センサー1、2側のPLC(入力ユニット17a)からPLC(修正部11d、12d、13d)への情報が途絶えた場合には、情報が途絶える直前にPLC(修正部11d、12d、13d)が受信した補正値を用いて随時補正を続けると共に、管理者に不具合があったことを自動で知らせる仕組みとする。
【0060】
さらに、前記シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13側のPLC(修正部11d、12d、13d)は、マスフローコントローラ11b、12b、13bに実際に流すべき原料混合ガスの供給量を指示するために送った電圧が、ある閾値を越えている間はエピタキシャル成長中であると判断し、この間の濃度値、補正値、流すべき標準濃度の原料混合ガスの供給量、及び実際に流すべき原料混合ガスの供給量をそれぞれ平均し、閾値を下回った時点で平均値をPLC(修正部11d、12d、13d)に接続したフラッシュメモリ(記録装置19b)に自動的に記録するようにする。
【0061】
また、前記シリコン原料ガスとして用いられるシリコン原料ガスは、一般的なエピタキシャル層の形成方法に用いられるシリコン原料ガスであればよく、SiCl、SiHCl、SiHCl、SiH等が例示され、特にトリクロロシランを用いることが好ましい。シリコン原料ガスとしてトリクロロシランを用いれば、製造されるエピタキシャル膜の膜厚がより変動しにくいシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法となる。
【0062】
以上の実施態様により、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であれば、原料混合ガス集中供給装置1で生成された原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度が変動した場合でも、濃度変動に応じて実際に流すべき原料混合ガスの供給量を制御することができるため、反応室へ供給されるシリコン原料ガスの量を標準値付近で一定に保つことができ、気相成長されるエピタキシャル層の膜厚変動を防ぎ、シリコンエピタキシャルウエーハの特性、特に抵抗値を一定に保つことができるシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法となる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
実施例1で用いたシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムの概略は前述の概略図1と一致する。まず、原料混合ガス集中供給装置1の原料混合ガス排出口に濃度値測定装置18a、18bとして測定原理の異なる2種類の濃度センサーを取り付けた(濃度センサー1、2)。1台は熱伝導率に基づく濃度値測定装置であり、もう1台は音速に基づく濃度値測定装置である。原料混合ガス集中供給装置1で生成した水素−トリクロロシラン混合ガス(原料混合ガス)中のトリクロロシランの濃度値を濃度値測定装置18a、18bを用いて常時測定しつつ、どちらも測定結果を電圧で出力するので、入力ユニット17aであるPLC(入力ユニット17a)のCPUユニットにアナログ入力ユニットを取り付け、このPLC(入力ユニット17a)に2種類の濃度値測定装置18a、18bからの出力電圧をデジタルデータとして取り込んだ。
【0065】
PLC(入力ユニット17a)では2種類の濃度値測定装置からの出力電圧をそれぞれ濃度値に換算したのち、2つの濃度値に一定以上の差がなければ両方の測定値が等しいと判断し、下記式により「補正値」を算出するようにした。この際、シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13のマスフローコントローラ11b、12b、13bのコンバージョンファクターの変化も考慮して計算した。濃度値、又は濃度値から計算された補正値を伝達手段17を用いて前記各シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13にデジタル信号で伝達するように、算出した濃度と補正値は通信ユニット17bを介して流量制御装置14、15、16のPLC(修正部11d、12d、13d)に伝送する。これと共に、PLC(入力ユニットa)に接続したフラッシュメモリ(記録装置19a)に自動で5分ごとに記録するようにした。また、2つの測定値に一定以上の差がある場合はいずれかのセンサーが故障していると判断し、管理者に自動で知らせる仕組みとした。
補正値=(測定したトリクロロシランの濃度値×測定したトリクロロシランの濃度値のコンバージョンファクター)/(標準トリクロロシランの濃度値×標準トリクロロシランの濃度値のコンバージョンファクター)
【0066】
前記シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13側のPLC(修正部11d、12d、13d)は、濃度センサー1、2側のPLC(入力ユニット17a)から送られてきた濃度値と補正値を受信するとともに、流量制御装置14、15、16の制御部11a、12a、13aから送られる標準濃度の水素−トリクロロシラン混合ガスの供給量を電圧値として受信するようにした。濃度値と補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13内の反応室11c、12c、13cに供給する前記水素−トリクロロシラン混合ガスの量を流量制御装置14、15、16を用いて随時補正するように、この電圧値に補正値を掛けた値(実際に流すべき水素−トリクロロシラン混合ガスの供給量)をPLC(修正部11d、12d、13d)のアナログ出力ユニットからマスフローコントローラ11b、12b、13bに随時出力する。これによりで水素−トリクロロシラン混合ガス中のトリクロロシランの濃度に応じた供給量を随時補正することを実現した。
【0067】
また、濃度センサー1、2側のPLC(入力ユニット17a)からPLC(修正部11d、12d、13d)への情報が途絶えた場合には、情報が途絶える直前にPLC(修正部11d、12d、13d)が受信した補正値を用いて随時補正を続けると共に、管理者に不具合があったことを自動で知らせる仕組みとした。
【0068】
さらに、前記シリコンエピタキシャル成長装置11、12、13側のPLC(修正部11d、12d、13d)は、マスフローコントローラ11b、12b、13bに実際に流すべき水素−トリクロロシラン混合ガスの供給量を指示するために送った電圧が、ある閾値を越えている間はエピタキシャル成長中であると判断し、この間の濃度値、補正値、流すべき標準濃度の水素−トリクロロシラン混合ガスの供給量、及び実際に流すべき水素−トリクロロシラン混合ガスの供給量をそれぞれ平均し、閾値を下回った時点で平均値をPLC(修正部11d、12d、13d)に接続されたフラッシュメモリ(記録装置19b)に自動的に記録するようにした。
【0069】
(比較例1)
比較例1で用いたシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムの概略は前述の概略図2と一致する。原料混合ガス集中供給装置1から送られる水素−トリクロロシラン混合ガスが各シリコンエピタキシャル成長装置21、22、23の反応室21c、22c、23cへ供給される。水素−トリクロロシラン混合ガスを供給するマスフローコントローラ21b、22b、23bは、エピタキシャル成長工程プログラムの進行度に従って流すべき標準濃度の水素−トリクロロシラン混合ガスの供給量を指令する制御部21a、22a、23aにより制御される。従って、本発明における水素−トリクロロシラン混合ガス中のトリクロロシランの濃度値を測定する濃度値測定装置18a、18b、伝達手段17、及び流量制御装置14、15、16はなく、水素−トリクロロシラン混合ガス中のトリクロロシランの濃度変動に対応して、シリコンエピタキシャル成長装置21、22、23内の反応室21c、22c、23cに供給する水素−トリクロロシラン混合ガスの量を補正できる機構はない。
【0070】
図3には、実施例1及び比較例1で用いた水素−トリクロロシラン混合ガス中のトリクロロシランの一日の濃度値の変化を、縦軸を濃度値変化として、横軸を時間とした図が示されている。図3により、原料混合ガス集中供給装置1で生成した水素−トリクロロシラン混合ガス中のトリクロロシランの濃度は気温の高い昼間に濃度が下がる傾向があることが分かる。外気温が上がれば原料混合ガス集中供給装置1内のコンデンサーの温度も上がるため、生成される水素−トリクロロシラン混合ガス中のトリクロロシランの濃度が影響を受けるからである。これは、生成される水素−トリクロロシラン混合ガス中のトリクロロシランの濃度が原料混合ガス集中供給装置1内のコンデンサーの温度によって決まるためであり、通常フィードバック制御などを用いて可能な限りコンデンサーの冷却水温度が一定になるよう注意が払われるが、完全に一定濃度の水素−トリクロロシラン混合ガスを供給し続けることは困難であることを示している。
【0071】
図5は比較例1で用いた従来のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムにより製造したエピタキシャル膜の膜厚推移を、縦軸を膜厚の長期間における平均値を1としたときの相対値とし、横軸を時間として示した図である。また、図4は実施例1で用いた本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムにより製造したエピタキシャル膜の膜厚推移を、縦軸を膜厚の長期間における平均値を1としたときの相対値とし、横軸を時間として示した図である。図5は、水素−トリクロロシラン混合ガス中のトリクロロシランの濃度変化の影響を受けて昼間はエピタキシャル膜の膜厚が薄くなる傾向が見られる。これに対し、図4では昼間にエピタキシャル膜の膜厚が薄くなるような傾向は見られない。これにより、本発明に係るシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム10は、反応室11c、12c、13cへ供給される水素−トリクロロシラン混合ガスの量を一定に保つことができ、気相成長されるエピタキシャル層の膜厚変動を防ぎ、シリコンエピタキシャルウエーハの特性、特に抵抗値を一定に保つことができることが示された。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0073】
1…原料混合ガス集中供給装置、2…ライン、11,12,13,21,22,23…シリコンエピタキシャル成長装置、11a,12a,13a,21a,22a,23a…制御部、11b,12b,13b,21b,22b,23b…マスフローコントローラ(MFC)、11c,12c,13c,21c,22c,23c…反応室、11d,12d,13d…修正部、14,15,16…流量制御装置、17…伝達手段、17a…入力ユニット、17b…通信ユニット、18a,18b…濃度値測定装置、19a,19b…記録装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリコンエピタキシャル成長装置と、該各シリコンエピタキシャル成長装置に水素ガスで希釈されたシリコン原料ガスからなる原料混合ガスを供給する原料混合ガス集中供給装置とを具備するシリコンエピタキシャルウエーハ製造システムであって、
前記原料混合ガス集中供給装置で生成した前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定する濃度値測定装置と、
前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を前記各シリコンエピタキシャル成長装置にデジタル信号で伝達する伝達手段と、
前記濃度値若しくは前記補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給する前記原料混合ガスの量を随時補正する流量制御装置とを具備するものであることを特徴とするシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム。
【請求項2】
前記濃度値測定装置を複数備えるものであることを特徴とする請求項1に記載のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム。
【請求項3】
前記複数ある濃度値測定装置は、異なる測定原理に基づく濃度値測定装置を有することを特徴とする請求項2に記載のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム。
【請求項4】
前記濃度値又は前記補正値を、自動で又は手動で記録媒体に記録する記録装置を具備するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム。
【請求項5】
前記流量制御装置により補正された前記原料混合ガスの供給量と、該補正前の前記原料混合ガスの供給量を、自動で又は手動で記録媒体に記録する記録装置を具備するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム。
【請求項6】
前記シリコン原料ガスがトリクロロシランであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリコンエピタキシャルウエーハ製造システム。
【請求項7】
複数のシリコンエピタキシャル成長装置と、該各シリコンエピタキシャル成長装置に水素ガスで希釈されたシリコン原料ガスからなる原料混合ガスを供給する原料混合ガス集中供給装置とを用いたシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記原料混合ガス集中供給装置で生成した前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を濃度値測定装置を用いて常時測定しつつ、
前記濃度値、又は前記濃度値から計算された補正値を伝達手段を用いて前記各シリコンエピタキシャル成長装置にデジタル信号で伝達し、
前記濃度値若しくは前記補正値に基づいて、前記シリコンエピタキシャル成長装置内の反応室に供給する前記原料混合ガスの量を流量制御装置を用いて随時補正することを特徴とするシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項8】
前記濃度値測定装置を複数用いて前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定することを特徴とする請求項7に記載のシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項9】
前記複数ある濃度値測定装置を用いて、異なる測定原理に基づき前記原料混合ガス中のシリコン原料ガスの濃度値を常時測定することを特徴とする請求項8に記載のシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項10】
前記濃度値又は前記補正値を、記録装置を用いて自動で又は手動で記録媒体に記録することを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載のシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項11】
前記流量制御装置により補正された前記原料混合ガスの供給量と、該補正前の前記原料混合ガスの供給量を、記録装置を用いて自動で又は手動で記録媒体に記録することを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載のシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項12】
前記シリコン原料ガスとしてトリクロロシランを用いることを特徴とする請求項7乃至請求項11のいずれか1項に記載のシリコンエピタキシャルウエーハの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−64834(P2012−64834A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208917(P2010−208917)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】