説明

スパッタリング薄膜成膜方法及びスパッタリング薄膜成膜装置。

【課題】対向ターゲット式スパッタ法を用いて、プラズマ粒子が存在する領域の外に化合物半導体の付いた基板を置いて、化合物半導体にプラズマ粒子による衝撃を与えないで絶縁性薄膜を形成するとともに、良質の化学量論的に純粋な絶縁性薄膜を形成して、半導体上に耐久性の高い薄膜を付与した素子の製造方法と製造装置を提供する。
【解決手段】対向ターゲットのスパッタリングにより基板上に薄膜を成膜するスパッタリング薄膜成膜方法において、前記対向ターゲット外淵と前記基板との中程に対向した反応性ガス導入口を設け、該反応性ガス導入口の向かっている方向が前記基板面中心部の垂線と概ね直角であって、各反応性ガス導入口の先端から前記垂線までの距離を50から300mmに設定し、基板付近での反応性ガス分圧を高めることで化学量論的に純粋な良質の絶縁性薄膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向ターゲットを用いたスパッタリングで、反応性ガスで基板上に良質の絶縁性薄膜を生成する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
InSbやInAsなどの化合物半導体を用いたホール素子や磁気抵抗素子は、化合物半導体が表面に出た状態で使用すると、周囲の湿気、酸やアルカリなどの影響を受け性能が劣化してしまうため、Si、SiO、およびSiとSiOの混合物からなる絶縁膜を保護膜として化合物半導体の周囲を覆い、周囲からの劣化の原因を防いでいる。
Si、SiO、およびSiとSiOの混合物からなる絶縁膜を化合物半導体の周囲に保護膜として形成するには、シランガスをプラズマ中で分解させて窒素やアンモニア、酸素などの反応性ガスと反応させて絶縁性保護膜を成膜するCVD(気相化学蒸着)法や、シリコンやSi、SiO、およびSiとSiOの混合物をターゲットとしてプラズマを作り必要に応じて反応性ガスと反応させ、プラズマの上部または下部に基板を置いて絶縁性保護膜を成膜するスパッタ法が用いられている。しかし、これらの方法は、いずれもプラズマ中で絶縁性保護膜を形成するため、絶縁性保護膜を形成する際に、InSbやInAsなどの化合物半導体にアルゴンイオンや活性化した高温のアルゴンや電子などのプラズマ粒子が衝突して、化合物半導体の性能を劣化させる問題がある。InSbやInAsなどの化合物半導体に直接プラズマ粒子が衝突すると表面の結晶性が悪くなり、電子密度の増加による抵抗の低下や、電子移動度の低下をもたらし、半導体としても特性を落とす。電子移動度が低下するとホール素子や磁気抵抗素子では感度が低下する。また、HEMT(高移動度トランジスタ)では高周波への応答速度が低下し高周波への応用が困難になり、化合物半導体の特徴が生かされない。さらに、このように化合物半導体に直接プラズマ粒子が衝突する成膜方法では、反応性ガスとして窒素ガスや酸素ガスを導入する場合、酸素や窒素が活性化して、InSbやInAsなどの化合物半導体表面にインジウム酸化物やインジウム窒化物などを形成して、半導体が絶縁化する場合もあり、半導体の物性を維持することが困難となる。
【0003】
このような絶縁層成膜時におけるプラズマ衝撃を除く方法として、対向ターゲットを用いたスパッタ方法が挙げられる。対向ターゲット式スパッタ装置では、対向しているターゲット間でプラズマが発生し、プラズマ粒子もその内部に存在するので、プラズマの外部に位置する場所に化合物半導体膜の付いた基板を置くことで、プラズマ粒子が直接化合物半導体面に衝突しない状態で絶縁性保護膜を形成することができる。このような技術の先行文献として特許文献1が知られている。
特許文献1に記載の技術は、対向ターゲットを用いスパッタリングによりターゲットから飛び出させたターゲット粒子と反応性ガスを反応させて基板上に絶縁薄膜を作製する方法と、その装置が記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1の方法で作製した窒化珪素と酸化珪素の混合物からなる膜は、化学量論的に純粋なSiおよびSiO膜と比較して光透過率が低く、純粋なSiおよびSiO膜が得られない。
つまり、特許文献1の方法では、ターゲットとしてシリコンを用い反応ガスとして窒素と酸素を用い、窒化珪素と酸化珪素の混合物を成膜しているが、光波長510nmの光透過率が膜厚3961オングストロームでは87%で、膜厚5218オングストロームでは77%である。理論的な窒化珪素と酸化珪素の混合物の光透過率は、光波長510nmで100%あることから、特許文献1の方法では、化学量論的に純粋な窒化珪素および酸化珪素が得られない。化学量論的に純粋なSi、SiO、およびSiとSiOの混合物からなる絶縁膜が得られないと、保護膜としての耐湿性や耐酸および耐アルカリに対する性能が低下する。
【0005】
このような膜を、化合物半導体素子の保護膜として用いた場合、耐久性試験において化合物半導体の性能低下が問題である。対向ターゲットを用いたスパッタ方法は、プラズマ衝撃は少ない反面、反応性ガスとの反応が充分ではないため、耐久性の高い化学量論的に純粋な絶縁膜ができていないのが現状である。
【特許文献1】特開2005−48227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、対向ターゲット式スパッタ法を用いて、プラズマ粒子が存在する領域の外に化合物半導体の付いた基板を置いて、化合物半導体にプラズマ粒子による衝撃を与えないで絶縁性薄膜を形成するとともに、良質の化学量論的に純粋な絶縁性薄膜を形成して、半導体上に耐久性の高い薄膜を付与できる薄膜成膜方法と、その製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するため対向ターゲットのスパッタリング時に、対向ターゲットと、基板と、反応性ガス導入口と、の相対的な位置関係を所定に設定することにより、基板に近い位置に置かれた反応性ガス導入からの反応性ガスの分圧を高めに保つことができ、そのためスパッタにより飛び出したスパッタ粒子が基板の手前で窒素や酸素など反応性ガスと充分結合し、化学量論的に純粋な良質のSi、SiO、およびSiとSiOの混合物などの絶縁膜を形成できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、対向ターゲットのスパッタリングにより基板上に薄膜を成膜するスパッタリング薄膜成膜方法において、前記対向ターゲット外淵と前記基板との中程に対向した反応性ガス導入口を設け、該反応性ガス導入口の向かっている方向が前記基板面中心部の垂線と概ね直角であって、各反応性ガス導入口の先端から前記垂線までの距離が50から300mmであることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜方法です。
【0008】
また、反応性ガスが窒素ガスで、前記薄膜が窒化物であることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜方法です。
また、前記窒化物が窒化珪素で、その屈折率が1.9から2.1であり、波長400nmにおける透過率が90から100%であることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜方法です。
また、前記基板が化合物半導体であることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜方法です。
また、対向ターゲットのスパッタリングにより基板上に薄膜を成膜するスパッタリング薄膜成膜装置において、前記対向ターゲット外淵と前記基板との中程に対向した反応性ガス導入口を設け、該反応性ガス導入口の向かっている方向が前記基板面中心部の垂線と概ね直角であって、各反応性ガス導入口の先端から前記垂線までの距離が50から300mmであることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜装置です。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、InSbやInAsなどの化合物半導体上に直接、Si、SiO、およびSiとSiOの混合物などの絶縁膜を得る方法として、プラズマ衝撃を与えずに化合物半導体上に直接絶縁膜を成膜することができる対向ターゲット式スパッタ法を用い、化学量論的に純粋な良質のSi、SiO、およびSiとSiOの混合物などの絶縁膜を形成して、耐久性能の高い化合物半導体素子を提供する効果を有します。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明でいう対向ターゲットのスパッタリングとは、対向ターゲット式スパッタ装置を用いたスパッタリングをいう。本発明では、スパッタリングのためのプラズマの種類を特定しないが、直流または交流高周波電源からなるプラズマがある。本発明で用いる対向ターゲット式スパッタ装置のスパッタ部の概略図を図1に示す。図1における符号は、1が基板。2が基板ホルダー。3、3aがターゲツトホルダー、4、4aが磁石、5、5aがターゲット、6、6aが反応性ガス導入口、を示す。
対向ターゲット式スパッタ装置のスパッタ部は、同じ形状のターゲットが対向していることに特長があり、ターゲット間に直流または交流の電源をかけることによりターゲット間にアルゴンなどのプラズマを発生させることができる。そのため、概ね図1のPで示した領域で、アルゴンなどのプラズマ粒子が存在する。そして、そのプラズマ粒子の飛来する軌道を図1のTに示します。
【0011】
反応ガス導入口は、図3に示すように、対向ターゲット外淵と基板との中程に対向した位置に設け、反応性ガス導入口の向かっている方向が前記基板面中心部の垂線と概ね直角の位置にある。本発明では、図4に示すように、各反応性ガス導入口の先端から前記垂線までの距離である反応性ガス導入距離が、50から300mmであることを特徴とする。
Si、SiOなどの絶縁性保護膜を成膜する場合は、この反応性ガス導入距離が300mmより大きい場合には、光透過性の低い黒ずんだ膜が成膜され、耐久性能が良くない。反応性ガス導入距離が大きい場合に、光透過性の低い黒ずんだ膜ができるのは、ターゲット付近の窒素分子濃度が低めになり、スパッタにより基盤表面に到達するシリコン粒子と窒素分子が基板付近で充分反応できないため、膜のシリコン成分が多くなり、化学量論的に純粋な窒化珪素(Si)、酸化珪素(SiO)および窒化珪素と酸化珪素の混合物の膜ができないためと考えられる。さらにこのような黒ずんだ膜で、耐久性が良くないのは、保護膜として性能の高い化学量論的に純粋なSi、SiO、およびSiとSiOの混合物などの膜ができていないため、化学的に不安定な膜となっていることが考えられる。また、反応性ガス導入距離が50mmより小さい場合には、成膜される膜の膜厚分布がばらついて、均一な膜厚の成膜が困難である。本発明では、この反応性ガス導入距離を、30〜300mmに調整することが好ましく、反応性ガス導入距離を、50〜250mmに調整することがより好ましく、反応性ガス導入距離を、100〜200mmに調整することがさらに好ましい。
【0012】
本発明では、化合物半導体に保護膜を形成する場合、薄膜として、Si、SiOおよびSiとSiOの混合物などを形成することが好ましい。これらの薄膜を化合物半導体の表面および周囲に形成することにより、化合物半導体が周囲からの湿気、酸やアルカリなどの影響を受け性能が劣化するのを防ぐことができる。Si、SiO、およびSiとSiOの混合物などの絶縁性保護膜を成膜する場合は、ターゲット材として純度の高いSi、SiO、およびSiとSiOの混合物を用いて、高周波電源をかけてプラズマを発生させる方法があるが、ターゲット材に純度の高いシリコンを用いて直流電源をかけてプラズマを発生させ、図1に示した反応ガス導入口6および6aから窒素ガスまたは酸素ガスなどの反応性ガスを導入して絶縁性保護膜を形成することが好ましい。
【0013】
本発明では、成膜時の化合物半導体膜へのプラズマ衝撃を示す指標として、基板上の化合物半導体表面の温度を測定して用いる。プラズマ衝撃となるアルゴンイオンや高温アルゴンガスや電子などのプラズマ粒子が化合物半導体に当たれば化合物半導体表面の温度が高くなることから、化合物半導体の表面温度をサーモラベルを用いて測定して、化合物半導体の表面温度が100℃以下になるように図2に示すターゲットと基板の距離を調整している。本発明では、化合物半導体に対するプラズマ衝撃を少なくするため、サーモラベルを用いて測定した成膜中の化合物半導体の表面最高温度を20〜100℃に調整することが好ましく、表面最高温度を20〜70℃に調整することが、より好ましく、表面最高温度を20〜50℃に調整することがさらに好ましい。
【0014】
本発明では、図2に示すターゲットと基板の距離を調整することが好ましい。このターゲットと基板の距離が大きければ大きいほど化合物半導体膜へのプラズマ粒子による衝撃は少なくなるが、その反面、成膜速度が遅くなるため、適度なターゲットと基板の距離が必要となる。本発明では、ターゲットと基板の距離が、20〜200mmが好ましく、ターゲットと基板の距離が、40〜150mmがより好ましく、ターゲットと基板の距離が、50〜130mmがさらに好ましい。
本発明での薄膜の成膜速度は、プラズマを形成するアルゴンの流量、スパッタ圧力、反応性ガスの流量、ターゲット/基板距離、反応性ガス導入距離などの要因を受ける。これらの要因を調整して、プラズマ粒子が化合物半導体に直接当たらないで、高い成膜速度を得ている。本発明での絶縁性保護膜の成膜速度を、5〜50nm/分に調整することが好ましく、絶縁性保護膜の成膜速度を、10〜30nm/分に調整することがより好ましく、絶縁性保護膜の成膜速度を、10〜25nm/分に調整することがさらに好ましい。
【0015】
本発明での薄膜の膜厚は、特に限定しないが、化合物半導体を湿気や酸またはアルカリから保護する目的で使用する場合には、薄膜の膜厚が高い方が好ましいが、厚過ぎると成膜時間がかかるし膜応力も大きくなり適当ではない。本発明では、絶縁性保護膜の膜厚を1〜1000nmが調整することが好ましく、絶縁性保護膜の膜厚を10〜500nmに調整することがより好ましく、絶縁性保護膜の膜厚を50〜500nmに調整することがさらに好ましい。
本発明では、薄膜を付ける化合物半導体として、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSbなどからなる結晶および混晶、およびそれらの化合物半導体混合物からなる結晶および混晶を用いることができる。本発明では、磁気センサなどの高い電子移動度が必要な素子に用いる場合には、化合物半導体として、InAs1−xSb(0≦x≦1)からなる化合物半導体が好ましい。化合物半導体の膜厚は、特に限定しないが、化合物半導体の膜厚が薄いほどプラズマ粒子からの衝撃の影響が大きいので、化合物半導体の膜厚が薄いほど本発明の効果が大きく、化合物半導体の膜厚として0.001〜2ミクロンが好ましく、化合物半導体の膜厚として0.001〜1ミクロンがより好ましい。
【0016】
本発明で石英基板上に成膜したSi膜は、その屈折率が1.9から2.1であり、波長400nmにおける透過率が90から100%であり、化学量論的に純粋なSiバルクの値である屈折率が2.0と、波長400nmにおける透過率100%にほぼ匹敵する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
[実施例1〜3]
半絶縁性の2インチGaAs基板の上に、MBE法を用いてInSb膜の成長を行った。InSb膜の厚さは、実施例1では、厚さ0.3ミクロン、実施例2では、厚さ0.6ミクロン、実施例3では、厚さ1.0ミクロンに調整した。それぞれの膜の特性をファンデルポー法により測定した結果を表1に示す。さらに、このGaAs基板上に形成したInSb膜を用いて、半導体薄膜素子としてホール素子を作製した。フォトリソグラフィーを応用し、InSbをホール素子のパターンに加工した。
【0018】
ホール素子の絶縁性保護膜として対向ターゲット式スパッタを用いて、Si膜400nmを成膜した。Si膜の成膜では、InSb表面にプラズマ粒子が当たらないInSb表面温度40〜45℃で成膜した。
表2に対向ターゲット式スパッタの成膜条件を示す。プラズマガスとしてアルゴンガスを用い、反応性ガス導入距離を150mmとし、反応性ガスとして窒素ガスを用いた。Si膜成膜中のInSbの表面温度は、日油技研工業株式会社製サーモラベル3K−40で測定し、40〜45℃であった。ホール素子は、ダイシングの後、ダイボンディング、ワイヤーボンディング工程を経て、トランスファーモールド工程により樹脂でパッケージ化して、Si絶縁性保護膜付きホール素子を作製した。
【0019】
このSi絶縁性保護膜の成膜速度は、17nm/分であった。本実施例と同じ対向ターゲット式スパッタ条件で、石英基板上に成膜したSi膜400nmの波長400nmでの光透過率は、98%であり、波長510nmでの光透過率は、100%であった。さらに、本実施例と同じ絶縁性保護膜の成膜条件で、シリコン基板上に成膜したSi膜400nmの屈折率をエリプソメーターで測定したところ屈折率2.01であった。
このホール素子1000個の特性の平均値を表3に示す。定電圧感度は、入力電圧1V、印加磁束密度50mTで測定した値である。定電流感度は、入力電流5mA、印加磁束密度50mTで測定した値である。
【0020】
このホール素子1000個のプレッシャークッカー試験(PCT)後の特性評価をし、その特性評価平均値を表4に示す。プレッシャークッカー試験は、121℃、湿度99%、2気圧水蒸気雰囲気で100時間行った。
実施例1と同じInSb膜厚0.3ミクロン、Si膜400nmで反応性ガス導入距離のみを30mm、50mm、100mm、150mm、200mm、300mm、400mmと変えて作製した同じようなホール素子を、上述と同じプレッシャークッカー試験(PCT)前後の変化を表5、図5、図6、図7に示す。表5は、それぞれの距離の場合のPCT前後の変化を、入力抵抗Rin、定電圧感度Vh(1V)、定電流感度Vh(5mA)の変化量を示す、図5、図6、図7は、それぞれをグラフ化して示している。
これらのデータにより、反応性ガス距離は、50から300mmの範囲で変化が少なくPCTに対する信頼性が高いことを示している。
なお、上述の結果は、Si膜を50nmに、InSb膜をInAs膜に変えても同じであった。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】
[実施例4〜6]
実施例1〜3と同様に、半絶縁性の2インチGaAs基板の上に、MBE法を用いてInSb膜の成長を行った。InSb膜の厚さは、実施例4では、厚さ0.3ミクロン、実施例5では、厚さ0.6ミクロン、実施例6では、厚さ1.0ミクロンに調整した。それぞれの膜の特性をファンデルポー法により測定した結果を表6に示す。さらに、このGaAs基板上に形成したInSb膜を用いて、絶縁性保護膜としてSiとSiOの混合膜を膜厚400nmに調整して成膜した以外は実施例1〜3と同じ方法でホール素子を作製した。表7に絶縁性保護膜の成膜条件を示す。この成膜では反応性ガスとして窒素ガスと酸素ガスの混合ガスを用いた。この成膜中のInSbの表面温度は実施例1〜3と同様の方法で測定し、40〜45℃であった。
【0027】
この絶縁性保護膜の成膜速度は、20nm/分であった。本実施例と同じ対向ターゲット式スパッタ条件で、石英基板上に成膜した絶縁性保護膜400nmの波長400nmでの光透過率は、98%であり、波長510nmでの光透過率は、100%であった。さらに、本実施例と同じ絶縁性保護膜の成膜条件で、シリコン基板上に成膜した絶縁性保護膜400nmの屈折率をエリプソメーターで測定したところ屈折率1.86であった。
このホール素子1000個に対して、ホール素子作製後の特性の平均値を表8に示す。定電圧感度と定電流感度は、実施例1〜3と同様の方法で測定した値である。
このホール素子1000個のプレッシャークッカー試験後の特性評価をし、その特性評価平均値を表9に示す。プレッシャークッカー試験は、実施例1〜3と同様の方法で行った。実施例1〜3と同様に変化がなく、信頼性に優れていることが分かる。
【0028】
【表6】

【0029】
【表7】

【0030】
【表8】

【0031】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のスパッタリング薄膜成膜方法、スパッタリング薄膜成膜装置は、特に半導体素子の製造方法の分野で信頼性に優れた保護絶縁膜の製法、製造装置に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明で用いる成膜装置のスパッタ部の概略図
【図2】基板とターゲットの位置関係を示す概略図
【図3】反応性ガス導入の位置を示す概略図
【図4】反応性ガス導入距離を示す概略図
【図5】反応性ガス導入距離の違いによるPCT後の入力抵抗の変化図
【図6】反応性ガス導入距離の違いによるPCT後の定電圧感度の変化図
【図7】反応性ガス導入距離の違いによるPCT後の定電流感度の変化図
【符号の説明】
【0034】
1:基板
2:基板ホルダー
3、3a: ターゲットホルダー
4、4a:磁石
5、5a: ターゲット
6、6a:反応性ガス導入口
P:プラズマ粒子のある領域
T:ターゲット粒子の軌道
SC:基板の中心部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向ターゲットのスパッタリングにより基板上に薄膜を成膜するスパッタリング薄膜成膜方法において、前記対向ターゲット外淵と前記基板との中程に対向した反応性ガス導入口を設け、該反応性ガス導入口の向かっている方向が前記基板面中心部の垂線と概ね直角であって、各反応性ガス導入口の先端から前記垂線までの距離が50から300mmであることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜方法。
【請求項2】
請求項1記載のスパッタリング薄膜成膜方法において、反応性ガスが窒素ガスで、前記薄膜が窒化物であることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜方法。
【請求項3】
請求項2記載のスパッタリング薄膜成膜方法において、前記窒化物が窒化珪素で、その屈折率が1.9から2.1であり、波長400nmにおける透過率が90から100%であることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜方法。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のスパッタリング薄膜成膜方法において、前記基板が化合物半導体であることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜方法。
【請求項5】
対向ターゲットのスパッタリングにより基板上に薄膜を成膜するスパッタリング薄膜成膜装置において、前記対向ターゲット外淵と前記基板との中程に対向した反応性ガス導入口を設け、該反応性ガス導入口の向かっている方向が前記基板面中心部の垂線と概ね直角であって、各反応性ガス導入口の先端から前記垂線までの距離が50から300mmであることを特徴とするスパッタリング薄膜成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−329420(P2007−329420A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161505(P2006−161505)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】