説明

ディーゼルエンジンの排気浄化装置

【課題】排気通路にDOCおよびDPFを備え、DPFの強制再生時の大気温度または大気圧力等の環境条件の変化に対して、スロットルバルブの最小開度およびポスト噴射量を補正することで、HC濃度の増大及びエンジンの失火や過昇温によるDPF破損を抑制するとともに、強制再生時の燃料消費率を極力抑えてオイルダイリューションを低減することを目的とする。
【解決手段】DPF7の強制再生時に排ガス温度を高めてDOC5を活性化させるように吸気スロットルバルブ23を絞るスロットルバルブ制御手段60を備え、該スロットルバルブ制御手段60はエンジン回転数とエンジン負荷からスロットルバルブ最小開度マップ66によって最小開度値を算出し、該最小開度値に対して大気圧力または吸気温度等の環境変化に対する補正を行うスロットル最小開度補正手段75を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気浄化装置に関するもので、特に、排ガス中に含まれるパティキュレートマター(粒子状物質、以下PMと略す)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(以下DPFと略す)の再生制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガス規制において、NOx低減と同様に重要なのが、PMの低減である。これに対する有効な技術として、DPFが知られている。
DPFは、フィルターを用いたPM捕集装置であり、排ガス温度が低いエンジン運転状態では、このDPFにPMが貯まり続けるので、強制的に温度を上げてPMを燃焼する強制再生が行われる。
【0003】
この強制再生は、DPFの上流側に設置された前段酸化触媒(Diesel Oxidation Catalyst、以下DOCと略す)が活性温度に達した後に、レイトポスト噴射により未燃の燃料をDOCに供給して、DOCにて酸化発熱させ、DPF入口温度を600℃程度に昇温して行われる。しかし、DOCが活性温度以下の場合には、吸気スロットルバルブの絞りおよびアーリーポスト噴射条件の変化によりDOCを昇温する。このスロットルバルブ絞りおよびアーリーポスト噴射条件の変化は、通常DOCが活性温度以上になっても継続する。
【0004】
一方、レイトポスト噴射による燃料の一部は、シリンダの内壁に付着して、ピストンが下降する際にピストンリングによって掻き落とされてオイルパンに至り、オイルパンにあるエンジンオイルを希釈する所謂オイルダイリューションを生じる。このような希釈が進行すると、エンジンオイルの粘度が下がり潤滑性が低下し、加えてエンシンオイルの量が増大して、エンジンオイルの噴き出し等の不具合が生じることになる。
【0005】
エンジンオイルの希釈は、DPFの強制再生時に使用するレイトポスト噴射による燃料量が多いほど大きくなる。従って、レイトポスト噴射の噴射量を少なくして効率的な強制再生制御を行う必要がある。
【0006】
ポスト噴射によるオイルダイリューションを回避してDPFの再生制御を行う先行技術として、特許文献1(特開2009−62966号公報)、特許文献2(特開2009−138703号公報)が知られている。
【0007】
特許文献1には、所定期間内のポスト噴射の燃料噴射量が規制値に達した場合にはポスト噴射を中止する技術が示されている。また、特許文献2には、強制再生中に内燃機関の回転速度が所定のアイドル回転速度以下であるときには副燃料噴射のみを中止する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−62966号公報
【特許文献2】特開2009−138703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1、2の技術は、いずれもポスト噴射を停止して燃料供給を停止することで、オイルダイリューションの低減を図るものであり、大気圧力や大気温度のような環境条件の変化によるエンジン出口排ガス温度の変化に適したポスト噴射量に制御して、強制再生を効率的に実施して燃料消費率を低減してオイルダイリューションの低減を図るものではない。
【0010】
一方、スロットルバルブの絞り条件は、排ガス濃度増大(HC濃度増大)やエンジン状態(エンジン失火)に影響を与えないように、それ以上絞ることができない最小開度を、予めベース状態のエンジン回転数及び負荷で決まるマップ等によって設定され、通常の場合、この最小開度にまで絞られた状態でDOC入口温度が昇温されることになるが、高地など気圧が低い環境や大気温度が高い環境では、予め設定されたマップ値では空気量が少なくなり、HC濃度増大や失火を生じ、不安定な燃焼による燃費悪化が懸念される。
【0011】
また、空気流量が少なくなるとエンジン出口排温が高くなるため、DPF強制再生時に予めベース状態のエンジン回転数及び負荷に応じて定めたレイトポスト噴射量とのかい離が大きくなり、DPF入口温度の制御性が低下する。その結果、DPF内部のPMの急激な昇温を引き起こしDPFの破損や担持触媒の熱的性能低下のリスクが高まることや、温度が低く再生が十分進行しなくなるため、所定の温度以上の時間で再生完了が管理される場合、又はDPF温度でスートの再生量を推定し管理される場合は、再生時間が長引き燃費悪化を引き起こす。また、再生時間が長引くとオイルダイリューション量が増大するリスクも高まる。
【0012】
また、レイトポスト噴射においては、予めエンジン運転条件に応じたレイトポスト噴射量がマップ等によって設定されているが、高地など気圧の変化、さらに大気温度等の環境条件の変化があった場合には、エンジン出口排気温度が変わり、予め設定された噴射量と必要とされる噴射量との乖離が大きくなりDPFの温度の振れ幅が大きくなる恐れがあり、その結果、DPF内部のPMの急激な昇温を引き起こしDPFの破損や、担持触媒の熱的性能低下のリスクが高まることや、さらに、DPF温度が低く再生が十分に進行せずに再生時間が長引いて燃料消費率の悪化を引き起こす。また、再生時間が長引くとオイルダイリューション量が増大することが懸念される。
【0013】
そこで、本発明は、これら問題に鑑みてなされたもので、DPFの強制再生時の大気温度または大気圧力等の環境条件の変化に対して、スロットルバルブの最小開度およびポスト噴射量を補正することで、HC濃度の増大及びエンジンの失火や過昇温によるDPF破損を抑制するとともに、強制再生時の燃料消費率を極力抑えてオイルダイリューションを低減できるディーゼルエンジンの排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は、排気通路に前段酸化触媒(DOC)および排気微粒子(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)を備え、前記DPFに捕集されたPMを再生処理するディーゼルエンジンの排気浄化装置において、前記DPFの強制再生時に排ガス温度を高めて前記DOCを活性化させるように吸気スロットルバルブを絞るスロットルバルブ制御手段を備え、該スロットルバルブ制御手段はエンジン回転数とエンジン負荷からスロットルバルブ最小開度が設定されたスロットルバルブ最小開度マップと、該スロットルバルブ最小開度マップによって算出された開度値に対して大気圧補正を掛けるスロットル圧力補正手段と吸気温度補正を掛けるスロットル温度補正手段の少なくとも一方を有したスロットル最小開度補正手段とを備え、該スロットル最小開度補正手段によって吸気スロットルバルブの最小開度が環境変化に対して補正されることを特徴とする。
なお大気圧補正に用いる圧力は大気圧力計の値が望ましいが、配管のいずれかの部分における静圧から推定される大気圧、または配管のいずれか部分における静圧そのものであってもよい。また、吸気温度補正に用いる吸気温度センサは、空気取入口からインマニ部にかけてのいずれの部分にあってもよい。
【0015】
ここで、排気通路にDOCおよびPMを捕集するDPFを備える排ガス浄化装置において、前記DPFに捕集されたPMを再生処理するDPFの再生制御装置における燃料噴射としては、主噴射、アーリーポスト噴射、レイトポスト噴射があり、これらについて図6を参照して説明する。図6は、強制再生時のDPFの入口温度と、DOCの入口温度の変化状態を示すものである。
【0016】
主噴射は、燃焼室内で主の燃焼を行わせるための噴射であり、アーリーポスト噴射は主噴射直後のシリンダ内の圧力がまだ高い状態で、主噴射より少量の燃料を噴射することをいい、このアーリーポスト噴射によって、排ガス温度を上昇させて高温化した排ガスがDOCに流入することで、DOCを活性化させ、活性化に必要な約250℃まで上昇させる。このDOCの活性領域が図6のt1〜t2のA領域である。
そして、その後、アーリーポスト噴射後のクランク角度が下死点近傍まで進んだ状態でさらに2回目のポスト噴射を行う。この2回目のポスト噴射をレイトポスト噴射といい、このレイトポスト噴射は燃焼室内の燃焼に寄与せず、排気行程によって燃焼室から排気通路に排出される。この燃焼室から排出された燃料は既に活性化されたDOCにおいて反応して、発生した酸化熱により排ガス温度をさらに上昇させてDPFの再生に必要な約600℃にしてPMの燃焼を促進する。このDPFでのPMの燃焼領域が図6のt2以降のB領域である。
【0017】
本発明では、まず前記DOCの活性化のA領域において、噴射する燃料量を極力少なくするために、吸気スロットル弁を絞る制御が行われる。なおこの制御は通常B領域でも継続して行われる。
DPFの強制再生時に排ガス温度を高めて前記DOCを活性化させるように吸気スロットルバルブを絞るスロットルバルブ制御手段を備え、該スロットルバルブ制御手段はエンジン回転数とエンジン負荷からスロットルバルブの最小開度が設定されたスロットルバルブ最小開度マップを有している。このスロットルバルブ最小開度マップには、エンジンの運転条件に応じて、予め排ガス濃度増大(HC濃度増大)やエンジン状態(エンジン失火)に影響を与えないように、それ以上絞ることができない最小開度が設定されている。実際の昇温時はこの最小開度まで絞られた状態で昇温されることになる。従って、排ガス濃度の悪化やエンジン失火を抑えてDOCの活性制御を行うことができる。
【0018】
さらに、本発明は、スロットルバルブ最小開度マップによって算出された開度値に対して大気圧補正を掛けるスロットル圧力補正手段と吸気温度補正を掛けるスロットル温度補正手段の少なくとも一方を有したスロットル最小開度補正手段とを備え、該スロットル最小開度補正手段のスロットル圧力補正手段によって大気圧補正、又はスロットル温度補正手段によって吸気温度補正が掛けられ、その補正後のスロットルバルブ最小開度によって前記吸気スロットルバルブの最小開度が制限されるので、高地など気圧の低い環境では、前記大気圧補正がされない場合には、想定以上に吸気量が少なくなり、排ガス濃度増大(HC濃度増大)やエンジン状態(エンジン失火)が悪化する問題があるが、大気圧補正によってこれら問題が回避されて、燃焼の安定化がなされる。また外気温が変わる環境では、空気量の密度の違いによる燃焼性の問題が回避される。
その結果、大気圧力又は吸気温度が変化する場合でもHC濃度の増大やエンジン失火を抑制することができる。更にDOC入口の排温をベース状態のまま一定に保つことができるため、レイトポスト噴射によりDPF入口温度を約600℃に上昇させPMの燃焼を促進する際、温度上昇幅がベース状態のまま一定のためDPF入口の温度制御性を良好な状態で保つことができる。
【0019】
また、本発明において好ましくは、前記スロットル圧力補正手段はスロットル圧力補正マップ又はスロットル圧力補正関係式を有し、該スロットル圧力補正マップは大気圧力に応じて補正係数が設定された2次元マップ、又は該スロットル圧力補正関係式は大気圧力を関数とした関係式であるとよい。
このように、予め、大気圧力に応じた補正係数が設定されたスロットル圧力補正マップ又は関係式を用いることで、簡単に大気圧補正後の最小絞り開度を算出できるため、装置を複雑化することなく大気圧補正が可能になる。
吸気温度補正についても同様にスロットル温度補正マップ又はスロットル温度補正関係式を用いることによって順次補正していく。
更に、大気圧力および吸気温度に応じて補正係数が決定された3次元マップであってもよい。
【0020】
また、本発明において好ましくは、前記スロットルバルブ最小開度マップによって算出された開度値を最小開度として、前記DOCの入口温度の目標温度と実温度との偏差に基づいて算出したフィードバック制御を行うようにするとよい。
このような構成によって、前記スロットルバルブ最小開度マップ値に基づいて算出された最小開度に対して、前記スロットル圧力補正手段による補正又はスロットル温度補正手段による補正を加えDOC入口の目標温度(200℃〜400℃)へのフィードバック制御を行うことで、DOC入口温度を目標温度に維持、又は目標温度まで昇温できなくてもベース状態と同一の温度まで昇温し安定させることができる。その結果、燃焼悪化にならない限度においてスロットル開度を最小に絞ることで、HC濃度の増大やエンジン失火を抑制することができる。
【0021】
さらに、本発明において好ましくは、前記DOC活性化後にメイン噴射後の燃焼に直接寄与しない時期に噴射するレイトポスト噴射の噴射量を制御するレイトポスト噴射量制御手段を備え、該レイトポスト噴射制御手段はエンジン回転数とエンジン負荷からレイトポスト噴射量が設定されたレイトポスト量マップと、該レイトポスト量マップによって算出された噴射量に対して、大気圧補正を掛けるレイトポスト圧力補正手段と吸気温度補正を掛けるレイトポスト温度補正手段の少なくとも一方を有したレイトポスト噴射量補正手段とを備え、該レイトポスト噴射量補正手段によってレイトポスト噴射量が環境変化に対して補正されるとよい。
【0022】
このように、前記DOCの活性化後のB領域(図6参照)において、レイトポスト噴射量制御手段によって、エンジン回転数とエンジン負荷からレイトポスト噴射量が設定されたレイトポスト量マップによって算出された噴射量に対して、大気圧力と吸気温度の少なくとも一方を有したレイトポスト噴射量補正手段による補正を掛ける。
このため、高地や気圧の変化、さらに気温等の環境条件の変化があった際に、エンジン出口排気温度が変わると、予め設定されたレイトポスト噴射量と必要とされるレイトポスト噴射量との乖離が大きくなり、DPFの温度の振れ幅が大きくなり、その結果、DPF内部のPMの急激な昇温を引き起こしDPFの破損や、担持触媒の熱的性能低下のリスクが高まる問題が回避される。さらに、DPF温度が低く再生が十分に進行しないため再生時間が長引いて燃料消費率の悪化を引き起こすこと、更には、オイルダイリューションの問題が回避される。
【0023】
また、本発明において好ましくは、前記レイトポスト圧力補正手段はレイトポスト圧力補正マップ又はレイトポスト圧力関係式を有し、該レイトポスト圧力補正マップは大気圧力に応じて補正係数が設定された2次元マップ、又は該レイトポスト圧力関係式は大気圧力を関数とした関係式であるとよい。
このように、予め、大気圧力に応じた補正係数が設定されたレイトポスト圧力補正マップ又は関係式を用いることで、簡単に大気圧補正後のレイトポスト噴射量を算出できるため、装置を複雑化することなく大気圧補正が可能になる。吸気温度補正についても同様にレイトポスト温度補正マップまたは関係式を用いることで順次補正していく。
【0024】
また、本発明において好ましくは、前記レイトポスト圧力補正手段と前記レイトポスト温度補正手段との両方を備えるとともに、大気圧力および吸気温度に応じて補正係数が決定された3次元マップのレイトポスト大気補正係数マップを有し、該レイトポスト大気補正係数マップによって決定された補正係数に基づいてレイトポスト噴射量が補正されるとよい。このように、予め、大気圧力および吸気温度に応じた補正係数が設定されたレイトポスト大気補正マップを用いることで、簡単に大気圧力と吸気温度による補正後の噴射量を算出できるため、装置を複雑化することなく大気圧力および吸気温度に対する補正が可能になる。
【0025】
また、前記レイトポスト量マップによって算出された噴射量に対して、前記DPFの入口温度の目標温度と実温度との偏差に基づいて算出したフィードバック制御指令値を加算するとよい。
このような構成によって、前記レイトポスト量マップ値に基づいて算出されたフィードフォワード制御値に対して、前記レイトポスト圧力補正手段による補正又はレイトポスト温度補正手段による補正と、それに加えてさらにDPF入口の目標温度(例えば600℃)へのフィードバック制御指令値を加算することで、DPF入口温度を目標温度に確実に維持できる。その結果、レイトポスト噴射の噴射燃料量が抑えられて効率的な再生が行われてオイルダイリューションを低減できる。
【0026】
さらに、本発明において好ましくは、前記スロットル最小開度補正手段による補正を前記レイトポスト噴射量補正手段による補正よりも優先して行う補正連動手段を設け、該補正連動手段は前記スロットル最小開度補正手段によってスロットルバルブ開度が全開状態に達し、それ以上スロットル開度を増大補正できないときに前記レイトポスト噴射量補正手段の補正を行うとよい。
【0027】
このように、補正連動手段を設けて、大気圧力や大気温度などの環境変化に対する補正の優先順位を、スロットル最小開度補正手段による補正をレイトポスト噴射量補正手段による補正よりも優先させるので、環境変化に対して、スロットルバルブ開度の制御によってエンジン排温が一定温度になるように制御し、その後一定のエンジン排温に対してレイトポスト噴射量を制御することによってDPFの入口温度を目標制御温度の約600℃に安定かつ確実に制御可能になる。
【0028】
すなわち、環境変化に対する補正を、スロットル最小開度補正手段を優先させるようにレイトポスト噴射量補正手段と連動させて、スロットルバルブの開度補正によってエンジン排温を一定として、その後にレイトポスト噴射量補正手段によって補正するようにすることによって、環境変化に対してスロットル最小開度補正手段とレイトポスト噴射量補正手段とを別々に独立して補正すると、補正が重複して所定のDPF入口温度の安定的な制御が得られ難いのに対して、DPFの入口温度制御が安定して得られる。
その結果、DPF内部異常昇温や再生時間増大による燃費悪化およびオイルダイリューションを低減できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、DPFの強制再生時の大気温度または大気圧力等の環境条件の変化に対して、スロットルバルブの最小開度およびポスト噴射量を補正することで、HC濃度の増大及びエンジンの失火や過昇温によるDPF破損を抑制するとともに、強制再生時の燃料消費率を極力抑えて効率的な再生制御を行うことでオイルダイリューションを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンの排気浄化装置の概要構成図である。
【図2】第1実施形態のスロットルバルブ制御手段の構成ブロック図である。
【図3】第2実施形態のレイトポスト噴射量制御手段の構成ブロック図である。
【図4】スロットルバルブ制御手段およびレイトポスト噴射量制御手段の補正マップの他の例を示す構成ブロック図である。
【図5】DPFの強制再生制御を示すフローチャートである。
【図6】DPFの強制再生制御におけるDOC入口温度およびDPF入口温度の変化状態を示す説明図である。
【図7】第3実施形態の構成ブロック図である。
【図8】図7のC部の拡大説明図である。
【図9】スロットルバルブ最小開度と圧力損失係数の関係を示すカーブである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0032】
図1を参照して、本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンの排気浄化装置について説明する。
図1に示すように、ディーゼルエンジン(以下エンジンという)1の排気通路3には、DOC(前段酸化触媒)5と該DOC5の下流側にPM(粒子状物質)を捕集するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)7とからなる排ガス後処理装置9が設けられている。
【0033】
さらに、図1において、エンジン1は、排気タービン13とこれに同軸駆動されるコンプレッサ15を有する排気ターボ過給機17を備えており、該排気ターボ過給機17のコンプレッサ15から吐出された空気は給気通路19を通って、インタークーラ21に入り吸気が冷却された後、吸気スロットルバルブ23で吸気流量が制御され、その後シリンダ毎に設けられた吸気ポート25からエンジン1の図示しない燃焼室29内に流入するようになっている。
【0034】
また、エンジン1においては、燃料の噴射時期及び噴射量を制御して燃焼室29内に噴射するコモンレール燃料噴射装置31が設けられており、該コモンレール燃料噴射装置31のコモンレールから燃料噴射弁33に対して所定の燃料噴射時期に、所定の燃料量が供給されるようになっていて、該コモンレール燃料噴射装置31には後述するDPF7の再生制御装置35から制御信号が入力される。
【0035】
また、排気通路3の途中から、図示しないEGR(排ガス再循環)管が分岐されて吸気スロットルバルブ23の下流部位にEGRバルブを介して投入されるようになっている。
【0036】
エンジン1の燃焼室29で燃焼された燃焼ガス即ち排ガス37は、シリンダ毎に設けられた排気ポートが集合した排気マニホールド及び排気通路3を通って、前記排気ターボ過給機17の排気タービン13を駆動してコンプレッサ15の動力源となった後、排気通路3を通って排ガス後処理装置9のDOC5に流入する。
【0037】
また、DOC5の下流側にDPF7が配置されており、該DPF7の再生制御装置35には、コンプレッサ15へ流入する空気流量を検出する空気流量センサ55、DOC入口温度センサ56、およびDPF入口温度センサ57からの信号、さらにDPF7の差圧センサ58からの信号、吸気温度センサ59からの信号、エンジン回転数信号、エンジン負荷(燃料噴射量)信号、大気圧力信号、がそれぞれ入力されている。
【0038】
再生制御装置35には、スロットルバルブ制御手段60、アーリーポスト噴射量制御手段62、レイトポスト噴射量制御手段64を有し、さらに、前記スロットルバルブ制御手段60には、スロットルバルブ最小開度マップ66、スロットル圧力補正手段68、スロットル温度補正手段69が設けられている。このスロットル圧力補正手段68およびスロットル温度補正手段69によって環境変化に対して吸気スロットルバルブ23の最小開度を補正するスロットル最小開度補正手段75が構成される。
【0039】
このように構成されたDPF7の再生制御装置35による強制再生制御の概要を、図5を参照して説明する。図5はDPF7の強制再生制御を示すフローチャートであり、図6はDPF7の強制再生制御におけるDOC入口温度およびDPF入口温度の変化状態を示す説明図である。
【0040】
ステップS2で強制再生制御が開始かを判定する。すなわち、強制再生を開始する条件、例えば、車両であれば走行距離、エンジンの運転時間、トータル燃料消費量等を基に判定される。強制再生が開始されるとステップS3〜S5で、DOC5を活性化するためのDOC昇温制御が実行される。このDOC昇温制御は、図6におけるA領域で行われる(B領域まで継続してもよい)。ステップS3では、スロットルバルブ制御手段60からの信号によって吸気スロットルバルブ23の開度が絞られ、燃焼室内に流入する空気量を絞って、排ガス中の未燃燃料を増加させる。さらに、ステップS4において、アーリーポスト噴射条件変更によるDOCの活性化を実施する。
【0041】
このアーリーポスト噴射とは、主噴射の直後にシリンダ内の圧力がまだ高い状態で主噴射より少量の燃料を噴射する1回目のポスト噴射のことをいい、このアーリーポスト噴射によって、エンジンの出力には影響を与えずに排ガス温度を高め、この高温化された排ガスがDOC5に流入することで、DOC5を活性化させ、そしてDOC5の活性化に伴い排ガス中の未燃燃料を酸化される際に発生する酸化熱で排ガス温度を上昇させる。
【0042】
そして、ステップS5でDOC入口温度センサ56からの信号によって、DOC入口温度が200〜400℃に達したかを判定し、超えている場合には、ステップS6でレイトポスト噴射によってDPF7の入口温度をさらに上昇させる。
【0043】
このレイトポスト噴射以降のステップS6〜8は、DPF7のPMの燃焼制御が実行される。この燃焼制御は、図6のB領域で行われる。
レイトポスト噴射とは、前記アーリーポスト噴射後のクランク角度が下死点近傍まで進んだ状態で噴射する2回目のポスト噴射のことをいい、このレイトポスト噴射によって、排気弁の開状態時に燃焼室29から排気通路3へ燃料を流出させて、排出された燃料は既に活性化されたDOC5において反応して、発生した酸化熱により排ガス温度をさらに上昇させてDPF7の再生に必要な温度、例えば600℃にしてPMの燃焼を促進する。
【0044】
そして、ステップS7でDPFの入口温度センサ48からの信号によって、DPF入口温度が600℃に達したかを判定し、超えている場合にはステップS8によって、ステップS3で設定した吸気スロットルバルブ23の絞り量、およびステップS4で設定したアーリーポスト噴射条件、およびステップS6によって設定したレイトポスト噴射量を制御して、DPF7に捕集されたPMの燃焼を続行させる。
そして、ステップS9で、所定の条件、例えば強制再生の開始からの経過時間、または堆積量推定算出式、差圧センサ58等に基づいて算出された堆積量等に基づいて判定してステップS10で強制再生を終了する。
【0045】
(第1実施形態)
以上のような、DPF7の強制再生制御において、ステップS3における吸気スロットルバルブ23の絞り量の設定手法を図2の構成ブロック図を参照して次に説明する。
【0046】
吸気スロットルバルブ23の絞り量は、スロットルバルブ制御手段60によって制御される。基本的なスロットルバルブの最小開度は、スロットルバルブ最小開度マップ66に設定されており、エンジン回転数とエンジン負荷(燃料噴射量)による3次元マップに表されて設定されている。
【0047】
そして、スロットルバルブ最小開度マップ66によって決定したスロットルバルブの最小開度値に対して、大気圧力センサからの大気圧力信号を基にスロットル圧力補正手段68による補正と、吸気温度センサ59からの信号を基にスロットル温度補正手段69による補正が行われる。
なお、これらスロットル圧力補正手段68による補正と、スロットル温度補正手段69による補正とはいずれか一方だけを行っても、両方を行ってもよい。以下両方行う場合について説明する。
【0048】
スロットル圧力補正手段68による補正は、大気圧力に対して圧力補正係数が設定された2次元のスロットル圧力補正マップ70から算出され、スロットル温度補正手段69による補正は、吸気温度に対して温度補正係数が設定された2次元のスロットル温度補正マップ71から算出され、前記圧力補正係数に対して、乗算器72によって、温度補正係数が乗算され、その乗算された補正係数を乗算器73によってスロットルバルブ最小開度マップ66によって決定したスロットルバルブの最小開度値に乗算して補正後のスロットルバルブの最小開度が算出される。
【0049】
スロットル圧力補正マップ70の補正係数は図2に示すように大気圧力が低下するに従って、補正係数を大きくして最小開度値の制限を大きくして(絞らないようにして)、HC濃度増大やエンジン失火に影響を与えないようにしている。また、スロットル温度補正マップ71の補正係数は図2に示すように吸気温度が高くなるに従って、補正係数を大きくして最小開度値の制限を大きくしている(絞らないようにして空気量の密度の違いによる問題を回避している)。
【0050】
さらに、スロットルバルブ最小開度マップ66によって算出された開度値および、その後圧力補正及び温度補正した最小開度を最小値(限界)として、DOC5の入口温度の目標温度(200〜400℃の一定値)と実温度との偏差に基づいて算出したフィードバック制御指令を行うスロットルバルブ最小開度のフィードバック制御部(F/B制御部)74を有する。このフィードバック制御部74よって算出されたフィードバック制御指令値にて制御を行う。
【0051】
このように、スロットルバルブ最小開度マップ66に基づいて算出された最小開度に対して、スロットル圧力補正手段68による補正およびスロットル温度補正手段69による補正を行いスロットルバルブ開度のフィードバック制御部74によるDOC入口の目標温度へのフィードバック制御を行うことで、DOC入口温度を大気圧力が変化しても目標温度に確実に維持できる。
その結果、DOC入口の排温が環境変化に対して一定のため、レイトポスト噴射によりDPF入口温度を約600℃に上昇させPMの燃焼を促進する際、温度上昇幅がベース状態のまま一定のためDPF入口の温度制御性を良好な状態で保つことができる。その結果、DPF内部のPMの急激な昇温を引き起こしDPFの破損や、担持触媒の熱的性能低下のリスクが高まる問題が回避され、加えてDPF温度が低く再生が十分に進行しないため再生時間が長引くことによる燃料消費率の悪化、更にはオイルダイリューションの問題が回避される。
【0052】
なお、スロットル圧力補正手段68による補正およびスロットル温度補正手段69による補正を行うために、スロットル圧力補正マップ70とスロットル温度補正マップ71の2つの2次元マップを備えることなく、図4(a)に示すように大気圧力および吸気温度に応じて補正係数が設定された3次元マップのスロットル大気補正係数マップ77を有していてもよい。
【0053】
また、スロットル圧力補正手段68はスロットル圧力補正マップ70に代えて、大気圧力を関数とした関係式であるスロットル圧力補正関係式を設けて、それによって算出してもよい。このように、予め、大気圧力に応じた補正係数が設定されたスロットル圧力補正マップ又は関係式を用いることで、簡単に大気圧補正後の最小絞り開度を算出できるため、装置を複雑化することなく大気圧補正が可能になる。また、吸気温度補正についても同様にスロットル温度補正マップ又は関係式を用いることで同様の効果を有する。
【0054】
(第2実施形態)
次に、DPF7の強制再生制御において、ステップS6におけるレイトポスト噴射によるDPF入口温度上昇制御について図3の構成ブロック図を参照して説明する。
レイトポスト噴射の噴射量は基本噴射量として、レイトポスト量マップ78に設定されており、エンジン回転数とエンジン負荷(燃料噴射量)による3次元マップに表されて設定されている。
【0055】
そして、レイトポスト量マップ78によって決定したレイトポスト噴射の基本噴射量値に対して、大気圧力センサからの大気圧力信号を基にレイトポスト圧力補正手段88による補正と、吸気温度センサ59からの信号を基にレイトポスト温度補正手段89による補正が行われる。このレイトポスト圧力補正手段88およびレイトポスト温度補正手段89によって環境変化に対してレイトポスト噴射量を補正するレイトポスト噴射量補正95が構成される。
なお、これらレイトポスト圧力補正手段88による補正と、レイトポスト温度補正手段89による補正とはいずれか一方だけを行っても、両方を行ってもよい。以下両方行う場合について説明する。
【0056】
レイトポスト圧力補正手段88による補正は、大気圧力に対して圧力補正係数が設定された2次元のレイトポスト圧力補正マップ90から算出され、レイトポスト温度補正手段89による補正は、吸気温度に対して温度補正係数が設定された2次元のレイトポスト温度補正マップ91から算出され、前記圧力補正係数に対して、乗算器92によって、温度補正係数が乗算され、その乗算された補正係数を乗算器93によってレイトポスト量マップ78によって決定したレイトポスト噴射量に乗算して補正後のレイトポスト噴射量が算出される。
【0057】
レイトポスト圧力補正マップ90の補正係数は図3に示すように大気圧力が低下するに従って、補正係数を小さくしてレイトポスト噴射量を小さくして、必要とされる噴射量との乖離を小さくしDPF入口温度の振れ幅と小さくしている。その結果DPF入口の温度制御性が向上しDPFの破損や担持触媒の熱的性能低下のリスク回避、及び再生時間が長引くことによる燃料消費率悪化やオイルダイリューションの増大を抑制する。また、レイトポスト温度補正マップ91の補正係数は吸気温度が高くなるに従って、補正係数を小さくしてレイトポスト噴射量を小さくしている。
【0058】
さらに、レイトポスト量マップ78によって算出されたレイトポスト量および、その後圧力補正及び温度補正したレイトポスト量に対して、DPF7の入口温度の目標温度(例えば600℃)と実温度との偏差に基づいて算出したフィードバック制御指令値を加算するレイトポスト噴射量のフィードバック制御部(F/B制御部)94を有する。このフィードバック制御部94よって算出されたフィードバック制御指令値を、加算器96によって加算してレイトポスト噴射量指令値を算出する。
【0059】
このように、レイトポスト量マップ78に基づいて算出されたレイトポスト噴射量に対して、レイトポスト圧力補正手段88による補正およびレイトポスト温度補正手段89による補正と、それに加えて、さらにレイトポスト噴射量のフィードバック制御部94によるDOC入口の目標温度へのフィードバック制御指令値を加算することで、DOC入口温度を大気圧力や吸気温度が変化しても目標温度に確実に維持できる。
その結果、レイトポスト噴射の噴射燃料量が抑えられて効率的な再生が行われてオイルダイリューションを低減できる。
【0060】
なお、レイトポスト圧力補正手段88による補正およびレイトポスト温度補正手段89による補正を行うために、レイトポスト圧力補正マップ90とレイトポスト温度補正マップ91の2つの2次元マップを備えることなく、図4(b)に示すように大気圧力および吸気温度に応じて補正係数が設定された3次元マップのレイトポスト大気補正マップ97を有していてもよい。
【0061】
また、レイトポスト圧力補正手段88はレイトポスト圧力補正マップ90に代えてレイトポスト圧力補正関係式であってもよく、大気圧力を関数とした関係式であるレイトポスト圧力補正関係式を設けてもよい。
このように、予め、大気圧力に応じた補正係数が設定されたレイトポスト圧力補正マップ又は関係式を用いることで、簡単に大気圧補正後の最小絞り開度を算出できるため、装置を複雑化することなく大気圧補正が可能になる。また、吸気温度補正についても同様にスロットル温度補正マップ又は関係式を用いることで同様の効果を有する。
【0062】
以上の第1実施形態および第2実施形態によれば、DPF7におけるPMの燃焼領域(図6のt2以降のB領域)では、大気圧力と吸気温度を基にスロットルバルブ最小開度とレイトポスト噴射量を制御することによって、HC濃度の増大及びエンジンの失火や過昇温によるDPF破損を抑制するとともに、DPF温度が低く再生が十分に進行しないため再生時間が長引くことによる強制再生時の燃料消費率を極力抑え、オイルダイリューションを低減することができる。
【0063】
(第3実施形態)
前記第1実施形態では、スロットルバルブ最小開度マップ66によって決定したスロットルバルブの最小開度値に対して、大気圧力センサからの大気圧力信号を基にスロットル圧力補正手段68による補正と、吸気温度センサ59からの信号を基にスロットル温度補正手段69による補正が行われる。
また、第2実施形態では、レイトポスト量マップ78によって決定したレイトポスト噴射の基本噴射量値に対して、大気圧力センサからの大気圧力信号を基にレイトポスト圧力補正手段88による補正と、吸気温度センサ59からの信号を基にレイトポスト温度補正手段89による補正が行われる。
【0064】
このように、第1実施形態、第2実施形態では、スロットルバルブの最小開度値の環境変化に対する補正と、レイトポスト噴射量の環境変化に対する補正とがそれぞれ独立して行われている。
これに対して第3実施形態では、図7に示すように、大気圧力や大気温度等の環境変化に対するスロットルバルブ最小開度の補正とレイトポスト噴射量の補正とを連動させて、スロットルバルブ最小開度の補正をレイトポスト噴射量の補正より優先して行うように補正連動手段108を設けたものである。
【0065】
図7において、吸気スロットルバルブ23の最小開度は、エンジン回転数とエンジン負荷(燃料噴射量)とに基づいてスロットルバルブの最小開度が設定されている3次元マップのスロットルバルブ最小開度マップ66を用いて算出される。そして、スロットルバルブ最小開度マップ66によって求めたスロットルバルブ23の最小開度値に対して、大気圧力および吸気温度に応じて補正係数が設定された3次元マップのスロットル大気補正係数マップ77からの補正係数が乗算器100によって掛け合わされて環境変化に対する補正が行われる。
この補正後のスロットルバルブ最小開度を最小開度としてフィードバック制御部(F/B制御部)74からの信号に制限を設けスロットルバルブ開度指令値として出力される。
図8に乗算器100による補正係数の積算部分Cの詳細、およびスロットルバルブ開度大気補正マップ77の一例として圧力損失係数の補正マップ106を用いる場合を示す。
【0066】
図8において、スロットルバルブ最小開度マップ66によって決定したスロットルバルブ最小開度を、スロットルバルブ開度(%)と圧力損失係数(ζ)との関係を示した圧力損失係数カーブ104によって圧力損失係数に変換する。
そして、この圧力損失係数に対してスロットル大気補正係数マップ77の一例としての圧力損失係数補正マップ106によって算出した補正係数を乗算器100で掛けて、その掛けた補正後圧力損失係数を再び前記圧力損失係数カーブ104によってスロットルバルブ開度に戻して、スロットルバルブ最小開度とする。
圧力損失係数カーブ104は、図9に示すように、縦軸にスロットルバルブ開度(%)、横軸にスロットルバルブ部の圧力損失係数(ζ)が取られ予め実験的に得られたものであり、開度100%の全開状態で最も圧力損失係数が小さくなり、開度が100%から絞られて小さくなるに従って圧力損失係数が大きくなる特性に設定されている。
スロットル大気補正係数マップ77、および積算部分Cによってスロットル最小開度補正手段99が構成されている。
【0067】
このように、スロットルバルブ最小開度を一度、圧力損失係数カーブ104を用いて圧力損失係数に変換し、その圧力損失係数に対して補正係数を掛けて圧力損失係数を補正して、その後再びスロットルバルブ最小開度に戻すようにするのは、環境変化による補正ではスロットルバルブを通過する吸気質量流量がほぼ同じとなるように補正される必要が有るが、スロットルバルブ開度では開度により開度変化量と流量変化量の関係が異なるため、運転状態によって取りえる様々な開度に対し補正後の開度を一律同じ係数掛けによって決定することができないためである。
差圧と流量から決まる圧力損失係数であれば、様々な開度に対しても対応する圧力損失係数に一律同じ補正係数掛けをすることで同じ流量となるように補正することが可能となる。すなわち同じ大気補正でもスロットルバルブ開度が小さい領域では開度の変化量が小であり、スロットルバルブ開度が大きい領域では開度の変化量を大とすることができる。
【0068】
補正連動手段108では、環境変化に対する補正を、スロットルバルブ最小開度の補正を優先させるようにしており、補正後のスロットルバルブ最小開度が100%に到達してしまう場合には、スロットルバルブ開度では対応できないため補正不足分の割合を算出して、その不足割合分をレイトポスト噴射量の補正値として算出して乗算器110に入力するようになっている。
【0069】
一方、レイトポスト噴射量については、レイトポスト噴射の噴射量は基本噴射量として、レイトポスト量マップ78に設定されており、エンジン回転数とエンジン負荷(燃料噴射量)による3次元マップに表されて設定されている。
【0070】
そして、レイトポスト量マップ78によって決定したレイトポスト噴射の基本噴射量値に対して、大気圧力および吸気温度に応じて補正係数が設定された3次元マップのレイトポスト大気補正マップ97からの補正係数を、乗算器110によって前記補正連動手段108からの補正係数で補正して、さらに、その乗算器110で補正した補正係数を乗算器112で掛けて環境変化に対する補正が行われる。
そして、乗算器112での補正後のレイトポスト噴射量に対して、加算器114でフィードバック制御部(F/B制御部)94からの信号を加算してレイトポスト噴射指令値として出力する。
【0071】
レイトポスト大気補正マップ97と乗算器112との間には乗算器110が設けられ、前記補正連動手段108からの補正係数が入力される。この乗算器110に入力される補正係数は、補正後のスロットルバルブ最小開度が100%に到達してしまう場合に、スロットルバルブ開度では対応できない補正不足分の割合の係数である。
すなわち、例えば、図9において補正後の圧力損失係数がスロットルバルブ開度100%の圧力損失係数より小さくなる場合、スロットルバルブ開度100%での圧力損失係数に対して不足する割合から必要な補正分をレイトポスト噴射量の補正としてレイトポスト噴射量を低減するように補正係数を算出して乗算器110に入力される。
なお、レイトポスト大気補正マップ97、乗算器110、及び乗算器112の部分によってレイトポスト噴射量補正手段113が構成されている。
【0072】
第3実施形態によれば、補正連動手段108を設けて、大気圧力や大気温度などの環境変化に対する補正の優先順位を、スロットル最小開度補正手段99による補正をレイトポスト噴射量補正手段113による補正よりも優先させるので、環境変化に対して、スロットルバルブ開度の制御によってエンジン排温が一定温度になるように制御し、そして、一定のエンジン排温に対してレイトポスト噴射量を制御することによってDPFの入口温度を目標制御温度の約600℃に安定かつ確実に制御可能になる。
【0073】
すなわち、環境変化に対する補正を、スロットル最小開度補正手段99を優先させるようにレイトポスト噴射量補正手段113と連動させて、スロットルバルブ23の開度補正によってエンジン排温を一定とすることを第一に行い、その後に、補正が不足する部分にレイトポスト噴射量補正手段113によって補正するようにすることによって、環境変化に対してスロットル最小開度補正手段99とレイトポスト噴射量補正手段113とを別々に独立して補正すると、補正が重複してしまい所定のDPF入口温度の安定的な制御が得られ難いのに対して、DPFの入口温度制御が安定して得られる。その結果、DPF内部異常昇温や再生時間増大による燃費悪化およびオイルダイリューションを低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、DPFの強制再生時の大気温度または大気圧力等の環境条件の変化に対して、スロットルバルブの最小開度およびポスト噴射量を補正することで、HC濃度の増大及びエンジンの失火や温度過昇温によるDPF破損を抑制するとともに、強制再生時の燃料消費率を極力抑えて所定の時間内に効率的な再生制御を行うことでオイルダイリューションを低減することができるディーゼルエンジンの排気浄化装置への利用に適している。
【符号の説明】
【0075】
1 ディーゼルエンジン
3 排気通路
5 DOC(前段酸化触媒)
7 DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)
9 排ガス後処理装置
17 排気ターボ過給機
23 吸気スロットルバルブ
31 コモンレール燃料噴射装置
33 燃料噴射弁
35 再生制御装置
55 空気流量センサ
56 DOC入口温度センサ
57 DPF入口温度センサ
59 吸気温度センサ
60 スロットルバルブ制御手段
62 アーリーポスト噴射量制御手段
64 レイトポスト噴射量制御手段
66 スロットルバルブ最小開度マップ
68 スロットル圧力補正手段
69 スロットル温度補正手段
70 スロットル圧力補正マップ
71 スロットル温度補正マップ
74 スロットルバルブ最小開度のフィードバック制御部
75、99 スロットル最小開度補正手段
77 スロットル大気補正マップ
78 レイトポスト量マップ
88 レイトポスト圧力補正手段
89 レイトポスト温度補正手段
90 レイトポスト圧力補正マップ
91 レイトポスト温度補正マップ
94 レイトポスト噴射量のフィードバック制御部
95、113 レイトポスト噴射量補正手段
97 レイトポスト大気補正マップ
104 損失係数マップ
106 損失係数補正マップ
108 補正連動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に前段酸化触媒(DOC)および排気微粒子(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)を備え、前記DPFに捕集されたPMを再生処理するディーゼルエンジンの排気浄化装置において、
前記DPFの強制再生時に排ガス温度を高めて前記DOCを活性化させるように吸気スロットルバルブを絞るスロットルバルブ制御手段を備え、該スロットルバルブ制御手段はエンジン回転数とエンジン負荷からスロットルバルブ最小開度が設定されたスロットルバルブ最小開度マップと、該スロットルバルブ最小開度マップによって算出された開度値に対して大気圧補正を掛けるスロットル圧力補正手段と吸気温度補正を掛けるスロットル温度補正手段の少なくとも一方を有したスロットル最小開度補正手段とを備え、該スロットル最小開度補正手段によって吸気スロットルバルブの最小開度が環境変化に対して補正されることを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
前記スロットル圧力補正手段はスロットル圧力補正マップ又はスロットル圧力補正関係式を有し、該スロットル圧力補正マップは大気圧力に応じて補正係数が設定された2次元マップ、又は該スロットル圧力補正関係式は大気圧力を関数とした関係式であることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
前記スロットル温度補正手段はスロットル温度補正マップ又はスロットル温度補正関係式を有し、該スロットル温度補正マップは吸気温度に応じて補正係数が設定された2次元マップ、又は該スロットル温度補正関係式は吸気温度を関数とした関係式であることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
前記スロットル圧力補正手段と前記スロットル温度補正手段との両方を備えるとともに、大気圧力および吸気温度に応じて補正係数が決定された3次元マップのスロットル大気補正係数マップを有し、該スロットル大気補正係数マップによって決定された補正係数に基づいて前記吸気スロットルバルブの最小開度が補正されることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項5】
前記スロットルバルブ最小開度マップによって算出された開度値を最小開度として、前記DOCの入口温度の目標温度と実温度との偏差に基づいて算出したフィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項6】
前記DOC活性化後にメイン噴射後の燃焼に直接寄与しない時期に噴射するレイトポスト噴射の噴射量を制御するレイトポスト噴射量制御手段を備え、該レイトポスト噴射制御手段はエンジン回転数とエンジン負荷からレイトポスト噴射量が設定されたレイトポスト量マップと、該レイトポスト量マップによって算出された噴射量に対して、大気圧補正を掛けるレイトポスト圧力補正手段と吸気温度補正を掛けるレイトポスト温度補正手段の少なくとも一方を有したレイトポスト噴射量補正手段とを備え、該レイトポスト噴射量補正手段によってレイトポスト噴射量が環境変化に対して補正されることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項7】
前記レイトポスト圧力補正手段はレイトポスト圧力補正マップ又はレイトポスト圧力関係式を有し、該レイトポスト圧力補正マップは大気圧力に応じて補正係数が設定された2次元マップ、又は該レイトポスト圧力関係式は大気圧力を関数とした関係式であることを特徴とする請求項6記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項8】
前記レイトポスト温度補正手段はレイトポスト温度補正マップ又はレイトポスト温度関係式を有し、該レイトポスト温度補正マップは吸気温度に応じて補正係数が設定された2次元マップ、又は該レイトポスト温度関係式は吸気温度を関数とした関係式であることを特徴とする請求項6記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項9】
前記レイトポスト圧力補正手段と前記レイトポスト温度補正手段との両方を備えるとともに、大気圧力および吸気温度に応じて補正係数が決定された3次元マップのレイトポスト大気補正係数マップを有し、該レイトポスト大気補正係数マップによって決定された補正係数に基づいてレイトポスト噴射量が補正されることを特徴とする請求項6記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項10】
前記レイトポスト量マップによって算出された噴射量に対して、前記DPFの入口温度の目標温度と実温度との偏差に基づいて算出したフィードバック制御指令値を加算することを特徴とする請求項6記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項11】
前記スロットル最小開度補正手段による補正を前記レイトポスト噴射量補正手段による補正よりも優先して行う補正連動手段を設け、該補正連動手段は前記スロットル最小開度補正手段によってスロットルバルブ開度が全開状態に達し、それ以上スロットル開度を増大補正できないときに前記レイトポスト噴射量補正手段の補正を行うことを特徴する請求項6記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−153617(P2011−153617A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222880(P2010−222880)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】