説明

トンネル酸化膜の窒化処理方法、不揮発性メモリ素子の製造方法および不揮発性メモリ素子、ならびにコンピュータプログラムおよび記録媒体

【課題】トンネル酸化膜の膜質のさらなる向上や、フローティングゲートにおけるデータ保持特性等のメモリ特性のさらなる向上を達成することができる不揮発性メモリ素子のトンネル酸化膜の窒化処理方法を提供すること。
【解決手段】不揮発性メモリ素子におけるトンネル酸化膜102に窒化処理を施すに際し、窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により、トンネル酸化膜の表面部分に窒化領域103を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不揮発性メモリ素子におけるトンネル酸化膜の窒化処理方法、それを用いた不揮発性メモリ素子の製造方法および不揮発性メモリ素子、ならびに上記窒化処理方法を実行するためのコンピュータプログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からEPROM、EEPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ素子においては、メモリの特性改善を目的としてトンネル酸化膜に窒化処理を施すことが行われている。このような酸化膜の窒化処理としては、従来から熱処理によるものが知られている(例えば特許文献1、2)。
【0003】
従来の熱処理による酸化膜窒化手法では、熱的に平衡な状態で窒化処理が進むため、形成される窒化領域の位置やその濃度、すなわち窒素プロファイルがほぼ特定される。具体的には、窒化領域の位置は基板との界面に特定され、またNのピーク密度は1021atoms/cmがほぼ上限となる。
【0004】
しかしながら、最近では、トンネル酸化膜の膜質のさらなる向上や、フローティングゲートにおけるデータ保持特性等のメモリ特性のさらなる向上が求められており、上記窒素プロファイルの従来の熱窒化プロセスでは不十分となりつつある。
【特許文献1】特開平5−198573号公報
【特許文献2】特開2003−188291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、トンネル酸化膜の膜質のさらなる向上や、フローティングゲートにおけるデータ保持特性等のメモリ特性のさらなる向上を達成することができる不揮発性メモリ素子のトンネル酸化膜の窒化処理方法を提供することを目的とする。また、そのような窒化処理方法を用いた不揮発性メモリ素子の製造方法および不揮発性メモリ素子を提供することを目的とする。さらに、上記窒化処理方法を実行するためのコンピュータプログラムおよび記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点では、不揮発性メモリ素子におけるトンネル酸化膜に窒化処理を施す方法であって、窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により、前記トンネル酸化膜の表面部分に窒化領域を形成することを特徴とするトンネル酸化膜の窒化処理方法を提供する。
【0007】
本発明の第2の観点では、シリコン基板上にトンネル酸化膜を形成する工程と、窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により、前記トンネル酸化膜の表面部分に窒化領域を形成する工程と、前記トンネル酸化膜の上にフローティングゲートを形成する工程と、前記フローティングゲートの上に誘電体膜を形成する工程と、前記誘電体膜の上にコントロールゲートを形成する工程と、前記フローティングゲートおよび前記コントロールゲートの側壁に側壁酸化膜を形成する工程とを有することを特徴とする不揮発性メモリ素子の製造方法を提供する。
【0008】
本発明の第3の観点では、シリコン基板と、前記シリコン基板の上に形成されたトンネル酸化膜と、前記トンネル酸化膜の上に形成されたフローティングゲートと、前記フローティングゲートの上に形成された誘電体膜と、誘電体膜の上に形成されたコントロールゲートと、前記フローティングゲートおよび前記コントロールゲートの側壁に形成された側壁酸化膜とを具備する不揮発性メモリ素子であって、前記トンネル酸化膜は、その表面部分に、窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により形成された窒化領域を有することを特徴とする不揮発性メモリ素子を提供する。
【0009】
本発明の第4の観点では、窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により、不揮発性メモリ素子のトンネル酸化膜の表面部分に窒化領域が形成されるように、コンピュータがプラズマ処理装置を制御するソフトウエアを含むコンピュータプログラムを提供する。
【0010】
本発明の第5の観点では、窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により、不揮発性メモリ素子のトンネル酸化膜の表面部分に窒化領域が形成されるように、コンピュータがプラズマ処理装置を制御するソフトウエアを含む記録媒体を提供する。
【0011】
上記第1、第2の観点において、前記プラズマ処理は、複数のスロットを有する平面アンテナにて処理室内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させるプラズマ処理装置を用いて行われることが好ましい。また、前記処理ガスとしては、希ガスを含むものを用いることができ、希ガスとしてはArガスが好ましい。さらに、前記窒化領域のNドーズ量は、1×1015atoms/cm以上であることが好ましい。さらにまた、前記プラズマ処理は、6.7〜266Paの圧力で実施されることが好ましい。
【0012】
上記第3の観点において、前記窒化領域は、複数のスロットを有する平面アンテナにて処理室内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させるプラズマ処理装置を用いて形成されたものであることが好ましい。また、前記窒化領域は、窒素ガスおよび希ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により形成されたものとすることができ、希ガスとしてはArガスが好ましい。さらに、窒化領域のNドーズ量は、1×1015atoms/cm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理によりトンネル酸化膜を形成するので、熱処理による窒化処理の場合に比べて窒素プロファイルの自由度を高くすることができ、窒化領域の窒化領域のトンネル酸化膜の表面部分に熱処理の場合よりも高窒素濃度で窒化領域を形成することができる。このため、トンネル酸化膜表面部分に存在するトラップサイトを窒素でターミネートすることができるので、メモリ動作にともなって酸化膜中に生成されるトラップを低減することができ、トンネル酸化膜の膜質を良好に保持することができる。また、側壁酸化膜を形成する際に窒化領域が酸化剤のバリアと機能して、フローティングゲートのトンネル酸化膜界面端部における不正な酸化(バーズビーク)の形成を抑制することができ、データ保持特性を向上させることができる。さらに、誘電率の高い窒化領域をトンネル酸化膜表面部分に形成するので、界面部分の状態を変化させることなく酸化膜(SiO)容量換算膜厚(EOT:Equivalent Oxide Thickness)を小さくすることができ、界面特性を変化させることなくデータ保持特性を向上させることができる。また、EOTが同等ならばトンネル酸化膜を厚くすることができ、その分リーク電流を抑制することができるのでやはり結果的にデータ保持特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について具体的に説明する。
図1は、本発明に係るトンネル酸化膜の窒化処理方法を説明するための断面図である。この窒化処理は、例えば、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ素子の製造工程の一環として行われる。
【0015】
不揮発性メモリ素子のメモリセルの製造においては、まず、図1の(a)に示すように、Si基板101の主面上に、例えば、Si基板101の熱酸化プロセスにより10nm程度の厚さでトンネル酸化膜102を形成し、次いで、Si基板101の主面領域に所定のイオン注入を行い、引き続き、トンネル酸化膜102に対して窒化処理を行う。窒化処理は、窒素ガスを含むガスのプラズマ処理により行われ、これにより、図1の(b)に示すように、トンネル酸化膜102の表面部分に窒化領域103が形成される。
【0016】
このように、窒化処理をプラズマ処理により行うことにより、従来の熱処理による酸化膜窒化処理とは異なり、トンネル酸化膜102内の窒素プロファイルを制御することができ、窒化領域103をトンネル酸化膜102の表面部分に高窒素濃度で形成することができる。具体的には、トンネル酸化膜102の表面から2nm以下の部分までの極表面に近い表面部分に窒化領域103を形成することができる。
【0017】
このような窒化処理の後、常法に従って処理を行うことにより、図2に示すような概略構造のメモリセルを有する不揮発性メモリ素子を製造する。すなわち、このメモリセルは、Si基板101の主面上に、表面部分に窒化領域103が形成されたトンネル酸化膜102が形成され、その上にポリシリコンからなるフローティングゲート104が形成され、このフローティングゲート104の上に、例えば酸化膜105、窒化膜106、酸化膜107からなるONO構造の誘電体膜108が形成され、さらにこの誘電体膜108の上にポリシリコン、またはポリシリコンとタングステンシリサイド等との積層膜からなるコントロールゲート109が形成され、コントロールゲート109の上にはSiやSiO等の絶縁層110が形成され、フローティングゲート104とコントロールゲート109の側壁には酸化処理により側壁酸化膜111が形成された構造を有している。
【0018】
窒化処理後の概略工程の一例を示せば以下のようになる。
プラズマ窒化処理を施したトンネル酸化膜102の上にフローティングゲート104となるポリシリコン膜を形成し、その上に酸化膜、窒化膜、酸化膜を順次形成し、さらにその上にコントロールゲート109となるポリシリコン膜、またはポリシリコンとタングステンシリサイド等との積層膜を成膜する。この際の成膜は、例えばCVDにより行われる。
【0019】
その後、図示しないフォトレジスト層およびハードマスク層110をマスクとしてプラズマによるドライエッチングを行って、フローティングゲート104、ONO構造の誘電体膜108、コントロールゲート109を形成した後、フローティングゲート104およびコントロールゲート109におけるポリシリコンの露出部分に対して酸化処理を行って側壁酸化膜111を形成する。この酸化処理は、水蒸気ジェネレータを用いたウェット方式またはOガスを用いたドライ方式等の熱酸化プロセスにより行うことができるが、タングステンを酸化させずに良好な酸化膜を形成する観点からは酸素ガスを含むガスのプラズマ処理により行うことが好ましい。プラズマ処理の中では、後述するRLSA(Radial Line Slot Antenna)マイクロ波プラズマ方式のプラズマ処理が、低電子温度で高密度のプラズマで低温処理が可能であることから、特に好ましい。
以上の工程により、図2に示す構造のメモリセルを有する不揮発性メモリ素子が形成される。
【0020】
次に、上記窒化処理の好適な例について説明する。
図3は、本発明に係るトンネル酸化膜の窒化処理方法を実施するためのプラズマ処理装置の一例を模式的に示す断面図である。
【0021】
このプラズマ処理装置100は、所定のパターンで複数のスロットが形成された平面アンテナ(Radial Line Slot Antenna)を利用してマイクロ波発生源から導かれたマイクロ波をチャンバー内に放射し、プラズマを形成するRLSAマイクロ波プラズマ処理装置として構成されている。
【0022】
このプラズマ処理装置100は、気密に構成され、接地された略円筒状のチャンバー1を有している。チャンバー1の底壁1aの略中央部には円形の開口部10が形成されており、底壁1aにはこの開口部10と連通し、下方に向けて突出する排気室11が設けられている。チャンバー1内には被処理基板であるSiウエハWを水平に支持するためのAlN等のセラミックスからなるサセプタ2が設けられている。このサセプタ2は、排気室11の底部中央から上方に延びる円筒状のAlN等のセラミックスからなる支持部材3により支持されている。サセプタ2の外縁部にはSiウエハWをガイドするためのガイドリング4が設けられている。また、サセプタ2には抵抗加熱型のヒータ5が埋め込まれており、このヒータ5はヒータ電源6から給電されることによりサセプタ2を加熱して、その熱で被処理体であるSiウエハWを加熱する。このとき、例えば室温から800℃まで範囲で温度制御可能となっている。なお、チャンバー1の内周には、誘電体、例えば石英からなる円筒状のライナー7が設けられている。
【0023】
サセプタ2には、SiウエハWを支持して昇降させるためのウエハ支持ピン(図示せず)がサセプタ2の表面に対して突没可能に設けられている。
【0024】
チャンバー1の側壁には環状をなすガス導入部材15が設けられており、このガス導入部材15にはガス供給系16が接続されている。ガス導入部材はシャワー状に配置してもよい。このガス供給系16は、Arガス供給源17、Nガス供給源18を有しており、これらガスが、それぞれガスライン20を介してガス導入部材15に至り、ガス導入部材15からチャンバー1内に導入される。なお、ガスライン20の各々には、マスフローコントローラ21およびその前後の開閉バルブ22が設けられている。
【0025】
上記排気室11の側面には排気管23が接続されており、この排気管23には高速真空ポンプを含む排気装置24が接続されている。そしてこの排気装置24を作動させることによりチャンバー1内のガスが、排気室11の空間11a内へ均一に排出され、排気管23を介して排気される。これによりチャンバー1内は所定の真空度、例えば0.133Paまで高速に減圧することが可能となっている。
【0026】
チャンバー1の側壁には、プラズマ処理装置100に隣接する搬送室(図示せず)との間でSiウエハWの搬入出を行うための搬入出口25と、この搬入出口25を開閉するゲートバルブ26とが設けられている。
【0027】
チャンバー1の上部は開口部となっており、この開口部の周縁部に沿ってリング状の支持部27が設けられており、この支持部27に誘電体、例えば石英やAl等のセラミックスからなり、マイクロ波を透過するマイクロ波透過板28がシール部材29を介して気密に設けられている。したがって、チャンバー1内は気密に保持される。
【0028】
マイクロ波透過板28の上方には、サセプタ2と対向するように、円板状の平面アンテナ部材31が設けられている。この平面アンテナ部材31は支持部27の上端に係止されている。平面アンテナ部材31は、導体、例えば表面が銀または金メッキされた銅板またはアルミニウム板からなり、複数のマイクロ波放射孔(スロット)32が所定のパターンで貫通して形成された構成となっている。このマイクロ波放射孔32は、例えば図4に示すように長溝状をなし、隣接するマイクロ波放射孔32同士が交差するように、典型的には図示のように直交するように(「T」字状に)配置され、これら複数のマイクロ波透過孔32が同心円状に配置されている。すなわち、平面アンテナ部材31はRLSAアンテナを構成している。マイクロ波透過孔32の長さや配列間隔は、マイクロ波の波長(λ)に応じて決定され、例えばマイクロ波放射孔32の間隔が1/2λまたはλとなるように配置される。また、マイクロ波放射孔32は、円形状、円弧状等の他の形状であってもよい。さらに、マイクロ波放射孔32の配置形態は特に限定されず同心円状の他、例えば、螺旋状、放射状に配置することもできる。
【0029】
この平面アンテナ部材31の上面には、真空よりも大きい誘電率を有する誘電体からなる遅波材33が設けられている。
【0030】
チャンバー1の上面には、これら平面アンテナ部材31および遅波材33を覆うように、例えばアルミニウムやステンレス鋼等の金属材からなるシールド蓋体34が設けられている。チャンバー1の上面とシールド蓋体34とはシール部材35によりシールされている。シールド蓋体34には、冷却水流路34aが形成されている。なお、シールド蓋体34は接地されている。
【0031】
シールド蓋体34の上壁の中央には開口部36が形成されており、この開口部には導波管37が接続されている。この導波管37の端部には、マッチング回路38を介してマイクロ波発生装置39が接続されている。これにより、マイクロ波発生装置39で発生した例えば周波数2.45GHzのマイクロ波が導波管37を介して上記平面アンテナ部材31へ伝搬されるようになっている。なお、マイクロ波の周波数としては、8.35GHz、1.98GHz等を用いることもできる。
【0032】
導波管37は、上記シールド蓋体34の開口部36から上方へ延出する断面円形状の同軸導波管37aと、水平方向に延びる断面矩形状の矩形導波管37bとを有している。これらの間にはモード変換器40が設けられている。同軸導波管37aの中心には内導体41が延在しており、その下端部は、平面アンテナ部材31の中心に接続固定されている。
【0033】
プラズマ処理装置100の各構成部は、プロセスコントローラ50に接続されて制御される構成となっている。プロセスコントローラ50には、工程管理者がプラズマ処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース51が接続されている。
【0034】
また、プロセスコントローラ50には、プラズマ処理装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ50の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じてプラズマエッチング装置の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわちレシピが格納された記憶部52が接続されている。レシピはハードディスクや半導体メモリに記憶されていてもよいし、CDROM、DVD等の可搬性の記憶媒体に収容された状態で記憶部52の所定位置にセットするようになっていてもよい。さらに、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい
【0035】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース51からの指示等にて任意のレシピを記憶部52から呼び出してプロセスコントローラ50に実行させることで、プロセスコントローラ50の制御下で、プラズマ処理装置100での所望の処理が行われる。
【0036】
次に、このように構成されたプラズマ処理装置100によるプラズマ窒化処理について図5のフローチャートを参照して説明する。
【0037】
まず、ゲートバルブ26を開にして搬入出口25からトンネル酸化膜が形成されたSiウエハWをチャンバー1内に搬入し、サセプタ2上に載置する(工程1)。トンネル酸化膜は、水蒸気ジェネレータを用いたウェット方式またはOガスを用いたドライ方式の熱酸化プロセスにより3.5〜15nmの厚さで形成される。典型例としては10nmが挙げられる。
【0038】
次いで、チャンバー1内の酸素を排除するために、チャンバー1内を真空引きし(工程2)、ガス供給系16のArガス供給源17から、Arガスを所定の流量でガス導入部材15を介してチャンバー1内に導入する(工程3)。このArガスの流量によりチャンバー1内の圧力を調整し、プラズマが着火しやすい高圧状態にする(工程4)。この際の圧力としては、好適には13.3〜267Paの範囲が用いられ、66.6Pa、126Paが例示される。なお、この際の圧力は、後述する窒化処理の際の圧力よりも高くなるようにする。
【0039】
次いで、チャンバー1内にマイクロ波を放射させてプラズマ着火を行う(工程5)。この際には、まず、マイクロ波発生装置39からのマイクロ波をマッチング回路38を経て導波管37に導く。マイクロ波は、矩形導波管37b、モード変換器40、および同軸導波管37aを順次通って平面アンテナ部材31に供給され、平面アンテナ部材31からマイクロ波透過板28を経てチャンバー1内におけるウエハWの上方空間に放射される。このようにしてチャンバー1に放射されたマイクロ波によりチャンバー1内では、Arガスがプラズマ化する。この時のマイクロ波パワーは1000〜3000Wが好ましく、1600Wが例示される。プラズマ着火後はチャンバー1内が例えば6.7Paに圧力調整される。
【0040】
プラズマが着火された後、ガス供給系16のNガス供給源18から、Nガスを所定の流量でガス導入部材15を介してチャンバー1内に導入し、チャンバー内に放射されたマイクロ波によりNガスをプラズマ化する(工程6)。
【0041】
このように形成されたArガスおよびNガスのプラズマにより、SiウエハWに形成されたトンネル酸化膜に窒化処理を施す(工程7)。この際の圧力としては1.3〜266Paが好ましく、例えば126Paが採用される。処理温度としては、200〜600℃が好ましく、400℃が例示される。また、ガス流量としては、Arガス:250〜3000mL/min、Nガス:10〜300mL/minが好ましく、Arガス1000mL/min、Nガス:40mL/minが例示される。また、Arガスと窒素ガスの流量比、Ar/Nは1.6〜300の範囲が好ましく、10〜100がより好ましい。また、この際の処理時間は30〜600secが好ましく、240secが例示される。上記例示した条件でプラズマ窒化処理を行うことにより、Nのドーズ量が5.0×1015atoms/cm程度となる。
【0042】
このようして所定時間窒化処理を行った後、マイクロ波の放射を停止してプラズマを消火し(工程8)、真空引きをしながらガスを停止して(工程9)、窒化処理のシーケンスを終了する。
【0043】
なお、以上の工程では、Arガスを先に導入し、プラズマを着火してからNガスを導入するシーケンスを示したが、プラズマ着火が可能であれば、ArガスとNガスを同時に導入してからプラズマを着火してもよい。

【0044】
以上のようなマイクロ波プラズマは、略1011/cm以上のプラズマ密度でかつ0.5〜1.5eVの低電子温度プラズマであり、上述のような低温かつ短時間の処理により、トンネル酸化膜の表面部分、具体的には表面から2nm以下までの極表面に近い表面部分に高窒素濃度の窒化領域が形成されるように制御することができ、しかも下地膜へのイオン等のプラズマダメージが小さい等のメリットがある。また、このように高密度プラズマにより低温、短時間で窒化処理を行うので窒化領域の窒素プロファイルを高精度で制御することができる。
【0045】
熱窒化処理の場合には、熱的に平衡な状態で窒化処理が進むため、図6の(a)に示すように、窒化領域の位置はトンネル酸化膜の基板との界面部分に特定され、また窒素原子のピーク密度は1021atoms/cmがほぼ上限となる。これに対し、本実施形態のようなプラズマ窒化処理を採用した場合には、図6の(b)に示すように、トンネル酸化膜の表面から2nm以下までの表面部分に高窒素濃度(この例では1022atoms/cm)の窒化領域を形成することができ、逆に、基板との界面部分には窒素がほとんど存在しない領域を形成することができる。この窒素濃度は、条件によって適宜制御することができる。また、窒化領域の位置も、条件を調整することによってトンネル酸化膜の表面から2nm以下までの範囲内で適宜制御することができる。
【0046】
図7に実際に本発明の方法で窒化処理を施した場合のSIMSの測定結果に基づく窒素濃度分布を示す。なお、図7では、O,SiのSIMS強度分布も併せて示す。ここでは、図3に示した装置を用い、チャンバー内圧力:126Pa、マイクロ波のパワー:1600W、Ar流量:1000mL/min、N流量:40mL/minの条件で行った。また、トンネル酸化膜の膜厚は10nmである。この図に示すように、トンネル酸化膜の表面から約1nmの位置に窒素濃度のピークが存在することがわかる。
【0047】
このようにトンネル酸化膜の表面に高濃度窒化領域を形成することができ、かつ基板との界面に窒素が存在しない領域を形成することができるため、従来、図8の(a)に示すような、メモリ動作にともなってトンネル酸化膜102中に形成されていたトラップの生成を防止することができる。すなわち、図8の(b)に示すように、プラズマ窒化処理によってトンネル酸化膜102の表面部分に窒化領域103が形成されることにより、トラップサイトが窒素原子でターミネートされ、このようなトラップの生成を低減することができ、トンネル酸化膜の膜質を良好に保持することができる。また、Vt(トランジスタのスイッチング電圧のずれ)がなく、酸化膜(SiO)容量換算膜厚(EOT)を厚くすることができる。
【0048】
また、従来は、側壁酸化膜111を形成する際に、図9の(a)に示すように、ポリシリコンで構成されるフローティングゲート104のトンネル酸化膜102との界面部分の端部近傍が不正に酸化され、バーズビークと称される酸化領域104aが生じ膜厚が厚くなってしまい、また、この際にリン酸化物、例えばPが生成して酸化膜が劣化し、これらがデータ保持機能を低下させる一因となっていたが、本実施形態のように、プラズマ窒化処理を施すことにより、図9の(b)に示すように、トンネル酸化膜102の表面部分(フローティングゲート104との界面部分)の窒化領域103が、このような不正な酸化のバリアとなり、酸化領域104aを著しく低減することができる。そのため、結果的にデータ保持機能が上昇する。
【0049】
さらに、トンネル酸化膜102を窒化して表面部分に窒化領域103を形成することにより誘電率を上げることができるので、物理的膜厚が同じでもNドーズ量が増加するに従って誘電率が上がり酸化膜(SiO)容量換算膜厚(EOT)を薄くすることができる。このように窒化領域を形成することにより物理的膜厚が同じでもEOTを薄くすることができるので、電荷保持能が高まり、データ保持機能が上昇する。このことを図10に基づいて説明する。図10は、窒化しないベースの酸化膜と、窒素原子のドーズ量を2.5×1015,3.8×1015、5.2×1015atoms/cmと変化させて本実施形態に係る窒化処理を行った場合について、酸化膜の厚さ方向に印加した電界Eox(MV/cm)とリーク電流Jg(A/cm)との関係を示す図である。ここでは、図3に示した装置を用い、チャンバー内圧力:126Pa、マイクロ波のパワー:1600W、Ar流量:1000mL/min、N流量:40mL/minの条件で、処理時間を40,120,240secと変化させることにより、窒素原子のドーズ量を2.5×1015,3.8×1015、5.2×1015atoms/cmと変化させた。また、トンネル酸化膜のベース膜厚は5nmである。この図に示すように、窒素原子のドーズ量によらず電界Eoxが9を超えると急激にリーク電流Jgが増加するが、窒化処理をすることにより、同じ電界ではリーク電流Jgが小さく、同じリーク電流Jgでは電界Eoxが大きくなることがわかる。そして、窒素原子のドーズ量が増加するとそのような傾向が大きくなる。このことから、窒化領域を形成してEOTが増加することにより、電荷保持機能が上昇し、その効果は窒素原子のドーズ量が多いほど大きいことがわかる。
【0050】
図11は、窒化しないベースの酸化膜と図10の場合と同様の条件でドーズ量を変えて本実施形態に係る窒化処理を行った場合について、FNプロットをとった図である。この図からわかるように、窒化処理行わない場合も窒化処理を行った場合も直線の傾きが同じであり、窒化処理を行ってもバリアハイトは変化しないことがわかる。つまり、窒化処理を行っても素子としての本質的機能は変化しない。
【0051】
図12は、窒化しないベースの酸化膜と図10の場合と同様の条件でドーズ量を変えて本実施形態に係る窒化処理を行った場合について、トンネル酸化膜のEOTとフラットバンドVfbとの関係を示す図である。この図に示すように、窒化処理を行ってもフラットバンドVfbの値はあまり変化しないことがわかる。すなわち、本発明のように窒化領域をトンネル酸化膜の表面から2nm以下までの極表面に近い表面部分に形成し、界面部分に窒素をほとんど導入しないようにすることにより、界面特性がほとんど変化しないことが確認された。
【0052】
以上のことから、プラズマ窒化処理によりトンネル酸化膜の表面部分に窒化領域を形成することにより、素子としての本質的機能や界面特性を変化させずにEOTを小さくしてデータ保持機能を上昇させることが可能であることがわかる。なお、EOTを同等にする場合には、窒化処理によりトンネル酸化膜を厚くすることができ、その分リーク電流を抑制することができるのでやはり結果的にデータ保持特性を上昇させることができる。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。たとえば、上記実施の形態では、処理装置としてマイクロ波を複数のスロットを有する平面アンテナでチャンバー内に伝播して低電子温度で高密度のプラズマを形成するプラズマ処理装置を用いたが、これに限るものではなく他のプラズマ処理装置、例えば、誘導結合型プラズマ処理装置、平面反射波プラズマ処理装置を用いてもよい。また、不揮発性メモリ素子の構造および製造工程も上記のものに限らず、どのようなものであってもよい。さらに、不活性ガスとしてArを用いたが、Arガス以外の他の不活性ガス(He、Ne、Kr、Xe)を用いることも可能である。プラズマの電子温度を低くする観点からはArガス、Krガス、Xeガスが好ましく、特にArガスが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るトンネル酸化膜の窒化処理方法の工程の一例を説明するための図。
【図2】本発明に係る窒化処理を適用した不揮発性メモリ素子のメモリセルの一例を示す断面図。
【図3】本発明に係るトンネル酸化膜の窒化処理方法を実施するためのプラズマ処理装置の一例を模式的に示す断面図。
【図4】図3のマイクロ波プラズマ装置に用いられる平面アンテナ部材の構造を示す図。
【図5】窒化処理のシーケンスを説明するためのフローチャート。
【図6】窒化処理を施した後の熱酸化膜の窒素プロファイルを熱窒化処理とプラズマ窒化処理とで比較して示す図。
【図7】実際にプラズマ窒化処理を行った際のトンネル酸化膜の窒素濃度分布を示す図。
【図8】本発明の一実施形態に係るトンネル酸化膜の窒化処理方法による、トンネル酸化膜中へのトラップ生成防止効果を説明するための模式図。
【図9】本発明の一実施形態に係るトンネル酸化膜の窒化処理方法による、バーズビーク抑制効果を説明するための図。
【図10】窒化しないベースの酸化膜とドーズ量を変えて本発明の一実施形態に係る窒化処理を行った場合について、酸化膜の厚さ方向に印加した電界Eox(MV/cm)とリーク電流Jg(A/cm)との関係を示す図。
【図11】窒化しないベースの酸化膜とドーズ量を変えて本発明の一実施形態に係る窒化処理を行った場合について、FNプロットをとった図。
【図12】窒化しないベースの酸化膜とドーズ量を変えて本実施形態に係る窒化処理を行った場合について、トンネル酸化膜のEOTとフラットバンドVfbとの関係を示す図。
【符号の説明】
【0055】
1…チャンバー(処理室)
2…サセプタ
3…支持部材
5…ヒータ
15…ガス導入部材
16…ガス供給系
17…Arガス供給源
18…Nガス供給源
23…排気管
24…排気装置
25…搬入出口
26…ゲートバルブ
28…マイクロ波透過板
29…シール部材
31…平面アンテナ部材
32…マイクロ波放射孔
37…導波管
37a…同軸導波管
37b…矩形導波管
39…マイクロ波発生装置
40…モード変換器
50…プロセスコントローラ
100…プラズマ処理装置
101…Si基板
102…トンネル酸化膜
103…窒化領域
104…フローティングゲート
108…ONO構造の誘電体膜
109…コントロールゲート
111…側壁酸化膜
W…ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不揮発性メモリ素子におけるトンネル酸化膜に窒化処理を施す方法であって、
窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により、前記トンネル酸化膜の表面部分に窒化領域を形成することを特徴とするトンネル酸化膜の窒化処理方法。
【請求項2】
前記プラズマ処理は、複数のスロットを有する平面アンテナにて処理室内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させるプラズマ処理装置を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載のトンネル酸化膜の窒化処理方法。
【請求項3】
前記処理ガスは、希ガスを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトンネル酸化膜の窒化処理方法。
【請求項4】
前記希ガスはArガスであることを特徴とする請求項3に記載のトンネル酸化膜の窒化処理方法。
【請求項5】
前記窒化領域のNドーズ量は、1×1015atoms/cm以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のトンネル酸化膜の窒化処理方法。
【請求項6】
前記プラズマ処理は、6.7〜266Paの圧力で実施されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のトンネル酸化膜の窒化処理方法。
【請求項7】
シリコン基板上にトンネル酸化膜を形成する工程と、
窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により、前記トンネル酸化膜の表面部分に窒化領域を形成する工程と、
前記トンネル酸化膜の上にフローティングゲートを形成する工程と、
前記フローティングゲートの上に誘電体膜を形成する工程と
前記誘電体膜の上にコントロールゲートを形成する工程と、
前記フローティングゲートおよび前記コントロールゲートの側壁に側壁酸化膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項8】
前記プラズマ処理は、複数のスロットを有する平面アンテナにて処理室内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させるプラズマ処理装置を用いて行われることを特徴とする請求項7に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項9】
前記処理ガスは、希ガスを含むことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項10】
前記希ガスはArガスであることを特徴とする請求項9に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項11】
前記窒化領域のNドーズ量は、1×1015atoms/cm以上であることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項12】
前記プラズマ処理は、6.7〜266Paの圧力で実施されることを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の不揮発性メモリ素子の製造方法。
【請求項13】
シリコン基板と、
前記シリコン基板の上に形成されたトンネル酸化膜と、
前記トンネル酸化膜の上に形成されたフローティングゲートと、
前記フローティングゲートの上に形成された誘電体膜と、
誘電体膜の上に形成されたコントロールゲートと、
前記フローティングゲートおよび前記コントロールゲートの側壁に形成された側壁酸化膜と
を具備する不揮発性メモリ素子であって、
前記トンネル酸化膜は、その表面部分に、窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により形成された窒化領域を有することを特徴とする不揮発性メモリ素子。
【請求項14】
前記窒化領域は、複数のスロットを有する平面アンテナにて処理室内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させるプラズマ処理装置を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項13に記載の不揮発性メモリ素子。
【請求項15】
前記窒化領域は、窒素ガスおよび希ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により形成されたものであることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の不揮発性メモリ素子。
【請求項16】
前記希ガスはArガスであることを特徴とする請求項15に記載の不揮発性メモリ素子。
【請求項17】
前記窒化領域のNドーズ量は、1×1015atoms/cm以上であることを特徴とする請求項15から請求項16のいずれか1項に記載の不揮発性メモリ素子。
【請求項18】
窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により、不揮発性メモリ素子のトンネル酸化膜の表面部分に窒化領域が形成されるように、コンピュータがプラズマ処理装置を制御するソフトウエアを含むコンピュータプログラム。
【請求項19】
窒素ガスを含む処理ガスを用いたプラズマ処理により、不揮発性メモリ素子のトンネル酸化膜の表面部分に窒化領域が形成されるように、コンピュータがプラズマ処理装置を制御するソフトウエアを含む記録媒体。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−186245(P2006−186245A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380705(P2004−380705)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】