説明

ハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステム

【課題】ハイブリッド型フォークリフトにおいて、半クラッチ状態にして低速・高トルク走行を実現する。
【解決手段】エンジンと電動モータ2の駆動力により駆動輪が回転駆動するハイブリッド型フォークリフトに、インチングペダル33を備えた。低速走行時にアクセルペダル31を踏みながらインチングペダル33を踏み込んでいくと、コントローラ100は、インチングペダル33の踏み込みに合わせてクラッチを接続状態から半クラッチ状態に移行し低速高トルク走行を可能とし、更に踏み込むとインバータ5により走行用電動モータ2の駆動力を弱め、更に踏み込むとインバータ5により走行用電動モータ2により制動回生をさせ、更に踏み込むとブレーキペダル32が機械的に押し下げられて機械式ブレーキが作動する。高速走行時にアクセルペダル31を踏みながらインチングペダル33を踏んでも、エンジン回転数をアイドリング回転数に保持して燃費悪化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムに関し、燃費悪化を防止しつつ、半クラッチ状態にして極低速で高トルク走行をすることができるように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
産業車両の一種であるフォークリフトでは、エンジンや電動モータを駆動源として、走行のための走行負荷と、荷役作業を行うための荷役負荷とを駆動している。
【0003】
駆動源としてエンジンのみを備えたエンジン型フォークリフトでは、単一のエンジンにより走行負荷と荷役負荷の双方を駆動している。このようなエンジン型フォークリフトでは、ペダルとして、アクセルペダルとブレーキペダルとインチングペダルを備えている。
【0004】
インチングペダルを踏み込んでいき、踏み込み量が第1の所定量(例えば踏み込み量が15%)以上になるとクラッチが切断されてエンジンから駆動輪への走行用動力が伝わらなくなり、更に踏み込み量を多くして踏み込み量が第2の所定量(例えば踏み込み量が75%)以上になると機械式ブレーキが作動するようになっている。
【0005】
つまり、インチングペダルとブレーキペダルとの間にはリンク機構を備えており、インチングペダルの踏み込み量が第2の所定量以上になると、リンク機構を介して、インチングペダルが機械的にブレーキペダルを踏み込み方向に押し下げて、機械式ブレーキが作動するようになっている。
なお、インチングペダルの踏み込み量が、第2の所定量未満であるときには、インチングペダルを踏み込んでも、これに連動してブレーキペダルが踏み込み方向に押し下げられることはない。
【0006】
インチングペダルを最大限に踏み込んだ状態でアクセルペダルを大きく踏み込み、その後、インチングペダルを少しずつ戻すと(踏み込み量を減少させていくと)、クラッチが少しずつ繋がりエンジンから駆動輪へ走行用動力が少しずつ伝わり、フォークリフトを極低速で動かすことができる。つまり、このようなペダル操作をすることにより極低速で高トルク走行をすることができる。
【0007】
またフォークリフトが停止した状態で、エンジンの動力を荷役負荷にのみ使用するときにも、インチングペダルを踏み込んでクラッチを切り、エンジンの動力を荷役負荷にのみ伝える操作をすることもある。
【0008】
一方、駆動源として電動モータのみを備えたバッテリ型フォークリフトでは、走行負荷用の電動モータと、荷役負荷用の電動モータを備えている。
このようなバッテリ型フォークリフトでは、走行負荷用の電動モータと荷役負荷用の電動モータを備えているため、走行するときには、操作者が要求する走行状態を実現できるように、走行負荷用の電動モータをコントローラで制御すればよく、また荷役作業をするときには、荷役負荷に応じて荷役負荷用の電動モータをコントローラで制御すればよい。
このため、バッテリ型フォークリフトには、インチングペダルは備えていない。つまりバッテリ型フォークリフトには、ペダルとして、アクセルペダルとブレーキペダルのみを備えている。
【0009】
駆動源としてエンジンと電動モータを備えたハイブリッド型フォークリフトでは、走行負荷をエンジンと電動モータにより駆動し、荷役負荷もエンジンと電動モータにより駆動している。
【0010】
このようなハイブリッド型フォークリフトでは、走行負荷用及び荷役負荷用の電動モータを備えているため、インチングペダルは必ずしも必要ではない。これは、操作者の操作に応じて、エンジンや電動モータの動力を走行負荷(駆動輪)や荷役負荷に適宜に選択して伝えるように、コントローラが制御すれば済むからである。
【0011】
しかし、エンジン型フォークリフトに乗り慣れた操作者からは、ハイブリッド型フォークリフトにもインチングペダルを備えて欲しいという要望がある。
ハイブリッド型フォークリフトにインチングペダルを備えておけば、アクセルペダルの踏み込み量を多くしてエンジンの発生動力を大きくしつつ、インチングペダルにより半クラッチ状態にすることができ、これにより極低速で高トルク走行をすることができ、重い荷物を押したり引きずったりするという走行動作を容易に行うことができるという利点がある。
このため、このような極低速・高トルク走行できるという機能を、ハイブリッド型フォークリフトにも残して欲しいという要望があるのである。
【0012】
【特許文献1】特開2008−7089
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、ハイブリッド型フォークリフトに、インチングペダルを備えた場合には、インチングペダルを踏み込みクラッチを切った状態で、アクセルペダルを大きく踏み込みエンジンを吹かす(高速回転させる)などという、無駄な動作を行うことが可能となるため、このような無駄な動作が行われると燃費が悪化してしまうという問題が出てくる。
【0014】
本発明は、上記状況に鑑み、ハイブリッド型フォークリフトにおいてインチングペダルを備えていても燃費悪化に繋がる無駄な動作を防止しつつ、適切な走行操作ができるハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の構成は、エンジンと、エンジンが発生した動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構に配置されたクラッチと、前記駆動輪を回転駆動する動力を発生する電動モータとを備えたハイブリッド型産業車両において、
ペダルとしてアクセルペダルとブレーキペダルの他に、インチングペダルを備えており、
前記アクセルペダルの踏み込み量に応じた値のアクセル踏み込み量信号を出力するアクセルペダルポジションセンサと、
前記インチングペダルの踏み込み量に応じた値のインチング踏み込み量信号を出力するインチングペダルポジションセンサと、
車速信号を出力する車速センサと、
前記クラッチを接続状態や半クラッチ状態や切断状態に切り替えるクラッチ制御手段と、
前記電動モータを力行駆動させたり回生制動させたりするよう制御するインバータと、
前記アクセル踏み込み量信号と前記インチング踏み込み量信号と前記車速信号が入力されるコントローラとを有し、
前記コントローラは、
前記アクセルペダルが踏み込まれて前記アクセル踏み込み量信号の値が零を越えており、しかも、車速信号により得た車速が予め決めた設定速度未満の低速で走行している状態においては、
前記インチング踏み込み量信号の値が零を越え予め決めた第1の設定値以下であるときには、前記インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを接続状態から半クラッチ状態を経て切断状態に移行させていき、
前記インチング踏み込み量信号の値が第1の設定値を越えて第2の設定値以下であるときには、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、前記インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの力行駆動力を弱めるように前記インバータを制御することを特徴とする。
【0016】
また本発明の構成は、前記のハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムにおいて、
前記コントローラは、
前記アクセルペダルが踏み込まれて前記アクセル踏み込み量信号の値が零を越えており、しかも、車速信号により得た車速が予め決めた設定速度未満の低速で走行している状態においては、
前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値を越えると、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、前記インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの回生制動力を強めるように前記インバータを制御し、
一方、前記インチングペダルが踏み込まれていき、前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値よりも大きな第3の設定値を越えると、前記インチングペダルが機械的に前記ブレーキペダルを踏み込み方向に押し下げて機械的なブレーキが作動する機械式ブレーキが備えられていることを特徴とする。
【0017】
また本発明の構成は、前記のハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムにおいて、
前記ブレーキペダルの踏み込み量に応じた値のブレーキ踏み込み量信号を前記コントローラに送るブレーキペダルポジションセンサが備えられると共に、
前記インチングペダルが踏み込まれていき前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値を越えると、前記インチングペダルが機械的に前記ブレーキペダルを踏み込み方向に押し下げ、しかも、前記ブレーキペダルが踏み込まれていったときに、前記ブレーキペダルの踏み込み量が予め設定した設定量以下であるときには機械式ブレーキは作動せず、前記の踏み込み量が予め設定した設定量を越えると、前記ブレーキペダルの踏み込みに応じて機械的なブレーキが作動する機械式ブレーキが備えられており、
前記コントローラは、
前記ブレーキペダルポジションセンサから前記ブレーキ踏み込み量信号が送られてくると、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、前記ブレーキ踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの回生制動力を強めるように前記インバータを制御することを特徴とする。
【0018】
また本発明の構成は、前記のハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムにおいて、
ガバナレバーを操作して前記エンジンへの燃料供給量を制御するエンジン回転数コントローラが備えられており、
前記コントローラは、
前記アクセルペダルが踏み込まれて前記アクセル踏み込み量信号の値が零を越えており、しかも、車速信号により得た車速が予め決めた設定速度以上の高速で走行している状態においては、
前記アクセルペダル踏み込み量信号の値が零を越えて大きくなっても、前記エンジン回転数コントローラを制御して前記エンジンの回転数をアイドリング回転数に保持しておき、
前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値を越えると、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの回生制動力を強めるように前記インバータを制御することを特徴とする。
【0019】
また本発明の構成は、前記のハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムにおいて、
前記コントローラは、
前記アクセルペダルが踏み込まれていないため前記アクセル踏み込み量信号の値が零となっており、しかも前記インチングペダルが踏み込まれた状態においては、
前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値を越えると、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの回生制動力を強めるように前記インバータを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来のエンジン型産業車両と同様な操作フィーリングを保ちつつ、半クラッチ状態にして極低速で高トルク走行を行うことが可能となる。
また、高速走行時には、インチングペダルが踏み込まれた状態でアクセルペダルを踏んだとしても、エンジン回転数を強制的にアイドリング回転数に保持するため、燃費悪化を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
まず初めに、本願発明を適用するハイブリッド型フォークリフトの駆動系統について、図1を参照して説明する。
このハイブリッド型フォークリフトでは、駆動源として、エンジン1と、走行用の電動モータ2と、油圧用の電動モータ3を有している。
エンジン1は内燃機関型のエンジンである。電動モータ2,3は、三相交流誘導電動機であり、バッテリ4の直流電力をインバータ5,6により電力変換した交流電力が供給されることにより駆動する。
更に、油圧系統の駆動源としては、油圧ポンプ7を有している。
【0023】
エンジン1は、動力伝達機構である、後側ギアトレイン8とトルクコンバータ9とトランスミッション10を介して、前側ギアトレイン11に接続されている。
なお、トランスミッション10には、前進用クラッチ10aと後進用クラッチ10bが備えられている。
【0024】
電動モータ2は直接、前側ギアトレイン11に接続されている。
前側ギアトレイン11は、差動ギア(図示省略)などを備えたフロントアクスル12を介して前輪(駆動輪)13に接続されている。
【0025】
このハイブリッド型フォークリフトでは、エンジン1の動力が、後側ギアトレイン8とトルクコンバータ9とトランスミッション10と前側ギアトレイン11とフロントアクスル12を介して、前輪13に伝達されることにより、前輪13が回転駆動して走行することができる。
【0026】
また、走行用の電動モータ2の動力が、前側ギアトレイン11とフロントアクスル12を介して、前輪13に伝達されることにより、前輪13が回転駆動して走行することができる。
このとき、インバータ5から電動モータ2に供給する交流電力を制御することにより、電動モータ2の力行駆動力を制御することができる。
【0027】
なお、走行用の電動モータ2を発電機として機能させる発電モードにしている場合には、前輪13の回転力の回転力を、前側ギアトレイン11を介して走行用の電動モータ2に伝達してこの電動モータ2を回転駆動させれば、発電制動(回生制動)ができる。この場合、インバータ5を制御することにより、回生制動力を制御することができる。
回生制動をすることにより発電した交流電力は、インバータ5により直流電力に変換してバッテリ4に充電している。
【0028】
後側ギアトレイン8には、油圧用の電動モータ3と油圧ポンプ7が直接接続されている。
したがって、エンジン1の動力が後側ギアトレイン8を介して油圧ポンプ7に伝達されることにより油圧ポンプ7が回転駆動することができ、また、油圧用の電動モータ3の動力が後側ギアトレイン8を介して油圧ポンプ7に伝達されることにより油圧ポンプ7が回転駆動することができる。
油圧ポンプ7が回転駆動すると、圧油が、図示しない荷役油圧系統の油圧シリンダとステアリング系統の油圧シリンダに供給される。
【0029】
また、油圧用の電動モータ3の動力を、後側ギアトレイン8を介してエンジン1に伝達して、エンジン1を回転させて始動させることができる。つまり、油圧用の電動モータ3はスタータ用モータとしても機能する。
【0030】
次に、図1に示す駆動系統となっているハイブリッド型フォークリフトに本願発明を適用した実施例1に係る、ハイブリッド型フォークリフトのインチングペダルシステムの制御系統を、図2を参照して説明する。
【0031】
図2に示すように、コントローラとしては、統合コントローラ100と、トランスミッションコントローラ110と、エンジンコントローラ120を備えている。これらコントローラ100,110,120は、相互にバス50により接続されて信号の送受がされるようになっている。
【0032】
本実施例を適用するフォークリフトは、ハイブリッド型フォークリフトであるが、エンジン型フォークリフトと同様に、アクセルペダル31と、ブレーキペダル32の他に、インチングペダル33を備えている。
【0033】
インチングペダル33とブレーキペダル32はリンク機構(図示省略)により連結されており、インチングペダル33の踏み込み量が予め決めた踏み込み量以上になると、インチングペダル33がブレーキペダル32に係合して、インチングペダル33の踏み込みに合わせてブレーキペダル32が踏み込み方向に押し下げられて、機械式ブレーキが作動するようになっている。
なおインチングペダル33とブレーキペダル32とを連結するリンク機構は、エンジン型フォークリフトに一般的に使用されている周知の機構を採用している。
【0034】
なお実施例1では、ブレーキペダル32が、遊び踏み込み量を越えて踏み込まれると、機械式ブレーキが作動するようになっている。もちろん、機械式ブレーキの制動力は、ブレーキペダル32の踏み込み量が多くなるほど強くなるようになっている。
【0035】
アクセルペダル31には、アクセルペダルポジションセンサ101が備えられている。アクセルペダルポジションセンサ101は、アクセルペダル31の踏み込み量に応じたアクセル踏み込み量信号Aを出力する。このアクセル踏み込み量信号Aは、エンジンコントローラ120及びバス50を介して統合コントローラ100にも送られる。
アクセル踏み込み量信号Aの値は、アクセルペダル31が全く踏み込まれていないときには、0%となり、アクセルペダル31が完全に踏み込まれているとき(所謂、ベタ踏み状態になっているとき)には100%となる。
【0036】
ブレーキペダル32には、ブレーキペダルポジションセンサ102が備えられている。ブレーキペダルポジションセンサ102は、ブレーキペダル32の踏み込み量に応じたブレーキ踏み込み量信号Bを出力する。このブレーキ踏み込み量信号Bは、統合コントローラ100に送られる。
ブレーキ踏み込み量信号Bの値は、ブレーキペダル32が全く踏み込まれていないときには、0%となり、ブレーキペダル32が完全に踏み込まれているとき(所謂、ベタ踏み状態になっているとき)には100%となる。
【0037】
インチングペダル33には、インチングペダルポジションセンサ103が備えられている。インチングペダルポジションセンサ103は、インチングペダル33の踏み込み量に応じたインチング踏み込み量信号Iを出力する。このインチング踏み込み量信号Iは、統合コントローラ100に送られる。
インチング踏み込み量信号Iの値は、インチングペダル33が全く踏み込まれていないときには、0%となり、インチングペダル33が完全に踏み込まれているとき(所謂、ベタ踏み状態になっているとき)には100%となる。
【0038】
トランスミッションコントローラ110には、車速センサ111と、前進用クラッチソレノイド110aと、後進用クラッチソレノイド110bが接続されている。
車速センサ111は、車速を示す車速信号Vをトランスミッションコントローラ110に送る。この車速信号Vはバス50を介して、統合コントローラ100にも送られる。
【0039】
統合コントローラ100による制御の下に、トランスミッションコントローラ110により、前進用クラッチソレノイド110aを励磁すると前進用クラッチ10aが接続状態となり、後進用クラッチソレノイド110bを励磁すると後進用クラッチ10bが接続状態となる。
また、トランスミッションコントローラ110により、クラッチソレノイド110a,110bを消磁すると、クラッチ10a,10bが切断状態となる。
更に、トランスミッションコントローラ110により、クラッチソレノイド110a,110bの励磁状態を弱めていくことにより、クラッチ10a,10bを半クラッチ状態とすることができる。
【0040】
つまり、クラッチソレノイド110a,110bが、クラッチ10a,10bを接続状態や半クラッチ状態や切断状態に切り替える、クラッチ制御手段として機能する。
【0041】
前後進レバー(図示省略)が前進段に入ると、トランスミッションコントローラ110によりギアが前進段に入ると共に、前進用クラッチソレノイド110aが励磁されて前進用クラッチ10aが接続状態となる。
このとき、インチングペダル33を踏み込んでいくと、インチング踏み込み量信号Iは統合コントローラ100からトランスミッションコントローラ110に送られ、トランスミッションコントローラ110は、インチング踏み込み量信号Iが大きくなるにつれて、前進用クラッチソレノイド110aの励磁状態を弱めていく。このため、前進用クラッチ10aは、接続状態から半クラッチ状態を経て切断状態となる。
【0042】
前後進レバー(図示省略)が後進段に入ると、トランスミッションコントローラ110によりギアが後進段に入ると共に、後進用クラッチソレノイド110bが励磁されて後進用クラッチ10bが接続状態となる。
このとき、インチングペダル33を踏み込んでいくと、インチング踏み込み量信号Iは統合コントローラ100からトランスミッションコントローラ110に送られ、トランスミッションコントローラ110は、インチング踏み込み量信号Iが大きくなるにつれて、後進用クラッチソレノイド110bの励磁状態を弱めていく。このため、後進用クラッチ10bは、接続状態から半クラッチ状態を経て切断状態となる。
【0043】
エンジンコントローラ120には、エンジン回転数コントローラ(ステッピングモータ)121と、ヒューエルカットソレノイド122と、エンジン回転数センサ123と、アクセルペダルポジションセンサ101が接続されている。
【0044】
エンジン回転数コントローラ121にはガバナレバーが取り付けられており、エンジン回転数コントローラ121によりガバナレバーを引くとエンジン1への燃料供給量が増加してエンジン回転数が増加し、エンジン回転数コントローラ121によりガバナレバーを戻すとエンジン1への燃料供給量が減少してエンジン回転数が減少する。
【0045】
ヒューエルカットソレノイド122は、励磁状態になるとエンジン1への燃焼の供給を行わせ、消磁状態になるとエンジン1への燃料の供給を停止する制御をする。
【0046】
エンジン回転数センサ123は、エンジン1の回転数に応じたエンジン回転数信号Nを出力する。
【0047】
インバータ5,6は、統合コントローラ100の指令に基づき、順変換動作をしたり、逆変換動作をする。
【0048】
上記構成となっている実施例1に係るハイブリッド型フォークリフトのインチングペダルシステムの動作状態を、図2及び状態遷移図である図3を参照しつつ、各運転状態毎に説明する。
【0049】
<アクセルペダルを踏まない状態で、インチングペダルを踏んだ運転状態>
アクセルペダル31が踏み込まれないためアクセル踏み込み量信号Aが0%になっているときは、統合コントローラ100は、トランスミッションコントローラ110によりクラッチソレノイド110a,110bを消磁状態にしてクラッチ10a,10bを切断状態にする。その状態でインチングペダル33が踏み込まれてインチング踏み込み量信号Iの値が大きくなってくると、次のような制御をする。
【0050】
インチング踏み込み量信号Iの値が、例えば25%以下であるときには、統合コントローラ100は指令を出さない。
【0051】
インチング踏み込み量信号Iの値が例えば25%を越え50%以下であるときには、インバータ5により走行用の電動モータ2を発電モードにする。これにより電動モータ2は発電機として機能して、発電制動(回生制動)が作動する。この動作は、図3では(1−1)で示す状態遷移である。
【0052】
インチングポジションセンサ103から送られてきたインチング踏み込み量信号Iの値が例えば50%を越えると、インチングペダル33の踏み込みに合わせてブレーキペダル32が踏み込み方向に押し下げられて、機械式ブレーキが作動する。このときには、回生制動も併せて作動させている。この動作は、図3では(1−2)で示す状態遷移である。
【0053】
上述のように、アクセルペダル31を踏まない状態で、インチングペダル32を踏み込んでいくと、最初に回動制動が作動し、その後に、回動制動と機械的制動が同時に作動する。
この結果、ブレーキペダル32を踏まなくても、インチングペダル32を踏むことにより制動を掛けることができる。つまり、操作者は、ブレーキペダル32を踏む代わりに、インチングペダル32を踏んで制動を掛けることができる。
【0054】
<車速が低速の時に、アクセルペダルを踏み且つインチングペダルを踏んだ運転状態>
統合コントローラ100は、アクセルペダルポジションセンサ101から出力されエンジンコントローラ120及びバス50を介して送られてきたアクセル踏み込み量信号Aが0%を越えており(アクセルペダル31が踏み込まれており)、車速センサ111から出力されトランスミッションコントローラ110及びバス50を介して送られてきた車速信号Vにより、車速が予め決めた設定車速未満の低速(例えば0km/hを越え6km/h未満の速度)であると判断したときには、この運転状態に入る。
この運転状態では、次の第1の制御モードから第4の制御モードが行われる。
【0055】
(第1の制御モード)
統合コントローラ100は、インチングペダルポジションセンサ103から送られてきたインチング踏み込み量信号Iが例えば0%を越え15%以下であるときには、トランスミッションコントローラ110により、前後進用のクラッチソレノイド110a,110bの状態を次のように制御する。
【0056】
例えば、インチングペダル33が踏み込まれていき、インチング踏み込み量信号Iが0%を越え15%に向かって徐々に増加してくると、クラッチソレノイド110a,110bの状態を励磁状態から徐々に消磁状態に移行させていく。逆にインチングペダル33が踏み戻されていき、インチング踏み込み量信号Iが15%から0%に向かって徐々に減少してくると、クラッチソレノイド110a,110bの状態を消磁状態から徐々に励磁状態に移行させていく。
【0057】
このような制御をすることにより、インチング踏み込み量信号Iが小さいときには、クラッチ10a,10bによるエンジン1側から駆動輪13側への動力伝達を確保し、インチング踏み込み量信号Iが大きくなるにつれてクラッチ10a,10bによるエンジン1側から駆動輪13側への動力伝達を減少させ(所謂、半クラッチ状態とし)、インチング踏み込み量信号Iが15%になるとクラッチ10a,10bを切断状態としてエンジン1側から駆動輪13側への動力伝達を遮断する。この動作は図3では、(2−1)に示す状態遷移である。
【0058】
このため、クラッチソレノイド110a,110bの励磁状態を弱めていくことにより、所謂、半クラッチ状態とすることができ、極低速で高トルク走行を行うことができる。したがって、従来のエンジン型フォークリフトにおいて可能であった極低速・高トルク走行を、ハイブリッド型フォークリフトにおいても行うことができるようになる。
【0059】
(第2の制御モード)
統合コントローラ100は、インチングペダルポジションセンサ103から送られてきたインチング踏み込み量信号Iが例えば15%を越え25%以下であるときには、トランスミッションコントローラ110によりクラッチソレノイド110a,110bを消磁状態に維持してクラッチ10a,10bを切断状態に維持しつつ、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力(発生動力)を制御する。
【0060】
例えば、インチングペダル33が踏み込まれていき、インチング踏み込み量信号Iが15%を越え25%に向かって徐々に増加してくると、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力を徐々に減少させていき、インチング踏み込み量信号Iが25%になったら、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力を零にする。
このように、クラッチ10a,10bを切断状態にして、電動モータ2の駆動力を減少させていく制御を行うことにより、車速が減少してくる。
【0061】
逆にインチングペダル33が踏み戻されていき、インチング踏み込み量信号Iが25%から15%に向かって徐々に減少してくると、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力を徐々に増加させていき、インチング踏み込み量信号Iが15%になったら、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力を最大にする。
この動作は図3では、(2−2)に示す状態遷移である。
【0062】
(第3の制御モード)
統合コントローラ100は、インチングペダルポジションセンサ103から送られてきたインチング踏み込み量信号Iが25%を越え50%以下であるときには、トランスミッションコントローラ110によりクラッチソレノイド110a,110bを消磁状態に維持してクラッチ10a,10bを切断状態に維持しつつ、インバータ5により走行用の電動モータ2を回生制動させる。このとき、インチング踏み込み量信号Iの値が大きいほど、回生制動力を大きくしている。この動作は、図3では(2−3)に示す状態遷移である。
このように、クラッチ10a,10bを切断状態にして、電動モータ2により回生制動をさせる制御を行うことにより、良好な制動動作を行うことができる。
【0063】
(第4の制御モード)
インチングペダルポジションセンサ103から送られてきたインチング踏み込み量信号Iが50%を越えると、インチングペダル33がブレーキペダル32に係合して、インチングペダル33の踏み込みに合わせてブレーキペダル32が踏み込み方向に押し下げられて、機械式ブレーキが作動する。この動作は、図3では(2−4)で示す状態遷移である。
このとき、トランスミッションコントローラ110によりクラッチソレノイド110a,110bを消磁状態に維持してクラッチ10a,10bを切断状態に維持しつつ、インバータ5により走行用の電動モータ2を回生制動させている。
このように、クラッチ10a,10bを切断状態にして、電動モータ2により回生制動をさせる制御を行うことに加えて、機械式ブレーキが作動するため、確実な制動動作を行うことができる。
【0064】
<車速が高速の時に、アクセルペダルを踏み且つインチングペダルを踏んだ運転状態>
統合コントローラ100は、アクセルペダルポジションセンサ101から出力されエンジンコントローラ120及びバス50を介して送られてきたアクセル踏み込み量信号Aが0%を越えており(アクセルペダル31が踏み込まれており)、車速センサ111から出力されトランスミッションコントローラ110及びバス50を介して送られてきた車速信号Vにより、車速が予め決めた設定車速以上の高速(例えば6km/h以上の速度)であると判断したときには、この運転状態に入る。
【0065】
この運転状態では、アクセルペダル31が踏み込まれていたとしても、インチングペダル33が踏まれてインチング踏み込み量信号Iが出力されていると、統合コントローラ100は、エンジンコントローラ120によりエンジン回転数コントローラ121を制御してガバナレバーを強制的に戻し、エンジン1の回転数を強制的にアイドリング回転に保持する。
また統合コントローラ100は、インチングペダルポジションセンサ103から送られてくるインチング踏み込み量信号Iが例えば15%を越えると、クラッチソレノイド110a,110bを消磁状態にして、クラッチ10a,10bを切断状態とする。
【0066】
したがってインチングペダル33を踏んでクラッチ10a,10bが切断状態になっているときに、アクセルペダル31を踏み込んだとしても、エンジン1の回転数はアイドリング回転数のままでありエンジン回転数が上昇することはない。このため、無駄にエンジン1を高速回転させることができなくなり、いわゆる「空吹かし」ができなくなり、燃費悪化を防止することができる。
【0067】
更に、統合コントローラ100は、インチングペダルポジションセンサ103から送られてきたインチング踏み込み量信号Iが例えば25%を越え50%以下であるときには、トランスミッションコントローラ110によりクラッチソレノイド110a,110bを消磁状態に維持してクラッチ10a,10bを切断状態に維持しつつ、インバータ5により走行用の電動モータ2を発電モードにする。これにより電動モータ2は発電機として機能して、回生制動が作動する。この動作は、図3では(3−1)に示す状態遷移である。
このように、クラッチ10a,10bを切断状態にして、電動モータ2の駆動力を減少させていく制御を行うことにより、車速が減少してくる。
【0068】
インチングペダルポジションセンサ103から送られてきたインチング踏み込み量信号Iが例えば50%を越えると、インチングペダル33がブレーキペダル32に係合して、インチングペダル33の踏み込みに合わせてブレーキペダル32が踏み込み方向に押し下げられて、機械式ブレーキが作動する。このときには、回生制動も併せて作動させている。この動作は、図3では(3−2)で示す状態遷移である。
このように、クラッチ10a,10bを切断状態にして、電動モータ2により回生制動をさせる制御を行うことに加えて、機械式ブレーキが作動するため、確実な制動動作を行うことができる。
【0069】
<インチングペダルを踏まないで、アクセルペダルを踏んだ運転状態>
このときには、アクセルペダル31が踏み込まれると、アクセル踏み込み量信号Aの値と車速信号Vの値に応じて、走行用電動モータ2のみが駆動しているモードと、エンジン1のみが駆動しているモードと、電動モータ2とエンジン1が駆動しているモードが選択される。この動作は、図3では(4)で示す状態遷移である。
【実施例2】
【0070】
次に本発明の実施例2に係るハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムについて図4を参照して説明する。この実施例2は、実施例1の一部を変形したものである。このため実施例1と同一部分には同一符合を付して重複する説明は省略し、変形部分を中心に説明をする。
【0071】
図4に示すように、実施例2では、ブレーキペダル32を含む機械式ブレーキ40の構成が、通常の機械式ブレーキとは異なっている。つまり、通常の機械式ブレーキでは、ブレーキペダル32が踏み込まれるとブレーキが作動するようになっているが、実施例2の機械式ブレーキ40では、ブレーキペダル32が踏み込まれても、踏み込み量が予め決めた設定量を越えないと、ブレーキの作動が開始されないようになっている。
【0072】
具体的に説明していくと、ブレーキペダル32にはストローク部41が設けられており、ブレーキペダル32が踏み込まれるとストローク部41が回動するようになっている。
【0073】
ガタ部42は、有底円筒状の伝達シリンダ部42aと、伝達シリンダ部42aの内部に挿入・配置された棒状の伝達ピストン部42bとで構成されている。伝達シリンダ部42aはマスタシリンダ43に接続されており、伝達ピストン部42bはストローク部41に接続されている。
伝達ピストン部42bは伝達シリンダ部42aに対して相対移動可能に配置されており、伝達ピストン部42bの先端と伝達シリンダ部42aの底面との間の間隔が、伝達ピストン部42bから伝達シリンダ部42aへの、踏み込み力の伝達を制限する機械的不感帯として働く。
【0074】
マスタシリンダ43にはリザーバタンク44が接続され、このマスタシリンダ43はブレーキ配管45介してドラムブレーキ46に接続されている。
【0075】
このような構成となっている機械式ブレーキ40では、ブレーキペダル32が踏み込まれるとストローク部41がマスタシリンダ43側に回動し、伝達ピストン部42bは伝達シリンダ部42aに向かって移動していく。このとき、伝達ピストン部42bの先端が伝達シリンダ部42aの底面に達しないときには、伝達シリンダ部42aには踏み込み力は伝わらず、伝達ピストン部42bの先端が伝達シリンダ部42aの底面に達した後に、更にブレーキペダル32の踏み込みが行われると伝達シリンダ部42aに踏み込み力が伝わり、伝達シリンダ42aによりマスタシリンダ43が圧縮される。
【0076】
マスタシリンダ43が圧縮されると、マスタシリンダ43からブレーキ配管45を介してドラムブレーキ46に油圧が作用して、ドラムブレーキ46により機械式制動力が発生する。
【0077】
一方、統合コントローラ100は、ブレーキペダル32が踏み込まれてブレーキペダルポジションセンサ102からブレーキ踏み込み量信号Bが出力されると、インバータ5により走行用の電動モータ2を発電モードにして回生制動を作動させるようになっている。このため、ブレーキペダル32が踏み込まれると直ちに回生制動が開始される。
そして、ブレーキペダル32が踏み込まれていき、ブレーキ踏み込み量が予め決めた設定量を越え、伝達ピストン部42bの先端が伝達シリンダ部42aの底面に達した後においてもブレーキペダル32が踏み込まれると、ドラムブレーキ46による機械式制動力も発生する。
【0078】
この結果、ブレーキペダル32を踏み込んでいったときに、ブレーキ踏み込み量が予め決めた設定量になる前(伝達ピストン部42bの先端が伝達シリンダ部42aの底面に達する前)では、回生制動のみが作動し、ブレーキ踏み込み量が予め決めた設定量を超えた以降(伝達ピストン部42bの先端が伝達シリンダ部42aの底面に達した以降)では、回生制動と機械式制動が作動する。
【0079】
インチングペダル33とブレーキペダル32はリンク機構(図示省略)により連結されており、インチングペダル33の踏み込み量が予め決めた踏み込み量以上になると(インチング踏み込み量信号Iの値が第2の設定値(例えば25パーセント)を超えると)、インチングペダル33がブレーキペダル32に係合して、インチングペダル33の踏み込みに合わせてブレーキペダル32が踏み込み方向に押し下げられるようになっている。
なおインチングペダル33とブレーキペダル32とを連結するリンク機構は、エンジン型フォークリフトに一般的に使用されている周知の機構を採用している。
【0080】
他の部分の機械的構成は、実施例1と同様である。
【0081】
次に、上記構成となっている実施例2に係るハイブリッド型フォークリフトのインチングペダルシステムの動作状態を、各運転状態毎に説明する。
【0082】
<アクセルペダルを踏まない状態で、インチングペダルを踏んだ運転状態>
アクセルペダル31が踏み込まれないためアクセル踏み込み量信号Aが0%になっているときは、統合コントローラ100は、トランスミッションコントローラ110によりクラッチソレノイド110a,110bを消磁状態にしてクラッチ10a,10bを切断状態にする。その状態でインチングペダル33が踏み込まれてインチング踏み込み量信号Iの値が大きくなってくると、次のような制御をする。
【0083】
インチング踏み込み量信号Iの値が例えば25%を越えると、インチングペダル33がブレーキペダル32に係合して、インチングペダル33の踏み込みに合わせてブレーキペダル32が踏み込み方向に押し下げられる。
このようにブレーキペダル32が踏み込まれ、ブレーキペダルポジションセンサ102からブレーキ踏み込み量信号Bが出力されると、統合コントローラ100は、インバータ5により走行用の電動モータ2を発電モードにして回生制動を作動させる。
【0084】
ブレーキペダル32が更に踏み込まれていき、ブレーキ踏み込み量が予め決めた設定量を越え、伝達ピストン部42bの先端が伝達シリンダ部42aの底面に達した後においてもブレーキペダル32が踏み込まれると、ドラムブレーキ46による機械式制動力も発生する。
【0085】
この結果、ブレーキペダル32を踏まなくても、インチングペダル32を踏むことにより制動を掛けることができる。つまり、操作者は、ブレーキペダル32を踏む代わりに、インチングペダル32を踏んで制動を掛けることができる。
【0086】
<車速が低速の時に、アクセルペダルを踏み且つインチングペダルを踏んだ運転状態>
統合コントローラ100は、アクセルペダルポジションセンサ101から出力されエンジンコントローラ120及びバス50を介して送られてきたアクセル踏み込み量信号Aが0%を越えており(アクセルペダル31が踏み込まれており)、車速センサ111から出力されトランスミッションコントローラ110及びバス50を介して送られてきた車速信号Vにより、車速が予め決めた設定車速未満の低速(例えば0km/hを越え6km/h未満の速度)であると判断したときには、この運転状態に入る。
この運転状態では、次の第1の制御モードから第4の制御モードが行われる。
【0087】
(第1の制御モード)
統合コントローラ100は、インチングペダルポジションセンサ103から送られてきたインチング踏み込み量信号Iが例えば0%を越え15%以下であるときには、トランスミッションコントローラ110により、前後進用のクラッチソレノイド110a,110bの状態を次のように制御する。
【0088】
例えば、インチングペダル33が踏み込まれていき、インチング踏み込み量信号Iが0%を越え15%に向かって徐々に増加してくると、クラッチソレノイド110a,110bの状態を励磁状態から徐々に消磁状態に移行させていく。逆にインチングペダル33が踏み戻されていき、インチング踏み込み量信号Iが15%から0%に向かって徐々に減少してくると、クラッチソレノイド110a,110bの状態を消磁状態から徐々に励磁状態に移行させていく。
【0089】
このような制御をすることにより、インチング踏み込み量信号Iが小さいときには、クラッチ10a,10bによるエンジン1側から駆動輪13側への動力伝達を確保し、インチング踏み込み量信号Iが大きくなるにつれてクラッチ10a,10bによるエンジン1側から駆動輪13側への動力伝達を減少させ(所謂、半クラッチ状態とし)、インチング踏み込み量信号Iが15%になるとクラッチ10a,10bを切断状態としてエンジン1側から駆動輪13側への動力伝達を遮断する。
【0090】
このため、クラッチソレノイド110a,110bの励磁状態を弱めていくことにより、所謂、半クラッチ状態とすることができ、極低速で高トルク走行を行うことができる。したがって、従来のエンジン型フォークリフトにおいて可能であった極低速・高トルク走行を、ハイブリッド型フォークリフトにおいても行うことができるようになる。
【0091】
(第2の制御モード)
統合コントローラ100は、インチングペダルポジションセンサ103から送られてきたインチング踏み込み量信号Iが例えば15%を越え25%以下であるときには、トランスミッションコントローラ110によりクラッチソレノイド110a,110bを消磁状態に維持してクラッチ10a,10bを切断状態に維持しつつ、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力(発生動力)を制御する。
【0092】
例えば、インチングペダル33が踏み込まれていき、インチング踏み込み量信号Iが15%を越え25%に向かって徐々に増加してくると、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力を徐々に減少させていき、インチング踏み込み量信号Iが25%になったら、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力を零にする。
このように、クラッチ10a,10bを切断状態にして、電動モータ2の駆動力を減少させていく制御を行うことにより、車速が減少してくる。
【0093】
逆にインチングペダル33が踏み戻されていき、インチング踏み込み量信号Iが25%から15%に向かって徐々に減少してくると、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力を徐々に増加させていき、インチング踏み込み量信号Iが15%になったら、インバータ5により走行用の電動モータ2の力行駆動力を最大にする。
【0094】
(第3の制御モード)
インチング踏み込み量信号Iの値が例えば25%を越えると、インチングペダル33がブレーキペダル32に係合して、インチングペダル33の踏み込みに合わせてブレーキペダル32が踏み込み方向に押し下げられる。
このようにブレーキペダル32が踏み込まれ、ブレーキペダルポジションセンサ102からブレーキ踏み込み量信号Bが出力されると、統合コントローラ100は、インバータ5により走行用の電動モータ2を発電モードにして回生制動を作動させる。
このように、電動モータ2により回生制動をさせる制御を行うことにより、良好な制動動作を行うことができる。
【0095】
(第4の制御モード)
ブレーキペダル32が更に踏み込まれていき、ブレーキ踏み込み量が予め決めた設定量を越え、伝達ピストン部42bの先端が伝達シリンダ部42aの底面に達した後においてもブレーキペダル32が踏み込まれると、ドラムブレーキ46による機械式制動力も発生する。
このように、電動モータ2により回生制動をさせる制御を行うことに加えて、機械式ブレーキが作動するため、確実な制動動作を行うことができる。
【0096】
<車速が高速の時に、アクセルペダルを踏み且つインチングペダルを踏んだ運転状態>
統合コントローラ100は、アクセルペダルポジションセンサ101から出力されエンジンコントローラ120及びバス50を介して送られてきたアクセル踏み込み量信号Aが0%を越えており(アクセルペダル31が踏み込まれており)、車速センサ111から出力されトランスミッションコントローラ110及びバス50を介して送られてきた車速信号Vにより、車速が予め決めた設定車速以上の高速(例えば6km/h以上の速度)であると判断したときには、この運転状態に入る。
【0097】
この運転状態では、アクセルペダル31が踏み込まれていたとしても、インチングペダル33が踏まれてインチング踏み込み量信号Iが出力されていると、統合コントローラ100は、エンジンコントローラ120によりエンジン回転数コントローラ121を制御してガバナレバーを強制的に戻し、エンジン1の回転数を強制的にアイドリング回転に保持する。
また統合コントローラ100は、インチングペダルポジションセンサ103から送られてくるインチング踏み込み量信号Iが例えば15%を越えると、クラッチソレノイド110a,110bを消磁状態にして、クラッチ10a,10bを切断状態とする。
【0098】
したがってインチングペダル33を踏んでクラッチ10a,10bが切断状態になっているときに、アクセルペダル31を踏み込んだとしても、エンジン1の回転数はアイドリング回転数のままでありエンジン回転数が上昇することはない。このため、無駄にエンジン1を高速回転させることができなくなり、いわゆる「空吹かし」ができなくなり、燃費悪化を防止することができる。
【0099】
インチング踏み込み量信号Iの値が例えば25%を越えると、インチングペダル33がブレーキペダル32に係合して、インチングペダル33の踏み込みに合わせてブレーキペダル32が踏み込み方向に押し下げられる。
このようにブレーキペダル32が踏み込まれ、ブレーキペダルポジションセンサ102からブレーキ踏み込み量信号Bが出力されると、統合コントローラ100は、インバータ5により走行用の電動モータ2を発電モードにして回生制動を作動させる。
このように、電動モータ2により回生制動をさせる制御を行うことにより、良好な制動動作を行うことができる。
【0100】
ブレーキペダル32が更に踏み込まれていき、ブレーキ踏み込み量が予め決めた設定量を越え、伝達ピストン部42bの先端が伝達シリンダ部42aの底面に達した後においてもブレーキペダル32が踏み込まれると、ドラムブレーキ46による機械式制動力も発生する。
このように、電動モータ2により回生制動をさせる制御を行うことに加えて、機械式ブレーキが作動するため、確実な制動動作を行うことができる。
【0101】
<インチングペダルを踏まないで、アクセルペダルを踏んだ運転状態>
このときには、アクセルペダル31が踏み込まれると、アクセル踏み込み量信号Aの値と車速信号Vの値に応じて、走行用電動モータ2のみが駆動しているモードと、エンジン1のみが駆動しているモードと、電動モータ2とエンジン1が駆動しているモードが選択される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、ハイブリッド型フォークリフトのみならず、例えばコンテナ搬送車両等の荷役車両や、油圧ショベルカー等の土木車両など、走行駆動源としてエンジンと電動モータを備えたハイブリッド型産業車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明を適用するハイブリッド型フォークリフトの駆動系統を示す構成図。
【図2】本発明を適用した実施例1に係るハイブリッド型フォークリフトの制御系統を示す構成図。
【図3】実施例1の状態遷移を示す説明図。
【図4】本発明を適用した実施例2に係るハイブリッド型フォークリフトの制御系統を示す構成図。
【符号の説明】
【0104】
1 エンジン
2 走行用の電動モータ
3 油圧用のモータ
4 バッテリ
5,6 インバータ
7 油圧ポンプ
8 後側ギアトレイン
9 トルクコンバータ
10 トランスミッション
10a 前進用クラッチ
10b 後進用クラッチ
11 前側ギアトレイン
12 フロントアクスル
13 前輪
31 アクセルペダル
32 ブレーキペダル
33 インチングペダル
40 機械式ブレーキ
41 ストローク部
42 ガタ部
43 マスタシリンダ
44 リザーバタンク
45 ブレーキ配管
46 ドラムブレーキ
50 バス
100 統合コントローラ
101 アクセルペダルポジションセンサ
102 ブレーキペダルポジションセンサ
103 インチングペダルポジションセンサ
110 トランスミッションコントローラ
111 車速センサ
110a 前進用クラッチソレノイド
110b 後進用クラッチソレノイド
120 エンジンコントローラ
121 エンジン回転数コントローラ
122 ヒューエルカットソレノイド
123 エンジン回転数センサ
A アクセル踏み込み量信号
B ベレーキ踏み込み量信号
I インチング踏み込み量信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、エンジンが発生した動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構に配置されたクラッチと、前記駆動輪を回転駆動する動力を発生する電動モータとを備えたハイブリッド型産業車両において、
ペダルとしてアクセルペダルとブレーキペダルの他に、インチングペダルを備えており、
前記アクセルペダルの踏み込み量に応じた値のアクセル踏み込み量信号を出力するアクセルペダルポジションセンサと、
前記インチングペダルの踏み込み量に応じた値のインチング踏み込み量信号を出力するインチングペダルポジションセンサと、
車速信号を出力する車速センサと、
前記クラッチを接続状態や半クラッチ状態や切断状態に切り替えるクラッチ制御手段と、
前記電動モータを力行駆動させたり回生制動させたりするよう制御するインバータと、
前記アクセル踏み込み量信号と前記インチング踏み込み量信号と前記車速信号が入力されるコントローラとを有し、
前記コントローラは、
前記アクセルペダルが踏み込まれて前記アクセル踏み込み量信号の値が零を越えており、しかも、車速信号により得た車速が予め決めた設定速度未満の低速で走行している状態においては、
前記インチング踏み込み量信号の値が零を越え予め決めた第1の設定値以下であるときには、前記インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを接続状態から半クラッチ状態を経て切断状態に移行させていき、
前記インチング踏み込み量信号の値が第1の設定値を越えて第2の設定値以下であるときには、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、前記インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの力行駆動力を弱めるように前記インバータを制御することを特徴とするハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムにおいて、
前記コントローラは、
前記アクセルペダルが踏み込まれて前記アクセル踏み込み量信号の値が零を越えており、しかも、車速信号により得た車速が予め決めた設定速度未満の低速で走行している状態においては、
前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値を越えると、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、前記インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの回生制動力を強めるように前記インバータを制御し、
一方、前記インチングペダルが踏み込まれていき、前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値よりも大きな第3の設定値を越えると、前記インチングペダルが機械的に前記ブレーキペダルを踏み込み方向に押し下げて機械的なブレーキが作動する機械式ブレーキが備えられていることを特徴とするハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムにおいて、
前記ブレーキペダルの踏み込み量に応じた値のブレーキ踏み込み量信号を前記コントローラに送るブレーキペダルポジションセンサが備えられると共に、
前記インチングペダルが踏み込まれていき前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値を越えると、前記インチングペダルが機械的に前記ブレーキペダルを踏み込み方向に押し下げ、しかも、前記ブレーキペダルが踏み込まれていったときに、前記ブレーキペダルの踏み込み量が予め設定した設定量以下であるときには機械式ブレーキは作動せず、前記の踏み込み量が予め設定した設定量を越えると、前記ブレーキペダルの踏み込みに応じて機械的なブレーキが作動する機械式ブレーキが備えられており、
前記コントローラは、
前記ブレーキペダルポジションセンサから前記ブレーキ踏み込み量信号が送られてくると、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、前記ブレーキ踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの回生制動力を強めるように前記インバータを制御することを特徴とするハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムにおいて、
ガバナレバーを操作して前記エンジンへの燃料供給量を制御するエンジン回転数コントローラが備えられており、
前記コントローラは、
前記アクセルペダルが踏み込まれて前記アクセル踏み込み量信号の値が零を越えており、しかも、車速信号により得た車速が予め決めた設定速度以上の高速で走行している状態においては、
前記アクセルペダル踏み込み量信号の値が零を越えて大きくなっても、前記エンジン回転数コントローラを制御して前記エンジンの回転数をアイドリング回転数に保持しておき、
前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値を越えると、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの回生制動力を強めるように前記インバータを制御することを特徴とするハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステムにおいて、
前記コントローラは、
前記アクセルペダルが踏み込まれていないため前記アクセル踏み込み量信号の値が零となっており、しかも前記インチングペダルが踏み込まれた状態においては、
前記インチング踏み込み量信号の値が第2の設定値を越えると、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを切断状態にすると共に、インチング踏み込み量信号の値が増加するに合わせて前記電動モータの回生制動力を強めるように前記インバータを制御することを特徴とするハイブリッド型産業車両のインチングペダルシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−47196(P2010−47196A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214873(P2008−214873)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】