説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】 モータトルクを増加することできない状態であっても、発進クラッチのスリップを維持し、発進クラッチの締結時のショックやエンジン始動時の回転変動が駆動輪側に伝達しないようにできるハイブリッド車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】 入力軸回転数が入力軸回転数目標値より小さいときにはトルク容量目標値を減少補正するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、駆動源としてエンジンとモータとを備え、モータと駆動軸との間に発進クラッチ(第2クラッチ)を有するハイブリッド車両において、エンジンを停止状態から始動する際に発進クラッチを一定伝達トルクに保ちながらモータの回転数を上昇させることで、発進クラッチをスリップさせてエンジン始動時のモータ回転数変動を防止しながらエンジン回転数をエンジン始動可能な回転数まで増大するものが開示されている。
【特許文献1】特開2000−255285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来技術では、例えばモータトルクが飽和している状態(それ以上出力トルクを増大出来ない状態)の場合、発進クラッチのスリップ量が低下しても、モータトルクを増加することによってスリップを維持することができず、発進クラッチが完全に締結してしまい、エンジン始動時のモータ回転数変動が駆動輪側に伝わることを防止することが難しいといった問題があった。
【0004】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、モータトルクを増加することできない状態であっても、発進クラッチのスリップを維持し、エンジン始動時の回転変動が駆動輪側に伝達しないようにできるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明においては、入力軸回転数が入力軸回転数目標値より小さいときには発進クラッチのトルク容量目標値を減少補正するようにした。
【発明の効果】
【0006】
よって、モータトルクが飽和しても、発進クラッチの完全締結を防止することができるため、エンジン始動時のモータ回転数変動の駆動輪側への伝達を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
[ハイブリッド車両の構成]
図1は、実施例1のハイブリッド車両の駆動系と制御系の構成を示す図である。
【0009】
(駆動系の構成)
まず、駆動系の構成について説明する。
実施例1のハイブリッド車両は駆動系の構成として、第1駆動源としてのモータ1、第2駆動源としてのエンジン2、駆動輪19へ伝達する駆動トルク、回転数を変更する変速機5、エンジン2とモータ1との間に介在する第1クラッチ3、モータ1と変速機5との間に介在する発進クラッチとしての第2クラッチ4を備えている。
【0010】
モータ1は交流同期モータであり、インバータ8の電流制御によりバッテリ9の電力を駆動電源として入力軸4iに対してモータトルクTMを発生する。また、回生ブレーキにより車両運動エネルギをバッテリ9の充電電力として回収する。
エンジン2は希薄燃焼可能なエンジンであり、スロットルアクチュエータによる吸入空気量とインジェクタによる燃料噴射量と、点火プラグによる点火時期の制御により、エンジントルクが指令値と一致するように制御する。
【0011】
第1クラッチ3は乾式クラッチであり、エンジン2とモータ1との間の回転軸の締結と開放とを行う。第1クラッチ3は、締結によりモータ1とエンジン2により発生したトルクを第2クラッチ4に伝達し、開放によりモータ1により発生したトルクを第2クラッチ4に伝達する。
【0012】
第2クラッチ4は湿式クラッチであり、クラッチ油圧に応じてトルク容量が発生する。第2クラッチ4を締結することにより入力軸4iから出力軸4oへトルクを伝達し、開放することにより入力軸4iから出力軸4oへのトルクの伝達を遮断する。また第2クラッチ4をスリップ制御することにより、入力軸4iから出力軸4oへモータ1、エンジン2により発生したトルクの変動に関わらず一定のトルクを伝達することができる。なお、トルク容量とは入力軸4iから出力軸4oへ伝達可能なトルクを意味し、締結容量とも言う。
【0013】
変速機5は有段の変速機であり、複数の遊星歯車を有している。遊星歯車の回転要素と変速機ケースとの間に設けたブレーキ、回転要素間に設けたクラッチの締結、開放によってトルクの伝達経路を変えることにより変速を行う。
変速機5から出力したトルクは、ファイナルギヤ20を介して駆動輪19に伝達する。
【0014】
(制御系の構成)
次に、制御系の構成について説明する。
実施例1のハイブリッド車両は駆動系の構成として、アクセルペダル開度APOを検出するアクセルセンサ10、エンジン回転数ωEを検出するエンジン回転数センサ11、第2クラッチ4の入力軸回転数ωCL2iを検出する入力軸回転数センサ6、第2クラッチ4の出力軸回転数ωoを検出する出力軸回転数センサ7、クラッチ油温TempCL2を検出するクラッチ油温センサ12、バッテリ充電状態SOCを管理するバッテリコントローラ18、モータ1をモータトルク指令値TM*に応じて制御するモータコントローラ17、エンジン2をエンジントルク指令値TE*に応じて制御するエンジンコントローラ16、第1クラッチ3および第2クラッチ4をクラッチ電流指令値ICL1*,ICL2*に応じて制御するクラッチコントローラ15、変速指令値に応じて変速機5を制御する変速機コントローラ14、各センサからの情報に応じて指令値を演算する統合コントローラ13を備える。
【0015】
バッテリコントローラ18は、バッテリ9の充電状態SOCを統合コントローラ13に出力する。
モータコントローラ17は、モータ1のモータトルクTMが統合コントローラ13からのモータトルク指令値TM*となるように、モータ1への電流を制御するインバータ8に電流値指令値を出力する。
【0016】
エンジンコントローラ16は、エンジン2のエンジントルクTEが統合コントローラ13からのエンジントルク指令値TE*となるように、エンジン2のスロットルアクチュエータ、インジェクタ、点火プラグを制御する。またエンジン回転数センサ11からエンジン回転数ωE情報を入力し、このエンジン回転数ωE情報を統合コントローラ13に出力する。
【0017】
クラッチコントローラ15は、第1クラッチ3および第2クラッチ4のソレノイドバルブの制御電流が統合コントローラ13からのクラッチ電流指令値ICL1*,ICL2*となるように、ソレノイドバルブを制御して、第1クラッチ3および第2クラッチ4の締結容量を制御する。また、入力軸回転数センサ6から入力軸回転数ωCL2i情報を、出力軸回転数センサ7から出力軸回転数ωo情報を、クラッチ油温センサ12からクラッチ油温TempCL2情報を入力し、この入力軸回転数ωCL2i情報、出力軸回転数ωo情報、クラッチ油温TempCL2情報を統合コントローラ13に出力する。
【0018】
変速機コントローラ14は、統合コントローラ13からの変速指令値に応じて変速機5内のブレーキ、クラッチの締結と開放とを制御して、変速機5の変速比を制御する。
統合コントローラ13は、アクセルセンサ10からアクセルペダル開度APO情報、エンジンコントローラ16からエンジン回転数ωE情報、クラッチコントローラ15から入力軸回転数ωCL2i情報と出力軸回転数ωo情報とクラッチ油温TempCL2情報を入力し、各コントローラへ出力する指令値を演算する。
【0019】
[統合コントローラの構成]
図2は統合コントローラ13の制御ブロック図である。
統合コントローラ13は、駆動トルク目標値演算部21、駆動トルク配分演算部22、第2クラッチトルク容量基本目標値演算部23、スリップ量目標値演算部24、入力軸回転数目標値演算部25、回転数制御モータトルク目標値演算部26、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27、締結/開放時第2クラッチトルク容量目標値演算部28、第2クラッチトルク容量指令値演算部29、第2クラッチ電流指令値演算部30、第1クラッチトルク容量指令値演算部31、第1クラッチ電流指令値演算部32、モータトルク指令値演算部33を有する。
【0020】
(駆動トルク目標値演算部)
駆動トルク目標値演算部21は、アクセルペダル開度APO情報と車体速度Vsp情報とを入力し、第2クラッチ4の出力軸4oにおける駆動トルク目標値Td*を演算する。図3は駆動トルク目標値Td*のマップである。駆動トルク目標値Td*は、図3に示すように車体速度Vspが大きくなるほど駆動トルク目標値Td*を小さく、またアクセルペダル開度APOが大きいほど駆動トルク目標値Td*を大きく設定する。
なお、車体速度Vspはクラッチコントローラ15から入力した出力軸回転数ωoと変速機コントローラ14から入力した変速比から求めることができる。
【0021】
(駆動トルク配分演算部)
駆動トルク配分演算部22は、駆動トルク目標値Td*を入力し、モータトルク基本目標値TM_base*、エンジントルク基本目標値TE_base*を演算する。モータトルク基本目標値TM_base*、エンジントルク基本目標値TE_base*は第1クラッチ3、第2クラッチ4の締結状況や車両状態に応じて設定する。
【0022】
(第2クラッチトルク容量基本目標値演算部)
第2クラッチトルク容量基本目標値演算部23は、駆動トルク目標値Td*を入力し、第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*を演算する。第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*は、例えば次の式(1)によって求める。
【数1】

【0023】
(スリップ量目標値演算部)
スリップ量目標値演算部24は、第1クラッチ制御モードフラグfCL1、第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*、クラッチ油温TempCL2、エンジン始動時モータ配分トルクTENG_startを入力し、スリップ量目標値ωCL2_slp*を演算する。
【0024】
ここで第1クラッチ制御モードフラグfCL1とは、第1クラッチ3の締結状態および開放状態を示すフラグであり、fCL1==0のときは開放状態を、fCL1==1のときは締結状態を示す。なお、fCL1==0のときはモータ走行モード(EV走行モード)であり、fCL1==1のときはハイブリッド走行モード(HEV走行モード)またはエンジン始動モードである。例えば低加速での発進といった比較的エンジンの効率が良くない走行シーンではEV走行するために、第1クラッチ3を開放する(fCL1=0)。また、急加速時、バッテリ充電状態SOCがバッテリ充電状態しきい値SOCth1以下のとき、または車体速度Vspが車体速度しきい値Vspth1以上のときにはEV走行が困難となるため、HEV走行をするために、第1クラッチ3を締結する(fCL1=1)。
【0025】
スリップ量目標値ωCL2_slp*は、次の式(2),(3)によって求める。
1) EVモード(fCL1==0)の場合
【数2】

ここで、fCL2_slp_CL1OPは第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*、クラッチ油温TempCL2を入力とした関数であり、図4(a)のマップによりスリップ量目標値ωCL2_slp*を求める。
【0026】
図4(a)に示すように、クラッチ油温TempCL2がしきい値Tempcl2_thのときのスリップ量目標値ωCL2_slp*を最低スリップ量ωCL2_slp_minとして、しきい値Tempcl2_thより低い範囲においては、クラッチ油温TempCL2が高いほどスリップ量目標値ωCL2_slp*を小さく設定する。また、クラッチ油温TempCL2がしきい値Tempcl2_thより高い範囲においては、クラッチ油温TempCL2に関わらずスリップ量目標値ωCL2_slp*を最低スリップ量ωCL2_slp_minに設定する。また、クラッチ油温TempCL2がしきい値Tempcl2_thより低い範囲においては、第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*が大きいほどスリップ量目標値ωCL2_slp*を大きく設定する。
これにより、クラッチ油温TempCL2が高いとき、第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*が大きいときにはスリップ量目標値ωCL2_slp*を小さい設定することによりクラッチ油温の過度な上昇を抑制している。
【0027】
2) エンジン始動モード(fCL1==1)の場合
【数3】

ここで、fCL2_Δωslpはエンジン始動時モータ配分トルクTENG_startを入力とした関数であり、図4(b)のマップによりエンジン2の始動のために必要なスリップ増加量目標値ΔωCL2_slp*を求める。
【0028】
図4(b)に示すように、最小モータトルクTM_minと最大モータトルクTM_maxとの間でエンジン始動時モータ配分トルクTENG_startが大きいほどスリップ増加量目標値ΔωCL2_slp*を小さく設定する。
これにより、第1クラッチ3を締結しているときには、第1クラッチ3側から入力する外乱によって入力軸4iの回転数が低下しても第2クラッチ4が急に締結することを防止する。これにより加速変動を生じることなくエンジン2を始動させることができる。
【0029】
(入力軸回転数目標値演算部)
入力軸回転数目標値演算部25は、スリップ量目標値ωCL2_slp*、出力軸回転数ωoを入力し、入力軸回転数目標値ωCL2i*を演算する。入力軸回転数目標値ωCL2i*は、次の式(4)によって求める。
【数4】

【0030】
(回転数制御モータトルク目標値演算部)
回転数制御モータトルク目標値演算部26では、入力軸回転数目標値ωCL2i*、入力軸回転数ωCL2iを入力し、回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*を演算する。
【0031】
図5は回転数制御モータトルク目標値演算部26および後述する回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27の制御ブロック図である。回転数制御モータトルク目標値演算部26は加減算部40、比例積分制御部41を有する。
【0032】
<加減算部>
加減算部40は、入力軸回転数目標値ωCL2i*、入力軸回転数ωCL2iを入力し、入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差を演算する。
【0033】
<比例積分制御部>
比例積分制御部41は、入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差を入力し、回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*を演算する。回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*は、例えば次の式(5)のようにPI制御の式によって演算し、この式(5)は双一次変換等によって離散化して得られた漸化式を用いて算出する。
【数5】

ここで「KαM」はモータ調整用ゲイン、「KPM」はモータ制御用比例ゲイン、「KIM」はモータ制御用積分ゲインである。
【0034】
(回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部)
回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27では、入力軸回転数目標値ωCL2i*、入力軸回転数目標値ωCL2i、第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*、第1クラッチ制御モードフラグfCL1を入力し、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_ON*を演算する。
【0035】
図5は回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27の制御ブロック図である。回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27は、フィードフォワード補償とフィードバック補償とからなる2自由度制御手法で設計しており、比例制御部43、位相補償部44、加減算部45を有する。
【0036】
<比例演算部>
比例制御部43は、入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差を入力し、第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*を演算する。第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*は次の式(6)を用いて算出する。
【数6】

ここで「KαCL2」は第2クラッチ調整用ゲイン、「KPCL2」は第2クラッチ制御用比例ゲインである。式(6)は、比例積分制御部41の式(5)と異なり積分項を有していない。また式(6)の制御ゲインの大きさは、比例積分制御部41の式(5)の制御ゲインの大きさのほうが大きくなるように設定している。また、第1クラッチ制御モードフラグfCL1が締結モード(fCL1==1)であるときには、第2クラッチ調整用ゲインKαCL2を第1クラッチ制御モードフラグfCL1が開放モード(fCL1==0)であるときに比べて大きな値に変更する。
【0037】
<位相補償部>
位相補償部44では、第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*を入力し、第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*を演算する。第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*は、例えば次の式(7)のように位相補償フィルタGFF(s)を用いて演算し、この式(7)は双一次変換等によって離散化して得られた漸化式を用いて算出する。
【数7】

ここで「τCL2」はクラッチモデル時定数、「τCL2_ref」はクラッチ制御用規範応答時定数である。
【0038】
<加減算部>
加減算部45は、第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*、第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*を入力し、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_ON*を演算する。回転数制御第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_ON*は、第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*から第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*を減算して算出する。
【0039】
(締結/開放時第2クラッチトルク容量目標値演算部)
締結/開放時第2クラッチトルク容量目標値演算部28は、駆動トルク目標値Td*、第2クラッチトルク容量指令値前回値TCL2_z1*を入力し、締結/開放時第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_OFF*を演算する。締結/開放時第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_OFF*は、第2クラッチ4が締結状態、開放状態もしくは締結状態からスリップ状態へ移行するときのトルク容量目標値であり、モータ1の回転数制御を行っていないときのトルク容量目標値である。
【0040】
締結/開放時第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_OFF*は、次の式(8)〜(11)を用いて算出する。
1) 第2クラッチが締結状態である場合
1-1) TCL2_z1 < Td* × Ksafeであるとき
【数8】

1-2) TCL2_z1 ≧ Td* × Ksafeであるとき
【数9】

2) 第2クラッチが開放状態である場合
【数10】

3) 第2クラッチが締結状態からスリップ状態へ移行する場合
【数11】

ここで、「Ksafe」は第2クラッチ安全率係数(Ksafe>0)、「ΔTCL2LU」は第2クラッチ4がスリップ状態または開放状態から締結状態への移行時のトルク容量変化率、「ΔTCL2slp」は第2クラッチ4が締結状態からスリップ状態への移行時のトルク容量変化率、「TCL2_z1*」は第2クラッチトルク容量指令値TCL2*の前回値である。
【0041】
(第2クラッチトルク容量指令値演算部)
第2クラッチトルク容量指令値演算部29では、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_ON*、締結/開放時第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_OFF*、第2クラッチ制御モードCL2MODEを入力し、第2クラッチトルク容量指令値TCL2*を演算する。
【0042】
第2クラッチトルク容量指令値TCL2*は、次の式(16),(17)を用いて演算する。
1)回転数制御中(CL2MODE==2)のとき
【数12】

2)回転数制御中でない(CL2MODE==1 or 3)のとき
【数13】

【0043】
ここで第2クラッチ制御モードCL2MODEは、第1クラッチ制御モードfCL1、車体速度Vsp、駆動トルク目標値Td*、第2クラッチ前回制御モードCL2MODE_z1、エンジン回転数ωE、入力軸回転数ωCL2i、第2クラッチ4のスリップ量ωCL2_slpに応じて設定する。図6は、第2クラッチ制御モードCL2MODEの設定の流れを示すフローチャートである。
ステップS21では、第1クラッチ制御モードfCL1が「fCL1==0」であるか否かを判断し、「fCL1==0」であるときにはステップS22へ、「fCL1==0」でないときにはステップS25へ移行する。
【0044】
ステップS22では、車体速度Vspが「Vsp==0」であるか否かを判断し、「Vsp==0」であるときにはステップS23へ、「Vsp==0」でないときにはステップS24へ移行する。
ステップS23では、第2クラッチ制御モードCL2MODEを締結モード(CL2MODE=1)として処理を終了する。
ステップS24では、第2クラッチ制御モードCL2MODEをスリップモード(CL2MODE=2)として処理を終了する。
【0045】
ステップS25では、車体速度Vspと車体速度しきい値Vth1との関係が「Vsp<Vth1」であるか否かを判断し、「Vsp<Vth1」であるときはステップS26へ、「Vsp<Vth1」でないときはステップS28へ移行する。この車体速度しきい値Vth1は、第2クラッチ4が締結状態であってもエンジン2を始動させることができる最低車体速度である。
ステップS26では、駆動トルク目標値Td*が「Td*<0」であるか否かを判断し、「Td*<0」であるときにはステップS27へ移行し、「Td*<0」でないときにはステップs24へ移行する。
【0046】
ステップS27では、第2クラッチ制御モードCL2MODEを開放モード(CL2MODE=0)として処理を終了する。
ステップS28では、第2クラッチ前回制御モードCL2MODE_z1が「CL2MODE_z1==1」であるか否かを判断し、「CL2MODE_z1==1」であるときにはステップS23へ移行し、「CL2MODE_z1==1」でないときにはステップS29へ移行する。
【0047】
ステップS29では、エンジン回転数ωEと入力軸回転数ωCL2iとの関係が「ωE≠ωCL2i」である、または第2クラッチ4のスリップ量ωCL2_slpとスリップ量しきい値ωCL2_slp_thとの関係が「ωCL2_slpCL2_slp_th」であるか否かを判断し、「ωE≠ωCL2i」である、または「ωCL2_slpCL2_slp_th」であるときにはステップs24へ移行し、「ωE≠ωCL2i」でなく、「ωCL2_slpCL2_slp_th」でもないときにはステップS23へ移行する。ここで、エンジン回転数ωEと入力軸回転数ωCL2iとの関係が「ωE≠ωCL2i」であるということは、第1クラッチ3は開放状態またはスリップ状態であることを示す。
【0048】
(第2クラッチ電流指令値演算部)
第2クラッチ電流指令値演算部30では、第2クラッチトルク容量指令値TCL2*を入力し、第2クラッチ電流指令値ICL2*を演算する。図7(a)はクラッチトルク容量に対するクラッチ油圧のマップ、図7(b)はクラッチ油圧に対するソレノイドバルブに供給される電流のマップである。第2クラッチ電流指令値ICL2*は、図7(a)を用いて第2クラッチトルク容量指令値TCL2*に応じたクラッチ油圧を算出し、図7(b)を用いて算出したクラッチ油圧に応じた電流の値を第2クラッチ電流指令値ICL2*として算出する。
【0049】
(第1クラッチトルク容量指令値演算部)
第1クラッチトルク容量指令値演算部31は、第1クラッチ制御モードfCL1、第2クラッチ4のスリップ量ωCL2_slp、スリップ量目標値ωCL2_slp*を入力し、第1クラッチトルク容量指令値TCL1*を演算する。第1クラッチトルク容量指令値TCL1*は、次の式(18),(19)によって算出される。
1)第1クラッチ3が締結モード(fCL1==1)であって、第2クラッチ4のスリップ量ωCL2_slpがスリップ量目標値ωCL2_slp*以上(ωCL2_slp≧ωCL2_slp*)である場合
【数14】

2)第1クラッチ3が締結モード(fCL1==1)であって、第2クラッチ4のスリップ量ωCL2_slpがスリップ量目標値ωCL2_slp*未満(ωCL2_slpCL2_slp*)である場合
【数15】

3)第1クラッチ3が開放モード(fCL1==0)である場合
【数16】

【0050】
(第1クラッチ電流指令値演算部)
第1クラッチ電流指令値演算部32では、第1クラッチトルク容量指令値TCL1*を入力し、第1クラッチ電流指令値ICL1*を演算する。第1クラッチ電流指令値ICL1*は、図7(a)を用いて第1クラッチトルク容量指令値TCL1*に応じたクラッチ油圧を算出し、図7(b)を用いて算出したクラッチ油圧に応じた電流の値を第1クラッチ電流指令値ICL1*として算出する。
【0051】
(モータトルク指令値演算部)
モータトルク指令値演算部33では、第2クラッチ制御モードCL2MODE、モータトルク基本目標値TM_base*、回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ONを入力し、モータトルク指令値TM*を演算する。
1)回転数制御中(CL2MODE==2)のとき
【数17】

2)回転数制御中でない(CL2MODE==1 or 3)のとき
【数18】

【0052】
[クラッチ・モータ制御処理]
次に統合コントローラ13において行われる第1クラッチ3、第2クラッチ4、モータ1の制御の処理について説明する。図8は、統合コントローラ13において行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【0053】
ステップS1では、各コントローラからデータを受信して、ステップS2へ移行する。具体的には、バッテリコントローラ18からバッテリ9の充電状態SOC情報を、モータコントローラ17からインバータ8の電流値情報を、エンジンコントローラ16からエンジン回転数ωE情報を、クラッチコントローラ15から入力軸回転数ωCL2i情報、出力軸回転数ωo情報、クラッチ油温TempCL2情報を、変速機コントローラ14から変速比情報を入力する。
【0054】
ステップS2では、アクセルセンサ10からアクセルペダル開度APO情報を入力して、ステップS3へ移行する。
ステップS3では、駆動トルク目標値Td*を演算して、ステップS4へ移行する。
ステップS4では、第1クラッチ制御モードfCL1を設定して、ステップS5へ移行する。
【0055】
ステップS5では、第2クラッチ制御モードCL2MODEを設定して、ステップS6へ移行する。
ステップS6では、駆動トルク目標値Td*を、モータトルク基本目標値TM_base*とエンジントルク基本目標値TE_base*に配分して、ステップS7へ移行する。
【0056】
ステップS7では、スリップ回転数制御を行うか否かを判断し、スリップ回転数制御を行う場合にはステップS8へ移行し、スリップ回転数制御を行わない場合にはステップS17へ移行する。ここで、第2クラッチ制御モードCL2MODEがスリップモード(CL2MODE=2)に設定され、スリップ量ωCL2_slpの絶対値がしきい値以上となった場合にはスリップ回転数制御を行うと判断する。一方、第2クラッチ制御モードCL2MODEが締結モード(CL2MODE=1)または開放モード(CL2MODE=0)に設定されたときは、スリップ回転数制御を行わないと判断する。
【0057】
ステップS8では、第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*を演算して、ステップS9へ移行する。
ステップS9では、入力軸回転数目標値ωCL2i*を演算して、ステップS10へ移行する。
【0058】
ステップS10では、回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*を演算して、ステップS11へ移行する。
ステップS11では、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_ON*を演算して、ステップS14へ移行する。
【0059】
ステップS12では、回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_ON*を演算するための内部状態変数を初期化して、ステップS13へ移行する。
ステップS13では、締結/開放時第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_OFF*を演算して、ステップS14へ移行する。
【0060】
ステップS14では、第2クラッチトルク容量指令値TCL2*を演算して、ステップS15へ移行する。
ステップS15では、第1クラッチトルク容量指令値TCL1*を演算して、ステップS16へ移行する。
【0061】
ステップS16では、第1クラッチ電流指令値ICL1*、第2クラッチ電流指令値ICL2*を演算してステップS17へ移行する。
ステップS17では、モータトルク指令値TM*を演算して、ステップS18へ移行する。
【0062】
ステップS18では、指令値を各コントローラに送信して処理を終了する。具体的には、第1クラッチ電流指令値ICL1*、第2クラッチ電流指令値ICL2*をクラッチコントローラ15へ、モータトルク指令値TM*をモータコントローラ17に送信する。
【0063】
[クラッチ・モータ制御動作]
スリップ回転数制御を行うときには、図8のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9→ステップS10→ステップS11→ステップS14→ステップS15→ステップS16→ステップS17→ステップS18→ENDと移行する。
【0064】
ステップS16において、ステップS11で演算した回転数制御第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_ON*に基づく第2クラッチ電流指令値ICL2*をクラッチコントローラ15に出力する。また、ステップS17において、ステップS10で演算した回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*をモータトルク指令値TM*としてモータコントローラ17に出力する。これにより、第2クラッチ4におけるスリップ量ωCL2_slpを保ちながらスリップ回転数制御を行う。
【0065】
一方、スリップ回転数制御を行わないときには、図8のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS12→ステップS13→ステップS14→ステップS15→ステップS16→ステップS17→ステップS18→ENDと移行する。
【0066】
ステップS16において、ステップS13で演算した締結/開放時第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_OFF*に基づく第2クラッチ電流指令値ICL2*をクラッチコントローラ15に出力する。また、ステップS17において、ステップS6で演算したモータトルク基本目標値TM_base*をモータトルク指令値TM*としてモータコントローラ17に出力する。
【0067】
[クラッチ・モータ制御作用]
第2クラッチ4を回転数制御するときには、入力軸回転数ωCL2iが入力軸回転数目標値ωCL2i*となるようにモータトルク目標値TM*を演算している。しかし、例えばエンジン始動時のようにモータ1への負荷が大きい場合にはモータトルクが飽和してしまい、入力軸回転数ωCL2iが低下することがある。そのため、第2クラッチ4のスリップを維持することができずに第2クラッチ4が完全締結(入力軸回転数と出力軸回転数とが一致)してしまい、締結時のショックやエンジン始動時の回転変動が駆動輪側に伝わってしまう。
【0068】
図9は、EV走行モードにおいて走行中にエンジン始動をしたときのシミュレーション結果である。このシミュレーションでは時間t1においてエンジン始動要求を出力し、時間t2において第1クラッチ3の締結を開始し、時間t3においてエンジン2が点火している。
【0069】
図9に示すように、時間t1におけるエンジン始動要求に応じて、入力軸回転数目標値ωCL2i*が増加し、入力軸回転数目標値ωCL2i*の増加に応じてモータトルクTMは増加する。その後、入力軸回転数ωCL2iが入力軸回転数目標値ωCL2i*に達すると、モータトルクTMは減少する。
【0070】
時間t2における第1クラッチ3の締結開始によりモータ1への負荷が大きくなり、入力軸回転数目標値ωCL2i*を維持するためにモータトルクTMが再び増加する。このときモータトルクTMは飽和して入力軸回転数ωCL2iを維持することができずに減少し、第2クラッチ4が急締結する。
【0071】
第2クラッチ4が締結してからエンジン2が点火する時間t3の間、締結時のショックやエンジン2の回転変動が駆動輪19側に伝達する。そのため、加速度の増減が激しくなり車両の乗員にもショックが伝達する。
【0072】
そこで実施例1では、入力軸回転数ωCL2iが入力軸回転数目標値ωCL2i*より小さいときには第2クラッチトルク容量目標値TCL2*を減少補正するようにした。具体的には、駆動トルク目標値Td*に応じて設定した第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*から入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差に応じて設定した第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*を減算して補正するようにした。
【0073】
図10は、EV走行モードにおいて走行中にエンジン始動をしたときのシミュレーション結果である。このシミュレーションでは入力軸回転数ωCL2iと入力軸回転数目標値ωCL2i*との偏差に応じて、第2クラッチトルク容量目標値TCL2*を補正している。また、時間t1においてエンジン始動要求を出力し、時間t2において第1クラッチ3の締結を開始し、時間t3においてエンジン2が点火している。
【0074】
図10に示すように、時間t1におけるエンジン始動要求に応じて、入力軸回転数目標値ωCL2i*が増加し、入力軸回転数目標値ωCL2i*の増加に応じてモータトルクTMは増加する。その後、入力軸回転数ωCL2iが入力軸回転数目標値ωCL2i*に達すると、モータトルクTMは減少する。
【0075】
時間t2における第1クラッチ3の締結開始によりモータ1への負荷が大きくなり、入力軸回転数目標値ωCL2i*を維持するためにモータトルクTMが再び増加する。このときトルクモータTMは飽和して入力軸回転数ωCL2iを維持することができないが、第2クラッチトルク容量TCL2を減少して入力軸回転数ωCL2iの減少を抑制する。
【0076】
よって、エンジン2が点火する時間t3までに第2クラッチ4の急締結を防止することができるため、加速度は一時的に低下するものの増減は激しくなく、車両の乗員へのショックの伝達も抑制することができる。
【0077】
また、入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差が無くなれば、第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*により第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*の補正が行われないようにすることが望ましい。
【0078】
そこで実施例1では、第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*の演算を行う比例制御部43は積分項を有しないようにした。そのため入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差が無くなれば第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*はゼロとなり、第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*の補正を行わないようにできる。
【0079】
また、第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*を第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*によって補正すると、第2クラッチトルク容量TCL2が低下するため加速度が低下してしまう。
【0080】
そこで実施例1では、回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*を演算する比例積分制御部41の制御ゲインの大きさを、第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*の演算を行う比例制御部43の制御ゲインの大きさよりも大きく設定している。そのため、入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差が生じてもモータトルクTMが飽和するまではモータトルクTMを増加して入力軸回転数を上昇させることができ、加速度の低下を抑制することができる。
【0081】
また、エンジン始動時にはモータトルクTMが飽和すること予想される。
そこで実施例1では、エンジン始動時には回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*を演算する比例積分制御部41の制御ゲインの大きさと、第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*の演算を行う比例制御部43の制御ゲインの大きさとの差をエンジン始動前に比べて小さくするようにした。
【0082】
具体的には、第1クラッチ制御モードフラグfCL1が締結モード(fCL1==1)であるときには、第2クラッチ調整用ゲインKαCL2を第1クラッチ制御モードフラグfCL1が開放モード(fCL1==0)であるときに比べて大きな値に変更するようにした。
【0083】
そのため、入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差が生じると第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*が早く増加し、第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*の補正を早めに行うことができる。
【0084】
[効果]
次に実施例1のハイブリッド車両の制御装置の効果について以下に列記する。
【0085】
(1)駆動源としてのモータ1とエンジン2と、モータ1とエンジン2との間の動力伝達経路に設けられた第1クラッチ3と、モータ1と駆動輪19との間の動力伝達経路に設けられた第2クラッチ4と、を備え、第2クラッチ4を接続すると共に第1クラッチ3を開放して、モータ1を駆動源として走行するモータ走行モードと、第1クラッチ3および第2クラッチ4を締結して、モータ1およびエンジン2を駆動源として走行するハイブリッド走行モードと、を選択的に切換可能なハイブリッド車両の制御装置において、モータ走行モードからハイブリッド走行モードへの移行時のエンジン始動時に、第2クラッチ4の駆動輪19側の回転軸である出力軸4oの駆動トルク目標値Td*を演算する駆動トルク目標値演算部21と、駆動トルク目標値Td*に応じて第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*を演算する第2クラッチトルク容量基本目標値演算部23と、第2クラッチ4のモータ1側の回転軸である入力軸4iの入力軸回転数ωCL2iを検出する入力軸回転数センサ6と、第2クラッチ4の出力軸4oの出力軸回転数ωoを検出する出力軸回転数センサ7と、出力軸回転数センサ7によって検出された出力軸回転数ωoに応じて、出力軸回転数ωoより大きな入力軸4iの入力軸回転数目標値ωCL2i*を演算する入力軸回転数目標値演算部25と、入力軸回転数ωCL2iが入力軸回転数目標値ωCL2i*と一致するようにモータ1の回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*を演算する回転数制御モータトルク目標値演算部26と、回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*に応じてモータ1を制御するモータコントローラ17と、入力軸回転数ωCL2iが入力軸回転数目標値ωCL2i*より小さいときには第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*を減少補正して回転数制御第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_ON*を演算する回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27と、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値TCL2_FB_ON*に応じて第2クラッチ4を制御するクラッチコントローラ15とを備えた。
【0086】
そのため、モータトルクTMが飽和しても、第2クラッチ4の急締結を防止することができるため、締結時のショックやエンジンのトルク変動の駆動輪19側への伝達を防止し、車両の乗員へのショックの伝達を抑制することができる。
【0087】
(2)回転数制御モータトルク目標値演算部26は、入力軸回転数ωCL2iと入力軸回転数目標値ωCL2i*との偏差に基づいて比例積分演算によって回転数制御モータトルク目標値TM_FB_ON*を演算し、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27は、入力軸回転数ωCL2iと入力軸回転数目標値ωCL2i*との偏差に基づいて比例演算によって算出した値を、第2クラッチトルク容量基本目標値演算部23によって算出された第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*から減算することにより第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*を補正するようにした。
すなわち、回転数制御モータトルク目標値演算部26の比例積分制御部41は積分項を有し、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27の比例制御部43は積分項を有しないようにした。
そのため、入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差が無くなれば第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*はゼロとなり、第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*の補正を行わないようにできる。
【0088】
(3)回転数制御モータトルク目標値演算部26の比例積分制御部41の制御ゲインを、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27の比例制御部43の制御ゲインよりも大きく設定した。
そのため、入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差が生じてもモータトルクTMが飽和するまではモータトルクTMを増加して入力軸回転数を上昇させることができ、加速度の低下を抑制することができる。
【0089】
(4)エンジン始動時には、回転数制御モータトルク目標値演算部26の比例積分制御部41の制御ゲインと回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27の比例制御部43の制御ゲインとの差をエンジン始動時前と比べて小さくした。
そのため、入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iとの偏差が生じると第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*が早く増加し、第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*の補正を早めに行うことができる。
【0090】
(5)エンジン始動時には、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27の比例制御部43の制御ゲインをエンジン始動時前と比べて大きくした。
そのため、回転数制御第2クラッチトルクTM_FB_ON*の入力軸回転数目標値ωCL2i*と入力軸回転数ωCL2iと偏差の変化に対する速度は維持しつつ、第2クラッチトルク容量F/B指令値TCL2_FB*による第2クラッチトルク容量F/F指令値TCL2_FF*の補正を速く行うことができる。
【0091】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0092】
例えば実施例1では、第1クラッチ制御モードフラグfCL1が締結モード(fCL1==1)であるときには、第2クラッチ調整用ゲインKαCL2を第1クラッチ制御モードフラグfCL1が開放モード(fCL1==0)であるときに比べて大きな値に変更している。これを第1クラッチ制御モードフラグfCL1が締結モード(fCL1==1)であるときには、モータ調整用ゲインKαMを第1クラッチ制御モードフラグfCL1が開放モード(fCL1==0)であるときに比べて小さな値に変更するようにしても良い。
【0093】
なお実施例1において、第2クラッチ4は本発明の発進クラッチに、出力軸4oは本発明の発進クラッチ出力軸に、駆動トルク目標値演算部21は本発明の駆動トルク目標値演算手段に、第2クラッチトルク容量基本目標値TCL2_base*は本発明のトルク容量目標値に、第2クラッチトルク容量基本目標値演算部23はトルク容量目標値演算手段に、入力軸4iは本発明の発進クラッチ入力軸に、入力軸回転数センサ6は本発明の入力軸回転数検出手段に、出力軸回転数センサ7は本発明の出力軸回転数検出手段に、入力軸回転数目標値演算部25は本発明の入力軸回転数目標値演算手段に、回転数制御モータトルク目標値演算部26は本発明のモータトルク目標値演算手段に、回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部27は本発明のトルク容量目標値補正手段に、クラッチコントローラ15は本発明の発進クラッチ制御手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施例1のハイブリッド車両の駆動系と制御系の構成を示す図である。
【図2】実施例1の統合コントローラの制御ブロック図である。
【図3】実施例1の駆動トルク目標値のマップである。
【図4】実施例1のスリップ量目標値のマップである。
【図5】実施例1の回転数制御モータトルク目標値演算部と回転数制御第2クラッチトルク容量目標値演算部の制御ブロック図である。
【図6】実施例1の第2クラッチ制御モードの設定の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施例1のクラッチ電流指令値のマップである。
【図8】実施例1の統合コントローラにおいて行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】比較例の第2クラッチのトルク容量等の示すグラフである。
【図10】実施例1の第2クラッチのトルク容量等の示すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
1 モータ
2 エンジン
3 第1クラッチ
4 第2クラッチ
4i 入力軸(第2クラッチ入力軸)
4o 出力軸(第2クラッチ出力軸)
6 入力軸回転数センサ(入力軸回転数検出手段)
7 出力軸回転数センサ(出力軸回転数検出手段)
13 統合コントローラ
15 クラッチコントローラ(第2クラッチ制御手段)
21 駆動トルク目標値演算部(駆動トルク目標値演算手段)
23 第2クラッチトルク容量基本目標値演算部(トルク容量目標値演算手段)
25 入力軸回転数目標値演算部(入力軸回転数目標値演算手段)
26 回転数制御モータトルク目標値演算部(モータトルク目標値演算手段)
27 回転制御第2クラッチトルク容量目標値演算部(トルク容量目標値補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としてのモータとエンジンと、
該モータとエンジンとの間の動力伝達経路に設けられた第1クラッチと、
前記モータと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた第2クラッチと、
を備え、
前記第2クラッチを接続すると共に前記第1クラッチを開放して、前記モータを駆動源として走行するモータ走行モードと、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチを締結して、前記モータおよび前記エンジンを駆動源として走行するハイブリッド走行モードと、を選択的に切換可能なハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータ走行モードから前記ハイブリッド走行モードへの移行時のエンジン始動時に、
前記第2クラッチの駆動輪側の回転軸である第2クラッチ出力軸の駆動トルク目標値を演算する駆動トルク目標値演算手段と、
前記駆動トルク目標値に応じて前記第2クラッチのトルク容量目標値を演算するトルク容量演算手段と、
前記第2クラッチの前記モータ側の回転軸である第2クラッチ入力軸の入力軸回転数を検出する入力軸回転数検出手段と、
前記第2クラッチ出力軸の出力軸回転数を検出する出力軸回転数検出手段と、
前記出力軸回転数検出手段によって検出された前記出力軸回転数に応じて、当該出力軸回転数より大きな前記第2クラッチ入力軸の入力軸回転数目標値を演算する入力軸回転数目標値演算手段と、
前記入力軸回転数が前記入力軸回転数目標値と一致するように前記モータのモータトルク目標値を演算するモータトルク目標値演算手段と、
前記モータトルク目標値に応じて前記モータを制御するモータ制御手段と、
前記入力軸回転数が前記入力軸回転数目標値より小さいときには、前記トルク容量目標値を減少補正するトルク容量目標値補正手段と、
補正した前記トルク容量目標値に応じて前記第2クラッチを制御する第2クラッチ制御手段と、
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータトルク目標値演算手段は、前記入力軸回転数と前記入力軸回転数目標値との偏差に基づいて比例積分演算によって前記モータトルク目標値を演算し、
前記トルク容量目標値補正手段は、前記入力軸回転数と前記入力軸回転数目標値との偏差に基づいて比例演算によって算出した値を、前記トルク容量演算手段によって算出された前記トルク容量目標値から減算することにより前記トルク容量目標値を補正することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータトルク目標値演算手段の制御ゲインを、前記トルク容量目標値補正手段の制御ゲインよりも大きく設定したことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
エンジン始動時には、前記モータトルク目標値演算手段の制御ゲインと前記トルク容量目標値補正手段の制御ゲインとの差をエンジン始動時前と比べて小さくすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載にハイブリッド車両の制御装置において、
エンジン始動時には、前記トルク容量目標値補正手段の制御ゲインをエンジン始動時前と比べて大きくすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−70138(P2010−70138A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242129(P2008−242129)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】