説明

ハイブリッド車両用動力装置

【課題】気筒休止時のエネルギー損失を最小限に抑えながら、ワンウェイクラッチの個数削減およびシリーズ走行を可能にしたハイブリッド車両用動力装置を提供する。
【解決手段】第1エンジン11Aの第1クランクシャフト12Aを遊星歯車機構14のサンギヤ15および第2モータ・ジェネレータ13に接続し、第2エンジン11Bの第2クランクシャフト12Bをワンウェイクラッチ22で固定部21に結合可能な遊星歯車機構14のリングギヤ17に接続し、遊星歯車機構14のプラネタリキャリヤ16を駆動力伝達クラッチ23および第1モータ・ジェネレータ24を介してトランスミッション25に接続する。ワンウェイクラッチ22の数が1個で済み、気筒休止した第2エンジン11Bの引きずりによるエネルギー損失がなく、エンジン11Aで第2モータ・ジェネレータ13を駆動して発電した電力で第1モータ・ジェネレータ24を駆動する走行が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2個のエンジンと2個のモータ・ジェネレータとを備えたハイブリッド車両用動力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二つのバンクがクランクシャフトを共有するV型エンジンにおいて、一方のバンクを気筒休止制御した場合、休止したバンクのピストンが他方のバンクの駆動力で駆動されるため、ピストンおよびシリンダ間のフリクションロスやポンピングロスが発生して燃費を低下させる原因となる問題がある。
【0003】
そこで、図9に示すように、第1クランクシャフト14aを駆動する第1バンクBaと第2クランクシャフト14bを駆動する第2バンクンBbとを並置し、第1クランクシャフト14aに第1ワンウェイクラッチなどの動力伝達遮断手段34aを介して支持した駆動ギヤ33aと第2クランクシャフト14bに第2ワンウェイクラッチなどの動力伝達遮断手段34bを介して支持した駆動ギヤ33bとを、出力軸31に設けた従動ギヤ32に噛合させ、出力軸31とトランスミッションTとの間にモータ・ジェネレータGMを配置したハイブリッド車両用動力装置が、下記特許文献1により公知である。
【0004】
このハイブリッド車両用動力装置によれば、例えば第1バンクBaを気筒休止制御した場合に、第2バンクBbの駆動力が第1ワンウェイクラッチ34aで遮断されて第1バンクBaに伝達されないため、第1バンクBaにフリクションロスやポンピングロスが発生するのを回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−83105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のものは、2個のワンウェイクラッチ34a,34bを必要とするために部品点数が増加するだけでなく、第1、第2バンクBa,Bbの駆動力で発電してモータ・ジェネレータGMで走行するシリーズ走行ができないという問題があった。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、気筒休止時のエネルギー損失を最小限に抑えながら、ワンウェイクラッチの個数削減およびシリーズ走行を可能にしたハイブリッド車両用動力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、第1クランクシャフトを有する第1エンジンと、第2クランクシャフトを有する第2エンジンと、前記第1、第2クランクシャフトの駆動力を統合して出力可能な遊星歯車機構と、前記遊星歯車機構が出力する駆動力をトランスミッションに伝達する駆動力伝達クラッチと、前記駆動力伝達クラッチおよび前記トランスミッション間に接続された第1モータ・ジェネレータと、前記第1クランクシャフトに接続された第2モータ・ジェネレータとを備え、前記遊星歯車機構の第1〜第3要素のうち、第1要素は前記第1クランクシャフトに接続され、第2要素は前記駆動力伝達クラッチに接続され、第3要素は前記第2クランクシャフトに接続されるとともにワンウェイクラッチを介して固定部に結合可能であることを特徴とするハイブリッド車両用動力装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第2エンジンは、吸気バルブおよび排気バルブを閉じた状態で気筒休止運転が可能であることを特徴とするハイブリッド車両用動力装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態のサンギヤ15は本発明の第1要素に対応し、実施の形態のプラネタリキャリヤ16は本発明の第2要素に対応し、実施の形態のリングギヤ17は本発明の第3要素に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、第1エンジンの第1クランクシャフトを遊星歯車機構の第1要素および第2モータ・ジェネレータに接続し、第2エンジンの第2クランクシャフトをワンウェイクラッチで固定部に結合可能な遊星歯車機構の第2要素に接続し、遊星歯車機構の第3要素を駆動力伝達クラッチおよび第1モータ・ジェネレータを介してトランスミッションに伝達したので、第1、第2モータ・ジェネレータによる第1、第2エンジンの始動、第1、第2エンジンによる走行、第1モータ・ジェネレータによる第1、第2エンジンのアシストおよび回生制動、第2モータ・ジェネレータによる発電が可能になり、ハイブリッド車両の特性を活かした種々のモードでの走行が可能になる。
【0012】
その際に、必要なワンウェイクラッチの数が1個で済むので部品点数の削減が可能になるだけでなく、第1エンジンで第2モータ・ジェネレータを駆動して発電した電力で第1モータ・ジェネレータを駆動するシリーズ走行が可能になり、しかも第2エンジンの第2クランクシャフトは気筒休止運転中に回転しないため、フリクションロスが発生することがない。また第2モータ・ジェネレータは第1エンジンの第1クランクシャフトに直接接続されているので、第1エンジンの駆動力で第2モータ・ジェネレータに任意の量の発電を行わせ、第1エンジンの残りの駆動力を全て走行用の駆動力として使用することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、第2エンジンの第2クランクシャフトは気筒休止運転中に回転しないため、吸気バルブおよび排気バルブを閉じた状態で気筒休止運転してもポンピングロスが発生することがない。よって気筒休止運転中に吸気バルブおよび排気バルブを閉弁状態に維持してポンピングロスを低減する特別の動弁機構が不要になり、コストダウンに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ハイブリッド車両用動力装置のスケルトン図。(実施の形態)
【図2】ハイブリッド車両用動力装置の作動表。(実施の形態)
【図3】エンジン始動モードの速度線図。(実施の形態)
【図4】モータ走行・シリーズ走行モードの速度線図。(実施の形態)
【図5】エンジン走行モード1の速度線図。(実施の形態)
【図6】エンジン走行モード2の速度線図。(実施の形態)
【図7】全開走行モードの速度線図。(実施の形態)
【図8】回生制動モードの速度線図。(実施の形態)
【図9】特許文献1のハイブリッド車両用動力装置のスケルトン図。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図8に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1に示すように、ハイブリッド車両用動力装置は、各々が直列多気筒エンジンよりなる第1、第2エンジン11A,11Bを備える。メインエンジンである第1エンジン11Aの第1クランクシャフト12Aと、サブエンジンである第2エンジン11Bの第2クランクシャフト12Bとは平行に配置されており、第1クランクシャフト12Aの軸端に第2モータ・ジェネレータ13が接続される。
【0017】
第1、第2エンジン11A,11Bの駆動力を統合して出力可能な遊星歯車機構14は、サンギヤ15と、プラネタリキャリヤ16と、リングギヤ17と、プラネタリキャリヤ16に回転自在に支持されてサンギヤ15およびリングギヤ17に同時に噛合する複数のピニオン18…とを備えており、第1クランクシャフト12Aは駆動ギヤ26、従動ギヤ27および入力軸28を介してサンギヤ15に接続される。リングギヤ17には従動ギヤ19が一体に形成されており、第2クランクシャフト12Bに設けた駆動ギヤ20が従動ギヤ19に噛合する。
【0018】
第2クランクシャフト12Bとケーシング等の固定部21との間にはワンウェイクラッチ22が設けられており、このワンウェイクラッチ22は、遊星歯車機構14側から第2エンジン11B側に駆動力が伝達されるときに係合して第2クランクシャフト12Bを固定部21に回転不能に結合し、第2エンジン11B側から遊星歯車機構14側に駆動力が伝達されるときに係合解除して第2クランクシャフト12Bの回転を許容する。
【0019】
遊星歯車機構14のプラネタリキャリヤ16は、直列に配置された駆動力伝達クラッチ23および第1モータ・ジェネレータ24を介してトランスミッション25に接続される。
【0020】
次に、図2の作動表および図3〜図8の遊星歯車機構14の速度線図に基づいて、本実施の形態の作用を説明する。
【0021】
図2および図3に示すように、車両の停車中はアイドルストップ制御により第1エンジン11Aが停止するため、遊星歯車機構14のサンギヤ15(「S」で表示)、プラネタリキャリヤ16(「C」で表示)およびリングギヤ17(「R」で表示)は全て停止している。「エンジン始動モード」では、第2モータ・ジェネレータ13をスタータモータとして駆動することで第1エンジン11Aを始動する。このとき第1クランクシャフト12Aに駆動ギヤ26、従動ギヤ27および入力軸28を介して接続されたサンギヤ15が回転するが、リングギヤ17が第2クランクシャフト12Bに設けたワンウェイクラッチ22の係合により回転不能に拘束されるため、プラネタリキャリヤ16はサンギヤ15よりも低い速度で回転する。しかしながら、駆動力伝達クラッチ23が係合解除しているため、第2モータ・ジェネレータ13の駆動力が第1モータ・ジェネレータ24およびトランスミッション25に伝達されることはない。またバッテリの容量が低い場合には、始動後の第1エンジン11Aで第2モータ・ジェネレータ13をジェネレータとして駆動してバッテリを充電する。
【0022】
図2および図4に示すように、「モータ走行モード」では、駆動力伝達クラッチ23を係合解除した状態で、第1モータ・ジェネレータ24を駆動して走行する。モータ走行モードでバッテリの容量が低下した場合には、「シリーズ走行モード」に移行し、第1エンジン11Aで第2モータ・ジェネレータ13を駆動して発電し、その電力でバッテリを充電しながら第1モータ・ジェネレータ24を駆動する。第1エンジン11Aが駆動されるシリーズ走行モードではワンウェイクラッチ22が係合するため、遊星歯車機構14のリングギヤ17および第2エンジン11Bの第2クランクシャフト12Bは回転を停止する。
【0023】
図2および図5に示すように、「エンジン走行モード1」では、駆動力伝達クラッチ23を係合した状態で、第1エンジン11Aを駆動して走行する。このとき、第1モータ・ジェネレータ24を駆動することで第1エンジン11Aをアシストすることができる。また第1エンジン11Aの駆動力で第2モータ・ジェネレータ13をジェネレータとして駆動し、内燃機関で走行する車両のオルタネータ程度の微弱発電を行うことができる。
【0024】
図2および図6に示すように、「エンジン走行モード2」では、上述した「エンジン走行モード1」の状態から更に第2エンジン11Bを駆動する。第2エンジン11Bを駆動すると、ワンウェイクラッチ22が係合解除して第2クランクシャフト12Bに駆動ギヤ20および従動ギヤ19を介して接続された遊星歯車機構14のリングギヤ17が駆動されるため、第1、第2エンジン11A,11Bの駆動力は遊星歯車機構14で統合されてトランスミッション25に出力される。また同じ車速で走行する場合に第1エンジン11Aの回転数を下げられるため、第1エンジン11Aを効率の良い状態で運転して燃料消費率を低減することができる。尚、第2エンジン11Bの始動は、第1モータ・ジェネレータ24に接続されたプラネタリキャリヤ16の回転数と、第2モータ・ジェネレータ13に接続されたサンギヤ15の回転数とを制御し、リングギヤ17を始動に適切な回転数で駆動して第2クランクシャフト12Bをクランキングすることで行われる。
【0025】
図2および図7に示すように、「全開走行モード」では、上述した「エンジン走行モード2」の状態から第1、第2エンジン11A,11Bおよび第1モータ・ジェネレータ24を全開運転する。
【0026】
図2および図8に示すように、「回生制動モード」では、駆動力伝達クラッチ23を係合解除した状態で、トランスミッション25側から逆伝達される駆動力で第1モータ・ジェネレータ24をジェネレータとして駆動して発電を行い、回収したエネルギーでバッテリを充電する。
【0027】
以上のように、本実施の形態によれば、ハイブリッド車両として要求される種々のモードでの走行を可能にすることができる。特に、図9で説明した従来例が、2個のワンウェイクラッチ03A,03Bを必要とするのに対し、本実施の形態によればワンウェイクラッチ22の数を1個に減らすことができるだけでなく、前記従来例がシリーズ走行が不能であるのに対し、本実施の形態によればシリーズ走行を可能にすることができる(図4参照)。
【0028】
第2エンジン11BはイグニッションスイッチのON後は基本的に気筒休止の状態でスタンバイしており、上述したエンジン走行2モードおよび全開走行モードにおいて運転される。第2エンジン11Bが気筒休止状態にあるとき、遊星歯車機構14側から第2エンジン11B側に駆動力が伝達されようとしても、ワンウェイクラッチ22が係合して第2エンジン11Bの第2クランクシャフト12Bの回転が阻止されるため、気筒休止中の第2エンジン11Bの第2クランクシャフト12Bが回転してフリクションロスやポンピングロスを発生することが防止される。よって第2エンジン11Bは、ポンピングロスを低減するために吸気バルブおよび排気バルブを閉弁状態に保持する特別の動弁機構が不要になり、コストダウンに寄与することができる。
【0029】
また第2モータ・ジェネレータ13は第1エンジン11Aの第1クランクシャフト12Aに直接接続されているので、第1エンジン11Aの駆動力で第2モータ・ジェネレータ13に任意の量の発電を行わせ、第1エンジン11Aの残りの駆動力を全て走行用の駆動力として使用することができる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0031】
例えば、実施の形態では遊星歯車機構14の三つの要素のうち、サンギヤ15を第1要素とし、プラネタリキャリヤ16を第2要素とし、リングギヤ17を第3要素としているが、それらの組合せは任意である。
【0032】
また第1、第2エンジン11A,11Bは各々独立したエンジンブロックを備えている必要はなく、エンジンブロックを共有するものであっても良い。
【0033】
また実施の形態では第2クランクシャフト12Bにワンウェイクラッチ22を設けているが、リングギヤ17に直接ワンウェイクラッチ22を設けても良い。要するに、ワンウェイクラッチ22はリングギヤ17の一方向の回転を拘束し得るように設けられていれば良い。
【符号の説明】
【0034】
11A 第1エンジン
11B 第2エンジン
12A 第1クランクシャフト
12B 第2クランクシャフト
13 第2モータ・ジェネレータ
14 遊星歯車機構
15 サンギヤ(第1要素)
16 プラネタリキャリヤ(第2要素)
17 リングギヤ(第3要素)
21 固定部
23 駆動力伝達クラッチ
24 第1モータ・ジェネレータ
25 トランスミッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1クランクシャフト(12A)を有する第1エンジン(11A)と、
第2クランクシャフト(12B)を有する第2エンジン(11B)と、
前記第1、第2クランクシャフト(12A,12B)の駆動力を統合して出力可能な遊星歯車機構(14)と、
前記遊星歯車機構(14)が出力する駆動力をトランスミッション(25)に伝達する駆動力伝達クラッチ(23)と、
前記駆動力伝達クラッチ(23)および前記トランスミッション(25)間に接続された第1モータ・ジェネレータ(24)と、
前記第1クランクシャフト(12A)に接続された第2モータ・ジェネレータ(13)とを備え、
前記遊星歯車機構(14)の第1〜第3要素のうち、第1要素(15)は前記第1クランクシャフト(12A)に接続され、第2要素(16)は前記駆動力伝達クラッチ(23)に接続され、第3要素(17)は前記第2クランクシャフト(12B)に接続されるとともにワンウェイクラッチ(22)を介して固定部(21)に結合可能であることを特徴とするハイブリッド車両用動力装置。
【請求項2】
前記第2エンジン(11B)は、吸気バルブおよび排気バルブを閉じた状態で気筒休止運転が可能であることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド車両用動力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−173518(P2011−173518A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39239(P2010−39239)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】