説明

ハイブリッド車両

【課題】 ツインクラッチのクラッチ下流側に電動機を設置しても全長や全幅を拡大させず、重量とコストを抑制できる変速機を備えたハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】 変速機は、エンジンからの動力を伝達する変速機入力軸25と、被駆動部を駆動する動力を出力する変速機出力軸26,27と、ツインクラッチユニット20の第1クラッチCL1を介して変速機入力軸25と接続可能な第1入力軸21と、第2クラッチCL1を介して変速機入力軸25と接続可能な第2入力軸22と、第1入力軸21及び第2入力軸22を変速機出力軸26,27と接続するように切り替え可能に構成されたギヤ列G1〜GRと、電動機3の出力軸と変速機入力軸25との間で動力伝達を可能にする第1動作状態と動力伝達を遮断する第2動作状態とに選択的に切り替え可能な接続装置SM1とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツイン(又はデュアル)クラッチ式の変速機(DCT)を搭載し、動力源として原動機(エンジン)と電動機を併用するハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ツインクラッチ式の変速機に電動機を組み合せたハイブリッド車両において、電動機をDCTのクラッチ下流側に設けた機構が提案されている。この機構は、ツインクラッチが非係合の状態においても、電動機で駆動及び回生可能であるため、クラッチ制御による損失を削減することができる。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているように、2つの入力軸と1つの出力軸とを有し、入力軸と出力軸との間に多数の歯車組を有し、該歯車組が一方の軸に回動不能に結合可能なルーズ歯車と、これと噛合う軸に配置され、該軸と回動不能に配置された固定歯車とを備えたダブルクラッチ伝動装置が知られている。
【0004】
また、特許文献2には、デュアルクラッチ式変速機を搭載したハイブリッド車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−089594号公報
【特許文献2】特開2005−329813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来技術では、次のような不都合があった。
【0007】
車両停止状態からエンジン始動を行う際に、ツインクラッチの一方を係合させてエンジンと電動機を接続するため、ツインクラッチのアクチュエータを停止状態から動作可能なもの(例えば、電動オイルポンプ)にする必要があり、コストやウェイトが増加する。
【0008】
また、変速機の前後又は脇に電動機を配置するため、変速機の全長又は全幅が大きくなり、エンジンルーム従って車体そのものの寸法や重量が増大して、製造コストと燃費を上昇させてしまう。
【0009】
電動機を変速機の後方に置く場合には、電動機の外径が大きいためにドライブシャフトの振れ角度を充分にとることができない。そこで電動機の外径を小さくすると、今度は全長が長くなってエンジンルーム内に納まりきらない。従って、横置きFF車両では、このような変速機構を配置することはスペースの点で困難であった。
【0010】
また、電動機の内側にツインクラッチを内蔵した場合も、ロータ径及び変速機の全長が大きくなってしまうため、エンジンルーム内に収まらず、車体の全幅を拡大する必要が生じる。
【0011】
更に、電動機でエンジンを始動するときはクラッチを締結する必要があるため、エンジン始動前からクラッチを作動できるように、クラッチ動作源としてアクチュエータ(例えば、電動オイルポンプなど)を別途備えることが必要となるので、コストと重量が増加する。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、ツインクラッチのクラッチ下流側に電動機を設置しても全長や全幅を拡大させず、かつツインクラッチを停止状態から作動可能にする手段を追加する必要がない変速機を備えたハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、変速機を介して被駆動部を駆動する動力源としてエンジン及び電動機を備えるハイブリッド車両において、前記変速機は、前記エンジンからの動力を伝達する変速機入力軸、及び前記被駆動部を駆動する動力を出力する変速機出力軸と、前記変速機入力軸と同軸状に設けられた第1クラッチ及び第2クラッチを有するツインクラッチユニットと、前記第1クラッチを介して前記変速機入力軸と接続可能な第1入力軸、及び前記第2クラッチを介して前記変速機入力軸と接続可能な第2入力軸と、前記第1入力軸及び前記第2入力軸を前記変速機出力軸とそれぞれ接続するように切り替え可能に構成されたギヤ列と、前記電動機の出力軸と前記変速機入力軸との間で動力伝達を可能にする第1動作状態と動力伝達を遮断する第2動作状態とに選択的に切り替え可能な接続装置とを備え、前記第1入力軸及び前記第2入力軸は、前記エンジンと前記ツインクラッチユニットとの間で同軸状に配置され、前記電動機により、前記接続装置及び前記ツインクラッチユニットを介して駆動されることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、2つのクラッチをエンジンから離して変速機を挟むように配置することで、電動機の配置場所を確保すると共に、変速機の全幅を短くすることができる。
【0015】
また、ツインクラッチユニットの2つのクラッチに接続する変速機入力軸に対して接続装置を介して断続する出力軸を有する電動機を配置することで、変速機の接続状態に拘らず電動機をエンジンに接続可能であり、エンジン始動時には電動機をスタータとして利用できる。
【0016】
また、電動機は、ツインクラッチとは別にエンジンと接続可能であるので、ツインクラッチを係合しなくともエンジンを始動できる。従って、従来の技術のように、停止状態からでもツインクラッチを係合可能とするためのデバイスを別途設ける必要が無く、コスト及び重量の点でも有利である。
【0017】
本発明の実施態様では、前記電動機は前記エンジンと前記変速機との間に配置され、前記接続装置は該電動機の内部に配置されている。これにより、電動機を配置するためにエンジンルームのサイズを拡大する必要がなく、幅広い車種に搭載することが可能である。
【0018】
前記変速機は、冷間始動時又はバッテリ電圧が所定値以下の場合には前記接続装置を介して前記電動機を前記変速機入力軸と接続することにより、該電動機にて前記エンジンを始動する。
【0019】
この態様によれば、変速段に関わらず電動機をエンジンに接続可能であり、電動機をエンジン起動のスタータとして利用できる。
【0020】
前記電動機の出力軸と前記第1入力軸又は前記第2入力軸との間で動力伝達を可能にする第1動作状態と当該動力伝達を遮断する第2動作状態とに選択的に切り替え可能な第2接続装置を備える。
【0021】
この態様によれば、電動機の出力軸を第2接続装置によってツインクラッチの入力軸に接続するので、エンジンと接続することなく電動機によるEV走行が可能となる。
【0022】
停車時又は停車直前の車両の状態により、前記接続装置又は前記第2接続装置が前記第1動作状態に設定される。
【0023】
この態様では、前記電動機の電源及び前記エンジンの状態により前記電動機によるEV発進が可能である場合には、前記第2接続装置が前記第1動作状態に設定される。
【0024】
また、停車中に前記EV発進が可能である場合には、前記変速機は、前記ギヤ列の切り替えによって奇数又は偶数段の段速を予め設定し、停車解除時に前記電動機の駆動力でEV走行を開始し、車体速度が所定値以上になったとき前記電動機のトルクを増加させると共に電動機で駆動していない側のギヤ列に接続してある前記クラッチを係合して前記電動機の駆動によって前記エンジンを起動する。
【0025】
この態様によれば、EV発進時には、前記電動機から前記第2接続装置を介して直接、第1入力軸又は第2入力軸に動力が伝達されるので、ギヤ列を介して出力軸に動力が伝達されることとなる。これにより、車両は即座に発進することができる。
【0026】
次に、前記車両の速度が所定値以上になり、エンジン駆動力が必要であると判断したときは、前記電動機で駆動していない側のギヤ列の変速比を、他方のギヤ列の変速比よりも高いものに選択してから前記クラッチを係合する。
【0027】
この態様によれば、前記電動機からみると前記エンジンを減速して起動することになるので、エンジン起動に必要な電動機トルクを小さくすることができる。すなわち、前記電動機の駆動によるEV走行中に、比較的小さな電動機トルクの追加でエンジンを始動することができるので、EV走行可能な電動機トルク領域が拡大され、燃費が向上する。
【0028】
更に、前記エンジンの起動時に前記エンジン回転数が所定回転数まで上昇した場合には前記エンジンの始動により変速比を一定にしたままで走行し、車体速度が所定値未満であるときは、前記エンジン回転数を前記電動機回転数まで上昇させてから前記エンジンを始動し、前記ギヤ列の切り替えにより任意の段速に変速して走行する。
【0029】
本発明の実施態様において、停車中に後進段が選択された場合には、前記変速機は前記ギヤ列の切り替えによって後進段を予め設定し、発進時には前記第1接続装置を前記第1動作状態に設定した上で、前記電動機の駆動により前記エンジンを始動させ、前記エンジン駆動により後進する。このため、車両は即座にリバース発進することができる。
【0030】
前記電動機によるEV走行が選択された場合には、前記変速機は前記ギヤ列の切り替えによって所定の変速段を設定し、前記第2接続装置を第1動作状態に設定することによりその変速段で前記電動機によるEV走行を可能とする。
【0031】
減速走行時には前記エンジンを停止状態にして、前記変速機の前記ギヤ列の切り替えによって所定の変速段を設定し、前記電動機にて電力回生する。
【0032】
この態様によれば、エンジンを停止したまま電動機にて回生電力をとりきることができるので、燃費が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の動力装置の全体構成を示す図。
【図2】第1実施形態のエンジン始動時の接続状態を示す図。
【図3】第1実施形態のリバース発進(後進)時の接続状態を示す図。
【図4】第1実施形態のEV発進・走行時の動作状態を示す図。
【図5】第1実施形態の高速走行時の動作状態を示す図。
【図6】第1実施形態の減速走行時の動作状態を示す図。
【図7】第1実施形態の減速走行から再加速時の動作状態を示す図。
【図8】第1実施形態のEV走行からエンジン走行への切替わりの動作状態を示す図。
【図9】第1実施形態の変形例の全体構成を示す図。
【図10】図9の実施形態による動作状態を示す図。
【図11】本発明の第2実施形態の動力装置の全体構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態のハイブリッド車両に搭載された動力装置を示す。この動力装置は、変速機1と原動機としてのエンジン2と電動機3とを備え、エンジン2又は電動機3の動力を、変速機1を介して一対の駆動輪4,4に伝達し、被駆動部としての駆動輪4,4を駆動し得るように構成されている。
【0035】
本実施形態では、エンジン2は、ガソリン、軽油、アルコールなどの燃料を燃焼させることにより動力(トルク)を発生する内燃機関であり、発生した動力を外部に出力するための出力軸(クランク軸)2aを有する。このエンジン2は、通常の自動車のエンジンと同様に、図示しない吸気路に備えたスロットル弁の開度を制御する(つまり、エンジン2の吸入空気量を制御する)ことによって、エンジン2が出力軸2aを介して出力する動力が調整される。エンジン出力軸2aにはフライホイール5が設けられると共に、この出力軸2aと連動して回転する変速機入力軸25が設けられている。
【0036】
電動機3は、本実施形態では3相のDCブラシレスモータであり、そのハウジング6内に回転自在に支承されたロータ(回転体)7と、該ロータ7の周囲でハウジング6に固定されたステータ8と、ロータ7に発生する動力(トルク)を外部に伝達するための出力軸3aとを有する。ロータ7には、複数の永久磁石が装着され、ステータ8には、3相分のコイル(電機子巻線)8aが装着されている。なお、電動機3のハウジング6は、動力装置の外装ケース等、車体に対して静止した不動部に固設されている。
【0037】
電動機出力軸3aは、ロータ7と一体に回転するようにロータ7と同軸心に固定され、第1接続装置(SM1)を介して変速機入力軸25と接続可能に構成されている。また、電動機出力軸3aは、第2接続装置(SM2)を介して、後述の第1入力軸21又は第2入力軸22と接続可能に構成されている。
【0038】
第1接続装置(SM1)は、エンジン2の出力軸2a及び電動機3の出力軸3aと同軸心になるようにして、電動機3のロータ7の内側に配置された(第1)同期噛合(シンクロメッシュ)機構から成り、第2接続装置(SM2)も、同様にエンジン2の出力軸2a及び電動機3の出力軸3aと同軸状になるようにして、電動機3の外側に配置された(第2)同期噛合機構から成る。
【0039】
電動機3のコイル8aは、図示しないインバータ回路を含む駆動回路であるパワー・ドライブ・ユニット(PDU)を介して直流電源としてのバッテリ(二次電池)に電気的に接続されている。また、PDUは、電動機3を含めて動力装置の動作制御を行う電子制御ユニット(ECU)に電気的に接続されている。そして、このECUにより、PDUを介してコイル8aに流れる電流を制御することによって、電動機3がロータ7から出力軸3aを介して出力する動力(トルク)が調整されるようになっている。この場合、PDUを制御することによって、電動機3は、バッテリから供給される電気エネルギーによってロータ7に力行トルクを発生する力行運転と、外部から電動機出力軸3aを介してロータ7に与えられる機械エネルギー(回転エネルギー)によって発電し、その発電エネルギーをバッテリに充電しつつ、ロータ7に回生トルク(発電制動トルク)を発生する回生運転とを行うことが可能である。
【0040】
上記ECUは、CPU、RAM、ROM、インタフェース回路等を含む電子回路ユニットであり、予め実装されたプログラムにより規定される制御処理を実行することで、動力装置の動作制御を行う。この場合、ECUの制御処理により実現される機能として、PDUを介して電動機3の運転を制御する機能の他、エンジン2の運転を図示しないスロットル弁用のアクチェエータ等のエンジン制御用アクチュエータを介して制御する機能と、後述のツインクラッチユニット20の動作を図示しないアクチュエータ又は駆動回路を介して制御する機能とが含まれる。
【0041】
変速機1は、ツインクラッチユニット20と、変速機入力軸25が内挿された中空の第1入力軸21と、この第1入力軸21と同一軸線上に配置されると共に第1入力軸21が内挿された中空の第2入力軸22と、エンジン2側から順次配置された変速比(従動ギヤと駆動ギヤの歯数比)が異なるギヤ列G1〜G7及びGRとを備える。ここで、各ギヤ列の符号(G1〜G7、GR)は、それぞれ変速比の段数(1速〜7速及び後進)を表している。
【0042】
変速機入力軸25は、エンジン2の出力軸2aと一体に回転するように、該出力軸2aに同軸心に連結されている。この場合、変速機入力軸25は、第1接続装置(SM1)により、電動機3のロータ7及び出力軸3aに対して断続(接続・離脱)可能である。
【0043】
ツインクラッチユニット20は、変速機入力軸25と同軸の第1クラッチ(CL1)及び第2クラッチ(CL1)を有し、変速機入力軸25の回転を、第1クラッチ(CL1)を介して第1入力軸21に、第2クラッチ(CL2)を介して第2入力軸22に、それぞれ伝達するように構成されている。
【0044】
上記第1、第2のクラッチCL1、CL2は、上記ECUの制御下で、変速機入力軸25と第1、第2の入力軸21,22との間を接続又は遮断するように動作するクラッチ(接続状態と遮断状態とに選択的に動作可能なクラッチ)機構である。すなわち、第1、第2のクラッチCL1、CL2は、エンジン出力軸2aと連動する変速機入力軸25の回転を、それぞれ第1入力軸21、第2入力軸22に解除自在に伝達する摩擦係合機構からなる。
【0045】
各ギヤ列G1〜G7は、それぞれ駆動ギヤG1a〜G7aと、各駆動ギヤと噛み合う従動ギヤG1b〜G7bとで構成される。ここで、変速比順位で奇数番目のギヤ列G1,G3,G5,G7の駆動ギヤG1a,G3a(G3とG5で共通)、G7aは第1入力軸21に固定され、変速比順位で偶数番目及びR段のギヤ列G2,G4,G6及びGRの駆動ギヤG2a(G2とGRで共通),G4a(G4とG6で共通)は第2入力軸22に固定されている。
【0046】
また、変速機1は2つの出力軸26,27を有し、第1出力軸26上に、ギヤ列G1,G3,G4,GRの駆動ギヤG1a,G3a,G4a,G2aと噛合する従動ギヤG1b,G3b,G4b,GRbを軸支し、第2出力軸27上に、ギヤ列G2,G5,G6,G7の駆動ギヤG2a,G3a,G4a,G7aと噛合する従動ギヤG2b,G5b,G6b,G7bを軸支している。
【0047】
更に、第1出力軸26上には、第1ギヤ列G1の従動ギヤG1bと第3ギヤ列G3の従動ギヤG3bとを第1出力軸26に選択的に連結する第3同期噛合(シンクロメッシュ)機構SM3と、第4ギヤ列G4の従動ギヤG4bと後進ギヤ列GRの従動ギヤGRbとを第1出力軸26に選択的に連結する第4同期噛合機構SM4とを配置すると共に、第2出力軸27上には、第5ギヤ列G5の従動ギヤG5bと第7ギヤ列G7の従動ギヤG7bとを第2出力軸27に選択的に連結する第5同期噛合機構SM5と、第2ギヤ列G2の従動ギヤG2bと第6ギヤ列G6の従動ギヤG6bとを第2出力軸27に選択的に連結する第6同期噛合機構SM6とを配置している。
【0048】
第3、第4の同期噛合機構SM3,SM4は、第1出力軸26に回り止めされ、図外のアクチュエータにより軸方向に移動自在な同期スリーブ33,34を備えている。そして、第3同期噛合機構SM3の同期スリーブ33を図示の中立位置Nから従動ギヤG1b又はG3b側に移動させることで、従動ギヤG1b又はG3bが第1出力軸26に連結され、第1ギヤ列G1又は第3ギヤ列G3が選択的に確立される。同様に、第4同期噛合機構SM4の同期スリーブ34を図示の中立位置Nから従動ギヤGRb又はG4b側に移動させることで、従動ギヤGRb又はG4bが第1出力軸26に連結され、後進ギヤ列GR又は第4ギヤ列G4が選択的に確立される。
【0049】
また、第5、第6の同期噛合機構SM5,SM6は、第2出力軸27に回り止めされ、図外のアクチュエータにより軸方向に移動自在な同期スリーブ35,36を備えている。そして、第5同期噛合機構SM5の同期スリーブ35を図示の中立位置Nから従動ギヤG5b又はG7b側に移動させることで、従動ギヤG5b又はG7bが第2出力軸27に連結され、第5ギヤ列G51又は第7ギヤ列G7が選択的に確立される。同様に、第6同期噛合機構SM6の同期スリーブ36を図示の中立位置Nから従動ギヤG2b又はG6b側に移動させることで、従動ギヤG2b又はG6bが第2出力軸27に連結され、第2ギヤ列G2又は第6ギヤ列G6が選択的に確立される。
【0050】
尚、「ギヤ列が確立される」とは、入力軸21,22から対応する出力軸26,27にギヤ列G1〜G7又はGRを介して動力伝達される状態になることをいう。
【0051】
上記第1、第2の変速機出力軸26,27は、変速機入力軸25と平行に並設され、駆動輪4,4の間の差動歯車ユニット29を介して駆動輪4,4に連結されている。詳しくは、差動歯車ユニット29は、駆動輪4,4にそれぞれ車軸30,30を介して連結されたサイドギヤ(図示省略)を内蔵するギヤケース29aと、このギヤケース29aの外周に固定されたギヤ29bとを備える。そして、差動歯車ユニット29のギヤ29bに、第1の変速機出力軸26又は第2の変速機出力軸27の一端部に固定された出力ギヤ31又は32が噛合される。これにより、変速機出力軸26,27は、差動歯車ユニット29を介して駆動輪4,4を回転させるようになっている。
【0052】
次に、第1実施形態の作動について説明する。以下の作動は、前記ECUによる制御下で行われる。
[エンジン始動]
例えば、外気温度が低い時やバッテリ電圧SOCが低下しているためにEV発進できない(ECUで判断される)場合には、電動機3によりエンジン2を始動することができる。
【0053】
具体的には、あらかじめ前記第1接続装置SM1を締結(第1動作状態に設定)すると共に、前記第2接続装置SM2を遮断(第2動作状態に設定)しておく。これにより、図2に太線で示すように、電動機3の出力軸3aが、変速機入力軸25と連結されたエンジン出力軸2に接続された状態となる。
【0054】
この状態で車両のブレーキが解除されると、電動機3を駆動することにより、出力軸2aを介してエンジン2を始動させることができる。ここで、ツインクラッチユニット20の第1クラッチCL1又は第2クラッチCL2を係合状態にすると、変速機入力軸25から第1入力軸21又は第2入力軸22に動力が伝達されるので、前記ギヤ列を介して第1出力軸26又は第2出力軸27に動力が伝達されることとなる。これにより、出力ギヤ31又は32を介して駆動輪4,4が駆動されるので、車両は即座に発進することができる。
【0055】
これに対し、従来のツインクラッチを備えた動力機構では、電動機からツインクラッチを介してエンジンを始動するため、エンジン始動前からクラッチ係合のための制御動力が必要にであった。本実施形態では、電動機3により直接エンジン2を始動できるので、エンジン始動前からクラッチ係合のための制御動力は不要である。
[リバース発進]
初めに、上記のエンジン始動時と同様に、第1接続装置SM1を締結し、電動機3でエンジン2を始動する。次に、第4の同期噛合装置SM4をリバース(R)側に設定すると、前述のように後進ギヤ列GRの従動ギヤGRbが第1出力軸26に連結され、後進ギヤ列GRが確立される。
【0056】
従って、エンジン2が始動した後、ツインクラッチユニット20の第2クラッチCL2を係合状態にすると、図3に太線で示すように、エンジン出力軸2と連結された変速機入力軸25から第2入力軸22に動力が伝達されるので、後進ギヤ列GRを介して第1出力軸26に動力が伝達されることとなる。これにより、出力ギヤ31を介して駆動輪4,4が駆動されるので、車両は即座にリバース発進、すなわち後進することができる。この場合、電動機3は適宜エンジンアシスト又は回生動作を行う。
[EV発進〜エンジン走行〜EVクルーズ走行]
図4において、上段のグラフは、経過時間Tに対するエンジン回転数(「E回転数」と表記)の変化を太線、電動機回転数(「M回転数」と表記)の変化を細線、車体の速度(車速)を破線で示す。中段では、前記第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第1接続装置(同期噛合機構)SM1、第2接続装置SM2が係合(接続)している状態(ONと表記)を太線で示すと共に、第3〜第6同期噛合機構SM3〜SM6が、それぞれ対応する2つのギヤ列の一方を確立している状態を太線で示す。なお、太線の表示がないのは、CL1、CL2、SM1、SM2が非係合(非接続)状態であり、或いはSM3〜SM6が中立位置Nにあることを示している。下段のグラフは、経過時間Tに対するエンジントルク(「Eトルク」と表記)の変化を太線、電動機トルク(「Mトルク」と表記)の変化を細線で示す。
【0057】
(1)EV発進
停止時にバッテリSOCが所定値以上で、かつエンジンが暖気状態であると判断した場合は「EV発進」モードとなる。以下、図4に示すように制御される。
【0058】
予めSM2をON、SM3をG1側(1速)、SM6をG6側(6速)にそれぞれ設定しておく。任意の時点(T=T1)でアクセルペダルが踏まれると、電動機3が起動し(Mトルクは略一定)、CL1、CL2は開放(非接続)のまま、電動機出力軸3aの回転がSM2を介して第1入力軸21に伝達される。そして、SM3により確立されたギヤ列G1を介して第1出力軸26に伝達されるので、1速でのEV発進となり、破線で示すように車速が増加していく。このとき、エンジン2は停止している(Eトルク=0)。
【0059】
(2)Mトルク増加、エンジン6速起動
車体速度又は要求駆動力が所定値以上になったとき(T=T2)、エンジン2を始動させる。このとき、第2クラッチCL2をONに(締結)すると、変速機入力軸25の回転が第2入力軸22に伝達される。そして、SM6により確立されたギヤ列G6を介して第2出力軸27に伝達されるので、6速でのエンジン起動となる。同時に、電動機3側では走行駆動力が損なわれないようにエンジン起動に必要なトルク(=エンジン起動トルク×6速比/1速比/変速機伝達効率)を付加する。すなわち、エンジン2は6速で起動されるのに対し、電動機3は1速での起動でMトルクを増大させることにより、エンジン2を少ないトルクで起動することができる。
【0060】
(3)エンジンを1速に変速しE回転数を上昇させてエンジン始動
エンジン2が起動したところで(T=T3)、ツインクラッチユニット20の2つのクラッチの動作状態を切り替える。すなわち、CL2を非作動に(開放)すると共にCL1をONに(締結)すると、変速機入力軸25の回転は第2入力軸22でなく、第1入力軸21に伝達される。そして、SM3により確立されたギヤ列G1を介して第1出力軸26に伝達されるので、1速でのエンジン起動となる。同時に、電動機3側でも、上記(2)と同様にE回転数の上昇に必要なトルクを付加することで、走行駆動力が損なわれないようにする。その後、E回転数が所定値以上になったところで、燃料噴射及び点火によりエンジンが始動する。
【0061】
(4)エンジン2速
その後、T=T4の時点でSM6をG2側に設定し、2つのクラッチの動作状態を再度切り替える。すなわち、CL1を非作動にすると共にCL2をONに(締結)すると、変速機入力軸25の回転が第2入力軸22に伝達される。そして、SM6により確立されたギヤ列G2を介して第2出力軸27に伝達されるので、エンジン走行は2速に変化する。
【0062】
(5)エンジン2速にて走行しながら電動機を3速に変速
その後、T=T5の時点でSM3をG1側からG3側に切り替えると、電動機出力軸3aの回転は、第1入力軸21からギヤ列G3を介して第1出力軸26に伝達されるので、電動機3は3速に変速される。同時に、Mトルクを0まで下げながら、総駆動力が目標値に一致するようにEトルクを増加させる。
【0063】
(6)要求駆動力に応じて電動機トルクを付加する
エンジン走行中に要求駆動力が所定値以上となった場合、Mトルクを付加する。また、バッテリ電圧SOCが所定値以下になった場合、電動機3で充電を行うと同時に総駆動力を保障するため、Eトルクを付加する。そして、車速が一定になった時点(T=T6)で、Eトルクを減らしていく。
【0064】
(7)クルーズ走行
エンジン走行中に要求駆動力が所定値以下で、車体速度が所定範囲内であり、かつバッテリ電圧SOCが所定値以上である場合、ECUはEVクルーズ走行可能と判断し、その時点(T=T7)で、CL2を非作動に(開放)に切り替える。これにより、変速機入力軸25の回転は、第1入力軸21のみならず第2入力軸22にも伝達されなくなり、エンジンを停止するか(Eトルク=0)又は全気筒休止して燃料供給をカットする。また、SM6をG2からG6側に切り替えておく。
【0065】
なお、上記のエンジン停止又は気筒休止の判断は、モード切替スイッチ或いはカーナビの情報に基づいて決定する。
【0066】
(9)再加速時は3−6変速でエンジン始動
上記のEVクルーズ走行中は、電動機出力軸3aの回転が第1入力軸21からギヤ列G3を介して第1出力軸26に伝達されるので、3速でのEV走行となっている。このEV走行中に再加速によりエンジンによる駆動を行う場合には、SM2がON、SM3がG3側(3速)、SM6をG6側(6速)に設定されているから、T=T8の時点でCL2をONに(締結)すると、上記(2)の場合と同様に、変速機入力軸25の回転が第2入力軸22からギヤ列G6を介して第2出力軸27に伝達され、6速でのエンジン起動となる。
【0067】
そして、T=T9の時点で、CL2を非作動に(開放)すると共にCL1をONに(締結)すると、変速機入力軸25の回転が第1入力軸21に伝達され、ギヤ列G3を介して第1出力軸26に伝達されるので、エンジン2は3速で始動される。同時に、電動機3側でも、上記(2)と同様にE回転数の上昇に必要なトルクを付加することで、走行駆動力が損なわれないようにする。
【0068】
その後、電動機3を使用しない場合は、T=T10の時点でSM2を非接続側に切り替えて、電動機3を停止させる(M回転数=0)。
【0069】
上記(1)〜(9)の制御方法によれば、エンジン始動に必要なトルクが小さくなる。例えば、1速比=12、6速比=2とすると、エンジン起動に必要なトルクは、120(Nm)×2/12 = 20(Nm) で済むことになる。このため、別途スタータ(イグニッションモータ)ISGを用いなくても、1つの電動機にて電動機走行とエンジン始動が可能となる。従って、ISGを省略して重量やコストを大幅に削減することができる。
[高速走行]
図5は、高速走行時の制御方法の説明図であり、図4と同様に、経過時間Tに対するE回転数、M回転数及び車体の速度(車速)の変化を示すと共に、CL1、CL2、SM1、SM2の接続(ON)/非接続、SM3〜SM6によるギヤ列の確立、経過時間Tに対するEトルク、Mトルクの変化を示す。更に、最下段では、電動機3及びエンジン2の各々の状態を示している。
【0070】
図5に示すように、高速走行中は、電動機3が停止していない限り、SM1をONにして電動機3をエンジン2側に接続した状態で、駆動アシスト、電力回生又は強制充電を行う。これにより、電動機の駆動アシスト及び回生時のトルク応答性を向上させると共に、予めギヤ列を確立しているとき(プリシフト中)に電動機トルクが0になることによる応答性低下を防止することができる。
[減速走行]
図6は、減速走行時の制御方法の説明図であり、図5と同様に、経過時間Tに対するE回転数、M回転数及び車体の速度(車速)の変化を示すと共に、CL1、CL2、SM1、SM2の接続(ON)/非接続、SM3〜SM6によるギヤ列の確立、経過時間Tに対するEトルク、Mトルクの変化を示す。更に最下段では、電動機3及びエンジン2の各々の状態を示している。
【0071】
図6において、上記図5の高速走行から、T=T21の時点でエンジンの全筒休止により減速して電動機が回生状態になっているときに、T=T22の時点でSM2をON、SM3をG3側に設定して電動機を3速走行に固定する。そして、T=T23の時点でCL1、CL2共に非接続状態として、エンジンを停止する。また、T=T22の時点からSM3をG1側に切り替える時(T=T30)までに、偶数段のギヤ列G6,G4,G2をプリシフトして待機するようにSM6、SM4の動作状態を設定することにより、再びエンジンを始動する時の応答遅れを最小にすることができる。
[減速走行から再加速]
図7は、減速走行から再加速する場合の制御方法の説明図であり、図5及び図6と同様に、経過時間Tに対するE回転数、M回転数及び車体の速度(車速)の変化を示すと共に、CL1、CL2、SM1、SM2の接続/非接続、SM3〜SM6によるギヤ列の確立、経過時間Tに対するEトルク、Mトルクの変化を示す。更に最下段では、電動機3及びエンジン2の各々の状態を示している。
【0072】
図7において、先の図6に示したように、減速回生中はCL1、CL2共に非接続状態としてエンジンを停止する(T=T23)と共に、SM2をON、SM3をG3側に設定して電動機を3速走行に固定している。ここで、CL2をONにすると(T=T24)変速機入力軸25の回転が第2入力軸22に伝達される。そして、SM4により確立されたギヤ列G4を介して第2出力軸27に伝達されるので、エンジンは4速で再始動する。このとき、Mトルクを増大させることにより、E回転数を引き上げてエンジンを迅速に始動することができる。
【0073】
その後、T=T25の時点でSM3をG3側から中立位置Nに切り替えると、電動機出力軸3aの回転が第1出力軸26に伝達されなくなるので、電動機3はトルク0の状態となり、エンジン駆動により車速一定で走行する状態になる。
【0074】
上記の再加速前に、偶数段のギヤ列G6,G4をプリシフトして待機するようにSM4、SM6の動作状態を設定することにより、エンジン再始動時の応答遅れを最小にすることができる。
[EV走行からエンジン走行への切替え]
図8は、EV走行モードからエンジン走行モードへ切り替える場合の制御方法の説明図であり、図5〜図7と同様に、経過時間Tに対するE回転数、M回転数及び車体の速度(車速)の変化を示すと共に、CL1、CL2、SM1、SM2の接続/非接続、SM3〜SM6によるギヤ列の確立、経過時間Tに対するEトルク、Mトルクの変化を示す。更に最下段では、電動機3及びエンジン2の各々の状態を示している。
【0075】
図8に示すように、EV走行モードでは、EV発進(T=T31)以前からCL1、CL2共に非接続状態としてエンジン停止の状態で、SM2をON、SM3をG3側にプリシフトして、EV3速走行に待機している。そして、前述のようにEV始動し、T=T32の時点から一定速度でのEV走行中は、変速段G3,G6を固定する。その後、T=T33の時点でCL2をONにして、G6により6速でエンジン起動し、次にCL1をONにして、G3により3速でエンジン始動し、T=T34の時点で再びCL2をONにして、G4により4速で加速しエンジン駆動状態となる。
【0076】
このエンジン駆動状態で車速が所定の速度に達したとき(T=T35)、SM2を非接続に、SM1を接続に切り替えると共に、SM3を中立位置Nに、SM5をG7側に設定することにより、電動機出力軸3aの回転がエンジン出力軸2aを介して変速機入力軸25に伝達される。ここで、CL2を非接続に切り替えると共にCL1をONにすると、電動機出力は変速機入力軸25から第1入力軸21に伝達され、G7により最大7速に変速された後、Mトルクが0になる(T=T36)。
【0077】
その後、T=T37の時点でエンジン2が全筒休止になると、電動機3は回生状態となり、M回転数が低下した後、T=T38の時点でSM1を非接続に、SM2を接続に切り替えると共に、SM3をG3側に設定することにより、電動機出力は第1入力軸21からG3を介して3速に変速される。そして、エンジンブレーキにより、Mトルクが反転したとき(T=T38)、電動機3は再び回生状態となり、T=T39の時点でエンジン2が停止する一方、T=T40の時点で電動機3も停止し、Mトルクが0になる。
[実施形態の変更例]
ところで、上記第1実施形態では、電動機出力軸3aを変速機入力軸25、第1入力軸21(又は第2入力軸22)に動力伝達可能に接続する接続装置として、2つの同期噛合機構SM1、SM2を個別に設けているが、SM1とSM2を合わせて1つの同期噛合機構としてもよい。その例を図9に示す。
【0078】
図9に示す実施形態においては、電動機3のロータ7の内側からツインクラッチユニット20の側に、変速機入力軸25と同心状に形成した同期噛合機構SM12が配置されている。このSM12は、変速機入力軸25に回り止めされ、図示しないアクチュエータにより軸方向に移動可能な同期スリーブ12を備えている。
【0079】
ここで、同期スリーブ12は、電動機出力軸3aと変速機入力軸25との間での動力伝達を可能にする第1動作位置と、電動機出力軸3aと第1入力軸21又は第2入力軸22との間での動力伝達を可能にする第2動作位置と、上記2つの動作位置とは別で上記2つの動力伝達のいずれも行わない中立位置とのいずれかに選択的に設定されるようになっている。
【0080】
図9の変更例においても、ツインクラッチユニット20を用いる変速機1とエンジン2と電動機3とを備えて次のような制御動作を行う。
【0081】
図10は、上段において、経過時間Tに対する車体の速度(車速)の変化と車両の状態を示し、経過時間Tに対するE回転数の変化を太線、M回転数の変化を細線で示し、その下の段では、エンジンと電動機の各々の速度段の変化を示している。
【0082】
図10において、初めはエンジン、電動機共に停止中で、予め電動機を1速にプリシフトしておいて、以下のように制御する。
(1)電動機1速で発進。
(2)偶数番のギヤG2、G4又はG6を確立しながら、E回転数を引き上げて始動。
(3)エンジンが2速走行、電動機は3速にて充電。
(4)電動機3速にてEVクルーズ走行し、エンジンは停止している。
(5)奇数番のギヤG1、G3、G5又はG7を確立しながら、エンジンを始動してエンジン走行クルーズを行い、電動機は停止している。
(6)中〜高速走行中はエンジンと電動機を一体化する(電動機による走行アシスト及び回生)。エンジン走行クルーズ中は電動機が停止、回生時はエンジン全筒休止とする。
(7)減速回生時は、エンジン6速駆動で、回生時は全筒休止とする。電動機は5速固定。
これにより、エンジンブレーキによるトルクの最小化と再始動時の応答性向上を図っている。
(8)減速中の変速は、全筒休止をやめてエンジンブレーキによるトルクを発生させる間に速度段の切替えを行う。
(9)中〜低速での減速回生時は、エンジン停止し、電動機は1速。
(10)急発進時は、奇数番のギヤG1、G3、G5又はG7を確立し、E回転数を引き上げてエンジン始動する。
[第2実施形態]
図11は、第2実施形態の動力装置を備えたハイブリッド車両の概略構成を示す。本実施形態では、以下の構成のみが第1実施形態と相違するので、第1実施形態と同じ構成要素については同一の参照符号を付して、説明を省略する。
【0083】
本実施形態は、ツインメインシャフトを備えたものであり、第1実施形態と次の点で相違している。
【0084】
本実施形態の変速機は、ツインクラッチユニット20と、エンジン2の出力軸2aと連動して回転する変速機入力軸25が内挿された中空の第1入力軸41と、この第1入力軸21と平行に配置され第2入力軸42と、エンジン2側から順次配置された変速比が異なるギヤ列G1〜G7及びGRと、1つの出力軸44とを備えている。そして、出力軸44は、その一端部に固定された出力ギヤ31が差動歯車ユニット29のギヤ29bと噛合うことにより、差動歯車ユニット29を介して駆動輪4,4を回転させるようになっている。
【0085】
変速機入力軸25には、ツインクラッチユニット20の第1クラッチCL1を介して、メインシャフトの1つである第1入力軸41が接続される一方、ツインクラッチユニット20の第1クラッチCL1との間でアイドルギヤ43により連動する第2クラッチCL2を介して、もう1つのメインシャフトである第2入力軸42が接続される。
【0086】
上記ギヤ列のうち、変速比順位で奇数番目のギヤ列G1,G5,G3,G7の駆動ギヤG1a,G5a,G3a、G7aは、それぞれSM7,SM9を介して第1入力軸41に接続され、変速比順位で偶数番目及びR段のギヤ列G2,G4,G6,GRの駆動ギヤG2a,G4a,G6a,GRaは、それぞれSM8,SM10を介して第2入力軸42に接続される。また、変速機の出力軸31上に、ギヤ列G1とG2,G4とG5,G3とGR,G6とG7の各対に共通の従動ギヤG1b,G4b,G3b,G6bが軸支固定されている。
【0087】
上記SM7〜SM10(第7〜第10同期噛合機構)のうち、SM7、SM9は、それぞれ第1入力軸41に回り止めされ、図示されないアクチュエータにより軸方向に移動自在な同期スリーブ37,39を備え、対応する同期スリーブ37,39を図示の中立位置Nから駆動ギヤG1a又はG5a側,駆動ギヤG3a又はG7a側に移動させることで、駆動ギヤG1a又はG5a,駆動ギヤG3a又はG7aが第1入力軸41に連結され、ギヤ列G1又はG5,G3又はG7が選択的に確立される。
【0088】
また、SM8、SM10は、それぞれ第2入力軸42に回り止めされ、図示されないアクチュエータにより軸方向に移動自在な同期スリーブ38,40を備え、対応する同期スリーブ38,40を図示の中立位置Nから駆動ギヤG2a又はG4a側,駆動ギヤG6a又はGRa側に移動させることで、駆動ギヤG2a又はG4a,駆動ギヤG6a又はGRaが第2入力軸42に連結され、ギヤ列G2又はG4,G6又はGRが選択的に確立される。
【0089】
上記第2実施形態によれば、ツインメインシャフトを備えたハイブリッド車両においても、第1実施形態と同様に作動し、同様の効果が得られる。
【0090】
以上の実施形態においては、電動機の出力軸をエンジン出力軸或いは入力軸と接続する装置として、同期噛合機構SMを用いているが、これに限らず、切替指令によりアクチュエータを介して切り替えられるクラッチのような適宜の係合手段を用いてもよい。
【0091】
また、ツインクラッチユニットも、第1,第2実施形態で用いられる構造に限らず、2つのクラッチにより動力伝達ができるものであればよい。
【符号の説明】
【0092】
1…変速機、2…エンジン(原動機)、2a…エンジン出力軸、3…電動機、3a…電動機出力軸、4…駆動輪(被駆動部)、5…フライホイール、6…電動機ハウジング、7…電動機のロータ(回転体)、8…ステータ、21,41…第1入力軸、22,42…第2入力軸、25…変速機入力軸、26…第1出力軸、27…第2出力軸、29・・・差動歯車ユニット、30…車軸、31,32…出力ギヤ、33〜40…同期噛合機構、44…出力軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機を介して被駆動部を駆動する動力源としてエンジン及び電動機を備えるハイブリッド車両において、前記変速機は、
前記エンジンからの動力を伝達する変速機入力軸、及び前記被駆動部を駆動する動力を出力する変速機出力軸と、
前記変速機入力軸と同軸状に設けられた第1クラッチ及び第2クラッチを有するツインクラッチユニットと、
前記第1クラッチを介して前記変速機入力軸と接続可能な第1入力軸、及び前記第2クラッチを介して前記変速機入力軸と接続可能な第2入力軸と、
前記第1入力軸及び前記第2入力軸を前記変速機出力軸とそれぞれ接続するように切り替え可能に構成されたギヤ列と、
前記電動機の出力軸と前記変速機入力軸との間で動力伝達を可能にする第1動作状態と動力伝達を遮断する第2動作状態とに選択的に切り替え可能な接続装置とを備え、
前記第1入力軸及び前記第2入力軸は、前記エンジンと前記ツインクラッチユニットとの間で同軸状に配置され、前記電動機により、前記接続装置及び前記ツインクラッチユニットを介して駆動されることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド車両において、
前記変速機は、冷間始動時またはバッテリSOCが所定値以下の場合は前記接続装置を介して前記電動機を前記変速機入力軸と接続することにより、該電動機にて前記エンジンを始動することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両において、
前記電動機は前記エンジンと前記変速機との間に配置され、前記接続装置は該電動機の内部に配置されていることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のハイブリッド車両において、
前記電動機の出力軸と前記第1入力軸又は前記第2入力軸との間で動力伝達を可能にする第1動作状態と当該動力伝達を遮断する第2動作状態とに選択的に切り替え可能な第2接続装置を備えることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
請求項4記載のハイブリッド車両において、
停車時又は停車直前の車両の状態により、前記接続装置又は前記第2接続装置が前記第1動作状態に設定されることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項6】
請求項5記載のハイブリッド車両において、
前記電動機の電源及び前記エンジンの状態により前記電動機によるEV発進が可能である場合には、前記第2接続装置が前記第1動作状態に設定されることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項7】
請求項6記載のハイブリッド車両において、
停車中に前記EV発進が可能である場合には、前記変速機は、前記ギヤ列の切り替えによって偶数段または奇数段の段速を予め設定し、停車解除時に前記第2接続装置を第1動作状態に設定することにより前記電動機の駆動力で走行を開始し、車体速度が所定値以上になったとき前記電動機のトルクを増加させると共に、駆動していない方の前記ギヤ列側の前記クラッチを係合することで、前記電動機の駆動で前記エンジンを起動することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項8】
請求項7記載のハイブリッド車両において、
前記エンジンの起動時に前記エンジン回転数が所定回転数まで上昇した場合には、前記エンジンの始動により変速比を固定したまま走行し、車体速度が所定値未満であるときは、前記エンジン回転数を前記電動機回転数まで上昇させてから前記エンジンを始動し、前記ギヤ列の切り替えにより任意の段速に変速して走行することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載のハイブリッド車両において、
停車中に後進段が選択された場合には、前記変速機は前記ギヤ列の切り替えによって後進段を予め設定し、発進時には前記接続装置を介して前記電動機と前記変速機入力軸を接続することにより前記エンジンを始動させ、前記エンジン駆動により後進することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載のハイブリッド車両において、
前記電動機によるEV走行が選択された場合には、前記変速機は前記ギヤ列の切り替えによって所定の変速段を設定し、前記第2接続装置を前記第1動作状態に設定することにより該変速段で前記電動機によるEV走行を可能とすることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載のハイブリッド車両において、
減速走行時には前記エンジンを停止状態にして、前記変速機の前記ギヤ列の切り替えによって所定の変速段を設定し、前記電動機にて電力回生することを特徴とするハイブリッド車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−173381(P2010−173381A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15790(P2009−15790)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】