説明

モータの診断方法

【課題】 車両の走行時と、車両の非走行時のいずれの場合でも、モータコイルの異常を検出することができ、モータ異常への対処を早期に図ることができるモータの診断装置および診断方法を提供する。
【解決手段】 車両の電源が投入されている非走行時に、モータコイルのコイル温度とモータコイルのコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイルの異常と検出する始動時異常検出手段98を設けた。さらに車両の走行時に、コイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイルの異常と検出する走行時異常検出手段99を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車の車輪を駆動するモータの診断装置および診断方法に関し、駆動モータの自己診断機能に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車では、車両駆動のためのモータおよびこれを制御するコントローラの故障は、走行性、安全性に大きく影響する。特に、電気自動車において、インホイールモータ駆動装置を用いた場合、同装置のコンパクト化を図る結果、この構成部品である車輪用軸受、減速機、およびモータは、高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。
従来、インホイールモータ駆動装置において、車両の走行時、信頼性確保のために、車輪用軸受、減速機、およびモータ等の温度を測定して過負荷を監視し、温度測定値に応じてモータの駆動電流の制限や、モータ回転数を低下させるものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−168790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インホイールモータ型の電気自動車では、各輪独立に応答性の高いモータが取り付けられている。特に、電気自動車の駆動源であるモータの駆動トルクを、高い減速比を有する減速機を介してホイールにトルク伝達する場合、モータ制御の不安定化を原因としたモータのトルクは、拡大されてホイールにトルク伝達される。このため、このモータの故障時には、安定した車両姿勢を保つことができるように、その状況に応じた対応が必要となる。
【0005】
上記のように、インホイールモータ駆動装置において、車両走行時、モータの温度を測定して過負荷を監視し、モータを駆動制限することは行われている。しかし、この場合、車両の始動時またはモータへの電力供給を行っていない、例えば、車両を走行させる前段階のような非走行時に木目細かい診断を実施し、モータに異常が生じていた場合には、モータ等の修理に向かうか、この車両の救援を要請することが望ましい。また非走行時にモータが正常であった場合でも、車両走行時にモータコイルに異常が起こることも考えられる。
【0006】
この発明の目的は、車両の走行時と、車両の非走行時のいずれの場合でも、モータコイルの異常を検出することができ、モータ異常への対処を早期に図ることができるモータの診断装置および診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のモータの診断装置は、車輪2をモータ6により駆動する電気自動車の前記モータ6の診断装置であって、車両の電源が投入されている非走行時に、モータコイル78のコイル温度とモータコイル78のコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と検出する始動時異常検出手段98を設け、車両の走行時に、コイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイル78の異常と検出する走行時異常検出手段99を設けたことを特徴とする。
【0008】
前記「車両の電源が投入されている非走行時」とは、ドライバが車両に乗った後、走行を開始するまでの間である始動時等のように、キー等で車両の全体を制御するECU21等の制御手段に電源が投入されているが、まだモータ6への電力供給を行っていないときや、走行停止のためにモータ6への電力供給は行っていないが、前記車両の全体を制御する手段の電源は投入状態を維持しているときを言う。
【0009】
この構成によると、車両の電源が投入されている非走行時には、始動時異常検出手段98によりモータコイル78の異常を検出する。つまりコイル温度とコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と検出する。例えば、モータコイル78に絶縁劣化等の異常が起こると、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超える。このように車両を走行させる前段階などで、例えば走行前のオイル系等の車両全体の異常チェック時の一つのチェック項目として、あるいは走行開始後の停止時に、モータ6の異常を診断し、モータ6に異常が生じていた場合には、前記モータ6等の修理に向かうか、この車両の救援を要請することができる。
【0010】
車両の走行時には、走行時異常検出手段99によりモータコイル78の異常を検出する。つまりコイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイル78の異常と検出する。車両の走行時にはモータ6が回転している。このモータ回転時、例えば、モータコイル78の短絡異常が発生すると、モータ印加電圧に対してモータ電流が設定範囲から外れて異常に高くなる。またモータ回転数に応じてモータ印加電圧に逆起電力が作用するため、モータ印加電圧とモータ電流との関係は、モータ回転数に応じて時々刻々と変化する。したがって、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係を常時検出することで、モータコイル78の異常と検出し得る。このように、車両の走行時と、車両の非走行時のいずれの場合でも、モータコイル78の異常を検出でき、電気自動車の信頼性を高めることが可能となる。また、モータ異常への対処を早期に図ることができる。
【0011】
前記始動時異常検出手段98は、コイル温度とコイル抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と検出するものとしても良い。
前記始動時異常検出手段98は、コイル温度と絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と検出するものとしても良い。
【0012】
前記モータ6を駆動する手段が、直流電力を前記モータ6の駆動に用いる交流電力に変換するインバータ31を有する場合は、これらモータ6とインバータ31との電気的接続を開閉自在に切り換える切換手段101を設け、前記始動時異常検出手段98は、前記切換手段101を開放して各相のモータコイル78に順次切換えて電圧を印加させて、電圧が印加された各相のモータコイル78の電流の計測値から、各相のモータコイル78のコイル抵抗を計測するものとしても良い。車両の電源が投入された非走行時に、切換手段101を開放することで、インバータ31の半導体スイッチング素子等に流れる電流を遮断して、電圧が印加された各相のモータコイル78の電流を正確に計測し得る。この計測値から、各相のモータコイル78のコイル抵抗を計測することが可能となる。なお、走行時には、切換手段101を閉じ、インバータ31から電流をモータ6に流す。
【0013】
前記モータ6を駆動する手段が、直流電力を前記モータ6の駆動に用いる交流電力に変換するインバータ31を有する場合は、前記始動時異常検出手段98は、各相のモータコイル78に順次電圧を印加させて、電圧が印加された各相のモータコイル78の電流の計測値から、各相のモータコイル78のコイル抵抗を計測するものとしても良い。コイル抵抗を計測する際、例えば、モータ6の各相のモータコイル78とインバータ31との電気的接続点間に電圧を印加し、その電気的接続点間の電流の計測値から、各相のモータコイル78のコイル抵抗を計測し得る。この場合、モータ6とインバータ31との電気的接続を切り換える切換手段を不要とでき、装置の構造を簡単化できる。
【0014】
前記モータコイル78に近接してサーミスタ103を設け、前記始動時異常検出手段98は、計測されたコイル抵抗を、前記サーミスタ103で出力されるコイル温度に応じて補正する補正手段104を含むものとしても良い。このようにコイル抵抗をコイル温度に応じて補正することで、非走行時のモータ6の異常をより正確に検出することができる。
【0015】
前記モータ6が、駆動輪である各車輪2毎にそれぞれ設けられるものであっても良い。
前記モータ6は、一部または全体が車輪2内に配置されて前記モータ6と車輪用軸受4と減速機7とを含むインホイールモータ駆動装置8を構成するものであっても良い。インホイールモータ駆動装置8の場合、コンパクト化を図る結果、車輪用軸受4、減速機7、およびモータ6は、高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。車両の非走行時には始動時異常検出手段98によりモータコイル78の異常を検出でき、車両の走行時には走行時異常検出手段99によりモータコイル78の異常を検出することができるため、モータ6の信頼性をより高めることが可能となる。
【0016】
前記減速機7は、モータ6の回転を減速するサイクロイド減速機であっても良い。減速機7をサイクロイド減速機として減速比を例えば1/6以上に高くした場合、モータ6の小型化を図り、装置のコンパクト化を図ることができる。モータ6の駆動トルクを、前記のように高い減速比を有する減速機7を介してホイールにトルク伝達するとき、前記駆動トルクは拡大されてホイールにトルク伝達されるため、モータ異常の影響が大きくなるが、車両の非走行時に始動時異常検出手段98により実際の車両が走行する前段階でモータコイル78の異常を検出し得る。そのため、異常検出がより効果的となる。なお、仮に、車両の非走行時に異常が検出されなかったとしても、車両の走行時には走行時異常検出手段99によりモータコイル78の異常を検出し得る。
【0017】
この発明の電気自動車は、前記いずれかのモータ6により駆動可能に構成されるものである。
この発明のモータの診断方法は、車輪2をモータ6により駆動する電気自動車の前記モータ6の診断方法であって、車両の電源が投入されている非走行時に、モータコイル78のコイル温度とモータコイル78のコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と検出する始動時異常検出過程と、車両の走行時に、コイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイル78の異常と検出する走行時異常検出過程とを含む。
【0018】
この構成によると、始動時異常検出過程では、車両の電源が投入されている非走行時におけるモータコイル78の異常を検出する。すなわちコイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と検出する。走行時異常検出過程では、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイル78の異常と検出する。このように、車両の走行時と、車両の非走行時のいずれの場合でも、モータコイル78の異常を検出でき、電気自動車の信頼性を高めることが可能となる。また、モータ異常への対処を早期に図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のモータの診断装置は、車輪をモータにより駆動する電気自動車の前記モータの診断装置であって、車両の電源が投入された非走行時に、モータコイルのコイル温度とモータコイルのコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイルの異常と検出する始動時異常検出手段を設け、車両の走行時に、コイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイルの異常と検出する走行時異常検出手段を設けたため、車両の走行時と、車両の非走行時のいずれの場合でも、モータコイルの異常を検出することができ、モータ異常への対処を早期に図ることができる。
【0020】
この発明のモータの診断方法は、車輪をモータにより駆動する電気自動車の前記モータの診断方法であって、車両の電源が投入された非走行時に、モータコイルのコイル温度とモータコイルのコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイルの異常と検出する始動時異常検出過程と、車両の走行時に、コイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイルの異常と検出する走行時異常検出過程とを有するため、車両の走行時と、車両の非走行時のいずれの場合でも、モータコイルの異常を検出することができ、モータ異常への対処を早期に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図2】同電気自動車用駆動モータの診断装置の概念構成のブロック図である。
【図3】同診断装置の要部の回路構成例を示す概略図である。
【図4】同診断装置の始動時異常検出手段におけるコイル抵抗の検出例を示す図である。
【図5】同診断装置の走行時異常検出手段における、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係を示す図である。
【図6】同電気自動車におけるインホイールモータ駆動装置の破断正面図である。
【図7】図6のVII-VII 線断面となるモータ部分の断面図である。
【図8】図6のVIII-VIII 線断面となる減速機部分の断面図である。
【図9】図8の部分拡大断面図である。
【図10】この発明の他の実施形態に係る電気自動車用駆動モータの診断装置の概念構成の要部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の第1の実施形態に係る電気自動車用駆動モータの診断装置およびその診断方法を図1ないし図9と共に説明する。この駆動モータの診断装置は、電気自動車に搭載されている。この電気自動車は、図1に示すように、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4,5を介して車体1に支持されている。車輪用軸受4,5は、図1ではハブベアリングの略称「H/B」を付してある。駆動輪となる左右の車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6,6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成しており、インホイールモータ駆動装置8は、一部または全体が車輪2内に配置される。インホイールモータ駆動装置8は、インホイールモータユニットとも称される。モータ6は、減速機7を介さずに直接に車輪2を回転駆動するものであっても良い。各車輪2,3には、電動式のブレーキ9,10が設けられている。
【0023】
左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、操舵機構12により操舵される。転舵機構11は、タイロッド11aを左右移動させることで、車輪用軸受5を保持した左右のナックルアーム11bの角度を変える機構であり、操舵機構12の指令によりEPS(電動パワーステアリング)モータ13を駆動させ、回転・直線運動変換機構(図示せず)を介して左右移動させられる。操舵角は操舵角センサ15で検出し、このセンサ出力はECU21に出力され、その情報は左右輪の加速・減速指令等に使用される。
【0024】
制御系を説明する。図1に示すように、制御装置U1は、自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるECU21と、このECU21の指令に従って走行用のモータ6の制御を行うインバータ装置22とを有する。前記ECU21と、インバータ装置22と、ブレーキコントローラ23とが、車体1に搭載されている。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。
【0025】
ECU21は、機能別に大別すると駆動制御部21aと一般制御部21bとに分けられる。駆動制御部21aは、アクセル操作部16の出力する加速指令と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵角センサ15の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令を生成し、インバータ装置22へ出力する。駆動制御部21aは、上記の他に、出力する加速・減速指令を、各車輪2,3の車輪用軸受4,5に設けられた回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報を用いて補正する機能を有していても良い。アクセル操作部16は、アクセルペダルとその踏み込み量を検出して前記加速指令を出力するセンサ16aとでなる。ブレーキ操作部17は、ブレーキペダルとその踏み込み量を検出して前記減速指令を出力するセンサ17aとでなる。
【0026】
ECU21の一般制御部21bは、前記ブレーキ操作部17の出力する減速指令をブレーキコントローラ23へ出力する機能、各種の補機システム25を制御する機能、コンソールの操作パネル26からの入力指令を処理する機能、表示手段27に表示を行う機能などを有する。前記補機システム25は、例えば、エアコン、ライト、ワイパー、GPS、エアバッグ等であり、ここでは代表して一つのブロックとして示す。
【0027】
ブレーキコントローラ23は、ECU21から出力される減速指令に従って、各車輪2,3のブレーキ9,10に制動指令を与える手段である。ECU21から出力される制動指令には、ブレーキ操作部17の出力する減速指令によって生成される指令の他に、ECU21の持つ安全性向上のための手段によって生成される指令がある。ブレーキコントローラ23は、この他にアンチロックブレーキシステムを備える。ブレーキコントローラ23は、電子回路やマイコン等により構成される。
【0028】
インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントール部29とで構成される。モータコントール部29は、各パワー回路部28に対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良いが、共通して設けられた場合であっても、各パワー回路部28を、例えば互いにモータトルクが異なるように独立して制御可能なものとされる。モータコントール部29は、このモータコントール部29が持つインホイールモータ8に関する各検出値や制御値等の各情報(「IWMシステム情報」と称す)をECU21に出力する機能を有する。
【0029】
図2は、この電気自動車用駆動モータの診断装置の概念構成のブロック図である。パワー回路部28は、バッテリ19の直流電力をモータ6の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とで構成される。モータ6は3相の同期モータ等からなる。インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0030】
モータコントール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部33を有している。モータ駆動制御部33は、上位制御手段であるECUから与えられるトルク指令等による加速・減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える手段である。モータ駆動制御部33は、インバータ31からモータ6に流すモータ電流値を電流検出手段35から得て、電流フィードバック制御を行う。また、モータ駆動制御部33は、モータ6のロータの回転角を角度センサ36から得て、ベクトル制御等の回転角に応じた制御を行う。
【0031】
モータの診断装置について説明する。
この実施形態では、上記構成のモータコントロール部29に、次のモータコイル異常検出手段95、検出用制御部96、異常報告手段41、および切換手段101を設け、ECU21に異常表示手段42を設けている。この実施形態におけるモータの診断装置は、これらモータコイル異常検出手段95、検出用制御部96、異常報告手段41、切換手段101、および異常表示手段42を有する。モータコイル異常検出手段95は、始動時異常検出手段98と、走行時異常検出手段99とを有する。
【0032】
先ず、始動時異常検出手段98について説明する。
始動時異常検出手段98は、検出部98aと、判定部98bとを有する。この例では、検出部98aは、車両の電源が投入されている非走行時に、モータコイルのコイル温度と、モータコイルのコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出する。前記「車両の電源が投入されている非走行時」とは、この電気自動車のECU21に電源が投入されていて、車両が完全に停止している状態を言い、例えば、(1)ドライバ等がキー、スタートボタン等の始動手段を、「オフ」からモータ6への電力供給前の「アクセサリ電源」の位置に操作してECU21がオンとなったときや、(2)ECU21がオンの状態で前記始動手段を「オン」の位置に操作しているが、ECU21がモータ6への加速指令を生成していない場合、および、回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報、車載の各センサの情報等から車両が走行停止状態にあると判定されるときを言い、ECU21に微小電流が流れてオンになっているが、車両にドライバ等が乗車せずに車両のセキュリティがオンとなったロック状態にあるときは含まない。
前記始動手段が「アクセサリ電源」または「オン」の位置にあるとき、ECU21がオンとなっていると判定される。ECU21がオンと判定され、且つ、電流検出手段35からのモータ電流、または回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報、車載の各センサの情報等からモータ6への電力供給は行っていないと判定されるとき、車両の電源が投入されている非走行時であると判断される。前記判定部98bは、検出部98aにて検出されたコイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイルの異常と判定する。
【0033】
ここで図3は、駆動モータ6の診断装置の要部の回路構成例を示す概略図であり、図4は、同診断装置の始動時異常検出手段98におけるコイル抵抗の検出例を示す図である。図3に示すように、モータ6のモータハウジング72は、車両のナックル100に固定されている。このモータ6は、3相のモータコイル78の一端が中性点P1で接続されるスター結線により結線された同期モータである。このモータ6とインバータ31との電気的接続を開閉自在に切り換える切換手段101を設けている。すなわち、3相(U,V,W相)の各モータコイル78の巻線の他端に、それぞれ切換手段101であるリレーを介して、インバータ31におけるスイッチングトランジスタ等の各駆動素子97に接続された各相の内部配線102が接続されている。
【0034】
前記リレーは、車両の走行時、3つ全てのリレー接点が閉じられるいわゆるノーマルクローズのリレーが適用されている。始動時異常検出手段98は、車両の電源が投入された非走行時に、3つ全てのリレー接点を開放するように検出用制御部96(図2)に指令する。キー等の始動手段が「アクセサリ電源」または「オン」の位置にあるとき、ECU21がオンと判定され、さらに、電流検出手段35からのモータ電流等からモータ6への電力供給は行っていないと判定されるとき、車両の電源が投入された非走行時であると判断される。3つ全てのリレー接点が開放すると、始動時異常検出手段98の検出部98aは、図4(a),(b),(c)に示すように、各相のモータコイル78に順次切換えて電圧を印加させて、電圧が印加された各相のモータコイル78の電流の計測値から、各相のモータコイル78のコイル抵抗を計測するものとしている。図3に示すように、例えば、始動時異常検出手段98における検出部98aに、各U,V,W相の電極間に電圧を印加する計測用電源V1,V2,V3、および電流センサA1,A2,A3がそれぞれ設けられる。これら計測用電源V1〜V3および電流センサA1〜A3は、この例ではモータハウジング72から取り出され切換手段101の接点まで延びる各相の配線に、それぞれ電気的に接続されている。
図4(a)に示すように、U,V相の電極間に計測用電源V1により電圧を印加し、U相およびV相のモータコイル78,78の電流の計測値を電流センサA1により計測する。以下、図4(b)に示すように、U,W相の電極間に計測用電源V2により電圧を印加し、U相およびW相のモータコイル78,78の電流の計測値を電流センサA2により計測し、図4(c)に示すように、V,W相の電極間に計測用電源V3により電圧を印加し、V相およびW相のモータコイル78,78の電流の計測値を電流センサA3により計測する。始動時異常検出手段98の判定部98bは、検出されたコイル抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と判定する。なお、図3の例では、モータ6において、各相につき1つのモータコイル78のみを示しているが、各相のモータコイル78が円周方向に沿って配置された複数の電極のコイルからなる場合、それらの電極のコイルを、相毎に並列接続または直列接続されたものが、図の1つのモータコイル78となる。
【0035】
また、検出部105は、図3に示すように、リレー106を閉じ、モータコイル78とモータケース72との間に計測用電源V4により所定の電圧を印加し、両者間に流れる電流を電流センサA4により計測し、モータコイル78とモータケース72間の絶縁抵抗を計測し得る。判定部107は、計測された絶縁抵抗が閾値を超えるか否かを判定する。
図3では、検出部105はモータコイル78のW相に接続されているが、U相やV相に接続されてもよい。
図3に示すように、モータコイル78のコイル温度を検出する温度センサとして、例えば、サーミスタ103が使用される。このサーミスタ103を、モータコイル78に固着することで、モータコイル78の温度を検出し得る。検出部98aにおいて、例えば、サーミスタ103で検出された値が図示外のアンプで増幅され、判定部98bにてこの増幅値が閾値を超えるか否か判定される。この例では、サーミスタ103を、モータコイル78に固着してコイル温度を検出しているが、サーミスタ103を、モータコイル78に固着しないで、コイル温度を検出し得る程度にモータコイル78に近づけて設けても良い。また、各相U,V,Wに接続した各コイルの温度をサーミスタ103で個別に計測するようにしてもよい。
また、図3ではリレー101を使用し、車両の電源が投入された非走行時に、3つ全てのリレー接点を開放してコイルの抵抗値を測定する方法を採っているが、リレーを設けなくてもよい。その場合、予め、モータコイル78が正常な状態のコイルの抵抗値が計測される。
【0036】
各閾値について説明する。
前記のように、判定部98bにおいて、コイル抵抗、絶縁抵抗が各閾値を超えたときモータコイル78の異常と判定する。この場合、例えば、実験、シミュレーション等により、モータコイル78に絶縁劣化等の異常が生じていない正常時における、印加電圧と電流値との関係を基準値として記憶しておく。規定の印加電圧に対し絶縁劣化が生じた電流値にさらに計測誤差等を加味した値を、コイル抵抗または絶縁抵抗の判定の際の閾値とする。
また判定部98bにおいて、コイル温度が閾値を超えたときモータコイル78の異常と判定する。この場合、例えば、実験、シミュレーション等により、モータコイル78の正常時における、印加電圧とコイル温度と印加させた時間との関係を基準値として記憶しておく。規定の印加電圧を一定時間モータコイル78に印加させると、正常時のコイル温度は一義的に定まる。この場合に計測されるコイル温度が、基準値よりもα(αは例えば10数%以上)高いと、モータ6に過負荷が生じていると推定される。前記αを、コイル温度の判定の際の閾値とする。
【0037】
走行時異常検出手段99について説明する。
図2に示すように、走行時異常検出手段99は、検出部99aと、判定部99bとを有する。この例では、検出部99aは、車両の走行時に、コイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出する。ECU21がオンで、且つ、回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報または電流検出手段35からのモータ電流からモータ6へ電力供給を行っていると判断されるとき、前記「車両の走行時」であると判定される。前記判定部99bは、検出部99aにて検出されたコイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイル78の異常と判定する。
【0038】
車両の走行時におけるコイル温度の判定の際の閾値は、前記と同様に定められる。つまり、モータコイル78の正常時における、印加電圧とコイル温度と印加させた時間との関係を基準値として記憶しておき、規定の印加電圧を一定時間モータコイルに印加させたときのコイル温度が、前記基準値よりもα(αは例えば10数%以上)高いと、モータ6に過負荷が生じていると推定される。前記αを、コイル温度の判定の際の閾値とする。但し、コイル温度を検出、判定する際、3つ全てのリレー接点が閉じられた状態で、前記規定の印加電圧をモータコイル78に印加させている。
【0039】
車両の走行時における、モータ印加電圧とモータ電流との関係は、モータ回転数に対応して種々設定されている。図5は、この診断装置の走行時異常検出手段99における、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係を示す図である。図5(a)は、モータ回転数がa1rpm以上a2rpm未満のときのモータ印加電圧とモータ電流との関係を示す。この場合の基準値をK1とすると、モータ回転数がa1rpm以上a2rpm未満のとき、任意のモータ印加電圧における基準値K1に対し±Sa(Saは例えば10数%)の範囲内にあるとき、モータ6に過負荷が生じていないと推定される。換言すれば、判定部99bは、モータ回転数がa1rpm以上a2rpm未満のとき、基準値K1に対し±Saの範囲から外れるときモータコイル78の異常と判定する。
【0040】
以下同様に、図5(b)に示すように、判定部99bは、モータ回転数がa2rpm以上a3rpm未満のとき、基準値K1とは異なる基準値K2に対し±Sbの範囲から外れるときモータコイル78の異常と判定する。図5(c)に示すように、判定部99bは、モータ回転数がa3rpm以上a4rpm未満のとき、基準値K3に対し±Scの範囲から外れるときモータコイル78の異常と判定する。±Sa,±Sb,±Scの各範囲が前記設定範囲である。なお、この例では、モータ回転数の領域を3つの領域に分けて、各領域における基準値及び設定範囲を定めているが、必ずしもこの例に限定されるものではない。例えば、モータ回転数の領域を2つの領域に分けて、各領域における基準値及び設定範囲を定めても良いし、モータ回転数の領域を4つ以上の領域に分けて、各領域における基準値及び設定範囲を定めても良い。
【0041】
作用効果について説明する。
車両の電源が投入された非走行時、具体的には、ドライバ等がキー、スタートボタン等の始動手段を、「オフ」から、補機システム25、例えば、ライト、ワイパー等を駆動可能な「アクセサリ電源」の位置に操作してECU21がオンとなったとき、始動時異常検出手段98によりモータコイル78の異常を検出する。後述の車両走行後、ECU21がオンのまま、ECU21がモータ6への加速指令を生成していない場合、および、回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報、車載の各センサの情報等から車両が走行停止状態にあると判定されるときにも、始動時異常検出手段98によりモータコイル78の異常を検出する。
この始動時異常検出手段98における検出部98aは、コイル温度とコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出する。判定部98bは、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と検出する。例えば、モータコイル78に絶縁劣化等の異常が起こると、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超える。このように車両を走行させる前段階などで、例えば走行前のオイル系等の車両全体の異常チェック時の一つのチェック項目として、あるいは走行開始後の停止時に、モータ6の異常を診断し、モータ6に異常が生じていた場合には、前記モータ6等の修理に向かうか、この車両の救援を要請することができる。
【0042】
車両の走行時、つまりECU21がオンで、且つ、回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報または電流検出手段35からのモータ電流からモータ6へ電力供給を行っていると判断されるときには、走行時異常検出手段99によりモータコイル78の異常を検出する。この走行時異常検出手段99における検出部99aは、コイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出する。判定部99bは、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイル78の異常と検出する。車両の走行時にはモータ6が回転している。このモータ回転時、例えば、モータコイル78の短絡異常が発生すると、モータ印加電圧に対してモータ電流が設定範囲から外れて異常に高くなる。またモータ回転数に応じてモータ印加電圧に逆起電力が作用するため、モータ印加電圧とモータ電流との関係は、モータ回転数に応じて時々刻々と変化する。したがって、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係を常時検出することで、モータコイル78の異常と検出し得る。
このように、車両の走行時と、車両の非走行時のいずれの場合でも、モータコイル78の異常を検出でき、電気自動車の信頼性を高めることが可能となる。また、モータ異常への対処を早期に図ることができる。
【0043】
検出用制御部96は、走行時異常検出手段99における判定部99bによりモータコイル78の異常を検出したときに、モータ6の電流値を低減するように、モータ駆動制御部33を介してパワー回路部28に指令しても良い。モータ電流の低減は、現在の電流に対して定められた割合(例えば数%)で低下させても良いし、また定められた値低下させても良い。
モータコイル異常検出手段95をインバータ装置22のモータコントロール部29に設け、モータ6に近い部位でモータコイルの異常判定を行えるため、配線上有利であり、ECU21に設ける場合に比べて迅速な制御が行え、車両走行上の問題を迅速に回避することができる。また高機能化により煩雑化が進むECU21の負担を軽減することができる。
【0044】
ECU21は、車両全般を統括して制御する装置であるため、モータコイル異常検出手段95により異常を検出したとき、ECU21にモータコイル78に異常ありとの異常報告を出力することで、ECU21により車両全体の適切な制御が行える。また、ECU21はインバータ装置22に駆動の指令を与える上位制御手段であり、インバータ装置22による応急的な制御の後、ECU21により、その後の駆動のより適切な制御を行うことも可能となる。
【0045】
また、インホイールモータ駆動装置8の場合、コンパクト化を図る結果、車輪用軸受4、減速機7、およびモータ6は高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。車両の非走行時には始動時異常検出手段98によりモータコイル78の異常を検出でき、車両の走行時には走行時異常検出手段99によりモータコイル78の異常を検出することができるため、モータ6の信頼性をより高めることが可能となる。
【0046】
インホイールモータ駆動装置8における減速機7をサイクロイド減速機として減速比を例えば1/6以上に高くした場合、モータ6の小型化を図り、装置のコンパクト化を図ることができる。モータ6の駆動トルクを、前記のように高い減速比を有する減速機7を介してホイールにトルク伝達するとき、前記駆動トルクは拡大されてホイールにトルク伝達されるため、モータ異常の影響が大きくなるが、車両の非走行時に始動時異常検出手段98により実際の車両が走行する前段階でモータコイル78の異常を検出し得る。そのため、異常検出がより効果的となる。なお、仮に、車両の非走行時に異常が検出されなかったとしても、車両の走行時には走行時異常検出手段99によりモータコイル78の異常を検出し得る。
【0047】
図6に一例を示すように、インホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4とモータ6との間に減速機7を介在させ、車輪用軸受4で支持される駆動輪である車輪2(図2)のハブとモータ6(図6)の回転出力軸74とを同軸心上で連結してある。減速機7は、減速比が1/6以上のものであるのが良い。この減速機7は、サイクロイド減速機であって、モータ6の回転出力軸74に同軸に連結される回転入力軸82に偏心部82a,82bを形成し、偏心部82a,82bにそれぞれ軸受85を介して曲線板84a,84bを装着し、曲線板84a,84bの偏心運動を車輪用軸受4へ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0048】
車輪用軸受4は、内周に複列の転走面53を形成した外方部材51と、これら各転走面53に対向する転走面54を外周に形成した内方部材52と、これら外方部材51および内方部材52の転走面53,54間に介在した複列の転動体55とで構成される。内方部材52は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受4は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体55はボールからなり、各列毎に保持器56で保持されている。上記転走面53,54は断面円弧状であり、各転走面53,54は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材51と内方部材52との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材57でシールされている。
【0049】
外方部材51は静止側軌道輪となるものであって、減速機7のアウトボード側のハウジング83bに取り付けるフランジ51aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ51aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔64が設けられている。また、ハウジング83bには,ボルト挿通孔64に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔94が設けられている。ボルト挿通孔94に挿通した取付ボルト65をボルト螺着孔94に螺着させることにより、外方部材51がハウジング83bに取り付けられる。
【0050】
内方部材52は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ59aを有するアウトボード側材59と、このアウトボード側材59の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材59に一体化されたインボード側材60とでなる。これらアウトボード側材59およびインボード側材60に、前記各列の転走面54が形成されている。インボード側材60の中心には貫通孔61が設けられている。ハブフランジ59aには、周方向複数箇所にハブボルト66の圧入孔67が設けられている。アウトボード側材59のハブフランジ59aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部63がアウトボード側に突出している。このパイロット部63の内周には、前記貫通孔61のアウトボード側端を塞ぐキャップ68が取り付けられている。
【0051】
モータ6は、筒状のモータハウジング72に固定したモータステータ73と、回転出力軸74に取り付けたモータロータ75との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータ(すなわち埋込磁石型同期モータ)である。回転出力軸74は、減速機7のインボード側のハウジング83aの筒部に2つの軸受76で片持ち支持されている。
【0052】
図7は、モータの断面図(図6のVII-VII 断面)を示す。モータ6のロータ75は、軟質磁性材料からなるコア部79と、このコア部79に内蔵される永久磁石80から構成される。永久磁石80は、隣り合う2つの永久磁石がロータコア部79内の同一円周上で断面ハ字状に向き合うように配列される。永久磁石80にはネオジウム系磁石が用いられている。ステータ73は軟質磁性材料からなるコア部77とコイル78で構成される。コア部77は外周面が断面円形とされたリング状で、その内周面に内径側に突出する複数のティース77aが円周方向に並んで形成されている。コイル78は、ステータコア部77の前記各ティース77aに巻回されている。
【0053】
図6に示すように、モータ6には、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を検出する角度センサ36が設けられる。角度センサ36は、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を表す信号を検出して出力する角度センサ本体70と、この角度センサ本体70の出力する信号から角度を演算する角度演算回路71とを有する。角度センサ本体70は、回転出力軸74の外周面に設けられる被検出部70aと、モータハウジング72に設けられ前記被検出部70aに例えば径方向に対向して近接配置される検出部70bとでなる。被検出部70aと検出部70bは軸方向に対向して近接配置されるものであっても良い。角度センサ36はレゾルバであっても良い。このモータ6では、その効率を最大にするため、角度センサ36の検出するモータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度に基づき、モータステータ73のコイル78へ流す交流電流の各波の各相の印加タイミングを、モータコントール部29のモータ駆動制御部33によってコントロールするようにされている。
なお、インホイールモータ駆動装置8のモータ電流の配線や各種センサ系,指令系の配線は、モータハウジング72等に設けられたコネクタ99により纏めて行われる。
【0054】
減速機7は、上記したようにサイクロイド減速機であり、図8のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板84a,84bが、それぞれ軸受85を介して回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着してある。これら各曲線板84a,84bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン86を、それぞれハウジング83bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材60に取り付けた複数の内ピン88を、各曲線板84a,84bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔89に挿入状態に係合させてある。回転入力軸82は、モータ6の回転出力軸74とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸82はインボード側のハウジング83aと内方部材52のインボード側材60の内径面とに2つの軸受90で両持ち支持されている。
【0055】
モータ6の回転出力軸74が回転すると、これと一体回転する回転入力軸82に取り付けられた各曲線板84a,84bが偏心運動を行う。この各曲線板84a,84bの偏心運動が、内ピン88と貫通孔89との係合によって、内方部材52に回転運動として伝達される。回転出力軸74の回転に対して内方部材52の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0056】
前記2枚の曲線板84a,84bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着され、各偏心部82a,82bの両側には、各曲線板84a,84bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部82a,82bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト91が装着されている。
【0057】
図9に拡大して示すように、前記各外ピン86と内ピン88には軸受92,93が装着され、これらの軸受92,93の外輪92a,93aが、それぞれ各曲線板84a,84bの外周と各貫通孔89の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピン86と各曲線板84a,84bの外周との接触抵抗、および内ピン88と各貫通孔89の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板84a,84bの偏心運動をスムーズに内方部材52に回転運動として伝達することができる。
【0058】
図6において、このインホイールモータ駆動装置8の車輪用軸受4は、減速機7のハウジング83bまたはモータ6のハウジング72の外周部で、ナックル等の懸架装置(図3)を介して車体に固定される。
【0059】
他の実施形態について説明する。
図2に示す始動時異常検出手段98は、コイル温度とコイル抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と検出するものであっても良い。この構成において、インバータ31とモータ6とが電気的に接続された状態で、始動時異常検出手段98は、各相のモータコイル78に順次電圧を印加させて、電圧が印加された各相のモータコイル78の電流の計測値から、各相のモータコイル78のコイル抵抗を計測するものとしても良い。コイル抵抗を計測する際、例えば、モータ6の各相のモータコイル78とインバータ31との電気的接続点間に電圧を印加し、その電気的接続点間の電流の計測値から、各相のモータコイル78のコイル抵抗を計測し得る。この場合、モータ6とインバータ31との電気的接続を切り換える切換手段を不要とでき、装置の構造を簡単化できる。
【0060】
また、図2に示す始動時異常検出手段98は、コイル温度と絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイル78の異常と検出するものであっても良い。
始動時異常検出手段98は、計測されたコイル抵抗を、モータコイル78に設けた前記サーミスタで出力されるコイル温度に応じて補正する補正手段を含むものであっても良い。図4に示したように、各相のモータコイル78に順次電圧を印加させて、電圧が印加された各相のモータコイル78の電流の計測値から、各相のモータコイル78のコイル抵抗を計測するが、例えば、車両の走行後直ぐに再始動するような場合には、コイル温度が比較的高く徐々に温度低下していく結果、このコイル温度に応じてコイル抵抗は、長時間停止した車両の始動時のコイル抵抗よりも小さくなる。
【0061】
そこで、非走行時において計測されたコイル抵抗を客観的に判断するために、図10に示すように、補正手段104を始動時異常検出手段98に設けている。この場合、実験等により、コイル温度が基準温度(常温付近で適宜に定めた温度)のときのコイル抵抗と、コイル温度が上昇したときのコイル抵抗を求めておく。求めた複数のコイル抵抗から補正手段104による補正係数Ktを算出し得る。したがって、コイル抵抗をコイル温度に応じて補正係数Ktを掛けて補正することで、非走行時のモータ6の異常をより正確に検出することができる。
モータコイル異常検出手段95を、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU21に設けても良い。
【符号の説明】
【0062】
2…車輪
4…車輪用軸受
6…モータ
7…減速機
8…インホイールモータ駆動装置
78…モータコイル
31…インバータ
98…始動時異常検出手段
99…走行時異常検出手段
101…切換手段
103…サーミスタ
104…補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪をモータにより駆動する電気自動車の前記モータの診断装置であって、
車両の電源が投入されている非走行時に、モータコイルのコイル温度とモータコイルのコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイルの異常と検出する始動時異常検出手段を設け、
車両の走行時に、コイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイルの異常と検出する走行時異常検出手段を設けたことを特徴とする電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項2】
請求項1において、前記始動時異常検出手段は、コイル温度とコイル抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗が閾値を超えたときモータコイルの異常と検出する電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項3】
請求項1において、前記始動時異常検出手段は、コイル温度と絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイルの異常と検出する電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項4】
請求項2において、前記モータを駆動する手段が、直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを有し、
これらモータとインバータとの電気的接続を開閉自在に切り換える切換手段を設け、
前記始動時異常検出手段は、前記切換手段を開放して各相のモータコイルに順次切換えて電圧を印加させて、電圧が印加された各相のモータコイルの電流の計測値から、各相のモータコイルのコイル抵抗を計測するものとした電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項5】
請求項2において、前記モータを駆動する手段が、直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを有し、
前記始動時異常検出手段は、各相のモータコイルに順次電圧を印加させて、電圧が印加された各相のモータコイルの電流の計測値から、各相のモータコイルのコイル抵抗を計測するものとした電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項6】
請求項2、4、5のいずれか1項において、前記モータコイルに近接してサーミスタを設け、前記始動時異常検出手段は、計測されたコイル抵抗を、前記サーミスタで出力されるコイル温度に応じて補正する補正手段を含む電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記モータが、駆動輪である各車輪毎にそれぞれ設けられる電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項8】
請求項7において、前記モータは、一部または全体が車輪内に配置されて前記モータと車輪用軸受と減速機とを含むインホイールモータ駆動装置を構成する電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項9】
請求項8において、前記減速機は、モータの回転を減速するサイクロイド減速機である電気自動車用駆動モータの診断装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項のモータにより駆動可能に構成される電気自動車。
【請求項11】
車輪をモータにより駆動する電気自動車の前記モータの診断方法であって、
車両の電源が投入されている非走行時に、モータコイルのコイル温度とモータコイルのコイル抵抗または絶縁抵抗とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、コイル抵抗もしくは絶縁抵抗が閾値を超えたときモータコイルの異常と検出する始動時異常検出過程と、
車両の走行時に、コイル温度とモータ回転数とモータ印加電圧とモータ電流とを検出し、コイル温度が閾値を超えるか、または、モータ回転数に対応する、モータ印加電圧とモータ電流との関係が設定範囲から外れるときモータコイルの異常と検出する走行時異常検出過程と、を含む電気自動車用駆動モータの診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−186930(P2012−186930A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48633(P2011−48633)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】