説明

作業車の負荷制御装置

【課題】エンジン負荷が大きいほど走行駆動系の変速装置を減速操作するにあたり、走行駆動系とは別の駆動系である外部動力取出軸からの動力で駆動される作業装置が安定的に稼働するように制御できる作業車の負荷制御装置を提供する。
【解決手段】走行駆動系とは別系の外部動力取出軸を介してエンジン動力が伝達されるPTO系作業装置の作動の有無を判別する作業状態検出手段74を備え、PTO系作業装置の作動状態が検出されているときにおける変速操作手段による減速操作量が、PTO系作業装置の非作動状態が検出されているときにおける減速操作量よりも大きくなるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行駆動系に動力を伝達する変速装置と、前記走行駆動系とは別の駆動系として外部動力取出軸を備えている作業車の負荷制御装置において、エンジン負荷が大きいほど前記走行駆動系の変速装置が減速操作されるように制御する制御手段を備えた作業車の負荷制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業車の負荷制御装置としては、過負荷によるエンジンストールを回避するための手段として、従来より下記[1]に示す構造のものが知られている。
[1]走行駆動系に動力を伝達する変速装置としての静油圧式無段変速装置を備えた作業車において、エンジン回転数の設定回転数からの低下量をエンジン負荷として検出し、その検出負荷に応じて静油圧式無段変速装置の斜板位置を負荷軽減側へ制御操作するようにしたもの(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−92952号公報(段落〔0057〕、〔0058〕、図6、図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、エンジン負荷を検出して、その検出負荷に応じて走行駆動系の静油圧式無段変速装置の斜板位置を減速側へ制御操作するようにした作業車では、エンジン負荷を検出して、その検出負荷に応じて斜板位置を減速側へ制御操作する際に、そのエンジン負荷の要因に関わりなく、負荷の総和をエンジン負荷と判断して、走行駆動系の減速操作を行なうものであった。このため、エンジン負荷に対応した減速操作を行なって、エンジンストールを防止する上では有効であるが、走行駆動系とは別の駆動系である外部動力取出軸に作業装置を装備して作業を行う場合には、次のような問題がある。
すなわち、エンジン負荷が走行駆動系のみならずPTO系作業装置との双方の負荷によって生じた場合、走行駆動系の静油圧式無段変速装置の斜板位置を減速側へ制御操作しても、PTO系作業装置の負荷が減少する訳ではないので、エンジン負荷が十分に軽減されない場合がある。この場合には、PTO系作業装置の負荷が大きいものであるほどエンジン回転数がかなり低下してしまうことになる。したがって、比較的高速回転での駆動を使用条件とする作業装置を装備した場合には、その作業装置の駆動を良好に行い難くなる虞があった。
【0005】
本発明の目的は、エンジン負荷が大きいほど走行駆動系の変速装置が減速操作されるように制御するにあたり、走行駆動系とは別の駆動系である外部動力取出軸からの動力で駆動される作業装置が安定的に稼働するように制御できる作業車の負荷制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔解決手段1〕
本発明における作業車の負荷検出装置は、エンジン負荷を検出する負荷検出手段と、走行駆動系に動力を伝達する変速装置の変速操作位置を検出する変速位置検出手段と、前記変速装置の変速操作を行う変速操作手段とを備え、前記負荷検出手段、及び前記変速位置検出手段の検出信号に基づいて、エンジン負荷が大きいほど前記変速装置が減速操作されるように前記変速操作手段の作動を制御する制御信号を出力する制御手段を備えた作業車の負荷制御装置であって、前記走行駆動系とは別系の外部動力取出軸を介してエンジン動力が伝達されるPTO系作業装置の作動の有無を判別する作業状態検出手段を備え、前記制御手段は、前記PTO系作業装置の作動状態が検出されているときにおける前記変速操作手段による減速操作量が、PTO系作業装置の非作動状態が検出されているときにおける減速操作量よりも大きくなるように、前記作業状態検出手段の検出信号に基づく前記変速操作手段への制御信号の出力状態を変更するように構成されていることを特徴とする。
【0007】
〔解決手段1にかかる発明の作用及び効果〕
すなわち、この解決手段1によれば、PTO系作業装置の作動の有無を判別して、PTO系作業装置の作動状態が検出されているときにおける変速操作手段による減速操作量が、PTO系作業装置の非作動状態が検出されているときにおける減速操作量よりも大きくなるように、前記変速操作手段への制御信号の出力状態を変更する。したがって、エンジン負荷が走行駆動系とPTO系作業装置との双方の負荷によって生じたものである場合には、同じ値のエンジン負荷であっても、走行駆動系の負荷のみによって生じた負荷と判断した場合における減速操作量よりも大きな減速操作量で変速操作手段を操作することになるので、エンジンストール防止に必要な量以上の走行減速が行われて、エンジン回転数の低下が極力抑制される。
その結果、エンジンの回転数低下が抑制されたことでPTO系作業装置は良好な駆動状態を維持することができ、また、エンジン回転数の変動が少ないことで燃費の向上にも貢献することになる点でも有利である。
そして、エンジン負荷が走行駆動系の負荷のみによって生じたものである場合には、同じ値のエンジン負荷であっても、エンジンストール防止に必要な量程度の走行減速が行われることになるが、このとき、PTO系作業装置は非作動状態であるから差し支えない。したがって、走行減速が必要以上に行われて走行性能が低下する不具合もない。
【0008】
〔解決手段2〕
解決手段2にかかる発明は、解決手段1で示した作業車の負荷検出装置において、走行駆動系に動力を伝達する変速装置が静油圧式無段変速装置であり、可変容量ポンプの斜板角度を無段階に変更操作するポンプ斜板角操作手段によって変速操作手段が構成され、可変容量ポンプの斜板の操作位置を検出する斜板位置検出手段によって変速位置検出手段が構成され、制御手段は、PTO系作業装置の作動状態が検出されているときにおける前記ポンプ斜板角操作手段による斜板の減速操作量が、前記PTO系作業装置の非作動状態が検出されているときにおける斜板の減速操作量よりも大きくなるように、作業状態検出手段の検出信号に基づく前記ポンプ斜板角操作手段への制御信号の出力状態を変更するように構成されている点に特徴がある。
【0009】
〔解決手段2にかかる発明の作用及び効果〕
すなわち、この解決手段2によれば、走行駆動系に動力を伝達する変速装置として静油圧式無段変速装置を用いたものにおいて、斜板の減速操作量を制御することによって、上記解決手段1で述べた点と同様な、エンジンの回転数低下が抑制されたことでPTO系作業装置は良好な駆動状態を維持することができ、また、エンジン回転数の変動が少ないことで燃費の向上にも貢献することの利点、及び、走行減速が必要以上に行われて走行性能が低下する不具合を避けられる利点がある。
【0010】
〔解決手段3〕
解決手段3にかかる発明は、解決手段1又は2で示した作業車の負荷検出装置において、制御手段は、PTO系作業装置の作動状態が検出されているときにおける変速操作手段による減速操作速度が、前記PTO系作業装置の非作動状態が検出されているときにおける減速操作速度よりも大きくなるように、作業状態検出手段の検出信号に基づく前記変速操作手段への制御信号の出力状態を変更するように構成されている点に特徴がある。
【0011】
〔解決手段3にかかる発明の作用及び効果〕
すなわち、この解決手段3によれば、PTO系作業装置の作動状態が検出されているときにおける変速操作手段による減速操作速度を、PTO系作業装置の非作動状態が検出されているときにおける減速操作速度よりも大きくするので、PTO系作業装置の作動状態で減速操作量が大きくなるにともなって長くなる傾向の操作時間を、減速操作速度の増大によって短縮することができ、その操作中におけるエンジン回転数の低下を極力抑制することができる。
したがって、より一層エンジンの回転数の低下を抑制し、PTO系作業装置の良好な駆動状態を維持することができる利点がある。
【0012】
〔解決手段4〕
解決手段4にかかる発明は、解決手段1、2、又は3で示した作業車の負荷検出装置において、制御手段は、負荷検出手段と変速位置検出手段との検出信号に基づいて検出されるエンジン負荷が大きいほど、変速操作手段による減速操作速度を大きくするように、前記変速操作手段への制御信号の出力状態を変更するように構成されている点に特徴がある。
【0013】
〔解決手段4にかかる発明の作用及び効果〕
すなわち、この解決手段4によれば、エンジン負荷が大きいほど、変速操作手段による減速操作速度を大きくするので、エンジンの回転数低下傾向が強まるエンジン負荷の大きいときに、より速く変速操作手段による減速操作を行なって、その操作中におけるエンジン回転数の低下を極力抑制することができる。
したがって、PTO系作業装置の作動状態で減速操作量が大きくなるにともなって長くなる傾向の減速操作時間を、エンジン負荷の大きさに伴う減速操作速度の増大によって短縮し、この点でもエンジンの回転数の低下を抑制することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の負荷制御装置を適用した作業車を示す全体側面図
【図2】作業車の動力伝達系統を示す概略説明図
【図3】作業車の伝動構造を示す要部の上下方向断面図
【図4】作業車の伝動構造を示す要部の水平方向断面図
【図5】油圧回路図
【図6】制御系統を示すブロック図
【図7】変速ペダルの操作位置とポンプ斜板の操作位置との相関関係を示す図表
【図8】ポンプ斜板の偏差と目標操作速度との相関関係を示す図表
【図9】ポンプ斜板の操作位置とエンジン回転数との相関関係を示す図表
【図10】ポンプ斜板の偏差と目標操作速度との相関関係を示す図表
【図11】モータ斜板切り換え操作時のポンプ斜板の動作を示す図表
【図12】別実施形態におけるポンプ斜板の操作位置とエンジン回転数との相関関係を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
〔作業車の全体構成〕
図1は、本発明の負荷制御装置を適用した作業車の一例であるトラクタの全体側面を示している。
このトラクタは、エンジン1を防振支持する前部フレーム2の左右に前輪3が配備され、エンジン1に連結されるフレーム兼用のミッションケース4の左右に後輪5が配備され、ミッションケース4の上方にステアリングホイール6や運転座席7などを配備して搭乗運転部8が形成されている。
【0016】
図2乃至図4に示すように、エンジン1からの動力は、乾式の主クラッチ9などを介して、主変速装置として機能する静油圧式無段変速装置10に伝達される。そして、その静油圧式無段変速装置10から取り出された走行用動力が、高中低の3段に変速切り換え可能に構成された副変速装置として機能するギヤ式変速装置11や、前輪用差動装置12又は後輪用差動装置13などを介して左右の前輪3及び左右の後輪5に伝達される。
また、静油圧式無段変速装置10から取り出された作業用動力が、油圧式の作業クラッチ14などを介して動力取出軸15に伝達される。
【0017】
ミッションケース4は、主クラッチ9などを内装する第1ケーシング部4A、静油圧式無段変速装置10などを内装する第2ケーシング部4B、作業クラッチ14などを内装する第3ケーシング部4C、及び、ギヤ式変速装置11などを内装する第4ケーシング部4D、などを連結して構成されている。
【0018】
〔静油圧式無段変速装置の構成〕
図2乃至図5に示すように、静油圧式無段変速装置10は、第2ケーシング部4Bに内装したアキシャルプランジャー型の可変容量ポンプ16やアキシャルプランジャー型の可変容量モータ17などを備え、可変容量ポンプ16からの非変速動力を作業用動力として出力し、可変容量モータ17からの変速動力を走行用動力として出力するように構成されている。そして、可変容量ポンプ16と可変容量モータ17とを第1油路18及び第2油路19で接続して形成された閉回路20に、エンジン動力で駆動されるチャージポンプ21からのチャージ油が、チャージ油路22やチェックバルブ23などを介して供給されている。
【0019】
図1及び図4〜6に示すように、このトラクタには、搭乗運転部8に備えた中立復帰型の変速ペダル24の操作などに基づいて、可変容量ポンプ16の斜板16A(以下、ポンプ斜板と称する)を操作するサーボコントロール機構25(変速操作手段の一例)が装備されている。
【0020】
図4乃至図6に示すように、サーボコントロール機構25は、ポンプ斜板16Aを無段階に操作する油圧式のポンプ用シリンダ26(ポンプ斜板角操作手段の一例)、ポンプ用シリンダ26に対する作動油の流動を制御するサーボバルブ27、サーボバルブ27などに対する油圧を設定圧に維持するレギュレータバルブ28を備えている。
そして、このサーボコントロール機構25は、変速ペダル24の操作位置を検出するポテンショメータからなるペダルセンサ29、ポンプ用シリンダ26の操作量からポンプ斜板16Aの操作位置を検出するポテンショメータからなる斜板センサ30(斜板位置検出手段、及び変速位置検出手段の一例)、及び、ペダルセンサ29や斜板センサ30などの検出信号が入力されるマイクロコンピュータからなる制御装置31(制御手段の一例)によって制御されるように構成してある。
【0021】
ポンプ用シリンダ26は、ポンプ斜板16Aを中立位置に復帰付勢する前進減速バネ32及び後進減速バネ33とともに第2ケーシング部4Bに内装されている。このポンプ用シリンダ26の前進変速用の油室34に作動油が供給されることで、前進減速バネ32の付勢力に抗してポンプ斜板16Aを前進増速方向に操作し、後進変速用の油室35に作動油が供給されることで、後進減速バネ33の付勢力に抗してポンプ斜板16Aを後進増速方向に操作するように構成されている。
【0022】
サーボバルブ27は、ポンプ用シリンダ26の前進変速用の油室34に対する作動油の流動を制御する電磁式の前進用比例バルブ36や、ポンプ用シリンダ26の後進変速用の油室35に対する作動油の流動を制御する電磁式の後進用比例バルブ37などを備えて構成されている。
レギュレータバルブ28は、パワーステアリング用の供給ポンプ38から圧送される作動油を、作業クラッチ14と油圧式のパワーステアリング装置39とに、それぞれの作動に適した設定圧で分配するように構成され、作業クラッチ14に対する供給油路40が接続されるレギュレータバルブ28の圧力ポート28Aに、前記サーボバルブ27に対する供給油路41が接続されている。
前記作業クラッチ14へ圧油を供給する供給油路40には、電磁式のクラッチ操作弁75を設けてあり、後述する制御装置31からの指令に基づいてクラッチ操作弁75で油路開閉操作を行うことにより、作業クラッチ14を入り切り操作可能に構成してある。
【0023】
〔制御装置の構成〕
<ポンプ制御関係>
図6に示すように、制御装置31には、変速ペダル24の操作位置とポンプ斜板16Aの操作位置との相関関係を示すマップデータ(相関関係データの一例)と、ポンプ斜板16Aを操作する制御プログラムとを記憶装備したポンプ斜板制御手段31Aが備えられている。
このポンプ斜板制御手段31Aによる前記ポンプ斜板16Aを操作する制御プログラムは、前記記憶されたマップデータやペダルセンサ29の検出値、及び斜板センサ30の検出値などに基づいて、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御し、ポンプ斜板16Aを操作するように構成されている。
【0024】
ポンプ斜板制御手段31Aのマップデータは、変速ペダル24の中立位置から前進増速方向への操作量が大きくなるほど、ポンプ斜板16Aの中立位置から前進増速方向への操作量が大きくなり、変速ペダル24の中立位置から後進増速方向への操作量が大きくなるほど、ポンプ斜板16Aの中立位置から後進増速方向への操作量が大きくなるように、変速ペダル24の操作位置とポンプ斜板16Aの操作位置とを対応させたものである(図7参照)。
【0025】
ポンプ斜板制御手段31Aの制御プログラムは、記憶装備したマップデータとペダルセンサ29の検出値とに基づいて、ペダルセンサ29が検出した変速ペダル24の操作位置に対応するポンプ斜板16Aの操作位置をポンプ斜板16Aの目標操作位置に設定している。そして、その設定した目標操作位置と斜板センサ30の検出値とに基づいて、ポンプ斜板16Aの目標操作位置と実際の操作位置とが一致するように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御するように構成されている。この制御作動で、変速ペダル24の操作位置に応じた速度で車体を前進又は後進させることができる。
【0026】
つまり、サーボコントロール機構25は、ペダルセンサ29の検出値及び斜板センサ30の検出値に基づいて、ポンプ斜板制御手段31Aが、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御することで、ポンプ用シリンダ26を作動させて静油圧式無段変速装置10のポンプ斜板16Aを操作する電子式で、かつ、レギュレータバルブ28の圧力ポート28Aを経由した前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の出力圧力でポンプ用シリンダ26をダイレクトに駆動する直動型に構成されている。
これによって、静油圧式無段変速装置10の閉回路20での圧力変動やエンジン回転数の変動で圧力が変動するチャージ油路22からの出力圧力でポンプ用シリンダ26を駆動する場合に比較して、安定したサーボパイロット圧を得ることができ、ポンプ用シリンダ26の作動制御を精度良く行えるようになる。その結果、サーボコントロール機構25を安価な直動型に構成しながら、ペダルセンサ29の検出及び斜板センサ30の検出に基づいて、変速ペダル24の操作位置に応じた速度で車体を前進又は後進させる車速制御を精度良く行える。
【0027】
前記制御装置31には、ポンプ斜板制御手段31Aで設定されたポンプ斜板16Aの目標操作位置と斜板センサ30の検出値とに基づいてポンプ斜板16Aの目標操作位置と実際の操作位置との偏差を算出する演算プログラムと、その偏差とポンプ斜板16Aの操作速度との相関関係を示す複数のマップデータ(相関関係データの一例)と、それらのマップデータと前記演算プログラムの算出結果とに基づいてポンプ斜板16Aの目標操作速度を設定する制御プログラムとを記憶装備した操作速度設定手段31Bが備えられている。
【0028】
操作速度設定手段31Bの各マップデータは、斜板センサ30で検出されるポンプ斜板16Aの実際の操作位置と、ポンプ斜板制御手段31Aで設定されるポンプ斜板16Aの目標操作位置との偏差が大きい場合に、ポンプ斜板16Aの操作速度が速くなるように、ポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたものである(図8参照)。
又、この操作速度設定手段31Bの各マップデータは、後進時でのポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が、前進時でのポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度よりも遅くなるように設定して、ポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたものでもある(図8参照)。
【0029】
つまり、操作速度設定手段31Bの制御プログラムは、記憶装備したマップデータと演算プログラムの算出結果とに基づいて算出したポンプ斜板16Aの操作速度をポンプ斜板16Aの目標操作速度に設定し、その設定した目標操作速度をポンプ斜板制御手段31Aに出力するように構成されている。
【0030】
このようにポンプ斜板制御手段31Aの制御プログラムは、車速制御において、操作速度設定手段31Bで設定された目標操作速度でポンプ斜板16Aが操作されるように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御するように構成されている。この制御作動によって、変速ペダル24の操作に対するポンプ斜板16Aの応答性を高めながらハンチングの発生を抑制することができ、その結果、変速ペダル24の操作位置に応じた速度に、車速を迅速かつ正確に到達させることができる。
又、後進時でのポンプ斜板16Aの操作速度が、前進時でのポンプ斜板16Aの操作速度よりも遅くなって、後進時での静油圧式無段変速装置10の変速操作が、前進時での静油圧式無段変速装置10の変速操作に比較して緩やかに行われ、前進時に比較して速度感覚をつかみ難い後進時での静油圧式無段変速装置10の変速操作が行い易くなる。
【0031】
図6に示すように、前記制御装置31には、操作速度設定手段31Bが選択使用するマップデータを変更する制御プログラムを備えたデータ変更手段31Cが備えられている。このデータ変更手段31Cは、以下に示すように、種々の状況に応じて操作速度設定手段31Bが使用するマップデータを適切に変更するように構成されている。
【0032】
データ変更手段31Cは、搭乗運転部8に備えたポテンショメータからなる調節ダイヤル42の操作位置に基づいて、使用するマップデータを、ポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更するように構成されている。
すなわち、調節ダイヤル42の操作位置が基準位置からクイック側に大きく変更されるほど、ポンプ斜板16Aの操作が速やかに行われるように、使用するマップデータを、ポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が速くなるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
又、調節ダイヤル42の操作位置が基準位置からスムーズ側に大きく変更されるほど、ポンプ斜板16Aの操作が緩やかに行われるように、使用するマップデータを、ポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が遅くなるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
【0033】
つまり、調節ダイヤル42を操作することで、変速ペダル24で静油圧式無段変速装置10を変速操作する際の操作フィーリングを、運転者の好みに応じたものに変更することができ、操作フィーリングや変速操作性の向上を図ることができる。
【0034】
また、データ変更手段31Cは、レギュレータバルブ28に供給される作動油の温度を検出する油温センサ43の検出に基づいて、作動油の温度が低いほど、ポンプ斜板16Aの操作が緩やかに行われるように、使用するマップデータを、油温の低下に応じてポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が遅くなるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
【0035】
つまり、作動油の温度が低下するほど、作動油の粘性が高くなって、油圧操作されるポンプ斜板16Aの応答性が低下することを考慮して、作動油の温度が低いほど、ポンプ斜板16Aの目標操作速度が遅い速度に設定されるようにしているのであり、これによって、作動油の温度を考慮しない場合には、作動油の温度が低下するほど招き易くなる、ポンプ斜板16Aの応答性の低下に起因したハンチングの発生を抑制できる。
【0036】
前記データ変更手段31Cは、搭乗運転部8に備えた副変速レバー44の操作位置からギヤ式変速装置11の変速段を検出して使用するマップデータを選択するように構成されている。
すなわち、前記副変速レバー44の操作位置をポテンショメータからなる副変速センサ45によって検出し、この検出結果に基づいて、ギヤ式変速装置11の変速段が高速側であるほど、ポンプ斜板16Aの操作が速やかに行われるように、使用するマップデータを、ギヤ式変速装置11の変速段の上昇に応じてポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が速くなるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
【0037】
つまり、ギヤ式変速装置11の変速段が高速側に設定されるほど、ポンプ斜板16Aの目標操作速度が、ポンプ斜板16Aの操作に対する反応が遅くなることを考慮した速い速度に設定されるようになっており、これによって、ギヤ式変速装置11の変速段にかかわらず、変速ペダル24で静油圧式無段変速装置10を変速操作する際の操作フィーリングを同じにすることができる。
【0038】
さらに、データ変更手段31Cは、変速ペダル24の操作速度を検出する操作速度検出手段46の検出に基づいて使用するマップデータを変更するように構成されている。つまり、変速ペダル24の操作速度が遅くなるほど、ポンプ斜板16Aの操作が緩やかに行われるように、変速ペダル24の操作速度の低下に応じてポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が遅くなるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
【0039】
その結果、変速ペダル24が微速操作される場合であっても、ポンプ斜板16Aは、変速ペダル24の操作に遅れて変速ペダル24を追従するようになって、変速ペダル24の操作にポンプ斜板16Aの操作が追いついて階段状に有段変速操作される虞を回避できることから、変速ペダル24の操作速度にかかわらず、変速ペダル24による静油圧式無段変速装置10の変速操作をスムーズに行える。
【0040】
尚、操作速度検出手段46は、ペダルセンサ29と、そのペダルセンサ29の検出に基づいて変速ペダル24の操作速度を算出するようにデータ変更手段31Cに備えられた演算プログラムとから構成されている。
【0041】
データ変更手段31Cは、斜板センサ30の検出に基づいて、ポンプ斜板16Aの操作位置が中立位置又は中立位置の近傍であることが検出された場合には、ポンプ斜板16Aの操作が緩やかに行われるように、使用するマップデータを、ポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が低速側に制限されるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
【0042】
その結果、ポンプ斜板16Aが中立位置又は中立位置の近傍に位置する場合に、変速ペダル24の急激な踏み込み操作が行われたとしても、その踏み込み操作に伴ってポンプ斜板16Aが急速に増速操作されることはなく、ポンプ斜板16Aが緩やかに増速操作されることから、変速ペダル24が急激に大きく踏み込み操作されても、急発進や微速からの急加速が防止されたスムーズな発進や加速を行える。
【0043】
データ変更手段31Cは、制動装置(図示せず)の制動状態に対応してポンプ斜板16Aの操作速度が変更されるように、搭乗運転部8に備えたブレーキペダル48の操作位置を検出するポテンショメータからなるブレーキセンサ49の検出に基づいて、使用するマップデータを選択し得るように構成されている。
これによって、制動装置が制動作動している場合には、使用するマップデータを、制動装置の制動作動による車速の低下を考慮してポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が速くなるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
【0044】
これによって、変速ペダル24の踏み込み操作を解除してブレーキペダル48を踏み込み操作した制動作動時における静油圧式無段変速装置10と制動装置との干渉を抑制でき、もって、静油圧式無段変速装置10及び制動装置の耐久性の向上を図ることができる。
【0045】
データ変更手段31Cは、ギヤ式変速装置11の出力回転数から車速を検出する車速センサ50の検出に基づいて、車速が遅い場合には、ポンプ斜板16Aの操作が緩やかに行われるように、使用するマップデータを、車速の低下に応じてポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が遅くなるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
【0046】
これによって、低速走行時には、変速ペダル24の操作に対するポンプ斜板16Aの応答性が低下することになり、もって、低速走行時に要求される車速のインチング操作が行い易くなる。
【0047】
データ変更手段31Cは、ポンプ斜板16Aの増速側への操作と減速側への操作とで、ポンプ斜板16Aの操作速度が異なるようにポンプ斜板16Aの操作方向とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
すなわち、斜板センサ30の検出と、ポンプ斜板制御手段31Aで設定されたポンプ斜板16Aの目標操作位置とに基づいて、ポンプ斜板16Aの目標操作位置が実際の操作位置よりも増速側に設定された場合には、ポンプ斜板16Aの操作が緩やかに行われるように、ポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。又、ポンプ斜板16Aの目標操作位置が実際の操作位置よりも減速側に設定された場合には、ポンプ斜板16Aの操作が速やかに行われるように、ポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
更に、ポンプ斜板16Aの目標操作位置と実際の操作位置とが中立位置を挟む場合には、ポンプ斜板16Aの操作がより一層速やかに行われるように、使用するマップデータを、ポンプ斜板16Aの目標操作位置と実際の操作位置との位置関係に応じてポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
【0048】
これによって、変速ペダル24による静油圧式無段変速装置10の増速操作と減速操作とで操作フィーリングを換えることができる。又、静油圧式無段変速装置10の増速操作によるエンジン負荷の増大を抑制できるとともに、静油圧式無段変速装置10の減速操作によるエンジン負荷の軽減を促進できることから、高負荷時での変速ペダル24による静油圧式無段変速装置10の変速操作に起因してエンジン1が停止する虞を軽減できる。更に、変速ペダル24の操作に対するポンプ斜板16Aの操作遅れが抑制された違和感のない変速ペダル24による静油圧式無段変速装置10の前後進切り換え操作を行える。
【0049】
データ変更手段31Cは、走行開始時と走行停止時とで、ポンプ斜板16Aの操作速度が異なるようにポンプ斜板16Aの操作時点とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
すなわち、斜板センサ30の検出と、ポンプ斜板制御手段31Aで設定されたポンプ斜板16Aの目標操作位置とに基づいて、ポンプ斜板16Aが中立位置から増速操作される走行開始時には、起動時に応じてポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が遅くなるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
又、ポンプ斜板16Aが増速位置から中立位置に減速操作される走行停止時には、ポンプ斜板16Aの操作が速やかに行われるように、使用するマップデータを、停止時に応じてポンプ斜板16Aの偏差に対するポンプ斜板16Aの操作速度が速くなるようにポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させたマップデータに変更する。
【0050】
これによって、変速ペダル24の操作による走行開始時と走行停止時とで操作フィーリングを換えることができるとともに、走行開始時に急発進する虞を抑制できる。
【0051】
ちなみに、操作速度設定手段31Bのマップデータとして、前進時の変速操作速度を設定するための前進用のマップデータと、後進時の変速操作速度を設定するための後進用のマップデータとを備え、データ変更手段31Cが、ペダルセンサ29の検出に基づいて、使用するマップデータを変更するように構成してもよい。
【0052】
ところで、前進減速バネ32と後進減速バネ33とでポンプ斜板16Aの中立復帰操作(減速操作)を行う場合には、トレーラ作業時の慣性などで、変速ペダル24の減速操作にかかわらず、ポンプ斜板16Aの中立位置に向けた減速操作が行われ難くなることがある。
【0053】
そこで、ポンプ斜板制御手段31Aは、ペダルセンサ29の検出と斜板センサ30の検出とに基づいて、変速ペダル24の減速操作にかかわらず、前進減速バネ32又は後進減速バネ33によるポンプ斜板16Aの減速操作が行われていないことを検知した場合には、ポンプ斜板16Aを現在の操作位置に増速操作する際に使用した側とは反対側の前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御して、ポンプ斜板16Aが中立位置に向けて減速操作される方向にポンプ用シリンダ26を強制作動させるように構成されている。
【0054】
その結果、トレーラ作業時の慣性などで、変速ペダル24の減速操作にかかわらずポンプ斜板16Aが減速操作されない場合であっても、ポンプ斜板制御手段31Aによる前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動制御で、ポンプ用シリンダ26を強制作動させることで、ポンプ斜板16Aを減速操作させることができる。
【0055】
制御装置31には、搭乗運転部に備えたアクセルレバー51の操作位置からエンジン1の設定回転数を検出するポテンショメータからなる設定回転検出センサ52の検出と、エンジン1の回転数を検出する回転センサ47の検出とに基づいて、エンジン回転比率(操縦部に備えたアクセルレバー51等のアクセル操作具によって設定されるエンジン1の設定回転数と、回転センサ47で検出されるエンジン1の実際の回転数との比をいう)を算出する演算プログラムと、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置との相関関係を示す複数のマップデータと、その演算プログラムの算出結果と前記マップデータとに基づいて前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御してポンプ斜板16Aを自動操作する自動変速制御プログラムとを記憶装備した自動ポンプ斜板制御手段31Dが備えられている。
【0056】
この自動ポンプ斜板制御手段31Dでは、エンジン回転数の設定回転数からの低下率に伴ってポンプ斜板16Aを自動的に操作するにあたって、エンジン回転比率とポンプ斜板16Aの操作位置との関係を設定するマップデータとして、走行時におけるエンジンストール回避に適したエンジン回転数とポンプ斜板16Aとの関係を設定した走行用マップデータ(図9のラインL1参照)と、その走行用マップデータよりも、エンジン回転数の変化に対するポンプ斜板16Aの操作位置の変化の割合を大きくした作業用マップデータ(図9のラインL2参照)との2種のマップデータを備えている。
【0057】
この自動ポンプ斜板制御手段31Dが備える前記自動変速制御プログラムは、前記搭乗運転部8に備えたPTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74(作業状態判別手段の一例)からの信号に基づいて、作業クラッチ14の入り切り操作を行うための操作信号を前記クラッチ操作弁75に出力するとともに、その入り切り状態を判別する判別プログラムと、エンジン回転比率に対応するポンプ斜板16Aの制御操作位置を、前記2種のマップデータのうちのいずれかに基づいて、つまり作業クラッチ14の切り状態では走行用マップデータに基づいて、作業クラッチ14の入り状態では作業用マップデータに基づいて設定する演算プログラムとを備えている。
そして、ポンプ斜板16Aの実際の操作位置を検出する斜板センサ30の検出値と前記演算プログラムで設定された制御目標位置とを検出して、ポンプ斜板16Aの制御目標位置と実際の操作位置とを一致させるように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御するように構成されている。
【0058】
図9では縦軸にエンジン回転比率を示し、横軸に斜板操作位置を示している。
縦軸のエンジン回転比率とは、操縦部に備えたアクセルレバー51等のアクセル操作具によって設定されるエンジン1の設定回転数と、回転センサ47で検出されるエンジン1の実際の回転数との比である。縦軸の100%は、エンジン1の設定回転数と、エンジン1の実際の回転数とが同じ値であることを示す。多くの場合、この種の作業クラッチ14を備えるトラクタなどの作業車では、作業車としての能力を最大限に利用するため、設定回転数として最大回転数、又はそれに近い位置に設定して用いることが多い。
【0059】
横軸の斜板操作位置は、ポンプ斜板16Aの最大傾転角を100%として、ポンプ斜板16Aの操作範囲内におけるポンプ斜板16Aの操作位置の比を示している。つまり、前記ポンプ斜板16Aの最大傾転角に対する前記演算プログラムで設定された制御目標位置に相当する斜板角や、実際に斜板センサ30で検出されるポンプ斜板16Aの操作位置に相当する斜板角を比率で示している。
【0060】
上記自動ポンプ斜板制御手段31Dで用いられるエンジン回転比率とポンプ斜板16Aの操作位置との相関関係を示す複数のマップデータについて説明する。
図9に示すラインL1は、エンジン回転比率とポンプ斜板16Aの変速操作位置との相関関係を示すラインのうち、PTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74が、作業クラッチ14の切り状態を検出している状態での相関関係を示す走行用マップデータで表されるラインである。
また、同図のラインL2は、エンジン回転比率とポンプ斜板16Aの変速操作位置との相関関係を示すラインのうち、PTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74が、作業クラッチ14の入り状態を検出している状態での相関関係を示す作業用マップデータで表されるラインである。
【0061】
詳述すると、図9に示すように、予め設定したエンジン回転領域hのうち、エンジン回転比率の大きい第1領域h1では、エンジン回転数の変化率に対してポンプ斜板16Aの変化率が大きくなるように、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置とを対応させてある。
第1領域h1よりもエンジン回転比率の小さい第2領域h2では、エンジン回転数の変化率に対してポンプ斜板16Aの変化率が前記第1領域h1での変化よりも小さくなるように、エンジン回転比率とポンプ斜板16Aの操作位置とを対応させてある。
第2領域h2よりもエンジン回転比率の小さい第3領域h3では、エンジン回転数の変化率に対してポンプ斜板16Aの変化率が前記第2領域h2での変化よりも大きくなるように、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置とを対応させてある。
【0062】
そして、自動ポンプ斜板制御手段31Dの制御プログラムは、PTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74が作業クラッチ14の切り状態を検出している状態では、前記ラインL1の走行用マップデータに基づいて、演算プログラムが算出したエンジン回転比率に対応するポンプ斜板16Aの操作位置をポンプ斜板16Aの制御目標位置に設定し、その設定した制御目標位置と斜板センサ30の検出とに基づいて、ポンプ斜板16Aの制御目標位置と実際の操作位置とが一致するように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御するように構成されている。
【0063】
この制御作動によって、トラクタにPTO系の動力で駆動される作業装置ではないフロントローダAを連結装備して走行するローダ作業時や、路上走行時などにおいて、運転者が走行負荷などを考慮した変速操作を行わなくても、過負荷によるエンジンストールを防止できるようにする負荷制御を行うことができ、もって、操作性や作業性の向上を図ることができる。
【0064】
そして、PTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74が、作業クラッチ14の入り状態を検出している状態では、前記ラインL2の作業用マップデータに基づいて、演算プログラムが算出したエンジン回転数に対応するポンプ斜板16Aの操作位置をポンプ斜板16Aの制御目標位置に設定し、その設定した制御目標位置と斜板センサ30の検出とに基づいて、ポンプ斜板16Aの制御目標位置と実際の操作位置とが一致するように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御するように構成されている。
【0065】
この制御作動では、ポンプ斜板16Aの制御目標位置が、エンジン回転数が所定回転数以下になると、エンジンストールの回避に必要な程度以上に大きく軽負荷側に設定される。
すなわち、図9に示すように、エンジン回転比率が図中のラインxのレベルまで低下した場合、作業クラッチ14の切り状態を検出している状態では、ポンプ斜板16Aの制御目標位置は、前記ラインL1の走行用マップデータに基づいて、ラインL1上の点a1に対応する位置y1に設定される。
ところが、同じくエンジン回転比率が図中のラインxのレベルまで低下した場合でも、作業クラッチ14の入り状態を検出している状態では、ポンプ斜板16Aの制御目標位置は、前記ラインL2の作業用マップデータに基づいて、ラインL2上の点a2に対応する位置y2に設定される。
このように、ポンプ斜板16Aの操作位置を、エンジンストールの回避に必要な程度の位置y1よりも大きく走行負荷が軽減された位置y2にまでポンプ斜板16Aの斜板角を変更している。
【0066】
その結果、エンジン1に作用する負荷のうち、静油圧式無段変速装置10を経て駆動される走行系からの負荷が大きく低減されることで、エンジン1自体の過負荷による回転数低下を効果的に抑制することができる。これに伴い、エンジン1側の回転数が高速に保たれて、動力取出軸15から駆動力を伝達されるPTO系作業装置(図外)の駆動回転数の低下が抑制されることになる。
ここでいうPTO系作業装置とは、走行系とは別に前記動力取出軸15から取り出された駆動力で駆動される作業装置であり、例えば、草刈用のモーアや、除雪装置など、比較的高速で回転駆動される作業装置である。
【0067】
前記自動ポンプ斜板制御手段31Dの制御プログラムは、図10に示すように、斜板センサ30で検出されるポンプ斜板16Aの実際の操作位置と、自動ポンプ斜板制御手段31Dで設定されるポンプ斜板16Aの制御目標位置との偏差が大きい場合に、ポンプ斜板16Aの操作速度が速くなるように、ポンプ斜板16Aの偏差とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させるように構成してある。
このポンプ斜板16Aの操作速度が偏差の大きさに対応して速くなるときの速度は、作業クラッチ14の切りが検出されている場合よりも、前記作業クラッチ14の入り状態が検出されている場合の方が速くなるように設定されている。
そして、これに加えて、ポンプ斜板16Aの操作移動方向が斜板センサ30で検出され、図中に二点鎖線で示すようにポンプ斜板16Aを倒す側(増速側)への操作を行なう場合よりも、図中に実線で示すように、ポンプ斜板16Aを戻す側(減速側)へのポンプ斜板16Aの操作速度が速くなるように、ポンプ斜板16Aの操作方向とポンプ斜板16Aの操作速度とを対応させて構成してある。
【0068】
<モータ制御関係>
このトラクタには、可変容量モータ17の斜板17A(以下、モータ斜板と称する)を高低2段に切り換え操作する切換機構54が装備されている。
【0069】
切換機構54は、モータ斜板17Aを操作する油圧式のモータ用シリンダ55(モータ用操作手段の一例)、このモータ用シリンダ55に対する作動油の流動を制御する切換バルブ56、この切換バルブ56を操作する電磁式の制御バルブ57、この制御バルブ57に静油圧式無段変速装置10の閉回路20からの作動油の供給を可能にする高圧選択バルブ58、ステアリングホイール6の左下方に配備した切換レバー59、この切換レバー59の操作位置を検出するスイッチからなるレバーセンサ60、及び、このレバーセンサ60の検出に基づいてモータ斜板17Aの高低切り換え操作を行う制御プログラムとして制御装置31に備えられたモータ斜板制御手段31E、などを備えて構成されている。
【0070】
モータ用シリンダ55は、ミッションケース4の第2ケーシング部4Bに、可変容量モータ17とともに着脱可能に内装されている。
【0071】
モータ斜板制御手段31Eは、レバーセンサ60の検出に基づいて、切換レバー59が低速位置に操作された場合には、モータ斜板17Aを高速位置から低速位置に切り換え操作する高低切換制御を行うとともに、対応する表示灯61を点灯させ、又、切換レバー59が高速位置に操作された場合には、モータ斜板17Aを低速位置から高速位置に切り換え操作する低高切換制御を行うとともに、対応する表示灯62を点灯させるように構成されている。
【0072】
つまり、切換レバー59を高速位置に設定した登坂走行時や作業走行時における走行負荷の増大に起因して走行速度が大幅に低下する場合には、切換レバー59を高速位置から低速位置に切り換えることで、左右の前輪3及び左右の後輪5に対する駆動力を増大させることができ、もって、登坂走行や作業走行を継続させることができる。
【0073】
尚、表示灯61,62は、ステアリングホイール6の下方に配備された操作パネル63に配備されている。
【0074】
モータ斜板制御手段31Eは、その高低切換制御では、先ず、斜板センサ30の検出に基づいて、ポンプ斜板16Aの現在の操作位置を記憶するとともに、ポンプ斜板16Aの減速目標操作位置を算出し、その算出した減速目標操作位置までポンプ斜板16Aが予め設定した操作速度で減速操作されるように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御する。そして、ポンプ斜板16Aが減速目標操作位置に到達した後に、ポンプ斜板16Aの記憶した操作位置への予め設定した操作速度での復帰増速操作と、予め設定した操作速度でのモータ斜板17Aの高速位置から低速位置への切り換え操作とが同時に行われるように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動と制御バルブ57の作動とを制御するように構成されている〔図11の(a)参照〕。
【0075】
又、その低高切換制御では、先ず、斜板センサ30の検出に基づいて、ポンプ斜板16Aの現在の操作位置を記憶するとともに、ポンプ斜板16Aの減速目標操作位置を算出し、その算出した減速目標操作位置へのポンプ斜板16Aの予め設定した操作速度での減速操作と、予め設定した操作速度でのモータ斜板17Aの低速位置から高速位置への切り換え操作とが同時に行われるように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動と制御バルブ57の作動とを制御する。その後、記憶した操作位置までポンプ斜板16Aが予め設定した操作速度で復帰増速操作されるように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御するように構成されている〔図11の(b)参照〕。
【0076】
つまり、モータ斜板17Aを高速位置から低速位置に切り換える際には、その切り換え操作だけでなく、ポンプ斜板16Aの増速操作を同時に行うことで、モータ斜板17Aの高速位置から低速位置への切り換え操作に伴って発生する可変容量モータ17での容量変化を、ポンプ斜板16Aの増速操作に伴って発生する可変容量ポンプ16での容量変化で相殺することができる。又、モータ斜板17Aを低速位置から高速位置に切り換える際には、その切り換え操作だけでなく、ポンプ斜板16Aの減速操作を同時に行うことで、モータ斜板17Aの低速位置から高速位置への切り換え操作に伴って発生する可変容量モータ17での容量変化を、ポンプ斜板16Aの減速操作に伴って発生する可変容量ポンプ16での容量変化で相殺することができる。もって、モータ斜板17Aの切り換え操作によって発生する変速ショックを緩和することができる。
【0077】
尚、図示は省略するが、切換バルブ56に換えて高速応答バルブを採用し、モータ斜板制御手段31Eが、モータ斜板17Aの切り換え操作を行う場合には、モータ斜板17Aの操作速度が低下するように高速応答バルブをデューティ制御することで、モータ斜板17Aを切り換える際に発生する可変容量モータ17での容量変化を緩慢にして、可変容量モータ17での容量変化に起因した変速ショックを緩和するようにしてもよい。
【0078】
ちなみに、モータ斜板制御手段31Eを、モータ斜板17Aを高速位置に切り換えた走行状態においては、ブレーキセンサ49の検出に基づいて、制動装置の制動作動に連動して高低切換制御を行うように構成して、制動性の向上を図るようにしてもよい。
【0079】
又、モータ斜板制御手段31Eを、モータ斜板17Aを高速位置に切り換えた走行状態においては、ペダルセンサ29の検出と斜板センサ30の検出とに基づいて、変速ペダル24の減速操作にかかわらず、前進減速バネ32又は後進減速バネ33によるポンプ斜板16Aの減速操作が行われていないことを検知した場合に、高低切換制御を行うように構成して、トレーラ作業時の慣性などで、変速ペダル24の減速操作にかかわらずポンプ斜板16Aが減速操作されない場合には、高低切換制御による減速操作が行われるようにしてもよい。
【0080】
更に、モータ斜板制御手段31Eを、モータ斜板17Aを高速位置に切り換えた状態においては、操作速度検出手段46の検出に基づいて、変速ペダル24の操作速度が予め設定した操作速度よりも速い場合に高低切換制御を行うように構成して、急発進や急加速を防止するようにしてもよい。
【0081】
図1に示すように、切換レバー59は、その操作端がステアリングホイール6の左部近傍に位置するように延設されており、これによって、ステアリングホイール6から手を離すことなく、モータ斜板17Aの高低切り換え操作を行える。又、トラクタにフロントローダA(図6参照)を連結装備した場合には、ステアリングホイール6の右側に配備されるフロントローダ操作用の操作レバー(図示せず)から手を離すことなく、モータ斜板17Aの高低切り換え操作を行える。
【0082】
データ変更手段31Cは、フロントローダAなどの作業装置を昇降操作可能に連結装備した作業状態において、その作業装置の高さ位置を検出するポテンショメータからなる高さセンサ70を装備した場合には、高さセンサ70の検出に基づいて、作業装置が予め設定した高さ以上の高さ位置(例えば車高を越える高さ位置)まで上昇操作されるのに伴って、ポンプ斜板制御手段31Aが使用する変速ペダル24の操作位置とポンプ斜板16Aの操作位置との相関関係を示すマップデータを、ポンプ斜板制御手段31Aに記憶装備されている作業装置上昇時用のマップデータに変更するように構成されている。
【0083】
作業装置上昇時用のマップデータは、通常使用するマップデータに比較して、変速ペダル24の操作位置に対するポンプ斜板16Aの操作位置が低速側に設定されたものであって(図7参照)、このマップデータを、ポンプ斜板制御手段31Aが使用することで車速が低速側に制限されることになり、作業装置を設定高さ以上に上昇させた不安定状態での高速走行が阻止されることになる。
【0084】
図4及び図5に示すように、サーボコントロール機構25は、サーボバルブ27とレギュレータバルブ28と斜板センサ30とが、油温センサ43とともに、ミッションケース4における第2ケーシング部4Bの右側部に着脱可能にボルト連結されるケーシング71に内装されて、電子式操作機構72として1ブロックにユニット化されている。
【0085】
尚、図4に示す符号77は、電子式のサーボコントロール機構25においては、ポンプ用シリンダ26と斜板センサ30とにわたって架設されたフィードバックアームとして使用される連係アームである。
【0086】
又、図5に示す符号78,79は、第2ケーシング部4Bの右側部に電子式操作機構72をボルト連結した際に、第2ケーシング部4Bのケーシング71との接合面に形成された各連通口80,81に対応して接続されるように、ケーシング71の第2ケーシング部4Bとの接合面に形成された連通口である。
【0087】
図4及び図5に示すように、切換機構54は、切換バルブ56と制御バルブ57と高圧選択バルブ58とが、ミッションケース4における第2ケーシング部4Bの左側部に着脱可能にボルト連結されるケーシング83に内装されて、操作機構84として1ブロックにユニット化されている。
【0088】
尚、図5に示す符号93〜98は、第2ケーシング部4Bの左側部に切換機構54をボルト連結した際に、第2ケーシング部4Bの各連通口86〜91に対応して接続されるように、ケーシング83の第2ケーシング部4Bとの接合面に形成された連通口である。
【0089】
〔別実施形態の1〕
上記の実施形態では、制御装置31に装備される自動ポンプ斜板制御手段31Dとして、エンジン回転数の設定回転数からの低下率に伴ってポンプ斜板16Aを自動的に操作するように構成したものを示したが、これに限らず、自動ポンプ斜板制御手段31Dとしては、図12に示すように、エンジン回転数の設定回転数として、最高速またはそれに近い速度を設定し、その設定回転数からの低下量に伴ってポンプ斜板16Aを自動的に操作するように構成したものであってもよい。
【0090】
この実施形態における制御装置31に備えられた自動ポンプ斜板制御手段31Dでは、搭乗運転部に備えたアクセルレバー51の操作位置からエンジン1の設定回転数を検出するポテンショメータからなる設定回転検出センサ52の検出と、エンジン1の回転数を検出する回転センサ47の検出とに基づいて、エンジン回転数の設定回転数からの低下量(以下、エンジンドロップ量と称する。)を算出する演算プログラムと、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置との相関関係を示す複数のマップデータと、その演算プログラムの算出結果と前記マップデータとに基づいて前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御してポンプ斜板16Aを自動操作する自動変速制御プログラムとを記憶装備している。制御装置31の、その他の構成については、先の実施形態で説明した制御装置31と同様の構成を備えている。
【0091】
前記自動ポンプ斜板制御手段31Dでは、エンジン回転数の設定回転数からの低下量に伴ってポンプ斜板16Aを自動的に操作するにあたって、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置との関係を設定するマップデータとして、走行時におけるエンジンストール回避に適したエンジン回転数とポンプ斜板16Aとの関係を設定した走行用マップデータ(図12のラインL1参照)と、その走行用マップデータよりも、エンジン回転数の変化に対するポンプ斜板16Aの操作位置の変化の割合を大きくした作業用マップデータ(図12のラインL2参照)との2種のマップデータを備えている。
【0092】
この自動ポンプ斜板制御手段31Dが備える前記自動変速制御プログラムは、前記搭乗運転部8に備えたPTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74からの信号に基づいて、作業クラッチ14の入り切り操作を行うための操作信号を前記クラッチ操作弁75に出力するとともに、その入り切り状態を判別する判別プログラムと、エンジン回転数に対応するポンプ斜板16Aの制御目標位置を、前記2種のマップデータのうちのいずれかに基づいて、つまり作業クラッチ14の切り状態では走行用マップデータに基づいて、作業クラッチ14の入り状態では作業用マップデータに基づいて設定する演算プログラムとを備えている。
そして、ポンプ斜板16Aの実際の操作位置を検出する斜板センサ30の検出値と前記演算プログラムで設定された制御目標位置とを検出して、ポンプ斜板16Aの制御目標位置と実際の操作位置とを一致させるように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御するように構成されている。
【0093】
上記自動ポンプ斜板制御手段31Dで用いられるエンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置との相関関係を示す複数のマップデータについて説明する。
図12に示すラインL0は、ポンプ斜板16Aの操作位置の制御には直接関わるものではないが、走行負荷によって静油圧式無段変速装置10の高圧リリーフが噴くようになる静油圧式無段変速装置10の最大負荷時にエンジン回転数とポンプ斜板16Aの変速操作位置とがバランスすることを示すエンジンストール性能ラインである。このエンジンストール性能は、エンジン1の出力トルク、静油圧式無段変速装置10の圧力、ポンプ斜板16Aの操作位置(斜板角)によって決まるものである。
【0094】
図12に示すラインL1は、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの変速操作位置との相関関係を示すラインのうち、PTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74が、作業クラッチ14の切り状態を検出している状態での相関関係を示す走行用マップデータで表されるラインである。
また、同図のラインL2は、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの変速操作位置との相関関係を示すラインのうち、PTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74が、作業クラッチ14の入り状態を検出している状態での相関関係を示す作業用マップデータで表されるラインである。
【0095】
詳述すると、図12に示すように、予め設定したエンジン回転領域hのうち、エンジンドロップ量の小さい第1領域h1では、エンジン回転数の変化量に対してポンプ斜板16Aの変化量が大きくなるように、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置とを対応させてある。
第1領域h1よりもエンジンドロップ量の大きい第2領域h2では、エンジン回転数の変化量に対してポンプ斜板16Aの変化量が前記第1領域h1での変化よりも小さくなるように、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置とを対応させてある。
第2領域h2よりもエンジンドロップ量の大きい第3領域h3では、エンジン回転数の変化量に対してポンプ斜板16Aの変化量が前記第2領域h2での変化よりも大きくなるように、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置とを対応させてある。
【0096】
上記図12に示したように、自動ポンプ斜板制御手段31Dで用いられる2種のマップデータは、前記エンジンストール性能ラインL0をマップ化したデータと、作業クラッチ14の切り状態を検出している状態でのエンジン回転数とポンプ斜板16Aの変速操作位置との相関関係を示すラインL1をマップ化したデータと、作業クラッチ14の入り状態を検出している状態でのエンジン回転数とポンプ斜板16Aの変速操作位置との相関関係を示すラインL2をマップ化したデータとのうち、前記ラインL1をマップ化した走行用マップデータと、ラインL2をマップ化した作業用マップデータとで構成されている。
【0097】
そして、自動ポンプ斜板制御手段31Dの自動変速制御プログラムは、PTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74が作業クラッチ14の切り状態を検出している状態では、前記ラインL1の走行用マップデータに基づいて、演算プログラムが算出したエンジン回転数に対応するポンプ斜板16Aの操作位置をポンプ斜板16Aの制御目標位置に設定し、その設定した制御目標位置と斜板センサ30の検出とに基づいて、ポンプ斜板16Aの制御目標位置と実際の操作位置とが一致するように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御するように構成されている。
【0098】
この制御作動によって、トラクタにPTO系の動力で駆動される作業装置ではないフロントローダAを連結装備して走行するローダ作業時や、路上走行時などにおいて、運転者が走行負荷などを考慮した変速操作を行わなくても、過負荷によるエンジンストールを防止できるようにする負荷制御を行うことができる。
【0099】
つまり、エンジンストールの防止に関しては、前記走行用マップデータのラインL1上において、図12に点p1で示すように、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置とがエンジンストール性能ラインL0上に位置するように制御すれば、エンジンストールを伴わずにエンジン出力を最大限に利用した有効な制御を行うことができる。しかしながら、このような制御では、エンジンストールを回避しながらエンジン出力を有効利用するための制御であるため、その出力確保のためにエンジン回転数を大きく低下させてしまうことがある。そのため、エンジン回転数の安定した高速を維持した状態で使用したい作業装置を用いる場合には、その作業装置の駆動速度が低下し過ぎて作業装置の良好な駆動を行えないことがある。
【0100】
そこで本発明では、作業クラッチ14の作動状態に基づいて、エンジン回転数とポンプ斜板16Aの操作位置とを次のように制御している。
つまり、PTOクラッチレバー73の操作位置を検出するポテンショメータからなるPTOクラッチセンサ74が、作業クラッチ14の入り状態を検出している状態では、前記ラインL2の作業用マップデータに基づいて、演算プログラムが算出したエンジン回転数に対応するポンプ斜板16Aの操作位置をポンプ斜板16Aの制御目標位置に設定し、その設定した制御目標位置と斜板センサ30の検出とに基づいて、ポンプ斜板16Aの制御目標位置と実際の操作位置とが一致するように、前進用比例バルブ36又は後進用比例バルブ37の作動を制御するように構成されている。
【0101】
この制御作動では、ポンプ斜板16Aの制御目標位置が、エンジン回転数が所定回転数以下になると、エンジンストール性能ラインL0上の点p2を越えてその内側(軽負荷側)の領域に設定されるので、静油圧式無段変速装置10に作用する負荷は、前記エンジンストール性能ラインL0上にポンプ斜板16Aが位置する場合よりも小さくなる。
その結果、エンジン1に作用する負荷のうち、静油圧式無段変速装置10を経て駆動される走行系からの負荷が大きく低減されることで、エンジン1自体の過負荷による回転数低下を効果的に抑制することができる。これに伴い、エンジン1側の回転数が高速に保たれて、動力取出軸15から駆動力を伝達されるPTO系作業装置(図外)の駆動回転数の低下が抑制されることになる。
ここでいうPTO系作業装置とは、走行系とは別に前記動力取出軸15から取り出された駆動力で駆動される作業装置であり、例えば、草刈用のモーアや、除雪装置など、比較的高速で回転駆動される作業装置である。
【0102】
そして、エンジン回転数が図12中のラインxのレベルまで低下した場合を考えてみると、作業クラッチ14の切り状態を検出している状態では、ポンプ斜板16Aの制御目標位置は、前記ラインL1の走行用マップデータに基づいて、ラインL1上の点a1に対応する位置y1に設定される。
一方、作業クラッチ14の入り状態を検出している状態では、ポンプ斜板16Aの変速操作位置は、前記ラインL2の走行用マップデータに基づいて、ラインL2上の点a1に対応する位置y2に設定される。
【0103】
このように、エンジン回転数の低下量は同じでも、作業クラッチ14の入り状態では、切り状態のときよりも、ポンプ斜板16Aの操作位置を、エンジンストールの回避に必要な程度の位置y1よりも大きく走行負荷が軽減された位置y2にまでポンプ斜板16Aの斜板角を変更している。
【0104】
〔別実施形態の2〕
走行駆動系の変速装置を、静油圧式無段変速装置10に限らず、ギヤ変速型式のトランスミッションや、CVTなどの変速機構を用いて構成してもよい。この場合、変速操作を行うための変速操作手段も、ポンプ斜板角操作手段26やモータ用操作手段55に代えて、適宜シフト操作具を用いて操作するように構成してもよい。そのシフト操作具を作動させるための動力源として、電動シリンダや電動モータ又は油圧モータなどを採用してもよい。
【0105】
〔別実施形態の3〕
前述の実施形態では、作業クラッチ14の入り状態が検出されているときにおけるポンプ斜板16Aの減速操作量及び減速操作速度が共に、作業クラッチ14の切り状態が検出されているとよりも大きくなるように制御する例を示したが、これに限らず、例えば、作業クラッチ14の入り状態が検出されているときにおけるポンプ斜板16Aの減速操作量が、作業クラッチ14の切り状態が検出されているときよりも大きくなるとともに、ポンプ斜板16Aの減速操作速度は、作業クラッチ14の切り状態が検出されているときと同程度であるように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明における作業車の負荷制御装置は、実施形態で示したトラクタに限らず、走行駆動系系とは別に、動力取り出し軸からの出力で駆動される作業装置を備える各種の作業車、例えば、草刈機や除雪機、あるいは薬剤の噴霧機や田植機などに適用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 エンジン
10 静油圧式無段変速装置(変速装置)
14 作業クラッチ
15 動力取出軸
16 可変容量ポンプ
16A 斜板
17 可変容量モータ
24 変速ペダル
25 サーボコントロール機構(変速操作手段)
26 ポンプ用シリンダ(ポンプ斜板角操作手段)
30 斜板位置検出手段(変速位置検出手段)
31 制御装置(制御手段)
31A ポンプ斜板制御手段
31B 操作速度設定手段
31C データ変更手段
31D 自動ポンプ斜板制御手段
47 回転センサ(負荷検出手段)
55 モータ用操作手段
74 PTOクラッチセンサ(作業状態検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン負荷を検出する負荷検出手段と、走行駆動系に動力を伝達する変速装置の変速操作位置を検出する変速位置検出手段と、前記変速装置の変速操作を行う変速操作手段とを備え、
前記負荷検出手段、及び前記変速位置検出手段の検出信号に基づいて、エンジン負荷が大きいほど前記変速装置が減速操作されるように前記変速操作手段の作動を制御する制御信号を出力する制御手段を備えた作業車の負荷制御装置であって、
前記走行駆動系とは別系の外部動力取出軸を介してエンジン動力が伝達されるPTO系作業装置の作動の有無を判別する作業状態検出手段を備え、
前記制御手段は、前記PTO系作業装置の作動状態が検出されているときにおける前記変速操作手段による減速操作量が、PTO系作業装置の非作動状態が検出されているときにおける減速操作量よりも大きくなるように、前記作業状態検出手段の検出信号に基づく前記変速操作手段への制御信号の出力状態を変更するように構成されていることを特徴とする作業車の負荷制御装置。
【請求項2】
走行駆動系に動力を伝達する変速装置が静油圧式無段変速装置であり、可変容量ポンプの斜板角度を無段階に変更操作するポンプ斜板角操作手段によって変速操作手段が構成され、可変容量ポンプの斜板の操作位置を検出する斜板位置検出手段によって変速位置検出手段が構成され、
制御手段は、PTO系作業装置の作動状態が検出されているときにおける前記ポンプ斜板角操作手段による斜板の減速操作量が、前記PTO系作業装置の非作動状態が検出されているときにおける斜板の減速操作量よりも大きくなるように、作業状態検出手段の検出信号に基づく前記ポンプ斜板角操作手段への制御信号の出力状態を変更するように構成されている請求項1記載の作業車の負荷制御装置。
【請求項3】
制御手段は、PTO系作業装置の作動状態が検出されているときにおける変速操作手段による減速操作速度が、前記PTO系作業装置の非作動状態が検出されているときにおける減速操作速度よりも大きくなるように、作業状態検出手段の検出信号に基づく前記変速操作手段への制御信号の出力状態を変更するように構成されている請求項1又は2記載の作業車の負荷制御装置。
【請求項4】
制御手段は、負荷検出手段と変速位置検出手段との検出信号に基づいて検出されるエンジン負荷が大きいほど、変速操作手段による減速操作速度を大きくするように、前記変速操作手段への制御信号の出力状態を変更するように構成されている請求項1、2、又は3記載の作業車の負荷制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−276110(P2010−276110A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129194(P2009−129194)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】