説明

光電子デバイス用多層金属電極

本発明は、基板(1)と、少なくとも1つの極薄金属膜(3)と接触する導電膜(2)からなる層状構造部と、を備え、2つの膜(2,3)が異なる材料からなり、前記導電膜(2)がCu、Au、Ag、Alから選択され、前記極薄金属膜(3)がNi、Cr、Ti、Pt、Ag、Au、Alおよびこれらの混合物から選択される電極に関する。電極は、光電子デバイスに特に有益であり、良好な導電率、透過率および安定性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多様な光電子的用途に適した、極薄金属膜を含む電極に関する。
【背景技術】
【0002】
透明電極、すなわち電気を伝導すると同時に光を透過させることのできる膜は、多くの光デバイス、たとえば光電池[Claes G.Granqvist,“Transparent conductors as solar energy materials:A panoramic review”,Solar Energy Materials & Solar Cells 91(2007)1529−1598]、有機発光ダイオード[Ullrich Mitschke and Peter BaEuerte,“The electroluminescence of organic materials”,J.Mater.Chem.2000,10,1471]、集積電気光学変調器[CM Lee et al.,“Minimizing DC drift in LiNbO3 waveguide devices”,Applied Physics Lett.47,211(1985)]、レーザディスプレイ[C.A.Smith,“A Review of liquid crystal display technologies,electronic interconnection and failure analysis Circuit”,World Volume 34 Number 1 2008 35−41]、光検出器[Yu−Zung Chiou and Jing−Jou TANG,“GaN Photodetectors with Transparent Indium Tin Oxide Electrodes”,Japanese Journal of Applied Physics Vol.43,No.7A,2004,pp.4146−4149]等にとって極めて重要である。用途の観点からすると、関心対象の波長範囲における高い光透過率と十分な導電率のほかに、透明電極は他の重要な特徴、たとえば加工しやすさ(たとえば、大面積堆積が可能であること)、同一デバイスを形成する他の材料(たとえば、アクティブ層)との適合性、温度、機械的および化学的ストレスに対する安定性、低コスト等を有しているべきである。
【0003】
これまで、透明電極は主として、透明導電性酸化物(TCO)、すなわち、バンドギャップの大きい、強ドープ半導体を使用して製作されてきた。中でも、インジウムスズ酸化物(ITO)が最も広く用いられている。高い導電率と可視光から赤外線までの光透過率を有するにもかかわらず、TCOには、主としてその電気特性を改善するために、高温での(数百℃)堆積後の処理が必要であること、ドープ制御への電気的および光学的依存性が高いこと、および多数の成分からなる構造がいずれかのアクティブ材料との不適合性の原因となりうること、等のいくつかの欠点がある。これに加えて、TCOは、いくつかの用途にとって適切であるかもしれないUV領域に対しては透過性がない。しばしば、ITOの場合のように、これらの製作に用いられる要素(In)が大量に入手しにくく、高価である。
【0004】
最近、TCO技術を金属と組み合わせることによってその特性を改善することに関心が寄せられており、たとえば光透過率を大きく低下させることなく、シート抵抗とコストが低減される。しかしながら、他の欠点の中でも、複雑でコスト高となる製造および酸化物と金属との不適合性の問題は依然として解決されない。
【0005】
この点で、Cu膜を導電性(たとえばITO)または絶縁性(たとえばZnO)のいずれかの透明酸化物と組み合わせて、透過率が高く、シート抵抗の低い多層透明電極を形成することが提案されている。その一例が、ZnO/Cu/ZnOである[K.Sivaramakrishnan et al.Applied Phys Lett.94 052104(2009)]であり、これによって約75%の可視光に対する平均透過率と約8Ω/スクエアのシート抵抗が実現される。ZnO/Cu/ZnO膜は、特に周囲空気を含む異なる種類の雰囲気中で熱によるアニーリングが行われる場合、その光学的および電気的特性が時間とともに変化するため、不安定である。このような変化は、Cuの酸化、界面の表面形態の変化、およびCuのZnOへの拡散に起因する[D.R.Sahu et al.Applied Surface Science 253,827−832(2006);D.R.Sahu et al.Applied Surface Science 253,915−918(2006);D.R.Sahu et al.Thin Solid Films 516,208−211,(2007)]。Cuを使用した多層透明電極の他の例は、ITO上にCu膜を形成したものである。しかしながら、この場合もまた、膜の電気的および光学的特性は変化し、これはCuのITO中への拡散に起因する[Tien−Chai Lin et al.Materials Science and Engineering B 129(2006)39−42]。ZnOとは異なり、ITOの使用は費用が高く、In不足の問題も解決されないままである。
【0006】
このような欠点から、TCOの代用、たとえば単層カーボンナノチューブ(SWNT)、グラフェン膜および極薄金属膜(UTMF)等が研究されることになった。低コストの極薄金属に基づく透明導電体が過去において報告されている[D.S.Gosh et al.Opt.Lett.34.325(2009)]。そのリアルタイムデバイスにおける競争力は、これらがITOに関して透過率が比較的低く、表面粗さが大きいことにかかわらず、実証されている[D.Krantz et al.Nanotechnology,20,275204(2009)]。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Claes G.Granqvist,“Transparent conductors as solar energy materials:A panoramic review”,Solar Energy Materials & Solar Cells 91(2007)1529−1598
【非特許文献2】Ullrich Mitschke and Peter BaEuerte,“The electroluminescence of organic materials”,J.Mater.Chem.2000,10,1471
【非特許文献3】CM Lee et al.,“Minimizing DC drift in LiNbO3 waveguide devices”,Applied Physics Lett.47,211(1985)]、レーザディスプレイ[C.A.Smith,“A Review of liquid crystal display technologies,electronic interconnection and failure analysis Circuit”,World Volume 34 Number 1 2008 35−41
【非特許文献4】Yu−Zung Chiou and Jing−Jou TANG,“GaN Photodetectors with Transparent Indium Tin Oxide Electrodes”,Japanese Journal of Applied Physics Vol.43,No.7A,2004,pp.4146−4149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記すべての事柄を鑑み、当業界では依然として、光電子デバイスに使用する代替電極であって、必要な安定性と適切な仕事関数を兼ね備え、それと同時に高い光透過率と高い導電率が確保される電極を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、基板と、少なくとも1つの極薄金属膜(3)と接触する導電膜(2)からなる層状構造と、からなる電極が提供され、これら2つの膜は異なる材料で製作され、
前記導電膜はCu、Au、Ag、Alから選択され、
前記極薄金属膜はNi、Cr、Ti、Pt、Ag、Au、Alおよびこれらの混合物から選択される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態は、特許請求の範囲の従属項において定義される。
【0011】
本発明の文脈において、極薄金属膜(UTMF)は、厚さが6nmより薄いかこれと等しく、以下のようにして得ることができる。本発明によれば、厚さが一般的に3から20nmの範囲内の金属の導電膜は透明電極に有益である。本明細書で使用される光学的に透明という用語は、用途に応じて異なる関心対象の波長範囲の光を40%より多く透過させることを意味する。たとえば、可視光OLEDの場合、この範囲は375から700nmの間、UV光検出器の場合は100から400nm、光電池の場合は350から800nm、中赤外線検出器の場合は3から25μmの間等である。
【0012】
Cuは、優れた電気的および光学的特性を有する安価な材料であり、マイクロエレクトロニクスにおいてすでに広く用いられている。しかしながら、Cuは酸化と腐食が発生しやすいことが知られており、これはその電気的および光学的特性を大きく変化させる。この不利益は、極薄金属膜を使ってCu導電膜を被覆することによって解決される。
【0013】
Cu以外の材料も、非常に似た電気的特性を有し、電子光学的用途において同様の挙動を示し、薄い金属の透明膜の形態で堆積させることができるものは、導電膜用に選択してもよい。これらには、Au、Ag、Alがある。
【0014】
Agは、導電膜の材料として完全に安定しておらず、劣化する。この場合の極薄金属膜は、Agを保護する。Agは不活性であり、それゆえ、それが光電子デバイスの中に存在する他の材料、たとえばアクティブ材料の特性に影響を与えないという点でさらに有利である。たとえば、極薄金属膜としてのNiは、Agを用いた電極の仕事関数を改善し、電極を保護することができる。
【0015】
Auは、導電膜の材料として安定し、不活性であり、アクティブ材料に対するいかなる問題も発生させない。この場合、Au膜と接触する極薄金属膜には、対応する電極と光電子機器の仕事関数を調整するという利点がある。
【0016】
導電膜の材料としてのAlはAgと似ており、この場合、極薄金属膜は、それを保護するか、その仕事関数を調整するか、またはその両方の特性を有する。
【0017】
好ましい実施形態において、導電膜はCuであり、高純度Cu(99%超)からなる。たとえば、少なくとも1つの極薄金属膜を設けたCuは、発光ダイオードのアノードとして(仕事関数が高い)またはカソード(仕事関数が低い)として適している。
【0018】
UTMFは、本発明の電極層の上に連続的なUTMFを堆積することによって製作でき、前記層は、本発明の電極の基板(i)、導電膜、デバイスのアクティブ材料または酸化膜とすることができる。前記堆積は、導電膜に関してすでに説明したように、真空下でのスパッタ堆積法によって有利に実行される。UTMFは、有利な点として、室温で製作され、有機デバイスのアクティブ中間層等のすべての有機および半導体材料と技術的に適合可能である。その上にUTMFが形成される膜または層の当初の表面粗さは、好ましくは、膜厚以下であるべきであり、そうでない場合、前記UTMFは不連続となり、したがって非導電性となりうる。連続的UTMFをその膜厚と等しいまたはそれより大きい粗さを有する表面上に堆積することは可能であり、その粗さとは、膜厚よりはるかに大きな表面peak−to−valley距離を指す。好ましい実施形態によれば、UTMFはNiまたはTiであるが、Cr、Au、Pt等の他の材料も使用できる。これらの材料はすべて、本発明を取り入れ、高い安定性を持たせるために必要な厚さに堆積することができる。これ加えて、これらはデバイスを形成する他の材料と適合可能であり、異なる仕事関数を有し、これを具体的な用途に合わせることができる。他の材料、たとえばAgとAl等は、導電膜がCuである場合、その比較的低い仕事関数のため、また安定性を高めるため(保護の目的)に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】基板と接触する導電膜(E)と機能金属膜(FMF)からなる電極の断面図である。
【図2】基板接触する機能金属膜(FMF)と導電膜(E)からなる電極の断面図である。
【図3】基板上の2つのFMF膜と1つのE膜の多層構造からなる電極の断面図である。
【図4】導電膜(E)が基板と接触する基板上の二層構造体と別の酸化膜からなる電極の断面図である。
【図5】基板上の二層構造、別の機能金属膜および別の酸化膜からなる電極の断面図である。
【図6】二層構造、別の機能金属膜および2つの別の酸化膜からなる電極の断面図である。
【図7】Cu、Cu+Ni1、Cu+Ti1およびCu+Ti3(O処理済み)の電気シート抵抗に対する可視波長の可視光透過率(VOT)を表す図である。
【図8】図中に示される、異なる厚さのCu+Tiの波長(nm)に対する光透過率を表す図である。
【図9】8nmのCu膜の、堆積時およびアニーリング後の波長(nm)に対する光透過率の変化を示す図である。
【図10】Cu+Ni膜(7+1nm)の、堆積時およびアニーリング後の波長(nm)に対する光透過率の変化を示す図である。
【図11】異なるサンプル群の性能指数(ΦTC)と、浸透閾値を求めるためのR対厚さ(t)(差し込み図)を示す図である。
【図12】Cu6.5、Cu6.5+Ni1、Cu6.5+Ti1、Cu6.5+Ti3(O処理済み)の400〜1000nmの波長範囲の透過率スペクトルを示す図である。
【図13】Cu6.5、Cu6.5+Ni1、Cu6.5+Ti1、O処理済みCu6.5+Ti3の吸収率と反射率を示す図である。数値は、375nmと700nmの間の平均である。差し込み図は、Cu6.5+Ni1極薄膜のアニーリング前(実線)とアニーリング後(破線)のスペクトルを示す。
【図14】Cu6.5+Ti5膜(O処理済み)の堆積時およびアニーリング後の、波長(nm)に対する光透過率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示される本発明の特定の実施形態によれば、二層構造のうちの導電膜(2)が基板(1)と接触している。図2に示される本発明の他の特定の実施形態によれば、UTMF(3)が基板と接触している。
【0021】
本発明の電極は、他の構造のほかに、図3から図6に示される構造をとることができる。それゆえ、1つの実施形態において、導電膜が本発明の電極の基板の上に堆積される。本発明の他の実施形態によれば、その膜がUTMF膜の上に堆積される。本発明の電極の基板は、その上に二層構造が形成される、あらゆる適当な誘電材料、たとえばガラス、半導体、無機結晶、剛性または柔軟プラスチック材料等とすることができる。たとえば、他のものに加え、シリカ(SiO2)、ボロンシリケート(BK7)、シリコン(Si)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)がある。前記基板は、光電子デバイス構造の一部、たとえば、アクティブ半導体または有機層とすることができる。
【0022】
導電膜は、当業界で周知の方法によって得ることができ、たとえば本発明の電極の隣接する膜または層の上に堆積される。本発明による堆積は、可能な堆積方式の中でも、真空下でのスパッタリングによって有利に実行され、これは、従来のマグネトロンスパッタリング機(Ajaint Orion 3 DC)で行ってもよい。特定の実施形態において、堆積は、DCまたはFRスパッタリング法により、室温の高純度の不活性雰囲気(アルゴン等)内で行われる。
【0023】
その上に膜が形成される層の、たとえばその上に導電膜が形成される基板の当初の表面粗さは、好ましくは、形成しようとする膜の厚さ以下であるべきであり、そうでない場合、前記導電膜は不連続となり、したがって非導電性となりうる。連続的UTMFをその膜厚と等しいまたはそれより大きい粗さを有する表面上に堆積することは可能であり、その粗さとは、膜厚よりはるかに大きな表面peak−to−valley距離を指す。
【0024】
本発明の目的にとって、連続性は導電膜にとって必須であり、その一方で極薄金属膜にとっては好ましいが必要ではない。
【0025】
図3に示される本発明の特定の実施形態によれば、電極は二層構造の導電膜(2)と接触する別の極薄金属膜(3)を有し、この第二のUTMFはニッケル、クロム、金、銀、チタン、カルシウム、プラチナ、マグネシウム、アルミニウム、スズ、インジウム、亜鉛およびこれらの混合物から選択され、第一のUMTFと同じとすることもできる。
【0026】
本発明の特定の実施形態において、電極のUTMFは、随意選択により不動態化される。不動態化処理は、欧州特許出願第0817959号において開示されている安定したUTMFの生成方法によって行われ、この方法には、堆積後のUTMFを周辺空気中、または随意選択により、酸素富化雰囲気中での熱処理が含まれる。保護酸化膜がUTMFの上に形成される。一般に、前記酸化膜は、厚さが通常、0.1から5nmである。適当に酸化されたUTMFにより、下層の導電膜の安定性が増大する。
【0027】
本発明の他の特定の実施形態によれば、電極は導電膜と接触する、または機能金属膜と接触する、別の少なくとも1つの格子または網状構造を含む。前記格子または網状構造は、開口部を有し、欧州特許出願第09382079号に記載されている方法によって得ることができる。この点で、これはその金属の構造の寸法に応じ、各種の方法で製作でき、これにはたとえば、形状制約に応じたUVリソグラフィ、ソフトリソグラフィ(ナノインプリンティング)、スクリーン印刷またはシャドウマスク、あるいはUTMF層またはその他のより厚い層に使用されるものと同様の手法、たとえば蒸着や電気めっきによる堆積がある。このような技術はすべて、当業者によりよく知られている。UTMFは、前述のように、格子または網状構造の堆積の前または後に不動態化することができる。前記格子または網状構造は、Ni、Cr、Ti、Al、Cu、Ag、Au、ZnOドープ、SnO2ドープ、TiOドープ、カーボンナノチューブまたはAgナノワイヤまたはこれらの混合物とすることができ、FMFまたは導電膜と同じ材料でも異なる材料でもよい。格子の周期と厚さは、これが周期的金属構造からなる場合、本発明の目的のためには、一般にそれぞれ500nmから1mmおよび10nmから1μmの範囲とすることができる。実際、格子または網状構造の幾何学寸法は、本発明の電極の作製材料と用途のほか、その下の導電膜またはUTMFの厚さおよび関係する局所電流密度に依存する。
【0028】
好ましくは、金属格子または網状構造の曲線因子は、これが不透明である場合、5%を超えない。随意選択により、格子は正方形、長方形のようなパターン、周期的、またはランダムメッシュの形態をとる。
【0029】
図4と図5に示される本発明の別の実施形態において、電極は、UTMF層と接触する少なくとも1つの別の膜(4)を含み、前記膜は、
(i)酸化ニッケル、酸化銅、酸化クロム、酸化チタン、TaまたはNbドープした酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、Fドープした酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、AlまたはGaドープした酸化亜鉛、ITOおよびこれらの混合物の群から、または、
(ii)Ni、Cr、Au、Ag、Ti、Ca、Pt、Mg、Al、Sn、In、Znおよびこれらの混合物の群から選択される。
【0030】
前記膜が上記群(i)から選択された場合、これは随意選択により、UTMFの酸化によって、またはたとえば、対応する酸化物のバルク材料からの直接堆積によって得ることができる。
【0031】
あるいは、前記膜が金属、すなわちニッケル、クロム、金、銀、チタン、カルシウム、プラチナ、マグネシウム、アルミニウム、スズ、インジウム、亜鉛またはこれらの混合物である場合、酸化膜は、スパッタリング、蒸着およびその他、当業者にとって周知の堆積方法により得ることができる。
【0032】
前記別の膜(4)は一般に、厚さが2から200nmの範囲内である。
【0033】
本発明の電極のある特定の実施形態において、電極は、導電層の両側のUTMFと、2つの別の膜(4)からなり、これは同じであっても異なっていてもよく、各々、UTMFと接触する(図6参照)。
【0034】
Cu導電膜の透過率と電気シート抵抗は、実践的用途のための範囲内である(>70%、<50Ω/スクエア)。
【0035】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明の電極は、厚さ3から20nmの透明なCu導電膜であり、好ましくは厚さ4から10nm、より好ましくは5.5から6.5nmのCuであり、これは、それ以下では膜構造が不連続の島状に見え、それ以上では膜が連続し、導電性を有する、膜の浸透厚さである。
【0036】
特定の実施形態において、厚さが4から10nmの間のCu膜には、UTMFとして、厚さ3から5nmのTiが形成される。好ましくは、前記Ti膜にはO処理が施されている。また好ましくは、O処理済みのTi機能金属膜には、アニーリングが行われている(たとえば、120℃で1時間)。より有利な態様として、Cu膜は6.5〜5.5nmである。前記電極は、シート抵抗が<30Ω/□、ピーク透過率が80%超となりうる。
【0037】
また、厚さ4から10nmのCu膜と厚さ1〜3nmのNi UTMFも好ましい。より有利な態様として、Cu膜は6.5〜6.6nmである。前記Ni UTMFには、アニーリング(たとえば、120℃で1時間)を施しておくことができ、これによってきわめて高い耐熱特性を示し、これはCu膜を安定化させ、シート抵抗を維持し、光透過率を若干改善することができる。このような電極は過酷な環境下におけるデバイス用途において有益である。
【0038】
他の好ましい実施形態によれば、電極はCu導電膜、FMFおよび、5から200nmの範囲内の少なくとも1つの酸化膜を有する透明電極である。
【0039】
以下の説明において、特に断りがないかぎり、可視光透過率(VOT)は、375から700nmの範囲の平均値であり、基板寄与分が差し引かれている。図中、第一と第二の数はそれぞれ、CuとUTMFの厚さである。
【0040】
発明者らは、以下を開示している。
UTMFがCu膜と一緒に使用されて、本発明の二層構造を形成する場合、Cu膜の電気的および光学的性能は基本的に維持される(図7と図8)。図7においては、可視光透過率(VOT)が電気的シート抵抗(Ω/□)に対して表されている。実際に、たとえば、Ni−UTMFを使用することによって、作業関数が増大し、透明電極(TE)はOLED用のアノードとして、より適したものとなる。図8において、透過率が波長(nm)に対して表されている。発明者らはまた、高温にさらされた場合、Cu+Ni(7+1)のような二層構造のCu+FMFではなく、Cu膜の光学的および電気的性能を劣化させることを開示しており、これは図9と図10および下表1において示されている。
【0041】
【表1】

実際に、120℃で1時間のアニーリング後、Cu(Cu(8nm)膜)のシート抵抗は測定できなくなり、その透過率は大きく変化したことが示されている(図9)。これに対し、アニーリング後は、Cu+Ni(Cu+Ni(7+1nm)膜)は、同じ抵抗を保持し、実際に、全波長にわたって透過率が若干高くなる(図10)。
【0042】
図7において、SWNTに沿った二層構造(Cu−Ni/Ti)とグラフェン膜からなる本発明による電極の性能が比較されている。1nmのNi−FMFによって透過率が約10%低下しているのに対し、Ti−FMFを用いると、シート抵抗がさほど変化せずに透過率が増大することがわかる。この挙動は、NiおよびTi極薄膜の屈折率マッチングと吸光係数の違いの点で説明することができる。極薄Ti膜は、Ni膜と比較して、屈折率が低く、吸光係数がはるかに小さいため、吸収率が低く、界面反射が低い。実際の極薄金属膜において、抵抗の理論的モデルはあまり役に立たず、これは、表面散乱を促進する形状限界(サイズ効果)のほかに、抵抗はまた、粒界、空乏および不連続性等の散乱の容積線源に依存し、それ自体が堆積条件による影響を受けやすいからである。したがって、膜のシート抵抗が最も低くなるような堆積条件を最適化してもよい。これら4つのサンプル群の導電挙動は主として、下層のCu極薄導電膜が連続的(>5nm)になると、この膜によって起こされることがわかる。
【0043】
Cu+Ti3に対するO処理は、Tiのうちの上から数ナノメートルだけを酸化し、CuとTiの界面を妨害しない。Ti酸化物の形成は、下層のCu層を酸化から保護するだけでなく、透過率も増大させる。Cu6+Ti3(O処理済み)サンプルのピーク透過率とシート抵抗はそれぞれ、630nmで>86%と300Ω/□である。この結果は、Ni極薄金属層について報告されているものよりはるかによい。しかしながら、Niの高い仕事関数が重要な役割を果たすような、底部電極としてITOまたはNi極薄金属膜のいずれかを備えるデバイスについても、同様の効率が得られた。UTMFを適正に選択し、必要に応じてこれを酸化することにより、デバイスの構成に合わせて透明導電体の仕事関数を調整できる。これに加えて、図7から、極薄Cuをベースとする透明導電体は、現在、TCOの代用としての可能性が高いと考えられているSWNTとグラフェン膜よりよいことが明らかである。異なる透明導電体群の性能を比較するために、Haackeにより定義される性能指数ΦTCの数値を計算した。
【数1】

式中、Tは375から700nmの間の平均可視光透過率、Rはシート抵抗である。
【0044】
図11は、異なるサンプル群の性能指数を示す。Cu+Ti2(O処理済み)のサンプルは、ΦTCのピーク値が2.5×10−3Ω−1である。すべてのデータセットにおいて、最良の性能指数は、厚さ5.5から6.5nmのCuについて得られ、これはCuがこの範囲において連続的となることを示している。これをさらに確認するために、異なるサンプル群についてのR対t(tは膜厚)15をグラフにすることにより、浸透閾値を概算した(図11の差し込み図)。すべてのセットの浸透閾値が5.5nmから6.5nmの間であることがわかり、これは発明者による上記の予測をさらに裏付けるものである。各セットについて、Cuの厚さを浸透厚さから特定された6.5nmに固定し(図11の差し込み図)、1つのサンプルを堆積させた。AFMによって測定した4つすべてのサンプルのRMS粗さのpeak−to−valley値は、膜厚よりはるかに小さかった。
【0045】
図12は、これらすべてのサンプル透過率スペクトルを示す。可視光領域における異なる光透過率挙動は、反射率と吸収率の点で説明することができる。
【0046】
図13は、可視光領域におけるこれら4つのすべてのサンプルの平均反射率と吸収率を比較する。吸収率は、A=1−(T+R)を用いて計算した。Ni−FMFを除くすべてのサンプルが同様の吸収率を見せたが、興味深い点として、in−situOプラズマ処理が施されたサンプルは反射率が低く、これはその高い透過率を説明するものである。Ni−FMFは反射率が高いほか、吸収率も高く、その結果、他の3つのサンプルより透過率が低い。サンプルの安定性を評価するために、これらを炉内で120℃の周辺雰囲気中に60分保持した。熱処理後に透過率の上昇とこれに伴うシート抵抗の増大を見せた他の3つのサンプルと異なり、Cu6.5+Ni1のシート抵抗と可視光透過率はほとんど影響を受けず、実際には若干改善されたことがわかった。わずか1nmのNi FMFでも、下層のCuを過酷な環境下における酸化から十分に保護することが明らかである。図13の差し込み図は、Cu6.5+Ni1の熱処理前(実線)と熱処理後(破線)の可視光領域のスペクトルを示している。電気的および光学的特性の両方における小さな改善は、界面結晶化度の改善によるものであろう。
【0047】
図14において、O処理されたCu 6.5nm+Ti 5nmの、堆積時と120℃で60分のアニーリング後の透過率を比較する。このグラフから、アニーリング処理を行っても可視光領域における膜の透過率は大きく変化しないことが明らかである。膜のシート抵抗は、アニーリングによって若干のみ増大した(15.9から19.8Ω/□となった)。それゆえ、5nmの酸化Ti FMFは下層のCuを過酷な環境下での酸化から現実的に保護することが明らかである。
【0048】
【表2】

【0049】
結論として、導電性金属膜とUTMFからなる安価で、製造しやすく、安定した電極は、各種の光電子分野の用途にとって好適な透明導電体である。本発明の電極は、可視光領域における平均透過率が75%と高く、また、シート抵抗は20Ω/□と低い。Cuをベースとする二層電極の性能指数ΦTCは、SWNTおよびグラフェン膜よりよいことがわかった。Cu+Ni1およびO処理されたCu+Ti5のサンプルは、炉内で120℃の周囲雰囲気中、60分の熱処理を行った後であっても、優れた安定性見せた。
【0050】
発明者らは、先行技術の既存の電極の欠点を持たない材料、特にCuまたはその他同様の導電材料の電気的および光学的特性を探ることができた。この意味において、本発明の電極は安定した透明な導電性電極であり、その単純で低コストの構造および製造方法ならびにその本来的な技術的特性から、その多くの用途が見出される。電極の安定性は、特に要求の厳しい、変化する環境条件下で、デバイスの性能を長期間維持する上で最も重要である。本発明の透明電極はそれゆえ、さまざまなデバイスに使用可能である。
【0051】
他の態様において、本発明は、少なくとも前述の電極を備える光電子デバイスに関する。前記デバイスとしては、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、ディスプレイ、光電池、光検出器、光変調器、エレクトロクロミックデバイス、電子ペーパ、タッチスクリーン、電磁波シールド層、透明またはスマート(たとえば、省エネルギー、デフォーカシング)ウィンドウ等がある。
【0052】
上記は、本発明を例示するものである。しかしながら、本発明は、本明細書に記載の以下の詳細な実施形態に限定されず、末尾の特許請求の範囲に含まれるすべての同等の変更を包含する。
【実施例】
【0053】
図1に描かれた実施形態に対応する本発明による電極を製作した。光学的に両面研磨されたUV溶融石英基板をまず、それぞれアセトンとエタノールを用いた超音波バスの中で10分間洗浄し、その後、窒素ガンで乾燥させた。清浄な基板を次に、スパッタリングシステム(Ajait Orion 3 DC)のメインチャンバに装填し、圧力レベルを1.33×10−6Pa(10−8トール)のオーダまで下げた。スパッタリングは、室温、0.226Pa(2mトール)の高純度アルゴン雰囲気中、100WのDC電源で行った。ターゲットの純度レベルは99.99%である。堆積前に、基板を再び、バックグラウンド圧(base pressure)1.06Pa(8mトール)、40WのRF電源の酸素プラズマで15分間洗浄した。
【0054】
DCスパッタリングによってCuとNiを堆積させ、その一方で、FRスパッタリングによりTiを形成した。厚さを、MCM−160水晶でモニタした。堆積速度は、Cuについては1.5Å/s、Niについては0.573Å/s、Tiについては0.083Å/sとした。これらの電極において、導電膜は厚さ3〜10nmのCu、機能金属膜は厚さ1nmから5nmのNiまたはTiであった。
【0055】
特に、4種類の厚さのCuを製作した。すなわち、Cu、Cuとその上の1nmのNi、Cuとその上の1nmのTi、Cuとその上の3nmのTi、Cuとその上の5nmのTiであり、以下、それぞれをCu、Cu+Ni1、Cu+Ti1、Cu+Ti3、Cu+Ti5と表す。Cuの上に3および5nmのTiを堆積したものに、動作圧力8mT、40WのRF電源のOプラズマで15分間、in situ酸化を行った(以下、「O処理済み」と呼ぶ)。Perkin Elmer Iambda 950分光計を使用して、透過率スペクトルを測定し、その一方で、Cascade Microtech 44/7 S 2749の4点プローブシステムおよびKeithley 2001マルチメータでシート抵抗を測定した。製作された膜は、原子間力顕微鏡(AFM)により、デジタル計測器D3100 AFMおよびこれに関連するソフトウェア、WsXMで特徴付けた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(1)と、少なくとも1つの極薄金属膜(3)と接触する導電膜(2)からなる層状構造と、を備え、前記2つの膜が異なる材料である電極において、
前記導電膜がCu、Au、Ag、Alおよびこれらの混合物から選択され、
前記超薄型金属薄膜がNi、Cr、Ti、Pt、Ag、Au、Alおよびこれらの混合物から選択されることを特徴とする電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電極において、
前記導電膜および/または前記極薄金属膜が光学的に透明であることを特徴とする電極。
【請求項3】
前項までのいずれかに記載の電極において、
極薄金属膜が、周囲雰囲気中、またはO富化雰囲気中で熱処理されていることを特徴とする電極。
【請求項4】
前項までのいずれかに記載の電極において、
前記層状構造の上に金属格子または網状構造をさらに備えることを特徴とする電極。
【請求項5】
前項までのいずれかに記載の電極において、
前記導電膜がCuであることを特徴とする電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極において、
前記極薄金属膜がNiであることを特徴とする電極。
【請求項7】
請求項5に記載の電極において、
前記極薄金属膜がTiであることを特徴とする電極。
【請求項8】
請求項6に記載の電極において、
前記Cu膜が4から10nmの厚さであり、前記Ni極薄金属膜が1から3nmの厚さであることを特徴とする電極。
【請求項9】
請求項7に記載の電極において、
前記Cu膜が4から10nmの厚さであり、前記Ti極薄金属膜が3から5nmの厚さであることを特徴とする電極。
【請求項10】
前項までのいずれかに記載の電極において、
極薄金属膜を1つのみ有し、前記導電膜のほうが前記基板に近いことを特徴とする電極。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の電極において、
極薄金属膜を1つのみ有し、前記極薄金属膜のほうが前記基板に近いことを特徴とする電極。
【請求項12】
前項までのいずれかに記載の電極において、
少なくとも1つの極薄金属層と接触する少なくとも1つの別の膜(4)をさらに備え、前記別の膜が、
(i)酸化ニッケル、酸化銅、酸化クロム、酸化チタン、TaまたはNbドープした酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、Fドープした酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、AlまたはGaドープした酸化亜鉛、ITOおよびこれらの混合物の群から、または、
(ii)Ni、Cr、Au、Ag、Ti、Ca、Pt、Mg、Al、Sn、In、Znおよびこれらの混合物の群から選択されることを特徴とする電極。
【請求項13】
前項までのいずれかに記載の少なくも1つの電極を備えることを特徴とする光電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2013−510397(P2013−510397A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537367(P2012−537367)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066625
【国際公開番号】WO2011/054814
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512117362)フンダシオ インスティチュート デ サイエンセズ フォトニクス (2)
【出願人】(512171032)
【Fターム(参考)】