説明

内燃機関の吸気制御装置

【課題】吸気制御弁による慣性過給時における、EGRガスの混入による気筒内への新気の充填効率の低下を抑制する。
【解決手段】吸気制御装置は、開弁時にタンク(223)と吸気通路(204)とを連通させると共に閉弁時にタンクと吸気通路との連通を遮断するタンク開閉弁(224)と、EGR弁(242)を開弁状態とすることによりEGRガスを還流させている場合において慣性過給が開始されるように吸気制御弁(226)を制御する際には、EGR弁が開弁状態から閉弁状態へと向かう閉弁開始タイミング(T1)から所定の遅れ時間(DT)だけ遅れたタイミング(T2)に、タンク開閉弁が閉弁状態から開弁状態になると共に、該遅れたタイミング以降に慣性過給が開始されるように、EGR弁、タンク開閉弁及び吸気制御弁を制御する制御手段(100)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインパルスチャージ等の慣性過給が可能な内燃機関の吸気制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の吸気制御装置として、サージタンク下流の吸気通路に吸気制御弁を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された吸気制御装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、吸気制御弁を吸気ポート下流の吸気弁の開弁後に開くことにより慣性過給効果を得ることが可能であるとされている。
【0003】
他方で、例えば特許文献2では、ターボ過給機付きのエンジンにおいて、エンジンの運転領域が排気ガスを吸気通路に還流させる排気還流(EGR:Exhaust Gas Recirculation)領域から加速により高負荷側へ移行するとき、ターボ過給機の可変翼の閉動作を遅延させるように制御することにより、排気還流量が過剰になることを防止する技術が提案されている。また、例えば特許文献3では、吸気マニホールド内に設けられ、エンジンの筒内のスワール流を制御するための空気流制御弁を、吸気遅れ相当分だけ遅れ補正して制御する技術が提案されている。また、例えば特許文献4では、サージタンクと吸気ポートとの間に、制御弁を備えた連通部を介してサブタンクを設け、エンジンが高負荷状態から低負荷状態へ移行して制御弁が開から閉に切り替わる場合に、EGR弁の開度を所定の作動遅延時間、切り替え前の開度に維持することによって、適切な点火時期を実現する技術が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−187238号公報
【特許文献2】特開2000−205055号公報
【特許文献3】特開2002−332884号公報
【特許文献4】特開2004−245062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術によれば、排気ガスの一部がEGRガスとして吸気通路に還流される場合には、吸気通路の途中に設けられたサージタンク内にEGRガスが充満してしまうため、EGRガス導入後の吸気制御弁による慣性過給時において、過剰なEGRガスが気筒内に混入してしまうおそれがあるという技術的問題点がある。よって、気筒内への外部からの新しい空気(即ち、新気)の充填効率が低下してしまうおそれがある。この結果、内燃機関の出力トルクが低下してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、吸気制御弁による慣性過給時における、EGRガスの混入による気筒内への新気の充填効率の低下を抑制可能な内燃機関の吸気制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る内燃機関の吸気制御装置は上記課題を解決するために、気筒内部に連通する吸気通路と、該吸気通路に設置され、所定の開閉制御に従って開閉状態が制御されることにより吸気の脈動を利用した慣性過給を実現可能な吸気制御弁と、少なくとも一つの開口部を有し、前記吸気制御弁の上流側において該開口部を介して前記吸気通路と連通可能に並列設置されるタンクと、前記気筒から排出される排気ガスの一部をEGRガスとして前記気筒の排気側から前記吸気通路に還流させるEGR通路と、該EGR通路に設けられ、前記EGRガスの流量を調節可能なEGR弁とを備えた内燃機関の吸気制御装置であって、開弁時に前記タンクと前記吸気通路とを連通させると共に閉弁時に前記タンクと前記吸気通路との連通を遮断するタンク開閉弁と、前記EGR弁を開弁状態とすることにより前記EGRガスを前記還流させている場合において前記慣性過給が開始されるように前記吸気制御弁を制御する際には、前記EGR弁が開弁状態から閉弁状態へと向かう閉弁開始タイミングから所定の遅れ時間だけ遅れたタイミングに、前記タンク開閉弁が閉弁状態から開弁状態になると共に、該遅れたタイミング以降に前記慣性過給が開始されるように、前記EGR弁、前記タンク開閉弁及び前記吸気制御弁を制御する制御手段とを備える。
【0008】
本発明では、内燃機関の気筒内部に連通する吸気通路に吸気制御弁が設けられる。吸気制御弁は、例えば二値的に、段階的に或いは連続的に制御され得る開閉状態に応じて、吸気の量たる吸気量を調整可能な、例えば弁体、或いは当該弁体に加え更に当該弁体を駆動する駆動装置等を適宜に含んでなる動弁機構又は動弁装置等の各種形態を採り得る手段であり、内燃機関にスロットルバルブ等の所謂吸気絞り弁が備わる場合には、好適な一形態として、この吸気絞り弁の下流側に設置される。吸気制御弁の設置態様は、例えば吸気通路の物理的な構成等に応じて多種多様な形態を採り得る。即ち、吸気通路は、吸気制御弁の下流側において気筒各々に分岐してもよいし(即ち、所謂一弁式の吸気系に類する態様である)、各々に吸気制御弁を備える、気筒各々に対応する連通管又は吸気枝管(それに類するものを含む)を備えていてもよい。
【0009】
内燃機関は、開口部を介して吸気通路に連通可能に併設される、例えばサージタンク等のタンクを備える。ここで、「並列配置」とは、少なくとも開口部を介した連通が遮断された場合であっても吸気通路における吸気の流れが遮断されない位置関係の下で配置されることを包括する概念であって、好適な一形態として、当該開口部と吸気通路とが、吸気通路から分岐する所定の管路(好適な一形態として、吸気通路と略等しい管径であってもよい)等により連結された構成等を含む趣旨である。
【0010】
ここで、本発明に係る吸気制御弁は、単一であれ複数であれ、その開閉状態が所定の開閉制御に従って制御されることにより吸気の脈動を生成可能に構成されており、当該タンクを脈動波の位相を反転させる手段として利用することにより、吸気の脈動を利用した慣性過給(或いはパルス過給又はインパルスチャージ等とも称される)を実現可能に構成される。ここで、「所定の開閉制御」とは、この種の慣性過給を実現させるべくなされる、例えば吸気制御弁の開閉時期、開弁期間又は開度(即ち、開弁の度合いであり、一義的に開閉状態を規定する)の制御等を包括する概念であって、例えば吸気弁(即ち、好適な一形態として燃焼室と吸気通路との連通状態を制御する弁)の閉弁時期と、吸気の脈動波(正圧波)のピークが吸気弁に到達する時期とを同期させる(必ずしも一致させることのみを表すものではない)旨の制御等を含む趣旨である。より具体的には、開閉制御とは、例えば吸気弁の開弁後、然るべき時間経過(クランク角等により角度概念として規定されてもよい)を経て吸気制御弁を開弁させる(即ち、吸気制御弁の下流側が負圧であり、且つ吸気制御弁の上流側が大気圧以上である状態で開弁させる)こと等によって正圧波を生成し、この正圧波を開放端とみなし得る各気筒の燃焼室入り口近傍で負圧波として反射させると共に、この負圧波が当該タンクの開口部で再び開放端反射されて生じる言わば二次的な正圧波を利用して、例えば自然吸気がなされる場合(好適な一形態として、吸気は吸気制御弁の有無にかかわらず基本的に脈動波として気筒内に取り込まれ得るが、吸気制御弁に施される開閉制御により生じる脈動とは、好適な一形態として、この種の脈動よりも強い脈動である)と比較して多量の吸気を吸気行程で気筒内に取り込むべくなされる制御等を含む趣旨である。
【0011】
本発明に係る内燃機関の吸気制御装置は、例えば上述した開口部と吸気通路とを繋ぐ管路(無論、そのような管路が存在せずとも成立し得る)に設けられ、開弁時にタンクと吸気通路とを連通させると共に閉弁時にタンクと吸気通路との連通を遮断する、その開閉状態を二値的、段階的又は連続的に可変に制御可能なタンク開閉弁を備える。
【0012】
本発明では特に、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成され得る制御手段は、EGR弁を開弁状態とすることによりEGRガスを還流させている場合において、吸気の脈動を利用した慣性過給(即ち、パルス過給)が開始されるように、吸気制御弁を制御する際には、EGR弁が開弁状態から閉弁状態へと向かう閉弁開始タイミングから所定の遅れ時間だけ遅れたタイミングに、タンク開閉弁が閉弁状態から開弁状態になると共に、該遅れたタイミング以降に吸気制御弁による慣性過給が開始されるように、EGR弁、タンク開閉弁及び吸気制御弁を制御する。即ち、制御手段は、EGRガスが吸気通路に導入されている状態で例えば低回転且つ軽負荷状態にある内燃機関の加速時に、パルス過給を行う場合には、EGR弁の閉弁開始タイミングから所定の遅れ時間後に、タンク開閉弁を開弁すると共にパルス過給を開始するように、EGR弁、タンク開閉弁及び吸気制御弁の各々の開閉タイミングを制御する。言い換えれば、制御手段は、EGR弁を開弁状態とすることで吸気通路にEGRガスを還流させる期間、及びEGR弁の閉弁開始タイミングから所定の遅れ時間だけ遅れたタイミングまでの期間には、タンク開閉弁を閉弁状態とし、該遅れたタイミング以降にタンク開閉弁を開弁状態とすると共に吸気制御弁によるパルス過給を開始するように、EGR弁、タンク開閉弁及び吸気制御弁を制御する。
【0013】
よって、吸気通路からEGRガスが開口部を介してタンク内に侵入し、タンク内がEGRガスで充満してしまうのを抑制或いは防止でき、吸気制御弁によるパルス過給によって気筒内に多量のEGRガスが流入してしまうのを抑制或いは防止できる。従って、EGRガスの混入による気筒内への新気の充填効率の低下を抑制或いは防止できる。この結果、内燃機関の出力トルクが低下してしまうことを抑制或いは防止できる。更に、多量のEGRガスの流入に伴って内燃機関の燃焼状態が悪化することによりスモークが発生して排気エミッションが悪化してしまうことを防止できる。
【0014】
本発明に係る内燃機関の吸気制御装置の一態様では、前記制御手段は、前記タンク開閉弁が開弁状態となるタイミングが、前記EGR弁が閉弁状態となるタイミングよりも後になるように、前記EGR弁及び前記タンク開閉弁を制御する。
【0015】
この態様によれば、EGR弁が閉弁状態となった後に、タンク開閉弁が開弁状態となるので、タンク内がEGRガスで充満してしまうのをより一層確実に抑制或いは防止できる。
【0016】
本発明に係る内燃機関の吸気制御装置の他の態様では、前記制御手段は、前記慣性過給が開始されるタイミングが、前記タンク開閉弁が開弁状態となるタイミングよりも後になるように、前記タンク開閉弁及び前記吸気制御弁を制御する。
【0017】
この態様によれば、タンク開閉弁が開弁状態となった後に、吸気制御弁による慣性過給が行われるので、スモークの発生をより一層確実に抑制でき、好適に慣性過給を行うことができる。
【0018】
本発明に係る内燃機関の吸気制御装置の他の態様では、前記所定の遅れ時間は、前記内燃機関の回転数が大きいほど、短くなるように規定される。
【0019】
この態様によれば、内燃機関の回転数に応じて、スモークの発生を抑制しつつ早期に、吸気制御弁による慣性過給を行うことが可能である。よって、内燃機関の加速性を向上させることが可能である。
【0020】
本発明に係る内燃機関の吸気制御装置の他の態様では、前記所定の遅れ時間は、前記EGRガスを前記還流させた状態における、前記EGRガスの流量と、前記内燃機関に吸入される空気の吸入量との合計量に対する、前記EGRガスの流量の割合であるEGR率が小さいほど、短くなるように規定される。
【0021】
この態様によれば、EGR率に応じて、スモークの発生を抑制しつつ早期に、吸気制御弁による慣性過給を行うことが可能である。よって、内燃機関の加速性を向上させることが可能である。
【0022】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための最良の形態から明らかにされよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0024】
先ず、本実施形態に係るエンジンシステムの構成について、図1を参照して説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る吸気制御装置を備えたエンジンシステムの構成を示すブロック図である。
【0026】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100及びエンジン200を備えている。
【0027】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジン200の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「制御手段」の一例である。
【0028】
エンジン200は、軽油を燃料とする、本発明に係る「内燃機関」の一例たる直列4気筒ディーゼルエンジンである。エンジン200は、シリンダブロック201に4本の気筒202が並列して配置された構成を有している。各気筒202は、圧縮行程において、当該圧縮行程或いは吸気行程に気筒内に直接噴射される燃料と吸入空気との混合気が圧縮され、自発的に着火した際に生じる力が、夫々不図示のピストン及びコネクティングロッドを介してクランクシャフトの回転運動に変換される構成となっている。このクランクシャフトの回転は、エンジンシステム10を搭載する車両の駆動輪に伝達され、当該車両の走行が可能となる。
【0029】
図1において、外界から導かれる空気たる吸入空気は、本発明に係る「吸気通路」の一例たる吸気管204に導かれる構成となっている。この吸気管204には、吸気管204に導かれる吸入空気の量を調節可能なスロットルバルブ205が配設されている。このスロットルバルブ205は、ECU100と電気的に接続され且つECU100により上位に制御されるスロットルバルブモータ(不図示)から供給される駆動力により回転可能に構成された回転弁であり、スロットルバルブ205を境にした吸気管204の上流部分と下流部分とをほぼ遮断する全閉位置から、ほぼ全面的に連通させる全開位置まで、その回転位置が連続的に制御される構成となっている。このように、エンジン200では、スロットルバルブ205及びスロットルバルブモータにより、一種の電子制御式スロットル装置が構成されている。
【0030】
尚、エンジン200は、ディーゼルエンジンであり、その出力は、ガソリン等を燃料とするエンジンにおける空燃比制御(吸気量を基準とした燃料噴射制御)と異なり、噴射量の増減制御を介してコントロールされる。従って、スロットルバルブ205を介して吸入される吸入空気の量には、少なくともその上限側に実質的な制限はなく、スロットルバルブ205は、エンジン200の動作期間の大部分の領域において、基本的に全開位置に制御される。
【0031】
吸気管204は、スロットルバルブ205の下流側において連通管206に接続され、その内部において連通管206と連通する構成となっている。連通管206は、各気筒202の吸気ポート(不図示)の各々に連通しており、吸気管204に導かれた吸入空気は、連通管206を介して、各気筒に対応する吸気ポートに導かれる構成となっている。吸気ポートは、気筒202内部に連通可能に構成されている。尚、吸気管204及び連通管206により、本発明に係る「吸気通路」の一例が構成されている。
【0032】
吸気ポートと気筒202内部との連通状態は、各吸気ポートに設けられた吸気バルブにより制御される。吸気バルブは、クランクシャフトに連動して回転する吸気カムシャフトに固定された、吸気カムシャフトの伸長方向と垂直な断面が楕円形状をなす吸気カムのカムプロフィールに応じてその開閉特性が規定されており、開弁時に吸気ポートと気筒202内部とを連通させることが可能に構成されている。このように、エンジン200では、連通管206が、個々の気筒202(より具体的には吸気ポート)に対応する部分の上流側において集約され、所謂一弁式のインマニレス吸気系が実現されている。
【0033】
気筒202の内部には、筒内噴射型のインジェクタの一部としての燃料噴射弁が露出しており、高温高圧の気筒内部に燃料たる軽油を直接噴射することが可能に構成されている。
【0034】
気筒202内部で形成される混合気は、圧縮行程において自着火して燃焼し、燃焼済みガスとして、或いは一部未燃の混合気として、吸気バルブの開閉に連動して開閉する排気バルブの開弁時に、不図示の排気ポートを介して排気として排気マニホールド213に導かれる構成となっている。
【0035】
エンジン200は、ターボ過給機218を備えている。ダーボ過給機218は、タービン218a及びコンプレッサ218bを有している。タービン218aは、排気管214に配置され、コンプレッサ218bは、吸気通路204に配置されている。ターボ過給機218は、排気が通過されるタービン218aの回転エネルギーにより、コンプレッサ218bを作動させる。コンプレッサ218bは、エアクリーナ219を介して外界から吸気管204に吸入される吸入空気を、その回転に伴う圧力により下流側へ圧送供給することが可能に構成されており、このコンプレッサ218による吸入空気の圧送効果により、所謂過給が実現される。
【0036】
吸気管204において、コンプレッサ218bの下流側、且つスロットルバルブ205の上流側には、インタークーラ221が設置されている。インタークーラ221は、その内部に熱交換壁を有しており、過給された吸入空気が(コンプレッサ218bが実質的にみて有意に作用しない低回転領域においても同様である)通過する際に、係る熱交換壁を介した熱交換により吸入空気を冷却することが可能に構成されている。エンジン200は、このインタークーラ221による冷却によって吸入空気の密度を増大させることが可能となるため、コンプレッサ218bを介した過給がより効率的になされ得る構成となっている。
【0037】
エンジン200には、排気マニホールド213と吸気管204(より具体的には、吸気管204におけるスロットルバルブ205の下流側)とを連通させるEGR通路240が設けられている。排気マニホールド213からEGR通路240に導かれた排気は、EGRガスとして、吸気管204に還流される。EGR通路240の途中には、EGRクーラ241が設置されている。EGRクーラ241は、EGRガスを冷却する冷却装置である。EGR通路240におけるEGRクーラ241より下流側には、EGRバルブ242が設けられている。EGRバルブ242は、開閉可能な弁体と当該弁体を駆動する駆動装置を含むバルブ機構である。EGRバルブ242の弁体は、当該駆動装置により開閉状態が連続的に変化するように構成されており、当該開閉状態に応じて、EGR通路240を流れるEGRガスの流量(即ち、EGRガス流量)を制御することが可能に構成されている。EGRバルブ242の駆動装置は、ECU100と電気的に接続されており、EGRバルブ242の弁体の開閉状態は、ECU100により上位に制御される構成となっている。即ち、EGRバルブ242の弁体の開度(即ち、EGR弁開度)は、ECU100により上位に制御される構成となっている。
【0038】
吸気管204におけるスロットルバルブ205の下流側では、吸気管204との連通が維持された状態で、吸気管204と同径の分岐管222が分岐している。この分岐管222は更に、その内部が連通孔(即ち、本発明に係る「開口部」の一例である)を介して分岐管222と連通してなるサージタンク223へ接続されている。即ち、サージタンク223は、連通孔及び分岐管222を介して吸気管204と連通する構成となっている。
【0039】
サージタンク223は、上述したターボ過給機218の過給作用を適宜受けつつ供給される吸入空気の不規則な脈動を抑制し、且つ下流側(即ち、気筒202側)に安定して吸入空気を供給すると共に、後述するインパルスチャージの実行時において、負圧波の位相を反転させることが可能に構成された貯留手段である。但し、吸入空気は基本的に大なり小なり脈動しつつ気筒202側へ供給されるため、サージタンク223を通過する吸入空気もまた、一種の脈動波である。
【0040】
一方、分岐管222には、サージタンク223と吸気管204との連通状態を制御可能なサージタンク弁224が設置されている。サージタンク弁224は、本発明に係る「タンク開閉弁」の一例であり、アクチュエータ225から供給される駆動力に応じてその開閉状態が制御される。このアクチュエータ225は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその駆動状態が制御される構成となっている。即ち、サージタンク弁224の開閉状態は、ECU100により制御される構成となっている。
【0041】
尚、サージタンク弁224は、その開閉状態を規定するサージタンク弁開度が連続的に可変に構成されているが、ここでは、説明の簡略化のため、サージタンク弁開度が、分岐管222を介した吸気管204とサージタンク223との連通を遮断する全閉開度と、分岐管222を介して吸気管204とサージタンク223とを最大限に連通させる全開開度との間で二値的に切り替わるものとする。
【0042】
吸気管204における、分岐管222との分岐位置と連通管206との接続位置との区間204aには、単一のインパルス弁226が設けられている。インパルス弁226は、本発明に係る「吸気制御弁」の一例であり、弁体の位置により規定される開度が、吸気管204と連通管206との連通を遮断する全閉開度と、吸気管204と連通管206とをほぼ全面的に連通させる全開開度との間で連続的に変化するように構成された電磁制御弁である。インパルス弁226は、アクチュエータ227から供給される駆動力によりその開度が制御される構成となっている。このアクチュエータ227は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその駆動状態が制御される構成となっている。即ち、インパルス弁226の開度は、ECU100により制御される構成となっている。
【0043】
排気管214には、DPNR(Diesel Particulate NOx Reduction system)228が設置されている。DPNR228は、排気浄化装置であり、DPF228aを有している。より具体的には、DPNR228は、不図示のCCO(酸化触媒)、DPF228a及びNSR触媒(不図示)を排気流れ方向に並列配置してなる。
【0044】
CCOは、アルミナ等の多孔質塩基性担体に白金等の貴金属を担持してなり、排気中のCO、HC(主としてSOF)及びNO等を酸化することが可能に構成された触媒である。
【0045】
DPF228aは、排気中のPM(Particulate Matter:粒子状物質)を捕捉可能に構成されたフィルタである。DPF228aは、金属製の筐体にコージェライトやSiC等のセラミック担体によって構成されたフィルタが収容された構造を有する。このフィルタは、排気の流れる方向に伸長し且つ排気の流れる方向と垂直な断面がハニカム状をなす複数の排気通路を形成している。この排気通路は、排気の入口側と出口側とのうち一方が、相互に隣接しないように互い違いに目封じされており、DPF228aは、所謂セラミックウォールフロー型のフィルタ構造を有している。
【0046】
NSR触媒は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属等のNOx吸蔵材と貴金属をアルミナ等の多孔質担体に担持してなるNOx吸蔵還元型触媒である。NSR触媒は、リーン雰囲気中で排気中のNOを貴金属上でNOxに酸化し、塩基性物質であるNOx吸蔵材がNOxと中和反応して硝酸塩や亜硝酸塩を形成することによりNOxを吸蔵することが可能に構成されており、また燃料リッチ雰囲気中で、吸蔵されていた硝酸塩や亜硝酸塩が分解しNOxが放出されると共に、貴金属の触媒作用によりHCやCO等の還元剤と反応してN2に浄化される構成となっている。
【0047】
エンジン200の要求負荷は、不図示のアクセルペダルの操作量(即ち、ドライバによる操作量)たるアクセル開度Taに応じて決定される。アクセル開度Taは、アクセル開度センサ11により検出され、アクセル開度センサ11と電気的に接続されたECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。総体的には、アクセル開度が小さい程要求負荷は小さく、アクセル開度が大きい程要求負荷は大きくなる。要求負荷の大小とは、要求出力の大小と相関するから、エンジンシステム10において、エンジン要求出力は、アクセル開度Taに応じて変化する。
【0048】
尚、本実施形態に係るエンジンシステム10では、本発明に係る「内燃機関」の一例として、ディーゼルエンジンたるエンジン200が採用されているが、本発明に係る内燃機関とはディーゼルエンジンのみを指すものではなく、無論ガソリンエンジンや、アルコール混合燃料を使用するエンジン等であってもよい。また、本実施形態に係るエンジン200は、インパルス弁226の下流側において連通管206が各気筒に対し分岐する、所謂一弁式のインマニレス吸気系を有している。但し、インパルス弁226は、このように各気筒202に共有され且つ共用される構成を採らずともよく、連通管206における各気筒に対応する部位に、気筒202毎に複数備わっていてもよい。
【0049】
ここで、本実施形態に係るエンジンシステムにおけるインパルスチャージについて、図1を参照して説明する。
【0050】
図1において、エンジンシステム10では、ECU100が、インパルス弁226に対し所定の開閉制御を実行することにより、インパルスチャージが実行される。ここで、インパルスチャージとは、インパルス弁226の開閉により生じる吸気の脈動を利用した慣性過給を指す。より具体的に説明すると、インパルス弁226が閉弁した状態で一の気筒202が吸気行程を迎えると、当該気筒202の吸気バルブが開弁され、当該気筒202のピストンが下降し始める。この際、インパルス弁226が閉弁しているため、連通管206の管内圧は負圧となり、大気圧又は過給により大気圧以上に維持される吸気管204の管内圧との圧力差が拡大する。
【0051】
このような状態においてインパルス弁226を開弁する(即ち、吸気バルブの開弁タイミング以降の開弁期間において開弁する)と、吸気管204と該当する気筒202(即ち、その時点で吸気行程にある気筒)の内部とが連通し、インパルス弁226を介して吸入空気が吸気として一気に気筒202内部の燃焼室に流入することとなる。
【0052】
一方、燃焼室との連通部位において連通管206は所謂開放端となっており、燃焼室への吸入空気の流入に惹起された正圧波は、燃焼室で反射することによって、位相が反転した負圧波となる。この負圧波は、連通管206、インパルス弁226及び分岐管222を順次介してサージタンク223に到達し、開放端となる連通孔において開放端反射して位相が反転した正圧波として再び燃焼室に到達する。この正圧波のピークが燃焼室に(或いは吸気バルブに)到達した時点で(必ずしも、当該時点のみに限定されるものではなく、吸気の充填効率を幾らかなり向上させ得る限りにおいて当該時点を含む一定又は不定の期間であってよい)吸気バルブを閉弁することにより、或いは、吸気バルブが閉弁するタイミングで、この正圧波が燃焼室に到達するようにインパルス弁226の開弁時期を制御することにより(本実施形態はこちらが採用される)燃焼室内の圧力は上昇し、吸気の充填効率が向上する。インパルス弁226を利用したインパルスチャージはこのように実行される。
【0053】
本実施形態に係るエンジンシステム10では特に、EGRガスが吸気管202に導入されている状態で低回転且つ軽負荷状態にあるエンジン200の加速時に、インパルスチャージが実行される場合には、EGRバルブ242、サージタンク弁224及びインパルス弁226の各々がECU100によって以下のように制御される。
【0054】
図2は、本実施形態における、EGRガスが吸気管に導入されている状態で低回転且つ軽負荷状態にあるエンジンの加速時に、インパルスチャージが実行される場合における、アクセル開度、EGR弁開度、サージタンク弁開度及びインパルスチャージ実行フラグの経時的な変化を示すタイミングチャートである。
【0055】
図1及び図2において、排気の一部がEGRガスとしてEGR通路240から吸気管204に導入されている状態(即ち、EGRバルブ242が開弁状態)で、アクセル開度TaがタイミングT1において所定の基準値よりも増大すると、ECU100は、このタイミングT1と殆ど或いは完全に同時に、EGRバルブ242が開弁状態から閉弁状態へ向かうように、EGRバルブ242を制御する(言い換えれば、EGR弁開度が開弁状態から閉弁状態へ向かうように制御する)。ここで、アクセル開度Taは、エンジン200の要求負荷に対応する指標値であり、所定の基準値とは、要求負荷の点から慣性過給が必要である旨の判断を下し得る値である。言い換えれば、所定の基準値以下の低負荷領域においては、元より吸気の充填量を増大させる必要がないため、インパルスチャージの実行が必要とされない。このため、ECU100は、インパルスチャージの実行可否を規定するインパルスチャージ実行フラグを、少なくともタイミングT1より前には、オフ状態(OFF)に設定する。また、EGRガスが吸気管204に導入されている状態(言い換えれば、図2の時間軸におけるタイミングT1より前)では、ECU100は、サージタンク弁224が閉弁状態となるように、サージタンク弁224を制御する(言い換えれば、サージタンク弁開度が閉弁状態となるように制御する)。これにより、EGRバルブ242が開弁状態とされることにより還流されているEGRガスがサージタンク223内に流入するのを防止することができる。尚、後述するように、本実施形態では特に、ECU100は、EGRバルブ242を閉弁状態とした後のタイミングT2に、サージタンク弁224を開弁状態とすると共に、インパルスチャージ実行フラグをオン状態(ON)に設定する。
【0056】
本実施形態では特に、ECU100は、アクセル開度TaがタイミングT1において所定の基準値よりも増大するのに応じてインパルスチャージを実行する際には、タイミングT1から所定の遅れ時間DTだけ遅れたタイミングT2に、サージタンク弁224が閉弁状態から開弁状態になると共に、このタイミングT2以降にインパルスチャージの実行が開始されるように、EGRバルブ242、サージタンク弁224及びインパルス弁226を制御する。言い換えれば、ECU100は、EGRバルブ224を開弁状態とすることで吸気管204にEGRガスを還流させる期間、及びEGRバルブ224の閉弁開始タイミング(本実施形態ではタイミングT1と殆ど或いは完全に一致するタイミング)から所定の遅れ時間DTだけ遅れたタイミングT2までの期間には、サージタンク弁224を閉弁状態とし、このタイミングT2以降にサージタンク弁242を開弁状態とすると共にインパルスチャージ実行フラグをオン状態に設定する。
【0057】
よって、タイミングT1に応じてEGRバルブ242が閉じられた後に吸気管204に残留するEGRガスが、吸気管204から分岐管222及びその連通孔を介してサージタンク223内に侵入し、サージタンク223内がEGRガスで充満してしまうのを抑制でき、インパルス弁226によるインパルスチャージによって気筒202内に多量のEGRガスが流入してしまうのを防止できる。従って、EGRガスの混入による気筒202内への新気の充填効率の低下を抑制できる。この結果、エンジン200の出力トルクが低下してしまうことを抑制できる。更に、多量のEGRガスの流入に伴って気筒202において燃焼状態が悪化することによりスモークが発生して排気エミッションが悪化してしまうことを防止できる。よって、DPNR228におけるDPF228aが、排気中の多量のPM(粒子状物質)によって詰まってしまう事態を回避することができる。
【0058】
尚、所定の遅れ時間DTは、エンジン200の回転数が大きいほど、短くなるように規定されてもよい。この場合には、エンジン200の回転数に応じて、スモークの発生を抑制しつつ早期に、インパルスチャージを実行することができる。よって、エンジン200の加速性を向上させることが可能となる。或いは、所定の遅れ時間DTは、EGRガスが還流された状態(言い換えれば、EGRバルブが開弁状態である期間)におけるEGR率(即ち、EGRガスの流量と空気の吸入量との合計量に対する、EGRガスの流量の割合、言い換えれば、吸気のCO2濃度)が小さいほど、短くなるように規定されてもよい。この場合には、EGR率に応じて、スモークの発生を抑制しつつ早期に、インパルスチャージを実行することができる。
【0059】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の吸気制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態に係る吸気制御装置を備えたエンジンシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態における、EGRガスが吸気管に導入されている状態で低回転且つ軽負荷状態にあるエンジンの加速時に、インパルスチャージが実行される場合における、アクセル開度、EGR弁開度、サージタンク弁開度及びインパルスチャージ実行フラグの経時的な変化を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0061】
100…ECU、200…エンジン、202…気筒、204…吸気管、206…連通管、222…分岐管、223…サージタンク、224…サージタンク弁、225…アクチュエータ、226…インパルス弁、227…アクチュエータ、228…DPNR、228a…DPF、240…EGR通路、241…EGRクーラ、242…EGRバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内部に連通する吸気通路と、該吸気通路に設置され、所定の開閉制御に従って開閉状態が制御されることにより吸気の脈動を利用した慣性過給を実現可能な吸気制御弁と、少なくとも一つの開口部を有し、前記吸気制御弁の上流側において該開口部を介して前記吸気通路と連通可能に並列設置されるタンクと、前記気筒から排出される排気ガスの一部をEGRガスとして前記気筒の排気側から前記吸気通路に還流させるEGR通路と、該EGR通路に設けられ、前記EGRガスの流量を調節可能なEGR弁とを備えた内燃機関の吸気制御装置であって、
開弁時に前記タンクと前記吸気通路とを連通させると共に閉弁時に前記タンクと前記吸気通路との連通を遮断するタンク開閉弁と、
前記EGR弁を開弁状態とすることにより前記EGRガスを前記還流させている場合において前記慣性過給が開始されるように前記吸気制御弁を制御する際には、前記EGR弁が開弁状態から閉弁状態へと向かう閉弁開始タイミングから所定の遅れ時間だけ遅れたタイミングに、前記タンク開閉弁が閉弁状態から開弁状態になると共に、該遅れたタイミング以降に前記慣性過給が開始されるように、前記EGR弁、前記タンク開閉弁及び前記吸気制御弁を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする内燃機関の吸気制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記タンク開閉弁が開弁状態となるタイミングが、前記EGR弁が閉弁状態となるタイミングよりも後になるように、前記EGR弁及び前記タンク開閉弁を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の吸気制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記慣性過給が開始されるタイミングが、前記タンク開閉弁が開弁状態となるタイミングよりも後になるように、前記タンク開閉弁及び前記吸気制御弁を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の吸気制御装置。
【請求項4】
前記所定の遅れ時間は、前記内燃機関の回転数が大きいほど、短くなるように規定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関の吸気制御装置。
【請求項5】
前記所定の遅れ時間は、前記EGRガスを前記還流させた状態における、前記EGRガスの流量と、前記内燃機関に吸入される空気の吸入量との合計量に対する、前記EGRガスの流量の割合であるEGR率が小さいほど、短くなるように規定されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の内燃機関の吸気制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−264328(P2009−264328A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117318(P2008−117318)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】