説明

半導体基板および半導体装置

【課題】高いしきい値電圧と低いリーク電流のノーマリーオフの半導体素子を提供する。
【解決手段】基板2の上に少なくともAlを含むIII族窒化物からなる下地層(バッファー層)3を設けた上で、III族窒化物、好ましくはGaNからなる第1の半導体層(チャネル層)4と、少なくともAlを含むIII族窒化物、好ましくはAlxGa1−xNであってx≧0.2である第2の半導体層(電子供給層)6が積層されてなる半導体層群からなるHEMT構造の半導体素子の上に、Al2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7を形成し、その上にゲート電極9を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物を用いた半導体基板およびそれを用いた半導体装置、具体的にはMIS(Metal-Insulater-Semiconductor:金属-絶縁体-半導体)またはMOS(Metal-Oxide-Semiconductor:金属-酸化物-半導体)型HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスター)素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GaNをはじめとするIII族窒化物半導体は、バンドギャップが大きく、破壊電界強度が高く、かつ高融点であることから、GaAs系材料に代わる、高出力、高周波、高温用の半導体デバイス材料として期待されており、そうした物性を活かすデバイスとして、HEMT素子などが研究、開発されている。例えば、サファイアやSiC等の基板上にいわゆるチャネル層としてGaNを形成し、さらにその上に、いわゆる電子供給層としてAlGaNやAlNを形成するヘテロ構造型のHEMT素子などが研究、開発されている。
【0003】
上記のようなHEMT素子においては、チャネル層と電子供給層の(a軸の)格子定数差に起因して、表面から基板へと電界が生ずるピエゾ効果(圧電効果)ならびに自発分極効果により、チャネル層表面に2次元電子ガスを生成する。AlGaNにおいてAl濃度が高いほど、その格子定数差も大きくなるので、係るピエゾ効果ならびに自発分極効果も増大する。
【0004】
このHEMT素子は、係るチャネル層表面において、高いキャリア濃度(シートキャリア濃度)を有するため、大電流のトランジスターとして鋭意研究開発がなされている。特に、III族窒化物半導体はシリコンよりもバンドギャップが大きいため、その耐圧が大きく、また高温動作が可能であるため、パワーMOSやIGBTなどのシリコンパワーデバイスに代わるパワーデバイスとして有望である。
【0005】
しかし、このHEMT素子は高いキャリア濃度のために通常はノーマリオンデバイスとなる。すなわち、ゲートに電圧をかけていない状態でソースとドレインの間に電流が流れるタイプの素子しかできない。実際の応用においては、特にパワーデバイスなどでは安全上の観点から、ゲートに電圧をかけていない状態でソースとドレインの間に電流が流れないノーマリーオフデバイスが望まれている。
【0006】
実際、実用化されているシリコンのパワーデバイス、パワーMOSやIGBTはノーマリーオフデバイスである。このため、III族窒化物半導体においても、MIS(MOS)型HEMT素子のようなノーマリーオフデバイスの実現が望まれている。
【0007】
窒化物系MIS(MOS)型HEMT素子においても、ノーマリーオフデバイスを実現するために様々な試みがなされている。その主なものとしては、
(1)リセスゲート構造による方法(特許文献1、非特許文献1〜4参照)
(2)Alを含むIII族窒化物からなる半導体層のAl濃度を減らして、ピエゾ効果(圧電効果)、自発分極効果抑える方法
(3)フッ素イオンをAlを含むIII族窒化物からなる半導体層に注入して自発分極効果抑える方法(非特許文献5〜11参照)
(4)Alを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)の厚さを極力薄くする方法(特許文献2、非特許文献12〜15参照)
(5)基板に非極性、反極性の基板を用いて、その上に成長したAlを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)の自発分極を少なくする方法(非特許文献16、17参照)
(6)Alを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)の上にp型のIII族窒化物からなる層を成長させ、接合型のHEMTとする方法(特許文献3〜5、非特許文献18〜20参照)
(7)Alを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)の上に、それよりもバンドギャップが小さい半導体層を設けて第2の半導体層(電子供給層)の伝導帯を持ちあげる方法(非特許文献21参照)、などがある。
【0008】
しかし、いずれの方法においても、ノーマリーオフにはなるものの、大きいしきい値電圧は得られなかった。
【0009】
(8)一方、酸化物膜や絶縁物膜をAlを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)の上に堆積させたMIS(MOS)構造を用いる方法(特許文献6〜8、非特許文献22〜33参照)についても、それらの膜をスパッタリングやプラズマCVDやレーザーアブレーションや原子層エピタキシーなどで堆積させる、あるいは表面に形成した窒化物層をオゾンやプラズマラジカルで後から参加させるなど既に様々な方法が試みられているが、一般的にはしきい値電圧は小さく、また大きいしきい値電圧が得られても、界面準位が多く、正常に動作する半導体装置はできなかった。
【0010】
また、絶縁物膜として非晶質のAlOnNy膜を用いるという発明がなされている(特許文献9参照)が、非晶質を用いているため、界面準位が多く、正常に動作する半導体装置はできなかった。また、絶縁物膜として、AlN膜の上にAl2O3膜を積層させるという発明がなされているが (特許文献10参照)が、本発明のように混晶を用いないため、半導体層と絶縁物膜との物理化学的整合性は取れないので、本発明と全く異なる発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−198789号公報
【特許文献2】特開2007−250950号公報
【特許文献3】特開2007−66979号公報
【特許文献4】特開2006−339561号公報
【特許文献5】特開2007−19309号公報
【特許文献6】特開2003−332356号公報
【特許文献7】特開2006−210518号公報
【特許文献8】特開2007−250950号公報
【特許文献9】特開2005−183597号公報
【特許文献10】特開2006−32552号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】S. Maroldt et al., Jpn. J. Appl. Physics, 48(2009) 04C-83.
【非特許文献2】M. Kuraguchi et al., phys. stat. sol. (a), 204(2007), 2010.
【非特許文献3】T. Oka et al., IEEE Electron Device Lett., 29(2008), 668.
【非特許文献4】W. Saito et al., IEEE Trans. Electron Devices, 53(2006), 356.
【非特許文献5】W. Chen et al., Appl. Phys. Lett., 92(2008), 253501.
【非特許文献6】Y. Cai et al., IEEE Electron Device Lett., 26(2005), 435.
【非特許文献7】Y. Cai et al., IEEE Trans. Electron Devices, 53(2006), 2207.
【非特許文献8】D. Song et al., IEEE Electron Device Lett., 28(2007), 189.
【非特許文献9】T. Paiacios et al., IEEE Electron Device Lett., 27(2006), 428.
【非特許文献10】C.S. Suh et al., IEEE IDEM Tech. Digest, #35.3(2006).
【非特許文献11】A. Basu et al., Int. Conf. Compound Semiconductor MANTECH Tech Digest (2008), pp. 253.
【非特許文献12】T.J. Anderson et al., IEEE Electron Device Lett., 30(2009), 1251.
【非特許文献13】C. Ostermaier et al., IEEE Electron Device Lett., 30(2009), 1030.
【非特許文献14】Y. Ohmaki et al., Jpn. J. Appl. Phys., 45(2006), L1168.
【非特許文献15】A. Endoh et al., Jpn. J. Appl. Phys., 43(2004), 2255.
【非特許文献16】T. Fujiwara et al., Appl. Phys. Express, 2(2009), 011001.
【非特許文献17】M. Kuroda et al. , J. Appl. Phys., 102(2007), 093703.
【非特許文献18】T. Fujii et al., 46(2007), 115.
【非特許文献19】Y. Uemoto et al., IEDM09 (2009), 165.
【非特許文献20】Y. Uemoto et al., IEEE Trans. Electron Devices, 54(2007), 3393.
【非特許文献21】T. Mizutani et al., IEEE Electron Device Lett., 28(2007), 549.
【非特許文献22】Y. Niiyama et al, 47(2008), 5409, 7128.
【非特許文献23】M. Tajima et al, Jpn. J. Appl. Phys., 48(2009) 020203.
【非特許文献24】C.F. Lo et al., J. Vac. Sci. Technol. B, 8(2010), 52.
【非特許文献25】S. Sugiura et al., Solid State Electronics, 54(2010)79.
【非特許文献26】M. Kuroda et al. IEEE Trans. Electron Devices, 57(2010) 368.
【非特許文献27】H. Kambayashi et al., IEEE Electron Device Lett., 28(2007), 1077.
【非特許文献28】K. Matocha et al., IEEE Electron Device Lett., 52(2005), 6.
【非特許文献29】S.C. Binari et al., Proc. Electrochem. Soc., Vol.95-21. pp.136.
【非特許文献30】R. Therrien et al., Microchem. Eng., 48(1999), 303.
【非特許文献31】F. Ren et al., Solid-State Electron. 43(1999), 1817.
【非特許文献32】P. Chen et al., Proc. Mater. Res. Soc., 622(2000), T.2.9.1.
【非特許文献33】K.-W. Lee et al., Electron Lett., 38(2002), 829.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記点に鑑みてなされたものであり、絶縁物膜としてAl2O3−SiO2の混晶を用い、しきい値電圧を高くするとともに、界面準位を少なくし、ノーマリーオフでかつ正常に動作する半導体素子を得ることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の(1)から(7)に記載されたノーマリーオフデバイスの方法は原理的に高いしきい値電圧は得られない。一方、(8)で述べたMOS型ないしはMIS型構造は高いしきい値電圧ノーマリーオフデバイスが可能であるが、実際には多くの研究にも係らず、実際に実用に供することができる高いしきい値電圧のノーマリーオフデバイスは実現されていない。本発明者らは、その理由について鋭意検討した結果以下の結論に達した。
【0015】
従来のMOS型ないしはMIS型構造では絶縁層として、その下の半導体層と物理化学的に整合せず、界面の準位が多いため、MOS型ないしはMIS型のデバイスの動作をすることができなかった。本発明者らはこれまでの絶縁層と異なり、絶縁層の下の半導体層と物理化学的に整合し、かつ不必要な界面準位が少なくなる絶縁層材料としてAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜材料に注目した。
【0016】
本発明は上記検討を基になされたもので、請求項1に記載の発明では、基板と、前記基板の上に形成されたバッファー層としての下地層と、前記下地層の上に形成された半導体層群と、を備える半導体基板であって、前記半導体層群は、III族窒化物からなる単一層ないしは多重層で構成されるチャネル層としての第1の半導体層と、前記第1の半導体層よりバンドギャップが大きいIII族窒化物からなる単一層ないしは多重層で構成される電子供給層としての第2の半導体層と、がこの順に前記下地層の側から積層されてなり、前記半導体層群の上にAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜が形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の半導体基板において、前記第1の半導体層を流れる電流を大きくするために、前記第2の半導体層を構成する単一層ないしは多重層に不純物が添加されていることを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は2に記載の半導体基板において、前記半導体層群は、前記第2の半導体層と前記Al2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜との間に、伝導体の位置を制御するためにIII族窒化物からなる単一層ないしは多重層で構成される伝導帯端調整層としての第3の半導体層を有していることを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載の発明では、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体基板にソース電極、ゲート電極が形成され、前記Al2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜の上にゲート電極が形成されている半導体装置を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】半導体積層構造を用いて形成されたMOS型HEMT素子の構成を示す概要図である。
【図2】変形例に係るMOS型HEMT素子の構成を示す概要図である。
【図3】変形例に係るMOS型HEMT素子の構成を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本実施の形態に係る半導体積層構造1を用いて形成されたMOS型HEMT素子の構成を示す概念図である。なお、図示の都合上、図1における各層の厚みの比率は、実際の比率を反映したものとはなっていない。
【0022】
半導体積層構造1は、所定の基板2の上に、下地層(バッファー層)3と、第1の半導体層(チャネル層)4と、第2の半導体層(電子供給層)6とを備える。以下、第1の半導体層(チャネル層)4と、第2の半導体層(電子供給層)6とを総じて、単に半導体層もしくは半導体層群と称することがある。また、以下に示すように半導体積層構造1は基板2の上にこれら半導体層群をエピタキシャル成長させることで形成され、基板と同様の態様でその後の素子形成に供されることから、半導体積層構造1のことをエピタキシャル基板とも称する場合がある。
【0023】
また、MOS型HEMT素子は、係る半導体積層構造1に、ソース電極8、ゲート電極9、ドレイン電極10を形成してなる。
【0024】
また、基板2は、その上に形成する下地層(バッファー層)3や半導体層の組成や構造、あるいは各層の形成手法に応じて適宜に選択される。例えば、基板2としては、サファイア、炭化ケイ素、シリコン、ゲルマニウム、酸化物(ZnO、LiAlO2,LiGaO2,MgAl2O4,(LaSr)(AlTa)O3,NdGaO3,MgOなど)、Si-Ge合金、III―V族化合物(GaAs,AlN,GaN,AlGaN、AlInN)、ホウ化物(ZrB2など)、などを用いることができる。基板2の厚みには特段の材質上の制限はないが、取り扱いの便宜上、数百μm〜数mmの厚みのものが好適である。
【0025】
また、下地層(バッファー層)3は、その上に形成する半導体層の組成や構造、あるいは各層の形成手法に応じて、様々なIII族窒化物からなる単一層ないしは多重層から形成される。下地層(バッファー層)3は0.5μm以上から5μm以下の厚みに形成されるのが好ましく、歪や転位密度ができるだけ少ない構造とするのが望ましい。
【0026】
また、このような、下地層(バッファー層)3は、例えばMOCVD法やMBE法などの公知の成膜手法にて形成することができる。成膜条件を適宜に調整することにより、転位密度が1×1011/cm2以下であるように、好ましくは、5×1010/cm2以下であるように、より好ましくは、1×1010/cm2以下であるように形成されてなる。
【0027】
第1の半導体層(チャネル層)4は、好ましくは高抵抗のIII族窒化物にて形成される。より好ましくは、抵抗を低減する要因となる不純物を含まない、GaN(i−GaN)にて形成される。図1においては、第1の半導体層(チャネル層)4をi−GaNにて形成した場合を例示している。第1の半導体層(チャネル層)4も、例えばMOCVD法やMBE法などの公知の成膜手法にて形成される。上記のような高い結晶性を有する下地層(バッファー層)3の上に形成されてなることにより、第1の半導体層(チャネル層)4も良好な結晶品質を有してなる。
【0028】
なお、第1の半導体層(チャネル層)4の上面近傍には、第2の半導体層(電子供給層)6からキャリアとなる電子が供給されることにより、高濃度の2次元電子ガスが生成する2次元電子ガス領域5が形成されることになる。そのため、第1の半導体層(チャネル層)4は、この2次元電子ガス領域5を確保するだけの厚みが必要であるが、一方で、あまりに厚みが大きすぎるとクラックが発生しやすくなることから、数μm程度の厚みに形成されるのが好適である。
【0029】
第2の半導体層(電子供給層)6は、少なくともAlを含むIII族窒化物にて形成されてなる。好ましくは、AlxGa1−xNなる組成を有するIII族窒化物にて、第2の半導体層(電子供給層)6のバンドギャップが第1の半導体層(チャネル層)4のバンドギャップよりも大きくなるように形成される。第2の半導体層(電子供給層)6は、全体として、5nm〜60nmの厚みに形成されるのが、2次元電子ガス領域5の形成の点ならびにデバイス動作の点(すなわちゲート電圧印加に対する主電流の制御性という点)からは好ましい。
【0030】
第2の半導体層(電子供給層)6は、例えばMOCVD法やMBE法などの公知の成膜手法にて形成される。第2の半導体層(電子供給層)6をxの値が大きいIII族窒化物、つまりは、Al過剰なIII族窒化物にて形成するほど、ピエゾ効果は増し、2次元電子ガス領域5におけるシートキャリア濃度は向上する。好ましくは、第2の半導体層(電子供給層)6はx≧0.2をみたす範囲のIII族窒化物にて形成される。ただし、xが大きい場合は、クラックが生じやすくなるため、クラックが生じない成長条件を選択することが必要である。また、2次元電子ガス領域5と第2の半導体層(電子供給層)6の間に第2の半導体層(電子供給層)6よりもバンドギャップが大きい半導体層を生成させて2次元電子ガス領域5の電子の移動度を高めることもできる。
【0031】
第2の半導体層(電子供給層)6の表面に形成させるAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7は、スパッタリング、プラズマCVD、蒸着法、レーザーアブレーション、ALE(原子層エピタキシー)、ALD(原子層堆積法)、MOCVD(有機金属気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー)、などの様々な薄膜成長法を用いることが可能である。Al2O3−SiO2混晶の組成比については、第2半導体層6の表面と物理化学的に整合するように組成比を決定する。具体的には、格子定数、熱膨張率、界面準位密度などの観点からその組成を決定する。
【0032】
また、上記のような様々な薄膜成長法により、第2の半導体層(電子供給層)6の表面にAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7を形成させる際に、Alを酸化する目的で、薄膜成長装置に水素ガスを流す配管の途中に水を加熱ないしは冷却して水蒸気圧力を制御する装置を設置し、もって水素ガス中の水蒸気圧を制御することによって、水素ガス中の酸素分圧を精密制御すると、より効果的に第2の半導体層(電子供給層)6の表面と物理化学的に整合する高品質のAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7が形成できる。
【0033】
ソース電極8およびドレイン電極10は、第2の半導体層(電子供給層)6の表面に、例えば、Ti/Au/Ni/Auにてオーミック接合により形成される。ソース電極8およびドレイン電極10の形成に際しては、第2の半導体層(電子供給層)6の表面の電極形成箇所に、所定のコンタクト処理がなされた上で行われてもよい。また、ゲート電極9は、Al2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7の表面に、例えば、Pd/Ti/Auにてショットキー接合により形成される。
【0034】
このような構成を有するMOS型HEMT素子において、第1の半導体層(チャネル層)4と第2の半導体層(電子供給層)6との格子定数差に起因して、表面から基板へと電界が生ずるピエゾ効果ならびに自発分極効果により、第1の半導体層(チャネル層)4の表面に2次元電子ガス層5が生成することになる。
【0035】
通常はこの二次元電子ガス領域によるシートキャリア濃度が大きいため、ノーマリオンのMOS型HEMT素子が作られる。このようなMOS型HEMT素子をノーマリオンにするためには、この二次元電子ガス領域におけるシートキャリア濃度を減少させるために、既に述べたように、(1)リセスゲート構造による方法、(2)Alを含むIII族窒化物からなる半導体層のAl濃度を減らして、ピエゾ効果(圧電効果)、自発分極効果抑える方法、(3)フッ素イオンをAlを含むIII族窒化物からなる半導体層に注入して自発分極効果抑える方法、(4)Alを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)6の厚さを極力薄くする方法、(5)基板に非極性、反極性の基板を用いて、その上に成長したAlを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)6の自発分極を少なくする方法、などが試みられてきたが、いずれの方法も2次元電子ガス層によるシートキャリア濃度を減少してしまうため、大電流が流せるというMOS型HEMT素子の特徴が抑制されてしまう上、仮にノーマリーオフができても、しきい値電圧が小さい、という欠点を有している。
【0036】
また、大電流が流せるというMOS型HEMT素子の特徴を活かしして、かつしきい値電圧を大きくするために、(6)Alを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)6の上にp型のIII族窒化物からなる層を成長させ、接合型のHEMTとする方法、(7)Alを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)6の上に、それよりもバンドギャップが小さい半導体層を設けて第2の半導体層(電子供給層)6の伝導帯を持ちあげる方法、も試みられてきたが、しきい値電圧が十分大きくなく、ゲートのリーク電流も大きい、という欠点を有している。
【0037】
これに対して、(8)酸化物膜や絶縁物膜をAlを含むIII族窒化物からなる第2の半導体層(電子供給層)6の上に堆積させたMIS(MOS)構造を用いる方法は、シリコンのMOSデバイスに類似した方法であり、最も有望ではあるが、これまで試みられてきたMIS(MOS)構造の絶縁膜7は、Si3N4、SiO2、SiO2、Gd2O3、ポリシリコンなどであり、しきい値電圧が大きくても界面準位密度が大きく、良好な半導体装置は製造できなかった。
【0038】
また、本実施の形態に係るMOS型HEMT素子では、Al2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7を用いているため、半導体積層構造1の表面と物理化学的に整合する膜が形成されているため、しきい値電圧も高く、リーク電流も小さいMOS型HEMT素子が実現されており、係る半導体装置は、従来開示された技術から容易に想到される値を遙かに上回るものである。本実施の形態においては、第2の半導体層(電子供給層)6の表面に形成させるAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7が、第2の半導体層(電子供給層)6と物理化学的に整合するように組成を制御でき、そのため電気的に活性な界面準位が少なくなることで、大きいしきい値電圧で動作可能なノーマリーオフ素子が実現できたと推察される。
【0039】
以上、説明したように、本実施の形態に係るMOS型HEMT素子においては、基板2の上にIII族窒化物からなる下地層(バッファー層)3を設けた上で、III族窒化物、好ましくはGaNからなる第1半導体層4と、少なくともAlを含むIII族窒化物、好ましくはAlxGa1−xNであってx≧0.2である第2の半導体層(電子供給層)6が積層されてなる半導体層群を形成し、その上にAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7をできるだけ物理化学的に整合するよう形成することにより、第2の半導体層(電子供給層)4とAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7の間に電気的に活性な界面準位を少なくすることにより、大きいしきい値電圧(少なくとも+1V以上、好ましくは+3V以上)で動作可能なノーマリーオフ素子が実現されている。
【0040】
<変形例>
MOS型HEMT素子の構造は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の構造をとることが可能である。図2、図3は、本実施の形態に係る半導体積層構造1を用いて作製される、上記とは異なる構造のMOS型HEMT素子の例について示す図である。
【0041】
図2は、第2の半導体層(電子供給層)6を構成する単一層ないしは多重層のどれか一つ以上に不純物を添加することにより、2次元電子ガス領域5におけるシートキャリア濃度を大きくできるため、より電流が流れるMOS型HEMT素子ができる。また、自発分極やピエゾ分極に頼らず、不純物濃度により2次元電子ガス領域5におけるシートキャリア濃度を大きくできるので、第2の半導体層(電子供給層)6の厚さが薄くても、電流が流れるMOS型HEMT素子ができる。この際、第2の半導体層(電子供給層)6を薄くすることができるため、より容易にノーマリーオフのMOS型HEMT素子ができるため、より大きいしきい値電圧のMOS型HEMT素子ができる。添加する不純物としては、n型のドーパントとしてSiをドープしても良いし、また、Siに代わる他の元素が、第2の半導体層(電子供給層)を構成する単一層ないしは多重層のどれか一つ以上ドープされる態様であってもよい。
【0042】
図3は、第2の半導体層(電子供給層)6の上に、第2の半導体層(電子供給層)6とAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7の間に、伝導体の位置を制御するためにIII族窒化物からなる単一層ないしは多重層で構成される第3の半導体層(伝導帯端調整層)11を有するMOS型HEMT構造を示している。第3の半導体層(伝導帯端調整層)11は、バンドギャップが大きいため、第2の半導体層(電子供給層)6の伝導帯端の高さを調整する機能を有し、このためノーマリーオフのしきい値電圧を大きくすることができる。
【0043】
この図3に示す構造においても、絶縁膜7としてAl2O3とSiO2からなる混晶結晶を用い、絶縁膜7の下の半導体層(この例では第3の半導体層11)と物理化学的に整合させることにより、上述した実施の形態と同様、大きいしきい値電圧で動作可能なノーマリーオフ素子を実現することができる。
【0044】
また、ソース電極とドレイン電極の下の半導体層は、第2の半導体層(電子供給層)6であっても、第3の半導体層(伝導帯端調整層)11であっても、その一部を例えば反応性イオンエッチング(RIE)にてエッチングして、その一部分を露出させたうえで、ソース電極8およびドレイン電極10を形成した構成になっていてもよい。
【0045】
また、ソース電極とドレイン電極の下の半導体層は、第2の半導体層(電子供給層)6であっても、第3の半導体層(伝導帯端調整層)11であっても、その一部を例えば反応性イオンエッチング(RIE)にてエッチングして、その一部分を露出させたうえで、コンタクト層としてSiをドープしたGaNを選択再成長によって設け、ソース電極とドレイン電極をその上部に形成した構成になっていてもよい。
【0046】
また、ソース電極とドレイン電極の下の半導体層は、第2の半導体層(電子供給層)6であっても、第3の半導体層(伝導帯端調整層)11であっても、第2の半導体層(電子供給層)6の一部までテーパ状の溝を設け、その底面上にゲート電極9を設けた構成になっていてもよい。
【0047】
以上のような構造を有するMOS型HEMT素子においても、上述の実施の形態と同様に、第2半導体層4とAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜7の間に電気的に活性な界面準位を少なくすることにより、大きいしきい値電圧で動作可能なノーマリーオフ素子が実現される。
【0048】
なお、本発明は上述した種々の実施の形態およびその変形例に限られるものでなく、それらを適宜組み合わせた構成としたものであってもよい。
【実施例】
【0049】
本実施例においては、上述の実施の形態に係る半導体積層構造1と、これを用いたMOS型HEMT素子とを作製した。まず、2インチ径の厚さ600μmのC面サファイア単結晶を用い、これを所定のMOCVD装置の反応菅内に設置した。MOCVD装置は、反応ガスあるいはキャリアガスとして、少なくともH2、N2、TMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、NH3、およびシランガスが、反応管内に供給可能とされている。キャリアガスとして、水素を流速3.5m/secで流しながら、反応管内の圧力を25Torrに保ちつつ、基板29を1210℃まで昇温した後、10分間保持し、基板29のサーマルクリーニングを実施した。
【0050】
その後、基板温度を1210℃に保ちつつ、TMAとそのキャリアガスである水素とを供給するとともに、NH3とそのキャリアガスである水素とを供給することにより、下地層(バッファー層)3として、として、1.5μmの厚さのAlN層を成長させた。その際には、TMAとNH3との供給モル比がTMA:NH3=1:400となるようにそれぞれの流量を制御した。このようにして得た下地層(バッファー層)3の(002)面についてのX線ロッキングカーブ半値幅は、70秒であり、転位密度は3×1013/cm2であった。
【0051】
引き続き、温度を1110℃、圧力を750Torrとしたうえで、TMGとNH3とを供給モル比がTMG:NH3=1:1800となるように供給して、第1の半導体層(チャネル層)4として厚さ2.5μmのGaN層を形成した。この際、成膜速度を約3.5μm/hrとなるように、TMG及びNH3の供給量を設定した。
【0052】
第1の半導体層(チャネル層)4であるGaN層の形成後、1090℃とし、TMAとTMGとNH3とを供給モル比がTMA:TMG:NH3=0.15:0.6:1800となるように供給して、Al0.25Ga0.75Nなる組成を有する第2の半導体層(電子供給層)6を形成した。以上により、半導体積層構造1を得た。
【0053】
このようにして得られた半導体積層構造1の表面に、Al2O3とSiO2の混晶の膜を作製した。H2供給配管を有する真空蒸着装置において、電子ビーム蒸着によりAlとSiを蒸着した。この蒸着をしている間、半導体層基板は加熱し、AlとSiが酸化するように、熱力学的計算に基づいた酸素分圧となるように、H2供給配管に微量の水蒸気を混ぜて、酸素分圧を精密制御したH2を供給して、Al2O3とSiO2の混晶の絶縁膜7を形成した。なお、AlとSiを蒸着する際に、抵抗加熱法で蒸着しても良い。
【0054】
さらに、Al2O3-SiO2の混晶絶縁膜7のついた半導体積層構造1の表面をRIEなどでエッチングしてパターニングした後、半導体積層構造1の表面の所定位置に、Ti/Au/Ni/Auからなるソース電極8およびドレイン電極10をオーミック接合にて形成し、Pd/Ti/Auからなるゲート電極9を、ショットキー接合にて形成し、MOS型HEMT素子を得た。
【0055】
このようにして得られたMOS型HEMT素子について、電流密度970mA/mm、しきい値電圧7.7V、ゲート長を2μmとした場合の室温におけるトランスコンダクタンスは200mS/mmが得られた。
(比較例)
本比較例としては、絶縁膜7として通常よく用いられる、Al2O3とSiO2をスパッタリングで成長したこと以外は、実施例に係るMOS型HEMT素子と同じ半導体積層構造を有するMOS型HEMT素子を作製した。
【0056】
このようにして得られたMOS型HEMT素子については、それぞれ、電流密度380mA/mm、しきい値電圧1.3V、ゲート長を2μmとした場合の室温におけるトランスコンダクタンスは120mS/mmであった。すなわち、本比較例におけるMOS型HEMT素子は、実施例よりもデバイス特性が劣っていることがわかる。
【0057】
以上の実施例および比較例より、本実施の形態に係るMOS型HEMT素子においては、安定で界面準位が少なく、しきい値電圧が大きいより顕著に優れた特性を有してなることがわかる。
【0058】
なお、上述の実施の形態および実施例によれば、以下のような半導体装置の製造方法を得ることができる。すなわち、
基板の上にバッファー層としての下地層を形成する工程と、
前記下地層の上に、III族窒化物からなる単一層ないしは多重層で構成されるチャネル層としての第1の半導体層と、前記第1の半導体層よりバンドギャップが大きいIII族窒化物からなる単一層ないしは多重層で構成される電子供給層としての第2の半導体層と、を積層して半導体層群を形成する工程と、
前記半導体層群の上にAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜を形成する工程と、
前記半導体層群の上にソース電極、ドレイン電極を形成するとともに、前記絶縁膜の上にゲート電極を形成する工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【0059】
この製造方法において、Al2O3−SiO2絶縁層を作成するために、AlとSiを酸化する目的で、薄膜成長装置に水素ガスを流す配管の途中に水を加熱ないしは冷却して水蒸気圧力を制御する装置を有し、もって水素ガス中の水蒸気圧を制御することによって、水素ガス中の酸素分圧を精密制御することによりAlとSiの酸化を行うようにすれば、結晶品質の良い絶縁膜を下地層の上方の半導体層群の上に堆積でき、リーク電流が少なく、界面準位が少なく、良好なデバイス特性を有する半導体装置が実現される。
【符号の説明】
【0060】
1 半導体積層構造
2 基板
3 下地層(バッファー層)
4 第1半導体層(チャネル層)
5 二次元電子ガス領域
6 第2半導体層(電子供給層)
7 Al2O3−SiO2絶縁層
8 ドレイン電極
9 ゲート電極
10 ソース電極
11 第3半導体層(伝導帯端調整層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に形成されたバッファー層としての下地層と、
前記下地層の上に形成された半導体層群と、を備える半導体基板であって、
前記半導体層群は、
III族窒化物からなる単一層ないしは多重層で構成されるチャネル層としての第1の半導体層と、
前記第1の半導体層よりバンドギャップが大きいIII族窒化物からなる単一層ないしは多重層で構成される電子供給層としての第2の半導体層と、
がこの順に前記下地層の側から積層されてなり、
前記半導体層群の上にAl2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜が形成されていることを特徴とする半導体基板。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体基板において、前記第1の半導体層を流れる電流を大きくするために、前記第2の半導体層を構成する単一層ないしは多重層に不純物が添加されていることを特徴とする半導体基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体基板において、前記半導体層群は、前記第2の半導体層と前記Al2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜との間に、伝導体の位置を制御するためにIII族窒化物からなる単一層ないしは多重層で構成される伝導帯端調整層としての第3の半導体層を有していることを特徴とする半導体基板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体基板にソース電極、ゲート電極が形成され、前記Al2O3−SiO2の混晶からなる絶縁膜の上にゲート電極が形成されていることを特徴とする半導体装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−54341(P2012−54341A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194589(P2010−194589)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】