説明

半導体材料用シリコンの多結晶シリコン塊

【課題】半導体材料用シリコンについて、アルミニウムおよび鉄の洗浄効果に優れた洗浄方法とその多結晶シリコン塊、洗浄装置を提供する。
【解決手段】半導体材料用シリコンを用意する工程と、逆浸透精製処理と、イオン交換精製処理とを行った純水を用意する工程と、前記純水を用いて半導体材料用シリコンを洗浄する工程と、前記洗浄によって、純水洗浄後のシリコン表面に残留するアルミニウムおよび鉄が低減された半導体材料用シリコンを得る工程と、を含む洗浄方法および洗浄装置。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は半導体材料用シリコンの洗浄方法とその多結晶シリコン塊、および洗浄装置に関する。具体的には、本発明は、半導体用単結晶シリコン原料となる多結晶シリコンや単結晶シリコンウエハー等の純水洗浄工程において、アルミニウムおよび鉄の洗浄効果に優れた洗浄方法とその多結晶シリコン塊、洗浄装置に関する。
【0002】
半導体に使用される単結晶シリコンウエーハは、原料の高純度多結晶シリコン(以下ポリシリコンと云う)を溶融し、この溶融ポリシリコンからCZ法(チョクラルスキー法)と通称される方法によって単結晶シリコンを引き上げ、これをウエハーに加工して製造されている。この単結晶シリコンの原料となる多結晶シリコンは、主にシーメンス法と通称される水冷ベルジャー中でのCVD反応によって棒状のインゴットとして得られる。この多結晶シリコンのインゴットは順に切断、破砕、分級、酸洗浄、純水リンス、乾燥、梱包の各工程を経て単結晶引上げ工程に送られる。
【0003】
上記のように、多結晶シリコンのインゴットを切断、破砕、分級して得た多結晶シリコン塊は、汚染物を確実に除去するために酸洗浄と純水リンスを行っている。この酸洗浄は多結晶シリコン塊の表面に付着した汚染不純物を完全に除去することができるように、フッ化水素水と硝酸の混合液を用いており、多結晶シリコン表面の酸化膜はこの混酸によって除去される。この酸洗浄の後に純水でリンスし、乾燥後に梱包して出荷製品となる。
【0004】
上記純水洗浄は、洗浄プロセスの最終工程であり、この洗浄に使用される純水は可能な限り不純物を含まない高純度のものが求められる。例えば、ウエハーの純水洗浄において知られている高純度の水を得るための純水供給システムでは、原水を活性炭に通じて高分子量の有機物および残留塩素を除去し、次にこの水を陽イオン交換体および陰イオン交換体に通じて金属イオン等の残留イオン成分を除去し、さらにこの水を逆浸透装置に通じてイオン成分や有機物および微粒子を最終的に除去する(「シリコンの科学」903頁〜908頁、1996年、リアライズ社発行参照)。また、一般的な高純水製造システムとしては、逆浸透膜ユニットを用い、この最終濾過手段としてさらにイオン交換ユニットを設けた浄水装置が提案されている(特開2003−245667号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−245667号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「シリコンの科学」903頁〜908頁、1996年、リアライズ社発行参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体分野においては、集積度の増大に従って、原料の単結晶シリコンに対する品質要求が一層厳しくなっている。特に不純物レベル低減の要求は極めて厳しい状況になっており、例えば上記純水供給システム(非特許文献1前記「シリコンの科学」参照)を用いた従来の純水洗浄方法よりも不純物濃度をさらに低減することが求められている。一方、逆浸透手段とイオン交換手段を組み合わせた従来の浄水装置(特許文献1参照)は高純水を効率良く簡便かつ安価に得ることを目的にしており、特定の金属イオンについての除去作用は全く認識されていない。
【0008】
本発明は、このような半導体材料用シリコンの不純物濃度の低減要求に適う純水洗浄方法を提供するものである。本発明者は、特に単結晶シリコン原料として用いる多結晶シリコン塊の純水洗浄の際に、逆浸透処理とイオン交換処理とを組み合わせて精製した純水を用いることによって、ある種の金属イオンに対して除去効果が格段に向上することを見い出した。本発明は上記知見に基づくものであり、特定の金属イオンを大幅に低減することができる純水洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば以下の洗浄方法および装置、洗浄した多結晶シリコン塊が提供される。
(1)半導体材料用シリコンを用意する工程と、
逆浸透精製処理と、イオン交換精製処理とを行った純水を用意する工程と、
前記純水を用いて半導体材料用シリコンを洗浄する工程と、
前記洗浄によって、純水洗浄後のシリコン表面に残留するアルミニウムおよび鉄が低減された半導体材料用シリコンを得る工程と、
を含むことを特徴とする半導体材料用シリコンの洗浄方法。
(2)単結晶シリコンの原料として用いる多結晶シリコン塊の酸洗浄後の純水リンス工程、単結晶シリコンウエーハの加工工程、デバイスプロセスの純水洗浄工程の少なくとも一つの工程において適用される上記(1)に記載する洗浄方法。
(3)残留アルミニウム濃度と残留鉄濃度が、純水洗浄直前の1/3以下に低減される上記(1)または(2)に記載する洗浄方法。
(4)単結晶シリコンの原料として用いる多結晶シリコン塊の酸洗浄後の純水洗浄工程において使用される方法であって、酸洗浄後に、RO処理とEX処理とを行った前記純水を用いて、多結晶シリコン塊を洗浄することによって、多結晶シリコン塊表面の残留アルミニウム濃度および残留鉄濃度が何れも0.1ppbw以下に低減すされる上記(1)〜(3)の何れかに記載する洗浄方法。
(5)RO処理とEX処理の少なくとも前段または後段に、フィルター精製手段を設けることによって微細粒子をさらに除去した純水とし、これを用いて多結晶シリコン塊を洗浄する上記(1)〜(4)の何れかに記載する洗浄方法。
(6)酸洗浄後の純水洗浄において、RO処理とEX処理の両方を行った純水を用いて洗浄することによって、表面に残留するアルミニウム濃度および残留鉄濃度を何れも0.1ppbw以下に低減したことを特徴とする、単結晶シリコンの原料として用いられる多結晶シリコン塊。
(7)上記酸洗浄および純水洗浄が、多結晶シリコンのインゴットを切断、破砕、分級して得た多結晶シリコン塊から汚染物を除去するため行う洗浄である上記(6)に記載する多結晶シリコン塊。
(8)上記(6)に記載する多結晶シリコンを原料に用いて、CZ法による単結晶引上げを行うシリコン単結晶成長方法。
(9)逆浸透による精製処理を行うRO装置とイオン交換による精製処理を行うEX装置とを備え、両処理を行った純水を供給する精製処理装置と、上記精製処理装置から純水を供給され、半導体材料用シリコンを洗浄するための純水洗浄槽とを有する半導体材料用シリコンの洗浄装置。
(10)半導体材料用シリコンを洗浄するための酸洗浄槽をさらに備える上記(9)に記載する洗浄装置。
【0010】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の洗浄方法は、シリコン表面に残留するアルミニウムおよび鉄を低減することができる半導体材料用シリコンの洗浄方法である。本発明の上記方法は、逆浸透による精製処理(RO処理と云う)とイオン交換による精製処理(EX処理と云う)の両方の精製処理を行った純水を用いて半導体材料用シリコンを洗浄することによって達成される。
【0011】
本発明の洗浄方法は半導体材料用シリコンの洗浄に適用される。この半導体材料用シリコンは半導体用であればどのようなシリコンであっても良く、例えば、単結晶シリコン原料として用いる多結晶シリコン塊であってもよく、あるいは単結晶シリコンウエーハであってもよい。具体的には、本発明の洗浄方法は、単結晶シリコン原料として用いる多結晶シリコン塊の酸洗浄後の純水リンス工程、単結晶シリコンウエーハの加工工程ないしデバイスプロセスの純水洗浄工程などにおいて適用することができる。特に、単結晶シリコン原料として用いる多結晶シリコン塊の純水洗浄において有用である。
【0012】
本発明の洗浄方法は、逆浸透による処理(RO処理)とイオン交換による処理(EX処理)を組み合わせて精製処理した純水を用いる。さらに、RO処理とEX処理の少なくも何れかの前段、および/または後段に濾過フィルターによる精製手段を設けて微細粒子を十分に除去した純水を用いると良い。逆浸透処理に用いる逆浸透装置(Riverse Osmosis Unit:RO装置)、イオン交換精製処理に用いるイオン交換装置(EX装置)、および限外濾過装置は、従来のものを用いることができる。
【0013】
シリコンを洗浄するのに、RO装置の後にEX装置を配置して精製した水を使用した場合、ポリシリコン表面に残留する金属不純物のうち、アルミニウムと鉄について格別顕著な低減効果が見られる。ただし、RO装置とEX装置とを上記とは逆の順に配置して処理した水も好ましく使用できる。また、RO装置とEX装置のどちらかを、あるいは両方を、複数個用いて水の処理を行っても良い。さらに、それらの処理における装置の順番は任意に選択してよい。
【0014】
本発明の洗浄方法は、多結晶シリコンの処理または製造工程において、純水による洗浄が必要なすべての工程において適用可能な方法である。特に酸洗浄後の純水リンス工程において適用すれば顕著な効果を得ることができる。このリンス工程では、純水は一方向に流し放しにして使用してもよい。また、リンス槽から洗浄後の純水を抜き出して再び洗浄に用いる循環路を設けてもよい。この循環路には濾過フィルターを設けてパーティクル等を除去するようにすれば、洗浄コストを低減することができる。
【0015】
多結晶シリコン塊の純水洗浄工程においては、RO装置とEX装置の前段または後段の少なくとも何れか、または両方に、濾過フィルターによる精製手段を設けて純水中の微細粒子を十分に除去すれば、さらに好ましい。なお、上記フィルターは本発明の洗浄方法に好ましく適用できる。
【0016】
本発明の洗浄方法によれば、例えば、多結晶シリコン塊の酸洗浄後の純水リンス工程において、多結晶シリコン塊表面に残留するアルミニウム濃度と鉄濃度を純水洗浄直前の1/3以下に低減することができる。具体的には、例えば、イオン交換処理した直後の純水(逆浸透処理なし)を用いた純水リンスを行った場合には、残留アルミニウム濃度は0.1ppbw、残留鉄濃度は0.16ppbwである。一方、本発明に従い、イオン交換処理後に逆浸透処理した純水を用いた場合には、残留アルミニウム濃度は0.034ppbw、残留鉄濃度は0.017ppbwであり、残留濃度が大幅に低減される。このように、本発明の純水洗浄によれば、概ね、残留アルミニウム濃度および残留鉄濃度を何れも0.1ppbw以下の多結晶ポリシコン塊を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の洗浄方法では、半導体材料用シリコンの純水洗浄において、優れた洗浄効果を得ることができる。特に、単結晶シリコン原料として用いられる高純度多結晶シリコン塊の洗浄工程において、酸洗浄後の純水洗浄に本発明の洗浄方法を適用すれば、多結晶シリコン塊表面に残留するアルミニウム濃度と鉄濃度が大幅に低減し、その結果、不純物レべルが格段に改良され、単結晶シリコン引上げ工程の単結晶化率(Dislocation Free Ratio)を顕著に向上することができる。すなわち、本発明の純水洗浄の方法を適用した多結晶シリコンを原料を用いることによって、CZ法によるシリコン単結晶の引上げにおいて、高無転位化率のシリコン単結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の多結晶シリコン塊の洗浄工程を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好適な実施形態を以下に示す。本発明の範囲は実施例において図示する態様に限定されない。
【0020】
〔実施例1〕
本発明の洗浄方法を多結晶シリコン塊の酸洗浄工程に続く純水リンス工程に適用した。酸洗浄工程と純水洗浄工程は図1に示すように連続して設けられている。各洗浄工程の洗浄槽10、20には、図示するように、槽底から洗浄排水を抜き出してフィルター処理した後に洗浄槽に戻す循環路が設けられている。この循環路にはプレフィルター、ポンプ、フィルターがおのおの介設されている。多結晶シリコン塊はポリエチレン製のバスケット1に収納された状態で、所定の浸漬時間ごとに酸洗浄槽10から純水リンス槽20に移動して洗浄処理される。なお、酸洗浄槽10、純水洗浄槽20は、おのおの複数の洗浄槽によって形成しても良い。
【0021】
酸洗浄槽10には、フッ化水素水と硝酸の混合液(70wt%硝酸:50wt%フッ酸=10:1体積比)が供給されており、液温30℃に維持されている。純水洗浄層20には、精製処理装置30から処理された純水が供給されており、水温が25℃に維持されている。精製処理装置30には、RO装置とEX装置が設けられており、これらは洗浄水がRO装置を経てEX装置を通過して処理されるように配置されている。洗浄後、上記シリコン塊は、温風乾燥器内に入れ70℃で乾燥した。乾燥後、多結晶シリコン表面に残留する金属濃度を測定した。測定方法はJEITAEM-3601の規格に従った。この結果を表1に示した。
【0022】
〔比較例1〕
図示する洗浄工程において、RO装置を用いずにEX装置のみによって精製処理した純水を用いた他は実施例1と同様の条件下で多結晶シリコン塊を洗浄した。この結果を表1に示した。
【0023】
比較例1ではアルミニウム濃度および鉄濃度が共に0.1ppbwを越えており、実施例に比べて何れも著しく高い。一方、本発明の実施例1では、アルミニウム濃度および鉄濃度が格段に減少しており、アルミニウムは0.03ppbw台、鉄はNaおよびMnと同水準の0.01ppbw台まで低減されている。これらは何れもEX処理(比較例)のみ行った純水による洗浄処理の約1/3以下、1/9以下の不純物レベルである。
【0024】
【表1】

【0025】
〔実施例2〕
表1の実施例1に示す多結晶シリコンを用い、CZ法によって8インチのシリコン単結晶を引上げた。1回に多結晶シリコン150kgをチャージし、同一条件で10回の引上げを行ったところ、無転位化率は平均98%であった。一方、表1の比較例に示す多結晶シリコンを用い、同条件でシリコン単結晶を引上げたところ、無転位化率は平均85%であった。
【0026】
以上、本発明について説明したが、これらは本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。本発明の目的ないし技術思想を逸脱しない限り、他の実施形態が可能であり、本発明は上記説明および請求項の範囲に限定されない。
【符号の説明】
【0027】
1−バスケット、10−酸洗浄槽、20−純水洗浄槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体材料用シリコンを用意する工程と、
逆浸透精製処理と、イオン交換精製処理とを行った純水を用意する工程と、
前記純水を用いて半導体材料用シリコンを洗浄する工程と、
前記洗浄によって、純水洗浄後のシリコン表面に残留するアルミニウムおよび鉄が低減された半導体材料用シリコンを得る工程と、
を含むことを特徴とする半導体材料用シリコンの洗浄方法。
【請求項2】
単結晶シリコンの原料として用いる多結晶シリコン塊の酸洗浄後の純水リンス工程、単結晶シリコンウエーハの加工工程、デバイスプロセスの純水洗浄工程の少なくとも一つの工程において適用される請求項1に記載する洗浄方法。
【請求項3】
残留アルミニウム濃度と残留鉄濃度が、純水洗浄直前の1/3以下に低減される請求項1または2に記載する洗浄方法。
【請求項4】
単結晶シリコンの原料として用いる多結晶シリコン塊の酸洗浄後の純水洗浄工程において使用される方法であって、酸洗浄後に、RO処理とEX処理とを行った前記純水を用いて、多結晶シリコン塊を洗浄することによって、多結晶シリコン塊表面の残留アルミニウム濃度および残留鉄濃度が何れも0.1ppbw以下に低減すされる請求項1〜3の何れかに記載する洗浄方法。
【請求項5】
RO処理とEX処理の少なくとも前段または後段に、フィルター精製手段を設けることによって微細粒子をさらに除去した純水とし、これを用いて多結晶シリコン塊を洗浄する請求項1〜4の何れかに記載する洗浄方法。
【請求項6】
酸洗浄後の純水洗浄において、RO処理とEX処理の両方を行った純水を用いて洗浄することによって、表面に残留するアルミニウム濃度および残留鉄濃度を何れも0.1ppbw以下に低減したことを特徴とする、単結晶シリコンの原料として用いられる多結晶シリコン塊。
【請求項7】
上記酸洗浄および純水洗浄が、多結晶シリコンのインゴットを切断、破砕、分級して得た多結晶シリコン塊から汚染物を除去するため行う洗浄である請求項6に記載する多結晶シリコン塊。
【請求項8】
請求項6に記載する多結晶シリコンを原料に用いて、CZ法による単結晶引上げを行うシリコン単結晶成長方法。
【請求項9】
逆浸透による精製処理を行うRO装置とイオン交換による精製処理を行うEX装置とを備え、両処理を行った純水を供給する精製処理装置と、上記精製処理装置から純水を供給され、半導体材料用シリコンを洗浄するための純水洗浄槽とを有する半導体材料用シリコンの洗浄装置。
【請求項10】
半導体材料用シリコンを洗浄するための酸洗浄槽をさらに備える請求項9に記載する洗浄装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−224541(P2012−224541A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138783(P2012−138783)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【分割の表示】特願2005−200355(P2005−200355)の分割
【原出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(505260958)ミツビシ ポリクリスタリン シリコン アメリカ コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】