説明

半導体発光素子、光ピックアップ装置、光源装置および半導体発光素子の製造方法

【課題】発光効率を高めることができる半導体発光素子、光ピックアップ装置、光源装置および半導体発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体発光素子は、ウルツ鉱型結晶構造の無極性面と当該無極性面に沿った方向とは直交する有極性面とを有する下地層1と、下地層1の当該無極性面である成長面1A上に形成されており、当該無極性面1Aにおける下地層1の格子定数とは異なる格子定数を有するIII族窒化物半導体からなる複数の量子細線活性層2とを含み、量子細線活性層2は、前記有極性面の法線方向(c軸方向)に伸長するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子、光ピックアップ装置、光源装置および半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青紫色〜緑色の光を発する発光ダイオード、レーザダイオード等の半導体発光素子として、窒化物半導体発光素子がある。
窒化物半導体発光素子は、たとえば、サファイア基板のc面(0001)面上にGaN低温バッファ層、n−GaNコンタクト層、n−AlGaNクラッド層、n−GaN光ガイド層、InGaN量子井戸層が順に積層し、更に発光層上には、p−AlGaN層、p−GaNコンタクト層等が順に積層した構造を有する。
【0003】
サファイア基板のc面に積層されたGaN系半導体層は、成長面が、極性面であるc面のウルツ鉱型の結晶構造となる。図12はウルツ鉱型結晶の面方位を表す模式図である。
c面を成長面としてInGaN量子井戸層を形成した場合、次に述べる理由により、発光効率の低下が起きることが知られている。
すなわち、GaNの格子定数を持つ層上に、InGaN量子井戸層を成長すると、InGaN量子井戸層には格子不整合による歪が発生する。この歪により、ピエゾ分極が起こる。そして、成長面であるc面に対して垂直なc軸方向<0001>方向、すなわち層厚方向に内部電界が発生する。この層厚方向の内部電界の発生により、キャリアはc軸方向にドリフト移動する。負の電荷を有する電子と、正の電荷を有する正孔は、それぞれ反対の方向にドリフト移動することになる。
その結果、電子と正孔がInGaN量子井戸層の層厚方向に分離する。そのため、電子と正孔の再結合確率が低下し、発光効率が低下するのである。
【0004】
この問題の解決手段の一つとして、成長面としてc面とは異なる結晶面を利用する手段が挙げられる。たとえば、図12中に示すa面である(11−20)面及びm面である(1−100)面のような無極性面を成長面として利用する手段が挙げられる。
無極性面を成長面として利用した場合、活性層において格子不整合による歪が発生したとしても、ピエゾ分極は層厚方向であるa軸方向<11−20>方向及びm軸方向<1−100>方向に発生しない。すなわち、無極性面上に形成したInGaN量子井戸層には、層厚方向の内部電界が発生しない。そのため、無極性面を成長面として利用すると、極性面であるc面を成長面とした場合と比較して、発光効率が向上すると考えられる。このように無極性面を成長面として利用した例が、たとえば、特許文献1に記載されている。
【0005】
また、発光効率向上の他の手段としては、量子細線活性層を用いる手段が挙げられる(特許文献2参照)。量子細線活性層を用いることにより、電子の自由度が低下する。すなわち、2次元的な広がりを持つ量子井戸活性層よりも、1次元的な広がりしか持てない量子細線活性層の方が、電子の自由度が低い。これを量子サイズ効果という。この量子サイズ効果により、電子が取りうるエネルギー状態が限定されることになり、注入されたキャリアが効率良く発光に寄与する。すなわち、発光効率が向上する。量子細線活性層の形成方法としては、たとえば、非特許文献1に記載のように、オフアングル基板上のステップ端成長を利用する方法がある。
【0006】
しかしながら、窒化物半導体発光素子に求められる発光効率は年々高くなっている。近年は、上述した2つの解決手段それぞれを用いた構造の発光効率よりも高い発光効率が求められるようになっている。
そこで、上述した2つの解決手段を組み合わせた構造が、たとえば特許文献3に記載されている。すなわち、無極性面上に量子細線活性層を形成した構造が記載されている。図13は、特許文献3に記載された半導体発光素子の構成を示す。この半導体発光素子は、サファイア基板11のa面上に、バッファ層12、nコンタクト層13、nクラッド層14、nガイド層15、発光層16、pガイド層17、pクラッド層18及びpコンタクト層19を積層し、さらに、電極22P、電極22Nを設けたものである。
発光層16は、バリア層内に量子細線活性層が埋め込まれた構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−157766号公報
【特許文献2】特開平10−107320号公報
【特許文献3】特開平10−173284号公報
【特許文献4】特開平2−229476号公報
【特許文献5】特開平6−268257号公報
【特許文献6】特開平8−97471号公報
【特許文献7】特開2003−78215号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Hara, J. Ishizaki, J. Motohisa, T. Fukui, and H. Hasegawa, "Formation and photoluminescence characterization of quantum well wires using multiatomic steps grown by metalorganic vapor phase epitaxy", Journal of Crystal Growth, Vol. 145, pp. 692-697(1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討を行った結果、特許文献3に記載のように、無極性面上に量子細線活性層を形成した構造であっても、十分な発光効率が得られない場合があることが分かった。
無極性面上に量子細線活性層を形成した構造であっても、十分な発光効率が得られない理由は次のようであると推測される。
無極性面上に形成した活性層には、歪による層厚方向の内部電界は発生しない。しかし、c軸方向の内部電界が発生すると考えられる。無極性面におけるc軸方向は、成長方向に対して垂直な方向、つまり層内方向にあたる。このc軸方向の内部電界のため、活性層内のキャリアはc軸方向にドリフト移動する。負の電荷を有する電子と、正の電荷を有する正孔は、それぞれ反対の方向にドリフト移動することになる。
たとえば、GaNの格子定数を有する基板上に、InGaN活性層を形成した場合、InGaN活性層には圧縮歪がかかり、分極による内部電界が+c方向に発生する。このため、活性層に注入された電子は−c方向へ、正孔は+c方向へドリフト移動する。
ここで、量子細線活性層がc軸方向に直交して延在する場合には、量子細線活性層に量子準位が形成される。そのため、量子細線活性層に注入されたキャリア(電子および正孔)は発光に寄与する前に量子準位に捕われることとなる。これにより、量子細線活性層の幅方向にキャリア分布の分離(電子と正孔との分離)が発生する。そのため、電子と正孔の再結合確率が低下し、発光効率が低下するのだと考えられる。
すなわち、特許文献3に記載の構造のように、量子細線活性層の方向性を何ら考慮せずに作成した場合、たとえば、量子細線活性層がc軸に直交に形成された場合には、量子細線活性層の幅方向にキャリア分布の分離が起こると考えられる。また、量子細線活性層がc軸と完全に直交していない場合でも、量子細線活性層に量子準位が形成されることがある。従って、c軸と直交している場合と同様に、量子細線活性層の幅方向にキャリア分布の分離が起こると考えられる。そのため、電子と正孔の再結合確率が低下し、高い発光効率が得られないと考えられる。
【0010】
本発明は、高い発光効率を有する半導体発光素子、光ピックアップ装置、光源装置および半導体発光素子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、ウルツ鉱型結晶構造であり、無極性面と当該無極性面に沿った方向とは直交する有極性面とを有する下地層と、前記下地層の当該無極性面上に形成されており、当該無極性面における前記下地層の格子定数とは異なる格子定数を有するIII族窒化物半導体からなる複数の量子細線活性層とを含み、前記量子細線活性層は、前記有極性面の法線方向に伸長するように形成されている、半導体発光素子が提供される。
また、本発明によれば、上述した半導体発光素子を備えた光ピックアップ装置、さらには、上述した半導体発光素子を備えた光源装置が提供できる。
さらに、本発明によれば、ウルツ鉱型結晶構造であり、無極性面と当該無極性面に沿った方向とは直交する有極性面とを有する下地層を配置する工程と、前記下地層の当該無極性面上に、当該無極性面における前記下地層の格子定数とは異なる格子定数を有するIII族窒化物半導体からなる複数の量子細線活性層を形成する工程と、を含み、前記量子細線活性層は、前記有極性面の法線方向に伸長するように形成されている、半導体発光素子の製造方法も提供できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い発光効率を有する半導体発光素子、光ピックアップ装置、光源装置および半導体発光素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の基本構成を示す図である。
【図2】第一実施形態にかかる半導体発光素子の断面図を示す図である。
【図3】第一実施形態の基板の拡大図である。
【図4】第一実施形態の半導体発光素子の製造工程の一部を示す図である。
【図5】光ピックアップ装置を示す模式図である。
【図6】第二実施形態にかかる半導体発光素子の断面図を示す図である。
【図7】第一実施形態の半導体発光素子の要部を示す図である。
【図8】第三実施形態にかかる半導体発光素子の断面図を示す図である。
【図9】光源装置を示す模式図である。
【図10】第四実施形態にかかる半導体発光素子の断面図を示す図である。
【図11】第五実施形態にかかる半導体発光素子の断面図を示す図である。
【図12】ウルツ鉱型結晶の面方位を表す模式図である。
【図13】特許文献3に関連する半導体発光素子の断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同一符号を付し、その詳細な説明は重複しないように適宜省略される。
【0015】
(基本構成)
図1は、本発明に係る半導体発光素子の断面構造を概略的に示す図である。図1に示されるように、半導体発光素子は、ウルツ鉱型結晶構造であり、無極性面と当該無極性面に沿った方向とは直交する有極性面とを有する下地層1と、下地層1の当該無極性面である成長面1A上に形成されており、当該無極性面1Aにおける下地層1の格子定数とは異なる格子定数を有するIII族窒化物半導体からなる複数の量子細線活性層2とを含む。そして、量子細線活性層2は、有極性面の法線方向(c軸方向、<0001>方向)に伸長するように形成されている。
ここで、量子細線活性層2が下地層1の有極性面の法線方向に伸長するとは、有極性面の法線方向と平行である場合のみならず、量子細線活性層2内に量子準位が形成され、下地基板の有極性面の法線方向にキャリアの分離が生じない程度に、量子細線活性層2の延在方向が有極性面の法線方向に対して傾斜している場合も含む。
具体的には、下地層1は、ウルツ鉱型結晶構造の窒化物半導体、たとえば、GaN基板等からなり、無極性面であるm面である{1−100}面またはa面である{11−20}面を成長面1Aとしている。
量子細線活性層2は、下地層1の成長面1Aに、下地層1のc軸方向、すなわち、<0001>方向に延在し、このc軸に平行となるように形成されている。そして、量子細線活性層2の下地層1のc軸に沿った長さ寸法は、50nm以上である。また、量子細線活性層2の下地層1のc軸に沿った長さの上限値は、特に限定されないが、デバイスの構成上2mm以下であることが好ましい。
このような半導体光素子は、以下のように製造される。
ウルツ鉱型結晶構造であり、無極性面1Aと当該無極性面に沿った方向とは直交する有極性面とを有する下地層1を配置する工程と、下地層1の当該無極性面1A上に、当該無極性面における下地層1の格子定数とは異なる格子定数を有するIII族窒化物半導体からなる複数の量子細線活性層2を形成する工程とを含む。量子細線活性層2は、前記有極性面の法線方向に伸長するように形成される。
【0016】
成長面1Aを無極性面にすることにより、活性層の層厚方向の内部電界が抑制される。また、活性層を量子細線活性層2とすることによって量子サイズ効果が得られる。
さらに、量子細線活性層2を、有極性面の法線方向(c軸方向)に延長するように形成することで、量子細線活性層2内に量子準位が形成されてしまうことが抑制される。
特に、量子細線活性層2を下地層1のc軸方向に50nm以上の長さを有するものとすることで、量子細線活性層2内に量子準位が形成されてしまうことを確実に防止できる。そのため、量子細線活性層2に注入されたキャリアは、層内方向に発生した内部電界によってドリフト移動している間に発光に寄与することができ、下地層1のc軸方向のキャリア分布の分離を抑制できる。
すなわち、本発明の構造により、層厚方向の内部電界の抑制と、量子サイズ効果の発生と共に、量子細線活性層2内のキャリア分布の分離をも抑制できるため、高い発光効率が得られる。
【0017】
(第一実施形態)
本発明の半導体発光素子の一例として、レーザダイオードを挙げて説明する。
図2は、本実施形態におけるレーザダイオードの模式的な断面図である。図2に記載のレーザダイオードは、無極性面を成長面とする基板101(ここでは、無極性面であるm面すなわち、{1−100}面を成長面とするGaNバルク基板101)上に、珪素が添加された厚さ3μmのn型GaNコンタクト層102、珪素が添加された厚さ0.4μmのn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層103、珪素が添加された厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層104、発光層105、珪素が添加された厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層106、マグネシウムが添加された厚さ0.4μmのp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層107、マグネシウムが添加された厚さ0.2μmのp型GaNコンタクト層108、ニッケルおよび金からなるp電極109、チタンおよびアルミニウムからなるn電極110、SiOからなる絶縁層111が形成された構造を有する。
なお、各層の厚みや、組成は例示であり、上述したものに限定されるものではない。
【0018】
m面を成長面とするGaNバルク基板101としては、ハイドライド気相成長法などにより、c面成長で作製された高品質のGaNバルク結晶から、m面を成長面として切り出した基板を用いる。また、たとえば特許文献4の記載のように、r面サファイア基板上に有機金属気相成長法(MOCVD)などを用いて、低温バッファ層を介して成長したGaNテンプレート基板を用いても良い。本実施形態ではm面を成長面として用いるが、m面と同じく無極性面である、a面である{11−20}面を成長面として用いても良い。
【0019】
GaNバルク基板101は、主面(GaNバルク基板101に対する法線ベクトル、すなわち、各半導体層の積層方向に直交する面、図3の点線P)に対して成長面が傾斜しているオフアングル基板である。図3に、本実施形態に用いるオフアングル基板の一部を拡大した模式的な断面図を示す。
オフアングル基板は、有極性面の法線方向(基板101のc軸方向、<0001>方向)に伸長する複数の段差部101Aが形成された上面を有する。
段差部101Aは、c軸方向に平行に延びるテラス部分Aと、c軸方向に平行に延びるステップ部分(側壁部)Bとを有している。テラス部分Aは、ステップ部分Bに対して略垂直に形成されている。テラス部分Aは、無極性面であり、本実施形態ではm面である。
m面に対するオフ角θは3°程度である。テラス幅Wとステップの段差(高さ)h、オフ角θは、tanθ=h/Wという関係を持つ。基板のオフ角は、0.3度〜5度とすることが望ましく、所望のテラス幅Wと段差hに応じて選択する。本実施形態では、たとえば、オフ角θ=3°、テラス幅W=38nm、段差h=2nmである。
このようなオフアングル基板上に、n型GaNコンタクト層102、n型AlGaNクラッド層103、及びn型GaN光ガイド層104、障壁層105b等の半導体層を形成すると、段差部101Aの形状が各半導体層に引き継がれる(図4(A)参照)。
障壁層105bは、詳しくは後述するが窒化物半導体層であり、無極性面とこの無極性面に直交する有極性面を有するウルツ鉱型結晶構造である。
そして、各量子細線活性層105aは、オフアングル基板の段差部101Aの形状を引き継いだ半導体層、本実施形態では、障壁層105bのテラス部分105b1上に形成され、障壁層105bのc軸方向に延在する。また、量子細線活性層105aは、オフアングル基板のステップ部分Bの形状を引き継いだ障壁層105bのステップ部分105b2にも接するように形成される(図4(B)参照)。
なお、障壁層105bのテラス部分105b1は、無極性面であり、本実施形態ではm面である。また、この成長面であるテラス部分105b1の格子定数は、量子細線活性層105aの格子定数と異なっている。
量子細線活性層105aは、テラス部分105b1の幅方向全面にわたって形成されず、障壁層105bのc軸方向と直交する方向(ここでは、a軸方向)に隣接する量子細線活性層105a間には所定の間隔が形成される。
【0020】
次に、本実施形態におけるレーザダイオードの作製方法について述べる。
GaNバルク基板101上に結晶成長により窒化物半導体結晶層を形成する。ここでは、たとえば特許文献5、6に記載されているような、有機金属気相成長法(MOVPE法)などによる一般的な成長方法を用いる。
【0021】
次に、GaNバルク基板101を気相成長装置内に設置し、アニールによる結晶表面の清浄化を行う。
その後、GaNバルク基板101上に、n型GaNコンタクト層102、n型AlGaNクラッド層103、及びn型GaN光ガイド層104を順に結晶成長により形成する。
n型GaNコンタクト層102、n型AlGaNクラッド層103、及びn型GaN光ガイド層104は、GaNバルク基板101の段差部101Aの形状を引き継いで形成される。また、n型GaN光ガイド層104の成長面は、GaNバルク基板101の段差部101Aと同様の段差部の段差及びテラス幅を有する。
【0022】
次に、n型GaN光ガイド層104上に、発光層105を形成する。発光層105は、量子細線活性層105aと、障壁層105bから構成される。量子細線活性層105aは、障壁層105bに埋設されている。図4は、発光層105の形成過程を表す模式的な斜視図である。図4(A)に示すように障壁層105bを形成後、図4(B)のように障壁層105bの段差部に量子細線活性層105aを形成する。テラス部分105b1はGaNバルク基板101のc軸と平行に形成されているため、量子細線活性層105aも同様に、GaNバルク基板101のc軸と平行に形成される。量子細線活性層105aは、一般式InX1AlY1Ga1−X1−Y1(0<X1≦1,0≦Y1≦1)で表される。
【0023】
本実施形態では、量子細線活性層105aの幅(障壁層105bのa軸方向に沿った長さ)及び高さ(障壁層105bのm軸方向に沿った長さ)はそれぞれたとえば、2nmである。
量子的な閉じ込めの効果、すなわち量子サイズ効果を得るためには、この量子細線活性層105aの幅及び高さを1nm以上、5nm以下とすることが好ましい。量子細線活性層105aは、障壁層105bの段差部の端に形成される。換言すると、量子細線活性層105aは、障壁層105bのテラス部分105b1およびステップ部分105b2に接するように形成される。そのため、量子細線活性層105aの幅及び高さはGaNバルク基板101のステップ幅及び段差に依存する。従って、GaNバルク基板101のオフ角は、量子細線活性層105aの高さ及び幅に合わせて調節する。
障壁層105bは、一般式InX2AlY2Ga1−X2−Y2N(0<X2≦1,0≦Y2≦1)で表され、量子細線活性層105aよりもバンドギャップエネルギーが小さい層である。
その後、量子細線活性層105a上に、さらに、障壁層105bを形成する。これにより、量子細線活性層105aは、障壁層105bに埋め込まれることとなる(図4(C)参照)。
【0024】
ここで、利得の向上のため、量子細線活性層105aと、障壁層105bを形成する工程を交互に繰り返すことで、量子細線活性層105aを多層化しても良い。量子細線活性層105aを多層化した場合、量子細線活性層105aの垂直方向の数及び間隔は特に限定されないが、1〜20本及び5〜20nmとすることが望ましい。
また、量子細線活性層105aに高In組成のInGaNを用いる場合などは、多層化による歪の蓄積を防止するため、障壁層105bとしてAlGaNなどを用いて歪補償を行うことが望ましい。量子細線活性層105a及び障壁層105bには、結晶成長時に珪素やマグネシウムなどを添加して、n型やp型にドーピングしても良い。
量子細線活性層105aは、障壁層105bのc軸方向に延在していればよいが、障壁層105bのc軸方向に対して50nm以上の長さを有することが好ましい。量子細線活性層105aは、障壁層105bのc軸方向に50nm以上の長さを有していれば、量子準位は確実に形成されないため、キャリア分布の分離を抑制することができる。
なお、量子細線活性層105aの障壁層105bのc軸方向に沿った長さは、デバイスの構造上、2mm以下であることが好ましい。
また、次に述べる理由により、量子細線活性層105aは障壁層105bのc軸に平行に、かつ障壁層105bのc軸方向に点在せずに、連続的に形成されることが好ましい。
無極性面上に形成された活性層の場合、障壁層105bのc軸方向の活性層の両端には、電子あるいは正孔のいずれかのキャリアが欠乏した領域が形成される。下地層と、活性層との格子定数の差異により、活性層には圧縮歪がかかり、分極による内部電界が+c方向に発生するためである。このようなキャリアが欠乏した領域は、発光に寄与することができない、すなわち、発光領域ではない。
量子細線活性層105aが障壁層105bのc軸に平行に、且つ連続的に形成される場合、キャリア欠乏領域は量子細線活性層105aの両端部のみに形成されることになるので、発光領域の減少が抑制できる。そのため、デバイス全体として高い発光効率が得られる。
【0025】
発光層105の上部には、図2に示すように、p型GaN光ガイド層106、p型AlGaNクラッド層107、p型GaNコンタクト層108、を順に結晶成長により形成する。p型GaN光ガイド層106中に、Al組成の高いAlGaNなどによるキャリアのオーバーフロー防止層を形成しても良い。また、p型AlGaNクラッド層107には、低抵抗化のためにAlGaN/GaN超格子構造を用いても良い。
【0026】
p型GaNコンタクト層108まで結晶成長により形成した後、p側電極用テラスと、n側電極用の電流経路構造を形成する。更に、p側電極用テラス上に電流狭窄用の屈折率導波構造として、リッジ構造の導波路を形成する。フォトリソグラフィ(PR)、反応性イオンエッチング(RIE)を用いて、図2に示すように、たとえば、5μm幅のリッジ部を形成し、リッジ部側面からp型AlGaNクラッド層の平坦部までを絶縁層111で覆う。その後、PRとRIEにより、n型GaNコンタクト層102を厚み約1μm程度残して除去する。n型GaNコンタクト層102が露出している部分に、Ti(チタン)をたとえば、50nm蒸着する。続いてAl(アルミニウム)をたとえば、200nm蒸着することでn電極110を形成する。p型GaNコンタクト層108の上部には、Ni(ニッケル)をたとえば、50nm、Au(金)をたとえば、200nm蒸着することでp電極109を形成する。
さらに集束イオンビーム(FIB, Focused Ion Beam)装置を用いてエッチングを行い、m面に垂直な面の一対の共振ミラーを形成する(図示略)。ここでは、リッジ構造のストライプ方向は量子細線活性層の方向と平行になるように形成しており、従って共振ミラーはc面に形成される。ただし、リッジ構造のストライプ方向と量子細線活性層の方向の関係はこれに限定されない。共振ミラーは、たとえば1mmの間隔で平行に形成され、量子細線活性層で生成された光を閉じ込める。この共振ミラーにより、共振器が形成される。このようにして形成された半導体ウェハを、素子ごとに切り分け、所望のレーザダイオードを形成する。以上のようにして、本実施例のレーザダイオードを作製する。
【0027】
なお、本発明に記載のレーザダイオードは、たとえば図5に示すような光ピックアップ装置に搭載することができる。
この光ピックアップ装置9は、光源901と、コリメータレンズ903と、レンズモジュール904と、偏光ビームスプリッタ902とを備える。
光源901から出射されたレーザ光は、それぞれ一定の発散角を有する発散光であり、偏光ビームスプリッタ902を通過して、コリメータレンズ903によって略平行光に変換される。そして、この平行光は、レンズモジュール904に供給されて、光ディスク909の情報記録面(記録媒体)に集光される。レンズモジュール904は、光を記録媒体に集光させる対物レンズを備える。光ディスク909の情報記録面で反射されたレーザビームはさらにレンズモジュール904を通じて偏光ビームスプリッタ902に供給されて、偏光ビームスプリッタ902によって反射された後、光検出器910によって光電変換される。
このような光ピックアップ装置9の光源901に前述したレーザダイオードを搭載することにより、低消費電力を可能とする光ピックアップを実現することが可能となる。
【0028】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態では、GaNバルク基板101の成長面を無極性面とすることで、障壁層105bの成長面が無極性面となり、活性層の層厚方向の内部電界が抑制される。また、活性層を量子細線活性層105aとすることによって量子サイズ効果が得られる。
さらに、量子細線活性層105aを、障壁層105bの有極性面の法線方向(c軸方向)に延長するように形成することで、量子細線活性層105a内に量子準位が形成されてしまうことが抑制される。
特に、量子細線活性層105aを障壁層105bのc軸方向に50nm以上の長さを有するものとすることで、量子細線活性層105a内に量子準位が形成されてしまうことを確実に防止できる。そのため、量子細線活性層に注入されたキャリアは、層内方向に発生した内部電界によってドリフト移動している間に発光に寄与することができ、GaNバルク基板101の有極性面の法線方向のキャリア分布の分離を抑制できる。
また、本実施形態では、下地基板として、オフアングル基板を使用している。
このオフアングル基板は、c軸方向に平行に延びるテラス部分Aを有するため、このようなオフアングル基板を使用することで、障壁層105bのc軸方向に延在する量子細線活性層105aが形成しやすくなる。
【0029】
(第二実施形態)
本発明の半導体光素子の一例してレーザダイオードを説明する。
第二実施形態のレーザダイオード構造は、基本的に第一実施形態と類似の構造で、n型GaN光ガイド層、発光層、p型GaN光ガイド層の構造のみが異なる。
【0030】
図6に示すように、m面を成長面とするGaNバルク基板101上に、珪素が添加された厚さ3μmのn型GaNコンタクト層102、珪素が添加された、厚さ0.4μmのn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層103、珪素が添加された、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層204、発光層205、Mg(マグネシウム)が添加された、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層206、Mgが添加された、厚さ0.4μmのp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層107、Mgが添加された厚さ0.2μmのp型GaNコンタクト層108、NiおよびAuからなるp電極109、TiおよびAlからなるn電極110、が形成されている。
なお、各層の厚みや、組成は例示であり、上述したものおよび後述するものに限定されるものではない。
【0031】
発光層205は、n型GaN光ガイド層204の無極性面上に形成され、図7に断面図を示すように、厚さ5nmのInGaN量子井戸層205aと、厚さ10nmのAlGaNバリア層205bから構成されている。InGaN量子井戸層205aと、AlGaNバリア層205bとはそれぞれ複数層形成され、交互に積層されている。また、高抵抗領域205cが、窒素のイオンインプランテーション及びその後の熱処理により、InGaN量子井戸層205aとAlGaNバリア層205bに、ストライプ状に形成されている。高抵抗領域205cは、発光層205だけでなく、n型GaN光ガイド層204及びp型GaN光ガイド層206にも拡がっている。高抵抗領域は、GaNバルク基板101のc軸方向に延長し、互いに平行になるように形成されている。InGaN量子井戸層205aのうち、複数の高抵抗領域205cは、バリア層205bのc軸方向に延長するとともに、互いに平行に延在し、この高抵抗領域205cではさまれた領域である非高抵抗領域205dの幅は5nmである。すなわち、この非高抵抗領域205dが量子細線活性層である。
【0032】
この非高抵抗領域205dである量子細線活性層は、無極性面とこの無極性面に直交する有極性面を有するウルツ鉱型結晶構造であるAlGaNバリア層205bの無極性面上に形成され、さらに、AlGaNバリア層205bのc軸に沿って延在しており、そのc軸方向に沿った長さは、前記実施形態と同様50nm以上であることが好ましい。量子細線活性層の長さの上限値や、量子細線活性層の幅、高さは、前記実施形態と同じである。
また、量子細線活性層の格子定数と、AlGaNバリア層205bの成長面の格子定数とは異なっている。
【0033】
本実施例のレーザダイオードの作製方法について説明する。窒化物結晶層は、MOCVD法等で成長される。n型GaNコンタクト層102、n型AlGaNクラッド層103、n型GaN光ガイド層204、発光層205、p型GaN光ガイド層206を順に結晶成長により形成する。ここで、発光層205は、InGaN量子井戸層205aと、AlGaNバリア層205bを交互に積層して形成しており、この時点では発光層において量子細線構造は形成されていない。
次に、p型GaN光ガイド層206まで形成された素子に対して窒素のイオンインプランテーションを行う。これは、イオン注入装置により窒素イオンを加速して、素子の成長面から、p型GaN光ガイド層206に打ち込むことによって行う。p型GaN光ガイド層206に打ち込まれたイオンは原子核との衝突や電子との相互作用により次第にエネルギーを失いながら発光層205に到達する。そして、図7に示すようにイオンを打ち込まれた領域は高抵抗化し、高抵抗領域205cを形成する。イオン注入制御を行うことによって、発光層205における隣合う高抵抗領域205cの間隔、即ち非高抵抗領域205dのInGaN量子井戸層205aの幅が5nmとなるように高抵抗領域205cを形成する。
イオン注入終了後、700℃にて5分間熱処理を行う。これにより熱拡散をするので高抵抗領域205cは拡張する。拡張した高抵抗領域205cにより、隣合う高抵抗領域205cの間隔を5nm、即ち非高抵抗領域205dのInGaN量子井戸層205aの幅が5nmとなるようにする。以上の工程により、量子細線活性層が形成される。
このようにして量子細線活性層を形成することで、所望の寸法の量子細線活性層を確実に形成することができるとともに製造安定性に優れたものとすることができる。
【0034】
次に、p型AlGaNクラッド層107、p型GaNコンタクト層108、を順に結晶成長により形成する。p型GaNコンタクト層108の上部には、Niを50nm、Auを200nm蒸着してp電極109を形成する。その後、GaNバルク基板101を厚さ100μm程度に研磨する。そして、GaNバルク基板101の裏面にTiを50nm蒸着し、Alを200nm蒸着することで、n電極110を形成する。このようにして形成された半導体ウェハを素子ごとに切り分けて、本実施形態のレーザダイオードを形成する。
このようにして得られたレーザダイオードは、前記実施形態と同様、光ピックアップ装置に適用することができる。
このような本実施形態によれば、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0035】
(第三実施形態)
本発明の半導体光素子の一例としての発光ダイオードを図8に示す。
本実施形態における発光ダイオードは、第一実施形態と同様のオフアングル基板である基板101(ここでは、サファイア基板)上に、発光領域を含む窒化物半導体結晶層が形成されている。窒化物半導体結晶層は、サファイア基板101のr面(1−102)上に、MOCVD法等によって、GaNバッファ層312を介して形成される。また、GaNバッファ層312は、無極性面であるa面を成長面とする。
【0036】
GaNバッファ層312の成長面に、珪素が添加された厚さ3μmのn型GaNコンタクト層302、珪素が添加された厚さ0.4μmのn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層303、珪素が添加された、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層304、第一実施形態と同様の発光層105、Mgが添加された、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層306、Mgが添加された、厚さ0.4μmのp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層307、Mgが添加された、厚さ0.2μmのp型GaNコンタクト層308、NiおよびAuからなるp電極309、TiおよびAlからなるn電極310、を形成する。
発光層105は、第一実施形態と同様であるが、量子細線活性層や障壁層の厚みや幅を適宜変え、たとえば、厚さ5nm、幅5nmの量子細線活性層と、厚さ10nmの障壁層とで構成してもよい。
なお、各層の厚みや、組成は例示であり、上述したものに限定されるものではない。
また、基板101上のGaNバッファ層312、n型GaNコンタクト層302、クラッド層303、n型GaN光ガイド層304は、第一実施形態と同様に、基板101の段差部の形状を引きついでいる。
【0037】
次に、本実施形態の発光ダイオードの作製方法について述べる。
第一実施形態に記載のレーザダイオード構造の例と同様に、窒化物結晶層をMOCVD法等で成長する。サファイア基板101上に、GaNバッファ層312、n型GaNコンタクト層302、n型AlGaNクラッド層303、n型GaN光ガイド層304、発光層105、p型GaN光ガイド層306、p型AlGaNクラッド層307、p型GaNコンタクト層308、を順に結晶成長により形成する。一般的なPRおよびRIEを用いて、図8に示すように、n型GaNコンタクト層302を約1μm残して除去する。n型GaNコンタクト層302が露出している部分に、Tiを50nmを蒸着し、続いてAlを200nm蒸着することで、n電極310を形成する。p型GaNコンタクト層308の上部には、Niを50nm、Auを200nm蒸着してp電極309を形成する。このようにして形成された半導体ウェハを素子ごとに切り分けて、本実施形態の発光ダイオードを形成する。
なお、本発明に記載の発光ダイオードは、たとえば蛍光体を用いた白色光源装置に搭載することができる。この白色光源装置は、図9に示すように、LED光源81と、LED光源81から投射される光線をロッドレンズ83の入射面に集光する集光レンズ82と、ロッドレンズ83の出射面に接着された蛍光体シート84とを備える。蛍光体シート84は、LED光源81から出射された光を励起光として吸収して発光する。
白色光源装置のLED光源81に上述した発光ダイオードを適用することにより、低消費電力を可能とする白色光源装置を実現することが可能となる。
【0038】
本実施形態によれば、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
すなわち、本実施形態では、量子細線活性層の層厚方向の内部電界の抑制と、量子サイズ効果の発生と共に、量子細線活性層の幅方向におけるキャリア分布の分離をも抑制できるため、高い発光効率を実現する発光ダイオードが得られる。
また、サファイア基板上に無極性面の窒化物半導体を形成することにより、安価に素子を作製できる。また、サファイア基板に限らず、SiC、GaAs、ZnO、あるいはAlLiOからなる基板上に窒化物系バッファ層を形成した場合においても、同様の効果が得られる。
【0039】
(第四実施形態)
本発明の半導体発光素子の例として、発光ダイオードの別の例を図10に示す。
本実施例における発光ダイオードは、m面を成長面とするGaNバルク基板101上に、珪素が添加された、厚さ3μmのn型GaNコンタクト層402、珪素が添加された厚さ0.4μmのn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層403、珪素が添加された厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層404、発光層105、珪素が添加された厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層406、Mgが添加された厚さ0.4μmのp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層407、Mgが添加された厚さ0.2μmのp型GaNコンタクト層408、NiおよびAuからなるp電極409、TiおよびAlからなるn電極410、が形成されている。発光層105は、第一実施形態に記載の発光層105と同様の構造である。ここでは、厚さ5nm、幅5nmの量子細線活性層と、厚さ10nmの障壁層からなるものとしてもよい。
なお、各層の厚みや、組成は例示であり、上述したものに限定されるものではない。また、基板101上のn型GaNコンタクト層402、クラッド層403、GaN光ガイド層404は、基板101の段差部の形状を引き継いでいる。
【0040】
次に、本実施例の発光ダイオードの作製方法を述べる。
窒化物結晶層は、MOCVD法等で成長される。n型GaNコンタクト層402、n型AlGaNクラッド層403、n型GaN光ガイド層404、発光層105、p型GaN光ガイド層406、p型AlGaNクラッド層407、p型GaNコンタクト層408、を順に結晶成長により形成する。p型GaNコンタクト層408の上部には、Niを50nm、Auを200nm蒸着してp電極409を形成する。その後、GaNバルク基板401を厚さ100μm程度に研磨する。そして、GaNバルク基板401の裏面にTiを50nm蒸着し、続いてAlを200nm蒸着することで、n電極410を形成する。このようにして形成された半導体ウェハを素子ごとに切り分けて、発光ダイオードを形成する。
以上の構成を備えることにより、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、量子細線活性層の層厚方向の内部電界の抑制と、量子細線活性層における量子サイズ効果の発生と共に、量子細線活性層の幅方向におけるキャリア分布の分離をも抑制できるため、高い発光効率を実現する発光ダイオードが得られる。
【0041】
(第五実施形態)
本発明の半導体発光素子の一例として、面発光レーザの例を図11に示す。
本実施例における面発光レーザは、前記実施形態と同様、無極性面を成長面とするオフアングル基板である基板101(ここでは、m面を成長面とするGaN基板101)上に、厚さ1μmのn型下部多重反射膜ミラー503、厚さ0.3μmのn型GaNクラッド層504、発光層105、厚さ20nmの電流狭窄層507を内部に含む厚さ0.6μmのp型GaN層506、厚さ0.3μmのp型GaNクラッド層508、厚さ0.2μmのp型上部多重反射膜ミラー509から成る積層構造を有する。n型下部多重反射膜ミラー503は、厚さ20nmのn型GaN層と厚さ20nmのn型AlGaN層を交互に積層した構造であり、p型上部多重反射膜ミラー509は、厚さ20nmのp型GaN層と厚さ20nmのp型AlGaN層を交互に積層した構造である。p型上部多重反射膜ミラー509は、量子細線活性層の上面を被覆し、n型下部多重反射膜ミラー503は、量子細線活性層の下面を被覆して、量子細線活性層で生成された光を閉じこめる。
電流狭窄層507はAlNで構成されており、直径6μmの開口を有する。また、p型上部多重反射膜ミラー509上にはp電極510が、GaN基板101の裏面にはn電極501が形成されている。発光層105は、第一実施形態に記載の発光層105と同様の構造であるが、厚さ5nm、幅5nmの量子細線活性層と、厚差10nmの障壁層からなるものとしてもよい。
なお、各層の厚みや、組成は例示であり、上述したものに限定されるものではない。また、基板101上の下部多重反射膜ミラー503、n型GaNクラッド層504は、基板101の段差部の形状を引き継いでいる
【0042】
次に、本実施例の面発光レーザの作製方法を述べる。
窒化物結晶層は、MOCVD法等で成長される。GaN基板101上に、n型下部多重反射膜ミラー503、n型GaNクラッド層504、発光層105、p型GaN層506、を順に結晶成長により形成する。電流狭窄層507は、たとえば特許文献7に記載されているように、結晶成長により非晶質AlN層を形成し、エッチングにより開口を形成した後、p型GaN層506を再度成長することによって結晶化される。
p型GaN層506の上部に、p型GaNクラッド層508、p型上部多重反射膜ミラー509、を順に結晶成長により形成する。p型上部多重反射膜ミラー509の上部には、Niを50nm蒸着し、続いてAuを200nm蒸着することによりp電極510を形成する。その後、GaN基板101を厚さ100μm程度に研磨する。そして、GaN基板101の裏面にTiを50nm蒸着し、続いてAlを200nm蒸着することで、n電極501を形成する。このようにして形成された半導体ウェハを素子ごとに切り分けて、所望の面発光レーザ素子を形成する。
このような面発光レーザは、たとえば光ピックアップに搭載することができる。光ピックアップ装置に上述した面発光レーザを搭載することにより、低消費電力を可能とする光ピックアップを実現することが可能となる。
【0043】
以上の構成を備えることにより、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、量子細線活性層の層厚方向の内部電界の抑制と、量子細線活性層における量子サイズ効果の発生と共に、量子細線活性層の幅方向におけるキャリア分布の分離をも抑制できるため、高い発光効率を実現する面発光レーザが得られる。
なお、本実施形態においては、電流狭窄型の面発光レーザについて述べたが、本発明の半導体光素子をトンネル接合型の面発光レーザに適用した場合にも、同様の効果が得られる。
【0044】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
たとえば、前記各実施形態においては、半導体光素子を光ピックアップ装置や白色光源に適用できるとしたが、これに限られるものではない。
また、前記各実施形態では、量子細線活性層は、下地層のc軸に沿って、連続的に延在するとしていたが、これに限らず、下地層のc軸に沿って、c軸方向に延在する複数の量子細線活性層が断続的に、すなわち、所定の間隔をあけて配置されていてもよい。
さらに、前記各実施形態では、量子細線活性層が下地層のc軸(有極性面の法線)に平行に延在するとしたが、これに限らず、量子細線活性層が有極性面の法線方向に伸長していればよく、量子細線活性層が有極性面の法線から多少傾斜して配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 下地層
1A 成長面(無極性面)
2 量子細線活性層
6 発光層
9 光ピックアップ装置
11 サファイア基板
12 バッファ層
13 コンタクト層
14 クラッド層
15 ガイド層
16 発光層
17 ガイド層
18 クラッド層
19 コンタクト層
22P 電極
22N 電極
81 光源
82 集光レンズ
83 ロッドレンズ
84 蛍光体シート
101 基板(GaNバルク基板、サファイア基板、GaN基板)
101A 段差部
102 コンタクト層
103 クラッド層
104 光ガイド層
105 発光層
105a 量子細線活性層
105b 障壁層
105b2 ステップ部分
105b1 テラス部分
106 光ガイド層
107 クラッド層
108 コンタクト層
109 電極
110 電極
111 絶縁層
204 光ガイド層
205 発光層
205a 量子井戸層
205b バリア層
205c 高抵抗領域
205d 非高抵抗領域
206 光ガイド層
302 コンタクト層
303 クラッド層
304 光ガイド層
306 光ガイド層
307 クラッド層
308 コンタクト層
309 電極
310 電極
312 バッファ層
401 バルク基板
402 コンタクト層
403 クラッド層
404 光ガイド層
406 光ガイド層
407 クラッド層
408 コンタクト層
409 電極
410 電極
501 電極
503 下部多重反射膜ミラー
504 クラッド層
506 p型GaN層
507 電流狭窄層
508 クラッド層
509 上部多重反射膜ミラー
510 電極
901 光源
902 偏光ビームスプリッタ
903 コリメータレンズ
904 レンズモジュール
909 光ディスク
910 光検出器
A テラス部分
B ステップ部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルツ鉱型結晶構造であり、無極性面と当該無極性面に沿った方向とは直交する有極性面とを有する下地層と、
前記下地層の当該無極性面上に形成されており、当該無極性面における前記下地層の格子定数とは異なる格子定数を有するIII族窒化物半導体からなる複数の量子細線活性層と、
を含み、
前記量子細線活性層は、前記有極性面の法線方向に伸長するように形成されている、半導体発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体発光素子であって、
前記有極性面の法線方向は、前記ウルツ鉱型結晶構造のc軸方向である、半導体発光素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体発光素子であって、
前記量子細線活性層は、少なくとも50nmの長さに亘って前記有極性面の法線方向に伸長している、半導体発光素子。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体発光素子であって、
前記量子細線活性層は、前記有極性面の法線方向に沿って且つ連続的に伸長している、半導体発光素子。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の半導体発光素子であって、
前記下地層は、前記有極性面の法線方向に伸長する複数の段差部が形成された表面を有するオフアングル基板と、
前記オフアングル基板の前記表面上に、前記段差部の形状を引き継いだ半導体層とを含み、
前記量子細線活性層は、前記半導体層の前記段差部の側壁と接するように前記段差部のテラス上に形成されている、半導体発光素子。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の半導体発光素子であって、
前記下地層上に形成された半導体積層構造を有し、
前記半導体積層構造は、前記有極性面の法線方向に沿って互いに並行に伸長するように形成された複数の高抵抗領域を有し、
前記量子細線活性層は、前記高抵抗領域よりも低い電気抵抗を有するとともに前記高抵抗領域間に形成されている、半導体発光素子。
【請求項7】
請求項1から6のうちのいずれか1項に記載の半導体発光素子であって、
前記量子細線活性層で生成された光を閉じ込める一対のミラーを有し、前記ミラーにより光共振器が構成される、半導体発光素子。
【請求項8】
請求項1から6のうちのいずれか1項に記載の半導体発光素子であって、
当該半導体発光素子は面発光レーザであり、
前記量子細線活性層の上面を被覆する第1の多重反射膜ミラーと、
前記量子細線活性層の下面を被覆する第2の多重反射膜ミラーとを含み、
前記第1および第2の多重反射膜ミラーは、前記量子細線活性層で生成された光を閉じ込める、半導体発光素子。
【請求項9】
請求項7または8に記載の半導体発光素子と、
前記半導体発光素子から出射された光を記録媒体に集光させるレンズと、
前記記録媒体からの戻り光を受光する光検出器と、
前記半導体発光素子から出射された光を前記レンズに導くとともに前記戻り光を前記光検出器に導く光学系と、
を含む光ピックアップ装置。
【請求項10】
請求項1から8のうちのいずれか1項に記載の半導体発光素子と、
前記半導体発光素子から出射された光を励起光として吸収して発光する蛍光体と、
を含む光源装置。
【請求項11】
ウルツ鉱型結晶構造であり、無極性面と当該無極性面に沿った方向とは直交する有極性面とを有する下地層を配置する工程と、
前記下地層の当該無極性面上に、当該無極性面における前記下地層の格子定数とは異なる格子定数を有するIII族窒化物半導体からなる複数の量子細線活性層を形成する工程と、
を含み、
前記量子細線活性層は、前記有極性面の法線方向に伸長するように形成されている、半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−238954(P2010−238954A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85999(P2009−85999)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/ディスプレイ用可視光半導体レーザの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】