説明

半導体装置の製造方法、半導体製造装置及び記憶媒体

【課題】基板上にシリコンを含む低誘電率膜を塗布法により形成するにあたり、簡便な方法により低誘電率膜中に気孔を形成すること。
【解決手段】低誘電率膜の前駆体であるシリコンを含む化合物の塗布液中に、負電荷を持ち、かつ浮力がほぼゼロの極めて小さな気泡であるナノバブルを導入し、この塗布液を基板上に塗布した後に、基板を加熱して低誘電率膜を形成する。このナノバブルが負電荷を持っているので、凝集しにくく、溶液中に均一に分散し、また基板の加熱後にも気泡として低誘電率膜中に取り込まれるため、均一で小さな気孔を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置を製造する技術に係り、特に層間絶縁膜等として用いられる多孔質の低誘電率の絶縁膜を成膜する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の高集積化を図るために多層配線構造が採用されているが、信号はその周波数が高くなるほど層間絶縁膜を通過しやすくなるため、デバイスの動作の高速化を図るためには、層間絶縁膜の比誘電率を低くすることが要求される。従来から絶縁膜としてはSiO2膜(シリコン酸化膜)が一般的に使用されてきたが、SiO2の比誘電率は4.0であり、そこで更に比誘電率の低い材料として比誘電率が3.6のSiOFが検討され、最近では比誘電率が2.8〜3.2の低誘電率材料であるSiOCHが実用化されている。このように層間絶縁膜の開発の流れとしては、シリコン(Si)を主成分とする材料にフッ素(F)や炭素(C)などを添加するという技術である。また、このような層間絶縁膜中を多孔質に形成することで、更なる比誘電率の低減化が図られている。
【0003】
多孔質のSiOCH膜を形成する手法として、CVD法が知られているが、装置及びプロセスの簡易性という点からは塗布法が有利である。塗布法においては、先ずSiCOHの架橋構造を形成するための前駆体を溶媒に溶かして、塗布液を作製する。そして、この塗布液を例えばスピンコーティング法などにより基板上に塗布する。その後、この基板を加熱して、溶媒を気化させて除去すると共に、前駆体を反応させて例えば架橋構造を形成することにより、SiCOH膜などのシリコン酸化膜が成膜される。そして、このシリコン酸化膜に対して、エッチングやアッシングなどのプラズマ処理を行うことにより凹部を形成した後、この凹部内にバリア膜と金属配線とを下側からこの順番で積層することによって、回路部分が形成されていくこととなる。尚、このバリア膜は、金属配線からシリコン酸化膜への金属の拡散を防ぐための膜である。
【0004】
ところで、例えばシリコン酸化膜内の気孔は、図11(a)に示すように、例えば上記の前駆体中のシリコンなどに低温で気化する有機物などの低沸点化合物を結合させて、この低沸点化合物を含む塗布液を基板上に塗布した後、加熱によりこの低沸点化合物を気化させて基板の表面から除去することによって(同図(b)参照)形成される。
そのため、低沸点化合物は膜中に設計通りの粒径の気孔を形成する分子サイズであること、塗布膜のベーク温度において気化すること、前駆体中に均一に分散する分散性を有していること、などの要件が求められる。従って、低沸点化合物の選定や開発作業に多大な時間とコストとが必要になっている。また、上記の気孔は、低沸点化合物が気化して絶縁膜の外部に抜け出ていくことにより形成されるため、絶縁膜の外部と連通するオープンポアとなってしまう。そのために、上記のバリア膜の形成時に、バリア膜からシリコン酸化膜へ金属が拡散し、シリコン酸化膜の絶縁性が低下するおそれがある。また、エッチング時やアッシング時のプラズマが膜の内部にまで入り込み、ダメージを受けやすくなるという問題があるし、更にまた膜の機械的強度(硬度、ヤング率)が低くなるという問題もある。
【0005】
特許文献1には、マイクロメートルやナノメートルのサイズの気泡いわゆるマイクロバブル(ナノバブル)を用いて、工業機器などを洗浄する技術が記載されており、また特許文献2には、このナノバブルを安定的に製造する技術が記載されているが、いずれも上述の課題の具体的な解決手段については何ら示唆されていない。
更に、特許文献3及び特許文献4には、プラズマ化学蒸着法あるいは塗布法により基板上に多孔質の低誘電率膜を形成する技術が記載されているが、上記の課題については何ら検討されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−121962((0031)〜(0037))
【特許文献2】特開2005−245817((0012)〜(0013))
【特許文献3】特開2002−64091((0008)〜(0010))
【特許文献4】特開2005−500669((0025)〜(0026))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、半導体装置を製造する過程において、塗布法により基板上に多孔質の低誘電率の絶縁膜を形成するにあたり、この多孔質の絶縁膜を容易に成膜することができる半導体装置の製造方法、半導体製造装置及びこの製造方法を実施できるプログラムを格納した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体装置の製造方法は、
絶縁膜形成材料である塗布液中に、正及び負の一方に帯電し、かつ浮力がほぼゼロの微少な気泡を発生させる工程と、
前記気泡を含む塗布液を基板上に塗布して塗布膜を形成する工程と、
次いで、前記気泡が消失する前に、基板を加熱して前記塗布膜をベーキングすることにより、多孔質の低誘電率の絶縁膜を得る工程と、を含むことを特徴とする。
前記低誘電率の絶縁膜は層間絶縁膜であることが好ましい。
前記絶縁膜形成材料はシリコン、酸素、炭素及び水素を含んでいることが好ましい。
前記ベーキング後の気泡の粒径は、50nm以下であることが好ましい。
前記塗布膜をベーキングする工程は、前記塗布液中の前記気泡を前記基板側に引き込むために電界を形成する工程を含んでいても良い。
【0009】
本発明の半導体製造装置は、
絶縁材料である塗布液中に、正及び負の一方に帯電し、かつ浮力がほぼゼロの気泡を発生させる気泡発生手段と、
半導体装置を形成するための基板上に、前記気泡を含む塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布ユニットと、
前記気泡を含む塗布液の塗布された前記基板を加熱して、前記塗布膜をベーキングすることにより、多孔質の低誘電率の絶縁膜を得るための加熱ユニットと、
前記塗布ユニットと前記加熱ユニットとの間において前記基板を搬送するための搬送手段と、を備えたことを特徴とする。
前記加熱ユニットは、前記塗布液中の前記気泡を前記基板側に引き込むための電界発生手段を備えていても良い。
【0010】
本発明の記憶媒体は、
コンピュータプログラムを格納した記憶媒体において、
前記コンピュータプログラムは、上記の半導体装置の製造方法を実施するようにステップが組まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、絶縁膜形成材料である塗布液中に、正及び負の一方に帯電し、かつ浮力がほぼゼロの微少な気泡を発生させ、その塗布液を基板上に塗布して多孔質の低誘電率の絶縁膜(以下「低誘電率膜」という)を形成している。従って、膜を多孔質化するための化合物が不要であることから、その化合物の選定、開発の労力が不要になり、結局低誘電率膜を容易に製造することができる。そして気泡が塗布液中に閉じこめられたまま多孔質化されるので、低誘電率膜中にオープンポアが張り巡らせられるのではなく、いわばクローズのポアとなるので、膜の機械的強度の向上も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の半導体装置の製造方法を実施するための半導体製造装置の一例について、図1〜図3を参照して説明する。図1は、基板例えば半導体ウェハ(以下「ウェハ」という)Wの表面にスピンコーティング法により塗布液を塗布するための塗布ユニット10であり、筐体11内には、載置部をなすステージ12と、このステージ12に載置されたウェハWの周縁部を囲むように設けられたカップ体13と、が設置されている。ステージ12は、バキュームチャックであり、駆動部14により昇降及び回転自在に構成されている。尚、この筐体11の上方には、筐体11内に気流を形成するためのフィルターユニットが設けられているが、この図では省略している。
【0013】
カップ体13の底部には、リング状の液受け部15が設けられており、この液受け部15には、廃液路16の一端側が接続されている。また、カップ体13の底部の液受け部15よりも内周側には、排気路17の一端側が接続されており、廃液から気体が分離されて排気されるように構成されている。
【0014】
ステージ12の上方には、ウェハWに塗布液を供給するためのノズル20が設けられており、このノズル20には、塗布液供給路21の一端側が接続されている。この塗布液供給路21の他端側は、バルブ22と流量制御部23とを介して塗布液貯留槽24の下面側に接続されている。このノズル20は、アーム20aにより昇降自在、揺動自在に構成されている。
【0015】
塗布液貯留槽24内には、例えばSiとC、O、Hを含む有機物とからなる化合物である前駆体が例えば有機溶媒などに溶解した状態で絶縁膜形成材料である塗布液として貯留されている。この塗布液貯留槽24の側壁には、塗布液補充路25を介して塗布液補充槽26が接続されており、塗布液貯留槽24内に塗布液を補充できるように構成されている。塗布液貯留槽24の上面側には、塗布液貯留槽24内の気体例えば後述の不活性ガスや揮発した有機溶媒を排気するためのベントバルブ27aが介設された排気路27が設けられている。また、塗布液貯留槽24の上面には、圧力計24aが設けられており、塗布液貯留槽24内の気圧が高くなったときには、制御部5によって、ベントバルブ27aが開放されるように構成されている。
【0016】
また、この塗布液貯留槽24内の下面側には、微少な気泡であるナノバブルを生成するための気泡発生手段であるナノバブル生成装置30が塗布液中に浸漬するように設置されている。ここで、「ナノバブル」とは、例えば粒径が数nm程度の微少な気泡である。この気泡は粒径が数nmに限られるものではないが、あまり大きいと浮力が働いて気泡が膜の表面部に集まってしまうか、あるいは大気側に弾けてしまうことから、浮力がほぼゼロであることが必要であり、このため粒径が数百nmオーダーよりも小さいことが要求されると考えられる。ただし、本発明に係る低誘電率膜を今後の層間絶縁膜に適用しようとした場合には、膜厚自体を数百nmから数十nmに移行しようとしていることから、気泡については、浮力はほぼゼロあるいは実質ゼロということができる。またこれら気泡は凝集しないように、正及び負の一方に帯電していることが必要であり、この例では、負に帯電している。このナノバブルを生成するナノバブル生成装置30について、図2を参照して説明する。
【0017】
このナノバブル生成装置30としては、例えばナノプラネット研究所製のマイクロナノバブル発生装置を用いることができ、図2(a)に示すように、このナノバブル生成装置30は、円筒状の筐体31を備えている。この筐体31の側面(周面)の上側には、塗布液をこの筐体31内に供給するための塗布液供給路32の一端側が接続されている。また、筐体31の一端側の面には、ナノバブル発生用のガスを供給するためのガス供給路33が接続されている。筐体31の他端側の面には、開口部34が形成されている。
【0018】
塗布液供給路32の他端側には、既述の図1に示すように、バルブ35と流量調整部36とを介して循環ポンプ37が接続されている。この循環ポンプ37には、塗布液貯留槽24内の塗布液を塗布液供給路32を介して既述のナノバブル生成装置30に供給するために、塗布液を吸引するための吸引路38の一端側が接続されており、この吸引路38の他端側は、塗布液貯留槽24の側壁の下側に接続されている。ガス供給路33は、バルブ40と流量調整部41とを介してナノバブル発生用のガス源例えば窒素ガス源42に接続されている。
【0019】
このナノバブル生成装置30におけるナノバブルの生成過程について、初めに説明しておく。先ず、筐体31内に塗布液が供給されると、この塗布液は、筐体31内をガス供給路33側に向かって流れた後、筐体31の内周面に沿って激しく旋回すると共に、筐体31内を開口部34側に向かって流れる。そして、この塗布液の流れにより、いわゆるアスピレーターのように、例えば0.06MPa(450Torr)の負圧が発生するので、ガス供給路33から供給されるナノバブル発生用のガスは、この負圧により吸引されて、塗布液の旋回流の中心部において開口部34に向かって流れていく。塗布液の旋回流は、開口部34に向かうにつれて旋回半径が徐々に狭まるように構成されているため、筐体31の他端側のある点において、図2(b)に示すように、塗布液とガスとが激しく混合されてナノバブルが生成する。
【0020】
このナノバブルは、塗布液の旋回流との摩擦によって例えば40〜100mVの負電荷を帯びることとなる。また、ナノバブル内の圧力が負圧となっているので、ナノバブルが発生した後は、時間の経過と共に収縮していく(参照:都並結依,大成博文,マイクロバブルの収縮過程と収縮パターン,第1回マイクロ・ナノバブル技術シンポジウム)。尚、このような生成方法以外にも、例えば電気分解などによりナノバブルを生成するようにしても良い。
【0021】
次に、図3を参照してウェハWを加熱するための加熱ユニット50について説明する。この加熱ユニット50の筐体51内の下面側には、上面が開口するカップ状の熱板支持部材52が設けられており、この熱板支持部材52内には、絶縁板53を介して熱板54が設けられている。この熱板54内には、電源55に接続された加熱手段であるヒーター56が設置されている。また、熱板54内には、電極板57が設けられており、この電極板57には、ウェハWに対して正の直流電圧を印加するための電界発生手段をなす電源58が接続されている。熱板支持部材52の上面の周縁部には、図示しない溝にはめ込まれたO−リング60が設けられている。尚、筐体51は接地されている。
【0022】
筐体51の上方には、熱板54上のウェハWを上側から覆うように、整流用の天板59が設けられており、この天板59には、下側の外縁にフランジ部59aが形成されている。この天板59には、図示しない昇降機構が接続されており、天板59が下降すると、熱板支持部材52のO−リング60とこのフランジ部59aとが圧接されることによって、ウェハWの周囲の雰囲気が気密となるように構成されている。フランジ部59aの内側には、周方向に亘ってガス供給口61が形成されており、天板59の上面には、このガス供給口61に連通するガス供給路62の一端側が接続されている。ガス供給路62の他端側には、例えば窒素ガスなどの不活性ガス源63が接続されている。また、天板59の中央部には、排気口64が形成されており、排気路65が介設された排気ポンプ66により、ウェハWの周囲の雰囲気を排気できるように構成されている。67は、ウェハWの搬送口である。
【0023】
続いて、本発明の半導体装置の製造方法について、図4〜図6を参照して説明する。先ず、例えば下層側の配線層が形成されているウェハWを図示しない搬送手段により塗布ユニット10内のステージ12に載置して、ウェハWを吸着する。そして、図4(a)に示すように、循環ポンプ37により塗布液貯留槽24内の塗布液を吸引し、この塗布液を既述のナノバブル生成装置30に供給すると共に、窒素ガス源42からナノバブル生成装置30に窒素ガスを供給する。この塗布液と窒素ガスとの流れにより、既述のように、塗布液中にナノバブルが生成する。このナノバブルが生成された塗布液は、塗布液貯留槽24内に放出されていく。そして、塗布液の循環と窒素ガスの供給とを所定の時間行うことにより、図4(b)に示すように、塗布液貯留槽24内のナノバブルが増加していく。このナノバブルは、既述のように負電荷を帯びているので、凝集が抑制されて、互いに離れるように塗布液中に均一に分散する。尚、この時揮発した有機溶媒やナノバブルの生成により塗布液貯留槽24内の気圧が上昇した場合には、圧力計24aの検出信号を介してベントバルブ27aが開かれて、既述の排気路27から気体が排気される。
【0024】
そして、所定の量のナノバブルを発生させた後、塗布液の循環と窒素ガスの供給とを停止して、ナノバブルの生成を停止する。その後、このナノバブルが生成した塗布液を所定の時間そのままの状態にしておくと、図4(c)に示すように、塗布液中のナノバブルが収縮していき、粒径が例えば10nm程度となる。この時、ナノバブルの収縮によりナノバブル内の圧力が塗布液内の圧力よりも高くなった場合には、例えばナノバブル内のガスの一部が塗布液中に流出し、この流出分が塗布液中に溶解したり、あるいは気泡となってナノバブルと共に後述の低誘電率膜81内に気泡として取り込まれたりすることとなり、低誘電率膜81の特性に悪影響を及ぼさない。
尚、図4では、各バルブ22、35、40については、白色を開の状態、黒色を閉の状態として示している。また、同図については、一部簡略化して示している。
【0025】
次に、図5(a)に示すように、この塗布液をノズル20によりウェハWの中心部に供給すると共に、ステージ12を所定の回転数で回転させると、余分な塗布液が振り切られ、所定の膜厚の塗布液がウェハW上に塗布されて、また溶媒が僅かに蒸発して、塗布膜80が得られる(同図(b))。この時、ナノバブルが既述のように負電荷を帯びているので、図6(a)に示すように、塗布膜80内にはナノバブルが均一に分散することとなる。
【0026】
そして、図示しない搬送手段によりウェハWを塗布ユニット10内から取り出し、加熱ユニット50内の熱板54上に載置する。そして、天板59を下降させてウェハWの周囲の雰囲気を密閉して、ガス供給口61から例えば窒素ガスをウェハWに対して供給すると共に、排気口64からこの窒素ガスを排気する。
【0027】
次いで、図5(c)に示すように、この塗布膜80が形成されたウェハWを所定の温度に加熱すると共に、ウェハWに対して正の直流電圧を印加する。この加熱により、塗布膜80内の溶媒が気化していくので、塗布膜80内では、微視的には溶媒の上昇流が形成される。そのため、ナノバブルがこの溶媒の上昇流に伴って上昇しようとする。また、加熱によりナノバブルが僅かに膨張するので、浮力が増して、このことからもナノバブルが塗布膜80の上側に向かって上昇しようとする。一方、この塗布膜80に正の直流電圧を印加しているので、負に帯電しているナノバブルは、図6(b)に示すように、下側に向かって引き寄せられる。従って直流電圧の適切な大きさを予め実験により把握しておくことにより、ナノバブルが上昇しようとする力と下側に引き寄せられる力との均衡により、加熱前の状態とほぼ同じ高分散状態が維持される。尚、加熱中のナノバブルが上昇する力が極めて小さい場合例えば加熱前の塗布液の粘度が高い場合や、あるいはナノバブルの浮力が極めて小さい場合などには、直流電圧を印加しなくとも良い。
【0028】
そして、加熱により、溶媒が塗布膜80から蒸発し、また塗布膜80中の前駆体が反応してSi、C、O、Hの架橋構造体が形成されていく。それに伴い、塗布膜80の粘度が増加していき、ナノバブルが流動しにくくなるので、ナノバブルがそのまま気孔として閉じこめられる。そして、図6(c)に示すように、例えば10nm程度の大きさの気孔が均一に分散した低誘電率膜81が得られる。
【0029】
その後、ウェハWを加熱ユニット50から取り出した後、図7(a)に示す下層回路部分83の上に形成された前記低誘電率膜81に対して、例えばプラズマエッチングにより、配線を形成するためのトレンチ85aと、ビア用のホール85bと、からなる凹部85が形成される。この凹部85の下面には、下層側の配線86が露出する(図7(b))。しかる後、凹部85の内部を含む低誘電率膜81の表面に、例えばTaとTiとの積層膜である導電性のバリアメタル87を成膜する(図7(c))。続いて、Cu金属を凹部85に埋め込んだ後、CMP(Chemical Mechanical Policing)により余分なCu金属と低誘電率膜81の表面のバリアメタル87とを除去し、配線86と電気的に接続された配線88を形成することにより、下層回路部分83の上に上層回路部分84が積層される(図7(d))。こうして回路部分を順次積層していくことで、多層の配線構造が形成されることとなる。尚、89は下層回路部分83におけるバリアメタルである。
【0030】
上述の実施の形態によれば、絶縁膜形成材料である塗布液中に、負の電荷を帯び、かつ浮力がほぼゼロの微少な気体であるナノバブルを分散させて、この塗布液を用いて塗布膜80を形成し、その後加熱してこの塗布膜80をベーキングしている。従って塗布膜80中に極めて小さい気孔を形成することができ、更にナノバブルが負に帯電していることから、ナノバブル同士が相互に離れようとして高い均一性で分散し、その結果均質な多孔質の低誘電率膜81を得ることができる。このため、膜を多孔質化するための化合物が不要であることから、その化合物の選定、開発の労力が不要になり、多孔質の低誘電率膜81を容易に製造することができる。そのため、塗布法による多孔質の低誘電率膜81の容易な製法を確立することができる。
【0031】
また、既述のように、ナノバブルを発生させた後、加熱して低誘電率膜81を形成する前の時間を長く取ることにより、ナノバブルが収縮するので、気孔を更に小さくすることができる。
更に、上記のように、ナノバブルが低誘電率膜81中に閉じこめられたまま多孔質化されるので、低誘電率膜81中にオープンポアが張り巡らせられるのではなく、いわばクローズのポアとなるので、凹部85にバリアメタル87を形成するときに、低誘電率膜81中へのバリアメタル87の侵入が抑えられ、バリアメタル87の侵入に起因する絶縁性の低下のおそれがない。更にまた、クローズのポアとすることにより、膜の機械的強度の向上も期待できるし、またエッチングなどのプラズマ処理によるダメージの生成を抑えることができる。
また、塗布液中にナノバブルを発生させる時間を変えて、ナノバブルの量を調整することにより、低誘電率膜81中の気孔率を調整できる。
【0032】
ナノバブルを収縮させるタイミングとしては、塗布膜80を形成する前でなくとも、塗布膜80を形成した後に時間を取るようにしても良い。また、塗布膜80内のナノバブルの粒径を設定された大きさ以下にする手法としては、例えばフィルターを塗布液供給路21に介設するようにしても良い。この場合には、フィルターにおいて予め設定した大径のナノバブルが堰き止められ、それよりも小径のナノバブルが得られる。また、フィルター内において塗布液の流路が長くなるので、塗布液が長い時間滞留することによってナノバブルが収縮する。これらのことにより、粒径の極めて小さなナノバブルが得られる。尚、堰き止められた大径のナノバブルは、その後収縮してフィルターを通過することとなる。
【0033】
フィルターを用いる場合には、上記の例のように塗布液貯留槽24を設けずに、例えば図8に示すように、塗布液補充槽26から塗布液を直接ナノバブル生成装置30に供給するようにしても良い。90はフィルター、91は送液ポンプである。このような構成としても、上記と同様に多孔質の低誘電率膜81が得られる。尚、この図8において、既述の図1と同じ構成の部位については同じ符号を付してある。
尚、生成した直後に大径のナノバブルが含まれていない場合には、ナノバブルを収縮させずに用いても良い。
【0034】
更に、上記の例では、ナノバブル発生用のガスとして窒素ガスを用いたが、他のArガスなどの不活性ガスを用いても良いし、あるいは活性ガスを用いても良い。活性ガスとして例えばO2ガスなどを用いた場合には、このガスによりナノバブルが生成され、その後ナノバブルが収縮して内部の圧力が高くなるので、このエネルギーによりガスが活性化する。また、ナノバブル発生の際、塗布液中の結合例えばシリコンと結合している有機物内の結合が切られて炭素鎖が短くなり、分子の塊が小さくなる。そのような分子の塊の小さな前駆体を元にして低誘電率膜81を形成すると、低誘電率膜81中の粒子が小さくなる。既述のエッチングでは、粒子ごとにエッチングされていくので、このような低誘電率膜81に対してエッチングを行うと、稜線の輪郭がシャープになることから、より微細な加工を行うことができるといった効果が得られる。
【0035】
また、上記の例においては、ウェハWの加熱中にナノバブルを引き込むようにしたが、塗布膜80を形成するときにも引き込むようにしても良い。更に、ナノバブルを負に帯電させて、正の直流電圧によりナノバブルをウェハW側に引き込むようにしたが、ウェハWの上方側から負の直流電圧を印加して、ウェハW側にナノバブルを押し込むようにしても良いし、あるいはナノバブルを正に帯電させて、同様にウェハW側に引き込むあるいは押し込むようにしても良い。
上述の例では、塗布膜80を形成したウェハWに対して、1度だけ加熱を行ってベーキングするようにしたが、加熱処理の回数は1回に限らず、塗布膜80の種類などに応じて、2回以上の場合もある。
【0036】
次に、上記の塗布ユニット10と加熱ユニット50とを含む半導体製造装置である塗布膜形成装置の一例について、図9、図10を参照して説明する。
塗布膜形成装置は、複数枚例えば25枚のウェハWが棚状に収納された搬送容器であるキャリアCが搬出入されるキャリア載置部B1と、ウェハWに対して塗布、加熱処理を行うための処理部B2と、を備えている。キャリア載置部B1には、キャリアCを載置するキャリアステーション110と、キャリアCと処理部B2との間でウェハWの受け渡しを行うための搬送手段をなす第1の受け渡し手段120と、が設けられている。処理部B2内には、既述の塗布ユニット10と加熱ユニット50とがそれぞれ複数台ずつ設置されており、またこれらの塗布ユニット10と加熱ユニット50との間においてウェハWの受け渡しを行うための搬送手段をなす第2の受け渡し手段130が設けられている。第1の受け渡し手段120が処理部B2内に進入することによって、この第1の受け渡し手段120と第2の受け渡し手段130との間においてウェハWの受け渡しが行われる。また塗布ユニット10の配列群の下方側には、既述のナノバブル生成装置30が組み合わせて設けられた塗布液貯留槽24が配置されており、この塗布液貯留槽24は例えば複数の塗布ユニット10に対して共通に使用される。即ちこの場合、各塗布ユニット10への塗布液の供給源が1槽の塗布液貯留槽24として接続されていることになる。
【0037】
この塗布膜形成装置には、例えばコンピュータからなる制御部2Aが設けられており、この制御部2Aはプログラム、メモリ、CPUからなるデータ処理部などを備えていて、前記プログラムには制御部2Aから塗布膜形成装置の各部に制御信号を送り、既述の各ステップを進行させることでウェハWの処理や搬送を行うように命令が組み込まれている。また、例えばメモリには処理圧力、処理温度、処理時間、ガス流量または電力値などの処理パラメータの値が書き込まれる領域を備えており、CPUがプログラムの各命令を実行する際これらの処理パラメータが読み出され、そのパラメータ値に応じた制御信号がこの塗布膜形成装置の各部位に送られることになる。このプログラム(処理パラメータの入力操作や表示に関するプログラムも含む)は、コンピュータ記憶媒体例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、MO(光磁気ディスク)、ハードディスクなどの記憶部2Bに格納されて制御部2Aにインストールされる。
【0038】
この塗布膜形成装置におけるウェハWの流れについて、簡単に説明する。先ず、複数枚のウェハWが収納されたキャリアCがキャリアステーション110に載置されると、ウェハWは、第1の受け渡し手段120によりキャリアCから取り出されて、第2の受け渡し手段130に引き渡される。次いで、この第2の受け渡し手段130によりウェハWが塗布ユニット10内に搬入され、既述の塗布膜80が形成された後、加熱ユニット50に搬入される。そして、同様に既述の低誘電率膜81が形成されると、ウェハWは、第2の受け渡し手段130と第1の受け渡し手段120とにより、搬入された経路と逆の経路でキャリアCに戻される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の半導体の製造方法を実施するための塗布膜形成装置の一部をなす塗布ユニットの一例を示す構成図である。
【図2】上記の塗布ユニットにおけるナノバブル生成装置の一例を示す説明図である。
【図3】上記の塗布膜形成装置の一部をなす加熱ユニットの一例を示す縦断面図である。
【図4】上記の製造方法においてナノバブルが生成していく過程を示す模式図である。
【図5】上記の製造方法において低誘電率膜が形成されていく様子を示す模式図である。
【図6】上記の低誘電率膜中のナノバブルの様子を示す模式図である。
【図7】上記の低誘電率膜を備えたデバイスの一例を示す基板の縦断面図である。
【図8】上記の塗布ユニットの他の例を示す構成図である。
【図9】上記の塗布膜形成装置の一例を示す斜視図である。
【図10】上記の塗布膜形成装置の一例を示す横断面図である。
【図11】従来の低誘電率膜中に気孔を形成する手法を示す概念図である。
【符号の説明】
【0040】
10 塗布ユニット
12 ステージ
20 ノズル
21 塗布液供給路
24 塗布液貯留槽
30 ナノバブル生成装置
32 塗布液供給路
50 加熱ユニット
54 熱板
56 ヒーター
57 電極板
58 電源
80 塗布膜
81 低誘電率膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁膜形成材料である塗布液中に、正及び負の一方に帯電し、かつ浮力がほぼゼロの微少な気泡を発生させる工程と、
前記気泡を含む塗布液を基板上に塗布して塗布膜を形成する工程と、
次いで、前記気泡が消失する前に、前記基板を加熱して前記塗布膜をベーキングすることにより、多孔質の低誘電率の絶縁膜を得る工程と、を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記低誘電率の絶縁膜は層間絶縁膜であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁膜形成材料は、シリコン、酸素、炭素及び水素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記ベーキング後の気泡の粒径は、50nm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記塗布膜をベーキングする工程は、前記塗布液中の前記気泡を前記基板側に引き込むために電界を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
絶縁膜形成材料である塗布液中に、正及び負の一方に帯電し、かつ浮力がほぼゼロの気泡を発生させる気泡発生手段と、
半導体装置を形成するための基板上に、前記気泡を含む塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布ユニットと、
前記気泡を含む塗布液の塗布された前記基板を加熱して、前記塗布膜をベーキングすることにより、多孔質の低誘電率の絶縁膜を得るための加熱ユニットと、
前記塗布ユニットと前記加熱ユニットとの間において前記基板を搬送するための搬送手段と、を備えたことを特徴とする半導体製造装置。
【請求項7】
前記加熱ユニットは、前記塗布液中の前記気泡を前記基板側に引き込むための電界発生手段を備えていることを特徴とする請求項6に記載の半導体製造装置。
【請求項8】
コンピュータプログラムを格納した記憶媒体において、
前記コンピュータプログラムは、請求項1ないし5のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法を実施するようにステップが組まれていることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−44095(P2009−44095A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210263(P2007−210263)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】