説明

圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置

【課題】圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置において、フィルタ及びSOXトラップ触媒の昇温に用いられる燃料を減少させて燃費の悪化を抑制する。
【解決手段】SOXトラップ触媒13は、SOXトラップ触媒に流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるSOXを捕獲し、排気ガスの空燃比がリーンのもとでSOXトラップ触媒の温度を回復開始温度以上に上昇させると、捕獲したSOXがSOXトラップ触媒の内部に拡散してSOXトラップ触媒のSOXトラップ能力が回復する性質を有する。SOXトラップ触媒のSOXトラップ能力を回復させるべくSOXトラップ触媒を昇温させるSOXトラップ回復処理と、パティキュレートフィルタ17の粒子状物質捕集能力を回復させるべくパティキュレートフィルタを昇温させるフィルタ再生処理とを実行可能である。SOX回復処理はフィルタ再生処理の実行時に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
NOX吸蔵能力を有するNOX吸蔵触媒は、流入する排気ガス中にSOXが含まれていると、そのSOXを吸蔵し、これに伴ってNOX吸蔵触媒のNOX吸蔵能力が低下することが知られている。そこで、NOX吸蔵触媒にSOXが流入するのを防止すべく、NOX吸蔵触媒上流の機関排気通路内にSOXトラップ触媒を配置した内燃機関が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特に、SOXトラップ触媒は、SOXトラップ触媒に流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるSOXを捕獲し、排気ガスの空燃比がリーンのものでSOXトラップ触媒の温度が上昇すると捕獲したSOXが次第にSOXトラップ触媒の内部に拡散していく性質を有する。このため、SOXトラップ触媒の表面にSOXが捕獲されてSOXトラップ触媒によるSOX捕獲能力が低下しても、SOXトラップ触媒の温度を上昇させてSOXをSOXトラップ触媒の内部に拡散させることで、SOXトラップ触媒のSOX捕獲能力を回復させることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−133610号公報
【特許文献2】特開2003−328727号公報
【特許文献3】特開2006−188985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧縮自着火式内燃機関から排出される排気ガス中にはNOXやSOXの他に粒子状物質が含まれる。この粒子状物質を捕集するために、圧縮自着火式内燃機関の機関排気通路内にはパティキュレートフィルタ(以下、単に「フィルタ」という)が設けられる。しかしながら、フィルタでは、粒子状物質の堆積量が増加すると、フィルタが目詰まりし、排気ガスの流れに対する抵抗が大きくなってしまう。このため、一般に、フィルタへの粒子状物質の堆積量が増大すると、フィルタを昇温させるようにしている。これにより、フィルタに堆積している粒子状物質が酸化除去され、排気ガスの流れに対する抵抗が低く維持されるようになる。
【0006】
ここで、フィルタに堆積している粒子状物質を酸化除去すべくフィルタを昇温させる場合も、SOXトラップ触媒のSOX捕獲能力を回復させるべくSOXトラップ触媒を昇温させる場合も、昇温のために直接的に又は間接的に燃料が消費されることになる。したがって、フィルタの昇温とSOXトラップ触媒の昇温をそれぞれ異なるタイミングで実行すると、燃費の悪化を招いてしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置において、フィルタ及びSOXトラップ触媒の昇温に用いられる燃料を減少させて燃費の悪化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明では、機関排気通路内に配置されると共に排気ガス中に含まれるSOXを捕獲するSOXトラップ触媒と、該SOXトラップ触媒の排気下流側に配置されると共に排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタとを具備し、上記SOXトラップ触媒は、SOXトラップ触媒に流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるSOXを捕獲し、排気ガスの空燃比がリーンのもとでSOXトラップ触媒の温度を回復開始温度以上に上昇させると、捕獲したSOXがSOXトラップ触媒の内部に拡散してSOXトラップ触媒のSOXトラップ能力が回復する性質を有し、SOXトラップ触媒のSOXトラップ能力を回復させるべくSOXトラップ触媒の温度を回復開始温度以上にまで上昇させるSOXトラップ回復処理と、パティキュレートフィルタの粒子状物質捕集能力を回復させるべくパティキュレートフィルタを昇温してパティキュレートフィルタ上に堆積した粒子状物質を酸化除去するフィルタ再生処理とを実行可能であり、SOX回復処理はフィルタ再生処理の実行時に行うようにした、圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置が提供される。
第1の発明によれば、SOX回復処理はフィルタ再生処理と同時に行われる。これにより、SOX回復処理においてSOXトラップ触媒を昇温するのに用いられた熱がパティキュレートフィルタにも流入する。このため、フィルタ再生処理を行うべくパティキュレートフィルタを昇温するのに用いられる燃料量が減少せしめられる。
【0009】
第2の発明では、第1の発明において、上記パティキュレートフィルタへの粒子状物質の堆積量を推定する粒子状物質堆積量推定手段と、上記SOXトラップ触媒のSOX捕獲量を推定するSOX捕獲量推定手段とを具備し、上記フィルタ再生処理はパティキュレートフィルタへの粒子状物質の堆積量が許容量を越えたときに実行され、上記SOXトラップ回復処理はSOXトラップ触媒のSOX捕獲量が予め定められた量以上であって上記フィルタ再生処理が実行されているときに行われ、SOXトラップ触媒のSOX捕獲量が予め定められた量以上であっても上記フィルタ再生処理が実行されていないときには行われない。
【0010】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、上記SOXトラップ回復処理とフィルタ再生処理とが同時に行われた後にSOXトラップ回復処理が先に終了した場合には、SOXトラップ触媒の昇温を停止して下流側燃料添加装置のみから燃料添加を行う。
【0011】
第4の発明では、第1又は第2の発明において、上記SOXトラップ回復処理とフィルタ再生処理とが同時に行われた後にSOXトラップ回復処理が先に終了した場合には、フィルタ再生処理が終了するまでSOXトラップ触媒の昇温を維持する。
【0012】
第5の発明では、第1〜第4のいずれか一つの発明において、上記SOXトラップ触媒は、SOXトラップ触媒の温度が上記回復開始温度よりも高いSOX放出限界温度よりも高くなると、捕獲したSOXを放出する性質を有し、上記SOXトラップ回復処理を行うときには、SOXトラップ触媒の昇温目標温度が上記SOX放出限界温度とほぼ同一の上限温度とされる。
【0013】
第6の発明では、第5の発明において、上記上限温度は、SOXトラップ触媒のSOX捕獲量が増大すると低下せしめられる。
【0014】
第7の発明では、第1〜第4のいずれか一つの発明において、上記SOXトラップ回復処理を行うときには、SOXトラップ触媒を構成する物質の蒸散開始温度以下の温度まで上昇せしめられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、SOX回復処理がフィルタ再生処理と同時に行われることにより、パティキュレートフィルタを昇温するのに用いられる燃料量が減少せしめられるため、燃費の悪化が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0017】
図1に圧縮自着火式内燃機関の全体図を示す。図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内にそれぞれ燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルドをそれぞれ示す。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口はエアクリーナ8に連結される。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁9が配置され、更に吸気ダクト6周りには吸気ダクト6内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置10が配置される。図1に示される実施形態では機関冷却水が冷却装置10内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。
【0018】
一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結され、排気タービン7bの出口は上流側触媒コンバータ11の入口に連結される。上流側触媒コンバータ11内には、上流側に酸化触媒12、下流側にSOXトラップ触媒13が配置される。上流側触媒コンバータ11の出口は排気管14を介して下流側触媒コンバータ15に連結される。下流側触媒コンバータ内には、上流側にNOX吸蔵触媒16、下流側にパティキュレートフィルタ(以下、単に「フィルタ」という)17が配置される。排気管14には排気管14内を流れる排気ガス中に例えば燃料を供給するための燃料供給装置18が取り付けられる。
【0019】
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路20を介して互いに連結され、EGR通路20内には電子制御式EGR制御弁21が配置される。また、EGR通路20周りにはEGR通路20内を流れるEGRガスを冷却するための冷却装置22が配置される。図1に示される実施形態では機関冷却水が冷却装置22内に導かれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。一方、各燃料噴射弁3は燃料供給管23を介してコモンレール24に連結される。このコモンレール24内へは電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ25から燃料が供給され、コモンレール24内に供給された燃料は各燃料供給管23を介して燃料噴射弁3に供給される。
【0020】
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。
【0021】
SOXトラップ触媒13にはSOXトラップ触媒13の温度を検出するための温度センサ43が取付けられ、フィルタ17にはフィルタ17の温度を検出するための温度センサ44が取付けられる。これら温度センサ43、44の出力信号はそれぞれ対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、フィルタ17にはフィルタ17の前後差圧を検出するための差圧センサ45が取付けられており、この差圧センサ45の出力信号は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して燃料噴射弁3、スロットル弁9駆動用ステップモータ、燃料供給装置18、EGR制御弁21および燃料ポンプ25に接続される。
【0022】
図2に圧縮自着火式内燃機関の別の実施形態を示す。この実施形態では排気管14に取付けられた燃料供給装置(以下、「下流側燃料供給装置」という)18に加えて、排気マニホルド5の例えば1番気筒のマニホルド枝管5a内に例えば燃料を供給するための燃料供給装置(以下、「上流側燃料供給装置」という)26が設けられている。
【0023】
なお、上記実施形態では、機関排気通路内に、酸化触媒12、SOXトラップ触媒13、NOX吸蔵触媒16、フィルタ17の順で排気浄化要素が並んでいるが、必ずしもこの順序である必要はない。すなわち、SOXトラップ触媒、NOX吸蔵触媒、フィルタがこの順で或いはSOXトラップ触媒、フィルタ、NOX吸蔵触媒の順で配置されていれば排気浄化要素を如何なる順序で並べても良い。例えば、上流側から、SOXトラップ触媒、NOX吸蔵触媒、酸化触媒、フィルタの順に並べてもよい。また、図3に示したように、フィルタの代わりにNOX吸蔵能力を有するフィルタ17’を用いてもよい。この場合、機関排気通路内にNOX吸蔵触媒を設けなくてもよい。
【0024】
まず初めに、図1及び図2に示されるフィルタ17について説明する。図4(A)および(B)はフィルタ17の構造を示している。なお、図4(A)はフィルタ17の正面図を示しており、図4(B)はフィルタ17の側面断面図を示している。図4(A)および(B)に示されるようにフィルタ17はハニカム構造をなしており、互いに平行をなして延びる複数個の排気流通路60、61を具備する。これら排気流通路は下流端が栓62により閉塞された排気ガス流入通路60と、上流端が栓63により閉塞された排気ガス流出通路61とにより構成される。なお、図4(A)においてハッチングを付した部分は栓63を示している。従って排気ガス流入通路60および排気ガス流出通路61は薄肉の隔壁64を介して交互に配置される。云い換えると排気ガス流入通路60および排気ガス流出通路61は各排気ガス流入通路60が4つの排気ガス流出通路61によって包囲され、各排気ガス流出通路61が4つの排気ガス流入通路60によって包囲されるように配置される。
【0025】
フィルタ17は例えばコージェライトのような多孔質材料から形成されており、従って排気ガス流入通路60内に流入した排気ガスは図4(B)において矢印で示されるように周囲の隔壁64内を通って隣接する排気ガス流出通路61内に流出する。このように排気ガスが隔壁64内を通って流れる間に、排気ガス中に含まれる粒子状物質がフィルタ17に捕集されることになる。
【0026】
次に、図1及び図2に示されるNOX吸蔵触媒16について簡単に説明する。これらNOX吸蔵触媒16では、三次元網目構造のモノリス担体或いはペレット状担体上に例えばアルミナからなる担体層が設けられ、この担体層の表面上には貴金属触媒が分散して担持されており、更に担体層の表面上にはNOX吸蔵剤の層が形成されている。
【0027】
本実施形態では貴金属触媒として白金Ptが用いられ、NOX吸蔵剤を構成する成分としては例えばカリウムK、ナトリウムNa、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つが用いられる。
【0028】
機関吸気通路、燃焼室2およびNOX吸蔵触媒16上流の排気通路内に供給された空気および燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比と称すると、NOX吸蔵触媒16は排気ガスの空燃比がリーンのときにはNOXを吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNOXを放出する。圧縮自着火式内燃機関ではリーン空燃比のもとで燃焼が行われるため、機関本体1から排出された排気ガスはNOX吸蔵触媒16に吸蔵されることになる。しかしながら、リーン空燃比のもとでの燃焼が継続して行われると、その間にNOX吸蔵触媒16のNOX吸蔵能力が飽和してしまい、斯くしてNOX吸蔵触媒16によりNOXを吸蔵することができなくなってしまう。そこで、本実施形態では、NOX吸蔵触媒16のNOX吸蔵能力が飽和する前に、例えば燃料供給装置18から燃料を供給することによってNOX吸蔵触媒16に流入する排気ガスの空燃比を一時的にリッチにし、それによってNOX吸蔵触媒16からNOXを放出させるようにしている。
【0029】
ところで排気ガス中にはSOXが含まれており、このSOXがNOX吸蔵触媒16に流入するとNOX吸蔵触媒16のNOX吸蔵能力が低下してしまう。すなわち、NOX吸蔵触媒16は排気ガス中のNOXのみならずSOXをも吸蔵可能であり、しかもNOX吸蔵触媒16に吸蔵されたSOXは放出されにくい。一般に、NOX吸蔵触媒16に吸蔵されたSOXを放出するためには、NOX吸蔵触媒16に流入する排気ガスの空燃比をリッチにすると共にNOX吸蔵触媒16の温度を高温にする必要がある。このため、NOX吸蔵触媒16からSOXを放出させようとすると、NOX吸蔵触媒16を高温にするために多量の燃料が必要になってしまう。また、NOX吸収触媒16から放出されたSOXは大気中に排出されることになり、このことも好ましいことではない。
【0030】
そこで本発明ではNOX吸蔵触媒16の上流にSOXトラップ触媒13を配置してこのSOXトラップ触媒13により排気ガス中に含まれるSOXを捕獲し、それによってNOX吸蔵触媒16にSOXが流入しないようにしている。次にこのSOXトラップ触媒13について説明する。
【0031】
このSOXトラップ触媒13は例えばハニカム構造のモノリス触媒からなり、SOXトラップ触媒13の軸線方向にまっすぐに延びる多数の排気ガス流通孔を有する。このようにSOXトラップ触媒13をハニカム構造のモノリス触媒から形成した場合には、各排気ガス流通孔の内周壁面上に例えばアルミナからなる触媒担体が担持されており、図5はこの触媒担体50の表面部分の断面を図解的に示している。図5に示されるように触媒担体50の表面上にはコート層51が形成されており、このコート層51の表面上には貴金属触媒52が分散して担持されている。
【0032】
本実施形態では貴金属触媒52として白金が用いられており、コート層51を構成する成分としては例えばカリウムK、ナトリウムNa、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つが用いられている。すなわち、SOXトラップ触媒13のコート層51は強塩基性を呈している。なお、SOXトラップ触媒13には必ずしも貴金属触媒52が担持されていなくてもよい。
【0033】
さて、排気ガス中に含まれるSOX、すなわちSO2は図5に示されるように白金Pt52において酸化され、次いでコート層51内に捕獲される。すなわち、SO2は硫酸イオンSO42-の形でコート層51内に拡散し、硫酸塩を形成する。なお、上述したようにコート層51は強塩基性を呈しており、従って図5に示されるように排気ガス中に含まれるSO2の一部は直接コート層51内に捕獲される。
【0034】
図5においてコート層51内における濃淡は捕獲されたSOXの濃度を示している。図5からわかるようにコート層51内におけるSOX濃度はコート層51の表面近傍が最も高く、奥部に行くに従って次第に低くなっていく。コート層51の表面近傍におけるSOX濃度が高くなるとコート層51の表面の塩基性が弱まり、SOXの捕獲能力が弱まる。ここで排気ガス中に含まれるSOXのうちでSOXトラップ触媒13に捕獲されるSOXの割合をSOXトラップ率と称すると、コート層51の表面の塩基性が弱まればそれに伴ってSOXトラップ率が低下することになる。
【0035】
図6にSOXトラップ率の時間的変化を示す。図6に示されるようにSOXトラップ率は初めは100パーセントに近いが時間が経過すると急速に低下する。そこで本発明では図7に示されるようにSOXトラップ率が予め定められた率よりも低下したときには排気ガスの空燃比がリーンのもとでSOXトラップ触媒13の温度を上昇させる昇温制御を行い、それによってSOXトラップ率を回復させるようにしている(SOXトラップ回復処理)。
【0036】
すなわち、排気ガスの空燃比がリーンのもとでSOXトラップ触媒13の温度を回復開始温度(例えば、コート層51を構成する成分の融点)以上にまで上昇させるとコート層51内の表面近傍に集中的に存在するSOXはコート層51内におけるSOX濃度が均一となるようにコート層51の奥部に向けて拡散していく。すなわち、コート層51内に生成されている硝酸塩はコート層51の表面近傍に集中している不安定な状態からコート層51内の全体に亘って均一に分散した安定した状態に変化する。コート層51内の表面近傍に存在するSOXがコート層51の奥部に向けて拡散するとコート層51の表面近傍のSOX濃度が低下し、斯くしてSOXトラップ触媒13の昇温制御(回復制御)が完了すると図7に示されるようにSOXトラップ率(SOXトラップ能力)が回復する。
【0037】
本発明では基本的には車両を購入してから廃車するまでSOXトラップ触媒13を交換することなくそのまま使用することを考えている。近年では特に燃料内に含まれるイオウの量が減少せしめられており、従ってSOXトラップ触媒13の容量を或る程度大きくすればSOXトラップ触媒13を交換することなく廃車するまでそのまま使用することができる。例えば車両の耐用走行距離を50万kmとするとSOXトラップ触媒13の容量は、走行距離が25万km程度までSOXトラップ触媒13の回復制御をすることなく高いSOXトラップ率でもってSOXを捕獲し続けることのできる容量とされる。この場合、最初の回復制御は走行距離が25万km程度で行われる。
【0038】
なお、SOXトラップ触媒13の温度を上昇させるには、様々な方法を用いることができる。例えば、燃料噴射弁3からの噴射時期を圧縮上死点以降にまで遅角させることが挙げられる。これにより、燃焼室2内での後燃え期間が長くなり、よって機関本体1から排出される排気ガスの温度が上昇する。或いは、燃料噴射弁3からの燃料噴射を行うにあたって、圧縮上死点付近で行われる主噴射に加え、主噴射の前にパイロット噴射を行うことが挙げられる。これにより、追加的な噴射により燃料噴射総量が増大したり、後燃えしたりするため、排気ガスの温度が上昇する。このように機関本体1から排出される排気ガスの温度が上昇すると、これに伴ってSOXトラップ触媒13の温度も上昇せしめられる。
【0039】
さらに、燃料噴射弁3からの燃料噴射を行うにあたって、圧縮上死点付近で行われる主噴射に加え、主噴射の後にポスト噴射を行うことが挙げられる。この場合、ポスト噴射で噴射された大部分の燃料は燃焼することなく未燃HCの形で排気通路内に排出され、SOXトラップ触媒13に流入する。或いは、図2に示される内燃機関では燃料供給装置26から燃料を供給することが挙げられる。この場合も、燃料供給装置26から供給された燃料は未燃HCの形でSOXトラップ触媒13に流入する。このようにSOXトラップ触媒13に流入した未燃HCはSOXトラップ触媒13において過剰酸素により酸化され、このとき発生する酸化反応熱によってSOXトラップ触媒13の温度が上昇せしめられる。以下の説明では、SOXトラップ触媒13の昇温を燃料供給装置26からの燃料供給によって行う場合を例にとって説明する。
【0040】
一方、上述したように排気ガス中に含まれる粒子状物質はフィルタ17に捕集されるが、フィルタ17は無限に粒子状物質を捕集することができるわけではない。フィルタ17に捕集された粒子状物質はフィルタ17上に次第に堆積していき、この粒子状物質の堆積量が増大すると、フィルタ17に目詰まりが生じ、排気ガスの流れに対する抵抗が大きくなってしまう。その結果、機関出力の低下を招いてしまう。
【0041】
従って、粒子状物質の堆積量が増大したときには、堆積した粒子状物質を除去しなければならない。この場合、空気過剰のもとでフィルタ17の温度を粒子状物質燃焼開始温度(例えば600℃程度)にまで上昇させると、堆積した粒子状物質が酸化され、除去される。
【0042】
そこで、本実施形態では、フィルタ17上に堆積した粒子状物質の量が許容量を超えたときには排気ガスの空燃比がリーンのもとでフィルタ17の温度を粒子状物質燃焼開始温度以上にまで上昇させ、それによって堆積した粒子状物質を酸化除去するようにしている(フィルタ17の再生処理)。
【0043】
なお、フィルタ17の温度を上昇させる場合、本実施形態では、燃料供給装置18から排気ガス中に燃料が供給される。燃料供給装置18から供給された燃料は未燃HCの形でフィルタ17に流入する。フィルタ17に流入した未燃HCはフィルタ17において過剰酸素により酸化され、このとき発生する酸化反応熱によってフィルタ17の温度が上昇せしめられる。
【0044】
ところで、上述したようにSOXトラップ触媒13の回復処理はSOXトラップ率が予め定められた率よりも低下したときに行われ、一方、フィルタ17の再生処理はフィルタ17上に堆積した粒子状物質の量が許容量を超えたときに行われる。このため、通常、これら処理は別々のタイミングで行われることになる。
【0045】
ところが、これらいずれの処理においてもフィルタ17又はSOXトラップ触媒13の温度を上昇させることが必要であり、温度を上昇させるにあたっては燃料が消費されることになる。
【0046】
ここで、SOXトラップ触媒13の温度を上昇させた場合にはSOXトラップ触媒13から排出される排気ガスの温度が上昇せしめられることになるため、SOXトラップ触媒13の排気下流側に配置されたフィルタ17の温度も上昇せしめられる。この場合、SOXトラップ触媒13からフィルタ17まで排気ガスが流れる間に排気ガスの温度が低下すること等を考えると、フィルタ17の温度は粒子状物質燃焼開始温度にまでは上昇しないが、燃料供給装置18から微量の燃料を排気ガス中に供給すればフィルタ17の温度を粒子状物質燃焼開始温度にまで上昇させることができる。すなわち、SOXトラップ触媒13の回復処理とフィルタ17の再生処理を同時に行うことにより、これら処理を別々に行った場合に比べて、昇温に用いられる燃料の量を抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態のように、SOXトラップ触媒13よりも排気下流側に設けられた燃料供給装置18から燃料を供給することによりフィルタ17の温度を上昇させる場合、燃料中の硫黄成分はSOXトラップ触媒13に捕獲されることなく、直接NOX吸蔵触媒16及びフィルタ17に流入することになる。このため、微量ではあるが、フィルタ17の温度を上昇させる毎にNOX吸蔵触媒16にSOXが吸蔵されてしまう。
【0048】
これに対して、上述したように、SOXトラップ触媒13の回復処理とフィルタ17の再生処理とを同時に行うことにより、フィルタ17の温度を粒子状物質燃料開始温度にまで上昇させるのに燃料供給装置18から供給すべき燃料を減少させることができる。このため、フィルタ17の再生処理を行うにあたってNOX吸蔵触媒16に吸蔵されるSOXが減少せしめられる。
【0049】
次に、図8〜図12を参照して本実施形態の各種制御について具体的に説明する。まず、フィルタ17の再生制御について説明する。フィルタ17の再生処理は、上述したように、フィルタ17への粒子状物質の堆積量が許容量を超えたときに行われる。本実施形態では、差圧センサ45により検出されるフィルタ17の前後差圧に基づいてフィルタ17への粒子状物質の堆積量が推定される。すなわち、フィルタ17への粒子状物質の堆積量の許容量を超えた場合にはフィルタ17の前後差圧がこの許容量に対応する許容値よりも高くなるため、フィルタ17の前後差圧が許容値以下の場合にはフィルタ17の再生処理を実行せず、フィルタ17の前後差圧が許容値よりも高くなった場合にフィルタ17の再生処理を実行する。
【0050】
一方、SOXトラップ触媒13の回復処理は、基本的にSOXトラップ触媒13のSOX捕獲量が予め定められた捕獲量以上となったときに行われる。すなわち、SOXトラップ触媒13のSOX捕獲量が予め定められた量を超えたときにSOXトラップ率が予め定められた率よりも低下したと判断され、このときSOXトラップ率を回復するために排気ガスの空燃比がリーンのもとでSOXトラップ触媒13の温度を上昇させてSOXトラップ触媒13の回復処理を行うようにしている。そこで、まずSOXトラップ触媒13のSOX捕獲量の算出方法について説明する。
【0051】
燃料中には或る割合でイオウが含まれており、従って排気ガス中に含まれるSOX量、すなわちSOXトラップ触媒13に捕獲されるSOX量は燃料噴射量に比例する。燃料噴射量は要求トルクおよび機関回転数の関数であり、従ってSOXトラップ触媒13に捕獲されるSOX量も要求トルクおよび機関回転数の関数となる。本実施形態ではSOXトラップ触媒13に単位時間当り捕獲されるSOX量SOXAが要求トルクTQおよび機関回転数Nの関数として図8(A)に示されるようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。
【0052】
また、潤滑油内にも或る割合でイオウが含まれており、燃焼室2内で燃焼せしめられる潤滑油量、すなわち排気ガス中に含まれていてSOXトラップ触媒13に捕獲されるSOX量も要求トルクおよび機関回転数の関数となる。本実施形態では潤滑油に含まれていてSOXトラップ触媒13に単位時間当り捕獲されるSOX量SOXBが要求トルクTQおよび機関回転数Nの関数として図8(B)に示されるようなマップの形で予めROM32内に記憶されており、SOX量SOXAおよびSOX量SOXBの和を積算することによってSOXトラップ触媒13のSOX捕獲量ΣSOXが算出される(ΣSOX=ΣSOXA+ΣSOXB)。
【0053】
次に、予め定められた捕獲量SO(n)について説明する。本実施形態では図8(C)に示されるようにSOX量ΣSOXと、SOXトラップ触媒13の回復処理をすべきときの予め定められたSOX量SO(n)との関係が予め記憶されており、SOX量ΣSOXが予め定められたSO(n)(n=1,2,3,…)を越えたときにSOXトラップ触媒13の回復処理が行われる。なお、図8(C)においてはnは何回目の回復処理であるかを示している。図8(C)からわかるようにSOXトラップ率を回復するための回復処理回数nが増大するにつれて予め定められた量SO(n)が増大せしめられ、この予め定められた量SO(n)の増大割合は処理回数nが増大するほど減少する。すなわち、SO(2)に対するSO(3)の増大割合はSO(1)に対するSO(2)の増大割合よりも減少する。
【0054】
上述したように、本実施形態では、SOXトラップ触媒13のSOX捕獲量ΣSOXが予め定められた捕獲量SO(n)以上となったときにSOXトラップ触媒13の回復処理が行われるが、予め定められた捕獲量SO(n)以上となった直後に行われるわけではない。すなわち、SOX捕獲量ΣSOXが予め定められた捕獲量SO(n)以上となった後、フィルタ17の再生処理が開始されたときにSOXトラップ触媒13の回復処理も開始される。逆に言うと、SOX捕獲量ΣSOXが予め定められた捕獲量SO(n)以上となっても、フィルタ17の再生処理が開始されるまでSOXトラップ触媒13の回復処理が待機される。
【0055】
このように、フィルタ17の再生処理とSOXトラップ触媒13の回復処理が同時に行われる場合、上流側燃料供給装置26からはSOXトラップ触媒13の温度を回復温度以上にするのに必要な量の燃料が供給され、下流側燃料供給装置18からはフィルタ17の温度を粒子状物質酸化開始温度以上にまで上昇させるのに必要な量の燃料が供給される。ただし、下流側燃料供給装置18からの供給燃料量は、フィルタ17の再生処理とSOXトラップ触媒13の回復処理を同時に行わない場合に比べて少なくされる。
【0056】
フィルタ17の再生処理期間、すなわちフィルタ17の温度を粒子状物質酸化開始温度以上にまで上昇させている期間は、フィルタ17への粒子状物質の堆積量やフィルタ17の使用期間等に応じて算出される。例えば、フィルタ17への粒子状物質の堆積量が多いほど、粒子状物質を完全に酸化除去する必要な時間が長くなるため、再生処理期間が長くなり、また、フィルタ17の使用期間が長くなるほど、フィルタ17での白金Pt等の酸化能力が低下して粒子状物質の酸化除去に時間がかかるため、再生処理期間が長くなる。
【0057】
一方、SOXトラップ触媒13の回復処理期間、すなわちSOXトラップ触媒13の温度を回復温度以上にまで上昇させている期間は、SOXトラップ触媒13の回復処理の回数やSOXトラップ触媒13のSOX捕獲量、コート層51を構成する成分等に応じて算出される。
【0058】
このように、フィルタ17の再生処理期間、SOXトラップ触媒13の回復処理期間共に状況に応じて変化するため、SOXトラップ触媒13の回復処理期間の方がフィルタ17の再生処理期間よりも長い場合もあれば、フィルタ17の再生処理期間の方がSOXトラップ触媒13の回復処理期間よりも長い場合もある。SOXトラップ触媒13の回復処理期間の方がフィルタ17の再生処理期間よりも長い場合には、図9(A)に示したように、フィルタ17の再生処理終了後、下流側燃料供給装置18からの燃料供給が停止され、上流側燃料供給装置26からの燃料供給はそのまま維持される。
【0059】
一方、フィルタ17の再生処理期間の方がSOXトラップ触媒13の回復処理期間よりも長い場合、図9(B)に示したように、上流側燃料供給装置26からの燃料供給が停止され、下流側燃料供給装置18からの燃料供給量が増大せしめられる。これは、SOXトラップ触媒13の昇温処理(回復処理)の終了により、SOXトラップ触媒13から流出する排気ガスの温度が低下し、よってフィルタ17に流入する排気ガスの温度が低下するため、この排気ガスの温度の低下分だけ下流側燃料供給装置18からの燃料供給量を増大させたものである。
【0060】
ところで、上記説明では、SOXトラップ触媒13の回復処理は、SOXトラップ触媒13の温度を回復温度以上にまで上昇させると説明したが、より正確には、SOXトラップ触媒13のSOXトラップ率を回復させるためにはSOXトラップ触媒13の温度を回復処理下限温度と回復処理上限温度との間の温度にまで昇温する必要がある。ここで、回復処理下限温度はSOXトラップ触媒13のコート層51を構成する成分の融点であり、図10に示したようにSOXトラップ触媒13のSOX捕獲量が増大すると回復処理下限温度も上昇する。
【0061】
一方、回復処理上限温度は、これ以上SOXトラップ触媒13の温度を上昇させると、SOXトラップ触媒13を流れる排気ガスの空燃比に関わらず、SOXトラップ触媒13からSOXが放出されてしまうような温度である。図10に示したように、SOXトラップ触媒13のSOX捕獲量が増大すると回復処理上限温度は低下する。なお、SOXトラップ触媒13のコート層51を構成する成分によっては、SOXトラップ触媒13の温度を上昇させるとSOXトラップ触媒13からSOXが放出されてしまうよりも先にコート層51を構成する成分自体が蒸散してしまう場合がある。この場合、このような蒸散が生じない限界の温度が回復処理上限温度となる。
【0062】
このように、SOXトラップ触媒13の回復処理を行うにあたっては、回復処理下限温度と回復処理上限温度とが存在するため、これらの間の温度で昇温処理を行う必要があるが、回復処理中におけるSOXトラップ触媒13の温度が高いほどSOXトラップ率を迅速に回復させることができると共に回復処理後の捕獲可能なSOX量を増大させることができる。したがって、本実施形態では、SOXトラップ触媒13の回復処理を行う場合には、回復処理上限温度付近の温度までSOXトラップ触媒13の温度を上昇させることとしている。したがって、本実施形態では、SOXトラップ触媒13のSOX捕獲量に応じて回復処理におけるSOXトラップ触媒13の温度を変更することとしている。
【0063】
なお、上記実施形態では、SOXトラップ触媒13の回復処理を行う場合に、回復処理上限温度付近までSOXトラップ触媒13を昇温させているが、必ずしもそこまで昇温させなくてもよい。例えば、SOXトラップ触媒13の回復処理時に、SOXトラップ触媒13の温度を回復処理上限温度と回復処理下限温度との中間の温度に維持するようにしてもよい。この場合、SOX捕獲量に応じて回復処理時のSOXトラップ触媒13の目標温度を変更する必要がない。
【0064】
次に、図11及び図12を参照してSOXトラップ触媒13の回復処理及びフィルタ17の再生処理を実行する回復・再生制御の制御ルーチンについて説明する。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割り込みによって行われる。
【0065】
図11、12を参照すると、まず初めにステップS10において、回復・再生処理フラグXが1となっているか否かが判定される。回復・再生処理フラグXは、SOXトラップ触媒13の回復処理及びフィルタ17の再生処理が実行されているときには1とされ、それ以外のときには0とされるフラグである。回復・再生処理が実行されていないと判定されたときにはステップS11へと進む。ステップS11では、差圧センサ45によってフィルタ17の前後差圧ΔPが検出される。次いで、ステップS12では、上述したように要求トルクTQ、機関回転数N等に基づいてSOX捕獲量ΣSOXが算出される。
【0066】
次いで、ステップS13、S14において、フィルタ17の再生処理実行条件が成立しているか否か、例えばフィルタ17の前後差圧ΔPが許容値PXよりも大きいか否か、及びSOXトラップ触媒13の回復処理実行条件が成立しているか否か、例えばSOX捕獲量ΣSOXが予め定められた捕獲量以上となっているか否かが判定される。ステップS13、S14において、フィルタ17の再生処理実行条件が成立していないと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられ、フィルタ17の再生処理及びSOXトラップ触媒13の回復処理は実行されない。
【0067】
一方、ステップS13、14において、フィルタ17の再生処理実行条件は成立しているがSOXトラップ触媒13の回復処理実行条件は成立していないと判定された場合、ステップS15へと進む。ステップS15では、下流側燃料供給装置18から供給すべき燃料量が算出され、次いで、ステップS16ではステップS15で算出された燃料供給量だけ下流側燃料供給装置18から燃料供給が行われる。これにより、フィルタ17の温度が昇温せしめられ、フィルタ17の再生処理が行われる。
【0068】
また、ステップS13、S14において、SOXトラップ触媒13の回復処理実行条件が成立している場合であっても、フィルタ17の再生処理実行条件が成立していない場合には制御ルーチンが終了せしめられ、フィルタ17の再生処理実行条件が成立するまでSOXトラップ触媒13の回復処理が待機せしめられる。その後、フィルタ17の再生処理実行条件が成立し、フィルタ17の再生処理実行条件及びSOXトラップ触媒13の回復処理実行条件の両条件が成立していると判定された場合、ステップS17へと進む。ステップS17では、回復・再生処理フラグXが1とされる。次いで、ステップS18では、SOXトラップ触媒13の回復処理を実行する場合のSOXトラップ触媒13の目標温度が算出される。この目標温度は、例えば、図10に示したようなマップに基づいて算出される。
【0069】
次いで、ステップS19において上流側燃料供給装置26から供給すべき燃料量が算出される。上流側燃料供給装置26から供給すべき燃料量は、ステップS18において算出された目標温度と、温度センサ43によって検出されたSOXトラップ触媒13の温度とに基づいて算出される。次いで、ステップS20では、下流側燃料供給装置18から供給すべき燃料量が算出される。下流側燃料供給装置26から供給すべき燃料量は、ステップS19において算出された上流側燃料供給装置26からの燃料供給量と、フィルタ17の目標温度(例えば、フィルタ17の粒子状物質酸化開始温度)と、温度センサ44によって検出されたフィルタ17の温度とに基づいて算出される。次いで、ステップS21において、ステップS19及びステップS20において算出された燃料供給量だけ両燃料供給装置18、26から燃料の供給が行われ、制御ルーチンが終了せしめられる。
【0070】
次の制御ルーチンでは、ステップS10において、回復・再生処理フラグXが1となっていると判定され、ステップS22、S23、S24へと進む。ステップS22〜S24では、SOXトラップ触媒13の回復処理終了条件が成立しているか否か、例えば、SOXトラップ触媒13の回復処理開始から所定時間が経過しているか否か、及びフィルタ17の回復処理終了条件が成立しているか否か、例えば差圧センサ45によって検出されたフィルタ17の前後差圧が所定値以下となっているか否かが判定される。
【0071】
ステップS22〜S24において、SOXトラップ触媒13の回復処理終了条件が成立しておらず且つフィルタ17の再生処理終了条件が成立していないと判定された場合には、ステップS19へと進み、両燃料供給装置18、26から燃料供給が行われる。一方、SOXトラップ触媒13の回復処理終了条件は成立していないがフィルタ17の再生処理終了条件は成立していると判定された場合には、ステップS25へと進む。ステップS25では、下流側燃料供給装置18からの燃料供給が終了せしめられる。次いで、ステップS26において、ステップS19と同様にステップS18で算出された目標温度と、温度センサ43によって検出されたSOXトラップ触媒13の温度とに基づいて上流側燃料供給装置26から供給すべき燃料量が算出される。次いで、ステップS27において、ステップS26で算出された燃料供給量だけ上流側燃料供給装置26から燃料が供給せしめられ、制御ルーチンが終了せしめられる。
【0072】
逆に、ステップS22〜S24において、SOXトラップ触媒13の回復処理終了条件は成立しているが、フィルタ17の再生処理終了条件は成立していないと判定された場合には、ステップS28へと進む。ステップS28では、上流側燃料供給装置26からの燃料供給が終了せしめられる。次いで、ステップS29において、下流側燃料供給装置26から供給すべき燃料量が算出される。ステップS29では、ステップS20とは異なり、下流側燃料供給装置26から供給すべき燃料量は、フィルタ17の目標温度と、温度センサ44によって検出されたフィルタ17の温度とのみに基づいて算出される。次いで、ステップS30において、ステップS29で算出された燃料供給量だけ下流側燃料供給装置18から燃料が供給せしめられ、制御ルーチンが終了せしめられる。
【0073】
ステップS22〜S24において、SOXトラップ触媒13の回復処理終了条件及びフィルタ17の再生処理終了条件はいずれも成立していると判定された場合には、ステップS31へと進む。ステップS31では、両燃料供給装置18、26からの燃料供給が終了せしめられる。次いで、ステップS32では、回復・再生処理フラグXが0とされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
【0074】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。上記実施形態では、フィルタ17の再生処理期間の方がSOXトラップ触媒13の回復処理期間よりも長い場合、図9(B)に示したように、上流側燃料供給装置26からの燃料供給が停止され、下流側燃料供給装置18からの燃料供給量が増大せしめられる。これに対して、本実施形態では、フィルタ17の再生処理期間の方がSOXトラップ触媒13の回復処理期間よりも長い場合、図9(C)に示したように、上流側燃料供給装置26からの燃料供給を停止せずに継続し、下流側燃料供給装置18からの燃料供給量をそのまま維持するようにしている。これにより、下流側燃料供給装置18から供給される燃料量、すなわちSOXトラップ触媒13を経由せずにNOX吸蔵触媒16に流入する燃料量が減少し、下流側燃料供給装置18から供給される燃料中の硫黄成分によるNOX吸蔵触媒16の硫黄被毒が抑制される。
【0075】
図13、14は、第二実施形態におけるSOXトラップ触媒13の回復処理及びフィルタ17の再生処理を実行する回復・再生制御の制御ルーチンのフローチャートである。図13、14におけるステップS10〜S27、S31、S32は、それぞれ図11、12におけるステップS40〜S57、S61、S62と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
ステップS52〜S54において、SOXトラップ触媒13の回復処理終了条件は成立しているが、フィルタ17の再生処理終了条件は成立していないと判定された場合には、ステップS58へと進む。ステップS58では、ステップS49(ステップS19)と同様に上流側燃料供給装置26からの燃料供給が終了せしめられる。次いで、ステップS59において、ステップS50(ステップS20)と同様に、下流側燃料供給装置26から供給すべき燃料量が算出される。次いで、ステップS60において、ステップS58、S59で算出された燃料供給量だけ両燃料供給装置18、26から燃料が供給せしめられ、制御ルーチンが終了せしめられる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】圧縮自着火式内燃機関の全体図である。
【図2】圧縮自着火式内燃機関の別の例を示す全体図である。
【図3】圧縮自着火式内燃機関の更に別の例を示す全体図である。
【図4】パティキュレートフィルタの構造を示す図である。
【図5】SOXトラップ触媒の触媒担体の表面部分の断面図である。
【図6】SOXトラップ率を示す図である。
【図7】SOXトラップ触媒の回復制御を説明するための図である。
【図8】SOX捕獲量ΣSOXと、昇温制御を行うべき吸蔵SOX量SO(n)との関係等を示す図である。
【図9】両燃料供給装置からの燃料供給量の推移を示す図である。
【図10】SOX捕獲量と回復処理可能なSOXトラップ触媒の温度との関係を示す図である。
【図11】第一実施形態における回復・再生制御の制御ルーチンのフローチャートの一部である。
【図12】第一実施形態における回復・再生制御の制御ルーチンのフローチャートの一部である。
【図13】第二実施形態における回復・再生制御の制御ルーチンのフローチャートの一部である。
【図14】第二実施形態における回復・再生制御の制御ルーチンのフローチャートの一部である。
【符号の説明】
【0078】
4 吸気マニホルド
5 排気マニホルド
7 排気ターボチャージャ
12 酸化触媒
13 SOXトラップ触媒
16 NOX吸蔵触媒
17 パティキュレートフィルタ
18 下流側燃料供給装置
26 上流側燃料供給装置
43、44 温度センサ
45 差圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関排気通路内に配置されると共に排気ガス中に含まれるSOXを捕獲するSOXトラップ触媒と、該SOXトラップ触媒の排気下流側に配置されると共に排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタとを具備し、
上記SOXトラップ触媒は、SOXトラップ触媒に流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるSOXを捕獲し、排気ガスの空燃比がリーンのもとでSOXトラップ触媒の温度を回復開始温度以上に上昇させると、捕獲したSOXがSOXトラップ触媒の内部に拡散してSOXトラップ触媒のSOXトラップ能力が回復する性質を有し、
SOXトラップ触媒のSOXトラップ能力を回復させるべくSOXトラップ触媒の温度を回復開始温度以上にまで上昇させるSOXトラップ回復処理と、
パティキュレートフィルタの粒子状物質捕集能力を回復させるべくパティキュレートフィルタを昇温してパティキュレートフィルタ上に堆積した粒子状物質を酸化除去するフィルタ再生処理とを実行可能であり、
SOX回復処理はフィルタ再生処理の実行時に行うようにした、圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
上記パティキュレートフィルタへの粒子状物質の堆積量を推定する粒子状物質堆積量推定手段と、上記SOXトラップ触媒のSOX捕獲量を推定するSOX捕獲量推定手段とを具備し、上記フィルタ再生処理はパティキュレートフィルタへの粒子状物質の堆積量が許容量を越えたときに実行され、上記SOXトラップ回復処理はSOXトラップ触媒のSOX捕獲量が予め定められた量以上であって上記フィルタ再生処理が実行されているときに行われ、SOXトラップ触媒のSOX捕獲量が予め定められた量以上であっても上記フィルタ再生処理が実行されていないときには行われない、請求項1に記載の圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
上記SOXトラップ回復処理とフィルタ再生処理とが同時に行われた後にSOXトラップ回復処理が先に終了した場合には、SOXトラップ触媒の昇温を停止して下流側燃料添加装置のみから燃料添加を行う、請求項1又は2に記載の圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
上記SOXトラップ回復処理とフィルタ再生処理とが同時に行われた後にSOXトラップ回復処理が先に終了した場合には、フィルタ再生処理が終了するまでSOXトラップ触媒の昇温を維持する、請求項1又は2に記載の圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
上記SOXトラップ触媒は、SOXトラップ触媒の温度が上記回復開始温度よりも高いSOX放出限界温度よりも高くなると、捕獲したSOXを放出する性質を有し、
上記SOXトラップ回復処理を行うときには、SOXトラップ触媒の昇温目標温度が上記SOX放出限界温度とほぼ同一の上限温度とされる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
上記上限温度は、SOXトラップ触媒のSOX捕獲量が増大すると低下せしめられる、請求項5に記載の圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
上記SOXトラップ回復処理を行うときには、SOXトラップ触媒を構成する物質の蒸散開始温度以下の温度まで上昇せしめられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧縮自着火式内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−299572(P2009−299572A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154561(P2008−154561)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】