説明

圧電振動子、圧電発振器、電子機器、及び圧電振動子の製造方法

【課題】長期的に高い信頼性を有した圧電振動子、圧電発振器、電子機器、及び圧電振動子の製造方法の提供。
【解決手段】圧電振動子200は、キャビティ1を有するパッケージ110と、キャビティ1内に形成された複数の電極パッド20と、シリコーン系導電性接着剤を含み、複数の電極パッド20上に各々形成された第1接着部31及び第2接着部32により、一端を支持された圧電振動素子100と、を備え、圧電振動素子100が、互いに対向する第1面41と第2面42とを有する圧電基板40と、第1面41に形成されて第1接着部31と電気的接続の第1電極膜50aと、第2面42に形成されて第2接着部32と電気的接続の第2電極膜50bと、を有し、圧電振動素子100の第1接着部31及び第2接着部32による支持領域と、第1接着部31及び第2接着部32にて支持されていない可動領域42とで、可動領域42にフッ素樹脂膜60が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子、圧電発振器、電子機器、及び圧電振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばATカット水晶振動子などの厚さ滑り振動を主振動とする圧電振動素子を利用した圧電振動子が知られている(特許文献1)。圧電振動子のような圧電デバイスは、例えば携帯電話等の通信機器等やコンピュータ等の電子機器等に搭載される圧電発振器等に用いられる。このような圧電デバイスにおいては、梁状の圧電振動素子が、シリコーン系導電性接着剤により圧電デバイス内に片持ちによって支持されている。圧電振動素子は、その製造工程において、例えば真空封止されたキャビティ内において気密封止される。これは、圧電デバイスメーカーより出荷された後の圧電デバイスを埃等の外的な周波数撹乱因子より保護し、出荷時の共振周波数が維持されることを目的として行われる。
【0003】
しかしながら、このような圧電デバイスにおいて、圧電デバイスメーカーより出荷され、製品化された後、経年的な周波数低下現象が発生することが報告されている(特許文献1)。特許文献1によれば、このような経年的な周波数低下現象は、シリコーン系導電性接着剤が硬化したシリコーン樹脂から蒸散したシリコーン分子の環状ジメチルポリシロキサン分子成分(以下、「ジメチルシロキサン」とも言う)が、出荷後のキャビティ内において圧電振動素子の表面に化学吸着し、圧電振動素子の質量増加を引き起こすことが要因とされている。
【0004】
ジメチルシロキサンの発生源となるシリコーン系導電性接着剤は、耐衝撃性等の要求から極めて有用であり、シリコーン系導電性接着剤をその他の接着剤により代替することは現状難しい。さらに、近年は、圧電デバイスの小型化と高周波数化の要求により、圧電振動子のパッケージ本体が小型化し、かつ、利用される共振周波数の周波数バンドが高域化したことに伴い、圧電振動素子の微小な質量増加によっても、長期的には圧電振動素子の共振周波数の信頼性を低下させる可能性が指摘さている。したがって、経年的に共振周波数が安定し、高い信頼性を持つ圧電振動子が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−217253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的の1つは、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子を提供することにある。
【0007】
本発明の目的の1つは、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の目的の1つは、上記圧電振動子を有する圧電発振器を提供することにある。
【0009】
本発明の目的の1つは、上記圧電振動子を有する電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る圧電振動子は、
キャビティを有するパッケージと、
前記キャビティ内に形成された複数の電極パッドと、
シリコーン系導電性接着剤を含み、複数の前記電極パッドの上にそれぞれ形成された第1の接着部および第2の接着部と、
前記第1の接着部および前記第2の接着部によって、一端を支持された圧電振動素子と、
を備え、
前記圧電振動素子が、
互いに対向する第1の面と第2の面とを有する圧電基板と、
前記第1の面に形成され、前記第1の接着部と電気的に接続された第1の電極膜と、
前記第2の面に形成され、前記第2の接着部と電気的に接続された第2の電極膜と、
を有し、
前記圧電振動素子の前記第1の接着部および前記第2の接着部により支持された領域を支持領域とし、前記第1の接着部および前記第2の接着部により支持されていない領域を可動領域としたとき、
前記可動領域にフッ素樹脂膜が形成される。
【0011】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に他の特定のもの(以下「B」という)を形成する」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。同様に、「下方」という文言は、A下に直接Bを形成するような場合と、A下に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとする。
【0012】
本発明によれば、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子を提供することができる。
【0013】
(2)本発明に係る圧電振動子において、
前記圧電基板は、水晶基板であってもよい。
【0014】
(3)本発明に係る圧電振動子において、
前記フッ素樹脂膜は、前記可動領域内において、少なくとも前記圧電振動素子が振動する領域を覆うように形成されてもよい。
【0015】
(4)本発明に係る圧電振動子において、
前記フッ素樹脂膜は、前記可動領域内において、少なくとも前記第1の電極膜および前記第2の電極膜を覆うように形成されてもよい。
【0016】
(5)本発明に係る圧電振動子において、
前記圧電振動素子は、所定の第1の共振周波数を有し、
所定の膜厚を有した前記フッ素樹脂膜を前記圧電振動素子の所定の領域に形成することにより、前記第1の共振周波数よりも所定の周波数だけ低い第2の共振周波数を有していてもよい。
【0017】
(6)本発明に係る圧電振動子において、
前記フッ素樹脂膜は、撥水性および撥油性を有するフッ素樹脂材料からなっていてもよい。
【0018】
(7)本発明に係る圧電振動子において、
前記フッ素樹脂膜は、フロロポリエーテル系材料からなっていてもよい。
【0019】
(8)本発明に係る圧電発振器は、
上記のいずれかの圧電振動子と電気的に接続された発振回路部をさらに含む。
【0020】
本発明によれば、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子を有する圧電発振器を提供することができる。
【0021】
(9)本発明に係る電子機器は、
上記のいずれかの圧電振動子を含む。
【0022】
本発明によれば、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子を有する電子機器を提供することができる。
【0023】
(10)本発明に係る圧電振動子の製造方法は、
キャビティを有するパッケージと、前記キャビティ内に形成された電極パッドと、前記電極パッドの上に形成された接着部と、前記接着部によって、一端を支持された圧電振動素子と、を備え、前記圧電振動素子が、圧電基板と、前記圧電基板上に形成され前記接着部と電気的に接続された電極膜と、を有する、圧電振動子の製造方法であって、
前記圧電振動素子の前記接着部により支持された領域を支持領域とし、前記接着部により支持されていない領域を可動領域としたとき、前記可動領域にフッ素樹脂膜を形成する工程と、
前記フッ素樹脂膜を形成する工程のあと、前記圧電振動素子の前記支持領域を前記接着部に搭載する工程と、
を含む。
【0024】
本発明によれば、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子の製造方法を提供することができる。
【0025】
(11)本発明に係る圧電振動子の製造方法において、
前記フッ素樹脂膜を形成する工程において、圧電振動子の共振周波数調整を行ってもよい。
【0026】
(12)本発明に係る圧電振動子の製造方法において、
さらに、前記圧電基板上に前記金属膜を形成する工程を含み、
前記金属膜を形成する工程において、圧電振動子の共振周波数調整を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係る圧電振動子の要部を模式的に示す断面図と平面図。
【図2】本実施形態に係る圧電振動子の要部を模式的に示す斜視図。
【図3】本実施形態に係る圧電振動子の要部を模式的に示す斜視図。
【図4】本実施形態に係る圧電振動子の製造方法を模式的に示す断面図。
【図5】本実施形態に係る圧電振動子の製造方法を模式的に示す平面図。
【図6】フッ素樹脂膜のジメチルシロキサン付着防止効果を説明する図。
【図7】本実施形態に係る電子機器の一例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明を適用した実施形態の一例について図面を参照して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。本発明は、以下の実施形態およびその変形例を自由に組み合わせたものを含むものとする。
【0029】
1. 圧電振動子および圧電発振器
以下、図面を参照して、本実施形態に係る圧電振動子について説明する。
【0030】
図1(A)は、本実施形態に係る圧電振動子200の断面図である。図1(B)は、本実施形態に係る圧電振動子200の要部の平面図である。
【0031】
図1(A)に示すように、本実施形態に係る圧電振動子200は、キャビティ1を有するパッケージ110と、キャビティ1内に形成された電極パッド20と、電極パッド20の上に形成された接着部30と、接着部30によって、一端を支持された圧電振動素子100と、を有する。
【0032】
図1(A)に示すように、パッケージ110は、キャビティ1を有する。パッケージ110は、例えば、ベース基板11と、壁部12とから形成されたパッケージ本体10と、壁部12に形成された開口部12を塞ぐ封止部材3とにより構成されたキャビティ1を有していてもよい。
【0033】
パッケージ本体10は、図1(A)に示すように、ベース基板11と、壁部12とから形成されてもよい。しかしながら、パッケージ本体10の形状および構成は、圧電振動素子100を収容することができる容器状の形状であればよく、特に限定されない。
【0034】
ベース基板11は、プレート状の部材であってもよい。ベース基板11は、図1(A)に示すように、第1の面11aと第2の面11bを有していてもよい。ベース基板11の第1の面11aの上に圧電振動素子100を搭載することができる。図1(A)に示すように、第1の面11aは、第1の面11aよりも突出した面からなる基部14を有していてもよい。また、第1の面11aは平坦な面であってもよい(図示せず)。この場合、基部14は、第1の面11a内における所定の領域であってもよい(図示せず)。また、ベース基板11の第2の面11bにおいて、後述されるIC部品70を搭載する凹部2を有していてもよい。
【0035】
壁部12は、ベース基板11の第1の面11aの上に形成されてもよい。壁部12の形状は、ベース基板11の圧電振動素子100が搭載された領域を囲むことができ得る限り特に限定されない。壁部12によって、圧電振動素子100を収容する開口部13が形成される。
【0036】
ベース基板11と壁部12は、同じ材質から一体的に形成されたものであってもよい。ベース基板11と壁部12は、それぞれ異なる材質から形成され、互いに接着剤等により接合されてもよい。パッケージ本体10の材質は、特に限定されない。ベース基板11の材質は、例えば、単結晶シリコン、ガラス、セラミックス等から形成されてもよい。壁部12の材質は、例えば、鉄−ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼等の金属、単結晶シリコン、ガラス、セラミックス等から形成されてもよい。
【0037】
封止部材3は、開口部13を塞ぐように、パッケージ本体10の上に形成される。開口部13を封止部材3で塞ぐ封止には、軟ロウや硬ロウなどのロウ材による封止や、シーム封止を適宜用いてもよい。封止部材3の形状は、開口部13を塞ぐことができる限り特に限定されない。例えば、図1(A)に示すように、封止部材3は、プレート状の部材であってもよい。例えば、封止部材3は、例えば、鉄−ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼等の金属、単結晶シリコン、ガラス、セラミックス等から形成されてもよい。
【0038】
以上のいずれかの構成によって、パッケージ110はキャビティ1を有していてもよい。キャビティ1の内部は、真空であってもよい。キャビティ1の内部は、大気圧に比べて減圧された減圧状態であってもよい。また、キャビティ1の内部は、窒素などの不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0039】
図1(A)に示すように、キャビティ1内には、電極パッド20が形成される。電極パッド20が形成される領域は、キャビティ1内であれば特に限定されるものではない。例えば、図1(A)に示すように、電極パッド20は、パッケージ本体10の第1の面11aの基部14の上に形成されてもよい。また、図1(B)に示すように、複数の電極パッド20が形成されていてもよい。少なくとも1つの電極パッド20は、図1(A)に示すように、パッケージ本体10の内部に形成された内部配線22によって、例えば、パッケージ本体10の第2の面11bに形成された実装端子21と電気的に接続されていてもよい。実装端子21は複数形成されていてもよい。少なくとも1つの実装端子21は、グラウンド用の端子であってもよい。また、少なくとも1つの実装端子21は、電源用端子であってもよい。また、少なくとも1つの電極パッド20は、図示しない内部配線を介して第2の面11bの凹部2に形成された電極パッド23と電気的に接続されていてもよい。電極パッド20の形状は、特に限定されない。電極パッド20の形状は、例えば、平面視において円形であってもよく、矩形であってもよい。電極パッド20、実装端子21、および電極パッド23の構造及び材質は、特に限定されない。例えば、電極パッド20、実装端子21、および電極パッド23は、単層の導電膜で形成されていてもよい。あるいは、電極パッド20は、複数の導電膜の積層体で形成されていてもよい。電極パッド20、実装端子21、電極パッド23、および内部配線22は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、スズ(Sn)などのいずれかを含む金属層であってもよい。
【0040】
接着部30は、図1(A)に示すように、電極パッド20の上に形成される。接着部30は、シリコーン系導電性接着剤からなる接着部であって、例えば未硬化の際、粘着性を有し、硬化された後、圧電振動素子100を支持することができる。具体的には、接着部30は、シリコーン樹脂に導電性フィラーを混在させた導電性接着剤であってよい。混在する導電性フィラーは、導電性を有する限り特に限定されないが、例えば銀(Ag)を用いてもよい。図1(B)に示すように、接着部30は、複数の電極パッド20の上にそれぞれ形成されてもよい。図1(B)に示すように、一方の電極パッド20の上に形成された接着部30を第1の接着部31としてもよい。また、他方の電極パッド20の上に形成された接着部30を第2の接着部32としてもよい。これによれば、電極パッド20と圧電振動素子100とを電気的に接続することができる。図1(A)に示すように、シリコーン系導電性接着剤からなる接着部30は、シリコーン樹脂を含み、常温においても、ジメチルシロキサンからなるシリコーン蒸気33を発生させる。
【0041】
圧電振動素子100は、図1(A)に示すように、キャビティ1の内部において、接着部30により支持される。図1(A)および図1(B)に示すように、圧電振動素子100の一端が、接着部30(第1の接着部31と第2の接着部32)により片持ちされ、支持される。これによって、圧電振動素子100は支持されながら振動することができる。例えば、図1(B)に示すように、圧電振動素子100が矩形であり一辺を挟んで2つの角部を有する場合、複数の電極パッド20の上に形成された複数の接着部30(第1の接着部31と第2の接着部32)がこれら2つの角部をそれぞれ支持してもよい。言い換えれば、圧電振動素子100の短辺の内の一辺を挟む2つの角部において、圧電振動素子100は接着部30(第1の接着部31と第2の接着部32)により支持されることができる。
【0042】
ここで、図1(B)に示すように、圧電振動素子100が接着部30によって支持される領域を支持領域43とする。言い換えれば、圧電振動素子100において、接着部30(第1の接着部31と第2の接着部32)と接触する領域を支持領域43とする。支持領域43の配置は、圧電振動素子100が支持され得る限り特に限定されるものではなく、圧電振動素子100が支持された際、圧電振動素子100が所望の共振周波数を有するように、適宜調整される。また、図1(B)に示すように、圧電振動素子100の圧電基板40において、支持領域43以外の領域を可動領域44とする。言い換えれば、圧電振動素子100において、接着部30と接触しない領域を可動領域44とする。
【0043】
なお、上述された領域は、後述される圧電基板40上の領域であってもよい。例えば、支持領域43は、圧電基板40の上に直接または間接的に接着部30が形成される領域であってもよい。可動領域44は、圧電基板40の上に直接または間接的に接着部30が形成されない領域であってもよい。
【0044】
図1(A)および図1(B)に示すように、本実施形態に係る圧電振動子200は、圧電振動素子100と、圧電振動素子100の可動領域44に形成されたフッ素樹脂膜60を有する。
【0045】
以下に図面を参照して、圧電振動素子100およびフッ素樹脂膜60についての詳細を説明する。図2(A)は、圧電振動素子100を模式的に示す斜視図である。図2(B)は、フッ素樹脂膜60が形成された圧電振動素子100を模式的に示す斜視図である。図3(A)から図3(C)は、フッ素樹脂膜60の形成領域を模式的に説明する圧電振動素子100の平面図である。
【0046】
図2(A)に示すように、圧電振動素子100は、互いに対向する第1の面41と第2の面42とを有し、厚み滑り振動を主振動とする圧電基板40と、第1の面41および第2の面42の上に、それぞれ形成された電極膜30と、電極膜30と接着部30とを電気的に接続するリード電極51と、を含む。
【0047】
圧電基板40は、図2(A)に示すように、プレート状の部材であって、互いに対向する第1の面41と第2の面42とを有する。第1の面41と第2の面42は、圧電基板40の2つの主表面であってよい。圧電基板40の形状は、特に限定されない。圧電基板40の形状は、例えば、平面視において、矩形であってもよい。ここで、図2(A)に示すように、第1の面41と第2の面42とが展開される面をXY平面とし、XY平面の法線方向をZ軸方向とする。圧電基板40は、厚み滑り振動を主振動とする圧電体であってもよい。言い換えれば、圧電基板40は、厚み方向(図2(A)におけるZ軸方向)に電圧信号が印加されたときに厚み滑り振動を主振動として生じる圧電体であってもよい。したがって、圧電基板40は、厚み方向に電圧信号が印加された際、屈曲振動等のその他の振動モードを生じるものであってもよい。圧電基板40は、例えば、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電材料から形成されていてもよい。圧電基板40が、水晶基板から形成される場合、水晶基板の法線方向が水晶の結晶のZ軸となるように形成されてもよい。つまりは、該水晶基板の法線方向が、水晶の結晶軸のX軸、またはY軸の成分を含むものであってよい。また、該水晶基板は、ATカットの水晶基板であってもよいし、BTカットの水晶基板であってもよい。例えば、圧電基板40が、ATカットまたは、BTカット水晶基板から形成される場合、厚み方向に電圧信号を印加することにより、より容易に厚み滑り振動を発生させることができ、その製造時の温度変化による水晶基板の厚みのばらつきを抑えることができる。また、図2(A)に示すように、圧電基板40は、所定の厚みZを有する。これによって、圧電基板40は、所定の共振周波数を有することができる。
【0048】
ここで、図2(A)に示すように、圧電基板40の一端において支持領域43が画定される。図2(A)に示すように、圧電振動素子100が矩形であり一辺を挟んで2つの角部を有する場合、支持領域43は、圧電振動素子100のこれら2つの角部であってもよい。図2(A)に示すように、支持領域43の一部を含む圧電振動素子100の一方の短辺側の領域を非振動領域45とし、可動領域44のみからなる、その他の領域を振動領域46としてもよい。なお、非振動領域45および振動領域46は、設計上の画定される領域であって、特に限定されるものではない。例えば、圧電振動素子100が接着部30によって支持されることにより、実質的に振動しない領域を非振動領域45とし、厚み滑り振動により、圧電振動素子100が実質的に振動する領域を振動領域46と画定することができる。
【0049】
金属膜50は、図2(A)に示すように、圧電基板40の第1の面41および第2の面42の上にそれぞれ形成される。第1の面41の上の金属膜50、および第2の面42の金属膜50は、第1の面41および第2の面42の所定の領域において互いにオーバーラップするように形成され、圧電基板40をZ軸方向において挟むことができる(図1(A)参照)。図2(A)に示すように、金属膜50は、振動領域46内に形成される。金属膜50の形成される領域は、振動領域46内であれば特に限定されるものではないが、例えば、圧電基板40の主表面(第1の面41および第2の面42)の中央部分を覆ように形成されてもよい。また、図2(A)に示すように、主表面(第1の面41および第2の面42)の周縁部以外に形成されてもよい。また、図示はされないが、振動領域46において、第1の面41および第2の面42の周縁部を含む全面を覆うように形成されてもよい。これによれば、金属膜50は、圧電振動素子100において励振電極を構成することができる。
【0050】
金属膜50の材質および構造は、導電性を有する限り特に限定されるものではない。例えば、金属膜50は、単層で形成されていてもよい。金属膜50は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、アルミニウム(Al)などのいずれかを含む金属層であってもよい。あるいは、金属膜50は、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。金属膜50が積層体で形成される場合、金属膜50は、例えば、圧電基板40側からNi(ニッケル)、Cr(クロム)など、圧電基板40との密着性の高い金属からなる第1金属層、と金(Au)などからなる第2金属層を含む積層構造であってもよい。これによれば、圧電基板40と金属膜50との密着性を高め、圧電振動素子100の信頼性を向上させることができる。
【0051】
金属膜50の膜厚は、圧電振動素子100の共振周波数を考慮して適宜調整される。詳細は後述される。これにより、圧電振動素子100は、圧電基板40および金属膜50からなる所定の厚みZを有する。これによって、圧電振動素子100は、所定の共振周波数である第1の共振周波数を有することができる。ここで、第1の共振周波数は、後述される第2の共振周波数よりも所定の周波数分高くなるように設定することができる。
【0052】
図2(A)に示すように、金属膜50の引き出し線としてリード電極51が形成される。リード電極51の配置は、振動領域46内に形成された金属膜50から伸び、支持領域43に至るように形成され得る限り特に限定されない。これによれば、支持領域43に形成される導電性の接着部30と金属膜50とを電気的に接続することができる。図2(A)示すように、リード電極51は、支持領域43において、例えば第1の面41から第2の面42または第2の面42から第1の面41に至るように形成されてもよい。つまりは、図2(A)に示すように、支持領域43が画定された圧電基板40の短辺側の角部を覆うように形成されてもよい。これによれば、接着部30との電気的接続性を高めることができる。リード電極51は、単層で形成されていてもよい。リード電極51は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、ニッケル−クロム合金(Ni−Cr)、アルミニウム(Al)などのいずれかを含む金属層であってもよい。あるいは、リード電極51は、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。リード電極51が積層体で形成される場合、リード電極51は、例えば、圧電基板40側からNi(ニッケル)、Cr(クロム)など、圧電基板40との密着性の高い金属からなる第1金属層、と金(Au)などからなる第2金属層を含む積層構造であってもよい。また、リード電極51は、金属膜50と蒸着、スパッタリング等により一体的に形成され、同じ材質および構成を有していてもよい。また、図示はされないが、最表層に、接着部30との密着性の高い金属層を適宜形成してもよい。
【0053】
ここで、図1(A)および図1(B)に示すように、圧電基板40の第1の面41の上に形成された金属膜50と、その金属膜50のリード電極51と、を第1の電極膜50aとしてもよい。また、圧電基板40の第2の面42の上に形成された金属膜50と、その金属膜50のリード電極51と、を第2の電極膜50bとしてもよい。図1(B)に示すように、第1の電極膜50aは、第1の接着部31と電気的に接続されていてもよい。また、図示はしないが、第2の電極膜50bは、第2の接着部32と電気的に接続されていてもよい。
【0054】
以上のいずれかの構成により、圧電振動素子100の構成としてもよい。
【0055】
図2(B)に示すように、本実施形態に係る圧電振動子200は、圧電振動素子100の可動領域44にフッ素樹脂膜60を有する。フッ素樹脂膜60は、撥水性および撥油性を有するフッ素樹脂であればよく、その材料は特に限定されるものではない。フッ素樹脂膜60の材料としては、例えば、フロロポリエーテル系フッ素樹脂や、フロロポリエチレン系フッ素樹脂等を用いることができる。
【0056】
フッ素樹脂膜60の形成される領域は、可動領域44内であれば、特に限定されない。好適には、フッ素樹脂膜60は、可動領域44内において、圧電振動素子100が実質的に振動する領域である振動領域46を覆うように形成されることができる。図3(A)〜図3(C)にフッ素樹脂膜60の形成領域を模式的に示す。図3(A)〜図3(C)において、フッ素樹脂膜60の形成領域は斜線部で示される。図3(A)に示すように、フッ素樹脂膜60は、振動領域46の全面を覆うように形成されてもよい。つまりは、フッ素樹脂膜60は、振動領域46において、主表面である第1の面41および第2の面42と、圧電基板40の側面を覆っていてもよい。これによれば、フッ素樹脂膜60によって圧電振動素子100が実質的に振動する部分を全て覆うことができる。また、図3(B)に示すように、フッ素樹脂膜60は、振動領域46内において、金属膜50を覆うように形成されてもよい。また、図3(C)に示すように、フッ素樹脂膜60は、振動領域46を含む可動領域44の全面を覆うように形成されてもよい。
【0057】
フッ素樹脂膜60の膜厚は、圧電振動素子100の共振周波数を考慮して適宜調整される。詳細は後述される。これにより、図2(B)に示すように、圧電振動素子100は、圧電基板40、金属膜50、およびフッ素樹脂膜60からなる所定の厚みZを有する。これによって、圧電振動素子100は、所定の共振周波数である第2の共振周波数を有することができる。
【0058】
以上のいずれかの構成により、本実施形態に係る圧電振動子200の構成とすることができる。
【0059】
なお、本実施形態に係る圧電振動子200に搭載される圧電振動素子100の態様は、上述された構成のみに限定されるわけではない。例えば、公知の音叉型圧電振動素子または公知のSAW圧電振動素子の構成であってもよい。音叉型圧電振動素子、SAW圧電振動素子の場合であっても、実質的に振動する領域をフッ素樹脂膜60により覆うことができる。
【0060】
また、図1(A)に示すように、圧電振動子200は、IC部品70を有することができる。IC部品70は、例えば、発振回路部品であってよい。IC部品70の搭載される場所は特に限定されない。例えば、IC部品70は、図1(A)に示すように、パッケージ本体10の凹部2に搭載されてもよい。ここで、IC部品70は、凹部2内に形成された電極パッド23と電気的に接続されることができる。つまりは、図示しない内部配線および導電性の接着部30を介して、圧電振動素子100と電気的に接続されることができる。また、図示はされないが、IC部品70は、キャビティ1内に搭載されてもよい。このとき、IC部品70は、ワイヤボンディング等により圧電振動素子100と電気的に接続されていてもよい。
【0061】
以上の構成により、本実施形態に係る圧電発振器300の構成とすることができる。
【0062】
本実施形態に係る圧電振動子200および圧電発振器300は、例えば、以下の特徴を有する。
【0063】
本実施形態に係る圧電振動子200および圧電発振器300によれば、少なくとも圧電振動素子100の実質的に振動する領域である振動領域46がフッ素樹脂膜60によって覆われた圧電振動子および圧電発振器を提供することができる。これによれば、接着部30を構成するシリコーン樹脂から発生するシリコーン蒸気33のジメチルシロキサン成分が、圧電振動素子100の表面に付着することを防ぐことができる。つまりは、製造後、長期的な使用時において圧電振動素子100の質量が増加し、共振振動数の周波数の低下現象を抑制することができる。したがって、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子および圧電発振器を提供することができる。なお、フッ素樹脂膜60のジメチルシロキサン成分に対する付着防止効果についての詳細は後述される。
【0064】
本実施形態に係る圧電振動子200および圧電発振器300は、例えば高周波数化した圧電振動子において非常に有用となる。以下に詳細を説明する。
【0065】
例えば、ATカットの水晶を用いた圧電振動子では、質量付加Δmが振動質量に比して小さい場合に、周波数変動量ΔfはSauerbreyの式に成り立つことが知られている。すなわちΔfはΔmに比例し、周波数fの二乗に比例する。例えばf=26MHzのAT水晶振動子に、微量付着物としてジメチルシロキサンが厚み1nm付着したとすると、ジメチルシロキサンの密度を0.95[g/cm]とした場合、Δf=−146Hzほどとなる。製品スペックとしてΔf/fが±10ppm以内という規格だった場合は、Δf/f=−5.6ppmであるから、規格内におさまることになる。
【0066】
しかしながら、圧電振動子デバイスが高周波になるほど微量付着物による影響は深刻になる。f=200MHzの水晶振動子について、先ほどと同様の付着量ではΔf=−8.6MHz、Δf/f=−43ppmとなり、規格値を超えた不良品となる。つまりは、f=200MHz程度の高周波圧電振動子の場合、1nmのジメチルシロキサンの付着により、圧電振動子の共振周波数が、規格外となる。
【0067】
本実施形態に係る圧電振動子によれば、長期的に、ジメチルシロキサン成分の圧電振動素子に対する付着を防ぐことができる。よって、本実施形態に係る圧電振動子によれば、上述された高周波数規格の圧電振動素子の場合であっても、圧電振動子の共振周波数の信頼性を確保することができ、その結果、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子および圧電発振器を提供することができる。
【0068】
また、撥水性および撥油性を有するフッ素樹脂膜60によって圧電振動素子100が覆われている。これによれば、製造後、キャビティ1内に水分もしくは油分が残留していた場合、もしくは、製造後、封止部材3等に意図しない破損等が発生した場合に大気中の水分もしくは油分がキャビティ1内部に混入した場合であっても、圧電振動素子100に対する水分の付着を防ぐことができる。したがって、本実施形態に係る圧電振動子によれば、水分付着による圧電振動素子100の振動不良を防ぐことができ、圧電振動子200および圧電発振器300の信頼性を高めることができる。
【0069】
以上によって、本実施形態に係る圧電振動子によれば、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子200および圧電発振器300を提供することができる。
【0070】
2. 圧電振動子および圧電発振器の製造方法
以下、図面を参照して、本実施形態に係る圧電振動子の製造方法について説明する。
【0071】
図4は、本実施形態に係る圧電振動子200の製造方法を模式的に示す断面図である。図5は、本実施形態に係る圧電振動子200の製造方法を模式的に示す平面図である。
【0072】
本実施形態に係る圧電振動子の製造方法は、図4および図5に示すように、開口部13を有するパッケージ本体10を準備する工程と、圧電振動素子100を準備する工程と、開口部13より圧電振動素子100をパッケージ本体10に搭載する工程と、開口部13を塞ぎ、キャビティ1を形成する工程と、を有する、圧電振動子の製造方法であって、圧電振動素子100を準備する工程は、圧電基板40を準備する工程と、圧電基板40に金属膜50を形成し、圧電振動素子100を形成する工程と、圧電振動素子100の所定の領域にフッ素樹脂膜60を形成する工程と、を含む。
【0073】
まず、図4(A)に示すように、所定の厚みZを有した圧電基板40を準備する。圧電基板40の材料は、厚みの違いにより周波数が決定される厚み滑り系の圧電材料である限り特に限定されず、例えば水晶基板を用いることができる。圧電基板40は、例えば、複数の個片領域を有する水晶ウエハーを用意し、フォトリソグラフィー技術等により水晶ウエハーをエッチングすることによって、所望の厚さZとなるように膜厚を調整することができる(図示せず)。厚みを調整された水晶ウエハーを例えば個片領域の境界に沿ってダイシング、エッチング等によって分割することにより、図4(A)に示す圧電基板40を得ることができる。なお、分割工程を実施する手順は特に限定されず、後述される、金属膜50形成工程、フッ素樹脂膜60形成工程、または周波数調整工程のいずれかの後に行ってもよい。
【0074】
次に、図4(B)に示すように、圧電基板40の主表面である第1の面41と第2の面42に第1の電極膜50aおよび第2の電極膜50b(金属膜50、リード電極51)をそれぞれ形成する。本工程は、公知の成膜技術を用いることができ、例えば、蒸着やスパッタ等によって行うことができる。例えば、クロム、金等をスパッタリング法等によって積層することによって導電層(図示せず)を形成し、導電層を所定の形状にエッチングすることによって第1の電極膜50aおよび第2の電極膜50bを形成してもよい。なお、第1の電極膜50aおよび第2の電極膜50bの詳細は上述されているため、省略する。第1の電極膜50aおよび第2の電極膜50bを形成することにより、圧電振動素子100を形成することができる。ここで、金属膜50の膜厚を所望の膜厚に調整することにより、圧電振動素子100の厚みを所望の厚みZとなるように調整することができる。言い換えれば、金属膜50の膜厚を調整することによって、圧電振動素子の共振周波数を調整することができる。これによって、圧電振動素子100は第1の共振周波数を有してもよい。ここで、第1の共振周波数は、後述される第2の共振周波数よりも所定の周波数分高くなるように設定することができる。
【0075】
次に、図4(C)に示すように、可動領域44内の所定の領域においてフッ素樹脂膜60を形成する。本工程は、公知の成膜技術を用いることができ、例えば、蒸着やスパッタ等によって行うことができる。液相法にて形成する場合は、圧電振動素子100の全面に所望の膜厚となるようにフッ素樹脂膜を形成した後、所定の形状となるように、プラズマエッチング等を用いてパターニングを行い、フッ素樹脂膜60を形成してもよい。また、気相法にて形成する場合は、所定の領域にマスク処理を行い、所望の膜厚を有するフッ素樹脂膜60を形成してもよい。なお、フッ素樹脂膜60の詳細は上述されているため、省略する。ここで、フッ素樹脂膜60の膜厚を所望の膜厚に調整することにより、圧電振動素子100およびフッ素樹脂膜60からなる厚みを所望の厚みZとなるように調整することができる。言い換えれば、フッ素樹脂膜60の膜厚を調整することによって、圧電振動素子100の共振周波数を調整することができる。これによって、フッ素樹脂膜60が形成された圧電振動素子100は第2の共振周波数を有してもよい。ここで、キャビティ1が真空封止される場合、第2の共振周波数は、圧電振動素子100がキャビティ1に封止された後の最終共振周波数よりも所定の周波数だけ高い周波数に調整設定されてもよい。つまりは、第2の共振周波数は大気中における周波数であるため、真空空間における周波数低下分を考慮し、所定の周波数だけ高い周波数に共振周波数を第2の共振周波数としてもよい。また、ここで、第2の共振周波数が、圧電振動素子100がキャビティ1に封止された後の最終共振周波数となるように調整設定されてもよい。なお、最終共振周波数とは、製造工程後において本実施形態に係る圧電振動子200が規格として有する目標共振周波数である。
【0076】
次に、図5(A)に示すように、開口部13を有するパッケージ本体10を準備する。上述のように、パッケージ本体10の材質は特に限定されず、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、セラミックス、ガラスセラミックス等のいずれかより形成されていてもよい。したがって、パッケージ本体10を準備する工程は、用いられる材質により異なる。よって、開口部13を有するパッケージ本体10を準備する工程は特に限定されない。例えば、単結晶シリコン等を用いる場合、フォトリソグラフィー技術等により、パッケージ本体10を構成するベース基板11と壁部12が一体形成されてもよい。また、セラミックス等を用いる場合は、グリーンシートを形成した後、該グリーンシートを積層し、焼成、結合等により、パッケージ本体10を形成してもよい。なお、図5(A)に示すようにパッケージ本体10のベース基板11には基部14が形成されていてもよい。また、図示はしないが、ベース基板11の第2の面11aに凹部が形成されていてもよい。ここで、ベース基板11および壁部12に囲まれ、開口部13が封止部材3によって塞がれることにより形成されるキャビティ1の内部を構成する領域を領域1aとする。
【0077】
図5(A)に示すように、領域1aに電極パッド20が形成される。電極パッド20は、公知の成膜技術により形成される。電極パッド20は、例えば電解メッキ法等により形成されてもよい。電極パッド20は、例えば基部14の上に形成されてもよい。電極パッド20の詳細は上述されているため省略する。また、このとき、パッケージ本体10に、実装端子21および電極パッド23が形成されてもよい。図示はしないが、基部14には電極パッド20と連続したスルーホールが形成され、該スルーホール内部に内部配線を形成することにより、電極パッド20を、実装端子21または、電極パッド23に電気的に接続してもよい。
【0078】
次に、図5(B)に示すように、電極パッド20の上に接着部30を形成する。接着部30は、圧電振動素子100を支持するために必要となる量のシリコーン系導電性接着剤を電極パッド20の上に供給することにより形成することができる。なお、接着部30の詳細は上述されるため、省略する。
【0079】
次に、図5(C)に示すように、パッケージ本体10のキャビティ1内に、フッ素樹脂膜60が形成された圧電振動素子100を搭載する。このとき、圧電振動素子100は、接着部30により支持される。ここで、圧電振動素子100を搭載した後、圧電振動素子100を確実に固定するために、接着部30にシリコーン系導電性接着剤をさらに供給してもよい。
【0080】
次に、図示はしないが、封止部材3により、開口部13を塞ぐことにより、キャビティ1を形成する。例えば、公知の接着剤により壁部12の上に封止部材3を接合することにより、開口部13を塞いでもよい。封止部材3により領域1aを封止する際、領域1a内を窒素等の不活性ガスによって充填した後、封止部材3により気密封止してもよい。また、領域1a内を真空引きし、真空封止してもよい。
【0081】
ここで、本実施形態に係る圧電振動子の製造方法において、金属膜50を形成する工程またはフッ素樹脂膜60を形成する工程において、圧電振動子の共振周波数調整工程を行ってもよい。以下に詳細を説明する。
【0082】
厚み滑り振動を主振動とする圧電振動素子においては、圧電振動素子の振動領域における厚みの違いにより周波数が決定される。したがって、圧電振動素子100が所望の最終共振周波数を有するためには、製造工程において、圧電振動素子100の振動領域46における厚みを所定の厚みとするために微調整をすることにより調整する共振周波数調整工程を行うことができる。言い換えれば、圧電振動素子100の振動領域46における厚みを追加もしくは削減することにより共振周波数調整工程を行うことができる。
【0083】
金属膜50を形成する工程において共振周波数調整工程を行う場合、例えばドライエッチング、蒸着、スパッタ等によって、金属膜50の膜厚を追加もしくは削除することにより微調整し、圧電振動素子100の振動領域46における厚みを所定の厚みとするための微調整を行ってもよい。また、フッ素樹脂膜60を形成する工程において共振周波数調整工程を行う場合、例えばドライエッチング、蒸着、スパッタ等によって、フッ素樹脂膜60の膜厚を追加もしくは削除することにより微調整し、圧電振動素子100の振動領域46における厚みを所定の厚みとするための微調整を行ってもよい。
【0084】
以上のいずれかの方法により、圧電振動子200を製造することができる。
【0085】
次に、図示はしないが、IC部品70をパッケージ本体10の所定の領域に搭載する。IC部品70を搭載する領域は特に限定されないが、例えば、パッケージ本体の凹部2に形成された電極パッド23の上に電気的に接続されてもよい(図1(A)参照)。また、図示はされないが、圧電振動素子100を開口部13より搭載する際、IC部品70も開口部13より領域1a内の所定の領域に搭載してもよい。
【0086】
以上のいずれかの方法により、圧電発振器300を製造することができる。
【0087】
本実施形態に係る圧電振動子および圧電発振器の製造方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0088】
本実施形態に係る圧電振動子200の製造方法によれば、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動素子100を有する圧電振動子200を提供することができる。詳細は上述されているため、省略する。
【0089】
また、圧電振動子を製造後、接着部30のシリコーン樹脂成分から発生するジメチルシロキサン成分の圧電振動素子に対する付着による質量増加による周波数低下現象を考慮して、所定時間、例えば230℃〜270℃の加熱処理を行うことにより、周波数を低下させ安定化させる周波数安定化処理(エージング処理)を行う場合がある。本実施形態に係る圧電振動子の製造方法によれば、フッ素樹脂膜60を形成することにより、接着部30から発生するジメチルシロキサン成分の圧電振動素子100に対する付着を防ぐことができる。これによれば、製造後から出荷前に行われる周波数安定化処理を行う必要がなくなる。つまりは、本実施形態に係る圧電振動子の製造方法によれば、生産性を向上させることができる。
【0090】
また、加熱処理を行う必要がないため、熱により接着部30が変質することがない。また、熱処理を行う必要ことがないため、周波数安定化処理におけるIC部品70への熱ストレスが無くなり、IC部品70が搭載された圧電発振器300の信頼性を向上させることができる。
【0091】
以上によって、本実施形態に係る圧電振動子の製造方法によれば、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子および圧電発振器を提供することができる。
【0092】
3. 実験例
以下に、本発明者が、本発明を発明するに至った実験例を、図6を参照して説明する。
【0093】
本発明者は、経年的な周波数低下現象を防ぐために、圧電振動子の表面に付着するジメチルシロキサンの付着を防ぐことができる保護膜の材料についての研究を行った。その結果、本発明者は、撥水撥油効果を有するフッ素樹脂からなる保護膜が、蒸散したジメチルシロキサンの気中媒介の化学吸着を著しく抑制する効果を有すること見出した。
【0094】
図6(A)〜図6(E)は、フッ素樹脂膜のジメチルシロキサン付着防止効果を説明する質量スペクトルである。図6(A)〜図6(E)は、本研究に使用された試料の表面を飛行時間型二次イオン質量分析法(Time Of Fright Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF−SIMS)を用いてそれぞれ計測した質量スペクトルの結果である。飛行時間型二次イオン質量分析にはアルバック・ファイ社製のTRIFTIIを用いて行った。飛行時間型二次イオン質量分析の分析深さは、最表面〜1nm程度である。飛行時間型二次イオン質量分析法を用いることにより、試料の表面に付着した濃度ppmオーダーの微量濃度の有機成分を検出することができる。
【0095】
本研究においては、試料Iとして、ジメチルシロキサンを積極的に蒸散させることのできるシリコーンゴムシート(信越シリコーン社製、KE−931−U)を用いた。試料IIとして、シリコンウエハーを用いた。試料IIIとして、シリコンウエハーの表面にフッ素樹脂膜を液相法により成膜したものを用いた。フッ素樹脂膜の材料としては、フッ化エーテル系樹脂(信越化学工業社製、KY−130)を用いた。
【0096】
図6(A)は、試料Iの表面の質量スペクトルである。つまりは、図6(A)から、シリコーンゴムシート起源のジメチルシロキサン由来成分のフラグメント信号を確認することができた。具体的には、試料Iの表面において、28Si43SiCH73SiC133Si15147SiOC15207Si15221Si21281Si21のジメチルシロキサンに由来するSi(CH)O系のフラグメント信号(m/z=43、73、133、147、207、221、281)が確認された。
【0097】
図6(B)は、試料IIの表面の質量スペクトルである。図6(B)から、シリコンウエハー表面の自然酸化膜に由来した成分のフラグメント信号を確認することができた。具体的には、28Si45SiOH(m/z=28、45)のフラグメント信号が強く検出された。
【0098】
図6(C)は、試料Iに接触させられた試料IIの表面の質量スペクトルである。本研究における接触条件は、試料IIの上に試料Iを接触させ、室温において7日間に亘り状態維持することにより行われた。図6(C)に示すように、接触後の試料IIの表面においては、ジメチルシロキサン成分由来の成分であるSi(CH)O系のフラグメント信号(m/z=73、147、207、221、281)が確認された。図6(C)によれば、本研究における接触条件により、試料I由来のジメチルシロキサン成分が、試料IIのシリコンウエハー表面に付着していることが分かった。
【0099】
図6(D)は、試料IIIの表面の質量スペクトルである。図6(D)から、使用されたフッ素樹脂に由来した成分のフラグメント信号を確認することができた。具体的には、1231CF47CFO69CF100119163185OF213(m/z=12、31、47、69、100、119、163、185、213)のフラグメント信号が強く検出された。
【0100】
図6(E)は、試料Iに接触させられた試料IIIの表面の質量スペクトルである。試料IIIに対する接触条件も試料IIに対する接触条件と同様の条件で行われ、試料IIIの上に試料Iを接触させ、室温において7日間に亘り接触状態を維持することにより行われた。図6(E)に示すように、試料Iとの接触後の試料IIIの表面においては、試料IIのようにジメチルシロキサン成分由来のフラグメント信号は一切確認されず、試料Iとの接触前の試料IIIの質量スペクトルの結果と同一の結果が得られた。
【0101】
以上の結果から、本発明者は、フッ素樹脂とジメチルシロキサン成分との親和性は極めて低く、フッ素樹脂からなる保護膜が、蒸散したジメチルシロキサンの気中媒介の化学吸着を著しく抑制する効果を有するということを見出した。
【0102】
4. 電子機器
次に、本実施形態に係る電子機器1000について説明する。本実施形態に係る電子機器1000は、本発明に係る圧電振動子200を有する。本実施形態に係る電気機器1000は、例えば、携帯電話、自動車、デジタルカメラ、プロジェクタ、携帯電話基地局、デジタルTV、デジタルビデオカメラ、時計、携帯型デジタル音楽プレーヤー、PDA、パソコン、プリンタなどの電子機器であってもよい。例えば、図7に示すように、電子機器1000が、携帯電話の場合、無線回路やGPS回路の温度補償水晶発振器として、本発明に係る圧電振動子200を使用することができる。またカメラの手ぶれ検出機能などモーションセンシングのために本発明に係る圧電振動子200を使用することができる。またワンセグ放送受信のための電圧補償型水晶発振器として、本発明に係る圧電振動子200を使用することができる。
【0103】
以上によって、本実施形態に係る電子機器によれば、長期的に高い信頼性を持つ圧電振動子200および圧電発振器300を有する電子機器1000を提供することができる。
【0104】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0105】
1 キャビティ、1a 領域、2 凹部、3 封止部材、10 パッケージ本体、
11 ベース基板、11a 第1の面、11b 第2の面、12 壁部、
13 開口部、14 基部、20 電極パッド、21 実装端子、22 内部配線、
23 電極パッド、30 接着部、31 第1の接着部、32 第2の接着部、
33 シリコーン蒸気、40 圧電基板、
41 第1の面、42 第2の面、43 支持領域、44 可動領域、
45 非振動領域、46 振動領域、50 金属膜、50a 第1の電極膜、
50b 第2の電極膜、51 リード電極、60 フッ素樹脂膜、70 IC部品、
100 圧電振動素子、110 パッケージ、
200 圧電振動子、300 圧電発振器、1000 電子機器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを有するパッケージと、
前記キャビティ内に形成された複数の電極パッドと、
シリコーン系導電性接着剤を含み、複数の前記電極パッドの上にそれぞれ形成された第1の接着部および第2の接着部と、
前記第1の接着部および前記第2の接着部によって、一端を支持された圧電振動素子と、
を備え、
前記圧電振動素子が、
互いに対向する第1の面と第2の面とを有する圧電基板と、
前記第1の面に形成され、前記第1の接着部と電気的に接続された第1の電極膜と、
前記第2の面に形成され、前記第2の接着部と電気的に接続された第2の電極膜と、
を有し、
前記圧電振動素子の前記第1の接着部および前記第2の接着部により支持された領域を支持領域とし、前記第1の接着部および前記第2の接着部により支持されていない領域を可動領域としたとき、
前記可動領域にフッ素樹脂膜が形成された、圧電振動子。
【請求項2】
請求項1において、
前記圧電基板は、水晶基板である、圧電振動子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記フッ素樹脂膜は、前記可動領域内において、少なくとも前記圧電振動素子が振動する領域を覆うように形成された、圧電振動子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項において、
前記フッ素樹脂膜は、前記可動領域内において、少なくとも前記第1の電極膜および前記第2の電極膜を覆うように形成された、圧電振動子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項において、
前記圧電振動素子は、所定の第1の共振周波数を有し、
所定の膜厚を有した前記フッ素樹脂膜を前記圧電振動素子の所定の領域に形成することにより、前記第1の共振周波数よりも所定の周波数だけ低い第2の共振周波数を有する、圧電振動子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項において、
前記フッ素樹脂膜は、撥水性および撥油性を有するフッ素樹脂材料からなる、圧電振動子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項において、
前記フッ素樹脂膜は、フロロポリエーテル系材料からなる、圧電振動子。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の圧電振動子と電気的に接続された発振回路部をさらに含む、圧電発振器。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の圧電振動子を含む、電子機器。
【請求項10】
キャビティを有するパッケージと、前記キャビティ内に形成された電極パッドと、前記電極パッドの上に形成された接着部と、前記接着部によって、一端を支持された圧電振動素子と、を備え、前記圧電振動素子が、圧電基板と、前記圧電基板上に形成され前記接着部と電気的に接続された電極膜と、を有する、圧電振動子の製造方法であって、
前記圧電振動素子の前記接着部により支持された領域を支持領域とし、前記接着部により支持されていない領域を可動領域としたとき、前記可動領域にフッ素樹脂膜を形成する工程と、
前記フッ素樹脂膜を形成する工程のあと、前記圧電振動素子の前記支持領域を前記接着部に搭載する工程と、
を含む、圧電振動子の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記フッ素樹脂膜を形成する工程において、圧電振動子の共振周波数調整を行う、圧電振動子の製造方法。
【請求項12】
請求項10において、さらに、
前記圧電基板上に前記金属膜を形成する工程を含み、
前記金属膜を形成する工程において、圧電振動子の共振周波数調整を行う、圧電振動子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−232806(P2010−232806A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76055(P2009−76055)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】