説明

圧電材料、圧電素子、液体吐出ヘッドおよび超音波モータ

【課題】圧電特性が良好なBi系圧電材料を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物からなる圧電材料。


(式中、AはBi元素または3価の金属元素から選択される少なくともBi元素を含む1種類以上の元素を表す。MはFe、Al、Sc、Mn、Y、Ga、Ybのうちの少なくとも1種の元素を表す。0.9≦x≦1.25、0.4≦j≦0.6、0.4≦k≦0.6、0.09≦l≦0.49、0.19≦m≦0.64、0.13≦n≦0.48、l+m+n=1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電材料、圧電素子、液体吐出ヘッドおよび超音波モータに関する。特に鉛を含まない金属酸化物よりなる新規圧電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、通常、下部および上部電極を備えたバルク状または膜状の圧電材料により構成されている。
圧電材料は、チタン酸ジルコニウム酸鉛(以下「PZT」という)のようなABO型セラミックスが一般的である。
【0003】
しかしながら、PZTはペロブスカイト骨格のAサイトに鉛を含有する。そのために、鉛成分の環境に対する影響が問題視されている。この問題に対応するために、鉛を含有しないペロブスカイト型金属酸化物を用いた圧電材料の提案がなされている。
【0004】
例えば、鉛を含有しないペロブスカイト型酸化物からなる圧電材料として非特許文献1には、Bi(Zn0.5Ti0.5)Oが記載されている。しかし、Bi(Zn0.5Ti0.5)Oは、理論上優れた圧電性能が期待されているが、高いキュリー温度のため分極処理が困難であるため、その圧電性能は明らかになっていない。
【0005】
またBiFeOを主成分とした圧電材料の提案がなされている。例えば、特許文献1には、AサイトにLaを含有するBiFeO系材料が開示されている。BiFeOは、良好な強誘電体であり、残留分極量も低温で高い値が報告されている。しかしBiFeOの圧電歪み量は未だ十分なものではなかった。
【0006】
また、非特許文献2には、高圧合成法により得られたBiAlO圧電材料の開示がある。ただし、BiAlOの圧電性能も実用可能な範疇には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−287739号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】”Chemistry of Materials”2006年、第18巻、第21号、p.4987から4989
【非特許文献2】”Chemistry of Materials”2007年、第19巻、第26号、p.6385から6390
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、圧電性が良好な圧電材料およびその圧電材料を用いた圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する本発明の第一の圧電材料は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物からなることを特徴とする。
【化1】

(式中、AはBi元素または3価の金属元素から選択される少なくともBi元素を含む1種類以上の元素を表す。MはFe、Al、Sc、Mn、Y、Ga、Ybのうちの少なくとも1種の元素を表す。0.9≦x≦1.25、0.4≦j≦0.6、0.4≦k≦0.6、0.27≦l≦0.49、0.19≦m≦0.46、0.27≦n≦0.36、l+m+n=1である。)
【0011】
上記の課題を解決する本発明の第二の圧電材料は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物からなることを特徴とする。
【化2】

(式中、AはBi元素または3価の金属元素から選択される少なくともBi元素を含む1種類以上の元素を表す。MはFe、Al、Sc、Mn、Y、Ga、Ybのうちの少なくとも1種の元素を表す。0.9≦x≦1.25、0.4≦j≦0.6、0.4≦k≦0.6である。l+m+n=1であり、l、m、nは座標点A、B、C、D、E、F、G、H、I、Aで囲まれる範囲内である。但し、座標点A、B、C、Dおよび座標点A−Bの線上、座標点B−Cの線上、座標点C−Dの線上は上記範囲に含まない。)
A:(l,m,n)=(0.45,0.19,0.36)
B:(l,m,n)=(0.27,0.37,0.36)
C:(l,m,n)=(0.27,0.46,0.27)
D:(l,m,n)=(0.49,0.24,0.27)
E:(l,m,n)=(0.35,0.52,0.13)
F:(l,m,n)=(0.23,0.64,0.13)
G:(l,m,n)=(0.09,0.64,0.27)
H:(l,m,n)=(0.09,0.43,0.48)
I:(l,m,n)=(0.33,0.19,0.48)
【0012】
上記の課題を解決する本発明の圧電素子は、圧電材料と、該圧電材料に接して設けられた一対の電極とを少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料が上記の圧電材料であることを特徴とする。
【0013】
上記の課題を解決する本発明の液体吐出ヘッドは、上記の圧電素子を用いることを特徴とする。上記の課題を解決する本発明の超音波モータは、上記の圧電素子を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧電性が良好な圧電材料およびその圧電材料を用いた圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータを提供することができる。
さらに、本発明の圧電材料は、鉛を使用していないために環境に対する影響がなく、またアルカリ金属を使用していないために、圧電素子に使用した際に、耐久性の面でも有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の圧電素子の実施形態の一例を示す縦断面模式図である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明の超音波モータの構成の一実施形態を示す概略図である。
【図4】本発明の実施例1〜11および比較例1、2の金属酸化物の組成の関係を示す三角相図である。
【図5】本発明の第一の圧電材料の組成範囲を示す三角相図である。
【図6】本発明の第二の圧電材料の組成範囲を示す三角相図である。
【図7】本発明の第一および第二の圧電材料の組成範囲を示す三角相図である。
【図8】本発明の実施例1〜72および比較例1〜16の金属酸化物の組成の関係を示す三角相図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明は、圧電体としての性能に優れるBi系圧電体をベースとし、圧電特性の良好な新規の圧電材料を提供するものである。なお、本発明の圧電材料は、誘電体としての特性を利用してコンデンサ材料、メモリ材料、センサ材料として用いる等、さまざまな用途に利用することができる。
【0017】
本発明に係る第一の圧電材料は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物からなることを特徴とする。
【化3】

【0018】
上記一般式(1)において、AはBi元素または3価の金属元素から選択される少なくともBi元素を含む1種類以上の元素を表す。MはFe、Al、Sc、Mn、Y、Ga、Ybのうちの少なくとも1種の元素を表す。0.9≦x≦1.25、0.4≦j≦0.6、0.4≦k≦0.6、l+m+n=1である。
【0019】
本発明の第一の圧電材料において、上記一般式(1)におけるl、m、nは、それぞれ0.27≦l≦0.49、0.19≦m≦0.46、0.27≦n≦0.36である。
【0020】
これは、l、m、nが座標点A、B、C、D、J、Aで囲まれる範囲内にあると言い換えることができる。なお、各座標点を結ぶ線上は上記範囲内に含まれる。
各座標点の具体的なl、m、nの値はそれぞれ以下の通りである。
A:(l,m,n)=(0.45,0.19,0.36)
B:(l,m,n)=(0.27,0.37,0.36)
C:(l,m,n)=(0.27,0.46,0.27)
D:(l,m,n)=(0.49,0.24,0.27)
J:(l,m,n)=(0.49,0.19,0.32)
【0021】
図5は、本発明の第一の圧電材料の組成範囲を模式的に示す三角相図である。座標点A、B、C、D、J、Aに囲まれた着色部が本発明の第一の圧電材料の組成範囲であり、優れた圧電特性を示す。黒塗りの丸印および実線は、組成範囲に含まれることを意味する。
【0022】
また、本発明の第二の圧電材料において、上記一般式(1)におけるl、m、nは座標点A、B、C、D、E、F、G、H、I、Aで囲まれる範囲内である。但し、座標点A、B、C、Dおよび座標点A−Bの線上、座標点B−Cの線上、座標点C−Dの線上は上記範囲内に含まない。座標点E、F、G、H、Iおよび座標点D−Eの線上、座標点E−Fの線上、座標点F−Gの線上、座標点G−Hの線上、座標点H−Iの線上、座標点I−Aの線上は上記範囲内に含む。
各座標点の具体的なl、m、nの値はそれぞれ以下の通りである。
A:(l,m,n)=(0.45,0.19,0.36)
B:(l,m,n)=(0.27,0.37,0.36)
C:(l,m,n)=(0.27,0.46,0.27)
D:(l,m,n)=(0.49,0.24,0.27)
E:(l,m,n)=(0.35,0.52,0.13)
F:(l,m,n)=(0.23,0.64,0.13)
G:(l,m,n)=(0.09,0.64,0.27)
H:(l,m,n)=(0.09,0.43,0.48)
I:(l,m,n)=(0.33,0.19,0.48)
【0023】
図6は、本発明の第二の圧電材料の組成範囲を模式的に示す三角相図である。座標点A、B、C、D、F、F、G、H、I、Aで囲まれた着色部が本発明の第二の圧電材料の組成範囲であり、優れた圧電特性を示す。黒塗りの丸印および実線は、組成範囲に含まれることを意味する。一方、白抜きの丸印および点線は、組成範囲に含まれないことを意味する。
【0024】
図7は、本発明の第一の圧電材料の組成範囲と本発明の第二の圧電材料の組成範囲とを併せて模式的に示す三角相図である。座標D、E、F、G、H、I、J、Dで囲まれた着色部が本発明の圧電材料の組成範囲であり、優れた圧電特性を示す。黒塗りの丸印および実線は、組成範囲に含まれることを意味する。
以降、図7に基づき、本発明の第一の圧電材料と第二の圧電材料とを併せて説明する。
【0025】
本発明において、ペロブスカイト型金属酸化物とは、岩波理化学辞典 第5版(岩波書店、1998年2月20日発行)に記載されているような理想的には立方晶構造であるペロブスカイト型構造(ペロフスカイト型構造とも言う)を有する金属酸化物を指す。ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物は一般にABOの化学式で表現される。ペロブスカイト型酸化物において、元素A、Bは各々イオンの形でAサイト、Bサイトと呼ばれる単位結晶格子の特定の位置を占める。例えば、立方晶系の単位結晶格子であれば、A元素は立方体の頂点、B元素は体心に位置する。O元素は酸素の陰イオンとして面心位置を占める。
【0026】
前記一般式(1)で表される金属酸化物は、A(ZnTi(1−j))OとA(MgTi(1−k))OとAMOで表わされる3種類のペロブスカイト型金属酸化物の固溶体を意味している。本明細書において各固溶体の成分について説明する際は、Aの過剰度または不足度を示す添え字のxを省略して記載する。前記一般式(1)において、Aは主にペロブスカイト型構造のAサイトに位置する金属元素であり、(ZnTi(1−j))、(MgTi(1−k))およびMは主にBサイトに位置する元素である。
【0027】
前記一般式(1)において、AはBi元素単独、または3価の金属元素から選択される少なくともBi元素を含む1種類以上の元素よりなる。この場合、A(ZnTi(1−j))O単体はアスペクト比の大きな正方晶構造をとる。A(MgTi(1−k))O単体は非正方晶構造である斜方晶構造をとる。なお、アスペクト比とは単位格子の形状異方性の大きさを表し、正方晶構造のアスペクト比とは単位格子のc軸長とa軸長の比であるc/aを表す。
【0028】
前記一般式(1)において、Aサイト元素の存在量を示すxは、0.9≦x≦1.25、好ましくは0.98≦x≦1.15である。xが1であるとAサイトとBサイトの金属数が同じとなり絶縁性の良い圧電材料が得られる。一方、xが0.9より小さいと、Aサイト元素不足が欠陥サイトの原因となって絶縁性に悪影響を及ぼすおそれがある。逆にxが1.25より大きいと過剰なAサイト元素の酸化物が結晶粒界に析出するために高電圧印加時の電流リークの原因となりうるおそれがある。
【0029】
前記一般式(1)において、ZnとTiの比率を示すjは、0.4≦j≦0.6、好ましくは0.45≦j≦0.55である。jのもっとも好ましい値は0.5である。Znが2価、Tiが4価の陽イオンとして結晶格子内に存在しているとすると、jが0.5の時に電荷のバランスが取れているため、酸化物全体の絶縁性が高まる。ただし、Bサイト元素やドーパントの種類によって、絶縁性を高める目的でjは0.4から0.6の範囲で変化させても良い。
【0030】
同様に、前記一般式(1)においてMgとTiの比率を示すkは、0.4≦k≦0.6、好ましくは0.45≦k≦0.55である。kのもっとも好ましい値は0.5である。Mgが2価、Tiが4価の陽イオンとして結晶格子内に存在しているとすると、kが0.5の時に電荷のバランスが取れているため、酸化物全体の絶縁性が高まる。ただし、Bサイト元素やドーパントの種類によって、絶縁性を高める目的でkは0.4から0.6の範囲内で変化させても良い。
【0031】
Mは、一般式(1)のFe、Al、Sc、Mn、Y、Ga、Ybのいずれか、またはこれらの組み合わせから選択される。より好ましくは、前記一般式(1)において、MはFe、Alの少なくとも一方、あるいは両方の元素よりなる。Mに前記金属イオンが選択されることで、AMO単体は主として菱面体晶構造、すなわち非正方晶構造をとる。
【0032】
単体では正方晶構造であるA(ZnTi(1−j))Oと非正方晶構造であるAMOを相互に固溶させると、その固溶体の外部電場に対する圧電効果が大きくなる。これは正方晶構造の(001)軸方向の分極モーメントが、菱面体晶構造の(111)軸方向の分極モーメントとスイッチングすることに起因する。これは固溶体に正方晶構造と菱面体晶構造のいずれか片方しか観測されない圧電材料においても当てはまる。例えば、静的な状態でペロブスカイト型構造の正方晶構造のみの単一相からなる圧電材料であっても、菱面体晶構造を有する圧電性金属酸化物との固溶体であれば、外部電場に対して分極モーメントのスイッチングが引き起こされる。
【0033】
ただし、アスペクト比の大きな正方晶構造と菱面体晶構造の固溶体では各々の単位格子の体積差が大きすぎてスイッチングのエネルギー障壁が高い。そこで本発明では、A(ZnTi(1−j))OとAMOの二元系固溶体に加えて、A(MgTi(1−k))Oを固溶させることで正方晶構造のアスペクト比を抑制している。その結果として、菱面体晶構造と正方晶構造のスイッチングのエネルギー障壁が小さくなり、圧電性が向上する。
【0034】
A(ZnTi(1−j))Oの正方晶構造のアスペクト比を抑制するのに、Mgが選択される理由はZnとのイオン半径の類似性とd軌道の電子密度の低さによる。A(ZnTi(1−j))OにA(MgTi(1−k))Oを固溶させることで、前者の正方晶構造を維持したままでアスペクト比を抑制することができる。
【0035】
前記一般式(1)において、A(MgTi(1−k))Oの固溶量の比を示すmは、0.19≦m≦0.64、好ましくは0.28≦m≦0.64である。mが0.19より小さいとアスペクト比の抑制効果を得られず、圧電性が十分でないおそれがある。逆にmが0.64より大きいと、A(ZnTi(1−j))Oの正方晶構造を圧電性に生かせないおそれがある。mを0.19≦m≦0.64の範囲にすると、分極モーメントのスイッチングの振幅とエネルギー障壁のバランスが取れて、もっとも効果的に圧電性を高めることができる。
【0036】
前記一般式(1)において、A(ZnTi(1−j))Oの固溶量の比を示すlは、0.09≦l≦0.49、好ましくは0.09≦l≦0.36である。但し、AMOの固溶量の比を示すnが0.27以下の値「0.27−y」となる場合、上記lの上限値は「0.49−y」となる。ここで、yは0≦y≦0.14の範囲を取る実数である。lが0.09より小さいとA(ZnTi(1−j))Oの正方晶構造を圧電性に生かせないおそれがある。逆にlが0.49または0.49−yより大きいと、金属酸化物としての安定性が低下してビスマス層状構造のような非ペロブスカイト型の異相が出現するおそれがある。
A(MgTi(1−k))OとA(ZnTi(1−j))Oの固溶量の比は、m/(l+m)で表現できる。この固溶量の比が0.35≦m/(l+m)≦0.88、好ましくは0.49≦m/(l+m)≦0.86であると、本発明の圧電材料は特に大きな圧電特性を有する。
【0037】
前記一般式(1)において、AMOの固溶量の比を示すnは、0.13≦n≦0.48、好ましくは0.18≦n≦0.48である。nを0.13≦n≦0.48の範囲にすると、圧電材料を構成するペロブスカイト型金属酸化物が全体として正方晶構造または単斜晶構造を取るため大きな圧電性を得ることができる。
【0038】
前記一般式(1)のAはBi元素のみ、または、Bi元素に加えて3価のランタノイドから選択される1種以上の元素も含んでいることが好ましい。
AがBiを主体とする3価の金属元素のみからなることで、Aサイト元素とO元素より構成されるペロブスカイト骨格が電気的に安定になる。
【0039】
AがBi元素のみであると、Aサイト元素とO元素より構成されるペロブスカイト骨格の対称性が高くなって圧電材料の外部刺激に対する安定性が向上する。また、Bi元素特有の強固な結合のために圧電材料のキュリー温度を高くしたり内部分極の変動幅を大きくしたりする効果が得られる。
【0040】
圧電材料に外部から分極処理を施して使用するような場合には、キュリー温度調整の目的でAは3価のランタノイド元素も含んでいることが好ましい。また、Aがランタノイド元素を含んでいることで、本発明の圧電材料は常圧での合成がより容易となる。
【0041】
3価のランタノイド元素としては、La、Ce、Pr、Tm、Yb、Dyが挙げられる。このうち、Aに含まれるランタノイド元素の中で、もっとも好ましいのはLa元素である。La元素は他成分への固溶性に優れており、ペロブスカイト構造の単相を得やすい。
【0042】
Aが少なくともBi元素とランタノイド元素、例えばLa元素、を含む場合、AにおいてBiの占める比率は70モル%以上99.9モル%以下、特に90モル%以上99.9モル%以下であることが好ましい。AにおいてBiの占める比率が70モル%未満であると圧電材料の絶縁性が低下するおそれがある。逆にAにおいてBiの占める比率が99.9モル%を超える場合は、ランタノイド元素を加えなかった場合とほぼ同等の性能になる。
なお、本発明においてモル%とは、指定サイトを占める全物質量に対する指定元素の物質量を百分率で表したものである。
【0043】
本発明の圧電材料において望ましいキュリー温度は、200℃以上600℃未満、より好ましくは200℃以上500℃以下である。キュリー温度が200℃以上である事により、デバイス化した場合に、温度による特性変動の少ない材料を提供することができる。また、キュリー温度が600℃以下である事により、素子化の際の分極処理が容易である材料を提供することができる。一般的に、Aに含まれるランタノイド元素の割合が大きいほど、キュリー温度が低くなる傾向がある。
【0044】
更に、本発明の圧電材料に適量のMnを含有させることで圧電材料の絶縁性が向上する。高絶縁性の圧電材料は、高電圧をかける分極処理に耐えうるという利点があり、電気エネルギーと機械エネルギーの変換効率にも優れる。また、本発明の圧電材料に適量のMnを含有させることで、より低い電圧で圧電材料を分極できる効果が得られる。
【0045】
本発明の圧電材料にMnを含有させる場合に用いる原料は、2価のMnであっても良いし、4価のMnであっても良い。Mn元素はペロブスカイト構造のBサイトに含まれている場合だけでなく、結晶粒界に酸化物として含まれていても同様の効果を期待できる。
【0046】
前記一般式(1)において、MはMn元素を0.1モル%以上5モル%以下含ませることができ、特に0.1モル%以上1モル%以下含ませることができる。Mに含まれるMnの含有量が0.1モル%より少ないと絶縁性の向上幅が小さくなる。逆にBサイトに含まれるMnの含有量が5モル%より多いと圧電材料の圧電効果が小さくなるおそれがある。
【0047】
本発明の圧電材料において、一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物の結晶系は、少なくとも単斜晶構造を含んでいることが好ましい。より好ましい結晶系は、単斜晶構造のみからなる結晶系である。
【0048】
本発明において、単斜晶、菱面体晶、正方晶の構造は、以下のように定義する。ただし、下記の「=」は実質的に等しいことを表す。「≠」は等しくないことを表す。β角は結晶格子のa軸とc軸のなす角度を表す。
菱面体晶:a軸長=c軸長、かつβ角≠90°
単斜晶 :a軸長≠c軸長、かつβ角≠90°
正方晶 :a軸長≠c軸長、かつβ角=90°
【0049】
前述のように、本発明では、A(ZnTi(1−j))OとAMOの二元系固溶体に加えて、A(MgTi(1−k))Oを固溶させることで正方晶構造のアスペクト比を抑制している。その結果として、菱面体晶構造と正方晶構造のスイッチングのエネルギー障壁が小さくなり、圧電性が向上する。
【0050】
この主たる機構に加えて、一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物の結晶系が単斜晶構造を含んでいると各構造間のスイッチングのエネルギー障壁は更に小さくなる。これは、単斜晶構造の単位格子が菱面体晶構造の単位格子と正方晶構造の単位格子の中間にあたる体積であること、および(110)軸方向に分極モーメントを有していることによると考えられる。すなわち、本発明の圧電材料は(001)軸、(110)軸、(111)軸の三方向に回転するように分極モーメントを容易にスイッチングできるようになる。その結果として、外部電場の強さあたりの圧電による変位量が大きくなる。すなわち圧電定数が大きくなる。
【0051】
本発明の圧電材料は、その成分組成や結晶構造に特徴があり、この圧電材料の製造方法は限定されない。例えば、圧電材料の形態がバルクセラミックスである場合、各金属原料の粉体を常圧下で焼結する一般的なセラミック製造方法を採用することができる。前記一般式(1)のAがBi元素のみからなる場合、常圧下の焼結では結晶化が不十分となることがある。その場合は、高圧合成法、通電加熱法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法等の他の手法も用いることができる。本発明において「バルクセラミックス」とは、粒子が集合した塊状物を意図している。圧電材料の形態が膜状である場合については、後述する。
【0052】
前記圧電材料は基板上に設けられた厚み200nm以上10μm以下、より好ましくは250nm以上3μm以下の膜であることが望ましい。圧電材料の膜厚を200nm以上10μm以下とすることで圧電素子として充分な電気機械変換機能を得られるとともに、圧電素子の高密度化を期待できる。
【0053】
前記膜の積層方法は特に制限されない。例えば、有機金属化合物化学的気相堆積法(MOCVD法)、化学溶液堆積法(CSD法)、パルスレーザ堆積法(PLD法)、スパッタリング法、水熱合成法、エアロゾルデポジション法(AD法)などが挙げられる。このうち、好ましい積層方法は有機金属化合物化学的気相堆積法、化学溶液堆積法、パルスレーザ堆積法である。有機金属化合物化学的気相堆積法、化学溶液堆積法、パルスレーザ堆積法は、金属組成の精密制御に優れた成膜方法である。
【0054】
本発明において有機金属化合物化学的気相堆積法(MOCVD法)とは、キャリアガスにより送り込まれた有機金属化合物の熱分解により基板上に目的とする金属酸化物を成長させる成膜方法の総称を指す。一般に、有機金属気相成長法、MOCVD法、MOVPE法と呼ばれている成膜方法を本用語に含む。
本発明において化学溶液堆積法(CSD法)とは、基板上へ目的とする金属酸化物の前駆体溶液を塗布した後に加熱して結晶化させることで目的とする金属酸化物を得る成膜方法の総称を指す。一般に、ゾルゲル法、有機金属分解法と呼ばれている成膜方法を本用語に含む。
【0055】
MOCVD法やCSD法で用いる前駆体溶液に含ませる金属化合物の例として、加水分解性または熱分解性の有機金属化合物が挙げられる。例えば、目的材料に含まれる金属の金属アルコキシド、有機酸塩、β−ジケトン錯体などの金属錯体がその代表例である。
【0056】
本発明においてパルスレーザ堆積法(PLD法)とは、数十ナノ秒(ns)以内のパルスレーザをターゲット材に入射して発生するプラズマを利用して基板上に金属酸化物を蒸着成長させる成膜方法の総称を指す。一般に、パルスレーザ蒸着法、パルスレーザ成膜法、レーザアブレーション法、分子ビームエピタキシー法と呼ばれている成膜方法を本用語に含む。
【0057】
PLD法で用いるターゲット材は、目的とする金属酸化物と同一組成の焼結体であっても良いし、成膜レートの異なる金属種ごとにグループ化した多元系であっても良い。
膜状の圧電材料を設ける基板の材質は特に限定されないが、通常800℃以下で行われる焼成工程において変形、溶融しない材質が好ましい。例えば、酸化マグネシウム(MgO)やチタン酸ストロンチウム(SrTiO)などからなる単結晶基板や、ジルコニア(ZrO)やアルミナ(Al)、シリカ(SiO)などのセラミック基板や、シリコン(Si)やタングステン(W)などからなる半導体基板や、耐熱ステンレス(SUS)基板が好ましく用いられる。これらの材料を複数種類組み合わせてもよいし、積層して多層構成として用いてもよい。圧電素子の一方の電極を兼ねる目的で、導電性金属を基板中にドーピングしたり、基板表面に積層したりして用いても良い。
【0058】
さらに前記膜状の圧電材料は、(001)面または(110)面または(111)面に選択的に配向していることが好ましい。
膜状の圧電材料が(hkl)面に配向しているとは、(hkl)軸が膜厚方向に配向している状態である。前記膜状の圧電材料の配向状態は、結晶薄膜について一般に用いられるX線回折測定(例えば2θ/θ法)における回折ピークの検出角度と強度から容易に確認できる。(hkl)面に選択的に配向している薄膜材料から得られる回折チャートでは、(hkl)面に相当する角度に検出される回折ピークの強度が、その他の面に相当する角度の検出されたピークの強度の合計よりも極めて大きくなる。
【0059】
前記膜状の圧電材料が、(001)面または(110)面または(111)面に配向していると、膜の垂直方向に分極のモーメントが揃うために圧電効果の向上が見込める。
【0060】
次に本発明の圧電素子について説明する。
本発明に係る圧電素子は、圧電材料と、該圧電材料に接して設けられた一対の電極とを少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料が上記の圧電材料であることを特徴とする。
【0061】
図1は、本発明に係る圧電素子の実施形態の一例を示す縦断面模式図である。図中の1は基板、2は下部電極、3は圧電材料、4は上部電極を示す。本発明に係る圧電素子は、基板1上に、圧電材料3と、該圧電材料3に接して設けられた一対の下部電極2、上部電極4とを有する。
【0062】
本発明の圧電素子の構成において基板1は必須では無いが、圧電材料3が膜状である場合はその形態を保つために基板1の上に設けられていることが好ましい。図1のように基板1と圧電材料3の両方に接するように下部電極2が設けられていても良い。
【0063】
基板1の材質は特に限定されず、圧電材料について説明した通り、通常800℃以下で行われる焼成工程において変形、溶融しない材質が好ましい。
基板1に用いることができる材質は前述の通りであるが、本発明の圧電素子に用いる基板は(100)面または(110)面または(111)面に選択的に配向した単結晶基板であるのが好ましい。
【0064】
特定面に配向した単結晶基板を用いることで、その基板表面に設けられた膜状の圧電材料も同一方位に強く配向させることができる。
さらに前記圧電素子の下部電極2および上部電極4は、5nmから2000nm程度の層厚を有する導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよく、例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの酸化物を挙げることができる。下部電極2、上部電極4は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。
【0065】
さらに下部電極2と上部電極4の少なくとも一方がM1RuO(M1はSr、Ba、およびCaからなる群から選ばれた少なくとも1種を表す。)で表されるペロブスカイト型金属酸化物よりなることが好ましい。
【0066】
これらの導電性金属酸化物を下部電極2または上部電極4に適用すると、圧電材料3からなる圧電薄膜との接触界面における結晶格子の整合性が高まり、圧電素子の圧電性および駆動耐久性の向上を期待できる。特に下部電極2が前記導電性酸化物であると、圧電薄膜のペロブスカイト結晶化を促進する役割を果たすため、圧電素子の絶縁性および圧電性の向上を期待できる。
【0067】
下部電極2および上部電極4は化学溶液堆積法などの液相成膜法により塗布、焼成して形成しても良いし、パルスレーザ堆積法、スパッタリング法、蒸着法などの気相成膜法により形成してもよい。また下部電極2、上部電極4とも所望の形状にパターニングして用いても良い。同様に圧電材料3も所望の形状にパターニングして素子に用いても良い。
【0068】
本発明の圧電素子は、圧電センサ、超音波振動子、圧電アクチュエータ、インクジェットヘッド、強誘電メモリ、キャパシタ等のデバイスに用いることができる。
【0069】
図2は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施形態を示す概略図である。図2(a)(b)に示すように、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電素子101を有する液体吐出ヘッドである。圧電素子101は、第一の電極1011、圧電材料1012、第二の電極1013を少なくとも有する圧電素子である。圧電材料1012は、図2(b)の如く、必要に応じてパターニングされている。
【0070】
図2(b)は液体吐出ヘッドの模式図である。液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。図において圧電素子101は矩形状だが、その形状は、楕円形、円形、平行四辺形等の矩形以外でも良い。一般に、圧電材料1012は個別液室102の形状に沿った形状となる。
【0071】
本発明の液体吐出ヘッドに含まれる圧電素子101の近傍を図2(a)で詳細に説明する。図2(a)は、図2(b)に示された液体吐出ヘッドの幅方向での圧電素子の断面図である。圧電素子101の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。
図中では、第一の電極1011が下部電極、第二の電極1013が上部電極として使用されている。しかし、第一の電極1011と、第二の電極1013の配置はこれに限られない。例えば、第一の電極1011を上部電極として使用しても良い。同じく、第二の電極1013を下部電極として使用しても良い。また、振動板103と下部電極の間にバッファ層108が存在しても良い。
なお、これらの名称の違いはデバイスの製造方法によるものであり、いずれの場合でも本発明の効果は得ることができる。
【0072】
前記液体吐出ヘッドにおいては、振動板103が圧電材料1012の伸縮によって上下に変動し、個別液室102の液体に圧力を加える。その結果、吐出口105より液体が吐出される。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンタ用途や電子デバイスの製造に用いることができる。
【0073】
振動板103の厚みは、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。振動板のSiにBやPがドープされていても良い。また、振動板上のバッファ層、電極層が振動板の一部となってもいても良い。
バッファ層108の厚みは、5nm以上300nm以下であり、好ましくは10nm以上200nm以下である。
【0074】
吐出口105の大きさは、円相当径で5μm以上40μm以下である。吐出口105の形状は、円形であっても良いし、星型や角型状、三角形状でも良い。次に、本発明の圧電素子を用いた超音波モータについて説明する。
【0075】
図3は、本発明の超音波モータの構成の一実施形態を示す概略図である。
本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、図3(a)に示す。超音波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成されている。
【0076】
本発明の圧電素子に位相がπ/2異なる二相の交流電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。
【0077】
圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の超音波モータは、この原理を利用したものである。
【0078】
次に、積層構造を有した圧電素子を含む超音波モータを図3(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料により構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって締結され、圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
【0079】
圧電素子2042に位相の異なる交流電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
【0080】
ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
【0081】
前述したように本発明の圧電素子は、液体吐出ヘッドや、超音波モータに好適に用いられる。
【0082】
本発明の非鉛系の圧電材料を用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上のノズル密度、および吐出力を有する液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0083】
本発明の非鉛系の圧電材料を用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上の駆動力、および耐久性を有する超音波モータを提供することができる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0085】
(実施例1〜11、16〜26)
表1および表3の各実施例に対応した組成の金属酸化物薄膜を間欠式の有機金属化合物の化学的気相堆積法(MOCVD法)により基板上に成膜した。
【0086】
薄膜を形成する基板には、下部電極として膜厚約100nmのルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)を成膜面に有する(100)配向のチタン酸ストロンチウム(SrTiO)単結晶基板を用いた。SrRuO電極は、スパッタリング法により成膜した。
【0087】
各金属の酸化物原料としては、ジメチル(2−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェニル)ビスマス(Bi(CH(2−(CHNCHPh))、トリ(エチルペンタジエニル)鉄(Fe(C)、ビス(6−エチル−2,2−ジメチル−3,5−デカンジオナート)亜鉛(Zn(EDMDD))、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)マグネシウム(Mg(DPM))、テトラ―i―プロポキシチタン(Ti(O・i−Pr))を用いた。
【0088】
キャリアガスには窒素、パージガスには酸素と窒素を用いて、10秒間供給する毎に5秒間供給を休めて間欠的に成膜を行った。成膜温度は760℃とした。合計200パルス(50分間)の成膜を実施することで、膜厚190nmから600nmの本発明の圧電材料による薄膜を得た。
【0089】
表1および表3に記載のx、j、k、l、m、nは、実施例の圧電薄膜の金属組成比を示し、l+m+n=1となるように規格化されている。これらの値は蛍光エックス線分析(XRF)とICP発光分光分析を併用して求めた。x、j、kは、各々1.0、0.5、0.5を理想値としてMOCVD法の成膜条件を調整した結果、予定通りの組成比とすることができた。l、m、nは、詳細な組成分析により有効数字3桁の結果を得た。
【0090】
X線回折測定によると、いずれの圧電材料も(001)面に選択的に配向したペロブスカイト構造であることが分かった。また、その結晶系は、正方晶構造と単斜晶構造を有する混在系、または単斜晶構造の単一系、または単斜晶構造と菱面体晶構造を有する混在系であった。また、ピーク位置から換算される単位格子の長軸の軸長は、mの値が大きくなるにつれて小さくなっていく傾向があった。
【0091】
これらの薄膜状圧電材料の表面に100μmφの白金電極をスパッタリング法で設けて圧電素子とした。実施例1〜11および16〜26の圧電素子の絶縁性はいずれも良好であった。これらの圧電素子を電気測定に用いた。結果を表1および表3に組成と共に示す。
【0092】
表1および表3に記載の強誘電性は前記圧電素子のP−Eヒステリシス測定の結果を示すものである。P−Eヒステリシス測定は室温における対象素子の実用的な電界における強誘電性の有無を判断するために実施した。一定の電界領域で強誘電性を示す材料は、同じ電界領域で圧電性を有すると言えるし、メモリ材料としても使用可能である。具体的には、本発明の圧電素子に対して最大値が±1500kV/cmとなる外部電場を正負に位相を変えて印加したときの自発分極の履歴を観測した。自発分極が反転するという強誘電体に特有の履歴曲線が観測された場合は表1および表3の強誘電性の欄に○印を記した。前記の電界範囲で強誘電性曲線が見られなかった場合には×印を記した。この×印には強誘電性ではあるが分極反転が発生する電界(抗電界)が前記の電界範囲より大きい場合も含む。
【0093】
表1および表3に記載の絶縁性は前記圧電素子のリーク電流測定の結果を示すものである。リーク電流測定は室温における対象素子の実用的な電界における絶縁性の有無を判断するために実施した。具体的には、本発明の圧電素子に対して250kV/cmの直流電場を加えた時の漏れ電流値を記録した。この漏れ電流値が1mA/cm以下と良好な絶縁性を示した場合に○印、そうでない場合に×印を記した。実施例1〜11および16〜26の圧電素子は、その漏れ電流値がいずれも0.01mA/cm以下であり、市販のチタン酸ジルコン酸鉛の薄膜並みの高絶縁性を示した。
【0094】
表1および表3に記載の圧電定数は、原子間力顕微鏡(AFM)を変位検出装置とした室温での圧電定数(d33定数)測定法により求めた。具体的には電極に挟まれた薄膜の膜厚あたりの印加電圧を700kV/cmとした時の圧電材料の歪みを前記AFMにより観測した。この歪み量を印加電圧で割ることで表1および表3に記載の圧電定数に換算した。素子の歪み量が小さいために圧電定数を算出できない場合は、×印を記載した。
【0095】
(比較例1、2、6〜9)
実施例1〜11および16〜26と同様にして、表1および表3に示す比較例1、2、6〜9の目的組成の金属酸化物をMOCVD法により作製した。
比較例1の金属酸化物は、A(MgTi(1−k))O成分が含まれない固溶体である。比較例2の金属酸化物は、本発明の圧電材料と比較してA(MgTi(1−k))O成分が少ない固溶体である。比較例6〜9の金属酸化物は、A(ZnTi(1−j))O成分が含まれない固溶体である。
比較例1、2、6〜9の金属酸化物はいずれも(001)面に選択的に配向したペロブスカイト型構造を有していた。比較例1および2における結晶系は正方晶構造の単一系であり、比較例6〜9における結晶系は菱面体晶構造の単一系であった。
【0096】
実施例1〜11および16〜26と同様にして比較例1、2、6〜9の金属酸化物に電極を形成して、電気測定を行った。結果を表1および表3に組成と共に示す。比較例1および比較例2の素子は高い絶縁性を有していたが、その抗電界が大きいために±1500kV/cmの範囲では自発分極の反転挙動を示さなかった。比較例6〜9の素子も高い絶縁性を有していた。比較例6〜8の素子は強誘電性を示したが、比較例9の素子は強誘電性を示さなかった。
【0097】
また比較例1および比較例2および比較例9の素子は圧電測定における素子の歪み量が小さく、近似的に換算してもd33定数は10pm/V程度であった。比較例6〜9の素子は明確な圧電性を示したが、表3に示す圧電定数(d33)は大きくない。
【0098】
実施例1〜11および比較例1、2の金属酸化物の組成の関係を示す三角相図を図4に示した。図中の破線は、本発明の請求項1に相当する範囲を示している。破線の内側のプロットは実施例1〜11の組成に相当する。破線の外側のプロットは比較例1、2の組成に相当する。
【0099】
【表1】

【0100】
(実施例12、27〜41)
実施例1〜11および16〜26と同様にして、表2および表4に示した組成の金属酸化物薄膜をMOCVD法により基板上に成膜した。
【0101】
薄膜を形成する基板には、下部電極として膜厚約100nmのルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)を成膜面に有する(110)配向のチタン酸ストロンチウム(SrTiO)単結晶基板を用いた。SrRuO電極は、スパッタリング法により成膜した。
【0102】
各金属の酸化物原料としては、実施例1〜11で用いた原料に加えて、トリ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)(2,2−ビピリジン)ランタン(La(TMOD)bpy)と、トリ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)マンガン(Mn(DPM))を用いた。
【0103】
実施例1〜11および16〜26と同様の成膜条件により、膜厚200nm〜450nmの本発明の圧電材料による薄膜を得た。
表2に記載のx、j、k、l、m、nは、実施例1〜11および16〜26と同様にして算出した。
【0104】
X線回折測定によると、いずれの圧電材料も(110)面に選択的に配向したペロブスカイト構造であることがわかった。また、その結晶系は、正方晶構造と単斜晶構造を有する混在系、または単斜晶構造の単一系であった。
この薄膜状圧電材料の表面に100μmφの白金電極をスパッタリング法で設けて圧電素子とした。圧電素子の電気特性、圧電特性の測定結果は表2および表4に示す通りである。
【0105】
(比較例10、11)
実施例27〜41と同様にして、表4に示す比較例10、11の目的組成の金属酸化物をMOCVD法により作製した。比較例10、11の金属酸化物は、A(ZnTi(1−j))O成分が含まれない固溶体である。
比較例10、11の金属酸化物はいずれも(110)面に選択的に配向したペロブスカイト型構造を有しており、その結晶系は菱面体晶構造の単一系であった。
実施例27〜41と同様にして比較例10、11の金属酸化物に電極を形成して、電気測定を行った。結果を表4に組成と共に示す。比較例10および比較例11の素子は高い絶縁性および強誘電性を有していた。また、比較例10および11の素子は明確な圧電性を示したが、表4に示す圧電定数(d33)は大きくない。
【0106】
(実施例13、14、42〜57)
実施例1〜12および16〜41と同様にして、表2および表5に示した組成の金属酸化物薄膜をMOCVD法により基板上に成膜した。
【0107】
薄膜を形成する基板には、下部電極として膜厚約100nmのルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)を成膜面に有する(111)配向のチタン酸ストロンチウム(SrTiO)単結晶基板を用いた。SrRuO電極は、スパッタリング法により成膜した。
【0108】
各金属の酸化物原料としては、実施例1〜12および16〜41で用いた原料に加えて、実施例13および14ではトリ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)アルミニウム(Al(DPM))を用いた。
【0109】
実施例1〜12および16〜41と同様の成膜条件により、膜厚210〜550nmの本発明の圧電材料による薄膜を得た。
表2に記載のx、j、k、l、m、nは、実施例1〜12および16〜41と同様にして算出した。
【0110】
X線回折測定によると、いずれの圧電材料も(111)面に選択的に配向したペロブスカイト構造であることがわかった。また、その結晶系は、正方晶構造と単斜晶構造を有する混在系、または単斜晶構造の単一系であった。
この薄膜状圧電材料の表面に100μmφの白金電極をスパッタリング法で設けて圧電素子とした。圧電素子の電気特性、圧電特性の測定結果は表2および表5に示す通りである。
【0111】
(比較例12、13)
実施例42〜57と同様にして、表5に示す比較例12、13の目的組成の金属酸化物をMOCVD法により作製した。比較例12、13の金属酸化物は、A(ZnTi(1−j))O成分が含まれない固溶体である。
比較例12、13の金属酸化物はいずれも(111)面に選択的に配向したペロブスカイト型構造を有しており、その結晶系は菱面体晶構造の単一系であった。
実施例42〜57と同様にして比較例12、13の金属酸化物に電極を形成して、電気測定を行った。その結果を表5に組成と共に示す。比較例12および比較例13の素子は高い絶縁性および強誘電性を有していた。また、比較例12および13の素子は明確な圧電性を示したが、表4に示す圧電定数(d33)は大きくない。
【0112】
(実施例15、69〜72)
表2および表8に示した最終物組成と同じモル比のBi、La、Dy、Pr、ZnO、MgO、TiO、Fe、Al、Sc、Y、MnOを混合、粉砕して原料の混合粉末を得た。この混合粉末にバインダーとしてPVB(ポリビニルブチラール)を10wt%加えて、乳鉢で混合した。これを10mm径の円形ディスク状に成型して、600℃の電気炉で2時間仮焼した。続けて、850℃から1350℃の電気炉で5時間の本焼成を行って、本発明のバルクセラミックス状の圧電材料を得た。
表2に記載のx、j、k、l、m、nは、膜状である実施例1〜14および16〜57と同様の手法によって算出した。
【0113】
X線回折測定によると、実施例15および69〜72の圧電材料はランダム配向性の多結晶のペロブスカイト構造であることがわかった。また、その結晶系は、正方晶構造と単斜晶構造を有する混在系、または単斜晶構造の単一系であった。この圧電材料の表面を研磨して、2.5mm径、0.25mm厚の円盤形状に加工した。この円盤の両面に金のイオンコータにより電極を形成して、電気測定、圧電特性測定に用いた。強誘電性と絶縁性の測定方法は実施例1〜14および16〜57と同様である。圧電定数を求めるための歪み測定には、レーザ・ドップラー速度測定器を用いた。結果は表2および表8に示す通りである。
【0114】
(比較例3〜5)
実施例15と同様にして、表2に示す比較例3〜5の組成の金属酸化物を作製した。
結晶構造、電気特性、圧電特性の評価結果は表2に示す通りである。
【0115】
比較例3の組成は(Bi0.7La0.31.1FeOであり、X線回折測定から無配向で菱面体晶構造のペロブスカイト構造であることがわかった。
比較例4の組成は(Bi0.7La0.31.1FeOと(Bi0.7La0.31.1(Zn0.5Ti0.5)Oの固溶体を、比較例5の組成は(Bi0.7La0.31.1(Zn0.5Ti0.5)Oを目指したものであるが、X線回折測定によるとビスマス層状構造が主相でペロブスカイト構造の金属酸化物を得られなかった。
【0116】
実施例15と同様にして比較例3〜5の金属酸化物に電極を形成して、電気測定、圧電特性測定に用いた。強誘電性、絶縁性および圧電定数の測定方法は実施例15と同様である。
【0117】
(実施例58〜65)
表6の各実施例に対応した組成の金属酸化物薄膜をパルスレーザ堆積法(PLD法)により基板上に成膜した。
【0118】
実施例58〜61および64、65の薄膜を形成する基板には、下部電極として膜厚約100nmの(100)配向ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)を成膜面に有する(100)配向のチタン酸ストロンチウム(SrTiO)単結晶基板を用いた。SrRuO電極は、スパッタリング法により成膜した。
【0119】
実施例62、63の薄膜を形成する基板には、下部電極として膜厚約100nmの(111)配向のルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)を成膜面に有する(0001)面カットのサファイア(Al)単結晶基板を用いた。
【0120】
パルスレーザを入射するターゲット材としては、Bi、La、ZnO、MgO、TiO、Feを混合、粉砕して、750℃の電気炉で5時間仮焼成、更に仮焼成粉にPVBを10wt%加えて成型後に790℃の電気炉で6時間本焼成したペレットを用いた。なお、成膜時の組成変動を考慮して、圧電材料の目的組成に対してBiとZnOを5〜20at.%過剰となるようにした。
PLD法による成膜条件は以下のとおりである。
レーザ:KrFエキシマーレーザ、210mJ
パルス間隔:2Hz
ターゲットと基板の距離:40mm
成膜圧力:500mTorr、流速3sccmの酸素雰囲気
基板温度:630℃
合計4800パルス(40分間)の成膜を実施することで、膜厚200nm〜530nmの本発明の圧電材料による薄膜を得た。
表6に記載のx、j、k、l、m、nは、膜状である実施例1〜14および16〜57と同様にして算出した。
【0121】
X線回折測定によると、実施例58〜61および64、65の圧電材料は(100)面、実施例62、63の圧電材料は(111)面に選択的に配向したペロブスカイト構造であることがわかった。また、その結晶系は、正方晶構造と単斜晶構造を有する混在系、または単斜晶構造の単一系、または単斜晶構造と菱面体晶構造を有する混在系であった。
この薄膜状圧電材料の表面に100μmφの白金電極をスパッタリング法で設けて圧電素子とした。圧電素子の電気特性、圧電特性の測定結果は表6に示す通りである。
【0122】
(比較例14)
実施例58〜61および64、65と同様にして、表6に示す比較例14の目的組成の金属酸化物をPLD法により作製した。
比較例14の金属酸化物は、A(MgTi(1−k))O成分が含まれない固溶体である。
X線回折測定によると比較例14の金属酸化物はビスマス層状構造が主相でペロブスカイト構造の金属酸化物を得られなかった。
実施例58〜61および64、65と同様にして比較例14の金属酸化物に電極を形成して、電気測定を行った。結果を表6に組成と共に示す。比較例14の素子は絶縁性に乏しく、強誘電性、圧電性を示さなかった。
【0123】
(実施例66〜68)
表7の各実施例に対応した組成の金属酸化物薄膜を化学溶液堆積法(CSD法)により基板上に成膜した。
【0124】
実施例66、67の薄膜を形成する基板には、下部電極として膜厚約100nmの(100)配向ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)を成膜面に有する(100)配向のチタン酸ストロンチウム(SrTiO)単結晶基板を用いた。SrRuO電極は、スパッタリング法により成膜した。
【0125】
実施例68の薄膜を形成する基板には、下部電極として膜厚200nmの(111)自然配向白金(Pt)を成膜面に有するシリコン基板(SiO酸化膜あり)を用いた。Pt電極は、スパッタリング法により成膜した。
【0126】
CSD成膜に用いる金属酸化物の前駆体溶液は、以下の要領で準備した。
前駆体溶液の原料として、トリ−t−アミロキシビスマス(Bi(O・t−Am))、酢酸亜鉛二水和物(Zn(OAc)・2HO)、ジエトキシマグネシウム(Mg(OEt))、テトラ−n−ブトキシチタン(Ti(O・n−Bu))、鉄アセチルアセトナート(Fe(acac))を用いた。
溶媒としての2−メトキシエタノールに、表7に示す目的組成と同じモル比の前記の原料を金属換算で加えて、撹拌溶解させた。酢酸亜鉛二水和物を用いる系については、亜鉛成分の溶解性を補助する目的で等モルのモノエタノールアミンを加えた。
いずれの溶液も濃度0.1mol/Lとなるように2−メトキシエタノールを適量加えて実施例66〜68に用いる塗布溶液とした。
【0127】
表7の各実施例に対応した前記前駆体溶液をスピンコータ(3000rpm)により前記基板上に塗布した。この塗布層を150℃のホットプレートで1分間加熱して乾燥し、溶剤を除去した後、500℃の急速加熱型赤外線アニール炉(以下、RTA)で1分間焼成し第1層を形成した。次に、この第1層の上に第1層と同様にして第2層、第3層と積層を繰り返して計27層の積層膜を得た。最後に、窒素雰囲気700℃のRTAでこの積層膜を3分間焼成して結晶化させることにより膜厚250nm〜400nmの本発明の圧電材料による薄膜を得た。
表7に記載のx、j、k、l、m、nは、膜状である実施例1〜14および16〜65と同様にして算出した。
【0128】
X線回折測定によると、実施例66、67の圧電材料は(100)面に選択的に配向したペロブスカイト構造、実施例68の圧電材料はランダム配向性の多結晶のペロブスカイト構造であることがわかった。また、その結晶系は、正方晶構造と単斜晶構造を有する混在系、または単斜晶構造の単一系であった。
この薄膜状圧電材料の表面に100μmφの白金電極をスパッタリング法で設けて圧電素子とした。圧電素子の電気特性、圧電特性の測定結果は表7に示す通りである。
【0129】
(比較例15、16)
実施例66〜67と同様にして、表7に示す比較例15、16の目的組成の金属酸化物をCSD法により作製した。比較例15、16の金属酸化物は、A(ZnTi(1−j))O成分が含まれない固溶体である。
比較例15、16の金属酸化物はいずれも(100)面に選択的に配向したペロブスカイト型構造を有しており、その結晶系は菱面体晶構造の単一系であった。
【0130】
実施例66、67と同様にして比較例15、16の金属酸化物に電極を形成して、電気測定を行った。結果を表7に組成と共に示す。比較例15および比較例16の素子は高い絶縁性および強誘電性を有していた。また、比較例15および16の素子は明確な圧電性を示したが、表7に示す圧電定数(d33)は大きくない。
【0131】
【表2】

【0132】
【表3】

【0133】
【表4】

【0134】
【表5】

【0135】
【表6】

【0136】
【表7】

【0137】
【表8】

【0138】
図8は本発明の実施例1〜72および比較例1〜16の金属酸化物の組成の関係を示す三角相図である。
図8、表1、表2、表3、表4、表5、表6、表7、表8によると、本発明の圧電材料はどれも高い圧電性を有しており、比較例の金属酸化物よりも圧電性が優れていることが示唆された。
また、以上の実施例1〜72においては、MOCVD法、パルスレーザ堆積法、化学溶液堆積法および従来のバルク製法により本発明の圧電材料および圧電素子を作製したが、その他のセラミックスおよび金属酸化物薄膜の製造方法によっても同様の圧電材料を得ることができる。
【0139】
(実施例12、15、20、39、51による液体吐出ヘッドおよび超音波モータ)
実施例12、15、20、39、51と同じ圧電材料を用いて、図2および図3に示される液体吐出ヘッド及び超音波モータを作成した。液体吐出ヘッドでは、入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。超音波モータでは、交番電圧の印加に応じたモータの回転挙動が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明によれば、環境に有害な成分を含まずに高い圧電性を有する圧電材料を提供することができる。また、本発明は、前記圧電材料を用いた圧電素子、液体吐出ヘッドおよび超音波モータを提供することができる。本発明の圧電材料は、MEMS技術にも応用可能で、強誘電体メモリ、強誘電体センサ、圧電振動子、等の強誘電体材料および圧電材料を多く用いる機器に問題なく利用することができる。
【符号の説明】
【0141】
1 基板
2 下部電極
3 圧電材料
4 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物からなることを特徴とする圧電材料。
【化1】

(式中、AはBi元素または3価の金属元素から選択される少なくともBi元素を含む1種類以上の元素を表す。MはFe、Al、Sc、Mn、Y、Ga、Ybのうちの少なくとも1種の元素を表す。0.9≦x≦1.25、0.4≦j≦0.6、0.4≦k≦0.6、0.27≦l≦0.49、0.19≦m≦0.46、0.27≦n≦0.36、l+m+n=1である。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物からなることを特徴とする圧電材料。
【化2】

(式中、AはBi元素または3価の金属元素から選択される少なくともBi元素を含む1種類以上の元素を表す。MはFe、Al、Sc、Mn、Y、Ga、Ybのうちの少なくとも1種の元素を表す。0.9≦x≦1.25、0.4≦j≦0.6、0.4≦k≦0.6である。l+m+n=1であり、l、m、nは座標点A、B、C、D、E、F、G、H、I、Aで囲まれる範囲内である。但し、座標点A、B、C、Dおよび座標点A−Bの線上、座標点B−Cの線上、座標点C−Dの線上は上記範囲に含まない。)
A:(l,m,n)=(0.45,0.19,0.36)
B:(l,m,n)=(0.27,0.37,0.36)
C:(l,m,n)=(0.27,0.46,0.27)
D:(l,m,n)=(0.49,0.24,0.27)
E:(l,m,n)=(0.35,0.52,0.13)
F:(l,m,n)=(0.23,0.64,0.13)
G:(l,m,n)=(0.09,0.64,0.27)
H:(l,m,n)=(0.09,0.43,0.48)
I:(l,m,n)=(0.33,0.19,0.48)
【請求項3】
前記AがBi元素のみよりなることを特徴とする請求項1または2に記載の圧電材料。
【請求項4】
前記AがBi元素に加えて3価のランタノイドから選択される1種以上の元素も含むことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電材料。
【請求項5】
前記Aに含まれる元素がLa元素である請求項4に記載の圧電材料。
【請求項6】
前記Aにおいて前記Bi元素の占める比率が70モル%以上99.9モル%以下である請求項4または5に記載の圧電材料。
【請求項7】
前記MがFe、Alの少なくとも一方あるいは両者の元素よりなる請求項1〜6のいずれか一項に記載の圧電材料。
【請求項8】
前記MにMn元素を0.1モル%以上5モル%以下含む請求項7に記載の圧電材料。
【請求項9】
前記ペロブスカイト型金属酸化物の結晶系が少なくとも単斜晶構造を含んでいることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の圧電材料。
【請求項10】
前記ペロブスカイト型金属酸化物の結晶系が単斜晶構造のみを含んでいることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の圧電材料。
【請求項11】
前記圧電材料が、基板上に設けられた厚み200nm以上10μm以下の膜であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の圧電材料。
【請求項12】
前記圧電材料が、(001)面、(110)面または(111)面に選択的に配向していることを特徴とする請求項11に記載の圧電材料。
【請求項13】
圧電材料と、該圧電材料に接して設けられた一対の電極とを少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料が請求項1〜12のいずれか一項に記載の圧電材料であることを特徴とする圧電素子。
【請求項14】
前記圧電素子は基板上に設けられており、該基板が(100)面、(110)面または(111)面に配向した単結晶基板であることを特徴とする請求項13に記載の圧電素子。
【請求項15】
前記一対の電極の少なくとも一方がM1RuO(M1はSr、Ba、およびCaからなる群から選ばれた少なくとも1種を表す。)で表されるペロブスカイト型金属酸化物よりなることを特徴とする請求項13または14に記載の圧電素子。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか一項に記載の圧電素子を用いた液体吐出ヘッド。
【請求項17】
請求項13〜15のいずれか一項に記載の圧電素子を用いた超音波モータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−84828(P2012−84828A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292850(P2010−292850)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度文部科学省元素戦略プロジェクトの委託研究の成果で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(502350504)学校法人上智学院 (50)
【Fターム(参考)】