説明

基板処理装置および基板処理方法

【課題】基板表面に付着したパーティクル等の汚染物質を除去するための基板処理装置および基板処理方法において、高いスループットを得られ、しかも優れた処理性能でパーティクル等を除去する。
【解決手段】凍結後の液膜LF(凝固膜FF)の到達温度を低くすることによってパーティクルの除去効率を高めることができる。しかも、基板表面Wf全体に凝固膜FFが形成される前後で冷却ガスの流量を変更しているので、処理に要する時間を短縮しながら優れた処理性能でパーティクル等を除去することができる。特に、液膜LFを凍結させる段階での冷却ガスの流量については基板表面Wf上の液膜LFを吹き飛ばさない程度に抑えることが必要であるが、凝固膜FFが全面形成された後の段階ではこのような制約がなく、冷却ガスの流量を多くすることが可能であり、これにより冷却能力を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、光ディスク用基板などの各種基板表面に付着したパーティクル等の汚染物質を除去するための基板処理装置および基板処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板表面に付着したパーティクル等の汚染物質を除去するための処理の1つとして凍結洗浄技術が知られている。この技術では、基板表面に形成した液膜を凍結させた後、この凍結膜を除去することにより基板表面からパーティクル等を凍結膜とともに除去している。例えば、特許文献1に記載の技術においては、洗浄液としてのDIW(脱イオン水:deionized water)を基板表面に供給して液膜を形成した後、冷却ガスを吐出するノズルを基板表面近傍でスキャンさせることにより液膜を凍結させ、再度DIWを供給して凍結膜を解凍除去することによって、基板表面からのパーティクルの除去を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−071875号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、種々の実験の結果、凍結膜の温度とパーティクル除去率との間に一定の相関性があることを見出した。それは、単に液膜を凍結させるだけでなく、凍結膜の温度をさらに低下させることによってパーティクル除去率をより向上させることが可能であるということである。そこで、液膜を凍結させる際の種々の液膜冷却条件、つまり冷却ガスの温度、流量、ノズルのスキャン態様、雰囲気などを変更して凍結膜の温度低下を図ることが考えられる。
【0005】
しかしながら、冷却ガスによる液膜凍結の開始時点より液膜冷却条件を変更して液膜を冷却する能力(以下「冷却能力」という)を高めると、別の問題が発生してしまうことがある。例えば液膜冷却条件のひとつである冷却ガスの流量を増大させることで、より高い冷却能力で液膜を冷却すると、冷却ガスにより凍結された液膜(凍結膜、凝固膜とも称される)の温度を急速に低下させることができるが、冷却ガスの供給初期段階では液膜は未凍結であるため、冷却ガスの大量供給により液膜が吹き飛ばされて基板表面が部分的に乾いて露出してしまうという問題や風圧で膜厚分布が不均一となって処理の均一性が担保されないという問題が発生し、処理性能の低下を招いてしまう。
【0006】
また、上記問題が発生しない範囲内に冷却能力を設定した場合には、さらに別の問題が生じてしまう。例えば、従来装置において、凍結された液膜の温度を十分に低下させるためには、冷却ガスのスキャンを何度も繰り返す必要があり、処理時間が長くなったり、冷却ガスの消費量が増大するなどの問題があり、この点においてさらなる改良の余地が残されていた。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板表面に付着したパーティクル等の汚染物質を除去するための基板処理装置および基板処理方法において、高いスループットを得られ、しかも優れた処理性能でパーティクル等を除去することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかる基板処理装置は、上記目的を達成するため、表面に凝固対象液の液膜が形成された基板を保持する基板保持手段と、基板保持手段に保持された基板の表面に形成された凝固対象液の液膜を冷却して凝固体を形成する凝固手段と、基板表面に形成された液膜の温度を計測する温度計測手段と、基板表面に形成された凝固体を解凍除去する解凍除去手段と、温度計測手段で計測される液膜の温度に応じて凝固手段の冷却能力を高め、凝固体を冷却して凝固体の温度を低下させる制御手段とを備えることを特徴としている。
【0009】
また、この発明にかかる基板処理方法は、上記目的を達成するため、基板の表面に形成された凝固対象液の液膜を凝固手段により冷却して凝固体を形成する凝固工程と、基板表面に形成された凝固体を解凍除去する解凍除去工程とを備え、凝固工程は、基板表面に形成された液膜の温度に応じて凝固手段の冷却能力を高め、凝固体を冷却して凝固体の温度を低下させることを特徴としている。
【0010】
このように構成された発明(基板処理装置および基板処理方法)では、凝固手段によって基板の表面に形成された凝固対象液の液膜が冷却されて凝固体が基板表面に形成される。このように凝固体は液膜を凍結させることで形成されるものであり、液膜の温度に基づき凝固体形成を確認することができる。そして、この確認後に凝固手段の冷却能力が高められるとともに、この凝固手段によって凝固体が冷却されて凝固体の温度は低下する。このように凝固体の形成およびさらなる温度低下を凝固手段の冷却能力を変更しながら行うことで次の作用効果が得られる。
【0011】
この「凝固手段の冷却能力」とは、単位時間当たりに液膜から奪う熱量の大きさを意味しており、この冷却能力を切り替えることの技術的意義は、凝固対象液の液膜を凍結させるための処理条件と、液膜が凍結してなる凝固体を冷却するための処理条件とを個別に最適化する点にある。すなわち、液膜を凍結するまでに求められる処理条件と液膜の凍結後に求められる処理条件とは異なっている。例えば、液膜を凍結させる場合には、凍結中に液膜を吹き飛ばさないこと、液膜の厚みが均一に保たれること等が要求される。これに対し、液膜の凍結後においては、そのような制約はないがより短時間で凝固体を冷却して温度を低下させることが求められる。これらの要求を単一の処理態様で両立させることは困難である。そこで、液膜を凍結させる段階と、液膜凍結により形成された凝固体をさらに冷却する段階とを分けることで、それぞれにおける処理条件を個別に設定することができ、処理に要する時間を短縮しながら優れた処理性能でパーティクル等を除去することができる。
【0012】
また、本発明では、液膜の温度を計測し、その計測結果に基づき凝固体の形成を確認しているため、この確認を正確に行うことができ、適切なタイミングで凝固手段の冷却能力を変更することができる。したがって、凝固体が形成された後の比較的早いタイミングで冷却能力を高めて凝固体を冷却することができ、処理時間の短縮をより確実なものとすることができる。なお、本発明の「液膜の温度」とは、冷却されて凍結する前の液膜の温度および該液膜が凍結してなる凝固体の温度を含むものである。
【0013】
ここで、凝固手段としては種々の態様のものを採用することができるが、凝固対象液の凝固点より低い温度の気体を基板表面に形成される液膜に供給する態様の凝固手段を用いるのが好適である。また、このように気体供給により冷却する場合、気体の流量や温度を変更することで冷却能力を切り替えることができる。
【0014】
また、気体供給により冷却する場合、基板表面に対して相対的に移動自在に設けられたノズルから気体を吐出することで基板表面全体を気体により冷却することができる。しかも、基板表面に対するノズルの距離を変更することで凝固手段の冷却能力を容易に、しかも正確に制御することができる。
【0015】
また、基板表面に形成された凝固対象液の液膜や凝固体を冷却するためには、上記したように凝固対象液の液膜や凝固体を直接冷却するのみならず、基板の裏面に冷媒を供給して基板を冷却することで液膜や凝固体を間接的、かつ補助的に冷却してもよい。このように冷媒を用いた補助的な冷却を行う場合にも、温度計測手段により計測された液膜の温度に基づいて裏面冷却手段から基板裏面に単位時間当たりに供給される冷媒の量や温度を変更してもよい。これによって、液膜凍結および凝固体の温度低下をさらに促進することができ、スループットをさらに高めることができる。
【0016】
さらに、基板周辺の雰囲気を排気する排気手段をさらに設け、温度計測手段により計測された液膜の温度に基づいて基板周辺から排気される排気流量を変更してもよい。すなわち、基板周辺の雰囲気の排気をコントロールすることで雰囲気温度を調整することができ、その雰囲気温度の変更により冷却能力を変更することが可能となっている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基板表面に形成された液膜の温度に応じて凝固手段の冷却能力を高め、その凝固手段で凝固体を冷却して凝固体の温度を低下させているため、処理性能を低下させることなく、高いスループットでパーティクル等を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】凍結洗浄技術における液膜の温度とパーティクル除去効率との関係を示すグラフである。
【図2】この発明にかかる基板処理装置の第1実施形態を示す図である。
【図3】図2の基板処理装置における窒素ガスおよびDIWの供給態様を示す図である。
【図4】図2の基板処理装置におけるアームの動作態様を示す図である。
【図5】図2の基板処理装置の動作を模式的に示す図である。
【図6】本発明にかかる基板処理装置の第2実施形態を示す図である。
【図7】本発明にかかる基板処理装置の第5実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<液膜の温度とパーティクル除去効率との関係>
従来の凍結洗浄技術では液膜を凍結させているものの、凍結後の液膜温度についてはあまり考慮されていなかった。しかしながら、DIWによる液膜を用いた本願発明者らの実験によれば、図1に示すように、単に液膜を凍結させるだけではなく、凍結後の液膜の到達温度が低くなるほどパーティクル除去効率が高まることが明らかとなった。なお、ここでは、凍結前の液膜の温度および該液膜が凍結してなる凝固体の温度を総称して「液膜の温度」と称している。
【0020】
図1は、いわゆる凍結洗浄技術における液膜の温度とパーティクル除去効率との関係を示すグラフであり、具体的には、次の実験により得られたものである。この実験では、基板の代表例としてベア状態(全くパターンが形成されていない状態)のSiウエハ(ウエハ径:300mm)を選択している。また、パーティクルとしてSi屑(粒径;0.08μm以上)によって基板表面が汚染されている場合について評価を行っている。
【0021】
まず最初に、枚葉式の基板処理装置(大日本スクリーン製造社製、スピンプロセッサSS−3000)を用いてウエハを強制的に汚染させる。具体的には、ウエハを回転させながら、ウエハと対向配置されたノズルよりパーティクル(Si屑)を分散させた分散液をウエハに供給する。ここでは、ウエハ表面に付着するパーティクルの数が約10000個となるように、分散液の液量、ウエハ回転数および処理時間を適宜調整する。その後、ウエハ表面に付着しているパーティクルの数(初期値)を測定する。なお、パーティクル数の測定はKLA−Tencor社製のウエハ検査装置SP1を用いて、ウエハの外周から3mmまでの周縁領域を除去(エッジカット)として残余の領域にて評価を行っている。
【0022】
次に、各ウエハに対して以下の洗浄処理を行う。まず、150rpmで回転するウエハに、0.5℃に温度調整されたDIWを6秒間吐出してウエハを冷却する。その後、DIWの吐出を停止して2秒間その回転数を維持し、余剰のDIWを振りきって液膜を形成する。液膜形成後、ウエハ回転数を50rpmに減速し、その回転数を維持しながらスキャンノズルにより温度−190℃の窒素ガスを流量90[L/min]でウエハ表面に対し吐出する。ノズルのスキャンはウエハの中心とウエハの端を20秒で往復させて行う。図1の黒四角はスキャン回数に対応し、図1中左からスキャン1回、2回の順でスキャン5回までの結果が表示されている。このように、スキャン回数を変更することで液膜の凍結後の温度を変更している。
【0023】
上記の冷却が終了した後、ウエハの回転数を2000rpmとし、80℃に温度調整されたDIWを4.0[L/min]の流量で2秒間吐出した後、ウエハの回転数を500rpmとし、リンス液として常温のDIWを1.5[L/min]の流量で30秒間供給し、ウエハのリンス処理を行う。その後ウエハを高速回転してスピンドライする。
【0024】
こうして、一連の洗浄処理を施したウエハの表面に付着しているパーティクル数を測定する。それから、凍結洗浄後のパーティクル数と先に測定した初期(凍結洗浄処理前)のパーティクル数とを対比することで除去率を算出している。こうして得られたデータをプロットしたものが図1に示すグラフである。
【0025】
同図から明らかなように、単に液膜を凍結させるだけではなく、凍結後の液膜の到達温度が低くなるほどパーティクル除去効率が高まる。つまり、冷却ガスによって基板上のDIW液膜を凍結させた後、液膜が凍結してなる凝固膜(凝固体)をさらに冷却して最終到達温度を低下させることで、洗浄効果を高めることが可能である。
【0026】
次に、液膜凍結の過程について考察してみる。液膜を形成されたウエハに冷却ガスを供給開始すると、液膜温度は次第に低下し始める。そして、液膜温度が0℃に達すると液膜の凍結が始まり、液膜全体が凍結するまでは液膜温度はほぼ0℃に保たれる。ここで、液膜凍結の初期段階では、冷却ガスは未凍結の液膜に対して供給されるため、液膜を吹き飛ばしたりウエハ表面を露出させることがないように流量を抑える必要がある。そして、このように流量を抑えたまま液膜全体が凍結した後も冷却ガスの供給を続ければ、液膜温度はさらに低下するが、冷却ガスによる液膜温度の低下は比較的緩やかとなり、液膜温度の低下に長時間を要してしまう。
【0027】
ここで、液膜全体が凍結した後においては、液膜が吹き飛ばされるおそれも少なく、また液膜の厚み変動も生じない。このことから、液膜が完全に凍結した後、つまり液膜温度は0℃に到達した後においては液膜温度を低下させるのに適した液膜冷却条件に切り替えることで、より短時間で液膜温度を低下させることが可能となる。
【0028】
そこで、上記知見に鑑み、以下の実施形態では基板の表面に形成された液膜の温度を計測し、その液膜温度に応じて液膜冷却条件(凝固手段の冷却能力)を調整して上記目的を達成している。以下、実施形態について図面を参照しつつ詳述する。
【0029】
<実施形態>
図2はこの発明にかかる基板処理装置の第1実施形態を示す図である。また、図3は図2の基板処理装置における窒素ガスおよびDIWの供給態様を示す図である。さらに、図4は図2の基板処理装置におけるアームの動作態様を示す図である。この装置は半導体ウエハ等の基板Wの表面Wfに付着しているパーティクル等の汚染物質を除去するための基板洗浄処理を実行可能な枚葉式の基板処理装置である。より具体的には、微細パターンが形成された基板表面Wfについて、その表面Wfに液膜を形成してそれを凍結させて凝固膜(凝固体)を形成した後、該凝固膜を解凍除去することで凝固膜とともにパーティクル等を基板表面から除去する凍結洗浄処理を実行する基板処理装置である。凍結洗浄技術については上記特許文献1を始めとして多くの公知文献があるので、この明細書では詳しい説明を省略する。
【0030】
この基板処理装置は処理チャンバ1を有しており、当該処理チャンバ1内部において基板Wの表面Wfを上方に向けて略水平姿勢に保持した状態で、基板Wを回転させるためのスピンチャック2を有している。このスピンチャック2の中心軸21の上端部には、図3に示すように、円板状のスピンベース23がネジなどの締結部品によって固定されている。この中心軸21はモータを含むチャック回転機構22の回転軸に連結されている。そして、装置全体を制御する制御ユニット4からの動作指令に応じてチャック回転機構22が駆動されると、中心軸21に固定されたスピンベース23が回転中心AOを中心に回転する。
【0031】
また、スピンベース23の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持するための複数個のチャックピン24が立設されている。チャックピン24は、円形の基板Wを確実に保持するために3個以上設けてあればよく、スピンベース23の周縁部に沿って等角度間隔で配置されている。各チャックピン24のそれぞれは、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持部と、基板支持部に支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持部とを備えている。また、各チャックピン24は、基板保持部が基板Wの外周端面を押圧する押圧状態と、基板保持部が基板Wの外周端面から離れる解放状態との間を切り替え可能に構成されている。
【0032】
そして、スピンベース23に対して基板Wが受渡しされる際には、各チャックピン24を解放状態とし、基板Wに対して洗浄処理を行う際には、各チャックピン24を押圧状態とする。各チャックピン24を押圧状態とすると、各チャックピン24は基板Wの周縁部を把持して、基板Wがスピンベース23から所定間隔を隔てて略水平姿勢に保持されることとなる。これにより、基板Wは、その表面Wfを上方に向け、裏面Wbを下方に向けた状態で保持される。
【0033】
また、上記のように構成されたスピンチャック2の上方には遮断部材9が配置されている。この遮断部材9は、中心部に開口を有する円板状に形成されている。また、遮断部材9の下面は、基板Wの表面Wfと略平行に対向する基板対向面となっており、基板Wの直径と同等以上の大きさに形成されている。この遮断部材9は支持軸91の下端部に略水平に取り付けられている。この支持軸91は、水平方向に延びるアーム92により、基板Wの中心を通る鉛直軸回りに回転可能に保持されている。また、アーム92には、遮断部材回転・昇降機構93が接続されている。
【0034】
遮断部材回転・昇降機構93は、制御ユニット4からの動作指令に応じて、支持軸91を基板Wの中心を通る鉛直軸回りに回転させる。また、制御ユニット4は、遮断部材回転・昇降機構93の動作を制御して、スピンチャック2に保持された基板Wの回転に応じて基板Wと同じ回転方向でかつ略同じ回転速度で遮断部材9を回転させる。また、遮断部材回転・昇降機構93は、制御ユニット4からの動作指令に応じて、遮断部材9をスピンベース23に近接させたり、逆に離間させる。具体的には、制御ユニット4は、遮断部材回転・昇降機構93の動作を制御して、基板処理装置に対して基板Wを搬入出させる際には遮断部材9をスピンチャック2の上方の離間位置(図2に示す位置)に上昇させる一方、基板Wに対して所定の処理を施す際には遮断部材9をスピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfのごく近傍に設定された対向位置まで下降させる。
【0035】
図3に示すように、遮断部材9の支持軸91は中空になっており、その内部に、遮断部材9の下面(基板対向面)で開口するガス供給管95が挿通されている。このガス供給管95は乾燥ガス供給ユニット61に接続されている。この乾燥ガス供給ユニット61は、窒素ガス供給源(図示省略)から供給される窒素ガスを基板Wに供給するもので、マスフローコントローラ(MFC)611と、開閉バルブ612とを有している。このマスフローコントローラ611は制御ユニット4からの流量指令に応じて窒素ガスの流量を高精度に調整可能となっている。また、開閉バルブ612は制御ユニット4からの開閉指令に応じて開閉してマスフローコントローラ611で流量調整された窒素ガスの供給/停止を切り替える。このため、制御ユニット4が乾燥ガス供給ユニット61を制御することで、流量調整された窒素ガスが基板Wを乾燥させるための乾燥ガスとして適当なタイミングで遮断部材9と基板Wの表面Wfとの間に形成される空間に向けてガス供給管95から供給される。なお、この実施形態では、乾燥ガス供給ユニット61からの乾燥ガスとして窒素ガスを供給しているが、空気や他の不活性ガスなどを供給するようにしてもよい。
【0036】
ガス供給管95の内部には、液体供給管96が挿通されている。この液体供給管96の下方端部は遮断部材9の下面で開口しており、その先端に液体吐出ノズル97が設けられている。一方、液体供給管96の上方端部はDIW供給ユニット62に接続されている。このDIW供給ユニット62はDIW供給源(図示省略)から供給される常温のDIWをリンス液として基板Wに供給し、また80℃程度まで昇温した高温DIWを解凍除去処理用として基板Wに供給するもので、以下のように構成されている。ここでは、DIW供給源に対して2系統の配管経路が設けられている。そのうちの一つである、リンス処理用の配管経路には、流量調整弁621と開閉バルブ622とが介挿されている。この流量調整弁621は制御ユニット4からの流量指令に応じて常温DIWの流量を高精度に調整可能となっている。また、開閉バルブ622は制御ユニット4からの開閉指令に応じて開閉して流量調整弁621で流量調整された常温DIWの供給/停止を切り替える。
【0037】
また、もう一方の解凍除去処理用配管経路には、流量調整弁623、加熱器624および開閉バルブ622が介挿されている。この流量調整弁623は制御ユニット4からの流量指令に応じて常温DIWの流量を高精度に調整して加熱器624に送り込む。そして、加熱器624は送り込まれた常温DIWを80℃程度に加熱し、その加熱されたDIW(以下「高温DIW」という)を開閉バルブ625を介して送り出す。なお、開閉バルブ625は制御ユニット4からの開閉指令に応じて開閉して高温DIWの供給/停止を切り替える。こうして、DIW供給ユニット62から送り出される常温DIWや高温DIWは適当なタイミングで基板Wの表面Wfに向けて液体吐出ノズル97から吐出される。
【0038】
また、スピンチャック2の中心軸21は円筒状の空洞を有する中空になっており、中心軸21の内部には、基板Wの裏面Wbにリンス液を供給するための円筒状の液供給管25が挿通されている。液供給管25は、スピンチャック2に保持された基板Wの下面側である裏面Wbに近接する位置まで延びており、その先端に基板Wの下面の中央部に向けてリンス液を吐出する液吐出ノズル27が設けられている。液供給管25は、上記したDIW供給ユニット62に接続されており、基板Wの裏面Wbに向けてDIWをリンス液として供給する。
【0039】
また、中心軸21の内壁面と液供給管25の外壁面との隙間は、横断面リング状のガス供給路29になっている。このガス供給路29は乾燥ガス供給ユニット61に接続されており、乾燥ガス供給ユニット61からガス供給路29を介してスピンベース23と基板Wの裏面Wbとの間に形成される空間に窒素ガスが供給される。
【0040】
また、図2に示すように、この実施形態では、スピンチャック2の周囲にスプラッシュガード51が、スピンチャック2に水平姿勢で保持されている基板Wの周囲を包囲するようにスピンチャック2の回転軸に対して昇降自在に設けられている。このスプラッシュガード51は回転軸に対して略回転対称な形状を有している。そして、ガード昇降機構52の駆動によりスプラッシュガード51を段階的に昇降させることで、回転する基板Wから飛散する液膜形成用DIW、リンス液やその他の用途のために基板Wに供給される処理液などを分別して処理チャンバ1内から図示を省略する排液処理ユニットへ排出することが可能となっている。
【0041】
また、この処理チャンバ1の底面部には複数の排気口11が設けられ、これらの排気口11を介して処理チャンバ1の内部空間は排気ユニット63に接続されている。この排気ユニット63は排気ダンパーと排気ポンプとを有しており、排気ダンパーの開閉度合いを制御することで排気ユニット63による排気量を調整可能となっている。そして、制御ユニット4は排気ダンパーの開閉量に関する指令を排気ユニット63に与えることで処理チャンバ1からの排気量を調整して内部空間における温度や湿度などを制御する。
【0042】
この基板処理装置では、冷却ガス吐出ノズル7がスピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfに向けて液膜凍結用冷却ガスを吐出可能に設けられている。すなわち、冷却ガス吐出ノズル7は次のように構成された冷却ガス供給ユニット64に接続されている。この冷却ガス供給ユニット64は、図3に示すように、熱交換器641を有している。この熱交換器641の容器642は内部に液体窒素を貯留するタンク状となっており、液体窒素温度に耐えうる材料、例えば、ガラス、石英またはHDPE(高密度ポリエチレン:High Density Polyethylene)により形成されている。なお、容器642を断熱容器で覆う二重構造を採用してもよい。この場合、外部容器は、処理チャンバ外部の雰囲気と容器642との間での熱移動を抑制するために、断熱性の高い材料、例えば発泡性樹脂やPVC(ポリ塩化ビニル樹脂:polyvinyl chloride)などにより形成するのが好適である。
【0043】
容器642には、液体窒素を取り入れる液体窒素導入口643が設けられている。この液体窒素導入口643は開閉バルブ644を介して液体窒素供給源(図示省略)と接続されており、制御ユニット4からの開指令に応じて開閉バルブ644が開くと、液体窒素供給源から送出される液体窒素が容器642内に導入される。また、容器642内には液面センサ(図示省略)が設けられており、この液面センサによる検出結果が制御ユニット4に入力され、制御ユニット4によるフィードバック制御により開閉バルブ644の開閉が制御されて容器642内の液体窒素の液面レベルを高精度に制御可能となっている。なお、この第1実施形態では、液体窒素の液面レベルが一定となるようにフィードバック制御し、これによって冷却ガスの温度の安定化を図っている。
【0044】
また、容器642の内部には、ステンレス、銅などの金属管で形成されたコイル状の熱交換パイプ645がガス通送路として設けられている。熱交換パイプ645は容器642に貯留された液体窒素に浸漬されており、その一方端がマスフローコントローラ(MFC)646を介して窒素ガス供給源(図示省略)と接続されており、窒素ガス供給源から窒素ガスが供給される。これにより、窒素ガスが熱交換器641内で液体窒素によりDIWの凝固点よりも低い温度に冷やされて冷却ガスとして熱交換パイプ645の他方端から開閉バルブ647を介して冷却ガス吐出ノズル7に送出される。
【0045】
こうして作成された冷却ガスの送り先である冷却ガス吐出ノズル7は、図2に示すように、水平に延設された第1アーム71の先端部に取り付けられている。この第1アーム71は、処理チャンバ1の天井部より垂下する回転軸72により後端部が回転中心軸J1周りに回転自在に支持されている。そして、回転軸72に対して第1アーム昇降・回転機構73が連結されており、制御ユニット4からの動作指令に応じて回転軸72が回転中心軸J1周りに回転駆動され、また上下方向に昇降駆動され、その結果、第1アーム71の先端部に取り付けられた冷却ガス吐出ノズル7が図4に示すように基板表面Wfの上方側で移動する。
【0046】
また本実施形態では、冷却ガス吐出ノズル7と同様にして、冷水吐出ノズル8が基板表面Wfの上方側で移動可能に構成されている。この冷水吐出ノズル8は、スピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfに向けて液膜を構成する液体(本発明の「凝固対象液」に相当)として常温よりも低い、例えば0〜2℃、好ましくは0.5℃程度にまで冷却されたDIWを供給するものである。すなわち、冷水吐出ノズル8は冷水供給ユニット65に接続され、冷水供給ユニット65によって常温のDIWを0.5℃程度にまで冷却した上で冷水吐出ノズル8に送り出す。なお、この冷水供給ユニット65は、図3に示すように、流量調整弁651、冷却器652および開閉バルブ653を有している。この流量調整弁651は制御ユニット4からの流量指令に応じて常温DIWの流量を高精度に調整して冷却器652に送り込む。そして、冷却器652は送り込まれた常温DIWを0.5℃程度にまで冷却し、その冷水(冷却されたDIW)を開閉バルブ653を介して送り出す。
【0047】
このように冷水供給を受けるノズル8を回転中心軸J2周りに回転し、また上下方向に昇降移動させるために、水平に延設された第2アーム81の後端部が回転軸82により回転中心軸J2周りに回転自在に支持されている。一方、第2アーム81の先端部には、冷水吐出ノズル8が下方に吐出口(図示省略)を向けた状態で取り付けられている。さらに、回転軸82に対して第2アーム昇降・回転機構83が連結されており、制御ユニット4からの動作指令に応じて回転軸82が回転中心軸J2周りに回転駆動され、また上下方向に昇降駆動され、その結果、第2アーム81の先端部に取り付けられた冷水吐出ノズル8が以下のように基板表面Wfの上方側で移動する。
【0048】
冷却ガス吐出ノズル7および冷水吐出ノズル8はそれぞれ独立して基板Wに対して相対的に移動することが可能となっている。すなわち、図4に示すように、制御ユニット4からの動作指令に基づき第1アーム昇降・回転機構73が駆動されて第1アーム71が回転中心軸J1周りに揺動すると、第1アーム71に取り付けられた冷却ガス吐出ノズル7は、スピンベース23の回転中心上に相当する回転中心位置Pcと基板Wの対向位置から側方に退避した待機位置Ps1との間を移動軌跡T1に沿って水平移動する。すなわち、第1アーム昇降・回転機構73は、冷却ガス吐出ノズル7を基板Wの表面Wfに沿って基板Wに対して相対移動させる。
【0049】
また、制御ユニット4からの動作指令に基づき第2アーム昇降・回転機構83が駆動されて第2アーム81が回転中心軸J2周りに揺動すると、第2アーム81に取り付けられた冷水吐出ノズル8は第1アーム71の待機位置Ps1と異なる別の待機位置Ps2と、回転中心位置Pcとの間を移動軌跡T2に沿って水平移動する。すなわち、第2アーム昇降・回転機構83は、冷水吐出ノズル8を基板Wの表面Wfに沿って基板Wに対して相対移動させる。
【0050】
さらに、本実施形態では、上記のように冷水吐出ノズル8が取り付けられた第2アーム81に対して放射温度計5が取り付けられている。より詳しくは、図4に示すように、第2アーム81の待機位置Ps2側(同図の右手側)の先端側面に放射温度計5が固定されており、上記のようにして第2アーム81が移動することに伴い、移動軌跡T2とほぼ同一の軌跡に沿って移動して位置決めされる。例えば、同図の点線で示すように、第2アーム81が回転中心位置Pcに移動して位置決めされると、放射温度計5もほぼスピンベース23の回転中心上に位置し、後述するように基板表面Wfに形成される凝固対象液(本実施形態ではDIW)の液膜および凝固体の表面中央部の温度を非接触で計測可能となる。また、第2アーム81の揺動に伴い放射温度計5は基板表面Wfの中央部から距離Dだけ離れた位置に位置決めされ、その位置の下方に存在する凝固対象液の液膜(液膜を凍結してなる凝固体を含む)の温度を非接触で計測する。なお、この明細書では、放射温度計5による計測位置を特定するために、基板表面Wfの中央部に相当する位置を「P(0)」と称するとともに、基板表面Wfの中央部から距離Dだけ離間した位置を「P(D)」と称する。例えば、直径300mmの基板Wを処理対象とする装置では、距離Dの最大値は150mmであり、位置P(0)から位置P(150)までの範囲で液膜の温度を計測可能となっている。
【0051】
図5は図2の基板処理装置の動作を模式的に示す図である。この装置では、未処理の基板Wが装置内に搬入されると、制御ユニット4が装置各部を制御して該基板Wに対して一連の洗浄処理が実行される。ここでは、予め基板Wが表面Wfを上方に向けた状態で基板Wが処理チャンバ1内に搬入されてスピンチャック2に保持される一方、図2に示すように遮断部材9がその下面を対向させたままアーム71、81と干渉しない上方位置まで待避している。
【0052】
基板Wの搬入後、制御ユニット4はチャック回転機構22を駆動させてスピンチャック2を回転させるとともに、第2アーム昇降・回転機構83を駆動させて第2アーム81を回転中心位置Pcに移動して位置決めする。これによって、冷水吐出ノズル8は図5(a)に示すように基板表面Wfの中央部の上方に位置する。そして、制御ユニット4は冷水供給ユニット65の開閉バルブ657を開いて冷水吐出ノズル8から低温のDIWを基板表面Wfに供給する。基板表面Wfに供給されたDIWには、基板Wの回転に伴う遠心力が作用し、基板Wの径方向外向きに均一に広げられ、その一部が基板外に振り切られる。これによって、基板表面Wfの全面にわたって液膜の厚みを均一にコントロールして、基板表面Wfの全体に所定の厚みを有する液膜(水膜)が形成される。なお、液膜形成に際して、上記のように基板表面Wfに供給されたDIWの一部を振り切ることは必須の要件ではない。例えば、基板Wの回転を停止させた状態あるいは基板Wを比較的低速で回転させた状態で基板WからDIWを振り切ることなく基板表面Wfに液膜を形成してもよい。
【0053】
この状態では、基板Wの表面Wfに所定厚さのパドル状液膜LFが形成されている。こうして、液膜形成が終了すると、制御ユニット4は第2アーム昇降・回転機構83を駆動させて第2アーム81を待機位置Ps2側に移動して放射温度計5を基板中央部から距離140mmだけ離れた位置P(140)に位置決めする。これにより、基板Wの表面周縁部における液膜LFの温度を放射温度計5によって非接触で計測可能となる。なお、放射温度計5により計測される液膜LFの温度はリアルタイムで制御ユニット4に送られる。
【0054】
また、第2アーム81の移動後または移動に連動して制御ユニット4は第1アーム昇降・回転機構73を駆動させて第1アーム81を回転中心位置Pcに移動して位置決めする。そして、図5(b)に示すように、回転する基板Wの表面Wfに向けて冷却ガス吐出ノズル7から冷却ガスを吐出させながら、冷却ガス吐出ノズル7を徐々に基板Wの端縁位置に向けて移動させていく。これにより、基板表面Wfの表面領域に形成された液膜LFが冷やされて部分的に凍結し、凝固体FR(凝固膜FFの一部)が基板表面Wfの中央部に形成される。なお、このように液膜LFを凍結させる際には、制御ユニット4は冷却ガス供給ユニット64のマスフローコントローラ646を制御して冷却ガスの流量(つまり単位時間当たりの冷却ガス量)を液膜LFの凍結に適した値に抑えている。このように冷却ガスの流量を抑制することで、基板表面Wfが部分的に乾いて露出してしまうという問題や風圧で膜厚分布が不均一となって処理の均一性が担保されないという問題が発生するのを防止している。
【0055】
そして、方向Dn1へのノズル7のスキャンによって凍結領域、つまり凝固体FRは基板表面Wfの中央部から周縁部へと広げられ、例えば図5(c)に示すように、スキャン途中に基板表面Wfの液膜全面が凍結して凝固膜FFが形成される。この全面凍結タイミングについては、放射温度計5の計測結果をモニターすることで正確に求めることができる。つまり、液膜LFが全面凍結されて凝固膜FFが形成されると、放射温度計5による位置P(140)での計測値はほぼ0℃となる。そこで、本実施形態では、制御ユニット4は、放射温度計5の計測値がゼロに到達したことをもって、基板表面Wfの液膜全面の凍結が完了したと判断し、同図(c)に示すように、ノズル7のスキャン途中であっても制御ユニット4は冷却ガス供給ユニット64のマスフローコントローラ646を制御して冷却ガスの流量を増大させて冷却能力を高め、凝固膜FFに冷却ガスを吐出する。これにより、凝固膜FFの温度が急激に低下する。なお、冷却ガスの流量を増大させた際には、凍結時と同一回転数で基板Wを回転させると、基板温度の分布が不均一になりやすくなるため、本実施形態では流量増加とともに基板Wの回転数を増大させている。
【0056】
放射温度計5により計測される凝固膜FFの温度が予め設定した値、例えば−30℃に達すると、制御ユニット4はノズル8からの冷却ガスの吐出を停止し、第1アーム71および第2アーム81をそれぞれ待機位置Ps1、Ps2に移動させて基板表面Wfから両ノズル7、8を待避させる。その後、遮断部材9を基板表面Wfに近接配置し、さらに遮断部材9に設けられたノズル97から基板表面Wfの凍結した液膜に向けて80℃程度に昇温された高温DIWを供給して凝固膜(凝固体)FFを解凍除去する(解凍除去処理)。それに続いて、リンス液として常温のDIWを基板表面Wに供給し、基板Wのリンス処理を行う。
【0057】
ここまでの処理が実行された時点では、基板Wが遮断部材9とスピンベース23との間に挟まれながら回転する状態で、基板Wの表面にDIWが供給されている。ここで、基板表面Wfへの高温DIWおよび常温DIWの供給と並行して、ノズル27からも高温DIWおよび常温DIWを供給してもよい。続いて基板WへのDIWの供給を停止し、基板Wを高速回転により乾燥させるスピン乾燥処理を行う。すなわち、遮断部材9に設けられたノズル97およびスピンベース23に設けられた下面ノズル27から乾燥ガス供給ユニット61により供給される乾燥用の窒素ガスを吐出させながら基板Wを高速度で回転させることにより、基板Wに残留するDIWを振り切り基板Wを乾燥させる。こうして乾燥処理が終了すると、処理済みの基板Wを搬出することによって1枚の基板に対する処理が完了する。
【0058】
以上のように、本実施形態によれば、凍結後の液膜LF、つまり凝固膜FFの到達温度を低くすることによってパーティクルの除去効率を高めることができる。しかも、基板表面Wf全体に凝固膜FFが形成される前後で冷却ガスの流量を変更しているので、次の作用効果が得られる、すなわち、既述のとおり、液膜LFが凍結するまでに求められる処理条件と液膜LFの凍結後に求められる処理条件とは異なっているが、冷却ガスの流量を、液膜LFを凍結させる段階と凍結した液膜LF(つまり凝固膜FF)をさらに冷却する段階とで切り替えることで、それぞれにおける処理条件を個別に設定することができ、処理に要する時間を短縮しながら優れた処理性能でパーティクル等を除去することができる。特に、前記したように、液膜LFを凍結させる段階での冷却ガスの流量については基板表面Wf上の液膜LFを吹き飛ばさない程度に抑えることが必要であるが、凝固膜FFが全面形成された後の段階では冷却ガスについてはこのような問題がないのでより流量を多くすることが可能であり、これにより冷却能力を高めることができる。
【0059】
また、位置P(140)においる液膜LFおよび凝固膜FFの温度を放射温度計5により非接触で計測し、その計測結果に基づき凝固膜FFの全面形成を確認しているため、この確認を正確に行うことができ、適切なタイミングで冷却ガスの流量を切り替えて冷却能力を変更することができる。
【0060】
このように、第1実施形態では、凝固膜FFが本発明の「凝固体」に相当し、スピンチャック2が本発明の「基板保持手段」に相当し、放射温度計5が本発明の「温度計測手段」に相当し、制御ユニット4が本発明の「制御手段」に相当している。また、冷却ガス吐出ノズル7および冷却ガス供給ユニット64が本発明の「凝固手段」として機能している。さらに、ノズル97およびDIW供給ユニット62が本発明の「解凍除去手段」として機能している。
【0061】
図6は本発明にかかる基板処理装置の第2実施形態を示す図である。この第2実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、放射温度計5の配設位置と、冷却ガスの流量切替タイミングであり、その他の構成および動作を基本的に共通である。すなわち、第2実施形態では、図6に示すように、第1アーム71に取り付けられている。より具体的には、第1アーム71の待機位置Ps1側(同図の左手側)の先端側面に放射温度計5が固定されており、上記のようにして第1アーム71が移動することに伴い、移動軌跡T1とほぼ同一の軌跡に沿って移動して位置決めされる。また、このように放射温度計5はノズル7に並設されているため、常にノズル7の吐出口(図示省略)に近い領域、つまりノズル7から吐出された冷却ガスが供給される領域での液膜LFの温度を計測することが可能となっている。したがって、制御ユニット4は放射温度計5の計測結果をモニターすることで冷却ガスが供給されている領域(以下、「ガス供給領域」という)が凍結しているか否かを正確にリアルタイムで検出することができる。
【0062】
そこで、本実施形態では、同図(a)に示すようにノズル8からの冷水により液膜LFを形成すると、制御ユニット4は、第2アーム昇降・回転機構83を駆動させて第2アーム81を待機位置Ps2に移動させた後あるいはその移動に連動して、第1アーム昇降・回転機構73を駆動させて第1アーム81を回転中心位置Pcに移動して位置決めする。そして、回転する基板Wの表面Wfに向けて冷却ガス吐出ノズル7から冷却ガスを吐出させながら、冷却ガス吐出ノズル7を徐々に基板Wの端縁位置に向けて移動させていく。これにより、基板表面Wfの表面領域に形成された液膜LFが冷やされて部分的に凍結し、凍結した凝固体FRが基板表面Wfの中央部に形成される(同図(b))。なお、この段階では制御ユニット4は冷却ガス供給ユニット64のマスフローコントローラ646を制御して冷却ガスの流量を液膜LFの凍結に適した値に抑えている。
【0063】
また、制御ユニット4は上記のようにして液膜LFの凍結を実行しながら放射温度計5により計測される液膜の温度、つまりノズル7の吐出口直下で冷却ガスの流速の影響を受けるガス供給領域の温度を検知する。したがって、例えば同図(c)に示すように、ガス供給領域で液膜LFが凍結されて凝固体FRが形成されている場合には、液膜の温度は0℃に到達している。そこで、本実施形態では、液膜LFの全体は凍結されて凝固膜FFが形成されているか否かを問わず、液膜LFの温度に基づきガス供給領域に凝固体FRが形成されていることを確認すると、制御ユニット4は第1実施形態と同様に冷却ガス供給ユニット64のマスフローコントローラ646および開閉バルブ647を制御して冷却ガスの流量を増大させて冷却能力を高め、ノズル7の吐出口から大流量の冷却ガスを吐出する。これにより、液膜LF全体が凍結されて凝固膜FFが形成されるのを待たず、ノズル7の吐出口直下の凝固体FRの温度が急激に低下する。
【0064】
以上のように、第2実施形態においては、液膜LFの全面が凍結される前に冷却ガスの流量を増大させて冷却能力を高めているため、スループットを第1実施形態よりも向上させることができる。もちろん、上記したようにノズル7の吐出口直下で冷却ガスの流速の影響を受けるガス供給領域が凝固体FRとなっていることを確認した上で冷却ガスの流量を増大しているため、未凍結状態の液膜LFに対して大流量の冷却ガスが供給されることなく、基板表面Wfが部分的に乾いて露出してしまうという問題や風圧で膜厚分布が不均一となって処理の均一性が担保されないという問題を発生させることはない。
【0065】
ところで、上記実施形態では、冷却ガスの流量を制御することで冷却能力を変更しているが、流量制御とは別個に、あるいは流量制御とともに、冷却ガスの温度を制御して冷却能力を変更してもよい(第3実施形態)。すなわち、図3に示すように冷却ガス供給ユニット64では、開閉バルブ644の開閉制御により容器642内の液体窒素の液面レベルを高精度に制御することが可能である。そして、液面レベルの変化によって、容器642内で熱交換パイプ645が液体窒素に浸漬する割合を調整することができ、その結果、冷却ガスの温度を制御することができる。そこで、第1実施形態のように位置P(140)に配置された放射温度計5によって液膜LFの温度がゼロに達したこと、第2実施形態のように第1アーム71に固定された放射温度計5によってガス供給領域の温度がゼロに達したことが確認されると、それに応じて冷却ガスの温度を低下させて冷却能力を高めるように構成してもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、冷却ガスの流量や温度を制御することにより冷却能力を変更しているが、上下方向におけるノズル7と基板Wとの距離を制御することで冷却能力を変更させてもよい(第4実施形態)。すなわち、図2に示す装置では、第1アーム昇降・回転機構73により第1アーム71を昇降することで基板Wに対するノズル7の高さ位置を制御可能となっている。そこで、制御ユニット4が上記実施形態と同様に放射温度計5の計測結果に基づきノズル7の高さ位置を切り替えて冷却能力を変更することができる。
【0067】
また、上記実施形態では、基板表面Wfに冷却ガスを供給して液膜LFを凍結して凝固膜FFを形成しているが、例えば図7に示すように、冷却ガス供給ユニット64から送出される冷却ガスを単に液膜LFに供給するのみならず、ガス供給路29を介して基板Wの裏面Wbに供給して基板Wを補助的に冷却し、これによって液膜LFの凍結を促進させることができる。このような構成を採用した基板処理装置においては、基板裏面Wbに供給する冷却ガスの流量や温度を制御することで冷却能力を変更させることができる(第5実施形態)。
【0068】
このように第5実施形態では、冷却ガス供給ユニット64は本発明の「裏面冷却手段」としても機能している。また、基板裏面Wbに対して供給可能な冷媒は上記した冷却ガスに限定されるものではなく、例えば冷却液体をノズル27から基板裏面Wbに供給し、その冷却液体の流量や温度を制御することで冷却能力を変更させてよい。すなわち、基板の裏面に冷媒を供給して基板を冷却する裏面冷却手段を設け、温度計測手段により計測された液膜の温度に基づいて裏面冷却手段から基板裏面に単位時間当たりに供給される冷媒の量や温度を変更するように構成してもよい。
【0069】
また、制御ユニット4により排気ユニット63に設けられた排気ダンパーの開閉量を制御することで処理チャンバ1の雰囲気からの排気流量、つまり単位時間当たりの排気量を制御することで冷却能力を制御してもよい。すなわち、排気ダンパーを絞って処理チャンバ1からの排気流量を低下させることで基板Wの雰囲気に冷却ガスによる冷気が基板表面Wfに貯まり液膜LFの温度を低下させることができる。したがって、放射温度計5による計測結果に基づき、冷却ガスの流量などに代えて、あるいはそれらと並行して排気の流量を制御することで冷却能力を変更するように構成してもよい(第6実施形態)。このよに、第6実施形態では排気ユニット63が本発明の「排気手段」として機能している。
【0070】
また、上記実施形態では、冷却ガス吐出ノズル7が固定された第1アーム71を位置Pcから待機位置Ps1に1スキャンさせる間に液膜LFの凍結さらには凝固膜FFを所定温度(上記実施形態では−30℃)に冷却しているが、冷却ガス吐出ノズル7を移動軌跡T1に沿って複数回スキャンさせながら放射温度計5によって計測した温度が所定温度に達すると、スキャン途中であってもスキャンを終了させて第1アーム71を待機位置Ps1に移動させてもよい。このように放射温度計5によって凝固膜(凝固体)FFの温度を計測し、その計測結果に基づき冷却処理を終了させているので、基板毎に凝固膜FFの温度差が発生するのを防止することができ、安定した基板処理を行うことができる。
【0071】
また、上記第2実施形態では、第1アーム71にノズル7と放射温度計5とを取り付け、ノズル7から吐出された冷却ガスが供給されている領域、つまりガス供給領域の温度を計測しているため、放射温度計5の計測結果に応じて第1アーム71のスキャン移動を断続的に移動させてもよい。すなわち、ガス供給領域の温度が所望温度に達するまで第1アーム71のスキャン移動を停止させるように第1アーム71をスキャン移動させてもよい。また、放射温度計5の計測結果に基づき第1アーム71のスキャン速度をフィードバック制御してもよい。これらの制御によって冷却ガスの温度が変動したとしても液膜LFの温度を安定して所定温度に低下させることができる。
【0072】
また、上記第1実施形態では第2アーム81の先端部に放射温度計5を配置しているが、放射温度計5の配設位置はこれに限定されるものではなく、例えば第2アーム81の待機位置Ps2側(図4の右手側)の後端側面に固定してもよい。また、第1アーム71にノズル7、8を並設した基板処理装置では、遮断部材9に設けられたノズルの代わりに、第2アームに常温DIW(あるいは温水)を吐出するノズルを取り付けることがあるが、このような装置では放射温度計5を第1アームの待機位置Ps1側(図4の左手側)の先端側面に取り付けてもよいし、あるいは第2アームの待機位置Ps2側(図4の右手側)の側面に取り付けてもよい。なお、第1実施形態において、常温DIWあるいは温水を吐出するノズルを第2アーム81に取り付けてもよく、この場合も、第2アーム81の待機位置Ps2側(図4の右手側)の側面に取り付けてもよい。
【0073】
さらに、上記実施形態では、第1アーム71や第2アーム81に放射温度計を取り付けてアーム移動に伴って温度計測位置を変動させているが、処理チャンバ1の内壁面に取り付けて基板表面Wfから斜め上方に離れた位置から液膜LFの温度を計測するように構成してもよい。この場合、温度計測位置は固定される。また、放射温度計5により液膜LFの温度を正確に計測するためには、放射温度計5を処理チャンバ1の内壁に対して45゜よりも小さい角度をなすように取り付ける必要がある。
【0074】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、DIWによって本発明の「液膜」を形成しているが、液膜を構成する液体はこれに限定されない。例えば、炭酸水、水素水、希薄濃度(例えば1ppm程度)のアンモニア水、希薄濃度の塩酸などを用いたり、DIWに少量の界面活性剤を加えたものを用いてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、同一の窒素ガス供給源から乾燥ガス供給ユニット61および冷却ガス供給ユニット64に乾燥ガス(窒素ガス)を供給しているが、これらは窒素ガスに限定されない。例えば、乾燥ガスと冷却ガスとを異なるガス種としてもよい。
【0076】
また、上記実施形態の基板処理装置は、窒素ガス供給源、DIW供給源および液体窒素供給源をいずれも装置内部に内蔵しているが、これらの供給源については装置の外部に設けられてもよく、例えば工場内に既設の供給源を利用するようにしてもよい。また、これらを冷却するための既設設備がある場合には、該設備によって冷却された液体やガスを利用するようにしてもよい。
【0077】
また、上記実施形態の基板処理装置は、基板Wの上方に近接配置される遮断部材9を有するものであるが、本発明は遮断部材を有しない装置にも適用可能である。また、この実施形態の装置は基板Wをその周縁部に当接するチャックピン24によって保持するものであるが、基板の保持方法はこれに限定されるものではなく、他の方法で基板を保持する装置にも、本発明を適用することが可能である。
【0078】
また、上記実施形態では、放射温度計5により液膜の温度を計測しているが、その他の温度計測機器により液膜の温度を非接触で計測してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などを含む基板全般の表面に形成された液膜を凍結させる基板処理装置および基板処理方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
2…スピンチャック(基板保持手段)
4…制御ユニット(制御手段)
5…放射温度計(温度計測手段)
7…冷却ガス吐出ノズル(凝固手段)
62…DIW供給ユニット(解凍除去手段)
63…排気ユニット(排気手段)
64…冷却ガス供給ユニット(凝固手段、裏面冷却手段)
97…ノズル(解凍除去手段)
FF…凝固膜(凝固体)
FR…凝固体
LF…液膜
W…基板
Wf…基板表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凝固対象液の液膜が形成された基板を保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持された前記基板の表面に形成された前記凝固対象液の液膜を冷却して凝固体を形成する凝固手段と、
前記基板表面に形成された前記液膜の温度を計測する温度計測手段と、
前記基板表面に形成された前記凝固体を解凍除去する解凍除去手段と、
前記温度計測手段で計測される前記液膜の温度に応じて前記凝固手段の冷却能力を高めるとともに、前記凝固手段で前記凝固体を冷却して前記凝固体の温度を低下させる制御手段と
を備えることを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理装置であって、
前記凝固手段は、前記基板表面に形成される前記凝固対象液の液膜および凝固体に前記凝固対象液の凝固点より低い温度の気体を供給する基板処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の基板処理装置であって、
前記制御手段は、前記温度計測手段により計測された前記液膜の温度に基づいて前記気体の流量を変更する基板処理装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の基板処理装置であって、
前記制御手段は、前記温度計測手段により計測された前記液膜の温度に基づいて前記気体の温度を変更する基板処理装置。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか一項に記載の基板処理装置であって、
前記凝固手段は、前記基板表面に対して相対的に移動自在に設けられて前記気体を吐出するノズルを有し、
前記制御手段は、前記温度計測手段により計測された前記液膜の温度に基づいて前記基板表面に対する前記ノズルの距離を変更する基板処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の基板処理装置であって、
前記凝固手段は、前記基板の裏面に冷媒を供給して前記基板を冷却する裏面冷却手段を有し、
前記制御手段は、前記温度計測手段により計測された前記液膜の温度に基づいて前記裏面冷却手段から前記基板裏面に単位時間当たりに供給される冷媒の量を変更する基板処理装置。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の基板処理装置であって、
前記凝固手段は、前記基板の裏面に冷媒を供給して前記基板を冷却する裏面冷却手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記温度計測手段により計測された前記液膜の温度に基づいて前記裏面冷却手段から前記基板裏面に供給される冷媒の温度を変更する基板処理装置。
【請求項8】
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の基板処理装置であって、
前記基板周辺の雰囲気を排気する排気手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記温度計測手段により計測された前記液膜の温度に基づいて前記基板周辺から排気される排気の流量を変更する基板処理装置。
【請求項9】
基板の表面に形成された凝固対象液の液膜を凝固手段により冷却して凝固体を形成する凝固工程と、
前記基板表面に形成された前記凝固体を解凍除去する解凍除去工程とを備え、
前記凝固工程は、前記基板表面に形成された前記液膜の温度に応じて前記凝固手段の冷却能力を高めるとともに、前記凝固手段で前記凝固体を冷却して前記凝固体の温度を低下させることを特徴とする基板処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載の基板処理方法であって、
前記凝固工程は、前記基板の表面に形成された前記凝固対象液の液膜に前記凝固対象液の凝固点より低い温度の気体を供給して前記凝固体を形成した後、前記凝固体に供給する前記気体の流量を高めて前記凝固体の温度を低下させる基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−64760(P2012−64760A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207899(P2010−207899)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】