説明

基板反転装置、真空成膜装置及び基板反転方法

【課題】真空中で迅速に基板を反転させる技術を提供する。
【解決手段】本発明の基板反転装置20は、真空槽であるチャンバー21内において、基板50を昇降させる昇降機構60と、基板50を挟んで保持する把持部41a、42aを有する基板保持機構4A〜4Dと、基板保持機構4A〜4Dの把持部41a、42aを回転させて基板50の上下関係を反転させる基板回転機構30とを有する。本発明においては、基板50を保持した状態で、水平方向に延びる直線を回転軸として基板回転機構30を180°回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空槽内で基板の上下関係を反転させる技術に関し、特に、有機EL素子もしくは樹脂基板などの成膜面を上下反転させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL素子製造技術として、基板上に下部電極、有機発光層、上部電極を形成し、この基板上に窒化シリコンもしくは酸窒化シリコンなどの保護膜を形成する技術が知られている。
このような窒化シリコン(SiN)もしくは酸窒化シリコン(SiON)は、真空槽内にSiH4などのSi供給ガスとN2、NH3やO2などの反応ガスが供給され、真空槽内でプラズマを発生させる方法、いわゆるプラズマCVD法により成膜される。この時、成膜対象物以外の真空槽内にも窒化シリコンもしくは酸窒化シリコンの膜が形成される。
【0003】
ところで、プラズマCVD法では、成膜面を上にして膜を形成する、所謂デポダウンによって成膜が行われる。
その一方、有機EL素子の有機層は、真空蒸着法によって行われるものが広く知られている。
【0004】
真空蒸着法においては、成膜面を下にして膜を形成する、所謂デポアップによって成膜が行われるのが一般的である。
したがって、真空法によって有機EL素子を製造する場合には、プロセス中において基板を反転させる工程が必要になる。
【0005】
近年、有機EL素子の量産化が進展しており、基板を反転させる工程の迅速化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−239833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、真空中で迅速に基板を反転させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するためになされた本発明は、真空槽と、前記真空槽内に設けられ、基板を昇降させる昇降機構と、前記真空槽内に設けられ、基板を挟んで保持する保持部を複数有する基板保持機構と、前記真空槽内に設けられ、前記基板保持機構の保持部を回転させて当該基板の上下関係を反転させる基板反転機構とを有する基板反転装置である。
本発明において、前記昇降機構は、基板の下側面を支持する複数の支持ピンを有することもできる。
本発明において、前記基板保持機構は、前記保持部が、基板の縁部を弾性力によって両側から把持する一対の把持部材を有することもできる。
本発明において、前記基板保持機構は、前記保持部が、水平方向に延びる直線を回転軸として回転するように構成されている場合にも効果がある。
また、本発明は、搬送ロボットを有する真空搬送室と、前記真空搬送室に接続され、前記基板反転装置と、前記真空搬送室に接続された成膜室とを有する真空成膜装置である。
また、本発明は、真空槽内において基板を反転させる基板反転方法であって、搬送ロボットによって基板を前記真空槽内に搬入する工程と、前記基板を支持し当該基板を昇降させて所定位置に配置する工程と、所定位置に配置された前記基板を挟んで保持する工程と、前記基板を保持した状態で、水平方向に延びる直線を回転軸として180°回転させる工程と、前記基板の保持を解除し支持昇降させて所定位置に配置する工程と、搬送ロボットによって前記基板を前記真空槽から排出させる工程とを有する基板反転方法である。
【0009】
本発明の場合、真空槽内において、基板を昇降させる昇降機構と、基板を挟んで保持する保持部を複数有する基板保持機構と、基板保持機構の保持部を回転させて上下関係を反転させる基板反転機構とを備えたことから、搬送ロボットのような複雑で大型の機構を用いることなく、真空槽内において迅速且つ確実に基板の上下関係を反転させることができる。
その結果、本発明によれば、デポダウンとデポアップのプロセスが混在する場合であっても、簡素な構成で、迅速な成膜や処理が可能な真空装置・真空システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、真空中において迅速に基板の上下関係を反転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】有機EL素子に保護膜を形成するための保護膜形成装置の構成例を示す平面図
【図2】本実施の形態における基板反転装置の概略構成正面図
【図3】同基板反転装置の概略構成平面図
【図4】(a)(b):本実施の形態において基板の反転動作を示す説明図(その1)
【図5】(a)(b):本実施の形態において基板の反転動作を示す説明図(その2)
【図6】(a)(b):本実施の形態において基板の反転動作を示す説明図(その3)
【図7】(a)(b):本実施の形態において基板の反転動作を示す説明図(その4)
【図8】(a)(b):本実施の形態において基板の反転動作を示す説明図(その5)
【図9】(a)(b):本実施の形態において基板の反転動作を示す説明図(その6)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、有機EL素子に保護膜を形成するための保護膜形成装置の構成例を示す平面図である。
図1に示すように、本実施の形態の保護膜形成装置10は、成膜室11、搬入室12、搬送室13、反転室14、搬出室15を有する。成膜対象物を搬出する時の搬出室15以外、運転中の保護膜形成装置10の各室内部は真空に維持される。
成膜室11は、その内部で保護膜の成膜が行われるもので、搬送室13の周囲に複数設置される。図1に示す本実施の形態では、五つの成膜室111〜115が設けられている。
搬入室12は、保護膜を形成すべき有機EL素子を搬入するための室である。通常、有機EL素子は第一電極、有機発光層、第二電極が蒸着によりデポアップで成膜されるため、搬入室12へは、成膜面が下向きの状態で成膜対象物である基板50が搬入される。
搬送室13は、その内部に、各室間で基板50を移送する搬送ロボット(図示せず)を有する。搬送室13の周囲には、成膜室11、搬入室12、反転室14、搬出室15がバルブを介して配設されている。
反転室14は、成膜面が下向きの状態で移送された基板50を、上下反転し、成膜面を上向きにする基板反転装置20を有する。これは、後述するように、成膜室11内で基板50は、デポダウンにより保護膜が形成されるためである。
搬出室15から成膜室11で保護膜を成膜された基板50が搬出される。搬出室15内部が大気と真空に圧力調整されることにより、搬送室13は真空を維持したまま、真空雰囲気から大気中に基板50が搬出される。
搬入室12に搬入された基板50は、搬送室13の搬送ロボットにより反転室14に移送され、反転室14で上下反転されて、搬送室13の搬送ロボットにより、複数の成膜室111〜115のいずれかに移送される。成膜室111〜115で成膜された基板50は、搬送室13の搬送ロボットにより搬出室15に移送され、搬出室15から搬出される。
【0013】
図2は、本実施の形態における基板反転装置の概略構成正面図、図3は、同基板反転装置の概略構成平面図である。
図2及び図3に示すように、本実施の形態の基板反転装置20は、チャンバ21内に、以下に説明するような基板回転機構30が配設されて構成されている。
基板回転機構30は、剛性の大きな金属からなる例えば立体格子状の反転フレーム31を有し、この反転フレーム31に、後述する複数(本実施の形態では四つ)の基板保持機構4A〜4Dが設けられて構成されている。
反転フレーム31は、チャンバ21の内側の領域に配置される。そして、チャンバ21の両端部において、水平方向に延びる直線上に位置する支軸32、33を中心として鉛直面方向に回転するように、反転フレーム31が支持されている。
ここで、一方の支軸32は、チャンバ21の側部に固定された例えばパルスモータからなる駆動モータ34の回転軸に連結され、これにより反転フレーム31が所定の方向に所定角度回転するように構成されている。
【0014】
図3に示すように、本実施の形態においては、反転フレーム31の回転中心軸線を挟んで両側の位置で、例えば反転フレーム31の長手方向の両端部に、それぞれ二つずつ基板保持機構4A、4B並びに4C、4Dが配設されている。
ここで、四つの基板保持機構4A〜4Dは、同一の構成を有している。なお、図2では、四つの基板保持機構4A〜4Dのうち二つの基板保持機構4A、4Cのみが示されている。以下、適宜一つの基板保持機構4Aを例にとってその構成を説明する。
【0015】
本実施の形態の基板保持機構4Aは、剛性の大きい金属からなる、ほぼ同一形状の二つの構成部材、第1及び第2構成部材41、42を組み合わせて本体部40が構成される。
第1及び第2構成部材41、42は、ほぼ「く」字形状の平板状に形成されている。ここでは、第1及び第2構成部材41、42の一方の側の部分を把持部(保持部)41a、42aとし、他方の側の部分を腕部41b、42bとする。
そして、第1及び第2構成部材41、42を裏返しにした状態で、それぞれの中央の屈曲部分を重ね合わせ、支軸43を中心として同一平面内において、例えば鋏のように、時計回り方向又は反時計回り方向に回転して開閉するように構成されている。
この場合、第1及び第2構成部材41、42は、平板を若干曲げることにより、それぞれの把持部41a、42aが、先端部において対向するように形成されている。そして、第1及び第2構成部材41、42の把持部41a、42aの対向する先端部分には、例えばフッ素ゴムからなる滑り防止部材44、45が装着されている。
このような構成を有する基板保持機構4Aの本体部40は、上述した把持部41a、42aを内側に向けた状態で、反転フレーム31の端部に取り付けられる。また、他の基板保持機構4B〜4Dの本体部40についても、上述した把持部41a、42aを内側に向けた状態で、反転フレーム31の両端部にそれぞれ取り付けられる。
【0016】
さらに、第1及び第2構成部材41、42の把持部41a、42aは、上述した支軸43の近傍の部分に引っ張りコイルばね46、47の一端部が取り付けられている。これら引っ張りコイルばね46、47の他端部は、反転フレーム31の上の、第1及び第2構成部材41、42の腕部41b、42bの先端部側に設けられた突部37、38にそれぞれ取り付けられている。
また、第1及び第2構成部材41、42の腕部41b、42bの先端部は、例えば圧縮空気を用いた付勢手段51、52の動作によってそれぞれ把持部41a、42a側に付勢されるように構成されている。
【0017】
このような構成により、各付勢手段51、52を動作させて第1及び第2構成部材41、42の腕部41b、42bを把持部41a、42a側に付勢すると、各引っ張りコイルばね46、47の弾性力に抗して第1及び第2構成部材41、42の把持部41a、42aが水平方向から互いに離れる(開く)方向に移動し、他方、付勢手段51、52の動作を停止すると、各引っ張りコイルばね46、47の弾性力によって第1及び第2構成部材41、42の把持部41a、42aが互いに近づく(閉じる)方向に移動して水平方向に向けられる。
【0018】
なお、第1及び第2の構成部材41、42の把持部41a、42aを閉じた場合には、それぞれの把持部41a、42aに設けた滑り防止部材44、45同士が基板50の厚さより小さくなるように設定しておくとよい。
反転フレーム31の下方には、基板昇降機構60が設けられている。
この基板昇降機構60は、図示しない昇降モータに連結され鉛直方向に延びる昇降軸61を有し、この昇降軸61の上端部には、平板状の基台62が取り付けられている。
【0019】
図3に示すように、この基台62は、上述した各基板保持機構4A〜4Dの内側の領域に配置され、その上面には、複数(ここでは8個)の昇降ピン63が立設されている。
本実施の形態では、各昇降ピン63の上端部の支持部64が、各基板保持機構4A〜4Dの第1及び第2構成部材41、42の把持部41a、42aの位置より若干高い位置まで上昇するように構成されている。
【0020】
図4(a)(b)〜図9(a)(b)は、本実施の形態において基板50の反転動作を示す説明図である。
このような構成を有する本実施の形態において、基板50の反転を行う場合には、図4(a)に示すように、各基板保持機構4A〜4Dの下側の付勢手段51を動作させ、第1構成部材41の把持部41aを第2構成部材42の把持部42aに対して上方に移動させて離間させる。
そして、その状態で、搬送室13内の搬送ロボットを用い、その載置部70に基板50を載置して基板50を反転室14内に搬入する。
次いで、図4(b)に示すように、基板昇降機構60を上昇させ、その支持部64によって基板50を支持して搬送ロボットの載置部70から若干浮かせ、搬送ロボットの載置部70を搬送室13内に戻す。
【0021】
そして、図5(a)に示すように、基板昇降機構60を下降させる。これにより、基板50は、各基板保持機構4A〜4Dの第2構成部材42の把持部42aによって支持される。
さらに、各基板保持機構4A〜4Dの下側の付勢手段51の動作を停止する。その結果、各引っ張りコイルばね46の弾性力によって第1構成部材41の把持部41aが下方に移動する。
これにより、図5(b)に示すように、基板50の縁部が、第1及び第2の構成部材41、42の把持部41a、42aによって挟まれ基板50が保持される。
そして、この状態で駆動モータ34を動作させ、基板回転機構30の反転フレーム31を支軸32、33を中心として鉛直面方向に180°回転させる。
【0022】
これにより、図6(a)に示すように、各基板保持機構4A〜4Dの第1及び第2構成部材41、42の把持部41a、42aの上下関係が反転し、基板50の上下関係も反転する(図6(a)に示す例では、基板50の成膜面50aが上側になる。)。
次に、各基板保持機構4A〜4Dの下側の付勢手段52を動作させ、図6(b)に示すように、第2構成部材42の把持部42aを第1構成部材41の把持部41aから上方に移動させて離間させる。
そして、基板昇降機構60を下降させ、その状態で、基板50のアライメントを行う。
【0023】
アライメント終了後、図8(a)に示すように、基板昇降機構60を上昇させて基板50を第1及び第2の構成部材41、42の把持部41a、42aの間に位置させる。また、各基板保持機構4A〜4Dの上側の付勢手段52の動作を停止する。その結果、各引っ張りコイルばね47の弾性力によって第1構成部材41の把持部41aが初期の水平状態に戻る。
そして、その状態で、図8(b)に示すように、搬送室13の搬送ロボットの載置部70を反転室14内に搬入し、基板50の下部に載置部70を位置させる。
【0024】
その後、図9(a)に示すように、基板昇降機構60を下降させ、基板50を搬送ロボットの載置部70上に載置する。
その状態で、図9(b)に示すように、搬送ロボットの載置部70を反転室14から移動させて基板50を排出する。
なお、その後は、各基板保持機構4A〜4Dの下側の付勢手段52の動作を停止して初期状態に戻し、上述したように駆動モータ34を動作させ、基板回転機構30の反転フレーム31を支軸32、33を中心として180°回転させ、図2に示す状態に戻す。そして、上述した各動作を繰り返すようにする。
【0025】
以上述べたように本実施の形態によれば、反転室14内において、基板50を昇降させる基板昇降機構60と、基板50を挟んで保持する第1及び第2構成部材41、42を有する基板保持機構4A〜4Dと、基板保持機構4A〜4Dを回転させて上下関係を反転させる基板回転機構30とを備えたことから、搬送ロボットのような複雑で大型の機構を用いることなく、反転室14内において迅速且つ確実に基板50の上下関係を反転させることができる。
その結果、本実施の形態によれば、デポダウンとデポアップのプロセスが混在する場合であっても、簡素な構成で、迅速な成膜や処理が可能な真空装置・真空システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0026】
4A〜4D…基板保持機構
10…保護膜形成装置
11…成膜室
13…搬送室
14…反転室
20…基板反転装置
34…駆動モータ
40…本体部
41…第1構成部材
41a…把持部(保持部)
42…第2構成部材
42a…把持部(保持部)
44…滑り防止部材
45…滑り防止部材
50…成膜対象物(基板)
51…付勢手段
52…付勢手段
60…基板昇降機構
63…昇降ピン
64…支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽内に設けられ、基板を昇降させる昇降機構と、
前記真空槽内に設けられ、基板を挟んで保持する保持部を複数有する基板保持機構と、
前記真空槽内に設けられ、前記基板保持機構の保持部を回転させて当該基板の上下関係を反転させる基板反転機構とを有する基板反転装置。
【請求項2】
前記昇降機構は、基板の下側面を支持する複数の支持ピンを有する請求項1記載の基板反転装置。
【請求項3】
前記基板保持機構は、前記保持部が、基板の縁部を弾性力によって両側から把持する一対の把持部材を有する請求項1又は2のいずれか1項記載の基板反転装置。
【請求項4】
前記基板保持機構は、前記保持部が、水平方向に延びる直線を回転軸として回転するように構成されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の基板反転装置。
【請求項5】
搬送ロボットを有する真空搬送室と、
前記真空搬送室に接続され、請求項1乃至4のいずれか1項記載の基板反転装置と、
前記真空搬送室に接続された成膜室とを有する真空成膜装置。
【請求項6】
真空槽内において基板を反転させる基板反転方法であって、
搬送ロボットによって基板を前記真空槽内に搬入する工程と、
前記基板を支持し当該基板を昇降させて所定位置に配置する工程と、
所定位置に配置された前記基板を挟んで保持する工程と、
前記基板を保持した状態で、水平方向に延びる直線を回転軸として180°回転させる工程と、
前記基板の保持を解除し支持昇降させて所定位置に配置する工程と、
搬送ロボットによって前記基板を前記真空槽から排出させる工程とを有する基板反転方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−168653(P2010−168653A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289454(P2009−289454)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】