説明

変速機のパーキング機構

【課題】従来の変速機に備えられるパーキング機構の構成部品を削除した変速機のパーキング機構を提供する。
【解決手段】駆動力源(20)の回転を変速して出力する遊星歯車機構を備えた変速機のパーキング機構であって、締結状態又は解放状態となることによって前記遊星歯車機構の変速比を変更する複数の摩擦要素(33、34)と、前記摩擦要素(33、34)を締結させる締結手段と、を備える。前記締結手段は、キーオフによって前記駆動力源(20)の動作が停止しているときに、前記複数の摩擦要素(33、34)のうち、締結することで前記変速機がインターロック状態となる少なくとも二つのインターロック摩擦要素を締結状態に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される変速機に用いられるパーキング機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される変速機には、出力軸の回転を規制して車両を停止状態に維持するパーキング機構が備えられる。
【0003】
特許文献1は、自動変速機用パーキング機構を開示している。パーキング機構は、シフトレバーに連動するカム付ロッドによってカムを移動させることで、トランスミッションに設けたパーキングギヤに爪を係合させ、車両をロックする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−207578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のパーキング機構は、パーキングギヤ、パーキングポール、ロッド、カム等、多くの部品で構成されているので、変速機の製造コストが上昇する。また、多くの部品のために変速機の小型化が難しい。
【0006】
また、パーキング機構は、部品の寸法精度が低いと、パーキングポールがパーキングギヤから外れない、パーキングポールがパーキングギヤに係合せずにパーキング状態にならない、といったことが発生しうる。そのため、部品に高い加工精度が要求され、変速機の製造コストをさらに上昇させる。
【0007】
本発明の目的は、パーキング機構を構成する部品数を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、駆動力源の回転を変速して出力する遊星歯車機構を備えた変速機のパーキング機構であって、締結状態又は解放状態となることによって前記遊星歯車機構の変速比を変更する複数の摩擦要素と、前記摩擦要素を締結させる締結手段と、を備え、前記締結手段は、キーオフによって前記駆動力源の動作が停止しているときに、前記複数の摩擦要素のうち、締結することで前記変速機がインターロック状態となる少なくとも二つのインターロック摩擦要素を締結状態に維持する、ことを特徴とするパーキング機構が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によると、締結することで変速機がインターロック状態となる少なくとも二つのインターロック摩擦要素を締結状態に維持することによって、変速機にパーキング機構のための構成部品を備えなくとも、車両の機能が停止している時にも変速機をパーキング状態に維持することができ、変速機の部品点数及び組立て工数の削減によって、変速機の製造コストを低減できるとともに、変速機を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】車両用減速装置の概略図である(第1実施形態)。
【図2】パーキング機構を備えた変速機の断面図である(第1実施形態)。
【図3】パーキング処理のフローチャートである(第1実施形態)。
【図4】変速機の断面図である(第2実施形態)。
【図5】Highブレーキの締結機構の概略図である(第2実施形態)。
【図6A】ローディング機構の概略図である(第2実施形態)。
【図6B】ローディング機構の概略図である(第2実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
第1の実施形態
図1は、車両用減速装置10の概略図である。
【0013】
車両用減速装置10は、駆動力源であるモータ20と、遊星歯車機構31を備える変速機30と、減速された駆動力をドライブシャフト53、54へと出力する最終減速機構50と、を備える。
【0014】
モータ20は、制御装置21によって電力を供給されて回転し、駆動力を発生する。モータ20は、例えば、三相ブラシレスモータである。制御装置21は、例えばインバータによるPWM制御によってモータ20に電力を供給することで、モータ20の駆動力を制御する。
【0015】
制御装置21は、後述するHighブレーキ33及びLowブレーキ34の締結及び解放を制御回路23に指示する。制御回路23はこれを受けてHighブレーキ33及びLowブレーキ34に油圧又は指令信号を出力する。
【0016】
変速機30は、ケース32に収容された遊星歯車機構31を備える。変速機30は、入力軸41に入力される回転を遊星歯車機構31によって減速し、出力軸48、出力ギヤ49を介して、最終減速機構50へと伝達する。最終減速機構50では、左ドライブシャフト53と右ドライブシャフト54との差動を許容する差動機構52を備え、駆動力を左ドライブシャフト53及び右ドライブシャフト54に伝達する。
【0017】
遊星歯車機構31は、入力軸41に結合されるサンギヤ42と、サンギヤ42と噛合するピニオン43と、ピニオン43に噛合する第1のリングギヤ45及び第2のリングギヤ46とを備える。
【0018】
サンギヤ42は、モータ20の駆動力が入力される入力軸41に結合され、入力軸41と一体に回転する。
【0019】
ピニオン43は、サンギヤ42に噛合する第1の歯車43Aと、第1の歯車43Aよりも歯数が小さい第2の歯車43Bと、が同軸に配置された段付ピニオンである。ピニオン43は、モータ20側(フロント側)に第1の歯車43Aを備え、モータ20とは反対側(リア側)に第2の歯車43Bを備えている。
【0020】
ピニオン43のフロント側には、ピニオン43の公転運動を出力軸48側へと伝達するキャリア44が備えられている。キャリア44は、出力軸48に結合されている。
【0021】
出力軸48は、内部を入力軸41が貫通する中空軸である。出力ギヤ49に結合される。入力軸41は軸受35によって支持されている。出力軸48は軸受36によって支持されている。
【0022】
第1のリングギヤ45は、ピニオン43の第1の歯車43Aに噛合する。第2のリングギヤ46は、第1のリングギヤ45よりもリア側に備えられ、ピニオン43の第2の歯車43Bに噛合する。
【0023】
ケース32には、第1のリングギヤ45とケース32との相対回転を停止させる摩擦要素としてのHighブレーキ33が備えられる。第2のリングギヤ46とケース32との相対回転を停止させる摩擦要素としてのLowブレーキ34が備えられる。
【0024】
Highブレーキ33を締結した場合は、第1のリングギヤ45がケース32に係止されて、第1のリングギヤ45の回転が停止する。Lowブレーキ34を締結した場合は、第2のリングギヤ46がケース32に係止されて、第2のリングギヤ46の回転が停止する。
【0025】
出力ギヤ49は、最終減速機構50のギヤ51に噛合する。ギヤ51に伝達された駆動力が差動機構52によって左ドライブシャフト53及び右ドライブシャフト54へと、差動を許容して伝達される。左ドライブシャフト53及び右ドライブシャフト54は、それぞれ軸受55及び56によって支持される。
【0026】
上記構成によれば、変速機30は、Highブレーキ33とLowブレーキ34とのいずれか一方を締結状態として、第1のリングギヤ45と第2のリングギヤ46とのいずれか一方の回転を停止させることによって、変速比を二段階に切り換えることができる。
【0027】
Highブレーキ33を解放状態とし、Lowブレーキ34を締結状態とした場合は、第2のリングギヤ46が非回転状態となる。この状態を「Lowモード」と呼ぶ。
【0028】
Lowモードでは、サンギヤ42に入力された駆動力は、第1の歯車43Aによってピニオン43に伝達される。ピニオン43は、非回転状態の第2のリングギヤ46の内歯に沿って回転し、ピニオン43の公転運動がキャリア44へと伝達される。キャリア44に伝達された駆動力は、出力軸48から最終減速機構50へと伝達される。
【0029】
Lowモードでは、第2のリングギヤ46の回転が固定されているので、入力軸41に入力された回転力と出力軸から出力される回転力との減速比は、サンギヤ42及び第2のリングギヤ46の歯数によって決まる。
【0030】
すなわち、Lowモードでの入力軸41と出力軸48との間の減速比は、1:(1+(第2のリングギヤ46の歯数÷サンギヤ42の歯数))になる。この減速比によって減速された回転が、出力軸48に出力される。
【0031】
Highブレーキ33を締結状態とし、Lowブレーキ34を解放状態とした場合は、第1のリングギヤ45が非回転状態となる。この状態を「Highモード」と呼ぶ。
【0032】
Highモードでは、サンギヤ42に入力された駆動力は、第1の歯車43Aによりピニオン43に伝達される。ピニオン43は、非回転状態の第1のリングギヤ45に従って回転し、その公転運動がキャリア44へと伝達される。キャリア44に伝達された駆動力が、出力軸48から最終減速機構50へと伝達される。
【0033】
Highモードでは、第1のリングギヤ45の回転が固定されているので、入力軸41に入力された回転と出力軸から出力される回転との減速比は、サンギヤ42と第1のリングギヤ45との関係によって決まる。
【0034】
すなわち、Highモードでの力軸41と出力軸48との間の減速比は、1:(1+(第1のリングギヤ45の歯数÷サンギヤ42の歯数))になる。この減速比によって減速された回転が、出力軸48に出力される。
【0035】
変速機30は、Highブレーキ33とLowブレーキ34とのいずれか一方を締結状態とすることによって、減速比を切り換えることができ、特に、ピニオン43の歯数を選定することにより、Lowモードにおける減速比をHighモードに比較して、より大きくすることができる。
【0036】
Highブレーキ33とLowブレーキ34とを同時に締結状態とした場合は、第1のリングギヤ45と第2のリングギヤ46との回転がともに停止され、第1のリングギヤ45と第2のリングギヤ46との歯数の差によって、キャリア44の回転が固定される、いわゆるインターロック状態となる。
【0037】
インターロック状態では、出力軸48が非回転状態に固定される。本発明では、これを利用して、変速機30のパーキング機構を実現する。
【0038】
ただし、パーキング機構として利用する場合には、車両のメインスイッチのオフやイグニッションのオフ等のキーオフによって車両の機能が停止し、制御装置21、制御回路23等の動作が停止した後にも、Highブレーキ33とLowブレーキ34とを締結状態に維持する必要がある。そこで、変速機30は、以下に説明する構成によって、パーキング機構を実現する。
【0039】
図2は、変速機30の断面図である。
【0040】
変速機30は、前述のようにケース32に収容された遊星歯車機構31を備える。ケース32は、フロントケース32Aと、リアケース32Bとに分割され、これらはボルト32Cによって締結されている。
【0041】
変速機30は、Highブレーキ33とLowブレーキ34との締結状態を制御する作動油を所定の油圧で供給する油圧ポンプ24が備えられている。油圧ポンプ24及び図示しないレギュレータによって、制御回路23が構成される。
【0042】
まず、Highブレーキ33の構成を説明する。Highブレーキ33は、多板クラッチ61、ピストン62、油圧室63、及び、皿バネ64を備える。
【0043】
多板クラッチ61は、ケース32にスライド自在に装着される環状のケース側摩擦プレート61Aと、第1のリングギヤ45にスライド自在に装着される環状のリングギヤ側摩擦プレート61Bとを交互に重ね合わせて構成される。
【0044】
ケース側摩擦プレート61Aとリングギヤ側摩擦プレート61Bとは、リテーナー61Cによりフロント側及びリア側の移動範囲が規制される。
【0045】
ピストン62は、皿バネ64の付勢力によって多板クラッチ61を締結側に押圧する。ピストン62は、油圧室63の油圧によって多板クラッチ61の解放側に移動して、多板クラッチ61を解放する。油圧室63の油圧の大きさに基づいて、多板クラッチ61の締結力の大きさを制御できる。
【0046】
特に、油圧室63への油圧の供給がない場合は、ピストン62は、皿バネ64の付勢力によって多板クラッチ61を押圧して、多板クラッチ61を締結状態に維持する。すなわち、Highブレーキ33は、ノーマリークローズである。
【0047】
同様に、Lowブレーキ34は、多板クラッチ71、ピストン72、油圧室73、及び、皿バネ74を備える。
【0048】
多板クラッチ71は、ケース32にスライド自在に装着される環状のケース側摩擦プレート71Aと、第2のリングギヤ46にスライド自在に装着される環状のリングギヤ側摩擦プレート71Bとを交互に重ね合わせて構成される。
【0049】
ケース側摩擦プレート71Aとリングギヤ側摩擦プレート71Bとは、リテーナー71Cによりフロント側及びリア側への移動範囲が規制される。
【0050】
ピストン72は、皿バネ74の付勢力によって多板クラッチ71を締結側に押圧する。ピストン72は、油圧室73の油圧によって多板クラッチ71の解放側に移動して、多板クラッチ71を解放する。油圧室73の油圧の大きさに基づいて、多板クラッチ71の締結力の大きさを制御できる。
【0051】
Lowブレーキ34についても、Highブレーキ33と同様に、油圧室73への油圧の供給がない場合は、皿バネ74の付勢力によって多板クラッチ71を締結状態に維持する。すなわち、Lowブレーキ34はノーマリークローズである。
【0052】
Highブレーキ33及びLowブレーキ34は、制御回路23から供給される油圧に基づいて締結及び解放が制御される。Lowブレーキ34を締結状態とした場合はLowモードとなり、Highブレーキ33を締結状態とした場合はHighモードとなる。
【0053】
Highブレーキ33とLowブレーキ34との両方を締結状態とした場合は、ピニオン43の第1の歯車43Aと第2の歯車43Bとの歯数の差によって遊星歯車機構31がインターロックする。これを利用してパーキング機構が実現される。
【0054】
具体的には、Highブレーキ33の油圧室63の油圧と、Lowブレーキ34の油圧室73の油圧とを共にドレンして、油圧をゼロに制御する。これにより、皿バネ64及び皿バネ74の付勢力によってピストン62及びピストン72が締結方向へと移動して、Highブレーキ33とLowブレーキ34とが共に締結状態となる。
【0055】
この結果、遊星歯車機構31がインターロックして、パーキング状態となる。Highブレーキ33及びLowブレーキ34はノーマリークローズであるため、一旦締結状態とした後は、油圧を供給するまでは締結を維持する。キーオフによって車両の機能が停止して、駆動力源20や制御装置21、制御回路23の動作がすべて停止している状態であっても、Highブレーキ33及びLowブレーキ34の締結状態が維持され、パーキング状態が維持される。
【0056】
次に、制御装置21の動作を説明する。
【0057】
図3は、制御装置21が実行するパーキング処理のフローチャートである。このフローチャートは、所定の周期(例えば10ms間隔)で、制御装置21によって実行される。
【0058】
制御装置21は、パーキング作動要求があるか否かを判定する(S10)。パーキング作動要求があると判定した場合は、処理がステップS20に移行し、パーキング作動要求がないと判定した場合は、処理が終了する。
【0059】
制御装置21は、運転者がセレクターを停止ポジションに操作したことが検出された場合に、パーキング作動要求があると判定する。
【0060】
次に、制御装置21は、変速機30の出力軸の回転速度が所定値以下であるか否かを判定する(S20)。変速機30の出力軸の回転速度が所定値以下であると判定した場合は処理がステップS30に移行し、変速機30の出力軸の回転速度が所定値よりも大きい場合は、ステップS20の処理が繰り返される。
【0061】
車両が走行中の場合にはパーキング作動は禁止されるので、車両が停止していると判定した場合(微速での移動を含む)にのみパーキング作動が許可される。所定値は、例えば数km/h程度に設定される。
【0062】
制御装置21は、ステップS20において変速機30の出力軸の回転速度が所定値以下であると判定した場合は、Highブレーキ33及びLowブレーキ34を締結状態に制御する(S30)。
【0063】
具体的には、制御装置21は、制御回路23に対して、Highブレーキ33及びLowブレーキ34を締結状態に指示する。制御回路23は、この指示に基づいてHighブレーキ33及びLowブレーキ34をドレンとして油圧をゼロに制御する。この制御よって、Highブレーキ33及びLowブレーキ34は、油圧室63、73の油圧がゼロに制御され、皿バネ64、74の付勢力により締結状態となる。
【0064】
次に、制御装置21は、パーキング動作が完了したか否かを判定する(S40)。パーキング動作が完了したと判定された場合は、本フローチャートの処理が終了する。パーキング動作が完了していないと判定された場合は、ステップS30、S40が繰り返される。
【0065】
制御装置21は、パーキング動作が完了したか否かを、Highブレーキ33及びLowブレーキ34が締結状態となったか否かによって判定する。例えば、Highブレーキ33及びLowブレーキ34がドレンに制御されてから所定時間が経過した、変速機30の入力回転速度と出力回転速度との差が所定回転速度以下となった、等の条件を満たした時に、制御装置21は、パーキング動作が完了したと判定する。
【0066】
図3に示すフローチャートのように、制御装置21がHighブレーキ33及びLowブレーキ34を共に締結状態に制御して、変速機30をインターロック状態とすることによって、変速機30をパーキング状態にすることができる。
【0067】
上記の通り、遊星歯車機構31を備えた変速機30において、変速機30の変速比を変更する摩擦要素のうち、締結することによってインターロック状態となる少なくとも2つのインターロック摩擦要素(Highブレーキ33及びLowブレーキ34)を共に締結することによって、変速機30のパーキング機構が実現される。
【0068】
変速機30において、パーキング機構のための部品を全て削除できるので、変速機30を小型化できると共に、変速機30の製造コストを低減できる。
【0069】
これら摩擦要素は、油圧の供給を停止した状態で締結するノーマリークローズである。そのため、キーオフによって車両の機能が停止し、油圧ポンプ24や制御装置21等の動作を停止したとしても、インターロック摩擦要素を締結状態に維持できる。
【0070】
第2の実施形態
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、変速機30において、Highブレーキ33及びLowブレーキ34を締結状態とする構造が異なる。
【0071】
第2の実施形態の基本構成は第1の実施形態の図1と共通である。第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0072】
図4は、変速機30の断面図である。
【0073】
前述の第1の実施形態の図2と同様に、変速機30は、遊星歯車機構31がケース32に収容されている。ケース32は、フロントケース32Aと、リアケース32Bとに分割され、これらはボルト32Cによって締結されている。第1の実施形態と異なり、変速機30は油圧ポンプ24を備えない。
【0074】
まず、Highブレーキ33の構成を説明する。Highブレーキ33は、多板クラッチ81、ピストン82、プレート83、ローディングカム84、及び、アクチュエータ85を備える。
【0075】
多板クラッチ81は、第1の実施形態の多板クラッチ61と同様に、ケース32にスライド自在に装着される環状のケース側摩擦プレート81Aと、第1のリングギヤ45にスライド自在に装着される環状のリングギヤ側摩擦プレート81Bと、フロント側及びリア側への移動範囲を規制するリテーナー81Cと、を備える。
【0076】
アクチュエータ85はローディングカム84を回転させる。ローディングカム84は、アクチュエータ85によって回転されることによって、プレート83を軸方向に摺動させる。
【0077】
ピストン82は、プレート83に連結されている。プレート83が締結方向に摺動することによって、ピストン82は多板クラッチ81を締結側に押圧する。
【0078】
具体的には、アクチュエータ85が、ローディングカム84を所定の方向に所定の角度だけ回転させることによって、プレート83が多板クラッチ81の締結方向に摺動して、ピストン82が多板クラッチ81を押圧することで、多板クラッチ81を締結状態とする。
【0079】
一方、アクチュエータ85がローディングカム84をこれとは逆の方向に所定の角度だけ回転させることによって、プレート83が多板クラッチ81の解放方向に摺動し、ピストン82が解放方向に移動して、多板クラッチ81を解放状態とする。アクチュエータ85がローディングカム84を回転させる角度の大きさに基づいて、多板クラッチ81の締結力の大きさを制御できる。
【0080】
Lowブレーキ34の構成もHighブレーキ33の構成と同様である。Lowブレーキ34は、多板クラッチ91、ピストン92、プレート93、ローディングカム94、及び、アクチュエータ95を備える。
【0081】
多板クラッチ91は、ケース32にスライド自在に装着される環状のケース側摩擦プレート91Aと、第2のリングギヤ46にスライド自在に装着される環状のリングギヤ側摩擦プレート91Bと、フロント側及びリア側への移動範囲を規制するリテーナー91Cと、を備える。
【0082】
アクチュエータ95はローディングカム94を回転させる。ローディングカム94は、アクチュエータ95によって回転されることによって、プレート93を軸方向に摺動させる。
【0083】
従って、Highブレーキ33と同様に、アクチュエータ95が、ローディングカム94を所定の方向に所定の角度だけ回転させることによって、ピストン92が多板クラッチ91を押圧して、多板クラッチ91を締結状態とする。
【0084】
一方、アクチュエータ95がローディングカム94をこれとは逆の方向に所定の角度だけ回転させることによって、ピストン92が多板クラッチ91の解放方向に摺動して、多板クラッチ91を解放状態とする。アクチュエータ95がローディングカム94を回転させる角度の大きさに基づいて、多板クラッチ91の締結力の大きさを制御できる。
【0085】
制御回路23は、アクチュエータ85、95に供給する指令信号(電力)を制御する。
【0086】
Highブレーキ33及びLowブレーキ34の締結及び解放は、制御回路23から供給される電力に基づいてアクチュエータ85、95が作動することによって制御される。Lowブレーキ34を締結状態とした場合はLowモードとなり、Highブレーキ33を締結状態とした場合はHighモードとなる。
【0087】
Highブレーキ33のアクチュエータ85への指令信号と、Lowブレーキ34のアクチュエータ95への指令信号とを共に最大締結側に制御することによって、ピストン82、92が締結方向へと移動し、Highブレーキ33とLowブレーキ34とが締結状態となる。
【0088】
これにより遊星歯車機構31がインターロックして、パーキングブレーキとして動作する。
【0089】
図5は、Highブレーキ33の締結機構の概略図である。ここではHighブレーキ33の締結機構を代表して説明するが、Lowブレーキ34の締結機構の構成も同様である。
【0090】
円盤状のローディングカム84は、遊星歯車機構31の入力軸41と軸を同一にすると共に、外歯車84Bを備える。
【0091】
アクチュエータ85にはウォームギヤ86が備えられる。アクチュエータ85及びウォームギヤ86は、ローディングカム84と直交する軸に備えられる。ウォームギヤ86は、ローディングカム84に形成された外歯車84Bに噛合する。アクチュエータ85が駆動してウォームギヤ86を回転させることによって、ローディングカム84が回転する。
【0092】
ローディングカム84のフロント側には、ローディングカム84と軸を同一とする円盤状のプレート83が対向して備えられる。プレート83には、円環状のピストン82が、フロント側に突設されている。
【0093】
ローディングカム84とプレート83との間には、周方向に等間隔に4つのローディング機構88が備えられる。
【0094】
ローディング機構88は、以下に説明するように、略矩形の溝に嵌め込まれた転動体が溝の傾斜を転動することによって、ローディングカム84の回転をプレート83の軸方向への摺動に変換する機構である。
【0095】
図6A、6Bは、ローディング機構88の概略図である。
【0096】
図6Aに示すように、ローディングカム84のフロント側の面には、くさび状の傾斜がプレート83側に突出した突出部84Aが凸設されている。プレート83には、突出部84Aに対向する位置に、くさび状に傾斜が形成された溝部83Aが凹設されている。溝部83Aには、球状またはローラ状の転動体89が、ローディングカム84の回転方向に転動可能に嵌合される。転動体89は、突出部84Aの斜面と溝部83Aの斜面とで挟持される。
【0097】
Highブレーキ33の解放時には、図6Aに示すように、転動体89は、突出部84Aの傾斜面の低い位置と溝部83Aの溝が深い位置との間に挟持されている。この状態ではプレート83及びピストン82は、多板クラッチ81の解放側へと移動して、Highブレーキ33を解放状態にする。
【0098】
Highブレーキ33を締結する場合は、アクチュエータ85によってウォームギヤ86を回転させて、ローディングカム84を所定の方向(例えば時計回り)へ所定の角度だけ回転させる。
【0099】
すると、図6Bに示すように、ローディングカム84の回転に伴って転動体89が転動して、突出部84Aの傾斜面の高い位置と溝部83Aの溝が浅い位置との間に移動する。図6Aと比較して、ローディングカム84に対してプレート83が多板クラッチ81の締結側へと移動する。
【0100】
この結果、ピストン82が多板クラッチ81を押圧して、Highブレーキ33を締結状態にする。Highブレーキ33の締結力は、プレート83の軸方向への摺動量、すなわち、ローディングカム84の回転角度よって制御される。
【0101】
ローディングカム84は、直交した軸に備えられるウォームギヤ86によって回転される。ローディングカム84の回転とピストン82との移動は非可逆であり、ローディングカム84によってピストン82を前後進させることはできるが、ピストン82を移動させてローディングカム84を回転させることはできない。
【0102】
上記構成によって、一旦Highブレーキ33を締結状態に制御した後は、アクチュエータ85の動作にかかわらずローディングカム84は回転せず、ローディングカム84の角度は変化しないので、アクチュエータ85への電力の供給を停止しても、Highブレーキ33の締結状態は維持される。
【0103】
Lowブレーキ34についても同様の構成である。従って、Highブレーキ33及びLowブレーキ34を共に締結状態に制御して、遊星歯車機構31をインターロック状態とした後は、アクチュエータ85、95を作動させなくても締結状態を維持できる。
【0104】
第2の実施形態のパーキング機構の動作は前述の第1の実施形態の図3と同様である。
【0105】
図3のステップS10及びS20の条件を判定した結果、処理がステップS30に移行した場合は、制御装置21は、制御回路23に対して、Highブレーキ33及びLowブレーキ34を締結状態に指示する。制御回路23は、この指示に基づいてHighブレーキ33及びLowブレーキ34のアクチュエータ85、95の駆動量を決定して、指令信号を出力する。この出力によって、Highブレーキ33及びLowブレーキ34が締結状態となる。
【0106】
ステップS40では、制御装置21は、パーキング動作が完了したか否かを、Highブレーキ33及びLowブレーキ34が締結状態となったか否かによって判定する。例えば、Highブレーキ33及びLowブレーキ34のアクチュエータ85、95の指示によってローディングカム84、94の回転角度が所定角度となった、等の条件を満たした場合に、制御装置21は、パーキング動作が完了したと判定する。
【0107】
その他の制御は図3と同様である。
【0108】
以上のように第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、締結することによってインターロック状態となる少なくとも2つのインターロック摩擦要素(Highブレーキ33及びLowブレーキ34)を共に締結することによって、変速機30のパーキング機構を実現する。
【0109】
変速機30において、パーキング機構のための部品が全て削除されるので、変速機30を小型化できると共に、変速機30の製造コストを低減できる。
【0110】
電力により駆動するアクチュエータ85によってインターロック摩擦要素の締結を制御するので、油圧ポンプ24が必要なく、さらに部品を削除できる
ウォームギヤ86とローディング機構88によりインターロック摩擦要素の締結を制御する。キーオフによって車両の機能が停止し、制御装置21等の動作を停止したとしても、インターロック摩擦要素を締結状態に維持できる。
【0111】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【0112】
例えば、第1又は第2の実施形態では、車両が駆動力源をモータ20とするEVとして説明したが、エンジン等の内燃機関を駆動力源とする車両であってもよい。内燃機関を駆動力源とする車両においても、小型化、軽量化によって、燃費効率を高めることができ、また、製造コストを低減できる。
【0113】
変速機30を、第1のリングギヤ45と第2のリングギヤ46と段付ピニオン43とからなる遊星歯車機構31によって構成したが、変速機30の構成はこれに限られない。従来の有段変速機において、締結することで有段変速機がインターロック状態となるインターロック摩擦要素を締結状態に維持するために、前述したHighブレーキ33及びLowブレーキ34と同じ構成を備えて、有段変速機をインターロック状態に維持することによって、パーキング機構を実現できる。
【0114】
インターロック摩擦要素(Highブレーキ33及びLowブレーキ34)を多板式のブレーキとして説明したが、リングギヤの外周に巻回したバンドの締結力によってリングギヤの回転を停止させるバンドブレーキであってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源の回転を変速して出力する遊星歯車機構を備えた変速機のパーキング機構であって、
締結状態又は解放状態となることによって前記遊星歯車機構の変速比を変更する複数の摩擦要素と、
前記摩擦要素を締結させる締結手段と、
を備え、
前記締結手段は、キーオフによって前記駆動力源の動作が停止しているときに、前記複数の摩擦要素のうち、締結することで前記変速機がインターロック状態となる少なくとも二つのインターロック摩擦要素を締結状態に維持する、
ことを特徴とするパーキング機構。
【請求項2】
請求項1に記載のパーキング機構であって、
前記締結手段は、前記複数の摩擦要素を締結方向に付勢するバネと、前記複数の締結要素を解放側に制御する油圧を供給する油圧供給手段と、を備え、
前記油圧供給手段からの油圧の供給が停止した後、前記バネの付勢力によって前記少なくとも二つのインターロック摩擦要素を締結状態に維持する、
ことを特徴とするパーキング機構。
【請求項3】
請求項1に記載のパーキング機構であって、
前記締結手段は、電力によって駆動されるアクチュエータによって前記複数の摩擦要素の締結力が制御されると共に、前記電力の供給が停止した後、前記少なくとも二つのインターロック摩擦要素を締結状態に維持する、
ことを特徴とするパーキング機構。
【請求項4】
請求項3に記載のパーキング機構であって、
前記締結手段は、
ウォームギヤと、
前記ウォームギヤと直交する軸上に、前記ウォームギヤと噛合する外歯車を備えるローディングカムと、
前記ローディングカムの回転に伴って、前記ローディングカムの軸方向に摺動するプレートと、
前記プレートの摺動により前記複数の摩擦要素の締結側又は解放側に移動して、前記複数の摩擦要素の締結力を制御するピストンと、
をさらに備え、
前記アクチュエータは、電力によって駆動されて前記ウォームギヤを回転させ、
前記アクチュエータの駆動により前記ピストンが移動することによって、前記少なくとも二つのインターロック摩擦要素が締結される、
ことを特徴とするパーキング機構。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のパーキング機構であって、
前記変速機は、
駆動力源からの駆動力が入力される入力軸と、
前記入力軸に結合されたサンギヤと、
前記サンギヤと噛合する第1の歯車、及び、第2の歯車が同軸上に結合された段付ピニオンと、
前記第1の歯車と噛合する第1のリングギヤと、
前記第2の歯車と噛合する第2のリングギヤと、
前記段付ピニオンに結合され、前記段付ピニオンの公転運動を出力するキャリアと、
前記サンギヤ、前記段付きピニオン、前記第1のリングギヤ、前記第2のリングギヤ、及び、前記キャリアを収容するケースと、
前記第1のリングギヤの回転を停止させる第1のブレーキと、
前記第2のリングギヤの回転を停止させる第2のブレーキと、
を備え、
前記締結手段は、キーオフによって前記駆動力源の動作が停止しているときに、前記第1のブレーキ及び前記第2のブレーキを共に締結状態に維持して、前記変速機をインターロック状態とする、
ことを特徴とするパーキング機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2012−2353(P2012−2353A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100943(P2011−100943)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】