説明

密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用配線膜および電極膜並びにそれらを形成するためのスパッタリングターゲット

【課題】TFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイの配線および電極を形成するための銅合金薄膜並びにその薄膜を形成するためのスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】酸素:0.4〜6原子%を含有し、さらにNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなる密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用配線および電極、並びにこれらを形成するためのスパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アモルファスSiおよびガラス基板表面に対する密着性に優れた銅合金膜からなるTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用配線膜および電極膜、並びにそれらを形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクティブマトリックス方式で駆動するTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイとして、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイなどが知られている。これらTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイにはガラス基板表面に格子状に金属膜からなる配線が密着形成されており、この金属膜からなる格子状配線の交差点にTFTトランジスターが設けられていて、このTFTトランジスターのゲート電極も金属膜で形成されている。
このTFTトランジスターを図1の断面概略説明図に基づいて説明すると、TFTトランジスターはガラス基板1の表面に金属膜からなる配線2が形成されており、この配線2の上にSiN膜3が形成されており、さらにSiN膜3の上にアモルファスSi膜4が形成されており、さらにアモルファスSi膜4の上に金属膜からなるドレイン電極5およびソース電極6が形成されている。ガラス基板1の表面に形成されている配線2並びにアモルファスSi膜4の上に形成されているドレイン電極5およびソース電極6は一般に純銅膜が使用されている。
しかし、純銅膜で構成されている配線2はガラス基板1に対する密着性が悪く、ドレイン電極5およびソース電極6はアモルファスSi膜4と容易に合金を形成する。そのために、近年、配線2、ドレイン電極5およびソース電極6には、ガラス基板1に対して密着性に優れ、アモルファスSi膜4に対し合金を形成し難い酸素を含む銅膜が使用されるようになってきた(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平5−25612号公報
【特許文献2】特開平8−26889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、TFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイは、近年、益々大型化する一方で、飛行機、自動車などに搭載されるようになり、飛行機の着陸時や自動車の悪路走行時など激しい振動を受ける機会が多くなってきた。かかる状態に置かれたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイの配線および電極の密着性が悪いと剥離が発生してフラットパネルディスプレイの故障につながることがあり、この剥離を防止するために一層密着性に優れた銅膜が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者等は、さらに一層密着性に優れた銅膜を開発し、これをTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイにおける配線および電極に適用すべく研究を行った。その結果、
(イ)純銅(特に純度:99.99%以上の無酸素銅)に、酸素を0.4〜6原子%を含有し、さらにNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%を含有した成分組成を有する銅合金膜は、従来の酸素を含む銅膜に比べて、電気抵抗がほぼ同じでかつガラス基板およびアモルファスSiに対する密着性が一層優れていることから、この成分組成を有する銅合金膜をTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用配線および電極として使用した場合に激しい振動を長期間受ける過酷な環境下にあっても剥離することがなく、したがって、故障することがないので信頼性が一層向上する、
(ロ)前記フラットパネルディスプレイ用配線および電極を構成する銅合金膜は、酸素:0.4〜6原子%を含有し、さらにNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる成分組成を有する前記銅合金膜と同じ成分組成を有するターゲットを用いてスパッタリングすることにより形成される、という研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)酸素:0.4〜6原子%を含有し、さらにNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金膜からなる密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用配線、
(2)酸素:0.4〜6原子%を含有し、さらにNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金膜からなる密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用電極、
(3)酸素:0.4〜6原子%を含有し、さらにNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用配線または電極を形成するためのスパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイの配線および電極を構成する銅合金膜は、ターゲットを用いて不活性ガス雰囲気中でスパッタリングすることにより作製する。このターゲットは、無酸素銅粉末、Ni粉末、Co粉末、Zn粉末およびCuO粉末を用意し、これら原料粉末を配合し、ボールミルで混合して混合粉末を作製し、この混合粉末をホットプレスし、得られたホットプレス体を機械加工することにより作製することができる。
【0007】
この発明の密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイにおける配線および電極を構成する銅合金膜、並びにこの銅合金膜を成膜するためのターゲットの成分組成の範囲を前述のごとく限定した理由を説明する。
【0008】
(a)銅合金膜の成分組成:
配線および電極を構成する銅合金膜に含まれる酸素を0.4〜6原子%に限定したのは、TFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイにおける配線および電極を構成する銅合金膜に酸素を含有させることにより密着強度を向上させることができるが、その含有量が0.4原子%未満では密着強度の十分な効果が得られないので好ましくなく、一方、6原子%を越えて含有すると電気抵抗が上昇し、フラットパネルディスプレイにおける配線および電極に使用する膜としては好ましくないからである。
さらに、配線および電極を構成する銅合金膜に含まれるNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%に限定したのは、これら成分は酸素と共存することによりガラス基板およびアモルファスSi膜表面に対する密着性を一層向上させる作用を有するので添加するが、これら成分のうちの1種または2種以上を合計で0.001原子%未満添加しても密着強度向上の効果が得られず、一方、3原子%を越えて添加すると、配線および電極の電気抵抗が上昇するので好ましくないことによるものである。
【0009】
(b)ターゲットの成分組成:
この発明の銅合金膜を成膜するためのターゲットに含まれる酸素を0.4〜6原子%に限定したのは、ターゲットに含まれる酸素が0.4原子%未満ではスパッタリングすることにより形成される銅合金膜に含まれる酸素が0.4原子%未満となって所望の効果が得られなくなるので好ましくなく、一方、ターゲットに含まれる酸素が6原子%を越えて含まれるようになると、スパッタリングして得られた膜の密着性は向上するものの電気抵抗が上昇するので好ましくないからである。
さらに、銅合金膜を成膜するためのターゲットに含まれるNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%に限定したのは、これら成分のうちの1種または2種以上を合計で0.001原子%より少なく添加したターゲットは、これを用いてスパッタリングしてもNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001原子%未満含有する銅合金膜が形成されて十分な密着性を有する銅合金膜が得られないので好ましくないからであり、一方、3原子%を越えて添加したターゲットを使用してスパッタリングすると、成膜される銅合金膜に含まれるこれら成分の含有量が3原子%を越えるようになり、電気抵抗が上昇するので好ましくないことによるものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明のTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイにおける配線および電極は、ガラス基板およびアモルファスSi膜に対する密着性に優れ、激しい振動を受けるなど過酷な環境下で長期間使用しても剥離することがなく、したがって、故障することがないTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイを提供することができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
純度:99.99質量%の純Cu粉末、Ni粉末、Co粉末、Zn粉末およびCuO粉末を用意し、これら原料粉末を表1〜2に示される配合割合で配合し、ボールミルで混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を温度:700℃、圧力:40トンに保持することによりホットプレスし、得られたホットプレス体を機械加工して直径:152mm、厚さ:12mmの寸法を有し表1〜2に示される成分組成を有する本発明銅合金スパッタリングターゲット(以下、本発明ターゲットという)1〜24、比較銅合金スパッタリングターゲット(以下、比較ターゲットという)1〜6および純銅からなるスパッタリングターゲット(以下、従来ターゲットという)1を作製した。
【0012】
さらに、無酸素銅製バッキングプレートを用意し、この無酸素銅製バッキングプレートに前記本発明ターゲット1〜24、比較ターゲット1〜6および従来ターゲット1を重ね合わせ、温度:200℃でインジウムはんだ付けすることにより本発明ターゲット1〜24、比較ターゲット1〜6および従来ターゲット1を無酸素銅製バッキングプレートに接合してバッキングプレート付きターゲットを作製した。
【0013】
さらに、ガラス基板(縦:50mm、横:50mm、厚さ:0.7mmの寸法を有するコーニング社製1737のガラス基板)およびアモルファスSiを成膜したガラス基板(縦:50mm、横:50mm、厚さ:0.7mmの寸法を有するコーニング社製1737のガラス基板)を用意した。
本発明ターゲット1〜24、比較ターゲット1〜6および従来ターゲット1を無酸素銅製バッキングプレートにはんだ付けして得られたバッキングプレート付きターゲットを、ターゲットとガラス基板およびターゲットとアモルファスSiを成膜したガラス基板との距離が70mmとなるようにスパッタリング装置にセットし、
電源:直流方式、
スパッタパワー:600W、
到達真空度:4×10−5Pa、
雰囲気ガス組成:Ar、
Arガス圧:0.67Pa、
ガラス基板加熱温度:150℃、
の条件で1分間成膜し、ガラス基板およびアモルファスSiを成膜したガラス基板の表面に、厚さ:300nmを有し、表3〜4に示される成分組成を有する本発明銅合金膜1〜24、比較銅合金膜1〜6および従来銅合金膜1を形成した。
【0014】
得られた本発明銅合金膜1〜24、比較銅合金膜1〜6および従来銅合金膜1をそれぞれJIS-K5400に準じ、1mm間隔で縦横11本ずつカッターで切り込み、本発明銅合金膜1〜24、比較銅合金膜1〜6および従来銅合金膜1に碁盤目状に切れ目を入れた後、3M社製スコッチテープで引き剥がし、ガラス基板中央部の10mm角内でガラス基板に付着していた膜の面積%を測定する碁盤目付着試験を実施し、その結果を表3〜4に示し、ガラス基板およびアモルファスSi膜に対する本発明銅合金膜1〜24、比較銅合金膜1〜6および従来銅合金膜1の密着性を評価した。
さらに、ガラス基板およびアモルファスSiを成膜したガラス基板の表面に形成された厚さ:300nmを有する本発明銅合金膜1〜24、比較銅合金膜1〜6および従来銅合金膜1を赤外線加熱炉に装入し、到達真空度:4×10−4Paの真空雰囲気中、昇温速度:5℃/min、最高温度:350℃、30分間保持の熱処理を施した。これら熱処理を施した本発明銅合金膜1〜20、比較銅合金膜1〜6および従来銅合金膜1の5点の比抵抗を四探針法により測定し、その平均値を求め、それらの結果を表3〜4に示した。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
【表3】

【0018】

【表4】

【0019】
表1〜4に示される結果から、(a)本発明銅合金膜1〜24は酸素を含む銅からなる従来銅合金膜1に比べて密着性に一層優れ、比抵抗にほとんど差がないこと、(b)この発明の条件から外れて酸素、Ni、CoおよびZnを含む比較銅合金膜1〜6は比抵抗が大きくなり過ぎたり、密着性が低下するなど好ましくないことなどが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】TFTトランジスターの要部を説明するための概略説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1:ガラス基板、2:配線、3:SiN膜、4:アモルファスSi膜、5:ドレイン電極、6:ソース電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素:0.4〜6原子%を含有し、さらにNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金膜からなることを特徴とする密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用配線。
【請求項2】
酸素:0.4〜6原子%を含有し、さらにNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金膜からなることを特徴とする密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用電極。
【請求項3】
酸素:0.4〜6原子%を含有し、さらにNi、CoおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜3原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金からなることを特徴とする密着性に優れたTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ用配線または電極を形成するためのスパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項1記載の配線および請求項2記載の電極を形成したTFTトランジスターを用いたフラットパネルディスプレイ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−277685(P2008−277685A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122283(P2007−122283)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】