説明

強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液、強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液の製造方法、強誘電体膜、強誘電体メモリ、圧電素子および焦電素子

【課題】強誘電体メモリ用途PZTにおいて、ZrとTiの比率が52/48を境にZrを多く含む稜面体晶PZTの場合、スリムなヒステリシス形状を示し、低電圧駆動が可能であるが、角型性が不良なヒステリシスを示し、Tiをリッチに含む正方晶PZTの場合、角型性良好なヒステリシスの形状を有しているが、抗電界が大きく、低電圧駆動が困難であり、信頼性が確保出来ないという課題があった。
【解決手段】正方晶PZT形成用ゾルゲル溶液において、有機酸のエステルを4≦pH<7の範囲で添加し、3次元巨大ネットワークゲルを形成し、添加剤の添加前よりも、Pt(111)膜被服基板の格子情報を生かした(111)配向PZT膜を提供する。或いは、稜面体晶PZT強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、塩基性のアルコールを7≦pH<10添加することで、2次元微小ネットワークゲルを形成し、添加剤の添加前よりも、目的の稜面体晶PZT強誘電体結晶自身が安定に存在できる方向の(001)配向膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体キャパシタを用いて構成される強誘電体メモリ装置に関するものであり、特に強誘電体キャパシタ及び選択用セルトランジスタを有した、いわゆる1T1C、2T2C型及び、セルトランジスタを有さず、強誘電体キャパシタのみでメモリセルが構成される単純マトリクス型のどちらにも共通で使用することが出来る強誘電体薄膜、及びその薄膜の製造技術、並びに強誘電体メモリ装置、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PZT、SBT等の薄膜や、これを用いた強誘電体キャパシタ、強誘電体メモリ装置等の研究開発が盛んに行われている。強誘電体メモリ装置の構造は1T、1T1C、2T2C、単純マトリクス型に大別できる。この中で、1T型は構造上キャパシタに内部電界が発生するためリテンション(データ保持)が1ヶ月と短く、半導体一般で要求される10年保証は不可能といわれている。1T1C型、2T2C型は、DRAMと殆ど同じ構成であり、かつ選択用トランジスタを有するために、DRAMの製造技術を生かすことが出来、かつSRAM並みの書き込み速度が実現されるため、現在までに256kbit以下の小容量品が商品化されている。
【0003】
これまで強誘電体材料としては、主にPb(Zr,Ti)O3(PZT)が用いられているが、同材料の場合、Zr/Ti比が52/48あるいは40/60といった、稜面体晶及び正方晶の混在領域及びその近傍の組成が用いられ、かつLa、Sr、Caといった元素をドーピングされて用いられている。この領域が用いられ、かつドーピングされているのは、メモリ素子に最も必要な信頼性を確保するためである。
【0004】
強誘電体メモリ応用が最も進んでいるPZTはPbZrO3とPbTiO3の固溶体であり、ZrとTiの比率が52/48を境にZrを多く含む場合、スリムなヒステリシス形状を示し、Tiを多く含む場合、角型良好なヒステリシスを示すことが知られている。
【0005】
もともとデータ書き込み直後のヒステリシス形状はTiをリッチに含む正方晶領域が良好であり、ヒステリシスの形状だけであればメモリ応用にもTiリッチな正方晶領域が適しているのであるが、この正方晶領域のPZTは信頼性が確保出来ないため、強誘電体メモリ素子として商品化されていない。
【0006】
多くの信頼性試験の中でも、スタティックインプリントと呼ばれる信頼性試験が最も厳しい。この試験は、1或いは0のデータを書き込んだ強誘電体メモリ、すなわち+或いは−のどちらか一方に分極処理を施した強誘電体薄膜を一定の温度(例えば85℃や150℃)で一定時間(例えば100時間や1000時間)保持した後、書き込んだデータが、書き込んだデータとして読み出すことが出来るかどうかの試験である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述のようにデータ書き込み直後のヒステリシス形状はTiをリッチに含む正方晶領域が良好であるが、Tiをリッチに含む正方晶領域とは、結晶構成元素の内、大部分がPb及びTiとなることを意味している。Pbは蒸気圧が高く、エリンガムの相図でも知られているように100℃程度の低温でもPbO蒸気が発生する。加えて、酸素との結合エネルギーが38.8kcal/molと最も小さく、PZT結晶中にPb欠損を生じやすい。Tiの場合は、酸素との結合エネルギーは73kcal/molとPb−Oの結合エネルギーの約2倍であるものの、原子量が47.88と同じBサイト構成元素のZrの91.224と比較しても約半分とPZT構成元素中最も軽く、スタティックインプリント試験における熱処理時に生じる振動衝突時に最も弾き飛ばされる確率が高く、PZT結晶中にTi欠損を生じやすい。これらの欠陥は、空間電荷分極の原因となり、さらにインプリント特性劣化を生じてしまう。
【0008】
さらには、電荷中性の原理からO欠損が発生し、いわゆるイオン性結晶構造に起因するショットキー欠陥が発生し、このことが原因で、リーク電流特性劣化の原因となり、このことからも信頼性が確保できない。
【0009】
加えて、強誘電体メモリの集積度の上昇や低電圧駆動の必要性から、素子サイズ縮小と共に強誘電体薄膜の薄膜化が進行し、強誘電体材料としてPZTを用いる場合、小容量メモリの際に使用されている、Zrリッチ組成を使い続けることが不可能となり、結果として、Tiリッチ組成PZTを使わなくてはならなくなる。
【0010】
すなわち、薄膜化により比誘電率が増大し、このためヒステリシス形状がよりスリムに変化してしまう。これまでのZrリッチPZTの信頼性、例えばインプリント特性に関しても、実用上問題とはならなかったものの、ヒステリシスは変化しており、これ以上ヒステリシス形状がスリムになることで、インプリント特性劣化が表面化してしまう。したがって、比誘電率を減少させて、ヒステリシス形状を小容量メモリで使用していたヒステリシス形状に近づけるために、Tiリッチ組成のPZTを使わなくてはならなくなるのである。この結果、既述の課題が現れて、いずれにせよ上記TiリッチPZTの抱える課題を解決しなければ、強誘電体メモリの高集積化は不可能となってしまう。
【0011】
一方、単純マトリックス型は、1T1C型、2T2C型に比べセルサイズが小さく、またキャパシタの多層化が可能であるため、高集積化、低コスト化が期待されている。従来の単純マトリクス型強誘電体メモリ装置に関しては、特開平9−116107号公報等に開示されている。同公開公報においては、メモリセルへのデータ書き込み時に、非選択メモリセルへ書き込み電圧の1/3の電圧を印加する駆動方法が開示されている。しかしながら、この技術においては、動作に必要とされる強誘電体キャパシタのヒステリシスループに関しては、具体的に記載されていない。本願発明者らが開発を進める中で、実際に動作が可能な単純マトリクス型強誘電体メモリ装置を得るには角型性の良好なヒステリシスループが必要不可欠であることが判った。これに対応可能な強誘電体材料としては、Tiリッチな正方晶のPZTが候補として考えられるが、既述の1T1C及び2T2C型強誘電体メモリ同様、信頼性の確保が最重要課題となる。
【0012】
本発明の目的は、1T1C、2T2C及び単純マトリクス型強誘電体メモリのどちらにも使用可能なヒステリシス特性を持つ強誘電体キャパシタを含む、1T1C、2T2C及び単純マトリクス型強誘電体メモリ装置及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
強誘電体メモリに使用する強誘電体薄膜の場合、強誘電体の分極軸を電解印加方向に揃えて用いるのが一般的である。
【0014】
例えば、PZTの場合、Zr/Ti比が52/48が相境界と呼ばれ稜面体晶と正方晶の混在領域であり、Zrが52を超えると稜面体晶、Ti組成が48を超えると正方晶となる。
【0015】
稜面体晶PZTの場合、分極軸が〈001〉軸に存在し、正方晶PZTの場合、〈111〉軸に存在する。従って、PZT薄膜を強誘電体メモリに用いる場合、資料1(第49回応用物理学関係連合講演会講演予稿集27a−ZA−6)のように、分極軸方向に配向性を揃えて使用するのが一般的である。
【0016】
しかしながら、強誘電体には結晶の配向性とは別に強誘電性発現の源である、分極域(ドメイン)が存在する。ドメインには、180°ドメインと90°ドメインが存在する。
【0017】
分極軸を結晶配向軸とした場合、印加電界に平行な180°ドメインは分極に寄与するが、90°ドメインは分極に全く寄与しない。
【0018】
理想の強誘電体キャパシタが形成されれば、90°ドメインは分極に寄与しないため、存在していても、それほど問題になることはない。ただしPZT薄膜全体の分極への寄与率は、90°ドメインの存在分だけ減少することとなる。
現実の強誘電体キャパシタは、電極の最表面も完全に平坦ではなく、凹凸を伴っており、結晶自身も途中で傾いて成長することがほとんどであり、この場合、90°ドメインは、印加電界に完全に垂直とはならず、若干の角度を有することとなる。この場合、90°ドメインは分極に寄与することになるが、印加電界にほぼ直角方向に分極軸が存在するため、90°ドメインを分極成分として寄与させるには、180°ドメインと比較して、相当大きな電界を必要とする。すなわち、低電圧で使用することが困難となる。
【0019】
しかしながら、PZT結晶を、Zr/Ti組成、結晶系、によらず、良好な角型性を取り出すことが出来れば、どのような形式の強誘電体メモリに対しても、用いることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、従来用いられている強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液中に、有機酸のエステルを4≦pH<7の範囲で添加し、3次元巨大ネットワークゲルを形成すること、或いは、従来用いられている強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液中に、塩基性のアルコールを7≦pH<10添加することで、2次元微小ネットワークゲルを形成することからなる。
【0021】
このうち、有機酸のエステル添加による3次元巨大ネットワークゲルは強誘電体膜を形成する下地の情報を最大限利用するためのものであり、塩基性のアルコール添加による2次元微小ネットワークゲルは強誘電体膜を形成する下地の情報を全く無視して、結晶自身が安定に存在できる方向へ成長させるためのものである。
【0022】
例えば、信頼性は確保できるものの、そのヒステリシス形状が角型不良かつスリム過ぎる稜面体晶PZTの場合、塩基性のアルコール添加による2次元微小ネットワークゲルとすることで、これまでにない良好な角型性を付加することが可能となる。
【0023】
一方、そのヒステリシス形状の角型性は良好であるものの、抗電界が大きく低電圧で使用することが困難であった正方晶PZTの場合、有機酸エステル添加による3次元巨大ネットワークゲルとすることで、単一配向性を極限まで増大させ、角型性は良好のまま、低電圧駆動を可能とすることが出来る。
【0024】
また、従来、信頼性確保が困難であった正方晶PZTの場合、有機酸エステル添加による3次元巨大ネットワークゲルとすることで、更なる結晶性の改善がなされた結果、不純物や格子欠陥が減少し、信頼性の改善が達成される。
【0025】
本発明は、PZTのみならず、Bi系強誘電体材料、タングステンブロンズ系強誘電体材料に拘わらず、ゾルゲル溶液であれば、応用でき、また、本発明は強誘電体メモリのみならず、同様に圧電素子や焦電素子等、強誘電性を活用した素子全般に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
1.ゾルゲル溶液に与える酸と塩基の働き
初めにPZTゾルゲル溶液の合成方法について説明する。
金属アルコキシドとカルボン酸金属塩との系、すなわち鉛源として酢酸鉛(CH3CO22Pb・3H2O、チタニウム源としてチタニウムテトラプロポキシド(CH32CHO4Ti、ジルコニウム源としてジルコニウムテトラ−n−ブトキシドCH3(CH23O)4Zr、溶媒として2−メトキシエタノールCH3O(CH22OHを用いて説明する。
【0027】
初めに酢酸鉛の結晶水を取り除くために、酢酸鉛にメトキシエタノールを添加し、加熱還流すると酢酸鉛中の酢酸(アセチル基)とメトキシエタノールとのエステル化反応生成物が副生する。
(CH3CO22Pb・3H2O+CH3O(CH22OH→CH3CO2PbO(CH22OCH3・XH2O (X<0.5)
次にチタニウムテトラプロポキシドにメトキシエタノールを添加すると、アルコール交換反応により、イソプロポキシ基((CH3)2CHO−)の一部或いは全部が2−メトキシエトキシ基(CH3O(CH2)2O−)に置き換わる。
(CH32CHO4Ti+nCH3O(CH22OH→((CH32CHO)4-nTi(O(CH22OCH3n(n=1〜4)
従って、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドにメトキシエタノールを添加すると、同様なアルコール交換反応が生ずる。
(CH32CHO4Ti+nCH3O(CH22OH→((CH32CHO)4-nZr(O(CH22OCH3n(n=1〜4)
これらを混合、加水分解、重縮合することで、次に示すポリマーを生ずる。
【0028】
【化1】

【0029】
これまで述べたように、酢酸鉛中の酢酸成分がメトキシエタノールと酢酸鉛エステルを生成し、ZrとTiのアルコール反応生成物と混合、加水分解、重縮合を繰り返し、目的の重縮合物を生成するわけである。これを簡単に纏めたものが下の表である。
【0030】
【表1】

【0031】
有機酸のエステルを添加すると、エステル中の酸成分によりpHが7よりも小さくなり、酸性を示すようになる。この時、溶液全体のルシャトリエの原理より、反応はエステル化増進に移動する。エステル化が進むと水が発生してZr、Tiのアルコール交換反応反応物との間で重縮合が進み、PZT生成用ゲルが3次元方向に巨大ネットワークを形成する。
【0032】
この時、pHが4よりも小さくなると、下地電極金属等の腐食が進行してしまうため、使用することが出来ない。
【0033】
塩基性のアルコールを添加すると、溶液全体がpH7よりも大きくなり、塩基性を示すようになる。この時、酢酸鉛のエステルは、元の酢酸鉛に戻る方向に平衡が移動する。その時、酢酸鉛は結晶水として系の水を奪い、全体のPZT生成用ゲルが巨大ネットワークを作り難い方向に系全体が移動するため、小さな2次元的ネットワークを形成する。
【0034】
この時、pHが10よりも大きくなると、ネットワークが完全にバラバラになり、各元素と元素が結びついておらず、PZT初期核の形成そのものが困難となり、結晶化温度が上昇し過ぎるため、半導体用途には使用することが出来ない。
【0035】
巨大3次元ネットワークの場合、どこかにPZT初期核が発生すると、系全体が繋がった状態のため、全体が低いエネルギーで同一方向に結晶が配向し易いのではないかと考えられる。この時、下地に(111)配向したPt電極を用いていれば、この方向に揃ったPZT初期核がネットワーク全体の向きを決め、(111)配向したPZT膜を得ることが出来る。
【0036】
短い2次元ネットワークの場合、ネットワークそのものが独自で結晶化する必要があり、ある同一エネルギー環境下でPZTの結晶化を行う場合、巨大3次元ネットワークの場合と比較して、結晶化のためには、より高いエネルギーが必要であろうことは容易に推察できる。
【0037】
更に、PZTのペロブスカイト結晶の各面における安定性について考えてみる。
100)、(010)、(001)とa,b,cの各結晶軸に沿った結晶面の場合、どの原子位置で面内を見渡しても、金属陽イオンと酸素陰イオンとが同じ数だけ隣同士に並んでいて、面内で中性が保たれており、エネルギー的に安定である。一方(111)配向面の場合、切断する原子面によっては、酸素が多く、電気的に中性を保てず、不安定である。
【0038】
したがって、短い2次元ネットワークの場合、ネットワークそのものが独自で結晶化する必要があるため、安定な面が電極面に平行に成長することが、不可欠となるであろうことが推察できる。したがって、短い2次元ネットワークの場合、(001)面に配向したPZT結晶が出来やすいのだと考えられる。しかしながら、十分に高い温度で結晶化させる場合、すなわち、大きな熱エネルギーを与えるとPtの(111)面を引きずって(111)配向PZTとなるが、半導体プロセスの一部としてPZTキャパシタを作りこむ場合、余り結晶化温度を高く出来ないため、特に700℃以下の温度でPZTキャパシタを作りこむ場合に、本発明は非常に有効である。
【0039】
このことを、証明しているのが、Pt(111)上のSBT薄膜は、ランダム配向であり、c軸配向成分(001)を多分に含んでいる。また結晶化温度を下げていくと、さらに(001)が含まれやすいことが知られている。SBTは結晶化温度が800℃程度と高く、結晶化温度を下げていくと、減少した熱エネルギー分だけ、安定面方向の結晶が成長しやすくなることを示している。
【0040】
巨大3次元ネットワークの形成を促進する、酸としてはあらゆる酸中でもカルボン酸が本発明には用いられるが、あまり強酸であると、ネットワークが巨大になりすぎて、薄膜用としては不適あることと同時に、下部の電極等を腐食してしまうためpHが5以上で7を超えないことが好ましい。加えて、結晶化させた後に発生するガス等を考えると環境側面からは、有機酸が好ましく、中でも有機酸のカルボン酸類、有機酸のエステルが特に好ましい。
【0041】
巨大3次元ネットワーク形成に用いる有機酸及び有機酸エステルとしては、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、ピクリン酸、クエン酸メチル、これらのメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類とのエステルがある。
【0042】
微小2次元ネットワーク形成に用いる塩基性アルコールとしては、2アミノエタノール、2ジメチルアミノエタノール、2ジエチルアミノエタノール、4アミノ1ブタノール等がある。
【0043】
また、上記、強誘電体薄膜形成用ゾルゲル溶液を塗布する基板として、シリコン、ゲルマニウム等の元素半導体、GaAs、ZnSe等の化合物半導体等の半導体基板、Pt等の金属基板、サファイア基板、MgO基板、SrTiO3、BaTiO3、ガラス基板等の絶縁性基板等が挙げられる。なかでもシリコン基板が好ましく、更に、シリコン単結晶基板が好ましい。
【0044】
また基板上には、電極が形成されてなるものも当然ながら含まれている。電極は、導電性の材料であれば特に限定されるものではなく、Pt、Ir、Au、Al、Ru等の金属、IrO2、RuO2等の酸化物導電体、TiN、TaN等の窒化物導電体等により形成することが出来る。電極の膜厚は、例えば100〜200nm程度が挙げられる。
【0045】
電極と基板との間には、絶縁層及び接着層等の中間層を形成しても良い。絶縁層は例えば、SiO2、Si34等により形成することが出来る。また、接着層としては、基板と電極又は絶縁層と電極との接着強度を確保することが出来るものであれば、その材料は特に限定されるものではなく、例えば、タンタル、チタン等の高融点金属が挙げられる。これらの中間層は、熱酸化法、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法、MOCVD法等、種々の方法で形成することが出来る。
【0046】
2.PZT系強誘電体薄膜の製造方法
上記、酢酸鉛エステルとTiテトラプロポキシド及びZrテトラ−n−ブトキシドのn−ブタノールとのアルコール交換反応物の重縮合体を10重量%含むn−ブタノール溶液を標準PZT形成用ゾルゲル溶液とした。
【0047】
上記、標準PZT形成用ゾルゲル溶液において、酢酸鉛1molに対して、Tiテトラプロポキシドを0.8mol、Zrテトラ−n−ブトキシドを0.2molの割合で合成したものを、第1標準PZT形成用ゾルゲル溶液とし、酢酸鉛1molに対して、Tiテトラプロポキシドを0.2mol、Zrテトラ−n−ブトキシドを0.8molの割合で合成したものを、第2標準PZT形成用ゾルゲル溶液とした。
すなわち、第1標準PZT形成用ゾルゲル溶液を用いた場合、正方晶のPbZr0.2Ti0.83の形成を目的とし、第2標準PZT形成用ゾルゲル溶液を用いた場合、稜面体晶のPbZr0.8Ti0.23の形成を目的とした溶液であることが分かる。
【0048】
上記、第1標準PZT形成用ゾルゲル溶液に1000mlに、コハク酸エチルを100mlを混合攪拌した溶液を第1溶液とした。
【0049】
更に、上記、第2標準PZT形成用ゾルゲル溶液に1000mlに、2ジエチルアミノエタノールを100mlを混合攪拌した溶液を第2溶液とした。
【0050】
次に、第1及び第2溶液を用いて、Pt(111)下部電極被覆Siウェハ上に下記の同一条件を用いてスピンコート塗布を行った。
【0051】
[強誘電体薄膜形成条件]
【0052】
【表2】

【0053】
この結果、膜厚が約200nmのPZT薄膜が得られた。この時のXRDパターンを図1に示した。
【0054】
図1に示したように、第1溶液では、ほぼ完全な(111)配向PZT薄膜が得られ、第2溶液では、ほぼ完全な(001)配向PZT薄膜が得られた。
【0055】
この時の、強誘電性ヒステリシス特性は、図2のようであり、どちらも良好な角型性を有するヒステリシス特性を示した。
【0056】
このことは、正方晶構造PZTの場合、分極軸が(001)にあるため、低電圧で反転させる或いは全ての分極成分を有効活用するには、(111)配向面のみが適しており、稜面体構造PZTの場合は、(001)配向面が適していることを反映したものである。
【0057】
ところが、従来、Pt(111)上における、PZT結晶は少なからず、Pt(111)の格子情報を受け継いでしまい、PZTも(111)配向成分を含んでしまい、図2に示した良好な角型性を引き出すことは非常に困難であった。
【0058】
このことを証明するために、2ジエチルアミノエタノールを含まない第2標準PZT形成用ゾルゲル溶液だけを、Pt(111)下部電極被覆Siウェハ上に上記成膜条件を用いてスピンコート塗布を行い、XRD回折評価を行ったところ(111)と(001)方向のXRDピークを有する、ランダム配向膜であった。この時、図3のようなヒステリシス特性が得られ、図2に示すような、良好な角型性を有するヒステリシス特性は得られなかった。
【0059】
このように、本発明を用いることで、稜面体構造PZTにおいて、これまで困難であった(001)配向膜を容易に形成でき、良好な角型性を有したPZT薄膜を作成することが出来る。
【0060】
3.強誘電体メモリの製造方法への適用例
図4は、本実施例に係る強誘電体メモリの製造工程の一例を模式的に示す断面図である。
【0061】
本実施例では、まず図4(A)に示すように、基体50の上に強誘電体キャパシタ80の下部電極となるPt金属薄膜60が形成されたものに対して上述した強誘電体薄膜の形成方法を用いて、PbPt3合金膜61、および本発明によるPZT結晶層72の上に、強誘電体キャパシタ80の上部電極となるPt金属薄膜62を形成する。なお、基体50は、例えば、図4に示すように、半導体基板51の上にセル選択用のトランジスタ56を形成したものを用いることが出来る。このトランジスタ56は、ソース/ドレイン53、ゲート酸化膜54、ゲート電極55を有することが出来る。また、トランジスタ56の一方のソース/ドレイン53の上には、例えば、タングステンなどからなるプラグ電極57を形成しておき、強誘電体キャパシタ80の下部電極となるPt金属薄膜60と接続可能に形成したスタック構造を採用することが出来る。また、基体50内においては、トランジスタ56はセル間で素子分離領域52によりセルごとに分離されており、トランジスタ56の上部には、例えば、酸化膜などからなる第1層間絶縁膜58を有することが出来る。
【0062】
次に、本実施例では、図4(B)に示すように、強誘電体キャパシタ80を所望の大きさ及び形状にパターニングする。そして、最終的には、図4(C)に示すように、強誘電体キャパシタ80を被覆するように水素バリヤ膜91を形成し、その後、第2層間絶縁膜92を形成すると共に、この第2層間絶縁膜92に形成されたスルーホールを通じて強誘電体キャパシタ80およびトランジスタ56を外部と接続するための金属配線層93,94を形成することにより強誘電体メモリを得る。本実施例の製造工程によれば、良好な結晶品質のPZT系強誘電体薄膜が形成されるので、特性に優れた強誘電体メモリを実現することが出来る。
【0063】
尚、本実施例では、いわゆる1T1C型の強誘電体メモリの製造工程について説明したが、本実施の形態の強誘電体薄膜の形成方法は、この他に、いわゆる2T2C型、1T型や単純マトリクス型(クロスポイント型)などの各種のセル方式を用いた強誘電体メモリの製造工程にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態における、強誘電体薄膜のXRDパターンを示した図。
【図2】本発明の実施の形態における、強誘電体薄膜のヒステリシス特性を示した図。
【図3】本発明の実施の形態における、従来のランダム配向した稜面体晶PZTキャパシタのヒステリシス特性を示した図。
【図4】本発明の実施形態に係る強誘電体薄膜の形成工程を適用した強誘電体メモリの製造工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0065】
50…基体、60…金属薄膜、61…合金膜、71…強誘電体薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、初期状態よりもpHを変化させるための添加物を添加した状態で用いることを特徴とする。
【請求項2】
強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、有機酸或いは有機酸のエステルを添加し、初期状態よりもpHを酸性方向へ変化させることを特徴とする。
【請求項3】
強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、塩基性のアルコールを添加し、初期状態よりもpHを塩基性方向へ変化させることを特徴とする。
【請求項4】
強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、有機酸或いは有機酸のエステルを添加し、初期状態よりも3次元巨大ネットワークゲルを形成することを特徴とする。
【請求項5】
強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、塩基性のアルコールを添加し、初期状態よりも3次元巨大ネットワークゲルを形成することを特徴とする。
【請求項6】
強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、有機酸のエステルを4≦pH<7の範囲で添加し、3次元巨大ネットワークゲルを形成することを特徴とする。
【請求項7】
強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、塩基性のアルコールを7≦pH<10添加することで、2次元微小ネットワークゲルを形成することを特徴とする。
【請求項8】
強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、有機酸のエステルを4≦pH<7の範囲で添加し、3次元巨大ネットワークゲルを形成し、添加剤の添加前よりも、膜形成基板の格子情報を生かした配向膜を得ることを特徴とする。
【請求項9】
強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、塩基性のアルコールを7≦pH<10添加することで、2次元微小ネットワークゲルを形成し、添加剤の添加前よりも、目的の強誘電体結晶自身が安定に存在できる方向の配向膜を得ることを特徴とする。
【請求項10】
正方晶PZT形成用ゾルゲル溶液において、有機酸のエステルを4≦pH<7の範囲で添加し、3次元巨大ネットワークゲルを形成し、添加剤の添加前よりも、Pt(111)膜被服基板の格子情報を生かした(111)配向PZT膜を得ることを特徴とする。
【請求項11】
稜面体晶PZT強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液において、塩基性のアルコールを7≦pH<10添加することで、2次元微小ネットワークゲルを形成し、添加剤の添加前よりも、目的の稜面体晶PZT強誘電体結晶自身が安定に存在できる方向の(001)配向膜を得ることを特徴とする。
【請求項12】
請求項1〜11により、90°ドメインが、膜被覆面と平行方向に存在しないことを特徴とする。
【請求項13】
請求項1〜11により作製された強誘電体薄膜を用いた強誘電体メモリ素子。
【請求項14】
請求項1〜11により作製された強誘電体薄膜を用いた強誘電体圧電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−94526(P2009−94526A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290707(P2008−290707)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【分割の表示】特願2003−68347(P2003−68347)の分割
【原出願日】平成15年3月13日(2003.3.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】