説明

後輪トー角制御装置

【課題】左右の後輪のトー角を個々に制御する後輪トー角制御装置において、左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が生じた場合にも車両の直進安定性を維持できるようにする。
【解決手段】後輪トー角制御装置10を、車両前後方向の加速度に基づいて左右の後輪5のトー角を共にトーイン若しくは共にトーアウトに制御するECU12と、左右の後輪5のコーナリングフォースを検出するための後輪空気圧センサ13とを備えるものとし、ECU12を、コーナリングパワー判定部26により左右の後輪5にコーナリングパワーの偏差が検出された場合、コーナリングフォース補正量算出部27により算出されたコーナリングフォース補正量(偏差)を低減するように、目標トー角補正部29により左右の後輪5のうち少なくとも一方の目標トー角θtを補正するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の後輪のトー角を個々に変化させる車両の後輪トー角制御装置に係り、後輪タイヤのコーナリングパワーの変化に応じて後輪トー角を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の回頭性や操縦安定性を向上させるために、後輪のトー角を可変制御する後輪トー角可変装置を備えた4輪操舵車両が開発されている。後輪トー角可変装置としては、後輪を支持するサスペンションにおけるラテラルリンクあるいはトレーリングリンクの車体との連結部に電動アクチュエータを左右後輪にそれぞれ設け、これら電動アクチュエータを駆動することによって左右両後輪のトー角を個別に可変制御できるように構成したものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで、自動車の車輪は一般に、ホイールに装着した中空構造の合成ゴム製タイヤに圧縮空気を充填することにより、走行時における路面の凹凸による衝撃の車体への伝達を抑制するとともに、路面との接地面積を小さくして小さな抵抗で自動車が走行できるようにしている。タイヤの状態は、自動車の操縦性に大きな影響を与えるため、常時監視されることが望ましく、これまでにも様々なタイヤ状態の検出方法が提案されている。例えば、歯車などの回転検出部が形成された回転体を車輪に一体に設け、回転検出部の通過を検出して車輪速度を検出する車輪速度検出手段の検出結果を基準値と比較することにより、タイヤ状態を判定するタイヤ異常検出装置が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
そして、左右の後輪のトー角を個々に変化させる車両の後輪トー角制御装置において、一方の後輪にコーナリングパワーの低下が検出された場合に、他方の後輪のトー角をスリップ角が大きくなる向きに変化させるように制御する発明を本出願人は提案している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−30438号公報
【特許文献2】特開平10−71819号公報
【特許文献3】特開2009−255910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3の後輪トー角制御装置は、左右の後輪を同一方向に転舵している状態、すなわち一方の後輪をトーアウトに、他方の後輪をトーインに制御している状態では操縦性を安定させることができるが、直進走行時などに左右の後輪を反対方向に転舵している状態、すなわち左右の後輪のトー角を共にトーイン若しくは共にトーアウトに制御している状態では操縦性を安定させることができなかった。つまり、直進加減速時に回頭性向上および停車距離削減のために後輪トー角をトーアウト若しくはトーインに制御する場合、左右の後輪にタイヤ空気圧の差異などによりコーナリングパワーの偏差が生じると、左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が生じて車両にスラスト角(車体の幾何学的中心線と直進時の車両の進行方向とがなす角)が生じてしまい、直進安定性が低下する。このような状態では、コーナリングパワーが低下した側と反対側の後輪のトー角をスリップ角が大きくなる向きに変化させると、スラスト角を大きくしてしまい、かえって車両の直進安定性を損なってしまう。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、左右の後輪のトー角を個々に制御する後輪トー角制御装置において、左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が生じた場合にも車両の直進安定性を維持できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、左右の後輪(5)のトー角を個々に変化させる左右のアクチュエータ(11)を備える車両(V)の後輪トー角制御装置(10)であって、車両前後方向の加速度に基づいて左右の後輪のトー角を共にトーイン若しくは共にトーアウトに制御する後輪トー角制御手段(12)と、左右の後輪のコーナリングフォースを検出するコーナリングフォース検出手段(13)とを備え、前記後輪トー角制御手段は、左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうち少なくとも一方のトー角を変更するように構成する。
【0009】
このように構成することにより、左右の後輪のトー角をトーイン若しくは共にトーアウトに制御する直進走行時などにおいて、左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出されても、左右の後輪のコーナリングフォースの偏差を低減してスラスト角の発生を抑制し、車両の直進安定性を維持することができる。なお、コーナリングフォースとは、車輪の進行方向に対して直角方向のタイヤと路面との摩擦力である。
【0010】
また、本発明の一側面によれば、前記後輪トー角制御手段は、車両の前方向の加速度に基づいて左右の後輪のトー角をトーアウトに制御するものであって、車両の加速時に左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうち少なくとも一方のトーアウト角を変更するように構成することができる。
【0011】
このように構成することにより、車両の加速時に左右の後輪のトー角をトーアウトに制御している状態で、左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出されても、左右の後輪のコーナリングフォースの偏差を低減してスラスト角の発生を抑制し、車両の直進安定性を維持することができる。
【0012】
また、本発明の一側面によれば、前記後輪トー角制御手段は、車両の加速時に左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうちコーナリングフォースが低い方のトーアウト角を大きくするように構成することができる。
【0013】
このように構成することにより、コーナリングフォースが低い方の後輪のコーナリングフォースを高くし、スラスト角の発生を抑制して直進安定性を維持でき、且つ、コーナリングフォースが低い方の後輪のコーナリングフォースを所期の値に近づけることができるため、直進加速時の高い回頭性も維持することができる。
【0014】
また、本発明の一側面によれば、前記後輪トー角制御手段は、車両の後方向の加速度に基づいて左右の後輪のトー角をトーインに制御するものであって、車両の減速時に左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうち少なくとも一方のトーイン角を変更するように構成することができる。
【0015】
このように構成することにより、車両の減速時に左右の後輪のトー角をトーインに制御している状態で、左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出されても、左右の後輪のコーナリングフォースの偏差を低減してスラスト角の発生を抑制し、車両の直進安定性を維持することができる。
【0016】
また、本発明の一側面によれば、前記後輪トー角制御手段は、車両の減速時に左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうちコーナリングフォースが低い方のトーイン角を大きくするように構成することができる。
【0017】
このよう構成することにより、コーナリングフォースが低い方の後輪のコーナリングフォースを高くし、スラスト角の発生を抑制して直進安定性を維持でき、且つ、コーナリングフォースが低い方の後輪のコーナリングフォースを所期の値に近づけることができるため、直進減速時の直進安定性も維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が生じた場合に、コーナリングフォースの偏差を低減するように後輪のトー角を変更することにより、車両の直進安定性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る後輪トー角制御装置を備えた自動車の概略構成図
【図2】図1に示したECUの概略構成を示すブロック図
【図3】図1に示したECUによる後輪トー角制御手順を示すフローチャート
【図4】目標トー角の補正を説明するための概略平面図
【図5】タイヤ空気圧とコーナリングパワーとの関係を示すグラフ
【図6】コーナリングフォースとコーナリングパワーを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る後輪トー角制御装置10を備えた後輪トー角可変車両の一実施形態について詳細に説明する。説明にあたり、車輪やそれらに対して配置された部材や要素、例えば後輪トー角などについては、それぞれ符号の数字に左右を示す添字lまたはrを付して、例えば、左後輪5l、右後輪5r、左側トー角θl、右側トー角θrなどと記すとともに、総称する場合には、例えば、後輪5または後輪5l,5r、トー角θまたはトー角θl,θrなどと記す。
【0021】
図1は実施形態に係る後輪トー角制御装置10を備えた自動車Vの概略構成図である。自動車Vは、タイヤ2l,2rが装着された前輪3l,3rと、タイヤ4l,4rが装着された後輪5l,5rとを備えており、これら前輪3l,3rおよび後輪5l,5rが、左右のフロントサスペンション6l,6rおよびリヤサスペンション7l,7rによってそれぞれ車体1に懸架されている。
【0022】
また、自動車Vは、ステアリングホイール8の操舵により、ラックアンドピニオン機構を介して前輪3を直接転舵する前輪操舵装置9と、左右のリヤサスペンション7l,7rに設けられた左右の電動アクチュエータ11l,11rを伸縮駆動することにより、左右の後輪5l,5rのトー角θl,θrを個別に変化させる後輪トー角制御装置10とを備えている。
【0023】
詳細な図示は省略するが、電動アクチュエータ11は、車体1側に連結されたハウジングや、ハウジング内に収容されたモータ、減速機、台形ねじを用いた送りねじ機構、送りねじ機構の雌ねじ部材を構成するとともに後輪5側に連結された出力ロッドなどから構成されており、モータの回転運動を送りねじ機構でスラスト運動に変換して出力ロッドを軸方向に直線的に進退させる直動型である。また、電動アクチュエータ11l・11rのハウジングには、出力ロッドのストローク位置を検出するストロークセンサ17l・17rが設けられており、電動アクチュエータ11l・11rはストロークセンサ17l・17rの出力に基づいて後述するECU12によりフィードバック制御される。
【0024】
自動車Vには、各種システムを統括制御する後輪トー角制御手段としてのECU(Electronic Control Unit)12や、左右の後輪5に対して設けられ、タイヤ4の空気圧を測定する後輪空気圧センサ13l,13r、ステアリングホイール8の操舵角を検出するステアリング舵角センサ14、アクセルペダルの位置(踏み込み量)を検出するアクセルペダルセンサ15、ブレーキペダルの位置(踏み込み量)を検出するブレーキペダルセンサ16、車速センサやヨーレイトセンサなど図示しない種々のセンサが設置されている。各センサ13〜17の検出信号はECU12に入力して車両の制御に供される。
【0025】
ECU12は、CPUやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース、各種ドライバなどから構成されており、通信回線を介して各センサ13〜17や、電動アクチュエータ11l・11rと接続されている。ECU12は、各センサの検出結果に基づいて左右の後輪5の目標トー角θlt,θrtを設定し、後輪5のトー角θを左右別々に制御する。
【0026】
このように構成された自動車Vによれば、左右の電動アクチュエータ11l・11rを同時に対称的に変位させることにより、後輪5l・5rのトーイン/トーアウトを適宜な条件の下に自由に制御することができる他、左右の電動アクチュエータ11l・11rの一方を伸ばして他方を縮めれば、後輪5l・5rを左右に転舵することも可能である。例えば、自動車Vは、各種センサによって把握される車両の運動状態に基づき、加速時に後輪5l・5rをトーアウトに、制動時に後輪5l・5rをトーインに変化させ、高速旋回走行時に後輪5l・5rを前輪舵角と同相に、低速旋回走行時に後輪5l・5rを前輪舵角と逆相にトー角制御(転舵)して、操縦性を高めるべく後輪トー角制御を行う。
【0027】
図2に示すように、後輪トー角制御装置10の制御手段であるECU12は、直進判定部21と、加減速判定部22と、目標コーナリングフォース算出部23と、目標トー角算出部24と、車輪位置特定部25、コーナリングパワー判定部26と、コーナリングフォース補正量算出部27と、トー角補正角算出部28と、目標トー角補正部29と、アクチュエータ制御部30と、強制送信命令部31とを構成要素として備えている。
【0028】
直進判定部21にはステアリング舵角センサ14の検出信号が入力しており、直進判定部21は、検出されたステアリング操舵角に基づいて自動車Vが直進中であるか否か(前輪3が車体1の幾何学的中心線と平行になっているか否か)を判定する。加減速判定部22には直進判定部21の判定結果とアクセルペダルセンサ15およびブレーキペダルセンサ16の検出信号とが入力しており、加減速判定部22は、これら信号に基づいて直進走行時における自動車Vの加速度および減速度を判定する。目標コーナリングフォース算出部23は、直進走行時の加減速度(前後方向の加速度)に基づいて後輪5の目標コーナリングフォースを算出する。ここで、直進走行時の左右の後輪5l,5rの目標コーナリングフォースは左右逆向きで同一の大きさとされる。目標トー角算出部24は、算出された目標コーナリングフォースに基づいて後輪5の目標トー角θtを算出する。ここで、左右の後輪5l,5rの目標トー角θlt,θrtは、左右逆向き(共にトーイン若しくは共にトーアウト)で原則的に同一の大きさであり、加速時には自動車Vの回頭性向上のため共にトーアウトに、減速時には自動車Vの停車距離削減のため共にトーインとされる。
【0029】
また、加減速判定部22による判定信号は強制送信命令部31に入力しており、強制送信命令部31は、加減速判定部22による判定信号が入力すると、左右の後輪空気圧センサ13に対して所定の送信タイミングにより空気圧信号を出力するよう空気圧測定指令を出力する。
【0030】
車輪位置特定部25には加減速判定部22の判定結果と左右の後輪空気圧センサ13r,13lの検出信号とが入力しており、車輪位置特定部25は、これら信号に基づいて加減速時に後輪5のタイヤ空気圧が低下したか否か、およびタイヤ空気圧が低下した場合にはその後輪5の位置(左右)を特定する。コーナリングパワー判定部26は、図5に示すグラフを参照して検出されたタイヤ空気圧に基づいて、タイヤ空気圧が低下した後輪5のコーナリングパワーを判定する。図5からわかるように、タイヤ4の空気圧が低下すると、これに伴って後輪5のコーナリングパワーが低下する傾向にある。なお、コーナリングパワーとは単位スリップ角あたりのコーナリングフォースのことであり、図6に示すように、横軸にスリップ角をとり、縦軸に横力をとったグラフにおいて、スリップ角の増大に比例して横力が大きくなる直線部の傾きに相当する。
【0031】
コーナリングフォース補正量算出部27には目標コーナリングフォースの算出結果とコーナリングパワーの判定結果とが入力しており、コーナリングフォース補正量算出部27は、タイヤ空気圧が低下した後輪5について、判定されたコーナリングパワーにより目標コーナリングフォースを出力するのに不足するコーナリングフォースをコーナリングフォース補正量として算出する。つまり、後輪空気圧センサ13がコーナリングフォースの検出手段として機能し、コーナリングフォース補正量算出部27は、後輪空気圧センサ13の検出結果に基づいて、正常な後輪5とタイヤ空気圧が低下した後輪5とのコーナリングフォースの偏差を算出する。トー角補正角算出部28は、算出されたコーナリングフォース補正量と判定されたコーナリングパワーとに基づいて、タイヤ空気圧が低下した後輪5が目標コーナリングフォースを出力するのに不足するトー角をトー角補正角として算出する。つまり、ここではトー角補正角算出部28は、正常な後輪5とタイヤ空気圧が低下した後輪5とのコーナリングフォースの偏差がなくなるようにトー角補正角を設定する。
【0032】
目標トー角補正部29は、目標トー角算出部24により算出された目標トー角θtに、トー角補正角算出部28により算出されたトー角補正角を加算して目標トー角θtを補正し、補正した目標トー角θtをアクチュエータ制御部30へ出力する。なお、ここで補正される目標トー角θtはタイヤ空気圧が低下した方の後輪5のみである。アクチュエータ制御部30は、入力した目標トー角θlt,θrtおよび左右のストロークセンサ17r,17lの検出値に基づき左右の電動アクチュエータ11l,11rを駆動制御する。具体的には、アクチュエータ制御部30は、ストロークセンサ17の検出値から求まる実トー角θaと目標トー角θtとの差に基づいて電動アクチュエータ11に対してPWM制御におけるデューティー比のPID制御を行い、後輪5を即座に目標トー角θtへとトー変化させる。
【0033】
次に、図3を参照してECU12による後輪トー角制御の手順について説明する。ECU12は、自動車Vがエンジンを始動すると、以下の後輪トー角制御を開始する。なお、ECU12は直進走行時だけでなく旋回走行時においても所定の後輪トー角制御を行うが、ここでは旋回走行時の制御は割愛し、直進走行時の制御のみについて説明する。
【0034】
後輪トー角制御を開始すると、ECU12はまず、直進判定部21において、ステアリング操舵角に基づいて自動車Vが直進状態であるか否かを判定する(ステップST1)。ここでは例えば、ステアリング操舵角が−0.1度以上且つ0.1度以下である場合を直進状態とし、それ以外の場合を直進状態でないものと判定する。ステップST1で自動車Vが直進状態であると判定された場合(Yes)、ECU12は次に、加減速判定部22において、アクセルペダルセンサ15およびブレーキペダルセンサ16の検出結果に基づいて、直進状態の自動車Vが加速中もしくは減速中であるか否かを判定する(ステップST2)。ステップST1で自動車Vが直進状態でないと判定された場合(No)、およびステップST2で自動車Vが加速中もしくは減速中でないと判定された場合(No)、ステップST1に戻って上記手順を繰り返す。
【0035】
一方、ステップST2で自動車Vが加速中もしくは減速中であると判定された場合(Yes)、ECU12は、目標コーナリングフォース算出部23において、左右の後輪5l,5rの目標コーナリングフォースを算出する(ステップST3)。次に、ECU12は、目標トー角算出部24において、目標コーナリングフォースに基づいて左右の後輪5の目標トー角θtを算出した後(ステップST4)、強制送信命令部31において、左右の後輪空気圧センサ13l,13rに対する空気圧測定指令を出力する(ステップST5)。
【0036】
その後、ECU12は、車輪位置特定部25において、左右の後輪5のタイヤ空気圧に差異があるか否かを判定し(ステップST6)、左右の後輪5のタイヤ空気圧に差異がない場合(No)、アクチュエータ制御部30において、目標トー角θtに基づく電動アクチュエータ11の駆動制御を行い(ステップST10)、上記手順を繰り返す。
【0037】
一方、ステップST6で左右の後輪5のタイヤ空気圧に差異がある場合(Yes)、ECU12は、コーナリングパワー判定部26およびコーナリングフォース補正量算出部27において、タイヤ空気圧が低い方の後輪5のコーナリングフォース補正量を算出した後(ステップST7)、トー角補正角算出部28において、タイヤ空気圧が低い方の後輪5に加算すべきトー角補正角を算出する(ステップST8)。次いでECU12は、目標トー角補正部29において、タイヤ空気圧が低い方の後輪5に対する目標トー角θtにトー角補正角を加算して目標トー角θtを補正し(ステップST9)、アクチュエータ制御部30において、目標トー角θtに基づく電動アクチュエータ11の駆動制御を行い(ステップST10)、上記手順を繰り返す。
【0038】
このような後輪トー角制御を行うことにより、図4(A)に示すように、例えば自動車Vが直進加速時に後輪5を共にトーアウトに制御している際に、左後輪5lにタイヤ空気圧の低下によりコーナリングパワーの低下が生じている場合には、右後輪5rの目標トー角θrt=αにより生じるコーナリングフォースと釣り合うコーナリングフォースを左後輪5lが発生するように(右後輪5rのコーナリングフォースとの偏差を低減するように)、左後輪5lの目標トー角θlt=αにトー角補正角=βを加算して補正した値α+βが左後輪5lの目標トー角θltとなる。これにより、左右の後輪5l,5rのコーナリングフォースが釣り合い、後輪5に起因するスラスト角が発生しないため、自動車Vの直進安定性を維持でき、且つ、コーナリングパワーが低い左後輪5lのコーナリングフォースを高くして所期の値にすることができるため、直進加速時の高い回頭性も維持することができる。
【0039】
また、図4(B)に示すように、例えば自動車Vが直進減速時に後輪5を共にトーインに制御している際に、右後輪5rにタイヤ空気圧の低下によりコーナリングパワーの低下が生じている場合には、左後輪5lの目標トー角θlt=αにより生じるコーナリングフォースと釣り合うコーナリングフォースを右後輪5rが発生するように(左後輪5lのコーナリングフォースとの偏差を低減するように)、右後輪5rの目標トー角θrt=αにトー角補正角=βを加算して補正した値α+βが右後輪5rの目標トー角θrtとなる。これにより、左右の後輪5l,5rのコーナリングフォースが釣り合い、後輪5に起因するスラスト角が発生しないため、自動車Vの直進安定性を維持でき、且つ、コーナリングパワーが低い右後輪5rのコーナリングフォースを高くして所期の値にすることができるため、直進減速時の直進安定性も維持することができる。
【0040】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、コーナリングパワーの検出手段として、タイヤ空気圧検出手段を採用しているが、タイヤの種類を判定するタイヤ種類判定手段など、他のパラメータを用いてコーナリングパワーを検出してもよい。また、上記実施形態では、検出したコーナリングパワーに基づいてコーナリングフォースの偏差を算出しているが、トー変化させた後輪5の軸力やキングピン周りのモーメントなどを検出することによって直接的にコーナリングフォースの偏差を算出してもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、トー角補正角算出部28が、正常な後輪5とタイヤ空気圧が低下した後輪5とのコーナリングフォースの偏差の全てを打ち消すようにトー角補正角を設定しているが、偏差の一部を打ち消すようにトー角補正角を設定してもよい。また、上記実施形態では、加速時に左右の後輪5にコーナリングパワーの偏差が検出された場合、ECU12が左右の後輪5のうちコーナリングパワーが低い方のトーアウト角を大きく補正することで、コーナリングパワーの偏差に基づくコーナリングフォースの偏差を低減しているが、左右の後輪5のうちコーナリングパワーが高い方のトーアウト角を小さくすることでコーナリングフォースの偏差を低減してもよい。同様に、上記実施形態では、減速時に左右の後輪5にコーナリングパワーの偏差が検出された場合、ECU12が左右の後輪5のうちコーナリングパワーが低い方のトーイン角を大きく補正することで、コーナリングパワーの偏差に基づくコーナリングフォースの偏差を低減しているが、左右の後輪5のうちコーナリングパワーが高い方のトーイン角を小さく補正することでコーナリングフォースの偏差を低減してもよい。
【0042】
さらに、加速時に後輪5をトーインに制御する場合や、減速時に後輪5をトーアウトに制御する場合であっても、上記実施形態のように左右の後輪5のうちコーナリングパワーが低い方のトーイン角もしくはトーアウト角を大きく補正したり、後輪5のうちコーナリングパワーが高い方のトーイン角もしくはトーアウト角を小さく補正したりすることによって、コーナリングパワーの偏差に基づくコーナリングフォースの偏差を低減することも可能である。その他、各種部材の構成や後輪トー角制御の具体的手順なども上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0043】
V 自動車
1 車体
4 タイヤ
5 後輪
10 後輪トー角制御装置
11 電動アクチュエータ
12 ECU(後輪トー角制御手段)
13 後輪空気圧センサ
14 ステアリング舵角センサ
15 アクセルペダルセンサ
16 ブレーキペダルセンサ
26 コーナリングパワー判定部
27 コーナリングフォース補正量算出部
29 後輪トー角補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の後輪のトー角を個々に変化させる左右のアクチュエータを備える車両の後輪トー角制御装置であって、
車両前後方向の加速度に基づいて左右の後輪のトー角を共にトーイン若しくは共にトーアウトに制御する後輪トー角制御手段と、
左右の後輪のコーナリングフォースを検出するコーナリングフォース検出手段とを備え、
前記後輪トー角制御手段は、左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうち少なくとも一方のトー角を変更することを特徴とする後輪トー角制御装置。
【請求項2】
前記後輪トー角制御手段は、車両の前方向の加速度に基づいて左右の後輪のトー角をトーアウトに制御するものであって、車両の加速時に左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうち少なくとも一方のトーアウト角を変更することを特徴とする、請求項1に記載の後輪トー角制御装置。
【請求項3】
前記後輪トー角制御手段は、車両の加速時に左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうちコーナリングパワーが低い方のトーアウト角を大きくすることを特徴とする、請求項2に記載の後輪トー角制御装置。
【請求項4】
前記後輪トー角制御手段は、車両の後方向の加速度に基づいて左右の後輪のトー角をトーインに制御するものであって、車両の減速時に左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうち少なくとも一方のトーイン角を変更することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の後輪トー角制御装置。
【請求項5】
前記後輪トー角制御手段は、車両の減速時に左右の後輪にコーナリングフォースの偏差が検出された場合、当該コーナリングフォースの偏差を低減するように、左右の後輪のうちコーナリングパワーが低い方のトーイン角を大きくすることを特徴とする、請求項4に記載の後輪トー角制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−206648(P2012−206648A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74910(P2011−74910)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】