説明

成膜装置及びその運用方法

【課題】処理容器内の処理空間に接する石英製の部材の表面に対するカーボン膜の密着性を向上させてパーティクルの発生を抑制することができる成膜装置の運用方法を提供する。
【解決手段】石英製の処理容器8内で保持手段22に保持された複数の被処理体Wの表面にカーボン膜を成膜する成膜工程を行うようにした成膜装置の運用方法において、処理容器内の処理空間に接する石英製の部材の表面にカーボン膜の密着性を向上させる密着膜70を形成する密着膜形成工程を行うようにする。これにより、処理容器内の処理空間に接する石英製の部材の表面に対するカーボン膜の密着性を向上させてパーティクルの発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理体にカーボン膜を成膜する成膜装置及びその運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、IC等の半導体集積回路を形成するためには、シリコン基板等よりなる半導体ウエハに対して、成膜処理、エッチング処理、酸化拡散処理、アニール処理等の各種の処理を繰り返し行っている。そして、上記エッチング処理を例にとれば、微細加工を施すために、従来にあっては種々の材料の薄膜がエッチングマスクとして用いられているが、最近にあっては、カーボン膜がエッチングマスク、すなわち犠牲膜として用いられる場合がある(例えば特許文献1、2)。この理由は、カーボン膜は、例えば成膜時に他のエッチングマスク材料よりもウエハ表面のパターンの凹部の側壁にも良好に薄膜が堆積してステップカバレジを向上させることができるからである。
【0003】
この場合、上記カーボン膜は例えば多結晶化しており、上述のようにステップカバレジが良好なことから、線幅等が益々小さくなって微細化が進んで設計ルールが厳しくなった現在のような状況において、上記カーボン膜の有用性が向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−523034号公報
【特許文献2】特開2011−181903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記カーボン膜を半導体ウエハに成膜するには、原料ガスとなる例えばエチレンを減圧雰囲気になされた石英製の処理容器内に流すことになる。この場合、パーティクル対策や成膜処理の再現性の維持のために、上記成膜処理を行う前にウエハを処理容器内に収容しない状態にして処理容器内に原料ガスを流し、処理容器の内面や処理容器内の石英製の部品、例えば半導体ウエハを保持するウエハボート等の表面にアモルファス状態のカーボン膜をプリコート膜として形成している。そして、このプリコート膜を形成した後にウエハボートに半導体ウエハを保持させてこれを処理容器内へ搬入(ロード)してウエハに対してカーボン膜を成膜するようになっている。
【0006】
しかしながら、上記カーボン膜は、石英(SiO )に対する密着性が良好ではないことから、上記プリコート膜やこのプリコート膜上にウエハに対する成膜時に堆積したカーボン膜が剥がれ易くなってパーティクルが発生する、といった問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明は、処理容器内の処理空間に接する石英製の部材の表面に対するカーボン膜の密着性を向上させてパーティクルの発生を抑制することができる成膜装置及びその運用方法である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、石英製の処理容器内で保持手段に保持された複数の被処理体の表面にカーボン膜を成膜する成膜工程を行うようにした成膜装置の運用方法において、前記処理容器内の処理空間に接する石英製の部材の表面にカーボン膜の密着性を向上させる密着膜を形成する密着膜形成工程を行うようにしたことを特徴とする成膜装置の運用方法である。
【0009】
このように、石英製の処理容器内で保持手段に保持された複数の被処理体の表面にカーボン膜を成膜する成膜工程を行うようにした成膜装置の運用方法において、処理容器内の処理空間に接する石英製の部材の表面にカーボン膜の密着性を向上させる密着膜を形成するようにしたので、処理容器内の処理空間に接する石英製の部材の表面に対するカーボン膜の密着性を向上させてパーティクルの発生を抑制することができる。
【0010】
請求項8に係る発明は、複数の被処理体の表面にカーボン膜を成膜する成膜装置において、排気が可能になされた縦型の石英製の処理容器と、前記被処理体を加熱する加熱手段と、前記複数の被処理体を保持して前記処理容器内へロード及びアンロードされる保持手段と、前記処理容器内へガスを導入するガス導入手段と、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の成膜装置の運用方法を実施するように装置全体を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする成膜装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る成膜装置及びその運用方法によれば、次のように優れた作用効果を発揮することができる。
処理容器内の処理空間に接する石英製の部材の表面に対するカーボン膜の密着性を向上させてパーティクルの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る成膜装置の一例を示す断面構成図である。
【図2】本発明の成膜装置の運用方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】石英製の処理容器の内面に堆積した薄膜の一例を示す拡大模式図である。
【図4】密着膜に関する実験の結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る成膜装置及びその運用方法の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。図1は本発明に係る成膜装置の一例を示す断面構成図である。ここでは、密着膜用ガスとしてシラン系ガス、例えばモノシランを用い、カーボン膜用ガスとして炭化水素ガス、例えばエチレンを用い、クリーニングガスとして酸素を用いた場合を例にとって説明する。
【0014】
図示するようにこの成膜装置2は、筒体状の石英製の内筒4とその外側に同心円状に配置した有天井の筒体状の石英製の外筒6とよりなる2重管構造の処理容器8を有している。この処理容器8の外周は、加熱ヒータ10を有する加熱手段12により覆われており、処理容器8内に収容される被処理体を加熱するようになっている。上記外筒6内が処理空間Sとして形成される。
【0015】
この加熱手段12は円筒体状になされており、処理容器8の側面の略全域を囲むようになっている。更に、この処理容器8の外周には天井部を含めてその側面側の全体を覆うようにして断熱材14が設けられている。そして、この断熱材14の内側面に上記加熱手段12が取り付けられている。
【0016】
上記処理容器8の下端は、例えばステンレススチール製の筒体状のマニホールド18によって支持されており、上記内筒4の下端部は、上記マニホールド18の内壁に取り付けた支持リング20上に支持されている。尚、このマニホールド18を石英等により形成し、これを上記処理容器8側と一体成型するようにしてもよい。また、このマニホールド18の下方からは複数枚の被処理体としての半導体ウエハWを載置した保持手段としての石英製のウエハボート22が昇降可能に挿脱自在(ロード及びアンロード)になされている。例えば半導体ウエハWとしては直径が300mmのサイズが用いられるが、この寸法は特には限定されない。このウエハボート22は、ウエハWの半円部に偏在させて設けた3本、或いは4本の支柱22Aの上下方向の両端を固定することにより形成され、例えばこの支柱22Aに所定のピッチで形成した溝部にウエハWの周辺部を保持させている。
【0017】
このウエハボート22は、石英製の保温筒24を介して回転テーブル26上に載置されており、この回転テーブル26は、マニホールド18の下端開口部を開閉する蓋部28を貫通する回転軸30の上端で支持される。そして、この回転軸30の貫通部には、例えば磁性流体シール32が介設され、この回転軸30を気密にシールしつつ回転可能に支持している。また、蓋部28の周辺部とマニホールド18の下端部には、例えばOリング等よりなるシール部材34が介設されており、容器内のシール性を保持している。ここで、石英製の部材としては、内筒4及び外筒6よりなる処理容器8の他に、ウエハボート22及び保温筒24が対象となる。
【0018】
上記した回転軸30は、例えばボートエレベータ等の昇降機構36に支持されたアーム38の先端に取り付けられており、ウエハボート22及び蓋部28等を一体的に昇降できるようになされている。上記マニホールド18の側部には、上記処理容器8内へ処理に必要なガスを導入するガス導入手段40が設けられる。具体的には、このガス導入手段40は、密着膜用ガスを供給する密着膜用ガス供給系42と、カーボン膜用ガスを供給するカーボン膜用ガス供給系44と、クリーニングガスを供給するクリーニングガス供給系46と、パージガスを供給するパージガス供給系48とを有している。
【0019】
上記各ガス供給系42、44、46、48は、上記マニホールド18を貫通させて設けたガスノズル42A、44A、46A、48Aをそれぞれ有しており、各ガスノズル42A、44A、46A、48Aからそれぞれ対応するガスを流量制御しつつ必要に応じて供給できるようになっている。上記各ガスノズルの形態は特に限定されず、例えば処理容器8の高さ方向に沿って延びて、多数のガス噴射孔が形成された、いわゆる分散形のノズルを用いてもよい。
【0020】
上記用いられるガス種としては、前述したように、密着膜用ガスとして例えばシラン系ガス、例えばモノシランが用いられ、カーボン膜用ガスとして炭化水素系ガス、例えばエチレンを用い、クリーニングガスとして酸素又はオゾンを用い、パージガスとして窒素を用いている。上記密着膜用ガスやシラン系ガスやクリーニングガスは、必要に応じてキャリアガスと共に流すようにしてもよい。
【0021】
また、上記マニホールド18の側壁には、内筒4と外筒6との間から処理容器8内の雰囲気を排出する排気口50が設けられており、この排気口50には、図示しない例えば真空ポンプや圧力調整弁等を介設した真空排気系52が接続されている。
【0022】
以上のように形成された成膜装置2の全体の動作は、例えばコンピュータ等よりなる制御手段60により制御されるようになっている。上記制御手段60は装置全体の動作の制御を行い、この動作を行うコンピュータのプログラムはフレキシブルディスクやCD(CompactDisc)やハードディスクやフラッシュメモリ等の記憶媒体62に記憶されている。具体的には、この制御手段60からの指令により、各ガスの供給の開始、停止や流量制御、プロセス温度やプロセス圧力の制御等が行われる。
【0023】
次に、以上のように構成された成膜装置の運用方法について図2及び図3も参照して説明する。図2は本発明の成膜装置の運用方法の一例を示すフローチャート、図3は石英製の処理容器の内面に堆積した薄膜の一例を示す拡大模式図である。まず、この成膜装置の一般的な動作について簡単に説明する。まず、半導体ウエハWを保持するウエハボート22は、処理容器8内より下方へ降下されて、すなわちアンロード状態になされてローディングエリア内に待機状態になされている。
【0024】
ここで半導体ウエハWにカーボン膜を形成するなどウエハWに対して処理を行う場合には、上記ウエハボート22には多段に複数、例えば50〜100枚程度の未処理のウエハWが保持される。また、処理容器8の内面に密着膜を付ける場合やクリーニング処理を行う場合には、上記ウエハボート22にはウエハWは何ら保持されておらず、空状態になされている。そして、処理容器8はプロセス温度、或いはそれよりも低い温度に維持されており、ウエハボート22を上昇させてこれを処理容器8内へ挿入、すなわちロードし、蓋部28でマニホールド18の下端開口部を閉じることにより処理容器8内を密閉する。
【0025】
そして、処理容器8内を所定のプロセス圧に維持すると共に、加熱手段12への投入電力を増大して内部の温度を上昇させ、所定のプロセス温度に安定的に維持する。その後、所定のガスをガス導入手段40により処理容器8内に導入する。
【0026】
導入されたガスは、内筒4内に導入された後にこの中を上昇して天井部にて折り返して天井部から内筒4と外筒6との間の間隙を流下して、排気口50から真空排気系52により容器外へ排出される。これにより、密着膜の形成工程、カーボン膜の成膜工程、クリーニング工程等を行うことになる。
【0027】
前述したように、密着膜を形成する場合には、密着膜用ガス供給系42より密着膜用ガス、すなわちモノシランを導入し、カーボン膜を形成する場合には、カーボン膜用ガス供給系44よりカーボン膜用ガス、すなわちエチレンを導入し、クリーニング処理を行う場合には、クリーニングガス供給系46よりクリーニングガス、例えば酸素を導入し、例えば各処理の間に行われるパージ処理を実施する場合には、パージガス供給系48よりパージガス、例えば窒素を導入することになる。
【0028】
次に、具体的に本発明の成膜装置の運用方法の一例について図2も参照して説明する。本発明の特徴は、処理容器8の内面にカーボン膜の密着性を向上させる密着膜を予め形成しておく点にあり、この密着膜は、処理容器8内をクリーニング処理した後であって、半導体ウエハWにカーボン膜を形成する前に行うことになる。
【0029】
まず、この成膜装置2の運用を開始すると、密着膜の成膜が必要であるか否かを判断する(S1)。この判断は、処理容器8の内面に密着膜がすでに形成されているか否かによって行われる。例えば、前回の運用を停止した時に、処理容器8内に対してクリーニング処理が施されていれば、このクリーニング処理によって密着膜は除去されているので、密着膜を再度成膜する必要が生ずる。同様に、新品の処理容器8を初めて用いる場合にも、その内部は有機物等の汚れの除去のためにクリーニング処理されているので、密着膜を成膜する必要がある。
【0030】
これに対して、前の運用で、許容回数以内のカーボン膜の成膜工程を行っている場合には、処理容器8の内面には、すでに密着膜が形成された状態となっているので、この場合には密着膜を再度成膜する必要がない。従って、ステップS1で密着膜の成膜の必要がないと判断した場合には(S1のNO)、そのままカーボン膜を形成するために成膜工程(S4)へ移行することになる。
【0031】
また、ステップS1で密着膜の成膜の必要があると判断した場合には(S1のYES)、次に、密着膜形成工程(S2)へ移行する。この密着膜形成工程では、前述したように、ウエハボート22にウエハWを何ら保持しない空状態でウエハボート22を処理容器8内に収容しておく。
【0032】
そして、ガス導入手段40の密着膜用ガス供給系42より密着膜用ガスとしてシラン系ガスであるモノシランを所定の流量で処理容器8内へ導入する。そして、処理容器8内を所定のプロセス温度及びプロセス圧力に維持する。これにより、石英製の処理容器8の内面には、モノシランが熱分解してCVD反応によりシリコン膜よりなる密着膜70(図3参照)が堆積して形成されることになる。この際、石英製品である内筒4の表裏の全表面、石英製品であるウエハボート22の表面全体及び石英製品である保温筒24の表面全体にも密着膜70が堆積して形成されることになる。この場合、上記密着膜70であるシリコン膜はアモルファス状態又は多結晶状態で堆積する。
【0033】
この時のプロセス条件は、プロセス温度が550〜650℃の範囲内、プロセス圧力が0.3〜1.0Torrの範囲内である。プロセス温度が550℃よりも低い場合には、シリコン膜が形成されず、また650℃よりも高い場合には、昇温時間がかかり過ぎてしまう。また、プロセス圧力が0.3Torrよりも低い場合には、成膜速度が遅くなって実用的ではなく、また、1.0Torrよりも高い場合には、膜厚が不均一になって好ましくない。また、密着膜用ガスの流量は、50〜500sccmの範囲内である。
【0034】
また、密着膜70の膜厚は、0.1〜10nmの範囲内であり、好ましくは0.1〜1.0nmの範囲内である。上記膜厚が0.1nmよりも小さい場合には、密着膜70が不均一に堆積する危惧があり、また10nmよりも厚い場合には、密着膜70の成膜に時間がかかり過ぎて、ウエハ処理のスループットを低下させるので好ましくない。
【0035】
上述のような密着膜形成工程S2が完了したならば、次に、ウエハWに対する成膜処理の再現性を向上させる等の目的のためのプリコート膜形成工程S3を行う。尚、このプリコート膜形成工程S3は省略してもよい。このプリコート膜は、ウエハWの表面に形成すべき薄膜と同じ材質の薄膜、すなわちカーボン膜を処理容器8の内面に形成するために行う。ここでは、先の密着膜形成工程S2と同様に、ウエハボート22を空の状態にしてカーボン膜用ガス供給系44からカーボン膜用ガスとしてエチレンガスを処理容器8内へ導入する。これにより、上記エチレンは熱分解して処理容器8の内面にカーボン膜よりなるプリコート膜72が堆積することになる。このプリコート膜72は、前述した密着膜70と同様に、内筒4の表裏の全表面、ウエハボート22の表面全体及び保温筒24の表面全体にも堆積することになる。この密着膜形成工程とプリコート膜形成工程とは連続して行われる。
【0036】
この時のプロセス条件は、プロセス温度か600〜800℃の範囲内、プロセス圧力が5〜400Torrの範囲内である。このプリコート膜72の膜厚は非常に薄く、例えば50nm程度である。また、カーボン膜用ガスの流量は、100〜2000sccmの範囲内である。このプリコート膜72であるカーボン膜は例えばアモルファス状態である。
【0037】
上述のように、プリコート膜形成工程S3が完了したならば、次に、カーボン膜の成膜工程S4を行う。ここでは、ウエハボート22を下方向へ降下させることにより1回アンロードして1バッチ処理のための未処理の複数枚の半導体ウエハWをウエハボート22に移載して保持し、これを上昇させて処理容器8内へロードする。そして、上記プリコート膜形成工程S3と同様に、カーボン膜用ガス供給系44からカーボン膜用ガスとしてエチレンガスを処理容器8内へ導入する。
【0038】
このエチレンガスは、内筒4内を上昇しつつ熱分解して回転しているウエハWと接触し、CVD反応によりこのウエハ表面に例えばエッチング用のマスクとなるカーボン膜を堆積して形成することになる。この際、処理容器8の内面にもカーボン膜74が堆積することになる(図3参照)。このカーボン膜74は、前述したプリコート膜72と同様に、内筒4の表裏の全表面、ウエハボート22の表面全体及び保温筒24の表面全体にも堆積することになる。
【0039】
この時のプロセス条件は、前述のプリコート膜形成工程S3と同じであり、プロセス温度か600〜800℃の範囲内、プロセス圧力が5〜400Torrの範囲内である。このカーボン膜74は、例えばアモルファス状態である。また、このカーボン膜用ガスの流量は、100〜2000sccmの範囲内である。尚、この成膜工程では、好ましくはカーボン膜用ガスを流す前にDIPAS(ジイソプロピルアミノシラン)等のアミノシラン系ガスを流してウエハWに対して前処理を施すようにしてもよい。
【0040】
このように、上記1バッチ式の成膜処理が完了したならば、この1バッチの成膜処理が所定の回数行われたか否かを判断する(S5)。この所定の回数nは、1以上の回数であり、パーティクルが発生しない範囲で任意に設定される。この所定の回数nは、カーボン膜の膜厚の最大値を予め規定しておき、1回のバッチ成膜処理で堆積されるカーボン膜の膜厚を積算して上記最大値に達した時点をもって上記所定の回数nと定めるようにしてもよい。
【0041】
この所定の回数nを基準とする判定は、密着膜70を形成した以降に行われた成膜工程の回数をカウントすることにより行われる。ここで完了した成膜工程の回数が所定の回数nより小さい場合には(S5のNO)、未処理の半導体ウエハが存在するか否かが判断される(S6)。この判断の結果、未処理のウエハが存在しない場合には(S6のNO)、処理は終了となる。
【0042】
また、この判断の結果、未処理の半導体ウエハが存在する場合には(S6のYES)、カーボン膜を堆積するための成膜工程(S4)へ戻って、再度、1バッチの半導体ウエハに対して成膜工程が行われる。このようにして、1バッチの成膜工程が繰り返し行われて、この実行した成膜工程の回数が所定の回数nに達するまで繰り返され、この際、処理容器8の内面等に堆積するカーボン膜74は順次積層されて行く。そして、この実行した成膜工程が所定の回数nに達したならば(S5のYES)、次にクリーニング工程S7へ移行する。
【0043】
このクリーニング工程では、ウエハを保持していない空状態のウエハボート22を処理容器8内へ収容した状態でクリーニングガス供給系46よりクリーニングガスとして酸素を処理容器8内へ供給する。上記クリーニングガスとして上記酸素に替えて、オゾン又はオゾンと酸素の混合ガスを用いてもよい。これにより、処理容器8の内側面(内筒4の表裏の両面を含む)やウエハボート22の表面及び保温筒24の表面に堆積していたカーボン膜及びカーボンよりなるプリコート膜72が酸化されて除去されることになる。この際、非常に薄いシリコン膜よりなる密着膜70も除去されることになり、結果的に、石英製の外筒6の内面、内筒4の表裏の両面、ウエハボート22の表面及び保温筒24の表面は、それぞれ石英表面が剥き出し状態となる。
【0044】
この時のプロセス条件に関しては、プロセス温度は、クリーニングガスが酸素の時は600〜800℃の範囲内、オゾンの場合には300〜600℃の範囲内であり、プロセス圧力はクリーニングガスが酸素の場合には50〜200Torrの範囲内であり、クリーニングガスがオゾンの場合には10Torr以下である。
【0045】
このようにクリーニング工程S7が完了したならば、未処理の半導体ウエハが存在するか否かが判断される(S8)。この判断の結果、未処理のウエハが存在する場合には(S8のYES)、密着膜を再度堆積するために密着膜形成工程S2へ戻って、前述したように各工程及び各処理を行う。この場合、所定の回数nが”n=1”の場合には1バッチの成膜工程を行う毎に、クリーニング工程S7及び密着膜形成工程S2等が行われることになる。そして、上記判断の結果、未処理のウエハが存在しない場合には(S8のNO)、処理を修了することになる。
【0046】
上述のように、処理容器8内の処理空間Sに接する石英製の部材の表面、すなわち外筒6の内面、内筒4の表裏の両面、ウエハボート22の表面全体及び保温筒24の表面全体に、半導体ウエハWに対するカーボン膜の成膜処理を行なうに先立って例えばシリコン膜よりなる密着膜70を形成するようにしたので、母材である石英製部材の表面に対するカーボン膜74の密着性を向上させることができる。従って、半導体ウエハWに対するカーボン膜の成膜工程中において、処理容器8の内面等から上記カーボン膜74が剥離してパーティクルが発生することを抑制することができる。
【0047】
以上のように、本発明によれば、処理容器8内の処理空間Sに接する石英製の部材の表面に対するカーボン膜の密着性を向上させてパーティクルの発生を抑制することができる。
【0048】
尚、上記実施例では、密着膜70としてアモルファス、或いは多結晶のシリコン膜を用いたが、これに限定されず、シリコン窒化膜(SiN)を用いてもよい。このシリコン窒化膜を形成するには、密着膜用ガスとしてシラン系ガス、例えばジクロロシラン(DCS)とアンモニアを用いることができる。この場合、プロセス条件は、プロセス温度が600〜800℃の範囲内、プロセス圧力が0.2〜0.5Torrの範囲内である。また、密着膜70として用いるシリコン窒化膜の膜厚は、先のシリコン膜の場合と同じであり、0.1〜10nmの範囲、好ましくは0.1〜1.0nmの範囲内である。
【0049】
尚、上記密着膜70としてシリコン窒化膜を用いる場合には、この膜種はストレスが大きいことからシリコン製の処理容器8等の母材に悪影響を与えることが考えられるが、上述したようにシリコン窒化膜の膜厚は0.1〜10nm程度と非常に薄いので、上記した悪影響が生ずることはほとんどない。
【0050】
<密着性の評価>
ここで本発明方法で形成した密着膜に関する実験を行ったので、その評価結果について説明する。図4は密着膜に関する実験の結果を示す図面代用写真である。ここでは石英製(SiO )の母材である石英ベースの表面に、密着膜70としてシリコン膜(多結晶状態)を形成した試料1と、密着膜70としてシリコン窒化膜を形成した試料2と、密着膜70を全く形成しない試料3とを用意し、各試料1〜3の表面にカーボン膜(アモルファス状態)を形成し、このカーボン膜の表面に粘着テープを貼り付けて、この粘着テープを引き剥がした。
【0051】
また、この時の密着膜70の厚さは0.5nmである。また、カーボン膜の形成時には、カーボン膜用ガスとしてエチレンを用い、500sccmの流量で流した。この時のプロセス温度は800℃、プロセス圧力は7.5Torrであり、厚さ40nm程度のカーボン膜を形成した。上記粘着テープを引き剥がした時の表面の状況を図4に示す。
【0052】
図4に示すように、密着膜を形成した試料1及び試料2の場合には、カーボン膜は何ら剥がれることはなく、密着性が良好であった。これに対して、試料3に示す密着膜無しの場合には、カーボン膜の剥がれが生じており、密着性が良好でないことが判った。
【0053】
尚、上記密着膜用ガスで用いるシラン系ガスとしては、ジクロロシラン(DCS)、ヘキサクロロジシラン(HCD)、モノシラン[SiH ]、ジシラン[Si ]、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、テトラクロロシラン(TCS)、ジシリルアミン(DSA)、トリシリルアミン(TSA)、ビスターシャルブチルアミノシラン(BTBAS)、ジイソプロピルアミノシラン(DIPAS)よりなる群より選択される1以上のガスを用いることができる。
【0054】
また、上記カーボン膜用ガスとして用いる炭化水素ガスとしては、アセチレン、エチレン、メタン、エタン、プロパン、ブタンよりなる群より選択される1以上のガスを用いることができる。また上記成膜装置では、2重管構造の処理容器8を用いた場合を例にとって説明したが、これに限定されず、単管構造の処理容器を用いた成膜装置にも本発明を適用できるのは勿論である。
【0055】
また、ここでは被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、この半導体ウエハにはシリコン基板やGaAs、SiC、GaNなどの化合物半導体基板も含まれ、更にはこれらの基板に限定されず、液晶表示装置に用いるガラス基板やセラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
2 成膜装置
4 内筒
6 外筒
8 処理容器
12 加熱手段
22 ウエハボート(保持手段)
40 ガス導入手段
42 密着膜用ガス供給系
44 カーボン膜用ガス供給系
46 クリーニングガス供給系
60 制御手段
70 密着膜
72 プリコート膜
74 カーボン膜
S 処理空間
W 半導体ウエハ(被処理体)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英製の処理容器内で保持手段に保持された複数の被処理体の表面にカーボン膜を成膜する成膜工程を行うようにした成膜装置の運用方法において、
前記処理容器内の処理空間に接する石英製の部材の表面にカーボン膜の密着性を向上させる密着膜を形成する密着膜形成工程を行うようにしたことを特徴とする成膜装置の運用方法。
【請求項2】
前記密着膜は、シリコン窒化膜又はシリコン膜よりなることを特徴とする請求項1記載の成膜装置の運用方法。
【請求項3】
前記密着膜の厚さは、0.1〜10nmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は2記載の成膜装置の運用方法。
【請求項4】
前記密着膜形成工程は、前記被処理体を保持しない空状態の前記保持手段を前記処理容器内へ収容した状態で行うようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成膜装置の運用方法。
【請求項5】
前記密着膜形成工程は、前記処理容器内をクリーニングするクリーニング工程と前記成膜工程との間に行うようにしたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の成膜装置の運用方法。
【請求項6】
前記密着膜形成工程と前記成膜工程との間に、前記被処理体を保持しない空状態の前記保持手段を前記処理容器内へ収容した状態で前記処理容器内に前記カーボン膜の原料ガスを流すことにより前記密着膜上にプリコート膜を形成するようにしたことを特徴とする請求項5記載の成膜装置の運用方法。
【請求項7】
前記成膜工程を、1回又は複数回行った後に、再び前記クリーニング工程を行うようにしたことを特徴とする請求項5記載の成膜装置の運用方法。
【請求項8】
複数の被処理体の表面にカーボン膜を成膜する成膜装置において、
排気が可能になされた縦型の石英製の処理容器と、
前記被処理体を加熱する加熱手段と、
前記複数の被処理体を保持して前記処理容器内へロード及びアンロードされる保持手段と、
前記処理容器内へガスを導入するガス導入手段と、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の成膜装置の運用方法を実施するように装置全体を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−93525(P2013−93525A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236196(P2011−236196)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】