説明

樹脂材注入充填方法および樹脂材注入充填装置

【課題】 型内への熱可塑性樹脂材の注入を、その熱可塑性樹脂材を主流として流すべき方向に向けた注入位置順に開始する樹脂材注入充填方法において、多様な態様での熱可塑性樹脂材の注入を可能とする。
【解決手段】 制御ユニットUにより、最初から数えて2番目以降の注入の開始を、その各注入の直前に行われる先の注入の注入開始時点を基準として遅延させる。これにより、当該注入の態様として、従前同様、先の注入の終了後に開始する態様は勿論、先の注入中に、所望のタイミングで開始する態様をも取ることができようにし、注入充填の態様を、注入位置を変えながら順次行う場合に比して、多様なものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材を型内に注入充填する樹脂材注入充填方法およびその方法を使用する樹脂材注入充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材を型内に注入充填する樹脂材注入充填方法として、特許文献1に示すように、型内へ樹脂材を注入すべき複数の注入位置を間隔をあけつつ並設した状態で決めた上で、型内への注入を、注入位置を並設方向に順次変えながら、行うものが提案されている。このものによれば、複数の注入位置から樹脂材を型内に注入することから、各注入位置における樹脂材の注入負担(圧力損失)を軽減できることになり、大型薄肉成形品を成形する場合でも、樹脂材の充填不良を防止できると共に、注入負担の軽減に伴って注入圧力を低くすることによって、型内にセットされる表皮材が注入圧力により損傷されることを防止できる。また、型内への樹脂材の注入を、注入位置を並設方向に順次変えながら、行うことから、注入位置が1個所の場合に比して、各注入位置から注入された熱可塑性樹脂材の流動距離(流動時間)を短くすることができ、ウエルド(注入樹脂材が流動して合わせ部分で線状になること)の発生を防止できる。さらには、隣り合う注入位置から注入される樹脂材同士が衝突した後は、後から注入された樹脂材が、先に注入された樹脂材の流動により規制されて、その先に注入された樹脂材側に流動することができないことから、後に注入された樹脂材は、先に注入された樹脂材と反対側に流れると共に(主流形成)、先に注入された樹脂材の流動先端面を流動ガイド面として流れ幅(主流幅)が的確に拡張され、型内のエアを型外に押し出すことができる。
【特許文献1】特開2003−311759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記樹脂材注入充填方法にあっては、型内への樹脂材の注入を、注入位置を並設方向に順次変えながら行うことから、樹脂材が注入されているときには、その次の注入位置は、樹脂材注入に関し、待機状態にあり、その次の注入位置での樹脂材の注入は、樹脂材注入中であった注入位置での注入を終えて初めて、行われる。このため、この注入充填方法においては、各注入位置での注入時間、注入条件等を変えることができるものの、隣り合う注入位置における注入タイミングについては、一律に決まり(先の注入位置の注入終了後に次の注入位置の注入を開始すること)、樹脂材注入中に、次の注入を開始したり、その開始タイミングの調整をしたりすること等まではできず、型に応じた的確な熱可塑性樹脂の注入充填、注入時間の短縮化等に限界がある。
【0004】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたもので、その第1の技術的課題は、型内への熱可塑性樹脂材の注入を、その熱可塑性樹脂材を主流として流すべき方向に向けた注入位置順に開始する樹脂材注入充填方法において、多様な態様での熱可塑性樹脂材の注入を可能とすることにある。
第2の技術的課題は、上記樹脂材注入充填方法を使用する樹脂材注入充填装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記第1の技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)においては、
型内へ熱可塑性樹脂材を注入すべき注入位置を、該型内において該熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に間隔をあけて複数設定し、前記型内への前記熱可塑性樹脂材の注入を、前記熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に向けた注入位置順に開始する樹脂材注入充填方法において、
前記各注入位置での前記熱可塑性樹脂材の注入の開始を、最初から数えて2番目以降の注入に関し、該注入の直前に行われる注入の注入開始時点を基準として設定する構成としてある。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2〜12に記載の通りとなる。
【0006】
前記第2の技術的課題を達成するために本発明(請求項13に係る発明)においては、
型に、該型内で熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に間隔をあけて設けられる複数の充填ノズルと、
前記各充填ノズルに対する前記熱可塑性樹脂材の供給を調整する調整手段と、
前記調整手段を制御して、該型内への前記各充填ノズルによる該熱可塑性樹脂材の注入を、該熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に向けた充填ノズル順に開始させる制御手段と、を備える樹脂材注入充填装置において、
前記制御手段が、前記各充填ノズルによる前記熱可塑性樹脂材の注入を、最初から数えて2番目以降の充填ノズルによる前記熱可塑性樹脂材の注入に関し、該充填ノズルの直前に配置される充填ノズルによる注入開始時点を基準として遅延させるように設定されている構成としてある。この請求項13の好ましい態様としては、請求項14に記載の通りとなる。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載された発明によれば、最初から数えて2番目以降の注入の開始を、該注入の直前に行われる注入の注入開始時点を基準として設定することから、当該注入を、従前同様、その直前の工程として行われる注入の終了後に開始できることは勿論、その直前に行われている注入中に、所望のタイミングをもって開始でき、型内への熱可塑性樹脂材の注入充填を、注入位置を変えながら順次行う場合に比して、多様な態様で熱可塑性樹脂材の注入を行うことができる。これにより、型内(キャビティ)に応じた的確な熱可塑性樹脂材の注入充填を可能としたり、注入中の注入位置の次の注入位置における注入待機時間を利用して注入し、全体としての注入充填時間を短縮したりする等、種々の効果を得ることができる。
勿論この場合、型内への熱可塑性樹脂材の注入を、その熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に向けて配置された注入位置順に開始することを前提としていることから、従前同様、大型薄肉成形品を成形する場合でも、樹脂材の充填不良を防止できること、型内に表皮材がセットされる場合であっても、その表皮材が注入圧力により損傷されることを防止できること、各注入位置から注入された熱可塑性樹脂材の流動距離(流動時間)を短くしてウエルド(注入樹脂材が流動して合わせ部分で線状になること)の発生を防止できること、先に注入された樹脂材の流動先端面を流動ガイド面として利用して、後から注入された樹脂材の流れ幅(主流幅)を的確に拡張することにより、型内のエアを型外に押し出すことのいずれも満たす。
【0008】
請求項2に記載された発明によれば、注入の開始を、該注入の直前に行われる注入の注入開始時点を基準として、1〜4秒の範囲で遅延させることにより、知見に基づき、一般的な条件の下で的確に、型内からのエアの排出性を確保できると共に、ウエルドの発生を防止できる。
【0009】
請求項3に記載された発明によれば、2番目以降の注入を、該注入に基づく熱可塑性樹脂材と該注入の直前の注入に基づく熱可塑性樹脂材とが、該注入の直前の注入に基づく熱可塑性樹脂材の温度が175℃になるまでに合流するように行うことから、知見に基づき確実に、注入の直前の注入に基づく熱可塑性樹脂材の温度低下に起因して、注入に基づく熱可塑性樹脂材と該注入の直前の注入に基づく熱可塑性樹脂材との間にウエルドが発生することを防止できる。
【0010】
請求項4に記載された発明によれば、熱可塑性樹脂材の温度を、各注入位置における注入時点において、180℃を超えて該熱可塑性樹脂材の物性が変質しない温度までの範囲とすることから、注入後に熱が奪われて温度が低下することを考慮して、注入に基づく熱可塑性樹脂材と、該注入の直前の注入に基づく熱可塑性樹脂材とを、該注入の直前の注入に基づく熱可塑性樹脂材の温度が175℃になるまでに合流させる点で、好ましいものにできる。
【0011】
請求項5に記載された発明によれば、熱可塑性樹脂材の粘度を、各注入位置における注入時点において、1500mPa・s以下とすることから、知見に基づき、ウエルドの発生防止の観点から好ましいものにできる。
【0012】
請求項6に記載された発明によれば、隣り合う注入位置における前記熱可塑性樹脂材の注入に関し、該両注入を同時に行う注入時間帯を存在させることから、注入中の注入位置の次の注入位置における注入待機時間を有効に利用して、全体としての熱可塑性樹脂材の注入充填時間を短縮できる。
また、先の注入位置から注入されている熱可塑性樹脂材は、次の注入位置から注入される熱可塑性樹脂材に衝突した後、その次の注入位置から注入される熱可塑性樹脂材側への移動が規制されることになり、その衝突後において、先の注入位置から注入される熱可塑性樹脂材のほとんどを、流れ幅(主流幅)が拡張する流動として利用できる。このため、型内のエアの排出性を高めることができる。
【0013】
請求項7に記載された発明によれば、各注入位置での熱可塑性樹脂材の注入を、該注入の直後に行われる注入よりも先に終了させることから、各注入位置において、隣り合う注入位置との間で、前記請求項6と同様の作用を確実に行わせることができる。
【0014】
請求項8に記載された発明によれば、熱可塑性樹脂材として、オレフィン系樹脂材を用いることにより、前記請求項1〜7の作用効果を具体的且つ的確に実現できる。
【0015】
請求項9に記載された発明によれば、オレフィン系樹脂材として、ポリプロピレンを用いることにより、前記請求項8の作用効果をより具体的に実現できる。
【0016】
請求項10に記載された発明によれば、熱可塑性樹脂材の注入前に予め、型内に、表皮材と基材とを離間させた状態をもってセットして、該表皮材と該基材との間に熱可塑性樹脂材を各注入位置から注入充填するための注入充填空間を形成する一方、該型内の周囲において該表皮材と該基材との間を閉じた状態とすることから、袋状の注入充填空間が形成されてその内部のエア排出が困難となる態様となるが、注入樹脂の流れ幅が次第に拡張されることに基づいてエアを型内の周囲に向けて押し出すことができ、エアを的確に排出できる。
【0017】
請求項11に記載された発明によれば、各注入位置における熱可塑性樹脂材の注入を、基材側から表皮材上に向けて行うことから、成形品の表面を形成することになる表皮材に注入位置を設定(注入孔を形成)しなくても、熱可塑性樹脂材の注入充填を行うことができ、成形品として見栄えのよいものを成形できる。
【0018】
請求項12に記載された発明によれば、各注入位置に予め、熱可塑性樹脂材が供給される充填ノズルをそれぞれセットしておき、各充填ノズルに対する開閉制御を通じて、各注入位置における前記熱可塑性樹脂材の注入を行うことから、具体的に、請求項1〜11に係る樹脂材注入充填方法を行うことができる。
【0019】
請求項13に記載された発明によれば、型に、該型内で熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に間隔をあけて設けられる複数の充填ノズルと、各充填ノズルに対する熱可塑性樹脂材の供給を調整する調整手段と、調整手段を制御して、型内への各充填ノズルによる熱可塑性樹脂材の注入を、熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に向けた充填ノズル順に開始させる制御手段と、を備える樹脂材注入充填装置において、制御手段が、各充填ノズルによる熱可塑性樹脂材の注入を、最初から数えて2番目以降の充填ノズルによる熱可塑性樹脂材の注入に関し、充填ノズルの直前に配置される充填ノズルによる注入開始時点を基準として遅延させるように設定されていることから、当該装置において、前記請求項1に係る樹脂材注入充填方法を使用して作動させることができ、前記請求項1に係る樹脂材注入充填方法を使用する樹脂材注入充填装置を提供できる。
【0020】
請求項14に記載された発明によれば、当該装置において、前記請求項7に係る樹脂材注入充填方法を使用して作動させることができ、前記請求項7に係る樹脂材注入充填方法を使用する樹脂材注入充填装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
先ず、本発明に係る樹脂材注入充填方法を使用する樹脂材注入充填装置について説明する。
【0022】
樹脂材注入充填装置1は、図1に示すように、主要要素として型2を備えている。この型2は、下型3と上型4とを備えており、それらは、型閉め、型開き可能とされている。この型2は、型閉め時において、内部にキャビティCを形成することになっており、そのキャビティCは、本実施形態において、成形品としてインストルメントパネルを形成するための相当空間を確保している。このため、型2(キャビティC)は、図4(型2の内部を平面的に示す)に示すように、平面視長尺形状(長方形状)に形成されている。この型2の材質としては、一般的なものが用いられており、具体的にはエポキシ樹脂(熱伝導率0.19(W/m・K))により成形されたものが用いられている。この型2(本実施形態においては上型4)には、複数の注入孔H(注入位置)として第1注入孔H1、第2注入孔H2−1(H2−2)、第3注入孔H3が形成されており、この第1〜第3注入孔H1〜H3は、熱可塑性樹脂材(以下、樹脂材と称す)を注入すべく、外部とキャビティC内とを連通している。この第1〜第3注入孔H1〜H3は、基本的に、樹脂材の主流を形成すべき方向に間隔をあけて順に配置されている。具体的には、第1〜第3注入孔H1〜H3は、長尺な型2において、図4に示すように、型2の対角線上の配置に近い配置をもって配置されており、第1注入孔H1と第2注入孔H2−1との間隔は、200mm程度、第2注入孔H2−1と第3注入孔H3との間隔は、170mm程度とされている。尚、本実施形態においては、第2注入孔H2として、H2−1の他に、H2−2が設けられているが、この第2注入孔H2−2は、第2注入孔H2−1から型2の幅方向一方側(図4中、上側)に離間配置されて、第2注入孔H2−1の機能を補完することになっている。これについては、後述する。
【0023】
前記各注入孔Hには、図1に示すように、充填ノズルN(図1における共通符号として用いる)がそれぞれ取付けられている。すなわち、第1注入孔H1には第1充填ノズルN1が取付けられ、第2注入孔H2−1(H2−2)には第2充填ノズルN2−1(N2−2)がそれぞれ取付けられ、第3注入孔H3には第3充填ノズルN3が取付けられている。この第1〜第3充填ノズルN1〜N3は、その各先端部が、キャビティC内に突出するように入り込んでいる一方、その第1〜第3充填ノズルN1〜N3の各基端側は、上型4外に突出されている。第1〜第3充填ノズルN1〜N3の各基端部には、図3に示すように、第1〜第3電磁弁D1〜D3がそれぞれ接続されており、その第1〜第3電磁弁D1〜D3には、第1〜第3アプリケータ(材料送給装置)A1〜A3がそれぞれ接続されている。第1〜第3アプリケータA1〜A3は、樹脂材を溶融させると共に、その樹脂材に対して所定圧力をかけてその樹脂材を充填ノズルN側に送給する機能を有しており、アプリケータA(符号Aを各アプリケータの共通符号として用いる)を作動させると共に電磁弁D(符号Dを各電磁弁の共通符号として用いる)を開とすることにより、そのアプリケータA内の樹脂材が、それに連なる充填ノズルNに供給されることになっている。
【0024】
前記第1〜第3充填ノズルN1〜N3は、注入する樹脂材を、型2内において、基本的に、次のように流動させるように設定されている。2つの注入孔H1、H2を用いて概念的に示す図10に基づき説明する。
【0025】
図10は、2つの注入孔H1、H2を間隔をあけて平面的に示しており、そのうちの一方の注入孔H1は型2の壁面2aに近づけた状態とされている。この配置状態において、注入孔H1、H2から樹脂材を型2内に注入すると、型2内では、各注入孔H1、H2毎に、その各注入孔H1、H2を中心として、樹脂材が、周囲(径方向外方)に放射状にそれぞれ流動する(注入孔H1、H2を中心として径方向外方に向う矢印をもって示す)。このような流れの下において、注入孔H1からの樹脂材の流れのうち、型2の壁面2aに向う流れ5がその型2の壁面2aに到達すると共に、注入孔H1から注入孔H2側に向けて流れる流れ6と、注入孔H2から注入孔H1側に向けて流れる流れ7とが衝突すると、注入孔H1、H2の並設方向(図10中、左右方向)の流れに関しては、注入孔H2から注入された樹脂材が注入孔H1から離間する方向(図10中、右方向)にのみ流れることになり、この流れ8が、型2内の樹脂材の主流9を形成することになる。このため、複数の注入孔を並設すれば、その並設方向に向かって基本的に流れる主流9が形成される。
【0026】
一方、注入孔H1からの樹脂材の流れのうち、型2の壁面2aに向う流れ5がその型2の壁面2aに到達すると、その方向が変えられて、型2の壁面2aに沿って互いに離れる方向に流れる分流10が生成される。この分流10は、その流動に伴い、粘性(せん断力)に基づき周囲の樹脂材を同方向に引っ張って流れる付随流11を生成する。
また、注入孔H1から注入孔H2側に向けて流れる流れ6と、注入孔H2から注入孔H1側に向けて流れる流れ7とが衝突すると、注入孔H1側からの流れ6に関しては、注入孔H2側への流動が規制される結果、その流れの方向が注入孔H1、H2の並設方向(図10中、左右方向)に対して略直角方向に変えられ、その方向において、互いに離れるように流れる分流12が生成される。この分流12は、前記分流10同様、その流動に伴い、粘性(せん断力)に基づき周囲の樹脂材(注入孔H1からの樹脂材)を同方向に引っ張って流れる付随流13を生成する。
この結果、注入孔H1から直接、分流10,12と同方向に流れる流れ14の他に、分流10,12、その各分流10,12に付随する分流付随流11,13が加わり、それら流れは、分流10と12との間において、主流9の流れ幅(図10中、上下方向幅)を拡張する流れとなり、型2内のエアを外部に押し出す機能を発揮することになる。
【0027】
さらに、注入孔H1から注入孔H2側に向けて流れる流れ6と、注入孔H2から注入孔H1側に向けて流れる流れ7とが衝突すると、注入孔H2側からの流れ7に関しては、注入孔H1側への流動が規制される結果、注入孔H1、H2の並設方向に対して略直角方向において、互いに離れるように流れる分流15が生成される。この分流15も、前記分流12の場合同様、その粘性に基づき付随流16を生成し、それらと、注入孔H2から直接、分流15と同方向に流れる流れ17とは、主流9の流れ幅(図10中、上下方向幅)を拡張する流れとなって、型2内のエアを外部に押し出す機能を発揮することになる。
【0028】
説明を型2に戻す。型2には、各充填ノズルNにより樹脂材を注入充填するに先立ち、そのキャビティCにおいて、図1に示すように、表皮材18と、基材19とがセットされることになっている(いずれも熱伝導率は0.1〜0.2(W/m・K)程度)。表皮材18は、表皮20とフォーム21との2層構造として形成されており、その表皮材18は、表皮20側を下型3の内面側に向けつつ配置されている。基材19は、上型4の内面側にセットされており、この基材19と表皮材18とは、一定間隔離間して注入充填空間22を形成している。この基材19には、上型4における各注入孔Hに対応した位置において注入孔19Hが形成されており、その上型4の注入孔Hと基材19の注入孔19Hとが形成する連続孔には、各充填ノズルNの先端部がそれぞれ挿入され、その各充填ノズルNにより前記注入充填空間22内に樹脂材23が注入充填されることになっている。この表皮材18(表皮20及びフォーム21の2層構造)、基材19及び樹脂材(熱可塑性樹脂材)23には、リサイクルを可能とするために、いずれも、オレフィン系樹脂材、具体的にはポリプロピレンが共通樹脂材料として用いられている。
【0029】
本実施形態にあっては、型2の周囲端部構造として、図2に示すように、トリミングレス構造が採用されている。すなわち、型2の周囲端部構造においては、上型4側の基材19における端部内面に対して、下型3側の表皮材18における端部外面が樹脂材23の流動圧力で圧接されるように構成されていて、成形後のトリミングが省略できることになっている。このため、下型3側には圧力センサ24が取付けられていて、その圧力センサ24により、注入充填空間22内に樹脂材23が充填されて表皮材18に所定圧が作用しているか否かが検出される。
【0030】
前記各電磁弁D、前記各アプリケータAを制御するものとして、図3に示すように、制御ユニットUが設けられている。この制御ユニットUには、作動スイッチ25からの作動開始信号が入力されることになっており、その制御ユニットUからは、各電磁弁D、各アプリケータAに対して制御信号が出力されることになっている。尚、実際には、制御ユニットUに圧力センサ24からの入力信号も入力されて、制御されるが、圧力センサ24に関しては、本発明とは関連が薄いので説明を省略する。
【0031】
制御ユニットUは、概略的には、次のような制御内容を行う。
制御ユニットUによる制御は、作動スイッチ25により作動開始信号が入力されることを条件として、第1、第2,第3充填ノズルN1〜N3の順に、その各充填ノズルN1〜N3毎に設定された注入時間だけその各充填ノズルN1〜N3により樹脂材23が注入充填空間22内に充填されることを前提としている。これは、1つの充填ノズルだけで注入充填する場合に比べて、各充填ノズル(第1〜第3充填ノズルN1〜N3)が負う注入負担(圧力損失)を軽減し、大型薄肉成形品を成形する場合でも、樹脂材の充填不良を防止するためであり、また、注入負担の軽減に伴って注入圧力を低くすることを可能として、型2内にセットされる表皮材18が注入圧力により損傷されることを防止するためである。さらには、各充填ノズルNにより注入された樹脂材23の流動距離(流動時間)を短くして、ウエルド(注入樹脂材が流動して合わせ部分で線状になること)の発生を防止するためでもある。
【0032】
また、上記内容を前提とした制御内容は、型2内のエアの排出性を高めることをも目的としている。このエアの排出性に関しては、理解を容易にするために、図11に示すように、簡略化した型2内へ樹脂材を同時注入した場合、順次注入した場合、時間差注入した場合について、その各場合の型2内における樹脂材の流れを比較しながら説明する。
【0033】
先ず、図11による説明に先立ち、そこで使用する簡略した型2について説明する。型2は2つの注入孔H1,H2を有しており、第1注入孔H1はキャビティCの左側(キャビティCの長手方向一方側)壁面2a近傍に位置され、第2注入孔H2はキャビティCの右側(キャビティCの長手方向他方側)中ほどに位置されている。その第1注入孔H1には第1充填ノズルN1が取付けられ、第2注入孔H2には第2充填ノズルN2が取付けられており、その各充填ノズルN1、N2により、前記各場合に応じて、樹脂材を型2内に注入して、型2内で樹脂材の主流を右方向に流すようになっている。また、型2は、キャビティC内のエアを上型4と下型3との間、すなわちキャビティC外周壁面より型外に排出する一般的なシール構造を有していることを前提としている。
【0034】
図11の上段は、第1充填ノズルN1と第2充填ノズルN2とを同時に作動させて、隣り合う注入孔H1,H2から同時に樹脂材23−1,23−2を注入する場合(同時注入の場合)を示している。この同時注入の場合には、注入開始t0からt1を経てt2の間、各注入孔H1,H2から注入される樹脂材23−1,23−2は、キャビティC内において各注入孔H1,H2を中心としてそれぞれ放射状に拡がり、これらは、共に、キャビティC内のエアを該キャビティCの外周より型2外に押し出す。
【0035】
注入時間t1からt2を経てt3の間においては、注入孔H1から注入された樹脂材23−1は、その左方向の流れが、キャビティCの左側壁面2aに到達し、その到達後、その流れは、キャビティCの壁面2aに沿ってキャビティCの幅方向両側の壁面2bに向けて流れ、その流れは、壁面2bに到達すると、さらに右方向に向う反流に変わる。この反流は、注入孔H1から直接右方向にへ流れる流れと共に右方向への主流9をなし、キャビティCの左側から右方向に向けて順次、樹脂材23−1を充填していく。この場合、キャビティCの外周形状と注入孔H1の位置に起因して樹脂材23−1の反流と注入孔H1から直接右方向へ流れる流れとの間に流量の差が生じ、その主流9の樹脂材流動端末dに、キャビティCの幅方向両側部と幅方向中央部とが突出する凹凸部が生じる。一方、注入孔H2から注入した樹脂材23−2は、さらに注入孔N2を中心として放射状に拡がり、キャビティCの幅方向両側における両側壁2bと、注入孔H1から注入した樹脂材23−1の樹脂材流動端末dとに接し始める。
【0036】
注入時間t2からt3を経てt4の間においては、樹脂材23−1の主流9と樹脂材23−2の左方向の流れとが互いにぶつかって両樹脂材23−1,23−2同士の境界部eに介在するエアをキャビティCの幅方向両側の壁面2bに向けて排出しようとする。しかし、両樹脂材23−1,23−2の粘度が同等のため、激しく混ざり合ってエアを取り込み、また、互いに押し合い、混ざり合うことでキャビティCの幅方向両側の壁面2bに向けての大きな流れが生じ難いため、エアをキャビティCの幅方向両側の壁面2b側へ向けて排出し終わる前に、壁面2bに沿って流れる樹脂材23−1と樹脂材23−2とが接触して、エアの逃げ道を塞ぐ。このため、エアの一部は、上記樹脂材23−1の樹脂材流動端末dに生じた前記凹凸部の凹部内に閉じこめられ、樹脂材23−1と23−2との境界部eにエア溜まりが形成されることになる。
【0037】
注入時間t3からt4の間においては、樹脂材23−1と樹脂材23−2とは、境界部eで互いに押し合いしつつその境界部eを右側(キャビティCの長手方向他方側)に移動させながら流れ、その流れは右方向の主流9を形成する。この主流9は、キャビティCの右側壁面2c側にエアを押し出しながらキャビティC内を充填し、この充填を終えると、両注入孔H1,H2からの樹脂材23−1,23−2の注入が停止(完了)される。
【0038】
図11の中段は、第1充填ノズルN1、第2充填ノズルN2の順に作動させて、隣り合う注入孔H1,H2から樹脂材23−1,23−2を順次注入する場合(順次注入の場合)を示している。この順次注入の場合には、注入開始時t0に、第1充填ノズルN1だけを作動させて注入孔H1から樹脂材23−1だけを型2内に注入する。この注入孔H1から注入された樹脂材23−1は、注入開始t0からt1を経てt2の間において、キャビティC内において注入孔H1を中心として放射状に拡がり、樹脂材23−1は、キャビティC内のエアを該キャビティCの外周より型2外に押し出す。
【0039】
注入時間t1からt2を経てt3の間においては、注入孔H1から注入された樹脂材23−1は、同時注入の場合同様、右方向への主流9を形成する。この主流9の樹脂材流動端末dにも、キャビティCの幅方向両側部と幅方向中央部とが突出する凹凸部が生じる。
【0040】
注入時間t2からt3を経てt4の間においては、注入孔H1から注入された樹脂材23−1の樹脂材流動端末dが、注入孔H2近傍であるキャビティCの約半分の位置に達した時点で、注入孔H1からの樹脂材23−1の注入を停止し、代わりに第2充填ノズルN2を作動させて、注入孔H2から樹脂材23−2の注入を開始する。
【0041】
注入時間t3からt4を経てt5の間においては、注入孔H2から注入された樹脂材23−2が、樹脂材23−1の樹脂材流動端末dに接触し始める。このとき、樹脂材23−1の樹脂材流動端末dの粘度は、樹脂材23−2との注入開始時間の差により、樹脂材23−2の流れ7の粘度よりも相対的に高くなって、流れにくくなっており、樹脂材23−1の樹脂材流動端末dは、図12に示すように、一種の流動ガイド壁26として機能する。このため、樹脂材23−2の流れ7は、樹脂材23−1の樹脂材流動端末dとの混合が規制され、エアを巻き込むことなく分流15として流動ガイド壁26に沿った方向、すなわち、樹脂材23−1の樹脂材流動端末dに沿った方向に的確に変わり、分流15は、他の樹脂の流れに妨げられることなく迅速にキャビティCの幅方向両側の壁面2bに達する。これに伴い、樹脂材23−1,23−2同士の境界部eに介在するエアは、樹脂材23−1の樹脂材流動端末dが凹凸状であっても、キャビティCの幅方向両側の壁面2bに向けて的確に押し出され、そのエアは型2外に排出される。
【0042】
注入時間t4からt5の間においては、注入孔H2からの樹脂材23−2のさらなる注入により、右方向への主流9が形成される。この主流9は、その流れに伴い、エアをキャビティCの長手方向他方側における壁面2cに向けて押し出す。
【0043】
注入時間t5を経過した後においては、キャビティCの残り部分が樹脂材23−2で充填され、注入孔H2からの樹脂材23−2の注入が停止(完了)する。
【0044】
図11の下段は、第1充填ノズルN1、第2充填ノズルN2の順に作動させつつも、第1充填ノズルN1の作動中に第2充填ノズルN2を作動させて、隣り合う注入孔H1,H2から樹脂材23−1,23−2を時間をずらして注入する場合(時間差注入の場合)を示している。この時間差注入の場合には、注入開始時t0に、第1充填ノズルN1を作動させて注入孔H1のみから樹脂材23−1が型2内に注入される。この樹脂材23−1は、順次注入の場合同様、注入時間t0からt1を経てt2の間において、キャビティC内において注入孔H1を中心として放射状に拡がる。
【0045】
注入時間t1からt2を経てt3の間においては、同時注入及び順次注入の場合同様、注入孔H1から注入された樹脂材23−1は、その左方向の流れが、キャビティCの左側壁面2aに到達し、その到達後、その流れは、キャビティCの壁面2aに沿ってキャビティCの幅方向両側の壁面2bに向けて流れ、その流れは、壁面2bに到達すると、さらに右方向に向う反流に変わる。この反流は、注入孔H1から直接右方向へ流れる流れと共に右方向への主流9をなし、キャビティCの左側から右方向に向けて順次、樹脂材23−1を充填していく。一方、この時間差注入の場合には、この時点で第2充填ノズルN2が作動し、注入孔H2から樹脂材23−2の注入が開始される。
【0046】
注入時間t2からt3を経てt4の間においては、注入孔H2からの樹脂材23−2が樹脂材23−1の樹脂材流動端末dと接触し始める。このとき、樹脂材23−1の樹脂材流動端末dが、前記順次注入の場合同様、流動ガイド壁26として機能し、両樹脂材23−1,23−2同士の境界部eに介在するエアは、樹脂材23−1の樹脂材流動端末dが凹凸状であっても、確実にキャビティCの幅方向両側の壁面2bに向けて押し出されて、エアが型2内から型2外に排出される(図12参照)。このため、この場合にも、順次注入の場合同様、エア溜まりは生じない。またこのとき、樹脂材23−1と樹脂材23−2とは、接触時において、温度差を、順次注入の場合に比べて小さくできることになる。このため、この場合には、適度の混合が許容され、ウエルドの発生を、順次注入の場合に比べて抑制できることになる。またこの時点においては、注入孔H1からの樹脂材23−1の注入が続いており、樹脂材23−1と樹脂材23−2とは、境界部eで互いに押し合いしつつその境界部eを右側(キャビティCの長手方向他方側)に移動させながら流れることになり、これらは、右方向の主流9を形成する。このため、この主流9は、迅速にキャビティCの右側壁面2c側にエアを押し出しながらキャビティC内を充填していくことになる。このような状況の下で、流れの中の境界部eがキャビティCの長手方向の約半分の位置に達すると、その時点で、注入孔H1からの樹脂材23−1の注入を停止する。
【0047】
注入時間t3からt4を経てt5の間においては、注入孔H2から注入された樹脂材23−2がキャビティCの長手方向他方側の壁面2cに向けてエアを押し出しながら、キャビティCの右側の残り部分を充填する。この充填完了は、順次注入の場合よりも早い時点(t5経過前の時点)で達することになり、その時点で、注入孔H2からの樹脂材23−2の注入を停止する。
【0048】
このように樹脂材の注入の仕方によって型2内のエアの排出性が大きく異なる結果となるが、本発明に係る樹脂材注入充填方法が、第1、第2,第3充填ノズルN1〜N3の順に、その各充填ノズルN1〜N3毎に設定された注入時間だけその各充填ノズルN1〜N3により樹脂材23を注入充填空間22内に充填することを前提とし、前記順次注入、前記時間差注入のいずれの態様をも含むことになっている。このため、本発明に係る樹脂材注入充填方法を実行する制御ユニットUの制御においては、高いエアの排出性が確保されることになっている。
【0049】
また、制御ユニットUによる制御は、第2充填ノズルN2−1(N2−2)による注入開始が第1充填ノズルN1の注入開始時点を基準として遅延され、第3充填ノズルN3による注入開始が第2充填ノズルN2−1(N2−2)の注入開始時点を基準として遅延されることになっている。これは、多様な態様での樹脂材の注入制御を可能とするためである。これまで、先の注入(直前の注入)が終了を終えるまでの間、その次の充填ノズルによる注入は待機状態となっていたが、先の注入の注入開始時点を基準として次の注入を開始する制御を行うことにより、これまで同様、先の注入が終了してから次の注入を行う制御を可能とするだけでなく、先の注入中においても、次の注入を開始する制御を可能としようとしているのである。これにより、型2内(キャビティC)形状に応じた的確な樹脂材の注入充填を可能とするだけでなく、先の注入中に次の注入を開始し、全体としての注入充填時間を短縮できることになる。この先の注入中に次の注入を開始する場合に関しては、先の注入と次の注入との間に時間差が確保されて粘度差が生じることから、先の注入に基づく樹脂材23−1による一種の流動ガイド壁26としての効果が期待できる他に、先の注入が続行中であることに基づき、その注入される樹脂材23−1を流動ガイド壁26に沿う方向の流れ28に変え、それをエア押し出しに積極的に利用できることになる(図11参照)。
【0050】
次に、本発明に係る樹脂材注入充填方法を、上記樹脂材注入充填装置1の作用(制御内容)と共に、型2のキヤビティC部のみを平面的に表した図4〜図9を用いて具体的に説明する。
先ず、型開き状態で、上型4、下型3に予め成形された表皮材18と基材19とをセットし、それらを型閉めすることにより、型2内に注入充填空間22を形成する。
【0051】
次に、第1アプリケータA1を駆動させると共に、第1電磁弁D1を開弁させて第1充填ノズルN1(第1注入孔H1)から樹脂材23−1(第1注入孔H1から注入された樹脂材を示す)を注入充填空間22内に注入する。
【0052】
図4は、第1注入孔H1により樹脂材23−1が金型内に注入されてから1秒経過したときにおける樹脂材23−1の平面的な流動状態を示している。この場合、樹脂材23−1は、第1注入孔H1を中心として周囲に均等に拡がろうとするが、型2の長手方向一方側(図4中、左側)壁面2aに向かう流れがその壁面2aに到達すると、その壁面2aにより流れの向きが金型の幅方向(図4中、上下方向)に変えられ、その流れに、周囲の流れが粘性に基づき引っ張られる結果、図4に示すように、型2の幅方向に延びる長方形状の流動状態が示されることになる。
【0053】
次に、前記第1充填ノズルN1による樹脂材23−1の注入開始(第1アプリケータA1を駆動させると共に、第1電磁弁D1を開弁)から1秒後に、第2アプリケータA2−1,A2−2を駆動させると共に、第2電磁弁D2−1,D2−2を開弁させて第2充填ノズルN2−1,N2−2(第2注入孔H2−1,H2−2)から樹脂材23−2(第2注入孔H2から注入された樹脂材を示す)を注入充填空間22内に注入する。第2充填ノズルN2による樹脂材23−2の注入開始を第1充填ノズルN1による樹脂材23−1の注入開始時点を基準として遅延制御しているのは、前述した如く、多様な態様での樹脂材の注入制御を可能とするためである。第2充填ノズルN2による樹脂材23−2の注入開始を第1充填ノズルN1による樹脂材23−1の注入開始時点を基準として1秒遅延させているのは、ウエルドの発生を防止すると共に、型2のエア排出性を確保するためである。
【0054】
図5は、第2注入孔H2により樹脂材23−2が型2内に注入されてから1秒経過したときにおける樹脂材23−1,23−2(23−2−1,23−2−2)の平面的な流動状態を示している(図5下部におけるタイムチャートも参照)。この場合、第1注入孔H1から注入された樹脂材23−1と第2注入孔H2−1から注入された樹脂材23−2−1との関係に関しては、その1秒経過時点において、樹脂材23−2−1が樹脂材23−1に到達しており、その樹脂材23−2−1は、型2の長手方向他方側(図5中、右側)に向けた流れを主流として形成する一方で、型2の長手方向一方側に向けた流れは、樹脂材23−1の流れ先端面により方向が変えられて型2の幅方向(図5中、上下方向)両側に向けて案内される。この流れに付随して樹脂材23−2−1の他の部分も引っ張られて流れることになり、樹脂材23−2−1は、時間の経過に伴い、型2の幅方向両側に向けて拡張される。
一方、樹脂材23−1は、この時点おいては、注入が続いており、その注入される樹脂材23−1は、型2の長手方向一方側に向かう流れに関しては、その型2の長手方向一方側の壁面2aにより方向が変えられた後、その壁面2aに案内されて型2の幅方向両側外方に流れる。また、樹脂材23−1における型2の長手方向他方側の流れに関しては、その流れが、その流れ方向の樹脂材23−1の先端部分(粘度が相対的に大きい部分)、樹脂材23−2−1により規制されて、方向が変えられ、その方向が変えられた流れも、型2の幅方向両側外方に向けて流れる。これにより、樹脂材23−1も、時間の経過に伴い、型2の幅方向両側外方に拡張される。
【0055】
図6は、上記状態を続けつつ、さらに1秒経過したものである(図6下部におけるタイムチャートも参照)。この時点においては、樹脂材23−2−1は、さらに、型2の長手方向他方側への流れ(主流)が進むと共に、型2の幅方向両側にも進む。これにより、樹脂材23−1,23−2−1は、複雑な流れを生じさせることなく、型2の周囲、特に金型の幅方向両側外方に向けてエアを的確に押し出す。
【0056】
上記樹脂材23−2−1が注入されているとき、それに同期して、第2注入孔H2−2から樹脂材23−2−2が注入充填空間22に注入されている。この場合、第2注入孔H2−2から注入された樹脂材23−2−2は、注入から1秒経過後には、型2の幅方向内方側への流れが樹脂材23−2−1に到達することになる一方、型2の幅方向一方側(図5中、上側)に向けた流れは、壁面2bにすぐに到達し、その壁面2bにより型2の長手方向両側に流れる流れとして方向が変えられる。そして、その型2の長手方向一方側の流れに関しては、やがて樹脂材23−1,23−2−1に到達し、型2の長手方向他方側の流れに関しては、流れ幅を拡張しつつ、型2の長手方向他方側壁面2cに次第に近づくことになる。これにより、樹脂材23−2−2は、樹脂材23−2−1だけでは到達が遅れがちな型2の幅方向両側のうちの一方側を早期に充填すると共に、樹脂材23−2−1の流れの向きを、型2の長手方向他方側から型2の幅方向他方側にやや変更する(図5,図6参照)。
【0057】
次に、第2充填ノズルN2による樹脂材23−2の注入開始から2秒後に、第1充填ノズルN1による注入を停止する一方、第3アプリケータA3を駆動させると共に第3電磁弁D3を開弁させて、第3充填ノズルN3(第3注入孔H3)から樹脂材23−3(第3注入孔H3から注入された樹脂材を示す)を注入充填空間22内に注入する(図7下部のタイムチャート参照)。第3注入孔H3から注入される樹脂材23−3は、第2注入孔H2−1から離間する方向に流れる一方、第2注入孔H2−1に向けた流れに関しては、樹脂材23−2−1,23−2−2の流れ先端面により方向が変えられ、その方向が変えられた流れは両流れ先端面に案内されて流れる。
【0058】
この後、第3充填ノズルN3による樹脂材23−3の注入開始から1秒後に、第2充填ノズルN2−1による樹脂材23−2−1の注入を停止し(図8下部のタイムチャート参照)、第3充填ノズルN3による樹脂材23−3の注入開始から2秒後に、第2充填ノズルN2−2による樹脂材23−2−2の注入を停止し(図9下部のタイムチャート参照)、第3充填ノズルN3による樹脂材23−3の注入開始から3秒後に、第3充填ノズルN3による樹脂材23−3の注入を停止する(図9下部のタイムチャート参照)。これにより、型2内に樹脂材23が的確に充填されると共に、エアが型2内から外部に押し出され、樹脂材23の注入充填を終える。
【0059】
このような樹脂材注入充填制御において、ウエルドの発生防止の観点から、当該注入の直前に行われる注入(先の注入)の樹脂材23の温度が200℃のときには、その先の注入の注入開始時点から4秒までに当該注入が開始され、先の注入の樹脂材23の温度が190℃のときには、その先の注入開始時点から3秒までに当該注入が開始されるように設定されている。その一方、エアの排出性に問題(エア溜まり)を生じさせない観点から、先の注入開始時点から1秒以上経過するまでは、当該注入が開始されないように設定されている。
【0060】
上記制御は、表1、表2に示す実験結果に基づいている。表1は、前述の樹脂材注入充填装置1の下で、第1充填ノズルN1により注入する樹脂材23の温度(注入樹脂温度)を190℃、200℃とする各場合において、第1充填ノズルN1の注入開始時点から第2充填ノズルN2−1の注入開始までの遅延時間を変化させ、そのときの先に充填される樹脂材(第1充填ノズルN1により注入する樹脂材)の流動先端部温度(後から充填される樹脂材との合流部温度:測定を、図5において、符号P1をもって示す。)、ウエルドの発生の有無、エアの排出性を調べたものである。
表2は、同じく樹脂材注入充填装置1の下で、第2充填ノズルN2により注入する樹脂材23の温度(注入樹脂温度)を190℃、200℃とする各場合において、第2充填ノズルN2の注入開始時点から第3充填ノズルN3の注入開始までの遅延時間を変化させ、そのときの先に充填される樹脂材(第2充填ノズルN2により注入する樹脂材)の流動先端部温度(後から充填される樹脂材との合流部温度:測定を、図7において、符号P2をもって示す。)、ウエルドの発生の有無、エアの排出性を調べたものである。
このときの実験条件は、下記の通りである。
注入圧: 5.5MPa
注入速度:28〜30g/sec
【表1】

【表2】

【0061】
この表1,表2の結果によれば、いずれの場合も、先の注入時の注入樹脂温度が200℃のときには遅延時間4秒までであればウエルドの発生はなく、先の注入時の注入樹脂温度が190のときには、遅延時間が2秒までであれば、ウエルドの発生はないことを示した。その一方、遅延時間0.5秒のときには、エアの排出性に問題(エア溜まり)が生じ、遅延時間が1秒経過すれば、エアの排出性に問題が生じないことを示した。
【0062】
また、このような樹脂材注入充填制御において、ウエルドの発生防止の観点から、直前工程において注入された樹脂材23の温度が175℃になるまでに、その樹脂材23に次に注入される樹脂材を合流させるように設定されている。
【0063】
上記制御は、表3に示す実験結果に基づいている。表3は、前述の樹脂材注入充填装置1の下で、第1〜第3充填ノズルN1〜N3により注入する樹脂材23として、注入樹脂温度が200℃(粘度800mPa・s)、190℃(粘度1100mPa・s)、180℃(粘度1500mPa・s)とするものを用い、その各場合において、各注入孔Hから注入された樹脂材同士の境界部分の温度(各測定を、図9において、符号P1〜P4をもって示す。)を測定すると共に、ウエルドの発生の有無、欠肉の状況を調べたものである。このときの共通の実験条件は、下記の通りである。
注入圧: 5.5MPa
注入速度:28〜30g/sec
【表3】

【0064】
これによれば、ウエルド及び欠肉の発生を防止するためには、先の樹脂材23の温度が175℃になるまでに、次の樹脂材23が、その先の樹脂材23に合流すればよいことを示した。
【0065】
したがって、上記樹脂材注入充填方法(装置)を用いれば、的確に、ウエルドの発生を防止できると共に型2内のエアの排出を行うことができ、さらには、注入充填時間の短縮等を図ることができる。
【0066】
尚、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましい或いは利点として載されたものに対応したものを提供することをも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施形態に係る樹脂材注入充填装置を示す説明図。
【図2】実施形態に係る金型の端部構造の一例を示す断面図。
【図3】実施形態に係る制御例を示す図。
【図4】型内での樹脂材の流動状態を説明する説明図。
【図5】図4に続く流動状態を示す説明図。
【図6】図5に続く流動状態を示す説明図。
【図7】図6に続く流動状態を示す説明図。
【図8】図7に続く流動状態を示す説明図。
【図9】図8に続く流動状態を示す説明図。
【図10】隣り合う注入孔から注入される樹脂材同士の流動状態を説明する説明図。
【図11】同時注入充填、順次注入充填、時間差注入充填の各場合の動作状態を概念的に示す図。
【図12】隣り合う注入孔から注入される樹脂材のうち、先に注入される樹脂材により形成される一種の流動ガイド壁を説明する説明図。
【符号の説明】
【0068】
1 樹脂材注入充填装置
2 型
23 樹脂材(熱可塑性樹脂材)
H1 第1注入孔(注入位置)
H2−1 第2注入孔(注入位置)
H3 第3注入孔(注入位置)
N1 第1充填ノズル
N2−1 第2充填ノズル
N3 第3充填ノズル
D1 第1電磁弁(調整手段)
D2−1 第2電磁弁(調整手段)
D3 第3電磁弁(調整手段)
A1 第1アプリケータ(調整手段)
A2−1 第2アプリケータ(調整手段)
A3 第3アプリケータ(調整手段)
U 制御ユニット(制御手段)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
型内へ熱可塑性樹脂材を注入すべき注入位置を、該型内において該熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に間隔をあけて複数設定し、前記型内への前記熱可塑性樹脂材の注入を、前記熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に向けた注入位置順に開始する樹脂材注入充填方法において、
前記各注入位置での前記熱可塑性樹脂材の注入の開始を、最初から数えて2番目以降の注入に関し、該注入の直前に行われる注入の注入開始時点を基準として設定する、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記注入の開始を、該注入の直前に行われる注入の注入開始時点を基準として、1〜4秒の範囲で遅延させる、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記2番目以降の注入を、該注入に基づく熱可塑性樹脂材と該注入の直前の注入に基づく熱可塑性樹脂材とが、該注入の直前の注入に基づく熱可塑性樹脂材の温度が175℃になるまでに合流するように行う、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記熱可塑性樹脂材の温度を、前記各注入位置における注入時点において、180℃を超えて該熱可塑性樹脂材の物性が変質しない温度までの範囲とする、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記熱可塑性樹脂材の粘度を、前記各注入位置における注入時点において、1500mPa・s以下とする、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
隣り合う注入位置における前記熱可塑性樹脂材の注入に関し、該両注入を同時に行う注入時間帯を存在させる、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記各注入位置での前記熱可塑性樹脂材の注入を、該注入の直後に行われる注入よりも先に終了させる、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記熱可塑性樹脂材として、オレフィン系樹脂材を用いる、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記オレフィン系樹脂材として、ポリプロピレンを用いる、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
前記熱可塑性樹脂材の注入前に予め、前記型内に、表皮材と基材とを離間させた状態をもってセットして、該表皮材と該基材との間に前記熱可塑性樹脂材を前記各注入位置から注入充填するための注入充填空間を形成する一方、該型内の周囲において該表皮材と該基材との間を閉じた状態とする、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記各注入位置における前記熱可塑性樹脂材の注入を、前記基材側から前記表皮材上に向けて行う、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかにおいて、
前記各注入位置に予め、前記熱可塑性樹脂材が供給される充填ノズルをそれぞれセットしておき、
前記各充填ノズルに対する開閉制御を通じて、前記各注入位置における前記熱可塑性樹脂材の注入を行う、
ことを特徴とする樹脂材注入充填方法。
【請求項13】
型に、該型内で熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に間隔をあけて設けられる複数の充填ノズルと、
前記各充填ノズルに対する前記熱可塑性樹脂材の供給を調整する調整手段と、
前記調整手段を制御して、該型内への前記各充填ノズルによる該熱可塑性樹脂材の注入を、該熱可塑性樹脂材の主流を形成すべき方向に向けた充填ノズル順に開始させる制御手段と、を備える樹脂材注入充填装置において、
前記制御手段が、前記各充填ノズルによる前記熱可塑性樹脂材の注入を、最初から数えて2番目以降の充填ノズルによる前記熱可塑性樹脂材の注入に関し、該充填ノズルの直前に配置される充填ノズルによる注入開始時点を基準として遅延させるように設定されている、
ことを特徴とする樹脂材注入充填装置。
【請求項14】
請求項13において、
前記制御手段が、隣り合う充填ノズルによる前記熱可塑性樹脂材の注入に関し、該両熱可塑性樹脂材の注入を同時に行う注入時間帯を存在させると共に、該隣り合う充填ノズルのうち、先に注入を開始する充填ノズルからの前記熱可塑性樹脂材の注入を、該充填ノズルに続いて前記熱可塑性樹脂材の注入を開始する充填ノズルの場合よりも先に終了するように設定されている、
ことを特徴とする樹脂材注入充填装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−21976(P2007−21976A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209636(P2005−209636)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(390026538)西川化成株式会社 (492)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】