説明

水中航走体の検出位置修正方法およびシステム

【課題】 水面に浮上する手間やトランスポンダなどを設置する手間などを省けるようにする。
【解決手段】 水中航走体に予め与える航走経路中に、相互に交差する緯度検出経路44と経度検出経路46とからなる位置修正用経路43を設定する。水中航走体は、慣性航法により検出した位置に基づいて、緯度検出経路44と経度検出経路46とを連続して航走する。位置修正用経路43を航走中の水中航走体と支援船との相対位置を音響測位する。支援船について求めた位置と音響測位した相対位置とに基づいて、水中航走体が実際に航走した緯度、経度を求める。水中航走体が実際に航走した緯度、経度と位置修正用航路との偏差δLAT、δLONを求め、この偏差を水中航走体に与えて検出位置を修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中を航行する水中航走体の検出位置の修正方法に係り、特に水中航走体に搭載した慣性航法装置により検出した位置を修正する水中航走体の検出位置修正方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
海洋や湖などの水中の温度分布、生物調査、潮の流れや海底(湖底)の地形、状態などを調査するのに無人の水中航走体が使用される。水中航走体は、水中において電波を使用することができないため、一般に慣性航法装置を搭載しており、自身の位置を慣性航法装置によって検出し、この検出位置に基づいて予め与えられた経路を航走するようにしてある。ところが、慣性航法装置は、航走体の加速度を検出し、加速度を積分して航走体の速度を求め、求めた速度をさらに積分して航走距離を求めるようになっている。そして、水中航走体は、潜航開始時に与えられた始点の位置情報と加速度の2回積分によって求めた航走距離とから自身の位置を求めるようになっている。
【0003】
このように、慣性航法装置による位置検出は、加速度を2回積分することによって求めるため、加速度検出器の性能、装置の製作誤差などによって、時間とともに誤差が累積し、長時間航行をしていると、実際の地球座標における位置と検出位置との間に大きなずれを生ずる。このため、水中航走体は、慣性航法装置による位置検出だけでは、予め与えられた経路を航走することができなくなる。そこで、近年は、水中航走体にGPS受信装置を搭載し、水中を一定時間航走したら水面に浮上して自身の位置をGPSによって測位し、慣性航法装置によって求めた位置を修正するようにしている。
【0004】
ところが、水中航走体は、深さが数千メートルの深海を調査することが多く、調査位置と海面との間を往復するのに数時間を要することも珍しくなく、調査効率が極めて悪い。また、水中航走体は、搭載したバッテリによって航走するようになっており、海面に浮上して位置を修正したのでは、一度の潜航によって調査できる範囲が非常に限られ、広い範囲を調査するのに非常に多くの時間と費用とを必要とする。このため、水中航走体による調査領域の海底に予め複数のトランスポンダを設置し、それらの位置情報を予め水中航走体に与え、水中航走体がトランスポンダを利用した自身の位置を測位し、この測位した位置に基づいて、慣性航法装置によって求めた位置を修正する方法が提案されている(特許文献1)。これにより、水中航走体が海面に浮上する手間と時間とを省略することができ、調査の効率を高めることができる。
【0005】
なお、特許文献2には、海上の支援船が設けられている複数種類の位置計測装置により、水中を航行する水中航走体の位置を検出し、水中航走体を追跡する水中位置測定装置が開示してある。すなわち、特許文献2に記載の水中位置計測装置は、水中を航行する水中航走体の地球座標における絶対的な位置(例えば、北緯○○度○○分、東経××度××分)を音響測位するとともに、支援船の揺れに伴う計測誤差を考慮して水中航走体の位置を予測し、これら計測位置と予測位置との加重平均を求めて水中航走体を見失わないように追跡する。
【特許文献1】特開2003−202238号公報
【特許文献2】特開2000−275332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の検出位置の修正方法は、広い範囲を調査する場合、多数のトランスポンダを海底に所定間隔で設置する必要があり、トランスポンダを設置するのに多くの時間と費用とを必要とする。また、多数のトランスポンダを設置する必要があるため、実質的に調査をするのに多くの時間が必要となる。
【0007】
一方、特許文献2に記載の装置は、水中航走体の地球座標における絶対的な位置を常時求めているため、水中航走体がどこを航走しているかを確実に把握することができる。しかし、特許文献2においては、支援船が求めた水中航走体の位置を水中航走体側に反映していないため、水中航走体が予め設定した航走経路からのずれが次第に大きくなり、調査目的を達成することができない。また、特許文献2においては、水中航走体の絶対的な位置を求めているため、この求めた位置をすぐに反映させないと推定量が増えて新たな誤差を発生させる。
【0008】
本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、水面に浮上する手間やトランスポンダなどを設置する手間などを省けるようにすることを目的としている。
また、本発明は、調査に要する時間を少なくできるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係る水中航走体の検出位置修正方法は、予め与えられた経路を慣性航法によって水中を航走する水中航走体の検出位置修正方法において、前記水中航走体に予め与える航走経路中に相互に交差する2つの直線からなる位置修正用経路を設定し、前記水中航走体を前記2つの直線を連続して航走させ、前記位置修正用経路を航走中の前記航走体と前記支援船との相対位置を音響測位し、前記支援船について求めた位置と前記音響測位した相対位置とに基づいて前記水中航走体が航走した実際の緯度、経度を求め、前記実際の緯度、経度に基づいて、前記慣性航法により検出した前記水中航走体の検出緯度、検出経度を修正する、ことを特徴としている。
【0010】
位置修正用経路を構成する2つの直線は、等緯度線、等経度線に沿って設定することが望ましい。また、位置修正用経路の少なくとも1つは、水中航走体に予め与える航走経路の最初の部分に設定し、水中航走体はドップラーソナーを有しており、支援船から分離されてドップラーソナーによる対地速度の検出可能な位置に潜航したときに、前記位置修正用経路を航走するようにできる。
【0011】
また、検出緯度と検出経度との修正は、前記実際の緯度、経度と検出緯度、検出経度との偏差を航走制御部に与えて行なうようにできる。水中航走体が航走した実際の緯度、経度は、位置修正用経路を構成する各直線のそれぞれについて、航走中の水中航走体と支援線との相対位置を複数回測位して得た値の平均値に基づいて求めるとよい。
【0012】
上記の検出位置修正方法を実施する水中航走体の検出位置修正システムは、水中航走体と支援船とに設けられて相互に情報の授受が可能な音響通信装置と、前記水中航走体に設けられ、連続して航走する相互に交差する2つの直線からなる位置修正用経路を含む予め与えられた航走経路を記憶する航走経路記憶部と、前記水中航走体に設けられて水中を航走している前記水中航走体の位置を検出する慣性航法装置と、前記水中航走体に設けられて前記航走経路記憶部に記憶された航走経路と前記慣性航法装置の検出した航走体位置とに基づいて、前記水中航走体の航走を制御する航走制御部と、前記支援船に設けられて支援船の位置を検出する電波航法装置と、前記支援船と前記水中航走体との少なくともいずれか一方に設けられ、前記位置修正用経路を航走している前記水中航走体と前記支援船との相対位置を求める音響測位装置と、前記支援船と前記水中航走体との少なくともいずれか一方に設けられ、前記音響測位装置が求めた前記相対位置と前記電波航法装置が求めた支援船位置とに基づいて、前記水中航走体の実位置を求める実位置演算部と、前記支援船と前記水中航走体との少なくともいずれか一方に設けられ、前記慣性航法装置が求めた航走体位置と前記実位置演算部が求めた前記実位置を比較し、修正値を前記航走制御部に与える位置修正部と、を有することを特徴としている。前記修正値は、実位置と検出位置との偏差であってよい。
【発明の効果】
【0013】
上記のごとくなっている本発明は、水中航走体に予め与える航走経路中に、相互に交差する2つの直線からなる位置修正用経路を特別に設定して水中航走体を航走させる。そして、位置修正用経路を航走している水中航走体と支援船との相対位置を音響測位し、GPS衛星を利用した電波航法装置などによって求めた支援船の位置と相対位置とによって、水中航走体が位置修正用経路を航走したときの実際の位置(緯度、経度)を求め、慣性航法装置により検出した水中航走体の位置を修正する。すなわち、本発明は、水中航走体が慣性航法により検出した自身の位置を修正するために、海底にトランスポンダなどを設置したり、水中航走体を海面に浮上させる必要がない。したがって、調査に要する時間と手間とを大幅に節減することができ、実質的に調査に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0014】
位置修正用航路を構成する相互に交差する2つの直線を、等緯度線に沿った経路と、等経度線に沿った経路とにすることにより、水中航走体が航走した実際の緯度と経度とを容易に求めることができ、慣性航法により検出した位置の修正が容易となる。また、位置修正用経路の1つを、水中航走体に与える航走経路の最初の部分に設定しておくと、水中航走体が調査開始の位置に潜航したときに、慣性航法により検出した位置の検出誤差を修正でき、正常な航走経路を航走することができる。そして、検出位置の修正後は、ドップラーソナーによる対地速度を検出し、この対地速度に基づいて水中航走体の位置を求めるようにすると、慣性航法による位置検出より誤差が大幅に小さくなるため、検出位置の修正をすることなく航走経路を航走させることができる。したがって、支援船が常に水中航走体の位置を検出して修正しなくとも、ほぼ与えられた航走経路に沿って航走することができ、時々発生する音響通信が不通になった状況においても、水中航走体を与えた航走経路に沿って航走させることができる。
【0015】
支援船が水中航走体の相対位置を音響測位する場合、エンジン音などの外乱により常に正確に測位できるとは限らず、ばらつきが比較的大きい。このため、本発明は、位置修正用航路を構成している2つの直線のそれぞれについて複数回測位を行ない、その平均を求めるようにしており、水中航走体の相対位置を正確に測位可能で、検出位置を実際の正しい位置に確実に修正することができる。また、本発明においては、実際の位置(実位置)と検出位置との偏差(修正量)を出力しているため、与えられた航走経路からのずれ量を容易に把握することができ、水中航走体に設けた航走制御部を簡素にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る水中航走体の検出位置修正方法及びシステムの好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る水中航走体の検出位置修正システムのブロック図である。図1において、検出位置修正システム10は、水中航走体12に搭載した装置群と、母船である支援船14に搭載した装置群とから構成してある。水中航走体12は、図示しない推進装置を有し、自律航走することができるようになっている。そして、水中航走体12に搭載した装置群は、GPS受信機16、深度計18、ドップラー式速度計(ドップラーソナー)20、慣性航法装置22、水中航走体制御装置24、航走経路記憶部26、音響測位装置28、音響通信装置30などからなっている。
【0017】
GPS受信機16は、水中航走体12が海面上に浮上したときの自分の位置を検出するためのもので、GPS衛星の送信信号を受信して自分の地球上における位置を検出するGPS測位装置を構成している。そして、測位した水中航走体12の位置を水中航走体制御装置24に入力する。また、深度計18は、水中航走体12が潜航したときに、海面からの深さ、すなわち水中航走体12のz方向の位置を検出し、水中航走体制御装置24に入力する。ドップラー式速度計20は、海底に向けて超音波を送信し、その反射波を受信して水中航走体12の対地速度を検出するようになっている。ドップラー式速度計20は、水中航走体12の前後方向の速度ばかりでなく、横方向の速度も検出可能である。また、ドップラー式速度計20は、海底に向けて超音波を送信した時刻と、その反射波を受信した時刻との差から、水中航走体12の海底からの距離、いわゆる高度を検出できるようになっている。ドップラー式速度計20は、水中航走体制御装置24に接続してあり、検出信号を水中航走体制御装置24に入力する。
【0018】
慣性航法装置22は、直行する3軸のそれぞれの方向における加速度を検出可能な加速度計を有していて、検出した加速度を積分して水中航走体12の速度、姿勢、航走距離、この航走距離と与えられた基点(支援船14から切り離された位置)情報とに基づいて、水中航走体の現在位置を検出できるようになっている。航走経路記憶部26は、水中航走体12が調査を開始する位置情報、航走すべき高度、経路を含む航走経路情報、調査終了点の情報等を記憶している。そして、水中航走体制御装置24は、航走制御部を構成していて、航走経路記憶部26に記憶させてある航走経路を読み出すとともに、慣性航法装置22が検出した水中航走体12の現在位置を読み込み、水中航走体12が与えられた航走経路を航走するように推進装置を制御する。
【0019】
音響測位装置28は、水中航走体12の支援船14に対する相対位置を求めるもので、音波の送受信部を備えており、支援船14に設けた音響測位装置32の送信する音波信号を受信して、それに応答して音波信号を送信する。音響通信装置30は、支援船14との間で情報の授受を行ない、支援船14から各種の指令を受けるようになっていて、支援船14から送られてきたデータと指令とを水中航走体制御装置24に入力する。
【0020】
支援船14の装置群は、音響測位装置32、音響通信装置34、支援船GPS受信機36、実位置演算器(実位置演算部)38、誤差修正計算機40、船上測位表示装置42などから構成してある。音響測位装置32は、水中航走体12の音響測位装置28に向けて音波を送信し、音響測位装置28の送信する応答信号を受信して水中航走体12の支援船14からの距離および方位、すなわち水中航走体12の支援船14に対する相対位置を求めることができるようになっている。音響通信装置34は、水中航走体12の音響通信装置30との間で音波による通信を行ない、水中航走体12の対地速度や深度、慣性航法装置22の求めた水中航走体12の現在位置(検出位置)などを受け取り、図示しない信号処理部や制御装置に入力する。また、音響通信装置34は、誤差修正計算機40に接続してあって、誤差修正計算機40が算出した後述する偏差(誤差)を水中航走体12に与える。
【0021】
支援船GPS受信機36は、支援船14の地球上における現在位置を測位(検出)する電波航法装置であって、支援船14の現在位置を実位置演算器38に入力する。支援船GPS受信機36の出力側に設けた実位置演算器38は、支援船GPS受信機36と音響測位装置32との出力信号が入力するようになっていて、支援船GPS受信機36が求めた支援船14の現在位置と、音響測位装置32が測位した水中航走体12の支援船14に対する相対位置とから、水中航走体12の地球上における実際の位置、すなわち水中航走体12が航走している実際の緯度、経度を算出して誤差修正計算機40と船上測位表示装置42とに出力する。
【0022】
誤差修正計算機40は、位置修正部をなしていて、音響通信装置34が受信した後述する位置修正用経路の情報と、実位置演算器38が求めた水中航走体12の実際の位置とを比較し、両者の緯度および経度の偏差(検出誤差)を求めて音響通信装置34に出力するとともに、船上測位表示装置42に出力する。船上測位表示装置42は、実位置演算器38が求めた水中航走体12の実際の位置、誤差修正計算機40の求めた偏差、水中航走体12から送信されてきた位置修正用経路などを表示するようになっている。
【0023】
このようになっている検出位置修正システム10による水中航走体12の検出位置の修正は、次のようにして行なう。まず、水中航走体12の航走経路記憶部26に、水中航走体12が航走して調査すべき経路(航走経路)を調査開始点、調査終了点とともに記憶させる。記憶させた航走経路には、水中航走体12が連続して航走する2つの直線からなる位置修正用航路が1つ以上設定してあって、少なくとも1つが航走経路の最初の部分に設定され、調査の開始前に航走するようにしてある。位置修正用経路43は、実施形態の場合、図2に示したように、等緯度線に沿った緯度検出経路44と、緯度検出経路44に直交した等経度線に沿った経度検出経路46とからなっている。緯度検出経路44、経度検出経路46は、例えばウェイポイントWP1とウェイポイントWP2とを結ぶ直線、ウェイポイントWP2とウェイポイントWP3とを結ぶ直線として設定してあり、長さ(距離)が緯度検出経路44または経度検出経路46を航走している水中航走体12の位置を支援船14が複数回音響測位できる適宜の長さに設定する。
【0024】
水中航走体12は、調査海域まで支援船(母船)14によって搬送され、図3の符号12aに示したように、海面49に吊り下ろされる。水中航走体12は、GPS受信機16がGPS衛星(図示せず)の送信信号を受信して水中航走体12の現在位置(緯度、経度)を測位して水中航走体制御装置24に入力する。水中航走体制御装置24は、予め与えられているプログラムに従って、水中航走体12の推進装置を駆動し、符号12bのように調査開始点に向けて潜航を開始する。
【0025】
水中航走体12は、水面下にある場合、GPS測位を行なうことができない。また、ドップラー式速度計20は、現在のところ、海底51からの距離(高度)Hが200m程度でないと対地速度の検出を行なうことができない。このため、水中航走体制御装置24は、深さ(深度)hが200mを超えるような領域を調査する場合、慣性航法装置22の出力(検出)する水中航走体12の速度、現在位置(検出位置)を用いる慣性航法によって水中航走体12の航走を制御する。なお、水中航走体12の海面49からの距離h、すなわちz方向の位置情報は、深度計18によって求めるようになっている。
【0026】
前記したように、慣性航法装置22は、検出した加速度を積分して速度、積分して得た速度をさらに積分して位置を検出するようになっている。このため、慣性航法装置22により検出した位置は、実際の位置に対する誤差が比較的大きく、時間の経過とともに誤差が累積されて増大する。したがって、調査開始点に向けて潜航している水中航走体12bは、一点鎖線50によって示した本来とるべきコース(経路)から外れて潜航することがしばしば生ずる。特に、数千メートルの深さまで潜航する場合、検出位置の誤差が大きくなる。そこで、実施形態においては、水中航走体12が符号12cのように、ドップラー式速度計20が利用可能な高度200m程度まで潜航すると、水中航走体制御装置24が航走経路記憶部26に記憶されている航走経路の最初の部分に設定されている位置修正用経路43を読み出し、水中航走体12cが位置修正用経路43の緯度検出経路44と経度検出経路46とを連続して航走するように制御する。なお、水中航走体12がドップラー式速度計20を利用可能な高度Hまで潜航したことは、ドップラー式速度計20が海底51から反射波を受信して検知する。
【0027】
水中航走体制御装置24は、ドップラー式速度計20が検出した対地速度と、慣性航法装置22が出力する方位信号とに基づいて、ウェイポイントWPを辿って水中航走体12cを緯度検出経路44、経度検出経路46を航走するように制御する。しかし、水中航走体制御装置24は、位置修正用経路43を航走するまでの深度に潜航する間に、慣性航法装置22が求めた検出位置の誤差が蓄積しているため、ウェイポイントWPを辿って水中航走体12を緯度検出経路44、経度検出経路46に沿って航走させていると認識していても、実際は設定された経路を航走していないことがある。
【0028】
水中航走体制御装置24は、ウェイポイントWP1を通過すると、音響通信装置30を介して位置修正用経路43の緯度検出経路44の航走に入ったことを支援船14に送信する。支援船14に設けた図示しないシステム制御装置は、図4のステップ100に示したように、水中航走体12が緯度検出経路44を航走しているか否かを監視している。そして、システム制御装置は、水中航走体12から緯度検出経路44の航走を開始した旨の連絡を受けると、音響測位装置32を作動し、水中航走体12に向けて音波信号を送信させる。水中航走体12の音響測位装置28は、音響測位装置32からの信号を受信すると、音波による応答信号を送信する。支援船14の音響測位装置32は、水中航走体12からの応答信号を受信すると、水中航走体12の支援船14に対する相対位置、すなわち水中航走体12の支援船14からの距離、方位を求める。音響測位装置32は、求めた水中航走体12の相対位置を実位置演算器38に送出する。
【0029】
実位置演算器38は、音響測位装置32が求めた水中航走体12の相対位置を、支援船GPS受信機36が測位した支援船14の現在位置に基づいて、図2の黒丸52に示したように、水中航走体12が航走している実際の位置(実際の緯度、経度)に換算する。また、実位置演算器38は、換算した水中航走体12の実際の位置を船上測位表示装置42に出力して表示するとともに(ステップ102)、図示しないメモリに記憶させる(ステップ104)。システム制御装置は、ステップ106に示したように、音響測位装置32による測位が予め定めた測位回数Nに達したか否かを判断し、測位が所定の回数Nに達していない場合、ステップ102に戻って音響測位装置32による測位を繰り返す。
【0030】
システム制御装置は、ステップ106において所定の測位回数Nに達したと判断すると、実位置演算器38にメモリに記憶させた測位結果を読み出させ、さらに緯度成分についての平均値を求めるとともに(ステップ108)、測位した緯度成分の平均緯度線48を求める。その後、実位置演算器38は、平均値として求めた実際の緯度の値と平均緯度線48とを船上測位表示装置42に送出して表示させる(ステップ110)。また、実位置演算器38は、求めた平均緯度線48のデータを誤差修正計算機40に出力する。
【0031】
誤差修正計算機40は、実位置演算器38から平均緯度線48のデータが入力すると、音響通信装置34、30を介して、航走経路記憶部26に記憶されている緯度検出経路44のデータを水中航走体制御装置24に転送させる。そして、誤差修正計算機40は、緯度検出経路44と平均緯度線48とを比較し、両者の偏差(差分)δLATを「+(または−)何分何秒」のように求めてメモリに記憶させる(ステップ112)。
【0032】
その後、システム制御装置は、ステップ114に示したように、水中航走体12が経度検出経路46を航走しているか否かを監視する。システム制御装置は、水中航走体12がウェイポイントWP2を通過し、経度検出経路46の航走を開始すると、前記と同様にして音響測位装置32により水中航走体12の相対位置を測位する。そして、実位置演算器38が音響測位装置32の測位した相対位置を、支援船GPS受信機36により測位した支援船14の現在位置に基づいて実際の緯度、経度に変換し、船上測位表示装置42に表示するとともに、メモリに書き込む(ステップ116、118)。さらに、システム制御部は、経度検出経路46を航走している水中航走体12を所定のN回測位したかを判断する(ステップ120)。システム制御装置は、測位回数がN回に達していない場合、測位回数がN回になるまでステップ116ないしステップ120の処理を行なわせる。
【0033】
音響測位装置32によるN回の測位が終了すると、実位置演算器38は、経度成分のみの平均値を求め(ステップ122)、さらに平均経度線50を求める(ステップ124)。その後、実位置演算器38は、平均値として求めた実際の経度の値と平均経度線50とを船上測位表示装置42に送出して表示させる(ステップ124)、求めた平均経度線50のデータを誤差修正計算機40に出力する。誤差修正計算機40は、実位置演算器38から平均経度線50のデータが入力すると、水中航走体制御装置24に経度検出経路46のデータを転送させる。そして、誤差修正計算機40は、経度検出経路46と平均経度線50とを比較し、両者の偏差(差分)δLONを「+(または−)何分何秒」のように算出する(ステップ126)。誤差修正計算機40は、算出した経度の偏差δLONを、先に求めた緯度の偏差δLATとともに船上測位表示装置42に送出し、緯度誤差、経度誤差として表示する(ステップ128)。これにより、水中航走体制御装置24が慣性航法装置22の検出した位置に基づいて、緯度検出経路44、経度検出経路46を航走したと認識していても、実際には緯度においてδLAT、経度においてはδLONずれていることがわかる。
【0034】
システム制御装置は、水中航走体制御装置24に対して検出位置の誤差修正をする必要があるか否かを判断する(ステップ130)。すなわち、誤差修正計算機40において検出誤差が求められたか否かを判断する。システム制御装置は、ステップ130において緯度、経度の修正をする必要がないと判断した場合、この検出位置の修正処理のフローを終了する。一方、システム制御装置は、緯度、経度の修正が必要であると判断した場合、誤差修正計算機40に音響通信装置34、30を介して、ドップラー式速度計20を用いて航走している水中航走体12dの水中航走体制御装置24に偏差δLAT、δLONを検出位置の修正値として与える。
【0035】
水中航走体制御装置24は、支援船14から送信された修正値に基づいて、慣性航法装置22から得た水中航走体12dの検出位置を修正(更新)する。そして、水中航走体制御装置24は、以後、ドップラー式速度計20が検出する対地速度に基づいて水中航走体12e(図3参照)の位置を求め、水中航走体12eが航走経路記憶部26に記憶されている航走経路を航走するように推進装置を制御する。ドップラー式速度計20の検出する対地速度に基づいた位置の検出は、1回の積分でよいため、慣性航法装置22により検出した位置より検出誤差が非常に小さいので、位置修正を行なわなくとも、ほぼ航走経路記憶部26に記憶されている航走経路通りに航走することができる。
【0036】
このように実施の形態においては、慣性航法装置22によって検出した水中航走体12の位置を修正するのに、海面49に浮上したり、航走経路に沿ってトランスポンダを設置する必要がない。したがって、水中航走体12による調査の手間と時間とを大幅に削減することができ、調査費用を大幅に低減することができる。
【0037】
なお、水中航走体12が航走途中において、海面49からの深さが1万メートルを超えるような海溝を航走する場合、ドップラー式速度計20を使用することができず、慣性航法装置22に基づいて慣性航法をする必要があり、検出位置の誤差が大きくなる。このような場合、海溝を通過したのちに、前記のような位置修正用経路を航走するように設定することにより、正しい経路を航走するように修正できる。
【0038】
前記実施形態は、本発明の一態様であって、これに限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、電波航法装置としてGPSを利用した場合について説明したが、ロランCやデッカ、オメガなどであってもよい。また、前記実施形態においては、位置修正用経路が等緯度線に沿った緯度検出経路44と、等経度線に沿った経度検出経路46である場合について説明したが、2つの直線は、例えば緯度線、経度線に対して45度傾斜している線であってもよいし、相互に直交していなくてもよい。ただし、この場合、緯度、経度を求める統計処理が複雑となる。
【0039】
さらに、前記実施形態においては、支援船14側において支援船14に対する水中航走体12の相対位置を求め、慣性航法装置22の検出位置を修正する値を求めるようにした場合について説明したが、水中航走体12側において支援船14との相対位置を求めるとともに、支援船GPS受信機36によって測位した支援船14の位置を水中航走体12に与え、水中航走体側において修正値を求めるようにしてもよい。また、前記実施形態においては、誤差修正計算機40が水中航走体制御装置24から緯度検出経路44、経度検出経路46のデータの転送を受ける場合について説明したが、支援船14側にも航走経路記憶部26に記憶させたデータと同じものを保持させ、支援船側のデータによって誤差を求めるようにしてもよい。
【0040】
また、図2に示したように、緯度検出経路44と経度検出経路46とのウェイポイントWP2の近くに、緯度検出経路44の終点を示すウェイポイントWPa、経度検出経路46の始点を示すウェイポイントWPbを設定してもよい。そして、前記実施形態においては、偏差を修正値として与える場合について説明したが、平均値をして求めた緯度、経度の値を修正値として与えてもよい。また、修正値を求めるのに、経度検出経路46を先に航走させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施の形態に係る水中航走体の検出位置修正システムのブロック図である。
【図2】実施の形態に係る検出位置の誤差を求める方法の説明図である。
【図3】実施の形態に係る水中航走体の航走方法を説明する図である。
【図4】実施の形態に係る水中航走体の検出位置修正システムの作用を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0042】
10………検出位置修正システム、12………水中航走体、14………支援船、22………慣性航法装置、24………航走制御部(水中航走体制御装置)、26………航走経路記憶部、28、32………音響測位装置、30、34………音響通信装置、36………電波航法装置(支援船GPS受信機)、38………実位置演算部(実位置演算器)、40………位置修正部(誤差修正計算機)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め与えられた経路を慣性航法によって水中を航走する水中航走体の検出位置修正方法において、
前記水中航走体に予め与える航走経路中に相互に交差する2つの直線からなる位置修正用経路を設定し、前記水中航走体を前記2つの直線を連続して航走させ、
前記位置修正用経路を航走中の前記航走体と前記支援船との相対位置を音響測位し、前記支援船について求めた位置と前記音響測位した相対位置とに基づいて前記水中航走体が航走した実際の緯度、経度を求め、
前記実際の緯度、経度に基づいて、前記慣性航法により検出した前記水中航走体の検出緯度、検出経度を修正する、
ことを特徴とする水中航走体の検出位置修正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水中航走体の検出位置修正方法において、
前記位置修正用経路を構成する2つの直線は、等緯度線、等経度線に沿っていることを特徴とする水中航走体の検出位置修正方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水中航走体の検出位置修正方法において、
前記位置修正用経路の少なくとも1つは、前記水中航走体に予め与える航走経路の最初の部分に設定してあり、
前記水中航走体はドップラーソナーを有しており、前記支援船から分離されてドップラーソナーによる対地速度の検出可能な位置に潜航したときに、前記位置修正用経路を航走する、
ことを特徴とする水中航走体の検出位置修正方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1に記載の水中航走体の検出位置修正方法において、
前記検出緯度と前記検出経度との修正は、前記実際の緯度、経度と前記検出緯度、前記検出経度との偏差を航走制御部に与えて行なうことを特徴とする水中航走体の検出位置修正方法。
【請求項5】
請求項1または請求項4のいずれか1に記載の水中航走体の検出位置修正方法において、
前記水中航走体が航走した実際の緯度、経度は、前記位置修正用経路を構成する前記各直線のそれぞれについて、航走中の前記水中航走体と前記支援線との相対位置を複数回測位して得た値の平均値に基づいて求めることを特徴とする水中航走体の検出位置修正方法。
【請求項6】
水中航走体と支援船とに設けられて相互に情報の授受が可能な音響通信装置と、
前記水中航走体に設けられ、連続して航走する相互に交差する2つの直線からなる位置修正用経路を含む予め与えられた航走経路を記憶する航走経路記憶部と、
前記水中航走体に設けられて水中を航走している前記水中航走体の位置を検出する慣性航法装置と、
前記水中航走体に設けられて前記航走経路記憶部に記憶された航走経路と前記慣性航法装置の検出した航走体位置とに基づいて、前記水中航走体の航走を制御する航走制御部と、
前記支援船に設けられて支援船の位置を検出する電波航法装置と、
前記支援船と前記水中航走体との少なくともいずれか一方に設けられ、前記位置修正用経路を航走している前記水中航走体と前記支援船との相対位置を求める音響測位装置と、
前記支援船と前記水中航走体との少なくともいずれか一方に設けられ、前記音響測位装置が求めた前記相対位置と前記電波航法装置が求めた支援船位置とに基づいて、前記水中航走体の実位置を求める実位置演算部と、
前記支援船と前記水中航走体との少なくともいずれか一方に設けられ、前記慣性航法装置が求めた航走体位置と前記実位置演算部が求めた前記実位置を比較し、修正値を前記航走制御部に与える位置修正部と、
を有することを特徴とする水中航走体の検出位置修正システム。
【請求項7】
請求項6に記載の水中航走体の検出位置修正システムにおいて、
前記修正値は、前記実位置と前記検出位置との偏差であることを特徴とする水中航走体の検出位置修正システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−313087(P2006−313087A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135114(P2005−135114)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年11月18日から11月19日 海洋調査技術学会主催の「第16回 研究成果発表会」において文書をもって発表
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(597019366)
【Fターム(参考)】