説明

水系感光性樹脂組成物、水系感光性樹脂組成物の製造方法、及びプリント配線板の製造方法

【課題】溶媒として水を含み、水又は希アルカリ性溶液で現像可能な被膜を形成することができ、且つ充分に高い可撓性、離型性、並びに基板に対する密着性を併せ持つ乾燥被膜及び硬化被膜を形成することができ、特にレジストインクとして有用な水系感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)重合性不飽和結合を有するカルボキシル基含有樹脂、(B)重量平均分子量100000〜10000000の、重合性不飽和結合を有しないカルボキシル基含有樹脂、(C)アミン化合物、(D)重合性不飽和化合物、(E)光重合開始剤及び(F)水を含有する。前記カルボキシル基含有樹脂(A)の含有量が組成物全量に対して10〜60質量%であり、前記カルボキシル基含有樹脂(B)の含有量が組成物全量に対して0.1〜10質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水又は希アルカリ性溶液で現像可能な水系感光性樹脂組成物であって、プリント配線板の製造、フレキシブルプリント配線板の製造、リードフレームの製造、グラビアロール彫刻等に使用されるフォトエッチングレジストインク等として有用なものに関する。
【0002】
また、本発明は前記水系感光性樹脂組成物の製造方法、及びこの水系感光性樹脂組成物を使用したプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
希アルカリ性溶液で現像可能なフォトレジストインクは、近年、特にプリント配線板の製造やフレキシブルプリント配線板の製造等の分野で盛んに利用されている(特許文献1,2参照)。
【0004】
従来のフォトレジストインクは、一般的には各種成分を各種有機溶媒に溶解若しくは分散することで調製される。このフォトレジストインクを基板表面に均一に塗布して光硬化性の乾燥被膜を形成し、この基板が露光現像過程に供されて、プリント配線板が製造される。
【0005】
しかし、このフォトレジストインクは有機溶媒を含有するため、露光に先立って、予め乾燥等により有機溶媒が除去されなければならない。このためプリント配線板の製造現場では、有機溶媒の揮散に起因して、労働安全衛生上の問題、環境汚染の問題、火災発生の危険性の問題等の種々の問題が発生する。
【0006】
これらの問題を解決するため、溶媒として水を含む水系感光性樹脂組成物の開発が試みられている。水系感光性樹脂組成物は、例えば重合性不飽和結合を有するカルボキシル基含有樹脂に、アミン化合物を含有する水を加えて加熱することで、このカルボキシル基含有樹脂を水に溶解または分散させ、その後、重合性不飽和化合物及び光重合開始剤を添加することで調製される。
【0007】
しかし、従来の水系感光性樹脂組成物から形成される乾燥被膜や、この乾燥被膜を露光硬化させた硬化被膜は硬度が高く、この乾燥被膜等の基板との密着性が不足するため、乾燥被膜等が形成された基板が積み重ねられたり、ロール状に巻き取られたりした場合、被膜に割れ、剥がれ等が生じやすいという問題がある。
【0008】
一方、乾燥被膜や硬化被膜の硬度を低減しようとすると乾燥被膜や硬化被膜の表面のタック性が高くなり、乾燥被膜等が形成された基板が積み重ねられたり、ロール状に巻き取られたりした場合に、被膜表面が他の基板の裏面に貼着して離型性が悪化してしまう。この場合、被膜が形成された基板を積み重ねたりロール状に巻き取ったりした状態で保存することが困難となり、取扱性や作業性が悪くなるという問題が生じてしまう。
【特許文献1】特開平5−224413号公報
【特許文献2】特開平5−241340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、溶媒として水を含み、水又は希アルカリ性溶液で現像可能な被膜を形成することができ、且つ充分に高い可撓性、離型性、並びに基板に対する密着性を併せ持つ乾燥被膜及び硬化被膜を形成することができ、特にレジストインクとして有用な水系感光性樹脂組成物、この水系感光性樹脂組成物の製造方法、及びこの水系感光性樹脂組成物を用いたプリント配線板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る水系感光性樹脂組成物は、
(A)重合性不飽和結合を有するカルボキシル基含有樹脂、
(B)重量平均分子量100000〜10000000の、重合性不飽和結合を有しないカルボキシル基含有樹脂、
(C)アミン化合物、
(D)重合性不飽和化合物、
(E)光重合開始剤及び
(F)水を含有し、
前記カルボキシル基含有樹脂(A)の含有量が組成物全量に対して10〜60質量%であり、前記カルボキシル基含有樹脂(B)の含有量が組成物全量に対して0.1〜10質量%であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、カルボキシル基含有樹脂(A)とカルボキシル基含有樹脂(B)とが併用されることで、水系感光性樹脂組成物中の重合性不飽和化合物(D)及び光重合開始剤(E)の乳化及び分散が促進され、乾燥被膜を露光した後の非露光部分に特に優れた現像性が付与される。また、この水系感光性樹脂組成物から形成される乾燥被膜並びにこの乾燥被膜が露光硬化されることで形成される硬化被膜は、優れた可撓性を備えると共に、基板に対する密着性が高くなり、しかもこれらの被膜の表面のタック性が低減される。
【0012】
本発明では、前記カルボキシル基含有樹脂(A)が重合性不飽和結合を有するカルボキシル基含有樹脂(A−1)を含むことが好ましい。このカルボキシル基含有樹脂(A−1)は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物(a)と、カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和化合物(b)との重合反応により生成する重合体中のカルボキシル基の一部と、エポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物(c)とが反応することにより生成する。
【0013】
この場合、親水基と疎水基とが付与されたカルボキシル基含有樹脂(A−1)が界面活性剤として機能し、水系感光性樹脂組成物中の成分の乳化及び分散が更に促進されると共に、この水系感光性樹脂組成物に高い現像性が付与される。また、カルボキシル基含有樹脂(A−1)は高い光反応性を有することから、硬化被膜に特に優れた耐現像液性及び耐エッチング液性が付与される。
【0014】
このカルボキシル基含有樹脂(A−1)の酸価(mg KOH/g)は20〜500の範囲、重量平均分子量は10000〜100000の範囲であることが好ましい。
【0015】
この場合、カルボキシル基含有樹脂(A−1)による水系感光性樹脂組成物中の成分の乳化力、分散力が更に優れたものになり、水系感光性樹脂組成物中で重合性不飽和化合物(D)及び光重合開始剤(E)を更に微細に分散することができるようになる。また、乾燥被膜を露光した後の非露光部分の現像液による除去性、並びに硬化被膜の耐現像液性及び耐エッチング液性が更に向上して、微細なレジストパターンを有するレジスト被膜の形成が可能となると共に、このレジスト被膜のアルカリ剥離性が更に向上する。
【0016】
また、本発明では、前記カルボキシル基含有樹脂(A)が重合性不飽和結合を有するカルボキシル基含有樹脂(A−2)を含むことも好ましい。このカルボキシル基含有樹脂(A−2)は、エポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物(d)と、エポキシ基を有さないエチレン性不飽和化合物(e)との重合反応により生成する重合体中のエポキシ基と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物(f)とが反応し、この反応で生成する水酸基と酸無水物(g)とが反応することにより生成する。
【0017】
この場合、親水基と疎水基とが付与されたカルボキシル基含有樹脂(A−2)が界面活性剤として機能し、水系感光性樹脂組成物中の成分の乳化及び分散が更に促進されると共に、この水系感光性樹脂組成物に高い現像性が付与される。また、カルボキシル基含有樹脂(A−2)は高い光反応性を有することから、硬化被膜に特に優れた耐現像液性及び耐エッチング液性が付与される。
【0018】
このカルボキシル基含有樹脂(A−2)の酸価(mg KOH/g)は20〜500の範囲、重量平均分子量は1000〜50000の範囲であることが好ましい。
【0019】
この場合、カルボキシル基含有樹脂(A−2)による水系感光性樹脂組成物中の成分の乳化力、分散力が更に優れたものになり、水系感光性樹脂組成物中で重合性不飽和化合物(D)及び光重合開始剤(E)を更に微細に分散することができるようになる。また、乾燥被膜を露光した後の非露光部分の現像液による除去性、並びに硬化被膜の耐現像液性及び耐エッチング液性が更に向上して、微細なレジストパターンを有するレジスト被膜の形成が可能となると共に、このレジスト被膜のアルカリ剥離性が更に向上する。
【0020】
また、カルボキシル基含有樹脂(B)がカルボキシル基含有樹脂(B−1)を含むことも好ましい。このカルボキシル基含有樹脂(B−1)は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物(h)と、カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和化合物(i)との重合反応により生成する。
【0021】
この場合、親水基と疎水基とが付与されたカルボキシル基含有樹脂(B−1)が界面活性剤として機能し、水系感光性樹脂組成物中の成分の乳化及び分散が更に促進されると共に、乾燥被膜を露光した後の非露光部分に更に高い現像性が付与される。また、高分子量のカルボキシル基含有樹脂(B−1)によって乾燥被膜のタック性が低減されると共に基材との密着性が向上し、また被膜に更に高い柔軟性が付与される。
【0022】
このカルボキシル基含有樹脂(B−1)の酸価(mg KOH/g)は50〜800の範囲であることが好ましい。
【0023】
この場合、乾燥被膜を露光した後の非露光部分の現像液による除去性と、硬化被膜の耐現像液性とが更に向上して、微細なレジストパターンを有するレジスト被膜の形成が可能となる。
【0024】
また、本発明では、前記カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)が、アミン化合物(C)で中和されていることが好ましい。
【0025】
この場合、水系感光性樹脂組成物中のカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)の水分散性或いは水溶性が更に向上すると共に硬化被膜に更に高い耐現像液性が付与され、更に微細なレジストパターンを有するレジスト被膜の形成が可能となる。
【0026】
このアミン化合物(C)は3級アミンを含むことが好ましい。
【0027】
この場合、水系感光性樹脂組成物の粘度安定性、保存安定性、及び乾燥被膜の保存安定性が良好になる。
【0028】
また、このアミン化合物(C)の含有量が、カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)中に含まれるカルボキシル基1モルに対して、0.2〜1.0当量の範囲であることが好ましい。
【0029】
この場合、水系感光性樹脂組成物中のカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)の水分散性或いは水溶性が更に向上すると共に硬化被膜に更に高い耐現像液性が付与され、更に微細なレジストパターンを有するレジスト被膜の形成が可能となる。
【0030】
また、本発明に係る水系感光性樹脂組成物の製造方法は、上記水系感光性樹脂組成物の製造方法であって、カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)がアミン化合物(C)で中和され、この中和されたカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)を含む水溶液に重合性不飽和化合物(D)と光重合開始剤(E)とが加えられる工程を含むことを特徴とする。
【0031】
このため、カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)の水分散性或いは水溶性が向上すると共に、界面活性剤としての機能も向上し乳化力、分散力に優れたものになり、組成物中で重合性不飽和化合物(D)及び光重合開始剤(E)が更に微細に分散することができるようになる。
【0032】
また、この水系感光性樹脂組成物の製造方法は、下記工程(1)から(6)を含むことが好ましい。
(1)有機溶媒中でカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)を合成する工程
(2)前記工程(1)で調製された前記カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)の有機溶媒溶液を混合し、この混合液にアミン化合物(C)を加える工程
(3)前記工程(2)で調製された溶液を攪拌しながら、この溶液中に水(F)を加える工程
(4)前記工程(3)で調製された溶液から有機溶媒を減圧蒸留により除去する工程
(5)重合性不飽和化合物(D)中に光重合開始剤(E)を溶解させる工程
(6)前記工程(4)で調製された水溶液を攪拌しながら、この水溶液中に前記工程(5)で調製された溶液を加える工程
この場合、水系感光性樹脂組成物中で重合性不飽和化合物(D)及び光重合開始剤(E)が更に微細に分散することができるようになる。
【0033】
また、本発明に係るプリント配線板の製造方法は、上記水系感光性樹脂組成物を使用してプリント配線板を製造する方法であって、下記工程(1)から(4)を含むことを特徴とする。
(1)上記水系感光性樹脂組成物が、外面に金属層を有する絶縁基板の前記金属層に塗布された後、乾燥されることで、光硬化性の乾燥被膜が形成される工程
(2)前記光硬化性被膜が露光された後、水又は希アルカリ性溶液で現像されることで、所定のパターンを有するレジスト被膜が形成される工程
(3)前記金属層における前記レジスト被膜による被覆がされていない部分がエッチング処理によって除去される工程
(4)前記レジスト被膜がアルカリ性溶液で処理されることで剥離する工程
このため、労働安全衛生上の問題、環境汚染の問題、火災発生の危険性を低減しつつ、プリント配線板に微細な導体配線パターンを形成することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、水系感光性樹脂組成物は溶媒として水を含み、水又は希アルカリ性溶液で現像可能な被膜を形成することができることから、水系感光性樹脂組成物を用いて適宜のパターンを有する被膜を形成するにあたり、有機溶媒に起因する労働安全衛生上の問題、環境汚染の問題、火災発生の危険性の問題等の種々の問題が解消される。しかも、乾燥被膜を露光した後の非露光部分の現像性が非常に優れたものとなり、微細なパターン形成が可能となる。更に、この水系感光性樹脂組成物から形成される乾燥被膜及びこの乾燥被膜を硬化して得られる硬化被膜には充分に高い可撓性、離型性、並びに基板に対する密着性が付与されることから、乾燥被膜や硬化被膜が形成された基板が積み重ねられたりロール状に巻き取られたりした場合の被膜の割れ、剥離、他の基板への貼着等の不良が発生することが防止される。従って、この水系感光性樹脂組成物はプリント配線板、特にフレキシブルプリント配線板の製造時のレジスト被膜形成のために好適に使用され、この水系感光性樹脂組成物を用いることにより、微細な導体パターンを有するプリント配線板が製造されると共に、このプリント配線板の製造時の歩留まりや作業性が向上するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。尚、本明細書において、「(メタ)アクリ−」は「アクリ−」及び「メタクリ−」を総称したものであり、例えば「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」と「メタクリル酸」を総称したものである。
【0036】
本発明に係る水系感光性樹脂組成物(以下、「組成物」と略称することがある。)は、重合性不飽和結合を有するカルボキシル基含有樹脂(A)と、重合性不飽和結合を有しないカルボキシル基含有樹脂(B)と、アミン化合物(C)と、重合性不飽和化合物(D)と、光重合開始剤(E)と、水(F)とを、必須成分として含有する。
【0037】
以下、各成分について詳説する。
【0038】
[カルボキシル基含有樹脂(A)]
カルボキシル基含有樹脂(A)が重合性不飽和結合を有するため、水系感光性樹脂組成物内に不飽和基が導入される。このため、水系感光性樹脂組成物に光硬化性が付与され、この組成物から形成される乾燥被膜が部分的に露光された場合には、非露光部分と露光部分(硬化被膜)との間で、水、希アルカリ性溶液等の現像液に対する溶解性、分散性、膨潤性等に充分な相違が生じる。このため、微細なレジストパターンの形成が可能となる。
【0039】
組成物全量に対するカルボキシル基含有樹脂(A)の含有量は10〜60質量%の範囲である必要がある。この範囲において、組成物に優れた光硬化性と現像性が付与される。
【0040】
カルボキシル基含有樹脂(A)としては適宜のものが用いられるが、下記のカルボキシル基含有樹脂(A−1)とカルボキシル基含有樹脂(A−2)のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0041】
カルボキシル基含有樹脂(A−1)は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物(a)と、カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和化合物(b)との重合反応により生成する重合体中のカルボキシル基の一部と、エポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物(c)とを反応させて生成する。
【0042】
エチレン性不飽和化合物(a)としては、カルボキシル基を有する適宜のモノマー又はプレポリマーが使用される。エチレン性不飽和化合物(a)の具体例としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、桂皮酸等;無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水イタコン酸等の二塩基酸無水物とヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等の1分子中に1個の水酸基を含むエチレン性不飽和基を有する化合物とを反応させて得られるハーフエステル類;コハク酸、マレイン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、イタコン酸等の二塩基酸とグリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートモノグリシジルエーテル等の1分子中に1個のエポキシ基を含むエチレン性不飽和基を有する化合物とを反応させて得られるハーフエステル類等が挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。
【0043】
エチレン性不飽和化合物(b)としては、カルボキシル基を有さず、且つ前記エチレン性不飽和化合物(a)と共重合可能な適宜のエチレン性不飽和単量体が使用される。エチレン性不飽和化合物(b)の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の、直鎖状、分岐状或は脂環式のアルキル系(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数は例えば2〜23)のモノ(メタ)アクリレート類;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエチレングリコールエステル系(メタ)アクリレート類、及び同様なプロピレングリコール系(メタ)アクリレート類、ブチレングリコール系モノ(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;べンジル(メタ)アクリレート等の芳香族系の(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ターシャリーブチル(メタ)アクリルアミド、N−ターシャリーオクチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド類;スチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエン、α−メチルスチレン、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ビニルベンジルアルコール等のビニル芳香族化合物類;マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;2−(メタ)アクリルアミドエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、3−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有(メタ)アクリレート類;その他にグリセロールモノ(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、ビニルエーテル類、(メタ)アリルアルコール、シアン化ビニリデン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルピロリドン、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。また、これらの化合物に加えて、必要に応じエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、トリビニルベンゼン等の、1分子中にエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物も使用される。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。
【0044】
エチレン性不飽和化合物(c)としては、エポキシ基を有する適宜のモノマー又はプレポリマーが使用される。エチレン性不飽和化合物(c)の具体例としては、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、エポキシ化ステアリルアクリレート(新日本理化株式会社製;品番「リカレジンESA」)等が挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。これらの化合物のうち、特にグリシジルアクリレート及びグリシジルメタクリレートは、汎用され入手が容易である点で好ましい。
【0045】
エチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)の反応は、適宜の重合方法により進行する。この重合方法として溶液重合法等の公知の手法が採用され得る。
【0046】
溶液重合法が採用される場合、エチレン性不飽和化合物(a)、エチレン性不飽和化合物(b)及び重合開始剤が混入された適宜の有機溶媒中を窒素雰囲気下で加熱攪拌する方法や、共沸重合法等が採用される。
【0047】
上記有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコ−ル類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、及びトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;ジアルキルグリコールエーテル類等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。
【0048】
重合開始剤としては、例えばジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン等のジアルキルパーオキサイド類;イソブチリルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシビバレート等のアルキルパーエステル類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類が挙げられる。これらの重合開始剤は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。また、重合開始剤としてレドックス系の開始剤も使用され得る。
【0049】
エチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)との比率は適宜調整されるが、前者対後者のモル比が10:90〜90:10の範囲であることが好ましい。
【0050】
エチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)との重合体中のカルボキシル基の一部と、エチレン性不飽和化合物(c)との反応は、適宜の手法により進行する。この手法として、公知の方法が採用され得る。例えば、上記溶液重合法等により生成したエチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)との重合体を含む有機溶媒溶液中に、熱重合禁止剤と触媒とを加え、この有機溶媒溶液を撹拌混合しながら、常法により加熱することにより、前記重合体中のカルボキシル基の一部と、エチレン性不飽和化合物(c)とを反応させることができる。熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が使用される。触媒としては、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン等の第3級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩類;トリフェニルスチビン等が使用される。反応温度は好ましくは60〜150℃、更に好ましくは80〜120℃の範囲とする。
【0051】
エチレン性不飽和化合物(c)の使用量は、エチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)との重合体中に存在するカルボキシル基1モルに対して、エチレン性不飽和化合物(c)中に存在するエポキシ基が、好ましくは0.1〜0.8モルの範囲、更に好ましくは0.3〜0.6モルの範囲となる量である。この範囲において、組成物から形成される乾燥被膜を露光した後の非露光部分に現像液(水又は希アルカリ性溶液)による特に優れた現像性が付与されると共に、この被膜の露光部分(硬化被膜)に特に優れた耐現像液性が付与される。
【0052】
このカルボキシル基含有樹脂(A−1)の酸価は、好ましくは20〜500の範囲、更に好ましくは50〜200の範囲である。またこのカルボキシル基含有樹脂(A−1)の重量平均分子量は好ましくは10000〜100000の範囲、更に好ましくは20000〜50000の範囲である。
【0053】
カルボキシル基含有樹脂(A−1)の酸価が小さすぎる場合、カルボキシル基含有樹脂(A−1)がアミン化合物(C)で中和されてもこのカルボキシル基含有樹脂(A−1)に充分な水溶性が付与されず、乾燥被膜を露光した後の非露光部分の現像液による除去や、レジスト被膜のアルカリ性溶液による剥離が困難となるおそれがある。一方、この酸価が大きすぎる場合、アミン化合物(C)で中和されたカルボキシル基含有樹脂(A−1)の水溶性が高くなりすぎて、硬化被膜の耐現像液性や耐エッチング液性が充分に得られなくなり、その結果、微細なレジストパターンの形成が困難になるおそれがある。
【0054】
また、カルボキシル基含有樹脂(A−1)の重量平均分子量が小さすぎる場合、乾燥被膜にタック性が生じ、乾燥被膜が形成された基板の、露光時等における取扱性が悪くなるおそれがあり、また硬化被膜の耐現像液性、耐エッチング液性が充分に得られなくなるおそれがある。一方、この重量平均分子量が大きすぎる場合、組成物の粘度が過剰に高くなり、この組成物中にカルボキシル基含有樹脂(A−1)が微分散することが困難となり、その結果、硬化被膜による微細なレジストパターンの形成が困難になるおそれがある。
【0055】
カルボキシル基含有樹脂(A−1)の酸価は、カルボキシル基含有樹脂(A−1)の合成に使用される原料の種類に応じて、エチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)との使用量の割合、並びにエチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)との重合体に対するエチレン性不飽和化合物(c)の使用量を調整することで、適宜調整される。
【0056】
また、カルボキシル基含有樹脂(A−1)の重量平均分子量は、カルボキシル基含有樹脂(A−1)の合成に使用される原料の種類や反応条件等に応じ、エチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)との重合反応に使用される重合開始剤の使用量等を調製することで、適宜調整される。
【0057】
カルボキシル基含有樹脂(A−2)は、エポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物(d)と、エポキシ基を有さないエチレン性不飽和化合物(e)との重合反応により生成する重合体中のエポキシ基と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物(f)とが反応し、この反応で生成する水酸基と酸無水物(g)とが反応して生成する。
【0058】
エチレン性不飽和化合物(d)としては、エポキシ基を有する適宜のモノマー又はプレポリマーが使用される。エチレン性不飽和化合物(d)の具体例としては、例えばカルボキシル基含有樹脂(A−1)の合成に使用されるエチレン性不飽和化合物(c)についての上記具体例と同一の化合物が挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。これらの化合物のうち、特にグリシジルアクリレート及びグリシジルメタクリレートは、汎用され入手が容易である点で好ましい。
【0059】
エチレン性不飽和化合物(e)としては、エポキシ基を有さず、且つ前記エチレン性不飽和化合物(d)と共重合可能な適宜のエチレン性不飽和単量体が使用される。エチレン性不飽和化合物(e)の具体例としては、例えばカルボキシル基含有樹脂(A−1)の合成に使用されるエチレン性不飽和化合物(b)についての上記具体例と同一の化合物が挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。
【0060】
エチレン性不飽和化合物(f)としては、カルボキシル基を有する適宜のモノマー又はプレポリマーが使用される。エチレン性不飽和化合物(f)の具体例としては、例えばカルボキシル基含有樹脂(A−1)の合成に使用されるエチレン性不飽和化合物(a)についての上記具体例と同一の化合物が挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。
【0061】
酸無水物(g)としては、適宜の化合物が使用される。酸無水物(g)の具体例としては、例えば無水コハク酸、無水メチルコハク酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の二塩基酸無水物;無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、シクロヘキサントリカルボン酸無水物等の三塩基酸以上の酸無水物が挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。
【0062】
エチレン性不飽和化合物(d)とエチレン性不飽和化合物(e)の反応は、適宜の重合方法により進行する。この重合方法として溶液重合法等の公知の手法が採用され得る。例えば上記エチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)の反応の場合と同一の手法が採用され得る。
【0063】
エチレン性不飽和化合物(d)とエチレン性不飽和化合物(e)との比率は適宜調整されるが、エチレン性不飽和化合物(d)とエチレン性不飽和化合物(e)の全量に対するエチレン性不飽和化合物(e)の割合が0モル%を超えると共に90モル%以下であることが好ましい。
【0064】
エチレン性不飽和化合物(d)とエチレン性不飽和化合物(e)との重合体中のエポキシ基と、エチレン性不飽和化合物(f)との反応は、適宜の手法により進行する。この手法として、公知の方法が採用され得る。例えば、上記エチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)との重合体とエチレン性不飽和化合物(c)との反応の場合と同一の手法が採用され得る。
【0065】
エチレン性不飽和化合物(f)の使用量は、エチレン性不飽和化合物(d)とエチレン性不飽和化合物(e)との重合体中に存在するエポキシ基1モルに対して、エチレン性不飽和化合物(f)中に存在するカルボキシル基が、好ましくは0.7〜1.2モルの範囲、更に好ましくは0.9〜1.1モルの範囲となる量である。この範囲において、カルボキシル基含有樹脂(A−2)中におけるエポキシ基の残存量が特に低減される。このため、弱い熱乾燥条件下(例えば予備乾燥工程における熱乾燥条件下)で組成物中のカルボキシル基含有樹脂(A−2)の熱硬化反応が抑制される。このため、乾燥被膜の熱硬化が抑制され、この乾燥被膜の現像性の低下が抑制される。また、組成物中の未反応のエチレン性不飽和化合物(f)の残存も抑制される。
【0066】
酸無水物(g)の使用量は、エチレン性不飽和化合物(d)とエチレン性不飽和化合物(e)との重合体中のエポキシ基とエチレン性不飽和化合物(f)との反応により生成する水酸基1モルに対して、好ましくは0.1〜0.8モルの範囲、更に好ましくは0.3〜0.6モルの範囲となる量である。この範囲において、カルボキシル基含有樹脂(A−2)により、乾燥被膜を露光した後の非露光部分に特に優れた現像性が付与されると共に硬化被膜に特に優れた耐現像液性が付与される。
【0067】
このカルボキシル基含有樹脂(A−2)の酸価は、好ましくは20〜500の範囲、更に好ましくは50〜200の範囲である。またこのカルボキシル基含有樹脂(A−2)の重量平均分子量は好ましくは1000〜50000の範囲、更に好ましくは5000〜20000の範囲である。
【0068】
カルボキシル基含有樹脂(A−2)の酸価が小さすぎる場合、カルボキシル基含有樹脂(A−2)がアミン化合物(C)で中和されてもこのカルボキシル基含有樹脂(A−2)に充分な水溶性が付与されず、乾燥被膜を露光した後の非露光部分の現像液による除去や、レジスト被膜のアルカリ性溶液による剥離が困難となるおそれがある。一方、この酸価が大きすぎる場合、アミン化合物(C)で中和されたカルボキシル基含有樹脂(A−2)の水溶性が高くなりすぎて、硬化被膜の耐現像液性や耐エッチング液性が充分に得られなくなり、その結果、微細なレジストパターンの形成が困難になるおそれがある。
【0069】
また、カルボキシル基含有樹脂(A−2)の重量平均分子量が小さすぎる場合、乾燥被膜のタック性が大きくなり、乾燥被膜が形成された基板の、露光時等における取扱性が悪くなるおそれがあり、また硬化被膜の耐現像液性、耐エッチング液性が充分に得られなくなるおそれがある。一方、この重量平均分子量が大きすぎる場合、組成物の粘度が過剰に高くなり、この組成物中にカルボキシル基含有樹脂(A−2)が微分散することが困難となり、その結果、微細なレジストパターンの形成が困難になるおそれがある。
【0070】
カルボキシル基含有樹脂(A)がカルボキシル基含有樹脂(A−1)とカルボキシル基含有樹脂(A−2)のうちの少なくとも一方を含有する場合、カルボキシル基含有樹脂(A)中のカルボキシル基含有樹脂(A−1)の含有量は50〜100質量%の範囲が好ましく、またカルボキシル基含有樹脂(A)中のカルボキシル基含有樹脂(A−2)の含有量は50〜100質量%の範囲が好ましい。また、カルボキシル基含有樹脂(A)がカルボキシル基含有樹脂(A−1)とカルボキシル基含有樹脂(A−2)を共に含有する場合には、カルボキシル基含有樹脂(A)中のカルボキシル基含有樹脂(A−1)とカルボキシル基含有樹脂(A−2)の含有量の合計は、50〜100質量%の範囲が好ましい。このようにカルボキシル基含有樹脂(A)がカルボキシル基含有樹脂(A−1)とカルボキシル基含有樹脂(A−2)のうちの少なくとも一方を含有すると、カルボキシル基含有樹脂(A−1)及びカルボキシル基含有樹脂(A−2)は高い光反応性を有することから、硬化被膜に特に優れた耐現像液性が付与され、また親水基と疎水基とが付与されたカルボキシル基含有樹脂(A−1)及びカルボキシル基含有樹脂(A−2)が界面活性剤として機能し、組成物中の成分の乳化及び分散が更に促進され、組成物中で重合性不飽和化合物(D)及び光重合開始剤(E)を微細に分散することになる。このとき重合性不飽和化合物(D)及び光重合開始剤(E)は組成物中で微粒子状となって分散するようになる。
【0071】
[カルボキシル基含有樹脂(B)]
カルボキシル基含有樹脂(B)は重合性不飽和結合を有しないカルボキシル基含有樹脂であり、その重量平均分子量は100000〜10000000の範囲である。
【0072】
このようなカルボキシル基含有樹脂(B)が組成物中に含有されることで、組成物中の重合性不飽和化合物(D)及び光重合開始剤(E)の乳化及び分散が促進される。このため、乾燥被膜を露光した後の非露光部分に特に優れた現像性が付与される。またカルボキシル基含有樹脂(B)の重量平均分子量が大きいことから、乾燥被膜のタック性が低減すると共に硬化被膜に優れた可撓性が付与される。
【0073】
カルボキシル基含有樹脂(B)としては適宜のものが用いられるが、下記のカルボキシル基含有樹脂(B−1)を含有することが好ましい。
【0074】
カルボキシル基含有樹脂(B−1)は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物(h)と、カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和化合物(i)との重合反応により生成する。
【0075】
エチレン性不飽和化合物(h)としては、カルボキシル基を有する適宜のモノマー又はプレポリマーが使用される。エチレン性不飽和化合物(h)の具体例としては、例えばカルボキシル基含有樹脂(A−1)の合成に使用されるエチレン性不飽和化合物(a)についての上記具体例と同一の化合物が挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。
【0076】
カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和化合物(i)としては、カルボキシル基を有さず、且つ前記エチレン性不飽和化合物(h)と共重合可能な適宜のエチレン性不飽和単量体が使用される。エチレン性不飽和化合物(i)の具体例としては、例えばカルボキシル基含有樹脂(A−1)の合成に使用されるエチレン性不飽和化合物(b)についての上記具体例と同一の化合物が挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。
【0077】
エチレン性不飽和化合物(h)とエチレン性不飽和化合物(i)の反応は、適宜の重合方法により進行する。この重合方法として溶液重合法等の公知の手法が採用され得る。例えば上記エチレン性不飽和化合物(a)とエチレン性不飽和化合物(b)の反応の場合と同一の手法が採用され得る。エチレン性不飽和化合物(h)とエチレン性不飽和化合物(i)との使用量の割合は、カルボキシル基含有樹脂(B−1)に所望の酸価が付与されるように適宜調整される。
【0078】
このカルボキシル基含有樹脂(B−1)の酸価は、好ましくは50〜800の範囲、更に好ましくは200〜500の範囲である。またこのカルボキシル基含有樹脂(B−1)の重量平均分子量は好ましくは100000〜10000000の範囲、更に好ましくは200000〜6000000の範囲である。
【0079】
カルボキシル基含有樹脂(B−1)の酸価が小さすぎる場合、カルボキシル基含有樹脂(B−1)がアミン化合物(C)で中和されてもこのカルボキシル基含有樹脂(B−1)に充分な水溶性が付与されず、乾燥被膜を露光した後の非露光部分の現像液による除去や、レジスト被膜のアルカリ性溶液による剥離が困難となるおそれがある。一方、この酸価が大きすぎる場合、カルボキシル基含有樹脂(B−1)の水溶性が高くなりすぎて、硬化被膜の耐現像液性や耐エッチング液性が充分に得られなくなり、その結果、微細なレジストパターンの形成が困難になるおそれがある。
【0080】
また、カルボキシル基含有樹脂(B−1)の重量平均分子量が小さすぎる場合、乾燥被膜にタック性が生じ、乾燥被膜が形成された基板の、露光時等における取扱性が悪くなるおそれがあり、また硬化被膜の耐現像液性、耐エッチング液性が充分に得られなくなるおそれがある。一方、この重量平均分子量が大きすぎる場合、組成物の粘度が過剰に高くなり、この組成物中にカルボキシル基含有樹脂(B−1)が微分散することが困難となり、その結果、硬化被膜による微細なレジストパターンの形成が困難になるおそれがある。
【0081】
また、特にカルボキシル基含有樹脂(B−1)の酸価が200〜500であると共に重量平均分子量が200000〜6000000の範囲であれば、乾燥被膜のタック性が大きく低減すると共に、硬化被膜の可撓性が非常に優れたものとなる。
【0082】
カルボキシル基含有樹脂(B)がカルボキシル基含有樹脂(B−1)を含有する場合、カルボキシル基含有樹脂(B)中のカルボキシル基含有樹脂(B−1)の含有量は50〜100質量%の範囲であることが好ましい。このような範囲でカルボキシル基含有樹脂(B)がカルボキシル基含有樹脂(B−1)を含有すると、乾燥被膜を露光した後の非露光部分に更に高い現像性が付与され、また、乾燥被膜の基材との密着性が更に向上すると共に、被膜に更に高い柔軟性が付与される。
【0083】
また組成物全量に対するカルボキシル基含有樹脂(B)の含有量は、0.1〜10質量%の範囲となるようにする。この含有量が0.1質量%に満たないと乾燥被膜のタック性の低減、基板との密着性の向上、及び柔軟性の付与が充分になされなくなるおそれがあり、また10質量%を超えると組成物の粘度が過剰に高くなって、組成物中の重合性不飽和化合物(D)や光重合開始剤(E)の分散性が充分に向上されなくなるおそれがある。
【0084】
[アミン化合物(C)]
アミン化合物(C)としては適宜の化合物が使用される。アミン化合物(C)の具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類;トリエチルアミン、ジエチルアミン、モノエチルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジイソブチルアミン等のアルキルアミン類;ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール等のアルキルアルカノールアミン類;シクロヘキシルアミン等の脂環族アミン類;テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の有機アミンなどが挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは二種以上が併用される。これらの化合物のうち、特にトリエタノールアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール等の3級アミンが使用されることが好ましい。
【0085】
このアミン化合物(C)の組成物中の含有量は、この組成物中のカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)中に含まれるカルボキシル基1モルに対するアミン化合物(C)の当量が0.2〜1.0の範囲となる量であることが好ましい。前記アミン化合物(C)の当量が0.2に満たないと組成物の水溶性が低下すると共に保存安定性が低下するおそれがあり、またこの当量が1.0を超えると硬化被膜に耐現像液性が充分に付与されず微細パターンの形成が困難にあるおそれがある。また組成物全量に対するアミン化合物の含有量は1〜20質量%の範囲が好ましい。この含有量が1質量%に満たないと組成物の水溶性が低下すると共に保存安定性が低下するおそれがあり、またこの含有量が20質量%を超えると硬化被膜の耐現像液性が低下して微細パターンの形成が困難となるおそれがある。
【0086】
[重合性不飽和化合物(D)]
重合性不飽和化合物(D)としては適宜の化合物が使用される。この重合性不飽和化合物(D)の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、トリビニルベンゼン等の、1分子中にエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物が挙げられる。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは二種以上が併用される。
【0087】
組成物全量に対する重合性不飽和化合物(D)の含有量は、1〜20質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が1質量%に満たないと組成物の光重合性が低下し、レジストパターンの形成が困難となるおそれがある。またこの含有量が20質量%を超えると乾燥被膜にタック性が生じ、乾燥被膜が形成された基板の、露光時等における取扱性が悪くなるおそれがある。
【0088】
[光重合開始剤(E)]
光重合開始剤(E)としては適宜の化合物が使用される。この光重合開始剤(E)の具体例としては、ベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、ベンジルジメチルケタール等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルスルフィド等のベンゾフェノン類;2,4−ジイソプロピルキサントン等のキサントン類;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン等のα−ヒドロキシケトン類;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン等の窒素原子を含むもの;及び(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド等の、紫外線硬化用の光重合開始剤が挙げられる。また、可視光又は近赤外線露光用等の光重合開始剤(E)が使用されることにより組成物に可視光硬化性や近赤外線硬化性が付与されても良い。これらの化合物は一種単独で使用され、或いは二種以上が併用される。
【0089】
また、組成物中には、光重合開始剤(E)に加えて、p−ジメチル安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、2−ジメチルアミノエチルベンゾエート等の第三級アミン系等の公知の光重合促進剤や増感剤が含有されても良い。また、組成物中に例えばレーザ露光法用増感剤として7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン等のクマリン誘導体が含有されても良い。
【0090】
組成物中の光重合開始剤(E)の含有量は適宜調整されるが、組成物に付与される光硬化性と、硬化被膜に付与される物性とがバランス良く向上するためには、組成物全量に対する光重合開始剤(E)の含有量が0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0091】
[水(F)]
水(F)は組成物中の必須の成分である。組成物中の水(F)の含有量は適宜調整されるが、組成物全量に対する水(F)の含有量が30〜70質量%の範囲であることが好ましい。この範囲において、組成物の水系化による利点、すなわち組成物が基材に塗布された後、乾燥被膜が形成される過程における有機溶媒の揮発に起因する労働安全衛生、環境汚染、火災防止等の問題の低減を、充分に達成することができる。
【0092】
[任意成分]
組成物は、本発明の目的に反しない範囲で任意成分を含有しても良い。
【0093】
例えば組成物中には、水以外の有機溶媒等の溶媒を含有させても良い。この溶媒の含有量は、組成物全量に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0094】
この溶媒としては、水に易溶性の溶媒だけでなく、水に難溶性或いは非溶性の有機溶媒も使用され得る。使用可能な有機溶媒の具体例としては、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ダイアセトンアルコール等の直鎖、分岐、2級或いは多価のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリエチレングリコールアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル類、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のポリプロピレングリコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート等の酢酸エステル類;乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸エステル類;アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジブチル等のアジピン酸エステル類;フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル等のフタルエステル類;ジエチレングリコールジエチルエーテル等のジアルキルグリコールエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;スワゾールシリーズ(丸善石油化学社製)、ソルベッソシリーズ(エクソン・ケミカル社製)等の石油系芳香族系混合溶媒;n−ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で使用され、或いは二種以上が併用される。
【0095】
また、組成物中には、上記必須成分以外の光反応可能な基が導入された高分子化合物が含有されても良い。この高分子化合物の具体例としては、エチレン性不飽和基が導入された(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂等の重合体;(メタ)アクリル酸が付加されたビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等;前記樹脂等に更に飽和若しくは不飽和多塩基酸無水物が付加された樹脂;前記樹脂等のエマルション等が挙げられる。
【0096】
また、組成物中には、塗布性の調整やその他の目的のため、必要に応じてシリコーン、(メタ)アクリレート共重合体、フッ素系界面活性剤等のレベリング剤;アエロジル等のチクソトロピー剤;ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、tert−ブチルカテコール、フェノチアジン等の重合禁止剤;ハレーション防止剤;難燃剤;耐めっき性向上剤;消泡剤;酸化防止剤;顔料湿潤剤;有機もしくは無機の顔料及び染料;天然もしくは合成ゴムの粉末等の各種添加剤が含有されても良い。また組成物中には、分散安定性の向上のため、界面活性剤や高分子分散剤等が含有されても良い。
【0097】
また、組成物中には不活性固体粉末が含有されても良い。不活性固体粉末の具体例としては、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム、カオリン、炭酸カルシウム、フタロシアニン等の体質顔料又は着色顔料;ポリエチレン、ナイロン、ポリエステル等の有機重合体微粒子;アエロジル等の揺変剤などが挙げられる。特に組成物に体質顔料が含有されていると、硬化被膜がアルカリ性溶液で剥離される際の剥離性が向上する点で好ましい。
【0098】
[水系感光性樹脂組成物の製造]
水系感光性樹脂組成物は、上記各成分を配合し、混合することで製造される。この組成物の製造時には、カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)がアミン化合物(C)で中和された後、この中和されたカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)を含む水溶液に重合性不飽和化合物(D)と光重合開始剤(E)が加えられることが好ましい。
【0099】
更に具体的には、水系感光性樹脂組成物が次の工程(1)〜(6)を経ることで製造されることが好ましい。
【0100】
工程(1);まず、既述のような溶液重合法等の手法により、カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)を合成する。
【0101】
工程(2);工程(1)で調製されたカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)の有機溶媒溶液を混合して混合液を調製し、この混合液に所定量のアミン化合物(C)を加える。
【0102】
工程(3);工程(2)で調製された溶液を攪拌しながら、この溶液中に水(F)を加える。
【0103】
工程(4);工程(3)で調製された溶液から有機溶媒を減圧蒸留により除去し、アミン化合物(C)で中和されたカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)を含有する水溶液を調製する。減圧蒸留の条件は有機溶媒が充分に除去されると共に水溶液中に所定量の水(F)が含有されるように適宜調整されるが、例えば油回転式真空ポンプを用い、1kPaの減圧雰囲気下で減圧蒸留がなされるようにすることができる。
【0104】
工程(5);工程(1)〜(4)における水溶液の調製とは別に、重合性不飽和化合物(D)中に光重合開始剤(E)を溶解させた溶液を調製する。
【0105】
工程(6);工程(4)で調製された水溶液を高速で攪拌しながら、この水溶液中に工程(5)で調製された溶液を加えることで、水系感光性樹脂組成物が製造される。
【0106】
[水系感光性樹脂組成物の硬化物及びプリント配線板の製造]
本発明に係る水系感光性樹脂組成物は種々の用途に使用されるが、特にプリント配線板の導体配線パターン形成のために使用されることが好ましい。すなわち、本発明に係る水系感光性樹脂組成物はプリント配線板製造用のエッチングレジストインク、メッキレジストインク等のレジストインクとして使用され、この組成物から適宜のパターンを有する膜状の硬化物(レジスト被膜)が形成されることが好ましい。
【0107】
レジスト被膜の形成時には、例えばまず基板に水系感光性樹脂組成物が塗布された後、この水系感光性樹脂組成物が乾燥されて光硬化性の乾燥被膜が形成される。この乾燥被膜が適宜のパターン状に露光されることで露光部分が光硬化して硬化被膜が形成された後、基板上の被膜全体に水またはアルカリ性溶液による現像処理が施されることで非露光部分が除去される。これにより、基板上に残存する硬化被膜からなるレジスト被膜が形成される。このレジスト被膜は、基板に対してエッチング処理やメッキ処理が施された後、アルカリ性溶液で処理されることで基板から剥離される。
【0108】
水系感光性樹脂組成物を用いたエッチングレジスト被膜の形成を伴うプリント配線板の製造方法について、更に詳しく説明する。このプリント配線板は、例えば下記工程(1)から(4)を経ることで製造される。
【0109】
工程(1);水系感光性樹脂組成物が、外面に金属層を有する絶縁基板の前記金属層に塗布された後、乾燥されることで、光硬化性の乾燥被膜が形成される。
【0110】
絶縁基板としては、例えば紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、紙基材ポリエステル樹脂、ガラス基材エポキシ樹脂、ガラス基材テフロン(登録商標)樹脂、ガラス基材ポリイミド樹脂、コンポジット樹脂等で形成された合成樹脂基板;鉄、ステンレス、アルミニウム等から形成される金属板にエポキシ樹脂等による被覆が施されることで絶縁処理が施された金属系絶縁基板;アルミナセラミック、低温焼成セラミック、窒化アルミニウムセラミック等から形成されるセラミック基板などが挙げられる。また、フレキシブルプリント配線板が作製される場合には、絶縁基板としてポリイミドフィルム等のフレキシブルな絶縁基板が挙げられる。
【0111】
金属層は、この絶縁基板に積層された銅箔等の金属箔や銅めっき層等の金属めっき層等から形成される。また、フレキシブルな絶縁基板に対して、例えばメタライジング法、キャスティング法、ラミネート法等により、銅、アルミニウム、銀、金、鉄、ニッケル、クロム、並びにこれらの金属の合金等からなる金属層が形成されても良い。
【0112】
このような絶縁基板に形成された金属層の表面に、フォトエッチングレジストインク等として調製された水系感光性樹脂組成物が塗布される。水系感光性樹脂組成物の塗布は、例えば浸漬法、スプレー法、スピンコーター法、ロールコーター法、カーテンコーター法、スクリーン印刷法等の適宜の手法によりなされる。この水系感光性樹脂組成物が、例えば60〜120℃で乾燥されることで、乾燥被膜が形成される。
【0113】
工程(2);乾燥被膜が露光された後、水又は希アルカリ性溶液で現像されることで、所定のパターンを有するレジスト被膜が形成される。
【0114】
乾燥被膜の露光は、乾燥被膜の表面に例えば適宜のパターンが描画されたネガマスクが直接接触し、或いはこの乾燥被膜に対して間隔をあけて配置された状態で、このネガマスクを介して乾燥被膜に対してケミカルランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ又はメタルハライドランプの適宜の光源から紫外線が照射されることによってなされる。乾燥被膜における露光部分は硬化して、硬化被膜が形成される。
【0115】
露光後の被膜が水又は希アルカリ性溶液で処理されることにより現像され、被膜の非露光部分が除去される。希アルカリ性溶液としては、例えば炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液、炭酸水素アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等が使用される。また、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の有機アミンの水溶液が使用されても良い。これらの希アルカリ性溶液は一種単独で使用され、或いは複数種が混合されて使用される。この希アルカリ性溶液に含まれる溶媒は、水単独のみならず、例えば水と低級アルコール類等の親水性有機溶媒との混合物であっても良い。
【0116】
この現像処理後に金属層の表面に残存する硬化被膜によって、レジスト被膜(エッチングレジスト被膜)が形成される。
【0117】
工程(3);金属層におけるレジスト被膜による被覆がされていない部分がエッチング処理によって除去される。
【0118】
エッチング処理には公知の適宜の手法が採用され得る。例えば銅からなる金属層のうち、レジスト被膜により被覆されていない部分が、塩化第二鉄水溶液、塩化第二銅水溶液等のエッチング液により処理されることで除去される。
【0119】
工程(4);レジスト被膜がアルカリ性溶液で処理されることで剥離する。
【0120】
アルカリ性溶液としては、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液、炭酸水素アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などが使用される。また、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の有機アミンの水溶液が使用されても良い。これらのアルカリ性溶液は一種単独で使用され、或いは複数種が混合されて使用される。このアルカリ性溶液に含まれる溶媒は、水単独のみならず、例えば水と低級アルコール類等の親水性有機溶媒との混合物であっても良い。
【0121】
以上のように本発明に係る水系感光性樹脂組成物は、プリント配線板の製造、特にフレキシブルプリント配線板の製造に好適に使用されるが、それ以外にも例えばリードフレームの製造、グラビアロール彫刻等の種々の用途にも適用され得る。
【実施例】
【0122】
下記に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、下記に示される「部」及び「%」は、全て質量基準である。
【0123】
また、重量平均分子量は、昭和電工株式会社製のGPC測定装置(SHODEX SYSTEM 11)を用い、次の条件で行った。
・カラム:SHODEX KF−800P、KF−805、KF−803、KF−801の、4本直列・移動層:THF(テトラヒドロフラン)
・流量:1ml/分
・カラム温度:45℃
・検出器:RI
・換算:ポリスチレン
【0124】
〔合成例1〕
(共重合反応)
還流冷却器、温度計、窒素置換用ガラス管及び攪拌機を取付けた四ツ口フラスコに、メタクリル酸25部、メチルメタクリレート105部、n−ブチルメタクリレート50部、スチレン20部、ラウリルメルカプタン0.5部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4部、エタノール200部を加え、窒素気流下に加熱し、65℃において5時間重合を行い共重合溶液を得た。
【0125】
(付加反応)
上記共重合溶液に、ハイドロキノン0.05部、グリシジルメタクリレート29部、ジメチルベンジルアミン0.2部を加え、75℃で24時間付加反応を行い、重量平均分子量15000、酸価が20である、カルボキシル基含有樹脂溶液を得た。
【0126】
(水分散液の調製)
上記溶液に、ジエチルエタノールアミン6部を加え攪拌し、イオン交換水360部を加えさらに30分攪拌し均一な溶液を得た。この溶液をエバポレータを用いて40℃、3時間の条件で減圧蒸留することにより有機溶剤であるエタノールを除去し、カルボキシル基含有樹脂の水分散液(A−1−1)を得た。ジエチルエタノールアミンによるカルボキシル基含有樹脂の中和率は60%であり、またこの水分散液(A−1−1)の樹脂固形分量は40質量%である。また、この水分散液(A−1−1)についてガスクロマトグラフィーにて測定したところ有機溶媒(エタノール)の含有率は1.1質量%であった。
【0127】
〔合成例2〜5〕
合成例1において、原料成分及びその使用量を表1に示すように変更し、それ以外は合成例1と同様にして、表1に示す重量平均分子量及び酸価を有するカルボキシル基含有樹脂の水分散液(A−1−2)〜(A−1−5)を調製した。これらの水分散液(A−1−2)〜(A−1−5)の樹脂固形分量、カルボキシル基含有樹脂の中和率、並びに有機溶媒含有量は表1に示す通りである。
【0128】
〔合成例6〕
(共重合反応)
還流冷却器、温度計、窒素置換用ガラス管及び攪拌機を取付けた四ツ口フラスコに、メチルメタクリレート10部、スチレン10部、グリシジルメタクリレート180部、ラウリルメルカプタン1.5部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)5部、メチルエチルケトン200部を加え、窒素気流下に加熱し、65℃において5時間重合を行い共重合溶液を得た。
【0129】
(付加反応)
この共重合溶液に、ハイドロキノン0.05部、アクリル酸91部、ジメチルベンジルアミン0.2部を加え、75℃で24時間付加反応を行い、続いて無水トリメリット酸102部を加えて、75℃で8時間反応させて、重量平均分子量3000、酸価が150である、カルボキシル基含有樹脂溶液を得た。
【0130】
(水分散液の調製)
このカルボキシル基含有樹脂溶液に、トリエチルアミン54部を加え攪拌し、イオン交換水302部を加えてさらに30分攪拌して均一な溶液を得た。この溶液をエバポレータを用いて40℃、3時間の条件で減圧蒸留することにより有機溶剤であるメチルエチルケトンを除去し、カルボキシル基含有樹脂の水分散液(A−2−1)を得た。トリエチルアミンによるカルボキシル基含有樹脂の中和率は50%であり、またこの水分散液(A−2−1)の樹脂固形分量は60質量%である。また、この水分散液(A−2−1)についてガスクロマトグラフィーにて測定したところ有機溶媒(メチルエチルケトン)の含有率は0.01質量%であった。
【0131】
〔合成例7〜10〕
合成例6において、原料成分及びその使用量を表1に示すように変更し、それ以外は合成例6と同様にして、表1に示す重量平均分子量及び酸価を有するカルボキシル基含有樹脂の水分散液(A−2−2)〜(A−2−5)を調製した。これらの水分散液(A−2−2)〜(A−2−5)の樹脂固形分量、カルボキシル基含有樹脂の中和率、並びに有機溶媒含有量は表1に示す通りである。
【0132】
〔合成例11〕
(共重合反応)
還流冷却器、温度計、窒素置換用ガラス管及び攪拌機を取付けた四ツ口フラスコに、メタクリル酸25部、メチルメタクリレート94部、n−ブチルメタクリレート60部、スチレン20部、テトラエチレングリコールジアクリレート1部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)2部、エタノール200部を加え、窒素気流下に加熱し、65℃において5時間重合を行い、重量平均分子量120000、酸価が80である、カルボキシル基含有樹脂溶液を得た。
【0133】
(水分散液の調製)
上記溶液に、ジエチルエタノールアミン24部を加え攪拌し、イオン交換水527部を加えさらに30分攪拌し均一な溶液を得た。この溶液をエバポレータを用いて40℃、3時間の条件で減圧蒸留することにより有機溶剤であるエタノールを除去し、カルボキシル基含有樹脂の水分散液(B−1−1)を得た。ジエチルエタノールアミンによるカルボキシル基含有樹脂の中和率は70%であり、またこの水分散液(B−1−1)の樹脂固形分量は30質量%である。また、この水分散液(B−1−1)についてガスクロマトグラフィーにて測定したところ有機溶媒(エタノール)の含有率は1.5質量%であった。
【0134】
〔合成例12〜17〕
合成例11において、原料成分及びその使用量を表1に示すように変更し、それ以外は合成例11と同様にして、表1に示す重量平均分子量及び酸価を有するカルボキシル基含有樹脂の水分散液(B−1−2)〜(B−1−7)を調製した。これらの水分散液(B−1−2)〜(B−1−7)の樹脂固形分量、カルボキシル基含有樹脂の中和率、並びに有機溶媒含有量は表1に示す通りである。
【0135】
【表1】

【0136】
表1中の各成分の詳細は次の通りである。
【0137】
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
MMA:メチルメタクリレート
BMA:n−ブチルメタクリレート
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
DEAA:N,N−ジエチルアクリルアミド
EGDA:テトラエチレングリコールジアクリレート
GMA:グリシジルメタクリレート
ABN−V:2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(株式会社日本ファインケム製の重合開始剤、商品名ABN−V)
MEK:メチルエチルケトン
HQ:ハイドロキノン
DMBA:ジメチルベンジルアミン
SA:無水コハク酸
【0138】
〔実施例1〜14、比較例1〜4〕
上記各合成例で得られたカルボキシル基含有樹脂の水分散液を60℃に保持すると共にホモミキサーにて攪拌しながら、このカルボキシル基含有樹脂の水分散液に表2に示す重合性不飽和化合物、光重合開始剤、染料及び添加剤を加えた後、30分間攪拌することにより、水系感光性樹脂組成物を調製した。
【0139】
【表2】

【0140】
表2中の各成分の詳細は次の通りである。
【0141】
重合性不飽和化合物A:トリメチロールプロパンEO変性(3モル)トリアクリレート
重合性不飽和化合物B:ペンタエリスリトールEO変性(4モル)テトラアクリレート
光重合開始剤A:2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン
光重合開始剤B:2,4−ジエチルチオキサントン
光重合開始剤C:(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド
染料:大日本インキ化学工業株式会社製の着色剤(商品名ディスパースブルーユニ614)
添加剤A:ビックケミー社製の表面調整剤(商品名BYK−348)
【0142】
〔評価試験〕
各実施例及び比較例で得られた水系感光性樹脂組成物をフォトエッチングレジストインクとして用い、このフォトエッチングレジストインクを用いて作製されるプリント配線板の性能を確認するため、順次下記I〜VIの工程によりテストピースを作製した。
【0143】
I.塗布工程
各実施例及び比較例の水系感光性樹脂組成物を、ポリイミド無接着剤銅張積層板(宇部興産社製の商品名「ユピセルN」;膜厚25μm、電解銅厚8μm)の上に、バーコータにより塗布した。
【0144】
II.乾燥工程
塗布工程の後、基板表面の塗膜を100℃で10分間加熱することにより乾燥し、膜厚10μmの乾燥被膜を形成した。
【0145】
III.露光工程
次いで、オーク製作所製の減圧密着型両面露光機「ORC HMW680GW」にて、
線幅及び線間が共に幅20μmの同心円状に構成されるパターンを描いたマスクを乾燥被膜表面に直接当てがい、このマスクを介して乾燥被膜に表3に示す露光量の紫外線を照射して、基板表面上の乾燥被膜の選択的露光を行った。
【0146】
尚、表3に示す紫外線の露光量は、日立化成工業社製の露光用テストマスク「ステップタブレットPHOTEC21段」を前記と同じ条件で形成された乾燥被膜に直接当てがうと共に減圧密着させた状態で紫外線を照射し、続いて現像液として1%炭酸ナトリウム水溶液を用いて現像した場合に、残存ステップ段が7段となるような紫外線の露光量である。この露光量は、予備試験により各水系感光性樹脂組成物ごとに導出された値である。
【0147】
IV.現像工程
露光工程後の基板を現像液(30℃の1%炭酸ナトリウム水溶液)で処理することにより、乾燥被膜の非露光部分を除去し、基板上に残存するパターン状の硬化被膜によってレジスト被膜を形成した。
【0148】
V.エッチング工程
現像工程後の基板を40℃の塩化第二鉄エッチング液で処理することにより、基板上の銅箔のうち、レジスト被膜で被覆されていない部分をエッチング除去した。
【0149】
VI.剥離工程
エッチング工程後の基板を40℃の3%水酸化ナトリウム水溶液で処理することによりレジスト被膜を除去し、テストピース(プリント配線板)を作製した。
【0150】
(鉛筆硬度)
上記乾燥工程で形成された乾燥被膜の鉛筆硬度を、三菱ハイユニ(三菱鉛筆社製)を用いて、JIS K―5600−5−4−1999に準拠して測定した。
【0151】
(密着性)
JIS D 0202の試験方法に準拠し、上記乾燥工程で形成された乾燥被膜に碁盤目状にクロスカットを入れ、次いでセロハン粘着テープによるピーリング試験後の剥がれの状態を目視により観察し、次の基準に従って評価した。
◎:クロスカット部分に剥離が生じなかった。
○:テープ剥離時にクロスカット部分に一部剥離が生じた。
×:クロスカット試験をするまでもなく、レジスト被膜に膨れ又は剥離が生じた。
【0152】
(タック性)
上記乾燥工程によって乾燥被膜が形成された基板同士を重ねることにより乾燥被膜同士を接触させ、この基板の積層方向に98kPa(1kgf/cm2)の荷重をかけた状態で、この基板を25℃、55%RHの雰囲気下で1週間放置した。前記処理後、基板同士を分離し、この基板の乾燥被膜の外観を100倍の顕微鏡で観察し、乾燥被膜の剥がれや表面状態の異常を確認した。その結果に基づき、次の基準により乾燥被膜のタック性を評価した。
◎:乾燥被膜に剥離がなく、接触跡も認められない。
○:乾燥被膜の表面に接触跡が認められる。
×:乾燥被膜に剥離が生じる。
【0153】
(乾燥被膜の屈曲性)
上記乾燥工程によって乾燥被膜が形成された基板を、乾燥被膜が外側に向くように180゜折り曲げし、この乾燥被膜の折り曲げ部分を50倍の光学顕微鏡で観察し、亀裂の有無を確認した。その結果に基づき、次の基準により乾燥被膜の屈曲性を評価した。
◎:亀裂が全く認められない。
○:僅かな亀裂が認められる。
×:多数の亀裂が認められる。
【0154】
(乾燥被膜の屈曲後の密着性)
上記乾燥工程によって乾燥被膜が形成された基板を、乾燥被膜が外側に向くように180゜折り曲げ、この乾燥被膜の折り曲げ部分に対して、セロハン粘着テープによるピーリング試験を行った。試験後の乾燥被膜の折り曲げ部分における剥がれの有無を目視で観察し、次の基準により乾燥被膜の屈曲後の密着性を評価した。
◎:剥離が全く認められない。
○:僅かな剥離が認められる。
×:多数の剥離が認められる。
【0155】
(レジスト被膜の屈曲性)
上記現像工程によってレジスト被膜が形成された基板を、レジスト被膜が外側になるように180゜折り曲げ、折り曲げ部分のレジスト被膜の外観を50倍の光学顕微鏡で観察して、亀裂の有無を観察した。この結果に基づき、レジスト被膜の屈曲性を次の基準により評価した。
◎:亀裂が全く認められない。
○:僅かな亀裂が認められる。
×:多数の亀裂が認められる。
【0156】
(レジスト被膜の屈曲後の密着性)
上記現像工程によってレジスト被膜が形成された基板を、レジスト被膜が外側になるように180゜折り曲げた後、このレジスト被膜の折り曲げ部分に対して、セロハン粘着テープによるピーリング試験を行った。試験後のレジスト被膜の折り曲げ部分における剥がれの有無を目視で観察し、次の基準によりレジスト被膜の屈曲後の密着性を評価した。
◎:剥離が全く認められない。
○:僅かな剥離が認められる。
×:多数の剥離が認められる。
【0157】
(解像性)
上記テストピースに形成された導体配線の外観を観察し、次の基準により解像性を評価した。
◎:導体配線が明確な同心円状のパターン形状を有する。
○:導体配線が同心円状のパターン形状を有するが、導体配線の一部が欠落している。
×:導体配線が同心円状のパターン形状を有しない。
【0158】
(耐エッチング液性)
エッチング工程後のレジスト被膜を観察し、次の基準により耐エッチング液性(耐酸性)を評価した。
◎:レジスト被膜の外観に異常が認められない。
○:僅かな外観の変化が認められる。
×:レジスト被膜に剥離が認められる。
【0159】
(アルカリ剥離性)
剥離工程後の基板表面を観察し、次の基準によりレジスト被膜のアルカリ剥離性を評価した。
◎:基板上にレジスト被膜の残存が認められない。
○:基板上にレジスト被膜の僅かな残存が認められる。
×:基板上にレジスト被膜が除去されず残存している。
【0160】
以上の各評価試験の結果を表3に示す。
【0161】
【表3】

【0162】
このように実施例1〜14では、得られたレジスト及びプリント配線板が優れた諸特性を有し、特に基板に対する密着性、可撓性、乾燥被膜の離型性に優れるものであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性不飽和結合を有するカルボキシル基含有樹脂、
(B)重量平均分子量100000〜10000000の、重合性不飽和結合を有しないカルボキシル基含有樹脂、
(C)アミン化合物、
(D)重合性不飽和化合物、
(E)光重合開始剤及び
(F)水を含有し、
前記カルボキシル基含有樹脂(A)の含有量が組成物全量に対して10〜60質量%であり、
前記カルボキシル基含有樹脂(B)の含有量が組成物全量に対して0.1〜10質量%であることを特徴とする水系感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有樹脂(A)が重合性不飽和結合を有するカルボキシル基含有樹脂(A−1)を含み、
前記カルボキシル基含有樹脂(A−1)は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物(a)と、カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和化合物(b)との重合反応により生成する重合体中のカルボキシル基の一部と、エポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物(c)とが反応することにより生成することを特徴とする請求項1に記載の水系感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有樹脂(A−1)の酸価が20〜500の範囲、重量平均分子量が10000〜100000の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の水系感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有樹脂(A)が重合性不飽和結合を有するカルボキシル基含有樹脂(A−2)を含み、
前記カルボキシル基含有樹脂(A−2)は、エポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物(d)と、エポキシ基を有さないエチレン性不飽和化合物(e)との重合反応により生成する重合体中のエポキシ基と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物(f)とが反応し、この反応で生成する水酸基と酸無水物(g)とが反応することにより生成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水系感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記カルボキシル基含有樹脂(A−2)の酸価が20〜500の範囲、重量平均分子量が1000〜50000の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の水系感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記カルボキシル基含有樹脂(B)がカルボキシル基含有樹脂(B−1)を含み、
前記カルボキシル基含有樹脂(B−1)は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物(h)と、カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和化合物(i)との重合反応により生成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の水系感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記カルボキシル基含有樹脂(B−1)の酸価が50〜800の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の水系感光性樹脂組成物。
【請求項8】
前記カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)が、アミン化合物(C)で中和されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の水系感光性樹脂組成物。
【請求項9】
前記アミン化合物(C)が3級アミンを含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の水系感光性樹脂組成物。
【請求項10】
前記アミン化合物(C)の含有量が、カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)中に含まれるカルボキシル基1モルに対して、0.2〜1.0当量の範囲であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の水系感光性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の水系感光性樹脂組成物の製造方法であって、
カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)がアミン化合物(C)で中和され、この中和されたカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)を含む水溶液に重合性不飽和化合物(D)と光重合開始剤(E)とが加えられる工程を含むことを特徴とする水系感光性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の水系感光性樹脂組成物の製造方法であって、下記工程(1)から(6)を含むことを特徴とする水系感光性樹脂組成物の製造方法。
(1)有機溶媒中でカルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)を合成する工程
(2)前記工程(1)で調製された前記カルボキシル基含有樹脂(A)及びカルボキシル基含有樹脂(B)の有機溶媒溶液を混合し、この混合液にアミン化合物(C)を加える工程
(3)前記工程(2)で調製された溶液を攪拌しながら、この溶液中に水(F)を加える工程
(4)前記工程(3)で調製された溶液から有機溶媒を減圧蒸留により除去する工程
(5)重合性不飽和化合物(D)中に光重合開始剤(E)を溶解させる工程
(6)前記工程(4)で調製された水溶液を攪拌しながら、この水溶液中に前記工程(5)で調製された溶液を加える工程
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の水系感光性樹脂組成物を使用してプリント配線板を製造する方法であって、下記工程(1)から(4)を含むことを特徴とするプリント配線板の製造方法。
(1)請求項1乃至10のいずれか一項に記載の水系感光性樹脂組成物が、外面に金属層を有する絶縁基板の前記金属層に塗布された後、乾燥されることで、光硬化性の乾燥被膜が形成される工程
(2)前記光硬化性被膜が露光された後、水又は希アルカリ性溶液で現像されることで、所定のパターンを有するレジスト被膜が形成される工程
(3)前記金属層における前記レジスト被膜による被覆がされていない部分がエッチング処理によって除去される工程
(4)前記レジスト被膜がアルカリ性溶液で処理されることで剥離する工程

【公開番号】特開2009−300532(P2009−300532A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152181(P2008−152181)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000166683)互応化学工業株式会社 (57)
【Fターム(参考)】