説明

液晶装置、液晶装置の駆動方法及び電子機器

【課題】液晶層の電荷の偏りを減らす。
【解決手段】本発明の液晶装置は、画素電極35と、スイッチング素子34と、対向電極82と、液晶層28と、第1配向膜71と、第1配向膜71と画素電極35との間に設けられた酸化シリコンからなる誘電体層70と、液晶層28と対向電極82との間に、対向電極82と当接して設けられた第2配向膜83と、を備える。画素電極35にスイッチング素子34を介して対向電極電位に対する高電位と低電位とが交互に印加される。画素電極35に高電位が印加されているときのスイッチング素子34の寄生容量による画素電極35の電位の変化量と、画素電極35に低電位が印加されているときの寄生容量による画素電極35の電位の変化量との平均値の分だけ、高電位と低電位との平均電位をシフトさせた電位を基準電位としたときに、対向電極電位が、基準電位よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置、液晶装置の駆動方法及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、画素電極と対向電極との間に液晶層が配置された液晶装置が知られている。画素電極は、薄膜トランジスター(以下、TFTという)等のスイッチング素子と電気的に接続されている。スイッチング素子は、走査線からの走査信号の入力によりオンオフが制御される。スイッチング素子は、オン状態のときにデータ線からの電圧を画素電極に印加する。この電圧により画素電極と対向電極との間に電界が印加され、この電界により液晶層が駆動される。
【0003】
通常の液晶装置では、液晶層が交流駆動されている。液晶層を交流駆動するには、例えば、対向電極を所定の対向電極電位に保持しておき、連続する2フレームの期間で画素電極の電位を対向電極電位に対する高電位(正極性)と低電位(負極性)とに切替える。このようにすれば、液晶層に対する印加電界の向きが反転するので、液晶層の電荷の偏りを減らすことができる。
【0004】
電荷の偏りを減らすと、電荷の偏りにより液晶層に印加される直流電圧成分を減らすことができ、表示不具合の発生を抑制することができる。すなわち、正負極性の電気量のバランスが直流電圧成分により崩れることが抑制され、正負極性の期間で液晶装置の透過率が変化することに起因する表示画像のちらつき(フリッカー)を生じにくくなる。また、直流電圧成分により液晶層に定常的に電界が印加されることに起因する定常的なパターンの表示(焼付き)を生じにくくなる。
【0005】
ところで、対向電極電位と高電位との電位差を、対向電極電位と低電位との電位差と同じにして液晶装置を駆動すると、直流電圧成分が発生してしまうことが知られている。この直流電圧成分は、下記の2つの現象に起因して発生すると考えられる。第1の現象は、スイッチング素子がオン状態からオフ状態に切替わるときに、チャネル領域の電荷が分配されて画素電極が充電されることにより、画素電極の電位が変動する現象(フィールドスルー)である。第2の現象は、液晶層の画素電極側と対向電極側とで電気特性が非対称であることにより、電荷の偏りを生じる現象である。
【0006】
1つ目の現象による直流電圧成分の発生については、スイッチング素子の寄生容量に起因する画素電極の電位の変動量を予め測定あるいは推定しておき、この変動量による正負極性の電気量の変動を打ち消すように対向電極電位を設定すれば、解消可能である。
2つ目の現象による直流電圧成分の発生を解消する技術として、特許文献1に開示されている技術が挙げられる。
【0007】
特許文献1の液晶装置は、第1の無機配向膜と第2の無機配向膜の間に挟持された傾斜垂直配向モードの液晶、および電圧印加手段を備えている。第2の無機配向膜の厚みは、第1の無機配向膜の厚みよりも厚くなっている。電圧印加手段は、第1の無機配向膜側を第1の電位に、第2の無機配向膜側を第1の電位より低い第2の電位にするような所定の電圧を印加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−219356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の技術にあっては、第1の無機配向膜側と第2の無機配向膜側とで電位を異ならせることで、第1の無機配向膜側と第2の無機配向膜側との厚みの違いによる電荷の偏りを緩和する効果が期待される。しかしながら、電荷の偏りを生じる要因は、第1の無機配向膜側と第2無機配向膜側の厚みの違い以外にも考えられるので、液晶装置の構成に応じて直流電圧成分を効果的に減らす観点で、特許文献1の技術には改善の余地がある。
本発明は、上記の事情に鑑み成されたものであって、液晶層に対する電荷の偏りを低減可能な液晶装置、液晶装置の駆動方法及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記の目的を達成するために以下の手段を採用している。
本発明の液晶装置は、画素電極と、前記画素電極に電気的に接続されたスイッチング素子と、前記画素電極に対向配置されて対向電極電位が印加される対向電極と、前記画素電極と前記対向電極との間に設けられた液晶層と、前記液晶層と前記画素電極との間に設けられた第1配向膜と、前記第1配向膜と前記画素電極との間に設けられた酸化シリコンからなる誘電体層と、前記液晶層と前記対向電極との間に、前記対向電極と当接して設けられた第2配向膜と、を備え、前記画素電極に前記スイッチング素子を介して前記対向電極電位に対する高電位と低電位とが交互に印加され、前記画素電極に前記高電位が印加されているときの前記スイッチング素子の寄生容量による前記画素電極の電位の変化量と、前記画素電極に前記低電位が印加されているときの前記寄生容量による前記画素電極の電位の変化量との平均値の分だけ、前記高電位と前記低電位との平均電位をシフトさせた電位を基準電位としたときに、前記対向電極電位が、前記基準電位よりも低いことを特徴とする。
【0011】
このように画素電極と第1配向膜との間に誘電体層が設けられており、対向電極と第2配向膜との間に誘電体層が設けられていない構成では、対向電極側に電荷が蓄積されやすい。本発明では、対向電極電位が基準電位よりも低いので、対向電極に基準電位が印加される場合と比較して、画素電極に高電位が印加されているときの対向電極電位に対する画素電極の電位差の絶対値が高くなる。同様に、画素電極に低電位が印加されているときの対向電極電位に対する画素電極の電位差の絶対値が低くなる。したがって、液晶層の対向電極側から画素電極側に移動する電荷を増すとともに、液晶層の画素電極側から対向電極側に移動する電荷を減らすことができる。よって、誘電体層に起因する電荷の偏りを打ち消すように電荷を移動させることができ、この電荷の偏りを減らすことができる。
【0012】
基準電位は、高電位が印加されているときのスイッチング素子の寄生容量による画素電極の電位の変化量と、低電位が印加されているときの寄生容量による画素電極の電位の変化量との平均値の分だけ平均電位をシフトさせた電位であるので、対向電極に基準電位を印加すると、フィールドスルーに起因する電荷の偏りを回避することができる。このような基準電位に対して、上記のように対向電極電位が設定されているので、フィールドスルーに起因する電荷の偏り、および誘電体層に起因する電荷の偏りを、いずれも減らすことができる。このように、本発明の液晶装置にあっては、電荷の偏りが低減されているのでフリッカーや焼付きの発生が抑制される。
【0013】
本発明に係る液晶装置では、前記誘電体層は、前記液晶層よりも厚みが薄く、かつ、前記液晶層よりも比抵抗が高いとよい。
このようにすれば、液晶層に印加される電界が誘電体層に妨げられにくくなる。
【0014】
本発明に係る液晶装置では、前記画素電極がアルミニウムからなり、前記対向電極がインジウム錫酸化物からなるとよい。
このようにすれば、反射型の液晶装置を構成することができ、画素の開口率を向上させることや、液晶装置の薄型化等が実現可能になる。
【0015】
本発明に係る液晶装置では、前記誘電体層の厚みが75nmのときに、前記対向電極電位と前記高電位との電位差の絶対値に対する前記対向電極電位と前記低電位との電位差の絶対値の比率が46.5/53.5以上49.5/50.5以下の範囲に設定されているとよい。
このようにすれば、誘電体層に起因する電荷の偏りを効果的に減らすことができる。
【0016】
本発明の液晶装置の駆動方法は、画素電極と、前記画素電極に電気的に接続されたスイッチング素子と、前記画素電極に対向配置されて対向電極電位が印加される対向電極と、前記画素電極と前記対向電極との間に設けられた液晶層と、前記液晶層と前記画素電極との間に設けられた第1配向膜と、前記第1配向膜と前記画素電極との間に設けられて酸化シリコンからなる誘電体層と、前記液晶層と前記対向電極との間に、前記対向電極と当接して設けられた第2配向膜と、を備えた液晶装置の駆動方法であって、前記画素電極に前記スイッチング素子を介して前記対向電極電位に対する高電位と低電位とを交互に印加し、前記画素電極に前記高電位が印加されているときの前記スイッチング素子の寄生容量による前記画素電極の電位の変化量と、前記画素電極に前記低電位が印加されているときの前記寄生容量による前記画素電極の電位の変化量との平均値の分だけ、前記高電位と前記低電位との平均電位をシフトさせた電位を基準電位としたときに、前記対向電極電位を前記基準電位よりも低くすることを特徴とする。
【0017】
このようにすれば、上記のように対向電極電位が設定されているので、フィールドスルーに起因する電荷の偏り、および誘電体層に起因する電荷の偏りを、いずれも減らすことができる。
【0018】
本発明の電子機器は、上記の本発明の液晶装置を備えることを特徴とする。
本発明の液晶装置にあってはフリッカーや焼付きの発生が抑制されているので、本発明の電子機器は、高品質な画像を表示可能なものになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る液晶装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】液晶パネルの概略構成を示す平面図である。
【図3】液晶パネルの回路構成を示す図である
【図4】液晶パネルの断面構造を拡大して模式的に示す図である。
【図5】駆動電圧および対向電極電位の説明図である。
【図6】誘電体層の有無による最適基準電位への影響を示すグラフである。
【図7】対向電極電位の決定方法を示す説明図である。
【図8】電子機器の一例であるプロジェクターの概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。説明に用いる図面において、特徴的な部分を分かりやすく示すために、図面中の構造の寸法や縮尺を実際の構造に対して異ならせている場合がある。また、実施形態において同様の構成要素については、同じ符号を付して図示し、その詳細な説明を省略する場合がある。なお、本発明の技術範囲は下記の実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない範囲内で多様な変形が可能である。
【0021】
図1は、本発明に係る液晶装置の概略構成を示すブロック図、図2は液晶パネルの概略構成を示す平面図、図3は液晶パネルの回路構成を示す図である。
【0022】
図1に示す液晶装置1は、液晶パネル2、電圧生成回路10、および処理回路11を備えている。液晶パネル2は、例えばアクティブマトリクス駆動の反射型液晶パネルであり、その詳細な構成については後述する。
【0023】
電圧生成回路10は、DC/DCコンバーターなどを含んで構成される。電圧生成回路10は、処理回路11に制御されて、下記のように動作する。電圧生成回路10は、液晶装置1の各部で使用する複数レベルの直流電圧を生成する。電圧生成回路10は、液晶パネル2の対向電極に印加される対向電極電位VCOMを生成し、液晶パネル2に供給する。電圧生成回路10が、上記の各種電圧を生成する上で必要な電力は、例えば液晶装置1の内部または外部の電源から供給される。
【0024】
処理回路11は、データ信号Vidの出力に合わせて液晶パネル2の動作等を制御する回路モジュールにより構成される。処理回路11は、例えばFPC(Flexible Printed Circuit)基板によって液晶パネル2と接続されている。
【0025】
処理回路11は、制御回路12、表示データ処理回路13、クロック発生回路14、フレームメモリー15、およびDAコンバーター16を含んでいる。制御回路12には、タイミング信号発生回路17が内蔵されており、タイミング信号発生回路17には、クロック発生回路14が附属している。制御回路12は、タイミング信号発生回路17、表示データ処理回路13、および電圧生成回路10を制御する。
【0026】
クロック発生回路14は、各部の制御動作の基準となるクロック信号を生成してタイミング信号発生回路17に出力する。タイミング信号発生回路17は、外部装置(図示省略)から供給される垂直同期信号V、水平同期信号Hおよびドットクロック信号Dclkに同期して液晶パネル2を制御するための各種の制御信号を生成する。タイミング信号発生回路17は、上記の制御信号として生成した制御信号Ctrl−x、トリガー信号D、クロック信号Clyを液晶パネル2へ入力する。
【0027】
表示データ処理回路13には、フレームメモリー15およびDAコンバーター16が附属している。表示データ処理回路13は、制御回路12に制御されて、下記のように動作する。表示データ処理回路13は、外部装置から供給される表示データVideoをフレームメモリー15に記憶する。表示データ処理回路13は、液晶パネル2の駆動に同期して表示データVideoをフレームメモリー15から読み出すとともに、DAコンバーター16によって表示データVideoをアナログのデータ信号Vid(駆動電圧)に変換する。なお、表示データVideoは、液晶パネル2における画素の階調を規定しており、垂直同期信号Vの供給タイミングを契機として1フレーム分供給されるとともに、水平同期信号Hの供給タイミングを契機として1行分供給される。
【0028】
本実施形態における垂直同期信号Vは、周波数120Hz(周期8.33ミリ秒)とするが、本発明の適用範囲は垂直同期信号Vの周波数に限定されない。ドットクロック信号Dclkについては、表示データVideoのうち、1画素分が供給される期間を規定するものとする。つまり、制御回路12は、表示データVideoの供給に同期して各部を制御している。
【0029】
図2に示すように、液晶パネル2は、素子基板20および対向基板21を有している。液晶パネル2の中央部は表示領域2Aになっている。表示領域2Aの周辺部は、黒表示領域2Bになっている。表示領域2Aには、複数の画素が正方格子状に配列されている。ここでは、表示領域2Aに1920×1080個の画素が配列されているとして説明するが、本発明の適用範囲は、液晶パネル2の画素数に限定されない。以下の説明では、1920個の画素が並ぶ方向を水平走査方向、1080個の画素が並ぶ方向を垂直走査方向という場合がある。
【0030】
素子基板20には、水平走査方向に略平行な複数の走査線22が設けられている。素子基板20には、垂直走査方向に略平行な複数のデータ線23が設けられている。走査線22とデータ線23は、素子基板20のうちで互いに異なる層に設けられており、互いに導通しないようになっている。走査線22とデータ線23とに囲まれる各領域が1つの画素になっている。ここでいう画素は、光を変調する変調要素の最小単位のことであり、2以上の基本色の加法混色によりカラー画像を表示する場合には、サブ画素と呼ばれることもある。走査線22とデータ線23との各交差点付近に、各画素と1対1で対応するスイッチング素子が設けられている。スイッチング素子は、TFTにより構成されている。
【0031】
黒表示領域2Bの周辺部に、黒表示領域2Bを囲むように第1シール材24および第2シール材25が設けられている。対向基板21は、素子基板20と第1シール材24により貼り合わされている。第1シール材24は、開口を有しており、第2シール材25は、この開口を塞ぐように設けられている。素子基板20と対向基板21との間の第1シール材24に囲まれる領域には、図示略の液晶層が注入されている。この領域に液晶層が注入された後に第1シール材24の開口を第2シール材25により塞ぐことによって、液晶層が素子基板20と対向基板21との間に封止される。
【0032】
表示領域2Aの外側において、素子基板20と対向基板21とが重ね合わされる領域、ここでは対向基板21の4隅付近に基板間導通端子部26が設けられている。電圧生成回路10により生成された対向電極電位VCOMは、素子基板20に供給され、基板間導通端子部26を介して対向基板21に供給される。
【0033】
表示領域2Aの外側には、後述する走査線駆動回路(図示略)およびデータ線駆動回路(図示略)が設けられている。複数の走査線22は、走査線駆動回路と電気的に接続されている。複数のデータ線23は、データ線駆動回路と電気的に接続されている。素子基板20の周縁部には、接続端子部27が設けられている。接続端子部27には、図示略の複数の接続端子が設けられている。各接続端子の一端は、引き回し配線等により走査線駆動回路またはデータ線駆動回路と電気的に接続されている。各接続端子の他端は、上記のFPC基板を介して処理回路11と電気的に接続されている。走査線駆動回路およびデータ線駆動回路は、素子基板20に設けられた実装端子部に実装されている。
【0034】
図3に示すように走査線駆動回路31には、上記のタイミング信号発生回路17により生成されたトリガー信号Dおよびクロック信号Clyが入力される。トリガー信号Dは各フレームの開始タイミングを規定する信号である。クロック信号Clyは、各フレームの期間のうちで各走査線に走査信号を供給するタイミングを規定する信号である。走査線駆動回路31は、トリガー信号Dおよびクロック信号Clyに基づいて、複数の走査線22に線順次で走査信号G1〜G1080を供給する。走査線22に走査信号が供給されると、この走査線22に接続されたスイッチング素子34がオンになる。
【0035】
データ線駆動回路32は、サンプリング信号出力回路33と、データ線23にそれぞれ対応して設けられたnチャネル型のTFTとによって構成される。データ線駆動回路32は、選択された走査線22に接続された画素に、この画素の階調を規定する階調データを供給する。データ信号Vidは、例えば1本の走査線22に接続された各画素用の階調データを含む直列データとして、データ線駆動回路32に入力される。
【0036】
サンプリング信号出力回路33には、タイミング信号発生回路17により生成された制御信号Ctrl−xが入力される。サンプリング信号出力回路33は、制御信号Ctrl−xにしたがって、上記の直列データを構成する各画素用の階調データを並列データとして、制御信号Ctrl−xに規定されたタイミングでデータ線23に供給する。例えば、i行j列の画素に階調データを書き込むには、i行目の走査線22に走査信号が供給されているタイミングで、データ線駆動回路32は、j列目のデータ線23に、i行j列の画素に階調データを供給する。i行j列の画素に付属するスイッチング素子34は走査信号を受けてオンになっており、スイッチング素子34を介して画素電極35に階調データが書込まれる。
【0037】
図4は、液晶パネルの断面構造を拡大して模式的に示す図である。図4には、説明の便宜上、液晶パネルにおける画素開口部、画素TFT部、走査線引出部、基板間導通端子部、および実装端子部の各部の断面構造を1つの断面図上に模式的に図示している。また、図4には、画素TFT部として、スイッチング素子のチャネル長さ方向を含む断面構造とチャネル長さ方向に直交する断面構造とを合わせて図示している。
【0038】
図4に示すように液晶パネル2は、素子基板20と対向基板21との間に液晶層28が挟持された構造になっている。液晶層28は、例えば誘電異方性が負の液晶材料からなるVAモードの液晶層である。液晶層28の厚みは、例えば1600nm以上2000nm以下である。本実施形態では、光源等から射出された光が対向基板21を通って液晶層28に入射し、素子基板20の表層で反射して液晶パネル2に対する光入射側と同じ側から射出されるようになっている。以下の液晶パネル2の断面構造の説明において、各種構成要素の厚みとは、液晶層28の厚み方向の寸法のことである。
【0039】
素子基板20は、素子基板本体40を基体として、素子基板本体40の上に走査線22やデータ線23、容量線59等の各種配線を含む複数の配線層や、スイッチング素子34を含む素子層、画素電極35を含む電極層等が積層された積層構造になっている。
【0040】
素子基板本体40は、ガラス基板やサファイヤ基板、シリコン基板等により構成される。素子基板本体40の上に走査線22が設けられている。走査線22は、例えばタングステンシリサイド(WSi)からなる。走査線22の厚みは、例えば180nm以上220nm以下である。走査線22は、遮光性を有しており、液晶層28の厚み方向から平面視したときにスイッチング素子34の略全体と重なる領域に設けられている。これにより、スイッチング素子34へ走査線22側から光が入射しにくくなる。
【0041】
走査線22上を含んだ素子基板本体40の略全面に、例えば酸化シリコンからなる第1層間絶縁膜41が設けられている。第1層間絶縁膜41は、例えばテトラエトキシシラン(以下、TEOSという)を原料ガスに用いたCVD法等により形成される。第1層間絶縁膜41の厚みは、例えば380nm以上420nm以下である。
【0042】
第1層間絶縁膜41上の画素TFT部に、スイッチング素子34が設けられている。スイッチング素子34は、半導体層42、ゲート絶縁膜43、およびゲート電極44を含んでいる。半導体層42は、例えばポリシリコンからなり、高濃度不純物領域、低濃度不純物領域、およびチャネル領域を含んでいる。高濃度不純物領域は、チャネル長さ方向のチャネル領域の両側に設けられており、高濃度不純物領域の片方がソース領域、もう片方がドレイン領域である。半導体層42は、スイッチング素子34のオン状態で電子がキャリアになるNチャネル型の半導体層である。半導体層42の厚みは、例えば40nm程度である。
【0043】
ゲート絶縁膜43は、半導体層42の上に設けられている。ゲート絶縁膜43は、例えば酸化シリコンからなり、熱酸化法等により形成される。ゲート絶縁膜43の厚みは、例えば43nm以上56nm以下である。
【0044】
ゲート電極44は、例えば導電性のポリシリコンからなり、液晶層28の厚み方向から平面視したチャネル領域と重なる領域に形成されている。ゲート電極44の厚みは、例えば15nm以上105nm以下である。
【0045】
第1層間絶縁膜41およびゲート絶縁膜43を貫通して、走査線22に通じる第1コンタクトホール45a〜45cが設けられている。ゲート電極44の一部は、第1コンタクトホール45a、45bの内側に埋め込まれて、走査線22と電気的に接続されている。第1コンタクトホール45cは、走査線引出部に設けられており、第1コンタクトホール45cの内側には、走査線22を走査線駆動回路31に接続するための導電部46が埋め込まれている。
【0046】
スイッチング素子34上を含んだ素子基板本体40上の略全面に、第2層間絶縁膜47が設けられている。第2層間絶縁膜47は、第1層間絶縁膜41と同様に例えば酸化シリコンからなり、CVD法等により形成される。第2層間絶縁膜47の厚みは、例えば280nm以上320nm以下である。
【0047】
第2層間絶縁膜47を貫通して、半導体層42の高濃度不純物領域に通じる第2コンタクトホール48a、48bが形成されている。画素TFT部の第2層間絶縁膜47上に、蓄積容量49が設けられている。蓄積容量49は、容量下部電極50、容量絶縁膜51、および容量上部電極52を含んでいる。
【0048】
容量下部電極50の一部は、第2コンタクトホール48aの内側に埋め込まれており、半導体層42の高濃度不純物領域(ドレイン領域)と電気的に接続されている。また、容量下部電極50の一部は、画素電極35と電気的に接続されている。容量下部電極50は、例えば導電性のポリシリコンからなり、その厚みが例えば95nm以上105nm以下である。
【0049】
容量上部電極52は、容量下部電極50と容量絶縁膜51を挟んで対向配置されている。容量上部電極52は、例えば下層から順にチタンナイトライド層(例えば厚みが47nm以上53nm以下)と、アルミニウム層(例えば厚みが142nm以上158nm以下)と、チタンナイトライド層(例えば厚みが97nm以上103nm以下)とが積層された3層構造の膜により構成される。容量上部電極52の電位は、液晶層28を駆動するときに、例えば対向電極電位VCOMに保持される。
【0050】
容量上部電極52は、遮光性を有しており、液晶層28の厚み方向から平面視したときにスイッチング素子34の略全体と重なる領域に設けられている。これにより、スイッチング素子34へ液晶層28側から光が入射しにくくなる。
【0051】
画素電極35に駆動電圧が印加されたときに、蓄積容量49は画素電極35とともに充電される。これにより、画素電極35に保持された電気量に占める、スイッチング素子34でのリークによる電気量の減少分の割合が低くなるので、リークの影響を減らすことができる。
【0052】
容量絶縁膜51は、例えば酸化シリコンからなり、熱酸化法等により形成される。容量絶縁膜51の厚みは、例えば3nm以上5nm以下である。蓄積容量49の容量を増す観点では、容量絶縁膜51の厚みを膜の信頼性を確保しうる範囲内で薄く設定するとよい。
【0053】
蓄積容量49上を含んだ素子基板本体40上の略全面に第3層間絶縁膜53が設けられている。第3層間絶縁膜53は、TEOSを原料ガスに用いたプラズマCVD法によって形成された酸化シリコン膜(以下、P−TEOS膜という)により構成されている。第3層間絶縁膜53の厚みは、例えば380nm以上420nm以下である。
【0054】
第3層間絶縁膜53の上に、データ線23、画素電極用の中継電極54、基板間導通端子用の中継電極55、および実装端子用の中継電極56が設けられている。本実施形態のデータ線23は、下層から順にチタン層(例えば厚みが19nm以上21nm以下)と、チタンナイトライド層(例えば厚みが47nm以上53nm以下)と、アルミニウム層(例えば厚みが332nm以上368以下)と、チタンナイトライド層(例えば厚みが142nm以上158nm以下)とが積層された4層構造の膜により構成される。上記の第2コンタクトホール48bは、第3層間絶縁膜53を貫通している。データ線23の一部は、第2コンタクトホール48bの内側に埋め込まれており、半導体層42の高濃度不純物領域の片方(ソース領域)と電気的に接続されている。データ線23は、必要に応じて第3層間絶縁膜53上を引き回され、実装端子用の中継電極56と電気的に接続される。
【0055】
第3層間絶縁膜53を貫通して、容量下部電極50に通じる第3コンタクトホール57が設けられている。画素電極用の中継電極54の一部は、第3コンタクトホール57の内側に埋め込まれており、容量下部電極50と電気的に接続されている。
【0056】
上記の第1コンタクトホール45cは、第2層間絶縁膜47および第3層間絶縁膜53を貫通している。第1コンタクトホール45c内に埋め込まれた導電部46は、必要に応じて第3層間絶縁膜53上で配線を引き回されて、実装端子用の中継電極と電気的に接続される。導電部46は、データ線23と電気的に接続された中継電極56とは、別の中継電極に接続される。
【0057】
基板間導通端子用の中継電極55は、例えば第3層間絶縁膜53上の基板間導通端子部に設けられる。導電部46、中継電極54〜56、およびデータ線23は、上記の4層構造の膜を形成した後に、この膜をパターニングすることにより一括形成されている。
【0058】
データ線23上および中継電極54〜56上を含んだ素子基板本体40上の略全面に、第4層間絶縁膜58が設けられている。第4層間絶縁膜58は、例えばP−TEOS膜により構成される。第4層間絶縁膜58上は、CMP法等により平坦化されている。第4層間絶縁膜58は、この膜上を平坦化しうる厚みに形成される。第4層間絶縁膜58の厚みは、下地の凹凸に応じて部分的に異なるが、最薄部で600nm程度、最厚部で2500nm程度である。
【0059】
第4層間絶縁膜58の上に、容量線59、画素電極用の第2の中継電極60、基板間導通端子用の第2の中継電極61、および実装端子用の第2の中継電極62が設けられている。容量線59は、第4層間絶縁膜58上を引き回されて基板間導通端子用の第2の中継電極61と電気的に接続されている。また、容量線59は、図示略の多層配線により蓄積容量49の容量上部電極52と電気的に接続されている。容量線59は、例えば下層から順にアルミニウム層(例えば厚みが315nm以上385nm以下)と、チタンナイトライド層(例えば厚みが135nm以上165nm以下)とが積層された2層構造の膜により構成される。
【0060】
第4層間絶縁膜58を貫通して、第4コンタクトホール63a〜63cが形成されている。第4コンタクトホール63aは画素電極用の中継電極54に通じている。画素電極用の第2の中継電極60の一部は、第4コンタクトホール63aの内側に埋め込まれており、画素電極用の中継電極54と電気的に接続されている。
第4コンタクトホール63bは、基板間導通端子用の中継電極55に通じている。基板間導通端子用の第2の中継電極61の一部は、第4コンタクトホール63bの内側に埋め込まれており、基板間導通端子用の中継電極55と電気的に接続されている。
第4コンタクトホール63cは、実装端子用の中継電極56に通じている。実装端子用の第2の中継電極62の一部は、第4コンタクトホール63cの内側に埋め込まれており、実装端子用の中継電極56と電気的に接続されている。容量線59、第2の中継電極60〜62は、上記の2層構造の膜を形成した後に、この膜をパターニングすることにより一括形成されている。
【0061】
容量線59上および第2の中継電極60〜62上を含んだ素子基板本体40上の略全面に、第5層間絶縁膜64が設けられている。第5層間絶縁膜64は、例えば下層からP−TEOS膜65と、ホウ素シリケートガラス膜66とが積層された2層構造の膜により構成される。ホウ素シリケートガラス膜66に変えて、NSG、PSG,BPSG等のシリケートガラス膜が用いられることもある。P−TEOS膜65は、第4層間絶縁膜58と同様に、この膜上を平坦化しうる厚みに形成される。P−TEOS膜65の厚みは、下地の凹凸に応じて部分的に異なるが、最薄部で600nm程度、最厚部で1100nm程度である。ホウ素シリケートガラス膜の厚みは、例えば55nm以上95nm以下である。
【0062】
第5層間絶縁膜64の上に、画素電極35が設けられている。画素電極35は、島状のものであり、画素ごとに設けられている。画素電極35は、例えばアルミニウムからなり、その厚みが例えば180nm以上220nm以下である。第5層間絶縁膜64を貫通して、第5コンタクトホール67a〜67cが形成されている。第5コンタクトホール67aは、画素電極用の第2の中継電極60に通じている。画素電極35の一部は、第5コンタクトホール67aの内側に埋め込まれており、画素電極用の第2の中継電極60と電気的に接続されている。
【0063】
画素電極35の周辺部には、平坦化膜68が設けられている。表示領域2Aにおいて、平坦化膜68は、複数の画素電極35の間を埋めるように形成されている。平坦化膜68は、例えばP−TEOS膜により構成され、その厚みは例えば180nm以上220nm以下である。
【0064】
表示領域2Aにおける画素電極35上と平坦化膜68上とにわたって、増反射膜69が設けられている。増反射膜69は、例えば、下層から順にP−TEOS膜と、プラズマCVD法により形成された窒化シリコン膜とが積層された2層構造の膜により構成される。P−TEOS膜の厚みは、例えば厚み67nm以上83nm以下であり、窒化シリコン膜の厚みは、例えば58nm以上72nm以下である。
【0065】
増反射膜69の上には、誘電体層70が形成されている。誘電体層70は、液晶層28よりも厚みが薄くなっており、その厚みは例えば60nm以上90nm以下である。誘電体層70は、液晶層28よりも比抵抗が高い材質である酸化シリコンからなる。誘電体層70は、厚みが液晶層28よりも薄く、かつ比抵抗が液晶層28よりも高いので、液晶層28に印加される電界が誘電体層70に妨げられにくくなる。本実施形態の誘電体層70は、厚みが略75nmのP−TEOS膜により構成されており、下記の第1配向膜71よりも緻密な膜質になっている。
【0066】
誘電体層70の上に、第1配向膜71が設けられている。第1配向膜71は、電界が印加されていない状態の液晶層28の配向状態を規制する。第1配向膜71は、配向処理が施された膜からなる。本実施形態の第1配向膜71は、酸化シリコンからなり、例えば斜方蒸着法や斜方スパッタ法により形成される。第1配向膜71の厚みは、例えば40nm以上80nm以下である。
【0067】
基板間導通端子部における平坦化膜68の上に、基板間導通端子72が設けられている。基板間導通端子72は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)からなり、その厚みが例えば135nm以上165nm以下である。上記の第5コンタクトホール67bは、誘電体層70、増反射膜69、および平坦化膜68を貫通して基板間導通端子用の第2の中継電極61に通じている。基板間導通端子72の一部は、第5コンタクトホール67bの内側に埋め込まれており、基板間導通端子用の第2の中継電極61と電気的に接続されている。
【0068】
実装端子部における誘電体層の上に、実装端子73が設けられている。実装端子73は、走査線駆動回路31またはデータ線駆動回路32の端子と電気的に接続されている。実装端子73は、例えばインジウム錫酸化物膜からなり、その厚みが例えば135nm以上165nm以下である。上記の第5コンタクトホール67cは、平坦化膜68を貫通して実装端子用の第2の中継電極62に通じている。実装端子73の一部は、第5コンタクトホール67cの内側に埋め込まれており、実装端子用の第2の中継電極62と電気的に接続されている。
【0069】
対向基板21は、透光性を有する対向基板本体80を基体として構成されている。対向基板本体80上に、遮光膜81が設けられている。遮光膜81は、液晶層28の厚み方向から平面視したスイッチング素子34の略全体と重なる領域に設けられている。
【0070】
遮光膜81上を含んだ対向基板本体80上の略全面に、対向電極82が設けられている。対向電極82は、例えばインジウム錫酸化物等の透明導電材料からなる。対向電極82の厚みは、例えば120nm以上160nm以下である。対向電極82は、基板間導通端子部にて図示略の導電部材を介して、基板間導通端子72と電気的に接続されている。
【0071】
対向電極82の上には、対向電極82と直接的に接触(当接)して第2配向膜83が設けられている。第2配向膜83は、第1配向膜71とともに、電界が印加されていない状態の液晶層28の配向状態を規制する。本実施形態の第1配向膜71、および第2配向膜83は、垂直配向膜である。第2配向膜83は、第1配向膜71と同様に、酸化シリコンからなり、例えば斜方蒸着法や斜方スパッタ法により形成される。第2配向膜83の厚みは、例えば40nm以上80nm以下である。
【0072】
次に、図5(a)、図5(b)を参照しつつ、画素電極35に印加される電位(駆動電圧)、および対向電極82に印加される電位(対向電極電位)について説明する。また、上記の液晶装置1の構成に基づいて、本発明に係る液晶装置の駆動方法についても合わせて説明する。
【0073】
図5(a)は、ゲート電圧および駆動電圧を示すチャート、図5(b)は実効電圧を示すチャートである。なお、図5(a)、図5(b)において、横軸は駆動開始からの時間経過を示し、縦軸は電位を示している。図5(b)には、リークの影響を省いた実効電圧の波形を図示している。
【0074】
図5(a)に示すように、所定の階調を表示するときに画素電極35に印加される駆動電圧Vは、ゲート電圧Vの立ち上がりと同期して、高電位V(例えば12V)と低電位V(例えば2V)とに交互に切替わる。高電位Vと低電位Vは、例えば1フレームごとに切替わる。
【0075】
図5(b)に示すように、ゲート電圧Vが立ち上がるとスイッチング素子34がオンになり、画素電極35が充電される。画素電極35の電位、すなわち液晶層28に印加される実効電圧VEFは、概ね高電位Vまで上昇する。
【0076】
スイッチング素子34がオフになると、フィールドスルーと呼ばれる現象(第1の現象)により、実効電圧VEFが低下する。詳しくは、スイッチング素子34のゲート電極44とチャネル領域等との寄生容量に蓄積された電荷がソース領域、ドレイン領域に分配されて画素電極35に流れることにより、電圧降下Vを生じる。実際には、スイッチング素子34がオフ状態である期間に、リークによる電圧降下を生じることもある。
【0077】
次にゲート電圧Vが立ち上がると駆動電圧Vが低電位Vになり、画素電極35が放電されて、実効電圧VEFが低電位Vまで降下する。そして、スイッチング素子34がオフになると、フィールドスルーによる電圧降下Vが生じる。実際には、スイッチング素子34がオフ状態である期間に、リークによる電圧上昇を生じることもある。
【0078】
通常の液晶装置では、対向電極が所定電位に保持されて、液晶層28が交流駆動される。この所定電位は、フィールドスルーやリークによる実効電圧VEFの変動を加味して、実効電圧VEFの所定電位に対する正極性(高電位)側と負極性(低電位)側とのバランスを取るように、予め設定されている。
【0079】
フィールドスルーを加味した上記の所定電位は、高電位Vを印加時の実効電圧VEFの変化量の絶対値(電圧降下V)と、低電位Vを印加時の実効電圧VEFの変化量の絶対値(電圧降下V)の平均値の分だけ、高電位Vと低電位Vとの平均電位Vをシフトさせた電位(基準電位VST)になる。基準電位VSTは、下記の式(1)で表される。典型的には、電圧降下Vが電圧降下Vと略同じであり、基準電位VSTは平均電位Vよりも電圧降下Vだけ低い電位になる。

−VST=(V+V)/2 ・・・式(1)
【0080】
このような基準電位VSTを求めるには、例えば、複数のフレームにわたって所定の階調を連続的に表示させたときの実効電圧VEFを測定する。そして、1フレームの期間での正極性の電位の時間平均値Vが、1フレームの期間での負極性の電位の時間平均値Vと等しくなるような基準電位を探索することにより求まる。正極性の電位の時間平均値Vは下記の式(1)で表され、負極性の電位の時間平均値Vは下記の式(2)で表される。式(2)、式(3)中のTは1フレームの期間の長さを示す。
【0081】
【数1】


【0082】
このような基準電位VSTに対向電極電位を設定すれば、正負極性での電気的なバランスを取ることができるように思われるが、実際には素子基板20と対向基板21の構造の違いに起因して、液晶層28に電荷の偏りが残ってしまう。本発明では、画素電極35と第1配向膜71との間に誘電体層70が設けられている場合に、対向電極電位VCOMを上記の基準電位VSTよりも低く設定する。これにより、対向電極82と第2配向膜83との間に誘電体層70に相当する誘電体層が設けられていないことに起因する電気特性の非対称性を相殺することができ、電荷の偏りを減らすことができる。
【0083】
図6は、誘電体層の有無による最適基準電位への影響を示すグラフである。図6のグラフには、実験例1のデータおよび実験例2のデータをプロットしている。実験例1は、液晶装置1についてのデータであり、実験例2は、比較用の液晶装置についてのデータである。比較用の液晶装置は、誘電体層70が設けられていない点を除くと、液晶装置1と同様の構成である。
【0084】
実験に際して、各液晶装置で対向電極電位を基準電位(以下、初期基準電位VSTAという)に設定し、各液晶装置に所定の階調を連続して表示させた。そして、各液晶装置の実効電圧VEFの時間変化を計測し、この計測結果を用いて各時刻にて正負極性での電気的なバランスを最適化したときの基準電位(以下、最適基準電位VSTBという)を求めた。そして、各液晶装置について、駆動開始以降の各時刻における初期基準電位VSTAから最適基準電位VSTBへの電位変化量(V)を求めた。この電位変化量を、以下の説明ではVCOMShiftという。VCOMShiftは、下記の式(4)で表される。
COMShift=VSTA−VSTB ・・・(4)
【0085】
図6のグラフにおいて、横軸は駆動開始からの時間経過を示し、縦軸は各時刻でのVCOMShiftを示す。図6のグラフから分かるように、比較用の液晶装置のVCOMShift(実験例2)は、時間経過とともに増加し、3600秒経過後に概ね0.2Vに収束している。液晶装置1のVCOMShift(実験例1)は、実験例2と同様に増加しており、3600秒経過後に概ね0.4Vに収束している。実験例1、2を比較すると、液晶装置1のVCOMShiftは、誘電体層70が設けられていることにより、比較用の液晶装置のVCOMShiftに対して正方向に変化することがわかる。すなわち、収束後の最適基準電位VSTBが初期基準電位VSTAよりも低くなるので、初期基準電位VSTAよりも対向電極電位VCOMを低く設定することにより、VCOMShiftの値を、誘電体層70が設けられていない実験例2に近づけることができる。このことは、誘電体層70が液晶層28の電荷の偏りに及ぼす影響を減らすことができることを意味する。
【0086】
このような知見は、電荷の偏りを減らす観点での最適な対向電極電位VCOMを探索する上で極めて有用である。詳しくは、最適な対向電極電位を決定するには、上記の実験例1のように、液晶装置1に所定の階調を連続的に表示させ、所定の駆動時間経過後のVCOMShiftの収束値を求める。そして、対向電極電位を複数のレベルに変更しつつ、各レベルの対向電極電位に対するVCOMShiftの収束値を求める。これにより、対向電極電位とVCOMShiftとの対応関係が得られるので、VCOMShiftの絶対値が最小になるときの対向電極電位を最適値として求めることができる。この方法で最適な対向電極電位を得るためには、各対向電極電位でのVCOMShiftの収束値を求める必要がある。1条件について収束値を求めるには、液晶装置を10分〜数時間程度、駆動する必要があるので、通常であれば測定に手間や時間を要してしまう。上記の知見を用いると、次に説明するように、上記のVCOMShiftの収束値を求める回数を減らすことができ、対向電極電位の最適値を求める上での手間や時間を減らすことができる。
【0087】
図7は、対向電極電位の決定方法の一例を示す説明図である。
図7において横軸は、対向電極電位と基準電位との差分(VCOM−VST)を示し、縦軸は、所定の駆動時間経過後のVCOMShiftの収束値を示す。図7中の符号P1は1回目の計測点、符号P2は2回目の計測点、符号P3は3回目の計測点、符号P4は4回目の計測点、符号P5は5回目の計測点を示している。ここでは、5回の計測を行う例を説明するが、測定回数に特に限定はない。
【0088】
図7に示すように、第1回目の計測点P1を(VCOM−VST)が0以下となる領域に設定する。上記の知見から、画素電極35と第1配向膜71との間に誘電体層70が設けられている構成では、VCOMがVSTよりも低い領域でVCOMShiftが最小となるので、(VCOM−VST)が正の領域については探索を省くことができる。
【0089】
一般に(VCOM−VST)が増加するとVCOMShiftも増加するので、1回目の計測結果が負であった場合には、計測点P1よりも(VCOM−VST)が大きい領域でVCOMShiftが最小となることが分かり、計測点P1よりも(VCOM−VST)が小さい範囲の探索を省くことができる。2回目の測定点P2を計測点P1よりも(VCOM−VST)が大きい範囲であって(VCOM−VST)が負となる領域内に設定すればよい。
【0090】
また、1回目の計測結果が正であった場合には、2回目の測定点P2を計測点P1よりも(VCOM−VST)が小さい範囲に設定すればよい。このように、上記の知見を用いると、1回目の測定結果に基づいてパラメータ(VCOM−VST)を変化させる正負方向を決定することができる。したがって、測定の回数を減らすことができ、測定に要する手間や時間を減らすことができる。
【0091】
本例では、計測点P1での計測結果が正であり、(VCOM−VST)が十分に小さい領域(VCOMShiftが負となることが予想される領域)に計測点P2を設定する。次いで、計測点P1、計測点P2の測定結果を用いて、(VCOM−VST)に対するVCOMShiftの傾きを求める。この傾きを用いると、VCOMShiftが概ね0になる(VCOM−VST)の値を推定することができる。この推定結果に基づいて、計測点P1、P2の間に計測点P3を設定する。
【0092】
以下、同様に前回までの計測結果を用いて、VCOMShiftが概ね0になる(VCOM−VST)の値を推定しつつ、探索範囲を狭めていくことにより、VCOMShiftが略0となる(VCOM−VST)の値を求めることができる。基準電位VSTについては、フィールドスルーによる実効電圧の低下分を測定すること等により求めることができるで、VCOMShiftが略0となる対向電極電位VCOMの最適値が求まる。
【0093】
なお、対向電極電位VCOMの最適値については、VCOMShiftの測定値から推定することも可能である。基準電位VSTと対向電極電位VCOMの差分(VST−VCOM)が、駆動電圧Vの両振幅(V−V)のx%になるように、対向電極電位VCOMを設定したとする。液晶層28に電圧が印加されているときに、液晶層28内を単位時間に移動する電荷量は、液晶層28に流れる電流に相当するので、画素電極35の電位が正極性であるときに、対向基板21側から素子基板20側へ移動する電荷量qは、下記の式(5)で表される。また、画素電極35の電位が負極性であるときに、素子基板20側から対向基板21側へ移動する電荷量qは、下記の式(6)で表される。式(5)、式(6)中のRは、液晶層28の抵抗値を示す。
【0094】
【数2】


【0095】
電荷量qが電荷量qと同じであれば、理論上は電荷の偏りがなくなる。電荷量qが電荷量qと同じである条件を式(5)、式(6)に用いると、下記の式(7)に示す関係式が得られる。式(7)中のδVは、誘電体層70が設けられている構成でのVCOMShiftの収束値から、誘電体層70が設けられていない構成でのVCOMShiftの収束値を差し引いた値である(図6参照)。式(7)中のEは、図5に示した駆動電圧Vの片振幅であり、(V−V)/2である。
x=δV/2E ・・・・式(7)
【0096】
図6に示した実験例1、2では、δVが0.2Vであり、Eが5Vであるので、xは0.02になる。(VST−VCOM)は、x・(V−V)であるので、0.2Vになる。すなわち、誘電体層70に起因する電荷の偏りを解消するには、対向電極電位VCOMを基準電位VSTよりも0.2Vだけ低く設定すればよいことが分かる。フリッカーや焼付きの発生を抑制する上でVCOMShiftに許容される範囲は、実験的に±0.15Vであることが分かっており、(VST−VCOM)を0.05V以上0.35V以下の範囲内に設定すればよい。すなわち、誘電体層70の厚みが75nmであるときに、正極性の電圧に対する負極性の電圧の比率(V−VCOM)/(V−VCOM)が46.5/53.5以上49.5/50.5以下の範囲内に設定されていれば、実質的にフリッカーや焼付きの発生を抑制することができる。
【0097】
以上のような構成の液晶装置1にあっては、対向電極電位VCOMが基準電位VSTよりも低いので、フィールドスルーに起因する電荷の偏り、および誘電体層70に起因する電荷の偏りを、いずれも減らすことができる。したがって、液晶層28の変調作用が、正負極性の電位印加期間で電荷の偏りにより変化することが回避され、画像のちらつき(フリッカー)の発生を抑制することができる。また、電荷の偏りにより液晶層28の変調作用が固定されて固定のパターンが表示されること(焼付き)の発生を回避することができる。
また、本発明に係る液晶装置の駆動方法によれば、上述の理由により、対向電極電位VCOMが基準電位VSTよりも低いので、フィールドスルーに起因する電荷の偏り、および誘電体層70に起因する電荷の偏りを、いずれも減らすことができる。
【0098】
次に、図8を参照しつつ、本発明の液晶装置を適用した電子機器の一例を説明する。
図8は、電子機器の一例であるプロジェクターの概略構成を示す模式図である。
【0099】
図8に示すプロジェクター9は、光源90、インテグレーター光学系91、色分離光学系92、3系統の画像形成系93〜95、色合成素子96、および投射光学系97を備えている。3系統の画像形成系93〜95は、それぞれ本発明に係る液晶装置を含んで構成されている。
【0100】
光源90から射出された光源光は、インテグレーター光学系91に入射する。インテグレーター光学系91に入射した光源光は、照度が均一化されるとともに偏光状態が揃えられて射出される。インテグレーター光学系91から射出された光源光は、色分離光学系92により赤色光L、緑色光L、および青色光Lに分離され、色光ごとに異なる系統の画像形成系93〜95に入射する。画像形成系93は赤画像を形成し、画像形成系94は緑画像を、画像形成系95は青画像をそれぞれ形成する。すなわち、各画像形成系に入射した色光は、表示すべき画像の画像データに基づいて変調されて画像になる。3系統の画像形成系93〜95から射出された3色の画像光は、色合成素子96により合成された後に、投射光学系97によりスクリーン等の被投射面(図示略)に投射される。これにより、被投射面にフルカラーの画像が表示される。
【0101】
3系統の画像形成系93〜95は、いずれも同様の構成になっており、ここでは赤画像用の画像形成系93の構成について代表的に説明する。
画像形成系93は、液晶装置930、入射側偏光板931、偏光分離素子932、光学補償板933、および射出側偏光板934を含んでいる。入射側偏光板931は、偏光分離素子932に対するP偏光の赤色光を透過させる。偏光分離素子932を透過した赤色光は、光学補償板933を通って液晶装置930に入射して変調され、画像を示す偏光成分(偏光分離素子932に対するS偏光)を含んだ光になる。
【0102】
液晶装置930から射出された光は、光学補償板933を通り、偏光分離素子932に入射する。液晶装置930に変調された光のうちのS偏光は、偏光分離素子932で反射して、射出側偏光板934に入射する。射出側偏光板934は、上記のS偏光を通すようになっている。射出側偏光板934を通った光は、色合成素子96に入射し、上述のように合成された後に投射される。
【0103】
本実施形態のプロジェクター9にあっては、本発明を適用した液晶装置930により画像を形成するので、フリッカーや焼付きの発生が抑制され、高品質な画像を表示可能になっている。
【符号の説明】
【0104】
1・・・液晶装置、2・・・液晶パネル、2A・・・表示領域、2B・・・黒表示領域、9・・・プロジェクター(電子機器)10・・・電圧生成回路、11・・・処理回路、
12・・・制御回路、13・・・表示データ処理回路、14・・・クロック発生回路、
15・・・フレームメモリー、16・・・DAコンバーター、
17・・・タイミング信号発生回路、20・・・素子基板、21・・・対向基板、
22・・・走査線、23・・・データ線、24・・・第1シール材、
25・・・第2シール材、26・・・基板間導通端子部、27・・・接続端子部、
28・・・液晶層、31・・・走査線駆動回路、32・・・データ線駆動回路、
33・・・サンプリング信号出力回路、34・・・スイッチング素子、
35・・・画素電極、40・・・素子基板本体、41・・・第1層間絶縁膜、
42・・・半導体層、43・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート電極、
45a〜45c・・・第1コンタクトホール、46・・・導電部、
47・・・第2層間絶縁膜、48a、48b・・・第2コンタクトホール、
49・・・蓄積容量、50・・・容量下部電極、51・・・容量絶縁膜、
52・・・容量上部電極、53・・・第3層間絶縁膜、54〜56・・・中継電極、
57・・・第3コンタクトホール、58・・・第4層間絶縁膜、59・・・容量線、
60〜62・・・第2の中継電極、63a〜63c・・・第4コンタクトホール、
64・・・第5層間絶縁膜、65・・・P−TEOS膜、
66・・・ホウ素シリケートガラス膜、67a〜67c・・・第5コンタクトホール、
68・・・平坦化膜、69・・・増反射膜、70・・・誘電体層、
71・・・第1配向膜、72・・・基板間導通端子、73・・・実装端子、
80・・・対向基板本体、81・・・遮光膜、82・・・対向電極、
83・・・第2配向膜、930・・・液晶装置、V・・・駆動電圧、
EF・・・実効電圧、V・・・ゲート電圧、V・・・高電位、V・・・低電位、
・・・平均電位、VST・・・基準電位、VCOM・・・対向電極電位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素電極と、
前記画素電極に電気的に接続されたスイッチング素子と、
前記画素電極に対向配置されて対向電極電位が印加される対向電極と、
前記画素電極と前記対向電極との間に設けられた液晶層と、
前記液晶層と前記画素電極との間に設けられた第1配向膜と、
前記第1配向膜と前記画素電極との間に設けられた酸化シリコンからなる誘電体層と、
前記液晶層と前記対向電極との間に前記対向電極と当接して設けられた第2配向膜と、
を備え、
前記画素電極に前記スイッチング素子を介して前記対向電極電位に対する高電位と低電位とが交互に印加され、前記画素電極に前記高電位が印加されているときの前記スイッチング素子の寄生容量による前記画素電極の電位の変化量と、前記画素電極に前記低電位が印加されているときの前記寄生容量による前記画素電極の電位の変化量との平均値の分だけ、前記高電位と前記低電位との平均電位をシフトさせた電位を基準電位としたときに、前記対向電極電位が、前記基準電位よりも低いことを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記誘電体層は、前記液晶層よりも厚みが薄く、かつ、前記液晶層よりも比抵抗が高いことを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記画素電極がアルミニウムからなり、前記対向電極がインジウム錫酸化物からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記誘電体層の厚みが75nmのときに、前記対向電極電位と前記高電位との電位差の絶対値に対する前記対向電極電位と前記低電位との電位差の絶対値の比率が46.5/53.5以上49.5/50.5以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液晶装置。
【請求項5】
画素電極と、前記画素電極に電気的に接続されたスイッチング素子と、前記画素電極に対向配置されて対向電極電位が印加される対向電極と、前記画素電極と前記対向電極との間に設けられた液晶層と、前記液晶層と前記画素電極との間に設けられた第1配向膜と、前記第1配向膜と前記画素電極との間に設けられて酸化シリコンからなる誘電体層と、前記液晶層と前記対向電極との間に前記対向電極と当接して設けられた第2配向膜と、を備えた液晶装置の駆動方法であって、
前記画素電極に前記スイッチング素子を介して前記対向電極電位に対する高電位と低電位とを交互に印加し、前記画素電極に前記高電位が印加されているときの前記スイッチング素子の寄生容量による前記画素電極の電位の変化量と、前記画素電極に前記低電位が印加されているときの前記寄生容量による前記画素電極の電位の変化量との平均値の分だけ、前記高電位と前記低電位との平均電位をシフトさせた電位を基準電位としたときに、前記対向電極電位を前記基準電位よりも低くすることを特徴とする液晶装置の駆動方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液晶装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−209384(P2011−209384A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74990(P2010−74990)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】