説明

温度制御方法及びプラズマ処理システム

【課題】ウエハの温度を精度良く制御する方法を提供する。
【解決手段】ウエハの裏面膜の種類の測定結果を取得する取得ステップと、チャンバ内に投入されるパワーと裏面膜の種類とウエハの温度とを対応付けて記憶した第1のデータベース330から、前記測定結果であるウエハの裏面膜の種類と、前記ウエハを処理するために投入されるパワーとに対応したウエハの温度を選択する選択ステップと、前記選択されたウエハの温度に基づき、前記ウエハの温度を調整する調整ステップと、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御方法及びプラズマ処理システムに関する。特に、被処理体を加工する際の温度制御に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体ウエハにエッチングや成膜等を施す場合、ウエハの温度制御は、ウエハの成膜レートやエッチングレートに関与し、ウエハに形成される膜の性質やホールの形状等に影響を与える。よって、ウエハの温度制御の精度を高めることは、ウエハの加工精度を高め、歩留まりを良好にし、生産性を向上させるために極めて重要である。
【0003】
そのため、従来から、抵抗温度計やウエハ裏面の温度を測定する蛍光式温度計等を用いたウエハの温度測定方法が提案されている。特許文献1には、光源と、光源からの光を測定光と参照光とに分けるためのスプリッタと、スプリッタからの参照光を反射させ、前記反射する参照光の光路長を変化させる可動ミラーと、測定光をウエハに照射し、ウエハを反射した測定光と前記参照光との干渉の状態に基づき、ウエハの温度を測定する方法が開示されている。
【0004】
測定されたウエハの温度は、サセプタに設けられた冷却管に流す冷媒の温度、サセプタに設けられたヒータの温度、及びウエハとサセプタ間に流す伝熱ガスの圧力によって変化する。よって、測定されたウエハの温度、冷媒の温度、ヒータの温度及び伝熱ガスの圧力の関係に基づき、ウエハの温度を所望の温度にするために、冷媒の温度、ヒータの温度及び伝熱ガスの圧力をどの程度に制御したらよいかを決定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−199526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、測定されたウエハの温度は、ウエハの裏面膜によっても変化する。よって、ウエハの裏面の状態を考慮せずに、冷媒の温度、ヒータの温度及び伝熱ガスの圧力を制御しただけでは、ウエハの温度を必ずしも所望の温度にすることはできなかった。これにより、必ずしも予定通りのプロセス結果を得ることはできなかった。
【0007】
上記課題に対して、本発明の目的とするところは、被処理体の温度を精度良く制御することが可能な、温度制御方法及びプラズマ処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、被処理体の裏面膜の種類の測定結果を取得する取得ステップと、チャンバ内に投入されるパワーと裏面膜の種類と被処理体の温度とを対応付けて記憶した第1のデータベースから、前記測定結果である被処理体の裏面膜の種類と、前記被処理体を処理するために投入されるパワーとに対応した被処理体の温度を選択する選択ステップと、前記選択された被処理体の温度に基づき、前記被処理体の温度を調整する調整ステップと、を含むことを特徴とする温度制御方法が提供される。
【0009】
前記調整ステップは、前記選択された被処理体の温度に基づき、冷却機構及び加熱機構を制御してもよい。
【0010】
前記選択ステップは、被処理体の裏面に流す伝熱ガスの圧力と被処理体の温度とを対応付けて記憶した第2のデータベースから、前記選択された被処理体の温度に対応した伝熱ガスの圧力を選択し、前記調整ステップは、前記選択された伝熱ガスの圧力に基づき、前記被処理体の裏面に流す伝熱ガスを調整してもよい。
【0011】
種類が異なる裏面膜を有する被処理体に対して、前記チャンバ内に投入されるパワーに応じた被処理体の温度を非接触温度計により測定し、測定された被処理体の温度を前記裏面膜の種類及び前記パワーに対応付けて前記第1のデータベースに格納する格納ステップを含んでもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、内部にて被処理体にプラズマ処理を施すチャンバを備えたプラズマ処理システムであって、被処理体の裏面膜の種類の測定結果を取得する取得部と、チャンバ内に投入されるパワーと裏面膜の種類と被処理体の温度とを対応付けて記憶した第1のデータベースから、前記測定結果である被処理体の裏面膜の種類と、前記被処理体を処理するために投入されるパワーとに対応した被処理体の温度を選択する選択部と、前記選択された被処理体の温度に基づき、前記被処理体の温度を調整する調整部と、を備えることを特徴とするプラズマ処理システムが提供される。
【0013】
前記プラズマ処理システムは、被処理体を載置するサセプタに設けられた冷却機構及び加熱機構を更に備え、前記調整部は、前記選択された被処理体の温度に基づき、前記冷却機構及び加熱機構を制御してもよい。
【0014】
前記選択部は、被処理体の裏面に流す伝熱ガスの圧力と被処理体の温度とを対応付けて記憶した第2のデータベースから、前記選択された被処理体の温度に対応した伝熱ガスの圧力を選択し、前記調整部は、前記選択された伝熱ガスの圧力に基づき、前記被処理体の裏面に流す伝熱ガスを調整してもよい。
【0015】
前記プラズマ処理システムは、被処理体を載置するサセプタに設けられた伝熱ガス供給機構を更に備え、前記調整部は、前記選択された伝熱ガスの圧力に基づき、前記伝熱ガス供給機構を制御してもよい。
【0016】
前記プラズマ処理システムは、被処理体を位置決めする位置合わせ機構と、前記位置合わせ機構に載置された被処理体の裏面膜の種類を光学的に測定する測定部と、を更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、被処理体の温度を精度良く制御することが可能な、温度制御方法及びプラズマ処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理システムの全体構成図である。
【図2】一実施形態に係るプラズマ処理装置の縦断面図である。
【図3】一実施形態に係る制御装置の機能構成図である。
【図4】一実施形態に係る裏面膜種と温度変化との関係を示したグラフである。
【図5】一実施形態に係る第1のデータベースである。
【図6】一実施形態に係る第2のデータベースである。
【図7】一実施形態に係る温度制御を示したフローチャートである。
【図8】一実施形態の変形例に係る温度制御を示したフローチャートである。
【図9】一実施形態に係る温度計の一例を示した図である。
【図10】一実施形態に係る周波数解析及び温度測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
以下では、まず、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理システム、プラズマ処理装置、制御装置の各構成について説明し、その後、本実施形態に係る温度制御、本実施形態の変形例に係る温度制御について順に説明する。
【0021】
[プラズマ処理システムの全体構成]
最初に、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理システムの全体構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理システムの全体構成図である。
【0022】
プラズマ処理システム10は、第1のプロセスシップPS1、第2のプロセスシップPS2、搬送ユニットTR、位置合わせ機構ALおよびロードポートLP1〜LP4を有している。
【0023】
第1のプロセスシップPS1は、プロセスモジュールPM1およびロードロックモジュールLM1を有している。第2のプロセスシップPS2は、プロセスモジュールPM2およびロードロックモジュールLM2を有している。ロードロックモジュールLM1、LM2は、その両端に設けられたゲートバルブVの開閉により内部圧力を調整しながら、各搬送アームArma、Armbに把持されたウエハWを各プロセスモジュールPM及び搬送ユニットTR間で搬送する。
【0024】
搬送ユニットTRの側部には、ロードポートLP1〜LP4が設けられている。ロードポートLP1〜LP4には、フープが載置される。本実施形態では、ロードポートLPの数は4つであるが、これに限られず、いくつであってもよい。
【0025】
搬送ユニットTRには搬送アームArmcが設けられていて、搬送アームArmcを用いてロードロックモジュールLM1、LM2内の搬送アームArma,Armbと連動しながらロードポートLP1〜LP4内に収容された所望のウエハWを搬送する。
【0026】
搬送ユニットTRの一端には、ウエハWの位置決めを行う位置合わせ機構ALが設けられていて、ウエハWを載置した状態で回転台ALaを回転させながら、光学センサALbによりウエハ周縁部の状態を検出することにより、ウエハWの位置を合わせるようになっている。
【0027】
かかる構成により、各ロードポートLP1〜LP4に載置されたフープ内のウエハWは、搬送ユニットTRを介して位置合わせ機構ALにて位置あわせ後、プロセスシップPS1,PS2のいずれかに一枚ずつ搬送され、プロセスモジュールPM1,PM2にてプラズマ処理され、フープに再収容される。
【0028】
位置合わせ機構ALの近傍には、位置合わせ機構ALに載置されたウエハWの裏面膜の種類を光学的に測定する測定部15が設けられている。測定部15は、図3に示したように、発光器15a、偏光子15b、検光子15cおよび受光器15dを有した分光タイプの膜厚計から構成されている。ウエハWが位置合わせ機構ALに載置されたとき、測定部15は、裏面膜種を以下のように光学的に測定する。
【0029】
発光器15aは、白色光をウエハWの裏面に向けて出力し、偏光子15bは、出力された白色光を直線偏光に変換した後、ステージSに載置されたウエハWの裏面に照射する。検光子15cは、ウエハWを反射した楕円偏光のうち、特定の偏向角度をもつ偏向のみを透過させる。受光器15dは、たとえば、フォトダイオード、またはCCD(Charge Coupled Device)カメラ等から構成され、検光子15cを透過した偏光を受光する。このようにして、測定部15は、受光器15dによる受光状態から、例えば干渉波形解析をすることにより、ウエハWの裏面膜の種類を光学的に測定する。予め検出され得る膜種がわかっていれば、光の反射率を検出するだけでも、いずれの膜種であるかの識別が可能である。
【0030】
測定されたウエハWの裏面膜種の情報は、図2に示した制御器30に送られる。制御器30は、ウエハWの裏面膜種に応じた温度制御を実行する。また、制御器30は、裏面膜種毎に最適なプロセスレシピを選択して、選択されたプロセスレシピに基づきプラズマ処理を制御する。
【0031】
[プラズマ処理装置の構成]
次に、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の構成について図2を参照しながら説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の縦断面を示す。ここでは、一実施形態に係るプラズマ処理装置20はエッチング装置を想定して説明するが、プラズマ処理装置20はこれに限らず、プラズマによりウエハWに微細加工を行う装置であれば、成膜装置やアッシング装置等のあらゆるプラズマ処理装置に適用可能である。
【0032】
プラズマ処理装置20は、ゲートバルブVから搬入したウエハWを内部にてプラズマ処理するチャンバ100を有する。チャンバ100は、上部円筒状チャンバ100aと下部円筒状チャンバ100bとから形成されている。チャンバ100は、たとえばアルミニウム等の金属から形成され、接地されている。
【0033】
チャンバの内部には、上部電極105及び下部電極110が対向して配設され、これにより、一対の平行平板電極を構成している。上部電極105は、基材105a、絶縁層105bを有している。基材105aは、たとえばアルミニウム、カーボン、チタン、タングステン等の金属から形成されている。
【0034】
絶縁層105bは、基材105aの下面に溶射によりアルミナ又はイットリアを吹き付けて形成される。上部電極105には、複数のガス穴105cが貫通していてシャワープレートとしても機能するようになっている。つまり、ガス供給源115から供給されたガスは、チャンバ内のガス拡散空間Sにて拡散された後、複数のガス穴105cからチャンバ内に導入される。上部電極の基材105aは、SiやSiCで形成されてもよく、その場合は絶縁層105bを有する必要はない。また、基材105aに石英のカバーをつけてもよい。
【0035】
下部電極110は、ウエハWを載置するサセプタとして機能する。下部電極110は、基材110aを有している。基材110aは、アルミニウム等の金属から形成されていて、絶縁層110bを介して支持台110cにより支持されている。これにより、下部電極110は電気的に浮いた状態になっている。なお、支持台110cの下方部分は、カバー115にて覆われている。支持台110cの下部外周には、バッフル板120が設けられていて、ガスの流れを制御する。
【0036】
基材110aには、冷媒室110a1及び冷媒導入管110a2が設けられている。冷媒室110a1は、冷媒導入管110a2を介して冷媒供給源111に接続されている。冷媒供給源111から供給された冷媒は、一方の冷媒導入管110a2から導入され、冷媒室110a1を循環し、他方の冷媒導入管110a2から排出されることにより、基材110aを冷却するようになっている。
【0037】
基材110aには、また、ヒータ112が埋設されている。ヒータ112は、ヒータ源113に接続されている。ヒータ源113から供給された交流電力は、ヒータ112に印加され、これにより、基材110aを加熱するようになっている。
【0038】
基材110aの上面には、静電チャック機構125が設けられていて、その上にウエハWを載置するようになっている。静電チャック機構125の外周には、たとえばシリコンにて形成されたフォーカスリング130が設けられていて、プラズマの均一性を維持する役割を果たしている。静電チャック機構125は、アルミナ等の絶縁部材125aに金属シート部材の電極部125bを介在させた構成を有する。電極部125bには、直流電源135が接続されている。直流電源135から出力された直流電圧が電極部125bに印加されることにより、ウエハWは下部電極110に静電吸着される。
【0039】
下部電極110には、伝熱ガス供給管116が貫通し、その先端は、静電チャック機構125の上面にて開口している。伝熱ガス供給管116は、伝熱ガス供給源117に接続されている。伝熱ガス供給源117から供給された、例えばヘリウムガス等の伝熱ガスは、ウエハWと静電チャック機構125との間に流され、これにより、基材110aへの熱伝導を制御することによってウエハWの温度を調整するようになっている。
【0040】
冷媒室110a1及び冷媒導入管110a2は、ウエハWを載置するサセプタに設けられた冷却機構の一例であり、ヒータ112は、ウエハWを載置するサセプタに設けられた加熱機構の一例である。また、伝熱ガス供給管116は、ウエハWを載置するサセプタに設けられた伝熱ガス供給機構の一例である。
【0041】
後述する本実施形態の変形例に係る温度制御では、冷却機構、加熱機構及び伝熱ガス供給機構を使用して、基材110aを所望の温度に制御することにより、ウエハWの温度を調整するようになっている。
【0042】
基材110aは、給電棒140に接続された整合器145を介して高周波電源150に接続されている。チャンバ内のガスは、高周波電源150から出力された高周波の電界エネルギーにより励起され、これにより生成された放電型のプラズマによってウエハWにエッチング処理が施される。
【0043】
基材110aは、また、給電棒140に接続された整合器160を介して高周波電源165が接続されている。高周波電源165から出力された、たとえば3.2MHzの高周波はバイアス電圧として下部電極110へのイオンの引き込みに使われる。
【0044】
チャンバ100の底面には排気口170が設けられ、排気口170に接続された排気装置175を駆動することにより、チャンバ100の内部を所望の真空状態に保つようになっている。上部チャンバ100aの周囲には、マルチポールリング磁石180a、180bが配置されている。マルチポールリング磁石180a、180bは、複数の異方性セグメント柱状磁石がリング状の磁性体のケーシングに取り付けられていて、隣接する複数の異方性セグメント柱状磁石同士の磁極の向きが互いに逆向きになるように配置されている。これにより、磁力線が隣接するセグメント磁石間に形成され、上部電極105と下部電極110との間の処理空間の周辺部のみに磁場が形成され、処理空間にプラズマを閉じこめるように作用する。ただし、マルチポーリング磁石はなくてもよい。
【0045】
[制御器のハードウエア構成]
次に、本実施形態に係る制御器30の構成について説明する。図2には、制御器30のハードウエア構成が示されている。また、図3には、制御器30の機能構成が示されている。
【0046】
図2に示したように、制御器30は、ROM32、RAM34、HDD36、CPU38、バス40、インタフェース(I/F)42を有している。図3に示した各部への指令は、専用の制御デバイスあるいはプログラムを実行するCPU38により実行される。後述される温度制御を実行するためのプログラムや各種データは、ROM32やRAM34やHDD36に予め記憶されている。CPU38は、これらのメモリから必要なプログラムやデータを読み出し、実行することにより、図3の制御器30の各機能を実現する。
【0047】
[制御器の機能構成]
図3に示したように、制御器30は、取得部305、選択部310、調整部315、プロセス実行部320、記憶部325、第1のデータベース330及び第2のデータベース335を有している。取得部305は、測定部15からウエハWの裏面膜の種類についての測定結果を取得する。
【0048】
選択部310は、記憶部325に記憶されたプロセスレシピから、測定結果である裏面膜種に最適なプロセスレシピを選択する。選択部310は、選択されたプロセスレシピにしたがって、チャンバ100内に投入されるRFパワーを特定する。また、選択部310は、第1のデータベース330から、前記測定結果であるウエハWの裏面膜の種類と、前記チャンバ100内に投入されるパワーとに対応したウエハWの温度を選択する。
【0049】
図4は、ウエハWの裏面膜がシリコン膜(Si)、シリコン酸化膜(SiO)、フォトレジスト膜(PR)の場合について、プラズマプロセス中のウエハWの温度変化を示した図である。本実験において、プラズマ処理装置20を用いたプロセスの条件は、次の通りである。
・チャンバ100内の圧力 20mTorr
・高周波電源150から供給される高周波のパワー 40MHz、1000W
・高周波電源165から供給される高周波のパワー 3.2MHz、4500W
・ガス種及びガス流量 Cガス/Arガス/Oガス=60/200/70sccm
・伝熱ガス及びガス流量 Heガス ウエハWのセンタ側15Torr,エッジ側40Torr
・下部電極の温度 20℃
【0050】
かかる条件で、下部二周波の平行平板型のプラズマ処理装置20におけるプラズマプロセスを実行したところ、図4に示したように、ウエハ温度は、シリコン膜(Si)、シリコン酸化膜(SiO)、フォトレジスト膜(PR)との間でそれぞれ5℃程度異なり、最大で10℃程度異なる結果を得られた。この結果から、ウエハの裏面膜の種類を考慮せずに、冷媒の温度、ヒータの温度及び伝熱ガスの圧力を制御しただけでは、プラズマプロセスのように入熱のある系では、静電チャック機構125の表面とウエハWの裏面の熱抵抗が裏面膜の種類によって異なるため、裏面膜の種類によってはウエハの温度が目標とする値と異なってしまい、プロセスの結果が十分に良い結果とならない場合があることがわかった。
【0051】
よって、本実施形態に係るウエハWの温度制御では、ウエハの裏面膜の種類を考慮した温度調整を行う。そのため、本実施形態では、実際のプロセスを実行する前に図5に示した第1のデータベース330を予め用意する。
【0052】
第1のデータベース330には、チャンバ100内に投入されるRFパワーと裏面膜の種類とウエハWの温度とが対応付けて記憶されている。第1のデータベース330に蓄積するデータの測定方法の一例としては、サセプタに低コヒーレンス光干渉温度計のような非接触温度計を取り付けたプラズマ処理装置20にて、表面がシリコンで裏面膜の種類が異なる複数のウエハをプラズマ処理する方法が挙げられる。具体的には、プロセス中、高周波電源150及び高周波電源165に投入されたRFパワーとそのときのウエハの温度とを非接触温度計にて測定する。測定結果は、RFパワー、裏面膜の種類及びウエハWの温度を対応付けたデータ群として第1のデータベース330に蓄積される。第1のデータベース330は、例えばHDD36に格納される。非接触温度計の具体例については、後述する。
【0053】
また、本実施形態では、実際のプロセスを実行する前に図6に示した第2のデータベース335を予め用意する。第2のデータベース335には、ウエハWの裏面に流す伝熱ガスの圧力とウエハWの温度とを対応付けて記憶する。第2のデータベース335に蓄積するデータの測定方法としては、前記プロセス条件にてプロセス中に伝熱ガスとしてのHeガスの圧力を変え、そのときのウエハの温度を非接触温度計にて測定する。測定結果は、Heガス及びウエハWの温度を対応付けたデータ群として第2のデータベース335に蓄積される。第2のデータベース335は、例えばHDD36に格納される。第1のデータベース330と第2のデータベース335とを一つにまとめてデータベース化してもよい。
【0054】
選択部310は、第1のデータベース330から、測定結果であるウエハWの裏面膜の種類と、ウエハWを処理するために投入されるパワーとに対応したウエハWの温度を選択する。例えば、図5では、RFパワーがW1、裏面膜種がSiOの場合には、ウエハWの温度67℃を選択する。また、選択部310は、第2のデータベース335から、前記選択されたウエハWの温度に対応したHeガスの圧力を選択する。例えば、図6では、選択されたウエハWの温度が67℃であれば、Heガスの圧力をP4とする。
【0055】
調整部315は、選択されたウエハWの温度に基づき、ウエハWの温度を調整する。具体的には、調整部315は、選択されたウエハWの温度に基づき、冷却機構としての図2の冷媒供給源111から供給される冷媒の流量と冷媒の温度とを制御し、加熱機構としてのヒータ源113から供給される交流電力を制御する。
【0056】
また、調整部315は、選択されたHeガスの圧力に基づき、ウエハWの裏面に流すHeガスを調整する。具体的には、調整部315は、選択された伝熱ガスの圧力に基づき、伝熱ガス供給機構としての伝熱ガス供給源117から供給されるHeガスを調整する。
【0057】
記憶部325には、複数のプロセスレシピが記憶されている。プロセス実行部320は、複数のプロセスレシピの中から選択部310により選択されたプロセスレシピに従い、プロセス処理装置20にて実行されるエッチング処理を制御する。前述したように、プロセス中、ウエハWの温度が裏面膜の種類に応じた所望の温度になるように、調整部により、冷却機構、加熱機構及び伝熱ガス供給機構が調整されている。これにより、ウエハWの温度を精度良く制御することができる。
【0058】
[プラズマ処理装置の動作]
次に、本実施形態に係るプラズマ処理装置20の動作について、図7に示した温度制御処理のフローチャートを参照しながら説明する。この温度制御を実行する前提として、第1データベース330及び第2データベース335が予め用意されている。
【0059】
温度制御処理では、まず、ステップS705にて、ウエハWが、図1に示したロードポートLP1〜LP4のいずれかから搬送ユニットTRに投入されたかを判定し、ウエハWが投入されるまでステップS705を繰り返す。投入された場合、ステップS710に進み、ウエハWが位置合わせ機構ALに載置されたか否かを判定し、ウエハWが位置合わせ機構ALに載置されるまでステップS710を繰り返す。
【0060】
ウエハWが位置合わせ機構ALに載置されると、ステップS715に進み、測定部15は、ウエハWの裏面膜の種類を測定する。次に、ステップS720にて、取得部305は、測定されたウエハWの裏面膜の種類についての測定結果を取得する。選択部310は、取得された裏面膜の種類及びプラズマ処理装置20に投入された高周波電力のパワー(RFパワー)に対応するウエハWの温度を第1のデータベース330から選択する。
【0061】
次に、ステップS725にて、選択部310は、選択されたウエハWの温度に対応する伝熱ガスの圧力を第2のデータベース335から選択する。次に、ステップS730にて、選択されたウエハWの温度及び伝熱ガスの圧力に基づき、サセプタ内に設けられた冷媒の温度、ヒータの温度及び伝熱ガスの圧力を調整し、本処理を終了する。
【0062】
これによれば、RFパワーとともにウエハWの裏面膜の種類を考慮して、サセプタの冷媒の温度、ヒータの温度及び伝熱ガスの圧力が制御される。この結果、裏面膜の有無及び裏面膜の種類に応じて、ウエハWの温度を精度良く制御することができる。これにより、予想通りのプロセス結果、つまり、ウエハWに予想通りの良好なエッチング処理を施すことができる。
【0063】
[変形例]
プラズマ処理装置20以外の装置であっても、入熱がある装置に対しては、本実施形態の変形例に係る温度制御方法を利用することができる。本変形例に係る温度制御方法について、図8に示した温度制御処理のフローチャートを参照しながら説明する。本変形例に係る温度制御を実行する前提として、第1データベース330は予め用意されているが、第2データベース335は必ずしも必要ではない。
【0064】
温度制御処理では、まず、ステップS705にて、ウエハWが、図1に示したロードポートLP1〜LP4のいずれかから搬送ユニットTRに投入されたかを判定する。投入された場合、ステップS710に進み、ウエハWが位置合わせ機構ALに載置されたか否かを判定する。載置されると、ステップS715に進み、測定部15は、ウエハWの裏面膜の種類を測定する。次に、ステップS720にて、取得部305は、測定されたウエハWの裏面膜の種類についての測定結果を取得し、選択部310は、取得された裏面膜の種類及びプラズマ処理装置20に投入された高周波電力のパワーに対応するウエハWの温度を第1のデータベース330から選択する。次に、ステップS805にて、選択されたウエハWの温度に基づき、サセプタ内に設けられた冷媒の温度及びヒータの温度を調整し、本処理を終了する。
【0065】
これによっても、RFパワーとともにウエハWの裏面膜の種類を考慮して、サセプタの冷媒の温度、ヒータの温度を制御することができる。この結果、プラズマ処理装置20以外の入熱がある装置に対して、裏面膜の有無及び裏面膜の種類に応じたウエハWの温度を精度良く制御することができる。これにより、予想通りのプロセス結果を得ることができる。
【0066】
[非接触温度計]
最後に、ウエハWの温度を測定する非接触温度計の一例について、図9を参照しながら説明する。図9は、本実施形態に係る非接触温度計の一例を示した図である。
【0067】
本実施形態に係る非接触温度計550は、分光器500及び測定器520を有している。分光器500は、ツェルニーターナー型の分光器であり、波長分散素子を用いて被測定光を波長毎に分光し、任意の波長幅に存在する光のパワーを求め、求められた光のパワーから被測定光の特性を測定する。
【0068】
分光器500は、入力スリット501、ミラー502、回折格子504、ミラー506及びフォトダイオードアレイ508を有している。ミラー502及びミラー506は、入射光を所望の方向に反射するように設置されている。フォトダイオードアレイ508は、ミラー506で反射された光が収束する位置に設置されている。入力スリット501から入射される光は、裏面膜種の異なる、厚さDのウエハWの表面を反射した光とウエハWの裏面を反射した光である。入射された光は、ミラー502により反射されて回折格子504に照射される。照射されたウエハWの表面側の反射光と裏面側の反射光とは回折格子504によって分光される。反射光または回折光のうち、特定波長の光はミラー506により反射されてフォトダイオードアレイ508に入射される。フォトダイオードアレイ508は、その光のパワーを検出する。フォトダイオードアレイ508は、分光された光を受光し、受光した光のパワーを検出する光検出素子(フォトダイオード)をアレイ状に複数設けた検出器の一例である。検出器の他の例としては、CCDアレイが挙げられる。
【0069】
フォトダイオードアレイ508の各素子は、受光した光のパワーに応じた電流(光電流)を発生し、この光電流を分光器の検出結果として出力する。また、各素子には、予め特定の波長が割り付けられている。各素子に割り付ける特定の波長は、光が回折格子504によって波長毎に分光されて、フォトダイオードアレイ508に入射する。
【0070】
測定器520は、測定部526及び記憶部528を有している。測定部526は、検出された光のパワーに基づき、前記入射光の特性を測定する。本実施形態では、測定部526は、検出された光のパワーの周波数解析に基づき、測定結果からウエハWの温度を測定する。計測結果は、第1のデータベース330や記憶部528に記憶される。
【0071】
反射スペクトルを周波数解析(FFT:Fast Fourier Transform)すると、図10(a)に示したように、厚さDのウエハWの表面で反射した反射光L1と裏面で反射した反射光L2とのシリコン中の往復の光路長2Dの整数倍n(n=0以上の整数)の位置で、振幅の光スペクトラムが出力される。
【0072】
図10(b)に示したように、光路長ndと温度Tsとの関係は予め算出されている。ここで、ウエハWが加熱されると熱膨張によりウエハW内の光路長Dは大きくなり、屈折率も大きくなる。よって、温度が上がると光路長の倍数nDがずれる。この光路長の倍数nDのずれ量Cから温度Tを検出する。このようにして、分光データの周波数解析により求められた各光スペクトラムから裏面膜種毎のウエハWの温度を測定することができる。
【0073】
上記一実施形態及びその変形例において、各部の動作は互いに関連しており、互いの関連を考慮しながら、一連の動作及び一連の処理として置き換えることができる。これにより、温度制御方法の実施形態を、温度制御方法を実行する装置の実施形態とすることができる。以上の説明では、周波数ドメイン方式による温度計測方法について例を挙げて説明したが、タイムドメイン方式(例えば、特開2010−199526号に記載)を用いた温度計測方法を用いてもよい。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、本発明に係るプラズマ処理装置は、上記実施形態に示したエッチング装置に限られず、成膜装置、マイクロ波プラズマ処理装置等のあらゆるプラズマ処理装置であってもよい。また、内部に入熱のある装置であればプラズマ処理装置以外の装置であってもよい。
【0076】
本発明に係るプラズマ処理装置は、上記実施形態に示した平行平板型のプラズマ処理装置に限られず、ICP(Inductively Coupled Plasma)プラズマ処理装置、マイクロ波プラズマ処理装置等いずれのプラズマ処理装置のガス系統にも使用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 プラズマ処理システム
15 測定部
20 プラズマ処理装置
30 制御器
305 取得部
310 選択部
315 調整部
320 プロセス実行部
325 記憶部
330 第1のデータベース
335 第2のデータベース
501 入力スリット
502,506 ミラー
504 回折格子
508 フォトダイオードアレイ
526 測定部
528 記憶部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体の裏面膜の種類の測定結果を取得する取得ステップと、
チャンバ内に投入されるパワーと裏面膜の種類と被処理体の温度とを対応付けて記憶した第1のデータベースから、前記測定結果である被処理体の裏面膜の種類と、前記被処理体を処理するために投入されるパワーとに対応した被処理体の温度を選択する選択ステップと、
前記選択された被処理体の温度に基づき、前記被処理体の温度を調整する調整ステップと、
を含むことを特徴とする温度制御方法。
【請求項2】
前記調整ステップは、前記選択された被処理体の温度に基づき、冷却機構及び加熱機構を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の温度制御方法。
【請求項3】
前記選択ステップは、被処理体の裏面に流す伝熱ガスの圧力と被処理体の温度とを対応付けて記憶した第2のデータベースから、前記選択された被処理体の温度に対応した伝熱ガスの圧力を選択し、
前記調整ステップは、前記選択された伝熱ガスの圧力に基づき、前記被処理体の裏面に流す伝熱ガスを調整する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の温度制御方法。
【請求項4】
種類が異なる裏面膜を有する被処理体に対して、前記チャンバ内に投入されるパワーに応じた被処理体の温度を非接触温度計により測定し、測定された被処理体の温度を前記裏面膜の種類及び前記パワーに対応付けて前記第1のデータベースに格納する格納ステップを更に含む、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の温度制御方法。
【請求項5】
内部にて被処理体にプラズマ処理を施すチャンバを備えたプラズマ処理システムであって、
被処理体の裏面膜の種類の測定結果を取得する取得部と、
チャンバ内に投入されるパワーと裏面膜の種類と被処理体の温度とを対応付けて記憶した第1のデータベースから、前記測定結果である被処理体の裏面膜の種類と、前記被処理体を処理するために投入されるパワーとに対応した被処理体の温度を選択する選択部と、
前記選択された被処理体の温度に基づき、前記被処理体の温度を調整する調整部と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理システム。
【請求項6】
前記プラズマ処理システムは、被処理体を載置するサセプタに設けられた冷却機構及び加熱機構を更に備え、
前記調整部は、前記選択された被処理体の温度に基づき、前記冷却機構及び加熱機構を制御する、
ことを特徴とする請求項5に記載の温度制御方法。
【請求項7】
前記選択部は、被処理体の裏面に流す伝熱ガスの圧力と被処理体の温度とを対応付けて記憶した第2のデータベースから、前記選択された被処理体の温度に対応した伝熱ガスの圧力を選択し、
前記調整部は、前記選択された伝熱ガスの圧力に基づき、前記被処理体の裏面に流す伝熱ガスを調整する、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載のプラズマ処理システム。
【請求項8】
前記プラズマ処理システムは、被処理体を載置するサセプタに設けられた伝熱ガス供給機構を更に備え、
前記調整部は、前記選択された伝熱ガスの圧力に基づき、前記伝熱ガス供給機構を制御する、
ことを特徴とする請求項7に記載の温度制御方法。
【請求項9】
前記プラズマ処理システムは、被処理体を位置決めする位置合わせ機構と、
前記位置合わせ機構に載置された被処理体の裏面膜の種類を光学的に測定する測定部と、
を更に備えることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載のプラズマ処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−209477(P2012−209477A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74993(P2011−74993)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】