説明

無機物粉末およびそれを用いた複合体

【課題】有機系樹脂や無機物の各種マトリックス材料に配合することで低熱膨張性複合体を作製することができる無機物粉末とその粉末を含有する低熱膨張性の複合体を提供する。
【解決手段】無機物粉末はβ−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英、β−石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有し、−40〜+600℃における熱膨張率が負の熱膨張係数であり、粒度分布(メジアン径)におけるd90が150μm以下であり、かつ、d50が1μm以上50μm以下である。また、複合体は上記の無機物粉末を1〜95質量%含有される。このため、複合体の熱膨張係数を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物粉末およびそれを用いた複合体に関し、更に詳しくは、β−ユークリプタイト(β−LiO・Al・2SiO)、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英(β−SiO)、β−石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有し、−40〜+600℃における熱膨張率が負の熱膨張係数を有する無機物粉末およびそれを用いた複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子材料・部品や構造材料は、酸化物や樹脂、あるいは、ガラスや金属を用いて作製されてきた。例えば高周波回路用基板は、誘電体あるいは樹脂を板状にしたものを用いていた。このような従来の電子材料や構造材料では、通常、正の熱膨張係数を有している。このため、これらの材料は、周囲温度の上昇や下降に対応して、膨張や収縮を生じるという特性を有している。
【0003】
このように、従来の電子材料・部品や構造材料では、熱膨張係数が正であることにより、周囲の温度の変化に応じて膨張、収縮が生じてしまい、近年の高周波部品等に用いる電子材料や精密機械部品等においては、わずかな寸法の誤差でも大きな性能低下を生じてしまうため、このような材料では、高い加工精度が得られないだけでなく、電気電子特性の劣化も生じ易いことになる。このため、熱膨張係数を適切な値に調整することができ、更に、寸法精度や寸法安定性、強度、熱的安定性なども満足させることができる材料が必要とされる。更には、上記各種デバイス、精密部品等に使用される有機物質や無機物質、例えば接着剤や封着材等に配合されて、これら物質の熱膨張係数を適切な値に調整することができ、更に、寸法精度や寸法安定性、強度、熱的安定性なども満足させることができる材料が必要とされる。
【0004】
近年、熱膨張係数の小さな材料自体として、低熱膨張ガラスやコーディエライト系やリチウムアルミノシリケート(一般式Li・Al・nSiO)系を改良した複合酸化物などの材料が開発されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0005】
更に、新しい材料の可能性も示唆されている。通常、ガラスや酸化物、金属、樹脂などの一般的な材料は正の熱膨張係数を有している。それに対して、近年、さまざまな負の熱膨張係数を示す複合酸化物が報告され始め、負の熱膨張係数を有する材料としては、一般にβ−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英およびβ−石英固溶体、あるいはこれらの中から選ばれる2種以上の結晶を含むLiO−Al−SiO系セラミックス、ZnO−Al−SiO系セラミックス、チタン酸鉛、チタン酸ハフニウム、タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸タンタルなどの無機材料が知られている(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。
【0006】
また、このような負の熱膨張係数を有する材料(負の熱膨張材料ということがある)を用いて、正の熱膨張係数を有する材料(正の熱膨張材料ということがある)と負の熱膨張材料とを組み合わせることによって、新規な低熱膨張材料が得られる可能性が示唆されている。例えば、特許文献6には、有機系樹脂のマトリックスに体積分布および数分布に特徴づけられた特定の粒子分布を有する負の熱膨張率をもつフィラーを分散することによって、低熱膨張の接着剤や封止材を提供することが開示されている。また、特許文献7には、内部および外部で熱膨張係数が異なる結晶構造をもつセラミックの粒子を用いた低熱膨張材料が開示されている。
【特許文献1】特開2000−95559号公報
【特許文献2】特開2002−173364号公報
【特許文献3】特開平8−198665号公報
【特許文献4】特開昭63201034号公報
【特許文献5】特開平10−90555号公報
【特許文献6】特開2003−327991号公報
【特許文献7】特開2005−82466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4には、負の熱膨張率をもつフィラーはジルコニウムタングステート、ハフニウムタングステート、およびジルコニウムハフニウムタングステート等のタングステート系の酸化物であって、β−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英、β−石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有する無機酸化物粉末ではなく、また、マトリックス材料も有機系樹脂であって無機物のマトリックス材料と組み合わせて低熱膨張性材料を作製するものでなく、例えば高周波部品等によく用いられるセラミック材料に適用し、負の熱膨張材料とセラミック材料とを同時に焼成することで新たな低熱膨張性材料を作製するということも開示されていない。また、特許文献5は、粒子径がそれぞれ異なる負の熱膨張材料粒子と正の熱膨張材料粒子とを仮焼により別個に作製し、これらを所定量混合し、ペレット状に成形した上で、焼成することで低熱膨張材料を製造しているが、工程が煩雑である。またβ−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英、β−石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有する無機物粉末を有機系樹脂や無機物のマトリックス材料と組み合わせて低熱膨張性材料を作製するものでない。
【0008】
また、負の熱膨張係数を有するβ−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英、β−石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有する無機物粉末をフィラーとして利用することで、有機系、無機系、セラミック系の低熱膨張性材料を作製する開発はまだ検討されていない。
【0009】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであり、有機系樹脂や無機物の各種マトリックス材料に配合することで低熱膨張性複合体を作製することができる無機物粉末とその粉末を含有する低熱膨張性の複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、β−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英、β−石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有するSiO−Al系の無機物粉末は大きな負の熱膨張係数を有し、有機系樹脂や無機物の各種マトリックス材料に配合することでマトリックス材料の熱膨張性が低減され、熱膨張の低い各種の有機系、無機系、セラミック系複合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) β−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英、β−石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有する無機物粉末であって、−40℃〜+600℃における熱膨張率が負の熱膨張係数であり、前記無機物粉末の粒度分布(メジアン径)におけるd90が150μm以下であり、かつ、d50が1μm以上50μm以下である無機物粉末。
【0012】
本発明の無機酸化物粉末によれば、−40℃〜+600℃の温度範囲における熱膨張率が負の熱膨張係数であるため、該粉末を有機系樹脂や無機物のマトリックス材料に配合することでマトリックス材料の熱膨張率が低減され、得られた複合体は低熱膨張性を有することになる。また、その粒度分布のd90が150μm以下であり、かつ、d50が1μm以上50μm以下であるために、マトリックス材料との混合性に優れ、95質量%以上という高い割合までマトリックス材料中に配合することが可能となる。また、マトリックス材料の形態が粉末状、ペースト状、液状であっても、容易に、かつ均一に混合されるので、扱い易い粘性の混合物をもつ複合体を作製できる。
【0013】
ここで、「固溶体」とは、β−ユークリプタイト、あるいはβ−石英それぞれの結晶において、一部が置換されていたり、結晶間に原子が侵入しているものをいう。
【0014】
また、「メジアン径」d50とは、正規分布関数から求められる体積基準の中央累積値(50%粒径)をいう。また、d90とは累積分布が90%粒径をいう。
【0015】
(2) 前記d50が1μm以上10μm以下である(1)に記載の無機物粉末。
【0016】
(3) 前記d90が50μm以下である(1)または(2)に記載の無機物粉末。
【0017】
上記(2)、(3)の様態によれば、マトリックス材料との充填性、混合性がより向上され、更に配合量の増加が可能となる。
【0018】
(4) 前記粒度分布における変動係数が200%以下である(1)から(3)のいずれか記載の無機物粉末。
【0019】
この様態によれば、無機物粉体の粒径のばらつきが小さくなることによって、凝集粒子が少なく、マトリックス材料に配合した場合の分散性や得られた複合体の平滑性が得られるので、作製した複合体の均質性(特に熱膨張に関して)が向上されることになる。
【0020】
(5) アスペクト比の平均値が5.0以下である(1)から(4)のいずれか記載の無機物粉末。
【0021】
この態様によれば、無機物粉末の形状が等方性に近いので、マトリックス材料内の充填性、分散性に優れることになる。このため、作製した複合材の均質性(特に熱膨張に関して)が向上されることになる。
【0022】
(6) 比重が3.0以下である(1)から(5)のいずれか記載の無機物粉末。
【0023】
この様態によれば、無機物粉末をマトリックス材料に配合する際に、マトリック材料の比重に対応して得られた複合体の比重をある程度調整可能であり、これによって、混合時(特に乾式での混合)の撹拌効率の向上が期待できる。
【0024】
(7) 前記無機物粉末を構成する無機物が酸化物である(1)から(6)のいずれか記載の無機物粉末。
【0025】
(8) 前記無機物粉末を構成する無機物がガラスセラミックスである(1)から(7)のいずれか記載の無機物粉末。
【0026】
本発明のβ−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英、β−石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有する無機物粉体は、特定組成を有する原ガラスを所定の条件で熱処理することにより、正の熱膨張係数を有するガラス相中に、負の熱膨張係数を有する上記結晶相を析出させ、または、ガラス相全てを上記結晶相を含む結晶相に相転移させて、ガラスセラミックス全体として熱膨張係数を所望の負の数値範囲内に制御することが可能となる。これらの結晶相の種類および結晶化度は、特定組成範囲内におけるLiO、AlおよびSiOの含有割合、および後述する結晶化のための全ての熱処理温度によって決定される。尚、結晶化度の好ましい範囲は70〜95質量%であり、更に好ましい範囲は80〜95質量%である。結晶化度は結晶化ガラス全体の質量に対する結晶質の質量の割合である。
【0027】
(9) (1)から(8)のいずれか記載の無機物粉末を含有する熱膨張制御用フィラー。
【0028】
本発明の無機物粉末は、ペースト状、液状の有機系マトリックスに配合する場合でも、上記のような粒子径であるので均一に分散できるが、更に混合性、充填性の向上や、各種マトリックス材料に配合されて作製された複合体の強度等の物性を改善する目的で本発明の無機物粉末以外の材料を添加して、熱膨張制御用のフィラーとしてもよい。フィラー中に含有される本発明の無機物粉末の量としては、10質量%以上、好ましくは30質量%以上、最も好ましくは50質量%以上である。
【0029】
(10) 無機物粉末の含有量が10質量%以上である(9)に記載の熱膨張制御用フィラー。
【0030】
(11) 有機系樹脂に(9)または(10)に記載の熱膨張制御用フィラーを含有する複合体。
【0031】
本発明の複合体は、有機系樹脂のマトリックス材料に本発明の無機物粉末を含有する熱膨張制御用フィラーを配合しているので、有機系樹脂が本来持つ熱膨張係数よりも低減されている。マトリックス材料としての有機系樹脂としては、フェノール系、アミノ系、ポリエステル系、アリル系、アルキド系、エポキシ系、ポリアミド系、ポリイミド系、ウレタン系、ケイ素系、エチレン系、スチレン系、ブタジエン系、ビニル系、アクリル系、ポリカーボネート系、ポリアセタール系、ポリエーテル系、ポリオレフィン系等の有機系樹脂が挙げられ、これら有機系樹脂を単独または複数個を組み合わせて使用してよい。そして、熱膨張制御用フィラーの配合割合としては1〜95質量%、より好ましくは30〜90質量%、最も好ましくは70〜90質量%である。
【0032】
(12) 前記有機系樹脂がフェノール系、アミノ系、ポリエステル系、アリル系、アルキド系、エポキシ系、ポリアミド系、ポリイミド系、ウレタン系、ケイ素系、エチレン系、スチレン系、ブタジエン系、ビニル系、アクリル系、ポリカーボネート系、ポリアセタール系、ポリエーテル系、ポリオレフィン系のいずれか1種類以上からなる(11)に記載の複合体。
【0033】
(13) 前記熱膨張制御用フィラーの含有量が質量%で1〜95%である(11)または(12)に記載の複合体。
【0034】
(14) 前記熱膨張制御用フィラーの含有量が質量%で70〜90%である(11)または(12)に記載の複合体。
【0035】
(15) 熱膨張係数−80×10−7〜+1000×10−7/℃を有する(13)または(14)に記載の複合体。
【0036】
熱膨張制御用フィラーは、上記のように粒度分布(メジアン径)におけるd90が150μm以下であり、かつ、d50が1μm以上50μm以下で、粒度分布の変動係数が200%以下で、アスペクト比が5.0以下といった粒度特性を有する無機物粉体を含有しているので、有機系樹脂のマトリックス材料に1〜95質量%の範囲で配合できるため、−40℃〜+160℃の温度範囲における熱膨張係数が−80×10−7〜+1000×10−7/℃の複合体を作製することができる。すなわち、熱膨張制御用フィラーの配合割合を調整することで、−80×10−7〜+1000×10−7/℃の熱膨張係数を有する複合体を適宜作製することができる。
【0037】
(16) 無機物に(9)または(10)に記載の熱膨張制御用フィラーを含有する複合体。
【0038】
本発明の複合体は、無機物のマトリックス材料に本発明の無機物粉末を含有する熱膨張制御用フィラーを配合しているので、無機物のマトリックス材料が本来持つ熱膨張係数よりも低減されたものである。無機物のマトリックス材料としては、ホウ酸塩、アルミン酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、チタン酸塩、バナジウム酸塩、クロム酸塩、マンガン酸塩、ニッケル酸塩、コバルト酸塩の各化合物が挙げられ、これらの化合物を単独または複数組み合わせてよい。また、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、水酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩の各セラミックスが挙げられ、これらのセラミックス化合物を単独または複数個を組み合わせてよい。更には、金属または金属合金であってもよい。そして、熱膨張制御用フィラーの配合割合としては、1〜95質量%であり、好ましくは70〜90質量%である。
【0039】
(17) 前記無機物が、ホウ酸塩、アルミン酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、チタン酸塩、バナジウム酸塩、クロム酸塩、マンガン酸塩、ニッケル酸塩、コバルト酸塩の各化合物のいずれか1種類以上からなる(16)に記載の複合体。
【0040】
(18) 前記無機物が、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、水酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩の各セラミックスのいずれか1種類以上からなる(16)に記載の複合体。
【0041】
(19) 前記無機物が、金属または金属合金である(16)に記載の複合体。
【0042】
(20) 前記熱膨張制御用フィラーの含有量が1〜95質量%である(16)から(19)のいずれかに記載の複合体。
【0043】
(21) 前記熱膨張制御用フィラーの含有量が70〜90質量%である(16)から(19)のいずれかに記載の複合体。
【0044】
(22) 熱膨張係数−80×10−7〜+400×10−7/℃を有する(20)または(21)に記載の複合体。
【0045】
無機物のマトリックス材料に上記の熱膨張制御用フィラーを1〜95質量%程度配合できるので、−40℃〜+600℃の温度範囲における熱膨張係数が−80×10−7〜+400×10−7/℃の複合体を作製することができる。すなわち、熱膨張制御用フィラーの配合割合を調整することで、−80×10−7〜+400×10−7/℃の熱膨張係数を有する複合体を適宜作製することができる。
【0046】
(23) 熱膨張係数−20×10−7〜+110×10−7/℃を有する(20)または(21)に記載の複合体。
【0047】
(24) 熱膨張係数−5×10−7〜+20×10−7/℃を有する(20)または(21)に記載の複合体。
【0048】
(25) 接着剤、封止剤、半導体部材またはその基板、電子部材またはその基板、測長用部材、精密測定機器用部材のいずれかとして用いられる(15)、(22)、(23)、(24)のいずれか記載の複合体。
【発明の効果】
【0049】
本発明の無機物粉末は、上記構成要件を採用することにより、広い温度範囲の変化に対して負の熱膨張係数を有し、しかも有機系樹脂や無機物のマトリックス材料のいずれに対しても混合性に優れる。このため、95質量%程度という高割合まで配合することができる。
【0050】
また、本発明の無機物粉末を含有する熱膨張制御用フィラーを配合した複合体は、広い温度範囲において熱膨張が低く、温度変化に対する寸法安定性が優れることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
次に、本発明の無機物粉末について、具体的な実施態様について説明する。
【0052】
本発明の無機物粉末は、その結晶相が、β−ユークリプタイト固溶体(β−LiO・Al・2SiO固溶体)、β−ユークリプタイト(β−LiO・Al・2SiO)、β−石英固溶体(β−SiO固溶体)およびβ−石英(β−SiO)から選ばれる1種または2種以上である。これら結晶相は、本発明の負熱膨張性無機物粉末の熱膨張係数に寄与する重要な要素である。ここで、固溶体とは、β−ユークリプタイト、あるいはβ−石英それぞれの結晶において、一部が置換されていたり、結晶間に原子が侵入しているものをいう。尚、本発明において前期記載の結晶の析出割合については、X線回折におけるX線チャート(縦軸はX線回折強度、横軸は回折角度)において、もっとも析出割合の多い結晶相のメインピーク(最も高いピーク)のX線回折強度を100とした場合、各析出結晶相のメインピーク(各結晶相における最も高いピーク)のX線回折強度の比(以下、X線強度比という)が、30以上あるもの全てを主結晶相という。ここで、主結晶相以外の結晶のX線強度比は20未満が好ましく、更に好ましくは10未満、最も好ましくは5未満である。
【0053】
本発明の無機物粉末は、熱膨張率が−40℃〜+600℃の温度範囲において負の熱膨張係数であって、−10×10−7/℃より負膨張であり、好ましくは−40×10−7/℃以下、より好ましくは−70×10−7/℃以下の負の熱膨張係数を有するものであり、比重が3.0以下であり、また、その平均粒子径が粒度分布におけるメジアン径であるd90が150μm以下であり、かつ、d50が1μm〜50μm、より好ましくはd90が100μm以下であり、かつ、d50が1μm〜30μm、更に好ましくはd90が80μm以下であり、かつ、d50が1μm〜20μm、最も好ましくはd90が50μm以下であり、かつ、d50が1μm〜10μmである。また、頻度粒度分布の変動係数が200%以下である。また、アスペクト比が好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下、最も好ましくは2.0以下である。
【0054】
これによって、有機系樹脂や無機物のマトリック材料中に95質量%という高い割合まで配合することが可能となる。また、マトリックス材料の形態が粉末状、ペースト状、液状であっても、容易に、かつ均一に混合されることになり、扱い易い粘性の混合物をもつ複合体を作製できる。
【0055】
1μm〜50μmの領域に含まれる粒子成分は、マトリックス材料に配合する時に核となる粒子成分であり、平均粒子径が1μm未満となると、マトリックス材料に配合する際に、マトリックスの性状により無機物粉末が凝集したり、粉塵となって飛散したりするおそれがある。また、50μmよりも大きくなるとマトリックス材料との混合性や成形性が悪くなり、緻密で均一な複合体を得ることが困難となってくる。ここで、粒子径とは、粒度分布測定装置等を用いて測定される体積基準分布の粒径をいい、平均粒径とは累積分布が50%に相当するいわゆるメジアン径d50のことをいう。
【0056】
また、頻度粒度分布の変動係数を200%以下にすることで、無機物粉体の粒径のばらつきが小さく、凝集粒子が少なくなり、マトリックス材料に配合した場合の分散性や得られた複合体の平滑性が得られて、作製した複合体の均質性(特に熱膨張に関して)が向上されることになる。ここで、変動係数(CV)とは、体積平均粒子径(Dn)に対する粒子の体積平均粒子径の標準偏差(σ)の比であり、下記式によって計算で求められる。
【0057】
【数1】

【0058】
また、アスペクト比を5以下にすることで、無機物粉末の形状が扁平でなく、等方性に近いので、該粒子が層状に配列することなく混合され、マトリックス材料への充填性、分散性に優れることになる。このため、作製した複合材の均質性(特に熱膨張に関して)が向上されることになる。アスペクト比は、走査型電子顕微鏡により写真を撮影し、この画像の250個の粒子のそれぞれについて測定される値である。
【0059】
本発明の無機物粉末は、例えば、下記の組成範囲からなる親ガラス(原ガラス)から負熱膨張性ガラスセラミックスを作製し、該ガラスセラミックスをボールミル等の粉砕装置により粉砕することで得ることができる。原料となる負熱膨張性ガラスセラミックスは特定組成を有する原ガラスを所定の条件で熱処理することにより、正の熱膨張係数を有するガラス相中に、負の熱膨張係数を有する上記結晶相を析出させ、または、ガラス相全てを上記結晶相を含む結晶相に相転移させて、ガラスセラミックス全体として熱膨張係数を所望の負の数値範囲内に制御することで作製される。これらの結晶相の種類およびガラスセラミックス全体に対する結晶化度は、特定組成範囲内におけるLiO、AlおよびSiOの含有割合、結晶化のための熱処理温度によって決定される。尚、結晶化度の好ましい範囲は70〜99質量%であり、更に好ましい範囲は70〜95質量%である。
【0060】
本発明の無機物粉末は、各成分を質量%で、以下の範囲で含有させることが好ましい。
SiO:40〜65%、
Al:25〜42%、
LiO:7〜13%、
:0〜3%、
BaO:0〜3%、
SrO:0〜3%、
BaO+SrO:0.5〜5%、
MgO:0〜2%、
CaO:0〜2%、
ZnO:0〜6%、
:0〜4%、
ZrO:0〜2%、
TiO:0〜3%、
TiO+ZrO:0.5〜4.5%、
As+Sb:0〜2%
【0061】
次に、各成分を上記した範囲に限定した理由を述べる。SiO、LiOおよびAl成分は、結晶相であるβ−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英、β−石英固溶体の構成要素となる重要な成分である。SiO成分は、負の熱膨張係数をもつ上記主結晶の主成分であるが、その量が40%未満の場合には所望の結晶相が十分に析出し難くなり、65%を超えると、ガラスの溶融清澄が困難になる上に、所望結晶相以外の結晶相が析出することから、SiO成分量の好ましい範囲は40〜65%であり、更に好ましい範囲は42〜60%、最も好ましい範囲は45〜55%である。
【0062】
Al成分は、25%未満では、ガラスの溶融が困難となるため原ガラスの均質性が低下し、また、所望の結晶相が必要量生成し難くなる。一方、42%を超えると融点が高温になりすぎ、ガラスの溶融清澄が困難になるため、Al成分の望ましい範囲は、25〜42%であり、更に好ましい範囲は26〜40%、最も好ましい範囲は27〜37%である。
【0063】
LiO成分は、7%未満であると必要な量の所望の結晶相が得られなくなる。また、13%を超えると、ガラス化し難くなり、その上、熱処理後のガラスセラミックスの強度が低下するため、好ましい範囲は7〜13%であり、更に好ましい範囲は8〜12%、最も好ましい範囲は9〜12%である。
【0064】
BaO、SrO、MgO、ZnOおよびCaOの各成分は、β−ユークリプタイト固溶体(β−LiO・Al・2SiO固溶体)およびβ−石英固溶体(β−SiO固溶体)の構成要素となる重要な成分であるが、これら各成分の量が、それぞれ、0〜3%、0〜3%、0〜2%、0〜6%および0〜2%であり、これらの上限値を超えると熱膨張係数が大きくなり、目標とする熱膨張係数が得難くなる。
【0065】
また、上記各成分のうち、BaO成分は原ガラスの溶解時に、坩堝の白金と原ガラス中の他の金属元素とが合金化するのを防ぐと共に、原ガラスの耐失透性を維持する効果があるため、好ましくは0.5〜2.5%、最も好ましい範囲は1.0〜2.0%である。
【0066】
またSrO成分も原ガラスの耐失透性を維持する効果と共に、他のRO(金属酸化物)成分と組み合わせることにより熱膨張係数のヒステリシスを小さくする効果があるため、好ましくは0.5〜2.5%、最も好ましい範囲は1.0〜2.0%である。なお、前述のように原ガラスの耐失透性を維持するためにBaO+SrOは0.5〜5%、更に好ましくは1.0〜3.5%であることがより望ましい。
【0067】
またMgO成分はガラスの溶融清澄を向上させる効果を有するが、ガラスセラミックスの熱膨張係数を大きくする効果が有るため、2%を超えると、十分な負の熱膨張係数が得られなくなると共に、熱膨張係数のヒステリシスが悪くなり、またガラスの安定性が悪くなるため、好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1%であることが望ましい。
【0068】
ZnO成分は、ガラスの溶融清澄を向上させる効果およびガラスセラミックスの熱膨張係数を負にする効果を有するが、6%を超えるとガラスの安定性が悪くなる。好ましい範囲は0.5〜5%である。
【0069】
CaO成分はガラスの溶融清澄を向上させる効果を有するが、2%を超えると、十分な負の熱膨張係数が得られなくなるため、好ましくは0〜2%まで、更に好ましくは0〜1.5%がよい。
【0070】
、ZrOおよびTiOの各成分は、いずれも結晶核形成剤として作用するが、これら各成分の量が、それぞれ、0〜4%、0〜2%、および0〜3%であり、これら上限を超えると、原ガラスの溶融清澄が困難となり、未溶融物が発生することがある。尚、ZrOの好ましい範囲は0.5〜2.0%、最も好ましい範囲は1.0〜1.5%であり、TiOの好ましい範囲は0.5〜3.0%、最も好ましい範囲は1.0〜2.5%である。またTiO+ZrOが4.5%を超えると所望の熱膨張係数が得られ難くなるため0.5〜4.5%までとするのが望ましい。
【0071】
AsおよびSb成分は、均質な製品を得るためガラス溶融の際の清澄剤として添加し得るが、これらの成分の量は、0〜2%が好ましい。
【0072】
成分は、原ガラスの溶融性改善等の目的で任意に添加できるが、負熱膨張性ガラスセラミックスのガラス相部分となる成分であり、その量が3%を超えると、所望の結晶相の生成に支障をきたし、熱膨張係数が目標とする値より大きくなるので好ましくは0〜3%の範囲とするのが望ましい。
【0073】
上記成分の他に本発明のガラスセラミックスの所望の特性を損なわない範囲で、F、La、Ta、GeO、Bi、WO、Y、Gd、SnO、CoO、NiO、MnO、Fe、Cr、Nb、V、Yb、CeO、CsO等を各々3%まで添加することができる。
【0074】
尚、PbO成分は、環境上好ましくない成分であり、また、NaOおよびKO成分は、成膜や洗浄などの後工程において、これらのイオンが拡散して負熱膨張性ガラスセラミックスの物性が変化してしまうので、PbO、NaOおよびKO成分を実質的に含有しないことが好ましい。
【0075】
ここで、「実質的には含有しない」とは、少なくとも「本発明の特徴を本質的に変化させることのない程度の量は含んでもよい」ということを表している。
【0076】
以下、本発明の無機物粉末の製造法について説明する。
【0077】
まず、上述した組成になるように酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩などのガラス原料を秤量、調合し、坩堝などに入れ、約1300〜1500℃で約6時間〜8時間、撹拌しながら溶融し、清澄な状態の原ガラスを得る。
【0078】
次に原ガラスを以下の方法で、結晶化して負熱膨張性ガラスセラミックスを作製する。
【0079】
上記のように原ガラスを溶融した後、金型等にキャストして成形した後、徐冷する。次に、熱処理を行う。まず、550〜800℃の温度で保持し、核形成を促す(第1の熱処理)。この核形成温度は550℃より低くても、あるいは800℃より高くても所望の結晶核が生成し難い。更に好ましくは580〜750℃、最も好ましい範囲は600〜700℃である。また熱処理時間については、所望の特性を得るためには、0.5〜50時間に設定することが望ましく、より好ましい特性および生産性・コストの点から1〜30時間であれば更に好ましい。
【0080】
核形成後、700〜950℃、好ましくは700〜900℃、最も好ましい範囲は710〜800℃の温度で、結晶化する(第2の熱処理)。結晶化後は、50℃/hr以下、更に好ましくは25℃/hr以下の速度で徐冷することが望ましい。結晶化時間についても、0.5〜30時間に設定することが望ましく、第1の熱処理と同様の理由から1〜20時間であれば、更に好ましい。
【0081】
次に、得られた負熱膨張性ガラスセラミックスをチッピングハンマー等で粗粉砕し、ボールミル、振動ミル、ローラーミル、ジェットミル等の公知の粉砕装置により、粉砕して、篩で分級し、無機物粉末を得た。
【0082】
更に、本発明の無機物粉末は、上記のような粒子径や形状であるので、そのままでマトリックス材料に配合しても均一に分散できるが、マトリックス材料に配合する際の混合性、作業性の改善や得られた複合体の強度等の性能の向上の目的で本発明の無機物粉末以外の材料を添加した熱膨張制御用フィラーとしてもよい。このフィラーをマトリックス材料に配合することで、混合性、充填性や作成した複合体の強度等の物性等がより一層向上される。尚、この熱膨張制御用フィラーは本発明の無機物粉末が10質量%以上含有されたものであるのが好ましい。また、添加する材料としては、無機固体粉末等が挙げられる。
【0083】
本発明の無機物粉末は、単体または上記の熱膨張制御用フィラーの形で有機系樹脂や無機物の各種マトリックス材料に配合することにより、これらのマトリックス材料の熱膨張係数が低減されるので、寸法安定性や熱的安定性に優れる低熱膨張性の複合体を作製することができる。また、マトリックス材料に対して1〜95質量%程度配合してもマトリックス材料との混合性、充填性および作製された複合体の物性面等において支障がないので、配合量を適宜選定することで、所望する熱膨張率の複合体を作製することができる。
【0084】
マトリックス材料としては、フェノール系、アミノ系、ポリエステル系、アリル系、アルキド系、エポキシ系、ポリアミド系、ポリイミド系、ウレタン系、ケイ素系、エチレン系、スチレン系、ブタジエン系、ビニル系、アクリル系、ポリカーボネート系、ポリアセタール系、ポリエーテル系、ポリオレフィン系の有機系樹脂が挙げられる。これらの有機系樹脂は単独または複数個組み合わせてもよい。また、無機物のマトリックス材料として、ホウ酸塩、アルミン酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、チタン酸塩、バナジウム酸塩、クロム酸塩、マンガン酸塩、ニッケル酸塩、コバルト酸塩の各化合物が挙げられ、これらの化合物を単独または複数組み合わせてよい。また、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、水酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩の各セラミックスが挙げられ、これらのセラミックスを単独または複数個を組み合わせてよい。更には、金属または金属合金であってもよい。
【0085】
マトリックス材料として有機系樹脂を用いた複合体は、接着剤、封止剤、アンダーフィル材料、あるいはポッティング材料等の用途に使用される。これらの有機系樹脂は一般的に100×10−7/℃〜1000×10−7/℃オーダーのかなり大きな熱膨張率を有する。従って、マトリックス材料は、集積回路に使用される典型的な半導体材料、例えばシリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、リン化インジウム(InP)、およびインジウム・アンチモン(InSb)との、並びに典型的な光学材料および光学アセンブリー材料、例えば石英およびインバーとの大きな不整合を示す。そこで、このマトリックス材料に本発明の無機物粉末、または該無機物粉末を含有する熱膨張制御用フィラーを無機物粉末換算で1〜95質量%、好ましくは20〜95質量%、より好ましくは40〜95質量%、更に好ましくは60〜90質量%、最も好ましくは70〜90質量%配合することで、熱膨張係数が好ましくは−80×10−7/℃〜1000×10−7/℃、更に好ましくは−50×10−7/℃〜200×10−7/℃の有機系の複合体を作成することができる。例えば、500×10−7/℃の熱膨張係数を有する有機系樹脂のマトリックス材料に熱伝導係数が−80×10−7/℃の本発明の無機物粉末を配合して、熱伝導係数が100×10−7/℃の複合体を作製するには、約74質量%の無機物粉末を配合すればよい。また、熱膨張係数が−10×10−7/℃の複合体を作製するには、約92質量%の無機物粉末を配合すればよいことになる。このように、有機系樹脂のマトリックス材料を用いた複合体を接着剤、封止材等として利用する際に、使用するマトリックス材料の種類等に応じて、無機物粉末あるいは熱膨張制御用フィラーの配合量を適宜設定することで所望とする熱膨張係数を有する有機系複合体を作製することができる。
【0086】
また、マトリックス材料として無機系化合物やセラミックスあるいは金属等の無機物を使用した複合体も、接着剤、封止剤、アンダーフィル材料、あるいはポッティング材料等の用途に使用される。これらの無機系化合物やセラミックスあるいは金属等は一般的に5×10−7/℃〜400×10−7/℃オーダーのかなり大きな熱膨張率を有する。従って、マトリックス材料は、有機系樹脂を用いた複合体と同様に、集積回路に使用される典型的な半導体材料、例えばシリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、リン化インジウム(InP)、およびインジウム・アンチモン(InSb)との、並びに典型的な光学材料および光学アセンブリー材料、例えば石英およびインバーとの大きな不整合を示す。そこで、このマトリックス材料に本発明の無機物粉末、または該無機物粉末を含有する熱膨張制御用フィラーを無機物粉末換算で1〜95質量%、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは30〜95質量%、更に好ましくは50〜90質量%、最も好ましくは70〜90質量%配合することで、好ましくは熱膨張係数が−80×10−7/℃〜400×10−7/℃、更に好ましくは−60×10−7/℃〜150×10−7/℃、最も好ましくは−5×10−7/℃〜20×10−7/℃の無機系化合物、セラミックス、金属系の各複合体を作成することが可能となる。例えば、300×10−7/℃の熱膨張係数を有する無機系のマトリックス材料に熱伝導係数が−80×10−7/℃の本発明の無機物粉体を配合して、熱伝導係数が150×10−7/℃の複合体を作製するには、約41質量%の無機物粉末を配合すればよい。また、熱膨張係数が−20×10−7/℃の複合体を作製するには、約77質量%の無機物粉末を配合すればよいことになる。このように、無機系化合物やセラミックスのマトリックス材料を用いた複合体においても、接着剤、封止材等として利用する際には、使用するマトリックス材料の種類等に応じて、本発明の無機物粉末あるいは熱膨張制御用フィラーの配合量を適宜設定することで、所望とする熱膨張係数の複合体を作製することができる。
【0087】
以上に説明したように、本発明の無機物粉末は、有機系樹脂、無機系化合物、セラミックス等の有機系、無機系マトリックス材料に所定の割合で配合することで、所望とする熱膨張係数を有する複合体を容易に作成することができる。このため、各種デバイス、精密部品等に使用される有機物質や無機物質、例えば接着剤や封着材等に配合されて、これら物質の熱膨張係数を適切な値に調整することができ、更に、寸法精度や寸法安定性、強度、熱的安定性なども満足させることができるので、得られた複合体は、接着剤、封止剤、半導体部材またはその基板、電子部材またはその基板、測長用部材、精密測定機器用部材のいずれかとして用いることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
<実施例1>
本発明の無機物粉末(ガラスセラミックス粉末)は、次のように製造した。
【0090】
まず重量%で、SiO45.0%、Al36.9%、LiO11.6%、BaO1.5%、SrO1.0%、MgO0.5%、ZnO0.5%、ZrO1.0%、TiO1.0%、Sb0.5%の組成で酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等のガラス原料を秤量、調合し、白金坩堝に入れ、これを通常の溶解装置を用いて1450℃の溶解温度で6〜8時間溶融、撹拌した。
【0091】
次に、溶融した原ガラスを金型にキャストして成形した後、徐冷し、それぞれガラス成形体を得た。その後、ガラス成形体を粉砕せずに、そのまま焼成炉に入れて、加熱・昇温し、640℃で5時間保持して、結晶核を形成した。続いて、720℃で5時間保持して結晶化した後、50℃/hr以下の速度で徐冷してガラスセラミックスを得た。尚、得られたガラスセラミックスはβ−ユークリプタイト固溶体からなる結晶相を有する。
【0092】
次いで、得られたガラスセラミックスをチッピングハンマーにて粗粉砕し、アルミナボールミルで48hr程度粉砕し、更に径15mmのボールを入れたボールミルで24hr程度粉砕し、篩目53μmの篩で分級してガラスセラミックス粉末Aを得た。
【0093】
得られたガラスセラミックス粉末Aについて、レーザー光散乱・回析式粒度分布測定装置(Coulter社製)を用いて、ガラスセラミックス粉末の体積基準の粒度分布を測定してメジアン径、変動係数を求め、また、S−3000N型走査電子顕微鏡(HITACHI社製)を用いて、ガラスセラミックス粉末Aのアスペクト比を求めた。また、X線回折法により分析して、結晶相を同定した。
【0094】
また、得られたガラスセラミックス粉末Aの熱膨張係数を以下のようにして測定した。
【0095】
先ず、得られたガラスセラミックス粉末Aをハンドプレス器(島津製作所社製)にて、圧力4t、加圧時間30秒の条件で加圧成形し、更にCIP(神戸製作所社製)にて2500Kg/cm、15分で加圧成形して圧粉体を作製した。
【0096】
次いで、この圧粉体を1000℃で10hr焼成して、バルク材を作製した。
【0097】
得られたバルク材を熱膨張測定機により、温度範囲−40℃〜+600℃における熱膨張係数を測定した。
【0098】
ガラスセラミックス粉末Aは、メジアン径において、d90が22.52μmで、d50が6.005μmであり、変動係数が96.2%、アスペクト比の平均値が2.5、熱膨張係数が−74×10−7/℃、比重が2.7であった。また、ガラスセラミックス粉末Aの体積基準の粒度分布を図1に、また、走査型電子顕微鏡で撮影したSEM写真を図2に示した。
【0099】
<試験例1>(無機系化合物複合体における熱膨張係数の低減効果)
マトリックス材料として無機系化合物を用い、実施例1のガラスセラミックス粉末Aをフィラーとして配合した無機系複合体の熱膨張係数の低減効果を検討した。
【0100】
無機系化合物としてリン酸アルミニウム系化合物を使用し、該化合物に実施例1で得られたガラスセラミックス粉末Aを0〜88質量%の所定の割合で配合し、これらを蒸留水に添加して、アルミナボールミルにて24hr混合・撹拌して混合物を作製した。
【0101】
次いで、これらの混合物を撹拌脱泡し、25×25×50mmサイズで乾燥硬化したリン酸アルミニウム系複合体(バルク材)をそれぞれ作製した。
【0102】
得られたバルク材を熱膨張測定機により、温度範囲−40℃〜+600℃の温度範囲における熱膨張係数を測定した。そして、ガラスセラミックス粉末Aの配合割合別で作製した複合体の熱膨張係数を表1に示した。
【0103】
【表1】

【0104】
表1に示すように、ガラスセラミックス粉末Aの配合割合が増加するにつれて熱膨張係数が低減する結果であった。
【0105】
<試験例2>(セラミックス複合体における熱膨張係数の低減効果)
マトリックス材料としてセラミックスを用い、実施例1のガラスセラミックス粉末Aを配合してセラミックス系複合体の熱膨張係数の低減効果を検討した。
【0106】
セラミックスとしてアルミナ粉末を使用し、該アルミナ粉末に実施例1で得られたガラスセラミックス粉末Aを0〜61質量%の割合で配合し、ボールミルにて24hr混合して各粉末混合物を作製した。
【0107】
次いで、これらの粉末混合物をハンドプレス器(島津製作所社製)にて、圧力4t、加圧時間30秒の条件で加圧成形し、更にCIP(神戸製作所社製)にて2500Kg/cm、15分で加圧成形して圧粉体を作製した。
【0108】
次いで、この圧粉体を1000℃で10hr焼成して、セラミックス複合体(バルク材)を作製した。
【0109】
得られたバルク材を熱膨張測定機により、温度範囲−40℃〜+600℃の温度範囲における熱膨張係数を測定した。そして、ガラスセラミックス粉末Aの配合割合別で作製した複合体の熱膨張係数を表2に示した。
【0110】
【表2】

【0111】
表2に示すように、ガラスセラミックス粉末Aの配合割合が増加するにつれて熱膨張係数が低減する結果であった。
【0112】
これらの結果より、それぞれのマトリックス材料において、本発明の無機物粉末の配合割合を適宜選定することにより、所望の熱膨張係数を有する複合体を得られることが確認された。
【0113】
<実施例2>
実施例2の無機物粉末(ガラスセラミックス粉末)は、次のように製造した。
【0114】
まず、実施例1と同様の方法でガラスセラミックス粉末Aを得た。得られた粉末Aを更に、KJ−25ジェットミル(栗本鐵工所製)にて粉砕、分級機内部のセパレータ回転数を12000rpmとすることで目的とするガラスセラミックス粉末Bを得た。
【0115】
得られたガラスセラミックス粉末Bについて、実施例1と同様の方法で、メジアン径、変動係数、アスペクト比、熱膨張係数を測定した。
【0116】
その結果、ガラスセラミックス粉末Bは、メジアン径において、d90が3.685μmで、d50が2.157μmで、平均径が2.302μmであり、変動係数が43.6%、アスペクト比の平均値が1.7、熱膨張係数が−74×10−7/℃、比重が2.7であった。また、ガラスセラミックス粉末Bの体積基準の粒度分布を図3に、また、走査型電子顕微鏡で撮影したSEM写真を図4に示した。
【0117】
<試験例3>(有機系樹脂複合体における熱膨張係数の低減効果)
マトリックス材料として有機系樹脂を用い、実施例2のガラスセラミックス粉末Bをフィラーとして配合した有機系樹脂複合体の熱膨張係数の低減効果を検討した。
【0118】
バインダーとなる有機系樹脂としては、Demotec(登録商標)「Kunststoff Kaltpolymerisat NHS」(株式会社ナノファクター社製)のアクリル樹脂を用いた。尚、該アクリル樹脂は粉体と液体とから構成されており、これらを所定の割合で混合して用いるものである。
【0119】
該バインダー構成成分である粉末と液体とを、表3に示すように、粉体:液体=1:3、1:6、1:9(質量比)の割合で混合する。次いで、充分に混合された状態の各バインダーに上記のガラスセラミックス粉末Bを、表3に示すように、添加量を変えて添加し、撹拌脱泡機ARV−200(シンキー社製)で10分間撹拌する。撹拌後、同装置により2分間真空脱泡を行い、次いで、バインダーとガラスセラミックス粉末Bとが混合されたスラリーを型に流し、24hr室温で乾燥硬化させた後、60℃で1週間加熱硬化し、25×25×50mmサイズの有機系樹脂複合体(バルク材)を作製した。
【0120】
得られたバルク材を熱膨張測定機により、温度範囲0℃〜+50℃の温度範囲における熱膨張係数を測定した。そして、ガラスセラミックス粉末Bの配合割合別で作製した各複合体の熱膨張係数を表3に示した。
【0121】
【表3】

【0122】
表3に示すように、バインダー構成成分の比率を変えたそれぞれのマトリックス材料において、いずれもガラスセラミックス粉末Bの配合割合が増加するにつれて熱膨張係数が低減する結果であった。
【0123】
この結果より、本発明の無機物粉末の配合割合を適宜選定することにより、所望の熱膨張係数を有する複合体を得られることが確認された。また、本発明の無機物粉末の配合割合を増加させることで、熱膨張係数が低減することが確認された。
【0124】
<実施例3>(無機系複合体)
無機系化合物としてリン酸アルミニウム系化合物のセラマボンド618N−T(AREMCO社製)37.9gに蒸留水10gを添加し、更に実施例1のガラスセラミックス粉末Aを25g加え、ボールミルにて24hr混合・撹拌して混合物を作製した。
【0125】
次いで、この混合物を撹拌脱泡し、25×25×50mmサイズで乾燥硬化したリン酸アルミニウム系複合体(バルク材)を作製した。
【0126】
得られたバルク材を熱膨張測定機により、温度範囲−40℃〜+600℃における熱膨張係数を測定した。その結果、熱膨張係数は1.2×10−7/℃で、リン酸アルミニウム系化合物の熱膨張係数、約100×10−7/℃に比べて大幅に低減されていた。
【0127】
<実施例4>(セラミック複合体)
セラミックスとしてアルミナ粉末(AL−15−1、昭和電工社製)19.9gに実施例1のガラスセラミックス粉末Aを12.5g加え、ボールミルにて24hr混合して粉末混合物を作製した。
【0128】
次いで、この粉末混合物をハンドプレス器(島津製作所社製)にて、圧力4t、加圧時間30秒の条件で加圧成形し、更にCIP(神戸製作所社製)にて2500Kg/cm、15分で加圧成形して圧粉体を作製した。
【0129】
次に、圧粉体を1000℃で10hr焼成して、セラミックス複合体(バルク材)を作製した。
【0130】
得られたバルク材を熱膨張測定機により、温度範囲−40℃〜+600℃における熱膨張係数を測定した。その結果、熱膨張係数は1.8×10−7/℃で、アルミナ系セラミックスの熱膨張係数、約70×10−7/℃に比べて大幅に低減されていた。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】実施例1のガラスセラミックス粉末Aの体積基準の粒度分布を示す図である。
【図2】実施例1のガラスセラミックス粉末AのSEM写真である。
【図3】実施例2のガラスセラミックス粉末Bの体積基準の粒度分布を示す図である。
【図4】実施例2のガラスセラミックス粉末BのSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−ユークリプタイト、β−ユークリプタイト固溶体、β−石英、β−石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有する無機物粉末であって、
−40℃〜+600℃における熱膨張率が負の熱膨張係数であり、
前記無機物粉末の粒度分布(メジアン径)におけるd90が150μm以下であり、かつ、d50が1μm以上50μm以下である無機物粉末。
【請求項2】
前記d50が1μm以上10μm以下である請求項1に記載の無機物粉末。
【請求項3】
前記d90が50μm以下である請求項1または2に記載の無機物粉末。
【請求項4】
前記粒度分布における変動係数が200%以下である請求項1から3のいずれか記載の無機物粉末。
【請求項5】
アスペクト比の平均値が5.0以下である請求項1から4のいずれか記載の無機物粉末。
【請求項6】
比重が3.0以下である請求項1から5のいずれか記載の無機物粉末。
【請求項7】
前記無機物粉末を構成する無機物が酸化物である請求項1から6のいずれか記載の無機物粉末。
【請求項8】
前記無機物粉末を構成する無機物がガラスセラミックスである請求項1から7のいずれか記載の無機物粉末。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか記載の無機物粉末を含有する熱膨張制御用フィラー。
【請求項10】
前記無機物粉末の含有量が10質量%以上である請求項9に記載の熱膨張制御用フィラー。
【請求項11】
有機系樹脂に請求項9または10に記載の熱膨張制御用フィラーを含有する複合体。
【請求項12】
前記有機系樹脂がフェノール系、アミノ系、ポリエステル系、アリル系、アルキド系、エポキシ系、ポリアミド系、ポリイミド系、ウレタン系、ケイ素系、エチレン系、スチレン系、ブタジエン系、ビニル系、アクリル系、ポリカーボネート系、ポリアセタール系、ポリエーテル系、ポリオレフィン系のいずれか1種類以上からなる請求項11に記載の複合体。
【請求項13】
前記熱膨張制御用フィラーの含有量が質量%で1〜95%である請求項11または12に記載の複合体。
【請求項14】
前記熱膨張制御用フィラーの含有量が質量%で70〜90%である請求項11または12に記載の複合体。
【請求項15】
熱膨張係数−80×10−7〜+1000×10−7/℃を有する請求項13または14に記載の複合体。
【請求項16】
無機物に請求項9または10に記載の熱膨張制御用フィラーを含有する複合体。
【請求項17】
前記無機物が、ホウ酸塩、アルミン酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、チタン酸塩、バナジウム酸塩、クロム酸塩、マンガン酸塩、ニッケル酸塩、コバルト酸塩の各化合物のいずれか1種類以上からなる請求項16に記載の複合体。
【請求項18】
前記無機物が、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、水酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩の各セラミックスのいずれか1種類以上からなる請求項16に記載の複合体。
【請求項19】
前記無機物が、金属または金属合金である請求項16に記載の複合体。
【請求項20】
前記熱膨張制御用フィラーの含有量が1〜95質量%である請求項16から19のいずれか記載の複合体。
【請求項21】
前記熱膨張制御用フィラーの含有量が70〜90質量%である請求項16から19のいずれか記載の複合体。
【請求項22】
熱膨張係数−80×10−7〜+400×10−7/℃を有する請求項20または21に記載の複合体。
【請求項23】
熱膨張係数−60×10−7〜+150×10−7/℃を有する請求項20または21に記載の複合体。
【請求項24】
熱膨張係数−5×10−7〜+20×10−7/℃を有する請求項20または21に記載の複合体。
【請求項25】
接着剤、封止剤、半導体部材またはその基板、電子部材またはその基板、測長用部材、精密測定機器用部材のいずれかとして用いられる請求項15、22、23、24のいずれか記載の複合体。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−91577(P2007−91577A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180313(P2006−180313)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】