説明

無段変速機

【課題】ベルト滑りの発生時のベルトの回転方向を精度高く判定する。
【解決手段】無段変速機は、プライマリプーリ500と、セカンダリプーリ600と、複数のエレメントを環状に並べて形成され、プライマリプーリ500の溝およびセカンダリプーリ600の溝に巻き掛けられるベルト700と、ベルト700の外周側に設けられ、複数のエレメントの各々を検出するためのギャップセンサ702とを含む。複数のエレメントは、複数のエレメント(1)704と、ギャップセンサ702による検出結果が複数のエレメント(1)704の各々の場合と異なる複数のエレメント(2)708とを含む。複数のエレメント(2)708は、ベルト700の移動方向に沿ってベルト700上に不等間隔に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関し、特に、ベルト滑り発生時のベルトの回転方向を精度高く判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機は、エンジンとトルクコンバータ等を介して繋がるとともに複数の動力伝達経路を有してなる変速機構を有して構成される。このような変速機構としては、たとえば、ベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。このベルト式無段変速機は、V溝状のプーリ溝を備えた駆動側プーリ(入力軸プーリ、プライマリプーリ)と従動側プーリ(出力軸プーリ、セカンダリプーリ)とにベルトを巻掛け、一方のプーリの溝幅を拡大すると同時に他方のプーリの溝幅を狭くすることにより、それぞれのプーリに対するベルトの巻き掛け半径(有効径)を連続的に変化させて変速比を無段階に設定するように構成されている。各プーリを固定シーブと可動シーブとによって構成し、可動シーブをその背面側に設けた油圧アクチュエータにより軸線方向に前後動させることにより変速を行なうように構成されている。
【0003】
このように構成されるベルト式無段変速機として、たとえば、特開2003−222234号公報(特許文献1)は、無段変速機において、ベルトスリップの判定が精度良く行え、ポンプロスの低減、燃費の向上を図る無段変速機の制御装置を開示する。この無段変速機の制御装置は、一対のプーリと、一対のプーリ間に巻き掛けられた駆動ベルトとを有する無段変速機の制御装置において、駆動ベルトにおいて、駆動ベルトの変位方向に対して所定の間隔で設けられた複数の検出ポイントと、駆動ベルトと離間して配置されており、駆動ベルトに設けられた検出ポイントの通過を検出する非接触変位センサと、非接触変位センサにより検出された検出ポイントの検出間隔に基づいて、駆動ベルトのベルト速度を算出する第1の算出手段と、プーリの回転数とプーリのベルト巻掛け径とに基づいて、プーリのプーリ周速を算出する第2の算出手段と、ベルト速度とプーリ周速とに基づいて、駆動ベルトのスリップ状態を判定するとともに、判定結果に応じて、プーリによる駆動ベルトのクランプ力を制御する制御部とを有することを特徴とする。
【0004】
上述した公報に開示された無段変速機の制御装置によると、ベルトスリップの有無を常に監視でき、常に状況に応じた必要油圧が精度良く察知できる。これにより、必要油圧が低減可能になるため、最小油圧にて運転が行える。その結果、余分な油圧の消費が効率良く低減されるため、ポンプロスが低減化されるとともに、燃費の向上が図れる。
【特許文献1】特開2003−222234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した公報に開示された無段変速機の制御装置においては、検出ポイントが所定の間隔で駆動ベルトに設けられているため、ベルト滑りが発生した際にベルトが正回転であるか逆回転であるかを判定することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ベルト滑りの発生時のベルトの回転方向を精度高く判定する無段変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る無段変速機は、駆動側プーリと、従動側プーリと、複数のエレメントを環状に並べて形成され、駆動側プーリの溝および従動側プーリの溝に巻き掛けられるベルトと、ベルトの外周側に設けられ、複数のエレメントの各々を検出するための検出手段とを含む。複数のエレメントは、複数の第1のエレメントと、検出手段による検出結果が複数の第1のエレメントの各々の場合と異なる複数の第2のエレメントとを含む。複数の第2のエレメントは、ベルトの移動方向に沿ってベルト上に不等間隔に配置される。
【0008】
第1の発明によると、複数の第1のエレメントの検出手段による検出結果と、複数の第2のエレメントの検出手段による検出結果とが異なるため、ベルトが駆動している場合に、検出手段により検出されたエレメントが複数の第1のエレメント各々であるか複数の第2のエレメントの各々であるかを特定することができる。そのため、複数の第2のエレメントが検出される時間間隔の変化に基づいてベルトの実移動速度を精度高く検出することができる。そのため、ベルト滑りの発生の有無を精度高く判定することができる。さらに、複数の第2のエレメントをベルト上に不等間隔で配置するため、ベルトの正回転時と逆回転時とで、複数の第2のエレメントが検出される時間間隔の変化の順序を異なるようにすると、順序の違いによりベルトが正回転しているか逆回転しているかを精度高く判定することができる。したがって、ベルト滑り発生時のベルトの移動方向を精度高く判定する無段変速機を提供することができる。
【0009】
第2の発明に係る無段変速機においては、第1の発明の構成に加えて、検出手段は、駆動側プーリと従動側プーリとの中間位置に設けられ、ベルトの外周側に突出する部分から検出手段までの距離の変化を検出する。複数の第2のエレメントの各々と、複数の第1のエレメントの各々とは、ベルトの外周側に突出する部分の長さが異なる。
【0010】
第2の発明によると、複数の第1のエレメントの各々とベルトの外周側の部分の長さの異なる複数の第2のエレメントの各々がベルトに含まれるため、第2のエレメントが検出される時間間隔に基づいてベルトの実移動速度を精度高く検出することができる。そのため、ベルト滑りの発生の有無を精度高く判定することができる。さらに、複数の第2のエレメントを不等間隔で配置するため、ベルトの正回転時と逆回転時とで、複数の第2のエレメントが検出される時間間隔の変化の順序を異なるようにすると、順序の違いによりベルトが正回転しているか逆回転しているかを精度高く判定することができる。
【0011】
第3の発明に係る無段変速機においては、第1または2の発明の構成に加えて、無段変速機は、検出手段の結果に基づいてベルトが正回転であるか逆回転であるかを判定するための回転方向判定手段をさらに含む。
【0012】
第3の発明によると、たとえば、ベルトの正回転時と逆回転時とで、複数の第2のエレメントが検出される時間間隔の変化の順序を異なるようにすると、順序の違いによりベルトが正回転しているか逆回転しているかを精度高く判定することができる。
【0013】
第4の発明に係る無段変速機においては、第1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、ベルトは、複数の第2のエレメントの各々が、第1の間隔で配置される部分と、第1の間隔と異なる第2の間隔で配置される部分と、第1、第2の間隔と異なる第3の間隔で配置される部分とが正回転方向に沿って連続する第1の区間を含む。ベルトは、正回転時と逆回転時とで検出手段によって複数の第2のエレメントの各々が検出される時間間隔が変化する順序が異なるように形成される。
【0014】
第4の発明によると、ベルトは、第1、第2および第3の間隔で配置される部分が正回転方向に沿って連続する第1の区間を含み、さらに、正回転時と逆回転時とで、複数の第2のエレメントが検出される時間間隔が変化する順序が異なるように形成されるため、順序の違いによりベルトが正回転しているか逆回転しているかを精度高く判定することができる。
【0015】
第5の発明に係る無段変速機においては、第4の発明の構成に加えて、ベルトは、第2のエレメントが、第3の間隔で配置される部分と、第2の間隔で配置される部分と、第1の間隔で配置される部分とが正回転方向に沿って連続する第2の区間が第1の区間に隣接も重複もしないように形成される。
【0016】
第5の発明によると、第1の区間に第2の区間が隣接も重複もしないようにベルトを形成することにより、複数の第2のエレメントが検出される時間間隔が変化する順序を異なるようにすることができる。そのため、順序の違いによりベルトが正回転しているか逆回転しているかを精度高く判定することができる。
【0017】
第6の発明に係る無段変速機においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、無段変速機は、作動油の給排により生じる第1の油圧を用いて駆動側プーリの溝幅を変更する第1のアクチュエータと、作動油の給排により生じる第2の油圧を用いて従動側プーリの溝幅を変更する第2のアクチュエータと、駆動側プーリの回転数を検出するための第1の回転数検出手段と、従動側プーリの回転数を検出するための第2の回転数検出手段と、駆動側プーリの回転数と従動側プーリの回転数とに基づいて無段変速機の変速比を算出するための第1の算出手段と、駆動側プーリの回転数と、従動側プーリの回転数と、変速比とに基づいてベルトの推定移動速度を算出するための第2の算出手段と、推定移動速度と検出手段の検出結果に基づくベルトの実移動速度とに基づいて、ベルトの滑りが発生したか否かを判定するための判定手段と、ベルトの滑りが発生した場合に、ベルトの張力が増加するように第1のアクチュエータおよび第2のアクチュエータのうちの少なくともいずれか一方を制御するための制御手段とを含む。
【0018】
第6の発明によると、推定移動速度と実移動速度とが乖離するなどした場合に、ベルト滑りが発生したと判定してベルトの張力が増加するようにすることにより、ベルト滑りを抑制することができる。
【0019】
第7の発明に係る無段変速機においては、第6の発明の構成に加えて、制御手段は、ベルトの回転方向に応じてベルトの張力の増加の度合を変更する。
【0020】
第7の発明によると、ベルトの回転方向に応じてベルトの張力の増加の度合を変更することにより、ベルトの回転方向に応じて適切なベルトの張力の発生を実現することができるため、安全率の向上のために過度にベルトの張力を増加させる必要がない。すなわち、ベルト滑りの発生を抑制しつつ、ベルトへの負荷を低減し、伝達効率および燃費の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0022】
図1を参照して、本実施の形態に係る無段変速機が搭載される車両のパワートレーンについて説明する。本実施の形態に係る無段変速機は、ベルト式無段変速機である。
【0023】
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン100と、無段変速機350と、ディファレンシャルギヤ800とを含む。
【0024】
無段変速機350は、トルクコンバータ200と、前後進切換え装置290と、ベルト式無段変速機構300と、ECU(Electronic Control Unit)1000と、油圧制御部1100とを含む。
【0025】
エンジン100の出力軸は、トルクコンバータ200の入力軸に接続される。エンジン100とトルクコンバータ200とは回転軸により連結されている。したがって、エンジン回転数センサ432により検出されるエンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)とトルクコンバータ200の入力軸回転数(ポンプ回転数)とは同じである。
【0026】
トルクコンバータ200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ210と、入力軸側のポンプ羽根車220と、出力軸側のタービン羽根車230と、ワンウェイクラッチ250を有し、トルク増幅機能を発現するステータ240とから構成される。トルクコンバータ200とベルト式無段変速機構300とは、回転軸により接続される。トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサ400により検出される。
【0027】
トルクコンバータ200とベルト式無段変速機構300との間には、オイルポンプ260が設けられる。オイルポンプ260は、たとえば、ギヤポンプであって、入力軸側のポンプ羽根車220が回転するとともに作動する。オイルポンプ260は、ライン圧制御部1130に油圧を供給する。
【0028】
ベルト式無段変速機構300は、前後進切換え装置290を介在させてトルクコンバータ200に接続される。ベルト式無段変速機構300は、入力側のプライマリプーリ500と、出力側のセカンダリプーリ600と、プライマリプーリ500とセカンダリプーリ600とに巻き掛けられた金属製の円環状のベルト700とを含む。
【0029】
ベルト700は、プライマリプーリ500およびセカンダリプーリ600との接触面を有する複数のエレメントを環状に並べて形成される。
【0030】
プライマリプーリ500は、プライマリシャフト502に固定された固定シーブおよびプライマリシャフト502に摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。セカンダリプーリ600は、セカンダリシャフト602に固定されている固定シーブおよびセカンダリシャフト602に摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。
【0031】
プライマリプーリ500の油圧アクチュエータ(1)550には、作動油が給排されている。また、セカンダリプーリ600の油圧アクチュエータ(2)には、作動油が給排されている。変速は、各プーリ500,600の固定シーブと可動シーブとの間の溝幅を連続的に変化させることにより、ベルトの巻き掛け半径が大小に変化して行なわれる。
【0032】
油圧制御部1100は、プライマリプーリ500の回転数を目標回転数に一致させる変速比となるように、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータ(1)550に供給される油圧(以下、プライマリ油圧と記載する)を制御する。さらに、油圧制御部1100は、セカンダリプーリ600の可動シーブを固定シーブ側に押圧してベルトを挟みつけてトルクを伝達するのに必要な張力が発現するようにセカンダリプーリ600の油圧アクチュエータ(2)650に供給される油圧(以下、セカンダリ油圧と記載する)を制御する。
【0033】
ベルト式無段変速機構300のプライマリプーリ500の回転数NIN(以下、プライマリプーリ回転数NINと記載する)は、プライマリプーリ回転数センサ410により検出され、セカンダリプーリ600の回転数NOUT(以下、セカンダリプーリ回転数NOUTと記載する)は、セカンダリプーリ回転数センサ420により検出される。
【0034】
これら回転数センサは、プライマリプーリ500やセカンダリプーリ600の回転軸やこれに繋がるドライブシャフトに取付けられた回転検出用ギヤの歯に対向して設けられている。これらの回転数センサは、ベルト式無段変速機構300の、入力軸であるプライマリプーリ500や出力軸であるセカンダリプーリ600の僅かな回転の検出も可能なセンサであり、たとえば、一般的に半導体式センサと称される磁気抵抗素子を使用したセンサである。
【0035】
さらに、ギャップセンサ702は、ベルト700のエレメントとの距離の変化を検出する。ギャップセンサ702は、ベルト700のエレメントとの距離の変化を示す信号をECU1000に送信する。
【0036】
前後進切換え装置290は、ダブルピニオンプラネタリギヤ、リバース(後進用)ブレーキB1および入力クラッチC1を有している。プラネタリギヤは、そのサンギヤが入力軸に連結されており、第1および第2のピニオンP1,P2を支持するキャリヤCRがプライマリ側固定シーブに連結されており、そしてリングギヤRが後進用摩擦係合要素となるリバースブレーキB1に連結されており、またキャリヤCRとリングギヤRとの間に入力クラッチC1が介在している。この入力クラッチ310は、前進クラッチやフォワードクラッチとも呼ばれ、パーキング(P)ポジション、Rポジション、Nポジション以外の車両が前進するときに必ず係合状態で使用される。
【0037】
無段変速機350を制御するECU1000および油圧制御部1100について説明する。ECU1000には、タービン回転数センサ400からタービン回転数NTを表わす信号が、プライマリプーリ回転数センサ410からプライマリプーリ回転数NINを表わす信号が、セカンダリプーリ回転数センサ420からセカンダリプーリ回転数NOUTを表わす信号が、それぞれ入力される。ECU1000は、変速比=プライマリプーリ回転数NIN/セカンダリプーリ回転数NOUTより変速比を演算する。
【0038】
油圧制御部1100は、変速速度制御部1110と、ベルト挟圧力制御部1120と、ライン圧制御部1130と、ロックアップ係合圧制御部1132と、クラッチ圧制御部1140と、マニュアルバルブ1150とを含む。ECU1000は、油圧制御部1100の変速制御用デューティソレノイド(1)1200と、変速制御用デューティソレノイド(2)1210と、ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220と、ライン圧制御用リニアソレノイド1230と、ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド1240に対して制御信号を出力する。
【0039】
変速速度制御部1110は、車輪速に基づく車速やアクセル開度に応じて、変速制御用デューティソレノイド(1)1200により、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータへの作動油の流入量を制御することにより増速側の変速速度を制御する。さらに、変速速度制御部1110は、車輪速やアクセル開度に応じて、変速制御用デューティソレノイド(2)1210により、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータ(1)550からの作動油の流出量を制御して減速側の変速速度を制御する。変速速度制御部1110によりプライマリプーリ500の油圧アクチュエータ(1)550に対する作動油の流入量と流出量とを制御することにより変速制御が行なわれる。
【0040】
ベルト挟圧力制御部1120は、プライマリプーリ500の入力トルクと変速比とに応じてベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220により、セカンダリプーリ600の油圧アクチュエータ(2)650に供給される油圧を制御して、ベルト挟圧力を制御する。入力トルクは、たとえば、アクセルペダルの踏み込み量、スロットル開度、エンジン100の回転数または吸入空気量等に基づくエンジン100の出力トルクとトルクコンバータ200におけるトルク比とから推定されてもよいし、直接的に検出されてもよい。
【0041】
ライン圧制御部1130は、ベルト挟圧力に対応するベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220に対する指示値とプライマリ油圧(推定値または実測値)とからライン圧制御用リニアソレノイド1230によりライン圧を制御する。
【0042】
本実施の形態において「ライン圧」とは、油圧アクチュエータ(1)550に供給される油圧および油圧アクチュエータ(2)650に供給される油圧の元圧であって、オイルポンプ260により供給された油圧がレギュレータバルブ(図示せず)およびライン圧制御用リニアソレノイド1230により調圧された油圧である。
【0043】
ライン圧制御部1130において制御されたライン圧は、変速制御用デューティソレノイド(1)1200、変速制御用デューティソレノイド(2)1210およびベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220に供給される。供給されたライン圧を用いてプライマリ油圧およびセカンダリ油圧が制御される。
【0044】
ロックアップ係合圧制御部1132は、ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド1240によりロックアップクラッチ210の係合と解放の切換え、および、ロックアップクラッチ210の係合圧の漸増および漸減を制御する。
【0045】
マニュアルバルブ1150は、運転者のシフトレバーの操作に連動して作動して、油路を切換える。クラッチ圧制御部1140は、入力クラッチC1またはリバースブレーキB1の係合時に、ライン圧制御用リニアソレノイド1230によりマニュアルバルブ1150を経由して供給される油圧を制御する。
【0046】
ECU1000には、さらに車輪速センサ440からの車速を表す信号と、アクセルポジションセンサ442からのアクセルペダルの踏み込み量を表す信号と、エンジン回転数センサ432から、エンジン100の回転数(NE)を表わす信号が、それぞれ入力される。ECU1000は、CPU(Central Processing Unit)(図示せず)とメモリ1002とを含む。メモリ1002には、各種情報、プログラム、しきい値、マップ等が記憶され、必要に応じてCPUによってデータが読み出されたり、格納されたりする。
【0047】
車輪速センサ440は、車輪(図示せず)の回転数を検出する。車輪速センサ440は、検出された車輪の回転数を示す車輪速信号をECU1000に送信する。なお、本実施の形態においては、車速が検出できれば、特に車輪の回転数を検出することに限定されるものではなく、たとえば、セカンダリプーリ回転数と無段変速機から駆動輪までの減速比とに基づいて車速を演算するようにしてもよい。
【0048】
以上のような構成を有する無段変速機350が搭載された車両において、本発明は、ベルト700が複数のエレメント(1)と、ギャップセンサ702による検出結果が複数のエレメント(1)の各々の場合と異なる複数のエレメント(2)とを含み、複数のエレメント(2)がベルト700の移動方向に沿ってベルト上に不等間隔で配置される点に特徴を有する。
【0049】
図2に示すように、ギャップセンサ702は、プライマリシャフト502とセカンダリシャフト602との中間位置であって、かつ、ベルト700の外周側に設けられる。本実施の形態において、ギャップセンサ702は、ベルト700の外周側に突出する部分との距離の変化を検出する。
【0050】
好ましくは、ギャップセンサ702は、無段変速機350の変速によりベルト700のプライマリプーリ500およびセカンダリプーリ600の巻き掛け半径が変化した場合に、ベルト700に接触しない位置であって、かつ、ギャップセンサ702とベルト700との最短距離の変化が小さい位置に設けられることが望ましい。
【0051】
上述したような位置にギャップセンサ702が設けられることにより、ベルト700とギャップセンサ702との間隔を、プライマリプーリ500およびセカンダリプーリ600へのベルト700の巻き掛け半径に関係なく一定に保つことができる。
【0052】
また、ベルト700は、リング710と、エレメント(1)704と、エレメント(2)708とを含む。
【0053】
リング710は、ベルト700の周回方向に沿って環状に形成される板部材である。ベルト700は、2組のリング710が、プライマリシャフト502またはセカンダリシャフト602の回転軸に平行な方向から複数のエレメント(1)704と、複数のエレメント(2)708とを挟み込んで形成される。
【0054】
エレメント(1)704およびエレメント(2)708は、それぞれ予め定められた形状に形成された板部材であって、ベルト700の周回方向に沿って複数枚並べられる。
【0055】
本実施の形態において、エレメント(2)708は、ベルト700の外周側に突出する部分の長さがエレメント(1)の長さと異なるように形成されるため、ギャップセンサ702による検出結果がエレメント(1)の場合と異なる。
【0056】
具体的には、図3に示すように、エレメント(2)708は、エレメント(1)704の形状と比較してエレメント(1)704に有する部分であるベルト700の外周側に突出する突出部706が欠けた形状に形成される。
【0057】
さらに、エレメント(2)708には、2組のリング710が嵌合される切り欠き部720,722と、プライマリプーリ500およびセカンダリプーリ600との接触面724,726とが形成される。なお、エレメント(1)704についても、同様に、プライマリプーリ500およびセカンダリプーリ600との接触面と、2組のリング710が嵌合される切り欠き部とが形成される。
【0058】
ベルト700は、エレメント(2)708が、間隔(1)で配置される部分と、間隔(1)と異なる間隔(2)で配置される部分と、間隔(1)および間隔(2)と異なる間隔(3)で配置される部分とが正回転方向に沿って連続する区間(1)を含む。さらに、ベルト700は、正回転時と逆回転時とでギャップセンサ702によって複数のエレメント(2)708の各々が検出される時間間隔が変化する順序が異なるように形成される。
【0059】
具体的には、ベルト700は、エレメント(2)708が、間隔(3)で配置される部分と、間隔(2)で配置される部分と、間隔(1)で配置される部分とが正回転方向に沿って連続する区間(2)が区間(1)に隣接も重複もしないように形成される。
【0060】
たとえば、図4に示すように、ベルト700は、エレメント(2)708が、紙面左側から2枚のエレメント(1)704を挟み込む間隔(1)で配置される部分と、1枚のエレメント(1)704を挟み込む間隔(2)で配置される部分と、3枚のエレメント(1)704を挟み込む間隔(3)で配置される部分とが正回転方向に沿って連続する区間(1)を含むように形成される。
【0061】
なお、ベルト700は、は、図4に示すようなエレメント(2)708の配置に特に限定されるものではない。たとえば、ベルト700は、図5に示すように、エレメント(2)708が、紙面左側から1枚のエレメント(1)704を挟み込む間隔(1)で配置される部分と、2枚のエレメント(1)704を挟み込む間隔(2)で配置される部分と、3枚のエレメント(1)704を挟み込む間隔(3)で配置される部分とが正回転方向に沿って連続する区間を含むようにしてもよい。なお、図4および図5に示すエレメント(2)708の配置は、一例であって、図4および図4に示す配置に限定されるものではない。
【0062】
上述したような構造を有するベルト700の実移動速度の検出および回転方向の判定は、ギャップセンサ702の検出結果に基づいて行なわれる。なお、本実施の形態においては、ギャップセンサ702によりエレメント(1)704およびエレメント(2)708とギャップセンサ702との距離の変化を検出するとして説明するが、少なくともエレメント(1)704およびエレメント(2)708を検出できればよく、特に、ギャップセンサを用いることに限定されるものではない。
【0063】
本実施の形態において、ギャップセンサ702は、ギャップセンサ702と対向する位置におけるベルト700のエレメントとの距離に対応した信号を出力する。本実施の形態においては、たとえば、ギャップセンサ702は、ギャップセンサ702と対向する位置にエレメント(1)704が通過する場合に、Hi信号を出力し、ギャップセンサ702と対向する位置にエレメント(2)708が通過する場合およびエレメント(1)704およびエレメント(2)708の通過の前後において、Lo信号を出力するものとする。
【0064】
図6に示すように、ギャップセンサ702は、ギャップセンサ702と対向する位置においてエレメント(1)704が通過するときにHi信号を出力し、エレメント(1)704およびエレメント(2)708の通過の前後およびギャップセンサ702と対向する位置においてエレメント(2)708が通過するときにLo信号を出力する。
【0065】
そのため、車両が前進状態である場合(すなわち、ベルト700が正回転している場合)、ギャップセンサ702は、ギャップセンサ702に対向する位置において、ベルト700の区間(1)の部分が通過すると、エレメント(2)708の通過に対応してLo信号を出力し、2枚のエレメント(1)704の通過に対応して間にLo信号の出力を介在してHi信号を2回出力する。さらに、ギャップセンサ702は、エレメント(2)708の通過に対応してLo信号を出力した後、1枚のエレメント(1)704の通過に対応してHi信号を1回出力する。その後、ギャップセンサ702は、エレメント(2)708の通過に対応してLo信号を出力した後に、3枚のエレメント(1)704の通過に対応して間にLo信号の出力を介在してHi信号を3回出力する。
【0066】
一方、車両が後進状態である場合(すなわち、ベルト700が逆回転している場合)、ギャップセンサ702は、ギャップセンサ702に対向する位置において、ベルト700の区間(1)の部分が通過すると、エレメント(2)708の通過に対応してLo信号を出力し、3枚のエレメント(1)704の通過に対応して間にLo信号の出力を介在してHi信号を3回出力する。さらに、エレメント(2)708の通過に対応してLo信号を出力した後、1枚のエレメント(1)704の通過に対応してHi信号を1回出力する。その後、ギャップセンサ702は、エレメント(2)708の通過に対応してLo信号を出力した後に、2枚のエレメント(1)704の通過に対応して間にLo信号の出力を介在してHi信号を2回出力する。
【0067】
したがって、ECU1000は、ギャップセンサ702から受信するHi信号およびLo信号のうちの少なくともいずれか一方の信号の出力時間の間隔が変化する順序が、ベルト700の正回転に対応する順序に合致すればベルト700が正回転している(すなわち、車両が前進状態である)と判定することができる。さらに、ECU1000は、ギャップセンサ702から受信するHi信号およびLo信号のうちの少なくともいずれか一方の信号の出力時間の感覚が変化する順序が、ベルト700の逆回転に対応する順序に合致すれば、ベルト700が逆回転している(すなわち、車両が後進状態である)と判定することができる。
【0068】
本実施の形態においては、説明の便宜上、ギャップセンサ702は、ベルト700との距離に比例した出力値(すなわち、アナログ信号)をしきい値と比較してHi信号またはLo信号(すなわち、デジタル信号)に変換する信号処理回路(たとえば、A/D(アナログ/デジタル)変換回路)を含み、ギャップセンサ702からはHi信号またはLo信号を出力するものとして説明したが、特にこれに限定されるものではない。たとえば、ギャップセンサ702がベルト700との距離に比例した出力値(アナログ信号)をECU1000に送信し、ECU1000が、受信した出力値をHi信号またはLo信号(デジタル信号)に変換する信号処理回路を有するようにしてもよい。
【0069】
また、ECU1000は、ギャップセンサ702の検出結果に基づいてベルト700の実移動速度を算出する。たとえば、ECU1000は、F/V(Frequency to Voltage)コンバータにより、図6に示すHi信号とLo信号とを含むパルス信号の周波数を電圧に変換し、変換された電圧値に予め定められた係数を乗じてベルト700の実移動速度を検出するようにしてもよい。なお、図6に示す出力信号の変化は、一例であって、特にこれに限定されるものではない。
【0070】
図7に、本実施の形態に係る無段変速機に搭載されるECU1000の機能ブロック図を示す。ECU1000は、変速比算出部1010と、推定移動速度算出部1012と、実移動速度算出部1014と、ベルト滑り判定部1016と、ベルト回転方向判定部1018と、ベルト挟圧力制御部1020とを含む。
【0071】
変速比算出部1010は、プライマリプーリ回転数NINとセカンダリプーリ回転数NOUTとに基づいて変速比を算出する。変速比算出部1010は、プライマリプーリ回転数NINをセカンダリプーリ回転数NOUTで除算することにより変速比を算出する。
【0072】
推定移動速度算出部1012は、プライマリプーリ回転数NINと、セカンダリプーリ回転数NOUTと、算出された変速比とに基づいてベルト700の推定移動速度を算出する。推定移動速度算出部1012は、たとえば、算出された変速比に基づいて、プライマリプーリ500におけるベルト700の巻き掛け半径と、セカンダリプーリ600におけるベルト700の巻き掛け半径とを算出する。推定移動速度算出部1012は、プライマリプーリ回転数NINに基づいて算出されたプライマリプーリ500におけるベルト700の巻き掛け半径における周速を推定移動速度として算出する。あるいは、推定移動速度算出部1012は、セカンダリプーリ回転数NOUTに基づいて算出されたセカンダリプーリ600におけるベルト700の巻き掛け半径における周速を推定移動速度として算出するようにしてもよい。
【0073】
実移動速度算出部1014は、ギャップセンサ702からの出力信号に基づいて実移動速度を算出する。
【0074】
ベルト滑り判定部1016は、推定移動速度算出部1012において算出された推定移動速度と実移動速度算出部1014において算出された実移動速度とに基づいてベルト滑りが発生したか否かを判定する。ベルト滑り判定部1016は、推定移動速度と実移動速度とが無段変速機350の変速状態に応じて設定される値以上異なる場合に、ベルト滑りが発生したと判定する。なお、無段変速機350の変速状態とは、たとえば、プライマリプーリ500とセカンダリプーリ600とのベルト700の巻き掛け半径の比(すなわち、プーリ比)であるが特にこれに限定されるものではない。無段変速機350の変速状態に応じて設定される値は、実験等により適合すればよく、予め定められた値であってもよい。
【0075】
また、ベルト滑り判定部1016は、スリップ率に基づいてプライマリプーリ500およびセカンダリプーリ600のそれぞれにおいてベルト滑りの発生の有無を判定するようにしてもよい。
【0076】
すなわち、ベルト滑り判定部1016は、ベルト700の実移動速度と、プライマリプーリ500のベルト巻き掛け半径におけるプーリ周速との相対速度差の絶対値を、ベルト700の推定移動速度で除算することにより、プライマリプーリ500におけるスリップ率(1)を算出する。
【0077】
さらに、ベルト滑り判定部1016は、ベルト00の実移動速度と、セカンダリプーリ600のベルト巻き掛け半径におけるプーリ周速との相対速度差の絶対値を、ベルト700の推定移動速度で除算することにより、セカンダリプーリ600におけるスリップ率(2)を算出する。
【0078】
ベルト滑り判定部1016は、算出されたスリップ率(1)および(2)と、予め定められたしきい値とを比較することにより、プライマリプーリ500およびセカンダリプーリ600のそれぞれにおいてベルト滑りの発生の有無を判定するようにしてもよい。予め定められたしきい値は、実験等により適合すればよい。また、スリップ率(1)とスリップ率(2)とで異なるしきい値を用いるようにしてもよい。ベルト滑り判定部1016は、スリップ率(1)および(2)のうちのいずれかが、予め定められたしきい値以上であると、ベルト滑りが発生したと判定する。
【0079】
ベルト回転方向判定部1018は、ギャップセンサ702からの出力信号に含まれるHi信号およびLo信号のうちの少なくともいずれか一方の信号の出力時間の間隔が変化する順序に基づいて、ベルト700が正回転であるか逆回転であるかを判定する。ベルト700の回転方向とHi信号またはLo信号の出力時間の間隔が変化する順序との関係は、図6を用いて説明した通りであるため、その詳細な説明は繰返さない。
【0080】
ベルト挟圧力制御部1020は、ベルト滑り判定部1016にてベルト滑りが発生したと判定された場合、ベルト滑りが発生したと判定されなかった場合よりもベルト700の張力が増加するように油圧アクチュエータ(1)550および油圧アクチュエータ(2)650のうちの少なくともいずれか一方を制御する。
【0081】
本実施の形態においてベルト挟圧力制御部1020は、ベルト滑りが発生したと判定された場合、油圧アクチュエータ(2)650に供給される油圧を増加させて、セカンダリプーリ600によるベルト700に対する挟圧力を増加させることにより、ベルト700の張力を増加させる。
【0082】
また、ベルト挟圧力制御部1020は、ベルト700の回転方向に応じてベルト700の張力の増加の度合を変更する。たとえば、車両の前進時のベルト挟圧力の増加分および車両の後進時のベルト挟圧力の増加分を予め設定しておき、ベルト700の回転方向の判定結果に応じて適切なベルト挟圧力の増加分を選択するようにしてもよい。なお、車両の前進時または後進時のベルト挟圧力の増加分は、たとえば、前進時または後進時のエンジン100から駆動輪までのギヤ比に基づいて設定すればよく、実験等により適合される。このようにすると、ベルト700にかかる負荷に応じて張力を適切に増加させることができる。そのため、安全率を向上するために過度の増加分によりベルト挟圧力を増加させる必要がなくなるため、ベルト700への負荷を低減し、伝達効率(燃費)の低下を抑制することができる。
【0083】
また、本実施の形態において、変速比算出部1010と、推定移動速度算出部1012と、実移動速度算出部1014と、ベルト滑り判定部1016と、ベルト回転方向判定部1018と、ベルト挟圧力制御部1020とは、いずれもECU1000のCPUがメモリ1002に記憶されたプログラムを実行することにより実現される、ソフトウェアとして機能するものとして説明するが、ハードウェアにより実現されるようにしてもよい。なお、このようなプログラムは記憶媒体に記録されて車両に搭載される。
【0084】
図8を参照して、本実施の形態に係る無段変速機に搭載されるECU1000で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
【0085】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、ECU1000は、プライマリプーリ回転数NINおよびセカンダリプーリ回転数NOUTを検出する。
【0086】
S102にて、ECU1000は、プライマリプーリ回転数NINおよびセカンダリプーリ回転数NOUTとに基づいて変速比を算出する。S104にて、ECU1000は、プライマリプーリ回転数NINまたはセカンダリプーリ回転数NOUTと、変速比とに基づいて推定移動速度を算出する。
【0087】
S106にて、ECU1000は、ギャップセンサ702の出力信号に基づいて実移動速度を算出する。S108にて、ECU1000は、推定移動速度と実移動速度との差の絶対値がαよりも大きいか否かを判定する。「α」は、無段変速機350の変速状態に応じて設定される値である。推定移動速度と実移動速度との差の絶対値がαよりも大きいと(S108にてYES)、処理はS110に移される。もしそうでないと(S108にてNO)、処理はS116に移される。
【0088】
S110にて、ECU1000は、ベルト滑りが発生したと判定する。S112にて、ECU1000は、ベルト700の回転方向を判定する。S114にて、ECU1000は、ベルト700の回転方向に応じてセカンダリプーリ600のベルト700に対する挟圧力を増加させるように油圧制御部1100を制御する。S116にて、ECU1000は、無段変速機350において通常の変速制御が実施されるように油圧制御部1100を制御する。通常の変速制御において、ECU1000は、少なくともS112にて制御されるベルト挟圧力よりも低いベルト挟圧力になるように油圧制御部1100を制御する。
【0089】
以上のような構造およびフローチャートに基づく本実施の形態に係る無段変速機の動作について説明する。
【0090】
車両が予め定められた速度よりも低く、かつ、プライマリプーリ回転数NINおよびセカンダリプーリ回転数NOUTの検出精度の度合が予め定められた度合よりも低くなる低速領域で走行している場合を想定する。このとき、プライマリプーリ回転数NINおよびセカンダリプーリ回転数NOUTが検出された後に(S100)、変速比が算出される(S102)。そして、プライマリプーリ回転数NINまたはセカンダリプーリ回転数NOUTと変速比とに基づいて推定移動速度が算出される(S104)。
【0091】
さらに、ギャップセンサ702の出力信号に基づいて実移動速度が算出され(S106)、推定移動速度と実移動速度との差の絶対値がαよりも大きい場合(S108にてYES)、ベルト滑りが発生したと判定される(S110)。このとき、ギャップセンサ702の出力信号に含まれるHi信号およびLo信号の出力時間の間隔が変化する順序に基づいてベルト700の回転方向が判定され(S112)、ベルト700の回転方向に応じてベルト挟圧力が制御される(S114)。また、推定移動速度と実移動速度との差の絶対値がα以下である場合(S108にてNO)、通常の油圧制御が実施される(S116)。
【0092】
以上のようにして本実施の形態に係る無段変速機によると、エレメント(1)のギャップセンサによる検出結果と、エレメント(2)のギャップセンサによる検出結果とが異なるため、ベルトが駆動している場合に、ギャップセンサにより検出されるエレメントがエレメント(1)であるかエレメント(2)であるかを特定することができる。そのため、エレメント(2)が検出される時間間隔の変化に基づいてベルトの実移動速度を精度高く検出することができる。そのため、ベルト滑りの発生の有無を精度高く判定することができる。さらに、エレメント(2)をベルト上に不等間隔で配置するため、ベルトの正回転時と逆回転時とで、複数のエレメント(2)が検出される時間間隔の変化の順序を異なるようにすることができる。そのため、順序の違いによりベルトが正回転しているか逆回転しているかを精度高く判定することができる。したがって、ベルト滑り発生時のベルトの移動方向を精度高く判定する無段変速機を提供することができる。
【0093】
また、推定移動速度と実移動速度とが乖離するなどした場合に、ベルト滑りが発生したと判定してベルトの張力を増加させることにより、ベルト滑りを抑制することができる。
【0094】
さらに、車両の前進時または後進時であって、かつ、車両の停止状態を含む、車両の速度が予め定められた速度以下の低速領域において、セカンダリプーリ回転数またはプライマリプーリ回転数の検出精度の度合が低い場合においても、ベルトの推定移動速度と実移動速度とに基づいてベルト滑りの発生の有無およびベルトの回転方向を精度よく判定することができる。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】無段変速機の制御ブロック図である。
【図2】無段変速機のベルト駆動部分を回転軸方向から視た図である。
【図3】ベルトを形成するエレメントの外観図である。
【図4】エレメント(1)およびエレメント(2)の配置を示す図(その1)である。
【図5】エレメント(1)およびエレメント(2)の配置を示す図(その2)である。
【図6】ギャップセンサの信号出力の変化を示す図である。
【図7】本実施の形態に係る無段変速機に搭載されるECUの機能ブロック図である。
【図8】本実施の形態に係る無段変速機に搭載されるECUで実行されるプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0097】
100 エンジン、200 トルクコンバータ、210 ロックアップクラッチ、220 ポンプ羽根車、230 タービン羽根車、240 ステータ、250 ワンウェイクラッチ、260 オイルポンプ、290 前後進切換え装置、300 ベルト式無段変速機構、310 入力クラッチ、350 無段変速機、400 タービン回転数センサ、410 プライマリプーリ回転数センサ、420 セカンダリプーリ回転数センサ、432 エンジン回転数センサ、440 車輪速センサ、442 アクセルポジションセンサ、500 プライマリプーリ、502 プライマリシャフト、600 セカンダリプーリ、602 セカンダリシャフト、700 ベルト、702 ギャップセンサ、704,708 エレメント、706 突出部、710 リング、720,722 切り欠き部、800 ディファレンシャルギヤ、1002 メモリ、1010 変速比算出部、1012 推定移動速度算出部、1014 実移動速度算出部、1016 ベルト滑り判定部、1018 ベルト回転方向判定部、1020 ベルト挟圧力制御部、1100 油圧制御部、1110 変速速度制御部、1120 ベルト挟圧力制御部、1130 ライン圧制御部、1132 ロックアップ係合圧制御部、1140 クラッチ圧制御部、1150 マニュアルバルブ、1220 ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド、1230 ライン圧制御用リニアソレノイド、1240 ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側プーリと、
従動側プーリと、
複数のエレメントを環状に並べて形成され、前記駆動側プーリの溝および前記従動側プーリの溝に巻き掛けられるベルトと、
前記ベルトの外周側に設けられ、前記複数のエレメントの各々を検出するための検出手段とを含み、
前記複数のエレメントは、複数の第1のエレメントと、前記検出手段による検出結果が前記複数の第1のエレメントの各々の場合と異なる複数の第2のエレメントとを含み、
前記複数の第2のエレメントは、前記ベルトの移動方向に沿って前記ベルト上に不等間隔に配置される、無段変速機。
【請求項2】
前記検出手段は、前記駆動側プーリと前記従動側プーリとの中間位置に設けられ、前記ベルトの外周側に突出する部分から前記検出手段までの距離の変化を検出し、
前記複数の第2のエレメントの各々と、前記複数の第1のエレメントの各々とは、前記ベルトの外周側に突出する部分の長さが異なる、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記無段変速機は、前記検出手段の結果に基づいて前記ベルトが正回転であるか逆回転であるかを判定するための回転方向判定手段をさらに含む、請求項1または2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記ベルトは、前記複数の第2のエレメントの各々が、第1の間隔で配置される部分と、前記第1の間隔と異なる第2の間隔で配置される部分と、前記第1、第2の間隔と異なる第3の間隔で配置される部分とが正回転方向に沿って連続する第1の区間を含み、
前記ベルトは、正回転時と逆回転時とで前記検出手段によって前記複数の第2のエレメントの各々が検出される時間間隔が変化する順序が異なるように形成される、請求項1〜3のいずれかに記載の無段変速機。
【請求項5】
前記ベルトは、前記第2のエレメントが、前記第3の間隔で配置される部分と、前記第2の間隔で配置される部分と、前記第1の間隔で配置される部分とが前記正回転方向に沿って連続する第2の区間が前記第1の区間に隣接も重複もしないように形成される、請求項4に記載の無段変速機。
【請求項6】
前記無段変速機は、
作動油の給排により生じる第1の油圧を用いて前記駆動側プーリの溝幅を変更する第1のアクチュエータと、
作動油の給排により生じる第2の油圧を用いて前記従動側プーリの溝幅を変更する第2のアクチュエータと、
前記駆動側プーリの回転数を検出するための第1の回転数検出手段と、
前記従動側プーリの回転数を検出するための第2の回転数検出手段と、
前記駆動側プーリの回転数と前記従動側プーリの回転数とに基づいて前記無段変速機の変速比を算出するための第1の算出手段と、
前記駆動側プーリの回転数と、前記従動側プーリの回転数と、前記変速比とに基づいてベルトの推定移動速度を算出するための第2の算出手段と、
前記推定移動速度と前記検出手段の検出結果に基づく前記ベルトの実移動速度とに基づいて、前記ベルトの滑りが発生したか否かを判定するための判定手段と、
前記ベルトの滑りが発生した場合に、前記ベルトの張力が増加するように前記第1のアクチュエータおよび前記第2のアクチュエータのうちの少なくともいずれか一方を制御するための制御手段とを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の無段変速機。
【請求項7】
前記制御手段は、前記ベルトの回転方向に応じて前記ベルトの張力の増加の度合を変更する、請求項6に記載の無段変速機。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−65824(P2010−65824A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235322(P2008−235322)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】